カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ケイバ

2016-05-20 | オダ サクノスケ
 ケイバ

 オダ サクノスケ

 アサ から どんより くもって いた が、 アメ には ならず、 ひくい クモ が インキ に たれた ケイバジョウ を くろい アキカゼ が くろく はしって いた。 ゴゴ に なる と キュウ に クラサ が まして いった。 しぜん ヒト も ウマ も おもくるしい キモチ に しずんで しまいそう だった が、 しかし ふと トオリマ が すぎさった アト の よう な むなしい アワタダシサ に せきたてられる の は、 こんな ヒ は レース が あれて オオアナ が でる から だろう か。 バンシュウ の タソガレ が はや しのびよった よう な カゲ の ナカ を ショウソウ の イロ を おびた サッキ が ふと ゆきかって いた。
 ダイ 4 コーナー まで コウホウ の ウマゴミ に つつまれて、 クロジ に しろい ゼニガタ モンチラシ の キシュ の フク も みえず、 その ウマ に トウヒョウ して いた ショウスウ の モノ も ほとんど あきらめかけて いた よう な ウマ が、 サイゴ の チョクセン コース に かかる と キュウ に ウマゴミ の ナカ から ぬけだして ぐいぐい のびて ゆく。 ムチ は もたず、 フセ を した よう に アタマ を ひくめて、 ウマ の セナカ に ぴたり と カラダ を つけた まま、 タヅナ を しゃくって いる キシュ の フク の ブキミ な クロ と ウマ の ドウ に つけた スウジ の 1 が ぱっと カンシュウ の メ に はいり、 1 か 7 か 9 か 6 か と メ を こらした トタン、 はや ゴール チョクゼン で しろい イキ を はいて いる セントウ の ウマ に ならび、 はげしく せりあった アゲク、 わずか に ハナ だけ ぬいて タンショウ 200 エン の オオアナ だ。 そして ツギ の ショウガイ レース では、 ニンキバ が 3 トウ も おなじ ショウガイ で かさなる よう に ラクバ し、 キシュ が その バ で ゼツメイ する と いう サワギ の スキ を ねらって、 クサリ キュウシャ の クサリウマ と わらわれて いた ウマ が ミナライ キシュ の ムチ に ぺたぺた シリ を しばかれながら ゴールイン して タンプク 200 エン の ハイトウ、 バヌシ も キシュ も あきらめて タンシキ は ホカ の ウマ に トウヒョウ して いた と いう ハナシ が つたえられる くらい の バンクルワセ で ある。
 そんな レース が つづく と、 もう ダレ も カレ も エタイ の しれぬ マ に つかれた よう に バケン の カイカタ が みだれて くる。 マエ の バン ジタク で ケットウ や チョウキョウ タイム を メンミツ に しらべ、 デオクレ や ラクバヘキ の ウム、 キシュ の ジョウズ ヘタ、 キョリ の テキフテキ まで カンジョウ に いれて、 これ ならば ぜったい カクジツ だ と シュツバヒョウ に アカエンピツ で シルシ を つけて きた モノ も、 ジョウナイ を みだれとぶ ニュース を ミミ に する と、 トタン に まどわされて シルシ も つけて こなかった よう な へんてこ な ウマ を かって しまう。 アサ、 エキ で うって いる スウ-シュルイ の ヨソウヒョウ を てらしあわせ どの ヨソウヒョウ にも フトジ で あげて いる ホンメイ (リキリョウ、 ニンキ ともに ダイ 1 イ の ウマ) だけ を、 3 チャク まで ハイトウ の ある カクジツ な フクシキ で かう と いう ショウシン な ケンジツ シュギ の オトコ が、 はしる の は チクショウ だし、 のる の は タニン だし、 ホンメイ と いって も ジブン の まま に なる もの か、 もう ケイバ は やめた と ヨソウヒョウ は シリ に しいて シバフ に ちょんぼり と すわり、 ノコリ の レース は みおくる ハラ を きめた のに、 レース-ジョウ へ あらわれた ウマ の ナカ に ダップン を した ウマ が いる の を みつける と、 あの フン の ヤワラカサ は タダゴト で ない、 コウフンザイ の せい だ、 あの ウマ は キョウ は やる らしい と、 あわてて バケン の ウリバ へ かけだして ゆく。 3 バン カタアシ のらん か、 3 バン カタアシ のらん か と どなって いる オトコ は、 いましがた キュウシャ の モノ らしい フウテイ の オトコ が 3 バン の バケン を かって いった の を みた の だ。 3 バン と いえば まるで ショウブ に ならぬ くらい ヒンジャク な ウマ で、 まさか これ が アナ に なる とは おもえなかった が、 やはり その オトコ の フウテイ が キ に なる、 と いって 20 エン ソン を する の も ばからしく、 ウマ の カタアシ 5 エン ずつ だしあって 4 ニン で 1 マイ の バケン を かう ナカマ を さがして いる の だった。 ある オトコ は この レース は アナ が でそう だ と、 キュウシャ の ニュース を ききまわった が、 きく たび に ちがう ウマ を おしえられて まよい に まよい、 ヒキバ と バケン の ウリバ の アイダ を うろうろ いったり きたり して ハンナキ に なった アゲク、 ちばしった メ を とじて エンピツ の サキ で シュツバヒョウ を つく と、 7 バン に あたった ので ラッキー セブン だ と よろこび、 ウリバ へ かけつけて ゆく トチュウ、 チジン に あい、 ナンバン に する の か と きけば、 5 バン だ と いう。 そう か、 やはり 5 バン が いい かね と、 5 バン の ウマ が スタート で ひどく でおくれる クセ が ある の を わすれて、 それ を かって しまう の だ。 ――ヒトビト は もはや ミミカキ で すくう ほど の リセイ すら なくして しまい、 ジョウナイ を くろく はしる カゼ に ふと さむざむ と ふかれて ウオウ サオウ する ヒョウジョウ は、 ナニ か キョウキ-じみて いた。
 テラダ は しかし そんな アタリ の クウキ に ヒトリ ちょうぜん と して、 まどい も まよい も せず、 アサ の サイショ の レース から 1 の バンゴウ の ウマ ばかし かいつづけて いた。 ヒキバ の ウマ の ケハイ も みず、 ヨソウヒョウ も もたず、 ニュース も きかず、 ヒトツ の レース が すんで ツギ の レース の バケン ハツバイ の マドグチ が ことり と キ の オト を たてて あく と、 なんの タメライ も なく ダレ より も サキ に、 1 バン! と テ を さしこむ の だった。
 ナンバン が うれて いる の か と、 ニンキ を しらべる ため に マドグチ へ よって いた ヒトビト は、 ヨユウ しゃくしゃく と した テラダ の カイカタ に ふと こにくらしく なった カオ を みあげる の だった が、 そんな とき テラダ の メ は いらいら と もえて キュウ に いどみかかる よう だった。 なにかしら おもいつめて いる の か ホウシン して メン の よう な ムナシサ に あおざめて いた カオ が、 シュンカン かっと チ の イロ を うかべて、 タダゴト で ない ハゲシサ で あった。
 まよい も せず イチズ に 1 の スウジ を おうて ゆく カイカタ は、 ユキアタリバッタリ に シアン を かえて ゆく ヒトビト の キョウキ を とおく はなれて いた わけ だ が、 しかし とりみださぬ その レイセイサ が かえって フツウ で なく、 ド の すぎた ケッペキショウ の ハテ が キョウキ に つうずる よう に、 かたくな な その イチズサ は ふと ジョウキ を はずれて いた かも しれない。 テラダ が 1 の スウジ を おいつづけた の も、 じつは なくなった サイクン が カズヨ と いう ナ で あった から だ。

 テラダ は サイクン の いきて いる アイダ ケイバジョウ へ アシ を むけた こと は イチド も なかった。 テラダ は キョウト ウマレ で、 チュウガッコウ も キョウト A-チュウ、 コウトウ ガッコウ も サンコウ、 キョウト テイダイ の シガクカ を でる と ボコウ の A-チュウ の レキシ の キョウシ に なった と いう オトコ に ありがち な、 ショウシン な リチギモノ で、 ビョウドク に カンセン する こと を おそれた の と ユウキョウヒ が おしくて、 ミヤガワ-チョウ へも ギオン へも いった こと が ない と いう くらい だ から、 まして キョウシ の ブンザイ で ケイバ アソビ なぞ できる よう な オトコ では なかった、 と いって しまえば カンタン だ が、 ただ それ だけ では なかった。
 テラダ の サイクン は ホンミョウ の カズヨ と いう ナ で コウジュンシャ の ジョキュウ を して いた。 コウジュンシャ は シジョウ-ドオリ と キヤマチ-ドオリ の カド に ある チカシツ の サカバ で、 サツエイジョ の レンチュウ や ゼイタク な ガクセイ たち が ゆく、 キョウト では まず コウキュウ な サカバ だった し、 しかも カズヨ は そこ の ナンバー ワン だった から、 テラダ の よう な フウサイ の あがらぬ リチギモノ の チュウガク キョウシ が カズヨ を サイクン に した と きいて、 おどろかぬ モノ は なかった。 もっとも カズヨ の ほう では テラダ の ヤボ な キマジメサ を みこんだ の かも しれない。 もともと サカバ アソビ なぞ する オトコ では なかった の だ が、 ある ヨ ドウリョウ に むりやり さそわれて ゆき、 ワリマエ カンジョウ に なる かも しれない と ひやひや しながら、 おずおず と クロ ビール を のんで いる テラダ の ヨコ に すわった とき、 カズヨ は キ が つまりそう に なった。 ところが、 あくる ヒ から テラダ は マイヨ カズヨ を メアテ に かよって きた。 おいて ゆく チップ も すくなく、 カズヨ は アイテ に しなかった が、 トオカ-メ の ヨル だしぬけ に ケッコン して くれ と いう。 トナリ の ボックス に いる サツエイジョ の ジョカントク に シュウハ を おくりながら、 イイカゲン に ききながして いた が、 それから 1 シュウカン マイヨ おなじ コトバ を くりかえされて いる うち に、 ふと テラダ の イチズサ に ココロ ひかれた。 28 サイ の コンニチ まで オンナ を しらず に きた と いう ハナシ も もう ジョウダン に おもえず、 18 の トシ から カラダ を ぬらして きた カズヨ に とって は、 ジミチ な ケッコン を する またと ない キカイ かも しれなかった。 おもえば ジブン も もう 26、 そろそろ ミ を かためて も いい トシ だろう。 ミヤコ ホテル や キョウト ホテル で かいだ オトコ の ポマード の ニオイ より も、 ヤボテン で クソマジメ ゆえ 「オテラサン」 で とおって いる ブオトコ の テラダ に つくって やる ミソシル の ニオイ の ほう が、 まずしかった ジッカ の ヤブレショウジ を ふと おもいださせる よう な しみじみ した オサナゴコロ の ナツカシサ だ と、 カズヨ も ヒトカワ はげば ふるい オンナ だった。 フウサイ は あがらぬ と いえ テイダイ-デ だし わらえば しろい ハナラビ が セイケツ だ と、 そんな こと も カンジョウ に いれた。
 ところが テラダ の リョウシン が ハンタイ した。 「オテラサン」 と いう アダナ は それ と しらず に つけられた の だ が、 じつは テラダ の セイカ は ダイダイ ホリカワ の ブツグヤ で、 テラダ の ヨメ も ショウバイガラ ソウリョ の ムスメ を もらう つもり だった の だ。 ハンタイ された テラダ は ジッカ を とびだす と、 ギンカクジ フキン の ニシダ-チョウ に イエ を かりて カズヨ と ショタイ を もった。 テラダ に して は ずいぶん おもいきった ダイタンサ で、 それだけ カズヨ に のぼせて いた わけ だった が、 しかし カンドウ に なった うえ に その こと が ツトメサキ の A-チュウ に しれて メンショク に なる と、 やはり テラダ は あおく なった。 コウジュンシャ の キャク で カズヨ に かよって いた ナカジマ-ボウ は A-チュウ の フケイカイ の ヤクイン だった の だ。 テラダ は ソコウ フリョウ の リユウ で メンショク に なった こと を まるで ゼンカモノ に なって しまった よう に かんがえ、 もはや シャカイ に いれられぬ ニンゲン に なった キモチ で、 シュウショクグチ を さがし に ゆこう とは せず、 アタマ から フトン を かぶって マイニチ ごろん ごろん して いた。 ヨル、 カズヨ の やわらかい ムネ の マルミ に ふれたり、 コドモ の よう に すったり する こと が ユイイツ の タノシミ で、 リチギ な ショウシンモノ も ふと やぶれかぶれ の ジョウチ-めいた ヒビ を おくって いた が、 カズヨ も もともと ヨル の ジカン を ホンポウ に おくって きた オンナ で あった。 カタ や ムネ の ハガタ を たのしむ よう な マゾヒズム の ケイコウ も あった。 カベヒトエ の リンカ を はばかって、 ケアゲ の リョカン へ テラダ を つれて いったり した。 そんな リョカン を カズヨ が しって いた の か と テラダ は ふと シット の チ を もやした が、 しかし そんな シュンカン の オモイ は カズヨ の ミリョク で すぐ きえて しまった。
 ある ヨ、 カズヨ は いたい と とびあがった。 おどろいて クチ を はなし、 テ で やわらかく おさえる と、 それでも いたい と いう、 チ が にじんで も いたい とは いわなかった オンナ だった のに、 ニンシン した の か と チクビ を みた が くろく も ない。 なにも せぬ のに よどおし いたがって いた ので、 ニュウセンエン に なった の か と ダイガク ビョウイン へ ゆき、 ハガタ が ムラサキイロ に にじんで いる ムネ を さすが に はずかしそう に ひろげて みて もらう と、 ニュウガン だった。 ミサンプ で ニュウガン に なる ヒト は めずらしい と、 イシャ も フシギ-がって いた。 ニュウイン して チブサ を きりとって もらった。 タイイン まで 40 ニチ も かかり、 ソノゴ も レントゲン と ラジウム を かけ に かよった ので、 キョウシ を して いた アイダ けちけち と ためて いた チョキン も すっかり こころぼそく なって しまい、 テラダ は ダイガク ジダイ の キュウシ に なきついて、 シガク ザッシ の ヘンシュウ の シゴト を セワ して もらった。 ところが、 カズヨ は タイインゴ フタツキ ばかり たつ と コンド は シタハラ の ゲキツウ を うったえだした。 テラダ は よどおし なぜて やった が、 イタミ は きえず、 シマイ には アブラアセ を たらたら ながして、 いたい いたい と ころげまわった。 サイハツ した ガン が シキュウ へ まわって いた の だ。 しかし イシャ は ニュウイン する ヒツヨウ は ない と いう。 ラジウム を かけ に かよう だけ で いい が、 しかし かよう の が クツウ で たえきれない の なら、 ムリ に かよわなくて も いい と いう。 その コトバ の ウラ は、 シ の センコク だった。 ガン の サイハツ は なおらぬ もの と されて いる の だ。 あまり うたぬ よう に と、 イシャ は テラダ の テ に チンツウザイ の ロンパン を わたした。 モルヒネ が ショウリョウ はいって いる らしかった。 しぬ と きまった ニンゲン なら もう モルヒネ チュウドク の オソレ も ない はず だ のに、 あまり うたぬ よう に と チュウイ する ところ を みれば、 マン に ヒトツ なおる キセキ が ある の だろう か と、 テラダ は キボウ を すてず、 ヒゴロ けちくさい オトコ だ のに シンブン コウコク で みた コウカ な タンパ チリョウキ を とりよせたり、 ビワ の ハ リョウホウ の キカイ を コウベ まで かい に いったり した。 ヒト から きけば ヘソノオ も せんじ、 ゴボウ の タネ も いい と きいて スリバチ で ごしごし と つぶした。
 しかし カズヨ は スイジャク する イッポウ で、 ミズ の ひく よう に みるみる やせて ゆき、 ガン トクユウ の たえきれぬ アクシュウ は ふと シ の ニオイ で あった。 テラダ は もはや ハジ も ガイブン も わすれて、 ハレモノ イッサイ に ゴリヤク が ある と キンジョ の ヒト に きいた イコマ の イシキリ まで カズヨ の コシマキ を もって ゆき、 トクトウ の キトウ を して もらった アシ で、 ナム イシキリ ダイミョウジン サマ、 なにとぞ ゴリヤク を もって あわれ なる 26 サイ の オンナ の シキュウガン を すくいたまえ と、 あらぬ こと を くちばしりながら オヒャクド を ふんだ カエリ、 サンケイドウ で キュウ の モグサ を かって くる の だった。 それでも カズヨ の ゲキツウ は おさまらず、 チュウシャ の きれた とき の クルシミカタ は いきながら の ジゴク で あった。 ロンパン が なくなった と キ が ついて、 ハシュツ カンゴフ が チカク の イシャ まで もらい に はしって いる アイダ、 カズヨ は シタハラ を かきむしる よう な テツキ を しながら、 クチビル を つきだし、 ぽろぽろ ナミダ を ながして、 のたうちまわる の だ。 ヨノナカ に こんな クツウ が あった の か と、 テラダ も ともに ぽろぽろ ナミダ を ながして、 おろおろ みて いる。 カズヨ は キュウ に、 かんで、 かんで! と さけんだ。 シタハラ の クツウ を わすれる ため に、 カタ を かんで もらいたい の だろう。 テラダ は がぶり と カズヨ の カタ に かぶりついた。 かつて は ホウマン な シボウ で やわらかかった カタ も イマ は いたいたしい くらい やせて、 テラダ は キ の とおく なる ほど かなしかった が、 カズヨ も もう テラダ に カタ を かまれながら ムカシ の ヨロコビ は なく、 いたい いたい と なく コエ にも ジョウチ の ヒビキ は なかった。 やっと カンゴフ が かえって きた が、 ノロマ な カンゴフ が アンプル を きったり チュウシャエキ を すいあげたり、 ウデ を ショウドク したり する の に てまどって いる の を みる と、 テラダ は カズヨ の クツウ を 1 ビョウ でも はやく やわらげて ヤリタサ に、 はやく はやく と ジブン も てつだって やる の だった。
 キ の よわい テラダ は もともと チュウシャ が きらい で、 と いう より、 チュウシャ の ハリ の ナカ には アクマ の ドッキ が ふきこまれて いる と しんじて いる ガンメイ な バアサン イジョウ に チュウシャ を おそれ、 デンセンビョウ の ヨボウ チュウシャ の とき など、 ハリ の サキ を みた だけ で マッサオ に なって ソットウ した こと も あり、 コウトウ キョウイク を うけた オトコ に にあわぬ と わらわれて いた くらい だ から、 ハジメ の うち カンゴフ が カズヨ の ウデ を まくりあげた だけ で、 もう トナリ の ヘヤ へ にげこみ、 チュウシャ が おわって から おそるおそる でて くる と いう アリサマ で あった。 ハリ と いう カンカク だけ で まいって しまう よう な よわい シンケイ なの だ。 ところが、 ガン の クツウ と いう カンカク の マエ には もう そんな シンケイ も いつか ずぶとく なって きた の か、 セ に ハラ は かえられぬ チュウシャ の テツダイ を して いる うち に、 しだいに なれて きて、 シマイ には ヨナカ カンゴフ が ねむって いる アイダ カズヨ の ウメキゴエ を きく と、 テラダ は ミヨウ ミマネ の ハリ を カズヨ の ウデ に うって やる の だった。
 そんな ある ヒ、 カズヨ の ナアテ で ソクタツ の ハガキ が きた。 カンゴフ が セントウ へ いった ルスチュウ で、 テラダ が うけとって みる と 「アス ゴゼン 11 ジ、 ヨド ケイバジョウ イットウカン イリグチ、 キョネン と おなじ バショ で まって いる。 こい。」 と カンタン な ハシリガキ で、 サシダシニン の ナ は なかった。 ハガキ いっぱい の フデブト の ジ は オトコ の テ らしく、 タカビシャ な ブンチョウ は いずれ は カズヨ を ジユウ に して いた オトコ に ちがいない。 キョネン と おなじ バショ と いう ハガキ は ふと いや な レンソウ を さそい、 ケイバジョウ から の カエリ コウフン を あらた に する ため に いった の は、 あの ケアゲ の リョカン だろう か と、 テラダ は マッサオ に なった。 カズヨ に ナンニン か の オトコ が あった こと は うすうす しって いた が、 ジュウショ を おしえて いた ところ を みれば まだ カンケイ が つづいて いる の か と、 カンカクテキ に たまらなかった。 テラダ は その ハガキ を やぶって すてる と、 ケッソウ を かえて ビョウシツ へ はいって いった。 しかし、 カズヨ は アブラアセ を ながして のたうちまわって いた。 ゲキツウ の ホッサ が はじまって いた の だ。 テラダ は あわてて ロンパン の アンプル を きって、 チュウシャキ に すいあげる と、 イツモ の クセ で ハリ の サキ を うわむけて、 クウキ を ソト に だそう と した が、 ナニ おもった の か ふと テ を とめる と、 じっと ハリ の サキ を みつめて いた。 チュウシャキ の ナカ には クウキ の ガランドウ が できて いる。 このまま ジョウミャク に さして やろう か と、 テラダ は ジョウミャク へ クウキ を いれる と イノチ が ない と いった カンゴフ の コトバ を おもいだし、 キョウボウ に もえる メ で カズヨ の ウデ を みた。 が、 カズヨ の ウデ は ヒフ が かさかさ に かわいて あおぐろく アカ が たまり、 かなしい まで に ほそかった。 この ウデ で あの ケイバ の オトコ の クビ を セナカ を コシ を ものぐるおしく だいた とは、 もう テラダ は おもえなかった。 はだけた ネマキ から のぞいて いる ムネ も シュジュツ の アト が みにくく くぼみ、 オンナ の ムネ では なかった。 ふと メ を そらす と、 テラダ は もう うわむけた チュウシャキ の ソコ を おして、 エキ を ふきあげて いた。 すると、 シット は クウキ と ともに ながれだし、 アンシン した テラダ は カズヨ の ウデ の かさかさ した カワ を つまみあげる と、 ぷすり と ハリ を つきさした。 ぐっと ニク の ナカ まで いれて エキ を おす と、 まもなく クスリ が きいて きた の か、 カズヨ は けろり と しずか に なり、 しんだ よう に ねむって しまった が、 ミミ を すませる と かすか な イビキ は あった。
 それから 1 シュウカン たった ある ユウガタ、 チリョウ に つかう ビワ の ハ を カンゴフ と フタリ で きって カゴ に いれて いる と、 ウシロ から ちょっと と カズヨ の コエ が した。 ふりむく と、 クチビル の アイダ から たらん と シタ を たれ、 うおー うおー と ケダモノ の よう な コエ を だして クモン して いた。 おどろいて カンゴフ が キョウシンザイ の アンプル を きって、 ショウドク も せず に カズヨ の ウデ に つきさそう と した が、 ニク が かたくて はいらなかった。 ボク に やらせろ と テラダ が むりやり つきさそう と する と、 ハリ が おれた。 カズヨ の イキ は たえて いた。 サイゲツ が たつ と、 カズヨ の オモイデ も しだいに うすれて いった が、 しかし おれた ハリ の サキ の よう に シット の オモイ だけ は フシギ に テラダ の ムネ を ちくちく と さし、 マイトシ ハル と アキ ケイバ の シーズン が くる と、 キズグチ が うずく よう だった。 ケイバ を する ニンゲン が すべて カズヨ に カンケイ が あった よう に おもわれて、 この シット の ハゲシサ は テラダ ジシン にも フシギ な くらい で あった。 ところが、 そんな テラダ が ふとした こと から ケイバ に こりだした の だ から、 ニンゲン と いう もの は なかなか バカ に ならない。
 テラダ は カズヨ が しんで まもなく シガク ザッシ の ヘンシュウ を やめさせられた。 カンビョウ に おわれて なまけて いた うえ、 カズヨ が しんだ トウザ ぽかん と して ハンツキ も ヘンシュウジョ へ カオ を みせなかった の だ。 テラダ は また キュウシ に なきついて、 ビジュツ ザッシ の ヘンシュウ の クチ を セワ して もらった。 ヘンシュウイン の フタリ まで が おりから はじまった ジヘン に ショウシュウ されて、 ケツイン が あった の だ。 コンド は なまけず こつこつ と つとめて 2 ネン たつ と、 ヘンシュウチョウ が また ショウシュウ されて、 その アト の イス へ ついた。 その アキ オオサカ に すんで いる ある サッカ に ズイヒツ を たのむ と、 シメキリ の ヒ に ソクタツ が きて、 ゲンコウ は ヨド の ケイバ の ショニチ に ケイバジョウ へ もって ゆく から、 ゲンコウリョウ を もって ヨド まで きて くれ と いう。 テラダ は その ソクタツ の ジ が かつて カズヨ に きた ハガキ の ジ と まるで ちがって いる こと に アンシン した が、 しかし ジブン で ゆく の は さすが に いや だった。 と いって、 ホカ の モノ では その サッカ の カオ は わからない。 シジョウ で ザッシ の ハッコウ を おくらせて は すまない と、 テラダ は やはり リチギモノ-らしく いやいや ケイバジョウ へ でかけた。 ちょうど ヒト-レース おわった ところ らしく、 スタンド から ぞろぞろ と ひきあげて くる グンシュウ の カオ を、 この ナカ に カズヨ の オトコ が いる はず だ と かっと にらみつけて いる と、 やあ すまん すまん と サッカ が よって きて、 キミ を さがして いた ん だよ。 どうやら アサ から すりつづけて、 テラダ が もって くる ゲンコウリョウ を アテ に して いた らしかった。 わたして ゲンコウ を もらい、 かえろう と した が、 ボク も キョウ は キョウト へ まわる から おわる まで つきあわない か と ひきとめられる と、 テラダ は もう キ が よわかった。 スタンド に ならんで サッカ の クチ から、 キミ アンナ カレーニナ の ケイバ の バメン よんだ? しかし あれ でも ない よ、 どうも ケイバ を ホントウ に ビョウシャ した ブンガク は ない ね、 ケイバ は オンナ より おもしろい のに ね、 ボク は ケイバジョウ へ オンナ を つれて くる ヤツ の キ が しれん の だ、 ケイバ が あれば ボク は もう オンナ は いらん ね、 その ショウコ に ボク は いまだに ドクシン だ から ね、 サイカク の ゴニン オンナ に 「のりかかったる ウマ」 と いう コトバ が ある が、 ボク は こんな スリル を すてて オンナ に のりかかろう とは おもわん よ…… と いう ハナシ を ききながら レース を みて いる アイダ、 テラダ は ふと ケイバ への ハンカン を わすれて いた。 そして ツギ の レース で ふらふら と バケン を かう と、 テラダ の かった ウマ は 160 エン の ハイトウ を つけた。 ハライモドシ の マドグチ へ さしこんだ テ へ、 ムゾウサ に サツ を のせられた とき の カイカン は、 はじめて オモイ を とげた カズヨ の ハダ より も スリル が あり、 その ウマ を おしえて くれた サッカ に ふと オンナゴコロ-めいた タノモシサ を かんじながら、 テラダ は にわか に やみついて いった。
 ショウシン な オトコ ほど ハメ を はずした オボレカタ を する の が ケイバ の フシギサ で あろう か。 テビキ を した サッカ の ほう が あきれて しまう くらい、 テラダ は ムコウミズ な カケカタ を した。 シッピツシャ へ わたす シャレイ の カネ まで つぎこみ、 インサツヤ への ハライ も バケン に かわり、 ノミヤ へ とられて いった。 つねに アス の キボウ が ある ところ が ケイバ の アリガタサ だ と いって いた サッカ も、 ムイカ-メ には もう インゼイ や コウリョウ の マエガリ が きかなく なった の か、 とうとう スガタ を みせなかった。 が、 テラダ だけ は コウリガシ の カネ を かりて やって きた。 ナノカ-メ は セル の キモノ に ゲタバキ で きた。 ヨウフク を シチイレ した の だ。

 そして ヨウカ-メ の キョウ は ヨド の サイシュウビ で あった。 これ だけ は てばなすまい と おもって いた カズヨ の カタミ の キモノ を シチ に いれて きた の だ。 シチヤ の ノレン を くぐって でた とき は、 もう テラダ は カズヨ の オモイ を ころして しまった キモチ だった。 そして、 キョウ この カネ を すって しまえば、 ジブン も また カズヨ の オモイ と イッショ に しぬ ホカ は ない と、 しょんぼり ケイバジョウ へ はいった トタン、 どんより くもった ソラ の よう に くらい テラダ の アタマ に まず ひらめいた の は ころして しまった はず の カズヨ の オモイ で あった。 オンナ より も スリル が ある と いう ケイバ の ミリョク に ひかれて きた と いう キモチ でも なかった。 この サイゴ の イチニチ で とりもどさねば ハメツ だ と いう キモチ でも なかった。 カズヨ の オモイ と ともに きた の だ と いう こと より ホカ に、 もう なにも かんがえられなかった。 そして その オモイ の ハゲシサ は ヒサシブリ に よみがえった シット の ハゲシサ で あろう か、 ホウシン した よう な テラダ の ヒョウジョウ の ナカ で、 メ だけ は いどみかかる よう に ぎらついて いた。
 だから、 キョウ の テラダ は カズヨ の イチ の ジ を ねらって、 1 の バンゴウ ばかし シツヨウ に おいつづけて いた。 その ウマ が どんな ウマ で あろう と トンジャク せず、 ショウブ に ならぬ よう な バテ で あれば ある ほど、 ジギャク-めいた カイカン が あった。 ところが、 その ヒ は フシギ に 1 の バンゴウ の ウマ が オオアナ に なった。 ウチワク だ から ユウリ だ と したりげ に いって みて も おっつかぬ くらい で、 さすが の ヒトビト も キョウ は 1 バン が はいる ぞ と きづいた が、 しかし もう そろそろ カザムキ が かわる コロ だ と、 わざと 1 バン を ケイエン したく なる ケイバ シンリ を チョウショウ する よう に、 やはり タン で きて、 ホンメイ の くせ に ニンキ が われた の か イガイ な コウハイトウ を つけたり する。 テラダ は ハジメ の うち ウチョウテン に なって、 きた、 きた! と とびあがり、 まさか と おもって あきらめて いた とき など、 おもわず バンザイ と さけぶ くらい だった が、 もう ダイ 8 レース まで に イツツ も タンショウ を とって しまう と、 ブキミ に なって きて、 いつか おもくるしい キモチ に しずんで いった。 すると、 あの みしらぬ ケイバ の オトコ への シット が すっと アタマ を かすめる の だった。
 ダイ 9 の 4 サイ-バ トクベツ レース では、 1 の ホワイト ステーツ ゴウ が おおきく でおくれて ショウブ を なげて しまった が、 ツギ の シンチュウ ユウショウ キョウソウ では テラダ の かった ラッキー カップ ゴウ が 2 チャク-バ を 3 バシン ひきはなして、 5 バン ニンキ で 160 エン の オオアナ だった。 テラダ は むしろ ヒツウ な カオ を しながら、 ハイトウ を ウケトリ に ゆく と、 マドグチ で ハイトウ を もらって いた ジャンパー の オトコ が ふりむいて にやり と わらった。 ヒフ の イロ が オンナ の よう に しろく、 すごい ほど の ビボウ の その カオ に ミオボエ が ある。 アナ を あてる メイジン なの か、 テラダ は アサ から 3 ド も その マドグチ で カオ を あわせて いた の だ。 オオアナ の とき は ハイトウ を とり に くる ヒト も まばら で、 すぐ カオミシリ に なる。 やあ、 よく とります ね、 この ツギ は ナン です か と、 テラダ は その キ も なく オセジ で きいた。 すると、 オトコ は もう バケン を かって いて、 フタツ に たたんで いた の を ひらいて みせた。 1 だった。 テラダ は どきん と して、 ナニ か ニュース でも と といかける と、 いや ボク は バンゴウ シュギ で、 1 バン イッテンバリ です よ。 そう いった か と おもう と、 すっと スタンド の ほう へ でて いった。
 その レース は 7 バン の ホンメイ の ウマ が あっけなく ラクショウ した。 そして それ が ヨド の サイシュウ レース で あった。 テラダ は ナニ か アトアジ が わるく、 やがて ケイバ が コクラ に うつる と、 1 の バンゴウ を もう イチド おいたい キモチ に かられて キュウシュウ へ たった。 キシャ の ナカ で コクラ の ヤド は マンイン らしい と きいた ので、 ベップ の オンセンヤド に とまり、 そこ から マイアサ イチバン の キシャ で コクラ-ガヨイ を する こと に した。 ヨル、 ヤド へ つく と くたくた に つかれて いた ので、 テラダ は ジョチュウ に アルコール を もらって メタボリン を チュウシャ した。 カズヨ が しんだ トウザ テラダ は カズヨ の オモイデ と シット に なやまされて、 ねむれぬ ヨル が つづいた。 ある ヨ ふと ロンパン の ツカイノコリ が あった こと を おもいだした。 テラダ は フミン の ツラサ に たえかねて、 ついぞ チュウシャ を した こと の ない ジブン の ウデ へ こわごわ ロンパン を うって みる と、 カンタン に ねむれた。 が、 ねむれた こと より、 あれほど おそれて いた チュウシャ が ジブン で できて、 しかも ハリ の イタサ も あんがい すくなかった こと の ほう が うれしく、 ソノゴ カッケ に なった とき も メタボリン を うって ジブン で なおして しまった。 そして それから は チュウシャ が もう シュミ ドウゼン に なって、 チュウシャエキ を かいあさる カネ だけ は フシギ に おしい と おもわず、 テラダ の カバン の ナカ には シロウト には めずらしい くらい サマザマ な アンプル が はいって いた の だ。 チュウシャ が すんで ヨクシツ へ いった とき、 テラダ は おやっ と おもった。 ヨド で みた ジャンパー の オトコ が ユブネ に つかって いる では ない か。 やあ と よって ゆく と、 ムコウ でも きづいて、 よう、 きました ね、 コクラ へ…… と おこそう と した その セナカ を みた トタン、 テラダ は おもわず メ を みはった。 オンナ の ハダ の よう に しろい セナカ には、 イチ と いう ジ の イレズミ が ほどこされて いる の だ。 イチ ―― 1 ―― カズヨ。 もしか したら この オトコ が あの 「ケイバ の オトコ」 では ない か。 イチ の ジ の イレズミ は カズヨ の ナ の イチジ を とった の では ない か と、 トッサ の オモイ に テラダ は あおざめて、 その イレズミ は…… と もう タシナミ も わすれて いた。 これ です か と オトコ は いや な カオ も せず わらって、 こりゃ ボク の ニモツ です よ、 「ムネ に イチモツ、 セナカ に ニモツ」 と いう が、 ボク の ニモツ は セナカ に イチモンジ で ね。 17 の トシ から もう 20 ネン せおって いる が、 これ で あんがい オモニ で ね と、 ジョウダングチ の タッシャ な オトコ だった。 17 の トシ から……? と おどろく と、 ボク も チュウガッコウ へ 3 ネン まで いった オトコ だ が…… と かたりだした の は 、 こう だった。
 うまれつき ハダ が しろい し、 ジブン から いう の は おかしい が、 まあ ビショウネン の ほう だった ので、 チュウガクセイ の コロ から ユウワク が おおくて、 17 の トシ ジョセン の セイト から くどかれて、 とうとう その セイト を ニンシン させた ので、 ガッコウ は ホウコウ ショブン に なり、 イエ から も カンドウ された。 キチンヤド を とまりあるいて いる うち に シュウセンヤ に ひっかかって、 タンコウ へ いった ところ、 アラクレ の コウフ たち が コイツ オンナ みてえ な ハダ を しやがって と、 ハンブン は チゴ イジメ の キモチ と、 ハンブン は センボウ から むりやり セナカ に イレズミ を された。 イチ の ジ を ほりつけられた の は、 コウフ ナガヤ で はやって いた、 オイチョカブ トバク の、 インケツ、 ニゾ、 サンタ、 シスン、 ゴケ、 ロッポー、 ナキネ、 オイチョ、 カブ の ウチ、 この フダ を ひけば マケ と きまって いる インケツ の イミ らしかった。 イレズミ を されて まもなく タンコウ を にげだす と、 コキョウ の キョウト へ まいもどり、 あちこち ホウコウ した が、 エイゴ の よめる デッチ と チョウホウ-がられる の は ハジメ の トオカ ばかり で、 セナカ の イレズミ が わかって、 たちまち おいだされて みれば、 もう イレズミ を せおって いきて いく ミチ は、 セナカ に モノ を いわす フリョウ セイカツ しか ない。 インケツ の マツ と なのって キョウゴク や センボン の サカリバ を あらして いる うち に、 だんだん に カオ が うれ、 ずいぶん オトコ も なかした が、 オンナ も なかした。 おもしろい メ も して きた が、 セナカ の これ さえ なければ カタギ の クラシ も できたろう に と おもえば、 やはり さびしく、 だから ケイバ へ いって も ジブン の イッショウ を シハイ した 1 の バンゴウ が はたして サイアク の インケツ か どう か と ためす キ に なって、 1 バン イガイ に かけた こと が ない。
 きいて いる うち に テラダ は、 なるほど そんな 「1」 だった の か と、 すこし は アンシン した が、 この オトコ の こと だ から シジョウ-ドオリ の サカバ も あらしまわった に ちがいない と、 やはり キ に なり、 コウジュンシャ の ナ を もちだす と、 カイテン トウジ イリグチ の オオガラス を わって イライ いった こと は ない が と わらって、 しかし あそこ の ジョキュウ で ケイバ の すき な オンナ を しって いる。 いい オンナ だった が、 しんだ らしい。 よせば いい のに キョウシ など と ショタイ を もった の は バカ だった が、 しかし あれ だけ の カラダ の オンナ は ちょっと めず…… おや、 もう あがる ん です か。
 ヘヤ へ もどる と、 ジョチュウ が ユウハン を はこんで きた が、 テラダ は ノド へ とおらなかった。 すぐ さげさせて、 2 ジカン ばかり する と、 フトン を しき に きた。 テラダ は コンヤ は もう ねむれぬ だろう と、 ロンパン を チュウシャ する つもり で、 チュウシャキ を ショウドク して いる と、 フトン を しきおわった ジョチュウ が、 ダンナサマ チュウシャ を なさる の でしたら、 ワタシ にも して ください。 メタボリン は カッケ に いい ん でしょう と ウデ を まくった。 テラダ は むっちり した その ウデ へ ぷすり と ハリ を つきさした トタン カズヨ の オモイ が あった。 ハリ を ぬく と、 ジョチュウ は チュウシャ には なれて いる らしく、 キヨウ に ウデ を もみながら、 5 バン の キャク が ヘン な こと を いう から オサキ ちゃん に かわって もらって いい こと を した と いう コトバ を きいて、 はじめて ジョチュウ が かわって いた こと に キ が ついた くらい テラダ は ぼんやり して いた。 オトコマエ だ と おもって、 ホントウ に しょってる わ。 テラダ の メ は キュウ に かがやいた。 あの オトコ だ。 あの オトコ が この ジョチュウ を くどこう と した の だ。 テラダ は ナニ おもった か、 どう だ、 もう 1 ポン して やろう か。 メタボリン……? いや、 ヴィタミン C だ。 C って いい ん です か。 B より いい よ と いいながら、 しかし チュウシャキ には ひそか に ロンパン を すいあげた。
 ジョチュウ は キュウ に アクビ を して、 ワタシ ねむく なって きた わ、 ああ いい キモチ、 カラダ が チュウ に うきそう、 すこし ここ で ヨコ に ならせて ください ね。 フトン の スソ を マクラ に する と、 もう ゼンゴ フカク だった。 2 ジカン ばかり たって、 うっとり と メ を あけた ジョチュウ は、 ねむって いる アイダ ナニ を された か さすが に さとった らしかった が、 テラダ を せめる フウ も なく、 ワタシ ユメ を みてた の かしら と いいながら たちあがる と、 スソ を かきあわせて でて いった。 テラダ は その ウシロスガタ を みおくる ゲンキ も なく、 ジセキ の オモイ に しょげかえって いた が、 しかし ふと あの オトコ の こと を おもう と、 わずか に ジソンシン の マンゾク は あった。
 ヨクジツ、 コクラ ケイバジョウ の ショニチ が ひらかれた。 アサ から すりつづけて いた テラダ は、 すれば する ほど コウフン して いった。 サイゴ の フルヨビ トクハン レース で、 テラダ は アリガネ ゼンブ を 1 の ハマザクラ ゴウ に かけた。 これ を はずして しまえば、 もう カエリ の リョヒ も ない。
 ぱっと ハツバキ が はねあがった。 トタン に テラダ は マッサオ に なった。 ウチワク の ハマザクラ ゴウ は 2 バシン でおくれた の だ。 ダメ だ と テラダ は くわえて いた タバコ を なげすてる と、 スタンド を おりて、 ゴール マエ の サク の ほう へ よって いった。 もう サク に よりかからねば たって おれない くらい、 がっくり と チカラ が ぬけて いた の だ。 ムコウジョウメン の サカ を、 1 トウ だけ とりのこされた よう に のぼって ゆく シロジ に ムラサキ の ナミガタ-イリ の ハマザクラ を みる と、 テラダ の ヒョウジョウ は ますます ゆがんで いった。 でおくれた キョリ を つめよう とも せず、 バグン から はなれて ついて ゆく の は、 もう ショウブ を なげて しまった の だろう か。 ハマザクラ は もう ダメ だ! と テラダ は おもわず さけんだ。 すると、 いや だいじょうぶ だ、 あの ウマ は オイコミ だ、 と コエ が した。 ふと ふりむく と、 ジャンパー を きた 「あの オトコ」 が ずっと ムコウジョウメン を にらんで たって いた。 しろい カオ が あおざめて いる。 ジブン と おなじ よう に すって きた の だ と、 みあげて いる と、 オトコ は キュウ に にやり と した。 テラダ は おや と ショウメン へ ふりかえった。 シロジ に ムラサキ の ナミガタ が ぐいぐい と キョリ を つめて ゆく。 あっ と おもって いる うち、 ダイ 4 コーナー では もう セントウ の ウマ に ならんで、 はげしく せりあいながら チョクセン に さしかかった。 しめたっ と テラダ が どなる と、 バカッ! オイコミバ が ハナ に たって どう する ん だ と、 ウシロ の コエ も ムチュウ だった。 ハナ に たった ハマザクラ の キシュ は ムチ を つかいだした。 ヒッシ の リキソウ だ が、 そのまま にげきって しまえる か どう か。 ムチ を つかわねば ならぬ ところ に、 あと 200 メートル の ムリ が かんじられる。 にげろ、 にげろ、 にげきれ と、 テラダ は どなって いた。 あと 100 メートル。 そうれ いけ。 あっ、 3 バン が おいこんで きた。 あと 50 メートル。 あっ あぶない。 ならびそう だ。 はげしい セリアイ。 ぬかすな、 ぬかすな。 にげろ、 にげろ! ハマザクラ がんばれ!
 ムガ ムチュウ に どなって いた テラダ は、 ハマザクラ が ついに にげきって ゴールイン した の を みとどける と いきなり バンザイ と ふりむき、 タン だ、 タン だ、 オオアナ だ、 オオアナ だ と ゼッキョウ しながら、 ジャンパー の カタ に だきついて、 ぽろぽろ ナミダ を ながして いた。 まるで オンナ の よう に はなれなかった。 シット も ウラミ も わすれて しがみついて いた。
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スペイン イヌ の イエ

2016-05-05 | サトウ ハルオ
 スペイン イヌ の イエ
   (ユメミ-ゴコチ に なる こと の すき な ヒトビト の ため の タンペン)

 サトウ ハルオ

 フラテ (イヌ の ナ) は キュウ に かけだして、 ヒヅメカジヤ の ヨコ に おれる キロ の ところ で、 ワタシ を まって いる。 この イヌ は ヒジョウ に かしこい イヌ で、 ワタシ の ネンライ の トモダチ で ある が、 ワタシ の ツマ など は もちろん ダイタスウ の ニンゲン など より よほど かしこい、 と ワタシ は しんじて いる。 で、 いつでも サンポ に でる とき には、 きっと フラテ を つれて でる。 ヤツ は ときどき、 おもい も かけぬ よう な ところ へ ジブン を つれて ゆく。 で チカゴロ では ワタシ は サンポ と いえば、 ジブン で どこ へ ゆこう など と かんがえず に、 この イヌ の ゆく ほう へ だまって ついて ゆく こと に きめて いる よう な わけ なの で ある。 ヒヅメカジヤ の ヨコミチ は、 ワタシ は まだ イチド も あるかない。 よし、 イヌ の アンナイ に まかせて キョウ は そこ を あるこう。 そこで ワタシ は そこ を まがる。 その ほそい ミチ は だらだら の サカミチ で、 ときどき ひどく まがりくねって いる。 オレ は その ミチ に そうて イヌ に ついて、 ケシキ を みる でも なく、 かんがえる でも なく、 ただ ぼんやり と クウソウ に ふけって あるく。 ときどき、 ソラ を あおいで クモ を みる。 ひょいと ミチバタ の クサ の ハナ が メ に つく。 そこで ワタシ は その ハナ を つんで、 ジブン の ハナ の サキ で におうて みる。 なんと いう ハナ だ か しらない が いい ニオイ で ある。 ユビ で つまんで くるくる と まわしながら あるく。 すると フラテ は ナニ か の ヒョウシ に それ を みつけて、 ちょっと たちとまって、 クビ を かしげて、 ワタシ の メ の ナカ を のぞきこむ。 それ を ほしい と いう カオツキ で ある。 そこで その ハナ を なげて やる。 イヌ は ジメン に おちた ハナ を、 ちょっと かいで みて、 ナン だ、 ビスケット じゃ なかった の か と いいたげ で ある。 そうして また キュウ に かけだす。 こんな ふう に して ワタシ は 2 ジカン ちかく も あるいた。
 あるいて いる うち に ワレワレ は ひどく たかく へ のぼった もの と みえる。 そこ は ちょっと した ミハラシ で、 うちひらけた イチメン の ハタケ の シタ に、 とおく どこ の マチ とも しれない マチ が、 クモ と カスミ との アイダ から ぼんやり と みえる。 しばらく それ を みて いた が、 たしか に マチ に ソウイ ない。 それにしても あんな ホウガク に、 あれほど の ジンカ の ある バショ が ある と すれば、 いったい どこ なの で あろう。 ワタシ は すこし フ に おちぬ キモチ が する。 しかし ワタシ は この ヘン イッタイ の チリ は いっこう に しらない の だ から、 わからない の も ムリ では ない が。 それ は それ と して、 さて ウシロ の ほう は と チュウイ して みる と、 そこ は ごく なだらか な ケイシャ で、 トオク へ ゆけば ゆく ほど ひくく なって いる らしく、 なんでも イチメン の ゾウキバヤシ の よう で ある。 その ゾウキバヤシ は かなり ふかい よう だ。 そうして さほど ふとく も ない タクサン の キ の ミキ の ハンメン を てらして、 ショウゴ に マ も ない やさしい ハル の ヒザシ が、 ニレ や カシ や クリ や シラカバ など の メバエ した ばかり の さわやか な ハ の スキマ から、 ケムリ の よう に、 また ニオイ の よう に ながれこんで、 その ミキ や ジメン や の ヒカゲ と ヒナタ との カゲン が、 ちょっと クチ では いえない シュルイ の ウツクシサ で ある。 オレ は この ゾウキバヤシ の オク へ はいって ゆきたい キモチ に なった。 その ハヤシ の ナカ は、 かきわけねば ならぬ と いう ほど の ふかい クサハラ でも なく、 ゆこう と おもえば ワケ も ない から だ。
 ワタシ の ユウジン の フラテ も ワタシ と おなじ カンガエ で あった と みえる。 カレ は うれしげ に ずんずん と ハヤシ の ナカ へ はいって ゆく。 ワタシ も その アト に したごうた。 ヤク 1 チョウ ばかり すすんだ か と おもう コロ、 イヌ は イマ まで の アルキカタ とは ちがう よう な アシドリ に なった。 キラク な イマ まで の マンポ の タイド では なく、 おる よう な イソガシサ に アシ を うごかす。 ハナ を マエ の ほう に つきだして いる。 これ は ナニ か を ハッケン した に ちがいない。 ウサギ の アシアト で あった の か、 それとも クサ の ナカ に トリ の ス でも ある の で あろう か。 あちらこちら と きぜわしげ に ユキキ する うち に、 イヌ は その ゆく べき ミチ を ハッケン した もの らしく、 マッスグ に すすみはじめた。 ワタシ は すこし ばかり コウキシン を もって その アト を おうて いった。 ワレワレ は ときどき、 コウビ して いた らしい コズエ の ヤチョウ を おどろかした。 こうした ハヤアシ で ゆく こと 30 プン ばかり で、 イヌ は キュウ に たちとまった。 ドウジ に ワタシ は せんかん たる ミズ の オト を ききつけた よう な キ が した。 (いったい この ヘン は イズミ の おおい チホウ で ある) イヌ は ミミ を カンショウ-らしく うごかして 2~3 ゲン ひきかえして、 ふたたび ジメン を かぐ や、 コンド は ヒダリ の ほう へ おれて あゆみだした。 おもった より も この ハヤシ の ふかい の に すこし おどろいた。 この チホウ に こんな ひろい ゾウキバヤシ が あろう とは かんがえなかった が、 この グアイ では この ハヤシ は 200~300 チョウブ も ある かも しれない。 イヌ の ヨウス と いい、 いつまでも つづく ハヤシ と いい、 オレ は コウキシン で いっぱい に なって きた。 こうして また 20~30 プン-カン ほど ゆく うち に、 イヌ は ふたたび たちとまった。 さて、 わっ、 わっ! と いう ふう に みじかく フタコエ ほえた。 その とき まで は、 つい キ が つかず に いた が、 すぐ メノマエ に 1 ケン の イエ が ある の で ある。 それにしても タショウ の フシギ で ある、 こんな ところ に ただ ヒトツ ヒト の スミカ が あろう とは。 それ が スミヤキゴヤ で ない イジョウ は。
 うちみた ところ、 この イエ には べつに ニワ と いう ふう な もの は ない ヨウス で、 ただ トウトツ に その ハヤシ の ナカ に まじって いる の で ある。 この 「ハヤシ の ナカ に まじって いる」 と いう コトバ は ここ では いちばん よく はまる。 イマ も いった とおり ワタシ は すぐ メノマエ で この イエ を ハッケン した の だ から して、 その エンボウ の スガタ を しる わけ には いかぬ。 また おそらくは この イエ は、 この チセイ と イチ と から かんがえて みて さほど トオク から みとめえられよう とも おもえない。 ちかづいて の この イエ は、 ベツダン に かわった イエ とも おもえない。 ただ その イエ は クサヤネ では あった けれども、 フツウ の ヒャクショウヤ とは ちょっと オモムキ が ちがう。 と いう の は、 この イエ の マド は すべて ガラスド で セイヨウフウ な コシラエカタ なの で ある。 ここ から イリグチ の みえない ところ を みる と、 ワレワレ は イマ たぶん この イエ の ハイゴ と ソクメン と に たいして たって いる もの と おもう。 その カド の ところ から 2 ホウメン の カベ の ハンブン ずつ ほど を おおうた ツタカズラ だけ が、 いわば この イエ の ここ から の スガタ に タショウ の フゼイ と キョウミ と を そなえしめて いる ソウショク で、 タ は イッケン ごく シツボク な、 こんな ハヤシ の ナカ に ありそう な イエ なの で ある。 ワタシ は はじめ、 これ は この ハヤシ の バンゴヤ では ない かしら と おもった。 それにしては すこし おおきすぎる。 また わざわざ こんな イエ を たてて バン を しなければ ならぬ ほど の ハヤシ でも ない。 と おもいなおして この サイショ の ニンテイ を ヒテイ した。 ともかくも ワタシ は この イエ へ はいって みよう。 ミチ に まようた モノ だ と いって、 チャ の 1 パイ も もらって もって きた ベントウ に、 ワレワレ は ワレワレ の クウフク を みたそう。 と おもって、 その イエ の ショウメン だ と おもえる ほう へ あゆみだした。 すると イマ まで メ の ほう の チュウイ に よって わすれられて いた らしい ミミ の カンカク が はたらいて、 ワタシ は ナガレ が チカク に ある こと を しった。 さきに せんかん たる スイセイ を ミミ に した と おもった の は この キンジョ で あった の で あろう。
 ショウメン へ まわって みる と、 そこ も イチメン の ハヤシ に めんして いた。 ただ ここ へ きて ヒトツ の キイ な こと には、 その イエ の イリグチ は、 イエ ゼンタイ の ツリアイ から かんがえて ひどく ゼイタク にも リッパ な イシ の カイダン が ちょうど 4 キュウ も ついて いる の で あった。 その イシ は イエ の タ の ブブン より も、 なぜか ふるく なって ところどころ コケ が はえて いる の で ある。 そうして この ショウメン で ある ミナミガワ の マド の シタ には イエ の カベ に そうて イチレツ に、 トキ を わかたず さく で あろう と おもえる あかい ちいさな ソウビ の ハナ が、 ワガモノガオ に みだれさいて いた。 それ ばかり では ない。 その ソウビ の クサムラ の シタ から オビ の よう な ハバ で、 きらきら と ヒ に かがやきながら、 ミズ が ながれでて いる の で ある。 それ が イッケン どうしても その イエ の ナカ から ながれでて いる と しか おもえない。 ワタシ の ケライ の フラテ は この ミズ を さも うまそう に したたか に のんで いた。 ワタシ は イチベツ の うち に これら の もの を ジブン の ヒトミ へ きざみつけた。
 さて ワタシ は しずか に イシダン の ウエ を のぼる。 ひっそり と した この アタリ の セカイ に たいして、 ワタシ の クツオト は セイジャク を やぶる と いう ほど でも なく ひびいた。 ワタシ は 「オレ は イマ、 インジャ か、 で なければ マホウツカイ の イエ を ホウモン して いる の だぞ」 と ジブン ジシン に たわむれて みた。 そうして ワタシ の イヌ の ほう を みる と、 カレ は べつだん かわった フウ も なく、 あかい シタ を たれて、 オ を ふって いた。
 ワタシ は こつこつ と セイヨウフウ の トビラ を セイヨウフウ に たたいて みた。 ウチ から は なんの ヘントウ も ない。 ワタシ は もう イッペン おなじ こと を くりかえさねば ならなかった。 ウチ から は やっぱり ヘントウ が ない。 コンド は コエ を だして アンナイ を こうて みた。 いぜん、 なんの ハンキョウ も ない。 ルス なの かしら アキヤ なの かしら と かんがえて いる うち に ワタシ は たしょう ブキミ に なって きた。 そこで そっと アシオト を ぬすんで ――これ は なんの ため で あった か わからない が―― ソウビ の ある ほう の マド の ところ へ たって、 そこ から セノビ を して ウチ を みまわして みた。
 マド には この イエ の ガイケン とは にあわしく ない リッパ な シナ の、 くろずんだ エビチャ に ところどころ あおい セン の みえる どっしり と した マドカケ が して あった けれども、 それ は ハンブン ほど しぼって あった ので ヘヤ の ナカ は よく みえた。 めずらしい こと には、 この ヘヤ の チュウオウ には、 イシ で ほって できた おおきな スイバン が あって その タカサ は ユカ の ウエ から 2 シャク とは ない が、 その マンナカ の ところ から は、 ミズ が わきたって いて、 スイバン の フチ から は フダン に ミズ が こぼれて いる。 そこで スイバン には あおい コケ が はえて、 その フキン の ユカ ――これ も やっぱり イシ で あった―― は すこし しめっぽく みえる。 その こぼれた ミズ が ソウビ の ナカ から きらきら ひかりながら ヘビ の よう に ぬけだして くる ミズ なの だろう と いう こと は、 アト で かんがえて みて わかった。 ワタシ は この スイバン には すくなからず おどろいた。 ちょいと イフウ な イエ だ とは サキホド から キ が ついた ものの、 こんな イタイ の しれない シカケ まで あろう とは ヨソウ できない から だ。 そこで ワタシ の コウキシン は、 いっそう チュウイ-ぶかく イエ の ナイブ を マドゴシ に カンサツ しはじめた。 ユカ も イシ で ある、 なんと いう イシ だ か しらない が、 あおじろい よう な イシ で ミズ で しめった ブブン は うつくしい アオイロ で あった。 それ が ムゾウサ に、 きりだした とき の シゼン の まま の メン を リヨウ して ならべて ある。 イリグチ から いちばん オク の ほう の カベ に これ も イシ で できた ファイヤプレイス が あり、 その ミギテ には タナ が 3 ダン ほど あって、 なんだか サラ みた よう な もの が つみかさねたり、 ならんだり して いる。 それ とは ハンタイ の ガワ に―― イマ、 ワタシ が のぞいて いる ミナミガワ の マド の ミッツ ある ウチ の いちばん オク の スミ の マド の シタ に おおきな シラキ の まま の ハダカ の タク が あって、 その ウエ には…… ナニ が ある の だ か カオ を ぴったり くっつけて も ガラス が ジャマ を して のぞきこめない から みられない。 おや まて よ、 これ は もちろん アキヤ では ない、 それ どころ か、 つい イマ の サキ まで ヒト が いた に ソウイ ない。 と いう の は その おおきな タク の カタスミ から、 スイサシ の タバコ から でる ケムリ の イト が ヒジョウ に しずか に 2 シャク ほど マッスグ に たちのぼって、 そこ で ヒトツ ゆれて、 それから だんだん ウエ へ ゆく ほど みだれて ゆく の が みえる では ない か。
 ワタシ は この ケムリ を みて、 イマ まで おもいがけぬ こと ばかり なので、 つい わすれて いた タバコ の こと を おもいだした。 そこで ジブン も 1 ポン を だして ヒ を つけた。 それから どうか して この イエ の ナカ へ はいって みたい と いう コウキシン が どうも おさえきれなく なった。 さて つくづく かんがえる うち に、 ワタシ は ケッシン を した。 この イエ の ナカ へ はいって ゆこう。 ルスチュウ でも いい はいって やろう、 もし シュジン が かえって きた ならば オレ は ショウジキ に その ワケ を はなす の だ。 こんな かわった セイカツ を して いる ヒト なの だ から、 そう はなせば なんとも いうまい。 かえって カンゲイ して くれない とも かぎらぬ。 それ には イマ まで ニヤッカイ に して いた この エノグバコ が、 オレ の ドロボウ では ない と いう ショウニン と して やくだつ で あろう。 ワタシ は ムシ の いい こと を かんがえて こう ケッシン した。 そこで もう イチド イリグチ の カイダン を あがって、 ネン の ため コエ を かけて そっと トビラ を あけた。 トビラ には べつに ジョウ も おりて は いなかった から。
 ワタシ は はいって ゆく と いきなり フタアシ ミアシ アトスダリ した。 なぜか と いう に イリグチ に ちかい マド の ヒナタ に マックロ な スペイン イヌ が いる では ない か。 アゴ を ユカ に くっつけて、 まるく なって イネムリ して いた ヤツ が、 ワタシ の はいる の を みて ずるそう に そっと メ を あけて、 のっそり おきあがった から で ある。
 これ を みた ワタシ の イヌ の フラテ は、 うなりながら その イヌ の ほう へ すすんで いった。 そこで リョウホウ しばらく うなりつづけた が、 この スペイン イヌ は あんがい ニュウワ な ヤツ と みえて、 リョウホウ で ハナヅラ を かぎあって から、 ムコウ から オ を ふりはじめた。 そこで ワタシ の イヌ も オ を ふりだした。 さて スペイン イヌ は ふたたび モト の ユカ の ウエ へ ミ を よこたえた。 ワタシ の イヌ も すぐ その ソバ へ おなじ よう に ヨコ に なった。 みしらない ドウセイ ドウシ の イヌ と イヌ との こうした ワカイ は なかなか えがたい もの で ある。 これ は ワタシ の イヌ が オンリョウ なの にも よる が しゅとして ムコウ の イヌ の カンダイ を ショウサン しなければ なるまい。 そこで オレ は アンシン して はいって いった。 この スペイン イヌ は この シュ の イヌ と して は かなり おおきな カラダ で、 レイ の この シュ トクユウ の ふさふさ した ケ の ある おおきな オ を くるり と シリ の ウエ に まきあげた ところ は なかなか リッパ で ある。 しかし ケ の ツヤ や、 カオ の ヒョウジョウ から おして みて、 だいぶ ロウケン で ある と いう こと は、 イヌ の こと を すこし ばかり しって いる ワタシ には スイサツ できた。 ワタシ は カレ の ほう へ セッキン して いって、 この トウザ の シュジン で ある カレ に エシャク する ため に、 ケイイ を ひょうする ため に カレ の アタマ を アイブ した。 いったい イヌ と いう もの は、 ニンゲン が いじめぬいた ノライヌ で ない カギリ は、 さびしい ところ に いる イヌ ほど ヒト を なつかしがる もの で、 ミズシラズ の ヒト でも シンセツ な ヒト には けっして ケガ を させる もの では ない こと を、 ケイケン の ウエ から ワタシ は しんじて いる。 それに カレラ には ヒツゼンテキ な ホンノウ が あって、 イヌズキ と イヌ を いじめる ヒト とは すぐ みわける もの だ。 ワタシ の カンガエ は マチガイ では なかった。 スペイン イヌ は よろこんで ワタシ の テノヒラ を なめた。
 それにしても いったい、 この イエ の シュジン と いう の は ナニモノ なの で あろう。 どこ へ いった の で あろう。 すぐ かえる だろう かしら。 はいって みる と さすが に キ が とがめた。 それで はいった こと は はいった が、 ワタシ は しばらく は あの イシ の おおきな スイバン の ところ で チョリツ した まま で いた。 その スイバン は やっぱり ソト から みた とおり で、 タカサ は ヒザ まで くらい しか なかった。 フチ の アツサ は 2 スン ぐらい で、 その フチ へ もってって、 また ほそい ミゾ が サンポウ に ある。 こぼれる ミズ は そこ を ながれて、 スイバン の ソトガワ を つとうて こぼれて しまう の で ある。 なるほど、 こうした チセイ では、 こうした ミズ の ヒキカタ も カノウ な わけ で ある。 この イエ では かならず これ を ニチジョウ の ノミミズ に して いる の では なかろう か。 どうも タダ の ソウショク では ない と おもう。
 いったい この イエ は この ヘヤ ヒトツ きり で なにもかも の ヘヤ を かねて いる よう だ。 イス が ミナ で ヒトツ…… フタツ…… ミッツ きり しか ない。 スイバン の ソバ と、 ファイヤプレイス と それに タク に めんして と おのおの ヒトツ ずつ。 いずれ も ただ コシ を かけられる と いう だけ に つくられて、 べつに テ の こんだ ところ は どこ にも ない。 ミマワリ して いる うち に ワタシ は だんだん と ダイタン に なって きた。 キ が つく と この しずか な イエ の ミャクハク の よう に トケイ が フンビョウ を きざむ オト が して いる。 どこ に トケイ が ある の で あろう。 こい カバイロ の カベ には どこ にも ない。 ああ あれ だ、 あの レイ の おおきな タク の ウエ の オキドケイ だ。 ワタシ は この イエ の イマ の シュジン と みる べき スペイン イヌ に すこし エンリョ しながら、 タク の ほう へ あるいて いった。
 タク の カタスミ には はたして、 マド の ソト から みた とおり、 イマ では しろく もえつくした タバコ が 1 ポン あった。
 トケイ は モジバン の ウエ に エ が かいて あって、 その ガング の よう な シュコウ が いかにも この ヘヤ の ハンヤバン な ヨウス に タイショウ を して いる。 モジバン の ウエ には ヒトリ の キフジン と、 ヒトリ の シンシ と、 それに もう ヒトリ の オトコ が いて、 その オトコ は 1 ビョウ-カン に イチド ずつ この シンシ の ヒダリ の クツ を みがく わけ なの で ある。 ばかばかしい けれども その エ が おもしろかった。 その キフジン の ヒダ の おおい ササベリ の ついた おおきな スソ を チ に ひいた グアイ や、 シルク ハット の シンシ の ホオヒゲ の ヨウシキ など は、 ガイコク の フウゾク を しらない ワタシ の メ にも もう ハンセイキ も ジダイ が ついて みえる。 さて かわいそう な は この クツミガキ だ。 カレ は この ヘイセイ な イエ の ナカ の、 その また ナカ の ちいさな ベッセカイ で ヨル も ヒル も こうして ヒトツ の クツ ばかり みがいて いる の だ。 オレ は みて いる うち に この タンチョウ な フダン の ドウサ に、 ジブン の カタ が こって くる の を かんずる。 それで トケイ の しめす ジカン は 1 ジ 15 フン―― これ は 1 ジカン も おくれて いそう だった。 ツクエ には チリマミレ に ホン が 50~60 サツ つみあげて あって、 ベツ に 4~5 サツ ちらばって いた。 なんでも エ の ホン か、 ケンチク の か それとも チズ と いいたい ヨウス の タイサツ な ホン ばかり だった。 ヒョウダイ を みたらば、 ドイツ-ゴ らしく ワタシ には よめなかった。 その カベ の ところ に、 ゲンショクズリ の ウミ の ガク が かかって いる。 みた こと の ある エ だ が、 こんな イロ は ウィスラー では ない かしら…… ワタシ は この ガク が ここ に ある の を サンセイ した。 でも ニンゲン が こんな サンチュウ に いれば、 エ でも みて いなければ セカイ に ウミ の ある こと など は わすれて しまう かも しれない では ない か。
 ワタシ は かえろう と おもった、 この イエ の シュジン には いずれ また あい に くる と して。 それでも ヒト の いない うち に はいりこんで、 ヒト の いない うち に かえる の は なんだか キ に なった。 そこで いっそ の こと シュジン の キタク を まとう と いう キ にも なる。 それで スイバン から ミズ の わきたつ の を みながら、 イップク すいつけた。 そうして ワタシ は その わきたつ ミズ を しばらく みつめて いた。 こうして イッシン に それ を みつづけて いる と、 なんだか トオク の オンガク に ききいって いる よう な ココロモチ が する。 うっとり と なる。 ひょっと する と この フダン に たぎりでる ミズ の ソコ から、 ホントウ に オンガク が きこえて きた の かも しれない。 あんな フシギ な イエ の こと だ から。 なにしろ この イエ の シュジン と いう の は よほど カワリモノ に ソウイ ない。 ……まて よ オレ は、 リップ ヴァン ウィンクル では ない かしら。 ……かえって みる と ツマ は ババア に なって いる。 ……ひょっと この ハヤシ を でて、 「K ムラ は どこ でした かね」 と ヒャクショウ に たずねる と、 「え? K ムラ そんな ところ は この ヘン に ありません ぜ」 と いわれそう だぞ。 そう おもう と ワタシ は ふと はやく イエ へ かえって みよう と、 ヘン な キモチ に なった。 そこで ワタシ は トグチ の ところ へ あるいて いって、 クチブエ で フラテ を よぶ。 イマ まで イッキョ イチドウ を チュウシ して いた よう な キ の する あの スペイン イヌ は じっと ワタシ の かえる ところ を みおくって いる。 ワタシ は おそれた。 この イヌ は イマ まで は ニュウワ に みせかけて おいて、 かえる と みて わっ と ウシロ から かみつき は しない だろう か。 ワタシ は スペイン イヌ に チュウイ しながら、 フラテ の でて くる の を まちかねて、 オオイソギ で トビラ を しめて でた。
 さて、 カエリガケ に もう イッペン イエ の ナイブ を みて やろう と、 セノビ を して マド から のぞきこむ と レイ の マックロ な スペイン イヌ は のっそり と おきあがって、 さて オオヅクエ の ほう へ あるきながら、 オレ の いる の には キ が つかない の か、
「ああ、 キョウ は ミョウ な ヤツ に おどろかされた」
と、 ニンゲン の コエ で いった よう な キ が した。 はてな、 と おもって いる と、 よく イヌ が する よう に アクビ を した か と おもう と、 ワタシ の マタタキ した マ に、 ヤツ は 50-カッコウ の メガネ を かけた クロフク の チュウロウジン に なり オオヅクエ の マエ の イス に よりかかった まま、 ゆうぜん と クチ には まだ ヒ を つけぬ タバコ を くわえて、 あの オオガタ の ホン の 1 サツ を ひらいて ページ を くって いる の で あった。
 ぽかぽか と ホントウ に あたたかい ハル の ヒ の ゴゴ で ある。 ひっそり と した ヤマ の ゾウキハラ の ナカ で ある。
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