カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

チュウモン の おおい リョウリテン

2018-12-22 | ミヤザワ ケンジ
 チュウモン の おおい リョウリテン

 ミヤザワ ケンジ

 フタリ の わかい シンシ が、 すっかり イギリス の ヘイタイ の カタチ を して、 ぴかぴか する テッポウ を かついで、 シロクマ の よう な イヌ を 2 ヒキ つれて、 だいぶ ヤマオク の、 コノハ の かさかさ した とこ を、 こんな こと を いいながら、 あるいて おりました。
「ぜんたい、 ここら の ヤマ は けしからん ね。 トリ も ケモノ も 1 ピキ も いやがらん。 なんでも かまわない から、 はやく たんたあーん と、 やって みたい もん だなあ」
「シカ の キイロ な ヨコッパラ なんぞ に、 2~3 パツ おみまい もうしたら、 ずいぶん ツウカイ だろう ねえ。 くるくる まわって、 それから どたっと たおれる だろう ねえ」
 それ は ダイブ の ヤマオク でした。 アンナイ して きた センモン の テッポウウチ も、 ちょっと まごついて、 どこ か へ いって しまった くらい の ヤマオク でした。
 それに、 あんまり ヤマ が ものすごい ので、 その シロクマ の よう な イヌ が、 2 ヒキ イッショ に メマイ を おこして、 しばらく うなって、 それから アワ を はいて しんで しまいました。
「じつに ボク は、 2400 エン の ソンガイ だ」 と ヒトリ の シンシ が、 その イヌ の マブタ を、 ちょっと かえして みて いいました。
「ボク は 2800 エン の ソンガイ だ」 と、 も ヒトリ が、 くやしそう に、 アタマ を まげて いいました。
 ハジメ の シンシ は、 すこし カオイロ を わるく して、 じっと、 も ヒトリ の シンシ の、 カオツキ を みながら いいました。
「ボク は もう もどろう と おもう」
「さあ、 ボク も ちょうど さむく は なった し ハラ は すいて きた し もどろう と おもう」
「そいじゃ、 これ で きりあげよう。 なあに モドリ に、 キノウ の ヤドヤ で、 ヤマドリ を 10 エン も かって かえれば いい」
「ウサギ も でて いた ねえ。 そう すれば けっきょく おんなじ こった。 では かえろう じゃ ない か」
 ところが どうも こまった こと は、 どっち へ いけば もどれる の か、 いっこう ケントウ が つかなく なって いました。
 カゼ が どうと ふいて きて、 クサ は ざわざわ、 コノハ は かさかさ、 キ は ごとん ごとん と なりました。
「どうも ハラ が すいた。 サッキ から ヨコッパラ が いたくて たまらない ん だ」
「ボク も そう だ。 もう あんまり あるきたく ない な」
「あるきたく ない よ。 ああ こまった なあ、 ナニ か たべたい なあ」
「たべたい もん だなあ」
 フタリ の シンシ は、 ざわざわ なる ススキ の ナカ で、 こんな こと を いいました。
 その とき ふと ウシロ を みます と、 リッパ な 1 ケン の セイヨウヅクリ の ウチ が ありました。
 そして ゲンカン には、
    RESTAURANT
    セイヨウ リョウリテン
    WILDCAT HOUSE
    ヤマネコ-ケン
と いう フダ が でて いました。
「キミ、 ちょうど いい。 ここ は これ で なかなか ひらけてる ん だ。 はいろう じゃ ない か」
「おや、 こんな とこ に おかしい ね。 しかし とにかく ナニ か ショクジ が できる ん だろう」
「もちろん できる さ。 カンバン に そう かいて ある じゃ ない か」
「はいろう じゃ ない か。 ボク は もう ナニ か たべたくて たおれそう なん だ」
 フタリ は ゲンカン に たちました。 ゲンカン は しろい セト の レンガ で くんで、 じつに リッパ な もん です。
 そして ガラス の ヒラキド が たって、 そこ に キンモジ で こう かいて ありました。
   「ドナタ も どうか おはいり ください。 けっして ゴエンリョ は ありません」
 フタリ は そこで、 ひどく よろこんで いいました。
「こいつ は どう だ、 やっぱり ヨノナカ は うまく できてる ねえ、 キョウ イチニチ ナンギ した けれど、 コンド は こんな いい こと も ある。 この ウチ は リョウリテン だ けれども タダ で ゴチソウ する ん だぜ」
「どうも そう らしい。 けっして ゴエンリョ は ありません と いう の は その イミ だ」
 フタリ は ト を おして、 ナカ へ はいりました。 そこ は すぐ ロウカ に なって いました。 その ガラスド の ウラガワ には、 キンモジ で こう なって いました。
   「ことに ふとった オカタ や わかい オカタ は、 ダイカンゲイ いたします」
 フタリ は ダイカンゲイ と いう ので、 もう オオヨロコビ です。
「キミ、 ボクラ は ダイカンゲイ に あたって いる の だ」
「ボクラ は リョウホウ かねてる から」
 ずんずん ロウカ を すすんで いきます と、 コンド は ミズイロ の ペンキヌリ の ト が ありました。
「どうも ヘン な ウチ だ。 どうして こんな に たくさん ト が ある の だろう」
「これ は ロシア-シキ だ。 さむい とこ や ヤマ の ナカ は みんな こう さ」
 そして フタリ は その ト を あけよう と します と、 ウエ に キイロ な ジ で こう かいて ありました。
   「トウケン は チュウモン の おおい リョウリテン です から どうか そこ は ゴショウチ ください」
「なかなか はやってる ん だ。 こんな ヤマ の ナカ で」
「それ あ そう だ。 みたまえ、 トウキョウ の おおきな リョウリヤ だって オオドオリ には すくない だろう」
 フタリ は いいながら、 その ト を あけました。 すると その ウラガワ に、
   「チュウモン は ずいぶん おおい でしょう が どうか いちいち こらえて ください」
「これ は ぜんたい どういう ん だ」 ヒトリ の シンシ は カオ を しかめました。
「うん、 これ は きっと チュウモン が あまり おおくて シタク が てまどる けれども ごめん ください と こういう こと だ」
「そう だろう。 はやく どこ か ヘヤ の ナカ に はいりたい もん だな」
「そして テーブル に すわりたい もん だな」
 ところが どうも うるさい こと は、 また ト が ヒトツ ありました。 そして その ワキ に カガミ が かかって、 その シタ には ながい エ の ついた ブラシ が おいて あった の です。
 ト には あかい ジ で、
   「オキャクサマ がた、 ここ で カミ を きちんと して、 それから ハキモノ
    の ドロ を おとして ください」
と かいて ありました。
「これ は どうも もっとも だ。 ボク も さっき ゲンカン で、 ヤマ の ナカ だ と おもって みくびった ん だよ」
「サホウ の きびしい ウチ だ。 きっと よほど えらい ヒトタチ が、 たびたび くる ん だ」
 そこで フタリ は、 きれい に カミ を けずって、 クツ の ドロ を おとしました。
 そしたら、 どう です。 ブラシ を イタ の ウエ に おく や いなや、 そいつ が ぼうっと かすんで なくなって、 カゼ が どうっと ヘヤ の ナカ に はいって きました。
 フタリ は びっくり して、 たがいに よりそって、 ト を がたん と あけて、 ツギ の ヘヤ へ はいって いきました。 はやく ナニ か あたたかい もの でも たべて、 ゲンキ を つけて おかない と、 もう トホウ も ない こと に なって しまう と、 フタリ とも おもった の でした。
 ト の ウチガワ に、 また ヘン な こと が かいて ありました。
   「テッポウ と タマ を ここ へ おいて ください」
 みる と すぐ ヨコ に くろい ダイ が ありました。
「なるほど、 テッポウ を もって モノ を くう と いう ホウ は ない」
「いや、 よほど えらい ヒト が しじゅう きて いる ん だ」
 フタリ は テッポウ を はずし、 オビカワ を といて、 それ を ダイ の ウエ に おきました。
 また くろい ト が ありました。
   「どうか ボウシ と ガイトウ と クツ を おとり ください」
「どう だ、 とる か」
「しかたない、 とろう。 たしか に よっぽど えらい ヒト なん だ。 オク に きて いる の は」
 フタリ は ボウシ と オーバーコート を クギ に かけ、 クツ を ぬいで ぺたぺた あるいて ト の ナカ に はいりました。
 ト の ウラガワ には、
   「ネクタイ ピン、 カフス ボタン、 メガネ、 サイフ、 ソノタ カナモノルイ、
    ことに とがった もの は、 みんな ここ に おいて ください」
と かいて ありました。 ト の すぐ ヨコ には クロヌリ の リッパ な キンコ も、 ちゃんと クチ を あけて おいて ありました。 カギ まで そえて あった の です。
「ははあ、 ナニ か の リョウリ に デンキ を つかう と みえる ね。 カナケ の もの は あぶない。 ことに とがった もの は あぶない と こう いう ん だろう」
「そう だろう。 してみると カンジョウ は カエリ に ここ で はらう の だろう か」
「どうも そう らしい」
「そう だ。 きっと」
 フタリ は メガネ を はずしたり、 カフス ボタン を とったり、 みんな キンコ の ナカ に いれて、 ぱちん と ジョウ を かけました。
 すこし いきます と また ト が あって、 その マエ に ガラス の ツボ が ヒトツ ありました。 ト には こう かいて ありました。
   「ツボ の ナカ の クリーム を カオ や テアシ に すっかり ぬって ください」
 みる と たしか に ツボ の ナカ の もの は ギュウニュウ の クリーム でした。
「クリーム を ぬれ と いう の は どういう ん だ」
「これ は ね、 ソト が ヒジョウ に さむい だろう。 ヘヤ の ナカ が あんまり あたたかい と ヒビ が きれる から、 その ヨボウ なん だ。 どうも オク には、 よほど えらい ヒト が きて いる。 こんな とこ で、 あんがい ボクラ は、 キゾク と チカヅキ に なる かも しれない よ」
 フタリ は ツボ の クリーム を、 カオ に ぬって テ に ぬって それから クツシタ を ぬいで アシ に ぬりました。 それでも まだ のこって いました から、 それ は フタリ とも めいめい こっそり カオ へ ぬる フリ を しながら たべました。
 それから オオイソギ で ト を あけます と、 その ウラガワ には、
   「クリーム を よく ぬりました か、 ミミ にも よく ぬりました か、」
と かいて あって、 ちいさな クリーム の ツボ が ここ にも おいて ありました。
「そうそう、 ボク は ミミ には ぬらなかった。 あぶなく ミミ に ヒビ を きらす とこ だった。 ここ の シュジン は じつに ヨウイ シュウトウ だね」
「ああ、 こまかい とこ まで よく キ が つく よ。 ところで ボク は はやく ナニ か たべたい ん だ が、 どうも こう どこまでも ロウカ じゃ しかたない ね」
 すると すぐ その マエ に ツギ の ト が ありました。
   「リョウリ は もう すぐ できます。
    15 フン と オマタセ は いたしません。
    すぐ たべられます。
    はやく アナタ の アタマ に ビン の ナカ の コウスイ を よく ふりかけて ください」
 そして ト の マエ には キンピカ の コウスイ の ビン が おいて ありました。
 フタリ は その コウスイ を、 アタマ へ ぱちゃぱちゃ ふりかけました。
 ところが その コウスイ は、 どうも ス の よう な ニオイ が する の でした。
「この コウスイ は へんに ス-くさい。 どうした ん だろう」
「まちがえた ん だ。 ゲジョ が カゼ でも ひいて まちがえて いれた ん だ」
 フタリ は ト を あけて ナカ に はいりました。
 ト の ウラガワ には、 おおきな ジ で こう かいて ありました。
   「いろいろ チュウモン が おおくて うるさかった でしょう。 オキノドク でした。
    もう これ だけ です。 どうか カラダジュウ に、 ツボ の ナカ の シオ を たくさん
    よく もみこんで ください」
 なるほど リッパ な あおい セト の シオツボ は おいて ありました が、 コンド と いう コンド は フタリ とも ぎょっと して おたがいに クリーム を たくさん ぬった カオ を みあわせました。
「どうも おかしい ぜ」
「ボク も おかしい と おもう」
「タクサン の チュウモン と いう の は、 ムコウ が こっち へ チュウモン してる ん だよ」
「だから さ、 セイヨウ リョウリテン と いう の は、 ボク の かんがえる ところ では、 セイヨウ リョウリ を、 きた ヒト に たべさせる の では なくて、 きた ヒト を セイヨウ リョウリ に して、 たべて やる ウチ と こういう こと なん だ。 これ は、 その、 つ、 つ、 つ、 つまり、 ボ、 ボ、 ボクラ が……」 がたがた がたがた、 ふるえだして もう モノ が いえません でした。
「その、 ボ、 ボクラ が、 ……うわあ」 がたがた がたがた、 ふるえだして もう モノ が いえません でした。
「にげ……」 がたがた しながら ヒトリ の シンシ は ウシロ の ト を おそう と しました が、 どう です、 ト は もう イチブ も うごきません でした。
 オク の ほう には まだ 1 マイ ト が あって、 おおきな カギアナ が フタツ つき、 ギンイロ の ホーク と ナイフ の カタチ が きりだして あって、
   「いや、 わざわざ ゴクロウ です。
    たいへん ケッコウ に できました。
    さあさあ オナカ に おはいり ください」
と かいて ありました。 おまけに カギアナ から は きょろきょろ フタツ の あおい メダマ が こっち を のぞいて います。
「うわあ」 がたがた がたがた。
「うわあ」 がたがた がたがた。
 フタリ は なきだしました。
 すると ト の ナカ では、 こそこそ こんな こと を いって います。
「ダメ だよ。 もう キ が ついた よ。 シオ を もみこまない よう だよ」
「アタリマエ さ。 オヤブン の カキヨウ が まずい ん だ。 あすこ へ、 いろいろ チュウモン が おおくて うるさかった でしょう、 オキノドク でした なんて、 まぬけた こと を かいた もん だ」
「どっち でも いい よ。 どうせ ボクラ には、 ホネ も わけて くれ や しない ん だ」
「それ は そう だ。 けれども もし ここ へ アイツラ が はいって こなかったら、 それ は ボクラ の セキニン だぜ」
「よぼう か、 よぼう。 おい、 オキャクサン がた、 はやく いらっしゃい。 いらっしゃい。 いらっしゃい。 オサラ も あらって あります し、 ナッパ も もう よく シオ で もんで おきました。 アト は アナタガタ と、 ナッパ を うまく とりあわせて、 マッシロ な オサラ に のせる だけ です。 はやく いらっしゃい」
「へい、 いらっしゃい、 いらっしゃい。 それとも サラド は おきらい です か。 そんなら これから ヒ を おこして フライ に して あげましょう か。 とにかく はやく いらっしゃい」
 フタリ は あんまり ココロ を いためた ため に、 カオ が まるで くしゃくしゃ の カミクズ の よう に なり、 おたがいに その カオ を みあわせ、 ぶるぶる ふるえ、 コエ も なく なきました。
 ナカ では ふっふっ と わらって また さけんで います。
「いらっしゃい、 いらっしゃい。 そんな に ないて は せっかく の クリーム が ながれる じゃ ありません か。 へい、 ただいま。 じき もって まいります。 さあ、 はやく いらっしゃい」
「はやく いらっしゃい。 オヤカタ が もう ナフキン を かけて、 ナイフ を もって、 シタナメズリ して、 オキャクサマ がた を まって いられます」
 フタリ は ないて ないて ないて ないて なきました。
 その とき ウシロ から いきなり、
「わん、 わん、 ぐわあ」 と いう コエ が して、 あの シロクマ の よう な イヌ が 2 ヒキ、 ト を つきやぶって ヘヤ の ナカ に とびこんで きました。 カギアナ の メダマ は たちまち なくなり、 イヌ ども は うう と うなって しばらく ヘヤ の ナカ を くるくる まわって いました が、 また ヒトコエ、
「わん」 と たかく ほえて、 いきなり ツギ の ト に とびつきました。 ト は がたり と ひらき、 イヌ ども は すいこまれる よう に とんで いきました。
 その ト の ムコウ の マックラヤミ の ナカ で、
「にゃあお、 くわあ、 ごろごろ」 と いう コエ が して、 それから がさがさ なりました。
 ヘヤ は ケムリ の よう に きえ、 フタリ は サムサ に ぶるぶる ふるえて、 クサ の ナカ に たって いました。
 みる と、 ウワギ や クツ や サイフ や ネクタイ ピン は、 あっち の エダ に ぶらさがったり、 こっち の ネモト に ちらばったり して います。 カゼ が どうと ふいて きて、 クサ は ざわざわ、 コノハ は かさかさ、 キ は ごとん ごとん と なりました。
 イヌ が ふう と うなって もどって きました。
 そして ウシロ から は、
「ダンナア、 ダンナア、」 と さけぶ モノ が あります。
 フタリ は にわか に ゲンキ が ついて、
「おおい、 おおい、 ここ だぞ、 はやく こい」 と さけびました。
 ミノボウシ を かぶった センモン の リョウシ が、 クサ を ざわざわ わけて やって きました。
 そこで フタリ は やっと アンシン しました。
 そして リョウシ の もって きた ダンゴ を たべ、 トチュウ で 10 エン だけ ヤマドリ を かって トウキョウ に かえりました。
 しかし、 さっき イッペン カミクズ の よう に なった フタリ の カオ だけ は、 トウキョウ に かえって も、 オユ に はいって も、 もう モト の とおり に なおりません でした。
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オウゴン フウケイ

2018-12-07 | ダザイ オサム
 オウゴン フウケイ

 ダザイ オサム

   ウミ の キシベ に ミドリ なす カシ の キ、 その カシ の キ に オウゴン の ほそき クサリ の むすばれて   ――プーシキン――

 ワタシ は コドモ の とき には、 あまり タチ の いい ほう では なかった。 ジョチュウ を いじめた。 ワタシ は、 のろくさい こと は きらい で、 それゆえ、 のろくさい ジョチュウ を ことにも いじめた。 オケイ は、 のろくさい ジョチュウ で ある。 リンゴ の カワ を むかせて も、 むきながら ナニ を かんがえて いる の か、 2 ド も 3 ド も テ を やすめて、 おい、 と その たび ごと に きびしく コエ を かけて やらない と、 カタテ に リンゴ、 カタテ に ナイフ を もった まま、 いつまでも、 ぼんやり して いる の だ。 たりない の では ない か、 と おもわれた。 ダイドコロ で、 なにも せず に、 ただ のっそり つったって いる スガタ を、 ワタシ は よく みかけた もの で ある が、 コドモゴコロ にも、 うすみっともなく、 ミョウ に カン に さわって、 おい、 オケイ、 ヒ は みじかい の だぞ、 など と おとなびた、 イマ おもって も セスジ の さむく なる よう な ヒドウ の コトバ を なげつけて、 それ で たりず に イチド は オケイ を よびつけ、 ワタシ の エホン の カンペイシキ の ナンビャクニン と なく うようよ して いる ヘイタイ、 ウマ に のって いる モノ も あり、 ハタ もって いる モノ も あり、 ジュウ になって いる モノ も あり、 その ヒトリヒトリ の ヘイタイ の カタチ を ハサミ で もって きりぬかせ、 ブキヨウ な オケイ は、 アサ から ヒルメシ も くわず ヒグレ-ゴロ まで かかって、 やっと 30 ニン くらい、 それ も タイショウ の ヒゲ を カタホウ きりおとしたり、 ジュウ もつ ヘイタイ の テ を、 クマ の テ みたい に おそろしく おおきく きりぬいたり、 そうして いちいち ワタシ に どなられ、 ナツ の コロ で あった、 オケイ は アセカキ なので、 きりぬかれた ヘイタイ たち は ミンナ、 オケイ の テ の アセ で、 びしょびしょ ぬれて、 ワタシ は ついに カンシャク を おこし、 オケイ を けった。 たしか に カタ を けった はず なのに、 オケイ は ミギ の ホオ を おさえ、 がばと なきふし、 なきなき いった。 「オヤ に さえ カオ を ふまれた こと は ない。 イッショウ おぼえて おります」 うめく よう な クチョウ で、 とぎれ、 とぎれ そう いった ので、 ワタシ は、 さすが に いや な キ が した。 その ホカ にも、 ワタシ は ほとんど それ が テンメイ でも ある か の よう に、 オケイ を いびった。 イマ でも、 タショウ は そう で ある が、 ワタシ には ムチ な ロドン の モノ は、 とても カンニン できぬ の だ。
 イッサクネン、 ワタシ は イエ を おわれ、 イチヤ の うち に キュウハク し、 チマタ を さまよい、 ショショ に なきつき、 その ヒ その ヒ の イノチ つなぎ、 やや ブンピツ で もって、 ジカツ できる アテ が つきはじめた と おもった トタン、 ヤマイ を えた。 ヒトビト の ナサケ で ヒトナツ、 チバ ケン フナバシ マチ、 ドロ の ウミ の すぐ チカク に ちいさい イエ を かり、 ジスイ の ホヨウ を する こと が でき、 マイヨ マイヨ、 ネマキ を しぼる ほど の ネアセ と たたかい、 それでも シゴト は しなければ ならず、 マイアサ マイアサ の つめたい 1 ゴウ の ギュウニュウ だけ が、 ただ それ だけ が、 キミョウ に いきて いる ヨロコビ と して かんじられ、 ニワ の スミ の キョウチクトウ の ハナ が さいた の を、 めらめら ヒ が もえて いる よう に しか かんじられなかった ほど、 ワタシ の アタマ も ほとほと いたみつかれて いた。
 その コロ の こと、 コセキシラベ の 40 に ちかい、 やせて コガラ の オマワリ が ゲンカン で、 チョウボ の ワタシ の ナマエ と、 それから ブショウヒゲ ノバシホウダイ の ワタシ の カオ と を、 つくづく みくらべ、 おや、 アナタ は…… の オボッチャン じゃ ございません か? そう いう オマワリ の コトバ には、 つよい コキョウ の ナマリ が あった ので、
「そう です」 ワタシ は ふてぶてしく こたえた。 「アナタ は?」
 オマワリ は やせた カオ に くるしい ばかり に いっぱい の エミ を たたえて、
「やあ。 やはり そう でした か。 オワスレ かも しれない けれど、 かれこれ 20 ネン ちかく マエ、 ワタシ は K で バシャヤ を して いました」
 K とは、 ワタシ の うまれた ムラ の ナマエ で ある。
「ゴラン の とおり」 ワタシ は、 にこり とも せず に おうじた。 「ワタシ も、 イマ は おちぶれました」
「とんでもない」 オマワリ は、 なおも たのしげ に わらいながら、 「ショウセツ を おかき なさる ん だったら、 それ は なかなか シュッセ です」
 ワタシ は クショウ した。
「ところで」 と オマワリ は すこし コエ を ひくめ、 「オケイ が いつも アナタ の オウワサ を して います」
「オケイ?」 すぐに は のみこめなかった。
「オケイ です よ。 オワスレ でしょう。 オタク の ジョチュウ を して いた――」
 おもいだした。 ああ、 と おもわず うめいて、 ワタシ は ゲンカン の シキダイ に しゃがんだ まま、 アタマ を たれて、 その 20 ネン マエ、 のろくさかった ヒトリ の ジョチュウ に たいして の ワタシ の アクギョウ が、 ヒトツヒトツ、 はっきり おもいだされ、 ほとんど ザ に たえかねた。
「コウフク です か?」 ふと カオ を あげて そんな トッピョウシ ない シツモン を はっする ワタシ の カオ は、 たしか に ザイニン、 ヒコク、 ヒクツ な ワライ を さえ うかべて いた と キオク する。
「ええ、 もう、 どうやら」 クッタク なく、 そう ほがらか に こたえて、 オマワリ は ハンケチ で ヒタイ の アセ を ぬぐって、 「かまいません でしょう か。 コンド あれ を つれて、 イチド ゆっくり オレイ に あがりましょう」
 ワタシ は とびあがる ほど、 ぎょっと した。 いいえ、 もう、 それ には、 と はげしく キョヒ して、 ワタシ は いいしれぬ クツジョクカン に ミモダエ して いた。
 けれども、 オマワリ は、 ほがらか だった。
「コドモ が ねえ、 アナタ、 ここ の エキ に つとめる よう に なりまして な、 それ が チョウナン です。 それから オトコ、 オンナ、 オンナ、 その スエ の が ヤッツ で コトシ ショウガッコウ に あがりました。 もう ヒトアンシン。 オケイ も クロウ いたしました。 なんと いう か、 まあ、 オタク の よう な タイケ に あがって ギョウギ ミナライ した モノ は、 やはり どこ か、 ちがいまして な」 すこし カオ を あかく して わらい、 「おかげさま でした。 オケイ も、 アナタ の オウワサ、 しじゅう して おります。 コンド の コウキュウ には、 きっと イッショ に オレイ に あがります」 キュウ に マジメ な カオ に なって、 「それじゃ、 キョウ は シツレイ いたします。 オダイジ に」
 それから、 ミッカ たって、 ワタシ が シゴト の こと より も、 キンセン の こと で おもいなやみ、 ウチ に じっと して おれなくて、 タケ の ステッキ もって、 ウミ へ でよう と、 ゲンカン の ト を がらがら あけたら、 ソト に 3 ニン、 ユカタ きた チチ と ハハ と、 あかい ヨウフク きた オンナ の コ と、 エ の よう に うつくしく ならんで たって いた。 オケイ の カゾク で ある。
 ワタシ は ジブン でも イガイ な ほど の、 おそろしく おおきな ドセイ を はっした。
「きた の です か。 キョウ、 ワタシ これから ヨウジ が あって でかけなければ なりません。 オキノドク です が、 また の ヒ に おいで ください」
 オケイ は、 ヒン の いい チュウネン の オクサン に なって いた。 ヤッツ の コ は、 ジョチュウ の コロ の オケイ に よく にた カオ を して いて、 ウスノロ-らしい にごった メ で ぼんやり ワタシ を みあげて いた。 ワタシ は かなしく、 オケイ が まだ ヒトコト も いいださぬ うち、 にげる よう に、 カイヒン へ とびだした。 タケ の ステッキ で、 カイヒン の ザッソウ を なぎはらい なぎはらい、 イチド も アト を ふりかえらず、 イッポ、 イッポ、 ジダンダ ふむ よう な すさんだ アルキカタ で、 とにかく カイガン-ヅタイ に マチ の ほう へ、 マッスグ に あるいた。 ワタシ は マチ で ナニ を して いたろう。 ただ イミ も なく、 カツドウゴヤ の エカンバン みあげたり、 ゴフクヤ の カザリマド を みつめたり、 ちえっちえっ と シタウチ して は、 ココロ の どこ か の スミ で、 まけた、 まけた、 と ささやく コエ が きこえて、 これ は ならぬ と はげしく カラダ を ゆすぶって は、 また あるき、 30 プン ほど そうして いたろう か、 ワタシ は ふたたび ワタシ の イエ へ とって かえした。
 ウミギシ に でて、 ワタシ は たちどまった。 みよ、 ゼンポウ に ヘイワ の ズ が ある。 オケイ オヤコ 3 ニン、 のどか に ウミ に イシ の ナゲッコ して は わらいきょうじて いる。 コエ が ここ まで きこえて くる。
「なかなか」 オマワリ は、 うんと チカラ こめて イシ を ほうって、 「アタマ の よさそう な カタ じゃ ない か。 あの ヒト は、 いまに えらく なる ぞ」
「そう です とも、 そう です とも」 オケイ の ほこらしげ な たかい コエ で ある。 「あの カタ は、 おちいさい とき から ヒトリ かわって おられた。 メシタ の モノ にも それ は シンセツ に、 メ を かけて くだすった」
 ワタシ は たった まま ないて いた。 けわしい コウフン が、 ナミダ で、 まるで キモチ よく とけさって しまう の だ。
 まけた。 これ は、 いい こと だ。 そう なければ、 いけない の だ。 カレラ の ショウリ は、 また ワタシ の アス の シュッパツ にも、 ヒカリ を あたえる。
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