ニジュウシ の ヒトミ
ツボイ サカエ
1、 コイシ センセイ
10 ネン を ヒトムカシ と いう ならば、 この モノガタリ の ホッタン は イマ から フタムカシ ハン も マエ の こと に なる。 ヨノナカ の デキゴト は と いえば、 センキョ の キソク が あらたまって、 フツウ センキョ ホウ と いう の が うまれ、 2 ガツ に その ダイ 1 カイ の センキョ が おこなわれた、 2 カゲツ-ゴ の こと に なる。 ショウワ 3 ネン 4 ガツ ヨッカ、 ノウサンギョソン の ナ が ゼンブ あてはまる よう な、 セト ナイカイ-ベリ の イチ カンソン へ、 わかい オンナ の センセイ が フニン して きた。
100 コ あまり の ちいさな その ムラ は、 イリエ の ウミ を ミズウミ の よう な カタチ に みせる ヤク を して いる ほそながい ミサキ の、 その トッパナ に あった ので、 タイガン の マチ や ムラ へ ゆく には コブネ で わたったり、 うねうね と まがりながら つづく ミサキ の ヤマミチ を てくてく あるいたり せねば ならない。 コウツウ が すごく フベン なので、 ショウガッコウ の セイト は 4 ネン まで が ムラ の ブンキョウジョウ に ゆき、 5 ネン に なって はじめて、 カタミチ 5 キロ の ホンソン の ショウガッコウ へ かよう の で ある。 テヅクリ の ワラゾウリ は 1 ニチ で きれた。 それ が ミンナ は ジマン で あった。 マイアサ、 あたらしい ゾウリ を おろす の は、 うれしかった に ちがいない。 ジブン の ゾウリ を ジブン の テ で つくる の も、 5 ネンセイ に なって から の シゴト で ある。 ニチヨウビ に、 ダレ か の イエ へ あつまって ゾウリ を つくる の は たのしかった。 ちいさな コドモ ら は、 うらやましそう に それ を ながめて、 しらずしらず の うち に ゾウリヅクリ を おぼえて ゆく。 ちいさい コドモ たち に とって、 5 ネンセイ に なる と いう こと は、 ヒトリダチ を イミ する ほど の こと で あった。 しかし、 ブンキョウジョウ も たのしかった。
ブンキョウジョウ の センセイ は フタリ で、 うんと トシヨリ の オトコ センセイ と、 コドモ の よう に わかい オンナ センセイ が くる の に きまって いた。 それ は まるで、 そういう キソク が ある か の よう に、 オオムカシ から そう だった。 ショクインシツ の トナリ の シュクチョクシツ に オトコ センセイ は すみつき、 オンナ センセイ は とおい ミチ を かよって くる の も、 オトコ センセイ が 3、 4 ネン を うけもち、 オンナ センセイ が 1、 2 ネン と ゼンブ の ショウカ と 4 ネン ジョセイ の サイホウ を おしえる、 それ も ムカシ から の キマリ で あった。 セイト たち は センセイ を よぶ の に ナ を いわず、 オトコ センセイ、 オナゴ センセイ と いった。 トシヨリ の オトコ センセイ が オンキュウ を タノシミ に コシ を すえて いる の と ハンタイ に、 オンナ センセイ の ほう は、 1 ネン か せいぜい 2 ネン する と テンニン した。 なんでも、 コウチョウ に なれない オトコ センセイ の キョウシ と して の サイゴ の ツトメ と、 シンマイ の オンナ センセイ が クロウ の シハジメ を、 この ミサキ の ムラ の ブンキョウジョウ で つとめる の だ と いう ウワサ も ある が、 ウソ か ホント か は わからない。 だが、 だいたい ホントウ の よう でも ある。
そうして、 ショウワ 3 ネン の 4 ガツ ヨッカ に もどろう。 その アサ、 ミサキ の ムラ の 5 ネンセイ イジョウ の セイト たち は、 ホンコウ まで 5 キロ の ミチ を いそいそ と あるいて いた。 ミンナ、 それぞれ ヒトツ ずつ シンキュウ した こと が ココロ を はずませ、 アシモト も かるかった の だ。 カバン の ナカ は あたらしい キョウカショ に かわって いる し、 キョウ から あたらしい キョウシツ で、 あたらしい センセイ に おしえて もらう タノシミ は、 いつも とおる ミチ まで が あたらしく かんじられた。 それ と いう の も、 キョウ は、 あたらしく ブンキョウジョウ へ フニン して くる オンナ センセイ に、 この ミチ で であう と いう こと も あった。
「コンド の オナゴ センセイ、 どんな ヤツ じゃろ な」
わざと ぞんざい に、 ヤツ ヨバワリ を する の は、 コウトウカ―― イマ の シンセイ チュウガクセイ に あたる オトコ の コドモ たち だ。
「コンド の も また、 ジョガッコウ デエデエ の タマゴ じゃ いよった ぞ」
「そんなら、 また ハンニンマエ センセイ か」
「どうせ、 ミサキ は いつでも ハンニンマエ じゃ ない か」
「ビンボウムラ なら、 ハンニンマエ でも しょうがない」
セイキ の シハンデ では なく、 ジョガッコウ-デ の ジュンキョウイン (イマ では ジョキョウ と いう の だろう か) の こと を、 クチ の わるい オトナ たち が、 ハンニンマエ など と いう の を まねて、 ジブン たち も、 もう オトナ に なった よう な つもり で いって いる の だ が、 たいして ワルギ は なかった。 しかし、 キョウ はじめて この ミチ を あるく こと に なった 5 ネンセイ たち は、 メ を ぱちくり させながら、 キョウ ナカマイリ を した ばかり の エンリョサ で、 きいて いる。 だが、 ゼンポウ から ちかづいて くる ヒト の スガタ を みとめる と、 マッサキ に カンセイ を あげた の は 5 ネンセイ だった。
「わあ、 オナゴ センセイェ」
それ は、 つい コナイダ まで おしえて もらって いた コバヤシ センセイ で ある。 イツモ は さっさと すれちがいながら オジギ を かえす だけ の コバヤシ センセイ も、 キョウ は たちどまって、 なつかしそう に ミンナ の カオ を かわるがわる みまわした。
「キョウ で、 ホント に オワカレ ね。 もう この ミチ で、 ミンナ に であう こと は ない わね。 よく ベンキョウ して ね」
その しんみり した クチョウ に なみだぐんだ オンナ の コ も いた。 この コバヤシ センセイ だけ は、 これまで の オンナ センセイ の レイ を やぶって、 マエ の センセイ が ビョウキ で やめた アト、 3 ネン ハン も ミサキ の ムラ を うごかなかった センセイ で あった。 だから、 ここ で であった セイト たち は、 イチド は コバヤシ センセイ に おそわった こと の ある モノ ばかり だ。 センセイ が かわる と いう よう な こと は、 ホンライ ならば シンガッキ の その ヒ に なって はじめて わかる の だ が、 コバヤシ センセイ は、 カタヤブリ に トオカ も マエ に セイト に はなした の で ある。 3 ガツ 25 ニチ の シュウギョウシキ に ホンコウ へ いった カエリ、 ちょうど、 イマ、 たって いる この ヘン で、 ワカレ の コトバ を いい、 ミンナ に、 キャラメル の コバコ を ヒトハコ ずつ くれた。 だから ミンナ は、 キョウ この ミチ を あたらしい オンナ センセイ が あるいて くる と ばかり おもって いた のに、 それ を むかえる マエ に コバヤシ センセイ に あって しまった の で ある。 コバヤシ センセイ も、 キョウ は ブンキョウジョウ に いる コドモ たち に、 ワカレ の アイサツ に ゆく ところ なの で あろう。
「センセイ、 コンド くる センセイ は?」
「さあ、 もう そろそろ みえる でしょう」
「コンド の センセイ、 どんな センセイ?」
「しらん のよ、 まだ」
「また ジョガッコウ デエデエ?」
「さあ、 ホント に しらん の。 でも ミンナ、 ショウワル したら、 ダメ よ」
そう いって コバヤシ センセイ は わらった。 センセイ も ハジメ の 1 ネン は トチュウ の ミチ で ひどく こまらされて、 セイト の マエ も かまわず ないた こと も あった。 なかした セイト は もう ここ には いない けれど、 ここ に いる コ の アニ や アネ で ある。 わかい の と、 なれない の と で、 ミサキ へ くる タイテイ の オンナ センセイ が、 イチド は なかされる の を、 ホンコウ-ガヨイ の コドモ ら は デンセツ と して しって いた。 4 ネン も いた コバヤシ センセイ の アト なので、 コドモ たち の コウキシン は わくわく して いた。 コバヤシ センセイ と わかれて から も、 ミンナ は また、 コンド くる センセイ の スガタ を ゼンポウ に キタイ しながら、 サクセン を こらした。
「イモジョォ って、 どなる か」
「イモジョ で なかったら、 どう する」
「イモジョ に、 きまっとる と おもう がな」
クチグチ に イモジョ イモジョ と いって いる の は、 この チホウ が サツマイモ の ホンバ で あり、 その イモバタケ の マンナカ に ある ジョガッコウ なので、 こんな イタズラ な ヨビカタ も うまれた わけ だ。 コバヤシ センセイ も その イモジョ シュッシン だった。 コドモ たち は、 コンド くる オンナ センセイ をも イモジョ-デ と きめて、 もう くる か、 もう みえる か と、 ミチ が まがる たび に ゼンポウ を みわたした が、 カレラ の キタイ する イモジョ デエデエ の わかい センセイ の スガタ には ついに であわず、 ホンソン の ひろい ケンドウ に でて しまった。 と ドウジ に、 もう オナゴ センセイ の こと など かなぐりすてて、 コバシリ に なった。 いつも みる クセ に なって いる ケンドウゾイ の ヤドヤ の ゲンカン の オオドケイ が、 イツモ より 10 プン ほど すすんで いた から だ。 トケイ が すすんだ の では なく、 コバヤシ センセイ と タチバナシ を した だけ おそく なった の だ。 セナカ や ワキノシタ で フデバコ を ならしながら、 ホコリ を たてて ミンナ は はしりつづけた。
そうして、 その ヒ の カエリミチ、 ふたたび オンナ センセイ の こと を おもいだした の は ケンドウ から、 ミサキ の ほう へ わかれた ヤマミチ に さしかかって から で ある。 しかも また、 ムコウ から コバヤシ センセイ が あるいて くる の だ。 ながい タモト の キモノ を きた コバヤシ センセイ は、 その タモト を ひらひら させながら、 ミョウ に リョウテ を うごかして いる。
「センセエ」
「オナゴ センセエ」
オンナ の コ は ミンナ はしりだした。 センセイ の エガオ が だんだん はっきり と ちかづいて くる と、 センセイ の リョウテ が みえない ツナ を ひっぱって いる こと が わかって、 ミンナ わらった。 センセイ は まるで、 ホント に ツナ でも ひきよせて いる よう に、 リョウテ を かわるがわる うごかし、 とうとう たちどまって ミンナ を ひきよせて しまった。
「センセイ、 コンド の オナゴ センセイ、 きた?」
「きた わ。 どうして?」
「まだ ガッコウ に いる ん?」
「ああ、 その こと。 フネ で きた のよ、 キョウ は」
「ふうん。 そいで また、 フネ で いんだ ん?」
「そう、 ワタシ にも イッショ に フネ で かえろう と すすめて くれた けど、 センセイ、 も イッペン アンタラ の カオ みたかった から、 やめた」
「わぁ」
オンナ の コ たち が よろこんで カンセイ を あげる の を、 オトコ の コ は にやにや して みて いる。 やがて ヒトリ が たずねた。
「コンド の センセイ、 どんな センセイ ぞな?」
「いーい センセイ らしい。 かわいらしい」
コバヤシ センセイ は ふっと おもいだした よう な エガオ を した。
「イモジョ?」
「ちがう、 ちがう。 えらい センセイ よ、 コンド の センセイ」
「でも、 シンマイ じゃろ」
コバヤシ センセイ は キュウ に おこった よう な カオ を して、
「アンタラ、 ジブン で おしえて もらう センセイ でも ない のに、 どうして そんな こと いう の。 ハジメ っから シンマイ で ない センセイ て、 ない のよ。 また ワタシ の とき みたい に、 なかす つもり でしょう」
その ケンマク に、 ココロ の ナカ を みすかされた と おもって メ を そらす モノ も あった。 コバヤシ センセイ が ブンキョウジョウ に かよいだした コロ の セイト は、 わざと イチレツ オウタイ に なって オジギ を したり、 イモジョッ と さけんだり、 アナ が あく ほど みつめたり、 ニヤニヤワライ を したり と、 いろんな ホウホウ で シンマイ の センセイ を いやがらせた もの だった。 しかし、 3 ネン ハン の うち には もう どんな こと を して も センセイ の ほう で こまらなく なり、 かえって センセイ が テダシ を して ふざけたり した。 5 キロ の ミチノリ では、 ナニ か なくて は やりきれなかった の だろう。 コロ を みて、 また ヒトリ の セイト が たずねた。
「コンド の センセイ、 ナニ いう ナマエ?」
「オオイシ センセイ。 でも カラダ は、 ちっちゃあい ヒト。 コバヤシ でも ワタシ は ノッポ だ けど、 ホント に、 ちっちゃあい ヒト よ。 ワタシ の カタ ぐらい」
「わあ!」
まるで よろこぶ よう な その ワライゴエ を きく と、 コバヤシ センセイ は また きっと なって、
「だけど、 ワタシラ より、 ずっと ずっと えらい センセイ よ。 ワタシ の よう に ハンニンマエ では ない のよ」
「ふうん。 そいで センセイ、 フネ で かよう ん かな?」
ここ が ダイモンダイ だ と いう よう に きく の へ、 センセイ の ほう も、 ここ だな と いう カオ を して、
「フネ は キョウ だけ よ。 アシタ から ミンナ あえる わ。 でも、 コンド の センセイ は なかん よ。 ワタシ、 ちゃんと いっといた もの。 ホンコウ の セイト と イキシモドリ に であう けど、 もしも イタズラ したら、 サル が あそんでる と おもっときなさい。 もしも なんか いって なぶったら、 カラス が ないた と おもっときなさい って」
「わあ」
「わあ」
ミンナ イッセイ に わらった。 イッショ に わらって、 それで わかれて かえって ゆく、 コバヤシ センセイ の ウシロスガタ が、 ツギ の マガリカド に きえさる まで、 セイト たち は クチグチ に さけんだ。
「センセエ」
「さよならあ」
「ヨメサーン」
「さよならあ」
コバヤシ センセイ は オヨメ に ゆく ため に やめた の を、 ミンナ は もう しって いた の だ。 センセイ が サイゴ に ふりかえって テ を ふって、 それで みえなく なる と、 さすが に ミンナ の ムネ には、 ヘン な、 モノガナシサ が のこり、 イチニチ の ツカレ も でて きて、 もっそり と あるいた。 かえる と、 ムラ は オオサワギ だった。
「コンド の オナゴ センセイ は、 ヨウフク きとる ど」
「コンド の オナゴ センセイ は、 イモジョ と ちがう ど」
「コンド の オナゴ センセイ は、 こんまい ヒト じゃ ど」
そして ツギ の ヒ で ある。 イモジョ-デ で ない、 ちいさな センセイ に たいして、 どきどき する よう な サクセン が こらされた。
こそこそ、 こそこそ
こそこそ、 こそこそ
みちみち ささやきながら あるいて ゆく カレラ は、 いきなり ドギモ を ぬかれた の で ある。 バショ も わるかった。 ミトオシ の きかぬ マガリカド の チカク で、 この ミチ に めずらしい ジテンシャ が みえた の だ。 ジテンシャ は すうっと トリ の よう に ちかづいて きた と おもう と、 ヨウフク を きた オンナ が、 ミンナ の ほう へ にこっと わらいかけて、
「おはよう!」
と、 カゼ の よう に ゆきすぎた。 どうしたって それ は オンナ センセイ に ちがいなかった。 あるいて くる と ばっかり おもって いた オンナ センセイ は ジテンシャ を とばして きた の だ。 ジテンシャ に のった オンナ センセイ は はじめて で ある。 ヨウフク を きた オンナ センセイ も はじめて みる。 はじめて の ヒ に、 おはよう! と アイサツ を した センセイ も はじめて だ。 ミンナ、 しばらく は ぽかん と して その ウシロスガタ を みおくって いた。 ぜんぜん これ は セイト の マケ で ある。 どうも これ は、 イツモ の シンニン センセイ とは だいぶ ヨウス が ちがう。 ショウショウ の イタズラ では、 なきそう も ない と おもった。
「ごつい な」
「オナゴ の くせ に、 ジテンシャ に のったり して」
「ナマイキ じゃ な、 ちっと」
オトコ の コ たち が こんな ふう に ヒヒョウ して いる イッポウ では、 オンナ の コ は また オンナ の コ-らしく、 すこし ちがった ミカタ で、 ハナシ が はずみだして いる。
「ほら、 モダン ガール いう の、 あれ かも しれん な」
「でも、 モダン ガール いう の は、 オトコ の よう に カミ を ここ の とこ で、 サンパツ しとる こと じゃろ」
そう いって ミミ の ウシロ で 2 ホン の ユビ を ハサミ に して みせて から、
「あの センセイ は、 ちゃんと カミ ゆうとった もん」
「それでも、 ヨウフク きとる もん」
「ひょっと したら、 ジテンシャヤ の コ かも しれん な。 あんな きれい な ジテンシャ に のる の は。 ぴかぴか ひかっとった もん」
「ウチラ も ジテンシャ に のれたら ええ な。 この ミチ を すうっと はしりる、 キショク が ええ じゃろ」
なんと して も ジテンシャ では タチウチ できない。 ショイナゲ を くわされた よう に、 ミンナ がっかり して いる こと だけ は マチガイ なかった。 なんとか ハナ を あかして やる ホウホウ を かんがえだしたい と、 めいめい おもって いる の だ が、 なにひとつ おもいつかない うち に ミサキ の ミチ を ではずれて いた。 ヤドヤ の ゲンカン の ハシラドケイ は キョウ も また、 ミンナ の アシドリ を ショウジキ に しめして 8 プン ほど すぎて いる。 それ、 と ばかり セナカ と ワキノシタ の フデイレ は イッセイ に なりだし、 ゾウリ は ホコリ を まいあがらせた。
ところが、 ちょうど その おなじ コロ、 ミサキ の ムラ でも オオサワギ だった。 キノウ は フネ に のって きた とか で、 キ が つかぬ うち に また フネ で かえった の を きいた ムラ の オカミサン たち は、 キョウ こそ、 どんな カオ を して ミチ を とおる か と、 その ヨウフク を きて いる と いう オンナ センセイ を みたがって いた。 ことに ムラ の イリグチ の セキショ と アダナ の ある ヨロズヤ の オカミサン と きたら、 ミサキ の ムラ へ くる ほど の ヒト は、 ダレ より も サキ に ジブン が みる ケンリ が ある、 と でも いう よう に、 アサ の オキヌケ から トオリ の ほう へ キ を くばって いた。 だいぶ ながらく アメ が なかった ので、 かわいた オモテドオリ に ミズ を まいて おく の も、 あたらしい センセイ を むかえる には よかろう と、 ゾウキン バケツ を もって でて きた とき、 ムコウ から、 さあっと ジテンシャ が はしって きた の だ。 おやっ と おもう マ も なく、
「おはよう ございます」
アイソ よく アタマ を さげて とおりすぎた オンナ が ある。
「おはよう ございます」
ヘンジ を した トタン に、 はっと キ が ついた が、 ちょうど クダリザカ に なった ミチ を ジテンシャ は もう はしりさって いた。 ヨロズヤ の オカミサン は あわてて、 トナリ の ダイク さん とこ へ はしりこみ、 イドバタ で センタクモノ を つけて いる オカミサン に オオゴエ で いった。
「ちょっと、 ちょっと、 イマ、 ヨウフク きた オンナ が ジテンシャ に のって とおった の、 あれ が オナゴ センセイ かいの?」
「しろい シャツ きて、 オトコ みた よう な クロ の ウワギ きとった かいの」
「うん、 そう じゃ」
「なんと、 ジテンシャ で かいの」
キノウ ニュウガクシキ に チョウジョ の マツエ を つれて ガッコウ へ いった ダイク の オカミサン は、 センタクモノ を わすれて、 あきれた コエ で いった。 ヨロズヤ の オカミサン は、 わが イ を えた と いう カオ で、
「ほんに ヨ も かわった のう。 オナゴ センセイ が ジテンシャ に のる。 オテンバ と いわれせん かいな」
クチ では シンパイ そう に いった が、 その カオ は もう オテンバ と きめて いる メツキ を して いた。 ヨロズヤ の マエ から ガッコウ まで は ジテンシャ では 2~3 プン で あろう が、 すうっと カゼ を きって はしって いって 15 フン も たたぬ うち に、 オンナ センセイ の ウワサ は もう ムラジュウ に ひろまって いた。 ガッコウ でも セイト たち は オオサワギ だった。 ショクインシツ の イリグチ の ワキ に おいた ジテンシャ を とりまいて、 50 ニン-たらず の セイト は、 がやがや、 わやわや、 まるで スズメ の ケンカ だった。 そのくせ オンナ センセイ が はなしかけよう と して ちかづく と、 やっぱり スズメ の よう に ぱあっと ちって しまう。 しかたなく ショクインシツ に もどる と、 たった ヒトリ の ドウリョウ の オトコ センセイ は、 じつに そっけない カオ で だまって いる。 まるで それ は、 はなしかけられる の は こまります と でも いって いる ふう に、 ツクエ の ウエ の タントウバコ の カゲ に うつむきこんで、 ナニ か ショルイ を みて いる の だ。 ジュギョウ の ウチアワセ など は、 キノウ コバヤシ センセイ との ジム ヒキツギ で すんで いる ので、 もう ことさら ヨウジ は ない の だ が、 それにしても あんまり、 そっけなさすぎる と、 オンナ センセイ は フヘイ だった らしい。 しかし、 オトコ センセイ は オトコ センセイ で、 こまって いた の だ。
――こまった な。 ジョガッコウ の シハンカ を でた セイキョウイン の パリパリ は、 イモジョ デエデエ の ハンニンマエ の センセイ とは、 だいぶ ヨウス が ちがう ぞ。 カラダ こそ ちいさい が、 アタマ も よい らしい。 ハナシ が あう かな。 キノウ、 ヨウフク を きて きた ので、 だいぶ ハイカラ さん だ とは おもって いた が、 ジテンシャ に のって くる とは おもわなんだ。 こまった な。 なんで コトシ に かぎって、 こんな ジョウトウ を ミサキ へ よこした ん だろう。 コウチョウ も、 どうか しとる。――
と、 こんな こと を おもって キ を おもく して いた の だ。 この オトコ センセイ は、 ヒャクショウ の ムスコ が、 10 ネン-ガカリ で ケンテイ シケン を うけ、 やっと 4~5 ネン マエ に イチニンマエ の センセイ に なった と いう、 ドリョクガタ の ニンゲン だった。 いつも ゲタバキ で、 イチマイ カンバン の ヨウフク は カタ の ところ が やけて、 ヨウカンイロ に かわって いた。 コドモ も なく としとった オクサン と フタリ で、 チョキン だけ を タノシミ に、 ケンヤク に くらして いる よう な ヒト だ から、 ヒト の いやがる この フベン な ミサキ の ムラ へ きた の も、 ツキアイ が なくて よい と、 ジブン から の キボウ で あった と いう カワリダネ だった。 クツ を はく の は ショクイン カイギ など で ホンコウ へ でむいて ゆく とき だけ、 ジテンシャ など は、 まだ さわった こと も なかった の だ。 しかし、 ムラ では けっこう キ に いられて、 サカナ や ヤサイ に フジユウ は しなかった。 ムラ の ヒト と おなじ よう に、 アカ を つけて、 ムラ の ヒト と おなじ もの を たべて、 ムラ の コトバ を つかって いる この オトコ センセイ に、 シンニン の オンナ センセイ の ヨウフク と ジテンシャ は ひどく キヅマリ な オモイ を させて しまった。
しかし、 オンナ センセイ は それ を しらない。 ゼンニン の コバヤシ センセイ から、 ホンコウ ツウガク の セイト の イタズラ に ついて は きいて いた の だ が、 オトコ センセイ に ついて は ただ、 「ヘンコツ よ、 キ に しないで」 と ささやかれた だけ だった。 だが、 ヘンコツ と いう より も、 まるで イジワル でも されそう な キ が して、 たった フツカ-メ だ と いう のに、 うっかり して いる と、 タメイキ が でそう に なる。 オンナ センセイ の ナ は オオイシ ヒサコ。 ミズウミ の よう な イリエ の ムコウギシ の、 おおきな イッポンマツ の ある ムラ の ウマレ で ある。 ミサキ の ムラ から みる イッポンマツ は ボンサイ の キ の よう に ちいさく みえた が、 その イッポンマツ の ソバ に ある イエ では オカアサン が ヒトリ、 ムスメ の ツトメブリ を あんじて くれて いる。 ――と おもう と、 オオイシ センセイ の ちいさな カラダ は おもわず ムネ を はって、 おおきく イキ を すいこみ、
「オカアサン!」
と、 ココロ の ソコ から よびかけたく なる。 つい コノアイダ の こと、
「ミサキ は とおくて キノドク だ けど、 1 ネン だけ ガマン して ください。 1 ネン たったら ホンコウ へ もどします から な。 ブンキョウジョウ の クロウ は、 サキ しといた ほう が いい です よ」
なくなった チチオヤ と トモダチ の コウチョウ センセイ に そう いわれて、 1 ネン の シンボウ だ と おもって やって きた オオイシ センセイ で ある。 あるいて かよう には あまり に とおい から、 ゲシュク を して は と すすめられた の を、 オヤコ イッショ に くらせる の を ただ ヒトツ の タノシミ に して、 シ の ジョガッコウ の シハンカ の 2 ネン を はなれて くらして いた ハハオヤ の こと を おもい、 カタミチ 8 キロ を ジテンシャ で かよう ケッシン を した オオイシ センセイ で ある。 ジテンシャ は ヒサコ と したしかった ジテンシャヤ の ムスメ の テヅル で、 5 カゲツ ゲップ で テ に いれた の だ。 キモノ が ない ので、 ハハオヤ の セル の キモノ を くろく そめ、 ヘタ でも ジブン で ぬった。 それ とも しらぬ ヒトビト は、 オテンバ で ジテンシャ に のり、 ハイカラ-ぶって ヨウフク を きて いる と おもった かも しれぬ。 なにしろ ショウワ 3 ネン で ある。 フツウ センキョ が おこなわれて も、 それ を ヨソゴト に おもって いる ヘンピ な ムラ の こと で ある。 その ジテンシャ が あたらしく ひかって いた から、 その くろい テヌイ の スーツ に アカ が ついて いなかった から、 その しろい ブラウス が マッシロ で あった から、 ミサキ の ムラ の ヒト には ひどく ゼイタク に みえ、 オテンバ に みえ、 よりつきがたい オンナ に みえた の で あろう。 しかし それ も、 オオイシ センセイ には まだ ナットク の ゆかぬ、 フニン フツカ-メ で ある。 コトバ の つうじない ガイコク へ でも やって きた よう な ココロボソサ で、 イッポンマツ の ワガヤ の アタリ ばかり を みやって いた。
かっ かっ かっ かっ
シギョウ を ほうじる バンギ が なりひびいて、 オオイシ センセイ は おどろいて ワレ に かえった。 ここ では サイコウ の 4 ネンセイ の キュウチョウ に キノウ えらばれた ばかり の オトコ の コ が、 セノビ を して バンギ を たたいて いた。 コウテイ に でる と、 キョウ はじめて オヤ の テ を はなれ、 ヒトリ で ガッコウ へ きた キオイ と イッシュ の フアン を みせて、 1 ネンセイ の カタマリ だけ は、 ドクトク な、 ムゴン の ザワメキ を みせて いる。 3、 4 ネン の クミ が さっさと キョウシツ へ はいって いった アト、 オオイシ センセイ は しばらく リョウテ を たたきながら、 それ に あわせて アシブミ を させ、 ウシロムキ の まま キョウシツ へ みちびいた。 はじめて ジブン に かえった よう な ユトリ が ココロ に わいて きた。 セキ に おさまる と、 シュッセキボ を もった まま キョウダン を おり、
「さ、 ミンナ、 ジブン の ナマエ を よばれたら、 おおきな コエ で ヘンジ する ん です よ。 ――オカダ イソキチ くん!」
セ の ジュン に ならんだ ので いちばん マエ の セキ に いた チビ の オカダ イソキチ は、 マッサキ に ジブン が よばれた の も キオクレ の した モト で あった が、 うまれて はじめて くん と いわれた こと でも びっくり して、 ヘンジ が ノド に つかえて しまった。
「オカダ イソキチ くん、 いない ん です か」
みまわす と、 いちばん ウシロ の セキ の、 ずぬけて おおきな オトコ の コ が、 びっくり する ほど オオゴエ で、 こたえた。
「いる」
「じゃあ、 はい って ヘンジ する のよ。 オカダ イソキチ くん」
ヘンジ した コ の カオ を みながら、 その コ の セキ へ ちかづいて ゆく と、 2 ネンセイ が どっと わらいだした。 ホンモノ の オカダ イソキチ は こまって つったって いる。
「ソンキ よ、 ヘンジ せえ」
キョウダイ らしく、 よく にた カオ を した 2 ネンセイ の オンナ の コ が、 イソキチ に むかって、 コゴエ で けしかけて いる。
「ミンナ ソンキ って いう の?」
センセイ に きかれて、 ミンナ は イチヨウ に うなずいた。
「そう、 そんなら イソキチ の ソンキ さん」
また、 どっと わらう ナカ で、 センセイ も イッショ に わらいだしながら エンピツ を うごかし、 その ヨビナ をも シュッセキボ に ちいさく つけこんだ。
「ツギ は、 タケシタ タケイチ くん」
「はい」 リコウ そう な オトコ の コ で ある。
「そうそう、 はっきり と、 よく オヘンジ できた わ。 ――その ツギ は、 トクダ キチジ くん」
トクダ キチジ が イキ を すいこんで、 ちょっと マ を おいた ところ を、 さっき、 オカダ イソキチ の とき 「いる」 と いった コ が、 すこし イイキ に なった カオツキ で、 すかさず、
「キッチン」
と、 さけんだ。 ミンナ が また わらいだした こと で アイザワ ニタ と いう その コ は ますます イイキ に なり、 ツギ に よんだ モリオカ タダシ の とき も、 「タンコ」 と どなった。 そして、 ジブン の バン に なる と、 いっそう オオゴエ で、
「はーい」
センセイ は エガオ の ナカ で、 すこし たしなめる よう に、
「アイザワ ニタ くん は、 すこし オセッカイ ね。 コエ も おおきすぎる わ。 コンド は、 よばれた ヒト が、 ちゃんと ヘンジ して ね。 ――カワモト マツエ さん」
「はい」
「アンタ の こと、 ミンナ は どう いう の?」
「マッチャン」
「そう、 アンタ の オトウサン、 ダイク さん?」
マツエ は コックリ を した。
「ニシグチ ミサコ さん」
「はい」
「ミサ ちゃん て いう ん でしょ」
カノジョ も また、 カブリ を ふり、 ちいさな コエ で、
「ミイ さん、 いう ん」
「あら、 ミイ さん いう の。 かわいらしい のね。 ――ツギ は、 カガワ マスノ さん」
「へい」
おもわず ふきだしそう に なる の を こらえこらえ、 センセイ は おさえた よう な コエ で、
「へい は、 すこし おかしい わ。 はい って いいましょう ね、 マスノ さん」
すると、 オセッカイ の ニタ が また クチ を いれた。
「マア ちゃん じゃ」
センセイ は もう それ を ムシ して、 つぎつぎ と ナマエ を よんだ。
「キノシタ フジコ さん」
「はい」
「ヤマイシ サナエ さん」
「はい」
ヘンジ の たび に その コ の カオ に ビショウ を おくりながら、
「カベ コツル さん」
キュウ に ミンナ が わいわい さわぎだした。 ナニゴト か と おどろいた センセイ も、 クチグチ に いって いる こと が わかる と、 カガワ マスノ の へい より も、 もっと おかしく、 わかい センセイ は とうとう わらいだして しまった。 ミンナ は いって いる の だった。 カベ こっつる、 カベ こっつる、 カベ に アタマ を カベ こっつる。
カチキ らしい カベ コツル は なき も せず、 しかし あかい カオ を して うつむいて いた。 その サワギ も やっと おさまって、 オシマイ の カタギリ コトエ の シュッセキ を とった とき には もう、 45 フン の ジュギョウ ジカン は たって しまって いた。 カベ コツル が チリリンヤ (コシ に リン を つけて、 ヨウタシ を する ベンリヤ) の ムスメ で あり、 キノシタ フジコ が キュウカ の コドモ で あり、 へい と ヘンジ を した カガワ マスノ が マチ の リョウリヤ の ムスメ で あり、 ソンキ の オカダ イソキチ の イエ が トウフヤ で、 タンコ の モリオカ タダシ が アミモト の ムスコ と、 センセイ の ココロ の メモ には その ヒ の うち に かきこまれた。 ソレゾレ の カギョウ は トウフヤ と よばれ、 コメヤ と よばれ、 アミヤ と よばれて は いて も、 その どの イエ も メイメイ の ショウバイ だけ では クラシ が たたず、 ヒャクショウ も して いれば、 カタテマ には リョウシ も やって いる。 そういう ジョウタイ は オオイシ センセイ の ムラ と おなじ で ある。 ダレ も カレ も スンカ を おしんで はたらかねば クラシ の たたぬ ムラ、 だが、 ダレ も カレ も はたらく こと を いとわぬ ヒトタチ で ある こと は、 その カオ を みれば わかる。
この、 キョウ はじめて ヒトツ の カズ から おしえこまれよう と して いる ちいさな コドモ が、 ガッコウ から かえれば すぐに コモリ に なり、 ムギツキ を てつだわされ、 アミヒキ に ゆく と いう の だ。 はたらく こと しか モクテキ が ない よう な この カンソン の コドモ たち と、 どのよう に して つながって ゆく か を おもう とき、 イッポンマツ を ながめて なみだぐんだ カンショウ は、 ハズカシサ で しか かんがえられない。 キョウ はじめて キョウダン に たった オオイシ センセイ の ココロ に、 キョウ はじめて シュウダン セイカツ に つながった 12 ニン の 1 ネンセイ の ヒトミ は、 ソレゾレ の コセイ に かがやいて ことさら インショウ-ぶかく うつった の で ある。
この ヒトミ を、 どうして にごして よい もの か!
その ヒ、 ペダル を ふんで 8 キロ の ミチ を イッポンマツ の ムラ へ と かえって ゆく オオイシ センセイ の はつらつ と した スガタ は、 アサ より も いっそう オテンバ-らしく、 ムラビト の メ に うつった。
「さよなら」
「さよなら」
「さよなら」
であう ヒト ミンナ に アイサツ を しながら はしった が、 ヘンジ を かえす ヒト は すくなかった。 ときたま あって も、 だまって うなずく だけ で ある。 その はず で、 ムラ では もう オオイシ センセイ ヒハン の コエ が あがって いた の だ。
――ミンナ の アダナ まで チョウメン に つけこんだ そう な。
――ニシグチヤ の ミイ さん の こと を、 かわいらしい と いうた そう な。
――もう、 はやのこめ から、 ヒイキ しよる。 ニシグチヤ じゃ、 なんぞ もって いって オジョウズ した ん かも しれん。
なんにも しらぬ オオイシ センセイ は、 コガラ な カラダ を かろやか に のせて、 ムラハズレ の サカミチ に さしかかる と、 すこし マエコゴミ に なって アシ に チカラ を くわえ、 この はりきった オモイ を イッコク も はやく ハハ に かたろう と、 ペダル を ふみつづけた。 あるけば たいして かんじない ほど の ゆるやか な サカミチ は、 ユキ には こころよく すべりこんだ の だ が、 その ココロヨサ が カエリ には おもい ニモツ と なる。 そんな こと さえ、 カエリ で よかった と ありがたがる ほど すなお な キモチ で あった。
やがて ヘイタン な ミチ に さしかかる と、 アサガタ であった セイト の イチダン も かえって きた。
――オオイシ、 コイシ
――オオイシ、 コイシ
イクニン も の コエ の タバ が、 ジテンシャ の ソクド に つれ おおきく きこえて くる。 なんの こと か、 ハジメ は わからなかった センセイ も、 それ が ジブン の こと と わかる と おもわず コエ を だして わらった。 それ が アダナ に なった と、 さとった から だ。 わざと、 りりりりり と ベル を ならし、 すれちがいながら、 たかい コエ で いった。
「さよならぁ」
わあっと カンセイ が あがり、 また、 オオイシ コイシ! と よびかける コエ が とおのいて ゆく。
オナゴ センセイ の ホカ に、 コイシ センセイ と いう ナ が その ヒ うまれた の で ある。 カラダ が コツブ な から でも ある だろう。 あたらしい ジテンシャ に ユウヒ が まぶしく うつり、 きらきら させながら コイシ センセイ の スガタ は ミサキ の ミチ を はしって いった。
ツボイ サカエ
1、 コイシ センセイ
10 ネン を ヒトムカシ と いう ならば、 この モノガタリ の ホッタン は イマ から フタムカシ ハン も マエ の こと に なる。 ヨノナカ の デキゴト は と いえば、 センキョ の キソク が あらたまって、 フツウ センキョ ホウ と いう の が うまれ、 2 ガツ に その ダイ 1 カイ の センキョ が おこなわれた、 2 カゲツ-ゴ の こと に なる。 ショウワ 3 ネン 4 ガツ ヨッカ、 ノウサンギョソン の ナ が ゼンブ あてはまる よう な、 セト ナイカイ-ベリ の イチ カンソン へ、 わかい オンナ の センセイ が フニン して きた。
100 コ あまり の ちいさな その ムラ は、 イリエ の ウミ を ミズウミ の よう な カタチ に みせる ヤク を して いる ほそながい ミサキ の、 その トッパナ に あった ので、 タイガン の マチ や ムラ へ ゆく には コブネ で わたったり、 うねうね と まがりながら つづく ミサキ の ヤマミチ を てくてく あるいたり せねば ならない。 コウツウ が すごく フベン なので、 ショウガッコウ の セイト は 4 ネン まで が ムラ の ブンキョウジョウ に ゆき、 5 ネン に なって はじめて、 カタミチ 5 キロ の ホンソン の ショウガッコウ へ かよう の で ある。 テヅクリ の ワラゾウリ は 1 ニチ で きれた。 それ が ミンナ は ジマン で あった。 マイアサ、 あたらしい ゾウリ を おろす の は、 うれしかった に ちがいない。 ジブン の ゾウリ を ジブン の テ で つくる の も、 5 ネンセイ に なって から の シゴト で ある。 ニチヨウビ に、 ダレ か の イエ へ あつまって ゾウリ を つくる の は たのしかった。 ちいさな コドモ ら は、 うらやましそう に それ を ながめて、 しらずしらず の うち に ゾウリヅクリ を おぼえて ゆく。 ちいさい コドモ たち に とって、 5 ネンセイ に なる と いう こと は、 ヒトリダチ を イミ する ほど の こと で あった。 しかし、 ブンキョウジョウ も たのしかった。
ブンキョウジョウ の センセイ は フタリ で、 うんと トシヨリ の オトコ センセイ と、 コドモ の よう に わかい オンナ センセイ が くる の に きまって いた。 それ は まるで、 そういう キソク が ある か の よう に、 オオムカシ から そう だった。 ショクインシツ の トナリ の シュクチョクシツ に オトコ センセイ は すみつき、 オンナ センセイ は とおい ミチ を かよって くる の も、 オトコ センセイ が 3、 4 ネン を うけもち、 オンナ センセイ が 1、 2 ネン と ゼンブ の ショウカ と 4 ネン ジョセイ の サイホウ を おしえる、 それ も ムカシ から の キマリ で あった。 セイト たち は センセイ を よぶ の に ナ を いわず、 オトコ センセイ、 オナゴ センセイ と いった。 トシヨリ の オトコ センセイ が オンキュウ を タノシミ に コシ を すえて いる の と ハンタイ に、 オンナ センセイ の ほう は、 1 ネン か せいぜい 2 ネン する と テンニン した。 なんでも、 コウチョウ に なれない オトコ センセイ の キョウシ と して の サイゴ の ツトメ と、 シンマイ の オンナ センセイ が クロウ の シハジメ を、 この ミサキ の ムラ の ブンキョウジョウ で つとめる の だ と いう ウワサ も ある が、 ウソ か ホント か は わからない。 だが、 だいたい ホントウ の よう でも ある。
そうして、 ショウワ 3 ネン の 4 ガツ ヨッカ に もどろう。 その アサ、 ミサキ の ムラ の 5 ネンセイ イジョウ の セイト たち は、 ホンコウ まで 5 キロ の ミチ を いそいそ と あるいて いた。 ミンナ、 それぞれ ヒトツ ずつ シンキュウ した こと が ココロ を はずませ、 アシモト も かるかった の だ。 カバン の ナカ は あたらしい キョウカショ に かわって いる し、 キョウ から あたらしい キョウシツ で、 あたらしい センセイ に おしえて もらう タノシミ は、 いつも とおる ミチ まで が あたらしく かんじられた。 それ と いう の も、 キョウ は、 あたらしく ブンキョウジョウ へ フニン して くる オンナ センセイ に、 この ミチ で であう と いう こと も あった。
「コンド の オナゴ センセイ、 どんな ヤツ じゃろ な」
わざと ぞんざい に、 ヤツ ヨバワリ を する の は、 コウトウカ―― イマ の シンセイ チュウガクセイ に あたる オトコ の コドモ たち だ。
「コンド の も また、 ジョガッコウ デエデエ の タマゴ じゃ いよった ぞ」
「そんなら、 また ハンニンマエ センセイ か」
「どうせ、 ミサキ は いつでも ハンニンマエ じゃ ない か」
「ビンボウムラ なら、 ハンニンマエ でも しょうがない」
セイキ の シハンデ では なく、 ジョガッコウ-デ の ジュンキョウイン (イマ では ジョキョウ と いう の だろう か) の こと を、 クチ の わるい オトナ たち が、 ハンニンマエ など と いう の を まねて、 ジブン たち も、 もう オトナ に なった よう な つもり で いって いる の だ が、 たいして ワルギ は なかった。 しかし、 キョウ はじめて この ミチ を あるく こと に なった 5 ネンセイ たち は、 メ を ぱちくり させながら、 キョウ ナカマイリ を した ばかり の エンリョサ で、 きいて いる。 だが、 ゼンポウ から ちかづいて くる ヒト の スガタ を みとめる と、 マッサキ に カンセイ を あげた の は 5 ネンセイ だった。
「わあ、 オナゴ センセイェ」
それ は、 つい コナイダ まで おしえて もらって いた コバヤシ センセイ で ある。 イツモ は さっさと すれちがいながら オジギ を かえす だけ の コバヤシ センセイ も、 キョウ は たちどまって、 なつかしそう に ミンナ の カオ を かわるがわる みまわした。
「キョウ で、 ホント に オワカレ ね。 もう この ミチ で、 ミンナ に であう こと は ない わね。 よく ベンキョウ して ね」
その しんみり した クチョウ に なみだぐんだ オンナ の コ も いた。 この コバヤシ センセイ だけ は、 これまで の オンナ センセイ の レイ を やぶって、 マエ の センセイ が ビョウキ で やめた アト、 3 ネン ハン も ミサキ の ムラ を うごかなかった センセイ で あった。 だから、 ここ で であった セイト たち は、 イチド は コバヤシ センセイ に おそわった こと の ある モノ ばかり だ。 センセイ が かわる と いう よう な こと は、 ホンライ ならば シンガッキ の その ヒ に なって はじめて わかる の だ が、 コバヤシ センセイ は、 カタヤブリ に トオカ も マエ に セイト に はなした の で ある。 3 ガツ 25 ニチ の シュウギョウシキ に ホンコウ へ いった カエリ、 ちょうど、 イマ、 たって いる この ヘン で、 ワカレ の コトバ を いい、 ミンナ に、 キャラメル の コバコ を ヒトハコ ずつ くれた。 だから ミンナ は、 キョウ この ミチ を あたらしい オンナ センセイ が あるいて くる と ばかり おもって いた のに、 それ を むかえる マエ に コバヤシ センセイ に あって しまった の で ある。 コバヤシ センセイ も、 キョウ は ブンキョウジョウ に いる コドモ たち に、 ワカレ の アイサツ に ゆく ところ なの で あろう。
「センセイ、 コンド くる センセイ は?」
「さあ、 もう そろそろ みえる でしょう」
「コンド の センセイ、 どんな センセイ?」
「しらん のよ、 まだ」
「また ジョガッコウ デエデエ?」
「さあ、 ホント に しらん の。 でも ミンナ、 ショウワル したら、 ダメ よ」
そう いって コバヤシ センセイ は わらった。 センセイ も ハジメ の 1 ネン は トチュウ の ミチ で ひどく こまらされて、 セイト の マエ も かまわず ないた こと も あった。 なかした セイト は もう ここ には いない けれど、 ここ に いる コ の アニ や アネ で ある。 わかい の と、 なれない の と で、 ミサキ へ くる タイテイ の オンナ センセイ が、 イチド は なかされる の を、 ホンコウ-ガヨイ の コドモ ら は デンセツ と して しって いた。 4 ネン も いた コバヤシ センセイ の アト なので、 コドモ たち の コウキシン は わくわく して いた。 コバヤシ センセイ と わかれて から も、 ミンナ は また、 コンド くる センセイ の スガタ を ゼンポウ に キタイ しながら、 サクセン を こらした。
「イモジョォ って、 どなる か」
「イモジョ で なかったら、 どう する」
「イモジョ に、 きまっとる と おもう がな」
クチグチ に イモジョ イモジョ と いって いる の は、 この チホウ が サツマイモ の ホンバ で あり、 その イモバタケ の マンナカ に ある ジョガッコウ なので、 こんな イタズラ な ヨビカタ も うまれた わけ だ。 コバヤシ センセイ も その イモジョ シュッシン だった。 コドモ たち は、 コンド くる オンナ センセイ をも イモジョ-デ と きめて、 もう くる か、 もう みえる か と、 ミチ が まがる たび に ゼンポウ を みわたした が、 カレラ の キタイ する イモジョ デエデエ の わかい センセイ の スガタ には ついに であわず、 ホンソン の ひろい ケンドウ に でて しまった。 と ドウジ に、 もう オナゴ センセイ の こと など かなぐりすてて、 コバシリ に なった。 いつも みる クセ に なって いる ケンドウゾイ の ヤドヤ の ゲンカン の オオドケイ が、 イツモ より 10 プン ほど すすんで いた から だ。 トケイ が すすんだ の では なく、 コバヤシ センセイ と タチバナシ を した だけ おそく なった の だ。 セナカ や ワキノシタ で フデバコ を ならしながら、 ホコリ を たてて ミンナ は はしりつづけた。
そうして、 その ヒ の カエリミチ、 ふたたび オンナ センセイ の こと を おもいだした の は ケンドウ から、 ミサキ の ほう へ わかれた ヤマミチ に さしかかって から で ある。 しかも また、 ムコウ から コバヤシ センセイ が あるいて くる の だ。 ながい タモト の キモノ を きた コバヤシ センセイ は、 その タモト を ひらひら させながら、 ミョウ に リョウテ を うごかして いる。
「センセエ」
「オナゴ センセエ」
オンナ の コ は ミンナ はしりだした。 センセイ の エガオ が だんだん はっきり と ちかづいて くる と、 センセイ の リョウテ が みえない ツナ を ひっぱって いる こと が わかって、 ミンナ わらった。 センセイ は まるで、 ホント に ツナ でも ひきよせて いる よう に、 リョウテ を かわるがわる うごかし、 とうとう たちどまって ミンナ を ひきよせて しまった。
「センセイ、 コンド の オナゴ センセイ、 きた?」
「きた わ。 どうして?」
「まだ ガッコウ に いる ん?」
「ああ、 その こと。 フネ で きた のよ、 キョウ は」
「ふうん。 そいで また、 フネ で いんだ ん?」
「そう、 ワタシ にも イッショ に フネ で かえろう と すすめて くれた けど、 センセイ、 も イッペン アンタラ の カオ みたかった から、 やめた」
「わぁ」
オンナ の コ たち が よろこんで カンセイ を あげる の を、 オトコ の コ は にやにや して みて いる。 やがて ヒトリ が たずねた。
「コンド の センセイ、 どんな センセイ ぞな?」
「いーい センセイ らしい。 かわいらしい」
コバヤシ センセイ は ふっと おもいだした よう な エガオ を した。
「イモジョ?」
「ちがう、 ちがう。 えらい センセイ よ、 コンド の センセイ」
「でも、 シンマイ じゃろ」
コバヤシ センセイ は キュウ に おこった よう な カオ を して、
「アンタラ、 ジブン で おしえて もらう センセイ でも ない のに、 どうして そんな こと いう の。 ハジメ っから シンマイ で ない センセイ て、 ない のよ。 また ワタシ の とき みたい に、 なかす つもり でしょう」
その ケンマク に、 ココロ の ナカ を みすかされた と おもって メ を そらす モノ も あった。 コバヤシ センセイ が ブンキョウジョウ に かよいだした コロ の セイト は、 わざと イチレツ オウタイ に なって オジギ を したり、 イモジョッ と さけんだり、 アナ が あく ほど みつめたり、 ニヤニヤワライ を したり と、 いろんな ホウホウ で シンマイ の センセイ を いやがらせた もの だった。 しかし、 3 ネン ハン の うち には もう どんな こと を して も センセイ の ほう で こまらなく なり、 かえって センセイ が テダシ を して ふざけたり した。 5 キロ の ミチノリ では、 ナニ か なくて は やりきれなかった の だろう。 コロ を みて、 また ヒトリ の セイト が たずねた。
「コンド の センセイ、 ナニ いう ナマエ?」
「オオイシ センセイ。 でも カラダ は、 ちっちゃあい ヒト。 コバヤシ でも ワタシ は ノッポ だ けど、 ホント に、 ちっちゃあい ヒト よ。 ワタシ の カタ ぐらい」
「わあ!」
まるで よろこぶ よう な その ワライゴエ を きく と、 コバヤシ センセイ は また きっと なって、
「だけど、 ワタシラ より、 ずっと ずっと えらい センセイ よ。 ワタシ の よう に ハンニンマエ では ない のよ」
「ふうん。 そいで センセイ、 フネ で かよう ん かな?」
ここ が ダイモンダイ だ と いう よう に きく の へ、 センセイ の ほう も、 ここ だな と いう カオ を して、
「フネ は キョウ だけ よ。 アシタ から ミンナ あえる わ。 でも、 コンド の センセイ は なかん よ。 ワタシ、 ちゃんと いっといた もの。 ホンコウ の セイト と イキシモドリ に であう けど、 もしも イタズラ したら、 サル が あそんでる と おもっときなさい。 もしも なんか いって なぶったら、 カラス が ないた と おもっときなさい って」
「わあ」
「わあ」
ミンナ イッセイ に わらった。 イッショ に わらって、 それで わかれて かえって ゆく、 コバヤシ センセイ の ウシロスガタ が、 ツギ の マガリカド に きえさる まで、 セイト たち は クチグチ に さけんだ。
「センセエ」
「さよならあ」
「ヨメサーン」
「さよならあ」
コバヤシ センセイ は オヨメ に ゆく ため に やめた の を、 ミンナ は もう しって いた の だ。 センセイ が サイゴ に ふりかえって テ を ふって、 それで みえなく なる と、 さすが に ミンナ の ムネ には、 ヘン な、 モノガナシサ が のこり、 イチニチ の ツカレ も でて きて、 もっそり と あるいた。 かえる と、 ムラ は オオサワギ だった。
「コンド の オナゴ センセイ は、 ヨウフク きとる ど」
「コンド の オナゴ センセイ は、 イモジョ と ちがう ど」
「コンド の オナゴ センセイ は、 こんまい ヒト じゃ ど」
そして ツギ の ヒ で ある。 イモジョ-デ で ない、 ちいさな センセイ に たいして、 どきどき する よう な サクセン が こらされた。
こそこそ、 こそこそ
こそこそ、 こそこそ
みちみち ささやきながら あるいて ゆく カレラ は、 いきなり ドギモ を ぬかれた の で ある。 バショ も わるかった。 ミトオシ の きかぬ マガリカド の チカク で、 この ミチ に めずらしい ジテンシャ が みえた の だ。 ジテンシャ は すうっと トリ の よう に ちかづいて きた と おもう と、 ヨウフク を きた オンナ が、 ミンナ の ほう へ にこっと わらいかけて、
「おはよう!」
と、 カゼ の よう に ゆきすぎた。 どうしたって それ は オンナ センセイ に ちがいなかった。 あるいて くる と ばっかり おもって いた オンナ センセイ は ジテンシャ を とばして きた の だ。 ジテンシャ に のった オンナ センセイ は はじめて で ある。 ヨウフク を きた オンナ センセイ も はじめて みる。 はじめて の ヒ に、 おはよう! と アイサツ を した センセイ も はじめて だ。 ミンナ、 しばらく は ぽかん と して その ウシロスガタ を みおくって いた。 ぜんぜん これ は セイト の マケ で ある。 どうも これ は、 イツモ の シンニン センセイ とは だいぶ ヨウス が ちがう。 ショウショウ の イタズラ では、 なきそう も ない と おもった。
「ごつい な」
「オナゴ の くせ に、 ジテンシャ に のったり して」
「ナマイキ じゃ な、 ちっと」
オトコ の コ たち が こんな ふう に ヒヒョウ して いる イッポウ では、 オンナ の コ は また オンナ の コ-らしく、 すこし ちがった ミカタ で、 ハナシ が はずみだして いる。
「ほら、 モダン ガール いう の、 あれ かも しれん な」
「でも、 モダン ガール いう の は、 オトコ の よう に カミ を ここ の とこ で、 サンパツ しとる こと じゃろ」
そう いって ミミ の ウシロ で 2 ホン の ユビ を ハサミ に して みせて から、
「あの センセイ は、 ちゃんと カミ ゆうとった もん」
「それでも、 ヨウフク きとる もん」
「ひょっと したら、 ジテンシャヤ の コ かも しれん な。 あんな きれい な ジテンシャ に のる の は。 ぴかぴか ひかっとった もん」
「ウチラ も ジテンシャ に のれたら ええ な。 この ミチ を すうっと はしりる、 キショク が ええ じゃろ」
なんと して も ジテンシャ では タチウチ できない。 ショイナゲ を くわされた よう に、 ミンナ がっかり して いる こと だけ は マチガイ なかった。 なんとか ハナ を あかして やる ホウホウ を かんがえだしたい と、 めいめい おもって いる の だ が、 なにひとつ おもいつかない うち に ミサキ の ミチ を ではずれて いた。 ヤドヤ の ゲンカン の ハシラドケイ は キョウ も また、 ミンナ の アシドリ を ショウジキ に しめして 8 プン ほど すぎて いる。 それ、 と ばかり セナカ と ワキノシタ の フデイレ は イッセイ に なりだし、 ゾウリ は ホコリ を まいあがらせた。
ところが、 ちょうど その おなじ コロ、 ミサキ の ムラ でも オオサワギ だった。 キノウ は フネ に のって きた とか で、 キ が つかぬ うち に また フネ で かえった の を きいた ムラ の オカミサン たち は、 キョウ こそ、 どんな カオ を して ミチ を とおる か と、 その ヨウフク を きて いる と いう オンナ センセイ を みたがって いた。 ことに ムラ の イリグチ の セキショ と アダナ の ある ヨロズヤ の オカミサン と きたら、 ミサキ の ムラ へ くる ほど の ヒト は、 ダレ より も サキ に ジブン が みる ケンリ が ある、 と でも いう よう に、 アサ の オキヌケ から トオリ の ほう へ キ を くばって いた。 だいぶ ながらく アメ が なかった ので、 かわいた オモテドオリ に ミズ を まいて おく の も、 あたらしい センセイ を むかえる には よかろう と、 ゾウキン バケツ を もって でて きた とき、 ムコウ から、 さあっと ジテンシャ が はしって きた の だ。 おやっ と おもう マ も なく、
「おはよう ございます」
アイソ よく アタマ を さげて とおりすぎた オンナ が ある。
「おはよう ございます」
ヘンジ を した トタン に、 はっと キ が ついた が、 ちょうど クダリザカ に なった ミチ を ジテンシャ は もう はしりさって いた。 ヨロズヤ の オカミサン は あわてて、 トナリ の ダイク さん とこ へ はしりこみ、 イドバタ で センタクモノ を つけて いる オカミサン に オオゴエ で いった。
「ちょっと、 ちょっと、 イマ、 ヨウフク きた オンナ が ジテンシャ に のって とおった の、 あれ が オナゴ センセイ かいの?」
「しろい シャツ きて、 オトコ みた よう な クロ の ウワギ きとった かいの」
「うん、 そう じゃ」
「なんと、 ジテンシャ で かいの」
キノウ ニュウガクシキ に チョウジョ の マツエ を つれて ガッコウ へ いった ダイク の オカミサン は、 センタクモノ を わすれて、 あきれた コエ で いった。 ヨロズヤ の オカミサン は、 わが イ を えた と いう カオ で、
「ほんに ヨ も かわった のう。 オナゴ センセイ が ジテンシャ に のる。 オテンバ と いわれせん かいな」
クチ では シンパイ そう に いった が、 その カオ は もう オテンバ と きめて いる メツキ を して いた。 ヨロズヤ の マエ から ガッコウ まで は ジテンシャ では 2~3 プン で あろう が、 すうっと カゼ を きって はしって いって 15 フン も たたぬ うち に、 オンナ センセイ の ウワサ は もう ムラジュウ に ひろまって いた。 ガッコウ でも セイト たち は オオサワギ だった。 ショクインシツ の イリグチ の ワキ に おいた ジテンシャ を とりまいて、 50 ニン-たらず の セイト は、 がやがや、 わやわや、 まるで スズメ の ケンカ だった。 そのくせ オンナ センセイ が はなしかけよう と して ちかづく と、 やっぱり スズメ の よう に ぱあっと ちって しまう。 しかたなく ショクインシツ に もどる と、 たった ヒトリ の ドウリョウ の オトコ センセイ は、 じつに そっけない カオ で だまって いる。 まるで それ は、 はなしかけられる の は こまります と でも いって いる ふう に、 ツクエ の ウエ の タントウバコ の カゲ に うつむきこんで、 ナニ か ショルイ を みて いる の だ。 ジュギョウ の ウチアワセ など は、 キノウ コバヤシ センセイ との ジム ヒキツギ で すんで いる ので、 もう ことさら ヨウジ は ない の だ が、 それにしても あんまり、 そっけなさすぎる と、 オンナ センセイ は フヘイ だった らしい。 しかし、 オトコ センセイ は オトコ センセイ で、 こまって いた の だ。
――こまった な。 ジョガッコウ の シハンカ を でた セイキョウイン の パリパリ は、 イモジョ デエデエ の ハンニンマエ の センセイ とは、 だいぶ ヨウス が ちがう ぞ。 カラダ こそ ちいさい が、 アタマ も よい らしい。 ハナシ が あう かな。 キノウ、 ヨウフク を きて きた ので、 だいぶ ハイカラ さん だ とは おもって いた が、 ジテンシャ に のって くる とは おもわなんだ。 こまった な。 なんで コトシ に かぎって、 こんな ジョウトウ を ミサキ へ よこした ん だろう。 コウチョウ も、 どうか しとる。――
と、 こんな こと を おもって キ を おもく して いた の だ。 この オトコ センセイ は、 ヒャクショウ の ムスコ が、 10 ネン-ガカリ で ケンテイ シケン を うけ、 やっと 4~5 ネン マエ に イチニンマエ の センセイ に なった と いう、 ドリョクガタ の ニンゲン だった。 いつも ゲタバキ で、 イチマイ カンバン の ヨウフク は カタ の ところ が やけて、 ヨウカンイロ に かわって いた。 コドモ も なく としとった オクサン と フタリ で、 チョキン だけ を タノシミ に、 ケンヤク に くらして いる よう な ヒト だ から、 ヒト の いやがる この フベン な ミサキ の ムラ へ きた の も、 ツキアイ が なくて よい と、 ジブン から の キボウ で あった と いう カワリダネ だった。 クツ を はく の は ショクイン カイギ など で ホンコウ へ でむいて ゆく とき だけ、 ジテンシャ など は、 まだ さわった こと も なかった の だ。 しかし、 ムラ では けっこう キ に いられて、 サカナ や ヤサイ に フジユウ は しなかった。 ムラ の ヒト と おなじ よう に、 アカ を つけて、 ムラ の ヒト と おなじ もの を たべて、 ムラ の コトバ を つかって いる この オトコ センセイ に、 シンニン の オンナ センセイ の ヨウフク と ジテンシャ は ひどく キヅマリ な オモイ を させて しまった。
しかし、 オンナ センセイ は それ を しらない。 ゼンニン の コバヤシ センセイ から、 ホンコウ ツウガク の セイト の イタズラ に ついて は きいて いた の だ が、 オトコ センセイ に ついて は ただ、 「ヘンコツ よ、 キ に しないで」 と ささやかれた だけ だった。 だが、 ヘンコツ と いう より も、 まるで イジワル でも されそう な キ が して、 たった フツカ-メ だ と いう のに、 うっかり して いる と、 タメイキ が でそう に なる。 オンナ センセイ の ナ は オオイシ ヒサコ。 ミズウミ の よう な イリエ の ムコウギシ の、 おおきな イッポンマツ の ある ムラ の ウマレ で ある。 ミサキ の ムラ から みる イッポンマツ は ボンサイ の キ の よう に ちいさく みえた が、 その イッポンマツ の ソバ に ある イエ では オカアサン が ヒトリ、 ムスメ の ツトメブリ を あんじて くれて いる。 ――と おもう と、 オオイシ センセイ の ちいさな カラダ は おもわず ムネ を はって、 おおきく イキ を すいこみ、
「オカアサン!」
と、 ココロ の ソコ から よびかけたく なる。 つい コノアイダ の こと、
「ミサキ は とおくて キノドク だ けど、 1 ネン だけ ガマン して ください。 1 ネン たったら ホンコウ へ もどします から な。 ブンキョウジョウ の クロウ は、 サキ しといた ほう が いい です よ」
なくなった チチオヤ と トモダチ の コウチョウ センセイ に そう いわれて、 1 ネン の シンボウ だ と おもって やって きた オオイシ センセイ で ある。 あるいて かよう には あまり に とおい から、 ゲシュク を して は と すすめられた の を、 オヤコ イッショ に くらせる の を ただ ヒトツ の タノシミ に して、 シ の ジョガッコウ の シハンカ の 2 ネン を はなれて くらして いた ハハオヤ の こと を おもい、 カタミチ 8 キロ を ジテンシャ で かよう ケッシン を した オオイシ センセイ で ある。 ジテンシャ は ヒサコ と したしかった ジテンシャヤ の ムスメ の テヅル で、 5 カゲツ ゲップ で テ に いれた の だ。 キモノ が ない ので、 ハハオヤ の セル の キモノ を くろく そめ、 ヘタ でも ジブン で ぬった。 それ とも しらぬ ヒトビト は、 オテンバ で ジテンシャ に のり、 ハイカラ-ぶって ヨウフク を きて いる と おもった かも しれぬ。 なにしろ ショウワ 3 ネン で ある。 フツウ センキョ が おこなわれて も、 それ を ヨソゴト に おもって いる ヘンピ な ムラ の こと で ある。 その ジテンシャ が あたらしく ひかって いた から、 その くろい テヌイ の スーツ に アカ が ついて いなかった から、 その しろい ブラウス が マッシロ で あった から、 ミサキ の ムラ の ヒト には ひどく ゼイタク に みえ、 オテンバ に みえ、 よりつきがたい オンナ に みえた の で あろう。 しかし それ も、 オオイシ センセイ には まだ ナットク の ゆかぬ、 フニン フツカ-メ で ある。 コトバ の つうじない ガイコク へ でも やって きた よう な ココロボソサ で、 イッポンマツ の ワガヤ の アタリ ばかり を みやって いた。
かっ かっ かっ かっ
シギョウ を ほうじる バンギ が なりひびいて、 オオイシ センセイ は おどろいて ワレ に かえった。 ここ では サイコウ の 4 ネンセイ の キュウチョウ に キノウ えらばれた ばかり の オトコ の コ が、 セノビ を して バンギ を たたいて いた。 コウテイ に でる と、 キョウ はじめて オヤ の テ を はなれ、 ヒトリ で ガッコウ へ きた キオイ と イッシュ の フアン を みせて、 1 ネンセイ の カタマリ だけ は、 ドクトク な、 ムゴン の ザワメキ を みせて いる。 3、 4 ネン の クミ が さっさと キョウシツ へ はいって いった アト、 オオイシ センセイ は しばらく リョウテ を たたきながら、 それ に あわせて アシブミ を させ、 ウシロムキ の まま キョウシツ へ みちびいた。 はじめて ジブン に かえった よう な ユトリ が ココロ に わいて きた。 セキ に おさまる と、 シュッセキボ を もった まま キョウダン を おり、
「さ、 ミンナ、 ジブン の ナマエ を よばれたら、 おおきな コエ で ヘンジ する ん です よ。 ――オカダ イソキチ くん!」
セ の ジュン に ならんだ ので いちばん マエ の セキ に いた チビ の オカダ イソキチ は、 マッサキ に ジブン が よばれた の も キオクレ の した モト で あった が、 うまれて はじめて くん と いわれた こと でも びっくり して、 ヘンジ が ノド に つかえて しまった。
「オカダ イソキチ くん、 いない ん です か」
みまわす と、 いちばん ウシロ の セキ の、 ずぬけて おおきな オトコ の コ が、 びっくり する ほど オオゴエ で、 こたえた。
「いる」
「じゃあ、 はい って ヘンジ する のよ。 オカダ イソキチ くん」
ヘンジ した コ の カオ を みながら、 その コ の セキ へ ちかづいて ゆく と、 2 ネンセイ が どっと わらいだした。 ホンモノ の オカダ イソキチ は こまって つったって いる。
「ソンキ よ、 ヘンジ せえ」
キョウダイ らしく、 よく にた カオ を した 2 ネンセイ の オンナ の コ が、 イソキチ に むかって、 コゴエ で けしかけて いる。
「ミンナ ソンキ って いう の?」
センセイ に きかれて、 ミンナ は イチヨウ に うなずいた。
「そう、 そんなら イソキチ の ソンキ さん」
また、 どっと わらう ナカ で、 センセイ も イッショ に わらいだしながら エンピツ を うごかし、 その ヨビナ をも シュッセキボ に ちいさく つけこんだ。
「ツギ は、 タケシタ タケイチ くん」
「はい」 リコウ そう な オトコ の コ で ある。
「そうそう、 はっきり と、 よく オヘンジ できた わ。 ――その ツギ は、 トクダ キチジ くん」
トクダ キチジ が イキ を すいこんで、 ちょっと マ を おいた ところ を、 さっき、 オカダ イソキチ の とき 「いる」 と いった コ が、 すこし イイキ に なった カオツキ で、 すかさず、
「キッチン」
と、 さけんだ。 ミンナ が また わらいだした こと で アイザワ ニタ と いう その コ は ますます イイキ に なり、 ツギ に よんだ モリオカ タダシ の とき も、 「タンコ」 と どなった。 そして、 ジブン の バン に なる と、 いっそう オオゴエ で、
「はーい」
センセイ は エガオ の ナカ で、 すこし たしなめる よう に、
「アイザワ ニタ くん は、 すこし オセッカイ ね。 コエ も おおきすぎる わ。 コンド は、 よばれた ヒト が、 ちゃんと ヘンジ して ね。 ――カワモト マツエ さん」
「はい」
「アンタ の こと、 ミンナ は どう いう の?」
「マッチャン」
「そう、 アンタ の オトウサン、 ダイク さん?」
マツエ は コックリ を した。
「ニシグチ ミサコ さん」
「はい」
「ミサ ちゃん て いう ん でしょ」
カノジョ も また、 カブリ を ふり、 ちいさな コエ で、
「ミイ さん、 いう ん」
「あら、 ミイ さん いう の。 かわいらしい のね。 ――ツギ は、 カガワ マスノ さん」
「へい」
おもわず ふきだしそう に なる の を こらえこらえ、 センセイ は おさえた よう な コエ で、
「へい は、 すこし おかしい わ。 はい って いいましょう ね、 マスノ さん」
すると、 オセッカイ の ニタ が また クチ を いれた。
「マア ちゃん じゃ」
センセイ は もう それ を ムシ して、 つぎつぎ と ナマエ を よんだ。
「キノシタ フジコ さん」
「はい」
「ヤマイシ サナエ さん」
「はい」
ヘンジ の たび に その コ の カオ に ビショウ を おくりながら、
「カベ コツル さん」
キュウ に ミンナ が わいわい さわぎだした。 ナニゴト か と おどろいた センセイ も、 クチグチ に いって いる こと が わかる と、 カガワ マスノ の へい より も、 もっと おかしく、 わかい センセイ は とうとう わらいだして しまった。 ミンナ は いって いる の だった。 カベ こっつる、 カベ こっつる、 カベ に アタマ を カベ こっつる。
カチキ らしい カベ コツル は なき も せず、 しかし あかい カオ を して うつむいて いた。 その サワギ も やっと おさまって、 オシマイ の カタギリ コトエ の シュッセキ を とった とき には もう、 45 フン の ジュギョウ ジカン は たって しまって いた。 カベ コツル が チリリンヤ (コシ に リン を つけて、 ヨウタシ を する ベンリヤ) の ムスメ で あり、 キノシタ フジコ が キュウカ の コドモ で あり、 へい と ヘンジ を した カガワ マスノ が マチ の リョウリヤ の ムスメ で あり、 ソンキ の オカダ イソキチ の イエ が トウフヤ で、 タンコ の モリオカ タダシ が アミモト の ムスコ と、 センセイ の ココロ の メモ には その ヒ の うち に かきこまれた。 ソレゾレ の カギョウ は トウフヤ と よばれ、 コメヤ と よばれ、 アミヤ と よばれて は いて も、 その どの イエ も メイメイ の ショウバイ だけ では クラシ が たたず、 ヒャクショウ も して いれば、 カタテマ には リョウシ も やって いる。 そういう ジョウタイ は オオイシ センセイ の ムラ と おなじ で ある。 ダレ も カレ も スンカ を おしんで はたらかねば クラシ の たたぬ ムラ、 だが、 ダレ も カレ も はたらく こと を いとわぬ ヒトタチ で ある こと は、 その カオ を みれば わかる。
この、 キョウ はじめて ヒトツ の カズ から おしえこまれよう と して いる ちいさな コドモ が、 ガッコウ から かえれば すぐに コモリ に なり、 ムギツキ を てつだわされ、 アミヒキ に ゆく と いう の だ。 はたらく こと しか モクテキ が ない よう な この カンソン の コドモ たち と、 どのよう に して つながって ゆく か を おもう とき、 イッポンマツ を ながめて なみだぐんだ カンショウ は、 ハズカシサ で しか かんがえられない。 キョウ はじめて キョウダン に たった オオイシ センセイ の ココロ に、 キョウ はじめて シュウダン セイカツ に つながった 12 ニン の 1 ネンセイ の ヒトミ は、 ソレゾレ の コセイ に かがやいて ことさら インショウ-ぶかく うつった の で ある。
この ヒトミ を、 どうして にごして よい もの か!
その ヒ、 ペダル を ふんで 8 キロ の ミチ を イッポンマツ の ムラ へ と かえって ゆく オオイシ センセイ の はつらつ と した スガタ は、 アサ より も いっそう オテンバ-らしく、 ムラビト の メ に うつった。
「さよなら」
「さよなら」
「さよなら」
であう ヒト ミンナ に アイサツ を しながら はしった が、 ヘンジ を かえす ヒト は すくなかった。 ときたま あって も、 だまって うなずく だけ で ある。 その はず で、 ムラ では もう オオイシ センセイ ヒハン の コエ が あがって いた の だ。
――ミンナ の アダナ まで チョウメン に つけこんだ そう な。
――ニシグチヤ の ミイ さん の こと を、 かわいらしい と いうた そう な。
――もう、 はやのこめ から、 ヒイキ しよる。 ニシグチヤ じゃ、 なんぞ もって いって オジョウズ した ん かも しれん。
なんにも しらぬ オオイシ センセイ は、 コガラ な カラダ を かろやか に のせて、 ムラハズレ の サカミチ に さしかかる と、 すこし マエコゴミ に なって アシ に チカラ を くわえ、 この はりきった オモイ を イッコク も はやく ハハ に かたろう と、 ペダル を ふみつづけた。 あるけば たいして かんじない ほど の ゆるやか な サカミチ は、 ユキ には こころよく すべりこんだ の だ が、 その ココロヨサ が カエリ には おもい ニモツ と なる。 そんな こと さえ、 カエリ で よかった と ありがたがる ほど すなお な キモチ で あった。
やがて ヘイタン な ミチ に さしかかる と、 アサガタ であった セイト の イチダン も かえって きた。
――オオイシ、 コイシ
――オオイシ、 コイシ
イクニン も の コエ の タバ が、 ジテンシャ の ソクド に つれ おおきく きこえて くる。 なんの こと か、 ハジメ は わからなかった センセイ も、 それ が ジブン の こと と わかる と おもわず コエ を だして わらった。 それ が アダナ に なった と、 さとった から だ。 わざと、 りりりりり と ベル を ならし、 すれちがいながら、 たかい コエ で いった。
「さよならぁ」
わあっと カンセイ が あがり、 また、 オオイシ コイシ! と よびかける コエ が とおのいて ゆく。
オナゴ センセイ の ホカ に、 コイシ センセイ と いう ナ が その ヒ うまれた の で ある。 カラダ が コツブ な から でも ある だろう。 あたらしい ジテンシャ に ユウヒ が まぶしく うつり、 きらきら させながら コイシ センセイ の スガタ は ミサキ の ミチ を はしって いった。