カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

バンギク

2016-09-22 | ハヤシ フミコ
 バンギク

 ハヤシ フミコ

 ユウガタ、 5 ジ-ゴロ うかがいます と いう デンワ で あった ので、 キン は、 1 ネン-ぶり に ねえ、 まあ、 そんな もの です か と いった ココロモチ で、 デンワ を はなれて トケイ を みる と、 まだ 5 ジ には 2 ジカン ばかり マ が ある。 まず その アイダ に、 ナニ より も フロ へ いって おかなければ ならない と、 ジョチュウ に ハヤメ な、 ユウショク の ヨウイ を させて おいて、 キン は いそいで フロ へ いった。 わかれた あの とき より も わかやいで いなければ ならない。 けっして ジブン の オイ を かんじさせて は ハイボク だ と、 キン は ゆっくり と ユ に はいり、 かえって くる なり、 レイゾウコ の コオリ を だして、 こまかく くだいた の を、 ニジュウ に なった ガーゼ に つつんで、 カガミ の マエ で 10 プン ばかり も まんべんなく コオリ で カオ を マッサージ した。 ヒフ の カンカク が なくなる ほど、 カオ が あかく しびれて きた。 56 サイ と いう オンナ の ネンレイ が ムネ の ナカ で キバ を むいて いる けれども、 キン は オンナ の トシ なんか、 ナガネン の シュギョウ で どう に でも ごまかして みせる と いった キビシサ で、 トッテオキ の ハクライ の クリーム で つめたい カオ を ふいた。 カガミ の ナカ には シビト の よう に あおずんだ オンナ の ふけた カオ が おおきく メ を みはって いる。 ケショウ の トチュウ で ふっと ジブン の カオ に イヤケ が さして きた が、 ムカシ は エハガキ にも なった あでやか な うつくしい ジブン の スガタ が マブタ に うかび、 キン は ヒザ を まくって、 フトモモ の ハダ を みつめた。 むっくり と ムカシ の よう に もりあがった フトリカタ では なく、 ほそい ジョウミャク の モウカン が うきたって いる。 ただ、 そう やせて も いない と いう こと が ココロヤスメ には なる。 ぴっちり と フトモモ が あって いる。 フロ では、 キン は、 きまって、 きちんと すわった フトモモ の クボミ へ ユ を そそぎこんで みる の で あった。 ユ は、 フトモモ の ミゾ へ じっと たまって いる。 ほっと した ヤスラギ が キン の オイ を なぐさめて くれた。 まだ、 オトコ は できる。 それ だけ が ジンセイ の チカラダノミ の よう な キ が した。 キン は、 マタ を ひらいて、 そっと、 ウチモモ の ハダ を ヒトゴト の よう に なでて みる。 すべすべ と して アブラ に なじんだ シカガワ の よう な ヤワラカサ が ある。 サイカク の 「ショコク を みしる は イセ モノガタリ」 の ナカ に、 イセ の ケンブツ の ナカ に、 シャミ を ひく オスギ、 タマ、 と いう フタリ の うつくしい オンナ が いて、 シャミ を ひきならす マエ に、 シンク の アミ を はりめぐらせて、 その アミノメ から フタリ の オンナ の カオ を ねらって は ゼニ を なげる アソビ が あった と いう の を、 キン は おもいだして、 クレナイ の アミ を はった と いう、 その ニシキエ の よう な ウツクシサ が、 イマ の ジブン には もう とおい カコ の こと に なりはてた よう な キ が して ならなかった。 わかい コロ は ホネミ に しみて キンヨク に メ が くれて いた もの だ けれども、 トシ を とる に つれて、 しかも、 ひどい センソウ の ナミ を くぐりぬけて みる と、 キン は、 オトコ の ない セイカツ は クウキョ で たよりない キ が して ならない。 ネンレイ に よって、 ジブン の ウツクシサ も すこし ずつ は ヘンカ して きて いた し、 その トシドシ で ジブン の ウツクシサ の フウカク が ちがって きて いた。 キン は トシ を とる に したがって ハデ な もの を ミ に つける グ は しなかった。 50 を すぎた フンベツ の ある オンナ が、 うすい ムネ に クビカザリ を して みたり、 ユモジ に でも いい よう な あかい コウシジマ の スカート を はいて、 シロ サティン の おおだぶだぶ の ブラウス を きて、 ツバビロ の ボウシ で ヒタイ の シワ を かくす よう な ミョウ な コザイク は キン は きらい だった。 それ か と いって、 キモノ の エリウラ から ベニイロ を のぞかせる よう な ジョロウ の よう な いやらしい コノミ も きらい で あった。
 キン は、 ヨウフク は この ジダイ に なる まで イチド も きた こと は ない。 すっきり と した まっしろい チリメン の エリ に、 アイオオシマ の カスリ の アワセ、 オビ は うすい クリーム イロ の シロスジ ハカタ。 ミズイロ の オビアゲ は ゼッタイ に ムナモト に みせない こと。 たっぷり と した ムネ の フクラミ を つくり、 コシ は ほそく、 ジバラ は ダテマキ で しめる だけ しめて、 オシリ には うっすり と マワタ を しのばせた コシブトン を あてて セイヨウ の オンナ の イキ な キツケ を ジブン で かんがえだして いた。 カミノケ は、 ムカシ から チャイロ だった ので、 イロ の しろい カオ には、 その カミノケ が 50 を すぎた オンナ の カミ とも おもわれなかった。 オオガラ なので、 スソミジカ に キモノ を きる せい か、 スソモト が きりっと して、 さっぱり して いた。 オトコ に あう マエ は、 かならず こうした クロウト-っぽい ジミ な ツクリカタ を して、 カガミ の マエ で、 ヒヤザケ を 5 シャク ほど きゅう と あおる。 その アト は ハミガキ で ハ を みがき、 さけくさい イキ を ころして おく こと も ヌカリ は ない。 ほんの ショウリョウ の サケ は、 どんな ケショウヒン を つかった より も キン の ニクタイ には コウカ が あった。 うっすり と ヨイ が はっしる と、 メモト が あかく そまり、 おおきい メ が うるんで くる。 あおっぽい ケショウ を して、 リスリン で といた クリーム で おさえた カオ の ツヤ が、 イキ を ふきかえした よう に さえざえ して くる。 ベニ だけ は ジョウトウ の ダーク を こく ぬって おく。 あかい もの と いえば クチビル だけ で ある。 キン は、 ツメ を そめる と いう こと も ショウガイ した こと が ない。 ロウネン に なって から の テ は なおさら、 そうした ケショウ は ものほしげ で ヒンジャク で おかしい の で ある。 ニュウエキ で まんべんなく テノコウ を たたいて おく だけ で、 ツメ は カンショウ な ほど みじかく きって ラシャ の キレ で みがいて おく。 ナガジュバン の ソデグチ に かいまみえる シキサイ は、 すべて あわい イロアイ を このみ、 ミズイロ と モモイロ の ぼかした タヅナ なぞ を ミ に つけて いた。 コウスイ は あまったるい ニオイ を、 カタ と ぼってり した ニノウデ に こすりつけて おく。 ミミタブ なぞ へは まちがって も つける よう な こと は しない の で ある。 キン は オンナ で ある こと を わすれたく ない の だ。 セケン の ロウバ の ウスギタナサ に なる の ならば しんだ ほう が まし なの で ある。 ――ヒト の ミ に ある まじき まで たわわ なる、 バラ と おもえど わが ココチ する。 キン は ユウメイ な オンナ の うたった と いう この ウタ が すき で あった。 オトコ から はなれて しまった セイカツ は かんがえて も ぞっと する。 イタヤ の もって きた、 バラ の うすい ピンク の ハナビラ を みて いる と、 その ハナ の ゴウカサ に キン は ムカシ を ゆめみる。 とおい ムカシ の フウゾク や ジブン の シュミ や カイラク が すこし ずつ ヘンカ して きて いる こと も キン には たのしかった。 ヒトリネ の オリ、 キン は マヨナカ に メ が さめる と、 ムスメジダイ から の オトコ の カズ を ユビ で ひそか に おりかぞえて みた。 あの ヒト と あの ヒト、 それに あの ヒト、 ああ、 あの ヒト も ある…… でも、 あの ヒト は、 あの ヒト より も サキ に あって いた の かしら…… それとも、 アト だった かしら…… キン は、 まるで カゾエウタ の よう に、 オトコ の オモイデ に ココロ が けむたく むせて くる。 おもいだす オトコ の ワカレカタ に よって ナミダ の でて くる よう な ヒト も あった。 キン は ヒトリヒトリ の オトコ に ついて は、 デアイ の とき のみ を かんがえる の が すき で あった。 イゼン よんだ こと の ある イセ モノガタリ-フウ に、 ムカシ オトコ ありけり と いう オモイデ を いっぱい ココロ に ためて いる せい か、 キン は ヒトリネ の ネドコ の ナカ で、 うつらうつら と ムカシ の オトコ の こと を かんがえる の は タノシミ で あった。 ――タベ から の デンワ は キン に とって は おもいがけなかった し、 ジョウトウ の ブドウシュ に でも オメ に かかった よう な キ が した。 タベ は、 オモイデ に つられて くる だけ だ。 ムカシ の ナゴリ が すこし は のこって いる で あろう か と いった カンショウ で、 コイ の ヤケアト を ギンミ し に くる よう な もの なの だ。 クサ ぼうぼう の ガレキ の アト に たって、 ただ、 ああ と タメイキ だけ を つかせて は ならない の だ。 ネンレイ や カンキョウ に いささか の マズシサ も あって は ならない の だ。 つつしみぶかい ヒョウジョウ が ナニ より で あり、 フンイキ は フタリ で しみじみ と ボットウ できる よう な タダヨイ で なくて は ならない。 ジブン の オンナ は あいかわらず うつくしい オンナ だった と いう アトアジ の ナゴリ を わすれさせて は ならない の だ。 キン は トドコオリ なく ミジタク が すむ と、 カガミ の マエ に たって ジブン の ブタイスガタ を たしかめる。 バンジ ヌカリ は ない か と……。 チャノマ へ ゆく と、 もう、 ユウショク の ゼン が でて いる。 うすい ミソシル と、 シオコンブ に ムギメシ を ジョチュウ と サシムカイ で たべる と、 アト は タマゴ を やぶって キミ を ぐっと のんで おく。 キン は オトコ が たずねて きて も、 ムカシ から ジブン の ほう で ショクジ を だす と いう こと は あまり しなかった。 こまごま と チャブダイ を つくって、 テリョウリ なん です よ と ならべたてて オトコ に あいらしい オンナ と おもわれたい なぞ とは ツユ ほど も かんがえない の で ある。 カテイテキ な オンナ と いう こと は キン には なんの キョウミ も ない の だ。 ケッコン を しよう なぞ と おもい も しない オトコ に、 カテイテキ な オンナ と して こびて ゆく イワレ は ない の だ。 こうした キン に むかって くる オトコ は、 キン の ため に、 イロイロ な ミヤゲモノ を もって きた。 キン に とって は それ が アタリマエ なの で ある。 キン は カネ の ない オトコ を アイテ に する よう な こと は けっして しなかった。 カネ の ない オトコ ほど ミリョク の ない もの は ない。 コイ を する オトコ が、 ブラッシュ も かけない ヨウフク を きたり、 ハダギ の ボタン の はずれた の なぞ ヘイキ で きて いる よう な オトコ は ふっと いや に なって しまう。 コイ を する、 その こと ジタイ が、 キン には ヒトツヒトツ ゲイジュツヒン を つくりだす よう な キ が した。 キン は ムスメジダイ に アカサカ の マンリュウ に にて いる と いわれた。 ヒトヅマ に なった マンリュウ を イチド みかけた こと が あった が、 ほれぼれ と する よう な うつくしい オンナ で あった。 キン は その みごと な ウツクシサ に うなって しまった。 オンナ が いつまでも ウツクシサ を たもつ と いう こと は、 カネ が なくて は どうにも ならない こと なの だ と さとった。 キン が ゲイシャ に なった の は、 19 の とき で あった。 たいした ゲイゴト も ミ に つけて は いなかった が、 ただ、 うつくしい と いう こと で ゲイシャ に なりえた。 その コロ、 フランスジン で トウヨウ ケンブツ に きて いた もう かなり な ネンレイ の シンシ の ザシキ に よばれて、 キン は シンシ から ニホン の マルグリット ゴーチェ と して あいされる よう に なり、 キン ジシン も、 ツバキヒメ キドリ で いた こと も ある。 ニクタイテキ には あんがい つまらない ヒト で あった が、 キン には なんとなく わすれがたい ヒト で あった。 ミッシェル さん と いって、 もう、 フランス の キタ の どこ か で しんで いる に ちがいない ネンレイ で ある。 フランス へ かえった ミッシェル から、 オパール と こまかい ダイヤ を ちりばめた ウデワ を おくって きた が、 それ だけ は センソウ サナカ にも てばなさなかった。 ――キン の カンケイ した オトコ たち は、 ミンナ ソレゾレ に えらく なって いった が、 この シュウセンゴ は、 その オトコ たち の オオカタ は ショウソク も わからなく なって しまった。 アイザワ キン は ソウトウ の ザイサン を ためこんで いる だろう と いう フウヒョウ で あった が、 キン は かつて マチアイ を しよう とか、 リョウリヤ を しよう なぞ とは イチド も かんがえた こと が なかった。 もって いる もの と いえば、 やけなかった ジブン の イエ と、 アタミ の ベッソウ を 1 ケン もって いる きり で、 ヒト の いう ほど の カネ は なかった。 ベッソウ は ギマイ の ナマエ に なって いた の を、 シュウセンゴ、 オリ を みて てばなして しまった。 まったく の ムイ トショク で あった が、 ジョチュウ の キヌ は ギマイ の セワ で あった が オシ の オンナ で ある。 キン は、 クラシ も あんがい つつましく して いた。 エイガ や シバイ を みたい と いう キ も なかった し、 キン は なんの モクテキ も なく うろうろ と ガイシュツ する こと は きらい で あった。 テンピ に さらされた とき の ジブン の オイ を ヒトメ に みられる の は いや で あった。 あかるい タイヨウ の シタ では、 ロウネン の オンナ の ミジメサ を ヨウシャ なく みせつけられる。 いかなる カネ の かかった フクショク も テンピ の マエ では なんの ヤク にも たたない。 ヒカゲ の ハナ で くらす こと に マンゾク で あった し、 キン は シュミ と して ショウセツボン を よむ こと が すき で あった。 ヨウジョ を もらって ロウゴ の タノシミ を かんがえて は と いわれる こと が あって も、 キン は ロウゴ なぞ と いう オモイ が フカイ で あった し、 キョウ まで コドク で きた こと も、 キン には ヒトツ の リユウ が ある の だった。 ――キン は リョウシン が なかった。 アキタ の ホンジョウ チカク の コサガワ の ウマレ だ と いう こと だけ が キオク に あって、 イツツ ぐらい の とき に トウキョウ に もらわれて、 アイザワ の セイ を なのり、 アイザワ-ケ の ムスメ と して そだった。 アイザワ キュウジロウ と いう の が ヨウフ で あった が、 ドボク ジギョウ で ダイレン に わたって ゆき、 キン が ショウガッコウ の コロ から、 この ヨウフ は ダイレン へ ユキッパナシ で ショウソク は ない の で ある。 ヨウボ の リツ は なかなか の リザイカ で、 カブ を やったり シャクヤ を たてたり して、 その コロ は ウシゴメ の ワラダナ に すんで いた が、 ワラダナ の アイザワ と いえば、 ウシゴメ でも ソウトウ の カネモチ と して みられて いた。 その コロ カグラザカ に タツイ と いう ふるい タビヤ が あって、 そこ に、 マチコ と いう うつくしい ムスメ が いた。 この タビヤ は ニンギョウ-チョウ の ミョウガヤ と おなじ よう に レキシ の ある イエ で、 タツイ の タビ と いえば、 ヤマノテ の ヤシキマチ でも ソウトウ の シンヨウ が あった もの で ある。 コン の ノレン を はった ひろい ミセサキ に ミシン を おいて、 モモワレ に ゆった マチコ の クロジュス の エリ を かけて ミシン を ふんで いる ところ は、 ワセダ の ガクセイ たち にも ヒョウバン だった と みえて、 ガクセイ たち が タビ を あつらえ に きて は、 チップ を おいて ゆく モノ も ある と いう フウヒョウ だった が、 この マチコ より イツツ ムッツ も わかい キン も、 チョウナイ では うつくしい ショウジョ と して ヒョウバン だった。 カグラザカ には フタリ の コマチムスメ と して ヒトビト に いいふらされて いた。 ――キン が 19 の コロ、 アイザワ の イエ も、 ゴウヒャク の トリゴエ と いう オトコ が デイリ する よう に なって から、 イエ が なんとなく かたむきはじめ、 ヨウボ の リツ は シュラン の よう な クセ が ついて、 ながい こと くらい セイカツ が つづいて いた が、 キン は ふっと した ジョウダン から トリゴエ に おかされて しまった。 キン は その コロ、 やぶれかぶれ な キモチ で イエ を とびだして、 アカサカ の スズモト と いう イエ から ゲイシャ に なって でた。 タツイ の マチコ は、 ちょうど その コロ、 はじめて できた ヒコウキ に フリソデ スガタ で のせて もらって スサキ の ハラ に ツイラク した と いう こと が シンブンダネ に なり、 そうとう ヒョウバン を つくった。 キン は、 キンヤ と いう ナマエ で ゲイシャ に でた が、 すぐ、 コウダン ザッシ なんか に シャシン が のったり して、 シマイ には、 その コロ リュウコウ の エハガキ に なったり した もの で ある。
 イマ から おもえば、 こうした こと も、 みんな とおい カコ の こと に なって しまった けれども、 キン は ジブン が ゲンザイ 50 サイ を すぎた オンナ だ とは どうしても ガテン が ゆかなかった。 ながく いきて きた もの だ と おもう とき も あった が、 また みじかい セイシュン だった と おもう とき も ある。 ヨウボ が なくなった アト、 いくらも ない カザイ は、 キン の もらわれて きた アト に うまれた スミコ と いう ギマイ に あっさり つがれて しまって いた ので、 キン は ヨウカ に たいして なんの セキニン も ない カラダ に なって いた。
 キン が タベ を しった の は、 スミコ フウフ が トツカ に ガクセイ アイテ の クロウト ゲシュク を して いる コロ で、 キン は、 3 ネン ばかり つづいて いた ダンナ と わかれて、 スミコ の ゲシュク に ヒトヘヤ を かりて キラク に くらして いた。 タイヘイヨウ センソウ が はじまった コロ で ある。 キン は スミコ の チャノマ で ゆきあう ガクセイ の タベ と しりあい、 オヤコ ほど も トシ の ちがう タベ と、 いつか ヒトメ を しのぶ ナカ に なって いた。 50 サイ の キン は、 しらない ヒト の メ には 37~38 ぐらい に しか みえない ワカワカシサ で、 マユ の こい の が におう よう で あった。 ダイガク を ソツギョウ した タベ は すぐ リクグン ショウイ で シュッセイ した の だ けれども、 タベ の ブタイ は しばらく ヒロシマ に チュウザイ して いた。 キン は、 タベ を たずねて 2 ド ほど ヒロシマ へ いった。
 ヒロシマ へ つく なり、 リョカン へ グンプク スガタ の タベ が たずねて きた。 カワ-くさい タベ の タイシュウ に キン は ヘキエキ しながら も、 フタバン を タベ と ヒロシマ の リョカン で くらした。 はるばる と とおい チ を たずねて、 くたくた に つかれて いた キン は、 タベ の たくましい チカラ に ホンロウ されて、 あの とき は しぬ よう な オモイ だった と ヒト に コクハク して いった。 2 ド ほど タベ を たずねて ヒロシマ に ゆき、 ソノゴ タベ から イクド デンポウ が きて も、 キン は ヒロシマ へは ゆかなかった。 ショウワ 17 ネン に タベ は ビルマ へ ゆき、 シュウセン の ヨクトシ の 5 ガツ に フクイン して きた。 すぐ ジョウキョウ して きて、 タベ は ヌマブクロ の キン の イエ を たずねて きた が、 タベ は ひどく ふけこんで、 マエバ の ぬけて いる の を みた キン は ムカシ の ユメ も きえて シツボウ して しまった。 タベ は ヒロシマ の ウマレ で あった が、 チョウケイ が ダイギシ に なった とか で、 アニ の セワ で ジドウシャ-ガイシャ を おこして、 トウキョウ で 1 ネン も たたない アイダ に、 みちがえる ばかり リッパ な シンシ に なって キン の マエ に あらわれ、 きんきん に サイクン を もらう の だ と はなした。 それから また 1 ネン あまり、 キン は タベ に あう こと も なかった。 ――キン は、 クウシュウ の はげしい コロ、 ステネ ドウヨウ の ネダン で、 ゲンザイ の ヌマブクロ の デンワ-ツキ の イエ を かい、 トツカ から ヌマブクロ へ ソカイ して いた。 トツカ とは メ と ハナ の チカサ で ありながら、 ヌマブクロ の キン の イエ は のこり、 トツカ の スミコ の イエ は やけた。 スミコ たち が、 キン の ところ へ にげて きた けれども、 キン は、 シュウセン と ドウジ に スミコ たち を おいだして しまった。 もっとも おいだされた スミコ も、 トツカ の ヤケアト に はやばや と イエ を たてた ので、 かえって イマ では キン に カンシャ して いる アリサマ でも あった。 イマ から おもえば、 シュウセン チョクゴ だった ので、 やすい カネ で イエ を たてる こと が できた の で ある。
 キン も アタミ の ベッソウ を うった。 テドリ 30 マン ちかい カネ が はいる と、 その カネ で ボロヤ を かって は テイレ を して 3~4 バイ には うった。 キン は、 カネ に あわてる と いう こと を しなかった。 キンセン と いう もの は、 あわて さえ しなければ すくすく と ユキダルマ の よう に ふくらんで くれる リトク の ある もの だ と いう こと を ナガネン の シュギョウ で こころえて いた。 コウリ より は やすい リマワリ で かたい タンポ を とって ヒト にも かした。 センソウ イライ、 ギンコウ を あまり シンヨウ しなく なった キン は、 なるべく カネ を ソト へ まわした。 ノウカ の よう に イエ へ つんで おく グ も しなかった。 その ツカイ には スミコ の オット の ヒロヨシ を つかった。 イクワリ か の シャレイ を はらえば、 ヒト は こきみよく はたらいて くれる もの だ と いう こと も キン は しって いた。 ジョチュウ との フタリズマイ で、 4 マ ばかり の イエウチ は、 ガイケン には さびしかった の だ けれども、 キン は すこしも さびしく も なかった し、 ガイシュツギライ で あって みれば、 フタリグラシ を フジユウ とも おもわなかった。 ドロボウ の ヨウジン には イヌ を かう こと より も、 トジマリ を かたく する と いう こと を シンヨウ して いて、 どこ の イエ より も キン の イエ は トジマリ が よかった。 ジョチュウ は オシ なので、 どんな オトコ が たずねて きて も タニン に きかれる シンパイ は ない。 そのくせ キン は、 ときどき、 むごたらしい コロサレカタ を しそう な ジブン の ウンメイ を ときどき クウソウ する とき が あった。 イキ を ころして ひっそり と しずまりかえった イエ と いう もの を フアン に おもわない でも ない。 キン は、 アサ から バン まで ラジオ を かける こと を わすれなかった。 キン は その コロ、 チバ の マツド で カダン を つくって いる オトコ と しりあって いた。 アタミ の ベッソウ を かった ヒト の オトウト だ とか で、 センソウチュウ は ハノイ で ボウエキ の ショウシャ を おこして いた の だ けれども、 シュウセンゴ ひきあげて きて、 アニ の シホン で マツド で ハナ の サイバイ を はじめた。 トシ は まだ 40 サイ そこそこ で あった が、 トウハツ が つるり と はげて、 トシ より は ふけて みえた。 イタヤ セイジ と いった。 2~3 ド イエ の こと で キン を たずねて きた けれども、 イタヤ は いつのまにか キン の ところ へ シュウ に イチド は たずねて くる よう に なって いた。 イタヤ が きはじめて から、 キン の イエ は うつくしい ハナバナ の ミヤゲ で にぎわった。 ――キョウ も カスタニアン と いう きいろい バラ が ざくり と トコノマ の カビン に さされて いる。 イチョウ の ハ、 すこし こぼれて なつかしき、 バラ の ソノウ の シモジメリ かな。 きいろい バラ は トシマザカリ の ウツクシサ を おもわせた。 ダレ か の ウタ に ある。 シモジメリ した アサ の バラ の ニオイ が、 つうん と キン の ムネ に オモイデ を さそう。 タベ から デンワ が かかって みる と、 イタヤ より も、 キン は わかい タベ の ほう に ひかれて いる こと を さとる。 ヒロシマ では つらかった けれども、 あの コロ の タベ は グンジン で あった し、 あの あらあらしい ワカサ も イマ に なれば ムリ も なかった こと だ と つまされて うれしい オモイデ で ある。 はげしい オモイデ ほど、 トキ が たてば なんとなく なつかしい もの だ。 ――タベ が たずねて きた の は 5 ジ を だいぶ すぎて から で あった が、 おおきな ツツミ を さげて きた。 ツツミ の ナカ から、 ウイスキー や、 ハム や、 チーズ なぞ を だして、 ナガヒバチ の マエ に どっかと すわった。 もう ムカシ の セイネン-ラシサ は オモカゲ も ない。 ハイイロ の コウシ の セビロ に、 くろっぽい グリン の ズボン を はいて いる の は いかにも この ジダイ の キカイヤ さん と いった カンジ だった。 「あいかわらず きれい だな」 「そう、 ありがとう、 でも、 もう ダメ ね」 「いや、 ウチ の サイクン より いろっぽい」 「オクサマ おわかい ん でしょう?」 「わかくて も、 イナカモノ だよ」 キン は、 タベ の ギン の タバコ ケース から 1 ポン タバコ を ぬいて ヒ を つけて もらった。 ジョチュウ が ウイスキー の グラス と、 サッキ の ハム や チーズ を もりあわせた サラ を もって きた。 「いい コ だね……」 タベ が にやにや わらいながら いった。 「ええ、 でも オシ なの よ」 ほほう と いった ヒョウジョウ で、 タベ は じいっと ジョチュウ の スガタ を みつめて いた。 ニュウワ な メモト で、 ジョチュウ は テイネイ に タベ に アタマ を さげた。 キン は、 ふっと、 キ にも かけなかった ジョチュウ の ワカサ が メザワリ に なった。 「ゴエンマン なの でしょう?」 タベ は ぷう と ケムリ を ふきながら、 ああ ボク ん とこ かい と いった カオ で、 「もう ライゲツ コドモ が うまれる ん だ」 と いった。 へえ、 そう なの と、 キン は ウイスキー の ビン を もって、 タベ の グラス に すすめた。 タベ は うまそう に きゅう と グラス を あけて、 ジブン も キン の グラス に ウイスキー を ついで やった。 「いい セイカツ だな」 「あら、 どうして?」 「ソト は アラシ が ごうごう と ふきすさんで いる のに さ、 キミ ばかり は いつまで たって も かわらない…… フシギ な ヒト だよ。 どうせ、 キミ の こと だ から、 いい パトロン が いる ん だろう けど、 オンナ は いい な」 「それ、 ヒニク です か? でも、 ワタシ、 べつに、 タベ さん に、 そんな ふう な こと いわれる ほど、 アナタ に ゴヤッカイ かけた って こと ない わね?」 「おこった の? そう じゃ ない ん だよ。 そう じゃ ない ん だ。 アンタ は シアワセ な ヒト だ って いう ん だよ。 オトコ の シゴト って つらい もん だ から、 つい、 そんな こと を いった のさ。 イマ の ヨ は、 あだ や おろそか には くらせない。 くう か くわれる か だ。 ボク なんか、 マイニチ バクチ を して くらして いる よう な もん だ から ね」 「だって、 ケイキ は いい ん でしょう?」 「よか ない さ…… あぶない ツナワタリ、 ミミナリ が する くらい つらい カネ を つかって いる ん だぜ」 キン は だまって ウイスキー を なめた。 カベギワ で コオロギ が ないて いる の が いやに しめっぽい。 タベ は、 2 ハイ-メ の ウイスキー を のむ と、 あらあらしく キン の テ を ヒバチ-ゴシ に つかんだ。 ユビワ を はめて いない テ が キヌ ハンカチ の よう に たよりない ほど やわらかい。 キン は テ の サキ に ある チカラ を じっと ぬいて、 イキ を ころして いた。 チカラ の ぬけて いる テ は むしょうに つめたくて ぼってり と やわらかい。 タベ の よった メ には、 ムカシ の サマザマ が ウズ を なし ココロ に せまって くる。 ムカシ の まま の ウツクシサ で オンナ が すわって いる。 フシギ な キ が した。 たえず ながれる サイゲツ の ナカ に すこし ずつ ケイケン が つみかさなって ゆく。 その ナガレ の ナカ に、 ヒヤク も あれば ツイラク も ある。 だが、 ムカシ の オンナ は なんの ヘンカ も なく ふてぶてしく そこ に すわって いる。 タベ は じいっと キン の メ を みつめた。 メ を かこむ コジワ も ムカシ の まま だ。 リンカク も くずれて は いない。 この オンナ の セイカツ の ジョウタイ を しりたかった。 この オンナ には シャカイテキ の ハンシャ は なんの ハンノウ も なかった の かも しれない。 タンス を かざり ナガヒバチ を かざり、 ゴウカ に グンセイ した バラ の ハナ も かざり、 にっこり と わらって ジブン の マエ に すわって いる。 もう、 すでに 50 は こして いる はず だ のに、 におう ばかり の オンナラシサ で ある。 タベ は キン の ホントウ の ネンレイ を しらなかった。 アパート-ズマイ の タベ は、 25 サイ に なった ばかり の サイクン の そそけた つかれた スガタ を マブタ に うかべる。 キン は ヒバチ の ヒキダシ から、 ノベギン の ほそい キセル を だして、 ちいさく なった リョウギリ を さして ヒ を つけた。 タベ が、 ときどき ヒザガシラ を ぶるぶる と ゆすぶって いる の が、 キン には キ に かかった。 キンセンテキ に まいって いる こと でも ある の かも しれない と、 キン は じいっと タベ の ヒョウジョウ を カンサツ した。 ヒロシマ へ いった とき の よう な イチズ な オモイ は もう キン の ココロ から うすれさって いる。 フタリ の ながい クウハク が、 キン には ゲンジツ に あって みる と ちぐはぐ な キ が する。 そうした ちぐはぐ な オモイ が、 キン には もどかしく さびしかった。 どうにも ムカシ の よう に ココロ が もえて ゆかない の だ。 この オトコ の ニクタイ を よく しって いる と いう こと で、 ジブン には もう この オトコ の スベテ に ミリョク を うしなって いる の かしら とも かんがえる。 フンイキ は あった に して も、 カンジン の ココロ が もえて ゆかない と いう こと に、 キン は アセリ を おぼえる。 「ダレ か、 キミ の セワ で、 40 マン ほど かして くれる ヒト ない?」 「あら、 オカネ の こと? 40 マン なんて タイキン じゃ ない の?」 「うん、 イマ、 どうしても、 それだけ ほしい ん だよ。 ココロアタリ は ない?」 「ない わ、 だいいち、 こんな ムシュウニュウ な クラシ を して いる ワタシ に、 そんな ソウダン を したって ムリ じゃ ない の……」 「そう かなあ、 うんと、 リシ を つける が、 どう だろう?」 「ダメ! ワタシ に そんな こと おっしゃって も ムリ よ」 キン は、 キュウ に さむけだつ よう な キ が した。 イタヤ との のどか な アイダガラ が こいしく なって くる。 キン は、 がっかり した キモチ で、 しゅんしゅん と わきたって いる アラレ の テツビン を とって チャ を いれた。 「20 マン ぐらい でも どうにか ならない? オン に きる ん だ がなあ……」 「おかしな ヒト ね? ワタシ に オカネ の こと を おっしゃったって、 ワタシ には オカネ の ない こと よく わかって いらっしゃる じゃ ない の……。 ワタシ が ほしい くらい の もの だわ。 ワタシ に あいたい ため に きて くだすった ん じゃ なく、 オカネ の ハナシ で、 ワタシ の とこ へ いらっした の?」 「いや、 キミ に あいたい ため さ、 そりゃあ あいたい ため だ けど、 キミ に なら、 なんでも ソウダン が できる と おもった から なん だよ」 「オニイサマ に ソウダン なされば いい のよ」 「アニキ には はなせない カネ なん だ」 キン は ヘンジ も しない で、 ふっと、 ジブン の ワカサ も、 もう あと 1~2 ネン だな と おもう。 ムカシ の やきつく よう な フタリ の コイ が、 イマ に なって みる と、 オタガイ の ウエ に なんの エイキョウ も なかった こと に キ が ついて くる。 あれ は コイ では なく、 つよく ひきあう シユウ だけ の ツナガリ だった の かも しれない。 カゼ に ただよう オチバ の よう な もろい ダンジョ の ツナガリ だけ で、 ここ に すわって いる ジブン と タベ は、 ただ、 なんでも ない チジン の ツナガリ と して だけ の もの に なって いる。 キン の ムネ に ひややか な もの が ながれて きた。 タベ は おもいついた よう に、 にやり と して、 「とまって も いい?」 と ちいさい コエ で、 チャ を のんで いる キン に たずねた。 キン は びっくり した メ を して、 「ダメ よ。 こんな ワタシ を からかわない で ください」 と、 メジリ の シワ を わざと ちぢめる よう に して わらった。 うつくしい しろい イレバ が ひかる。 「いやに レイコク ムジョウ だな。 もう、 いっさい カネ の ハナシ は しない。 ちょっと、 ムカシ の キン さん に あまったれた ん だ。 でも、 ――ここ は ベッセカイ だ もの ね。 キミ は アクウン の つよい ヒト だよ。 どんな こと が あったって くたばらない の は えらい。 イマ の わかい オンナ なんか、 そりゃあ みじめ だ から ね。 キミ、 ダンス は しない の?」 キン は、 ふふん と ハナ の オク で わらった。 わかい オンナ が どう だ って いう ん だろう……。 ワタシ の しった こと じゃ ない わ。 「ダンス なんて しらない わ。 アナタ なさる の?」 「すこし は ね」 「そう、 いい カタ が ある ん でしょう? それで オカネ が いる ん じゃ ない の?」 「バカ だなあ、 オンナ に みつぐ ほど、 ぼろい カネモウケ は して いない」 「あら、 でも、 とても、 その ミダシナミ は シンシ じゃ ない のよ。 ソウトウ な オシゴト で なくちゃ、 できない ゲイ だわ」 「これ は ハッタリ なん だ。 フトコロ は ぴいぴい なん だぜ。 ナナコロビ ヤオキ も コノゴロ は あわただしくて ね……」 キン は ふふふ と フクミワライ を して、 タベ の ふさふさ と した クロカミ に みとれて いる。 まだ、 じゅうぶん ふさふさ と して ヒタイギワ に たれて いる。 カクボウ の コロ の におう ミズミズシサ は うせて いる けれども、 ホオ の アタリ が もう チュウネン の アダメカシサ を ただよわせて、 ヒン の いい ヒョウジョウ は ない ながら も、 たくましい ナニ か が ある。 モウジュウ が トオク から ニオイ を かぎあって いる よう な カンサツ の シカタ で、 キン は、 タベ にも チャ を いれて やった。 「ねえ、 ちかい うち に オカネ の キリサゲ って ある って ホントウ なの?」 キン は ジョウダン-めかして たずねた。 「シンパイ する ほど もってる ん だな?」 「まあ! すぐ、 それ だ から、 アナタ って かわった わね。 そんな フウヒョウ を ヒト が してる から なの よ」 「さあ、 そんな ムリ な こと は イマ の ニホン じゃ できない だろう ね。 カネ の ない モノ には、 まず、 そんな シンパイ は ない さ」 「ホントウ ね……」 キン は いそいそ と ウイスキー の ビン を タベ の グラス に さした。 「ああ、 ハコネ か どっか しずか な ところ へ いきたい な。 2~3 ニチ そんな ところ で ぐっすり ねて みたい」 「つかれてる の」 「うん、 カネ の シンパイ で ね」 「でも、 カネ の シンパイ なんて アナタ-らしくて いい じゃあ ありません の? なまじ、 オンナ の シンパイ じゃ ない だけ……」 タベ は、 キン の とりすまして いる の が にくにくしかった。 ジョウトウ の コブツ を みて いる よう で おかしく も ある。 イッショ に イチヤ を すごした ところ で、 ホドコシ を して やる よう な もの だ と、 タベ は、 キン の アゴ の アタリ を みつめた。 しっかり した アゴ の セン が イシ の ツヨサ を あらわして いる。 さっき みた オシ の ジョチュウ の みずみずしい ワカサ が ミョウ に マブタ に だぶって きた。 うつくしい オンナ では ない が、 わかい と いう こと が、 オンナ に メ の こえて きた タベ には シンセン で あった。 なまじ、 この デアイ が はじめて ならば、 こうした モドカシサ も ない の では ない か と、 タベ は、 サッキ より も ツカレ の みえて きた キン の カオ に オイ を かんじる。 キン は ナニ か を さっした の か、 さっと たちあがって、 リンシツ に ゆく と、 キョウダイ の マエ に ゆき、 ホルモン の チュウシャキ を とって、 ずぶり と ウデ に さした。 ハダ を ダッシメン で きつく こすりながら、 カガミ の ナカ を のぞいて、 パフ で ハナ の ウエ を おさえた。 いろめきたつ オモイ の ない ダンジョ が、 こうした つまらない デアイ を して いる と いう こと に、 キン は くやしく なって きて、 おもいがけ も しない トオリマ の よう な ナミダ を マブタ に うかべた。 イタヤ だったら、 ヒザ に なきふす こと も できる。 あまえる こと も できる。 ナガヒバチ の マエ に いる タベ が、 すき なの か きらい なの か すこしも わからない の だ。 かえって もらいたく も あり、 もうすこし、 ナニ か を アイテ の ココロ に のこしたい アセリ も ある。 タベ の メ は、 ジブン と わかれて イライ、 タクサン の オンナ を みて きて いる の だ。 カワヤ へ たって、 カエリ、 ジョチュウベヤ を ちょっと のぞく と、 キヌ は、 シンブンシ の カタガミ を つくって、 ヨウサイ の ベンキョウ を イッショウ ケンメイ に して いた。 おおきな オシリ を ぺったり と タタミ に つけて、 かがみこむ よう に して ハサミ を つかって いる。 きっちり まいた カミ の エリモト が、 つやつや と しろくて、 みほれる よう に たっぷり と した ニクヅキ で あった。 キン は そのまま また ナガヒバチ の マエ へ もどった。 タベ は ねころんで いた。 キン は チャダンス の ウエ の ラジオ を かけた。 おもいがけない おおきい ヒビキ で ダイク が ながれだした。 タベ は むっくり と おきた。 そして また ウイスキー の グラス を クチビル に つける。 「キミ と、 シバマタ の カワジン へ いった こと が あった ね。 えらい アメ に ふりこめられて、 メシ の ない ウナギ を くった こと が あった なあ」 「ええ、 そんな こと あった わね、 あの コロ は もう、 タベモノ が とても フジユウ な とき だった わ。 アナタ が ヘイタイ さん に なる マエ よ、 トコノマ に あかい カノコユリ が さいてて さあ、 フタリ で、 カビン を ひっくりかえした こと おぼえて いる?」 「そんな こと あった ね……」 キン の カオ が キュウ に ふくらみ、 わかわかしく ヒョウジョウ が かわった。 「いつか また いこう か?」 「ええ、 そう ね、 でも もう、 ワタシ、 オックウ だわ…… もう、 あそこ も、 なんでも たべさせる よう に なってる でしょう ね?」 キン は、 さっき ないた カンショウ を けさない よう に、 そっと、 ムカシ の オモイデ を たぐりよせよう と ドリョク して いる。 そのくせ、 タベ とは ちがう オトコ の カオ が ココロ に うかぶ。 タベ と シバマタ に いった アト、 シュウセン チョクゴ に、 ヤマザキ と いう オトコ と イチド、 シバマタ へ いった キオク が ある。 ヤマザキ は つい せんだって イ の シュジュツ で しんで しまった。 バンカ で むしあつい ヒ の エドガワ-ベリ の カワジン の うすぐらい ヘヤ の ケシキ が うかんで くる。 こっとん、 こっとん、 ミズアゲ を して いる ジドウ ポンプ の オト が ミミ に ついて いた。 カナカナ が なきたてて、 マドベ の たかい エドガワ-ヅツミ の ウエ を カイダシ の ジテンシャ が キョウソウ の よう に ギンリン を ひからせて はしって いた もの だ。 ヤマザキ とは 2 ド-メ の アイビキ で あった が、 オンナ に ウブ な ヤマザキ の ワカサ が、 キン には しみじみ と シンセイ に かんじられた。 タベモノ も ホウフ だった し、 シュウセン の アト の キ の ぬけた セソウ が、 あんがい シンクウ の ナカ に いる よう に しずか だった。 カエリ は ヨル で、 シン コイワ へ ひろい グンドウロ を バス で もどった の を おぼえて いる。 「あれ から、 おもしろい ヒト に めぐりあった?」 「ワタシ?」 「うん……」 「おもしろい ヒト って、 アナタ イガイ に なにも ありません わ」 「ウソ つけ!」 「あら、 どうして、 そう じゃ ない の? こんな ワタシ を、 ダレ が アイテ に する もの です か……」 「シンヨウ しない」 「そう…… でも、 ワタシ、 これから さきだす つもり、 いきて いる カイ に ね」 「まだ、 そうとう ナガイキ だろう から ね」 「ええ、 ナガイキ を して、 ぼろぼろ に おいさらばえる まで……」 「ウワキ は やめない?」 「まあ、 アナタ って いう ヒト は、 ムカシ の ジュン な とこ すこしも なくなった わね。 どうして、 そんな いや な こと を いう ヒト に なった ん でしょう? ムカシ の アナタ は きれい だった わ」 タベ は、 キン の ギン の キセル を とって すって みた。 じゅっと にがい ヤニ が シタ に くる。 タベ は ハンカチ を だして、 べっと ヤニ を はいた。 「ソウジ しない から つまってる のよ」 キン は わらいながら、 キセル を とりあげて、 チリガミ の ウエ に コキザミ に つよく ふった。 タベ は、 キン の セイカツ を フシギ に かんがえる。 セソウ の ザンコクサ が なにひとつ アト を とどめて は いない と いう こと だ。 20~30 マン の カネ は なんとか ツゴウ の つきそう な クラシムキ だ。 タベ は キン の ニクタイ に たいして は なんの ミレン も なかった が、 この クラシ の ソコ に かくれて いる オンナ の セイカツ の ユタカサ に おいすがる キモチ だった。 センソウ から もどって、 タダ の ケッキ だけ で ショウバイ を して みた が、 アニ から の シホン は ハントシ-たらず で すっかり つかいはたして いた し、 サイクン イガイ の オンナ にも カカワリ が あって、 その オンナ にも やがて コドモ が できる の だ。 ムカシ の キン を おもいだして、 もしや と いう キモチ で キン の ところ へ きた の だ けれども、 キン は、 ムカシ の よう な イチズ の ところ は なくなって いて、 いやに フンベツ を こころえて いた。 タベ との ひさびさ の デアイ にも いっこう に もえて は こなかった。 カラダ を くずさない、 きちんと した ヒョウジョウ が、 タベ には なかなか ちかよりがたい の で ある。 もう イチド、 タベ は キン の テ を とって かたく にぎって みた。 キン は される まま に なって いる だけ で ある。 ヒバチ に のりだして くる でも なく、 カタテ で キセル の ヤニ を とって いる。
 ながい サイゲツ に さらされた と いう こと が、 フクザツ な カンジョウ を オタガイ の ムネ の ナカ に たたみこんで しまった。 ムカシ の あの ナツカシサ は もう ニド と ふたたび もどって は こない ほど、 フタリ とも ヘイコウ して トシ を とって きた の だ。 フタリ は だまった まま ゲンザイ を ヒカク しあって いる。 ゲンメツ の ワ の ナカ に しずみこんで しまって いる。 フタリ は フクザツ な ツカレカタ で あって いる の だ。 ショウセツテキ な グウゼン は この ゲンジツ には ミジン も ない。 ショウセツ の ほう が はるか に あまい の かも しれない。 ビミョウ な ジンセイ の シンジツ。 フタリ は オタガイ を ここ で キョゼツ しあう ため に あって いる に すぎない。 タベ は、 キン を ころして しまう こと も クウソウ した。 だが、 こんな オンナ でも ころした と なる と ツミ に なる の だ と おもう と ミョウ な キ が した。 ダレ から も チュウイ されない オンナ を ヒトリ や フタリ ころした ところ で、 それ が ナン だろう と おもいながら も、 それ が ザイニン に なって しまう ケッカ の こと を かんがえる と ばかばかしく なって くる の だ。 たかが ムシケラ ドウゼン の ロウジョ では ない か と おもいながら も、 この オンナ は ナニゴト にも どうじない で ここ に いきて いる の だ。 フタツ の タンス の ナカ には、 50 ネン かけて つくった キモノ が ぎっしり と はいって いる に ちがいない。 ムカシ、 ミッシェル とか いった フランスジン に おくられた ウデワ を みせられた こと が あった けれども、 ああした ホウセキルイ も もって いる に ちがいない。 この イエ も カノジョ の もの で ある に きまって いる。 オシ の ジョチュウ を おいて いる オンナ の ヒトリ ぐらい を ころした ところ で たいした こと は あるまい と クウソウ を たくましく しながら も、 タベ は、 この オンナ に おもいつめて、 センソウ サナカ アイビキ を つづけて いた ガクセイ ジダイ の、 この オモイデ が いきぐるしく セイセン を はなって くる。 サケ の ヨイ が まわった せい か、 メノマエ に いる キン の オモカゲ が ジブン の ヒフ の ナカ に ミョウ に しびれこんで くる。 テ を ふれる キ も ない くせ に、 キン との ムカシ が リョウカン を もって ココロ に カゲ を つくる。
 キン は たって、 オシイレ の ナカ から、 タベ の ガクセイ ジダイ の シャシン を 1 マイ だして きた。 「ほほう、 ミョウ な もの もって いる ん だね」 「 ええ、 スミコ の ところ に あった のよ。 もらって きた の、 これ、 ワタシ と あう マエ の コロ の ね。 この コロ の アナタ って キコウシ みたい よ。 コンガスリ で いい じゃ ない? もって いらっしゃい よ。 オクサマ に おみせ に なる と いい わ。 きれい ね。 いやらしい こと を いう ヒト には みえません ね」 「こんな ジダイ も あった ん だね?」 「ええ、 そう よ。 コノママ で すくすく と そだって いったら、 タベ さん は たいした もの だった のね?」 「じゃあ、 すくすく と そだたなかった って いう の?」 「ええ、 そう」 「そりゃあ、 キミ の せい だし、 ながい センソウ も あった し ね」 「あら、 そんな こと、 コジツケ だわ。 そんな こと は ゲンイン に ならなくて よ。 アナタ って、 とても ゾク に なっちゃった……」 「へえ…… ゾク に ね。 これ が ニンゲン なん だよ」 「でも、 ながい こと、 この シャシン を もちあるいて いた ワタシ の ジュンジョウ も いい じゃあ ない の?」 「タショウ は オモイデ もん だろう から ね。 ボク には くれなかった ね?」 「ワタシ の シャシン?」 「うん」 「シャシン は こわい わ。 でも、 ムカシ の ワタシ の ゲイシャ ジダイ の シャシン、 センチ に おくって あげた でしょう?」 「どこ か へ おっことしちゃった なあ……」 「それ ごらんなさい。 ワタシ の ほう が、 ずっと ジュン だわ」
 ナガヒバチ の トリデ は、 なかなか くずれそう にも ない。 タベ は、 もう すっかり よっぱらって しまった。 キン の マエ に ある グラス は、 ハジメ の 1 パイ を ついだ まま の が、 まだ ハンブン イジョウ も のこって いる。 タベ は つめたい チャ を イッキ に のんで、 ジブン の シャシン を キョウミ も なく ヨコイタ の ウエ に おいた。 「デンシャ、 だいじょうぶ?」 「かえれ や しない よ。 このまま ヨッパライ を おいだす の かい」 「ええ、 そう、 ぽいと ほうりだしちゃう わ。 ここ は オンナ の ウチ で、 キンジョ が うるさい です から ね」 「キンジョ? へえ、 そんな もの キミ が キ に する とは おもわない な」 「キ に します」 「ダンナ が くる の?」 「まあ! いや な タベ さん、 ワタシ、 ぞっと して しまって よ。 そんな こと いう アナタ って きらいっ!」 「いい さ。 カネ が できなきゃ、 2~3 ニチ かえれない ん だ。 ここ へ おいて もらう かな……」 キン は、 リョウテ で ホオヅエ を ついて、 じいっと おおきい メ を みはって タベ の しろっぽい クチビル を みた。 ヒャクネン の コイ も さめはてる の だ。 だまって、 メノマエ に いる オトコ を ギンミ して いる。 ムカシ の よう な、 ココロ の イロドリ は もう おたがいに きえて しまって いる。 セイネンキ に あった オトコ の ハジライ が すこしも ない の だ。 キンイップウ を だして もどって もらいたい くらい だ。 だが、 キン は、 メノマエ に だらしなく よって いる オトコ に 1 セン の カネ も だす の は いや で あった。 ういういしい オトコ に だして やる ほう が まだ まし で ある。 ジソンシン の ない オトコ ほど いや な もの は ない。 ジブン に チミチ を あげて きた オトコ の ウイウイシサ を キン は イクド も ケイケン して いた。 キン は、 そうした オトコ の ウイウイシサ に ひかれて いた し、 コウショウ な もの にも おもって いた。 リソウテキ な アイテ を えらぶ こと イガイ に カノジョ の キョウミ は ない。 キン は、 ココロ の ナカ で、 タベ を つまらぬ オトコ に なりさがった もの だ と おもった。 センシ も しない で もどって きた ウン の ツヨサ が、 キン には ウンメイ を かんじさせる。 ヒロシマ まで タベ を おって いった、 あの とき の クロウ だけ で、 もう この オトコ とは マク に す べき だった と おもう の だった。 「ナニ を じろじろ ヒト の カオ みてる ん だ?」 「あら、 アナタ だって、 サッキ から、 ワタシ を じろじろ みてて ナニ か イイキ な こと かんがえて いた でしょう?」 「いや、 いつ あって も うつくしい キン さん だ と みほれて いた のさ……」 「そう、 ワタシ も、 そう なの。 タベ さん は リッパ に なった と おもって……」 「ギャクセツ だね」 タベ は、 ヒトゴロシ の クウソウ を して いた の だ と クチ まで でかけて いる の を ぐっと おさえて、 ギャクセツ だね と にげた。 「アナタ は これから オトコザカリ だ から タノシミ だ わね」 「キミ も まだまだ じゃ ない の?」 「ワタシ? ワタシ は もう ダメ。 このまま しぼんで ゆく きり。 2~3 ネン したら、 イナカ へ いって くらしたい のよ」 「ぼろぼろ に なる まで ナガイキ して、 ウワキ する って いった の は ウソ?」 「あら、 そんな こと、 ワタシ いいません よ。 ワタシ って、 オモイデ に いきてる オンナ なの よ。 ただ、 それ だけ。 いい オトモダチ に なりましょう ね」 「にげてる ね。 ジョガクセイ みたい な こと を いいなさんな よ。 ええ。 オモイデ だの って もの は どうでも いい な」 「そう かしら…… だって、 シバマタ へ いった の いいだした の アナタ よ」 タベ は また ヒザ を ぶるぶる と セッカチ に ゆすぶった。 カネ が ほしい。 カネ。 なんとか して、 ただ、 5 マン エン でも、 キン に かりたい の だ。 「ホントウ に ツゴウ つかない かねえ? ミセ を タンポ に おいて も ダメ?」 「あら、 また、 オカネ の ハナシ? そんな こと を ワタシ に おっしゃって も ダメ よ。 ワタシ、 1 セン も ない のよ。 そんな オカネモチ も しらない し、 ある よう で ない の が カネ じゃ ない の。 ワタシ、 アナタ に かりたい くらい だわ……」 「そりゃあ うまく ゆけば、 うんと キミ に もって くる さ。 キミ は、 わすれられない ヒト だ もの、……」 「もう タクサン よ、 そんな オセジ は…… オカネ の ハナシ しない って いった でしょう?」 わあっと アタリ イチメン みずっぽい アキ の ヨカゼ が ふきまくる よう で、 タベ は、 ナガヒバチ の ヒバシ を にぎった。 イッシュン、 すさまじい イカリ が マユ の アタリ に はう。 ナゾ の よう に ユウワク される ヒトツ の カゲ に むかって、 タベ は ヒバシ を かたく にぎった。 ライコウ の よう な トドロキ が ドウキ を うつ。 その ドウキ に シゲキ される。 キン は なんとない フアン な メ で タベ の テモト を みつめた。 いつか、 こんな バメン が ジブン の シュウイ に あった よう な ニジュウウツシ を みる よう な キ が した。 「アナタ、 よってる のね、 とまって いく と いい わ……」 タベ は とまって いく と いい と いわれて、 ふっと ヒバシ を もった テ を はなした。 ひどく メイテイ した カッコウ で、 タベ は よろめきながら カワヤ へ たって いった。 キン は タベ の ウシロスガタ に ヨカン を うけとり、 ココロ の ウチ で ふふん と ケイベツ して やる。 この センソウ で スベテ の ニンゲン の ココロ の カンキョウ が がらり と かわった の だ。 キン は、 チャダナ から ヒロポン の ツブ を だして すばやく のんだ。 ウイスキー は まだ 3 ブン の 1 は のこって いる。 これ を みんな のませて、 ドロ の よう に ねむらせて、 アス は おいかえして やる。 ジブン だけ は ねむって いられない の だ。 よく おこった ヒバチ の あおい ホノオ の ウエ に、 タベ の わかかりし コロ の シャシン を くべた。 もうもう と ケムリ が たちのぼる。 モノ の やける ニオイ が アタリ に こもる。 ジョチュウ の キヌ が そっと ひらいて いる フスマ から のぞいた。 キン は わらいながら テマネ で、 キャクマ に フトン を しく よう に いいつけた。 カミ の やける ニオイ を けす ため に、 キン は うすく きった チーズ の ヒトキレ を ヒ に くべた。 「わあ、 ナニ やいてる の」 カワヤ から もどって きた タベ が ジョチュウ の ゆたか な カタ に テ を かけて フスマ から のぞきこんだ。 「チーズ を やいて たべたら どんな アジ か と おもって、 ヒバシ で つまんだら ヒ に おっことしちまった のよ」 しろい ケムリ の ナカ に、 マッスグ な くろい ケムリ が すっと たちのぼって いる。 デンキ の まるい ガラスガサ が、 クモ の ナカ に ういた ツキ の よう に みえた。 アブラ の やける ニオイ が ハナ に つく。 キン は、 ケムリ に むせて、 アタリ の ショウジ や フスマ を あらあらしく あけて まわった。
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アニ イモウト

2016-09-07 | ムロウ サイセイ
 アニ イモウト

 ムロウ サイセイ

 アカザ は ネンジュウ ハダカ で カワラ で くらした。
 ニンプガシラ で ある カンケイ から フユ でも カワバ に でばって いて、 コヤガケ の ナカ で チチブ の ヤマ が みえなく なる まで シゴト を した。 マンナカ に イシ で へりどった ロ を こしらえ、 タキビ で、 カン の ウチ は うまい フナ の ミソシル を つくった。 ハル に なる と、 カラダ に シュ の セン を ひいた ウグイ を ヒトアミ うって、 それ を ジャカゴ の ノコリダケ の クシ に さして じいじい あぶった。 オナカ は コ を もって はちきれそう な やつ を、 アカザ は ホネゴト しゃぶって いた。 ニンプ たち は めった に わけて もらえなかった が、 そんな に くいたかったら テメエダチ も ヒトアミ うったら どう だ と、 トアミ を アゴ で しゃくって みせる きり だった。
 アカザ は ジャカゴ で セギ を つくる の に、 ジャカゴ に つめる イシ の ミハリ が きいて いて、 アカザ の ジャカゴ と いえば ユキゲドキ の アシ の はやい デミズ や、 ツユドキ の コシ の つよい ゾウスイ が マイニチ つづいて カワゾコ を さらって も、 たいてい、 リュウシツ される こと が なかった。 イシヅミブネ の ウエ で なげこむ ジャカゴ の イシ を ミハリ して いる カレ は ジャカゴ の ソコ ほど おおきい イシ で かため、 アイダ に コガタ の イシ を なげこませ、 スキマ も なく たたみこむ よう に メイレイ した。
 なげこむ イシ は ちからいっぱい に やれ、 イシ より も イシ を たたむ こちら の キアイ だ と おもえ、 へたばる なら イマ から シャツ を ほして かえれ、 アカザ は こんな チョウシ を フネ の ウエ から どなりちらして いた。 テメエ の フンドシ は かわいて いる では ねえ か、 そんな フンドシ の かわいて いる トセイ を した オボエ は ない オレ だ から、 そんな ヤツ は オレ の テ では つかえない、 アカザ は そんな ふう で ニンプ たち の タイキ を みせる ヤツ を どんどん カイコ した。 アサヒ が カワラ の イシ を まだ しろく しない マエ に、 いつも その ヒ の ニンプ だち の デアシ を しらべ 8 ジ が 5 フン おくれて いて も、
 ――なあ、 オレ にも オハット が ある と いう もの じゃ ない か。
 そう いう と シゴト の ワリアテ を しない で、 その ヒ は そんな ニンプ を つかおう と しなかった。 ドウグ を かついで ニンプ は カワラ から ドテ へ、 ドテ から イマ でて きた ばかり の イエ へ もどらねば ならなかった。 そんな ヤツ を ふりかえり も しない で、 7 ハイ の フネ に イシヅミ の テワケ を し、 ジャカゴドメ の ボウグイ を うつ モノ を ハダカ で ミズ の ナカ へ おいこみ カワラ では ジャカゴ を あむ シゴト を ヒトマワリ しらべる と フネ を フチ の ウエ に とめて スイシン に わりあてられる ジャカゴ の カズ を よんで いたり した。 そういう アカザ の モチブネ の ナカ に ながい タケ の エ の ついた ヤス が 1 ポン ヨウイ されて あって、 シンマス が およぎすんで いて、 ミズ と おなじ イロ を して いる の を メ に いれる と、 その ヤス の エ が スイシン いっぱい に しずみこんで ゆき、 さらに 5 スン ばかり トツゼン に ぐいと つきこまれた な と みる と、 ウソツキ の よう な クチ を あけた ぎちぎち した マス の アタマ の フカミドリイロ が、 みごと な 3 ボン の サカサボコ の カタチ を した ヤス の サキ を ゆすぶりながら さされて いた。 その オ の サキ で ウデッパラ を たたかれたら しびれて しまう と いわれた カワマス も、 アカザ の コブシ で がん と ヒトツ はられる と、 マス は オンナ の アシ の よう に べっとり と うごかなく なる の で あった。
 ニンプ だち は カワゾコ の シゴト で すら ゴマカシ が きかず に、 アカザ の ガン の ナカ で ミズ を くぐり イキ を はき に うかび、 また ミズ の ナカ に もぐって いった。 ワカバ の キセツ は ミズ の ソコ も そのよう に あたらしい ワカアユ や ハゼ や、 イシ まで あおむ こころよい シュン で あった から、 アカザ は カンシャク を おこす と ジブン も とびこんで いって、 ニンプ の カラダ を こづいたり アタマ を ヒトツ ひっぱたいたり して セスジ を たつ コウジ に いちばん カンジン な ソコダタミ に おおきな イシ を しずませる の で あった。 ミズ の ナカ で すら アカザ の シワガレゴエ が やまず に どなりちらされた。 どんな はやい ソコミズ の ある フチ でも アカザ は ヒラメ の よう に カラダ を うすく して しずんで ゆき、 スイチュウ の イキ の ながい こと は ニンプ たち も およばなかった。 ニンプ たち は ミズ の ナカ で おこった ギョウソウ を こわがった が、 ミズ の ナカ から あがる と いつも キゲン が よかった。 カワ の ヌシ で ある より も、 ジブン で つくった イケ くらい に しか、 カワ の こと を かんがえて いなかった。
 コヤガケ に ツキ に 2 ド の ゼニカンジョウ の ヒ には、 アカザ の ツマ の リキ が たずねて きた が、 これ は ミンナ から カカアボトケ と いわれる ほど、 ゆったり と モノワカリ の よい ニュウワ な オンナ だった。 リキ は いつも アカザ を あんな ヒト だ から あんな ヒト と おもうて つきあって くだされ、 いくら ソト から いったって ダメ だ から ききたく ない こと は きかなく とも よい から と、 てんで アカザ を アタマゴナシ に ときふせて いる が、 アカザ は リキ に かまいつけない で、 ふん とか、 うん とか、 それ だけ コトバミジカ に ヘンジ を する だけ だった。 ゼニカンジョウ は カワラ シゴト には めずらしい くらい きれい に しはらわれ、 ケチ な ハシタ を けずる こと なぞ しなかった。 リキ が ウケオイ の アトバライ を サキ に まわす こと に ニンキ を えて、 カンジョウビ に センベイ や オイモ の ツツミ を もって ドテ の ウエ に スガタ を あらわす と ニンプ たち は ミンナ テ を ふって むかえた。 オチャ の 3 ジ には リキ を とりかこんで アラオトコ たち が ゲンキ に べちゃくちゃ しゃべり、 リキ の テ から もらう カネ を キモノ に いれたり テヌグイ に つつんだり して、 カワラ が いっぱい に コエ を そろえて、 にぎおうて くる の で あった。 アカザ は リキ から ホウコク を きく だけ で カネ の こと は ながい アイダ の シュウカン で、 マカセキリ で あった。 アカザ は シゴト だけ を し に きて いる よう で、 ヨウジ の ない 3 ジ にも カワラ と カワラ を ニブン して いる ナガレ と を、 みつめて いる に すぎなかった。 ニッコウ の ナカ で シゴト を しつづけて いる ニンゲン は、 メ の ナカ に まで ヒヤケ が して いる ごとく アカザ の メ も そのよう で あった。 そのよう な メ は ただ カワシゴト を する だけ に うまれついて いる よう で あり、 アメツヅキ の デミズ の ヒ にも わざわざ デバ まで いって、 にごって ぶつぶつ ドロ を にて いる カワミズ を ながめて いた。 そんな とき に にごった アカザ の メ は かなしそう に しぼんで、 ダクリュウ の ナカ に そそぎこまれて いる よう で あった。 つないで ある フネ は キシ と スレスレ に ナミ に おしあげられ、 コヤ は きれい に ながされて しまった ドロナミ の たった カワラ は、 アカザ なんぞ の チカラ や メイレイ が どんな に ナカマ の アイダ に ハバ が きいて も、 デミズ の イキオイ には かなわなかった。 ナナツ の とき から カワラ で そだち、 15 で イチニンマエ の イシオイ が でき、 ジャカゴ の タケ の ササクレ で アシ を チダラケ に して そだった アカザ は、 デミズ の ドロニゴリ を みる たび に おそろしい もん だなあ と おもう が、 どうして そんな デミズ が おそろしい ヒャク スウジッポン の セギ の ジャカゴ を おしながして しまう か が わからなかった。 ハタチ コロ から イッポンダチ に なって も ジャカゴ の コシラエ は 1 ネン と もたない で ながされて しまう が、 やっと カワゾコ の ブン だけ は いつも のこって いて それ だけ でも ナカマ では 「アカザ の ジャカゴ」 と して ほめられて いた。
 アカザ は リキ が カンジョウ を すまして かえろう と する と、
 ――モンチ は かえって きた か。
 と、 カンジョウ を あらわさない で、 なんでも ない こと を そういう よう に きいた。
 ――かえって こない ん です。
 ――イノスケ は シゴト に でた か。
 ――あれきり フテネ して いる の。
 ――もう ヨウ は ない よ。
 アカザ は そう リキ に いう と、 モチバ に ついた ニンプ だち の ほう に むいて あるきだした。 ふとった アカザ は ふとった ヒト が どっしり と あるく クセ が ある よう に、 カワラ の ウエ に たくましい カラダ を はこんで いった。
 アカザ には 3 ニン の コドモ が あった。 コドモ は コドモ で ある が、 チョウナン の イノ は 28 に なり イシヤ に ネンキ を いれ イチニンマエ に なって いた が、 ナマケモノ の うえ に どこ で どう カンケイ を つける か、 しょっちゅう オンナ の こと で ゴタゴタ が たえなかった。 ワタリ の きく イシ ショッコウ でも イノ は ボヒ の ブンコク に ウデ が さえて いた から、 コクメイ に さえ はたらけば カネ に なった が、 1 シュウカン か トオカ-カン も はたらきつめる と その カネ を もった きり、 2~3 ニチ は かえって こなかった。 イモウト の モン の イイグサ では ない が アサクサ アタリ の デンシャ や ジドウシャ が ごう と なって きこえる の でしょう と いって いた。 ミッカ も たって かえる と また シゴト を はじめ その カネ が テ に はいる と、 また すぐ でかけて しまう の で あった。 リキ の コゴト など てんで ミミ に いれず、 アカザ は ヒ が くれなければ シゴト から かえらない ので、 バン は うまく オヤジ と カオ を あわす こと を さけて ソト に でて いた。
 イノ の シタ に イモウト が フタリ いて アネ は モン と いい、 ミンナ から アイショウ を モンチ と いわれて いた が、 シタヤ の ダントウジ に ホウコウ して いる うち に ガクセイ と できて しまい、 その コドモ を はらむ と、 ガクセイ は クニ に かえって しまい ブンツウ は なかった。 ぐれだした モン は ホウコウサキ で ツギ から ツギ と オトコ が でき、 コンド は コリョウリヤ や サカバ を それ から それ と わたりあるいて ハントシ も かえって こなかった。 かえって くる と だらしなく ねそべって ナニ か だるそう に あえいで いる よう な イキヅカイ で、 リキ を アゴ で つかって いた。 リキ は クチコゴト を いいながら も、 この コ は つまらない こと で クロウ して いる が、 イイカゲン に しない か と いい、 ハンブン は カオ を みる の も いや そう に しながら、 ハンブン は きつく あわれがって たべたい もの を つくって やり、 ねむれる だけ ねむらして おく の だった。 じっさい、 モン は ねむりたりた と いう こと も ない ほど カオ が マッサオ に なる まで ねむって いた。 リキ は そんな クタビレ が よく わかる キモチ が し、 アニ の イノ が ソトドマリ で かえって くる と、 やはり シュウジツ ウチトオシ で カラダ に アナ の あく ほど ねむって いた。 カレラ キョウダイ は おきる と、 メ を ほそめ いまだ クタビレ の のこる だるい カラダ を カタテ で ささえながら、 ハハオヤ の テマメ に うごく スガタ を めずらしく も なく ながめる だけ で あった。 イノ は この ハハオヤ が しんだら この イエ には いられない と おもう とき だけ、 リキ が ハタラキツメ で うちたおれ でも しなければ よい が と、 ハハオヤ の カオ を ちょっと の マ ミ に しみて みる の で あった。 だが、 そんな こと は その アイダ だけ で すぐ わすれて しまった。
 モン は こんな こと を いって それ が いちばん カンジン な こと で ある よう に、
 ――オカネ の シンパイ だけ は させない わ。
 と、 ハハオヤ に いう の で あった。
 やっと 1 ネン も たって ガクセイ で あった オバタ が アカザ の イエ に たずねて きた とき は、 モン は ゴタンダ の どこ か に つとめて いた が、 レイ に よって トコロバンチ は しらない ので タズネヨウ が なかった。 そのかわり ツキ に イチド は キタク する から と いう の だ。 リキ ヒトリ で この モンダイ の カイケツ の シヨウ が なく カワラ の デバ に いって アカザ に この ハナシ を した。 アカザ は だまって コヤ から でる と、 リキ と イッショ に ドテ の ウエ に のぼり、 ドテヅタイ に ちかい ジタク へ いそいだ が、 リキ は アイテ が わかい ガクセイ の こと で ある から てあら な こと を しない で いて くれる よう に いった。
 ――たぶん、 コドモ の シマツ を つけ に きた ん でしょう。 まだ、 コドモ が いきて いる と でも かんがえて いる の じゃ ない かしら。
 ――すれた オトコ に みえる か。
 ――まるで ボッチャン です。
 アカザ は コバタ と むきおうた が、 アカザ の タイシツ フウボウ の イアツ で オバタ は すぐ モノ が いえない ふう で あった。 アカザ は タンテキ に ヨウケン を てばやく いって いただきましょう と いった きり、 むっつり と だまりこんで しまった。 オバタ は イマ まで うっちゃって おいて あがれた ギリ では ない が、 クニ の オヤジ に キンソク ドウヨウ に されて いて ぬけだす スキ が なかった の だ と いった。 コンド ジョウキョウ して イロイロ の ヒヨウ を フタン させて もらい、 それ を ジブン だけ の リョウシン の ツグナイ に したい と いった が、 カンジン の モン と イッショ に なる とか、 モン に あわせて くれ とか いう こと を ヒトコト も いわなかった。 かえって モン が いない の が この オトコ に ツゴウ の よい ゴタゴタ を さけさせて いる よう に、 アカザ は すぐ みぬいて しまった。 もひとつ よわそう な ガクセイ アガリ に みえる この セイネン の ジッチョク そう な ヨウス とは ハンタイ に こういう オトコ だ から 1 ネン の アイダ どんな テガミ を やって も、 ヘンジ 1 ポン ださず に いる コンキ ヨサ と、 ツッパナシ の コシ を すえる こと が できた の だ と、 あおじろい カオ に リコウ そう に カクゴ を きめて しゃべって いる オバタ を、 コイツ バカ で ない カケアイ を もって きた と おもった。
 ――コドモ は シザン でした。 モン は あれ から、 やぶれかぶれ です。
 アカザ は これ だけ いう と、 おどろいて メ を きょとん と させた オバタ に つつみきれない メンドウクササ から ぬけた ほっと した キモチ を かんじる こと が でき、 アカザ には それ が すぐ わかって ヤロウ うまく やりやがった と おもい、 とおい タマ まで アシ を はこんだ カイ が あったろう と、 そう カレ は だぶだぶ の ハラ の ナカ で おもった。 オモン さん は イマ どこ に いる の でしょう、 よかったら イドコロ を しらして いただけない でしょう か。 ボク は あやまりたい こと も たくさん たまって いる ので、 それ を あやまって さっぱり した キモチ に なりたい の です と、 イキオイ を えた ミョウ な コウフン した ゴセイ で オバタ は いった が、 アカザ は この アオニサイ イイキ に なって いる と、 みえすいた カレ の アンド した キモチ が、 アタマ を あおって きた。 モン の ハラ に コドモ が ある と リキ から きいた とき の ぐらぐら した いや な キモチ を もてあつかった あの ジブン の、 カワラ シゴト の デバ の フキゲン を けちらす こと が できず に、 どれだけ コモノ ニンプ に コブシ や ホオウチ を くらわした か わからなかった。 アカザ は つかれて いる の じゃ ない か と カゲグチ を たたかれる ほど、 そこら に キモチ を おちつける ところ が なかった。
 モン は オクノマ で ネタキリ で あった。 ムスメ が はっきり と ダレ か に オモチャ に され まけて かえって きた と、 かんがえる と、 まけた こと の ない アカザ は モン の カオ を みたく も なかった。 ドウラクモノ の イノ は ああ なる こと は ハジメ から わかりきって いる こと だ、 だから オレ は イエ から オンナ を はなす こと は あぶない と いった の だ と、 リキ を ヒマ さえ あれば いじめた。 リキ は いじめられた きり で だまって いた が、 イノ が ときどき きたない もの を ひっくりかえす よう に モン の ネドコ に たちあがった まま、 おおかた、 ニヤケ ヤロウ に べたついて、 コドモ ジブン の ヨダレ を もう イッペン たらしやがった ので、 ヘソ の ウエ が せりだした の だろう。 イヌ だ か ムク だ か ワケ の わからない もの を へりだす マエ に、 なんとか、 リコウ に カタ を つけた ほう が いい、 ラシャ-くさい ショセッポ の ひいひい なきやがる ガキ の タマゴ の ヨナキ なんぞ きく の は まっぴら だ と、 ズツウ で コオリ で ひやして いる マクラガミ で どなる ので、 リキ は わざわざ イノ に あんまり クチ が すぎる よ、 オマエ の しった こと じゃ ない から こっち に きて いて くれ と いって も、 チカゴロ ヨソ の オンナ との アイダ の うまく ゆかない イノ は なんの ハライセ だ か、 どなる こと を やめなかった。 シンミ の キョウダイ の にくみあう キモチ は こんな に つっこんで アクタレグチ を たたく もの か と、 ハハオヤ は あきれて モノ が いえない くらい だった。 イノ は ツヅケザマ に その ツラツキ で いちゃつきやがった か と おもう と、 オラ、 ヘドモノ だ、 しかも アイテ の ヤロウ は テメエ より 10 バイ-ガタ リコウ と きて いる から、 しゃぶって しまったら アト に ヨウ の ない オンナ と ズイトクジ を きめこんだ、 まったく ネンジュウ その ツラ を みて いる ヤツ も たまらない から なあ、 ナマエ も いわなければ クニ の トコロ も いわず ヤロウ は ヤロウ で うん とも すう とも いって こない じゃ ない か。 そんな ヤロウ を かばいやがって いとしがる なんて コンチクショウ あ、 まったく ほれた ん だ か ぬけやがった ん だ か しらない が ホウズ の ない アマッチョサ、 ハラ ん ナカ の ガキ が どんどん ふとりやがって ズ に のって ぽんと とびだした ヒ にゃ、 セケン じゃ ダレ あって アイテ に して くれる モノ は なし さ、 ガキ を つれて ドテ から ノリアイ に のって トウキョウ の マンナカ へ でも いって、 どこ か に カエル の よう に つぶれて しまう か しなければ おさまる シロモノ じゃ ない と、 ジブン で チョウシ-づいて ドクゼツ の コヤミ も なかった。 リキ が とめる と また かっと なって オッカア も オッカア じゃ ない か、 こんな シタタカモノ を うみつけて おいて いまさら オレ の クチ を ふさごう なんて、 おんならしく も ない こと さ、 イモウト の サン の こと を おもう と オラ サン が かわいそう な くらい さ、 ――イノ は スエ の イモウト の サン が キマジメ に ホウコウサキ に いて ときどき ハキモノ なぞ ミヤゲ に もって かえる こと を、 ほめて いう の で あった。 サン の ハナシ が でる と ミンナ だまって サン の こと を かんがえて いた。 あんな おとなしい コドモ も いる のに、 イノ よ、 オマエ の よう に シゴト も しない で アサ から トウサン の コメ さ たべて がんがん いって いる ヒト も いる ん だ、 おこって いい とき と わるい とき と が ある、 イマ は、 モン を とっつかまえて おこる とき では ない の だ もの、 おこって よかったら トッサン に おこって もらえば いい の だ、 トウサン は だまって いなさる の だ もの、 ミナ も だまって モン を しずか に して やらん ならん じゃ ない か と リキ は モチマエ の コエ の やさしい わり に ヒト の アタマ に くいこむ よう な コトバヅカイ で たしなめる の で あった。 モン は モン で ネドコ の ナカ で ズツウ で カオ を しかめながら、 ニイサン だって アヒル と おなじ で ウミッパナシ に して おいて カアサン に アトクチ を いつも ふいて もらって ばかり いる じゃ ない か。 ウラ の トグチ まで オンナ を ひきずりこんで いて とうとう トウサン に みつかった の を、 アタシ が ふらり と でて やって さ、 ソト の オンナ の スガタ を かくまって あげた とき あ、 くらい ところ で テ を あわせて オレイ を いった くせ に、 こんな よわって いる アタシ を イヌ の コ か ナニ か の よう に ヒマ さえ あれば きたない もの アツカイ も タイガイ に して ちょうだい、 ニイサン に たべさして もらって いる ん じゃ あるまい し、 ナニ か の くせ に ぶりぶり して つっかかったり して、 あんまり ひどい わ。 オナカ の ほう の カタ が ついたら アタシャ カカリ は どんな こと を したって つぐなう つもり です。 それ を シオ に もう いっさい カアサン トウサン に シンパイ は かけない わ。 だから、 ワタシ の カラダ に キズ が ついた の を キッカケ に、 アタシ の カラダ を アタシ が もらいきって どんな に しよう が ダレ から も なんにも いわれない つもり よ、 トウサン だって いってた わよ、 オマエ は オマエ で カタ を つけろ、 そんな ムスメ の ツラ あ みる の も いや だ と いって いた わ。 だから ニイサン から そんな ニイサンヅラ を されたって ズツウ が する ばかり で なんにも こたえない わ。 ヨソ の オンナ の シュビ が わるい から って そんな キモッタマ の ちいさい こと で わめきたてる と、 いっそう オンナ に すかれない もの さ。
 アカザ は こういう ごちゃごちゃ した イッカ の ナカ で むんずり と くらして いた あの ジブン の よわった キモチ を かんがえる と、 メノマエ に かしこまって いる ハナ を たらしそう な アオショセイ が、 ムスメ の アイテ とは おもえない キ も して いた。 リキ が てあら な こと を して くれるな と いった が、 だんだん そんな キ が しない で コイツ も かわいそう な どこ か の コセガレ だ と おもわず に いられなかった。 その ハンタイ に カエリ に ドテ の ウエ に おびきだして おもうさま コンチクショウ を はりたおし、 ムスメ の イッショウ を めちゃくちゃ に した ツグナイ を して やろう か とも かんがえて みた が、 アオショセイ を アイテ に して いい トシ を して そんな てあら な こと が できる もの では なかった。 アカンボウ は しんで いる し ムスメ も まんざら で なかった オバタ の こと だ から、 そっと かえして しまった ほう が いい よう に おもわれた。
 ――モン は アンタ に あいたく も なかろう から このまま ひきとって もらいましょう。
 アカザ は こう いう と シゴトチュウ だ から と、 もう たちあがって ドマ に おりて いった。 そして もう イチド オバタ の ほう を みる と、 アカザ は ハンブン しょぼしょぼ な カオツキ に なって、 かんがえて いる こと の ハンブン も いえない よう な コエ で いった。
 ――オバタ さん、 もう こんな ツミツクリ は やめた ほう が いい ぜ、 コンド は アンタ の カチ だった がね。
 アカザ は ジブン で いった コトバ に すっかり まいった キモチ に なり、 いそいで ドテ の ウエ に あがって いった。 ハレツヅキ の カワラ は、 マッシロ に ひかって いる ところ と、 ザッソウ に へりどられた カワラ の ハナレバナレ に なった ところ と、 さらに べっとり と しめった ス の うつくしい アメイロ の ハダ を ひろげた ところ と、 それら の こうぼう と した ケシキ は ひかった ブブン から サキ に メ に はいって ゆき、 はやい ナガレ を つづる 7 ハイ の シゴトブネ が チョウ の ハネ の よう に しろく みえた。 モン も イノ も、 そして サン も ミンナ フナシゴト の アガリ で そだてられた。 モン や、 サン の ウマレガケ の ジブン は リキ は わかくて サキ の やさしい トガリ を もった チブサ を もって いて、 ベントウ の とき には その カラ を もって かえる まで チブサ を ふくませ、 つんで くえる クキ を ぬいて いたり して いた の も、 そんな に とおい こと とは おもえなかった。 だのに ムスメ は コドモ を うみおとす よう に なり その オトコ と つきあって も ショウジキ に どなる キ さえ おこらなかった の は、 よほど アカザ の ココロ が こういう モンダイ に ヨワリ を みせて いる と しか おもえなかった。 リキ に して も アカザ の オウタイ が あんまり オウヨウ-すぎる の と、 かえって アカザ ジシン が はやく この モンダイ から カンガエ を もぎとりたい と あせって いる こと さえ、 さっせられた の で あった。 あの ヒト も よほど よく なり モノワカリ が よく なった と、 リキ は ちょっと ありがたい キモチ に さえ なった の だ。 テ の はやい アカザ は ハナシ の ハンブン から なぐる こと しか かんがえなかった。 なぐる こと が しゃべる 10 バイ の キキメ が ある と いう こと を、 シゼン に ヒトツ の ホウソク の よう に して いる アカザ は リキ に モノ を いう の に、 すこし の マワリクドサ が ある と すぐに なぐる こと しか しらなかった。 リキ は ナグラレドオシ だった が それ の カズ が すくなく なり、 なぐられる と こわい ぞ と いう カンカク が リキ の アタマ に カゲ を ひそめて から、 だいぶ トシツキ が たって いた。 オバタ に そう しなかった の が リキ には うれしく、 オバタ は にくみたりなかった けれど なんの カンガエ も なく やった こと を、 リキ は、 モン も わるい し オバタ も わるい と かんがえて いた。 その カンガエ の ソコ を かっさらって みる と どうにか した エン の マワリアワセ で、 モン と オバタ と が イッショ に なれない もの か と そんな こと も かんがえて みた が、 モン は もう ジダラク な、 ダレ も トリツキヨウ の ない オンナ に なって いた から オバタ に その こと を とく にも、 オバタ が あんまり おとなしすぎる ので ひかえられた。 リキ は オバタ を あいした モン の キモチ が だんだん わかって くる よう な キ が し、 オバタ が かえって ゆく の が おしい よう な キ が した。
 ――コンド ヤドサガリ を して きましたら、 アナタ が おたずね くだすった こと を モン に そう いいつけます。
 リキ は ハハオヤ-らしく そんな やさしい コトバ さえ つい だして しまった。
 ――そして トコロ を きいて おいて ください。
 オバタ は カネ の ツツミ を とりだし ムリ に リキ の テ に おさめさせた。 リキ は オバタ を おくって でて、 この ヒト には イッショウ あえない だろう と かんがえた。 オバタ も ハハオヤ-らしい リキ に したしむ こと が こころよく かんじられた ので、 ぐずついて すぐに マエニワ から トオリ へ でよう と しなかった。 リキ が つちこうた ナツギク とか バショウ とか アヤメ とか を みて いて、 ナツ さく キク は どんな イロ です か と たずねたり して いて、 ヘン な ナツカシサ から わかれられなそう に みえた。
 リキ は おもわず たずねて みる の で あった。
 ――アナタ は オイクツ に なる ん です か。
 ――ボク です か、 ボク は 24 に なった ところ です。
 イロ が しろくて シンケイシツ な オバタ は トシ より も わかく みえた。 モン と できた の は 23 の ハル に なる、 モン と ヒトツ チガイ に しか ならない と、 リキ は かんがえた。 リキ が アカザ の ところ に きた の は 22 の とき で、 あの ジブン まるきり オンナ と して の アカンボウ と しか おもえない ほど、 なにもかも わからなかった。 オバタ が 1 ネン たって も たずねて きた の は セイイ が ある から で あって、 その セイイ に キ の つかなかった センコク から の ジブン が ウカツ に おもわれだした。 まったく の わるい ニンゲン なら イマ に なって たずねて くる など と いう トンマ な マネ は しない で あろう。
 オバタ は マンネンヒツ で メイシ に トコロバンチ を こまかく かきいれ、 それ が ジブン の ジュウショ だ から と いった。
 ――オモン さん に わたして おいて ください。
 オバタ は そう いう と タンボミチ を ドテ の ほう へ、 ナンド も アイサツ を しながら わかい セイ の たかい カラダ を はこんで いった。 リキ は ぼんやり みおくって いた。 わるい とき には わるい もの で 2~3 ニチ カオ を みせなかった イノ が ふらふら かえって きて、 メ を ほそめて オバタ を みて いた が モン の オトコ で ある こと を しる と、 ひどく つかれて あおく なって いる カオ に カンシャク を むらむら と あらわした。 そして オバタ が イエ を でて タンボミチ から ドテ へ あがる と、 リキ に みられない よう に オバタ の アト に ついて いった。 オバタ も チョッカクテキ に モン の アニ だな と かんじ、 その カンジ が キュウゲキ に キョウフ の ジョウ に かわって しまった。 イノ は だまって 1 チョウ ばかり ついて ゆき、 やがて おいついて も キュウ に コエ を かけず に シュウネン-ぶかく、 オバタ と カタ を スレスレ に あるいて いった。 アカザ に にた イノ の カオ は あかるい ドウブツテキ な カンシャク で モミクチャ に なり、 オバタ は いつ イノ が とびかかって くる か わからない アセアブラ を にちゃつかす、 ソコオソロシサ に アシ が すくんで しまった。 はやく コエ を かけて くれれば よい と、 かんがえて も、 イジワル な かさなる ケンオ に キ を とられた イノ は ジブン でも すぐに コエ の かけられない ほど せっぱつまって、 ミミ の アタリ が ぶんぶん なって くる ほど の ハラダタシサ で あった。
 ――キミ、 ちょっと。
 イノ の コエ は これ だけ で あった が、 よばれた ので オバタ は たすかった と おもい、 できる だけ ジュウジュン に こたえた。
 ――は、
 ――オレ は モン の アニ です。
 イノ は こう いう と オバタ は マッサオ な カオツキ に なった。 キミ に ハナシ を したい こと が ある の だ。 そこ に すわれ ハナシ が ある から と ほとんど メイレイ する よう に いった。 オバタ は しかたなく ドテ の ウエ に コシ を おろした。
 イノ は ソノゴ モン に あった か と オバタ に いい、 オバタ は あわない と こたえた。 いったい、 キミ は モン を オモチャ に して おいて オレダチ イッカ を サンザン な メ に あわせた が、 それ で よく ウチ に こられた もの だ、 モン は オレ が コドモ の とき に だいて イッショ に ねて やり、 ヨナカ には ショウベン に おこして マイバン ドマ が くらい から ついて いって やった もん だ。 モン は まるきり アカンボウ だった ジブン から いつも オンブ して いて、 シマイ に、 モン の コモリ を しない と あそび に でられなかった もの だ。 オレ は モン の 17 くらい の とき まで、 モン の カオ を みない ヒ は なく モン と メシ を くわない ヒ が なかった。 モン の カラダ の どこ に アザ が ヒトツ あって それ を モン が おおきく なる まで しらなかった こと を おしえた の も オレ だ。 オレ と モン とは まるで キョウダイ より か もっと ナカ が よかった。 テメエ の コドモ を ハラ の ナカ に もって かえった とき は オレ は モン を いじめ、 モン に アクタイ の ある だけ を つくし、 シマイ に イヌチクショウ の よう に きたながって やった もの だ。 ハハ は あんまり ひどい クチ を きく オレ を それ が ホントウ の オレ の よう に にくみだし、 オレ を ケムシ の よう に きらいだし モン の ほう に つく よう に なった の だ、 そう しない と ミナ が モン を ジャマモノ に する から だ。 オレ は きっと テメエ が たずねて くる とき が ある こと を みぬいて いて、 そしたら テメイ に モン と オレ と が そんな に ナカ の よい キョウダイ だった こと と、 オレ が アカンボウ から そだてた よう な もの だ と いう こと を しらせて やりたかった の だ。 テメエ は タダ の ショセッポ で、 オトコ に うまれついて いる から やる だけ の こと を やって しまったら、 ニンプ フゼイ の ムスメ なんぞ に もう ヨウ は ない だろう。 ありがち の こと だ から うっちゃって しまえば ワケ は ない だろう、 だが、 そう は うまく、 ウチ の オヤジ の よう に きれい に テメエ を テメエ に もどす こと は できない の だ。 イノ は こう いう うち にも オバタ の テクビ を いつのまにか つかんで、 それ を ちからいっぱい に つかみかえし ギャク に もみあげたり しながら、 メ に ナミダ を うかべて ドウラクモノ と いう もの は こんな ヘン な オモイアガリ を する もの か と おもえる くらい、 シンミ に ぞくぞく した クヤシサ に かきむしられて、 その メ の イロ は アイテ に かみつかん ばかり の クチツキ と イッショ に とがって ゆき、 オバタ は つかまれた ブン から サキ の テ を しびれさせ、 キョウフ イジョウ の キョウ に おいつめられた まま、 これから サキ どう なる の か、 どういう てあら な こと を されて も こばめない ジブン から、 どういう ふう に にげだしたら いい か さえ かんがえつけない ほど、 イノ の いう まま に なり まるで バカ の よう に なって いた。
 ――キミ は ただ あやまり に きた だけ か。
 ――あやまる より ホカ に いう こと が ない ん です。
 ――モン を アノママ に うっちゃって おく つもり か。
 ――あったら なんとか フタリ で ソウダン する つもり で いる の です。
 ――イッショ に なる キ か。
 ――そう なる かも しれません。
 ――ウソ つきやがれ。
 イノ は かっと して オバタ の ホオ を ヒラテ で うち その ハズミ に ドテ の ウエ に けとばした。 そんな ランボウ な こと を しない で クチ で いえば わかる では ない か と いう オバタ を、 イノ は チカラ に まかせて いっそう はげしく ホオウチ を くわした。 テメエ の よう な ヤツ は ここ で どんな ひどい メ に あったって イッショウ ろく な こと を しない こと は わかって いる が、 これ くらい の こと は、 モン の こと を かんがえたら ガマン して いろ。 モン は もう イチニンマエ の オンナ には ならず に ハシ にも ボウ にも かからない オンナ に なって しまった の だ。 けれども テメエ の よう な ヤロウ と イッショ に なろう とは かんがえない だろう、 そんな ハナシ を もちこんだって モン は つっぱなして しまう だろう、 モン は カラダ は ジダラク に なって いる が キモチ は イゼン より か しっかり して いる の だ。 テメエ が くどきおとした キムスメ-らしい もの は モン の どこ を さがして も さがしきれない だろう し、 モン は そんな オボコ-らしい もの は すっかり なくして いる の だ、 それ は テメエ が みんな そう させた の だ、 テメエ さえ テダシ を しない で いたら、 アイツ は あんな オンナ に ならなかった の だ。
 ――もう ニド と くるな、 そして アイツ を なかせたり もう イッペン だましたり オモチャ に しない こと を ヤクソク しろ。
 ――まったく ボク が わるい の です。 なんと いわれて も シカタ が ない の です。
 イノ は たちあがる と、 アイテ が あまり ジュウジュン なので ハリアイ が ぬけ、 いくらか の きはずかしい キモチ で ジブン の した こと が アタマ に こたえて きて ならなかった。
 ――それでは キミ は もう かえれ。 オレ は モン の アニ なん だ、 キミ も イモウト を もって いた なら オレ の した こと くらい は わかる はず だ。
 ――では。
 オバタ は イマ イノ の いった コトバ が よく わかる よう な キ が し、 センコク と くらべる と イノ の カオ が おだやか に なって いる の を、 ひどい メ に あった こと と まるで ハンタイ な コウカン を もって みる こと が できた。
 イノ は なにやら いいたい フウ を した が、 オバタ は それ が イノ ジシン の した こと で ユルシ を こう もの に かんがえられて ならなかった。 イノ は とうとう いった。
 ――マチ に でる と ノリアイ が ある。 ヨツツジ で まてば いい の だ。

 1 シュウカン の ノチ モン は ふらり と かえって きた が、 おりよく スエ の イモウト の サン も ヤドサガリ を して フタリ は アカザ の コヤ に ベントウ を もって いった が、 アカザ は フタリ の スガタ を みた きり なんとも いわなかった。 めずらしい シマイ が ドウジ に かえって きて も ヒトコト も クチ を きかなかった。 シマイ が ドテ の ウエ を かえって ゆく の を フタリ が キ の つかない うち に、 アカザ は しばらく みつめて いた。
 リキ が このあいだ オバタ が たずねて きた こと を はなした が、 モン は その ハナシ を ゆっくり きいて べつに おどろく フウ も みせなかった が、 トウサン は どう いって オウタイ して いた か と それ が キ に なる らしく、 それ だけ を せきこんで きいた。 トウサン は なんにも いわず むしろ いたわる よう な チョウシ だった と いう と、 そう、 わるかった わね、 あの ヒト は もう こなく とも よかった のに と いった。 そして コンド イノ ニイサン と あわなかった の と たずねた が、 リキ は あわなかった らしい と こたえた。 それ や ナニ より だわ、 あの ヒト に あう と メンドウ な こと に なった かも しれない もの、 と、 モン は アンシン して ヨコ に なり、 ソラメ を して、 ちょっと いい オトコ じゃ ない の カアサン と いった。 バカ ナニ を イマ に なって いう の だ、 コドモ まで しょいこませた オトコ の こと を まだ ほめて いる なんて、 イイカゲン に する が いい と リキ は にがにがしく いった が、 モン は あの オトコ から アト に オトコ が できて も あんな に アルタケ の もの を すき に なれる オトコ なんて なかった。 オバタ には ゆるせる もの でも ホカ の オトコ には ゆるせない もの が あり、 オバタ より ずっと いい オトコ で あって も その いい オトコ-すぎる の が キザ だったり して、 ちょうど いい コロ カゲン の オバタ と くらべる と ものたりない と いい、 けれども オバタ が きたって イッショ に なって やらない さ、 すき なの は かんがえて いる とき だけ で あったら アタシ には もう なまぬるい オトコ に なって いる から と わらって いった。
 サン は ネエサン と いう ヒト は どうして そう オトコ の ヒト の こと ばかり を いう の。 ワタシ には そんな ふう に ずけずけ いえ も しない し、 かんがえて いる こと の ハンブン も しゃべれない わ。 だいいち、 オトコ の ヒト の こと を はなす ザイリョウ が ない ん だ もの と いった。 そりゃ オマエ は なんにも しらない けれど、 アタシ の よう に スレッカラシ に なる と、 みんな オトコ の こと わかる わ。 オトコ なんて きたない わ、 はなれて かんがえて いる と きたない けど、 でも いつのまにか ふだん かんがえて いる こと を みんな わすれて しまって、 ケイカイ する だけ した アト は もう コンキ の つづかない こと が ある もの よ と いった。
 イノ は オヒル に かえって くる と モン を みて、 すぐ ダラク オンナ め、 また おめおめ と かえって きやがった、 おおかた 1 シュウカン くらい くいつぶして いく つもり だろう、 ミンナ から あかれない サキ に さっさと かえって、 どこ か へ いって どろくさい ニンソク ども を アイテ に して さわいで いた ほう が いい ぜ、 こう みえて も ここ は カタギ な ウチ だ から その つもり で ウチ の ナカ の フウギ を わるく して もらいたく ない もの だ と レイ の ゴセイ で いった が、 サン は、 ニイサン ヒサシブリ で かえって きた ネエサン を そんな に ひどく いう もん じゃ ない わ と いう と、 ナン だ アカンボウ の サン ジョロウ、 だまって ひっこんで いろ、 モン の よう な オンナ は うんと やっつけて も それ で ショウネ が なおる とか、 アクタレグチ に まいって しまう とか いう そんな なまやさしい シロモノ じゃ ない ん だ から、 ヨコアイ から クチ を さしはさむ だけ バカ を みる ん だよ、 ――イノ は また モン が にらむ よう な メツキ を して いる の を みる と いいつづけた。 いったい いつまで キママ な カセギ を して いて いつ ちゃんと した セイギョウ に つく ん だ か、 そんな アイマイ な クラシ を して いる アイダ は ここ の ウチ に アシブミ を して もらいたく ない もん だ。 このあいだ きやがった ヤロウ に して も ニド と こられる ギリ で ない のに、 ずうずうしく やって きた の は こっち を なめて いる から だ と いった。
 ――ニイサン は オバタ さん に このあいだ おあい に なった の。
 モン は、 カオイロ を かえ、 あわなかった と いった ハハオヤ と、 イノ の カオ と を みくらべた。 サン も、 ハハオヤ も びっくり した。
 ――あった とも、 カエリ を みすまして つけて いった の だ。
 ――ナニ を なすった の。
 ――おもう まま の こと を して やった。
 イノ は にくたらしく モン の カオ を みて から、 アザワライ を クチモト に ふくんで いった。
 ――ランボウ を した ん じゃ ない わね。
 モン は イキ を ころした。
 ――けとばして やった が かなわない と おもいやがって テダシ は しなかった。 オラ ムネ が すっきり と した くらい だ。
 モン は アッケ に とられて いた が、 みるみる この オンナ の カオ が こわれだして、 クチ も ハナ も ひんまがって ほそながい カオ に かわって しまい、 ギャクジョウ から テッペン で だす よう な コエ で いった。
 ――もう イチド いって ごらん。 あの ヒト を どうした と いう の だ。
 モン は コシ を あげ カマクビ の よう な しろい あぶらぎった エリアシ を ぬいで、 なにやら フシギ な、 オンナ に おもえない サッキ-だった さむい よう な カンジ を ヒトビト に あたえた。 リキ も、 サン も、 こういう ギョウソウ の モン を みた こと が なかった。
 イノ は せせらわらって いった。
 ――ハンゴロシ に して やった の だ。
 ――テダシ も しない あの ヒト を ハンゴロシ に、……
 モン は そう いう と、 きあ、 と いう よう な コエ と オドロキ と を あらわした ワメキゴエ を あげる と、 チクショウ め と あらためて さけびだして たちあがって いった。
 ――ゴクドウ アニキ め、 ダレ が オマエ に そんな てあら な こと を して くれ と たのんだ の だ、 ナニ が オマエサン と あの ヒト の カンケイ が ある ん だ、 アタシ の カラダ を アタシ の カッテ に あの ヒト に やったって なんで オマエ が ゴタク を いう ヒツヨウ が ある ん だ。 それに ダレ が ふんだり けったり しろ と いった の だ。 テダシ も しない で いる ヒト を なぜ なぐった の だ、 ヒキョウモノ、 ブタ め、 ち、 ドウラクモノ め。
 モン は かつて ない ほど きおいたって いきなり イノ に つかみかかり、 その ふとった テ を ぺったり と イノ の カオ に ひっかけた な と みる と、 イノ の メジリ から ホオ に かけて ミスジ の ツメアト が かきたてられる と、 はれた アト の よう に あかく なり、 すぐに グミ の シル の よう な もの が ながれた。 この キチガイ アマ め、 ナニ を しやがる ん だ と イノ は モン の キ に のまれながら も、 すぐ はりたおして しまった。 モン は へたばった が、 すぐ おきあがって イノ の カタサキ に むしゃぶりついた が ヒトフリ ふられ、 そのうえ イノ の おおきな ヒラテ は ツヅケザマ に この イロキチガイ の フトッチョ め と いう コエ の シタ で、 ちからいっぱい に うちのめされた。 モン は きいい と いう よう な コエ で、
 ――さあ、 ころせ チクショウ、 さあ、 ころせ チクショウ。
 と、 シマイ に ぎあぎあ カエル の よう な コエガワリ を つづけた。 よし、 おもうさま キョウ は ロッコツ の おれる まで ひっぱたいて やろう と イノ が とびかかる と、 にげる と おもって いた モン は、 さあ なぐれ、 さあ ころせ と わめきたてて うごかなかった。
 もちろん、 リキ と サン は イノ を とめた が、 それでも イノ は コンチクショウ このまま おく と クセ に なる と いきおいたった が、 キ の よわい サン が なきだした ので イノ は それ イジョウ なぐる こと を あきらめて しまった。
 モン は きかなかった。
 ――オマエ の よう に しょうべんくさい オンナ を ひっかけて あるいて いる ヤツ と、 はばかりながら モン は ちがった オンナ なん だ、 オマエ の ゴタク-どおり に いう なら モン は インバイ ドウヨウ の、 ノンダクレ の ダラク オンナ だ、 ヒトサマ に コノママ では ヨメ には いけない バクレンモノ だ、 オヤ に トコロ も あかせない ナリサガリ の オンナ の クズ なん だ、 だけれど イチド ゆるした オトコ を テダシ の できない ハメ と ヨワミ に つけこんで ハンゴロシ に する よう な ヤツ は、 ニイサン で あろう が ダレ で あろう が だまって きいて いられない ん だ、 やい イシヤ の コゾウ、 それでも オマエ は オトコ か、 よくも、 モン の オトコ を ぶちやがった、 モン の アニキ が そんな オトコ で ある こと を オクメン も なく さらけだして、 モン に ハジ を かかせやがった、 チクショウ、 ゴクドウ ヤロウ!
 モン は そう いう と コンド は ひいひい と いう コエ で なきだして しまった。 リキ は コンド は モン に むかい おんなだてら に なんと いう クチ の キキヨウ を する の か、 もっと、 キ を つけない と トナリキンジョ も ある じゃ ない か と いう と、 モン は、 カアサン は だまって いて おくれ、 こんな ヨワイモノ イジメ の ニイサン だ と おもわなかった の だ、 こんな ヤツ に アニヅラ を されて たまる もの か と いった。
 ――まだ ぶたれたりない の か、 ジゴク め。
 ――もっと ぶちやがれ、 オンナ イッピキ が テメエ なんぞ の ゲンコツ で どう キモチ が かわる と おもう の は オオマチガイ だ、 そんな こと あ ムカシ の こと さ、 ドジョウ-くさい イナカ を うろついて いる オマエ なんぞ に アタシ が ナニ を して いる か わかる もの か。
 イノ は もう イチド とびかかろう と した が、 リキ に とめられて シゴト の ジカン に きづく と、 イイカゲン に うせやがれ と どなりちらして でて いった。
 イノ が ソト に でる と ドウジ に モン は なきだした。 リキ は モン の タンカ の キリヨウ が すさまじい ので モン が どういう ソト の セイカツ を して いる か が、 ソウゾウ する と すえおそろしい キ が した。
 ――オマエ は タイヘン な オンナ に オナリ だね。
 リキ の コエ は キュウ に おとろえて いる よう で、 モン の ミミ には つらく きこえた。
 ――そう でも ない のよ カアサン シンパイ しなく とも いい わ。
 ――でも、 あれだけ いえる オンナ なんて ワタシ はじめて さ。 ゴショウ だ から カタギ な クラシ を して もっと おんならしく おなり、 まるで オマエ あれ では ニイサン イジョウ じゃ ない か。
 ――アタシ、 カアサン の かんがえて いる ほど、 ひどい オンナ に なって いない わ、 だけど アタシ もう ダメ な オンナ よ。
 リキ は オバタ から の メイシ を だして みせた が、 しばらく みつめた アト、 こんな もの、 アタシ に ヨウ は ない わ と いい こまかく しずか に さいて しまった。 そして うつむいて しくしく なきだした。 すっかり ないて しまう と モト の まま の モン に なり、 ヨコズワリ を して ジブン で ジブン を ジャマモノ に する よう な、 だるそう な カオツキ を して リキ に いった。
 ――アタシ ミョウ に なった の かも しれない わ。 カラダ が だるくて。
 ――まさか オマエ また あれ じゃ ない だろう ね。
 ――まあ、
 と、 モン は わらって しまった。 わざとらしい ワライザマ が リキ の ココロ を しめつけた。 そんな こと だったら、 ウチ へ なんか かえって こない わ、 アタシ これ でも カアサン の カオ が みたく なって くる のよ、 わるい こと を して も いい こと を して も やはり へんに きたく なる わ、 あんな、 いや な ニイサン に だって ちょっと カオ が みたく なる こと が ある ん です もの と、 モン は それ を ホントウ の キモチ から いった。

 その ジブン、 アカザ は 7 ハイ の カワブネ を つらね、 ジョウリュウ から つんで きた イシ の オモミ で スイメン と スレスレ に なった フネ の ウエ で、 あと イクニチ と ない ツユイリドキ の カワ の テイレ を キミジカ に いそいで いた。 この シゴト を やって のければ ツユ の アイダ は やすめる の だ。 やすむ こと の きらい な カレ は ひきつづいて シゴト を ナツ まで ノベ で つづけよう、 その キモチ の ある モノ は はたらけ と どなって いた。
 ――シゴト に つく モノ は テ を あげろ。
 フネ が セギ に ついた とき に アカザ は 7 ハイ の フネ に のって いる ハダカ の ナカマ に、 ゲンキ の よい コエ で どなって みせた。 そういう とき の アカザ は ジョウキゲン だった。 ミンナ テ を あげて ツギ の シゴト に まわる こと を サンセイ した。 ようし、 その つもり で みっちり と はたらいて あつい ドヨウ に ヒボシ に ならない よう に する ん だ と、 アカザ は もう ツギ に イシ を おろす こと を てばやく メイレイ した。 コウテツ の よう な カワイシ は ニンプ の テ から どんどん ジャカゴ の ナカ に なげこまれ、 あらい セスジ が みる うち に ふさがれ とめられて いった。 カワミズ は イキオイ を そがれ どんより と かなしんで いる よう に しばらく よどんで みせる が、 すこし の ミズ の ハケグチ が ある と、 そこ へ イカリ を ふくんで はげしく ながれこんだ。 アカザ は そこ へ イシ の ナゲイレ を めいじ オオゴエ で わめきたてた。 そんな とき の アカザ の ムナゲ は さかだって ドウゾウ の よう な カラダ が はちきれる よう に、 フネ の ウエ で しゃちこだって みえた。
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