カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ある オンナ (ゼンペン 3)

2021-11-22 | アリシマ タケオ
 6

 ヨウコ が ベイコク に シュッパツ する 9 ガツ 25 ニチ は アス に せまった。 ニヒャク ハツカ の あれそこねた その トシ の テンキ は、 いつまで たって も さだまらない で、 キチガイ-ビヨリ とも いう べき テリフリ の ランザツ な ソラアイ が つづきとおして いた。
 ヨウコ は その アサ くらい うち に トコ を はなれて、 クラ の カゲ に なった ジブン の コベヤ に はいって、 マエマエ から かたづけかけて いた イルイ の シマツ を しはじめた。 モヨウ や シマ の ハデ なの は カタハシ から ほどいて まるめて、 ツギ の イモウト の アイコ に やる よう に と カタスミ に かさねた が、 その ナカ には 13 に なる スエ の イモウト の サダヨ に きせて も にあわしそう な オオガラ な もの も あった。 ヨウコ は てばやく それ を えりわけて みた。 そして コンド は フネ に もちこむ シキ の ハレギ を、 トコノマ の マエ に ある マックロ に ふるぼけた トランク の ところ まで もって いって、 フタ を あけよう と した が、 ふと その フタ の マンナカ に かいて ある Y.K. と いう シロ モジ を みて せわしく テ を ひかえた。 これ は キノウ コトウ が アブラエノグ と エフデ と を もって きて かいて くれた ので、 かわききらない テレビン の ニオイ が まだ かすか に のこって いた。 コトウ は、 ヨウコ サツキ の カシラモジ Y.S. と かいて くれ と おりいって ヨウコ の たのんだ の を わらいながら しりぞけて、 ヨウコ キムラ の カシラモジ Y.K. と かく マエ に、 S.K. と ある ジ を ナイフ の サキ で テイネイ に けずった の だった。 S.K. とは キムラ サダイチ の イニシャル で、 その トランク は キムラ の チチ が オウベイ を マンユウ した とき つかった もの なの だ。 その ふるい イロ を みる と、 キムラ の チチ の フトッパラ な するどい セイカク と、 ハラン の おおい ショウガイ の ゴクイン が すわって いる よう に みえた。 キムラ は それ を ヨウコ の ヨウ に と のこして いった の だった。 キムラ の オモカゲ は ふと ヨウコ の アタマ の ナカ を ぬけて とおった。 クウソウ で キムラ を えがく こと は、 キムラ と カオ を みあわす とき ほど の いとわしい オモイ を ヨウコ に おこさせなかった。 くろい カミノケ を ぴったり と きれい に わけて、 さかしい ナカダカ の ホソオモテ に、 ケンコウ-らしい バライロ を おびた ヨウボウ や、 あますぎる くらい ニンジョウ に おぼれやすい ジュンジョウテキ な セイカク は、 ヨウコ に イッシュ の ナツカシサ を さえ かんぜしめた。 しかし じっさい カオ と カオ と を むかいあわせる と、 フタリ は ミョウ に カイワ さえ はずまなく なる の だった。 その さかしい の が いや だった。 ニュウワ なの が キ に さわった。 ジュンジョウテキ な くせ に おそろしく カンジョウ-だかい の が たまらなかった。 セイネン-らしく ドヒョウギワ まで ふみこんで ジギョウ を たのしむ と いう チチ に にた セイカク さえ こましゃくれて みえた。 ことに トウキョウ ウマレ と いって も いい くらい みやこなれた コトバ や ミ の コナシ の アイダ に、 ふと トウホク の キョウド の ニオイ を かぎだした とき には かんで すてたい よう な ハンカン に おそわれた。 ヨウコ の ココロ は イマ、 おぼろげ な カイソウ から、 じっさい ヒザ つきあわせた とき に いや だ と おもった インショウ に うつって いった。 そして テ に もった ハレギ を トランク に いれる の を ひかえて しまった。 ながく なりはじめた ヨ も その コロ には ようやく しらみはじめて、 ロウソク の きいろい ホノオ が ヒカリ の ナキガラ の よう に、 ゆるぎ も せず に ともって いた。 ヨル の アイダ しずまって いた ニシカゼ が おもいだした よう に ショウジ に ぶつかって、 クギダナ の せまい トオリ を、 カシ で シダシ を した わかい モノ が、 おおきな カケゴエ で がらがら と クルマ を ひきながら とおる の が きこえだした。 ヨウコ は キョウ イチニチ に めまぐるしい ほど ある タクサン の ヨウジ を ちょっと ムネ の ナカ で かぞえて みて、 オオイソギ で そこら を かたづけて、 ジョウ を おろす もの には ジョウ を おろしきって、 アマド を 1 マイ くって、 そこ から さしこむ ヒカリ で おおきな テブンコ から ぎっしり つまった オトコモジ の テガミ を ひきだす と フロシキ に つつみこんだ。 そして それ を かかえて、 テショク を ふきけしながら ヘヤ を でよう と する と、 ロウカ に オバ が つったって いた。
「もう おきた ん です ね…… かたづいた かい」
と アイサツ して まだ ナニ か いいたそう で あった。 リョウシン を うしなって から この オバ フウフ と、 6 サイ に なる ハクチ の ヒトリムスコ と が うつって きて ドウキョ する こと に なった の だ。 ヨウコ の ハハ が、 どこ か おもおもしくって おおしい フウサイ を して いた の に ひきかえ、 オバ は カミノケ の うすい、 どこまでも ヒンソウ に みえる オンナ だった。 ヨウコ の メ は その オビシロハダカ な、 ニク の うすい ムネ の アタリ を ちらっと かすめた。
「おや おはよう ございます…… あらかた かたづきました」
と いって そのまま 2 カイ に ゆこう と する と、 オバ は ツメ に いっぱい アカ の たまった リョウテ を もやもや と ムネ の ところ で ふりながら、 さえぎる よう に たちはだかって、
「あの オマエサン が かたづける とき に と おもって いた ん だ がね、 アス の オミオクリ に ワタシ は きて いく もの が ない ん だよ。 オカアサン の もの で まにあう の は ない だろう かしらん。 アス だけ かりれば アト は ちゃんと シマツ を して おく ん だ から ちょっと みて おくれ で ない か」
 ヨウコ は また か と おもった。 ハタラキ の ない オット に つれそって、 15 ネン の アイダ マルオビ ヒトツ かって もらえなかった オバ の クンレン の ない よわい セイカク が、 こう さもしく なる の を あわれまない でも なかった が、 モノオジ しながら、 それでいて、 ヨク に かかる と ずうずうしい、 ヒト の スキ ばかり つけねらう シウチ を みる と、 ムシズ が はしる ほど にくかった。 しかし こんな オモイ を する の も キョウ だけ だ と おもって ヘヤ の ナカ に アンナイ した。 オバ は そらぞらしく キノドク だ とか すまない とか いいつづけながら ジョウ を おろした タンス を いちいち あけさせて、 いろいろ と カッテ に コノミ を いった スエ に、 りゅうと した ヒトソロエ を かりる こと に して、 それから ヨウコ の イルイ まで を とやかく いいながら さりがて に いじくりまわした。 ダイドコロ から は ミソシル の ニオイ が して、 ハクチ の コ が だらしなく なきつづける コエ と、 オジ が オバ を よびたてる コエ と が、 すがすがしい アサ の クウキ を にごす よう に きこえて きた。 ヨウコ は オバ に イイカゲン な ヘンジ を しながら その コエ に ミミ を かたむけて いた。 そして サツキ-ケ の サイゴ の リサン と いう こと を しみじみ と かんじた の で あった。 デンワ は、 ある ギンコウ の ジュウヤク を して いる シンルイ が イイカゲン な コウジツ を つくって ただ もって いって しまった。 チチ の ショサイ ドウグ や コットウヒン は ゾウショ と イッショ に セリウリ を された が、 ウリアゲダイ は とうとう ヨウコ の テ には はいらなかった。 スマイ は スマイ で、 ヨウコ の ヨウコウゴ には、 リョウシン の シゴ ナニ か に ジンリョク した と いう シンルイ の ナニガシ が、 ニソク サンモン で ゆずりうける こと に シンゾク カイギ で きまって しまった。 すこし ばかり ある カブケン と ジショ とは アイコ と サダヨ との キョウイクヒ に あてる メイギ で ボウボウ が ホカン する こと に なった。 そんな カッテ-ホウダイ な マネ を される の を ヨウコ は ミムキ も しない で だまって いた。 もし ヨウコ が すなお な オンナ だったら、 かえって クイノコシ と いう ほど の イサン は あてがわれて いた に ちがいない。 しかし シンゾク カイギ では ヨウコ を テ に おえない オンナ だ と して、 ヨソ に よめいって ゆく の を いい こと に、 イサン の こと には いっさい カンケイ させない ソウダン を した くらい は ヨウコ は とうに かんづいて いた。 ジブン の ザイサン と なれば なる べき もの を イチブブン だけ あてがわれて だまって ひっこんで いる ヨウコ では なかった。 それ か と いって チョウジョ では ある が、 オンナ の ミ と して ゼンザイサン に たいする ヨウキュウ を する こと の ムエキ なの も しって いた。 で、 「イヌ に やる つもり で いよう」 と ホゾ を かためて かかった の だった。 イマ、 アト に のこった もの は ナニ が ある。 キリマワシ よく ミカケ を ハデ に して いる ワリアイ に、 フソクガチ な 3 ニン の シマイ の イルイ ショドウグ が すこし ばかり ある だけ だ。 それ を オバ は ヨウシャ も なく そこ まで きりこんで きて いる の だ。 ハクシ の よう な はかない サビシサ と、 「ハダカ に なる なら きれいさっぱり ハダカ に なって みせよう」 と いう ヒ の よう な ハンコウシン と が、 むちゃくちゃ に ヨウコ の ムネ を ひやしたり やいたり した。 ヨウコ は こんな ココロモチ に なって、 サキホド の テガミ の ツツミ を かかえて たちあがりながら、 うつむいて テザワリ の いい キヌモノ を なでまわして いる オバ を みおろした。
「それじゃ ワタシ は まだ ホカ に ヨウ が あります し します から ジョウ を おろさず に おきます よ。 ごゆっくり ゴラン なさいまし。 そこ に かためて ある の は ワタシ が もって いく ん です し、 ここ に ある の は アイ と サダ に やる の です から ベツ に なすって おいて ください」
と いいすてて、 ずんずん ヘヤ を でた。 オウライ には スナボコリ が たつ らしく カゼ が ふきはじめて いた。
 2 カイ に あがって みる と、 チチ の ショサイ で あった 16 ジョウ の トナリ の 6 ジョウ に、 アイコ と サダヨ と が だきあって ねむって いた。 ヨウコ は ジブン の ネドコ を てばやく たたみながら アイコ を よびおこした。 アイコ は おどろいた よう に おおきな うつくしい メ を ひらく と ハンブン ムチュウ で とびおきた。 ヨウコ は いきなり ゲンジュウ な チョウシ で、
「アナタ は アス から ワタシ の カワリ を しない じゃ ならない ん です よ。 アサネボウ なんぞ して いて どう する の。 アナタ が ぐずぐず して いる と サア ちゃん が かわいそう です よ。 はやく ミジマイ を して シタ の オソウジ でも なさいまし」
と にらみつけた。 アイコ は ヒツジ の よう に ニュウワ な メ を まばゆそう に して、 アネ を ぬすみみながら、 キモノ を きかえて シタ に おりて いった。 ヨウコ は なんとなく ショウ の あわない この イモウト が、 ハシゴダン を おりきった の を ききすまして、 そっと サダヨ の ほう に ちかづいた。 オモザシ の ヨウコ に よく にた 13 の ショウジョ は、 あせじみた カオ には サゲガミ が ねばりついて、 ホオ は ネツ でも ある よう に ジョウキ して いる。 それ を みる と ヨウコ は コツニク の イトシサ に おもわず ほほえませられて、 その ネドコ に いざりよって、 その ドウジョ を ハガイ に かるく だきすくめた。 そして しみじみ と その ネガオ に ながめいった。 サダヨ の かるい コキュウ は かるく ヨウコ の ムネ に つたわって きた。 その コキュウ が ヒトツ つたわる たび に、 ヨウコ の ココロ は ミョウ に めいって いった。 おなじ ハラ を かりて コノヨ に うまれでた フタリ の ムネ には、 ひたと キョウメイ する フシギ な ヒビキ が ひそんで いた。 ヨウコ は すいとられる よう に その ヒビキ に ココロ を あつめて いた が、 ハテ は さびしい、 ただ さびしい ナミダ が ほろほろ と トメド なく ながれでる の だった。
 イッカ の リサン を しらぬ カオ で、 オンナ の ミソラ を ただ ヒトリ ベイコク の ハテ まで さすらって ゆく の を ヨウコ は かくべつ なんとも おもって いなかった。 フリワケガミ の ジブン から、 あくまで イジ の つよい メハシ の きく セイシツ を おもう まま に ゾウチョウ さして、 ぐんぐん と ヨノナカ を ワキメ も ふらず おしとおして 25 に なった イマ、 こんな とき に ふと カコ を ふりかえって みる と、 いつのまにか アタリマエ の オンナ の セイカツ を すりぬけて、 たった ヒトリ み も しらぬ ノズエ に たって いる よう な オモイ を せず には いられなかった。 ジョガッコウ や オンガク ガッコウ で、 ヨウコ の つよい コセイ に ひきつけられて、 リソウ の ヒト で でも ある よう に ちかよって きた ショウジョ たち は、 ヨウコ に おどおどしい ドウセイ の コイ を ささげながら、 ヨウコ に インスパイアー されて、 われしらず ダイタン な ホンポウ な フルマイ を する よう に なった。 その コロ 「コクミン ブンガク」 や 「ブンガクカイ」 に ハタアゲ を して、 あたらしい シソウ ウンドウ を おこそう と した ケッキ な ロマンティック な セイネン たち に、 ウタ の ココロ を さずけた オンナ の オオク は、 おおかた ヨウコ から ケツミャク を ひいた ショウジョ ら で あった。 リンリ ガクシャ や、 キョウイクカ や、 カテイ の シュケンシャ など も その コロ から サイギ の メ を みはって ショウジョコク を カンシ しだした。 ヨウコ の タカン な ココロ は、 ジブン でも しらない カクメイテキ とも いう べき ショウドウ の ため に アテ も なく ゆるぎはじめた。 ヨウコ は タニン を わらいながら、 そして ジブン を さげすみながら、 マックラ な おおきな チカラ に ひきずられて、 フシギ な ミチ に ジカク なく まよいいって、 シマイ には まっしぐら に はしりだした。 ダレ も ヨウコ の ゆく ミチ の シルベ を する ヒト も なく、 タ の ただしい ミチ を おしえて くれる ヒト も なかった。 たまたま おおきな コエ で よびとめる ヒト が ある か と おもえば、 ウラオモテ の みえすいた ペテン に かけて、 ムカシ の まま の オンナ で あらせよう と する モノ ばかり だった。 ヨウコ は その コロ から どこ か ガイコク に うまれて いれば よかった と おもう よう に なった。 あの ジユウ-らしく みえる オンナ の セイカツ、 オトコ と たちならんで ジブン を たてて ゆく こと の できる オンナ の セイカツ…… ふるい リョウシン が ジブン の ココロ を さいなむ たび に、 ヨウコ は ガイコクジン の リョウシン と いう もの を みたく おもった。 ヨウコ は ココロ の オクソコ で ひそか に ゲイシャ を うらやみ も した。 ニホン で オンナ が おんならしく いきて いる の は ゲイシャ だけ では ない か と さえ おもった。 こんな ココロモチ で トシ を とって ゆく アイダ に ヨウコ は もちろん ナンド も つまずいて ころんだ。 そして ヒトリ で ヒザ の チリ を はらわなければ ならなかった。 こんな セイカツ を つづけて 25 に なった イマ、 ふと イマ まで あるいて きた ミチ を ふりかえって みる と、 イッショ に ヨウコ と はしって いた ショウジョ たち は、 とうの ムカシ に ジンジョウ な オンナ に なりすまして いて、 ちいさく みえる ほど トオク の ほう から、 あわれむ よう な さげすむ よう な カオツキ を して、 ヨウコ の スガタ を ながめて いた。 ヨウコ は もと きた ミチ に ひきかえす こと は もう できなかった。 できた ところ で ひきかえそう と する キ は ミジン も なかった。 「カッテ に する が いい」 そう おもって ヨウコ は また ワケ も なく フシギ な くらい チカラ に ひっぱられた。 こういう ハメ に なった イマ、 ベイコク に いよう が ニホン に いよう が すこし ばかり の ザイサン が あろう が なかろう が、 そんな こと は ササイ な ハナシ だった。 キョウグウ でも かわったら ナニ か おこる かも しれない。 モト の まま かも しれない。 カッテ に なれ。 ヨウコ を ココロ の ソコ から うごかしそう な もの は ヒトツ も ミヂカ には みあたらなかった。
 しかし ヒトツ あった。 ヨウコ の ナミダ は ただ ワケ も なく ほろほろ と ながれた。 サダヨ は ナニゴト も しらず に ツミ なく ねむりつづけて いた。 おなじ ハラ を かりて コノヨ に うまれでた フタリ の ムネ には、 ひたと キョウメイ する フシギ な ヒビキ が ひそんで いた。 ヨウコ は すいとられる よう に その ヒビキ に ココロ を あつめて いた が、 この コ も やがて は ジブン が とおって きた よう な ミチ を あるく の か と おもう と、 ジブン を あわれむ とも イモウト を あわれむ とも しれない せつない ココロ に さきだたれて、 おもわず ぎゅっと サダヨ を だきしめながら モノ を いおう と した。 しかし ナニ を いいえよう ぞ。 ノド も ふさがって しまって いた。 サダヨ は だきしめられた ので はじめて おおきく メ を ひらいた。 そして しばらく の アイダ、 ナミダ に ぬれた アネ の カオ を まじまじ と ながめて いた が、 やがて だまった まま ちいさい ソデ で その ナミダ を ぬぐいはじめた。 ヨウコ の ナミダ は あたらしく わきかえった。 サダヨ は いたましそう に アネ の ナミダ を ぬぐいつづけた。 そして シマイ には その ソデ を ジブン の カオ に おしあてて ナニ か いいいい しゃくりあげながら なきだして しまった。

 7

 ヨウコ は その アサ ヨコハマ の ユウセン-ガイシャ の ナガタ から テガミ を うけとった。 カンガクシャ-らしい フウカク の、 ジョウズ な ジ で トウシセン に かかれた モンク には、 ジブン は コ-サツキ シ には カクベツ の コウギ を うけて いた が、 アナタ に たいして も ドウヨウ の コウサイ を つづける ヒツヨウ の ない の を イカン に おもう。 ミョウバン (すなわち その ヨ) の オマネキ にも シュッセキ しかねる、 と けんもほろろ に かきつらねて、 ツイシン に、 センジツ アナタ から イチゴン の ショウカイ も なく ホウモン して きた スジョウ の しれぬ セイネン の ジサン した カネ は いらない から おかえし する。 オット の さだまった オンナ の コウドウ は、 もうす まで も ない が つつしむ が うえ にも ことに つつしむ べき もの だ と ワタシドモ は ききおよんで いる、 と きっぱり かいて、 その キンガク だけ の カワセ が ドウフウ して あった。 ヨウコ が コトウ を つれて ヨコハマ に いった の も、 ケビョウ を つかって ヤドヤ に ひきこもった の も、 ジツ を いう と フナショウバイ を する ヒト には めずらしい ゲンカク な この ナガタ に あう メンドウ を さける ため だった。 ヨウコ は ちいさく シタウチ して、 カワセ-ごと テガミ を ひきさこう と した が、 ふと おもいかえして、 タンネン に スミ を すりおろして イチジ イチジ かんがえて かいた よう な テガミ だけ ずたずた に やぶいて クズカゴ に つっこんだ。
 ヨウコ は ジミ な ヨソイキ に ネマキ を きかえて 2 カイ を おりた。 チョウショク は たべる キ が なかった。 イモウト たち の カオ を みる の も キヅマリ だった。
 シマイ 3 ニン の いる 2 カイ の、 スミ から スミ まで きちんと こぎれい に かたづいて いる の に ひきかえて、 オバ イッカ の すまう シタザシキ は へんに あぶらぎって よごれて いた。 ハクチ の コ が アカンボウ ドウヨウ なので、 ヒガシ の エン に ほして ある ムツキ から たつ しおくさい ニオイ や、 タタミ の ウエ に ふみにじられた まま こびりついて いる メシツブ など が、 すぐ ヨウコ の シンケイ を いらいら させた。 ゲンカン に でて みる と、 そこ には オジ が、 エリ の マックロ に あせじんだ しろい カスリ を うすさむそう に きて、 ハクチ の コ を ヒザ の ウエ に のせながら、 アサッパラ から カキ を むいて あてがって いた。 その カキ の カワ が あかあか と カミクズ と ごった に なって シキイシ の ウエ に ちって いた。 ヨウコ は オジ に ちょっと アイサツ を して ゾウリ を さがしながら、
「アイ さん ちょっと ここ に おいで。 ゲンカン が ごらん、 あんな に よごれて いる から ね、 きれい に ソウジ して おいて ちょうだい よ。 ――コンヤ は オキャクサマ も ある ん だ のに……」
と かけて きた アイコ に わざと つんけん いう と、 オジ は シンケイ の トオク の ほう で あてこすられた の を かんじた ふう で、
「おお、 それ は ワシ が した ん じゃ で、 ワシ が ソウジ しとく。 かもうて くださるな、 おい オシュン―― オシュン と いう に、 ナニ しとる ぞい」
と ノロマ-らしく よびたてた。 オビシロハダカ の オバ が そこ に やって きて、 また くだらぬ クチイサカイ を する の だ と おもう と、 ドロ の ナカ で いがみあう ブタ か なんぞ を おもいだして、 ヨウコ は カカト の チリ を はらわん ばかり に そこそこ イエ を でた。 ほそい クギダナ の オウライ は バショガラ だけ に カドナミ きれい に ソウジ されて、 ウチミズ を した ウエ を、 キ の きいた フウテイ の ダンジョ が いそがしそう に ユキキ して いた。 ヨウコ は ヌケゲ の まるめた の や、 マキタバコ の フクロ の ちぎれた の が ちらばって ホウキ の メ ヒトツ ない ジブン の イエ の マエ を メ を つぶって かけぬけたい ほど の オモイ を して、 つい ソバ の ニッポン ギンコウ に はいって アリッタケ の ヨキン を ひきだした。 そして その マエ の クルマヤ で しじゅう ノリツケ の いちばん リッパ な ジンリキシャ を したてさして、 その アシ で カイモノ に でかけた。 イモウト たち に かいのこして おく べき イフクジ や、 ガイコクジン-ムキ の ミヤゲヒン や、 あたらしい どっしり した トランク など を かいいれる と、 ひきだした カネ は いくらも のこって は いなかった。 そして ゴゴ の ヒ が やや かたむきかかった コロ、 オオツカ クボマチ に すむ ウチダ と いう ハハ の ユウジン を おとずれた。 ウチダ は ネッシン な キリスト-キョウ の デンドウシャ と して、 にくむ ヒト から は ダカツ の よう に にくまれる し、 すき な ヒト から は ヨゲンシャ の よう に スウハイ されて いる テンサイハダ の ヒト だった。 ヨウコ は イツツ ムッツ の コロ、 ハハ に つれられて、 よく その イエ に デイリ した が、 ヒト を おそれず に ぐんぐん おもった こと を かわいらしい クチモト から いいだす ヨウコ の ヨウス が、 しじゅう ヒト から ヘダテ を おかれつけた ウチダ を よろこばした ので、 ヨウコ が くる と ウチダ は、 ナニ か ココロ の こだわった とき でも キゲン を なおして、 せまった マユネ を すこし は ひらきながら、 「また コザル が きた な」 と いって、 その つやつや した オカッパ を なでまわしたり なぞ した。 その うち ハハ が キリスト-キョウ フジン ドウメイ の ジギョウ に カンケイ して、 たちまち の うち に その ギュウジ を にぎり、 ガイコク センキョウシ だ とか、 キフジン だ とか を ひきいれて、 セイリャク-がましく ジギョウ の カクチョウ に ホンソウ する よう に なる と、 ウチダ は すぐ キゲン を そんじて、 サツキ オヤサ を せめて、 キリスト の セイシン を ムシ した ゾクアク な タイド だ と いきまいた が、 オヤサ が いっこう それ に とりあう ヨウス が ない ので、 リョウケ の アイダ は みるみる うとうとしい もの に なって しまった。 それでも ウチダ は ヨウコ だけ には フシギ に アイチャク を もって いた と みえて、 よく ヨウコ の ウワサ を して、 「コザル」 だけ は ひきとって コドモ ドウヨウ に そだてて やって も いい なぞ と いったり した。 ウチダ は リエン した サイショ の ツマ が つれて いって しまった たった ヒトリ の ムスメ に いつまでも ミレン を もって いる らしかった。 どこ でも いい その ムスメ に にた らしい ところ の ある ショウジョ を みる と、 ウチダ は ヒゴロ の ジブン を わすれた よう に あまあましい カオツキ を した。 ヒト が おそれる ワリアイ に、 ヨウコ には ウチダ が おそろしく おもえなかった ばかり か、 その シュンレツ な セイカク の オク に とじこめられて ちいさく よどんだ アイジョウ に ふれる と、 アリキタリ の ニンゲン から は えられない よう な ナツカシミ を かんずる こと が あった。 ヨウコ は ハハ に だまって ときどき ウチダ を おとずれた。 ウチダ は ヨウコ が くる と、 どんな いそがしい とき でも ジブン の ヘヤ に とおして ワライバナシ など を した。 ときには フタリ だけ で コウガイ の しずか な ナミキミチ など を サンポ したり した。 ある とき ウチダ は もう ムスメ-らしく セイチョウ した ヨウコ の テ を かたく にぎって、 「オマエ は カミサマ イガイ の ワタシ の ただ ヒトリ の ミチヅレ だ」 など と いった。 ヨウコ は フシギ な あまい ココロモチ で その コトバ を きいた。 その キオク は ながく わすれえなかった。
 それ が あの キベ との ケッコン モンダイ が もちあがる と、 ウチダ は イヤオウ なし に ある ヒ ヨウコ を ジブン の イエ に よびつけた。 そして コイビト の ヘンシン を なじりせめる シット-ぶかい オトコ の よう に、 ヒ と ナミダ と を メ から ほとばしらせて、 うち も すえかねぬ まで に くるいいかった。 その とき ばかり は ヨウコ も ココロ から ゲッコウ させられた。 「ダレ が もう こんな ワガママ な ヒト の ところ に きて やる もの か」 そう おもいながら、 イケガキ の おおい、 ヤナミ の まばら な、 ワダチ の アト の めいりこんだ コイシカワ の オウライ を あるきあるき、 フンヌ の ハギシリ を とめかねた。 それ は ユウヤミ の もよおした バンシュウ だった。 しかし それ と ドウジ に なんだか タイセツ な もの を とりおとした よう な、 ジブン を コノヨ に つりあげて いる イト の ヒトツ が ぷつん と きれた よう な フシギ な サビシサ の ムネ に せまる の を どう する こと も できなかった。
「キリスト に ミズ を やった サマリヤ の オンナ の こと も おもう から、 このうえ オマエ には なにも いうまい―― ヒト の シツボウ も カミ の シツボウ も ちっと は かんがえて みる が いい、 ……ツミ だぞ、 おそろしい ツミ だぞ」
 そんな こと が あって から 5 ネン を すぎた キョウ、 ユウビンキョク に いって、 ナガタ から きた カワセ を ひきだして、 サダコ を あずかって くれて いる ウバ の イエ に もって ゆこう と おもった とき、 ヨウコ は シヘイ の タバ を かぞえながら、 ふと ウチダ の サイゴ の コトバ を おもいだした の だった。 モノ の ない ところ に モノ を さぐる よう な ココロモチ で ヨウコ は ジンリキシャ を オオツカ の ほう に はしらした。
 5 ネン たって も ムカシ の まま の カマエ で、 まばら に さしかえた ヤネイタ と、 めっきり のびた カキゾイ の キリ の キ と が めだつ ばかり だった。 スナキシミ の する コウシド を あけて、 オビマエ を ととのえながら でて きた ニュウワ な サイクン と カオ を あわせた とき は、 さすが に カイキュウ の ジョウ が フタリ の ムネ を さわがせた。 サイクン は おもわず しらず 「まあ どうぞ」 と いった が、 その シュンカン に はっと ためらった よう な ヨウス に なって、 いそいで ウチダ の ショサイ に はいって いった。 しばらく する と タンソク しながら モノ を いう よう な ウチダ の コエ が とぎれとぎれ に きこえた。 「あげる の は カッテ だ が オレ は あう こと は ない じゃ ない か」 と いった か と おもう と、 はげしい オト を たてて ヨミサシ の ショモツ を ぱたん と とじる オト が した。 ヨウコ は ジブン の ツマサキ を みつめながら シタクチビル を かんで いた。
 やがて サイクン が おどおど しながら たちあらわれて、 まず と ヨウコ を チャノマ に しょうじいれた。 それ と イレカワリ に、 ショサイ では ウチダ が イス を はなれた オト が して、 やがて ウチダ は ずかずか と コウシド を あけて でて いって しまった。
 ヨウコ は おもわず ふらふらっ と たちあがろう と する の を、 なにげない カオ で じっと こらえた。 せめては カミナリ の よう な はげしい その イカリ の コエ に うたれたかった。 あわよくば ジブン も おもいきり いいたい こと を いって のけたかった。 どこ に いって も とりあい も せず、 ハナ で あしらい、 ハナ で あしらわれなれた ヨウコ には、 ナニ か シンミ な チカラ で うちくだかれる なり、 うちくだく なり して みたかった。 それ だった のに おもいいって ウチダ の ところ に きて みれば、 ウチダ は ヨ の ツネ の ヒトビト より も いっそう ひややか に むごく おもわれた。
「こんな こと を いって は シツレイ です けれども ね ヨウコ さん、 アナタ の こと を イロイロ に いって くる ヒト が ある もん です から ね、 あの とおり の セイシツ でしょう。 どうも ワタシ には なんとも イイナダメヨウ が ない の です よ。 ウチダ が アナタ を おあげ もうした の が フシギ な ほど だ と ワタシ おもいます の。 コノゴロ は ことさら ダレ にも いわれない よう な ゴタゴタ が イエ の ウチ に ある もん です から、 よけい むしゃくしゃ して いて、 ホントウ に ワタシ どう したら いい か と おもう こと が あります の」
 イジ も キジ も ウチダ の キョウレツ な セイカク の ため に ぞんぶん に うちくだかれた サイクン は、 ジョウヒン な カオダテ に チュウセイキ の アマ に でも みる よう な おもいあきらめた ヒョウジョウ を うかべて、 ステミ の セイカツ の ドンゾコ に ひそむ さびしい フソク を ほのめかした。 ジブン より トシシタ で、 しかも オット から さんざん アクヒョウ を なげられて いる はず の ヨウコ に たいして まで、 すぐ ココロ が くだけて しまって、 ハリ の ない コトバ で ドウジョウ を もとめる か と おもう と、 ヨウコ は ジブン の こと の よう に はがゆかった。 マユ と クチ との アタリ に むごたらしい ケイベツ の カゲ が、 まざまざ と うかびあがる の を かんじながら、 それ を どう する こと も できなかった。 ヨウコ は キュウ に アオミ を ました カオ で サイクン を みやった が、 その カオ は セコ に なれきった サンジュウ オンナ の よう だった。 (ヨウコ は おもう まま に ジブン の トシ を イツツ も ウエ に したり シタ に したり する フシギ な チカラ を もって いた。 カンジョウ-シダイ で その ヒョウジョウ は ヤクシャ の ギコウ の よう に かわった)
「はがゆく は いらっしゃらなくって」
と きりかえす よう に ウチダ の サイクン の コトバ を ひったくって、
「ワタシ だったら どう でしょう。 すぐ オジサン と ケンカ して でて しまいます わ。 それ は ワタシ、 オジサン を えらい カタ だ とは おもって います が、 ワタシ こんな に うまれついた ん です から どう シヨウ も ありません わ。 イチ から ジュウ まで おっしゃる こと を はいはい と きいて は いられません わ。 オジサン も あんまり で いらっしゃいます のね。 アナタ みたい な カタ に、 そう カサ に かからず とも、 ワタシ でも オアイテ に なされば いい のに…… でも アナタ が いらっしゃれば こそ オジサン も ああ やって オシゴト が おでき に なる ん です のね。 ワタシ だけ は ノケモノ です けれども、 ヨノナカ は なかなか よく いって います わ。 ……あ、 それでも ワタシ は もう みはなされて しまった ん です もの ね、 いう こと は ありゃ しません。 ホントウ に アナタ が いらっしゃる ので オジサン は オシアワセ です わ。 アナタ は シンボウ なさる カタ。 オジサン は ワガママ で おとおし に なる カタ。 もっとも オジサン には それ が カミサマ の オボシメシ なん でしょう けれども ね。 ……ワタシ も カミサマ の オボシメシ か なんか で ワガママ で とおす オンナ なん です から オジサン とは どうしても チャワン と チャワン です わ。 それでも オトコ は よう ござんす のね、 ワガママ が とおる ん です もの。 オンナ の ワガママ は とおす より シカタ が ない ん です から ホントウ に なさけなく なります のね。 なにも ゼンセ の ヤクソク なん でしょう よ……」
 ウチダ の サイクン は ジブン より はるか トシシタ の ヨウコ の コトバ を しみじみ と きいて いる らしかった。 ヨウコ は ヨウコ で しみじみ と サイクン の ミナリ を みない では いられなかった。 オトトイ アタリ ゆった まま の ソクハツ だった。 クセ の ない こい カミ には タキギ の ハイ らしい ハイ が たかって いた。 ノリケ の ぬけきった ヒトエ も ものさびしかった。 その ガラ の こまかい ところ には サト の ハハ の キフルシ と いう よう な ニオイ が した。 ユイショ ある キョウト の シゾク に うまれた その ヒト の ヒフ は うつくしかった。 それ が なおさら その ヒト を あわれ に して みせた。
「ヒト の こと なぞ かんがえて いられ や しない」、 しばらく する と ヨウコ は ステバチ に こんな こと を おもった。 そして キュウ に はずんだ チョウシ に なって、
「ワタシ アス アメリカ に たちます の、 ヒトリ で」
と トッピョウシ も なく いった。 あまり の フイ に サイクン は メ を みはって カオ を あげた。
「まあ ホントウ に」
「はあ ホントウ に…… しかも キムラ の ところ に いく よう に なりました の。 キムラ、 ゴゾンジ でしょう」
 サイクン が うなずいて なお シサイ を きこう と する と、 ヨウコ は こともなげ に さえぎって、
「だから キョウ は オイトマゴイ の つもり でした の。 それでも そんな こと は どうでも よう ございます わ。 オジサン が おかえり に なったら よろしく おっしゃって くださいまし、 ヨウコ は どんな ニンゲン に なりさがる かも しれません って…… アナタ どうぞ オカラダ を オダイジ に。 タロウ さん は まだ ガッコウ で ございます か。 おおきく オナリ でしょう ね。 なんぞ もって あがれば よかった のに、 ヨウ が こんな もん です から」
と いいながら リョウテ で おおきな ワ を つくって みせて、 わかわかしく ほほえみながら たちあがった。
 ゲンカン に おくって でた サイクン の メ には ナミダ が たまって いた。 それ を みる と、 ヒト は よく ムイミ な ナミダ を ながす もの だ と ヨウコ は おもった。 けれども あの ナミダ も ウチダ が ムリ ムタイ に しぼりださせる よう な もの だ と おもいなおす と、 シンゾウ の コドウ が とまる ほど ヨウコ の ココロ は かっと なった。 そして クチビル を ふるわしながら、
「もう ヒトコト オジサン に おっしゃって くださいまし。 7 ド を 70 バイ は なさらず とも、 せめて 3 ド ぐらい は ヒト の トガ も ゆるして あげて くださいまし って。 ……もっとも これ は、 アナタ の おため に もうします の。 ワタシ は ダレ に あやまって いただく の も いや です し、 ダレ に あやまる の も いや な ショウブン なん です から、 オジサン に ゆるして いただこう とは てんから おもって など い は しません の。 それ も ついでに おっしゃって くださいまし」
 クチ の ハタ に ジョウダン-らしく ビショウ を みせながら、 そう いって いる うち に、 オオナミ が どすん どすん と オウカクマク に つきあたる よう な ココチ が して、 ハナヂ でも でそう に ハナ の アナ が ふさがった。 モン を でる とき も クチビル は なお くやしそう に ふるえて いた。 ヒ は ショクブツエン の モリ の ウエ に うすづいて、 クレガタ ちかい クウキ の ナカ に、 ケサ から ふきだして いた カゼ は なぎた。 ヨウコ は イマ の ココロ と、 ケサ はやく カゼ の ふきはじめた コロ に、 ドゾウ ワキ の コベヤ で ニヅクリ を した とき の ココロ と を くらべて みて、 ジブン ながら おなじ ココロ とは おもいえなかった。 そして モン を でて ヒダリ に まがろう と して ふと ミチバタ の ステイシ に けつまずいて、 はっと メ が さめた よう に アタリ を みまわした。 やはり 25 の ヨウコ で ある。 いいえ ムカシ たしか に イチド けつまずいた こと が あった。 そう おもって ヨウコ は メイシンカ の よう に もう イチド ふりかえって ステイシ を みた。 その とき に ヒ は…… やはり ショクブツエン の モリ の あの ヘン に あった。 そして ミチ の クラサ も この くらい だった。 ジブン は その とき、 ウチダ の オクサン に ウチダ の ワルクチ を いって、 ペテロ と キリスト との アイダ に とりかわされた カンジョ に たいする モンドウ を レイ に ひいた。 いいえ、 それ は キョウ した こと だった。 キョウ イミ の ない ナミダ を オクサン が こぼした よう に、 その とき も オクサン は イミ の ない ナミダ を こぼした。 その とき にも ジブン は 25…… そんな こと は ない。 そんな こと の あろう はず が ない…… ヘン な……。 それにしても あの ステイシ には オボエ が ある。 あれ は ムカシ から あすこ に ちゃんと あった。 こう おもいつづけて くる と、 ヨウコ は、 いつか ハハ と あそび に きた とき、 ナニ か おこって その ステイシ に かじりついて うごかなかった こと を まざまざ と ココロ に うかべた。 その とき は おおきな イシ だ と おもって いた のに コレンボッチ の イシ なの か。 ハハ が トウワク して たった スガタ が はっきり メサキ に あらわれた。 と おもう と やがて その リンカク が かがやきだして、 メ も むけられない ほど かがやいた が、 すっと オシゲ も なく きえて しまって、 ヨウコ は ジブン の カラダ が チュウウ から どっしり ダイチ に おりたった よう な カンジ を うけた。 ドウジ に ハナヂ が どくどく クチ から アゴ を つたって ムネ の アワセメ を よごした。 おどろいて ハンケチ を タモト から さぐりだそう と した とき、
「どうか なさりました か」
と いう コエ に おどろかされて、 ヨウコ は はじめて ジブン の アト に ジンリキシャ が ついて きて いた の に キ が ついた。 みる と ステイシ の ある ところ は もう 8~9 チョウ ウシロ に なって いた。
「ハナヂ なの」
と こたえながら ヨウコ は はじめて の よう に アタリ を みた。 そこ には コンノレン を ところせまく かけわたした カミヤ の コミセ が あった。 ヨウコ は とりあえず そこ に はいって、 ヒトメ を さけながら カオ を あらわして もらおう と した。
 40-カッコウ の コクメイ-らしい カミサン が ワガコト の よう に カナダライ に ミズ を うつして もって きて くれた。 ヨウコ は それ で オシロイケ の ない カオ を おもうぞんぶん に ひやした。 そして すこし ヒトゴコチ が ついた ので、 オビ の アイダ から カイチュウ カガミ を とりだして カオ を なおそう と する と、 カガミ が いつのまにか マフタツ に われて いた。 さっき けつまずいた ヒョウシ に われた の かしらん と おもって みた が、 それ くらい で われる はず は ない。 イカリ に まかせて ムネ が かっと なった とき、 われた の だろう か。 なんだか そう らしく も おもえた。 それとも アス の フナデ の フキツ を つげる ナニ か の ワザ かも しれない。 キムラ との ユクスエ の ハメツ を しらせる わるい ツジウラ かも しれない。 また そう おもう と ヨウコ は エリモト に こおった ハリ でも さされる よう に、 ぞくぞく と ワケ の わからない ミブルイ を した。 いったい ジブン は どう なって ゆく の だろう。 ヨウコ は これまで の みきわめられない フシギ な ジブン の ウンメイ を おもう に つけ、 これから サキ の ウンメイ が そらおそろしく ココロ に えがかれた。 ヨウコ は フアン な ユウウツ な メツキ を して ミセ を みまわした。 チョウバ に すわりこんだ カミサン の ヒザ に もたれて、 ナナツ ほど の ショウジョ が、 じっと ヨウコ の メ を むかえて ヨウコ を みつめて いた。 ヤセギス で、 いたいたしい ほど メ の おおきな、 そのくせ クロメ の ちいさな、 あおじろい カオ が、 うすぐらい ミセ の オク から、 コウリョウ や セッケン の カオリ に つつまれて、 ぼんやり うきでた よう に みえる の が、 ナニ か カガミ の われた の と エン でも ある らしく ながめられた。 ヨウコ の ココロ は まったく フダン の オチツキ を うしなって しまった よう に わくわく して、 たって も すわって も いられない よう に なった。 バカ な と おもいながら こわい もの に でも おいすがられる よう だった。
 しばらく の アイダ ヨウコ は この キカイ な ココロ の ドウヨウ の ため に ミセ を たちさる こと も しない で たたずんで いた が、 ふと どう に でも なれ と いう ステバチ な キ に なって ゲンキ を とりなおしながら、 いくらか の レイ を して そこ を でた。 でる には でた が、 もう クルマ に のる キ にも なれなかった。 これから サダコ に あい に いって よそながら ワカレ を おしもう と おもって いた その ココログミ さえ ものうかった。 サダコ に あった ところ が どう なる もの か。 ジブン の こと すら ツギ の シュンカン には トリトメ も ない もの を、 ヒト の こと ――それ は よし ジブン の チ を わけた タイセツ な ヒトリゴ で あろう とも―― など を かんがえる だけ が バカ な こと だ と おもった。 そして もう イチド そこ の ミセ から マキガミ を かって、 スズリバコ を かりて、 おとこはずかしい ヒッセキ で、 シュッパツゼン に もう イチド ウバ を おとずれる つもり だった が、 それ が できなく なった から、 コノゴ とも サダコ を よろしく たのむ。 トウザ の ヒヨウ と して カネ を すこし おくって おく と いう イミ を カンタン に したためて、 ナガタ から おくって よこした カワセ の カネ を フウニュウ して、 その ミセ を でた。 そして いきなり そこ に まちあわして いた ジンリキシャ の ウエ の ヒザカケ を はぐって、 ケコミ に うちつけて ある カンサツ に しっかり メ を とおして おいて、
「ワタシ は これから あるいて いく から、 この テガミ を ここ へ とどけて おくれ、 ヘンジ は いらない の だ から…… オカネ です よ、 すこし どっさり ある から ダイジ に して ね」
と シャフ に いいつけた。 シャフ は ろくに ミシリ も ない モノ に タイキン を わたして ヘイキ で いる オンナ の カオ を いまさら の よう に きょときょと と みやりながら カラグルマ を ひいて たちさった。 ダイハチグルマ が ツヅケサマ に イナカ に むいて かえって ゆく コイシカワ の ユウグレ の ナカ を、 ヨウコ は カサ を ツエ に しながら オモイ に ふけって あるいて いった。
 こもった アイシュウ が、 はっしない サケ の よう に、 ヨウコ の コメカミ を ちかちか と いためた。 ヨウコ は ジンリキシャ の ユクエ を みうしなって いた。 そして ジブン では マッスグ に クギダナ の ほう に いそぐ つもり で いた。 ところが ジッサイ は メ に みえぬ チカラ で ジンリキシャ に むすびつけられ でも した よう に、 しらずしらず ジンリキシャ の とおった とおり の ミチ を あるいて、 はっと キ が ついた とき には いつのまにか、 ウバ が すむ シタヤ イケノハタ の ある マガリカド に きて たって いた。
 そこ で ヨウコ は ぎょっと して たちどまって しまった。 みじかく なりまさった ヒ は ホンゴウ の タカダイ に かくれて、 オウライ には クリヤ の ケムリ とも ユウモヤ とも つかぬ うすい キリ が ただよって、 ガイトウ の ランプ の ヒ が ことに あかく ちらほら ちらほら と ともって いた。 とおりなれた この カイワイ の クウキ は トクベツ な シタシミ を もって ヨウコ の ヒフ を なでた。 ココロ より も ニクタイ の ほう が ヨケイ に サダコ の いる ところ に ひきつけられる よう に さえ おもえた。 ヨウコ の クチビル は あたたかい モモ の カワ の よう な サダコ の ホオ の ハダザワリ に あこがれた。 ヨウコ の テ は もう メレンス の ダンリョク の ある やわらかい ショッカン を かんじて いた。 ヨウコ の ヒザ は ふうわり と した かるい オモミ を おぼえて いた。 ミミ には コドモ の アクセント が やきついた。 メ には、 マガリカド の くちかかった クロイタベイ を とおして、 キベ から うけた エクボ の できる エガオ が イヤオウ なし に すいついて きた。 ……チブサ は くすむったかった。 ヨウコ は おもわず カタホオ に ビショウ を うかべて アタリ を ぬすむ よう に みまわした。 と ちょうど そこ を とおりかかった カミサン が、 ナニ か を マエカケ の シタ に かくしながら じっと ヨウコ の タチスガタ を ふりかえって まで みて とおる の に キ が ついた。
 ヨウコ は アクジ でも はたらいて いた ヒト の よう に、 キュウ に エガオ を ひっこめて しまった。 そして こそこそ と そこ を たちのいて シノバズ ノ イケ に でた。 そして カコ も ミライ も もたない ヒト の よう に、 イケ の ハタ に つくねん と つったった まま、 イケ の ナカ の ハス の ミ の ヒトツ に メ を さだめて、 ミウゴキ も せず に コハントキ たちつくして いた。

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