カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

オオツゴモリ

2014-12-22 | ヒグチ イチヨウ
 オオツゴモリ

 ヒグチ イチヨウ

 ジョウ

 イド は クルマ にて ツナ の ナガサ 12 ヒロ、 カッテ は キタムキ にて シワス の ソラ の カラカゼ ひゅうひゅう と フキヌキ の サムサ、 おお たえがた と カマド の マエ に ヒナブリ の 1 プン は 1 ジ に のびて、 ワリキ ほど の こと も オオダイ に して しかりとばさるる ハシタ の ミ つら や、 はじめ ウケヤド の オバサマ が コトバ には オコサマ がた は ナンニョ 6 ニン、 なれども じょうじゅう ウチ に おいで あそばす は ゴソウリョウ と スエ オフタリ、 すこし ゴシンゾ は キゲンカイ なれど、 メイロ カオイロ を のみこんで しまえば たいした こと も なく、 けっく オダテ に のる タチ なれば、 オマエ の デヨウ ヒトツ で ハンエリ ハンガケ マエダレ の ヒモ にも コト は かく まじ、 ゴシンダイ は チョウナイ ダイイチ にて、 そのかわり しわき こと も ニ とは さがらねど、 よき こと には オオダンナ が あまい ほう ゆえ、 すこし の ホマチ は なき こと も ある まじ、 いや に なったら ワタシ の とこ まで ハガキ 1 マイ、 こまかき こと は いらず、 ヨソ の クチ を さがせ と ならば アシ は おしまじ、 いずれ ホウコウ の ヒデン は ウラオモテ と いうて きかされて、 さても おそろしき こと を いう ヒト と おもえど、 なにも わが ココロ ヒトツ で また この ヒト の オセワ には なる まじ、 ツトメ ダイジ に ホネ さえ おらば オキ に いらぬ こと も なき はず と さだめて、 かかる オニ の シュウ をも もつ ぞ かし、 メミエ の すみて ミッカ の ノチ、 ナナツ に なる ジョウサマ オドリ の サライ に ゴゴ より と ある、 その シタク は アサユ に みがきあげて と シモ こおる アカツキ、 あたたかき ネドコ の ウチ より ゴシンゾ ハイフキ を たたきて、 これこれ と、 これ が メザマシ の トケイ より ムネ に ひびきて、 ミコト とは よばれ も せず オビ より サキ に タスキガケ の かいがいしく、 イドバタ に いずれば ツキカゲ ナガシ に のこりて、 ハダエ を さす よう な カゼ の サムサ に ユメ を わすれぬ、 フロ は スエフロ にて おおきからねど、 フタツ の テオケ に あふるる ほど くみて、 13 は いれねば ならず、 オオアセ に なりて はこびける うち、 リンポウ の すがりし ユガミバ の ミズバキ ゲタ、 マエバナオ の ゆるゆる に なりて、 ユビ を うかさねば タワイ の なき よう なりし、 その ゲタ にて おもき もの を もちたれば アシモト おぼつかなくて ナガシモト の コオリ に すべり、 あれ と いう マ も なく ヨコ に ころべば イドガワ にて ムコウズネ したたか に うちて、 かわい や ユキ はずかしき ハダ は ムラサキ の なまなましく なりぬ、 テオケ をも そこ に なげいだして ヒトツ は マンゾク なりし が ヒトツ は ソコヌケ に なりけり、 これ の アタイ ナニホド か しらねど、 シンダイ これ が ため に つぶれる か の よう に ゴシンゾ の ヒタエギワ に アオスジ おそろしく、 アサハン の オキュウジ より にらまれて、 その ヒ イチニチ モノ も おおせられず、 1 ニチ おいて より は ハシ の アゲオロシ に、 この ヤ の シナ は タダ では できぬ、 シュウ の もの とて ソマツ に おもうたら バチ が あたる ぞえ と アケクレ の ダンギ、 くる ヒト ごと に つげられて わかき ココロ には はずかしく、 ソノゴ は モノゴト に ネン を いれて、 ついに ソソウ を せぬ よう に なりぬ、 セケン に ゲジョ つかう ヒト も おおけれど、 ヤマムラ ほど ゲジョ の かわる イエ は ある まじ、 ツキ に フタリ は ツネ の こと、 ミッカ ヨッカ に かえりし も あれば ヒトヨ いて にげいでし も あらん、 カイビャク イライ を たずねたらば おる ユビ に あの カミサマ が ソデグチ おもわるる、 おもえば オミネ は シンボウモノ、 あれ に むごく あたったらば テンバツ たちどころに、 コノゴ は トウキョウ ひろし と いえど も、 ヤマムラ の ゲジョ に なる モノ は ある まじ、 カンシン な もの、 みごと の ココロガケ と ほめる も あれば、 だいいち キリョウ が モウシブン なし だ と、 オトコ は じきに これ を いいけり。
 アキ より ただ ヒトリ の オジ が わずらいて、 ショウバイ の ヤオヤミセ も いつ と なく とじて、 おなじ マチ ながら ウラヤズマイ に なりし ヨシ は きけど、 むずかしき シュウ を もつ ミ の キュウキン を サキ に もらえば この ミ は うりたる も おなじ こと、 ミマイ に と いう こと も ならねば こころならねど、 オツカイサキ の イッスン の マ とて も トケイ を メアテ に して イクアシ イクチョウ と その シラベ の クルシサ、 はせぬけて も、 とは おもえど アクジ センリ と いえば せっかく の シンボウ を ムダ に して、 オイトマ とも ならば いよいよ ビョウニン の オジ に シンパイ を かけ、 ヤセゼタイ に 1 ニチ の ヤッカイ も キノドク なり、 その うち には と テガミ ばかり を やりて、 ミ は ここ に こころならず も ヒ を おくりける。 シワス の ツキ は セケン イッタイ ものせわしき ナカ を、 ことさら に えらみて キラ を かざり、 オトトイ でそろいし と きく それ の シバイ、 キョウゲン も おりから おもしろき シンモノ の、 これ を みのがして は と ムスメ ども の さわぐ に、 ケンブツ は 15 ニチ、 めずらしく ウチジュウ との フレ に なりけり、 この オトモ を うれしがる は ツネ の こと、 チチハハ なき ノチ は ただ ヒトリ の タイセツ な ヒト が、 ヤマイ の トコ に みまう こと も せで、 モノミ ユサン に あるく べき ミ ならず、 ゴキゲン に ちがいたらば それまで と して アソビ の カワリ の オイトマ を ねがいし に さすが は ヒゴロ の ツトメブリ も あり、 1 ニチ すぎて の ツギ の ヒ、 はやく ゆきて はやく かえれ と、 さりとは キママ の オオセ に ありがとう ぞんじます と いいし は おぼえで、 やがて は クルマ の ウエ に コイシカワ は まだ か まだ か と もどかしがりぬ。
 ハツネ-チョウ と いえば ゆかしけれど、 ヨ を ウグイス の ビンボウマチ ぞ かし、 ショウジキ ヤスベエ とて カミ は この コウベ に やどりたまう べき オオヤカン の ヒタイギワ ぴかぴか と して、 これ を メジルシ に タマチ より キクザカ アタリ へ かけて、 ナスビ ダイコ の ゴヨウ をも つとめける、 ウスモトデ を おりかえす なれば、 おりから ネ の やすうて カサ の ある もの より ホカ は サオ なき フネ に ノリアイ の キュウリ、 ツト に マツタケ の ハツモノ など は もたで、 ヤオヤス が もの は いつも チョウメン に つけた よう な と わらわるれど、 ヒイキ は ありがたき もの、 まがりなりにも オヤコ 3 ニン の クチ を ぬらして、 サンノスケ とて ヤツ に なる を ゴリン ガッコウ に かよわする ほど の ツトメ も しけれど、 ヨ の アキ つらし 9 ガツ の スエ、 にわか に カゼ が ミ に しむ と いう アサ、 カンダ に カイダシ の ニ を ワガヤ まで かつぎいれる と そのまま、 ホツネツ に つづいて ホネヤミ の いでし やら、 ミツキ-ゴシ の キョウ まで アキナイ は さら なる こと、 だんだん に たべへらして テンビン まで うる シギ に なれば、 オモテダナ の クラシ たちがたく、 ツキ 50 セン の ウラヤ に ヒトメ の ハジ を いとう べき ミ ならず、 また ジセツ が あらば とて ヒキコシ も ムザン や クルマ に のする は ビョウニン ばかり、 カタテ に たらぬ ニ を からげて、 おなじ マチ の スミ へ と ひそみぬ。 オミネ は クルマ より おりて そこここ と たずぬる うち、 タコ カミフウセン など を ノキ に つるして、 コドモ を あつめたる ダガシヤ の カド に、 もし サンノスケ の まじりて か と のぞけど、 カゲ も みえぬ に がっかり して おもわず ユキキ を みれば、 わが いる より は ムカイ の ガワ を ヤセギス の コドモ が クスリビン もちて ゆく ウシロスガタ、 サンノスケ より は タケ も たかく あまり やせたる コ と おもえど、 ヨウス の にたる に つかつか と かけよりて カオ を のぞけば、 やあ ネエサン、 あれ サン ちゃん で あった か、 さても よい ところ で と ともなわれて ゆく に、 サカヤ と イモヤ の おくふかく、 ドブイタ がたがた と うすくらき ウラ に いれば、 サンノスケ は サキ へ かけて、 トトサン、 カカサン、 ネエサン を つれて かえった と カドグチ より よびたてぬ。
 なに オミネ が きた か と ヤスベエ が おきあがれば、 ツマ は ナイショク の シタテモノ に ヨネン なかりし テ を やめて、 まあまあ これ は めずらしい と テ を とらぬ ばかり に よろこばれ、 みれば 6 ジョウ ヒトマ に 1 ケン の トダナ ただ ヒトツ、 タンス ナガモチ は もとより ある べき イエ ならねど、 みし ナガヒバチ の カゲ も なく、 イマドヤキ の シカク なる を おなじ ナリ の ハコ に いれて、 これ が そもそも この イエ の ドウグ らしき もの、 きけば コメビツ も なき ヨシ、 さりとは かなしき ナリユキ、 シワス の ソラ に シバイ みる ヒト も ある を と オミネ は まず なみだぐまれて、 まずまず カゼ の さむき に ねて おいで なされませ、 と カタヤキ に にし ウスブトン を オジ の カタ に きせて、 さぞさぞ たんと の ゴクロウ なさりましたろ、 オバサマ も どこやら ヤセ が みえまする、 シンパイ の あまり わずらうて くださりますな、 それでも ヒマシ に よい ほう で ござんす か、 テガミ で ヨウス は きけど みねば キ に かかりて、 キョウ の オイトマ を まち に まって やっと の こと、 なに ウチ など は どうでも よ ござります、 オジサマ ゴゼンカイ に ならば オモテ に でる も わけなき こと なれば、 1 ニチ も はやく よく なって くだされ、 オジサマ に なんぞ と ぞんじたれど、 ミチ は とおし ココロ は せく、 クルマヤ の アシ が いつ より おそい よう に おもわれて、 ゴコウブツ の アメヤ が ノキ も みはぐりました、 これ は ショウショウ なれど ワタシ が コヅカイ の ノコリ、 コウジマチ の ゴシンルイ より オキャク の ありし とき、 その ゴインキョ サマ スバク の おおこり なされて オクルシミ の ありし に、 ヨ を とおして オコシ を もみたれば、 マエダレ でも かえ とて くだされた、 それ や、 これ や、 オウチ は かたけれど ヨソ より の オカタ が ヒイキ に なされて、 オジサマ よろこんで くだされ、 つとめにくく も ござんせぬ、 この キンチャク も ハンエリ も みな イタダキモノ、 エリ は ジミ なれば オバサマ かけて くだされ、 キンチャク は すこし ナリ を かえて サンノスケ が オベントウ の フクロ に ちょうど よい やら、 それでも ガッコウ へは ゆきます か、 オセイショ が あらば アネ にも みせて と それ から それ へ と いう こと ながし。 ナナツ の トシ に テテオヤ トクイバ の クラブシン に、 アシバ を のぼりて ナカヌリ の コテ を もちながら、 シタ なる ヤッコ に モノ いいつけん と ふりむく トタン、 コヨミ に クロボシ の ブツメツ と でも いう ヒ で ありし か、 ネンライ なれたる アシバ を あやまりて、 おちたる も おちたる も シタ は シキイシ に モヨウガエ の ところ ありて、 ほりおこして つみたてたる キリカド に ズノウ したたか うちつけたれば かいなし、 あわれ 42 の マエヤク と ヒトビト ノチ に おそろしがりぬ、 ハハ は ヤスベエ が キョウダイ なれば ここ に ひきとられて、 これ も 2 ネン の ノチ ハヤリカゼ にわか に おもく なりて うせたれば、 ノチ は ヤスベエ フウフ を オヤ と して、 18 の キョウ まで オン は いう に およばず、 ネエサン と よばるれば サンノスケ は オトト の よう に かあゆく、 ここ へ ここ へ と よんで セ を なで カオ を のぞいて、 さぞ トトサン が ビョウキ で さびしく つらかろ、 オショウガツ も じきに くれば アネ が なんぞ かって あげます ぞえ、 カカサン に ムリ を いうて こまらせて は なりませぬ と おしゆれば、 こまらせる どころ か、 オミネ きいて くれ、 トシ は ヤツ なれど カラダ も おおきし チカラ も ある、 ワシ が ねて から は カセギテ なし の イリメ は かさなる、 シク ハック みかねた やら、 オモテ の シオモノヤ が ヤロウ と イッショ に、 シジミ を かいだして は アシ の およぶ だけ かつぎまわり、 ヤロウ が 8 セン うれば 10 セン の アキナイ は かならず ある、 ヒトツ は テントウサマ が ヤッコ の コウコウ を みとおして か、 となり かくなり クスリダイ は サン が ハタラキ、 オミネ ほめて やって くれ とて、 チチ は フトン を かぶりて ナミダ に コエ を しぼりぬ。 ガッコウ は すき にも すき にも ついに セワ を やかしたる こと なく、 アサメシ たべる と かけだして 3 ジ の ヒケ に ミチクサ の イタズラ した こと なく、 ジマン では なけれど センセイ サマ にも ホメモノ の コ を、 ビンボウ なれば こそ シジミ を かつがせて、 この サムゾラ に ちいさな アシ に ワラジ を はかせる オヤゴコロ、 さっして くだされ とて オバ も ナミダ なり。 オミネ は サンノスケ を だきしめて、 さても さても セケン に ムルイ の コウコウ、 オオガラ とて も ヤツ は ヤツ、 テンビン カタ に して いたみ は せぬ か、 アシ に ワラジクイ は できぬ かや、 カンニン して くだされ、 キョウ より は ワタシ も ウチ に かえりて オジサマ の カイホウ クラシ の タスケ も しまする、 しらぬ こと とて ケサ まで も ツルベ の ナワ の コオリ を つらがった は もったいない、 ガッコウザカリ の トシ に シジミ を かつがせて アネ が ながい キモノ きて いらりょう か、 オジサマ イトマ を とって くだされ、 ワタシ は もはや ホウコウ は よしまする とて とりみだして なきぬ。 サンノスケ は おとなしく、 ほろり ほろり と ナミダ の こぼれる を、 みせじ と うつむきたる カタ の アタリ、 ハリメ あらわ に キヌ やれて、 これ に かつぐ か ミルメ も つらし、 ヤスベエ は オミネ が イトマ を とらん と いう に それ は モッテノホカ、 ココロザシ は うれしけれど かえりて から が オンナ の ハタラキ、 それ のみ か ゴシュジン へは キュウキン の マエガリ も あり、 それっ、 と いうて かえられる もの では なし、 ウイボウコウ が カンジン、 シンボウ が ならで もどった と おもわれて も ならねば、 オシュウ ダイジ に つとめて くれ、 わが ヤマイ も ながく は ある まじ、 すこし よくば キ の ハリユミ、 ひきつづいて アキナイ も なる ドウリ、 ああ いま ハンツキ の コトシ が すぎれば ハル は よき こと も きたる べし、 ナニゴト も シンボウ シンボウ、 サンノスケ も シンボウ して くれ、 オミネ も シンボウ して くれ とて ナミダ を おさめぬ。 めずらしき キャク に チソウ は できねど コウブツ の イマガワヤキ、 サトイモ の ニコロガシ など、 たくさん たべろ よ と いう コトバ が うれし、 クロウ は かけまじ と おもえど みすみす オオミソカ に せまりたる イエ の ナンギ、 ムネ に ツカエ の ヤマイ は シャク に あらねど そもそも トコ に つきたる とき、 タマチ の コウリカシ より ミツキ シバリ とて 10 エン かりし、 1 エン 50 セン は テンリ とて テ に いりし は 8 エン ハン、 9 ガツ の スエ より なれば この ツキ は どうでも ヤクソク の キゲン なれど、 この ナカ にて なんと なる べき ぞ、 ヒタイ を あわせて ダンゴウ の ツマ は ヒトシゴト に ユビサキ より チ を いだして ヒ に 10 セン の カセギ も ならず、 サンノスケ に きかする とも かいなし、 オミネ が シュウ は シロカネ の ダイマチ に カシナガヤ の 100 ケン も もちて、 アガリモノ ばかり に ジョウキラ びびしく、 ワレ イチド オミネ への ヨウジ ありて カド まで ゆきし が、 1000 リョウ にて は できまじき ドゾウ の フシン、 うらやましき フウキ と みたりし、 その シュジン に 1 ネン の ナジミ、 キニイリ の ホウコウニン が ショウショウ の ムシン を きかぬ とは もうされまじ、 この ツキズエ に カキカエ を なきつきて、 オドリ の 1 リョウ 2 ブ を ここ に はらえば また ミツキ の ノベ には なる、 かく いわば ヨク に にたれど、 ダイドウモチ こうて なり サンガニチ の ゾウニ に ハシ を もたせずば シュッセ マエ の サンノスケ に オヤ の ある カイ も なし、 ミソカ まで に カネ 2 リョウ、 いいにくく とも この サイカク たのみたき ヨシ を いいだしける に、 オミネ しばらく シアン して、 よろしゅう ござんす たしか に うけあいました、 むずかしくば オキュウキン の マエガリ に して なり ねがいましょ、 ミルメ と ウチ とは ちがいて いずこ にも キンセン の ラチ は あきにくけれど、 オオク では なし それ だけ で ここ の シマツ が つく なれば、 ワケ を きいて いや は おおせらる まじ、 それ に つけて も シュビ そこのうて は ならねば、 キョウ は ワタシ は かえります、 また の ヤドサガリ は ハルナガ、 その コロ には ミナミナ うちよって わらいたき もの、 とて これ を うけあいける。 カネ は なんと して おこす、 サンノスケ を もらい に やろ か と あれば、 ほんに それ で ござんす、 ツネ さえ ある に オオミソカ と いうて は ワタシ の ミ に スキ は ある まじ、 ミチ の とおき に かわいそう なれど、 サン ちゃん を たのみます、 ヒルマエ の うち に かならず かならず シタク は して おきまする とて、 シュビ よく うけあいて オミネ は かえりぬ。

 ゲ

 イシノスケ とて ヤマムラ の ソウリョウ ムスコ、 ハハ の ちがう に テテオヤ の アイ も うすく、 これ を ヨウシ に いだして アト は イモトムスメ の ウチ に との ソウダン、 10 ネン の ムカシ より ミミ に はさみて おもしろからず、 イマ の ヨ に カンドウ の ならぬ こそ おかしけれ、 オモイ の まま に あそびて ハハ が ナキ を と テテオヤ の こと は わすれて、 15 の ハル より フリョウケン を はじめぬ、 オトコブリ ニガミ ありて リハツ らしき マナザシ、 イロ は くろけれど よき フウ とて アタリ の ムスメ ども が ウワサ も きこえけれど、 ただ ランボウ イチズ に シナガワ へも アシ は むくれど サワギ は その ザギリ、 ヨナカ に クルマ を とばして クルママチ の ゴロ が モト を たたきおこし、 それ サケ かえ サカナ と、 カミイレ の ソコ を はたきて ムリ を とおす が ドウラク なりけり、 とうてい これ に ソウゾク は セキユグラ へ ヒ を いれる よう な もの、 シンダイ ケフリ と なりて きえのこる ワレラ なにと せん、 アト の キョウダイ も フビン と ハハオヤ、 チチ に ザンゲン の たえまなく、 さりとて これ を ヨウシ に と もうしうくる ヒト コノヨ には ある まじ、 とかく は アリガネ の ナニホド を わけて、 ワカインキョ の ベツコセキ に と ナイナイ の ソウダン は きまりたれど、 ホンニン ウワノソラ に ききながして テ に のらず、 ブンパイキン は 1 マン、 インキョブチ ツキヅキ おこして、 ユウキョウ に セキ を すえず、 チチウエ なくならば オヤガワリ の ワレ、 アニウエ と ささげて カマド の カミ の マツ 1 ポン も わが タクセン を きく ココロ ならば、 いかにも いかにも ベッコ の ゴシュジン に なりて、 この ヤ の ため には はたらかぬ が カッテ、 それ よろしくば オオセ の とおり に なりましょ と、 どうでも イヤガラセ を いいて こまらせける。 コゾ に くらべて ナガヤ も ふえたり、 ショトク は バイ に と セケン の クチ より ワガヤ の ヨウス を しりて、 おかし や おかし や、 そのよう に のばして タ が もの に する キ ぞ、 カジ は トウミョウザラ より も でる もの ぞ かし、 ソウリョウ と なのる ヒノタマ が ころがる とは しらぬ か、 やがて まきあげて キサマタチ に よき ショウガツ を させる ぞ と、 イサラゴ アタリ の ビンボウニン を よろこばして、 オオミソカ を アテ に オオノミ の バショ も さだめぬ。
 それ アニサマ の オカエリ と いえば、 イモト ども こわがりて ハレモノ の よう に さわる モノ なく、 ナニゴト も イウナリ の とおる に いちだん と ワガママ を つのらして、 コタツ に リョウアシ、 エイザメ の ミズ を ミズ を と ロウゼキ は これ に トドメ を さしぬ、 にくし と おもえど さすが に ギリ は つらき もの かや、 ハハオヤ カゲ の ドクゼツ を かくして カゼ ひかぬ よう に コカイマキ なにくれ と マクラ まで あてがいて、 アス の シタク の ムシリゴマメ、 ヒトデ に かけて は ソマツ に なる もの と きこえよがし の ケイザイ を マクラモト に みしらせぬ。 ヒル も ちかづけば オミネ は オジ への ヤクソク こころもとなく、 ゴシンゾ が ゴキゲン を みはからう に イトマ も なければ、 わずか の テスキ に ツムリ の テヌグイ を まろめて、 コノホド より ねがいましたる こと、 おりから おいそがしき とき こころなき よう なれど、 キョウ の ヒルスギ に と サキ へ ヤクソク の きびしき カネ と やら、 オタスケ の ねがわれますれば オジ の シアワセ ワタシ の ヨロコビ、 いついつまでも ゴオン に きまする とて テ を すりて たのみける、 はじめ いいいでし とき にやふや ながら つまり は よし と ありし コトバ を タノミ に、 また の キゲン むつかしければ うるさく いいて は かえりて いかが と キョウ まで も ガマン しけれど、 ヤクソク は キョウ と いう オオミソカ の ヒルマエ、 わすれて か なんとも オオセ の なき ココロモトナサ、 ワレ には ミ に せまりし ダイジ と いいにくき を ガマン して かく と もうしける、 ゴシンゾ は おどろきたる よう の アキレガオ して、 それ は まあ なんの こと やら、 なるほど オマエ が オジサン の ビョウキ、 つづいて シャッキン の ハナシ も ききました が、 イマ が イマ ワタシ の ウチ から たてかえよう とは いわなかった はず、 それ は オマエ が なにぞ の キキチガエ、 ワタシ は すこしも オボエ の なき こと と、 これ が この ヒト の ジュウハチバン とは てもさても なさけなし。
 ハナモミジ うるわしく したてし ムスメ たち が ハルギ の コソデ、 エリ を そろえて ツマ を かさねて、 ながめつ ながめさせて よろこばん もの を、 ジャマモノ の アニ が ミルメ うるさし、 はやく でて ゆけ とく いね と おもう オモイ は クチ に こそ いださね、 モチマエ の カンシャク シタ に たえがたく、 チシキ の ボウサマ が メ に ごらんじたらば、 ホノオ に つつまれて ミ は クロケフリ に ココロ は キョウラン の おりふし、 いう こと も いう こと、 カネ は テキヤク ぞ かし、 ゲンザイ うけあいし は ワレ に オボエ あれど なんの それ を いとう こと かは、 おおかた オマエ が キキチガエ と たてきりて、 タバコ ワ に ふき ワタシ は しらぬ と すましけり。
 ええ タイキン でも ある こと か、 カネ なら 2 エン、 しかも くちずから ショウチ して おきながら トオカ と たたぬ に モウロク は なさる まじ、 あれ あの カケスズリ の ヒキダシ にも、 これ は テツカズ の ブン と ヒトタバ、 10 か 20 か ミナ とは いわず ただ 2 マイ にて オジ が よろこび オバ が エガオ、 サンノスケ に ゾウニ の ハシ も とらさるる と いわれし を おもう にも、 どうでも ほしき は あの カネ ぞ、 うらめしき は ゴシンゾ と オミネ は クチオシサ に モノ も いわれず、 つねづね おとなしき ミ は リクツヅメ に やりこめる スベ も なくて、 すごすご と カッテ に たてば ショウゴ の ドン の オト たかく、 かかる おりふし ことさら ムネ に ひびく もの なり。
 オハハサマ に すぐさま おいで くださる よう、 ケサ より の オクルシミ に、 シオドキ は ゴゴ、 ウイザン なれば ダンナ トリトメ なく おさわぎ なされて、 オトシヨリ なき イエ なれば コンザツ オハナシ に ならず、 イマ が イマ オイデ を とて、 ショウシ の ワケメ と いう ウイザン に、 サイオウジ の ムスメ が モト より ムカイ の クルマ、 これ は オオミソカ とて エンリョ の ならぬ もの なり、 イエ の ウチ には カネ も あり、 ノラ ドノ が ねて は いる、 ココロ は フタツ、 わけられぬ ミ なれば オンアイ の オモキ に ひかれて、 クルマ には のりけれど、 かかる とき キラク の オット が ココロネ にくく、 キョウ アタリ オキヅリ でも なき もの を と、 タイコウボウ が ハリアイ なき ヒト を つくづく と うらみて ゴシンゾ いでられぬ。
 ユキチガエ に サンノスケ、 ここ と ききたる シロカネ ダイマチ、 ソウイ なく たずねあてて、 ワガミ の みすぼらしき に アネ の カタミ を おもいやりて、 カッテグチ より こわごわ のぞけば、 タレ ぞ きし か と カマド の マエ に なきふしたる オミネ が、 ナミダ を かくして みいだせば この コ、 おお よく きた とも いわれぬ シギ を なんと せん、 アネサマ はいって も しかられ は しませぬ か、 ヤクソク の もの は もらって ゆかれます か、 ダンナ や ゴシンゾ に よく オレイ を もうして こい と トトサン が いいました と、 シサイ を しらねば ヨロコビガオ つら や、 まずまず まって くだされ、 すこし ヨウ も あれば と はせゆきて ウチト を みまわせば、 ジョウサマ がた は ニワ に でて オイハゴ に ヨネン なく、 コゾウ ドノ は まだ オツカイ より かえらず、 オハリ は 2 カイ にて しかも ツンボ なれば シサイ なし、 ワカダンナ は と みれば オイマ の コタツ に イマ ぞ ユメ の マッタダナカ、 おがみまする カミサマ ホトケサマ、 ワタシ は アクニン に なりまする、 なりとう は なけれど ならねば なりませぬ、 バチ を おあて なさらば ワタシ ヒトリ、 つこうて も オジ や オバ は しらぬ こと なれば おゆるし なさりませ、 もったいなけれど この カネ ぬすませて くだされ と、 かねて みおきし スズリ の ヒキダシ より、 タバ の ウチ を ただ 2 マイ、 つかみし アト は ユメ とも ウツツ とも しらず、 サンノスケ に わたして かえしたる シジュウ を みし ヒト なし と おもえる は おろか や。

     *     *     *     *

 その ヒ も クレ ちかく ダンナ ツリ より エビスガオ して かえらるれば、 ゴシンゾ も つづいて、 アンザン の ヨロコビ に オクリ の モノ に まで アイソウ よく、 コヨイ を しまえば また みまいまする、 アス は はやく に イモト ども の タレ なり とも、 ヒトリ は かならず てつだわする と いうて くだされ、 さてさて ゴクロウ と ロウソクダイ など を やりて、 やれ いそがし や タレ ぞ ヒマ な カラダ を カタミ かりたき もの、 オミネ コマツナ は ゆでて おいた か、 カズノコ は あらった か、 オオダンナ は おかえり に なった か、 ワカダンナ は と、 これ は コゴエ に、 まだ と きいて ヒタイ に シワ を よせぬ。
 イシノスケ その ヨ は おとなしく、 ハル は アス より の サンガニチ なり とも、 わが イエ にて いわう べき はず ながら ゴゾンジ の シマリナシ、 かたくるしき ハカマヅレ に アイサツ も メンドウ、 イケン も じつは ききあきたり、 シンルイ の カオ に うつくしき も なければ みたし と おもう ネン も なく、 ウラヤ の トモダチ が モト に コヨイ ヤクソク も ござれば、 ひとまず オイトマ と して いずれ ハルナガ に チョウダイ の カズカズ は ねがいまする、 おりから おめでたき ヤサキ、 オセイボ には なにほど くださります か と、 アサ より ねこみて チチ の カエリ を まちし は これ なり、 コ は サンガイ の クビカセ と いえど、 まこと ノラ を コ に もつ オヤ ばかり フコウ なる は なし、 きられぬ エン の チスジ と いえば ある ほど の イタズラ を つくして ガカイ の アカツキ に おちこむ は この フチ、 しらぬ と いいて も セケン の ゆるさねば、 イエ の ナ おしく わが カオ はずかしき に おしき クラ をも ひらく ぞ かし、 それ を みこみて イシノスケ、 コヨイ を キゲン の シャッキン が ござる、 ヒト の ウケ に たちて ハン を したる も あれば、 ハナミ の ムシロ に キョウフウ イチジン、 ゴロツキ ナカマ に やる もの を やらねば この オサマリ むずかしく、 ワレ は せんかたなけれど オナマエ に もうしわけなし など と、 つまり は これ の ほし と きこえぬ。 ハハ は おおかた かかる こと と ケサ より の ケネン ウタガイ なく、 いくら と ねだる か、 ぬるき ダンナ ドノ の ショチ はがゆし と おもえど、 ワレ も クチ にて は かちがたき イシノスケ の ベン に、 オミネ を なかせし ケサ とは かわりて チチ が カオイロ いかに と ばかり、 おりおり みやる シリメ おそろし、 チチ は しずか に キンコ の マ へ たちし が やがて 50 エン タバ ヒトツ もちきて、 これ は キサマ に やる では なし、 まだ えんづかぬ イモウト ども が フビン、 アネ が オット の カオ にも かかる、 この ヤマムラ は ダイダイ カタギ イッポウ に ショウジキ リチギ を マッコウ に して、 わるい ウワサ を たてられた こと も なき はず を、 テンマ の ウマレガワリ か キサマ と いう ワル の できて、 なき あまり の ムフンベツ に ヒト の フトコロ でも ねらう よう に ならば、 ハジ は わが イチダイ に とどまらず、 おもし と いう とも シンダイ は ニノツギ、 オヤキョウダイ に ハジ を みするな、 キサマ に いう とも カイ は なけれど ナミナミ ならば ヤマムラ の ワカダンナ とて、 いらぬ セケン に アクヒョウ も うけず、 わが カワリ の ネンレイ に すこし の ロウ をも たすくる はず を、 60 に ちかき オヤ に ナキ を みする は バチアタリ で なき か、 コドモ の とき には ホン の すこし も のぞいた ヤツ、 なぜ これ が わかりおらぬ、 さあ ゆけ、 かえれ、 どこ へ でも かえれ、 この イエ に ハジ は みするな とて チチ は おくふかく はいりて、 カネ は イシノスケ が フトコロ に いりぬ。

     *     *     *     *

 オフクロサマ ごきげんよう よい シンネン を おむかい なされませ、 さようならば まいります と、 イトマゴイ わざと うやうやしく、 オミネ ゲタ を なおせ、 オゲンカン から オカエリ では ない オデカケ だぞ と ずぶずぶしく オオデ を ふりて、 ユクサキ は いずこ、 チチ が ナミダ は イチヤ の サワギ に ユメ とや ならん、 もつ まじき は ノラムスコ、 もつ まじき は ノラ を したつる ママハハ ぞ かし。 シオバナ こそ ふらね アト は ひとまず はきだして、 ワカダンナ タイサン の ヨロコビ、 カネ は おしけれど ミルメ も にくければ イエ に おらぬ は ジョウジョウ なり、 どう すれば あのよう に ずぶとく なられる か、 あの コ を うんだ カカサン の カオ が みたい、 と ゴシンゾ レイ に よって ドクゼツ を みがきぬ。 オミネ は この デキゴト も なんと して ミミ に いる べき、 おかしたる ツミ の オソロシサ に、 ワレ か、 ヒト か、 サッキ の シワザ は と いまさら ユメジ を たどりて、 おもえば この こと あらわれず して すむ べき や、 マン が ナカ なる 1 マイ とて も かぞうれば メノマエ なる を、 ネガイ の タカ に ソウオウ の インズ テヂカ の ところ に なくなりし と あらば、 ワレ に して も ウタガイ は いずこ に むく べき、 しらべられなば なんと せん、 なんと いわん、 いいぬけん は つみふかし、 ハクジョウ せば オジ が ウエ にも かかる、 わが ツミ は カクゴ の うえ なれど ものがたき オジサマ に まで ヌレギヌ を きせて、 ほされぬ は ビンボウ の ナライ、 かかる こと も する もの と ヒト の いい は せぬ か、 かなし や なんと したら よかろ、 オジサマ に キズ の つかぬ よう、 ワガミ が トンシ する ホウ は なき か と メ は ゴシンゾ が タチイ に したがいて、 ココロ は カケスズリ の モト に さまよいぬ。
 オオカンジョウ とて この ヨ ある ほど の カネ を まとめて フウイン の こと あり、 ゴシンゾ それそれ と おもいだして、 カケスズリ に さきほど ヤネヤ の タロウ に カシツケ の モドリ あれ が 20 ござりました、 オミネ オミネ、 カケスズリ を ここ へ と オクノマ より よばれて、 もはや この とき わが イノチ は なき もの、 オオダンナ が オメドオリ にて ハジメ より の こと を もうし、 ゴシンゾ が ムジョウ ソノママ に いうて のけ、 ジュツ も なし ホウ も なし ショウジキ は ワガミ の マモリ、 にげ も せず かくられ も せず、 ヨク か しらねど ぬすみました と ハクジョウ は しましょ、 オジサマ ヒトツ で なき だけ を どこまでも のべて、 きかれずば かいなし その バ で シタ かみきって しんだ なら、 イノチ に かえて ウソ とは おぼしめす まじ、 それほど ドキョウ すわれど オクノマ へ ゆく ココロ は トショ の ヒツジ なり。

     *     *     *     *

 オミネ が ひきだしたる は ただ 2 マイ、 ノコリ は 18 ある べき はず を、 いかに しけん タバ の まま みえず とて ソコ を かえして ふるえど も かいなし、 あやしき は おちちりし カミキレ に いつ したためし か ウケトリ 1 ツウ。
   (ヒキダシ の ブン も ハイシャク いたしそうろう      イシノスケ)
 さては ノラ か と ヒトビト カオ を みあわせて オミネ が センギ は なかりき、 コウ の ヨトク は われしらず イシノスケ の ツミ に なりし か、 いやいや しりて ついでに かぶりし ツミ かも しれず、 さらば イシノスケ は オミネ が マモリ ホンゾン なる べし、 ノチ の こと しりた や。
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ヒエイ

2014-12-07 | ヨコミツ リイチ
 ヒエイ

 ヨコミツ リイチ

 ケッコン して から 8 ネン にも なる のに、 キョウト へ いく と いう の は サダオ フサイ に とって マイトシ の キボウ で あった。 イマ まで にも フタリ は たびたび いきたかった の で ある が、 フサイ の シゴト が くいちがったり、 コドモ に テカズ が かかったり して、 イッカ ひきつれて の カンサイ-ユキ の キカイ は なかなか こなかった。 それ が キョウト の ギケイ から コトシ こそ は チチ の ジュウサン カイキ を やりたい から ぜひ くる よう に と いって きた ので、 ホカ の こと は アト へ おしやって いよいよ 3 ガツ ゲジュン に キョウ へ たった。 サダオ は ツマ の チエコ が トウキョウ イセイ は はじめて なので、 サダオ の ヨウネンキ を すごした トチ を みせて おく の も よかろう と おもい、 ヒトツ は コトシ ショウガッコウ へ はじめて あがる チョウナン の キヨシ に、 チチ の はじめて あがった ショウガッコウ を みせて やりたく も あった ので、 ヒトリ で ときどき きて いる ケイハン の トチ にも かかわらず、 コノタビ は アンナイヤク の こと とて キボネ も おれた。
 サダオ フサイ は ヤド を サダオ の アネ の イエ に した。 ヨクジツ は アネ の コドモ の ムスメ ヒトリ と サダオ の コドモ の チョウナン ジナン と、 それに サダオ フサイ に アネ、 ソウゼイ 6 ニン で フボ の ホネ を おさめて ある オオタニ の ノウコツドウ へ まいった。 すでに フボ は しんで いる とは いえ、 サダオ は コドモ を みせ に ドウ へ いく の は はじめて の こと とて ソリ を うった イシバシ を わたる エリクビ に ふきつける カゼ も おだやか に かんぜられた。 カレ は まだ フタツ に より ならぬ ジナン の ほう を かかえて、 もう サカリ を すぎた コウバイ を あおぎながら イシダン を のぼった。 キヨシ より 1 ネン ウエ の アネ の ムスメ の トシコ と キヨシ とは、 もう たかい イシダン を マッサキ に かけのぼって しまって みえなく なった。 サダオ は イシダン を のぼる クルシサ に カラダ が よほど よわって きて いる の を かんじた。 カレ は その トチュウ で、 コトシ つぎつぎ に しんで いった タクサン の ジブン の ユウジン の こと を おもいながら、 ふと、 ジブン が しんで も コドモ たち は こうして くる で あろう と おもったり、 その とき は ジブン は どんな オモイ で ドウ の ナカ から のぞく もの で あろう か と おもったり、 ヨ の ツネ の ドウ へ まいる ゼンナン ゼンニョ の ムネ に うかぶ カンガエ と どこ も ちがわぬ クウソウ の うかぶ の に、 しばらく は ヘイコウ しながら コドモ ら の アト を おって いった。 しかし サダオ は チエコ や アネ を みる と、 カノジョ ら は いっこう フボ の ホネ の マエ に でる カンガイ も なさそう に、 アタリ の フウケイ を しょうしながら たのしげ に はなして いる の を みる と、 それでは この ナカ で イチバン に コフウ なの は ジブン で あろう か と おもったり した。 そのくせ キョウト へは イクド も ヒトリ で きて いながら、 まだ カレ は イチド も ボサン を しなかった の で ある。
 サキ に いった コドモ ら は サダオ ら が まだ イシダン を のぼりきらない うち に、 もう ウエ の ケイダイ を オッカケアイ を して きた アシ で、 また イシダン を おりて くる と、 コンド は ハハオヤ たち の スソ の シュウイ を きゃっきゃっ と コエ を たてて おっかけあった。
「しずか に なさい しずか に、 また セキ が でます よ」 と アネ は トシコ を しかった。
 しかし、 コドモ たち は はじめて あった イトコ ドウシ なので、 オヤ たち の コエ を ミミ にも いれず また すぐ カイダン を かけあがって いった。
 イチドウ そろって ウエ に のぼり、 ノウコツドウ へ サンパイ して、 それから いよいよ ホンドウ で キョウ を あげて もらわねば ならぬ の で ある が、 ズキョウ の シタク の できる まで 6 ニン は ニワムキ の ヘヤ に いれられた。 そこ は ヒノメ の さした こと も なかろう と おもわれる よう な、 インキ な つめたい ヘヤ、 タタミ は イタ の よう に しまって かたく、 テンジョウ は たかかった。 しかし、 シュウイ の あつい キンデイ の フスマ は エイトク-フウ の ケンラン な カチョウ で イキグルシサ を かんじる ほど で あった。 サダオ は ヘヤ の イチグウ に 2 マイ に たたんで たてて ある ふるい ビョウブ の エ が メ に つく と、 もう コドモ たち の こと も わすれて ながめいった。 ハ の おちつくした チヘン の ハヤシ の トコロドコロ に、 モクレン らしい しろい ハナ が ユメ の よう に うきあがって いて、 その シタ の ミズギワ から 1 ワ の サギ が いましも とびたとう と して いる ところ で ある が、 おぼろ な ハナ や ハヤシ に ひきかえて その サギ 1 ピキ の セイドウ の キリョク は、 おどろく ばかり に シュンケイ な カンジ が した。 サダオ は これ は ソウタツ では ない か と おもって しばらく メ を はなさず に いる と、 いつのまにか チャ が でて いた。 コドモ ら は サトウ の ついた センベイ を おとなしく たべて いた が、 サダオ の スエ の フタツ に なる コ だけ は、 ほそく わりちらけて サンラン して いる カシ の ハヘン の ナカ で、 およぐ よう に ハラバイ に なり、 カオ から リョウテ に かけて カシ の カケラ-だらけ に した まま、 サダオ の みて いる ビョウブ を アシ で ぴんぴん イキオイ よく けりつけた。
「こりゃこりゃ」
 サダオ は ジナン の アシ の とどかぬ よう に ビョウブ を とおのける と、 また あかず ながめて いた。 しかし、 ヒバチ に ヒ の ある のに、 ひどく そこ は さむかった。 これ では また ミナ カゼ に やられる どころ か、 サダオ ジシン もう ツヅケサマ に クサメ が でて きた。 その うち に ようやく キョウ の ヨウイ も できた ので ホンドウ へ アンナイ された が、 きて みる と、 ここ は いっそう さむい うえ に、 もちろん ヒバチ も ザブトン も なかった。 サダオ の ヨコ へ トシコ、 キヨシ と ならんで、 サダオ の アネ が カレ の ジナン を だいて いる ソバ へ チエコ が すわった。 みわたした ところ イジョウ は なかった が、 アネ に だかれて いる ジナン の つきだして いる アシ に、 クツ が まだ ソノママ に なって いた。 しかし、 ジナン の クツ は まだ シタ へも おろした こと も なく、 タビ-ガワリ の クツ と いえない もの でも なかった ので、 サダオ は チュウイ も せず に だまって ソウリョ の でて くる ほう を ながめて いる と、 アネ は それ を みつけた らしい。
「あら、 ケイ ちゃん、 えらそう に クツ を はいた まま や がな。 こりゃ ども ならん」
 と いって、 わらいながら ケイジ の クツ を とろう と した。
「よい よい」 と サダオ は いった。
「そう やな、 アイキョウ が あって これ も オジイサン、 みたい やろ」
 アネ の コトバ に ケイジ の クツ を ぬがそう と した チエコ も ソノママ に した。 キヨシ と トシコ とは ブツダン の ほう を イチド も みず に、 まだ イシダン から の フザケアイ を つづけながら、 カタ を つぼめて 「くっくっ」 と ワライゴエ を しのばせて すわって いた。
 ズキョウ が はじまる と イチドウ は だまって キョウ の おわる の を まって いた が、 ウシロ から ふきつけて くる カゼ の サムサ に、 サダオ は ながい キョウ の はやく ちぢまる こと ばかり を ねがって やまなかった。 しかし、 もし これ が チチ の カイキ では なくって タニン の だったら、 こんな ネガイ も おこさず に いる だろう と おもう と、 いつまでも あまえかかる こと の できる の は、 やはり チチ だ と、 セイゼン の チチ の スガタ が あらためて アタマ に えがきだされて くる の だった。 カレ は チチ が すき で あった ので、 チチ に しにわかれて から は トシゴト に いっそう チチ に あいたい と おもう ココロ が つのった。 チチ は サダオ の 25 サイ の とき に ケイジョウ で ノウイッケツ の ため に たおれた ので、 サダオ は チチ の シニメ にも あって いなかった。 チチ が しんで から 10 ネン-メ に、 カレ は センパイ や チジン たち と ヒコウキ で ケイジョウ まで とんだ こと が あった が、 その とき も キ が ケイジョウ の ソラ へ さしかかる と、 まだ その アタリ の クウキ の ナカ に、 チチ が うろうろ さまよって いる よう に おもわれて、 ナミダ が うきあがって きた の を カレ は おもいだした。
 ようやく ながい ズキョウ が すんで、 イチドウ は ひろい タカエン に たつ と、 ヒ の さしかかって きた シガイ が イチボウ の ウチ に みわたされた。
「さあさあ、 これ で ヤクメ も すみました よ」
 そう いう アネ の アト から、 チエコ も ショール を ひろげながら、 「ホント に、 これ で はればれ しました わ」 と いって タカエン の ダン を おりた。
 アト は もう サダオ は カナイ イチドウ を つれて、 カッテ に どこ へ でも いけば よかった。
 ツギ の ヒ から カレ は コドモ を アネ に あずけ、 チエコ と フタリ で オオサカ と ナラ へ いった。 それ を すます と みのこした キョウト の メイショ を まわって、 サイゴ に ヒエイザン-ゴシ に オオツ に でて みよう と サダオ は おもった。 オオツ は カレ が サイショ に ガッコウ へ いった トチ でも あり、 ことに 6 ネン を ソツギョウ する とき に うえた ちいさな ジブン の サクラ が 20 ネン の アイダ に、 どれほど おおきく なって いる か みたかった。
 ヒエイ ノボリ の ヒ には、 マイニチ あるきまわった ため サダオ も チエコ も ソウトウ に つかれて いた が、 ジナン を アネ の イエ に のこして キヨシ を つれ、 ケーブル で ヤマ に のぼった。 サダオ は ヒエイザン へは ショウガッコウ の とき に オオツ から 2 ド のぼった キオク が ある が、 キョウト から は はじめて で あった。 チエコ は ケーブル が うごきだす と、 キモチ が わるい と いって カオ を すこしも あげなかった。 しかし、 のぼる に つれて カスミ の ナカ に しずんで いく キョウ の マチ の カワラ は うつくしい と サダオ は おもった。
「みなさい。 ヒコウキ に のる と ちょうど こんな だ」 と サダオ は キヨシ の カタ を つかまえて いった。
 シュウテン で おりて から チョウジョウ へ でる ミチ が フタツ に わかれて いた ので、 サダオ は サキ に たって ヒロバ の ナカ を つきぬけて いく と、 ミチ は ハヤシ の ナカ へ はいって しまって だんだん と クダリ に なった。
「こりゃ おかしい。 まちがった ぞ」
 サダオ は ミチ を ききただそう にも ツウコウニン が いない ので また アト へ ひきかえした。 チエコ は ツネヅネ から キョウ オオサカ なら どこ でも しって いる カオツキ の サダオ の シッパイ に、
「だから、 えらそう な カオ は する もん じゃ ありません わ」 と いって やりこめた。
 ユキドケ で びしょびしょ の ミチ を ようやく モト へ もどる と、 ヒトクミ の ホカ の ヒトタチ と イッショ に なった ので その アト から サダオ たち も ついて いった。 ほそい ヤマミチ は ヒ の あった ところ を とけくずしながら も、 ヤマカゲ は ザンセツ で ふむ たび に ゾウリ が なった。 チエコ は ときどき たちどまって、 まだ ユキ を かぶって いる タンバ から セッツ へ かけて のびて いる ヤマヤマ の ミネ を みわたしながら、
「おお きれい だ きれい だ」 と カンタン しつづけた。
 7~8 チョウ も あるく と、 また ハリガネ に つるされた ノリモノ で タニ を わたらねば ならなかった が、 これ は ケーブル より も いっそう ノリグアイ が ヒコウキ に にて いた。
「この ほう が ヒコウキ に にて いる よ」
「これ なら キモチ が いい けど、 ケーブル は なんだか いや だわ」
 そう いう チエコ に だきかかえられて いる キヨシ は、
「ほらほら、 また きた」 と とつぜん さけんで ゼンポウ を ゆびさした。
 みる と ムコウ から あたらしく したてて きた クルマ が、 こちら を むかって ういて きた。 ミナ が しばらく クチ を ぼんやり あけて その クルマ の ほう を おもしろそう に ながめて いた。 すると その トタン に、 チュウケイ の ハシラ の ところ で、 キュウ に ごとり と シャタイ が イチド ずりさがった。 イチドウ は イキノネ を とめて たがいに カオ を みあわした が、 チュウケイ の ハシラ が いきすぎた クルマ の コウホウ に みえる と、 はじめて ナットク した らしく また キュウ に コエ を あげて、 あれ だ あれ だ と いって わらいだした。 しかし、 その とき には もう あたらしく ゼンポウ から きた クルマ は、 ミナ の びっくり して いる カオ の マエ を いきすぎて いた ので、 ソウホウ の クルマ は アンシン の アト の ヨウキ な キモチ で、 たがいに テヌグイ を ふりあって いっそう マエ より はしゃいだ。
 クルマ を おりて はじめて チ を ふんだ とき、 キヨシ は おおきな コエ で、
「こわかった ね、 さっき、 ごとり って いう ん だ もの。 ボク、 おっこちた か と おもった」 と チエコ に いった。
 すると、 クルマ を おりて から もう ずっと ゼンポウ を あるいて いる ヒトビト まで、 ふりかえって また どっと わらいだした。
 チョウジョウ の コンポン チュウドウ まで は まだ 18 チョウ も ある と いう ので、 カゴ を どう か と サダオ は おもった が、 チエコ は あるきたい と いった。 カゴカキ は しきり に ユキドケ の ミチ の ワルサ を セツメイ しながら 3 ニン の アト を おって きて やめなかった。 しかし、 サダオ も チエコ も アイテ に せず あるいて いく と、 なるほど ユキ は ゾウリ を うめる ほど の フカサ で どこまでも のびて いた。
「どう だ、 のる か」 と また サダオ は ウシロ を ふりかえった。
「あるきましょう よ。 こんな とき でも あるかなければ、 なにしに きた の か わからない わ」 と チエコ は いった。
 サダオ には、 ミチ は どこまでも ヘイタン な こと は わかって いた が、 キヨシ も よわる し、 ぬれた ゾウリ の ツメタサ は アト で こまる と おもった ので、
「のろう じゃ ない か。 キモチ が わるい よ」 と また すすめた。
「アタシ は のらない わ、 だって ノボリ が もう ない ん でしょう」 と チエコ は まだ ガンキョウ に ヒトリ サキ に たって ユキ の ナカ を あるいて いった。
「それじゃ、 こまったって しらない ぞ」 と サダオ は いう と シリ を はしょった。
 ミチ は くらい スギ の ミツリン の ナカ を どこまでも つづいた。 チエコ と サダオ は ナカ に キヨシ を はさんで、 かたそう な ユキ の ウエ を えらびながら わたって いった。 ひやり と はださむい クウキ の ホオ に あたって くる ナカ で、 ウグイス が しきり に ハオト を たてて ないて いた。 サダオ は あるきながら も、 デンギョウ ダイシ が ミヤコ に ちかい この チ に ホンキョ を さだめて コウヤサン の コウボウ と タイリツ した の は、 デンギョウ の マケ だ と ふと おもった。 これ では キョウ に あまり ちかすぎる ので、 よかれ あしかれ、 キョウト の エイキョウ が ひびきすぎて こまる に ちがいない の で ある。 そこ へ いく と コウボウ の ほう が イチダン ウエ の センリャクカ だ と おもった。 サダオ は コウヤサン も しって いた が、 あの チ を えらんだ コウボウ の ガンリキ は 1000 ネン の スエ を みつめて いた よう に おもわれた。 もし デンギョウ に ジシン の ノウリョク に たよる より も、 シゼン に たよる セイシン の ほう が すぐれて いた なら、 すくなくとも ここ より ヒラ を こして、 エチゼン の サカイ に コンポン チュウドウ を おく べき で あった と かんがえた。 もし そう する なら、 キョウ から は ビワコ の シュウシュウ と リクロ の ベン と を かねそなえた うえ に、 ハイゴ の テキ の ミイデラ も ガンチュウ に いれる ヨウ は ない の で あった――。
 こういう よう な ムソウ に ふけって あるいて いる サダオ の アタマ の ウエ では、 また いっそう ウグイス の ナキゴエ が さかん に なって きた。 しかし、 サダオ は それ には あまり きづかなかった。 カレ は ジシン に たよる デンギョウ の ショウジョウテキ な コウドウ が、 イマ げんに、 まだ どこ まで つづく か まったく わからぬ ユキ の ナカ を、 カゴ を すてて トホ で あるきぬこう と して いる ツマ の チエコ と ドウヨウ だ と おもった。 それなら イマ の ジブン は コウボウ の ほう で あろう か。 こう おもう と、 サダオ は また コウボウ の ダイジョウテキ な オオキサ に ついて かんがえた。 できうる かぎり シゼン の チカラ を リヨウ して、 キョウト の セイフ と タイキュウリョク の イッテン で たたかった の で あった。 つまり、 イマ の サダオ に ついて かんがえる なら、 カゴ を リヨウ して ユクサキ の フメイ な ユキミチ を わたろう と いう の で ある。 コウボウ は セイフ と コウヤサン との アイダ に ムリ が できる と ユクエ を くらまし、 モンダイ が カイケツ する と また でて きた。 そうして ショウガイ アンノン に ヨ を おくった コウボウ は、 この エイザン から キョウト の ズジョウ を ジシン の ガクリョク と ジンカク と で たえず おしつけた デンギョウ の ムボウサ に くらべて、 セイフ と いう シゼンリョク より も おそる べき コノヨ の サイジョウ の キョウケン を ソウジュウ する ジュッサク を こころえて いた の で ある。 サダオ は サイジョウ の キョウケン を かんがえず して おこなう コウイ を、 ミ を すてた ダイジョウ の セイシン とは かんがえない セイシツ で あった。 なぜか と いう なら、 もし ジガ を おしすすめて いく デンギョウ の オコナイ を ジゾク させて いく なら、 カレ の シゴ に つづく ギョウジャ の クリョ は、 ヒツゼンテキ に テンダイ イッパ に ながれる ソコヂカラ を ホウカイ させて いく の と ひとしい から で ある。
 げんに サダオ は、 チエコ と ジブン との アイダ に はさまれて、 フキゲン そう に とぼとぼ あるいて いる コ の キヨシ の アシツキ を みて いる と、 いつまで フタリ の アユミ に つづいて こられる もの か と、 たえず フアン を かんじて ならなかった。 その うち に しつこく ついて きた カゴカキ は、 いつのまにか いなく なって いた が、 それ に かわって、 キヨシ の アシツキ を みて いた バアサン が まだ ついて きて、 コドモ を サカモト クダリ の ケーブル の ところ まで おわせて もらいたい と いって きた。
「どう する。 キヨシ だけ おぶって もらわない か」 と サダオ は また いった。
「いい わ。 あるける わね」 と チエコ は ウシロ の キヨシ を ふりかえった。
「それでも、 まだまだ とおい どす え。 こんな オコサン で あるけ や しまへん が、 やすう まけときます わ」 と バアサン は いいながら、 コンド は キヨシ と サダオ の アイダ へ わりこんで きた。
「でも、 この コ は アシ が つよい ん です から、 もう いい ん です の」
「おぶって もらえ おぶって もらえ」 と サダオ は いった。
「だって、 もう すぐ なん でしょう」 と チエコ は バアサン に たずねた。
「まだまだ あります え。 やすう オマケ しときます がな。 20 セン で いきます わ。 どうせ かえります の やで、 ひとつ おわして おくんなはれ」
 あくまで すりよって あるいて くる バアサン に、 チエコ も コンマケ が した らしく、
「キヨシ ちゃん、 どう する。 オンブ して もらう?」 と たずねた。
「ボク、 あるく」 と キヨシ は いって バアサン から ミ を はなした。
 こんな とき には、 ながく ヒトリゴ だった キヨシ は いつも ハハオヤ の ほう の ミカタ を する に きまって いた。
「アナタ サカモト まで かえる ん です の」 と チエコ は バアサン に たずねた。
「ええ、 そう です。 マイニチ かよって ます の や」
「オンブ して もらう ヒト ありまして、 こんな とこ?」
「コノゴロ は あんまり おへん どす な。 マイニチ テブラ どす え」 と バアサン は いった が、 もう キヨシ を おう の は ダンネン した らしく、 タビ の ミチヅレ と いう カオツキ で チエコ と ノンキ に ならんで あるきだした。
 サダオ は かたむきかかった キモチ も ようやく キンコウ の とれて くる の を かんじた。 しかし、 キヨシ は ハハ と チチ と が ジブン の こと で サッキ から ケンアク に なりかかって いる の を かんじて いる ので、 サダオ が ソバ へ ちかづく と すぐ チエコ の ミヂカ へ ひっついて あるいた。 サダオ は これから ツギ の ケーブル まで この バアサン が ついて くる の だ と おもう と、 キモチ を なおして くれた バアサン で ある にも かかわらず、 サッキ の イラダタシサ が いつ また からみついて くる か しれない フアンサ を かんじた ので、 コンド は いちばん セントウ に たって あるいて いった。 カレ は あるきながら も、 イマ ヒトリ ここ を あるいて いた の では イマ イジョウ の マンゾク を かんじない で あろう と おもった。 カレ は イクド も キョウ から この ミチ を とおった に ちがいない デンギョウ が、 この アタリ で、 どんな マンゾク を かんじよう と した の か と、 ふと ユキミチ を あるいて うかぶ カレ の コドク な シンリ に ついて かんがえて みた。 デンギョウ とて イッサン を ここ に おく イジョウ は、 シュジョウ サイド の ネンガン も この アタリ の サビシサ の ナカ では、 ボンプ の シントウ を キョライ する ザツネン と さして ちがう はず は あるまい と おもわれた。 しかし、 その とき、 サダオ の アタマ の ナカ には、 キョウト を みおろし、 イッポウ に ビワコ の ケイショウ を みおろす この サンジョウ を えらんだ デンギョウ の マンゾク が キュウ に わかった よう に おもわれた。 それ に ひきかえて、 イマ の ジブン の マンゾク は、 ただ ナニゴト も かんがえない ホウシン の キョウ に いる だけ の マンゾク で よい の で ある が、 それ を ヨウイ に できぬ ジブン を かんじる と、 イットキ も はやく ユキミチ を ぬけて ミズウミ の みえる ヤマヅラ へ まわりたかった。
 まもなく、 イマ まで くらかった ミチ は キュウ に ひらけて きて、 ニッコウ の あかるく さして いる ヒロバ へ でた。 そこ は コンポン チュウドウ の ある イッサン の チュウシン チタイ に なって いた が、 ヒロバ から いくらか クボミ の ナカ に ある チュウドウ の ヒサシ から は、 ユキドケ の シタタリ が アメ の よう に ながれくだって いた。
「やっと きた ぞ」 サダオ は ウシロ の チエコ と キヨシ の ほう を ふりかえった。
 チュウドウ の マエ まで いく には ゾウリ では いけそう も ない ので、 3 ニン は すぐ ヒロバ の ハシ に たって シタ を みおろした。 ソウシュン の ヘイヤ に つつまれた ミズウミ が タイヨウ に かがやきながら、 ガンカ に ひろびろ と よこたわって いた。
「まあ おおきい わね。 ワタシ、 ビワコ って こんな に おおきい もん だ とは おもわなかった わ。 まあ、 まあ」 と チエコ は いった。
 サダオ も ひさしく みなかった ビワコ を ながめて いた が、 ショウネンキ に ここ から みた ビワコ より も、 シキサイ が あわく おとろえて いる よう に かんじられた。 ことに ヒトメ で それ と しれた カラサキ の マツ も、 イマ は まったく かれはてて どこ が カラサキ だ か わからなかった。 しかし、 キョウト の キンコウ と して イッサン を ひらく には、 いかにも ここ は リソウテキ な チ だ と おもった。 ただ ナンテン は あまり に ここ は リソウテキ で ありすぎた。 もし こういう バショ を センユウ した なら、 シュウイ から あつまる センボウ シッシ の しずまる ジキ が ない の で ある。 サダオ は この チ を えられた デンギョウ の チイ と ケンイ の タカサ を いまさら に かんじた が、 たえず キョウト と ビワコ を ガンカ に ふみつけて セイカツ した シンリ は、 デンギョウ イゴ の ソウリョ の ソボウ な コウイ と なって センオウ を おこなった こと など、 ヨウイ に ソウゾウ できる の で あった。 これ を ぶちくだく ため には、 ノブナガ の よう な ヨーロッパ の シソウ の コンゲン で ある ヤソキョウ の シンジャ で なければ、 できにくい に ちがいない。 サダオ は シンブツ の アンチジョ が このよう な コウイチ に ある の は それ を シュゴ する ソウリョ の ココロ を かきみだす サヨウ を あたえる ばかり で、 かえって シュジョウ を すくいがたき に みちびく だけ だ と おもわれた。 それ に くらべて シンラン の ひくき に ついて マチ へ ネ を おろし、 チョウカ の ナカ へ ながれこんだ リアリスティック な セイシン は、 すべて、 ジュウシン は シタ へ シタ へ と おろす べし と といた ロウシ の セイシン と にかよって いる ところ が ある よう に おもわれた。
 しかし、 それにしても、 サダオ は ビワコ を キャッカ に みおろして も、 まだ ヨウイ に ホウシン は えられそう にも なかった。 デンギョウ とて、 トキ の セイフ を うごかす こと に ムチュウ に なる イジョウ に、 しょせん は ホウシン を えん と して チュウシン を この サンジョウ に おいた に ちがいない で あろう が、 それなら、 それ は カンゼン な アヤマリ で あった の だ。 サダオ は コンポン チュウドウ が ヒロバ より ひくい クボチ の ナカ に たてられて、 ガンカ の チョウボウ を きかなく させて ごまかして ある の も、 クリョ の イッサク から でた の で あろう と おもった が、 すでに、 チュウドウ ソノモノ が サンジョウ に ある と いう ロウマン シュギテキ な ケッテン は、 イッパ の ハンエイ に トウゼン の アクエイキョウ を あたえて いる の で ある。
 サダオ は キヨシ と チエコ を つれて、 いくらか クダリカゲン に なって ミチ を また あるいた。 ここ は キョウ-ムキ の ミチ より ユキ も きえて あかるい ため でも あろう。 ウグイス の ナキゴエ は マエ より いちだん と にぎやか に なって きた。 カレ は トチュウ、 あおい ペンキ を ぬった ウグイス の コエ を まねる タケブエ を うって いた ので、 それ を かって ヒトツ ジブン が もち、 フタツ を キヨシ に やった。 その ちいさな フエ は、 シリ を おさえる ユビサキ の カゲン ヒトツ で、 イロイロ な ウグイス の ナキゴエ を だす こと が できた。 サダオ は キヨシ に ヒトコエ ふいて みせる と、 もう ツカレ で ふくれて いた キヨシ も キュウ に にこつきだして ジブン も ふいた。 あるく アト から せまって くる の か、 ウグイス の コエ は わきあがる よう に アタマ の ウエ で しつづけた。
 サダオ は ふく たび に だんだん ジョウタツ する フエ の オモシロサ に しばらく たのしんで あるいて いる と、 キヨシ も リョウテ の フエ を かわるがわる ふきかえて は、 キ の コズエ から すべりながれる ニッコウ の ハンテン に カオ を そめながら、 のろのろ と やって きた。
「まるで コドモ フタリ つれて きた みたい だわ。 はやく いらっしゃい よ」
 チエコ は キヨシ の くる の を まって いった。 キヨシ は ハハオヤ に いわれる たび に フタリ の ほう へ いそいで かけて きた が、 また すぐ たちどまった。 ミチ が キ の ない ガケギワ に つづいて ウグイス の コエ も しなく なる と、 コンド は キヨシ と サダオ と が マエ と ウシロ と で タケブエ を なきかわせて ウグイス の マネ を して あるいた。 その うち に キヨシ も いつのまにか ジョウズ に なって、
「けきょ、 けきょ、 ほーけっきょ」
 と そんな ふう な ところ まで こぎつける よう に なって きた。
「アイツ の ウグイス は まだ コドモ だね。 オレ の は オヤドリ だぞ。 オマエ も ひとつ やって みない か」
 サダオ は わらいながら チエコ に そう いって、
「ほー、 ほけきょ、 ほー、 ほけきょ」 と やる の で あった。
 チエコ は アイテ に しなかった が、 ガケ を まがる たび に あらわれる ミズウミ を みて は、 テ を ヒタイ に あてながら たのしそう に たちどまって ながめて いた。
 まもなく 3 ニン は ケーブル まで ついた が、 まだ くだる ジカン まで すこし あった ので、 ふかい タニマ に つきでた ミネ の アタマ を きりひらいた テンボウジョウ の トッタン へ いって、 そこ の ベンチ に やすんだ。 サダオ は カヤ の ミツリン の はえあがって きて いる するどい コズエ の アイダ から ミズウミ を みて いた が、 ベンチ の ウエ に アシ を くむ と アオムキ に ながく なった。 カレ は ヒロウ で セナカ が べったり と イタ に へばりついた よう に かんじた。 すると、 だんだん イタ に すわれて いく ヒロウ の カイカン に ココロ は はじめて クウキョ に なった。 カレ は もう ソバ に いる コ の こと も ツマ の こと も かんがえなかった。 そうして メ を イッテン の クモリ も ない ソラ の ナカ に はなって ぼんやり して いる と、 ふと ジブン が イマ しねば ダイオウジョウ が できそう な キ が して きた。 もう ノゾミ は ジブン には なにも ない と カレ は おもった。 いや、 マクラ が ヒトツ ほしい と おもった が、 それ も なく とも べつに たいした こと でも なかった。
 チエコ も つかれた の か だまって うごかなかった が、 キヨシ だけ は まだ、 「ほー、 けっきょ、 けっきょ」 と こんよく くりかえして フエ を ふいた。
 サダオ は しばらく ねた まま ニッコウ に あたって いた が、 もう まもなく ハッシャ の ジコク に なれば、 イマ の ムジョウ の シュンカン も たちまち カコ の ユメ と なる の だ と おもった。 その とき、 キュウ に カレ の アタマ の ナカ に、 コ の ない ジブン の ユウジン たち の カオ が うかんで きた。 すると、 それ は ありう べからざる キミョウ な デキゴト の よう な キ が して きて、 どうして コ の ない のに ヒビ を ニンタイ して いく こと が できる の か と、 ムガ ムチュウ に あばれまわった エンリャクジ の ソウリョ たち の カオ と イッショ に なって、 しばらく は ユウジン たち の カオ が カレ の ノウチュウ を さらなかった。 しかし、 これ とて、 ない モノ は ない モノ で、 ある モノ の ボンノウ の イヤラシサ を おかしく ながめて くらしおわる の で あろう と おもいなおし、 ふと また サダオ は テンジョウ の すみわたった チュウシン に メ を むけた。
「カミガミ よ ショウラン あれ、 ワレ ここ に コ を もてり」
 カレ は マナイタ の ウエ に ダイ の ジ に なって よこたわった よう に、 ベンチ の ウエ に のびのび と よこたわって いた。 カレ は デンギョウ の こと など もう イマ は どうでも よかった。 しかし、 ジカン は イガイ に はやく たった と みえて、 うつらうつら ネムケ が さして きかかった とき、
「もう キップ を きって いまして よ。 はやく いかない と おくれます わ」 とつぜん チエコ が いった。
「ハッシャ か、 なんでも こい」 と サダオ は ふてぶてしい キ に なって おきあがった。 カレ は サカミチ を エキ の ほう へ かけのぼって いく チエコ と キヨシ の セナカ を ながめながら、 アト から ヒトリ おくれて あるいて いった。
 サダオ が クルマ に のる と すぐ ケーブル の ベル が なった。 つづいて クルマ は ミズウミ の ナカ へ ささりこむ よう に 3 ニン を のせて マッスグ に すべって いった。
「ほー、 けきょけきょ、 ほー、 けきょけきょ」 と キヨシ は マド に しがみついた まま まだ フエ を ふきつづけて いた。
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