カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ニジュウシ の ヒトミ 5

2018-06-21 | ツボイ サカエ
 5、 ハナ の エ

 ウミ の イロ も、 ヤマ の スガタ も、 そっくり そのまま キノウ に つづく キョウ で あった。 ほそながい ミサキ の ミチ を あるいて ホンコウ に かよう コドモ の ムレ も、 おなじ ジコク に おなじ バショ を うごいて いる の だ が、 よく みる と カオブレ の イクニン か が かわり、 その せい で か、 ミンナ の ヒョウジョウ も アタリ の キギ の シンメ の よう に シンセン なの に キ が つく。 タケイチ が いる。 ソンキ の イソキチ も キッチン の トクダ キチジ も いる。 マスノ や サナエ も アト から きて いる。
 この あたらしい カオブレ に よって、 モノガタリ の ハジメ から、 4 ネン の ネンゲツ が ながれさった こと を しらねば ならない。 4 ネン。 その 4 ネン-カン に 「イチオク ドウホウ」 の ナカ の カレラ の セイカツ は、 カレラ の ムラ の ヤマ の スガタ や、 ウミ の イロ と おなじ よう に、 キノウ に つづく キョウ で あったろう か。
 カレラ は、 そんな こと を かんがえて は いない。 ただ カレラ ジシン の ヨロコビ や、 カレラ ジシン の カナシミ の ナカ から カレラ は のびて いった。 ジブン たち が おおきな レキシ の ナガレ の ナカ に おかれて いる とも かんがえず、 ただ のびる まま に のびて いた。 それ は、 はげしい 4 ネン-カン で あった が、 カレラ の ナカ の ダレ が それ に ついて かんがえて いたろう か。 あまり に おさない カレラ で ある。 しかも この おさない モノ の かんがえおよばぬ ところ に、 レキシ は つくられて いた の だ。 4 ネン マエ、 ミサキ の ムラ の ブンキョウジョウ へ ニュウガク した その すこし マエ の 3 ガツ 15 ニチ、 その ヨクトシ カレラ が 2 ネンセイ に シンガク した ばかり の 4 ガツ 16 ニチ、 ニンゲン の カイホウ を さけび、 ニッポン の カイカク を かんがえる あたらしい シソウ に セイフ の アッパク が くわえられ、 おなじ ニッポン の タクサン の ヒトビト が ロウゴク に ふうじこめられた、 そんな こと を、 ミサキ の コドモ ら は ダレ も しらない。 ただ カレラ の アタマ に こびりついて いる の は、 フキョウ と いう こと だけ で あった。 それ が セカイ に つながる もの とは しらず、 ただ ダレ の せい でも なく ヨノナカ が フケイキ に なり、 ケンヤク しなければ ならぬ、 と いう こと だけ が はっきり わかって いた。 その フケイキ の ナカ で トウホク や ホッカイドウ の キキン を しり、 ヒトリ 1 セン ずつ の キフキン を ガッコウ へ もって いった。 そうした ナカ で マンシュウ ジヘン、 シャンハイ ジヘン は つづいて おこり、 イクニン か の ヘイタイ が ミサキ から も おくりだされた。
 そういう はげしい ウゴキ の ナカ で、 おさない コドモ ら は ムギメシ を たべて、 いきいき と そだった。 ゼント に ナニ が まちかまえて いる か を しらず、 ただ セイチョウ する こと が うれしかった。
 5 ネンセイ に なって も、 ハヤリ の ウンドウグツ を かって もらえない こと を、 ニンゲン の チカラ では なんとも できぬ フキョウ の せい と あきらめて、 むかしながら の ワラゾウリ に マンゾク し、 それ が あたらしい こと で カレラ の キモチ は うきうき した。 だから ただ ヒトリ、 モリオカ タダシ の ズック を みつける と、 ミンナ の メ は そこ に そそがれて さわいだ。
「わぁ、 タンコ、 アシ が ひかりよる。 ああ ばば (まぶしい こと)」
 いわれる マエ から タダシ は キ が ひけて いた。 はいて こなければ よかった と コウカイ する ほど はずかしかった。 オンナ の ほう では コツル が ヒトリ だった。 クツ は、 アシ を かわす たび に ぶかぶか と ぬげそう に なった。 コツル は とうとう ズック を テ に もって、 ハダシ に なり、 うらめしそう に クツ を ながめた。 6 ネンセイ の オンナ の コ が ジブン の ゾウリ と とりかえて やりながら、 オオゴエ で、
「わぁ、 トモン ハン じゃ もん、 ワタシ に でも おおきい わ」
 おそらく 3 ネン ほど もたせる つもり で かって やった の だろう が、 コツル は もう こりごり して いた。 ゾウリ の ほう が よっぽど あるきよかった の だ。 ほっと して いる コツル に、 マツエ は わらいかけ、
「な、 コツヤン、 ベント が、 まだ、 ここ で、 ぬくい ぬくい」
 そう いって コシ の アタリ を たたいて みせた。
「ユリ の ハナ の ベントウバコ?」
 コツル が、 いつ かった の だ、 と いう カオ で とう の を、 マツエ は きよわく うけ、
「ううん、 それ は アシタ オトッツァン が こうて きて くれる ん」
 そう いって しまって、 マツエ は はっと した。 ミッカ マエ の こと を おもいだした の だ。 ミサコ も マスノ も、 フタ に ユリ の ハナ の エ の ある アルマイト の ベントウバコ を かった と きいて、 マツエ は ハハ に ねだった。
「マア ちゃん も、 ミイ さん も、 ユリ の ハナ の ベントウバコ こうた のに、 ウチ にも はよ こうて おくれ いの」
「よしよし」
「ホンマ に、 こうて よ」
「よしよし、 こうて やる とも」
「ユリ の ハナ の ど」
「おお、 ユリ なと キク なと」
「そんなら、 はよ チリリンヤ へ たのんで おくれ いの」
「よしよし、 そう あわてるない」
「ほたって、 よしよし ばっかり いう ん じゃ もん。 マッチャン、 チリリンヤ へ いって こう か」
 それで はじめて カノジョ の ハハ は シンケン に なり、 コンド は よしよし と いわず に、 すこし ハヤクチ で、
「ま、 ちょっと まって くれ、 ダレ が ゼニ はらう ん じゃ。 オトッツァン に もうけて もろて から で ない と、 アカハジ かかん ならん。 それ よか、 オカアサン が な、 アルマイト より も、 もっと ジョウトウ の を みつけて やる」
 そう いって その バ を ながされた の だ が、 マツエ の ため に さがしだして くれた の が、 ふるい ムカシ の ヤナギゴウリ の ベントウイレ と わかる と、 マツエ は がっかり して なきだした。 いまどき ヤナギゴウリ の ベントウイレ など、 ダレ も もって いない こと を、 マツエ は しって いた の だ。 ヨノナカ の フキョウ は チチ の シゴト にも たたって、 ダイク の チチ が、 シゴト の ない ヒ は、 クサトリ の ヒヨウ に まで いって いる ほど だ から、 ベントウバコ ヒトツ でも なかなか かえない こと も わかって いた。 しかし マツエ は、 どうしても ほしかった の だ。 ここ で ヤナギゴウリ を うけいれたら、 いつまで たって も ユリ の ハナ の ベントウバコ は かって もらえまい と いう こと を、 マツエ は かんじて、 ごねつづけ、 とうとう なきだした の で ある。 しかし ハハオヤ も なかなか まけなかった。
「フケイキ なん だ から、 ちっと ガマン しい。 ライゲツ に なって、 ケイキ が よかったら、 ホンマ に かおう じゃ ない か。 なあ、 マツ は いちばん おおきい から、 もっと ききわけいで どう すりゃ」
 それでも マツエ は しくしく ないて いた。 いつ やむ とも しれない ほど、 しんねり なきつづける の は、 よほど の オモイ に ちがいない。 そのまま つづけば いつ やむ とも しれぬ ナキブリ で あった が、 やがて、 なく どころ で ない こと が おこった。 カノジョ の ハハ は、 きりっと した コエ で いった。
「マツ、 ベントウバコ は きっと こうて やる。 ユビキリ して も ええ。 そのかわり オマエ、 サンバ さん とこ へ、 ヒトッパシリ いって きて くれ や。 オオイソギ で きて つかあされ、 いうて な。 イキシナ に、 ヨロズヤ の バアヤン にも、 ちょっと きて もろて くれ。 こんな はず ない ん じゃ けんど、 おかしい な」
 アト の ほう は ヒトリゴト の よう に いって、 ナンド に フトン を しきだした ハハオヤ を みる と、 さすが に マツエ も なきやみ あわてて イエ を とびだした。 ちいさい カラダ を ツブテ の よう に はしらせながら、 カノジョ の ココロ には ヒトツ の タノシミ が ふくらんで きた。 それ は ユビキリ して も よい と いった ハハ の コトバ だった。 サンバ さん の イエ は ホンソン の トッツキ に あった。 カエリ は トチュウ まで ジテンシャ に のせて くれ、 すこし ノボリザカ の ところ まで くる と、 としとった サンバ さん は ジテンシャ を とめ、
「オマエ は、 ここ で おりて くれ、 イッコク も はよう いかん ならん」
 マツエ は こっくり して、 ジテンシャ の アト から はしった。 ジテンシャ は みるみる とおざかり、 すぐ ヤマ の ナカ へ きえて いった。 オオイシ センセイ の ジテンシャ イライ、 オンナ の ジテンシャ も ようやく はやりだして、 イマ では もう めずらしく なかった が、 それ だけ に はしりさった サンバ さん の ジテンシャ を みて、 マイニチ アサ はやく おきて、 てくてく、 マチ まで あるいて シゴト に ゆく チチオヤ にも、 ジテンシャ が あれば、 どれほど たすかる か と、 ふと おもった。
 はしって かえる と、 もう アカンボウ は うまれて いた。 いそがしそう に タスキガケ で ミズ を くんで いた ヨロズヤ の オバサン は、 マツエ を みる なり いった。
「マッチャン よ、 オマエ、 えらかろう が、 オオイソギ で カマ の シタ たいて おくれ」
 バケツ の まま カマ に ミズ を あけて おいて から、 コゴエ で、
「こんまい オンナ の コ じゃ。 ツキタラズ じゃ と いな。 でも、 ええ じゃ ない か、 なあ マッチャン。 また オンナ で オトッツァン は うんざり しよう けんど、 オンナ の コ は ええ。 チュウギ は できん けんど、 10 ネン も たったら、 マッチャン じゃって、 どない シュッセ する か しれた もん じゃ ない」
 なんの イミ か よく わからぬ まま、 マツエ は カマ の シタ を たきつづけた。 ハハオヤ に ナニ か コト が ある と、 トシヨリ の いない マツエ の イエ では、 ちいさい とき から マツエ が カマド に たたねば ならなかった。
 それから ミッカ-メ、 はじめて ベントウ を もって ホンコウ へ ゆく マツエ は、 ナンド に ねて いる ハハオヤ に チュウイ されながら、 ユゲ の でて いる ゴハン を カマ から ベントウバコ に つめた。
「オトッツァン の は、 リョウ-ゴウリ ぎゅうぎゅう に つめこんで あげよ。 オマエ の は かるく いれて な、 なにせ、 おおきい ベントウバコ じゃ もん。 ウメボシ は みえん ほど ゴハン の ナカ に おしこまにゃ、 フタ に アナ が あく さかい」
 チノミチ が おこりそう だ と いって、 シカメガオ に、 テヌグイ で ハチマキ を して ねて いる ハハ を、 おさない マツエ は キ にも かけず、
「オカアサン、 ユリ の ハナ の ベントウバコ、 ホンマ に こうて よ。 いつ こうて くれる ん?」
「オカアサン が、 おきれたら」
「おきれたら、 その ヒ に、 すぐに?」
「ああ、 その ヒ に」
 マツエ は うれしくて、 キョウ かりて もって ゆく チチオヤ の アルミ の ベントウバコ の オオキサ も キ に かからなかった。 マツエ ぐらい の オンナ の コ なら、 3 ニン ブン は ゆうに はいる おおきな、 ふかい ベントウバコ が、 ショウガッコウ の キョウシツ では どれほど コッケイ に みえる か を、 カノジョ は かんがえなかった。 ヤナギゴウリ より は その ほう が よい と おもった の だ。 それ どころ か、 カラダ に つたわって くる ベントウ の ヌクミ は、 カノジョ の ココロ を ほかほか と あたためつづけて いた。 コツル の トイ に、 おもわず、 アシタ と こたえた けれど、 アシタ は かって もらえない。 しかし、 アサッテ は かって もらえる かも しれない と かんがえる と、 カノジョ は ヒトリ わらえて きた。 こんな、 あたたかい キモチ で でかけて いった マツエ で あった。 マツエ に かぎらず、 ミンナ なにかしら うれしがって いた。 マスノ は あたらしい セーラー フク を きて ジマン らしかった し、 コトエ は オバン の つくって おいて くれた ゾウリ の ハナオ に あかい キレ の ないこんで いる の が うれしそう だった。 まるで ダイガクセイ の きる よう な こまかい サツマガスリ の アワセ を きせられて いる サナエ は、 あかい ハッカケ (スソマワシ) を キ に して、 ときどき うつむいて みて いる。 ジミ な その キモノ を ヒト に わらわれない うち に、 サナエ の ハハ は いった の で ある。
「なんと、 ジミ-すぎて おかしい か と おもうたら、 あかい ハッカケ で ひきたつ こと。 そんで また、 これ が サナエ に にあう と いうたら。 この キモノ きたら、 かしこげ に みえる わ。 スソ に ちろちろ あかい の も みえて、 みごとい、 みごとい。 よかったぁ」
 これだけ ほめられる と、 サナエ は ショウジキ に それ を しんじこんだ。 キモノ を きて いる の は コトエ と フタリ だけ で、 コトエ も また ハハオヤ の だった らしい くろっぽい、 トビモヨウ の ある メンメイセン を きて いた。 ホンダチ ソノママ らしく、 コシアゲ も カタアゲ も もりあがって いる。 しかし カノジョ の ジマン は、 サキバナオ に あかい キレ の ついた ゾウリ の ほう だった。 ヤブ の ソバ の クサムラ を とおる とき、 コトエ だけ は、 ふっと、 オオイシ センセイ を おもいだし、 イッポンマツ の ほう を みた。
「コイシ センセイ!」
 したしく、 ココロ の ナカ で よびかけた つもり なのに、 まるで それ が きこえた か の よう に、 コツル が よって きた。
「コイシ センセイ の こと、 しっとん?」
「ナニ?」
 しらない と わかる と、 コンド は サナエ に、
「しっとん? サナエ さん」
「ナニ を?」
 コツル は オオゴエ で、 ぐるぐる と みまわし、
「ミンナ、 コイシ センセイ の こと、 しっとる か?」
 ニュース は、 いつだって コツル から で ある。 ミンナ は おもわず コツル を とりまいた。 トクイ の コツル は、 レイ の とおり シノ で きった よう な ほそい メ を みはり、 みはって も いっこう ひろがらない メ で ミンナ を みまわし、
「コイシ センセイ な、 あのな、 えい こと ことこと コンペイト」
 そして マスノ の ミミ に くしゃくしゃ と ささやいた。 フタリ だけ の ジマン に しよう と した のに、 マスノ は すっとんきょう に さけんだ。
「わあ、 ヨメサン に いった ん!」
 コツル は、 まだ ある ん だ と ばかり に、
「な、 ほて な、 あのな」 と わざと ゆうゆう に なり、
「シンコン レンコン (シンコン リョコウ) なあ、 おしえて やろう か」
「うん」
「うん」
「コ が つく とこ。 ン が つく とこ。 ピ が つく とこ。 ラ が つく とこ」
「わかった、 コンピラ マイリ」
「そう」
 わあっと コエ が あがった。 100 メートル ほど も サキ に なった ジョウキュウセイ の オトコ の コ たち が ふりかえった が、 そのまま いって しまう と、 ミンナ も とっとと、 その アト を おいながら、 クチ だけ は やかましく コイシ センセイ の ウワサ を した。 それ は オトトイ の こと で、 キノウ コツル の チチ が きいて きた ハナシ だ と いう こと も わかった。 ヨメ に いった と すれば、 コイシ センセイ は もう ガッコウ を やめる の では なかろう か と いう の が マスノ の イケン だった。 コツル が それ に サンセイ し、 コバヤシ センセイ も、 ヨメ に いく ので やめた と、 キオク の よい ところ を みせた。 そして また、 やめて もらいたく ない と いう キボウ を いちはやく クチ に だした の も マスノ で あった。 めずらしく サナエ と コトエ が サンセイ した。 サナエ が コトエ に、
「コイシ センセイ、 も イッペン あいたい もん なあ」
「うーん。 いつ かしらん、 ウドン、 うまかった なあ」
 コトエ が いった。 ミンナ は それで、 4 ネン マエ の こと を はっきり おもいだした。 その コイシ センセイ が、 キョウ ガッコウ に きて いる か どう か は、 ミンナ に とって ダイモンダイ に なって きた。 ミンナ の アシ は、 しらずしらず はやく なった。 なかば はしりながら マスノ は、
「カケ しよう か、 コイシ センセイ きとる か、 きとらん か」
「しよう、 ナニ かける ん?」
 うてば ひびく ハヤサ で、 コツル が おうじた。
「まけたら、 ええと、 ええと、 スッペ (シッペイ) イツツ」
 モリオカ タダシ が そう いう と、 マスノ は ミギテ を たかく あげながら、
「スッペ イツツ なら、 まけて も ええ わ。 ウチ、 センセイ きーとる」
「ウチ も」
「ウチ も」
 なんの こと は ない、 ミンナ コイシ センセイ が きて いる と いう の だ。 とうとう カケ は ながれた まま、 ガッコウ へ ちかづいた。 さすが に シンニュウセイ の 5 ネンセイ は キマジメ な カオ を して コウモン を くぐった。 ひょいと みる と ショクインシツ の マド から コイシ センセイ が こちら を みて いる。 おいで おいで と テ を ふられる と、 ミンナ は その ほう へ はしって いった。
「もう くる か、 もう くる か と おもって、 まってた のよ。 ちょっと まって」
 そう いって でて きた コイシ センセイ は、 あるきながら ミンナ を ドテ の ほう へ つれて いった。
 ヒトリヒトリ の カオ を みながら、
「おおきく なった じゃ ない の。 いまに センセイ に おいつく わ。 あら、 コツヤン なんか、 おいこしそう だ」
 コツル に カタ を ならべ、
「へえ、 まけた。 でも しょうがない、 コイシ センセイ だ もん ね」
 ミンナ わらった。
「アンタラ が コイシ センセイ と いった もん で、 いつまで たって も オオイシ センセイ に なれない じゃ ない の」
 また わらった。 わらい は する が、 ダレ も まだ、 なんとも いわない。
「いやに、 おとなしい のね。 5 ネンセイ に なったら、 こんな、 おとなしく なった の」
 それでも にこにこ して いる だけ なの は、 コイシ センセイ が、 なんだか マエ と すこし かわって みえた から だった。 イロ も しろく なって いる し、 ソバ に くる と、 スミレ の ハナ の よう に いい ニオイ が した。 それ は ヨメサン の ニオイ だ と いう の を、 ミンナ は しって いた。
「センセ」
 マスノ が やっと クチ を きった。
「センセイ、 ショウカ おしえて くれる ん?」
「そう。 ショウカ だけ じゃ ない わ。 アンタタチ の ウケモチ よ、 コンド」
 わあっと カンセイ が あがり、 キュウ に うちとけて しゃべりだした。 センセイ、 センセイ と ダレ か が よびつづける。 よびつづけながら ミサキ の ムラ の いろんな デキゴト が、 その ウミ の イロ や カゼ の オト まで つたわって くる よう に わかった。 コトエ の ウチ では サイキン、 オバアサン が ソッチュウ で なくなり、 ソンキ の オカアサン は リョウマチ で ねこんで いる と いう。 サナエ の オデコ の カスリキズ は、 つい こないだ、 ミサコ と フタリ で カタ を くんで スキップ で はしって いて、 ドウロ から ハマ に おちた とき の ケガ だ と わかった し、 キッチン の イエ では ブタ が 3 ビキ も トン-コレラ で しんで しまい、 オカアサン が ねこんだ、 など と ハナシ は つきなかった。
 コツル は、 センセイ の カラダ を つかまえて、 ゆすぶり、
「センセイ、 ニタ、 どうして こなんだ か?」
「あ、 それ きこう きこう と おもってた の。 どうした の、 ビョウキ?」
 すぐに は こたえず、 ミンナ カオ みあわせて わらって いる。 センセイ も つられて わらいながら、 これ は きっと ニタ が、 トッピョウシ も ない こと を しでかした に ちがいない と、 ふと おもった。
「どうした のよ。 ビョウキ じゃ ない の?」
 サナエ の カオ を みて いう と、 サナエ は だまって カブリ を ふり、 メ を ふせた。
「ラクダイ」
 ミサコ が こたえた。
「あら、 ホント?」
 おどろいて いる センセイ を、 わらわせよう と でも する よう に コツル は、
「いつも、 ハナ、 たらしとる さかい」
 ミンナ は わらった が、 センセイ は わらわなかった。
「そんな こと ウソ よ。 ハナ たらして ラクダイ なら、 ミンナ 1 ネンセイ の とき ラクダイ した わ。 ビョウキ か なんか で、 たくさん やすんだ ん でしょ」
「でも、 オトコ センセイ が そう いう た。 ハナタレ も シダイオクリ と いう のに、 ニタ は 4 ネンセイ に なって も ハナタレ が なおらん から、 も イッペン 4 ネンセイ だ って」
 コツル の ハナシ に、 ミンナ が つんつん ハナ を すすった。 それ には センセイ も ちょっと わらった が、 すぐ、 シンパイ そう な カオ に なった。 シギョウ の カネ が なった ので、 ミンナ と わかれた センセイ は、 ショクインシツ に もどりながら、 ニタ の こと きり かんがえて いなかった。 かわいそう に と つぶやいた。 ラクダイ した ニタ が、 オトウト の サンキチ と ドウキュウセイ に なって もう イチド やりなおす 4 ネンセイ を おもう と、 キモチ が くもって きた。 ハナタレ も シダイオクリ と、 ホント に オトコ センセイ が いった と したら、 ニタ を 4 ネンセイ に とどめる こと こそ、 ハナ を タレッパナシ に させて おく こと の よう に おもった の だ。 あの カラダ の おおきな ニタ の ムジャキサ が、 それ で うしなわれる と したら、 ニタ の イッショウ に ついて まわる フコウ の よう に おもえて、 キョウ、 ヒトリ とりのこされた ニタ の サビシサ が、 ひしひし と せまって きて、 また くりかえした。

  ハナタレ も、 シダイオクリ
  ハナタレ も、 シダイオクリ

 ニタ は どうして とりのこされたろう。
 それ を タケイチ に でも もう イチド きこう と おもった オオイシ センセイ は、 オヒルヤスミ の ジカン を まって、 ソト へ でた。 ウンドウジョウ の みわたせる ドテ の ヤナギ の シタ に たつ と、 タケイチ は みあたらず、 マッサキ に とらえた の は マツエ だった。 マツエ は なぜか ヒトリ コウシャ の カベ に もたれて しょんぼり して いた。 まねく と ドテ の シタ まで はしって きて、 そっくり そのまま ハハオヤ に つうじる メ で わらった。 テ を のばす と、 ますます ハハオヤニ の カオ を して、 きまりわるそう に ひっぱりあげられた。 ニタ の こと を きこう と する センセイ とも しらず、 マツエ は、 ジブン ヒトリ の キヅマリサ から のがれよう と でも する よう に、 せっぱつまった コエ で よびかけた。
「センセ」
「ナアニ」
「あの、 あの、 ウチ の オカアサン、 オンナ の コ うんだ」
「あら そう、 おめでとう。 なんて ナマエ?」
「あの、 まだ ナマエ ない ん。 オトツイ うまれた ん じゃ もん。 アシタ、 アサッテ、 シアサッテ」
と、 マツエ は 3 ボン の ユビ を ゆっくり と おり、
「ムイカザリ (ナヅケビ)。 コンド、 ワタシ が すき な ナマエ、 かんがえる ん」
「そう、 もう かんがえついた の?」
「まだ。 さっき かんがえよった ん」
 マツエ は うれしそう に ふっと わらい、
「センセ」
と、 いかにも コンド は ベツ の ハナシ だ と いう ふう に よびかけた。
「はいはい。 なんだか うれしそう ね。 ナアニ」
「あの、 オカアサン が おきられる よう に なったら、 アルマイト の ベントウバコ、 こうて くれる ん。 フタ に ユリ の ハナ の エ が ついとる、 ベントバコ」
 すうっ と かすか な オト を させて イキ を すい、 マツエ は カオ いっぱい に ヨロコビ を みなぎらせた。
「あーら、 いい こと。 ユリ の ハナ の エ が ついとる の。 ああ、 アカチャン の ナマエ も それ なの?」
 すると マツエ は、 ハジライ と ヨロコビ を、 コンド は カラダジュウ で しめす か の よう に カタ を くねらせて、
「まだ、 わからん の」
「ふーん。 わかりなさい よ。 ユリ ちゃん に しなさい。 ユリコ? ユリエ? センセイ、 ユリエ の ほう が すき だわ。 ユリコ は コノゴロ たくさん ある から」
 マツエ は こっくり うなずいて、 うれしそう に センセイ の カオ を みあげた。 マツエ の メ が こんな にも やさしい の を、 はじめて みた よう な キ が して、 センセイ は その ながい マツゲ に おおわれた くろい メ に、 ジブン の カンジョウ を そそいだ。 ニタ の こと は もう、 ひとまず ながして、 ココロ は いつか なごんで いた。 マツエ に とって も また、 その スウバイ の ヨロコビ だった。 センセイ に いわなかった けれど、 オヒル の ベントウ の とき、 マツエ は おおきな チチ の ベントウバコ を、 コツル や ミサコ から わらわれた の で ある。 それで、 カノジョ は ヒトリ ミンナ から はなれて いた の だ。 しかし イマ は、 その しょげた キモチ も アサツユ を うけた ナツクサ の よう に、 ゲンキ を もりかえした。 ジブン だけ が、 トクベツ に センセイ に かまわれた よう な ウレシサ で、 これ は ナイショ に して おこう と おもった。 だのに その ヒ、 カエリミチ で カノジョ は つい クチ に だして しまった。
「ウチ の ネネ、 ユリエ って ナマエ つける ん」
「ユリエ? ふうん、 ユリコ の ほう が キ が きいとら」
 はねかえす よう に コツル が いった。 マツエ は ムネ を はって、
「それでも、 コイシ センセイ、 ユリエ の ほう が めずらして、 ええ って いうた」
 コツル は わざと とびあがって、
「へえ、 なんで コイシ センセイ が。 へえ!」
 ナニ か を さぐりあてよう と でも する よう な メ で マツエ の カオ を のぞきこみ、
「あ、 わかった」
 ならんで いた ミサコ を ウシロ の ほう へ ひっぱって いって、 こそこそ ささやいた。 フジコ、 サナエ、 コトエ と じゅんじゅん に その ミミ に クチ を よせ、
「なあ、 そう じゃ な」
 オトナシグミ の 3 ニン は コツル の イイブン に サンセイ できない こと を、 キヨワ な ムゴン で あらわす ばかり で、 マツエ を コリツ させよう と した コツル の タクラミ は くずれて しまった。 よく キ の あう マスノ が、 キョウ は ハハ の ミセ に よって、 ここ に いない の が コツル の ヨワサ に なって いた。 カノジョ は ミンナ に、 マツエ が ヒイキ して もらう ため に、 ヒトリ コイシ センセイ に へつらった と いった の で ある。 その ため に かえって ジブン から コリツ した コツル は、 ヒトリ フキゲン に だまりこんで、 とっとと サキ を あるいて いった。 ミンナ も その アト から だまって ついて いった。
 ヒトツ ハナ を まがった とき で ある。 マエ の コツル が キュウ に たちどまって ウミ の ほう を ながめた。 サキ に たつ もの に ならう ガン の よう に、 ミンナ も おなじ ほう を みた。 コツル が あるきだす と また あるく。 やがて、 いつのまにか ミンナ の シセン は ヒトツ に なって ウミ の ウエ に そそがれ、 あるく の を わすれて しまった。
 ハジメ から コツル は しって いた の で あろう か。 それとも たったいま、ミンナ と イッショ に きづいた の で あろう か。 しずか な ハル の ウミ を、 1 ソウ の ギョセン が ハヤロ で こぎわたって いた。 テヌグイ で、 ハチマキ を した ハダカ の オトコ が フタリ、 ちからいっぱい の カッコウ で ロ を おして いる。 ニチョウロ の アト が、 はばひろい ロアシ を ひいて、 はしる よう に タイガン の マチ を さして とおざかって ゆく の だ。 もう ケンカ どころ で なかった。
 ナン じゃろ?
 ダレ の ウチ の デキゴト じゃろう?
 ミンナ メ を みあわした。 きえさりつつ あたらしく ひかれて ゆく ロアシ から、 ミサキ の ムラ に ダイジケン が トッパツ した こと だけ が わかった。 キュウビョウニン に ちがいない。 フネ の ドウノマ に ひろげた フトン が みられ、 そこ に ダレ か が ねかされて いる と さっした。 しかし、 またたく マ に フネ は とおざかり、 のりこんで いる ヒト の ハンベツ も つかなかった。 まるで それ は、 シュンカン の ユメ の よう に、 とぶ トリ の カゲ の よう に すぎた。 だが、 ダレヒトリ ユメ と かんがえる モノ は いなかった。 1 ネン に イチド か 2 ネン に イチド、 キュウビョウニン を マチ の ビョウイン へ はこんで ゆく ミサキ の ムラ の ダイジケン を、 さかのぼって コドモ たち は かんがえて いた。 かつて コイシ センセイ も こうして はこばれた の だ。 ケガ を した か、 キュウセイ の モウチョウエン か。
 ナン じゃろう?
 ダレ ぞ モウチョウ の ヒト、 おった かい や?
 アト から おいついて きた オトコ の コ も イッショ に かたまって ヒョウジョウ した。 オンナ は ダレ も コエ を たてず、 オトコ の コ が ナニ か いう たび に その カオ に メ を そそいだ。 そんな ナカ で マツエ は ふと、 ケサ イエ を でかける とき の ハハ の カオ を おもいうかべた。 シュンカン、 くろい カゲ の さした よう な フアン に とらわれた が、 そんな はず は ない の だ と、 つよく うちけした。 しかし、 ズツウ が する とて カオ を しかめ、 テヌグイ で きつく きつく ハチマキ を した、 その ムスビメ の ところ の ヒタイ に よって いた、 もりあがった シワ を おもいだす と、 なんとなく はらいきれぬ フアン が せまって きた。 ハジメ に、 キョウ は チチ に やすんで もらいたい と いった ハハ、 しかし チチ は シゴト を やすむ わけ には いかなかった。
「マツエ を やすませりゃ、 ええ」
 チチ が、 そう いう と、 そんなら ええ と いい、 マツエ に むかって、
「ガッコウ、 はじめて なのに なぁ。 だけんど、 あそばん と もどって くれ なあ」
 おもいだして マツエ は どきどき して きた。 すると いつのまにか アシ は、 ミンナ の サキ を はしりだして いた。 ホカ の コドモ も ついて はしった。 アシ が もつれる ほど はしりつづけて、 ようやく ミサキ の ヤナミ を みた とき には、 マツエ の ヒザ は がくがく ふるえ、 カタ と クチ と で イキ を して いた。 ムラ の トッツキ が ヨロズヤ で あり、 その トナリ の ワガヤ に、 オシメ が ひらひら して いる の を みて、 アンシン した の で ある。 しかし、 その アンシン で なきそう に なった カノジョ は、 コンド は シンゾウ が とまりそう に なった。 イドバタ に いる の が ハハ では なく、 ヨロズヤ の オバサン だ と キ が ついた から だ。 はずんだ イシコロ の よう に サカミチ を かけおりた マツエ は、 ワガヤ の シキイ を またぐ なり、 はしって きた ソノママ の アシ の ハコビ で、 ハハ の ねて いる ナンド に とびこんだ。 ハハ は いなかった。
「オカアサン……」
 ひっそり と して いた。
「オカア、 サン……」
 ナキゴエ に なった。 ヨロズヤ の ほう から アカンボウ の なく の が きこえた。
「うわあ、 わあ、 オカアサーン」
 チカラ の かぎり オオゴエ で なきさけぶ マツエ の コエ は、 ソラ にも ウミ にも ひびけ と ばかり ひろがって いった。
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ニジュウシ の ヒトミ 6

2018-06-06 | ツボイ サカエ
 6、 ツキヨ の カニ

 5 ネンセイ の キョウシツ は カワップチ に あたらしく たった コウシャ の トッツキ で あった。 カワ に むかった マド から のぞく と、 オクミ の よう な カタチ の、 せまい サンカクチ を はさんで、 たかい イシガキ は カワドコ まで チョッカク に きずかれて いた。 キケン ボウシ の ドテ は ジメン から 3 ジャク ほど の タカサ で めぐらして あった が、 ドテ は あまり ヨウ を なさず、 コドモ ら は わずか な アソビジカン をも カッテ に イシガキ を つたって、 カワ の ナカ へ おりて いった。 おもに オトコ の コ だった。 カワカミ に イエ は 1 ケン も なく、 ちろちろ の ミズ は きれい だった。 ヤマ から ながれて きて はじめて、 ここ で ヒト の ハダ に ふれる ミズ は、 おどろく ほど、 つめたく すみきって いた。 コドモ ら に とって は、 ただ テアシ を ふれて いる だけ で、 じゅうぶん マンゾク の できる、 こころよい カンショク で あった。 ミズ は ここ で はじめて ヒト の テ に ふれ、 せきとめられて にごった。 ダレ が いいだした の か ウナギ が いる と いう ウワサ が たって から、 コドモ たち の ネツイ は カワゾコ に あつまり、 マイニチ ドテ の ケンブツ と カワ の リョウシ との アイダ で ときならぬ ヤリトリ が つづいた。 カワドコ の イシ を めくって は、 まだ イチド も とれた こと の ない ウナギ を さがして いる の だ が、 でて くる の は カニ ばかり で ある。 それでも けっこう おもしろい らしく、 リョウシ も ケンブツ も ふえる ばかり だった。 クルブシ を かくしかねる ほど の スイリョウ は、 アソビバ と して も キケン は なく、 だから コイシ センセイ も だまって ながめて いた。
「センセ、 ズガニ、 あげよ か」
 ホゴショク なの か ドロイロ を して、 アシ に あらい ケ の ある カニ を つかまえて、 ウデ いっぱい さしだした の は モリオカ タダシ だった。
「いらん、 そんな もん」
「たべられる のに、 センセ」
「いや だ、 そんな もん たべたら、 アシ や テ に ヒゲ が はえる もの」
 カワゾコ と ドテ から どっと ワライゴエ が おこった。 マドギワ の センセイ も もちろん わらいころげた の だ が、 つい サッキ まで の センセイ は、 そんな ワライ とは とおい キモチ で、 マド の ソト に くりひろげられた フウケイ を ながめて いた の で あった。 カワ の ナカ でも ドテ の ウエ でも、 ミサキ の コドモ ら は しらずしらず かたまって いた。 だが、 そこ に マツエ の スガタ は みる こと が できない。 その メ に みえぬ スガタ が、 ときどき センセイ の ココロ を センリョウ して しまう の だ。
 ハハオヤ が なくなって から、 マツエ は イチド も この キョウシツ に スガタ を あらわさなかった。 マドギワ の、 マエ から 3 バンメ の マツエ の セキ は、 もう 2 カゲツ も カラッポ の まま で ある。 ニュウガク の ヒ の こと を おもいだして、 ユリ の ハナ の エ の ついた ベントウバコ を ミヤゲ に マツエ の イエ を たずねた の は、 カノジョ の ハハオヤ が なくなって から ヒトツキ ぐらい たって いた。 ちょうど カワモト ダイク も イエ に いて、 オトコナキ に なきながら、 アカンボウ が しなない かぎり、 マツエ を ガッコウ には やれぬ と いった。 あまり に ジジョウ が メイハク なので、 それでも マツエ を ガッコウ に よこせ とは いえず、 だまって マツエ の カオ を みた。 ちいさな アカンボウ を おぶった まま、 チチオヤ の ワキ に ちょこんと すわって マツエ も だまって いた。 へんに マブタ の はれて みえる カオ は、 アタマ の ハタラキ を うしなった よう に ぼんやり して いた。 その ヒザ の ウエ へ、
「マッチャン、 これ、 ユリ の ハナ の ベントウバコ よ。 アンタ が ガッコウ に こられる よう に なったら、 つかいなさい ね」
 あまり うれしそう にも せず、 マツエ は コックリ を した。
「はやく、 ガッコウ へ こられる と いい わね」
 いって しまって、 はっと した。 それ は アカンボウ に はやく しね と いう こと に なる の だ。 おもわず あかく なった が、 マツエ たち オヤコ には、 はっきり ひびかなかった らしく、 ただ カンシャ の マナザシ で うけとられた。
 まもなく アカンボウ が なくなった と きき、 マツエ の ため に ほっと した の だ が、 マツエ は なかなか スガタ を みせなかった。 マスノ や コトエ たち に ヨウス を きいて も ラチ が あかず、 センセイ は とうとう テガミ を かいた。 トオカ ほど マエ に なる。

――マツエ さん、 アカチャン の ユリエ ちゃん は、 ホント に かわいそう な こと を しました ね。 でも もう、 それ は シカタ が ありません から、 ココロ の ナカ で かわいがって あげる こと に して、 アナタ は ゲンキ を だしなさい ね。 ガッコウ へは、 いつから こられます か。 センセイ は、 マイニチ マッチャン の カラッポ の セキ を みて は、 マッチャン の こと を かんがえて います。
はやく こい、 こい、 マッチャン。 はやく きて、 ミンナ と イッショ に、 ベンキョウ しましょう。――

 テガミ は マツエ の イエ と いちばん ちかい コトエ に ことづけた。 しかし その テガミ が、 マツエ に とって どれほど ムリ な チュウモン で ある か を センセイ は しって いた。 アカンボウ の ユリエ が いなく なって も、 マツエ には まだ テイマイ が フタリ あった。 5 ネンセイ に なった ばかり の カノジョ は、 おさない ズノウ と ちいさな カラダ で、 むりやり イッカ の シュフ の ヤク を うけもたされて いる の だ。 どんな に それ が いや でも、 ぬけだす こと は できない。 チチオヤ を ハタラキ に だす ため には、 ちいさな マツエ が カマド の シタ を たき、 ススギ センタク も せねば ならぬ。 ヒヨコ の よう に キョウダイ 3 ニン よりあって、 チチオヤ の カエリ を まって いる だろう あわれ な スガタ が メノマエ に ちらつく。 ホウリツ は この おさない コドモ を ガッコウ に かよわせる こと を ギム-づけて は いる が、 その ため に コドモ を まもる セイド は ない の だ。
 ヨクジツ、 コトエ は センセイ の カオ を みる なり ホウコク した。
「センセイ、 キノウ マッチャン ク へ テガミ を もって いったら、 しらん ヨソ の オバサン が きとった。 マッチャン おります か、 いうたら、 おりません いうた ん。 シカタ が ない から、 これ マッチャン に わたして、 いうて、 その オバサン に たのんで きた ん」
「そう、 どうも ありがとう。 マッチャン の オトウサン は?」
「しらん。 みえなんだ。 ――その オバサン、 オシロイ つけて、 きれい キモノ きとった。 マッチャン ク へ ヨメ に きた ん と ちがう か って、 コツル さん が いう んで」
 コトエ は ちょっと ハニカミワライ を した。
「そう だ と、 マッチャン も ガッコウ へ こられて いい けど ね」
 それから また トオカ イジョウ たった が、 マツエ は スガタ を みせない。 テガミ は よんだろう か と、 ふと ココロ に カゲ の さす オモイ で、 マド の シタ を みて いた の だった。 ズガニ を 3 ビキ とった タダシ は、 それ を アキカン に いれて とくとく と して イシガキ を のぼって きた。 サンカクケイ の アキチ に ある アンズ の キ は ナツ に むかって あおあお と しげり、 くろい カゲ を ドテ の ウエ に おとして いる。 その マシタ に かたまって、 ミサキグミ の ジョセイト たち は ズガニ の ユウシ を むかえ、 ワレガチ に いった。
「タンコ、 1 ピキ くれ なぁ」
「ウチ にも、 くれ なぁ」
「ワタシ も な」
「ヤクソク ど」
 カニ は 3 ビキ なのに キボウシャ は 4 ニン なの だ。 タダシ は かんがえながら あがって きて、
「くう か、 くわん の か?」
 ミンナ の カオ を みまわした。 くう モノ に やろう と おもった の だ。 いちはやく コツル が、
「くう くう。 ツキヨ の カニ は、 うまい もん」
 それ を きく と、 タダシ は にやり と し、
「ウソ つけえ、 カニ が うまい ん は、 ヤミヨ の こっちゃ」
「ウソ つけえ、 ツキヨ じゃ ない か」
「ああ きいた、 あ きいた。 ツキヨ の カニ は やせて、 うも (うまく) ない のに」
 タダシ が カクシン を もって いう と、 コツル も まけよう と しない。 おなじ よう に タダシ の クチマネ で、
「ああ きいた、 あ きいた。 ツキヨ の カニ が うまい のに。 ためしに くうて みる。 みんな くれ」
「いや、 こんな カワ の カニ で わかる かい。 ウミ の カニ じゃ のうて」
 それ を きく と オンナグミ が わあわあ さわぎたて、 マド の センセイ に むかって クチグチ に きいた。
「センセ、 ツキヨ の カニ と ヤミヨ の カニ と、 どっち が おいしい ん?」
「センセ ツキヨ じゃ なあ」
 マスノ や コツル や ミサコ たち だった。
「さあ、 ねえ。 ヤミヨ の よう に おもう けど……」
 オトコグミ が わあっと きた。
「ほら みい、 ほら みい」
 コンド は センセイ は わらいながら、
「でも、 ツキヨ の よう な キ も する……」
 オンナグミ が リョウテ を あげ、 とびとび して よろこんだ。 そうして さわぐ こと が おもしろく、 ダレ も それ を ホンキ に して かんがえて は いなかった の だ が、 タダシ だけ は ネッシン に センセイ を みあげ、
「バカ いうな センセイ!」
 すると オンナグミ が また、 わあっと きた。
「センセイ を バカ じゃ とい」
「ほう、 タンコ は センセイ を バカ じゃ とい」
 タダシ は アタマ を かき、 ミンナ の しずまる の を まって、 やっぱり シンケン に いった。
「ほたって センセイ、 それ にゃ ワケ が ある ん じゃ もん。 ツキヨ に なる と な、 カニ は バカ じゃ せに、 ワガ の カゲボウシ を オバケ か と おもって びっくり して、 やせる ん じゃ。 ヤミヨ に なる と、 カゲボウシ が うつらん さかい、 アンシン して ミ が つく ん じゃ ど。 だから、 ツキヨ は カニ が アミ に かかって も にがして やる ん じゃ ない か。 かすかす で、 うも ない もん。 ヤミヨ まで おく と、 しこしこ の ミ が ついて、 うまい ん じゃ。 ホンマ じゃ のに、 センセ。 ウソ じゃ おもう なら、 ためして みる と ええ」
「じゃあ、 ミンナ で ためしましょう ね」
 ジョウダン に そう いって、 その ヒ は すんだ の だ が、 ヨクヨクジツ、 モリオカ タダシ は ホント に ツキヨ の カニ を もって きた。 1 ジカン-メ の サンスウ が はじまる マエ、 ヒョウタンカゴ を つきだした の で ある。
「センセ、 カニ。 ツキヨ の カニ。 やせて、 うも ない ツキヨ の カニ」
 それ は ケサ とれた ばかり で、 まだ いきて いた。 がさごそ と オト が して いる。 ミンナ わらった。
「ホント に もって きた の。 タンコ さん」
 センセイ も わらって、 しかたなさそう に うけとった。 カニ は、 この ゴ に なって も まだ ジブン の ウンメイ を なんとか して ダカイ しよう と でも いう よう に、 せまい カゴ の ナカ を がさごそ はいまわって いた。 どういう ワケ か、 2 ヒキ とも、 おおきな ハサミ を カタホウ だけ もぎとられた あわれ な スガタ で、 のこった カタホウ の ハサミ を ウエ に むけ、 よらば はさむ カマエ で アワ を ふいて いる。
「かわいそう に、 これ センセイ が たべる の?」
「うん、 ヤクソク じゃ もん」
「にがして やりましょう よ」
「いや、 ヤクソク じゃ もん」
 タダシ は ウシロ を ふりむいて 「なあ」 と ミンナ の サンセイ を もとめた。 オトコ の コ は テ を たたいて よろこんだ。
「じゃあ こう しましょう。 アト で コヅカイ さん に これ を にて もらい、 キョウ の リカ の ジカン に ケンキュウ しよう じゃ ない の。 それから、 カニ って いう ダイ で ツヅリカタ も かいて くる の」
「はーい」
「はーい」
 ダイサンセイ だった。 カゴ は マドベリ の ハシラ の クギ に かけられ、 その ジカンチュウ カニ は がさごそ オト を たてつづけて ミンナ を わらわせた。
 ジカン が すむ と、 センセイ は ヒョウタンカゴ を はずし、 ジブン で コヅカイシツ の ほう へ あるいて いった。 コツル と コトエ が ヨウ ありげ に ついて きて、
「センセ」 と よびかけ、 ふりむく の を まって、
「マッチャン の こと」 と いった。
「マッチャン?」
「はい。 マッチャン、 ユウベ の フネ で、 オオサカ へ いった ん」
「ええっ」
 おもわず たちどまった センセイ の カオ を みあげながら、 コトエ が、 イッショウ ケンメイ の カオ で、
「シンルイ の イエ へ、 コ に いった ん」
「まあ」
「そいで、 マッチャン ク、 オッサン と オトコ の コ と のこった ん」
「そう、 マッチャン、 うれしそう だった?」
 コトエ は こたえず に、 カブリ を ふった。 コツル が かわって、
「マッチャン、 いかん いうて、 はじめ、 ニワ の クチ の ハシラ に かかえついて ないた ん。 マッチャン ク の オトウサン が よわって、 ハジメ は やさしげ に すかした けんど、 なかなか マッチャン が はなれん ので、 アト は アタマ に ゲンコツ かましたり、 セナカ を どづいたり した ん。 マッチャン、 おいおい ないて ミンナ が よわっとった。 ヨロズヤ の バアヤン が、 ようやっと すかして、 トクシン さした けんど、 ミンナ モライナキ しよった。 ワタシ も ナミダ が でて きて よわった。 トチュウ まで、 ミンナ と おくって いった けんど、 マッチャン ヒトクチ も モノ いわなんだ。 なあ コトヤン。 そいで……」
 キュウ に ハンカチ を カオ に あてて、 くっくっ と なきだした センセイ に おどろいて、 コツル は だまった。 いつのまにか サナエ や マスノ も よって きて、 カタテ に ヒョウタンカゴ を もった まま、 うつむいて ハンカチ を メ に あてて いる センセイ を、 うたてげ に みて いた。 ミンナ の メ にも、 さそわれた ナミダ が もりあがって いた。
 その アト も しばらく は、 マドギワ の マエ から 3 バンメ の マツエ の セキ は あいた まま おかれて あった が、 ある とき、 その、 マツエ の たった 1 ニチ すわった セキ に センセイ は だまって こしかけて いた。 その アト すぐ セキ の クミカエ が あって、 その レツ は オトコ の コ に なった。 それきり マツエ の ウワサ は でなかった。 センセイ も きかず、 セイト も いわず、 マツエ から の タヨリ も なかった。 もう ミンナ の ココロ から、 マツエ の スガタ は おいだされた の で あろう か。 ワカレ の アイサツ にも こず に、 どこ か へ いって しまった 5 ネンセイ の オンナ の コ。……

 そして、 もう すぐ 6 ネンセイ に シンキュウ する と いう 3 ガツ ハジメ で あった。 ハル は メノマエ に きて いながら めずらしく ユキ の ふる ナカ を、 ヒト-バス おくれた オオイシ センセイ は、 ガッコウ マエ の テイリュウジョ から カサ も ささず に はしって、 ショクインシツ に とびこんだ トタン、 イヨウ な シツナイ の クウキ に おもわず たちどまり、 ダレ に はなしかけよう か と いう ふう に 15 ニン の センセイ たち を みまわした。 ミンナ シンパイ そう な、 こわばった カオ を して いた。
「どうした の?」
 ドウリョウ の タムラ センセイ に きく と、 しっ と いう よう な カオ で タムラ センセイ は おくまった コウチョウシツ に、 アゴ を ふった。 そして ちいさな コエ で、
「カタオカ センセイ が、 ケイサツ へ ひっぱられた」
「えっ!」
 タムラ センセイ は また、 しずか に、 と いう ふう に こまかく カオ を ふりながら、
「イマ、 ケイサツ が きてる の」
 また コウチョウシツ を メガオ で おしえ、 つい イマ の サッキ まで カタオカ センセイ の ツクエ を しらべて いた の だ と ささやいた。 ぜんぜん、 ダレ にも まだ コト の シンソウ は わかって いない らしく、 ヒバチ に よりあって、 だまって いた が、 シギョウ の ベル で ようやく いきかえった よう に、 ロウカ へ でた。 タムラ センセイ と カタ を ならべる と、
「どうした の」
 マッサキ に オオイシ センセイ は きいた。
「アカ だ って いう の」
「アカ? どうして?」
「どうして か、 しらん」
「だって、 カタオカ センセイ が アカ? どうして?」
「しらん わよ。 ワタシ に きいたって」
 ちょうど キョウシツ の マエ へ きて いた。 わらって わかれ は した が、 フタリ とも ココロ に シコリ は のこって いた。 まだ なんにも しらない らしい セイト は、 ユキ に いきおいづいた の か、 イツモ より ゲンキ に みえた。 ここ に たつ と、 スベテ の ザツネン を すてねば ならない の だ が、 キョウダン に たって 5 ネン-カン、 オオイシ センセイ に とって この ジカン ほど、 ながく かんじた こと は なかった。 1 ジカン たって ショクインシツ に もどる と、 ミンナ、 ほっと した カオ を して いた。
「ケイサツ、 かえった よ」
 わらいながら いった の は、 わかい ドクシン の シハンデ の オトコ センセイ で ある。 カレ は つづけて、
「ショウジキ に やる と バカ みる っちゅう こと だ」
「なんの こと、 それ。 もっと センセイ-らしく……」
 つっつかれて オオイシ センセイ は いう の を やめた。 つっついた の は タムラ センセイ だった。
 キョウトウ が でて きて の セツメイ では、 カタオカ センセイ の は、 ただ サンコウニン と いう だけ の こと で、 イマ コウチョウ が モライサゲ に いった から、 すぐ かえって くる だろう と いった。 モンダイ の チュウシン は カタオカ センセイ では なく、 チカク の マチ の ショウガッコウ の イナガワ と いう キョウシ が、 ウケモチ の セイト に ハンセン シソウ を ふきこんだ と いう、 それ だった。 イナガワ センセイ が カタオカ センセイ とは シハン ガッコウ の ドウキュウセイ だ と いう ので、 いちおう しらべられた の だ が、 なんの カンケイ も ない こと が わかった と いう の で ある。 つまり、 ショウコ に なる もの が でて こなかった の だ。 その さがして いる ショウコヒン と いう の は、 イナガワ センセイ が うけもって いる 6 ネンセイ の ブンシュウ 『クサ の ミ』 だ と いう の で ある。 それ が、 カタオカ センセイ の ジタク にも、 ガッコウ の ツクエ にも なかった の だ。
「あら、 『クサ の ミ』 なら みた こと ある わ、 ワタシ。 でも、 どうして あれ が、 アカ の ショウコ」
 オオイシ センセイ は フシギ に おもって きいた の だった が、 キョウトウ は わらって、
「だから、 ショウジキモノ が バカ みる ん です よ。 そんな こと ケイサツ に きかれたら、 オオイシ センセイ だって アカ に せられる よ」
「あら、 ヘン なの。 だって ワタシ、 『クサ の ミ』 の ナカ の ツヅリカタ を、 カンシン して、 ウチ の クミ に よんで きかしたり した わ。 『ムギカリ』 だの、 『ショウユヤ の エントツ』 なんて いう の、 うまかった」
「あぶない、 あぶない。 アンタ それ (『クサ の ミ』) イナガワ クン に もらった の」
「ちがう。 ガッコウ-アテ おくって きた の を みた のよ」
 キョウトウ は キュウ に あわてた コエ で、
「それ、 イマ どこ に ある?」
「ワタシ の キョウシツ に」
「とって きて ください」
 トウシャバン の 『クサ の ミ』 は、 すぐ ヒバチ に くべられた。 まるで、 ペスト キン でも まぶれついて いる か の よう に、 あわてて やかれた。 ちゃいろっぽい ケムリ が テンジョウ に のぼり、 ほそく あけた ガラスド の アイダ から にげて いった。
「あ、 やかず に ケイサツ へ わたせば よかった かな。 しかし、 そしたら オオイシ センセイ が ひっぱられる な。 ま、 とにかく、 ワレワレ は チュウクン アイコク で いこう」
 キョウトウ の コトバ が きこえなかった よう に、 オオイシ センセイ は だまって ケムリ の ユクエ を みて いた。
 ヨクジツ の シンブン は、 イナガワ センセイ の こと を おおきな ミダシ で、 「ジュンシン なる タマシイ を むしばむ あかい キョウシ」 と ほうじて いた。 それ は イナカ の ヒトビト の アタマ を ゲンノウ で どやした ほど の オドロキ で あった。 セイト の シンボウ を あつめて いた と いう イナガワ センセイ は、 イッチョウ に して コクゾク に テンラク させられた の で ある。
「あ、 こわい、 こわい。 ジンコウ も たかず、 ヘ も こかず に いる ん だな」
 つぶやいた の は としとった ジセキ クンドウ だった。 ホカ の センセイ は ミナ、 イケン も カンソウ も のべよう とは しなかった。 そんな ナカ で ヒトリ オオイシ センセイ は、 おおげさ な シンブン キジ の ナカ の、 わずか 4~5 ギョウ の ところ から メ が はなれなかった。 そこ には、 イナガワ センセイ の オシエゴ たち が、 ヒトリ ヒトツ ずつ の タマゴ を もちよって、 さむい リュウチジョウ の センセイ に サシイレ して くれ と、 ケイサツ へ おしかけた こと が かかれて いた の だ。
 キョウ は もう シュッキン した カタオカ センセイ は キュウ に エイユウ に でも なった よう に、 ヒッパリダコ だった。 どう だった? の シツモン に こたえて、 1 ニチ で げっそり ホオ の おちた カレ は、 あおい ヒゲアト を なでながら、
「いや、 どうも こうも、 イマ かんがえる と あほらしい ん じゃ けど な、 すんでのこと に アカ に ならされる とこ じゃった。 イナガワ は、 キミ が カイゴウ に でた の は 4~5 カイ じゃ と いう が だの、 コバヤシ タキジ の ホン を よんだろう とか って。 ボク は コバヤシ タキジ なんて ナマエ も しらん、 いうたら、 この ヤロウ、 こないだ シンブン に でた じゃ ない か って。 いわれて みりゃあ、 ほら、 つい こないだ、 そんな こと が でました な。 ショウセツカ で、 ケイサツ で しんだ ヒト の こと が」 (ホントウ は ゴウモン で ころされた の だ が、 シンブン には シンゾウ マヒ で しんだ と ほうじられた。)
「ああ、 いた いた。 あかい ショウセツカ だ」
 わかい ドクシン の センセイ が いった。
「その プロレタリヤ なんとか いう ホン を、 たくさん とられとりました。 あの イナガワ は シハン に いる とき から ホンズキ でした から な」
 その ヒ コクゴ の ジカン に、 オオイシ センセイ は ボウケン を こころみて みた。 セイト たち は もう 『クサ の ミ』 と その センセイ の こと を しって いた から だ。
「ウチ で、 シンブン とってる ヒト?」
 42 ニン の ウチ 3 ブン の 1 ほど の テ が あがった。
「シンブン を よんで いる ヒト?」
 2~3 ニン だった。
「アカ って、 なんの こと か しってる ヒト?」
 ダレ も テ を あげない。 カオ を みあわせて いる の は、 なんとなく しって いる が、 はっきり セツメイ できない と いう カオ だ。
「プロレタリヤ って、 しってる ヒト?」
 ダレ も しらない。
「シホンカ は?」
「はーい」
 ヒトリ テ が あがった。 その コ を さす と、
「カネモチ の こと」
「ふーん。 ま、 それ で いい と して、 じゃあ ね、 ロウドウシャ は?」
「はい」
「はい」
「はーい」
 ほとんど ミンナ の テ が あがった、 ミ を もって しって おり、 ジシン を もって テ が あがる の は、 ロウドウシャ だけ なの だ。 オオイシ センセイ に して も、 そう で あった。 もしも セイト の ダレ か に、 コタエ を もとめられた と したら、 センセイ は いったろう。
「センセイ にも、 よく わからん のよ」 と。
 まだ 5 ネンセイ には それ だけ の チカラ が なかった の だ。 ところが すぐ その アト、 この こと に ついて は、 クチ に する こと を とめられた。 ただ あれ だけ の こと が どこ から もれた の か、 オオイシ センセイ は コウチョウ に よばれて チュウイ された の で ある。
「キ を つけん と、 こまりまっそ。 ウカツ に モノ が いえん とき じゃ から」
 コウチョウ とは、 チチ の ユウジン と いう トクベツ の カンケイ だ から、 それ だけ で すんだ らしい。 だが この こと は、 あかるい オオイシ センセイ の カオ を いつ と なく かげらす モト に なった。 たいして キ にも とめて いなかった 『クサ の ミ』 の こと と おなじく、 けしがたい カゲリ を だんだん こく して いった。

 6 ネンセイ の アキ の シュウガク リョコウ は、 ジセツガラ イツモ の イセ マイリ を とりやめて、 チカク の コンピラ と いう こと に きまった。 それでも ゆけない セイト が だいぶ いた。 ハタラキ に くらべて ケンヤク な イナカ の こと で ある。 ヤドヤ には とまらず、 3 ショク ブン の ベントウ を もって ゆく と いう こと で、 ようやく フケイ の サンセイ を えた。 それでも フタクミ あわせて 80 ニン の セイト の ウチ、 ゆける と いう の は 6 ワリ だった。 ことに ミサキ の ムラ の コドモ ら と きたら、 ぎりぎり の ヒ まで きまらず、 その ワケ を、 おたがいに あばきだして は、 ナイジョウ を ぶちまけた。
「センセイ、 ソンキ は な、 ネションベン が でる さかい、 リョコウ に いけん ので」
 マスノ が いう。
「だって、 ヤドヤ には とまらん の です よ。 アサ の フネ で でて、 バン の フネ で もどって くる のに」
「でも、 アサ の フネ 4 ジ だ もん、 フネ ん ナカ で ねる でしょう」
「ねる かしら、 たった 2 ジカン よ。 ミナ、 ねる どころ で ない でしょう に。 それ より マスノ さん は どうして ゆかん の」
「カゼ ひく と いかん さかい」
「あれあれ、 ダイジ な ヒトリムスメ」
「そのかわり、 リョコウ の オカネ、 バイ に して チョキン して もらう ん」
「そうお、 チョキン は また できる から、 リョコウ に やって って、 いいなさい よ」
「でも、 ケガ する と いかん さかい」
「あら、 どうして。 リョコウ する と カゼ ひいたり ケガ したり する ん なら、 ダレ も いけない わ」
「ミンナ、 やめたら ええ」
「わあ、 オハナシ に ならん」
 センセイ は ニガワライ を した。
「センセイ、 ボク は もう、 コンピラサン やこい、 ウチ の アミブネ で、 3 ベン も いった から、 いきません」
 モリオカ タダシ が そう いって きた。
「あら そう。 でも ミンナ と いく の、 はじめて でしょう。 いきなさい よ。 アンタ は アミモト だ から これから だって マイトシ いく でしょう がね。 センセイ いっとく から。 シュウガク リョコウ の コンピラ マイリ が いちばん おもしろかった、 と アト で きっと おもいます から ね」
 カベ コツル は、 ジブン も いかない と いいながら、 やはり ゆかない キノシタ フジコ の こと を、 こんな ふう に いった。
「センセ、 フジコ さん ク、 シャクセン が ヤマ の よう に あって リョコウ どころ じゃ ない ん。 あんな おおきな ウチ でも、 もう すぐ シャクセン の カタ に とられて しまう ん。 ウチ ん ナカ、 もう、 なんちゃ うる もん ない んで」
「そんな こと、 いわん もの よ」
 かるく セナカ を たたく と、 コツル は ぺろっと シタ を だす。
「いや な コ!」
 そう いいながら おもいだす の は フジコ の イエ だった。 はじめて ミサキ へ フニン した とき でも、 もう アス にも ヒトデ に わたりそう な ウワサ だった その イエ は、 クラ の シラカベ が キタガワ だけ ごっそり はげて いた。 ふるい イエ に うまれた フジコ は、 いかにも その イエガラ を せおった よう に おちつきはらって いて、 めった に なかず、 めった に わらわない ショウジョ だった。 コツル など から あからさま な こと を いわれて も、 じろり と つめたい メ で にらみかえす ドキョウ は、 ダレ にも マネ の できない もの だ。 「くさって も タイ」 と いう カノジョ の アダナ は、 カノジョ の チチ の クチグセ から きて おり、 カノジョ は それ に マンゾク して いる ところ が みえた。
 そこ へ ゆく と コツル など は さっぱり した もの で、 ヒト の こと も いう が、 ジブン の こと を いわれて も、 べつに キ に とめない ふう だった。 イッカ そろって はたらき、 その ハタラキ を オモテ カンバン に して ウラ も オモテ も なかった。 たとえば コツル の アダナ は 「メッツリ」 と いわれて いる。 たいした キズ では ない が、 マブタ の ウエ の オデキ の アト が ひっつれて いる から だ。 フツウ なら、 ことに オンナ の コ は 「メッツリ」 など と なぶられれば なきたく なる だろう が、 コツル は ちがって いた。 まるで ヒトゴト の よう に ワダカマリ の ない ヨウス で、
「メッツリ メッツリ と、 やすやす いうて くれるな。 メッツリ も、 なろう と おもうて なれる メッツリ と ちがう ぞ」
 それ は カノジョ の ハハ たち が そう いって いた から で あろう。 リョコウ に ゆけない ワケ をも、 カノジョ は ざっくばらん に いう の だ。
「ワタシ ん ク なあ センセイ、 こないだ タノモシコウ を おとして、 おおきい フネ を こうた ん。 だから、 ケンヤク せん ならん の。 コンピラ マイリ は、 ジブン で カネモウケ する よう に なって から、 いく こと に きめた」
 それで タニン の フトコロ も エンリョ なく のぞきこんで、 ヒト の こと は いうな と いって も ヘイキ で いう。 ミサコ が いかない の は ヨクバリ だ から だの、 コトエ や サナエ は キョウダイ が おおくて、 リョコウ どころ で なかろう とか と。
 ところが ゼンゼンジツ に なる と、 リョコウ シボウシャ は キュウ に ふえて、 ミサキ では マスノ を のけて ミンナ が ゆく と いう こと に なった。
 その キッカケ は、 ダマリヤ の キチジ が、 ヤマダシ を して もうけた チョキン を おろして モウシコミ を した こと に ある よう だった。 キチジ が ゆけば、 どうしたって だまって いられない の が ソンキ で あった。 イソキチ は、 ジブン も トウフ や アブラアゲ を うりあるいて もらった ブキン を チョキン して いた の だ。 ソンキ さえ も ゆく と なる と、 どうしたって タダシ や タケイチ が やめる わけ には ゆかない。 タダシ も アミヒキ で、 もうけた チョキン を おもいだす し、 タケイチ も タマゴ を うって ためた カネ で ゆく と いいだした。 ケンヤク な ミサキ の ムラ の コドモ ら は、 こんな こと で チョキン を おろす こと を おもいつかなかった の だ。 タダシ など、 おろさなくて も よい と いわれながら、 どうしても おろす の だ と いって、 タケイチ と イッショ に わざわざ ユウビンキョク へ いったり した。
 オトコ の コ の ほう が そう なる と、 オンナ の コ の ほう も だまって いられない。 いちばん シンパイ の ない ミサコ は、 フジコ を さそった。 フタリ の ハハオヤ たち が ナカ が よかった から だ。 ラデン の スズリバコ が フジコ には しらせず に ミサコ の イエ へ ゆき、 それ で フジコ は ゆける こと に なった。 フタリ の こと が わかる と、 じっと して いられなく なった の は コツル で ある。 カノジョ は さっそく さわぎだした。
「ミイ さん も フジコ さん も リョコウ に いくう。 ウチ も ビンボウ シチ に おいて、 やって くれえ」
 コツル は ホントウ に そう いって、 ジダンダ ふんで ないた。 その ため に カノジョ の ほそい メ は よけい ほそく、 はれぼったく なった。 コツル の ハハオヤ は、 コツル と そっくり の メ を イト の よう に して わらいだし、 むつかしい モンダイ を だした。
「ミイ さん とこ は カネモチ じゃ し、 フジコ さん とこ は オマエ、 なんと いうたって ショウヤ じゃ もん。 あんな ダンナシュウ の マネ は できん。 じゃが な、 もしも コトヤン が いく ん なら、 コツ も やって やる。 イッペン コトヤン と ソウダン して こい」
 とうてい コトエ は ゆくまい と おもって そう いった の で あろう。 ところが、 はしって いった コツル は にこにこ して もどって きた。 はあはあ カタ で イキ を しながら、
「コトヤン、 いく いうた」
「ホンマ かい や」
「ホンマ、 バアヤン が おって、 そう いうた もん」
 あんまり の カンタンサ に コツル の ハハオヤ は ウタガイ を もち、 きき に いった。 デシャバリ の コツル が そんな ふう に もって いった の では ない か と おもった の で ある。
「ウチ の コツ が、 しゃしゃりでた こと いい に きた ん じゃ ない かえ」
 さぐる よう に いう と、 リョウシ-ナミ に ヒヤケ した コトエ の ハハ は、 まっしろく みえる ハ を みせて わらい、
「イッショウ に イッペン の こと じゃ、 やって やりましょい な、 こんな とき こそ。 いつも シタコ の コモリ ばっかり さして、 クロウ さしとる もん」
「そりゃ、 ウチ の コツ も おなじ こっちゃ。 しかし、 ナニ きせて やる ん ぞな?」
「ウチ じゃあ、 おもいきって、 セーラー こうて やろう と おもう」
「ハシタガネ じゃ、 かえまい がの」
「ま、 そんな こと いわん と、 こうて やんなされ、 シタコ も きる がい の」
「ふーん」
「サナエ さん も、 そう する こと に した ぞな。 コツヤン にも ひとつ、 フンパツ して あげる ん じゃ な」
「そう かいの。 サナエ さん も、 のう。 そう なる と、 コツ も じっと して おれん はず じゃ。 やれやれ。 そんなら ひとつ、 ビンボウ シチ に おこう か」
 こんな イキサツ が あった の だ。 ところが、 トウジツ に なる と、 サナエ は、 カゼギミ で ゆけない と いった。 しかし サナエ は ノド が いたい の でも、 ハナ が つまって いた の でも ない。 いたかったり、 つまったり した の は、 オカアサン の サイフ の クチ の ほう で、 サナエ の ため に うり に いった サンゴ の タマ の ついた カンザシ は おもう ネ で うれず、 ヨウフク を かう こと が できなかった の だ。 ヒト の アシモト を みて から に と、 サナエ の ハハ は、 その フルテヤ (コブツショウ) の こと を いつまでも おこりながら、 サナエ には やさしく、
「キモノ きて、 いく か」
 サナエ が なきそう な カオ を する と、
「ネエヤン の、 きれい な キモノ に コシアゲ して きて いく か」
「…………」
「オマエ だけ キモノ きて いく の が いや なら、 やめとけ。 そのかわり、 ヨウフク を かおう や。 どう する?」
「…………」
 サナエ は ぽろっと ナミダ を こぼし、 くいしばった クチモト を こまかく ふるわせて いた。 フタツ の ウチ どちら を とって よい か ハンダン が つかなかった の だ。 しかし ハハオヤ の こまって なきそう な カオ に きづく と、 キュウ に サナエ の ケッシン は ついた。
「リョコウ、 やめる」
 こんな イキサツ が あった とは、 ダレ も しらず、 シュウガク リョコウ は 63 ニン の イチダン で シュッパツ した。 オトコ と オンナ の センセイ が フタリ ずつ で、 もちろん オオイシ センセイ も くわわって いた。 ゴゼン 4 ジ に のりこんだ フネ の ナカ では ダレ も ねむろう と する モノ は なく、 がやがや の サワギ の ナカ で、 「コンピラ フネフネ」 を うたう モノ も いた。
 そんな ナカ で、 オオイシ センセイ は ひとり かんがえこんで いた。 その カンガエ から、 いつも はなれない の が サナエ だった。
 ホント に、 カゼケ だった の かしら?
 サナエ の ホカ にも、 10 イクニン か の コドモ が ソレゾレ の リユウ で リョコウ に こられなかった の だ が、 トクベツ に サナエ が キ に なる の は、 ミサキ の セイト で、 カノジョ ヒトリ が フサンカ だ から かも しれぬ。 6 ネン に なって から、 マスノ は すっかり ハハ たち の イエ へ うつって いた ので、 もう ミサキ の ナカマ では なくなって いた。 たった ヒトリ、 あの ミサキ の ミチ を ガッコウ へ ゆく キョウ の サナエ を おもう と、 キョウ は ヤスミ に しなかった こと が、 かわいそう に おもえた。 センセイ も いない キョウシツ で しょんぼり と ジシュウ して いる セイト たち を おもう と サナエ ばかり で なく、 かわいそう だった。
 コンピラ は タドツ から イチバン の キシャ で アサマイリ を した。 また 「コンピラ フネフネ」 を うたい、 ながい、 イシダン を のぼって ゆきながら アセ を ながして いる モノ も ある。 そんな ナカ で オオイシ センセイ は ぞくり と ふるえた。 ヤシマ への デンシャ の ナカ でも、 ケーブル に のって から も、 それ は ときどき ゼンシン を おそった。 ヒザ の アタリ に ミズ を かけられる よう な ブキミサ は、 アタリ の シュウショク を たのしむ ココロ の ユトリ も わかず、 のろのろ と ミヤゲモノヤ に はいり、 おなじ エハガキ を イククミ も かった。 せめて のこって いる コドモ たち への ミヤゲ に と おもった の で ある。
 ヤシマ を アト に、 サイゴ の スケジュール に なって いる タカマツ に で、 リツリン コウエン で 3 ド-メ の ベントウ を つかった とき、 オオイシ センセイ は、 おおかた のこって いる ベントウ を キボウシャ に わけて たべて もらったり した。 ベントウ まで が ココロ の オモニ に なって いた こと に きづき、 それ で ほっと した。 ユウヤミ の せまる タカマツ の マチ を、 チッコウ の ほう へ と、 ぞろぞろ あるきながら、 はやく かえって おもうさま アシ を のばしたい と、 しみじみ かんがえて いる と、
「オオイシ センセイ、 あおい カオ よ」
 タムラ センセイ に チュウイ される と、 よけい ぞくり と した。
「なんだか、 つかれました の。 ぞくぞく してる の」
「あら、 こまりました ね。 オクスリ は?」
「サッキ から セイリョウタン を のんで ます けど」 と いいさして おもわず ふっと わらい、
「セイリョウ で ない ほう が いい のね。 あつうい ウドン でも たべる と……」
「そう よ。 おつきあい する わ」
 そう は いった が マエ にも ウシロ にも セイト が いる。 それ を サンバシ の マチアイジョ まで おくって から の こと に した。 オトコ センセイ たち に ジジョウ を いって、 ヒトリ ずつ そっと ぬけだし、 めだたぬ よう オオドオリ を すぐ ヨコチョウ に はいった。 そこ でも ミヤゲモノ や タベモノ の ミセ が ならんで いた。 ノキ の ひくい ヤナミ に、 オオヂョウチン が ヒトツ ずつ ぶらさがって いて、 どれ にも みな、 ウドン、 スシ、 サケ、 サカナ など と、 ふとい ジ で かいて あった。 せまい ドマ の テンジョウ を キセツ の ゾウカ モミジ で かざって ある ミセ を ヨコメ で みながら、
「オオイシ センセイ、 ウドン や カゼグスリ と いう の が ある でしょ、 あれ もらったら?」
 そう ね、 と ヘンジ を しよう と した トタン、
「テンプラ イッチョウッ!」
 イセイ の よい ショウジョ の、 よく ひびく コエ が オオイシ センセイ を はっと させた。 あっ と さけびそう に なった ほど、 ココロ に ひびく コエ で あった。 この アタリ には めずらしい、 ナワノレン の ミセ の ナカ から それ は ひびいて きた の だった。 おもわず のぞく と、 カミ を モモワレ に ゆった ヒトリ の ショウジョ が、 ビラビラ カンザシ と イッショ に ゾウカ の モミジ を アタマ に かざり、 あかい マエカケ に リョウテ を くるむ よう に して、 ムシン な カオ で オウライ の ほう を むいて たって いた。 それ は どうしても、 オオイシ センセイ と して みのがせぬ スガタ で あった。 たちどまった センセイ たち を キャク と みた の か、 ショウジョ は サッキ と おなじ コエ で さけんだ。
「いらっしゃーい」
 それ は もう、 ジブン の コエ に さえ、 いささかも ギモン を もたない サケビ で あった。 ニホンガミ に、 ませた ヌキエモン の かわった スガタ とは いえ、 ながい マツゲ は もう うたがう ヨチ も なかった。
「マツエ さん、 アンタ、 マッチャン でしょ」
 はいって きた キャク に、 いきなり はなしかけられ、 モモワレ の ショウジョ は イキ を のんで ヒトアシ さがった。
「オオサカ へ いった ん じゃ なかった の。 マッチャン、 ずっと ここ に いた の?」
 のぞきこまれて マツエ は やっと おもいだし でも した よう に、 しくしく なきだした。 おもわず その カタ を かかえる よう に して ナワノレン の ソト に つれだす と、 オク から あわただしい ゲタ の オト と イッショ に、 オカミサン も とびだして きた。
「ドナタ です か。 だまって つれだされたら、 こまります が」
 うさんくさそう に いう の へ、 マツエ は はじめて クチ を きき、 オカミサン の ウタガイ を うちけす よう に コゴエ で いった。
「オオイシ センセイ や ない か、 オカアハン」
 ウドン は とうとう たべる ヒマ が なかった。
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