カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ナツ の ハナ

2017-08-23 | ハラ タミキ
 ナツ の ハナ

 ハラ タミキ

   わが あいする モノ よ こう いそぎ はしれ
   かぐわしき ヤマヤマ の ウエ に ありて ノロ の
   ごとく コジカ の ごとく あれ

 ワタシ は マチ に でて ハナ を かう と、 ツマ の ハカ を おとずれよう と おもった。 ポケット には ブツダン から とりだした センコウ が ヒトタバ あった。 8 ガツ 15 ニチ は ツマ に とって ニイボン に あたる の だ が、 それまで この フルサト の マチ が ブジ か どう か は うたがわしかった。 ちょうど、 キュウデンビ では あった が、 アサ から ハナ を もって マチ を あるいて いる オトコ は、 ワタシ の ホカ に みあたらなかった。 その ハナ は なんと いう メイショウ なの か しらない が、 キイロ の コベン の カレン な ヤシュ を おび、 いかにも ナツ の ハナ-らしかった。
 エンテン に さらされて いる ハカイシ に ミズ を うち、 その ハナ を フタツ に わけて サユウ の ハナタテ に さす と、 ハカ の オモテ が なんとなく すがすがしく なった よう で、 ワタシ は しばらく ハナ と イシ に みいった。 この ハカ の シタ には ツマ ばかり か、 フボ の ホネ も おさまって いる の だった。 もって きた センコウ に マッチ を つけ、 モクレイ を すます と ワタシ は カタワラ の イド で ミズ を のんだ。 それから、 ニギツ コウエン の ほう を まわって イエ に もどった の で ある が、 その ヒ も、 その ヨクジツ も、 ワタシ の ポケット は センコウ の ニオイ が しみこんで いた。 ゲンシ バクダン に おそわれた の は、 その ヨクヨクジツ の こと で あった。

 ワタシ は カワヤ に いた ため イチメイ を ひろった。 8 ガツ ムイカ の アサ、 ワタシ は 8 ジ-ゴロ トコ を はなれた。 マエ の バン 2 カイ も クウシュウ ケイホウ が で、 ナニゴト も なかった ので、 ヨアケマエ には フク を ゼンブ ぬいで、 ヒサシブリ に ネマキ に きがえて ねむった。 それで、 おきだした とき も パンツ ヒトツ で あった。 イモウト は この スガタ を みる と、 アサネ した こと を ぶつぶつ なんじて いた が、 ワタシ は だまって ベンジョ へ はいった。
 それから ナンビョウ-ゴ の こと か はっきり しない が、 とつぜん、 ワタシ の ズジョウ に イチゲキ が くわえられ、 メノマエ に クラヤミ が すべりおちた。 ワタシ は おもわず うわあ と わめき、 アタマ に テ を やって たちあがった。 アラシ の よう な もの の ツイラク する オト の ホカ は マックラ で なにも わからない。 テサグリ で トビラ を あける と、 エンガワ が あった。 その とき まで、 ワタシ は うわあ と いう ジブン の コエ を、 ざあー と いう モノオト の ナカ に はっきり ミミ に きき、 メ が みえない ので もだえて いた。 しかし、 エンガワ に でる と、 まもなく ウスラアカリ の ナカ に ハカイ された カオク が うかびだし、 キモチ も はっきり して きた。
 それ は ひどく いや な ユメ の ナカ の デキゴト に にて いた。 サイショ、 ワタシ の アタマ に イチゲキ が くわえられ メ が みえなく なった とき、 ワタシ は ジブン が たおれて は いない こと を しった。 それから、 ひどく メンドウ な こと に なった と おもい はらだたしかった。 そして、 うわあ と さけんで いる ジブン の コエ が なんだか ベツジン の コエ の よう に ミミ に きこえた。 しかし、 アタリ の ヨウス が おぼろ ながら メ に みえだして くる と、 コンド は サンゲキ の ブタイ の ナカ に たって いる よう な キモチ で あった。 たしか、 こういう コウケイ は エイガ など で みた こと が ある。 もうもう と けむる サジン の ムコウ に あおい クウカン が みえ、 つづいて その クウカン の カズ が ふえた。 カベ の ダツラク した ところ や、 おもいがけない ホウコウ から アカリ が さして くる。 タタミ の とびちった ザイタ の ウエ を そろそろ あるいて ゆく と、 ムコウ から すさまじい イキオイ で イモウト が かけつけて きた。
「やられなかった、 やられなかった の、 だいじょうぶ」 と イモウト は さけび、 「メ から チ が でて いる、 はやく あらいなさい」 と ダイドコロ の ナガシ に スイドウ が でて いる こと を おしえて くれた。
 ワタシ は ジブン が ゼンラタイ で いる こと を きづいた ので、 「とにかく きる もの は ない か」 と イモウト を かえりみる と、 イモウト は こわれのこった オシイレ から うまく パンツ を とりだして くれた。 そこ へ ダレ か キミョウ な ミブリ で チンニュウ して きた モノ が あった。 カオ を チダラケ に し、 シャツ 1 マイ の オトコ は コウジョウ の ヒト で あった が、 ワタシ の スガタ を みる と、 「アナタ は ブジ で よかった です な」 と いいすて、 「デンワ、 デンワ、 デンワ を かけなきゃ」 と つぶやきながら いそがしそう に どこ か へ たちさった。
 いたる ところ に スキマ が でき、 タテグ も タタミ も サンラン した イエ は、 ハシラ と シキイ ばかり が はっきり と あらわれ、 しばし キイ な チンモク を つづけて いた。 これ が この イエ の サイゴ の スガタ らしかった。 アト で しった ところ に よる と、 この チイキ では タイガイ の イエ が ぺしゃんこ に トウカイ した らしい のに、 この イエ は 2 カイ も おちず ユカ も しっかり して いた。 よほど しっかり した フシン だった の だろう。 40 ネン マエ、 シンケイシツ な チチ が たてさせた もの で あった。
 ワタシ は サクラン した タタミ や フスマ の ウエ を ふみこえて、 ミ に つける もの を さがした。 ウワギ は すぐに みつかった が ズボン を もとめて あちこち して いる と、 めちゃくちゃ に ちらかった シナモノ の イチ と スガタ が、 ふと いそがしい メ に とまる の で あった。 サクヤ まで ヨミカカリ の ホン が ページ を まくれて おちて いる。 ナゲシ から ツイラク した ガク が サッキ を おびて コドコ を ふさいで いる。 ふと、 どこ から とも なく、 スイトウ が みつかり、 つづいて ボウシ が でて きた。 ズボン は みあたらない ので、 コンド は アシ に はく もの を さがして いた。
 その とき、 ザシキ の エンガワ に ジムシツ の K が あらわれた。 K は ワタシ の スガタ を みとめる と、
「ああ、 やられた、 たすけてえ」 と ヒツウ な コエ で よびかけ、 そこ へ、 ぺったり すわりこんで しまった。 ヒタイ に すこし チ が ふきでて おり、 メ は なみだぐんで いた。
「どこ を やられた の です」 と たずねる と、 「ヒザ じゃ」 と そこ を おさえながら シワ の おおい ソウガン を ゆがめる。
 ワタシ は ソバ に あった ヌノキレ を カレ に あたえて おき、 クツシタ を 2 マイ かさねて アシ に はいた。
「あ、 ケムリ が でだした、 にげよう、 つれて にげて くれ」 と K は しきり に ワタシ を せかしだす。 この ワタシ より かなり トシウエ の、 しかし ヘイソ は はるか に ゲンキ な K も、 どういう もの か すこし テンドウ-ギミ で あった。
 エンガワ から みわたせば、 イチメン に くずれおちた カオク の カタマリ が あり、 やや かなた の テッキン コンクリート の タテモノ が のこって いる ホカ、 モクヒョウ に なる もの も ない。 ニワ の ドベイ の くつがえった ワキ に、 おおきな カエデ の ミキ が チュウト から ぽっくり おられて、 コズエ を テアライバチ の ウエ に なげだして いる。 ふと、 K は ボウクウゴウ の ところ へ かがみ、
「ここ で、 がんばろう か、 スイソウ も ある し」 と ヘン な こと を いう。
「いや、 カワ へ いきましょう」 と ワタシ が いう と、 K は フシン そう に、
「カワ? カワ は どちら へ いったら でられる の だった かしら」 と うそぶく。
 とにかく、 にげる に して も まだ ジュンビ が ととのわなかった。 ワタシ は オシイレ から ネマキ を とりだし カレ に てわたし、 さらに エンガワ の アンマク を ひきさいた。 ザブトン も ひろった。 エンガワ の タタミ を はねくりかえして みる と、 モチニゲ-ヨウ の ザツノウ が でて きた。 ワタシ は ほっと して その カバン を カタ に かけた。 トナリ の セイヤク-ガイシャ の ソウコ から あかい ちいさな ホノオ の スガタ が みえだした。 いよいよ にげだす ジキ で あった。 ワタシ は サイゴ に、 ぽっくり おれまがった カエデ の ソバ を ふみこえて でて いった。
 その おおきな カエデ は ムカシ から ニワ の スミ に あって、 ワタシ の ショウネン ジダイ、 ムソウ の タイショウ と なって いた ジュモク で ある。 それ が、 この ハル ヒサシブリ に キョウリ の イエ に かえって くらす よう に なって から は、 どうも、 もう ムカシ の よう な ウルオイ の ある スガタ が、 この ジュモク から さえ くみとれない の を、 つくづく ワタシ は キイ に おもって いた。 フシギ なの は、 この キョウリ ゼンタイ が、 やわらかい シゼン の チョウシ を うしなって、 ナニ か ザンコク な ムキブツ の シュウゴウ の よう に かんじられる こと で あった。 ワタシ は ニワ に めんした ザシキ に はいって ゆく たび に、 「アッシャ-ケ の ホウカイ」 と いう コトバ が ひとりでに うかんで いた。

 K と ワタシ とは ホウカイ した カオク の ウエ を のりこえ、 ショウガイブツ を よけながら、 ハジメ は そろそろ と すすんで ゆく。 その うち に、 アシモト が ヘイタン な ジメン に たっし、 ドウロ に でて いる こと が わかる。 すると コンド は イソギアシ で とっとと ミチ の ナカホド を あるく。 ぺしゃんこ に なった タテモノ の カゲ から ふと、 「オジサン」 と わめく コエ が する。 ふりかえる と、 カオ を チダラケ に した オンナ が なきながら こちら へ あるいて くる。 「たすけてえ」 と カノジョ は おびえきった ソウ で イッショウ ケンメイ ついて くる。 しばらく ゆく と、 ロジョウ に たちはだかって、 「ウチ が やける、 ウチ が やける」 と コドモ の よう に なきわめいて いる ロウジョ と であった。 ケムリ は くずれた カオク の あちこち から たちのぼって いた が、 キュウ に ホノオ の イキ が はげしく ふきまくって いる ところ へ くる。 はしって、 そこ を すぎる と、 ミチ は また ヘイタン と なり、 そして サカエバシ の タモト に ワタシタチ は きて いた。 ここ には ヒナンシャ が ぞくぞく イシュウ して いた。
「ゲンキ な ヒト は バケツ で ヒ を けせ」 と ダレ か が ハシ の ウエ に がんばって いる。 ワタシ は センテイ の ヤブ の ほう へ ミチ を とり、 そして、 ここ で K とは はぐれて しまった。
 その タケヤブ は なぎたおされ、 にげて ゆく ヒト の イキオイ で、 ミチ が しぜん と ひらかれて いた。 みあげる ジュモク も おおかた チュウクウ で そぎとられて おり、 カワ に そった、 この ユイショ ある メイエン も、 イマ は キズダラケ の スガタ で あった。 ふと、 カンボク の ソバ に だらり と ゆたか な シタイ を なげだして うずくまって いる チュウネン の フジン の カオ が あった。 タマシイ の ぬけはてた その カオ は、 みて いる うち に ナニ か カンセン しそう に なる の で あった。 こんな カオ に でくわした の は、 これ が はじめて で あった。 が、 それ より もっと キカイ な カオ に、 ソノゴ ワタシ は かぎりなく でくわさねば ならなかった。
 カワギシ に でる ヤブ の ところ で、 ワタシ は ガクト の ヒトカタマリ と であった。 コウジョウ から にげだした カノジョ たち は イチヨウ に かるい フショウ を して いた が、 イマ メノマエ に シュツゲン した デキゴト の シンセンサ に おののきながら、 かえって ゲンキ そう に しゃべりあって いた。 そこ へ チョウケイ の スガタ が あらわれた。 シャツ 1 マイ で、 カタテ に ビール ビン を もち、 まず イジョウ なさそう で あった。 ムコウギシ も みわたす かぎり タテモノ は くずれ、 デンチュウ の のこって いる ホカ、 もう ヒノテ が まわって いた。 ワタシ は せまい カワギシ の ミチ へ コシ を おろす と、 しかし、 もう だいじょうぶ だ と いう キモチ が した。 ながい アイダ おびやかされて いた もの が、 ついに きたる べき もの が、 きた の だった。 さばさば した キモチ で、 ワタシ は ジブン が いきながらえて いる こと を かえりみた。 かねて、 フタツ に ヒトツ は たすからない かも しれない と おもって いた の だ が、 イマ、 ふと オノレ が いきて いる こと と、 その イミ が、 はっと ワタシ を はじいた。
 この こと を かきのこさねば ならない、 と、 ワタシ は ココロ に つぶやいた。 けれども、 その とき は まだ、 ワタシ は この クウシュウ の シンソウ を ほとんど しって は いなかった の で ある。

 タイガン の カジ が イキオイ を まして きた。 コチラガワ まで ホテリ が ハンシャ して くる ので、 マンチョウ の カワミズ に ザブトン を ひたして は アタマ に かむる。 そのうち、 ダレ か が 「クウシュウ」 と さけぶ。 「しろい もの を きた モノ は コカゲ へ かくれよ」 と いう コエ に、 ミナ は ぞろぞろ ヤブ の オク へ はって ゆく。 ヒ は さんさん と ふりそそぎ ヤブ の ムコウ も、 どうやら ヒ が もえて いる ヨウス だ。 しばらく イキ を ころして いた が、 ナニゴト も なさそう なので、 また カワ の ほう へ でて くる と、 ムコウギシ の カジ は さらに おとろえて いない。 ネップウ が ズジョウ を はしり、 コクエン が カワ の ナカホド まで あおられて くる。 その とき、 キュウ に ズジョウ の ソラ が アンコク と かした か と おもう と、 はいぜん と して オオツブ の アメ が おちて きた。 アメ は アタリ の ホテリ を やや しずめて くれた が、 しばらく する と、 また からり と はれた テンキ に もどった。 タイガン の カジ は まだ つづいて いた。 イマ、 こちら の キシ には チョウケイ と イモウト と それから キンジョ の みしった カオ が フタツ ミッツ みうけられた が、 ミンナ は よりあつまって、 てんでに ケサ の デキゴト を かたりあう の で あった。
 あの とき、 アニ は ジムシツ の テーブル に いた が、 ニワサキ に センコウ が はしる と まもなく、 1 ケン あまり はねとばされ、 カオク の シタジキ に なって しばらく もがいた。 やがて スキマ が ある の に きづき、 そこ から はいだす と、 コウジョウ の ほう では、 ガクト が スクイ を もとめて カンキョウ して いる―― アニ は それ を すくいだす の に ダイフントウ した。 イモウト は ゲンカン の ところ で コウセン を み、 オオイソギ で カイダン の シタ に ミ を ひそめた ため、 あまり フショウ を うけなかった。 ミンナ、 はじめ ジブン の イエ だけ バクゲキ された もの と おもいこんで、 ソト に でて みる と、 どこ も イチヨウ に やられて いる の に あぜん と した。 それに、 チジョウ の カオク は ホウカイ して いながら、 バクダン らしい アナ が あいて いない の も フシギ で あった。 あれ は、 ケイカイ ケイホウ が カイジョ に なって まもなく の こと で あった。 ぴかっと ひかった もの が あり、 マグネシューム を もす よう な しゅーっ と いう かるい オト と ともに イッシュン さっと アシモト が カイテン し、 ……それ は まるで マジュツ の よう で あった、 と イモウト は おののきながら かたる の で あった。
 ムコウギシ の ヒ が しずまりかける と、 こちら の テイエン の コダチ が もえだした と いう コエ が する。 かすか な ケムリ が ウシロ の ヤブ の たかい ソラ に みえそめて いた。 カワ の ミズ は マンチョウ の まま まだ ひこう と しない。 ワタシ は イシガケ を つたって、 ミズギワ の ところ へ おりて いって みた。 すると、 すぐ アシモト の ところ を、 シラキ の おおきな ハコ が ながれて おり、 ハコ から はみでた タマネギ が アタリ に ただよって いた。 ワタシ は ハコ を ひきよせ、 ナカ から タマネギ を つかみだして は、 キシ の ほう へ てわたした。 これ は ジョウリュウ の テッキョウ で カシャ が テンプク し、 そこ から この ハコ は ほうりだされて ただよって きた もの で あった。 ワタシ が タマネギ を ひろって いる と、 「たすけてえ」 と いう コエ が きこえた。 モクヘン に とりすがりながら ショウジョ が ヒトリ、 カワ の ナカホド を ウキシズミ して ながされて くる。 ワタシ は おおきな ザイモク を えらぶ と それ を おす よう に して およいで いった。 ひさしく およいだ こと も ない ワタシ では あった が、 おもった より カンタン に アイテ を すくいだす こと が できた。
 しばらく しずまって いた ムコウギシ の ヒ が、 いつのまにか また くるいだした。 コンド は あかい ヒ の ナカ に どすぐろい ケムリ が みえ、 その くろい カタマリ が もうぜん と ひろがって ゆき、 みるみる うち に ホノオ の ネツド が ます よう で あった。 が、 その ブキミ な ヒ も やがて もえつくす だけ もえる と、 クウキョ な ザンガイ の スガタ と なって いた。 その とき で ある、 ワタシ は カワシモ の ほう の ソラ に、 ちょうど カワ の ナカホド に あたって、 ものすごい トウメイ な クウキ の ソウ が ゆれながら イドウ して くる の に きづいた。 タツマキ だ、 と おもう うち にも、 はげしい カゼ は すでに ズジョウ を よぎろう と して いた。 マワリ の クサキ が ことごとく ふるえ、 と みる と、 そのまま ひきぬかれて ソラ に さらわれて ゆく あまた の ジュモク が あった。 ソラ を まいくるう ジュモク は ヤ の よう な イキオイ で、 コンダク の ナカ に おちて ゆく。 ワタシ は この とき、 アタリ の クウキ が どんな シキサイ で あった か、 はっきり おぼえて は いない。 が、 おそらく、 ひどく インサン な、 ジゴク エマキ の ミドリ の ビコウ に つつまれて いた の では ない か と おもえる の で ある。
 この タツマキ が すぎる と、 もう ユウガタ に ちかい ソラ の ケハイ が かんじられて いた が、 イマ まで スガタ を みせなかった 2 バンメ の アニ が、 ふと こちら に やって きた の で あった。 カオ に さっと ウスズミイロ の アト が あり、 セ の シャツ も ひきさかれて いる。 その カイスイヨク で ヒヤケ した くらい の ヒフ の アト が、 ノチ には カノウ を ともなう ヤケド と なり、 スウ-カゲツ も チリョウ を ようした の だ が、 この とき は まだ この アニ も なかなか ゲンキ で あった。 カレ は ジタク へ ヨウジ で かえった トタン、 ジョウクウ に ちいさな ヒコウキ を みとめ、 つづいて ミッツ の あやしい ヒカリ を みた。 それから チジョウ に 1 ケン あまり はねとばされた カレ は、 イエ の シタジキ に なって もがいて いる カナイ と ジョチュウ を すくいだし、 コドモ フタリ は ジョチュウ に たくして サキ に にげのびさせ、 リンカ の ロウジン を たすける の に てまどって いた と いう。
 アニヨメ が しきり に わかれた コドモ の こと を あんじて いる と、 ムコウギシ の カワラ から ジョチュウ の よぶ コエ が した。 テ が いたくて、 もう コドモ を かかえきれない から はやく きて くれ と いう の で あった。
 センテイ の モリ も すこし ずつ もえて いた。 ヨル に なって この ヘン まで もえうつって くる と いけない し、 あかるい うち に ムコウギシ の ほう へ わたりたかった。 が、 そこいら には ワタシブネ も みあたらなかった。 チョウケイ たち は ハシ を まわって ムコウギシ へ ゆく こと に し、 ワタシ と 2 バンメ の アニ とは また ワタシブネ を もとめて ジョウリュウ の ほう へ さかのぼって いった。 ミズ に そう せまい イシ の ツウロ を すすんで ゆく に したがって、 ワタシ は ここ で はじめて、 ゲンゴ に ぜっする ヒトビト の ムレ を みた の で ある。 すでに かたむいた ヒザシ は、 アタリ の コウケイ を あおざめさせて いた が、 キシ の ウエ にも キシ の シタ にも、 そのよう な ヒトビト が いて、 ミズ に カゲ を おとして いた。 どのよう な ヒトビト で ある か……。 オトコ で ある の か、 オンナ で ある の か、 ほとんど クベツ も つかない ほど、 カオ が くちゃくちゃ に はれあがって、 したがって メ は イト の よう に ほそまり、 クチビル は おもいきり ただれ、 それに、 いたいたしい シタイ を ロシュツ させ、 ムシ の イキ で カレラ は よこたわって いる の で あった。 ワタシタチ が その マエ を とおって ゆく に したがって その キカイ な ヒトビト は ほそい やさしい コエ で よびかけた。 「ミズ を すこし のませて ください」 とか、 「たすけて ください」 とか、 ほとんど ミンナ が ミンナ ウッタエゴト を もって いる の だった。
「オジサン」 と するどい アイセツ な コエ で ワタシ は よびとめられて いた。 みれば すぐ そこ の カワ の ナカ には、 ラタイ の ショウネン が すっぽり アタマ まで ミズ に つかって しんで いた が、 その シタイ と ハンゲン も へだたらない イシダン の ところ に、 フタリ の オンナ が うずくまって いた。 その カオ は ヤク 1 バイ ハン も ボウチョウ し、 みにくく ゆがみ、 こげた ランパツ が オンナ で ある シルシ を のこして いる。 これ は ヒトメ みて、 レンビン より も まず、 ミノケ の よだつ スガタ で あった。 が、 その オンナ たち は、 ワタシ の たちどまった の を みる と、
「あの キ の ところ に ある フトン は ワタシ の です から ここ へ もって きて くださいません か」 と アイガン する の で あった。
 みる と、 キ の ところ には、 なるほど フトン らしい もの は あった。 だが、 その ウエ には やはり ヒンシ の ジュウショウシャ が ふして いて、 すでに どうにも ならない の で あった。
 ワタシタチ は ちいさな イカダ を みつけた ので、 ツナ を といて、 ムコウギシ の ほう へ こいで いった。 イカダ が ムコウ の スナハラ に ついた とき、 アタリ は もう うすぐらかった が、 ここ にも タクサン の フショウシャ が ひかえて いる らしかった。 ミズギワ に うずくまって いた ヒトリ の ヘイシ が、 「オユ を のまして くれ」 と たのむ ので、 ワタシ は カレ を ジブン の カタ に よりかからして やりながら、 あるいて いった。 くるしげ に、 カレ は よろよろ と スナ の ウエ を すすんで いた が、 ふと、 「しんだ ほう が まし さ」 と はきすてる よう に つぶやいた。 ワタシ も あんぜん と して うなずき、 コトバ は でなかった。 グレツ な もの に たいする、 やりきれない イキドオリ が、 この とき ワレワレ を ムゴン で むすびつけて いる よう で あった。 ワタシ は カレ を チュウト に またして おき、 ドテ の ウエ に ある キュウトウジョ を イシガケ の シタ から みあげた。 すると、 イマ ユゲ の たちのぼって いる ダイ の ところ で、 チャワン を かかえて、 クロコゲ の オオアタマ が ゆっくり と、 オユ を のんで いる の で あった。 その ボウダイ な、 キミョウ な カオ は ゼンタイ が クロマメ の ツブツブ で できあがって いる よう で あった。 それに トウハツ は ミミ の アタリ で イッチョクセン に かりあげられて いた。 (ソノゴ、 イッチョクセン に トウハツ の かりあげられて いる カショウシャ を みる に つけ、 これ は ボウシ を サカイ に カミ が やきとられて いる の だ と いう こと を きづく よう に なった。) しばらく して、 チャワン を もらう と、 ワタシ は サッキ の ヘイタイ の ところ へ もちはこんで いった。 ふと みる と、 カワ の ナカ に、 これ は ヒトリ の ジュウショウヘイ が ヒザ を かがめて、 そこ で おもいきり カワ の ミズ を のみふけって いる の で あった。
 ユウヤミ の ナカ に センテイ の ソラ や すぐ チカク の ホノオ が あざやか に うきでて くる と、 スナハラ では モクヘン を もやして ユウゲ の タキダシ を する モノ も あった。 サッキ から ワタシ の すぐ ソバ に カオ を ふわふわ に ふくらした オンナ が よこたわって いた が、 ミズ を くれ と いう コエ で、 ワタシ は はじめて、 それ が ジケイ の イエ の ジョチュウ で ある こと に きづいた。 カノジョ は アカンボウ を かかえて ダイドコロ から でかかった とき、 コウセン に あい、 カオ と ムネ と テ を やかれた。 それから、 アカンボウ と チョウジョ を つれて アニ たち より ヒトアシ サキ に にげた が、 ハシ の ところ で チョウジョ と はぐれ、 アカンボウ だけ を かかえて この カワラ に きて いた の で ある。 サイショ カオ に うけた コウセン を さえぎろう と して おおうた テ が、 その テ が、 イマ も もぎとられる ほど いたい と うったえて いる。
 シオ が みちて きだした ので、 ワタシタチ は この カワラ を たちのいて、 ドテ の ほう へ うつって いった。 ヒ は とっぷり くれた が、 「ミズ を くれ、 ミズ を くれ」 と くるいまわる コエ が あちこち で きこえ、 カワラ に とりのこされて いる ヒトビト の サワギ は だんだん はげしく なって くる よう で あった。 この ドテ の ウエ は カゼ が あって、 ねむる には すこし ひえびえ して いた。 すぐ ムコウ は ニギツ コウエン で ある が、 そこ も イマ は ヤミ に とざされ、 キ の おれた スガタ が かすか に みえる だけ で あった。 アニ たち は ツチ の クボミ に よこたわり、 ワタシ も ベツ に クボチ を みつけて、 そこ へ はいって いった。 すぐ ソバ には きずついた ジョガクセイ が 3~4 ニン オウガ して いた。
「ムコウ の コダチ が もえだした が にげた ほう が いい の では ない かしら」 と ダレ か が シンパイ する。 クボチ を でて ムコウ を みる と、 2~3 チョウ サキ の キ に ホノオ が きらきら して いた が、 こちら へ もえうつって きそう な ケハイ も なかった。
「ヒ は もえて きそう です か」 と きずついた ショウジョ は おびえながら ワタシ に きく。
「だいじょうぶ だ」 と おしえて やる と、 「イマ、 ナンジ-ゴロ でしょう、 まだ 12 ジ には なりません か」 と また きく。
 その とき、 ケイカイ ケイホウ が でた。 どこ か に まだ こわれなかった サイレン が ある と みえて、 かすか に その ヒビキ が する。 マチ の ほう は まだ さかん に もえて いる らしく、 ぼうと した アカリ が カワシモ の ほう に みえる。
「ああ、 はやく アサ に ならない の かなあ」 と ジョガクセイ は なげく。
「オカアサン、 オトウサン」 と かすか に しずか な コエ で ガッショウ して いる。
「ヒ は こちら へ もえて きそう です か」 と きずついた ショウジョ が また ワタシ に たずねる。
 カワラ の ほう では、 ダレ か よほど ゲンキ な ワカモノ らしい モノ の、 ダンマツマ の ウメキゴエ が する。 その コエ は ハッポウ に こだまし、 はしりまわって いる。 「ミズ を、 ミズ を、 ミズ を ください、 ……ああ、 ……オカアサン、 ……ネエサン、 ……ヒカル ちゃん」 と コエ は ゼンシン ゼンレイ を ひきさく よう に ほとばしり、 「うう、 うう」 と クツウ に おいまくられる アエギ が よわよわしく それ に からんで いる。 ――おさない ヒ、 ワタシ は この ツツミ を とおって、 その カワラ に サカナ を とり に きた こと が ある。 その あつい ヒ の イチニチ の キオク は フシギ に はっきり と のこって いる。 スナハラ には ライオン ハミガキ の おおきな タテカンバン が あり、 テッキョウ の ほう を ときどき、 キシャ が ごう と とおって いった。 ユメ の よう に ヘイワ な ケシキ が あった もの だ。

 ヨ が あける と サクヤ の コエ は やんで いた。 あの ハラワタ を しぼる ダンマツマ の コエ は まだ ミミソコ に のこって いる よう でも あった が、 アタリ は しらじら と アサ の カゼ が ながれて いた。 チョウケイ と イモウト とは イエ の ヤケアト の ほう へ まわり、 ヒガシ レンペイジョウ に セリョウジョ が ある と いう ので、 ジケイ たち は そちら へ でかけた。 ワタシ も そろそろ、 ヒガシ レンペイジョウ の ほう へ ゆこう と する と、 ソバ に いた ヘイタイ が ドウコウ を たのんだ。 その おおきな ヘイタイ は、 よほど ひどく きずついて いる の だろう、 ワタシ の カタ に よりかかりながら、 まるで コワレモノ を はこんで いる よう に、 おずおず と ジブン の アシ を すすめて ゆく。 それに アシモト は、 ハヘン と いわず シカバネ と いわず まだ ヨネツ を くすぶらして いて、 おそろしく ケンアク で あった。 トキワバシ まで くる と、 ヘイタイ は つかれはて、 もう イッポ も あるけない から オキザリ に して くれ と いう。 そこで ワタシ は カレ と わかれ、 ヒトリ で ニギツ コウエン の ほう へ すすんだ。 ところどころ くずれた まま で やけのこって いる カオク も あった が、 いたる ところ、 ヒカリ の ツメアト が しるされて いる よう で あった。 とある アキチ に ヒト が あつまって いた。 スイドウ が ちょろちょろ でて いる の で あった。 ふと その とき、 メイ が トウショウグウ の ヒナンジョ で ホゴ されて いる と いう こと を、 ワタシ は コミミ に はさんだ。
 いそいで、 トウショウグウ の ケイダイ へ いって みた。 すると、 イマ、 ちいさな メイ は ハハオヤ と タイメン して いる ところ で あった。 キノウ、 ハシ の ところ で ジョチュウ と はぐれ、 それから アト は ヨソ の ヒト に ついて にげて いった の で ある が、 カノジョ は ハハオヤ の スガタ を みる と、 キュウ に たえられなく なった よう に なきだした。 その クビ が ヤケド で くろく いたそう で あった。
 セリョウジョ は トウショウグウ の トリイ の シタ の ほう に もうけられて いた。 はじめ ジュンサ が ひととおり ゲンセキ ネンレイ など を とりしらべ、 それ を キニュウ した シヘン を もろうて から も、 フショウシャ たち は ながい ギョウレツ を くんだ まま エンテン の シタ に まだ 1 ジカン ぐらい は またされて いる の で あった。 だが、 この ギョウレツ に くわわれる フショウシャ なら まだ ケッコウ な ほう かも しれない の だった。 イマ も、 「ヘイタイ さん、 ヘイタイ さん、 たすけて よう、 ヘイタイ さん」 と ヒ の ついた よう に なきわめく コエ が する。 ロボウ に たおれて ハンテン する ヤケド の ムスメ で あった。 か と おもう と、 ケイボウダン の フクソウ を した オトコ が、 ヤケド で ボウチョウ した アタマ を イシ の ウエ に よこたえた まま、 マックロ の クチ を あけて、 「ダレ か ワタシ を たすけて ください、 ああ カンゴフ さん、 センセイ」 と よわい コエ で きれぎれ に うったえて いる の で ある。 が、 ダレ も かえりみて は くれない の で あった。 ジュンサ も イシャ も カンゴフ も、 ミナ ホカ の トシ から オウエン に きた モノ ばかり で、 その カズ も かぎられて いた。
 ワタシ は ジケイ の イエ の ジョチュウ に つきそって ギョウレツ に くわわって いた が、 この ジョチュウ も、 イマ は だんだん ひどく ふくれあがって、 どうか する と ジメン に うずくまりたがった。 ようやく ジュンバン が きて カリョウ が すむ と、 ワタシタチ は これから いこう バショ を つくらねば ならなかった。 ケイダイ いたる ところ に ジュウショウシャ は ごろごろ して いる が、 テント も コカゲ も みあたらない。 そこで、 イシガケ に うすい ザイモク を ならべ、 それ で ヤネ の カワリ と し、 その シタ へ ワタシタチ は はいりこんだ。 この せまくるしい バショ で、 24 ジカン あまり、 ワタシタチ 6 メイ は くらした の で あった。
 すぐ トナリ にも おなじ よう な カッコウ の バショ が もうけて あった が、 その ムシロ の ウエ に ひょこひょこ うごいて いる オトコ が、 ワタシ の ほう へ コエ を かけた。 シャツ も ウワギ も なかった し、 ナガズボン が カタアシ ブン だけ コシ の アタリ に のこされて いて、 リョウテ、 リョウアシ、 カオ を やられて いた。 この オトコ は、 チュウゴク ビル の 7 カイ で バクダン に あった の だ そう だ が、 そんな スガタ に なりはてて も、 すこぶる キジョウブ なの だろう、 クチ で ヒト に たのみ、 クチ で ヒト を つかい とうとう ここ まで おちのびて きた の で ある。 そこ へ イマ、 マンシン チマミレ の、 カンブ コウホセイ の バンド を した セイネン が まよいこんで きた。 すると、 トナリ の オトコ は きっと なって、
「おい、 おい、 どいて くれ、 オレ の カラダ は めちゃくちゃ に なって いる の だ から、 さわり でも したら ショウチ しない ぞ、 いくらでも バショ は ある のに、 わざわざ こんな せまい ところ へ やって こなくて も いい じゃ ない か、 え、 とっとと さって くれ」 と うなる よう に おっかぶせて いった。 チマミレ の セイネン は きょとん と して コシ を あげた。
 ワタシタチ の ねころんで いる バショ から 2 メートル あまり の チテン に、 ハ の あまり ない サクラ の キ が あった が、 その シタ に ジョガクセイ が フタリ ごろり と よこたわって いた。 どちら も、 カオ を クロコゲ に して いて、 やせた セ を エンテン に さらし、 ミズ を もとめて は うめいて いる。 この キンペン へ イモホリ サギョウ に きて ソウナン した ジョシ ショウギョウ の ガクト で あった。 そこ へ また、 クンセイ の カオ を した、 モンペスガタ の フジン が やって くる と、 ハンドバッグ を シタ に おき ぐったり と ヒザ を のばした。 ……ヒ は すでに くれかかって いた。 ここ で また ヨル を むかえる の か と おもう と ワタシ は ミョウ に わびしかった。

 ヨアケマエ から ネンブツ の コエ が しきり に して いた。 ここ では ダレ か が、 たえず しんで ゆく らしかった。 アサ の ヒ が たかく なった コロ、 ジョシ ショウギョウ の セイト も、 フタリ とも イキ を ひきとった。 ミゾ に ウツブセ に なって いる シガイ を しらべおえた ジュンサ が、 モンペスガタ の フジン の ほう へ ちかづいて きた。 これ も シセイ を くずして イマ は こときれて いる らしかった。 ジュンサ が ハンドバッグ を ひらいて みる と、 ツウチョウ や コウサイ が でて きた。 リョソウ の まま、 ソウナン した フジン で ある こと が わかった。
 ヒルゴロ に なる と、 クウシュウ ケイホウ が でて、 バクオン も きこえる。 アタリ の ヒサン シュウカイサ にも だいぶ ならされて いる ものの、 ヒロウ と クウフク は だんだん はげしく なって いった。 ジケイ の イエ の チョウナン と スエ の ムスコ は、 フタリ とも シナイ の ガッコウ へ いって いた ので、 まだ、 どう なって いる か わからない の で あった。 ヒト は つぎつぎ に しんで ゆき、 シガイ は そのまま ほうって ある。 スクイ の ない キモチ で ヒト は そわそわ あるいて いる。 それなのに、 レンペイジョウ の ほう では、 イマ やけに りゅうりょう と して ラッパ が スイソウ されて いた。
 ヤケド した メイ たち は ひどく なきわめく し、 ジョチュウ は しきり に ミズ を くれ と うったえる。 いいかげん、 ミンナ ほとほと よわって いる ところ へ、 チョウケイ が もどって きた。 カレ は キノウ は アニヨメ の ソカイサキ で ある ハツカイチ チョウ の ほう へ より、 キョウ は ヤハタ ムラ の ほう へ コウショウ して ニバシャ を やとって きた の で ある。 そこで その バシャ に のって ワタシタチ は ここ を ひきあげる こと に なった。

 バシャ は ジケイ の ヒト-カゾク と ワタシ と イモウト を のせて、 トウショウグウ シタ から ニギツ へ でた。 バシャ が ハクシマ から センテイ イリグチ の ほう へ きかかった とき の こと で ある。 ニシ レンペイジョウ-ヨリ の アキチ に、 ミオボエ の ある、 キイロ の、 ハンズボン の シタイ を、 ジケイ は ちらり と みつけた。 そして カレ は バシャ を おりて いった。 アニヨメ も ワタシ も つづいて バシャ を はなれ、 そこ へ あつまった。 ミオボエ の ある ズボン に、 マギレ も ない バンド を しめて いる。 シタイ は オイ の フミヒコ で あった。 ウワギ は なく、 ムネ の アタリ に コブシダイ の ハレモノ が あり、 そこ から エキタイ が ながれて いる。 まっくろく なった カオ に、 しろい ハ が かすか に みえ、 なげだした リョウテ の ユビ は かたく、 ウチガワ に にぎりしめ、 ツメ が くいこんで いた。 その ソバ に チュウガクセイ の シタイ が ヒトツ、 それから また はなれた ところ に、 わかい オンナ の シタイ が ヒトツ、 いずれ も、 ある シセイ の まま コウチョク して いた。 ジケイ は フミヒコ の ツメ を はぎ、 バンド を カタミ に とり、 ナフダ を つけて、 そこ を たちさった。 ナミダ も かわきはてた ソウグウ で あった。

 バシャ は それから コクタイジ の ほう へ で、 スミヨシバシ を こして コイ の ほう へ でた ので、 ワタシ は ほとんど メヌキ の ヤケアト を イチラン する こと が できた。 ぎらぎら と エンテン の シタ に よこたわって いる ギンイロ の キョム の ヒロガリ の ナカ に、 ミチ が あり、 カワ が あり、 ハシ が あった。 そして、 アカムケ の ふくれあがった シタイ が トコロドコロ に ハイチ されて いた。 これ は セイミツ コウチ な ホウホウ で ジツゲン された シン ジゴク に ちがいなく、 ここ では すべて ニンゲンテキ な もの は マッサツ され、 たとえば シタイ の ヒョウジョウ に した ところ で、 ナニ か モケイ-テキ な キカイテキ な もの に おきかえられて いる の で あった。 クモン の イッシュン あがいて コウチョク した らしい シタイ は イッシュ の あやしい リズム を ふくんで いる。 デンセン の みだれおちた セン や、 おびただしい ハヘン で、 キョム の ナカ に ケイレンテキ の ズアン が かんじられる。 だが、 さっと テンプク して やけて しまった らしい デンシャ や、 キョダイ な ドウ を なげだして テントウ して いる ウマ を みる と、 どうも、 チョウゲンジツ-ハ の エ の セカイ では ない か と おもえる の で ある。 コクタイジ の おおきな クスノキ も ねこそぎ テンプク して いた し、 ハカイシ も ちって いた。 ガイカク だけ のこって いる アサノ トショカン は シタイ シュウヨウジョ と なって いた。 ミチ は まだ トコロドコロ で けむり、 シシュウ に みちて いる。 カワ を こす たび に、 ハシ が おちて いない の を イガイ に おもった。 この ヘン の インショウ は、 どうも カタカナ で かきなぐる ほう が ふさわしい よう だ。 それで ツギ に、 そんな イッセツ を ソウニュウ して おく。

  ぎらぎら の ハヘン や
  カイハクショク の モエガラ が
  ひろびろ と した、 パノラマ の よう に
  あかく やけただれた、 ニンゲン の シタイ の キミョウ な リズム
  すべて あった こと か、 ありえた こと なの か
  ぱっと はぎとって しまった、 アト の セカイ
  テンプク した デンシャ の ワキ の
  ウマ の ドウ なんか の、 フクラミカタ は
  ぶすぶす と けむる デンセン の ニオイ

 トウカイ の アト の はてしなく つづく ミチ を バシャ は すすんで いった。 コウガイ に でて も くずれて いる カオク が ならんで いた が、 クサツ を すぎる と ようやく アタリ も あおあお と して サイカ の イロ から カイホウ されて いた。 そして アオタ の ウエ を すいすい と トンボ の ムレ が とんで ゆく の が メ に しみた。 それから ヤハタ ムラ まで の ながい タンチョウ な ミチ が あった。 ヤハタ ムラ へ ついた の は、 ヒ も とっぷり くれた コロ で あった。 そして ヨクジツ から、 その トチ での、 ヒサン な セイカツ が はじまった。 フショウシャ の カイフク も はかどらなかった が、 ゲンキ だった モノ も、 ショクリョウ-ブソク から だんだん スイジャク して いった。 ヤケド した ジョチュウ の ウデ は ひどく カノウ し、 ハエ が むれて、 とうとう ウジ が わく よう に なった。 ウジ は いくら ショウドク して も、 アト から アト から わいた。 そして、 カノジョ は 1 カゲツ あまり の ノチ、 しんで いった。

 この ムラ へ うつって 4~5 ニチ-メ に、 ユクエ フメイ で あった チュウガクセイ の オイ が かえって きた。 カレ は あの アサ、 タテモノ ソカイ の ため ガッコウ へ いった が ちょうど、 キョウシツ に いた とき ヒカリ を みた。 シュンカン、 ツクエ の シタ に ミ を ふせ、 ついで テンジョウ が おちて うもれた が、 スキマ を みつけて はいだした。 はいだして にげのびた セイト は 4~5 メイ に すぎず、 ホカ は ゼンブ、 サイショ の イチゲキ で ダメ に なって いた。 カレ は 4~5 メイ と イッショ に ヒジヤマ に にげ、 トチュウ で しろい エキタイ を はいた。 それから イッショ に にげた ユウジン の ところ へ キシャ で ゆき、 そこ で セワ に なって いた の だ そう だ。 しかし、 この オイ も こちら へ かえって きて、 1 シュウカン あまり する と、 トウハツ が ぬけだし、 フツカ ぐらい で すっかり ハゲ に なって しまった。 コンド の ソウナンシャ で、 トウハツ が ぬけ ハナヂ が でだす と たいがい たすからない、 と いう セツ が その コロ だいぶ ひろまって いた。 トウハツ が ぬけて から 12~13 ニチ-メ に、 オイ は とうとう ハナヂ を だしだした。 イシャ は その ヨル が すでに あぶなかろう と センコク して いた。 しかし、 カレ は ジュウタイ の まま だんだん もちこたえて ゆく の で あった。

 N は ソカイ コウジョウ の ほう へ はじめて キシャ で でかけて ゆく トチュウ、 ちょうど キシャ が トンネル に はいった とき、 あの ショウゲキ を うけた。 トンネル を でて、 ヒロシマ の ほう を みる と、 ラッカサン が ミッツ、 ゆるく ながれて ゆく の で あった。 それから ツギ の エキ に キシャ が つく と、 エキ の ガラスマド が ひどく こわれて いる の に おどろいた。 やがて、 モクテキチ まで たっした とき には、 すでに くわしい ジョウホウ が つたわって いた。 カレ は その アシ で すぐ ひきかえす よう に して キシャ に のった。 すれちがう レッシャ は みな キカイ な ジュウショウシャ を マンサイ して いた。 カレ は マチ の カサイ が しずまる の を まちかねて、 まだ あつい アスファルト の ウエ を ずんずん すすんで いった。 そして イチバン に ツマ の つとめて いる ジョガッコウ へ いった。 キョウシツ の ヤケアト には、 セイト の ホネ が あり、 コウチョウシツ の アト には コウチョウ らしい ハッコツ が あった。 が、 N の ツマ らしい もの は ついに みいだせなかった。 カレ は オオイソギ で ジタク の ほう へ ひきかえして みた。 そこ は ウジナ の チカク で イエ が くずれた だけ で カサイ は まぬがれて いた。 が、 そこ にも ツマ の スガタ は みつからなかった。 それから コンド は ジタク から ジョガッコウ へ つうじる ミチ に たおれて いる シタイ を ヒトツヒトツ しらべて みた。 タイガイ の シタイ が ウツブセ に なって いる ので、 それ を だきおこして は クビジッケン する の で あった が、 どの オンナ も どの オンナ も かわりはてた ソウ を して いた が、 しかし カレ の ツマ では なかった。 シマイ には ホウガク チガイ の ところ まで、 ふらふら と みて まわった。 スイソウ の ナカ に おりかさなって つかって いる トオ あまり の シタイ も あった。 カシ に かかって いる ハシゴ に テ を かけながら、 そのまま コウチョク して いる ミッツ の シガイ が あった。 バス を まつ ギョウレツ の シガイ は たった まま、 マエ の ヒト の カタ に ツメ を たてて しんで いた。 グンブ から カオク ソカイ の キンロウ ホウシ に ドウイン されて、 ゼンメツ して いる ムレ も みた。 ニシ レンペイジョウ の モノスゴサ と いったら なかった。 そこ は ヘイタイ の シ の ヤマ で あった。 しかし、 どこ にも ツマ の シガイ は なかった。
 N は いたる ところ の シュウヨウジョ を たずねまわって、 ジュウショウシャ の カオ を のぞきこんだ。 どの カオ も ヒサン の キワミ では あった が、 カレ の ツマ の カオ では なかった。 そうして、 ミッカ ミバン、 シタイ と ヤケド カンジャ を うんざり する ほど みて すごした アゲク、 N は サイゴ に また ツマ の ツトメサキ で ある ジョガッコウ の ヤケアト を おとずれた。
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ハイキョ から

2017-08-07 | ハラ タミキ
 ハイキョ から

 ハラ タミキ

 ヤハタ ムラ へ うつった トウショ、 ワタシ は まだ ゲンキ で、 フショウシャ を クルマ に のせて ビョウイン へ つれて いったり、 ハイキュウモノ を ウケトリ に であるいたり、 ハツカイチ チョウ の チョウケイ と レンラク を とったり して いた。 そこ は ノウカ の ハナレ を ジケイ が かりた の だった が、 ワタシ と イモウト とは ヒナンサキ から つい ミナ と イッショ に ころがりこんだ カタチ で あった。 ウシゴヤ の ハエ は エンリョ なく ヘヤジュウ に むれて きた。 ちいさな メイ の クビ の ヤケド に ハエ は すいついた まま うごかない。 メイ は ハシ を なげだして ヒ の ついた よう に なきわめく。 ハエ を ふせぐ ため に ヒルマ でも カヤ が つられた。 カオ と セ を ヤケド して いる ジケイ は インウツ な カオ を して カヤ の ナカ に ねころんで いた。 ニワ を へだてて オモヤ の ほう の エンガワ に、 ひどく カオ の はれあがった オトコ の スガタ ――そんな ふう な カオ は もう みあきる ほど みせられた―― が うかがわれた し、 オク の ほう には もっと ジュウショウシャ が いる らしく、 トコ が のべて あった。 ユウガタ、 その ヘン から ミョウ な ウワゴト を いう コエ が きこえて きた。 あれ は もう しぬる な、 と ワタシ は おもった。 それから まもなく、 もう ネンブツ の コエ が して いる の で あった。 なくなった の は、 そこ の イエ の チョウジョ の ハイグウ で、 ヒロシマ で ソウナン し あるいて ここ まで もどって きた の だ が、 トコ に ついて から ヤケド の カワ を ムイシキ に ひっかく と、 たちまち ノウショウ を おこした の だ そう だ。
 ビョウイン は いつ いって も フショウシャ で たてこんで いた。 3 ニン-ガカリ で はこばれて くる、 ゼンシン ガラス の ハヘン で ひきさかれて いる チュウネン の フジン、 ――その フジン の テアテ には 1 ジカン も ヒマ が かかる ので、 ワタシタチ は ヒルスギ まで またされる の で あった。―― テオシグルマ で はこばれて くる、 ロウジン の ジュウショウシャ、 カオ と テ を ヤケド して いる チュウガクセイ、 ――カレ は ヒガシ レンペイジョウ で ソウナン した の だ そう だ。―― など、 いつも でくわす カオ が あった。 ちいさな メイ は ガーゼ を とりかえられる とき、 キョウキ の よう に なきわめく。
「いたい、 いたい よ、 ヨウカン を おくれ」
「ヨウカン を くれ とは こまる な」 と イシャ は クショウ した。 シンサツシツ の トナリ の ザシキ の ほう には、 そこ にも イシャ の ミウチ の ソウナンシャ が かつぎこまれて いる と みえて、 あやしげ な ダンマツマ の ウメキ を はなって いた。 フショウシャ を はこぶ トジョウ でも クウシュウ ケイホウ は ひんぴん と でた し、 ズジョウ を ゆく バクオン も して いた。 その ヒ も、 ワタシ の ところ の ジュンバン は なかなか やって こない ので、 クルマ を ビョウイン の ゲンカンサキ に はなった まま、 ワタシ は ひとまず イエ へ かえって やすもう と おもった。 ダイドコロ に いた イモウト が もどって きた ワタシ の スガタ を みる と、
「サッキ から 『キミガヨ』 が して いる の だ が、 どうした の かしら」 と フシギ そう に たずねる の で あった。 ワタシ は はっと して、 オモヤ の ほう の ラジオ の ソバ へ つかつか と ちかづいて いった。 ホウソウ の コエ は メイカク には ききとれなかった が、 キュウセン と いう コトバ は もう うたがえなかった。 ワタシ は じっと して いられない ショウドウ の まま、 ふたたび ソト へ でて、 ビョウイン の ほう へ でかけた。 ビョウイン の ゲンカンサキ には ジケイ が まだ ぼうぜん と またされて いた。 ワタシ は その スガタ を みる と、
「おしかった ね、 センソウ は おわった のに……」 と コエ を かけた。 もうすこし はやく センソウ が おわって くれたら―― この コトバ は、 ソノゴ ミンナ で くりかえされた。 カレ は スエ の ムスコ を うしなって いた し、 ここ へ ソカイ する つもり で ジュンビ して いた ニモツ も すっかり やかれて いた の だった。
 ワタシ は ユウガタ、 アオタ の ナカ の ミチ を よこぎって、 ヤハタガワ の ツツミ の ほう へ おりて いった。 あさい ナガレ の オガワ で あった が、 ミズ は すんで いて、 イワ の ウエ には クロトンボ が ハネ を やすめて いた。 ワタシ は シャツ の まま ミズ に ひたる と、 おおきな イキ を ついた。 アタマ を めぐらせば、 ひくい サンミャク が しずか に タソガレ の イロ を キュウシュウ して いる し、 トオク の ヤマ の イタダキ は ヒ の ヒカリ に いられて きらきら と かがやいて いる。 これ は まるで ウソ の よう な ケシキ で あった。 もう クウシュウ の オソレ も なかった し、 イマ こそ オオゾラ は ふかい セイヒツ を たたえて いる の だ。 ふと、 ワタシ は あの ゲンシ バクダン の イチゲキ から この チジョウ に あたらしく ツイラク して きた ニンゲン の よう な キモチ が する の で あった。 それにしても、 あの ヒ、 ニギツ の カワラ や、 センテイ の カワギシ で しにくるって いた ニンゲン たち は、 ――この しずか な ナガメ に ひきかえて、 あの ヤケアト は いったい イマ どう なって いる の だろう。 シンブン に よれば、 75 ネン-カン は シ の チュウオウ には キョジュウ できない と ほうじて いる し、 ヒト の ハナシ では まだ セイリ の つかない シガイ が 1 マン も あって、 ヨゴト ヤケアト には ヒトダマ が もえて いる と いう。 カワ の サカナ も あの アト 2~3 ニチ して シガイ を うかべて いた が、 それ を とって くった ニンゲン は まもなく しんで しまった と いう。 あの とき、 ゲンキ で ワタシタチ の ソバ に スガタ を みせて いた ヒトタチ も、 ソノゴ ハイケツショウ で たおれて ゆく し、 ナニ か まだ、 さん と して わりきれない フアン が つきまとう の で あった。

 ショクリョウ は ヒビ に キュウボウ して いた。 ここ では、 リサイシャ に たいして なんの あたたかい テ も さしのべられなかった。 マイニチ マイニチ、 かすか な カユ を すすって くらさねば ならなかった ので、 ワタシ は だんだん セイコン が つきて ショクゴ は むしょうに ねむく なった。 2 カイ から みわたせば、 ひくい サンミャク の フモト から ずっと ここ まで イナダ は つづいて いる。 あおく のびた イネ は エンテン に そよいで いる の だ。 あれ は チ の カテ で あろう か、 それとも ニンゲン を うえさす ため の もの で あろう か。 ソラ も ヤマ も あおい タ も、 うえて いる モノ の メ には むなしく うつった。
 ヨル は トモシビ が ヤマ の フモト から タ の あちこち に みえだした。 ヒサシブリ に みる トモシビ は やさしく、 タビサキ に でも いる よう な カンジ が した。 ショクジ の アトカタヅケ を すます と、 イモウト は くたくた に つかれて 2 カイ へ のぼって くる。 カノジョ は まだ あの とき の アクム から さめきらない もの の よう に、 こまごま と あの シュンカン の こと を カイソウ して は、 ぶるぶる と ミブルイ を する の で あった。 あの すこし マエ、 カノジョ は ドゾウ へ いって ニモツ を セイリ しよう か と おもって いた の だ が、 もし ドゾウ に はいって いたら、 おそらく たすからなかった だろう。 ワタシ も グウゼン に たすかった の だ が、 ワタシ が ソウナン した ところ と カキ ヒトエ へだてて リンカ の 2 カイ に いた セイネン は ソクシ して いる の で あった。 ――イマ も カノジョ は キンジョ の コドモ で カオク の シタジキ に なって いた スガタ を まざまざ と おもいうかべて おののく の で あった。 それ は イモウト の コドモ と ドウキュウ の コドモ で、 マエ には シュウダン ソカイ に くわわって イナカ に いって いた の だ が、 そこ の セイカツ に どうしても なじめない ので リョウシン の モト へ ひきとられて いた。 いつも イモウト は その コドモ が ロジョウ で あそんで いる の を みる と、 ジブン の ムスコ も しばらく で いい から よびもどしたい と おもう の で あった。 ヒノテ が みえだした とき、 イモウト は その コドモ が ザイモク の シタジキ に なり、 クビ を もちあげながら、 「オバサン、 たすけて」 と アイガン する の を みた。 しかし、 あの サイ カノジョ の チカラ では どう する こと も できなかった の だ。
 こういう ハナシ なら イクツ も ころがって いた。 チョウケイ も あの とき、 カオク の シタジキ から ミ を はいだして たちあがる と、 ドウロ を へだてて ムコウ の イエ の バアサン が シタジキ に なって いる カオ を みとめた。 シュンカン、 それ を たすけ に ゆこう とは おもった が、 コウジョウ の ほう で なきわめく ガクト の コエ を ふりきる わけ には ゆかなかった。
 もっと いたましい の は アニヨメ の ミウチ で あった。 マキ シ の イエ は オオテマチ の カワ に のぞんだ カンセイ な スマイ で、 ワタシ も この ハル ヒロシマ へ もどって くる と イチド アイサツ に いった こと が ある。 オオテマチ は ゲンシ バクダン の チュウシン と いって も よかった。 ダイドコロ で スクイ を もとめて いる フジン の コエ を ききながら も、 マキ シ は ミヒトツ で とびださねば ならなかった の だ。 マキ シ の チョウジョ は ヒナンサキ で ブンベン する と、 キュウ に ヘンチョウ を きたし、 ユケツ の ハリアト から カノウ して ついに たすからなかった。 ナガレカワ-チョウ の マキ シ も、 これ は シュジン は シュッセイチュウ で フザイ だった が、 フジン と コドモ の ユクエ が わからなかった。
 ワタシ が ヒロシマ で くらした の は ハントシ-たらず で カオミシリ も すくなかった が、 アニヨメ や イモウト など は、 キンジョ の ダレカレ の ソノゴ の ショウソク を たえず どこ か から よせあつめて、 イッキ イチユウ して いた。
 コウジョウ では ガクト が 3 メイ しんで いた。 2 カイ が その 3 ニン の ウエ に ツイラク して きた らしく、 3 ニン が クビ を そろえて、 シャシン か ナニ か に みいって いる シセイ で、 ハッコツ が のこされて いた と いう。 わずか の メジルシ で、 それら の セイメイ も ハンメイ して いた。 が、 T センセイ の ショウソク は フメイ で あった。 センセイ は その アサ まだ コウジョウ には スガタ を あらわして いなかった。 しかし、 センセイ の イエ は サイクマチ の オテラ で、 ジタク に いた に しろ、 トジョウ だった に しろ、 おそらく たすかって は いそう に なかった。
 その センセイ の セイソ な スガタ は まだ ワタシ の メサキ に はっきり と えがかれた。 ヨウケン が あって、 センセイ の ところ へ ゆく と、 カノジョ は かすか に コンラン して いる よう な カオ で、 ランボウ な ジ を かいて ワタシ に わたした。 コウジョウ の 2 カイ で、 ワタシ は ガクト に ヒルヤスミ の ジカン エイゴ を おしえて いた が、 しだいに ケイホウ は ヒンパン に なって いた。 バクオン が して ヒロシマ ジョウクウ に キエイ を みとめる と ラジオ は ホウコク して いながら、 クウシュウ ケイホウ も はっせられない こと が あった。 「どう します か」 と ワタシ は センセイ に たずねた。 「キケン そう でしたら おしらせ します から、 それまで は ジュギョウ して いて ください」 と センセイ は いった。 だが、 ハクチュウ ヒロシマ ジョウクウ を センカイチュウ と いう ジタイ は もう ヨウイ ならぬ こと では あった。 ある ヒ、 ワタシ が ジュギョウ を おえて、 2 カイ から おりて くる と、 センセイ は がらん と した コウジョウ の スミ に ヒトリ こしかけて いた。 その ソバ で ナニ か しきり に ナキゴエ が した。 ボール-バコ を のぞく と、 ヒナ が いっぱい うごめいて いた。 「どうした の です」 と たずねる と、 「セイト が もって きた の です」 と センセイ は にっこり わらった。
 オンナ の コ は ときどき、 ハナ など もって くる こと が あった。 ジムシツ の ツクエ にも いけられた し、 センセイ の タクジョウ にも おかれた。 コウジョウ が ひけて セイト たち が ぞろぞろ オモテ の ほう へ ひきあげ、 ロジョウ に セイレツ する と、 T センセイ は いつも すこし はなれた ところ から カントク して いた。 センセイ の テ には ハナ の ツツミ が あり、 ミダシナミ の いい、 コガラ な スガタ は りん と した もの が あった。 もし カノジョ が トチュウ で ソウナン して いる と すれば、 あの タクサン の ジュウショウシャ の カオ と おなじ よう に、 おもって も、 ぞっと する よう な スガタ に かわりはてた こと だろう。
 ワタシ は ガクト や コウイン の テイキケン の こと で、 よく トウア コウツウ コウシャ へ いった が、 この ハル から タテモノ ソカイ の ため コウツウ コウシャ は すでに 2 ド も イテン して いた。 サイゴ の イテン した バショ も あの サンカ の チュウシン に あった。 そこ には ワタシ の カオ を みおぼえて しまった イロ の あさぐろい、 シタタラズ で モノ を いう、 しかし、 かしこそう な ショウジョ が いた。 カノジョ も おそらく たすかって は いない で あろう。 センショウ ホケン の こと で、 よく ジムシツ に スガタ を あらわして いた、 70-スギ の ロウジン が あった。 この ロウジン は ハツカイチ チョウ に いる アニ が、 ソノゴ ゲンキ そう な スガタ を みかけた と いう こと で あった。

 どうか する と、 ワタシ の ミミ は なんでも ない ヒトゴエ に おどかされる こと が あった。 ウシゴヤ の ほう で、 ダレ か が トンキョウ な ワメキ を はっして いる、 と、 すぐ その ワメキゴエ が あの ヨル カワラ で ゴウキュウ して いる ダンマツマ の コエ を レンソウ させた。 ハラワタ を しぼる よう な コエ と、 トンキョウ な ジョウダン の コエ は、 まるで カミヒトエ の ところ に ある よう で あった。 ワタシ は ヒダリガワ の メ の スミ に イジョウ な ゲンショウ の しょうずる の を イシキ する よう に なった。 ここ へ うつって から、 4~5 ニチ-メ の こと だ が、 ヒザカリ の ミチ を あるいて いる と ヒダリ の メ の スミ に ハムシ か ナニ か、 ふわり と ひかる もの を かんじた。 コウセン の ハンシャ か と おもった が、 ヒカゲ を あるいて いって も、 ときどき ひかる もの は メ に えいじた。 それから ユウグレ に なって も、 ヨル に なって も、 どうか する たび に ひかる もの が ちらついた。 これ は あまり おびただしい ホノオ を みた せい で あろう か、 それとも ズジョウ に イチゲキ を うけた ため で あろう か。 あの アサ、 ワタシ は ベンジョ に いた ので、 ミナ が みた と いう コウセン は みなかった し、 いきなり アンコク が すべりおち、 アタマ を ナニ か で なぐりつけられた の だ。 ヒダリガワ の マブタ の ウエ に シュッケツ が あった が、 ほとんど ムキズ と いって いい くらい、 ケガ は かるかった。 あの とき の キョウガク が やはり シンケイ に ひびいて いる の で あろう か、 しかし、 キョウガク とも いえない くらい、 あれ は ほんの スウビョウ-カン の デキゴト で あった の だ。

 ワタシ は ひどい ゲリ に なやまされだした。 ユウコク から アレモヨウ に なって いた ソラ が、 ヨル に なる と、 ひどい フウウ と なった。 イナダ の ウエ を とびちる カゼ の ウナリ が、 デントウ の つかない 2 カイ に いて はっきり と きこえる。 イエ が ふきとばされる かも しれない と いう ので、 カイカ に いる ジケイ たち や イモウト は オモヤ の ほう へ ヒナン して いった。 ワタシ は ヒトリ 2 カイ に ねて、 カゼ の オト を うとうと と きいた。 イエ が くずれる まで には、 アマド が とび、 カワラ が ちる だろう、 ミンナ あの イジョウ な タイケン の ため シンケイ カビン に なって いる よう で あった。 ときたま カゼ が ぴったり やむ と、 カエル の ナキゴエ が ミミ に ついた。 それから また おもいきり、 ヒトモミ カゼ は シュウゲキ して くる。 ワタシ も マンイチ の とき の こと を ねた まま かんがえて みた。 もって にげる もの と いったら、 すぐ ソバ に ある カバン ぐらい で あった。 カイカ の ベンジョ に ゆく たび に ソラ を ながめる と、 マックラ な ソラ は なかなか しらみそう に ない。 ぱりぱり と ナニ か さける オト が した。 テンジョウ の ほう から ざらざら の スナ が おちて きた。
 ヨクアサ、 カゼ は ぴったり やんだ が、 ワタシ の ゲリ は ヨウイ に とまらなかった。 コシ の ほう の チカラ が ぬけ、 アシモト は よろよろ と した。 タテモノ ソカイ に いって ソウナン した のに、 キセキテキ に イノチビロイ を した チュウガクセイ の オイ は、 ソノゴ モウハツ が すっかり ぬけおち しだいに ゲンキ を うしなって いた。 そして、 シシ には ちいさな ハンテン が できだした。 ワタシ も カラダ を しらべて みる と、 ごく わずか だ が、 ハンテン が あった。 ネン の ため、 とにかく イチド みて もらう ため ビョウイン を おとずれる と、 ニワサキ まで カンジャ が あふれて いた。 オノミチ から ヒロシマ へ ひきあげ、 オオテマチ で ソウナン した と いう フジン が いた。 カミノケ は ぬけて いなかった が、 ケサ から チ の カタマリ が でる と いう。 みごもって いる らしく、 だるそう な カオ に、 そこしれぬ フアン と、 シ の ちかづいて いる キザシ を たたえて いる の で あった。

 フナイリ カワグチ-チョウ に ある アネ の イッカ は たすかって いる と いう シラセ が、 ハツカイチ の アニ から つたわって いた。 ギケイ は この ハル から ビョウガチュウ だし、 とても すくわれまい と ミナ ソウゾウ して いた の だ が、 イエ は くずれて も そこ は カサイ を まぬがれた の だ そう だ。 ムスコ が セキリ で とても イマ くるしんで いる から、 と イモウト に オウエン を もとめて きた。 イモウト も あまり ゲンキ では なかった が、 とにかく ミマイ に ゆく こと に して でかけた。 そして、 ヨクジツ ヒロシマ から かえって きた イモウト は、 デンシャ の ナカ で イガイ にも ニシダ と であった イキサツ を ワタシ に かたった。
 ニシダ は 20 ネン-ライ、 ミセ に やとわれて いる オトコ だ が、 あの アサ は まだ シュッキン して いなかった ので、 トチュウ で コウセン に やられた と すれば、 とても ダメ だろう と おもわれて いた。 イモウト は デンシャ の ナカ で、 カオ の くちゃくちゃ に はれあがった クロコゲ の オトコ を みた。 ジョウキャク の シセン も ミンナ その ほう へ そそがれて いた が、 その オトコ は わりと ヘイキ で シャショウ に ナニ か たずねて いた。 コエ が どうも ニシダ に よく にて いる と おもって、 ちかよって ゆく と、 アイテ も イモウト の スガタ を みとめて オオゴエ で よびかけた。 その ヒ シュウヨウジョ から はじめて でて きた ところ だ と いう こと で あった。 ……ワタシ が ニシダ を みた の は、 それから 1 カゲツ あまり アト の こと で、 その とき は もう カオ の ヤケド も かわいて いた。 ジテンシャ もろとも はねとばされ、 シュウヨウジョ に かつぎこまれて から も、 ニシダ は ひどい シンサン を なめた。 シュウイ の フショウシャ は ほとんど しんで ゆく し、 ニシダ の ミミ には ウジ が わいた。 「ミミ の アナ の ほう へ ウジ が はいろう と する ので、 やりきれません でした」 と カレ は くすぐったそう に クビ を かたむけて かたった。

 9 ガツ に はいる と、 アメ ばかり ふりつづいた。 トウハツ が ぬけ ゲンキ を うしなって いた オイ が ふと ヘンチョウ を きたした。 ハナヂ が ぬけ、 ノド から も チ の カタマリ を ごくごく はいた。 コンヤ が あぶなかろう と いう ので、 ハツカイチ の アニ たち も マクラモト に あつまった。 ツルツル ボウズ の ソウハク の カオ に、 ちいさな シマ の キヌ の キモノ を きせられて、 ぐったり よこたわって いる スガタ は ブンラク か ナニ か の インサン な ニンギョウ の よう で あった。 ビコウ には ワタ の セン が チ に にじんで おり、 センメンキ は はきだす もの で マッカ に そまって いた。 「がんばれ よ」 と、 ジケイ は チカラ の こもった ひくい コエ で はげました。 カレ は ジブン の ヤケド の まだ いえて いない の も わすれて、 ムチュウ で カンゴ する の で あった。 フアン な イチヤ が あける と、 オイ は そのまま キセキテキ に もちこたえて いった。
 オイ と イッショ に にげて たすかって いた キュウユウ の オヤ から、 その トモダチ は シボウ した と いう ツウチ が きた。 アニ が ハツカイチ で みかけた と いう ホケン-ガイシャ の ゲンキ な ロウジン も、 ソノゴ ハグキ から シュッケツ しだし まもなく しんで しまった。 その ロウジン が ソウナン した バショ と ワタシ の いた チテン とは 2 チョウ と はなれて は いなかった。
 しぶとかった ワタシ の ゲリ は ようやく カンワ されて いた が、 カラダ の スイジャク して ゆく こと は どうにも ならなかった。 トウハツ も メ に みえて うすく なった。 すぐ チカク に みえる ひくい ヤマ が すっかり しろい モヤ に つつまれて いて、 イナダ は ざわざわ と ゆれた。
 ワタシ は こんこん と ねむりながら、 トリトメ も ない ユメ を みて いた。 ヨル の アカリ が アメ に ぬれた タノモ へ もれて いる の を みる と しきり に ツマ の リンジュウ を おもいだす の で あった。 ツマ の イッシュウキ も ちかづいて いた が、 どうか する と、 まだ ワタシ は あの すみなれた チバ の シャクヤ で、 カノジョ と イッショ に アメ に とじこめられて くらして いる よう な キモチ が する の で ある。 カイジン に きした ヒロシマ の イエ の アリサマ は、 ワタシ には ほとんど おもいだす こと が なかった。 が、 ヨアケ の ユメ では よく ホウカイ チョクゴ の カオク が あらわれた。 そこ には サンラン しながら も、 いろんな キチョウヒン が あった。 ショモツ も カミ も ツクエ も ハイ に なって しまった の だ が、 ワタシ は ナイシン の コウヨウ を かんじた。 ナニ か かいて ちからいっぱい ぶつかって みたかった。
 ある アサ、 アメ が あがる と、 イッテン の クモ も ない アオゾラ が ひくい ヤマ の ウエ に ひろがって いた が、 ナガアメ に なやまされとおした モノ の メ には、 その アオゾラ は まるで キョギ の よう に おもわれた。 はたして、 カイセイ は 1 ニチ しか もたず、 ヨクジツ から また インサン な アマグモ が キョライ した。 ボウサイ の キョウリ から ギケイ の シボウ ツウチ が ソクタツ で トオカ-メ に とどいた。 カレ は キシャ で ヒロシマ へ ツウキン して いた の だ が、 あの とき は ビショウ だに うけず、 ソノゴ も ゲンキ で カツヤク して いる と いう ツウチ が あった ヤサキ、 この シボウ ツウチ は、 ワタシ を ぼうぜん と させた。
 ナニ か ヒロシマ には まだ ユウガイ な ブッシツ が ある らしく、 イナカ から ゲンキ で でかけて いった ヒト も カエリ には ふらふら に なって もどって くる と いう こと で あった。 フナイリ カワグチ-チョウ の アネ は、 オット と ムスコ の リョウホウ の カンビョウ に ほとほと つかれ、 カノジョ も ねこんで しまった ので、 ふたたび こちら の イモウト に オウエン を もとめて きた。 その イモウト が ヒロシマ へ でかけた ヨクジツ の こと で あった。 ラジオ は ヒルマ から タイフウ を ケイコク して いた が、 ユウグレ と ともに カゼ が つのって きた。 カゼ は ひどい アメ を ともない マックラ な ヨル の ドゴウ と かした。 ワタシ が 2 カイ で うとうと ねむって いる と、 シタ の ほう では けたたましく アマド を あける オト が して、 タ の ほう に ヒトゴエ が しきり で あった。 ざざざ と ミズ の きしる よう な オト が する。 ツツミ が くずれた の で ある。 その うち に ジケイ たち は オモヤ の ほう へ ヒナン する ため、 ワタシ を よびおこした。 まだ アシコシ の たたない オイ を ヤグ の まま かかえて、 くらい ロウカ を つたって、 オモヤ の ほう へ はこんで いった。 そこ には ミンナ おきて いて フアン な オモモチ で あった。 その カワ の ツツミ が くずれる など、 たえて ひさしく なかった こと らしい。
「センソウ に まける と、 こんな こと に なる の でしょう か」 と ノウカ の シュフ は タンソク した。 カゼ は オモヤ の オモテド を はげしく ゆすぶった。 ふとい ツッカイボウ が そこ に ささえられた。
 ヨクアサ、 アラシ は けろり と さって いた。 その タイフウ の さった ホウコウ に イネ の ホ は ことごとく なびき、 ヤマノハ には あかく にごった クモ が ただよって いた。 ――テツドウ が フツウ に なった とか、 ヒロシマ の キョウリョウ が ほとんど ながされた とか いう こと を きいた の は、 それから 2~3 ニチ-ゴ の こと で あった。

 ワタシ は ツマ の イッシュウキ も ちかづいて いた ので、 ホンゴウ チョウ の ほう へ ゆきたい と おもった。 ヒロシマ の テラ は やけて しまった が、 ツマ の キョウリ には、 カノジョ を サイゴ まで みとって くれた ハハ が いる の で あった。 が、 テツドウ は フツウ に なった と いう し、 その ヒガイ の テイド も フメイ で あった。 とにかく ジジョウ を もっと たしかめる ため に ハツカイチ エキ へ いって みた。 エキ の カベ には キョウドウ シンブン が はりだされ、 それ に ヒガイ ジョウキョウ が かいて あった。 レッシャ は イマ の ところ、 オオタケ-アキ ナカノ-カン を オリカエシ ウンテン して いる らしく、 ゼンブ の カイツウ ミコミ は フメイ だ が、 ハチホンマツ-アキ ナカノ-カン の カイツウ ミコミ が 10 ガツ トオカ と なって いる ので、 これ だけ でも ハンツキ は キシャ が つうじない こと に なる。 その シンブン には ケンカ の スイガイ の スウジ も ケイサイ して あった が、 ハンツキ も レッシャ が うごかない など と いう こと は ハテンコウ の こと で あった。
 ヒロシマ まで の キップ が かえた ので、 ふと ワタシ は ヒロシマ エキ へ いって みる こと に した。 あの ソウナン イライ、 ヒサシブリ に おとずれる ところ で あった。 イツカイチ まで は ナニゴト も ない が、 キシャ が コイ エキ に はいる コロ から、 マド の ソト に もう センカ の アト が すこし ずつ テンボウ される。 ヤマ の ケイシャ に マツ の キ が ごろごろ と なぎたおされて いる の も、 あの とき の シンガイ を ものがたって いる よう だ。 ヤネ や カキ が さっと テンプク した イキオイ を そのまま とどめ、 くろぐろ と つづいて いる し、 コンクリート の クウドウ や アカサビ の テッキン が ところどころ いりみだれて いる。 ヨコガワ エキ は わずか に ノリオリ の ホーム を のこして いる だけ で あった。 そして、 キシャ は さらに はげしい カイメツ クイキ に はいって いった。 はじめて ここ を ツウカ する リョカク は ただただ オドロキ の メ を みはる の で あった が、 ワタシ に とって は あの ヒ の ヨジン が まだ すぐ そこ に かんじられる の で あった。 キシャ は テッキョウ に かかり、 トキワバシ が みえて きた。 やけただれた キシ を めぐって、 クロコゲ の キョボク は テン を ひっかこう と して いる し、 ハテシ も ない モエガラ の カタマリ は えんえん と キフク して いる。 ワタシ は あの ヒ、 ここ の カワラ で、 ゲンゴ に ぜっする ニンゲン の クノウ を みせつけられた の だ が、 だが、 イマ、 カワ の ミズ は しずか に すんで ながれて いる の だ。 そして、 ランカン の ふきとばされた ハシ の ウエ を、 いきのびた ヒトビト が イマ ぞろぞろ と あるいて いる。 ニギツ コウエン を すぎて、 ヒガシ レンペイジョウ の ヤケノ が みえ、 こだかい ところ に トウショウグウ の イシ の カイダン が、 ナニ か ぞっと する アクム の ダンペン の よう に ひらめいて みえた。 つぎつぎ に しんで ゆく おびただしい フショウシャ の ナカ に まじって、 ワタシ は あの ケイダイ で ノジュク した の だった。 あの、 マックロ の キオク は ムコウ に みえる イシダン に まざまざ と きざみつけられて ある よう だ。
 ヒロシマ エキ で ゲシャ する と、 ワタシ は ウジナ-ユキ の バス の ギョウレツ に くわわって いた。 ウジナ から キセン で オノミチ へ でれば、 オノミチ から キシャ で ホンゴウ に ゆける の だ が、 キセン が ある もの か どう か も ウジナ まで いって たしかめて みなければ わからない。 この バス は 2 ジカン-オキ に でる のに、 これ に のろう と する ヒト は スウチョウ も つづいて いた。 あつい ヒ が ズジョウ に てり、 ヒカゲ の ない ヒロバ に ヒト の レツ は うごかなかった。 イマ から ウジナ まで いって きた の では、 カエリ の キシャ に まにあわなく なる。 そこで ワタシ は ダンネン して、 ギョウレツ を はなれた。
 イエ の アト を みて こよう と おもって、 ワタシ は エンコウバシ を わたり、 ノボリチョウ の ほう へ マッスグ に ミチ を すすんだ。 サユウ に ある ハイキョ が、 なんだか まだ あの とき の にげのびて ゆく キモチ を よびおこす の だった。 キョウバシ に かかる と、 なにも ない ヤケアト の ツツミ が ヒトメ に みわたせ、 モノ の キョリ が イゼン より はるか に タンシュク されて いる の で あった。 そう いえば るいるい たる ハイキョ の かなた に サンミャク の スガタ が はっきり うかびでて いる の も、 サキホド から きづいて いた。 どこ まで いって も おなじ よう な ヤケアト ながら、 おびただしい ガラスビン が きみわるく のこって いる ところ や、 テツカブト ばかり が ヒトトコロ に ふきよせられて いる ところ も あった。
 ワタシ は ぼんやり と イエ の アト に たたずみ、 あの とき にげて いった ホウガク を かんがえて みた。 ニワイシ や イケ が あざやか に のこって いて、 やけた ジュモク は ほとんど なんの キ で あった か ミワケ も つかない。 ダイドコロ の ナガシバ の タイル は こわれない で のこって いた。 セン は とびちって いた が、 しきり に その テッカン から イマ も ミズ が ながれて いる の だ。 あの とき、 イエ が ホウカイ した チョクゴ、 ワタシ は この ミズ で カオ の チ を あらった の だった。 イマ ワタシ が たたずんで いる ミチ には、 ときおり ヒトドオリ も あった が、 ワタシ は しばらく モノ に つかれた よう な キブン で いた。 それから ふたたび エキ の ほう へ ひきかえして ゆく と、 どこ から とも なく、 ヤドナシイヌ が あらわれて きた。 その モノ に おびえた よう な もえる メ は、 キイ な ヒョウジョウ を たたえて いて、 マエ に なり ウシロ に なり まよいながら ついて くる の で あった。
 キシャ の ジカン まで 1 ジカン あった が、 ヒカゲ の ない ヒロバ には あかあか と ニシビ が あふれて いた。 ガイカク だけ のこって いる エキ の タテモノ は くろく クウドウ で、 いまにも くずれそう な インショウ を あたえる の だ が、 ハリガネ を はりめぐらし、 「キケン に つき はいる べからず」 と ハリガミ が かかげて ある。 キップ ウリバ の、 テント-バリ の ヤネ は イシクレ で とめて ある。 あちこち に ぼろぼろ の フクソウ を した ダンジョ が うずくまって いた が、 どの ニンゲン の マワリ にも ハエ が うるさく つきまとって いた。 ハエ は センジツ の ゴウウ で かなり ゲンショウ した はず だ が、 まだまだ モウイ を ふるって いる の で あった。 が、 ジベタ に リョウアシ を なげだして、 くろい もの を ぱくついて いる オトコ たち は もう スベテ の コトガラ に ムトンジャク に なって いる らしく、 「キノウ は 5 リ あるいた」 「コンヤ は どこ で ノジュク する やら」 と ヒトゴト の よう に はなしあって いた。 ワタシ の メノマエ に きょとん と した カオツキ の ロウバ が ちかづいて きて、
「キシャ は まだ でません か、 キップ は どこ で きる の です か」 と ヒョウキン な チョウシ で たずねる。 ワタシ が おしえて やる マエ に、 ロウバ は 「あ、 そう です か」 と レイ を いって たちさって しまった。 これ も チョウシ が くるって いる に ちがいない。 ゲタバキ の アシ を ひどく はらした ロウジン が、 ツレ の ロウジン に むかって ナニ か ちからなく はなしかけて いた。

 ワタシ は その ヒ、 カエリ の キシャ の ナカ で ふと、 クレ セン は アス から シウンテン を する と いう こと を ミミ に した ので、 その ヨクヨクジツ、 クレ セン ケイユ で ホンゴウ へ ゆく つもり で ふたたび ハツカイチ の ほう へ でかけた。 が、 キシャ の ジカン を とりはずして いた ので、 デンシャ で コイ へ でた。 ここ まで くる と、 いっそ ウジナ へ でよう と おもった が、 ここ から サキ、 デンシャ は テッキョウ が おちて いる ので、 ワタシブネ に よって レンラク して いて、 その ワタシ に のる には ものの 1 ジカン は ひまどる と いう こと を きいた。 そこで ワタシ は また ヒロシマ エキ に ゆく こと に して、 コイ エキ の ベンチ に コシ を おろした。
 その せまい バショ は シュジュ ザッタ の ヒト で ザットウ して いた。 ケサ オノミチ から キセン で やって きた と いう ヒト も いた し、 ヤナイツ で フネ を おろされ トホ で ここ まで きた と いう ヒト も いた。 ヒト の いう こと は マチマチ で わからない、 けっきょく いって みなければ どこ が どう なって いる の やら わからない、 と いいながら ヒトビト は おたがいに ユクサキ の こと を たずねあって いる の で あった。 その ナカ に おおきな ニ を かかえた フクインヘイ が 5~6 ニン いた が、 ぎろり と した メツキ の オトコ が フクロ を ひらいて、 クツシタ に いれた ハクマイ を ソバ に いる オカミサン に むりやり に てわたした。
「キノドク だ から な、 これから イコツ を むかえ に いく と きいて は みすてて は おけない」 と カレ は ヒトリゴト を いった。 すると、
「ワタシ にも コメ を うって くれません か」 と いう オトコ が あらわれた。 ぎろり と した メツキ の オトコ は、
「とんでもない、 オレタチ は チョウセン から かえって きて、 まだ トウキョウ まで いく の だぜ、 みちみち 10 リ も 20 リ も あるかねば ならない の だ」 と いいながら、 モウフ を とりだして、 「これ でも うる かな」 と つぶやく の で あった。
 ヒロシマ エキ に きて みる と、 クレ セン カイツウ は キョホウ で ある こと が わかった。 ワタシ は ぼうぜん と した が、 ふと フナイリ カワグチ-チョウ の アネ の イエ を みまおう と おもいついた。 ハッチョウボリ から ドバシ まで タンセン の デンシャ が あった。 ドバシ から エバ の ほう へ ワタシ は ヤケアト を たどった。 ヤケノコリ の デンシャ が 1 ダイ ホウチ して ある ホカ は、 なかなか イエ らしい もの は みあたらなかった。 ようやく ハタケ が みえ、 ムコウ に ヤケノコリ の イッカク が みえて きた。 ヒ は すぐ ハタケ の ソバ まで おそって きて いた もの らしく、 きわどい ところ で、 アネ の イエ は たすかって いる。 が、 ヘイ は ゆがみ、 ヤネ は さけ、 オモテ ゲンカン は サンラン して いた。 ワタシ は ウラグチ から まわって、 エンガワ の ところ へ でた。 すると、 カヤ の ナカ に、 アネ と オイ と イモウト と その 3 ニン が マクラ を ならべて ビョウガ して いる の で あった。 テダスケ に いってた イモウト も ここ で ヘンチョウ を きたし、 2~3 ニチ マエ から ねこんで いる の だった。 アネ は ワタシ の きた こと を しる と、
「どんな カオ を してる の か、 こちら へ きて みせて ちょうだい、 アンタ も ビョウキ だった そう だ が」 と カヤ の ナカ から コエ を かけた。
 ハナシ は あの とき の こと に なった。 あの とき、 アネ たち は ウン よく ケガ も なかった が、 オイ は ちょっと フショウ した ので、 テアテ を うけ に エバ まで でかけた。 ところが、 それ が かえって いけなかった の だ。 みちみち、 ものすごい カショウシャ を みる に つけ、 オイ は すっかり キブン が わるく なって しまい、 それ イライ ゲンキ が なくなった の で ある。 あの ヨル、 ヒノテ は すぐ チカク まで おそって くる ので、 ビョウキ の ギケイ は うごかせなかった が、 アネ たち は ゴウ の ナカ で おののきつづけた。 それから また、 センジツ の タイフウ も ここ では タイヘン だった。 こわれて いる ヤネ が いまにも ふきとばされそう で、 ミズ は もり、 カゼ は カシャク なく スキマ から とびこんで き、 いきた キモチ は しなかった と いう。 イマ も みあげる と、 テンジョウ の おちて ロシュツ して いる ヤネウラ に おおきな スキマ が ある の で あった。 まだ ここ では スイドウ も でず、 デントウ も つかず、 ヨル も ヒル も ブッソウ で ならない と いう。
 ワタシ は ギケイ に ミマイ を いおう と おもって リンシツ へ ゆく と、 カベ の おち、 ハシラ の ゆがんだ ヘヤ の カタスミ に ちいさな カヤ が つられて、 そこ に カレ は ねて いた。 みる と ネツ が ある の か、 あかく むくんだ カオ を ぼうぜん と させ、 ワタシ が コエ を かけて も、 ただ 「つらい、 つらい」 と ギケイ は あえいで いる の で あった。
 ワタシ は アネ の イエ で 2~3 ジカン やすむ と、 ヒロシマ エキ に ひきかえし、 ユウガタ ハツカイチ へ もどる と、 チョウケイ の イエ に たちよった。 おもいがけなく も、 イモウト の ムスコ の シロウ が ここ へ きて いる の で あった。 カレ が ソカイ して いた ところ も、 センジツ の スイガイ で コウツウ は シャダン されて いた が、 センセイ に つれられて ミッカ-ガカリ で ここ まで もどって きた の で ある。 ヒザ から カカト の ヘン まで、 ノミ に やられた キズアト が ムスウ に あった が、 わりと ゲンキ そう な カオツキ で あった。 アス カレ を ヤハタ ムラ に つれて ゆく こと に して、 ワタシ は その バン チョウケイ の イエ に とめて もらった。 が、 どういう もの か ねぐるしい ヨル で あった。 ヤケアト の こまごま した コウケイ や、 ぼうぜん と した ヒトビト の スガタ が ねむれない アタマ に よみがえって くる。 ハッチョウボリ から エキ まで バス に のった とき、 ふと バス の マド に ふきこんで くる カゼ に、 ミョウ な ニオイ が あった の を ワタシ は おもいだした。 あれ は シシュウ に ちがいなかった。 アケガタ から アメ の オト が して いた。 ヨクジツ、 ワタシ は オイ を つれて アメ の ナカ を ヤハタ ムラ へ かえって いった。 ワタシ に ついて とぼとぼ あるいて ゆく オイ は ハダシ で あった。

 アニヨメ は マイニチ たえまなく、 なくした ムスコ の こと を なげいた。 びしょびしょ の せまい ダイドコロ で、 ナニ か しながら つぶやいて いる こと は その こと で あった。 もうすこし はやく ソカイ して いたら ニモツ だって やく の では なかった のに、 と ほとんど クチグセ に なって いた。 だまって きいて いる ジケイ は ときどき おもいあまって どなる こと が ある。 イモウト の ムスコ は ウエ に おののきながら、 イナゴ など とって くった。 ジケイ の ムスコ も フタリ、 ガクドウ ソカイ に いって いた が、 キシャ が フツウ の ため まだ もどって こなかった。 ながい わるい テンキ が ようやく カイフク する と、 アキバレ の ヒ が おとずれた。 イネ の ホ が ゆれ、 ムラマツリ の タイコ の オト が ひびいた。 ツツミ の ミチ を ムラ の ヒトタチ は ムチュウ で コシ を かつぎまわった が、 クウフク の ワタシタチ は ぼうぜん と みおくる の で あった。 ある アサ、 フナイリ カワグチ-チョウ の ギケイ が しんだ と ツウチ が あった。
 ワタシ と ジケイ は カオ を みあわせ、 ソウシキ へ でかけて ゆく シタク を した。 デンシャ エキ まで の 1 リ あまり の ミチ を カワ に そって フタリ は すたすた あるいて いった。 とうとう なくなった か、 と、 やはり カンガイ に うたれない では いられなかった。
 ワタシ が この ハル キキョウ して ギケイ の ジムショ を おとずれた とき の こと が まず メサキ に うかんだ。 カレ は ふるびた オーバー を きこんで、 「さむい、 さむい」 と ふるえながら、 ナマキ の くすぶる ヒバチ に しがみついて いた。 コトバ も タイド も ひどく よわよわしく なって いて、 めっきり おいこんで いた。 それから まもなく ねつく よう に なった の だ。 イシ の シンダン では ハイ を おかされて いる と いう こと で あった が、 カレ の イゼン を しって いる ヒト には とても しんじられない こと では あった。 ある ヒ、 ワタシ が ミマイ に ゆく と、 キュウ に ハクハツ の ふえた アタマ を もちあげ、 いろんな こと を しゃべった。 カレ は もう この センソウ が ザンパイ に ちかづいて いる こと を ヨソウ し、 コクミン は グンブ に あざむかれて いた の だ と かすか に ヒフン の コエ を もらす の で あった。 そんな コトバ を この ヒト の クチ から きこう とは おもいがけぬ こと で あった。 ニッカ ジヘン の はじまった コロ、 この ヒト は よっぱらって、 ひどく ワタシ に からんで きた こと が ある。 ながい アイダ リクグン ギシ を して いた カレ には、 ワタシ の よう な モノ は いつも キ に くわぬ ソンザイ と おもえた の で あろう。 ワタシ は この ヒト の ハンセイ を、 サマザマ の こと を おぼえて いる。 この ヒト の こと に ついて かけば キリ が ない の で あった。
 ワタシタチ は コイ に でる と、 シデン に のりかえた。 シデン は テンマ-チョウ まで つうじて いて、 そこ から カリバシ を わたって ムコウギシ へ トホ で レンラク する の で あった。 この カリバシ も やっと キノウ アタリ から とおれる よう に なった もの と みえて、 3 ジャク ハバ の ヒトリ しか あるけない ザイモク の ウエ を ヒト は おそるおそる あるいて ゆく の で あった。 (ソノゴ も テッキョウ は なかなか フッキュウ せず、 トホ レンラク の この チイキ には ヤミイチ が さかえる よう に なった の で ある。) ワタシタチ が アネ の イエ に ついた の は ヒルマエ で あった。
 テンジョウ の おち、 カベ の さけて いる キャクマ に シンセキ の モノ が 4~5 ニン あつまって いた。 アネ は ミナ の カオ を みる と、 「あれ も コドモ たち に たべさせたい ばっかし に、 ジブン は ベントウ を もって いかず、 ゾウスイ ショクドウ を あるいて ヒルゲ を すませて いた の です」 と ないた。 ギケイ は ツギノマ に ハクフ で おおわれて いた。 その シニガオ は ヒバチ の ナカ に のこって いる しろい スミ を レンソウ さす の で あった。
 おそく なる と デンシャ も なくなる ので、 カソウ は あかるい うち に すまさねば ならなかった。 キンジョ の ヒト が シガイ を はこび、 ジュンビ を ととのえた。 やがて ミナ は アネ の イエ を でて、 そこ から 4~5 チョウ サキ の ハタケ の ほう へ あるいて いった。 ハタケ の ハズレ に ある アキチ に ギケイ は カン も なく シーツ に くるまれた まま はこばれて いた。 ここ は ゲンシ バクダン イライ、 オオク の シタイ が やかれる バショ で、 タキツケ は カオク の こわれた ハヘン が つみかさねて あった。 ミナ が ギケイ を チュウシン に エンジン を つくる と、 コクミンフク の ソウ が ドキョウ を あげ、 ワラ に ヒ が つけられた。 すると 10 サイ に なる ギケイ の ムスコ が この とき わーっと なきだした。 ヒ は しめやか に ザイモク に もえうつって いった。 アマモヨイ の ソラ は もう こっこく と うすぐらく なって いた。 ワタシタチ は そこ で ワカレ を つげる と、 カエリ を いそいだ。
 ワタシ と ジケイ とは カワ の ツツミ に でて、 テンマ-チョウ の カリバシ の ほう へ ミチ を いそいだ。 アシモト の カワ は すっかり くらく なって いた し、 カタホウ に ひろがって いる ヤケアト には アカリ ヒトツ も みえなかった。 くらい こさむい ミチ が ながかった。 どこ から とも なし に シシュウ の ただよって くる の が かんじられた。 この アタリ イエ の シタジキ に なった まま とりかたづけて ない シタイ が まだ ムスウ に あり、 ウジ の ハッセイチ と なって いる と いう こと を きいた の は もう だいぶ イゼン の こと で あった が、 マックロ な ヤケアト は イマ も いんいん と ヒト を おびやかす よう で あった。 ふと、 ワタシ は かすか に アカンボウ の ナキゴエ を きいた。 ミミ の マヨイ でも なく、 だんだん その コエ は あるいて ゆく に したがって はっきり して きた。 イキオイ の いい、 かなしげ な、 しかし、 これ は なんと いう ういういしい コエ で あろう。 この アタリ に もう ニンゲン は セイカツ を いとなみ、 アカンボウ さえ ないて いる の で あろう か。 なんとも いいしれぬ カンジョウ が ワタシ の ハラワタ を えぐる の で あった。

 マキ シ は チカゴロ シャンハイ から フクイン して かえって きた の です が、 かえって みる と、 イエ も サイシ も なくなって いました。 で、 ハツカイチ チョウ の イモウト の ところ へ ミ を よせ、 ときどき、 ヒロシマ へ でかけて ゆく の でした。 あの トウジ から かぞえて もう 4 カゲツ も たって いる コンニチ、 イマ まで ユクエ フメイ の ヒト が あらわれない と すれば、 もう しんだ と あきらめる より ホカ は ありません。 マキ シ に して みて も、 サイクン の キョウリ を ハジメ ココロアタリ を まわって は みました が、 どこ でも クヤミ を いわれる だけ でした。 ナガレカワ の イエ の ヤケアト へも 2 ド ばかり いって みました。 リサイシャ の タイケンダン も あちこち で きかされました。
 じっさい、 ヒロシマ では イマ でも どこ か で ダレ か が たえず 8 ガツ ムイカ の デキゴト を くりかえし くりかえし しゃべって いる の でした。 ユクエ フメイ の ツマ を さがす ため に スウヒャクニン の オンナ の シタイ を だきおこして クビジッケン して みた ところ、 どの オンナ も ヒトリ と して ウデドケイ を して いなかった と いう ハナシ や、 ナガレカワ ホウソウキョク の マエ に ふさって しんで いた フジン は アカンボウ に ヒ の つく の を ふせぐ よう な シセイ で ウツブセ に なって いた と いう ハナシ や、 そう か と おもう と セト ナイカイ の ある シマ では トウジツ、 タテモノ ソカイ の キンロウ ホウシ に ムラ の ダンシ が ゼンブ ドウイン されて いた ので、 イッソン こぞって カフ と なり、 ソノゴ ニョウボウ たち は ソンチョウ の ところ へ ねじこんで いった と いう ハナシ も ありました。 マキ シ は デンシャ の ナカ や エキ の カタスミ で、 そんな ハナシ を きく の が すき でした が、 ヒロシマ へ たびたび でかけて ゆく の も、 いつのまにか シュウカン の よう に なりました。 しぜん、 コイ エキ や ヒロシマ エキ マエ の ヤミイチ にも たちよりました。 が、 それ より も、 ヤケアト を あるきまわる の が イッシュ の ナグサメ に なりました。 イゼン は よほど たかい タテモノ に でも のぼらない かぎり みわたせなかった、 チュウゴク サンミャク が どこ を あるいて いて も ヒトメ に みえます し、 セト ナイカイ の シマヤマ の スガタ も すぐ メノマエ に みえる の です。 それら の ヤマヤマ は ヤケアト の ニンゲン たち を みおろし、 いったい どうした の だ? と いわん ばかり の カオツキ です。 しかし、 ヤケアト には キ の はやい ニンゲン が もう ソマツ ながら バラック を たてはじめて いました。 グント と して さかえた、 この マチ が、 コンゴ どんな スガタ で コウセイ する だろう か と、 マキ シ は ソウゾウ して みる の でした。 すると リョクジュ に とりかこまれた、 ヘイワ な、 マチ の スガタ が ぼんやり と うかぶ の でした。 あれ を おもい、 これ を おもい、 ぼんやり と あるいて いる と、 マキ シ は よく みしらぬ ヒト から アイサツ されました。 ずっと イゼン、 マキ シ は カイギョウイ を して いた ので、 もしか したら カンジャ が カオ を おぼえて いて くれた の では あるまい か とも おもわれました が、 それにしても なんだか ヘン なの です。
 サイショ、 こういう こと に きづいた の は、 たしか、 コイ から テンマバシ へ でる ヌカルミ を あるいて いる とき でした。 ちょうど、 アメ が ふりしきって いました が、 ムコウ から あかさびた トタン の キレッパシ を アタマ に かぶり、 ぼろぼろ の キモノ を まとった コジキ らしい オトコ が、 アマガサ の カワリ に かざして いる トタン の キレ から、 ぬっと カオ を あらわしました。 その ぎろぎろ と ひかる メ は フシンゲ に、 マキ シ の カオ を まじまじ と ながめ、 いまにも ナノリ を あげたい よう な ヒョウジョウ でした。 が、 やがて、 さっと ゼツボウ の イロ に かわり、 トタン で カオ を かくして しまいました。
 こみあう デンシャ に のって いて も、 ムコウ から しきり に マキ シ に むかって うなずく カオ が あります。 つい うっかり マキ シ も うなずきかえす と、 「アナタ は たしか ヤマダ さん では ありません でした か」 など と ヒトチガイ の こと が ある の です。 この ハナシ を ホカ の ヒト に はなした ところ、 みしらぬ ヒト から アイサツ される の は、 なにも マキ シ に かぎった こと で ない こと が わかりました。 じっさい、 ヒロシマ では ダレ か が たえず、 イマ でも ヒト を さがしだそう と して いる の でした。
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