カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ニジュウシ の ヒトミ 1

2018-08-23 | ツボイ サカエ
 ニジュウシ の ヒトミ

 ツボイ サカエ

 1、 コイシ センセイ

 10 ネン を ヒトムカシ と いう ならば、 この モノガタリ の ホッタン は イマ から フタムカシ ハン も マエ の こと に なる。 ヨノナカ の デキゴト は と いえば、 センキョ の キソク が あらたまって、 フツウ センキョ ホウ と いう の が うまれ、 2 ガツ に その ダイ 1 カイ の センキョ が おこなわれた、 2 カゲツ-ゴ の こと に なる。 ショウワ 3 ネン 4 ガツ ヨッカ、 ノウサンギョソン の ナ が ゼンブ あてはまる よう な、 セト ナイカイ-ベリ の イチ カンソン へ、 わかい オンナ の センセイ が フニン して きた。
 100 コ あまり の ちいさな その ムラ は、 イリエ の ウミ を ミズウミ の よう な カタチ に みせる ヤク を して いる ほそながい ミサキ の、 その トッパナ に あった ので、 タイガン の マチ や ムラ へ ゆく には コブネ で わたったり、 うねうね と まがりながら つづく ミサキ の ヤマミチ を てくてく あるいたり せねば ならない。 コウツウ が すごく フベン なので、 ショウガッコウ の セイト は 4 ネン まで が ムラ の ブンキョウジョウ に ゆき、 5 ネン に なって はじめて、 カタミチ 5 キロ の ホンソン の ショウガッコウ へ かよう の で ある。 テヅクリ の ワラゾウリ は 1 ニチ で きれた。 それ が ミンナ は ジマン で あった。 マイアサ、 あたらしい ゾウリ を おろす の は、 うれしかった に ちがいない。 ジブン の ゾウリ を ジブン の テ で つくる の も、 5 ネンセイ に なって から の シゴト で ある。 ニチヨウビ に、 ダレ か の イエ へ あつまって ゾウリ を つくる の は たのしかった。 ちいさな コドモ ら は、 うらやましそう に それ を ながめて、 しらずしらず の うち に ゾウリヅクリ を おぼえて ゆく。 ちいさい コドモ たち に とって、 5 ネンセイ に なる と いう こと は、 ヒトリダチ を イミ する ほど の こと で あった。 しかし、 ブンキョウジョウ も たのしかった。
 ブンキョウジョウ の センセイ は フタリ で、 うんと トシヨリ の オトコ センセイ と、 コドモ の よう に わかい オンナ センセイ が くる の に きまって いた。 それ は まるで、 そういう キソク が ある か の よう に、 オオムカシ から そう だった。 ショクインシツ の トナリ の シュクチョクシツ に オトコ センセイ は すみつき、 オンナ センセイ は とおい ミチ を かよって くる の も、 オトコ センセイ が 3、 4 ネン を うけもち、 オンナ センセイ が 1、 2 ネン と ゼンブ の ショウカ と 4 ネン ジョセイ の サイホウ を おしえる、 それ も ムカシ から の キマリ で あった。 セイト たち は センセイ を よぶ の に ナ を いわず、 オトコ センセイ、 オナゴ センセイ と いった。 トシヨリ の オトコ センセイ が オンキュウ を タノシミ に コシ を すえて いる の と ハンタイ に、 オンナ センセイ の ほう は、 1 ネン か せいぜい 2 ネン する と テンニン した。 なんでも、 コウチョウ に なれない オトコ センセイ の キョウシ と して の サイゴ の ツトメ と、 シンマイ の オンナ センセイ が クロウ の シハジメ を、 この ミサキ の ムラ の ブンキョウジョウ で つとめる の だ と いう ウワサ も ある が、 ウソ か ホント か は わからない。 だが、 だいたい ホントウ の よう でも ある。
 そうして、 ショウワ 3 ネン の 4 ガツ ヨッカ に もどろう。 その アサ、 ミサキ の ムラ の 5 ネンセイ イジョウ の セイト たち は、 ホンコウ まで 5 キロ の ミチ を いそいそ と あるいて いた。 ミンナ、 それぞれ ヒトツ ずつ シンキュウ した こと が ココロ を はずませ、 アシモト も かるかった の だ。 カバン の ナカ は あたらしい キョウカショ に かわって いる し、 キョウ から あたらしい キョウシツ で、 あたらしい センセイ に おしえて もらう タノシミ は、 いつも とおる ミチ まで が あたらしく かんじられた。 それ と いう の も、 キョウ は、 あたらしく ブンキョウジョウ へ フニン して くる オンナ センセイ に、 この ミチ で であう と いう こと も あった。
「コンド の オナゴ センセイ、 どんな ヤツ じゃろ な」
 わざと ぞんざい に、 ヤツ ヨバワリ を する の は、 コウトウカ―― イマ の シンセイ チュウガクセイ に あたる オトコ の コドモ たち だ。
「コンド の も また、 ジョガッコウ デエデエ の タマゴ じゃ いよった ぞ」
「そんなら、 また ハンニンマエ センセイ か」
「どうせ、 ミサキ は いつでも ハンニンマエ じゃ ない か」
「ビンボウムラ なら、 ハンニンマエ でも しょうがない」
 セイキ の シハンデ では なく、 ジョガッコウ-デ の ジュンキョウイン (イマ では ジョキョウ と いう の だろう か) の こと を、 クチ の わるい オトナ たち が、 ハンニンマエ など と いう の を まねて、 ジブン たち も、 もう オトナ に なった よう な つもり で いって いる の だ が、 たいして ワルギ は なかった。 しかし、 キョウ はじめて この ミチ を あるく こと に なった 5 ネンセイ たち は、 メ を ぱちくり させながら、 キョウ ナカマイリ を した ばかり の エンリョサ で、 きいて いる。 だが、 ゼンポウ から ちかづいて くる ヒト の スガタ を みとめる と、 マッサキ に カンセイ を あげた の は 5 ネンセイ だった。
「わあ、 オナゴ センセイェ」
 それ は、 つい コナイダ まで おしえて もらって いた コバヤシ センセイ で ある。 イツモ は さっさと すれちがいながら オジギ を かえす だけ の コバヤシ センセイ も、 キョウ は たちどまって、 なつかしそう に ミンナ の カオ を かわるがわる みまわした。
「キョウ で、 ホント に オワカレ ね。 もう この ミチ で、 ミンナ に であう こと は ない わね。 よく ベンキョウ して ね」
 その しんみり した クチョウ に なみだぐんだ オンナ の コ も いた。 この コバヤシ センセイ だけ は、 これまで の オンナ センセイ の レイ を やぶって、 マエ の センセイ が ビョウキ で やめた アト、 3 ネン ハン も ミサキ の ムラ を うごかなかった センセイ で あった。 だから、 ここ で であった セイト たち は、 イチド は コバヤシ センセイ に おそわった こと の ある モノ ばかり だ。 センセイ が かわる と いう よう な こと は、 ホンライ ならば シンガッキ の その ヒ に なって はじめて わかる の だ が、 コバヤシ センセイ は、 カタヤブリ に トオカ も マエ に セイト に はなした の で ある。 3 ガツ 25 ニチ の シュウギョウシキ に ホンコウ へ いった カエリ、 ちょうど、 イマ、 たって いる この ヘン で、 ワカレ の コトバ を いい、 ミンナ に、 キャラメル の コバコ を ヒトハコ ずつ くれた。 だから ミンナ は、 キョウ この ミチ を あたらしい オンナ センセイ が あるいて くる と ばかり おもって いた のに、 それ を むかえる マエ に コバヤシ センセイ に あって しまった の で ある。 コバヤシ センセイ も、 キョウ は ブンキョウジョウ に いる コドモ たち に、 ワカレ の アイサツ に ゆく ところ なの で あろう。
「センセイ、 コンド くる センセイ は?」
「さあ、 もう そろそろ みえる でしょう」
「コンド の センセイ、 どんな センセイ?」
「しらん のよ、 まだ」
「また ジョガッコウ デエデエ?」
「さあ、 ホント に しらん の。 でも ミンナ、 ショウワル したら、 ダメ よ」
 そう いって コバヤシ センセイ は わらった。 センセイ も ハジメ の 1 ネン は トチュウ の ミチ で ひどく こまらされて、 セイト の マエ も かまわず ないた こと も あった。 なかした セイト は もう ここ には いない けれど、 ここ に いる コ の アニ や アネ で ある。 わかい の と、 なれない の と で、 ミサキ へ くる タイテイ の オンナ センセイ が、 イチド は なかされる の を、 ホンコウ-ガヨイ の コドモ ら は デンセツ と して しって いた。 4 ネン も いた コバヤシ センセイ の アト なので、 コドモ たち の コウキシン は わくわく して いた。 コバヤシ センセイ と わかれて から も、 ミンナ は また、 コンド くる センセイ の スガタ を ゼンポウ に キタイ しながら、 サクセン を こらした。
「イモジョォ って、 どなる か」
「イモジョ で なかったら、 どう する」
「イモジョ に、 きまっとる と おもう がな」
 クチグチ に イモジョ イモジョ と いって いる の は、 この チホウ が サツマイモ の ホンバ で あり、 その イモバタケ の マンナカ に ある ジョガッコウ なので、 こんな イタズラ な ヨビカタ も うまれた わけ だ。 コバヤシ センセイ も その イモジョ シュッシン だった。 コドモ たち は、 コンド くる オンナ センセイ をも イモジョ-デ と きめて、 もう くる か、 もう みえる か と、 ミチ が まがる たび に ゼンポウ を みわたした が、 カレラ の キタイ する イモジョ デエデエ の わかい センセイ の スガタ には ついに であわず、 ホンソン の ひろい ケンドウ に でて しまった。 と ドウジ に、 もう オナゴ センセイ の こと など かなぐりすてて、 コバシリ に なった。 いつも みる クセ に なって いる ケンドウゾイ の ヤドヤ の ゲンカン の オオドケイ が、 イツモ より 10 プン ほど すすんで いた から だ。 トケイ が すすんだ の では なく、 コバヤシ センセイ と タチバナシ を した だけ おそく なった の だ。 セナカ や ワキノシタ で フデバコ を ならしながら、 ホコリ を たてて ミンナ は はしりつづけた。
 そうして、 その ヒ の カエリミチ、 ふたたび オンナ センセイ の こと を おもいだした の は ケンドウ から、 ミサキ の ほう へ わかれた ヤマミチ に さしかかって から で ある。 しかも また、 ムコウ から コバヤシ センセイ が あるいて くる の だ。 ながい タモト の キモノ を きた コバヤシ センセイ は、 その タモト を ひらひら させながら、 ミョウ に リョウテ を うごかして いる。
「センセエ」
「オナゴ センセエ」
 オンナ の コ は ミンナ はしりだした。 センセイ の エガオ が だんだん はっきり と ちかづいて くる と、 センセイ の リョウテ が みえない ツナ を ひっぱって いる こと が わかって、 ミンナ わらった。 センセイ は まるで、 ホント に ツナ でも ひきよせて いる よう に、 リョウテ を かわるがわる うごかし、 とうとう たちどまって ミンナ を ひきよせて しまった。
「センセイ、 コンド の オナゴ センセイ、 きた?」
「きた わ。 どうして?」
「まだ ガッコウ に いる ん?」
「ああ、 その こと。 フネ で きた のよ、 キョウ は」
「ふうん。 そいで また、 フネ で いんだ ん?」
「そう、 ワタシ にも イッショ に フネ で かえろう と すすめて くれた けど、 センセイ、 も イッペン アンタラ の カオ みたかった から、 やめた」
「わぁ」
 オンナ の コ たち が よろこんで カンセイ を あげる の を、 オトコ の コ は にやにや して みて いる。 やがて ヒトリ が たずねた。
「コンド の センセイ、 どんな センセイ ぞな?」
「いーい センセイ らしい。 かわいらしい」
 コバヤシ センセイ は ふっと おもいだした よう な エガオ を した。
「イモジョ?」
「ちがう、 ちがう。 えらい センセイ よ、 コンド の センセイ」
「でも、 シンマイ じゃろ」
 コバヤシ センセイ は キュウ に おこった よう な カオ を して、
「アンタラ、 ジブン で おしえて もらう センセイ でも ない のに、 どうして そんな こと いう の。 ハジメ っから シンマイ で ない センセイ て、 ない のよ。 また ワタシ の とき みたい に、 なかす つもり でしょう」
 その ケンマク に、 ココロ の ナカ を みすかされた と おもって メ を そらす モノ も あった。 コバヤシ センセイ が ブンキョウジョウ に かよいだした コロ の セイト は、 わざと イチレツ オウタイ に なって オジギ を したり、 イモジョッ と さけんだり、 アナ が あく ほど みつめたり、 ニヤニヤワライ を したり と、 いろんな ホウホウ で シンマイ の センセイ を いやがらせた もの だった。 しかし、 3 ネン ハン の うち には もう どんな こと を して も センセイ の ほう で こまらなく なり、 かえって センセイ が テダシ を して ふざけたり した。 5 キロ の ミチノリ では、 ナニ か なくて は やりきれなかった の だろう。 コロ を みて、 また ヒトリ の セイト が たずねた。
「コンド の センセイ、 ナニ いう ナマエ?」
「オオイシ センセイ。 でも カラダ は、 ちっちゃあい ヒト。 コバヤシ でも ワタシ は ノッポ だ けど、 ホント に、 ちっちゃあい ヒト よ。 ワタシ の カタ ぐらい」
「わあ!」
 まるで よろこぶ よう な その ワライゴエ を きく と、 コバヤシ センセイ は また きっと なって、
「だけど、 ワタシラ より、 ずっと ずっと えらい センセイ よ。 ワタシ の よう に ハンニンマエ では ない のよ」
「ふうん。 そいで センセイ、 フネ で かよう ん かな?」
 ここ が ダイモンダイ だ と いう よう に きく の へ、 センセイ の ほう も、 ここ だな と いう カオ を して、
「フネ は キョウ だけ よ。 アシタ から ミンナ あえる わ。 でも、 コンド の センセイ は なかん よ。 ワタシ、 ちゃんと いっといた もの。 ホンコウ の セイト と イキシモドリ に であう けど、 もしも イタズラ したら、 サル が あそんでる と おもっときなさい。 もしも なんか いって なぶったら、 カラス が ないた と おもっときなさい って」
「わあ」
「わあ」
 ミンナ イッセイ に わらった。 イッショ に わらって、 それで わかれて かえって ゆく、 コバヤシ センセイ の ウシロスガタ が、 ツギ の マガリカド に きえさる まで、 セイト たち は クチグチ に さけんだ。
「センセエ」
「さよならあ」
「ヨメサーン」
「さよならあ」
 コバヤシ センセイ は オヨメ に ゆく ため に やめた の を、 ミンナ は もう しって いた の だ。 センセイ が サイゴ に ふりかえって テ を ふって、 それで みえなく なる と、 さすが に ミンナ の ムネ には、 ヘン な、 モノガナシサ が のこり、 イチニチ の ツカレ も でて きて、 もっそり と あるいた。 かえる と、 ムラ は オオサワギ だった。
「コンド の オナゴ センセイ は、 ヨウフク きとる ど」
「コンド の オナゴ センセイ は、 イモジョ と ちがう ど」
「コンド の オナゴ センセイ は、 こんまい ヒト じゃ ど」
 そして ツギ の ヒ で ある。 イモジョ-デ で ない、 ちいさな センセイ に たいして、 どきどき する よう な サクセン が こらされた。

  こそこそ、 こそこそ
  こそこそ、 こそこそ

 みちみち ささやきながら あるいて ゆく カレラ は、 いきなり ドギモ を ぬかれた の で ある。 バショ も わるかった。 ミトオシ の きかぬ マガリカド の チカク で、 この ミチ に めずらしい ジテンシャ が みえた の だ。 ジテンシャ は すうっと トリ の よう に ちかづいて きた と おもう と、 ヨウフク を きた オンナ が、 ミンナ の ほう へ にこっと わらいかけて、
「おはよう!」
と、 カゼ の よう に ゆきすぎた。 どうしたって それ は オンナ センセイ に ちがいなかった。 あるいて くる と ばっかり おもって いた オンナ センセイ は ジテンシャ を とばして きた の だ。 ジテンシャ に のった オンナ センセイ は はじめて で ある。 ヨウフク を きた オンナ センセイ も はじめて みる。 はじめて の ヒ に、 おはよう! と アイサツ を した センセイ も はじめて だ。 ミンナ、 しばらく は ぽかん と して その ウシロスガタ を みおくって いた。 ぜんぜん これ は セイト の マケ で ある。 どうも これ は、 イツモ の シンニン センセイ とは だいぶ ヨウス が ちがう。 ショウショウ の イタズラ では、 なきそう も ない と おもった。
「ごつい な」
「オナゴ の くせ に、 ジテンシャ に のったり して」
「ナマイキ じゃ な、 ちっと」
 オトコ の コ たち が こんな ふう に ヒヒョウ して いる イッポウ では、 オンナ の コ は また オンナ の コ-らしく、 すこし ちがった ミカタ で、 ハナシ が はずみだして いる。
「ほら、 モダン ガール いう の、 あれ かも しれん な」
「でも、 モダン ガール いう の は、 オトコ の よう に カミ を ここ の とこ で、 サンパツ しとる こと じゃろ」
 そう いって ミミ の ウシロ で 2 ホン の ユビ を ハサミ に して みせて から、
「あの センセイ は、 ちゃんと カミ ゆうとった もん」
「それでも、 ヨウフク きとる もん」
「ひょっと したら、 ジテンシャヤ の コ かも しれん な。 あんな きれい な ジテンシャ に のる の は。 ぴかぴか ひかっとった もん」
「ウチラ も ジテンシャ に のれたら ええ な。 この ミチ を すうっと はしりる、 キショク が ええ じゃろ」
 なんと して も ジテンシャ では タチウチ できない。 ショイナゲ を くわされた よう に、 ミンナ がっかり して いる こと だけ は マチガイ なかった。 なんとか ハナ を あかして やる ホウホウ を かんがえだしたい と、 めいめい おもって いる の だ が、 なにひとつ おもいつかない うち に ミサキ の ミチ を ではずれて いた。 ヤドヤ の ゲンカン の ハシラドケイ は キョウ も また、 ミンナ の アシドリ を ショウジキ に しめして 8 プン ほど すぎて いる。 それ、 と ばかり セナカ と ワキノシタ の フデイレ は イッセイ に なりだし、 ゾウリ は ホコリ を まいあがらせた。
 ところが、 ちょうど その おなじ コロ、 ミサキ の ムラ でも オオサワギ だった。 キノウ は フネ に のって きた とか で、 キ が つかぬ うち に また フネ で かえった の を きいた ムラ の オカミサン たち は、 キョウ こそ、 どんな カオ を して ミチ を とおる か と、 その ヨウフク を きて いる と いう オンナ センセイ を みたがって いた。 ことに ムラ の イリグチ の セキショ と アダナ の ある ヨロズヤ の オカミサン と きたら、 ミサキ の ムラ へ くる ほど の ヒト は、 ダレ より も サキ に ジブン が みる ケンリ が ある、 と でも いう よう に、 アサ の オキヌケ から トオリ の ほう へ キ を くばって いた。 だいぶ ながらく アメ が なかった ので、 かわいた オモテドオリ に ミズ を まいて おく の も、 あたらしい センセイ を むかえる には よかろう と、 ゾウキン バケツ を もって でて きた とき、 ムコウ から、 さあっと ジテンシャ が はしって きた の だ。 おやっ と おもう マ も なく、
「おはよう ございます」
 アイソ よく アタマ を さげて とおりすぎた オンナ が ある。
「おはよう ございます」
 ヘンジ を した トタン に、 はっと キ が ついた が、 ちょうど クダリザカ に なった ミチ を ジテンシャ は もう はしりさって いた。 ヨロズヤ の オカミサン は あわてて、 トナリ の ダイク さん とこ へ はしりこみ、 イドバタ で センタクモノ を つけて いる オカミサン に オオゴエ で いった。
「ちょっと、 ちょっと、 イマ、 ヨウフク きた オンナ が ジテンシャ に のって とおった の、 あれ が オナゴ センセイ かいの?」
「しろい シャツ きて、 オトコ みた よう な クロ の ウワギ きとった かいの」
「うん、 そう じゃ」
「なんと、 ジテンシャ で かいの」
 キノウ ニュウガクシキ に チョウジョ の マツエ を つれて ガッコウ へ いった ダイク の オカミサン は、 センタクモノ を わすれて、 あきれた コエ で いった。 ヨロズヤ の オカミサン は、 わが イ を えた と いう カオ で、
「ほんに ヨ も かわった のう。 オナゴ センセイ が ジテンシャ に のる。 オテンバ と いわれせん かいな」
 クチ では シンパイ そう に いった が、 その カオ は もう オテンバ と きめて いる メツキ を して いた。 ヨロズヤ の マエ から ガッコウ まで は ジテンシャ では 2~3 プン で あろう が、 すうっと カゼ を きって はしって いって 15 フン も たたぬ うち に、 オンナ センセイ の ウワサ は もう ムラジュウ に ひろまって いた。 ガッコウ でも セイト たち は オオサワギ だった。 ショクインシツ の イリグチ の ワキ に おいた ジテンシャ を とりまいて、 50 ニン-たらず の セイト は、 がやがや、 わやわや、 まるで スズメ の ケンカ だった。 そのくせ オンナ センセイ が はなしかけよう と して ちかづく と、 やっぱり スズメ の よう に ぱあっと ちって しまう。 しかたなく ショクインシツ に もどる と、 たった ヒトリ の ドウリョウ の オトコ センセイ は、 じつに そっけない カオ で だまって いる。 まるで それ は、 はなしかけられる の は こまります と でも いって いる ふう に、 ツクエ の ウエ の タントウバコ の カゲ に うつむきこんで、 ナニ か ショルイ を みて いる の だ。 ジュギョウ の ウチアワセ など は、 キノウ コバヤシ センセイ との ジム ヒキツギ で すんで いる ので、 もう ことさら ヨウジ は ない の だ が、 それにしても あんまり、 そっけなさすぎる と、 オンナ センセイ は フヘイ だった らしい。 しかし、 オトコ センセイ は オトコ センセイ で、 こまって いた の だ。
 ――こまった な。 ジョガッコウ の シハンカ を でた セイキョウイン の パリパリ は、 イモジョ デエデエ の ハンニンマエ の センセイ とは、 だいぶ ヨウス が ちがう ぞ。 カラダ こそ ちいさい が、 アタマ も よい らしい。 ハナシ が あう かな。 キノウ、 ヨウフク を きて きた ので、 だいぶ ハイカラ さん だ とは おもって いた が、 ジテンシャ に のって くる とは おもわなんだ。 こまった な。 なんで コトシ に かぎって、 こんな ジョウトウ を ミサキ へ よこした ん だろう。 コウチョウ も、 どうか しとる。――
と、 こんな こと を おもって キ を おもく して いた の だ。 この オトコ センセイ は、 ヒャクショウ の ムスコ が、 10 ネン-ガカリ で ケンテイ シケン を うけ、 やっと 4~5 ネン マエ に イチニンマエ の センセイ に なった と いう、 ドリョクガタ の ニンゲン だった。 いつも ゲタバキ で、 イチマイ カンバン の ヨウフク は カタ の ところ が やけて、 ヨウカンイロ に かわって いた。 コドモ も なく としとった オクサン と フタリ で、 チョキン だけ を タノシミ に、 ケンヤク に くらして いる よう な ヒト だ から、 ヒト の いやがる この フベン な ミサキ の ムラ へ きた の も、 ツキアイ が なくて よい と、 ジブン から の キボウ で あった と いう カワリダネ だった。 クツ を はく の は ショクイン カイギ など で ホンコウ へ でむいて ゆく とき だけ、 ジテンシャ など は、 まだ さわった こと も なかった の だ。 しかし、 ムラ では けっこう キ に いられて、 サカナ や ヤサイ に フジユウ は しなかった。 ムラ の ヒト と おなじ よう に、 アカ を つけて、 ムラ の ヒト と おなじ もの を たべて、 ムラ の コトバ を つかって いる この オトコ センセイ に、 シンニン の オンナ センセイ の ヨウフク と ジテンシャ は ひどく キヅマリ な オモイ を させて しまった。
 しかし、 オンナ センセイ は それ を しらない。 ゼンニン の コバヤシ センセイ から、 ホンコウ ツウガク の セイト の イタズラ に ついて は きいて いた の だ が、 オトコ センセイ に ついて は ただ、 「ヘンコツ よ、 キ に しないで」 と ささやかれた だけ だった。 だが、 ヘンコツ と いう より も、 まるで イジワル でも されそう な キ が して、 たった フツカ-メ だ と いう のに、 うっかり して いる と、 タメイキ が でそう に なる。 オンナ センセイ の ナ は オオイシ ヒサコ。 ミズウミ の よう な イリエ の ムコウギシ の、 おおきな イッポンマツ の ある ムラ の ウマレ で ある。 ミサキ の ムラ から みる イッポンマツ は ボンサイ の キ の よう に ちいさく みえた が、 その イッポンマツ の ソバ に ある イエ では オカアサン が ヒトリ、 ムスメ の ツトメブリ を あんじて くれて いる。 ――と おもう と、 オオイシ センセイ の ちいさな カラダ は おもわず ムネ を はって、 おおきく イキ を すいこみ、
「オカアサン!」
と、 ココロ の ソコ から よびかけたく なる。 つい コノアイダ の こと、
「ミサキ は とおくて キノドク だ けど、 1 ネン だけ ガマン して ください。 1 ネン たったら ホンコウ へ もどします から な。 ブンキョウジョウ の クロウ は、 サキ しといた ほう が いい です よ」
 なくなった チチオヤ と トモダチ の コウチョウ センセイ に そう いわれて、 1 ネン の シンボウ だ と おもって やって きた オオイシ センセイ で ある。 あるいて かよう には あまり に とおい から、 ゲシュク を して は と すすめられた の を、 オヤコ イッショ に くらせる の を ただ ヒトツ の タノシミ に して、 シ の ジョガッコウ の シハンカ の 2 ネン を はなれて くらして いた ハハオヤ の こと を おもい、 カタミチ 8 キロ を ジテンシャ で かよう ケッシン を した オオイシ センセイ で ある。 ジテンシャ は ヒサコ と したしかった ジテンシャヤ の ムスメ の テヅル で、 5 カゲツ ゲップ で テ に いれた の だ。 キモノ が ない ので、 ハハオヤ の セル の キモノ を くろく そめ、 ヘタ でも ジブン で ぬった。 それ とも しらぬ ヒトビト は、 オテンバ で ジテンシャ に のり、 ハイカラ-ぶって ヨウフク を きて いる と おもった かも しれぬ。 なにしろ ショウワ 3 ネン で ある。 フツウ センキョ が おこなわれて も、 それ を ヨソゴト に おもって いる ヘンピ な ムラ の こと で ある。 その ジテンシャ が あたらしく ひかって いた から、 その くろい テヌイ の スーツ に アカ が ついて いなかった から、 その しろい ブラウス が マッシロ で あった から、 ミサキ の ムラ の ヒト には ひどく ゼイタク に みえ、 オテンバ に みえ、 よりつきがたい オンナ に みえた の で あろう。 しかし それ も、 オオイシ センセイ には まだ ナットク の ゆかぬ、 フニン フツカ-メ で ある。 コトバ の つうじない ガイコク へ でも やって きた よう な ココロボソサ で、 イッポンマツ の ワガヤ の アタリ ばかり を みやって いた。

  かっ かっ かっ かっ

 シギョウ を ほうじる バンギ が なりひびいて、 オオイシ センセイ は おどろいて ワレ に かえった。 ここ では サイコウ の 4 ネンセイ の キュウチョウ に キノウ えらばれた ばかり の オトコ の コ が、 セノビ を して バンギ を たたいて いた。 コウテイ に でる と、 キョウ はじめて オヤ の テ を はなれ、 ヒトリ で ガッコウ へ きた キオイ と イッシュ の フアン を みせて、 1 ネンセイ の カタマリ だけ は、 ドクトク な、 ムゴン の ザワメキ を みせて いる。 3、 4 ネン の クミ が さっさと キョウシツ へ はいって いった アト、 オオイシ センセイ は しばらく リョウテ を たたきながら、 それ に あわせて アシブミ を させ、 ウシロムキ の まま キョウシツ へ みちびいた。 はじめて ジブン に かえった よう な ユトリ が ココロ に わいて きた。 セキ に おさまる と、 シュッセキボ を もった まま キョウダン を おり、
「さ、 ミンナ、 ジブン の ナマエ を よばれたら、 おおきな コエ で ヘンジ する ん です よ。 ――オカダ イソキチ くん!」
 セ の ジュン に ならんだ ので いちばん マエ の セキ に いた チビ の オカダ イソキチ は、 マッサキ に ジブン が よばれた の も キオクレ の した モト で あった が、 うまれて はじめて くん と いわれた こと でも びっくり して、 ヘンジ が ノド に つかえて しまった。
「オカダ イソキチ くん、 いない ん です か」
 みまわす と、 いちばん ウシロ の セキ の、 ずぬけて おおきな オトコ の コ が、 びっくり する ほど オオゴエ で、 こたえた。
「いる」
「じゃあ、 はい って ヘンジ する のよ。 オカダ イソキチ くん」
 ヘンジ した コ の カオ を みながら、 その コ の セキ へ ちかづいて ゆく と、 2 ネンセイ が どっと わらいだした。 ホンモノ の オカダ イソキチ は こまって つったって いる。
「ソンキ よ、 ヘンジ せえ」
 キョウダイ らしく、 よく にた カオ を した 2 ネンセイ の オンナ の コ が、 イソキチ に むかって、 コゴエ で けしかけて いる。
「ミンナ ソンキ って いう の?」
 センセイ に きかれて、 ミンナ は イチヨウ に うなずいた。
「そう、 そんなら イソキチ の ソンキ さん」
 また、 どっと わらう ナカ で、 センセイ も イッショ に わらいだしながら エンピツ を うごかし、 その ヨビナ をも シュッセキボ に ちいさく つけこんだ。
「ツギ は、 タケシタ タケイチ くん」
「はい」 リコウ そう な オトコ の コ で ある。
「そうそう、 はっきり と、 よく オヘンジ できた わ。 ――その ツギ は、 トクダ キチジ くん」
 トクダ キチジ が イキ を すいこんで、 ちょっと マ を おいた ところ を、 さっき、 オカダ イソキチ の とき 「いる」 と いった コ が、 すこし イイキ に なった カオツキ で、 すかさず、
「キッチン」
と、 さけんだ。 ミンナ が また わらいだした こと で アイザワ ニタ と いう その コ は ますます イイキ に なり、 ツギ に よんだ モリオカ タダシ の とき も、 「タンコ」 と どなった。 そして、 ジブン の バン に なる と、 いっそう オオゴエ で、
「はーい」
 センセイ は エガオ の ナカ で、 すこし たしなめる よう に、
「アイザワ ニタ くん は、 すこし オセッカイ ね。 コエ も おおきすぎる わ。 コンド は、 よばれた ヒト が、 ちゃんと ヘンジ して ね。 ――カワモト マツエ さん」
「はい」
「アンタ の こと、 ミンナ は どう いう の?」
「マッチャン」
「そう、 アンタ の オトウサン、 ダイク さん?」
 マツエ は コックリ を した。
「ニシグチ ミサコ さん」
「はい」
「ミサ ちゃん て いう ん でしょ」
 カノジョ も また、 カブリ を ふり、 ちいさな コエ で、
「ミイ さん、 いう ん」
「あら、 ミイ さん いう の。 かわいらしい のね。 ――ツギ は、 カガワ マスノ さん」
「へい」
 おもわず ふきだしそう に なる の を こらえこらえ、 センセイ は おさえた よう な コエ で、
「へい は、 すこし おかしい わ。 はい って いいましょう ね、 マスノ さん」
 すると、 オセッカイ の ニタ が また クチ を いれた。
「マア ちゃん じゃ」
 センセイ は もう それ を ムシ して、 つぎつぎ と ナマエ を よんだ。
「キノシタ フジコ さん」
「はい」
「ヤマイシ サナエ さん」
「はい」
 ヘンジ の たび に その コ の カオ に ビショウ を おくりながら、
「カベ コツル さん」
 キュウ に ミンナ が わいわい さわぎだした。 ナニゴト か と おどろいた センセイ も、 クチグチ に いって いる こと が わかる と、 カガワ マスノ の へい より も、 もっと おかしく、 わかい センセイ は とうとう わらいだして しまった。 ミンナ は いって いる の だった。 カベ こっつる、 カベ こっつる、 カベ に アタマ を カベ こっつる。
 カチキ らしい カベ コツル は なき も せず、 しかし あかい カオ を して うつむいて いた。 その サワギ も やっと おさまって、 オシマイ の カタギリ コトエ の シュッセキ を とった とき には もう、 45 フン の ジュギョウ ジカン は たって しまって いた。 カベ コツル が チリリンヤ (コシ に リン を つけて、 ヨウタシ を する ベンリヤ) の ムスメ で あり、 キノシタ フジコ が キュウカ の コドモ で あり、 へい と ヘンジ を した カガワ マスノ が マチ の リョウリヤ の ムスメ で あり、 ソンキ の オカダ イソキチ の イエ が トウフヤ で、 タンコ の モリオカ タダシ が アミモト の ムスコ と、 センセイ の ココロ の メモ には その ヒ の うち に かきこまれた。 ソレゾレ の カギョウ は トウフヤ と よばれ、 コメヤ と よばれ、 アミヤ と よばれて は いて も、 その どの イエ も メイメイ の ショウバイ だけ では クラシ が たたず、 ヒャクショウ も して いれば、 カタテマ には リョウシ も やって いる。 そういう ジョウタイ は オオイシ センセイ の ムラ と おなじ で ある。 ダレ も カレ も スンカ を おしんで はたらかねば クラシ の たたぬ ムラ、 だが、 ダレ も カレ も はたらく こと を いとわぬ ヒトタチ で ある こと は、 その カオ を みれば わかる。
 この、 キョウ はじめて ヒトツ の カズ から おしえこまれよう と して いる ちいさな コドモ が、 ガッコウ から かえれば すぐに コモリ に なり、 ムギツキ を てつだわされ、 アミヒキ に ゆく と いう の だ。 はたらく こと しか モクテキ が ない よう な この カンソン の コドモ たち と、 どのよう に して つながって ゆく か を おもう とき、 イッポンマツ を ながめて なみだぐんだ カンショウ は、 ハズカシサ で しか かんがえられない。 キョウ はじめて キョウダン に たった オオイシ センセイ の ココロ に、 キョウ はじめて シュウダン セイカツ に つながった 12 ニン の 1 ネンセイ の ヒトミ は、 ソレゾレ の コセイ に かがやいて ことさら インショウ-ぶかく うつった の で ある。
 この ヒトミ を、 どうして にごして よい もの か!
 その ヒ、 ペダル を ふんで 8 キロ の ミチ を イッポンマツ の ムラ へ と かえって ゆく オオイシ センセイ の はつらつ と した スガタ は、 アサ より も いっそう オテンバ-らしく、 ムラビト の メ に うつった。
「さよなら」
「さよなら」
「さよなら」
 であう ヒト ミンナ に アイサツ を しながら はしった が、 ヘンジ を かえす ヒト は すくなかった。 ときたま あって も、 だまって うなずく だけ で ある。 その はず で、 ムラ では もう オオイシ センセイ ヒハン の コエ が あがって いた の だ。
 ――ミンナ の アダナ まで チョウメン に つけこんだ そう な。
 ――ニシグチヤ の ミイ さん の こと を、 かわいらしい と いうた そう な。
 ――もう、 はやのこめ から、 ヒイキ しよる。 ニシグチヤ じゃ、 なんぞ もって いって オジョウズ した ん かも しれん。
 なんにも しらぬ オオイシ センセイ は、 コガラ な カラダ を かろやか に のせて、 ムラハズレ の サカミチ に さしかかる と、 すこし マエコゴミ に なって アシ に チカラ を くわえ、 この はりきった オモイ を イッコク も はやく ハハ に かたろう と、 ペダル を ふみつづけた。 あるけば たいして かんじない ほど の ゆるやか な サカミチ は、 ユキ には こころよく すべりこんだ の だ が、 その ココロヨサ が カエリ には おもい ニモツ と なる。 そんな こと さえ、 カエリ で よかった と ありがたがる ほど すなお な キモチ で あった。
 やがて ヘイタン な ミチ に さしかかる と、 アサガタ であった セイト の イチダン も かえって きた。
 ――オオイシ、 コイシ
 ――オオイシ、 コイシ
 イクニン も の コエ の タバ が、 ジテンシャ の ソクド に つれ おおきく きこえて くる。 なんの こと か、 ハジメ は わからなかった センセイ も、 それ が ジブン の こと と わかる と おもわず コエ を だして わらった。 それ が アダナ に なった と、 さとった から だ。 わざと、 りりりりり と ベル を ならし、 すれちがいながら、 たかい コエ で いった。
「さよならぁ」
 わあっと カンセイ が あがり、 また、 オオイシ コイシ! と よびかける コエ が とおのいて ゆく。
 オナゴ センセイ の ホカ に、 コイシ センセイ と いう ナ が その ヒ うまれた の で ある。 カラダ が コツブ な から でも ある だろう。 あたらしい ジテンシャ に ユウヒ が まぶしく うつり、 きらきら させながら コイシ センセイ の スガタ は ミサキ の ミチ を はしって いった。
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ニジュウシ の ヒトミ 2

2018-08-07 | ツボイ サカエ
 2、 マホウ の ハシ

 トッパナ まで 4 キロ の ほそながい ミサキ の マンナカ アタリ にも ちいさな ブラク が ある。 イリウミ に そった しろい ミチ は、 この ショウブラク に さしかかる と ともに、 シゼン に ミサキ を よこぎって、 やがて ソトウミゾイ に、 ウミ を みおろしながら コイシ センセイ の ガッコウ の ある ミサキムラ へ と のびて いる。 この ソトウミゾイ の ミチ に さしかかる ゼンゴ に、 ホンコウ へ かよう セイト たち と であう の が、 マイニチ の キマリ の よう に なって いて、 もしも、 すこし でも バショ が ちがう と、 どちら か が あわてねば ならぬ。
「わあ、 コイシ センセイ きた ぞう」
 キュウ に アシバヤ に なる の は たいてい セイト の ほう だ が、 たまに は センセイ の ほう でも、 イリウミゾイ の ミチ で ユクテ に セイト の スガタ を みつけ、 あわてて ペダル に チカラ を いれる こと も ある。 そんな とき、 セイト の ほう の、 よろこぶまい こと か。 カオ を マッカ に して はしる センセイ に むかって、 はやしたてた。
「やあい、 センセイ の くせ に、 おくれた ぞぉ」
「ゲッキュウ、 ひく ぞぉ」
 そして、 わざと ジテンシャ の マエ に ハット する コドモ さえ あった。 そんな こと が たびかさなる と、 その ヒ イエ へ かえった とき の センセイ は、 オカアサン に こぼした。
「コドモ の くせ に、 ゲッキュウ ひく ぞぉ だって。 カンジョウ-だかい のよ。 いや ん なる」
 オカアサン は わらいながら、
「そんな こと、 オマエ、 キ に する バカ が ある かいな。 でも まあ、 1 ネン の シンボウ じゃ。 シンボウ、 シンボウ」
 だが、 そう いって なぐさめられる ほど、 クツウ は かんじて いなかった。 なれて くる と、 アサ はやく ジテンシャ を とばす 8 キロ の ミチノリ は あんがい たのしく、 ミサキ を よこぎる コロ には スピード が でて きて、 いつのまにか キョウソウ を して いた。 それ が また セイト の ココロ へ ひびかぬ はず が なく、 まけず に アシ が はやく なった。 シーソー ゲーム の よう に おしつ おされつ、 1 ガッキ も おわった ある ヒ、 ヨウジ で ホンコウ へ でむいて いった オトコ センセイ は ミョウ な こと を きいて かえった。 この 1 ガッキ-カン、 ミサキ の セイト は イチド も チコク しない と いう の だ。 カタミチ 5 キロ を あるいて かよう クロウ は ダレ にも わかって いる こと で、 ムカシ から、 ミサキ の コドモ の チコク だけ は オオメ に みられて いた の だ が、 ギャク に イチド も チコク が ない と なる と、 これ は とうぜん ほめられねば ならぬ。 もちろん、 イチダイ ジケン と して ほめられた の だ。 オトコ センセイ は それ を、 ジブン の テガラ の よう に おもって よろこび、
「なんしろ、 コトシ の セイト ん ナカ には、 タチ の よい の が おる から なあ」
 5 ネンセイ の ナカ に たった ヒトリ、 ホンコウ の オオゼイ の ナカ でも グン を ぬいて デキ の よい オンナ の コ が いる こと で、 ミサキ から かよって いる 30 ニン の ダンジョ セイト が チコク しなかった よう に いった。 だが それ は、 じつは オンナ センセイ の ジテンシャ の ため だった の だ。 しかし、 オンナ センセイ だ とて、 そう とは キ が つかなかった。 そして、 たびたび、 この ミサキ の ムラ の コドモ ら の キンベンサ に カンシン し、 イタズラ ぐらい は シンボウ す べき こと だ と おもった。 そう おもいながら、 ココロ の ナカ では ジブン の キンベンサ をも、 ひそか に ほめて やった。
 ――ワタシ だって、 トチュウ で パンク した とき に チコク した だけ だわ。 ワタシ は 8 キロ だ もの―― など と。 そして マド の ソト に メ を やり、 ジブン を いつも はげまして くれる オカアサン の こと を おもった。 おだやか な イリウミ は いかにも ナツ-らしく ぎらぎら ひかって、 ハハ の いる イッポンマツ の ムラ は しろい ナツグモ の シタ に かすんで みえた。 アケッピロゲ の マド から、 ウミカゼ が ながれこんで きて、 もう あと フツカ で ナツヤスミ に なる ヨロコビ が、 カラダジュウ に しみこむ よう な キ が した。 だが、 すこし かなしい の は、 なんと して も キ を ゆるさぬ よう な ムラ の ヒトタチ の こと だ。 それ を オトコ センセイ に こぼす と、 オトコ センセイ は オクバ の ない クチ を おおきく あけて わらい、
「そりゃあ ムリ な チュウモン じゃ。 アンタ が、 なんぼ ネッシン に カテイ ホウモン して も です な、 ヨウフク と ジテンシャ が ジャマ しとります わ。 ちっと ばかり まぶしくて、 キ が おける ん です。 そんな ムラ です から な」
 オンナ センセイ は びっくり して しまった。 カオ を あからめ、 うつむいて かんがえこんだ。
 ――キモノ きて、 あるいて かよえ と いう の かしら。 オウフク 4 リ (16 キロ) の ミチ を……。
 ナツヤスミ-チュウ にも ナンド か それ に ついて かんがえた が、 ケッシン の つかぬ うち に 2 ガッキ が きた。 コヨミ の ウエ では 9 ガツ と いって も、 ながい ヤスミ の アト だけ に アツサ は アツサ イジョウ に こたえ、 オンナ センセイ の ちいさな カラダ は すこし やせて、 カオイロ も よく なかった。 その アサ イエ を でかける とき、 センセイ の オカアサン は いった の で ある。
「ナン じゃ カン じゃ と いうて も、 3 ブン の 1 は すぎた で ない か。 シンボウ、 シンボウ。 もう ちょっと の シンボウ」
 てつだって ジテンシャ を だして くれながら、 なぐさめて くれた。 しかし、 センセイ でも オカアサン の マエ では、 ちょっと ワガママ を いって みたく なる こと は、 フツウ の ニンゲン と おなじ で ある。
「あーあ。 シンボ、 シンボ か」
 ハラ でも たてて いる よう に、 さあっと ジテンシャ を とばした。 シバラクブリ に カゼ を きって はしる ココロヨサ が ミ に しみる よう だった が、 キョウ から また、 ジテンシャ で かよう こと を おもう と キ が おもく なった。 ヤスミチュウ ナンド か ハナシ が でて、 ミサキ で ヘヤ でも かりよう か と いって も みた が、 けっきょく は ジテンシャ を つづける こと に なった の で ある。 ジテンシャ も、 アサ は よい けれど、 やけつく よう な、 ショネツ の てりかえす ミチ を、 セナカ に ユウヒ を うけて もどって くる とき の ツラサ は、 ときに イキ も とまる か と おもう こと も ある。 ミサキ の ムラ は メノマエ なのに、 ひがな マイニチ バカネン を いれて、 イリウミ を ぐるり と まわって かよう こと を かんがえる と、 くやしくて たまらない。 しかも ジテンシャ は ミサキ の ヒトタチ の キ に いらない と いう の だ。
 アンチキショ!
 クチ に だして は いわない が、 メノマエ に よこたわる ミサキ を にらまえる と、 おもわず アシ に チカラ が はいる。 めずらしく ナミ の ざわめく イリエ の ウミ を ミギ に へだてて、 ミサキ に ギャッコウ して はしりながら、 ああ、 と おもった。 キョウ は ニヒャク トオカ なの だ。 そう と キ が つく と、 なんとなく アラシ を ふくんだ カゼ が、 ジャケン に ホオ を なぐり、 しおっぽい カオリ を ぞんぶん に ただよわせて いる。 ミサキ の ヤマ の テッペン が かすか に ゆれうごいて いる よう なの は、 ソトウミ の ナミ の アラサ を おもわせて、 ちょっと フアン にも なった。 トチュウ で ジテンシャ を おりねば ならない かも しれぬ から なの だ。 そう なる と ジテンシャ ほど ジャマ な もの は ない。 しかし、 だから と いって イマ おりる わけ には もう ゆかない の だ と かんがえながら、 いつしか、 クウソウ は ハネ の ある トリ の よう に とびまわって いた。

……カゼ よ なげ! アリババ の よう に ワタシ が メイレイ を くだす と、 カゼ は たちまち チカラ を ぬいて、 ウミ は ウソ の よう に しずまりかえる。 まるで、 イマ、 ネムリ から さめた ばかり の ミズウミ の よう な シズカサ です。 ハシ よ かかれ! さっと ワタシ が ヒトサシユビ を マエ に のばす と、 ウミ の ウエ には たちまち ハシ が かかる。 リッパ な、 ニジ の よう に きれい な ハシ です。 ワタシ だけ に みえる、 そして、 ワタシ だけ が とおれる ハシ なの です。 ワタシ の ジテンシャ は、 そっと その ハシ の ウエ に さしかかります。 ワタシ は ゆっくり と ペダル を ふみます。 あわてて ウミ に おちこむ と タイヘン です から。 こうして ナナイロ の ソリハシ を ゆっくり と わたりました が、 イツモ より 45 フン も はやく ミサキ の ムラ へ つきました。 さあ タイヘン です。 ワタシ の スガタ を みた ムラ の ヒトタチ は、 いそいで トケイ の ハリ を 45 フン ほど すすめる し、 コドモ たち と きたら、 みる も キノドク な ほど あわてふためいて、 タベカケ の アサメシ を ノド に つめ、 アト は ろくに たべず に イエ を とびだしました。 ワタシ が ガッコウ に つく と、 イマ おきだした ばかり の オトコ センセイ は おどろいて イドバタ に かけつけ、 チョウズ を つかいはじめる し、 としとった オクサン は オクサン で、 ネマキ も きかえる マ が なく シチリン を やけに あおぎながら、 カタテ で エリモト を あわせあわせ、 きまりわるそう な テイサイ ワライ を し、 そっと メモト や クチモト を こすりました。 メ の わるい オクサン は、 アサ おきる と いつも メヤニ が たまって いる の です……。

 ここ だけ は ホントウ の こと なので、 おもわず くすっと わらった とき、 クウソウ は キリ の よう に きえて しまった。 ユクテ から、 カゼ に みだされながら イツモ の コエ が きこえた の で ある。
「コイシ センセエ」
 ヒトツキ-ぶり の コエ を きく と、 ぐっと カラダ に チカラ が はいり、 「はーい」 と こたえた ものの、 カゼ は その コエ を ウシロ の ほう へ もって いった よう だ。 おもった とおり、 ソトウミ の ガワ は おおきく ナミ が たちさわいで いて、 いかにも ヤクビ-らしい サマ を みせて いる。
「おそい のね、 キョウ は。 45 フン ぐらい おくれて いる かも しれない わよ」
 それ を きく と、 なつかしそう に たちどまって、 ナニ か はなしかけそう に した コドモ たち は、 ホンキ に して はしりだした。 センセイ の ほう も、 カゼ に さからって、 いっそう アシ に チカラ を いれた。 ときどき ホウコウ の きまらぬ よう な マイマイカゼ が ふいて きて、 ナンド も ジテンシャ を おりねば ならなく なったり した。 まったく、 45 フン ほど おくれそう だ。 ウミベ の ムラ でも イッポンマツ は いつも ミサキ に まもられて いる カタチ で、 ヤクビ にも たいした こと は ない の に くらべる と、 ほそながい ミサキ の ムラ は、 ソトウミ-ガワ の ハンブン が いつも ソウトウ の ガイ を うける らしい。 キギ の コエダ の ちぎれて とびちった ミチ を、 ジテンシャ も ナンジュウ しながら すすんだ。 おして あるく ほう が おおかった かも しれぬ。 こうして、 ホントウ に ずいぶん おくれて ムラ に さしかかった の で あった が、 ムラジュウ が ヒトメ で みえる ところ まで きて、 センセイ は おもわず たちどまって さけんだ。
「あらっ」
 ムラ の トッツキ の ちいさな ハトバ では、 ハトバ の すぐ イリグチ で ギョセン が テンプク して、 クジラ の セ の よう な フナゾコ を みせて いる し、 ハトバ に はいれなかった の か、 ドウロ の ウエ にも イクセキ か の フネ が あげられて いた。 ウミ から うちあげられた ジャリ で ミチ は うずまり、 とうてい ジテンシャ など とおれそう も ない ほど あれて いる の だ。 まるで、 ヨソ の ムラ へ きた よう な カワリカタ だった。 ウミベリ の イエ では どこ も みな、 ヤネガワラ を はがされた らしく、 ヤネ の ウエ に ヒト が あがって いた。 ダレヒトリ センセイ に アイサツ を する ユトリ も ない らしい ナカ を、 センセイ も また、 ミチ に うちあげられた イシ を よけながら、 ジテンシャ を おして やっと ガッコウ に たどりついた。 モン を はいって ゆく と、 どっと 1 ネンセイ が はしって きて、 とりまいた。 その どの カオ にも、 いきいき と した メ の ヒカリ が あった。 それ は、 サクヤ の アラシ の オトズレ を、 よろこんで でも いる よう に ゲンキ なの だ。 うわずった コエ の チョウシ で、 クチグチ に はなしかけよう と する の を、 すこし デシャバリ の カガワ マスノ が、 ワタシ が ホウコク の ヤク だ と でも いう ふう に、 その コエ の タカサ で ミンナ を おさえ、
「センセ、 ソンキ の ウチ、 ぺっちゃんこ に つぶれた ん。 カニ を たたきつけた よう に」
 マスノ の うすい クチビル から でた コトバ に おどろき、 だんだん おおきく メ を みひらいた センセイ は、 カオイロ さえ も すこし かえて、
「まあ、 ソンキ さん、 ウチ の ヒトタチ、 ケガ しなかった の?」
 みまわす と、 ソンキ の オカダ イソキチ は、 びっくり した の が まだ さめない ヨウス で、 コックリ を した。
「センセ、 ワタシ の ウチ は、 イド の ハネツルベ の サオ が マップタツ に おれて、 イドバタ の ミズガメ が われた ん」
 やっぱり マスノ が そう いった。
「タイヘン だった のね。 ホカ の ウチ、 どう だった の?」
「ヨロズヤ の オジサン が、 ヤネ の カコイ を しよって、 ヤネ から おちた ん」
「まあ」
「ミイ さん とこ で さえ、 アマド を とばした んで。 なあ ミイ さん」
 キ が つく と、 マスノ が ヒトリ で しゃべって いる。
「ホカ の ヒト どうした の。 なんでも なかった の?」
 ヤマイシ サナエ と メ が あう と、 ウチキ な サナエ は あかい カオ を して こっくり した。 マスノ は センセイ の スカート を ひっぱって、 ジブン の ほう へ チュウイ を ひき、
「センセ センセ、 それ より も まだ オオソウドウ なん よ。 コメヤ の タケイチ ん ク は、 ヌスット に はいられた のに、 なあ タケイチ。 コメ 1 ピョウ、 とられた んなあ」
 ドウイ を もとめられて タケイチ は、 うん と うなずき、
「ユダン しとった ん じゃ。 こんな アメカゼ の ヒ は だいじょうぶ と おもうたら、 ケサ ん なって みて みたら、 ちゃんと ナヤ の ト が あいとった ん。 ヌスット の ウチ まで、 コメツブ が こぼれとる かも しれん いうて、 オトッツァン が さがした けんど、 こぼれとらなんだ ん」
「まあ、 いろんな こと が あった のね。 ――ちょっと まって、 ジテンシャ おいて くる から、 また アト で ね」
 イツモ の とおり ショクインシツ の ほう へ あるいて ゆきながら、 ふっと、 イツモ と ちがった アカルサ を かんじて たちどまった センセイ は、 そこ で また おどろかされて しまった。 イド の ヤネ が ふっとんで、 ミオボエ の トタン ヤネ の アタリ が クウハク に なり、 その アタリ の ソラ に しろい クモ が とんで いた。 はしりまわって いた らしい ウシロ ハチマキ の オトコ センセイ が、 イツモ に にあわず アイソ の よい カオ で、
「やあ、 オナゴ センセイ、 どう です。 ユウベ は、 だいぶ あばれました な」
 タスキガケ の オクサン も でて きて、 アタマ の テヌグイ を ぬぎながら ヒサシブリ の アイサツ を し、
「イッポンマツ が、 おれました な」
「え、 ホント です か」
 センセイ は とびあがる ほど おどろき、 ジブン の ムラ の ほう に メ を やった。 イッポンマツ は イツモ の ところ に ちゃんと たって いる が、 よく みる と すこし ちがった スガタ を して いる。 たいした ボウフウ でも なかった のに、 トシ を へた ロウショウ は、 エダ を はった その ミキ の イチブ を カゼ に うばわれた もの らしい。 それにしても、 イリウミ を とりかこんだ ムラムラ に とって、 オオムカシ から ナニカ に つけて メジルシ に されて きた メイブツ の ロウショウ が ナン に あった の を、 ジモト の ジブン が きづかず に いた の が はずかしかった。 しかも ケサガタ は、 ゴウマン にも イイキ に なって、 イッポンマツ の シタ から ヒトサシユビ 1 ポン で マホウ の ハシ を かけ、 ナミ を しずめた の だ。 ムラ の トケイ を 45 フン も すすめさせる こと で、 ムラジュウ の ヒト を オオサワギ させた のに、 きて みれば それ どころ で ない オオサワギ なの だ。 オトコ センセイ は あわてて チョウズ を つかって いる どころ で なく、 ハダシ に なって はたらいて いる。 オクサン は シチリン など とっく に すまして、 きりり と した タスキガケ で はたらいて いる では ない か。
 ああ、 2 ガッキ ダイ 1 ニチ は シュッパツ から まちがって いた、 と オンナ センセイ は ひそか に かんがえた。 イエ を でる とき の、 オカアサン に たいして の ブアイソ を くいた の で ある。 3 ジカン-メ の ショウカ の とき、 オンナ センセイ は おもいついて、 セイト を つれ、 サイナン を うけた イエ へ オミマイ に ゆく こと に した。 いちばん ガッコウ に ちかい ニシグチ ミサコ の イエ へ より、 ミマイ の コトバ を のべた。 なんと いって も イエ が ぺっちゃんこ に なった ソンキ の イエ が ヒガイ の ダイイチバン だ と ミンナ が いう ので、 ツギ には コウジンサマ の ウエ に ある ソンキ の イエ へ むかった。 マスノ が ケサ いった、 カニ を たたきつけた よう だ と いう の を おもいだし、 それ は オトナ の クチマネ だろう と おもいながら、 へんに ジッカン を ともなって ソウゾウ された。 だが イエ は もう キンジョ の ヒトタチ の テダスケ で あらかた かたづいて いた。 ベツムネ の トウフ ナヤ の ほう が たすかった ので、 そこ の ドマ に じかに タタミ を いれて、 そこ へ カザイ ドウグ を はこんで いた。 イッカ 7 ニン が コンヤ から そこ に ねる の か と おもう と、 キノドクサ で すぐに は コトバ も でない で いる の を、 テツダイニン の ナカ から カワモト マツエ の チチオヤ が クチ を だし、 ダイク-らしい ヒョウキンサ で、 しかし イクブン か の ヒニク を まじえて いった。
「あ、 これ は これ は センセイ、 センセイ まで テツダイ に きて おくれた ん かな。 そんなら ひとつ、 その オオゼイ の デシ を つこうて ドウロ の イシ でも ハマ へ ころがして つかあさらん か (くださいません か)。 ここ は ダイク で ない と ツゴウ が わるい です わい。 それとも、 チョウナ でも もちます かな」
 よい ナグサミモノ と いわん ばかり に、 そこら の ヒトタチ が わらう。 センセイ は はっと し、 ノンキ-らしく みられた こと を はじた。 その とおり だ と おもった。 しかし、 せっかく きた の だ から、 ヒトコト でも ソンキ の イエ の ヒトタチ に ミマイ を いおう と おもい、 なんとなく ぐずぐず して いた が、 ダレ も とりあって くれない。 しかたなく もどりかけながら、 テレカクシ に コドモ たち に はかった。
「ね、 ミンナ で、 これから ドウロ の ジャリ ソウジ を しよう か」
「うん、 うん」
「しよう、 しよう」
 コドモ たち は オオヨロコビ で、 クモ の コ が ちる よう に かけだした。 アラシ の アト-らしい、 スガスガシサ を ともなった アツサ に つつまれて、 ムラ は スミズミ まで はっきり と みえた。
「よいしょっ と!」
「こいつめ!」
「コンチキィ!」
 メイメイ の チカラ に おうじた イシ を かかえて は、 ドウロ の ハジ から 2 メートル ばかり シタ の ハマ へ おとす の で ある。 フタリガカリ で やっと うごく よう な おおきな イシコロ も まじえて、 まるで アライソ の よう に イシ-だらけ の ミチ だった。 イマ は もう、 ただ しずか に たたえて いる だけ の よう な ウミ の ミズ が、 サクヤ は この たかい ドウロ の イシガキ を のりこえて、 こんな イシ まで うちあげる ほど あれくるった の か と おもう と、 その フシギ な シゼン の チカラ に おどろきあきれる ばかり だった。 ナミ は イシ を はこび、 カゼ は イエ を たおし、 ミサキ の ムラ は まったく オオソウドウ の イチヤ で あった の だ。 おなじ ニヒャク トオカ も、 ミサキ の ウチ と ソト では こう も ちがう の か と おもいながら、 センセイ は かかえた イシ を どしん と ハマ に なげ、 すぐ ソバ で、 なれた シグサ で イシ を けとばして いる 3 ネンセイ の オトコ の コ に きいた。
「シケ の とき、 いつも こんな ふう に なる の?」
「はい」
「そして、 ミンナ で イシ ソウジ する の?」
「はい」
 ちょうど、 そこ を カガワ マスノ の ハハオヤ が とおりかかり、
「まあま センセイ、 ゴクロウ で ござんす な。 でも、 キョウ は ざっと に した ほう が よろしい です わ。 どうせ また、 ウシロナノカ や ニヒャク ハツカ が ひかえとります から な」
 ホンソン の ほう で リョウリヤ と ヤドヤ を して いる マスノ の ハハ は、 ワガコ の いる ミサキ へ ヨウス を み に きた と いう こと で あった。 マスノ が とんで きて、 ハハオヤ の コシ に かじりつき、
「オカアサン、 おそろしかった んで、 ユウベ。 ウチ、 ごつげ な オト が して、 オバアサン に かじりついて ねた ん。 アサ おきたら、 ハネツルベ の サオ が おれとった んで。 ミズガメ が われて しもた ん」
 ケサ きいた こと を マスノ は くりかえして ハハ に かたって いた。 ふんふん と いちいち うなずいて いた マスノ の ハハオヤ は、 ハンブン は センセイ に むかって、
「ミサキ じゃあ フネ が ながされたり、 ヤネ が つぶれたり、 ごっそり カベ が おちて ウチ の ナカ が ミトオシ に なった ウチ も ある と きいた もん です から な、 びっくり して きた ん です けど、 ツルベ の サオ ぐらい で よかった、 よかった」
 マスノ の ハハオヤ が いって から、
「マア ちゃん、 ごっそり カベ が おちた って、 ダレ の ウチ?」
 マスノ は かかえて いた イシ を、 すてる の を わすれた よう に、 トクイ の ヒョウジョウ に なって、
「ニタ ん とこ よ センセイ。 カベ が おちて オシイレ ん ナカ ズブヌレ に なって しもた ん。 み に いったら、 ナカ が マルミエ じゃった。 バアヤン が オシイレ ん ナカ で こない して テンジョウ みよった」
 カオ を しかめて バアヤン の マネ を した ので、 センセイ は おもわず ふきだした の で ある。
「オシイレ が、 まあ」
 そう いった アト で、 ワライ は こみあげて きて、 ころころ と コエ に でて しまった。 なぜ そんな に センセイ が わらいだす の か セイト たち には わからなかった が、 マスノ は ヒトリ、 ジブン が センセイ を よろこばした よう な キ に なって、 キゲン の よい カオ を した。 ミンナ は いつか ヨロズヤ の ソバ まで きて いた。 ヨロズヤ の オカミサン は すごい ケンマク を カオ に だして はしりよって きて、 センセイ の マエ に たった。 カタ で イキ を しながら、 すぐに は モノ も いえない よう だ。 キュウ に ワライ を けした センセイ は、 すぐ オジギ を しながら、
「あら、 シツレイ いたしました。 シケ で タイヘン でした なあ。 キョウ は イシコロ ソウジ の オテツダイ を して います の」
 しかし、 オカミサン は まるで きこえない よう な ヨウス で、
「オナゴ センセイ、 アンタ イマ、 ナニ が おかしいて わろうた ん です か?」
「…………」
「ヒト が サイナン に おうた の が、 そんな おかしい ん です か。 ウチ の オトウサン は ヤネ から おちました が、 それ も おかしい でしょう。 みんごと たいした ケガ は、 しませなんだ けんど、 オオケガ でも したら、 なお、 おかしい でしょう」
「すみません。 そんな つもり は ちっとも――」
「いいえ、 そんなら なんで ヒト の サイナン を わろうた ん です。 オテイサイ に、 ミチ ソウジ など して もらいますまい。 とにかく、 ワタシ の ウチ の マエ は ほっといて もらいます。 ――ナン じゃ、 ジブン の ジテンシャ が はしれん から やってる ん じゃ ない か、 あほくさい。 そんなら、 ジブン だけ で やりゃあ よい……」
 アト の ほう は ヒトリゴト の よう に つぶやきながら、 びっくり して ニノク も つげない で いる センセイ を のこして、 ぷりぷり しながら ひきかえす と、 トナリ の カワモト ダイク の オカミサン に、 わざとらしい オオゴエ で はなしかけた。
「あきれた ヒト も ある もん じゃ な。 ヒト の サイナン を きいて、 けらけら わらう センセイ が あろう か。 ひとつ、 ねじこんで きた」
 やがて それ は、 また オヒレ が ついて ムラジュウ に つたわって ゆく に ちがいない。 じっと つったって、 2 フン-カン ほど かんがえこんで いた センセイ は、 シンパイ そう に とりまいて いる セイト たち に キ が つく と、 なきそう な カオ で わらって、 しかし コエ だけ は カイカツ に、
「さ、 もう やめましょう。 コイシ センセイ シッパイ の マキ だ。 ハマ で、 ウタ でも うたおう か」
 くるっと キビス を かえして サキ に たった。 その クチモト は わらって いる が、 ぽろん と ナミダ を こぼした の を、 コドモ たち が みのがす わけ は ない。
「センセイ が、 なきよる」
「ヨロズヤ の バアヤン が、 なかした んど」
 そんな ササヤキ が きこえて、 アト は ひっそり と、 ゾウリ の アシオト だけ に なった。 ふりかえって、 ないて なんか いない よう、 と わらって みせよう か と おもった トタン、 また ナミダ が こぼれそう に なった ので、 だまった。 この サイ わらう の は よく ない とも おもった。 さっき わらった の も、 ヨロズヤ の オカミサン が いう よう に、 ヒト の サイナン を わらった と いう より も、 ホントウ の ところ は、 マスノ の ミブリ が おかしく、 それ に つづいて、 オシイレ の レンソウ は、 1 ガッキ の ある ヒ の、 ニタ を おもいだして わらわせた の で あった。

「テンノウ ヘイカ は どこ に いらっしゃいます か?」
 はい、 はい と テ が あがった ナカ で、 めずらしく ニタ が さされ、
「はい、 ニタ くん」
 ニタ は カラダジュウ から しぼりだす よう な、 レイ の オオゴエ で、
「テンノウ ヘイカ は、 オシイレ の ナカ に おります」
 あんまり キバツ な コタエ に、 センセイ は ナミダ を だして わらった。 センセイ だけ で なく、 ホカ の セイト も わらった の だ。 ワライ は キョウシツ を ゆるがし、 ガッコウ の ソト まで ひびいて いった ほど だった。 トウキョウ、 キュウジョウ、 など と いう コエ が きこえて も、 ニタ は ガテン の ゆかぬ カオ を して いた。
「どうして、 オシイレ に テンノウ ヘイカ が いる の?」
 ワライ が やまって から きく と、 ニタ は しょうしょう ジシン を なくした コエ で、
「ガッコウ の、 オシイレ ん ナカ に かくして ある ん じゃ ない ん かい や」
 それ で わかった。 ニタ が いう の は テンノウ ヘイカ の シャシン だった の だ。 ホウアンデン の なかった ガッコウ では、 テンノウ ヘイカ の シャシン は オシイレ に カギ を かけて しまって あった の だ。

 ニタ の イエ の オシイレ の カベ が おちた こと は、 それ を おもいださせた の で あった。 わかい オンナ センセイ は、 おもいだす たび に わらわず に いられなかった の で ある が、 そんな イイワケ を ヨロズヤ の オカミサン に きいて も もらえず、 だまって あるいた。 ナミダ が こぼれて いる イマ で さえ、 その ハナシ は おかしい。 しかし その オカシサ を、 ヨロズヤ の オカミサン の コトバ は、 サシヒキ して ツリ を とった の で ある。 ハマ に でて ウタ でも うたわぬ こと には、 センセイ も セイト も キモチ の ヤリバ が なかった。 ハマ に おりる と センセイ は すぐ、 リョウテ を タクト に して、 うたいだした。

  ハル は はよ から カワベ の アシ に

「アワテ トコヤ」 で ある。 ミンナ が とりまいて、 ついて うたう。

  カニ が、 ミセ だし、 トコヤ で ござる
  ちょっきん、 ちょっきん、 ちょっきん な

 うたって いる うち に、 ミンナ の キモチ は、 いつのまにか はれて きて いた。

  ウサギャ おこる し、 カニャ ハジョ かく し
  しかたなくなく、 アナ へ と にげる

 オシマイ まで うたって いる うち に、 シッパイ した カニ の アワテブリ が、 ジブン たち の ナカマ が できた よう な オモシロサ で おもいだされ、 いつか また、 ココロ から わらって いる センセイ だった。 「この ミチ」 だの 「ちんちん チドリ」 だの、 1 ガッキ-チュウ に おぼえた ウタ を みんな うたい、 「オヤマ の タイショウ」 で ヒトヤスミ に なる と、 セイト たち は てんでに はしりまわり、 おとなしく センセイ を とりまいて いる の は 1 ネンセイ の 5~6 ニン だけ だった。 テイレ など めった に しない みだれた カミノケ を、 ウシロ で ダンゴ に して いる オンナ の コ も いる し、 イガグリ が ミミ の ウエ まで ノビホウダイ の オトコ の コ も あった。 トコヤ の ない ムラ では ガッコウ の バリカン が ひどく ヤク に たち、 それ は オトコ センセイ の ウケモチ だった。 カミノケ を ダンゴ に して いる オンナ の コ の ほう は、 オンナ センセイ が キ を くばって、 スイギン ナンコウ を ぬりこんで やらねば ならない。 さっそく、 アシタ は それ を やろう と おもいながら センセイ は たちあがり、
「さ、 キョウ は これ で オシマイ。 かえりましょう」
 はたはた と スカート の ヒザ を はらい、 ヒトアシ ウシロ に さがった トタン、 きゃあっ と ヒメイ を あげて たおれた。 オトシアナ に おちこんだ の だ。 イッショ に ヒメイ を あげた モノ、 げらげら わらいながら ちかよって くる モノ、 テ を たたいて よろこぶ モノ、 おどろいて コエ を のんで いる モノ、 その サワギ の ナカ から、 センセイ は なかなか たちあがろう と しなかった。 ヨコナリ に、 く の ジ に ねた まま、 スナ の ウエ に カミノケ を じかに くっつけて いる。 わらった モノ も、 テ を たたいた モノ も、 だまりこんで しまった。 イヨウ な もの を かんじた の だ。 つぶった リョウ の メ から ナミダ が ながれて いる の を みる と、 ヤマイシ サナエ が キュウ に なきだした。 その ナキゴエ に はげまされ でも した よう に、 「だいじょうぶ」 と いいながら やっと ハンシン を おこした センセイ は、 そうっと アナ の ナカ の アシ を うごかし、 こわい もの に さわる よう な ヨウス で、 クツ の ボタン を はずし ミギ の アシクビ に ふれた と おもう と、 そのまま また ヨコ に なって しまった。 もう おきあがろう とは しない。 やがて、 メ を つぶった まま、
「ダレ か、 オトコ センセイ、 よんで きて。 オナゴ センセイ が アシ の ホネ おって、 あるかれん て」
 ハチノス を つついた よう な オオサワギ に なった。 おおきな コドモ たち が どたばた かけだして いった アト で、 オンナ の コ は わあわあ なきだした。 まるで ハンショウ でも なりだした よう に、 ムラジュウ の ヒト が とびだして、 ミンナ そこ へ かけつけて きた。 マッサキ に きた タケイチ の チチオヤ は、 うつむいて ねて いる オンナ センセイ に ちかよって、 スナ の ウエ に ヒザ を つき、
「どう しました、 センセイ」
と、 のぞきこんだ。 しかし、 センセイ は カオ を しかめた まま、 モノ が いえない らしい。 コドモ たち から きかされて、 アシ の ケガ だ と わかる と、 すこし アンシン した ヨウス で、
「くじいた ん でしょう。 どれどれ」
 アシモト の ほう に まわり、 クツ を ぬがせ に かかる と、 センセイ は、 うっ と コエ を だして ますます カオ を しかめた。 クツ の アト を くっきり と つけて、 センセイ の アシクビ は、 2 バイ も の フトサ に なった か と おもう ほど はれて いた。 チ は でて いなかった。
「ひやす と、 よかろう がな」
 もう オオゼイ あつまって きて いる ヒトタチ に いう と、 トクダ キチジ の オトッツァン が、 いそいで よごれた コシ の テヌグイ を シオミズ に ぬらして きた。
「いたい ん です かい、 ひどく?」
 かけつけた オトコ センセイ に きかれて、 オンナ センセイ は だまって うなずいた。
「あるけそう に ない です かい?」
 また、 うなずいた。
「イッペン、 たって みたら?」
 だまって いる。 ニシグチ ミサコ の イエ から ミサコ の ハハオヤ が、 ウドンコ と タマゴ を ねった ハリグスリ を ヌノ に のばして もって きた。
「ホネ は、 おれとらん と おもいます が、 はやく イシャ に かかる か、 モミリョウジ した ほう が よろしい で」
「モミイシャ なら ナカマチ の クサカ が よかろう。 ホネツギ も する し」
「クサカ より、 ハシモト ゲカ の ほう が、 そりゃあ よかろう」
 クチグチ に いろんな こと を いった が、 ナニ を どう する にも ミサキ の ムラ では ゲカ の イシャ も、 モミリョウジ も なかった。 たった ヒトツ はっきり して いる こと は、 どうしても センセイ は あるけない と いう こと だった。 あれこれ ソウダン の ケッカ、 フネ で ナカマチ まで つれて ゆく こと に なった。 リョウシ の モリオカ タダシ の イエ の フネ で、 カベ コツル の オトウサン と タケイチ の アニ が こいで ゆく こと に ハナシ が きまった。 オトコ センセイ は ついて ゆく こと に なり、 オンナ センセイ を オンブ して フネ に のった。 すわらせたり、 おぶったり、 ねかせたり する たび に、 オンナ センセイ の ガマン した クチ から おもわず ウナリゴエ が でた。
 フネ が ナギサ を はなれだす と、 わあっと、 オンナ の コ の ナキゴエ が かたまって とんで きた。
「センセエ」
「オナゴ センセエ」
 コエ を カギリ に さけぶ モノ も いる。 コイシ センセイ は ミウゴキ も できず、 メ を つぶった まま、 だまって その コエ に おくられた。
「センセエ」
 コエ は しだいに とおざかり、 フネ は イリウミ の マンナカ に でた。 アサ、 マホウ の ハシ を かけた ウミ を、 センセイ は イマ、 イタサ を こらえながら、 かえって ゆく。
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