カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ボクトウ キタン 1

2019-03-21 | ナガイ カフウ
 ボクトウ キタン

 ナガイ カフウ

 1

 ワタクシ は ほとんど カツドウ シャシン を み に いった こと が ない。
 おぼろげ な キオク を たどれば、 メイジ 30 ネン コロ でも あろう。 カンダ ニシキチョウ に あった カシセキ キンキカン で、 サン フランシスコ シガイ の コウケイ を うつした もの を みた こと が あった。 カツドウ シャシン と いう コトバ の できた の も おそらくは その ジブン から で あろう。 それから 40 ヨネン を すぎた コンニチ では、 カツドウ と いう コトバ は すでに すたれて タ の もの に かえられて いる らしい が、 はじめて ミミ に した もの の ほう が くちなれて いいやすい から、 ワタクシ は いぜん と して ムカシ の ハイゴ を ここ に もちいる。
 シンサイ の ノチ、 ワタクシ の イエ に あそび に きた セイネン サッカ の ヒトリ が、 ジセイ に おくれる から と いって、 むりやり に ワタクシ を アカサカ タメイケ の カツドウゴヤ に つれて いった こと が ある。 なんでも その コロ ヒジョウ に ヒョウバン の よい もの で あった と いう が、 みれば モーパッサン の タンペン ショウセツ を キャクショク した もの で あった ので、 ワタクシ は あれ なら シャシン を みる にも およばない。 ゲンサク を よめば いい。 その ほう が もっと おもしろい と いった こと が あった。
 しかし カツドウ シャシン は ロウニャク の ワカチ なく、 イマ の ヒト の よろこんで これ を みて、 ニチジョウ の ワヘイ に して いる もの で ある から、 せめて ワタクシ も、 ヒト が なんの ハナシ を して いる の か と いう くらい の こと は わかる よう に して おきたい と おもって、 カツドウゴヤ の マエ を とおりかかる とき には カンバン の エ と ナダイ と には つとめて メ を むける よう に こころがけて いる。 カンバン を イチベツ すれば シャシン を みず とも キャクショク の コウガイ も ソウゾウ が つく し、 どういう バメン が よろこばれて いる か と いう こと も エトク せられる。
 カツドウ シャシン の カンバン を イチド に もっとも おおく イチベツ する こと の できる の は アサクサ コウエン で ある。 ここ へ くれば あらゆる シュルイ の もの を ヒトメ に ながめて、 おのずから その コウセツ をも ヒカク する こと が できる。 ワタクシ は シタヤ アサクサ の ホウメン へ でかける とき には かならず おもいだして コウエン に いり ツエ を イケ の フチ に ひく。
 ユウカゼ も おいおい さむく なくなって きた ある ヒ の こと で ある。 1 ケン 1 ケン イリグチ の カンバン を みつくして コウエン の ハズレ から センゾクマチ へ でた ので。 ミギ の ほう は コトトイバシ ヒダリ の ほう は イリヤマチ、 いずれ の ほう へ ゆこう か と シアン しながら あるいて ゆく と、 40 ゼンゴ の フルヨウフク を きた オトコ が いきなり ヨコアイ から あらわれでて、
「ダンナ、 ゴショウカイ しましょう。 いかが です」 と いう。
「いや ありがとう」 と いって、 ワタクシ は すこし ホチョウ を はやめる と、
「ゼッコウ の チャンス です ぜ。 リョウキテキ です ぜ。 ダンナ」 と いって ついて くる。
「いらない。 ヨシワラ へ ゆく ん だ」
 ポンビキ と いう の か、 ゲンジ と いう の か よく しらぬ が、 とにかく あやしげ な カンユウシャ を おいはらう ため に、 ワタクシ は クチ から デマカセ に ヨシワラ へ ゆく と いった の で ある が、 ユクサキ の さだまらない サンポ の ホウコウ は、 かえって これ が ため に ケッテイ せられた。 あるいて ゆく うち ワタクシ は ドテシタ の ウラマチ に フルホンヤ を 1 ケン しって いる こと を おもいだした。
 フルホンヤ の ミセ は、 サンヤボリ の ナガレ が チカ の アンキョ に セツゾク する アタリ から、 オオモン マエ ニホンヅツミバシ の タモト へ でよう と する うすぐらい ウラドオリ に ある。 ウラドオリ は サンヤボリ の ミズ に そうた カタカワマチ で、 タイガン は イシガキ の ウエ に たちつづく ジンカ の ハイメン に かぎられ、 こなた は ドカン、 チガワラ、 カワツチ、 ザイモク など の トンヤ が ジンカ の アイダ に やや ひろい ミセグチ を しめして いる が、 ホリ の ハバ の せまく なる に つれて しだいに まずしげ な コイエガチ に なって、 ヨル は ホリ に かけられた ショウホウジバシ、 サンヤバシ、 ジカタバシ、 カミアライバシ など いう ハシ の ヒ が わずか に ミチ を てらす ばかり。 ホリ も つき ハシ も なくなる と、 ヒトドオリ も ともに とだえて しまう。 この ヘン で ヨル も わりあい に おそく まで アカリ を つけて いる イエ は、 かの フルホンヤ と タバコ を うる アラモノヤ ぐらい の もの で あろう。
 ワタクシ は フルホンヤ の ナ は しらない が、 ミセ に つんで ある シナモノ は たいてい しって いる。 ソウカン トウジ の ブンゲイ クラブ か ふるい ヤマト シンブン の コウダン フロク でも あれば、 イガイ の ホリダシモノ だ と おもわなければ ならない。 しかし ワタクシ が わざわざ マワリミチ まで して、 この ミセ を たずねる の は フルホン の ため では なく、 フルホン を ひさぐ テイシュ の ヒトガラ と、 クルワソト の ウラマチ と いう ジョウミ との ため で ある。
 アルジ は アタマ を きれい に そった コガラ の ロウジン。 トシ は むろん 60 を こして いる。 その カオダチ、 モノゴシ、 コトバヅカイ から キモノ の キヨウ に いたる まで、 トウキョウ の シタマチ キッスイ の フウゾク を、 そのまま くずさず に のこして いる の が、 ワタクシ の メ には キコウ の コショ より も むしろ とうとく また なつかしく みえる。 シンサイ の コロ まで は シバイ や ヨセ の ガクヤ に ゆく と ヒトリ や フタリ、 こういう エド シタマチ の トシヨリ に あう こと が できた―― たとえば オトワヤ の オトコシュ の トメ ジイヤ だの、 タカシマヤ の つかって いた イチゾウ など いう トシヨリ たち で ある が、 イマ は いずれ も アノヨ へ いって しまった。
 フルホンヤ の テイシュ は、 ワタクシ が ミセサキ の ガラスド を あける とき には、 いつでも きまって、 ナカジキリ の ショウジギワ に きちんと すわり、 まるい セ を すこし ナナメ に ソト の ほう へ むけ、 ハナ の サキ へ おちかかる メガネ を タヨリ に、 ナニ か よんで いる。 ワタクシ の くる ジカン も たいてい ヨル の 7~8 ジ と きまって いる が、 その たび ごと に みる トシヨリ の スワリバショ も その カタチ も ほとんど きまって いる。 ト の あく オト に、 おりかがんだ まま、 クビ だけ ひょいと こなた へ むけ、 「おや、 いらっしゃいまし」 と メガネ を はずし、 チュウゴシ に なって ザブトン の チリ を ぽんと たたき、 はう よう な コシツキ で、 それ を しきのべながら、 さて テイネイ に アイサツ を する。 その コトバ も ヨウス も また カタドオリ に カワリ が ない。
「あいかわらず なにも ございません。 オメ に かける よう な もの は。 そうそう たしか ホウタン ザッシ が ありました。 そろっちゃ おりません が」
「タメナガ シュンコウ の ザッシ だろう」
「へえ。 ショゴウ が ついて おります から、 まあ オメ に かけられます。 おや、 どこ へ おいた かな」 と カベギワ に つみかさねた フルホン の アイダ から ガッポン 5~6 サツ を とりだし、 リョウテ で ぱたぱた チリ を はたいて さしだす の を、 ワタクシ は うけとって、
「メイジ 12 ネン オトドケ と して ある ね。 この ジブン の ザッシ を よむ と、 イノチ が のびる よう な キ が する ね。 ロブン チンポウ も ゼンブ そろった の が あったら ほしい と おもって いる ん だ が」
「ときどき でる にゃ でます が、 たいてい ばらばら で ございまして な。 ダンナ、 カゲツ シンシ は オモチアワセ で いらっしゃいます か」
「もって います」
 ガラスド の あく オト が した ので、 ワタクシ は テイシュ と ともに みかえる と、 これ も 60 あまり。 ホオ の こけた ハゲアタマ の ヒンソウ な オトコ が よごれた シマ の フロシキヅツミ を ミセサキ に ならべた フルホン の ウエ へ おろしながら、
「つくづく ジドウシャ は いや だ。 キョウ は すんでのこと に ころされる ところ さ」
「ベンリ で やすくって それ で マチガイ が ない なんて、 そんな もの は めった に ない よ。 それでも、 オマエサン。 ケガ あ しなさらなかった か」
「オマモリ が われた おかげ で ブジ だった。 ショウトツ した なあ サキ へ ゆく バス と エンタク だ が、 おもいだして も ぞっと する ね。 じつは キョウ ハトガヤ の イチ へ いった ん だ がね、 ミョウ な もの を かった。 ムカシ の もの は いい ね。 さしあたり ハケクチ は ない ん だ が みる と つい ドウラク が したく なる やつ さ」
 ハゲアタマ は フロシキヅツミ を とき、 オンナモノ らしい コモン の ヒトエ と ドウヌキ の ナガジュバン を だして みせた。 コモン は ネズミジ の コハマ チリメン、 ドウヌキ の ソデ に した ユウゼンゾメ も ちょっと かわった もの では ある が、 いずれ も イシン ゼンゴ の もの らしく とくに コダイ と いう ほど の シナ では ない。
 しかし ウキヨエ ニクヒツモノ の ヒョウソウ とか、 チカゴロ はやる テブンコ の ウチバリ とか、 また クサゾウシ の チツ など に もちいたら あんがい いい かも しれない と おもった ので、 その バ の デキゴコロ から ワタクシ は フルザッシ の カンジョウ を する ツイデ に ドウヌキ の ナガジュバン 1 マイ を かいとり、 ボウズアタマ の テイシュ が ホウタン ザッシ の ガッポン と ともに カミヅツミ に して くれる の を かかえて ソト へ でた。
 ニホンヅツミ を オウフク する ノリアイ ジドウシャ に のる つもり で、 ワタクシ は しばらく オオモン マエ の テイリュウジョウ に たって いた が、 ナガシ の エンタク に コエ を かけられる の が うるさい ので、 もと きた ウラドオリ へ まがり、 デンシャ と エンタク の とおらない うすぐらい ヨコチョウ を えらみえらみ あるいて ゆく と、 たちまち キ の アイダ から コトトイバシ の アカリ が みえる アタリ へ でた。 カワバタ の コウエン は ブッソウ だ と きいて いた ので、 カワ の キシ まで は ゆかず、 デントウ の あかるい コミチ に そうて、 クサリ の ひきまわして ある その ウエ に コシ を かけた。
 じつは こっち への キガケ に、 トチュウ で ショクパン と カンヅメ と を かい、 フロシキ へ つつんで いた ので、 ワタクシ は フルザッシ と フルギ と を ヒトツ に つつみなおして みた が、 フロシキ が すこし ちいさい ばかり か、 かたい もの と やわらかい もの とは どうも イッショ には うまく つつめない。 けっきょく カンヅメ だけ は ガイトウ の カクシ に おさめ、 ノコリ の もの を ヒトツ に した ほう が もちよい か と かんがえて、 シバフ の ウエ に フロシキ を たいら に ひろげ、 しきり に アンバイ を みて いる と、 いきなり ウシロ の コカゲ から、 「おい、 ナニ を して いる ん だ」 と いいさま、 サーベル の オト と ともに、 ジュンサ が あらわれ、 エンピ を のばして ワタクシ の カタ を おさえた。
 ワタクシ は ヘンジ を せず、 しずか に フロシキ の ムスビメ を なおして たちあがる と、 それ さえ まちどしい と いわぬ ばかり、 ジュンサ は ウシロ から ワタクシ の ヒジ を つき、 「そっち へ いけ」
 コウエン の コミチ を すぐさま コトトイバシ の キワ に でる と、 ジュンサ は ひろい ドウロ の ムコウガワ に ある ハシュツジョ へ つれて ゆき タチバン の ジュンサ に ワタクシ を ひきわたした まま、 いそがしそう に また どこ へ か いって しまった。
 ハシュツジョ の ジュンサ は イリグチ に たった まま、 「イマジブン、 どこ から きた ん だ」 と ジンモン に とりかかった。
「ムコウ の ほう から きた」
「ムコウ の ほう とは どっち の ほう だ」
「ホリ の ほう から だ」
「ホリ とは どこ だ」
「マツチヤマ の フモト の サンヤボリ と いう カワ だ」
「ナ は なんと いう」
「オオエ タダス」 と こたえた とき、 ジュンサ は テチョウ を だした ので、 「タダス は ハコ に オウ の ジ を かきます。 ヒトタビ テンカ ヲ タダス と ロンゴ に ある ジ です」
 ジュンサ は だまれ と いわぬ ばかり、 ワタクシ の カオ を にらみ、 テ を のばして いきなり ワタクシ の ガイトウ の ボタン を はずし、 ウラ を かえして みて、
「シルシ は ついて いない な」 つづいて ウワギ の ウラ を みよう と する。
「シルシ とは どういう シルシ です」 と ワタクシ は フロシキヅツミ を シタ に おいて、 ウワギ と チョッキ の ムネ を イチド に ひろげて みせた。
「ジュウショ は」
「アザブ ク オタンスマチ 1 チョウメ 6 バンチ」
「ショクギョウ は」
「なんにも して いません」
「ムショクギョウ か。 トシ は イクツ だ」
「ツチノト の ウ です」
「イクツ だよ」
「メイジ 12 ネン ツチノト の ウ の トシ」 それきり だまって いよう か と おもった が、 アト が こわい ので、 「58」
「いやに わかい な」
「へへへへ」
「ナマエ は なんと いった ね」
「イマ いいました よ。 オオエ タダス」
「カゾク は イクタリ だ」
「3 ニン」 と こたえた。 じつは ドクシン で ある が、 コンニチ まで の ケイケン で、 ジジツ を いう と、 いよいよ あやしまれる カタムキ が ある ので、 3 ニン と こたえた の で ある。
「3 ニン と いう の は オクサン と ダレ だ」 ジュンサ の ほう が いい よう に カイシャク して くれる。
「カカア と ババア」
「オクサン は イクツ だ」
 ちょっと こまった が、 4~5 ネン マエ まで しばらく カンケイ の あった オンナ の こと を おもいだして、 「31。 メイジ 39 ネン 7 ガツ 10 ヨッカ ウマレ ヒノエウマ……」
 もし ナマエ を きかれたら、 ジサク の ショウセツ-チュウ に ある オンナ の ナ を いおう と おもった が、 ジュンサ は なんにも いわず、 ガイトウ や セビロ の カクシ を ウエ から おさえ、
「これ は ナン だ」
「パイプ に メガネ」
「うむ。 これ は」
「カンヅメ」
「これ は、 カミイレ だね。 ちょっと だして みせたまえ」
「カネ が はいって います よ」
「いくら はいって いる」
「さあ 20~30 エン も ありましょう かな」
 ジュンサ は カミイレ を ぬきだした が ナカ は あらためず に デンワキ の シタ に すえた テイブル の ウエ に おき、 「その ツツミ は ナン だ。 こっち へ はいって ほどいて みせたまえ」
 フロシキヅツミ を とく と カミ に つつんだ パン と フルザッシ まで は よかった が、 ドウヌキ の なまめかしい ナガジュバン の カタソデ が だらり と さがる や いなや、 ジュンサ の タイド と ゴチョウ とは たちまち イッペン して、
「おい、 ミョウ な もの を もって いる な」
「いや、 ははははは」 と ワタクシ は わらいだした。
「これ あ オンナ の きる もん だな」 ジュンサ は ナガジュバン を ユビサキ に つまみあげて、 アカリ に かざしながら、 ワタクシ の カオ を にらみかえして、 「どこ から もって きた」
「フルギヤ から もって きた」
「どうして もって きた」
「カネ を だして かった」
「それ は どこ だ」
「ヨシワラ の オオモン マエ」
「いくら で かった」
「3 エン 70 セン」
 ジュンサ は ナガジュバン を テイブル の ウエ に なげすてた なり だまって ワタクシ の カオ を みて いる ので、 おおかた ケイサツショ へ つれて いって ブタバコ へ なげこむ の だろう と、 ハジメ の よう に からかう ユウキ が なくなり、 こっち も ジュンサ の ヨウス を みつめて いる と、 ジュンサ は やはり だまった まま ワタクシ の カミイレ を しらべだした。 カミイレ には いれわすれた まま オリメ の やぶれた カサイ ホケン の カリショウショ と、 ナニ か の とき に イリヨウ で あった コセキ ショウホン に インカン ショウメイショ と ジツイン と が はいって いた の を、 ジュンサ は 1 マイ 1 マイ しずか に のべひろげ、 それから ジツイン を とって テンコク した モジ を アカリ に かざして みたり して いる。 だいぶ ヒマ が かかる ので、 ワタクシ は イリグチ に たった まま ドウロ の ほう へ メ を うつした。
 ドウロ は コウバン の マエ で ナナメ に フタスジ に わかれ、 その ヒトスジ は ミナミ センジュ、 ヒトスジ は シラヒゲバシ の ほう へ はしり、 それ と コウサ して アサクサ コウエン ウラ の オオドオリ が コトトイバシ を わたる ので、 コウツウ は ヨル に なって も なかなか ヒンパン で ある が、 どういう こと か、 ワタクシ の ジンモン される の を あやしんで たちどまる ツウコウニン は ヒトリ も ない。 ムコウガワ の カド の シャツ-ヤ では ニョウボウ らしい オンナ と コゾウ と が こっち を みて いながら さらに あやしむ ヨウス も なく、 そろそろ ミセ を しまいかけた。
「おい。 もう いい から しまいたまえ」
「べつに イリヨウ な もの でも ありません から……」 つぶやきながら ワタクシ は カミイレ を しまい フロシキヅツミ を モト の よう に むすんだ。
「もう ヨウ は ありません か」
「ない」
「ごくろうさま でした な」 ワタクシ は マキタバコ も キングチ の ウエストミンスター に マッチ の ヒ を つけ、 カオリ だけ でも かいで おけ と いわぬ ばかり、 ケムリ を コウバン の ナカ へ ふきちらして アシ の むく まま コトトイバシ の ほう へ あるいて いった。 アト で かんがえる と、 コセキ ショウホン と インカン ショウメイショ と が なかった なら、 おおかた その ヨ は ブタバコ へ いれられた に ソウイ ない。 いったい フルギ は キミ の わるい もの だ。 フルギ の ナガジュバン が たたりそこねた の で ある。

 2

「シッソウ」 と だいする ショウセツ の フクアン が できた。 かきあげる こと が できた なら、 この ショウセツ は われながら、 さほど セツレツ な もの でも あるまい と、 イクブン か ジシン を もって いる の で ある。
 ショウセツ-チュウ の ジュウヨウ な ジンブツ を、 タネダ ジュンペイ と いう。 トシ 50 ヨサイ、 シリツ チュウガッコウ の エイゴ の キョウシ で ある。
 タネダ は ショコン の コイニョウボウ に さきだたれて から 3~4 ネン に して、 ケイサイ ミツコ を むかえた。
 ミツコ は チメイ の セイジカ ナニガシ の イエ に やとわれ、 フジン-ヅキ の コマヅカイ と なった が、 シュジン に あざむかれて ミオモ に なった。 シュカ では その シツジ エンドウ ナニガシ を して アト の シマツ を つけさせた。 その ジョウケン は ミツコ が ブジ に サン を した なら 20 カネン コドモ の ヨウイクヒ と して マイツキ 50 エン を おくる。 そのかわり コドモ の コセキ に ついて は シュカ では ぜんぜん あずかりしらない。 また ミツコ が タ へ かする バアイ には ソウトウ の ジサンキン を おくる と いう よう な こと で あった。
 ミツコ は シツジ エンドウ の イエ へ ひきとられ オトコ の コ を うんで 60 ニチ たつ か たたぬ うち やはり エンドウ の ナカダチ で チュウガッコウ の エイゴ キョウシ タネダ ジュンペイ なる モノ の ゴサイ と なった。 ときに ミツコ は 19、 タネダ は 30 サイ で あった。
 タネダ は ハジメ の コイニョウボウ を うしなって から、 ハッキュウ な セイカツ の ゼント に なんの キボウ をも みず、 チュウネン に ちかづく に したがって ゲンキ の ない カゲ の よう な ニンゲン に なって いた が、 キュウユウ の エンドウ に ときすすめられ、 ミツコ オヤコ の カネ に ふと ココロ が まよって サイコン を した。 その とき コドモ は うまれた ばかり で コセキ の テツヅキ も せず に あった ので、 エンドウ は ミツコ オヤコ の セキ を イッショ に タネダ の イエ に うつした。 それゆえ ノチ に なって コセキ を みる と、 タネダ フウフ は ひさしく ナイエン の カンケイ を つづけて いた ノチ、 チョウナン が うまれた ため、 はじめて ケッコン ニュウセキ の テツヅキ を した もの の よう に おもわれる。
 2 ネン たって オンナ の コ が うまれ、 つづいて また オトコ の コ が うまれた。
 オモテムキ は チョウナン で、 じつは ミツコ の ツレコ に なる タメトシ が テイネン に なった とき、 タネン ヒミツ の チチ から ミツコ の テモト に おくられて いた キョウイクヒ が とだえた。 ヤクソク の ネンゲン が おわった ばかり では ない。 ジップ は センネン ビョウシ し、 その フジン も また つづいて ヨ を さった ゆえ で ある。
 チョウジョ ヨシコ と スエコ タメアキ の セイチョウ する に したがって セイカツヒ は ネンネン おおく なり、 タネダ は 2~3 ゲン ヤガッコウ を カケモチ して あるかねば ならない。
 チョウナン タメトシ は シリツ ダイガク に ザイガクチュウ、 スポーツマン と なって ヨウコウ する。 イモウト ヨシコ は ジョガッコウ を ソツギョウ する や いなや カツドウ ジョユウ の ハナガタ と なった。
 ケイサイ ミツコ は ケッコン トウジ は あいくるしい マルガオ で あった の が いつか ヒマン した ババ と なり、 ニチレンシュウ に こりかたまって、 シント の ダンタイ の イイン に あげられて いる。
 タネダ の イエ は ある とき は さながら コウジュウ の ヨリアイジョ、 ある とき は ジョユウ の アソビバ、 ある とき は スポーツ の レンシュウジョウ も よろしく と いう アリサマ。 その サワガシサ には ダイドコロ にも ネズミ が でない くらい で ある。
 タネダ は もともと キ の よわい コウサイギライ な オトコ なので、 トシ を とる に つれて カナイ の ケンソウ には たえられなく なる。 サイシ の このむ もの は ことごとく タネダ の このまぬ もの で ある。 タネダ は カゾク の こと に ついて は つとめて ココロ を とめない よう に した。 オノレ の サイシ を レイガン に みる の が、 キ の よわい チチオヤ の せめても の フクシュウ で あった。
 51 サイ の ハル、 タネダ は キョウシ の ショク を やめられた。 タイショク テアテ を うけとった その ヒ、 タネダ は イエ に かえらず、 アト を くらまして しまった。
 これ より サキ、 タネダ は かつて その イエ に ゲジョ-ボウコウ に きた オンナ スミコ と ぐうぜん デンシャ の ナカ で カイコウ し、 その オンナ が アサクサ コマガタマチ の カフェー に はたらいて いる こと を しり、 1~2 ド おとずれて ビール の ヨイ を かった こと が ある。
 タイショク テアテ の カネ を フトコロ に した その ヨ で ある。 タネダ は はじめて ジョキュウ スミコ の ヘヤガリ を して いる アパート に ゆき、 ジジョウ を うちあけて ヒトバン とめて もらった……。

     *     *     *

 それから サキ どういう ふう に モノガタリ の ケツマツ を つけたら いい もの か、 ワタクシ は まだ テイアン を えない。
 カゾク が ソウサク ネガイ を だす。 タネダ が ケイジ に とらえられて セツユ せられる。 チュウネン-ゴ に おぼえた ドウラク は、 ムカシ から ナナツサガリ の アメ に たとえられて いる から、 タネダ の マツロ は わけなく どんな に でも ヒサン に する こと が できる の だ。
 ワタクシ は イロイロ に タネダ の ダラク して ゆく ミチスジ と、 その オリオリ の カンジョウ と を かんがえつづけて いる。 ケイジ に つかまって コウイン されて ゆく とき の ココロモチ、 サイシ に ひきわたされた とき の トウワク と メンボクナサ。 その ミ に なったら どんな もの だろう。 ワタクシ は サンヤ の ウラマチ で オンナ の フルギ を かった カエリミチ、 ジュンサ に つかまり、 ミチバタ の コウバン で きびしく ミモト を しらべられた。 この ケイケン は タネダ の シンリ を ビョウシャ する には もっとも ツゴウ の よい シリョウ で ある。
 ショウセツ を つくる とき、 ワタクシ の もっとも キョウ を もよおす の は、 サクチュウ ジンブツ の セイカツ および ジケン が カイテン する バショ の センタク と、 その ビョウシャ と で ある。 ワタクシ は しばしば ジンブツ の セイカク より も ハイケイ の ビョウシャ に オモキ を おきすぎる よう な アヤマチ に おちいった こと も あった。
 ワタクシ は トウキョウ シチュウ、 コライ メイショウ の チ に して、 シンサイ の ノチ あたらしき マチ が たてられて まったく キュウカン を うしなった、 その ジョウキョウ を ビョウシャ したい が ため に、 タネダ センセイ の センプク する バショ を、 ホンジョ か フカガワ か、 もしくは アサクサ の ハズレ。 さなくば、 それ に せっした キュウ グンブ の ロウコウ に もって ゆく こと に した。
 これまで オリオリ の サンサク に、 スナマチ や カメイド や、 コマツガワ、 テラジママチ アタリ の ケイキョウ には タイリャク つうじて いる つもり で あった が、 いざ フデ を つけよう と する と、 にわか に カンサツ の いたらない キ が して くる。 かつて、 (メイジ 35~36 ネン の コロ) ワタクシ は フカガワ スサキ ユウカク の ショウギ を シュダイ に して ショウセツ を つくった こと が ある が、 その とき これ を よんだ ユウジン から、 「スサキ ユウカク の セイカツ を ビョウシャ する の に、 8~9 ガツ-ゴロ の ボウフウウ や ツナミ の こと を うつさない の は ズサン の はなはだしい もの だ。 サクシャ センセイ の おかよい なすった キノエネ-ロウ の トケイダイ が ふきたおされた の も 1 ド や 2 ド の こと では なかろう」 と いわれた。 ハイケイ の ビョウシャ を セイサイ に する には キセツ と テンコウ と にも チュウイ しなければ ならない。 たとえば ラフカジオ ハーン センセイ の メイチョ チタ あるいは ユーマ の ごとく に。
 6 ガツ スエ の ある ユウガタ で ある。 ツユ は まだ あけて は いない が、 アサ から よく はれた ソラ は、 ヒ の ながい コロ の こと で、 ユウメシ を すまして も、 まだ たそがれよう とも しない。 ワタクシ は ハシ を おく と ともに すぐさま モン を いで、 とおく センジュ なり カメイド なり、 アシ の むく ほう へ いって みる つもり で、 ひとまず デンシャ で カミナリモン まで ゆく と、 ちょうど おりよく きあわせた の は テラジマ タマノイ と して ある ノリアイ ジドウシャ で ある。
 アズマバシ を わたり、 ひろい ミチ を ヒダリ に おれて ゲンモリバシ を わたり、 マッスグ に アキバ ジンジャ の マエ を すぎて、 また しばらく ゆく と クルマ は センロ の フミキリ で とまった。 フミキリ の リョウガワ には サク を マエ に して エンタク や ジテンシャ が イクリョウ と なく、 カモツ レッシャ の ゆるゆる とおりすぎる の を まって いた が、 あるく ヒト は あんがい すくなく、 ヒンカ の コドモ が イククミ と なく ムレ を なして あそんで いる。 おりて みる と、 シラヒゲバシ から カメイド の ほう へ はしる ひろい ミチ が ジュウモンジ に コウサク して いる。 ところどころ クサ の はえた アキチ が ある の と、 ヤナミ が ひくい の と で、 どの ミチ も ミワケ の つかぬ ほど おなじ よう に みえ、 ユクサキ は どこ へ つづく の やら、 なんとなく ものさびしい キ が する。
 ワタクシ は タネダ センセイ が カゾク を すてて ヨ を しのぶ ところ を、 この ヘン の ウラマチ に して おいたら、 タマノイ の サカリバ も ほどちかい ので、 ケツマツ の シュコウ を つける にも ツゴウ が よかろう と かんがえ、 1 チョウ ほど あるいて せまい ヨコミチ へ まがって みた。 ジテンシャ も コワキ に ニモツ を つけた もの は、 すれちがう こと が できない くらい な せまい ミチ で、 5~6 ポ ゆく ごと に まがって いる が、 リョウガワ とも わりあい に こぎれい な クグリモン の ある シャクヤ が ならんで いて、 ツトメサキ から の カエリ とも みえる ヨウフク の オトコ や オンナ が ヒトリ フタリ ずつ ゼンゴ して あるいて ゆく。 あそんで いる イヌ を みて も クビワ に カンサツ が つけて あって、 さほど きたならしく も ない。 たちまち に して トウブ テツドウ タマノイ テイシャジョウ の ヨコテ に でた。
 センロ の サユウ に ジュモク の うつぜん と おいしげった コウダイ な ベッソウ らしい もの が ある。 アズマバシ から ここ に くる まで、 このよう に ロウジュ の モリン を なした ところ は 1 カショ も ない。 いずれ も ひさしく テイレ を しない と みえて、 はいのぼる ツルクサ の オモサ に、 タケヤブ の タケ の ひくく しなって いる サマ や、 ドブギワ の イケガキ に ユウガオ の さいた の が、 いかにも フウガ に おもわれて ワタクシ の アユミ を ひきとどめた。
 ムカシ シラヒゲサマ の アタリ が テラジマ ムラ だ と いう ハナシ を きく と、 ワレワレ は すぐに 5 ダイメ キクゴロウ の ベッソウ を おもいだした もの で ある が、 コンニチ たまたま この ところ に このよう な テイエン が のこった の を メ に する と、 そぞろ に すぎさった ジダイ の ブンガ を おもいおこさず には いられない。
 センロ に そうて ウリカシチ の フダ を たてた ひろい クサバラ が テッキョウ の かかった ドテギワ に たっして いる。 キョネン-ゴロ まで ケイセイ デンシャ の オウフク して いた センロ の アト で、 くずれかかった イシダン の ウエ には とりはらわれた タマノイ テイシャジョウ の アト が ザッソウ に おおわれて、 こなた から みる と シロアト の よう な オモムキ を なして いる。
 ワタクシ は ナツクサ を わけて ドテ に のぼって みた。 メノシタ には さえぎる もの も なく、 イマ あるいて きた ミチ と アキチ と シンカイ の マチ と が ひくく みわたされる が、 ドテ の ムコウガワ は、 トタンブキ の ロウオク が チツジョ も なく、 ハテシ も なく、 ごたごた に たてこんだ アイダ から ユヤ の エントツ が キツリツ して、 その イタダキ に ナナ、 ヨウカ-ゴロ の ユウヅキ が かかって いる。 ソラ の イッポウ には ユウバエ の イロ が うすく のこって いながら、 ツキ の イロ には はやくも ヨル-らしい カガヤキ が でき、 トタンブキ の ヤネ の アイダアイダ から は ネオン サイン の ヒカリ と ともに ラディオ の ヒビキ が きこえはじめる。
 ワタクシ は アシモト の くらく なる まで イシ の ウエ に コシ を かけて いた が、 ドテシタ の マドマド にも ヒ が ついて、 むさくるしい 2 カイ の ナカ が すっかり みおろされる よう に なった ので、 クサ の アイダ に のこった ヒト の アシアト を たどって ドテ を おりた。 すると イガイ にも、 そこ は もう タマノイ の サカリバ を ナナメ に つらぬく ハンカ な ヨコチョウ の ナカホド で、 ごたごた たてつらなった ショウテン の アイダ の ロジグチ には 「ぬけられます」 とか、 「アンゼン ツウロ」 とか、 「ケイセイ バス チカミチ」 とか、 あるいは 「オトメ-ガイ」 あるいは 「ニギワイ ホンドオリ」 など かいた ヒ が ついて いる。
 だいぶ その ヘン を あるいた ノチ、 ワタクシ は ユウビンバコ の たって いる ロジグチ の タバコヤ で、 タバコ を かい、 5 エン サツ の ツリ を まって いた とき で ある。 とつぜん、 「ふって くる よ」 と さけびながら、 しろい ウワッパリ を きた オトコ が ムコウガワ の オデンヤ らしい ノレン の カゲ に かけこむ の を みた。 つづいて カッポウギ の オンナ や トオリガカリ の ヒト が ばたばた かけだす。 アタリ が にわか に ものけだつ か と みる マ も なく、 ふきおちる シップウ に ヨシズ や ナニ か の たおれる オト が して、 カミクズ と ゴミ と が モノノケ の よう に ミチ の ウエ を はしって ゆく。 やがて イナズマ が するどく ひらめき、 ゆるやか な ライ の ヒビキ に つれて、 ぽつり ぽつり と おおきな アメ の ツブ が おちて きた。 あれほど よく はれて いた ユウガタ の テンキ は、 いつのまにか かわって しまった の で ある。
 ワタクシ は タネン の シュウカン で、 カサ も もたず に モン を でる こと は めった に ない。 いくら はれて いて も ニュウバイチュウ の こと なので、 その ヒ も むろん カサ と フロシキ と だけ は テ に して いた から、 さして おどろき も せず、 しずか に ひろげる カサ の シタ から ソラ と マチ の サマ と を みながら あるきかける と、 いきなり ウシロ から、 「ダンナ、 そこ まで いれてって よ」 と いいさま、 カサ の シタ に マッシロ な クビ を つっこんだ オンナ が ある。 アブラ の ニオイ で ゆった ばかり と しられる おおきな ツブシ には ナガメ に きった ギンシ を かけて いる。 ワタクシ は イマガタ トオリガカリ に ガラスド を あけはなした オンナ カミユイ の ミセ の あった こと を おもいだした。
 ふきあれる カゼ と アメ と に、 ユイタテ の マゲ に かけた ギンシ の みだれる の が、 いたいたしく みえた ので、 ワタクシ は カサ を さしだして、 「オレ は ヨウフク だ から かまわない」
 じつは ミセツヅキ の あかるい トウカ に、 さすが の ワタクシ も アイアイガサ には すこしく キョウシュク した の で ある。
「じゃ、 よくって。 すぐ、 そこ」 と オンナ は カサ の エ に つかまり、 カタテ に ユカタ の スソ を おもうさま まくりあげた。

 3

 イナズマ が また ぴかり と ひらめき、 カミナリ が ごろごろ と なる と、 オンナ は わざとらしく 「あら」 と さけび、 ヒトアシ おくれて あるこう と する ワタクシ の テ を とり、 「はやく さ。 アナタ」 と もう なれなれしい チョウシ で ある。
「いい から サキ へ おいで。 ついて ゆく から」
 ロジ へ はいる と、 オンナ は まがる たび ごと に、 まよわぬ よう に ワタクシ の ほう に ふりかえりながら、 やがて ドブ に かかった コバシ を わたり、 ノキナミ イッタイ に ヨシズ の ヒオイ を かけた イエ の マエ に たちどまった。
「あら、 アナタ。 タイヘン に ぬれちまった わ」 と カサ を つぼめ、 ジブン の もの より も サキ に テノヒラ で ワタクシ の ウワギ の シズク を はらう。
「ここ が オマエ の ウチ か」
「ふいて あげる から、 よって いらっしゃい」
「ヨウフク だ から いい よ」
「ふいて あげる って いう のに さ。 ワタシ だって オレイ が したい わよ」
「どんな オレイ だ」
「だから、 まあ おはいんなさい」
 カミナリ の オト は すこし とおく なった が、 アメ は かえって ツブテ を うつ よう に いっそう はげしく ふりそそいで きた。 ノキサキ に かけた ヒオイ の シタ に いて も はねあがる シブキ の ハゲシサ に、 ワタクシ は とやかく いう イトマ も なく ウチ へ はいった。
 あらい オオサカ-ゴウシ を たてた ナカジキリ へ、 スズ の ついた リボン の スダレ が さげて ある。 その シタ の アガリガマチ に コシ を かけて クツ を ぬぐ うち に オンナ は ゾウキン で アシ を ふき、 はしょった スソ も おろさず シタザシキ の デントウ を ひねり、
「ダレ も いない から、 おあがんなさい」
「オマエ ヒトリ か」
「ええ。 ユウベ まで、 もう ヒトリ いた のよ。 スミカエ に いった のよ」
「オマエサン が ゴシュジン かい」
「いいえ。 ゴシュジン は ベツ の ウチ よ。 タマノイ-カン って いう ヨセ が ある でしょう。 その ウラ に スマイ が ある のよ。 マイバン 12 ジ に なる と チョウメン を み に くる わ」
「じゃあ ノンキ だね」 ワタクシ は すすめられる が まま ナガヒバチ の ソバ に すわり、 タテヒザ して チャ を いれる オンナ の ヨウス を みやった。
 トシ は 24~25 には なって いる で あろう。 なかなか いい キリョウ で ある。 ハナスジ の とおった マルガオ は オシロイヤケ が して いる が、 ユイタテ の シマダ の ハエギワ も まだ ぬけあがって は いない。 クロメガチ の メ の ナカ も くもって いず クチビル や ハグキ の ケッショク を みて も、 その ケンコウ は まだ さして ハカイ されて も いない よう に おもわれた。
「この ヘン は イド か スイドウ か」 と ワタクシ は チャ を のむ マエ に なにげなく たずねた。 イド の ミズ だ と こたえたら、 チャ は のむ フリ を して おく ヨウイ で ある。
 ワタクシ は カリュウビョウ より も むしろ チブス の よう な デンセンビョウ を おそれて いる。 ニクタイテキ より も はやく から セイシンテキ ハイジン に なった ワタクシ の ミ には、 カリュウビョウ の ごとき ビョウセイ の カンマン な もの は、 ロウゴ の コンニチ、 さして キ には ならない。
「カオ でも あらう の。 スイドウ なら そこ に ある わ」 と オンナ の チョウシ は きわめて キガル で ある。
「うむ。 アト で いい」
「ウワギ だけ おぬぎなさい。 ホント に ずいぶん ぬれた わね」
「ひどく ふってる な」
「ワタシ カミナリサマ より ひかる の が いや なの。 これ じゃ オユ にも ゆけ や しない。 アナタ。 まだ いい でしょう。 ワタシ カオ だけ あらって オシマイ して しまう から」
 オンナ は クチ を ゆがめて、 フトコロガミ で ハエギワ の アブラ を ふきながら、 ナカジキリ の ソト の カベ に とりつけた センメンキ の マエ に たった。 リボン の スダレゴシ に、 モロハダ を ぬぎ、 おりかがんで カオ を あらう スガタ が みえる。 ハダ は カオ より も ずっと イロ が しろく、 チブサ の カタチ で、 まだ コドモ を もった こと は ない らしい。
「なんだか ダンナ に なった よう だな。 こうして いる と。 タンス は ある し、 チャダナ は ある し……」
「あけて ごらんなさい。 オイモ か ナニ か ある はず よ」
「よく かたづいて いる な。 カンシン だ。 ヒバチ の ナカ なんぞ」
「マイアサ、 ソウジ だけ は ちゃんと します もの。 ワタシ、 こんな ところ に いる けれど、 ショタイモチ は ジョウズ なの よ」
「ながく いる の かい」
「まだ 1 ネン と、 ちょっと……」
「この トチ が はじめて じゃ ない ん だろう。 ゲイシャ でも して いた の かい」
 くみかえる ミズ の オト に、 ワタクシ の いう こと が きこえなかった の か、 または きこえない フリ を した の か、 オンナ は なんとも こたえず、 ハダヌギ の まま、 キョウダイ の マエ に すわり ケスキ で ビン を あげ、 カタ の ほう から オシロイ を つけはじめる。
「どこ に でて いた ん だ。 これ ばかり は かくせる もの じゃ ない」
「そう…… でも トウキョウ じゃ ない わ」
「トウキョウ の イマワリ か」
「いいえ。 ずっと トオク……」
「じゃ、 マンシュウ……」
「ウツノミヤ に いた の。 キモノ も みんな その ジブン の よ。 これ で タクサン だ わねえ」 と いいながら たちあがって、 エモンダケ に かけた スソモヨウ の ヒトエ に きかえ、 あかい ベンケイジマ の ダテジメ を おおきく マエ で むすぶ ヨウス は、 すこし おおきすぎる ツブシ の ギンシ と つりあって、 ワタクシ の メ には どうやら メイジ ネンカン の ショウギ の よう に みえた。 オンナ は エモン を なおしながら ワタクシ の ソバ に すわり、 チャブダイ の ウエ から バット を とり、
「エンギ だ から ゴシュウギ だけ つけて ください ね」 と ヒ を つけた 1 ポン を さしだす。
 ワタクシ は この トチ の アソビカタ を まんざら しらない の でも なかった ので、
「50 セン だね。 オブダイ は」
「ええ。 それ は オキマリ の ゴキソク-どおり だわ」 と わらいながら だした テノヒラ を ひっこまさず、 そのまま さしのばして いる。
「じゃ、 1 ジカン と きめよう」
「すみません ね。 ホントウ に」
「そのかわり」 と さしだした テ を とって ひきよせ、 ミミモト に ささやく と、
「しらない わよ」 と オンナ は メ を みはって にらみかえし、 「バカ」 と いいさま ワタクシ の カタ を うった。

 タメナガ シュンスイ の ショウセツ を よんだ ヒト は、 サクシャ が ジョジ の トコロドコロ に ジカ ベンゴ の ブン を さしはさんで いる こと を しって いる で あろう。 ハツコイ の ムスメ が ハズカシサ を わすれて おもう オトコ に よりそう よう な ジョウケイ を かいた とき には、 その アト で、 ドクシャ は この ムスメ が この バアイ の ヨウス や コトバヅカイ のみ を みて、 イタズラモノ だ と ダンテイ して は ならない。 シンソウ の ジョ も イチュウ を うちあける バアイ には ゲイシャ も およばぬ なまめかしい ヨウス に なる こと が ある。 また、 すでに さとなれた ユウジョ が ぐうぜん オサナナジミ の オトコ に めぐりあう ところ を うつした とき には、 クロト でも こういう とき には ムスメ の よう に もじもじ する もの で、 これ は この ミチ の ケイケン に とんだ ヒトタチ の ミナ ショウチ して いる ところ で、 サクシャ の カンサツ の いたらない わけ では ない の だ から、 その つもり で およみなさい と いう よう な こと が かきそえられて いる。
 ワタクシ は シュンスイ に ならって、 ここ に ジョウゴ を くわえる。 ドクシャ は はじめて ロボウ で あった この オンナ が、 ワタクシ を ぐうする タイド の なれなれしすぎる の を あやしむ かも しれない。 しかし これ は ジッチ の ソウグウ を ジュンショク せず に、 そのまま キジュツ した の に すぎない。 なんの サクイ も ない の で ある。 シュウウ ライメイ から ジケン の おこった の を みて、 これ また サクシャ ジョウトウ の ヒッポウ だ と わらう ヒト も ある だろう が、 ワタクシ は これ を おもんぱかる が ため に、 わざわざ コト を タ に もうける こと を ほっしない。 ユウダチ が テビキ を した この ヨ の デキゴト が、 まったく デントウテキ に、 オアツライドオリ で あった の を、 ワタクシ は かえって おもしろく おもい、 じつは それ が かいて みたい ため に、 この イッペン に フデ に とりはじめた わけ で ある。
 いったい、 この サカリバ の オンナ は 700~800 ニン と かぞえられて いる そう で ある が、 その ナカ に、 シマダ や マルマゲ に ゆって いる モノ は、 10 ニン に ヒトリ くらい。 ダイタイ は ジョキュウ マガイ の ニホンフウ と、 ダンサー-ゴノミ の ヨウソウ と で ある。 アマヤドリ を した イエ の オンナ が ごく ショウスウ の キュウフウ に ぞくして いた こと も、 どうやら チンプ の ヒッポウ に テキトウ して いる よう な ココロモチ が して、 ワタクシ は ジジツ の ビョウシャ を きずつける に しのびなかった。
 アメ は やまない。
 はじめ ウチ へ あがった とき には、 すこし コエ を たかく しなければ ハナシ が ききとれない ほど の フリカタ で あった が、 イマ では トグチ へ ふきつける カゼ の オト も カミナリ の ヒビキ も やんで、 トタンブキ の ヤネ を うつ アメ の オト と、 アマダレ の おちる コエ ばかり に なって いる。 ロジ には ひさしく ヒト の コエ も アシオト も とだえて いた が、 とつぜん、
「あらあら タイヘン だ。 キイ ちゃん。 ドジョウ が およいでる よ」 と いう きいろい コエ に つれて ゲタ の オト が しだした。
 オンナ は つと たって リボン の アイダ から ドマ の ほう を のぞき、 「ウチ は だいじょうぶ だ。 ドブ が あふれる と、 こっち まで ミズ が ながれて くる ん です よ」
「すこし は コブリ に なった よう だな」
「ヨイ の クチ に ふる と オテンキ に なって も ダメ なの よ。 だから、 ゆっくり して いらっしゃい。 ワタシ、 イマ の うち に ゴハン たべて しまう から」
 オンナ は チャダナ の ナカ から タクアンヅケ を ヤマモリ に した コザラ と、 チャヅケ-ヂャワン と、 それから アルミ の コナベ を だして、 ちょっと フタ を あけて ニオイ を かぎ、 ナガヒバチ の ウエ に のせる の を、 ナニ か と みれば サツマイモ の にた の で ある。
「わすれて いた。 いい もの が ある」 と ワタクシ は キョウバシ で ノリカエ の デンシャ を まって いた とき、 アサクサノリ を かった こと を おもいだして、 それ を だした。
「オクサン の オミヤゲ」
「オレ は ヒトリ なん だよ。 たべる もの は ジブン で かわなけりゃ」
「アパート で カノジョ と ゴイッショ。 ほほほほほ」
「それなら、 イマジブン うろついちゃあ いられない。 アメ でも カミナリ でも、 かまわず かえる さ」
「そう ねえ」 と オンナ は いかにも もっとも だ と いう よう な カオ を して あたたかく なりかけた オナベ の フタ を とり、 「イッショ に どう」
「もう たべて きた」
「じゃあ。 アナタ は ムコウ を むいて いらっしゃい」
「ゴハン は ジブン で たく の かい」
「スマイ の ほう から、 オヒル と ヨル の 12 ジ に もって きて くれる のよ」
「オチャ を いれなおそう かね。 オユ が ぬるい」
「あら。 はばかりさま。 ねえ。 アナタ。 ハナシ を しながら ゴハン を たべる の は タノシミ な もの ね」
「ヒトリ っきり の、 スッポリメシ は いや だな」
「まったく よ。 じゃあ、 ホント に オヒトリ。 かわいそう ねえ」
「さっして おくれ だろう」
「いい の、 さがして あげる わ」
 オンナ は チャヅケ を 2 ハイ ばかり。 なにやら はしゃいだ チョウシ で、 ちゃらちゃら と チャワン の ナカ で ハシ を ゆすぎ、 さも いそがしそう に サラコバチ を てばやく チャダナ に しまいながら も、 オトガイ を うごかして こみあげる タクアンヅケ の オクビ を おさえつけて いる。
 ソト には ヒト の アシオト と ともに 「ちょいと ちょいと」 と よぶ コエ が きこえだした。
「やんだ よう だ。 また ちかい うち に でて こよう」
「きっと いらっしゃい ね。 ヒルマ でも います」
 オンナ は ワタクシ が ウワギ を きかける の を みて、 ウシロ へ まわり エリ を おりかえしながら カタゴシ に ホオ を すりつけて、 「きっと よ」
「なんて いう ウチ だ。 ここ は」
「イマ、 メイシ あげる わ」
 クツ を はいて いる アイダ に、 オンナ は コマド の シタ に おいた もの の ナカ から シャミセン の バチ の カタチ に きった メイシ を だして くれた。 みる と テラジママチ 7 チョウメ 61 バンチ (2 ブ) アンドウ マサ-カタ ユキコ。
「さよなら」
「マッスグ に おかえんなさい」

ボクトウ キタン 2

2019-03-06 | ナガイ カフウ
 4

   ショウセツ 「シッソウ」 の イッセツ
 アズマバシ の マンナカ-ゴロ と おぼしい ランカン に ミ を よせ、 タネダ ジュンペイ は マツヤ の トケイ を ながめて は きかかる ヒトカゲ に キ を つけて いる。 ジョキュウ の スミコ が ミセ を しまって から わざわざ マワリミチ を して くる の を まちあわして いる の で ある。
 ハシ の ウエ には エンタク の ホカ デンシャ も バス も もう とおって いなかった が、 2~3 ニチ マエ から にわか の アツサ に、 シャツ 1 マイ で すずんで いる モノ も あり、 ツツミ を かかえて カエリ を いそぐ ジョキュウ らしい オンナ の ユキキ も まだ とだえず に いる。 タネダ は コンヤ スミコ の とまって いる アパート に ゆき、 それから ゆっくり ユクスエ の メアテ を さだめる つもり なので、 いった サキ で、 オンナ が どう なる もの やら、 そんな こと は さらに かんがえ も せず、 また かんがえる ヨユウ も ない。 ただ コンニチ まで 20 ネン の アイダ カゾク の ため に イッショウ を ギセイ に して しまった こと が、 いかにも にがにがしく、 ハラ が たって ならない の で あった。
「おまちどおさま」 おもった より はやく スミコ は コバシリ に かけて きた。 「いつでも、 コマガタバシ を わたって いく ん です よ。 だけれど、 カネコ さん と イッショ だ から。 あの コ、 クチ が うるさい から ね」
「もう デンシャ は なくなった よう だぜ」
「あるいたって、 テイリュウジョウ ミッツ ぐらい だわ。 その ヘン から エンタク に のりましょう」
「あいた ヘヤ が あれば いい が」
「なかったら コンヤ ヒトバン ぐらい、 ワタシ の とこ へ おとまんなさい」
「いい の か、 だいじょうぶ か」
「ナニ が さ」
「いつか シンブン に でて いた じゃ ない か。 アパート で つかまった ハナシ が……」
「バショ に よる ん だわ。 きっと。 ワタシ の ところ なんか ジユウ な もん よ。 オトナリ も ムカイガワ も みんな ジョキュウ さん か オメカケサン よ。 オトナリ なんか、 イロイロ な ヒト が くる らしい わ」
 ハシ を わたりおわらぬ うち に ナガシ の エンタク が アキバ ジンジャ の マエ まで 30 セン で ゆく こと を ショウチ した。
「すっかり かわって しまった な。 デンシャ は どこ まで ゆく ん だ」
「ムコウジマ の シュウテン。 アキバサマ の マエ よ。 バス なら マッスグ に タマノイ まで ゆく わ」
「タマノイ―― こんな ホウガク だった かね」
「ゴゾンジ」
「たった イチド ケンブツ に いった。 5~6 ネン マエ だ」
「にぎやか よ。 マイバン ヨミセ が でる し、 ハラッパ に ミセモノ も かかる わ」
「そう か」
 タネダ は とおりすぎる ミチ の リョウガワ を ながめて いる うち、 ジドウシャ は はやくも アキバ ジンジャ の マエ に きた。 スミコ は ト の ヒキテ を うごかしながら、
「ここ で いい わ。 はい」 と チンセン を わたし、 「そこ から まがりましょう。 あっち は コウバン が ある から」
 ジンジャ の イシガキ に ついて まがる と カタガワ は カリュウカイ の アカリ が つづいて いる ヨコチョウ の ツキアタリ。 にわか に くらい アキチ の イチグウ に、 アズマ アパート と いう アカリ が、 セメント-ヅクリ の シカク な イエ の ゼンメン を てらして いる。 スミコ は ヒキド を あけて ナカ に はいり、 ヘヤ の バンゴウ を しるした ゲタバコ に ゾウリ を しまう ので、 タネダ も おなじ よう に ハキモノ を とりあげる と、
「2 カイ へ もって ゆきます。 メ に つく から」 と スミコ は ジブン の スリッパー を オトコ に はかせ、 その ゲタ を テ に さげて ショウメン の カイダン を サキ に たって あがる。
 ソトガワ の カベ や マド は セイヨウフウ に みえる が、 ナカ は ハシラ の ほそい ニホンヅクリ で、 ぎしぎし オト の する カイダン を あがりきった ロウカ の カド に スイジバ が あって、 シュミーズ 1 マイ の オンナ が、 ダンパツ を ふりみだした まま ヤカン に ユ を わかして いた。
「こんばん」 と スミコ は かるく アイサツ を して ミギガワ の ハズレ から 2 バンメ の トビラ を カギ で あけた。
 タタミ の よごれた 6 ジョウ ほど の ヘヤ で、 イッポウ は オシイレ、 イッポウ の カベギワ には タンス、 タ の カベ には ユカタ や ボイル の ネマキ が ぶらさげて ある。 スミコ は マド を あけて、 「ここ が すずしい わ」 と コシマキ や タビ の さがって いる マド の シタ に ザブトン を しいた。
「ヒトリ で こうして いれば まったく キラク だな。 ケッコン なんか まったく ばからしく なる わけ だな」
「ウチ では しょっちゅう かえって こい って いう のよ。 だけれど、 もう ダメ ねえ」
「ボク も もうすこし はやく カクセイ すれば よかった の だ。 イマ じゃ もう おそい」 と タネダ は コシマキ の ほして ある マドゴシ に ソラ の ほう を ながめた が、 おもいだした よう に、 「アキマ が ある か、 きいて くれない か」
 スミコ は チャ を いれる つもり と みえて、 ユワカシ を もち、 ロウカ へ でて なにやら オンナ ドウシ で ハナシ を して いた が、 すぐ もどって きて、
「ムコウ の ツキアタリ が あいて いる そう です。 だけれど コンヤ は ジムショ の オバサン が いない ん です とさ」
「じゃ、 かりる わけ には いかない な。 コンヤ は」
「ヒトバン や フタバン、 ここ でも いい じゃ ない の。 アンタ さえ かまわなければ」
「オレ は いい が。 アンタ は どう する」 と タネダ は メ を まるく した。
「ワタシ。 ここ に ねる わ。 オトナリ の キミ ちゃん の とこ へ いって も いい のよ。 カレシ が きて いなければ」
「アンタ の とこ は ダレ も こない の か」
「ええ。 イマ の ところ。 だから かまわない のよ。 だけれど、 センセイ を ユウワク して も わるい でしょう」
 タネダ は わらいたい よう な、 なさけない よう な イッシュ ミョウ な カオ を した まま なんとも いわない。
「リッパ な オクサン も オジョウサン も いらっしゃる ん だし……」
「いや、 あんな もの。 オソマキ でも これから シンショウガイ に はいる ん だ」
「ベッキョ なさる の」
「うむ。 ベッキョ。 むしろ リベツ さ」
「だって、 そう は いかない でしょう。 なかなか」
「だから、 かんがえて いる ん だ。 ランボウ でも なんでも かまわない。 イチジ スガタ を くらます ん だな。 そう すれば ケツレツ の イトグチ が つく だろう と おもう ん だ。 スミコ さん。 アキベヤ の ハナシ が つかなければ、 メイワク を かけて も すまない から、 ボク は コンヤ だけ どこ か で とまろう。 タマノイ でも ケンブツ しよう」
「センセイ。 ワタシ も おはなし したい こと が ある のよ。 どう しよう か と おもって こまってる こと が ある のよ。 コンヤ は ねない で ハナシ を して くださらない」
「コノゴロ は じき ヨ が あける から ね」
「このあいだ ヨコハマ まで ドライブ したら、 カエリミチ には あかるく なった わ」
「アンタ の ミノウエバナシ は、 ハジメ っから きいたら、 ジョチュウ で ボク の イエ へ くる まで でも タイヘン な もの だろう。 それから ジョキュウ に なって から、 まだ サキ が ある ん だ から な」
「ヒトバン じゃ たりない かも しれない わね」
「まったく…… ははははは」
 ひとしきり しんと して いた 2 カイ の どこやら から、 ダンジョ の ハナシゴエ が きこえだした。 スイジバ では またしても ミズ の オト が して いる。 スミコ は しんじつ よどおし ハナシ を する つもり と みえて、 オビ だけ といて テイネイ に たたみ、 タビ を その ウエ に のせて オシイレ に しまい、 それから チャブダイ の ウエ を ふきなおして チャ を いれながら、
「ワタシ の こう なった ワケ、 センセイ は ナン だ と おもって」
「さあ、 やっぱり トカイ の アコガレ だ と おもう ん だ が、 そう じゃ ない の か」
「それ も むろん そう だ けれど、 それ より か、 ワタシ チチ の ショウバイ が、 とても いや だった の」
「ナン だね」
「オヤブン とか キョウカク とか いう ん でしょう。 とにかく ボウリョクダン……」 と スミコ は コエ を ひくく した。

 5

 ツユ が あけて ショチュウ に なる と、 キンリン の イエ の トショウジ が イッセイ に あけはなされる せい でも ある か、 タ の ジセツ には きこえなかった モノオト が にわか に みみだって きこえて くる。 モノオト の ナカ で もっとも ワタクシ を くるしめる もの は、 イタベイ 1 マイ を へだてた リンカ の ラディオ で ある。
 ユウガタ すこし すずしく なる の を まち、 トウカ の ツクエ に むかおう と する と、 ちょうど その コロ から ヒビ の いった よう な するどい モノオト が わきおこって、 9 ジ すぎて から で なくて は やまない。 この モノオト の ナカ でも、 ことに はなはだしく ワタクシ を くるしめる もの は キュウシュウ ベン の セイダン、 ナニワブシ、 それから ガクセイ の エンゲキ に ルイジ した ロウドク に ヨウガク を とりまぜた もの で ある。 ラディオ ばかり では ものたらない と みえて、 チュウヤ ジカン を かまわず チクオンキ で ハヤリウタ を ならしたてる イエ も ある。 ラディオ の モノオト を さける ため に、 ワタクシ は マイトシ ナツ に なる と ユウメシ も そこそこ に、 ある とき は ユウメシ も ソト で くう よう に、 6 ジ を アイズ に して イエ を でる こと に して いる。 ラディオ は イエ を でれば きこえない と いう わけ では ない。 ミチバタ の ジンカ や ショウテン から は いちだん はげしい ヒビキ が はなたれて いる の で ある が、 デンシャ や ジドウシャ の ヒビキ と コンコウ して、 シガイ イッパン の ソウオン と なって きこえる ので、 ショサイ に コザ して いる とき に くらべる と、 あるいて いる とき の ほう が かえって キ に ならず、 よほど ラク で ある。
「シッソウ」 の ソウコウ は ツユ が あける と ともに ラディオ に さまたげられ、 チュウゼツ して から もう トオカ あまり に なった。 どうやら そのまま カンキョウ も きえうせて しまいそう で ある。
 コトシ の ナツ も、 サクネン また イッサクネン と おなじ よう に、 マイニチ まだ ヒ の ぼっしない うち から イエ を でる が、 じつは ゆく べき ところ、 あゆむ べき ところ が ない。 コウジロ ソウヨウ-オウ が いきて いた コロ には マイヨ かかさぬ ギンザ の ヨスズミ も、 イチヤ ごと に キョウミ の くわわる ほど で あった の が、 その ヒト も すでに ヨ を さり、 ガイトウ の ヤショク にも、 ワタクシ は もう あきはてた よう な ココロモチ に なって いる。 これ に くわえて、 ソノゴ ギンザ-ドオリ には うっかり ゆかれない よう な こと が おこった。 それ は シンサイ-ゼン シンバシ の ゲイシャヤ に デイリ して いた と いう シャフ が イマ は イッケン して ヒトゴロシ でも した こと の ありそう な、 ニンソウ と フウテイ の わるい ナラズモノ に なって、 おりふし オワリ-チョウ ヘン を ハイカイ し、 ムカシ ミオボエ の ある オキャク の とおる の を みる と ムシン ナンダイ を いいかける こと で ある。
 はじめ クロサワ ショウテン の カド で 50 セン ギンカ を めぐんだ の が かえって わるい レイ と なり、 めぐまれぬ とき は アクセイ を はなつ ので、 ヒトダカリ の する の が イヤサ に また 50 セン やる よう に なって しまう。 この オトコ に サカテ の ムシン を される の は ワタクシ ばかり では あるまい と おもって、 ある バン あざむいて ヨツツジ の ハシュツジョ へ つれて ゆく と、 タチバン の ジュンサ とは とうに ナジミ に なって いて、 ジュンサ は メンドウクササ に とりあって くれる ヨウス をも みせなかった。 イズモ-チョウ…… いや 7 チョウメ の コウバン でも、 ある ヒ ジュンサ と わらいながら ハナシ を して いる の を みた。 ジュンサ の メ には ワタクシ など より この オトコ の ほう が かえって スジョウ が しれて いる の かも しれない。
 ワタクシ は サンサク の ホウメン を スミダガワ の ヒガシ に かえ、 ドブギワ の イエ に すんで いる オユキ と いう オンナ を たずねて やすむ こと に した。
 4~5 ニチ つづけて おなじ ミチ を オウフク する と、 アザブ から の トオミチ も ハジメ に くらべる と、 だんだん ク に ならない よう に なる。 キョウバシ と カミナリモン との ノリカエ も、 シュウカン に なる と イシキ より も カラダ の ほう が サキ に うごいて くれる ので、 さほど わずらわしい とも おもわない よう に なる。 ジョウキャク の ザットウ する ジカン や センロ が、 ヒ に よって ちがう こと も あきらか に なる ので、 これ を さけ さえ すれば、 トオミチ だけ に ゆっくり ホン を よみながら ゆく こと も できる よう に なる。
 デンシャ の ナカ での ドクショ は、 タイショウ 9 ネン の コロ ロウガンキョウ を かける よう に なって から まったく はいせられて いた が、 カミナリモン まで の トオミチ を オウフク する よう に なって ふたたび これ を おこなう こと に した。 しかし シンブン も ザッシ も シンカンショ も、 テ に する シュウカン が ない ので、 ワタクシ は はじめて の デガケ には、 テ に ふれる が まま ヨダ ガッカイ の ボクスイ ニジュウシケイ-キ を たずさえて いった。
 センジュ の ブン は モクゼン の ケイ に たいして イクブン の キョウ を そえる だろう と おもった から で ある。
 ワタクシ は ミッカ-メ ぐらい には サンポ の みちすがら ショクリョウヒン を かわねば ならない。 ワタクシ は その ツイデ に、 オンナ に おくる ミヤゲモノ をも かった。 この こと が オウホウ する こと わずか に 4~5 カイ に して、 ニジュウ の コウカ を おさめた。
 いつも カンヅメ ばかり かう のみ ならず、 シャツ や ウワギ も ボタン の とれた の を きて いる の を みて、 オンナ は いよいよ ワタクシ を アパート-ズマイ の ヒトリモノ と スイテイ した の で ある。 ヒトリミ ならば マイヨ の よう に あそび に いって も いっこう フシン は ない と いう こと に なる。 ラディオ の ため に イエ に いられない と おもう はず も なかろう し、 また シバイ や カツドウ を みない ので、 ジカン を クウヒ する ところ が ない。 ゆく ところ が ない ので くる ヒト だ とも おもう はず が ない。 この こと は イイワケ を せず とも シゼン に うまく いった が、 カネ の デドコロ に ついて ウタガイ を かけられ は せぬ か と、 バショガラ だけ に、 ワタクシ は それとなく シツモン した。 すると オンナ は その バン はらう もの さえ はらって くれれば、 ホカ の こと は てんで かんがえて も いない と いう ヨウス で、
「こんな とこ でも、 つかう ヒト は ずいぶん つかう わよ。 マル-ヒトツキ イツヅケ した オキャク が あった わ」
「へえ」 と ワタクシ は おどろき、 「ケイサツ へ とどけなくって も いい の か。 ヨシワラ なんか だ と じき とどける と いう ハナシ じゃ ない か」
「この トチ でも、 ウチ に よっちゃあ する かも しれない わ」
「イツヅケ した オキャク は ナン だった。 ドロボウ か」
「ゴフクヤ さん だった わ。 とうとう ミセ の ダンナ が きて つれて いった わ」
「カンジョウ の モチニゲ だね」
「そう でしょう」
「オレ は だいじょうぶ だよ。 その ほう は」 と いった が、 オンナ は どちら でも かまわない と いう カオ を して キキカエシ も しなかった。
 しかし ワタクシ の ショクギョウ に ついて は、 オンナ の ほう では とうから カッテ に とりきめて いる らしい こと が わかって きた。
 2 カイ の フスマ に ハンシ ヨツギリ ほど の オオキサ に フッコク した ウキヨエ の ビジンガ が ハリマゼ に して ある。 その ナカ には ウタマロ の アワビトリ、 トヨノブ の ニュウヨク ビジョ など、 かつて ワタクシ が ザッシ コノハナ の サシエ で みおぼえて いる もの も あった。 ホクサイ の サンサツボン、 フクトク ワゴウジン の ナカ から、 オトコ の スガタ を とりさり、 オンナ の ほう ばかり を のこした もの も あった ので、 ワタクシ は くわしく この ショ の セツメイ を した。 それから また、 オユキ が オキャク と ともに 2 カイ へ あがって いる アイダ、 ワタクシ は シタ の ヒトマ で テチョウ へ ナニ か かいて いた の を、 ちらと みて、 てっきり ヒミツ の シュッパン を ギョウ と する オトコ だ と おもった らしく、 コンド くる とき そういう ホン を 1 サツ もって きて くれ と いいだした。
 イエ には 20~30 ネン マエ に あつめた もの の ノコリ が あった ので、 こわれる まま 3~4 サツ イチド に もって いった。 ここ に いたって、 ワタクシ の ショクギョウ は いわず かたらず、 それ と きめられた のみ ならず、 アクセン の デドコロ も おのずから メイリョウ に なった らしい。 すると オンナ の タイド は いっそう うちとけて、 まったく キャクアツカイ を しない よう に なった。
 ヒカゲ に すむ オンナ たち が ヨ を しのぶ うしろぐらい オトコ に たいする とき、 おそれ も せず きらい も せず、 かならず シンミツ と アイレン との ココロ を おこす こと は、 カタ の ジツレイ に ちょうして ふかく セツメイ する にも およぶまい。 カモガワ の ゲイギ は バクリ に おわれる シシ を すくい、 カンエキ の シャクフ は セキショヤブリ の バクト に リョヒ を めぐむ こと を じさなかった。 トスカ は トウザン の ヒンシ に ショク を あたえ、 ミチトセ は ブライカン に レンアイ の シンジョウ を ささげて くいなかった。
 ここ に おいて ワタクシ の ユウリョ する ところ は、 この マチ の フキン、 もしくは トウブ デンシャ の ナカ など で、 ブンガクシャ と シンブン キシャ と に であわぬ よう に する こと だけ で ある。 この タ の ヒトタチ には どこ で あおう と、 アト を つけられよう と、 いっこう に サシツカエ は ない。 キンゲン な ヒトタチ から は ネンショウ の コロ から みかぎられた ミ で ある。 シンルイ の コドモ も ワタクシ の イエ には よりつかない よう に なって いる から、 イマ では けっきょく はばかる モノ は ない。 ただ ヒトリ おそる べき は ソウコ の シ で ある。 10 ヨネン マエ ギンザ の オモテドオリ に しきり に カフェー が できはじめた コロ、 ここ に ヨイ を かった こと から、 シンブン と いう シンブン は こぞって ワタクシ を ヒッチュウ した。 ショウワ 4 ネン の 4 ガツ 「ブンゲイ シュンジュウ」 と いう ザッシ は、 ヨ に 「セイゾン させて おいて は ならない」 ニンゲン と して ワタクシ を コウゲキ した。 その ブンチュウ には 「ショジョ ユウカイ」 と いう が ごとき モジ をも シヨウ した ところ を みる と ワタクシ を おとしいれて ハンポウ の ザイニン たらしめよう と した もの かも しれない。 カレラ は ワタクシ が ヨル ひそか に ボクスイ を わたって ヒガシ に あそぶ こと を タンチ した なら、 さらに ナニゴト を キト する か はかりがたい。 これ しんに おそる べき で ある。
 マイヨ デンシャ の ノリオリ のみ ならず、 この サト へ いりこんで から も、 ヨミセ の にぎわう オモテドオリ は いう まで も ない。 ロジ の コミチ も ヒト の おおい とき には、 ゼンゴ サユウ に キ を くばって あるかなければ ならない。 この ココロモチ は 「シッソウ」 の シュジンコウ タネダ ジュンペイ が ヨ を しのぶ キョウグウ を ビョウシャ する には ヒッシュ の ジッケン で あろう。

 6

 ワタクシ の しのんで かよう ドブギワ の イエ が テラジママチ 7 チョウメ 60 ナン-バンチ に ある こと は すでに しるした。 この バンチ の アタリ は この サカリバ では セイホク の スミ に よった ところ で、 メヌキ の バショ では ない。 かりに これ を ホクリ に たとえて みたら、 キョウマチ 1 チョウメ も ニシガシ に ちかい ハズレ と でも いう べき もの で あろう。 きいた ばかり の ハナシ だ から、 ちょっと つうめかして この サカリバ の エンカク を のべよう か。 タイショウ 7~8 ネン の コロ、 アサクサ カンノンドウ ウラテ の ケイダイ が せばめられ、 ひろい ドウロ が ひらかれる に さいして、 ムカシ から その ヘン に シッピ して いた ヨウキュウバ メイシュヤ の タグイ が ことごとく トリハライ を めいぜられ、 イマ でも ケイセイ バス の オウフク して いる タイショウ ドウロ の リョウガワ に トコロ さだめず ミセ を うつした。 つづいて デンボウイン の ヨコテ や エガワ タマノリ の ウラ アタリ から も おわれて くる もの が ひき も きらず、 タイショウ ドウロ は ほとんど のきなみ メイシュヤ に なって しまい、 ツウコウニン は ハクチュウ でも ソデ を ひかれ ボウシ を うばわれる よう に なった ので、 ケイサツショ の トリシマリ が きびしく なり、 クルマ の とおる オモテドオリ から ロジ の ウチ へ と ひっこませられた。 アサクサ の キュウチ では リョウウンカク の ウラテ から コウエン の キタガワ センゾクマチ の ロジ に あった もの が、 テ を つくして イノコリ の サク を こうじて いた が、 それ も タイショウ 12 ネン の シンサイ の ため に チュウゼツ し、 イチジ ことごとく この ホウメン へ にげて きた。 シガイ サイケン の ノチ ニシ ケンバン と しょうする ゲイシャヤ クミアイ を つくり テンギョウ した もの も あった が、 この トチ の ハンエイ は ますます さかん に なり ついに コンニチ の ごとき なかば エイキュウテキ な ジョウキョウ を ていする に いたった。 はじめ シチュウ との コウツウ は シラヒゲバシ の ホウメン ヒトスジ だけ で あった ので、 キョネン ケイセイ デンシャ が ウンテン を ハイシ する コロ まで は その テイリュウジョウ に ちかい ところ が いちばん にぎやか で あった。
 しかるに ショウワ 5 ネン の ハル トシ フッコウサイ の シッコウ せられた コロ、 アズマバシ から テラジママチ に いたる イッチョクセン の ドウロ が ひらかれ、 シナイ デンシャ は アキバ ジンジャ マエ まで、 シエイ バス の オウフク は さらに エンチョウ して テラジママチ 7 チョウメ の ハズレ に シャコ を もうける よう に なった。 それ と ともに トウブ テツドウ-ガイシャ が サカリバ の セイナン に タマノイ エキ を もうけ、 ヨル も 12 ジ まで カミナリモン から 6 セン で ヒト を のせて くる に および、 マチ の ケイセイ は ウラ と オモテ と、 まったく イッペン する よう に なった。 イマ まで いちばん わかりにくかった ロジ が、 いちばん はいりやすく なった カワリ、 イゼン メヌキ と いわれた ところ が、 イマ では ハズレ に なった の で ある が それでも ギンコウ、 ユウビンキョク、 ユヤ、 ヨセ、 カツドウ シャシンカン、 タマノイ イナリ の ごとき は、 いずれ も イゼン の まま タイショウ ドウロ に のこって いて、 リゾク ヒロコウジ、 または カイセイ ドウロ と よばれる あたらしい ミチ には、 エンタク の フクソウ と、 ヨミセ の ニギワイ と を みる ばかり で、 ジュンサ の ハシュツジョ も キョウドウ ベンジョ も ない。 このよう な ヘンピ な シンカイマチ に あって すら、 ジセイ に ともなう セイスイ の ヘン は まぬかれない の で あった。 いわんや ヒト の イッショウ に おいて をや。

 ワタクシ が ふと こころやすく なった ドブギワ の イエ…… オユキ と いう オンナ の すむ イエ が、 この トチ では タイショウ カイタクキ の セイジ を おもいおこさせる イチグウ に あった の も、 ワタクシ の ごとき ジウン に とりのこされた ミ には、 なにやら ふかい インネン が あった よう に おもわれる。 その イエ は タイショウ ドウロ から とある ロジ に いり、 よごれた ノボリ の たって いる フシミ イナリ の マエ を すぎ、 ドブ に そうて、 なお おくふかく いりこんだ ところ に ある ので、 オモテドオリ の ラディオ や チクオンキ の ヒビキ も ヒヤカシ の アシオト に けされて よく は きこえない。 ナツ の ヨ、 ワタクシ が ラディオ の ヒビキ を さける には これほど てきした アンソクジョ は ホカ には あるまい。
 いったい この サカリバ では、 クミアイ の キソク で オンナ が マド に すわる ゴゴ 4 ジ から チクオンキ や ラディオ を きんじ、 また シャミセン をも ひかせない と いう こと で。 アメ の しとしと と ふる バン など、 ふける に つれて、 ちょいと ちょいと の コエ も とだえがち に なる と、 イエ の ウチソト に むらがりなく カ の コエ が みみだって、 いかにも バスエ の ウラマチ-らしい ワビシサ が かんじられて くる。 それ も ショウワ ゲンダイ の ロウコウ では なく して、 ツルヤ ナンボク の キョウゲン など から かんじられる カコ の ヨ の うらさびしい ジョウミ で ある。
 いつも シマダ か マルマゲ に しか ゆって いない オユキ の スガタ と、 ドブ の キタナサ と、 カ の なく コエ とは ワタクシ の カンカク を いちじるしく シゲキ し、 30~40 ネン ムカシ に きえさった カコ の ゲンエイ を サイゲン させて くれる の で ある。 ワタクシ は この はかなく も あやしげ なる ゲンエイ の ショウカイシャ に たいして できうる こと なら あからさま に カンシャ の コトバ を のべたい。 オユキ さん は ナンボク の キョウゲン を えんじる ハイユウ より も、 ランチョウ を かたる ツルガ ナニガシ より も、 カコ を よびかえす チカラ に おいて は いっそう コウミョウ なる ムゴン の ゲイジュツカ で あった。
 ワタクシ は オユキ さん が オハチ を だきかかえる よう に して メシ を よそい、 さらさら オト を たてて チャヅケ を かっこむ スガタ を、 あまり あかるく ない デントウ の ヒカリ と、 たえざる ドブカ の コエ の ナカ に じっと ながめやる とき、 セイシュン の コロ なれしたしんだ オンナ たち の スガタ や その スマイ の サマ を ありあり と メノマエ に おもいうかべる。 ワタクシ の もの ばかり で ない。 トモダチ の オンナ の こと まで が おもいだされて くる の で ある。 その コロ には オトコ を 「カレシ」 と いい、 オンナ を 「カノジョ」 と よび、 フタリ の ワビズマイ を 「アイ の ス」 など と いう コトバ は まだ つくりだされて いなかった。 ナジミ の オンナ は 「キミ」 でも、 「アンタ」 でも なく、 ただ 「オマエ」 と いえば よかった。 テイシュ は ニョウボウ を 「オッカア」 ニョウボウ は テイシュ を 「チャン」 と よぶ モノ も あった。
 ドブ の カ の うなる コエ は コンニチ に あって も スミダガワ を ヒガシ に わたって ゆけば、 どうやら 30 ネン マエ の ムカシ と カワリ なく、 バスエ の マチ の ワビシサ を うたって いる のに、 トウキョウ の コトバ は この 10 ネン の アイダ に かわれば じつに かわった もの で ある。

  その アタリ かたづけて つる カチョウ かな
  さらぬだに あつくるしき を モメンガヤ
  イエジュウ は アキ の ニシビ や ドブ の フチ
  ワビズミ や ウチワ も おれて アキ あつし
  カヤ の アナ むすび むすびて 9 ガツ かな
  クズカゴ の ナカ から も でて なく カ かな
  のこる カ を かぞえる カベ や アメ の シミ
  この カヤ も サケ とや ならむ クレ の アキ

 これ は オユキ が すむ イエ の チャノマ に、 ある ヨ カヤ が つって あった の を みて、 ふと おもいだした キュウサク の ク で ある。 ナカバ は ボウユウ アア クン が フカガワ チョウケイジ ウラ の ナガヤ に オヤ の ゆるさぬ コイビト と かくれすんで いた の を、 その オリオリ たずねて いった とき よんだ もの で、 メイジ 43~44 ネン の コロ で あったろう。
 その ヨ オユキ さん は キュウ に ハ が いたく なって、 いましがた マドギワ から ひっこんで ねた ばかり の ところ だ と いいながら カヤ から はいだした が、 すわる バショ が ない ので、 ワタクシ と ならんで アガリガマチ へ コシ を かけた。
「イツモ より おそい じゃ ない のさ。 あんまり、 またせる もん じゃ ない よ」
 オンナ の コトバヅカイ は その タイド と ともに、 ワタクシ の ショウバイ が セケン を はばかる もの と スイテイ せられて から、 コウジツ の サカイ を こえて むしろ ホウラン に はしる キライ が あった。
「それ は すまなかった。 ムシバ か」
「キュウ に いたく なった の。 メ が まわりそう だった わ。 はれてる だろう」 と ヨコガオ を みせ、 「アナタ。 ルスバン して いて ください な。 ワタシ イマ の うち ハイシャ へ いって くる から」
「この キンジョ か」
「ケンサバ の すぐ テマエ よ」
「それじゃ コウセツ イチバ の ほう だろう」
「アナタ。 ホウボウ あるく と みえて、 よく しってる ん だねえ。 ウワキモノ」
「いたい。 そう ジャケン に する もん じゃ ない。 シュッセ マエ の カラダ だよ」
「じゃ たのむ わよ。 あんまり またせる よう だったら かえって くる わ」
「オマエ まちまち カヤ の ソト…… と いう わけ か。 シヨウ が ない」
 ワタクシ は オンナ の コトバヅカイ が ぞんざい に なる に したがって、 それ に テキオウ した チョウシ を とる よう に して いる。 これ は ミブン を かくそう が ため の シュダン では ない。 トコロ と ヒト と を とわず、 ワタクシ は ゲンダイ の ヒト と オウセツ する とき には、 あたかも ガイコク に いって ガイコクゴ を あやつる よう に、 アイテ と おなじ コトバ を つかう こと に して いる から で ある。 「オラ が クニ」 と ムコウ の ヒト が いったら こっち も 「オラ」 を 「ワタクシ」 の カワリ に つかう。 ハナシ は すこし ヨジ に わたる が、 ゲンダイジン と コウサイ する とき、 コウゴ を まなぶ こと は ヨウイ で ある が ブンショ の オウフク に なる と すこぶる コンナン を かんじる。 ことに オンナ の テガミ に ヘンショ を さいする とき 「ワタシ」 を 「アタシ」 と なし、 「けれども」 を 「けど」 と なし、 また ナニゴト に つけて も、 「ヒツゼンセイ」 だの 「ジュウダイセイ」 だの と、 セイ の ジ を つけて みる の も、 ジョウダン ハンブン クチサキ で マネ を して いる とき とは ちがって、 これ を フデ に する ダン に なる と、 じつに たえがたい ケンオ の ジョウ を かんじなければ ならない。 こいしき は ナニゴト に つけて も かえらぬ ムカシ で、 あたかも その ヒ、 ワタクシ は ムシボシ を して いた もの の ナカ に、 ヤナギバシ の ギ に して、 ムコウジマ コウメ の サト に かこわれて いた オンナ の ふるい テガミ を みた。 テガミ には かならず ソウロウブン を もちいなければ ならなかった ジダイ なので、 その コロ の オンナ は、 スズリ を ひきよせ フデ を とれば、 モジ を しらなく とも、 おのずから そうろう べく そうろう の チョウシ を おもいだした もの らしい。 ワタクシ は ヒト の シショウ を かえりみず、 これ を ここ に ろくしたい。

ヒトフデ もうしあげまいらせそうろう。 ソノゴ は ゴブサタ いたしそうろうて、 なんとも モウシワケ これ なく ごめん くだされたく そうろう。 ワタクシコト これまで の スマイ まことに テゼマ に つき コノジュウ ミギ の ところ へ しきうつりそうろう まま おんしらせ もうしあげそうろう。 まことに まことに もうしあげかねそうらえど も、 しょうしょう オメモジ の うえ もうしあげたき こと ござそうろう アイダ、 なにとぞ ゴツゴウ なしくだされて、 アナタサマ の よろしき オリ おたちより くだされたく イクエ にも おんまち もうしあげそうろう。 1 ニチ も はやく オコシ の ホド、 まずは オメモジ の うえ にて あらあらかしく。              ○○ より
タケヤ の ワタシ の シタ に ミヤコユ と もうす ユヤ あり。 ヤオヤ で おきき ください。 テンキ が よろしく そうろう ゆえ ゴツゴウ にて アア さん も おさそいあわされ ホリキリ へ まいりたく と ぞんじそうろう アイダ オシルマエ から いかが に そうろう や。 おたずね もうしあげそうろう。 もっとも この ゴヘンジ ゴムヨウ にて そうろう。

 ブンチュウ 「ひきうつり」 を 「しきうつり」 と なし、 「ヒルマエ」 を 「シルマエ」 に かきあやまって いる の は トウキョウ シタマチ コトバ の ナマリ で ある。 タケヤ の ワタシ も イマ は マクラバシ の ワタシ と ともに はいせられて その アト も ない。 わが セイシュン の ナゴリ を とむらう に イマ は これ を ナヘン に さぐる べき か。

 7

 ワタクシ は オユキ の でて いった アト、 なかば おろした フルガヤ の スソ に すわって、 ヒトリ カ を おいながら、 ときには ナガヒバチ に うめた スミビ と ユワカシ と に キ を つけた。 いかに アツサ の はげしい バン でも、 この トチ では、 オキャク の あがった アイズ に シタ から チャ を もって ゆく シュウカン なので、 どの イエ でも ヒ と ユ と を たやした こと が ない。
「おい。 おい」 と コゴエ に よんで マド を たたく モノ が ある。
 ワタクシ は おおかた ナジミ の キャク で あろう と おもい、 でよう か でまい か と、 ヨウス を うかがって いる と、 ソト の オトコ は マドグチ から テ を さしいれ、 サル を はずして ト を あけて ナカ へ はいった。 しろっぽい ユカタ に ヘコオビ を しめ、 いなかくさい マルガオ に クチヒゲ を はやした トシ は 50 ばかり。 テ には フロシキ に つつんだ もの を もって いる。 ワタクシ は その ヨウス と その カオダチ と で、 すぐさま オユキ の カカエヌシ だろう と スイサツ した ので、 ムコウ から いう の を またず、
「オユキ さん は なんだか、 オイシャ へ ゆく って、 イマ オモテ で あいました」
 カカエヌシ らしい オトコ は すでに その こと を しって いた らしく、 「もう かえる でしょう。 まって いなさい」 と いって、 ワタクシ の いた の を あやしむ フウ も なく、 フロシキヅツミ を といて、 アルミ の コナベ を だし チャダナ の ナカ へ いれた。 ヤショク の ソウザイ を もって きた の を みれば、 カカエヌシ に ソウイ は ない。
「オユキ さん は、 いつも いそがしくって ケッコウ です ねえ」
 ワタクシ は アイサツ の カワリ に ナニ か オセジ を いわなければ ならない と おもって、 そう いった。
「ナン です か。 どうも」 と カカエヌシ の ほう でも ヘンジ に こまる と いった よう な、 イミ の ない こと を いって、 ヒバチ の ヒ や ユ の カゲン を みる ばかり。 メン と むかって ワタクシ の カオ さえ みない。 むしろ タイダン を さける と いう よう に ヨコ を むいて いる ので、 ワタクシ も そのまま だまって いた。
 こういう イエ の テイシュ と ユウキャク との タイメン は、 リョウホウ とも はなはだ きまずい もの で ある。 カシザシキ、 マチアイ-ヂャヤ、 ゲイシャヤ など の テイシュ と キャク との アイダ も また おなじ こと で、 この リョウシャ の タイダン する バアイ は、 かならず オンナ を チュウシン に して はなはだ きまずい ゴタゴタ の おこった とき で、 しからざる かぎり タイダン の ヒツヨウ が まったく ない から でも あろう。
 いつも オユキ が ミセグチ で たく カヤリコウ も、 コンヤ は イチド も ともされなかった と みえ、 イエジュウ に わめく カ の ムレ は カオ を さす のみ ならず、 クチ の ナカ へも とびこもう と する の に、 トチ なれて いる はず の シュジン も、 しばらく すわって いる うち ガマン が しきれなく なって、 ナカジキリ の シキイギワ に おいた センプウキ の ヒキテ を ねじった が こわれて いる と みえて まわらない。 ヒバチ の ヒキダシ から ようやく カヤリコウ の カケラ を みいだした とき、 フタリ は おもわず アンシン した よう に カオ を みあわせた ので、 ワタクシ は これ を キカイ に、
「コトシ は どこ も ひどい カ です よ。 アツサ も カクベツ です がね」 と いう と、
「そう です か。 ここ は もともと ウメチ で、 ろくに ジアゲ も しない ん だ から」 と シュジン も しぶしぶ クチ を ききはじめた。
「それでも ミチ が よく なりました ね。 だいいち ベンリ に なりました ね」
「そのかわり、 ナニカ に つけて キソク が やかましく なった」
「そう。 2~3 ネン マエ にゃ、 とおる と ボウシ なんぞ もって いった もの です ね」
「あれ にゃ、 ワタシタチ この ナカ の モノ も こまった ん だよ。 ヨウ が あって も とおれない から ね。 オンナ たち に そう いって も、 そう いちいち ミハリ を して も いられない し、 シカタ が ない から バッキン を とる よう に した ん だ。 ミセ の ソト へ でて オキャク を つかまえる ところ を みつかる と 42 エン の バッキン だ。 それから コウエン アタリ へ キャクヒキ を だす の も キソク イハン に した ん だ」
「それ も バッキン です か」
「うむ」
「それ は いくら です か」
 トオマワシ に トチ の ジジョウ を ききだそう と おもった とき、 「アンドウ さん」 と オトコ の コエ で、 なにやら カミキレ を マド に さしいれて いった モノ が ある。 ドウジ に オユキ が かえって きて、 その カミ を とりあげ、 ネコイタ の ウエ に おいた の を、 ヌスミミ する と、 トウシャズリ に した ゴウトウ ハンニン ソウサク の カイジョウ で ある。
 オユキ は そんな もの には メ も ふれず、 「オトウサン、 アシタ ぬかなくっちゃ いけない って いう のよ。 この ハ」 と いって、 シュジン の ほう へ あいた クチ を むける。
「じゃあ、 コンヤ は たべる もの は いらなかった な」 と シュジン は たちかけた が、 ワタクシ は わざと みえる よう に カネ を だして オユキ に わたし、 ヒトリ サキ へ たって 2 カイ に あがった。
 2 カイ は マド の ある 3 ジョウ の マ に チャブダイ を おき、 ツギ が 6 ジョウ と 4 ジョウ ハン ぐらい の フタマ しか ない。 いったい この イエ は もと 1 ケン で あった の を、 オモテ と ウラ と 2 ケン に しきった らしく、 シタ は チャノマ の 1 シツ きり で ダイドコロ も ウラグチ も なく、 2 カイ は ハシゴ の オリクチ から つづいて 4 ジョウ ハン の カベ も カミ を はった うすい イタ 1 マイ なので、 ウラドナリ の モノオト や ハナシゴエ が テ に とる よう に よく きこえる。 ワタクシ は よく ミミ を おしつけて わらう こと が あった。
「また、 そんな とこ。 あつい のに さ」
 あがって きた オユキ は すぐ マド の ある 3 ジョウ の ほう へ いって、 ソメモヨウ の はげた カーテン を かたよせ、 「こっち へ おいで よ。 いい カゼ だ。 あら また ひかってる」
「サッキ より いくらか すずしく なった な、 なるほど いい カゼ だ」
 マド の すぐ シタ は ヒオイ の ヨシズ に さえぎられて いる が、 ドブ の ムコウガワ に ならんだ イエ の 2 カイ と、 マドグチ に すわって いる オンナ の カオ、 いったり きたり する ヒトカゲ、 ロジ イッタイ の コウケイ は あんがい トオク の ほう まで みとおす こと が できる。 ヤネ の ウエ の ソラ は ナマリイロ に おもく たれさがって、 ホシ も みえず、 オモテドオリ の ネオン サイン に ナカゾラ まで も うすあかく そめられて いる の が、 むしあつい ヨル を いっそう むしあつく して いる。 オユキ は ザブトン を とって マド の シキイ に のせ、 その ウエ に コシ を かけて、 しばらく ソラ の ほう を みて いた が、 「ねえ、 アナタ」 と とつぜん ワタクシ の テ を にぎり、 「ワタシ、 シャッキン を かえしちまったら。 アナタ、 オカミサン に して くれない」
「オレ みた よう な モノ。 シヨウ が ない じゃ ない か」
「ハス に なる シカク が ない って いう の」
「たべさせる こと が できなかったら シカク が ない ね」
 オユキ は なんとも いわず、 ロジ の ハズレ に きこえだした ヴィヨロン の ウタ に つれて、 ハナウタ を うたいかけた ので、 ワタクシ は みる とも なく カオ を みよう と する と、 オユキ は それ を さける よう に キュウ に たちあがり、 カタテ を のばして ハシラ に つかまり、 のりだす よう に ハンシン を ソト へ つきだした。
「もう 10 ネン わかけりゃ……」 ワタクシ は チャブダイ の マエ に すわって マキタバコ に ヒ を つけた。
「アナタ。 いったい イクツ なの」
 こなた へ ふりむいた オユキ の カオ を みあげる と、 イツモ の よう に カタエクボ を よせて いる ので、 ワタクシ は なんとも しれず アンシン した よう な ココロモチ に なって、
「もう じき 60 さ」
「オトウサン。 60 なの。 まだ オジョウブ」
 オユキ は しげしげ と ワタクシ の カオ を みて、 「アナタ。 まだ 40 にゃ ならない ね。 37 か 8 かしら」
「オレ は オメカケサン に できた コ だ から、 ホント の トシ は わからない」
「40 に して も わかい ね。 カミノケ なんぞ そう は おもえない わ」
「メイジ 31 ネン ウマレ だね。 40 だ と」
「ワタシ は イクツ ぐらい に みえて」
「21~22 に みえる が、 4 ぐらい かな」
「アナタ。 クチ が うまい から ダメ。 26 だわ」
「ユキ ちゃん、 オマエ、 ウツノミヤ で ゲイシャ を して いた って いった ね」
「ええ」
「どうして、 ここ へ きた ん だ。 よく この トチ の こと を しって いた ね」
「しばらく トウキョウ に いた もの」
「オカネ の いる こと が あった の か」
「そう でも なけりゃ……。 ダンナ は ビョウキ で しんだ し、 それに すこし……」
「なれない うち は おどろいたろう。 ゲイシャ とは ヤリカタ が ちがう から」
「そう でも ない わ。 ハジメ っから ショウチ で きた ん だ もの。 ゲイシャ は カカリマケ が して、 シャッキン の ぬける とき が ない もの。 それに…… ミ を おとす なら かせぎいい ほう が けっく トク だ もの」
「そこ まで かんがえた の は、 まったく えらい。 ヒトリ で そう かんがえた の か」
「ゲイシャ の ジブン、 オチャヤ の ネエサン で しってる ヒト が、 この トチ で ショウバイ して いた から、 ハナシ を きいた のよ」
「それにしても、 えらい よ。 ネン が あけたら すこし ジマエ で かせいで、 のこせる だけ のこす ん だね」
「ワタシ の トシ は ミズショウバイ には むく ん だ とさ。 だけれど ユクサキ の こと は わからない わ。 ねえ」
 じっと カオ を みつめられた ので、 ワタクシ は ふたたび ミョウ に フアン な ココロモチ が した。 まさか とは おもう ものの、 なんだか オクバ に モノ の はさまって いる よう な ココロモチ が して、 コンド は ワタクシ の ほう が ソラ の ほう へ でも カオ を そむけたく なった。
 オモテドオリ の ネオン サイン が ハンエイ する ソラ の ハズレ には、 サキホド から おりおり イナズマ が ひらめいて いた が、 この とき キュウ に するどい ヒカリ が ヒト の メ を いた。 しかし カミナリ の オト らしい もの は きこえず、 カゼ が ぱったり やんで ヒノクレ の アツサ が また むしかえされて きた よう で ある。
「いまに ユウダチ が きそう だな」
「アナタ。 カミユイ さん の カエリ…… もう ミツキ に なる わねえ」
 ワタクシ の ミミ には この 「ミツキ に なる わねえ」 と すこし ひきのばした ねえ の コエ が なにやら とおい ムカシ を おもいかえす と でも いう よう に ムゲン の ジョウ を ふくんだ よう に ききなされた。 「ミツキ に なります」 とか 「なる わよ」 とか いいきったら ツネ の ダンワ に きこえた の で あろう が、 ねえ と ながく ひいた コエ は エイタン の オン と いう より も、 むしろ それとなく ワタクシ の ヘンジ を うながす ため に つかわれた もの の よう にも おもわれた ので、 ワタクシ は 「そう……」 と こたえかけた コトバ さえ のみこんで しまって、 ただ マナザシ で オウトウ を した。
 オユキ は マイヨ ロジ へ いりこむ かずしれぬ オトコ に オウセツ する ミ で ありながら、 どういう ワケ で はじめて ワタクシ と あった ヒ の こと を わすれず に いる の か、 それ が ワタクシ には ありう べからざる こと の よう に かんがえられた。 はじめて の ヒ を おもいかえす の は、 その とき の こと を ココロ に うれしく おもう が ため と みなければ ならない。 しかし ワタクシ は この トチ の オンナ が ワタクシ の よう な トシヨリ に たいして、 もっとも センポウ では ワタクシ の トシ を 40 サイ ぐらい に みて いる が、 それにしても すいた の ほれた の と いう よう な もしくは それ に にた やわらかく あたたか な カンジョウ を おこしうる もの とは、 ゆめにも おもって いなかった。
 ワタクシ が ほとんど マイヨ の よう に あししげく かよって くる の は、 すでに イクタビ か キジュツ した よう に、 イロイロ な リユウ が あった から で ある。 ソウサク 「シッソウ」 の ジッチ カンサツ。 ラディオ から の トウソウ。 ギンザ マルノウチ の よう な シュト スウヨウ の シガイ に たいする ケンオ。 ソノタ の リユウ も ある が、 いずれ も オンナ に むかって かたりう べき こと では ない。 ワタクシ は オユキ の イエ を ヨル の サンポ の キュウケイジョ に して いた に すぎない の で ある が、 そう する ため には ホウベン と して クチ から デマカセ の ウソ も ついた。 コイ に あざむく つもり では ない が、 サイショ オンナ の あやまりみとめた こと を テイセイ も せず、 むしろ キョウ に まかせて その ゴニン を なお ふかく する よう な キョドウ や ハナシ を して、 ミブン を くらました。 この セメ だけ は まぬかれない かも しれない。
 ワタクシ は この トウキョウ のみ ならず、 セイヨウ に あって も、 バイショウ の チマタ の ホカ、 ほとんど ソノタ の シャカイ を しらない と いって も よい。 その ユライ は ここ に のべたく も なく、 また のべる ヒツヨウ も あるまい。 もし ワタクシ なる イチ ジンブツ の ナニモノ たる か を しりたい と いう よう な スイキョウ な ヒト が あった なら、 ワタクシ が チュウネン の コロ に つくった タイワ 「ヒルスギ」 マンピツ 「ショウタク」 ショウセツ 「みはてぬ ユメ」 の ごとき アクブン を イチドク せられた なら オモイ ナカバ に すぐる もの が あろう。 とは いう ものの、 それ も ブンショウ が つたなく、 くどくどしくて、 ゼンペン を よむ には メンドウ で あろう から、 ここ に 「みはてぬ ユメ」 の イッセツ を バッテキ しよう。 「カレ が ジュウネン イチジツ の ごとく カリュウカイ に デイリ する ゲンキ の あった の は、 つまり カリュウカイ が フセイ アンコク の チマタ で ある こと を ジュクチ して いた から で。 されば もし セケン が ホウトウシャ を もって チュウシン コウシ の ごとく ショウサン する もの で あった なら、 カレ は テイタク を ヒトデ に わたして まで も、 その ショウサン の コエ を きこう とは しなかった で あろう。 セイトウ な サイジョ の ギゼンテキ キョエイシン、 コウメイ なる シャカイ の サギテキ カツドウ に たいする ギフン は、 カレ を して サイショ から フセイ アンコク と して しられた タ の イッポウ に はせおもむかしめた ユイイツ の チカラ で あった。 つまり カレ は マッシロ だ と しょうする カベ の ウエ に きたない サマザマ な シミ を みいだす より も、 なげすてられた ランル の キレ にも うつくしい ヌイトリ の ノコリ を ハッケン して よろこぶ の だ。 セイギ の キュウデン にも おうおう に して トリ や ネズミ の フン が おちて いる と おなじく、 アクトク の タニソコ には うつくしい ニンジョウ の ハナ と かんばしい ナミダ の カジツ が かえって タクサン に つみあつめられる」
 これ を よむ ヒト は、 ワタクシ が ドブ の シュウキ と、 カ の コエ との ナカ に セイカツ する オンナ たち を ふかく おそれ も せず、 みにくい とも せず、 むしろ みぬ マエ から シタシミ を おぼえて いた こと だけ は スイサツ せられる で あろう。
 ワタクシ は かの オンナ たち と コンイ に なる には―― すくなくとも かの オンナ たち から けいして とおざけられない ため には、 ゲンザイ の ミブン は かくして いる ほう が よい と おもった。 かの オンナ たち から、 こんな ところ へ こず とも よい ミブン の ヒト だ のに、 と おもわれる の は、 ワタクシ に とって は いかにも つらい。 かの オンナ たち の ハッコウ な セイカツ を シバイ でも みる よう に、 ウエ から みおろして よろこぶ の だ と ゴカイ せられる よう な こと は、 できうる かぎり これ を さけたい と おもった。 それ には ミブン を ひする より ホカ は ない。
 こんな ところ へ くる ヒト では ない と いわれた こと に ついて は すでに ジツレイ が ある。 ある ヨ、 カイセイ ドウロ の ハズレ、 シエイ バス シャコ の ホトリ で、 ワタクシ は ジュンサ に よびとめられて ジンモン せられた こと が ある。 ワタクシ は ブンガクシャ だの チョジュツギョウ だの と ジブン から ナノリ を あげる の も いや で ある し、 ヒト から そう おもわれる の は なおさら きらい で ある から、 ジュンサ の トイ に たいして は レイ の ごとく ムショク の ユウミン と こたえた。 ジュンサ は ワタクシ の ウワギ を はぎとって ショジヒン を あらためる ダン に なる と、 ふだん ヤコウ の サイ、 フシン ジンモン に あう とき の ヨウジン に、 インカン と インカン ショウメイショ と コセキ ショウホン と が ノウチュウ に いれて ある。 それから カミイレ には ヨクジツ の アサ ダイク と ウエキヤ と フルホンヤ と に ハライ が あった ので、 300~400 エン の ゲンキン が いれて あった。 ジュンサ は おどろいた らしく、 にわか に ワタクシ の こと を シサンカ と よび、 「こんな ところ は キミ みた よう な シサンカ の くる ところ じゃ ない。 はやく かえりたまえ、 マチガイ が ある と いかん から、 くる なら でなおして きたまえ」 と いって、 ワタクシ が なお ぐずぐず して いる の を みて、 テ を あげて エンタク を よびとめ、 わざわざ ト を あけて くれた。
 ワタクシ は やむ こと を えず ジドウシャ に のり カイセイ ドウロ から カンジョウセン とか いう ミチ を まわった。 つまり ラビラント の ガイカク を イッシュウ して、 フシミ イナリ の ロジグチ に ちかい ところ で おりた こと が あった。 それ イライ、 ワタクシ は チズ を かって ミチ を しらべ、 シンヤ は コウバン の マエ を とおらない よう に した。
 ワタクシ は イマ、 オユキ さん が はじめて あった ヒ の こと を エイタンテキ な チョウシ で いいだした の に たいして、 こたう べき コトバ を みつけかね、 タバコ の ケムリ の ナカ に せめて カオ だけ でも かくしたい キ が して またもや マキタバコ を とりだした。 オユキ は クロメガチ の メ で じっと こなた を みつめながら、
「アナタ。 ホント に よく にて いる わ。 あの バン、 アタシ ウシロスガタ を みた とき、 はっと おもった くらい……」
「そう か。 タニン の ソラニ って、 よく ある やつ さ」 ワタクシ は まあ よかった と いう ココロモチ を イッショウ ケンメイ に おしかくした。 そして、 「ダレ に。 しんだ ダンナ に にて いる の か」
「いいえ。 ゲイシャ に なった ばかり の ジブン……。 イッショ に なれなかったら しのう と おもった の」
「のぼせきる と、 ダレ しも イチジ は そんな キ を おこす……」
「アナタ も。 アナタ なんぞ、 そんな キ にゃあ ならない でしょう」
「レイセイ かね。 しかし ヒト は ミカケ に よらない もん だ から ね。 そう みくびった もん でも ない よ」
 オユキ は カタエクボ を よせて エガオ を つくった ばかり で、 なんとも いわなかった。 すこし シタクチビル の でた クチジリ の ミギガワ に、 おのずと ふかく うがたれる カタエクボ は、 いつも オユキ の カオダチ を ムスメ の よう に あどけなく する の で ある が、 その ヨ に かぎって、 いかにも ムリ に よせた エクボ の よう に、 いいしれず さびしく みえた。 ワタクシ は その バ を まぎらす ため に、
「また ハ が いたく なった の か」
「いいえ。 さっき チュウシャ した から、 もう なんとも ない」
 それなり、 また ハナシ が とだえた とき、 サイワイ にも ナジミ の キャク らしい モノ が ミセグチ の ト を たたいて くれた。 オユキ は つと たって マド の ソト に ハンシン を だし、 メカクシ の イタゴシ に シタ を のぞき、
「あら タケ さん。 おあがんなさい」
 かけおりる アト から ワタクシ も つづいて おり、 しばらく ベンジョ の ナカ に スガタ を かくし キャク の あがって しまう の を まって、 オト の しない よう に ソト へ でた。

ボクトウ キタン 3

2019-02-19 | ナガイ カフウ
 8

 きそう に おもわれた ユウダチ も くる ヨウス は なく、 ヒダネ を たやさぬ チャノマ の ムシアツサ と カ の ムレ と を おそれて、 ワタクシ は イチジ ソト へ でた の で ある が、 かえる には まだ すこし はやい らしい ので、 ドブヅタイ に ロジ を ぬけ、 ここ にも イタバシ の かかって いる オモテ の ヨコチョウ に でた。 リョウガワ に エンニチ アキュウド が ミセ を ならべて いる ので、 もともと ジドウシャ の とおらない ミチハバ は なおさら せまく なって、 でさかる ヒト は おしあいながら あるいて いる。 イタバシ の ミギテ は すぐ カド に バニクヤ の ある ヨツツジ で。 ツジ の ムコウガワ には ソウトウシュウ トウセイジ と しるした セキヒ と、 タマノイ イナリ の トリイ と コウシュウ デンワ と が たって いる。 ワタクシ は オユキ の ハナシ から この イナリ の エンニチ は ツキ の フツカ と ハツカ の リョウジツ で ある こと や、 エンニチ の バン は ソト ばかり にぎやか で、 ロジ の ナカ は かえって キャクアシ が すくない ところ から、 マド の オンナ たち は ビンボウ イナリ と よんで いる こと など を おもいだし、 ヒトゴミ に まじって、 まだ イチド も サンケイ した こと の ない ヤシロ の ほう へ いって みた。
 イマ まで かく こと を わすれて いた が、 ワタクシ は マイヨ この サカリバ へ でかける よう に、 ココロモチ にも カラダ にも ともども に シュウカン が つく よう に なって から、 この アタリ の ヨミセ を みあるいて いる ヒトタチ の フウゾク に ならって、 デガケ には ミナリ を かえる こと に して いた の で ある。 これ は べつに テスウ の かかる こと では ない。 エリ の かえる シマ の ホワイト シャツ の エリモト の ボタン を はずして エリカザリ を つけない こと、 ヨウフク の ウワギ は テ に さげて きない こと、 ボウシ は かぶらぬ こと、 カミノケ は クシ を いれた こと も ない よう に かきみだして おく こと、 ズボン は なるべく ヒザ や シリ の すりきれた くらい な ふるい もの に はきかえる こと。 クツ は はかず、 フルゲタ も カカト の ほう が ダイ まで すりへって いる の を さがして はく こと、 タバコ は かならず バット に かぎる こと、 エトセトラ エトセトラ で ある。 だから ワケ は ない。 つまり ショサイ に いる とき、 また ライキャク を むかえる とき の イフク を ぬいで、 ニワソウジ や ススハライ の とき の もの に きかえ、 ゲジョ の フルゲタ を もらって はけば よい の だ。
 フルズボン に フルゲタ を はき、 それに フルテヌグイ を さがしだして ハチマキ の マキカタ も しごく ブイキ に すれば、 ミナミ は スナマチ、 キタ は センジュ から カサイ カナマチ アタリ まで ゆこう とも、 ミチ ゆく ヒト から ふりかえって カオ を みられる キヅカイ は ない。 その マチ に すんで いる モノ が カイモノ に でも でた よう に みえる ので、 アンシン して ロジ へ でも ヨコチョウ へ でも カッテ に いりこむ こと が できる。 この ブザマ な ミナリ は、 「ジダラク に いれば すずしき ニカイ かな」 で、 トウキョウ の キコウ の ことに アツサ の はなはだしい キセツ には もっとも テキゴウ して いる。 モウロウ エンタク の ウンテンシュ と おなじ よう な この フウ を して いれば、 ミチ の ウエ と いわず デンシャ の ナカ と いわず どこ でも すき な ところ へ タンツバ も はける し、 タバコ の スイガラ、 マッチ の モエノコリ、 カミクズ、 バナナ の カワ も すてられる。 コウエン と みれば ベンチ や シバフ へ ダイノジナリ に ねころんで イビキ を かこう が ナニワブシ を うなろう が これ また カッテ-シダイ なので、 ただに キコウ のみ ならず、 トウキョウ-ジュウ の ケンチクブツ とも チョウワ して、 いかにも フッコウ トシ の ジュウミン-らしい ココロモチ に なる こと が できる。
 ジョシ が アッパッパ と しょうする シタギ 1 マイ で コガイ に であるく キフウ に ついて は、 ユウジン サトウ ヨウサイ クン の ブンシュウ に のって いる その ロン に ゆずって、 ここ には いうまい。
 ワタクシ は スアシ に はきなれぬ フルゲタ を つっかけて いる ので、 モノ に つまずいたり、 ヒト に アシ を ふまれたり して、 ケガ を しない よう に キ を つけながら、 ヒトゴミ の ナカ を あるいて ムコウガワ の ロジ の ツキアタリ に ある イナリ に サンケイ した。 ここ にも ヨミセ が つづき、 ホコラ の ヨコテ の やや ひろい アキチ は、 ウエキヤ が イチメン に ならべた バラ や ユリ ナツギク など の ハチモノ に ときならぬ カダン を つくって いる。 トウセイジ ホンドウ コンリュウ の シキン キフシャ の セイメイ が アキチ の イチグウ に イタベイ の ごとく かけならべて ある の を みる と、 この テラ は やけた の で なければ、 タマノイ イナリ と おなじく ヨソ から うつされた もの かも しれない。
 ワタクシ は トコナツ の ハナ ヒトハチ を あがない、 ベツ の ロジ を ぬけて、 もと きた タイショウ ドウロ へ でた。 すこし ゆく と ミギガワ に コウバン が ある。 コンヤ は この アタリ の ヒトタチ と おなじ よう な ミナリ を して、 ウエキバチ をも テ に して いる から だいじょうぶ とは おもった が、 さける に しく は ない と、 アトモドリ して、 カド に サカヤ と ミズガシヤ の ある ミチ に まがった。
 この ミチ の カタガワ に ならんだ ショウテン の ウシロ イッタイ の ロジ は いわゆる ダイ 1 ブ と なづけられた ラビラント で。 オユキ の イエ の ある ダイ 2 ブ を つらぬく かの ドブ は、 とつぜん ダイ 1 ブ の ハズレ の ミチバタ に あらわれて、 ナカジマ ユ と いう ノレン を さげた セントウ の マエ を ながれ、 キョカチ ソト の マックラ な ウラナガヤ の アイダ に ユクサキ を ぼっして いる。 ワタクシ は ムカシ ホッカク を とりまいて いた オハグロドブ より いっそう フケツ に みえる この ドブ も、 テラジママチ が まだ デンエン で あった コロ には、 ミズクサ の ハナ に トンボ の とまって いた よう な きよい コナガレ で あった の で あろう と、 トシヨリ にも にあわない カンショウテキ な ココロモチ に ならざる を えなかった。 エンニチ の ロテン は この トオリ には でて いない。 キュウシュウ-テイ と いう ネオン サイン を たかく かがやかして いる シナメシヤ の マエ まで くる と、 カイセイ ドウロ を はしる ジドウシャ の ヒ が みえ チクオンキ の オト が きこえる。
 ウエキバチ が なかなか おもい ので、 カイセイ ドウロ の ほう へは ゆかず、 キュウシュウ-テイ の ヨツカド から ミギテ に まがる と、 この トオリ は ミギガワ には ラビラント の 1 ブ と 2 ブ、 ヒダリガワ には 3 ブ の イチ クカク が フクザイ して いる もっとも ハンカ な もっとも せまい ミチ で、 ゴフクヤ も あり、 フジンヨウ の ヨウフクヤ も あり、 ヨウショクヤ も ある。 ポスト も たって いる。 オユキ が カミユイ の カエリ ユウダチ に あって、 ワタクシ の カサ の シタ に かけこんだ の は、 たしか この ポスト の マエ アタリ で あった。
 ワタクシ の ムナソコ には センコク オユキ が なかば ジョウダン-らしく カンジョウ の イッタン を ほのめかした とき、 ワタクシ の おぼえた フアン が まだ きえさらず に いる らしい…… ワタクシ は オユキ の リレキ に ついて は ほとんど しる ところ が ない。 どこやら で ゲイシャ を して いた と いって いる が、 ナガウタ も キヨモト も しらない らしい ので、 それ も たしか だ とは おもえない。 サイショ の インショウ で、 ワタクシ は なんの よる ところ も なく、 ヨシワラ か スサキ アタリ の さほど わるく ない イエ に いた オンナ らしい キ が した の が、 かえって あたって いる の では なかろう か。
 コトバ には すこしも チホウ の ナマリ が ない が、 その カオダチ と ゼンシン の ヒフ の きれい な こと は、 トウキョウ もしくは トウキョウ キンザイ の オンナ で ない こと を ショウメイ して いる ので、 ワタクシ は とおい チホウ から トウキョウ に イジュウ した ヒトタチ の アイダ に うまれた ムスメ と みて いる。 セイシツ は カイカツ で、 ゲンザイ の キョウガイ をも ふかく かなしんで は いない。 むしろ この キョウグウ から えた ケイケン を モトデ に して、 どうにか ミ の フリカタ を つけよう と かんがえて いる だけ の ゲンキ も あれば サイチ も ある らしい。 オトコ に たいする カンジョウ も、 ワタクシ の クチ から デマカセ に いう こと すら、 そのまま うたがわず に ききとる ところ を みて も、 まだ まったく すさみきって しまわない こと は たしか で ある。 ワタクシ を して、 そう おもわせる だけ でも、 ギンザ や ウエノ アタリ の ひろい カフェー に ナガネン はたらいて いる ジョキュウ など に ヒカク した なら、 オユキ の ごとき は ショウジキ とも ジュンボク とも いえる。 まだまだ マジメ な ところ が ある とも いえる で あろう。
 はしなくも ギンザ アタリ の ジョキュウ と マド の オンナ と を ヒカク して、 ワタクシ は コウシャ の なお あいす べく、 そして なお ともに ニンジョウ を かたる こと が できる もの の よう に かんじた が、 ガイロ の コウケイ に ついて も、 ワタクシ は また リョウホウ を みくらべて、 コウシャ の ほう が センパク に ガイカン の ビ を ほこらず、 ミカケダオシ で ない こと から フカイ の ネン を おぼえさせる こと が はるか に すくない。 ミチバタ には おなじ よう に ヤタイミセ が ならんで いる が、 ここ では スイカン の さんさんごご タイ を なして あゆむ こと も なく、 かしこ では めずらしからぬ チマミレ-ゲンカ も ここ では ほとんど みられない。 ヨウフク の ミナリ だけ は ソウオウ に して いながら その ショクギョウ の スイサツ しかねる ニンソウ の わるい チュウネンモノ が、 ヨ を はばからず カタ で カゼ を きり、 ツエ を ふり、 ウタ を うたい、 ツウコウ の ジョシ を ののしりつつ あるく の は、 ギンザ の ホカ タ の マチ には みられぬ コウケイ で あろう。 しかるに ヒトタビ フルゲタ に フルズボン を はいて この バスエ に くれば、 いかなる ザットウ の ヨ でも、 ギンザ の ウラドオリ を ゆく より も キケン の オソレ が なく、 あちこち と ミチ を ゆずる ワズラワシサ も また すくない の で ある。
 ポスト の たって いる にぎやか な コミチ も ゴフクヤ の ある アタリ を あかるい ゼッチョウ に して、 それ から サキ は しだいに さむしく、 コメヤ、 ヤオヤ、 カマボコヤ など が メ に たって、 ついに ザイモクヤ の ザイモク が たてかけて ある アタリ まで くる と、 イクタビ と なく きなれた ワタクシ の アユミ は、 イシキ を またず、 すぐさま ジテンシャ アズカリドコロ と カナモノヤ との アイダ の ロジグチ に むけられる の で ある。
 この ロジ の ナカ には すぐ フシミ イナリ の よごれた ノボリ が みえる が、 スケンゾメキ の キャク は キ が つかない らしく、 ヒト の デイリ は タ の ロジグチ に くらべる と いたって すくない。 これ を サイワイ に、 ワタクシ は いつも この ロジグチ から しのびいり、 オモテドオリ の イエ の ウラテ に イチジク の しげって いる の と、 ドブギワ の サク に ブドウ の からんで いる の を、 アタリ に にあわぬ フウケイ と みかえりながら、 オユキ の イエ の マドグチ を のぞく こと に して いる の で ある。
 2 カイ には まだ キャク が ある と みえて、 カーテン に ホカゲ が うつり、 シタ の マド は あけた まま で あった。 オモテ の ラディオ も いましがた やんだ よう なので、 ワタクシ は エンニチ の ウエキバチ を そっと マド から ナカ に いれて、 その ヨ は そのまま シラヒゲバシ の ほう へ アユミ を はこんだ。 ウシロ の ほう から アサクサ-ユキ の ケイセイ バス が はしって きた が、 ワタクシ は テイリュウジョウ の ある ところ を よく しらない ので、 それ を もとめながら あるきつづける と、 イクホド も なく ユクサキ に ハシ の トウカ の きらめく の を みた。

     *     *     *

 ワタクシ は この ナツ の ハジメ に コウ を おこした ショウセツ 「シッソウ」 の イッペン を コンニチ に いたる まで まだ かきあげず に いる の で ある。 コンヤ オユキ が 「ミツキ に なる わねえ」 と いった こと から おもいあわせる と、 キコウ の ヒ は それ より も なお イゼン で あった。 ソウコウ の マッセツ は タネダ ジュンペイ が カシマ の アツサ に ある ヨ ドウシュク の ジョキュウ スミコ を つれ、 シラヒゲバシ の ウエ で すずみながら、 ユクスエ の こと を かたりあう ところ で おわって いる ので、 ワタクシ は ツツミ を まがらず、 マッスグ に ハシ を わたって ランカン に ミ を よせて みた。
 サイショ 「シッソウ」 の フキョク を さだめる とき、 ワタクシ は その トシ 24 に なる ジョキュウ スミコ と、 その トシ 51 に なる タネダ の フタリ が てがるく ジョウコウ を むすぶ こと に した の で ある が、 フデ を すすめる に つれて、 なにやら フシゼン で ある よう な キ が しだした ため、 オリカラ の エンショ と ともに、 それなり ナカヤスミ を して いた の で ある。
 しかるに イマ、 ワタクシ は ハシ の ランカン に もたれ、 カワシモ の コウエン から オンド オドリ の オンガク と ウタゴエ との ひびいて くる の を ききながら、 さきほど オユキ が 2 カイ の マド に もたれて 「ミツキ に なる わねえ」 と いった とき の ゴチョウ や ヨウス を おもいかえす と、 スミコ と タネダ との ジョウコウ は けっして フシゼン では ない。 サクシャ が ツゴウ の よい よう に つくりだした キャクショク と して しりぞける にも およばない。 サイショ の リツアン を チュウト で かえる ほう が かえって よからぬ ケッカ を もたらす かも しれない と いう ココロモチ にも なって くる。
 カミナリモン から エンタク を やとって イエ に かえる と、 イツモ の よう に カオ を あらい カミ を かきなおした ノチ、 すぐさま スズリ の ソバ の コウロ に コウ を たいた。 そして チュウゼツ した ソウコウ の マッセツ を よみかえして みる。

「あすこ に みえる の は、 あれ は ナン だ。 コウバ か」
「ガス-ガイシャ か なんか だわ。 あの ヘン は ムカシ ケシキ の いい ところ だった ん ですって ね。 ショウセツ で よんだ わ」
「あるいて みよう か。 まだ そんな に おそかあ ない」
「ムコウ へ わたる と、 すぐ コウバン が あって よ」
「そう か。 それじゃ アト へ もどろう。 まるで、 わるい こと を して ヨ を しのんで いる よう だ」
「アナタ。 おおきな コエ…… およしなさい」
「…………」
「どんな ヒト が きいて いない とも かぎらない し……」
「そう だね。 しかし ヨ を しのんで くらす の は、 はじめて ケイケン した ん だ が、 なんとも いえない、 なんとなく わすれられない ココロモチ が する もん だね」
「ウキヨ はなれて って いう ウタ が ある じゃ ない の。 ……オクヤマズマイ」
「スミ ちゃん。 オレ は ユウベ から キュウ に なんだか わかく なった よう な キ が して いる ん だ。 ユウベ だけ でも イキガイ が あった よう な キ が して いる ん だ」
「ニンゲン は キ の モチヨウ だわ。 ヒカン しちまっちゃ ダメ よ」
「まったく だね。 しかし ボク は、 ナン に して も もう わかく ない から な。 じきに すてられる だろう」
「また。 そんな こと、 かんがえる ヒツヨウ なんか ない って いう のに。 ワタシ だって、 もう すぐ 30 じゃ ない のさ。 それに もう、 したい こと は しちまった し、 これから は すこし マジメ に なって かせいで みたい わ」
「じゃ、 ホント に オデンヤ を やる つもり か」
「アシタ の アサ、 テル ちゃん が くる から テキン だけ わたす つもり なの。 だから、 アナタ の オカネ は とうぶん つかわず に おいて ください。 ね。 ユウベ も おはなし した よう に、 それ が いい の」
「しかし、 それ じゃあ……」
「いいえ。 それ が いい のよ。 アンタ の ほう に チョキン が あれば、 アト が アンシン だ から、 ワタシ の ほう は もってる だけ の オカネ を みんな だして、 イチジバライ に して、 ケンリ も なにもかも かって しまおう と おもって いる のよ。 どのみち やる なら その ほう が トク だ から」
「テル ちゃん て いう の は たしか な ヒト かい。 とにかく オカネ の ハナシ だ から ね」
「それ は だいじょうぶ。 あの コ は オカネモチ だ もの。 なにしろ タマノイ ゴテン の ダンナ って いう の が パトロン だ から」
「それ は いったい ナン だ」
「タマノイ で イクケン も ミセ や イエ を もってる ヒト よ。 もう 70 ぐらい だわ。 セイリョクカ よ。 それ あ。 ときどき カフェー へ くる オキャク だった の」
「ふーむ」
「ワタシ にも オデンヤ より か、 やる なら いっそう の こと、 あの ほう の ミセ を やれ って いう のよ。 ミセ も タマ も テル ちゃん が ダンナ に そう いって、 いい の を ショウカイ する って いう のよ。 だけれど、 その とき には ワタシ ヒトリ きり で、 ソウダン する ヒト も ない し、 ワタシ が ジブン で やる わけ にも いかない し する から、 それで オデンヤ か スタンド の よう な、 ヒトリ で やれる もの の ほう が いい と おもった のよ」
「そう か、 それで あの トチ を えらんだ ん だね」
「テル ちゃん は カアサン に オカネカシ を させて いる わ」
「ジギョウカ だな」
「ちゃっかり してる けれども、 ヒト を だましたり なんか しない から」
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 9

 9 ガツ も ナカバ ちかく なった が ザンショ は すこしも しりぞかぬ ばかり か、 8 ガツ-チュウ より も かえって はげしく なった よう に おもわれた。 スダレ を うつ カゼ ばかり ときには いかにも アキ-らしい ヒビキ を たてながら、 それ も マイニチ の よう に ユウガタ に なる と ぱったり ないで しまって、 ヨ は さながら カンサイ の マチ に ある が ごとく、 ふける に つれて ますます むしあつく なる よう な ヒ が イクニチ も つづく。
 ソウコウ を つくる の と、 ゾウショ を さらす の と で、 あんがい いそがしく、 ワタクシ は ミッカ ばかり ソト へ でなかった。
 ザンショ の ヒザカリ ゾウショ を さらす の と、 カゼ の ない ハツフユ の ヒルスギ ニワ の オチバ を たく こと とは、 ワタクシ が ドッキョ の ショウガイ の もっとも タノシミ と して いる ところ で ある。 バクショ は ひさしく コウカク に つかねた ショモツ を ながめやって、 はじめ ジュクドク した ジブン の こと を カイソウ し ジセイ と シュミ との ヘンセン を おもいしる キカイ を つくる から で ある。 オチバ を たく タノシミ は その ミ の シセイ に ある こと を しばし なり とも わすれさせる が ゆえ で ある。
 フルホン の ムシボシ だけ は やっと すんだ ので、 その ヒ ユウメシ を おわる が いなや イツモ の よう に やぶれた ズボン に フルゲタ を はいて ソト へ でる と、 モン の ハシラ には もう ヒ が ついて いた。 ユウナギ の アツサ に かかわらず、 ヒ は いつか おどろく ばかり みじかく なって いる の で ある。
 わずか ミッカ ばかり で ある が、 ソト へ でて みる と、 ワケ も なく ひさしい アイダ、 ゆかねば ならない ところ へ ゆかず に いた よう な ココロモチ が して ワタクシ は イクブン なり と トチュウ の ジカン まで みじかく しよう と、 キョウバシ の デンシャ の ノリカエバ から チカ テツドウ に のった。 わかい とき から あそびなれた ミ で ありながら、 オンナ を たずねる の に、 こんな きぜわしい ココロモチ に なった の は 30 ネン-ライ たえて ひさしく おぼえた こと が ない と いって も、 それ は けっして コチョウ では ない。 カミナリモン から は また エンタク を はしらせ、 やがて イツモ の ロジグチ。 イツモ の フシミ イナリ。 ふと みれば よごれきった ホウノウ の ノボリ が 4~5 ホン とも みな あたらしく なって、 あかい の は なくなり、 しろい もの ばかり に なって いた。 イツモ の ドブギワ に、 イツモ の イチジク と、 イツモ の ブドウ、 しかし その ハ の シゲリ は すこし うすく なって、 いくら あつく とも、 いくら セケン から みすてられた この ロジ にも、 アキ は しらずしらず ヨゴト に ふかく なって ゆく こと を しらせて いた。
 イツモ の マド に みえる オユキ の カオ も、 コンヤ は イツモ の ツブシ では なく、 イチョウガエシ に テガラ を かけた よう な、 ボタン とか よぶ マゲ に かわって いた ので、 ワタクシ は こなた から ながめて カオチガイ の した の を あやしみながら あゆみよる と、 オユキ は いかにも じれったそう に トビラ を あけながら、 「アナタ」 と ヒトコト つよく よんだ ノチ、 キュウ に チョウシ を ひくく して、 「シンパイ した のよ。 それでも、 まあ、 よかった ねえ」
 ワタクシ は はじめ その イ を かいしかねて、 ゲタ も ぬがず アガリグチ へ コシ を かけた。
「シンブン に でて いた よ。 すこし ちがう よう だ から、 そう じゃ あるまい と おもった ん だ けれど、 ずいぶん シンパイ した わ」
「そう か」 やっと アテ が ついた ので、 ワタクシ も にわか に コエ を ひそめ、 「オレ は そんな ドジ な マネ は しない。 しじゅう キ を つけて いる もの」
「いったい、 どうした の。 カオ を みれば べつに なんでも ない ん だ けれど、 くる ヒト が こない と、 なんだか ミョウ に さびしい もの よ」
「でも、 ユキ ちゃん は あいかわらず いそがしい ん だろう」
「あつい うち は しれた もの よ。 いくら いそがしい たって」
「コトシ は いつまでも、 ホント に あつい な」 と いった とき オユキ は 「ちょいと しずか に」 と いいながら ワタクシ の ヒタイ に とまった カ を テノヒラ で おさえた。
 イエ の ウチ の カ は マエ より も いっそう おおく なった よう で、 ヒト を さす その ハリ も するどく ふとく なった らしい。 オユキ は フトコロガミ で ワタクシ の ヒタイ と ジブン の テ に ついた チ を ふき、 「こら。 こんな」 と いって その カミ を みせて まるめる。
「この カ が なくなれば トシ の クレ だろう」
「そう。 キョネン オトリサマ の ジブン には まだ いた かも しれない」
「やっぱり タンボ か」 と きいた が、 ジダイ の ちがって いる こと に キ が ついて、 「この ヘン でも ヨシワラ の ウラ へ ゆく の か」
「ええ」 と いいながら オユキ は ちりん ちりん と なる スズ の ネ を ききつけ、 たって マドグチ へ でた。
「カネ ちゃん。 ここ だよ。 ナニ ぼやぼや して いる のさ。 コオリ シラタマ フタツ…… それから、 ついでに カヤリコウ を かって きて おくれ。 いい コ だ」
 そのまま マド に すわって、 とおりすぎる ヒヤカシ に からかわれたり、 また こっち から も からかったり して いる。 その アイダアイダ には ナカジキリ の オオサカ-ゴウシ を へだてて、 ワタクシ の ほう へも ハナシ を しかける。 コオリヤ の オトコ が おまちどお と いって あつらえた もの を もって きた。
「アナタ。 シラタマ なら たべる ん でしょう。 キョウ は ワタシ が おごる わ」
「よく おぼえて いる なあ。 そんな こと……」
「おぼえてる わよ。 ジツ が ある でしょう。 だから もう、 そこらじゅう ウワキ する の、 およしなさい」
「ここ へ こない と、 どこ か、 ワキ の ウチ へ ゆく と おもってる の か。 シヨウ が ない」
「オトコ は たいがい そう だ もの」
「シラタマ が ノド へ つかえる よ。 たべる うち だけ なかよく しよう や」
「しらない」 と オユキ は わざと あらあらしく サジ の オト を させて ヤマモリ に した コオリ を つきくずした。
 マドグチ を のぞいた ヒヤカシ が、 「よう、 ネエサン、 ごちそうさま」
「ヒトツ あげよう。 クチ を おあき」
「セイサン カリ か。 イノチ が おしい や」
「モンナシ の くせ に、 きいて あきれらあ」
「ナニ いって やん でい。 ドブッカ ジョロウ」 と ステゼリフ で ゆきすぎる の を こっち も まけて いず、
「へっ。 ゴミタメ ヤロウ」
「はははは」 と アト から くる ヒヤカシ が また わらって とおりすぎた。
 オユキ は コオリ を ヒトサジ クチ へ いれて は ソト を みながら、 ムイシキ に、 「ちょっと、 ちょっと、 ダーンナ」 と フシ を つけて よんで いる うち、 たちどまって マド を のぞく モノ が ある と、 あまえた よう な コエ を して、 「オヒトリ、 じゃ あがって よ。 まだ クチアケ なん だ から。 さあ、 よう」 と いって みたり、 また ヒト に よって は、 いかにも シュショウ-らしく、 「ええ。 かまいません。 おあがり に なって から、 オキ に めさなかったら、 おかえり に なって も かまいません よ」 と しばらく の アイダ ハナシ を して、 その アゲク これ も あがらず に いって しまって も、 オユキ は べつに つまらない と いう フウ さえ も せず、 おもいだした よう に、 とけた コオリ の ナカ から のこった シラタマ を すくいだして、 むしゃむしゃ たべたり、 タバコ を のんだり して いる。
 ワタクシ は すでに オユキ の セイシツ を キジュツ した とき、 カイカツ な オンナ で ある とも いい、 また その キョウガイ を さほど かなしんで も いない と いった。 それ は、 ワタクシ が チャノマ の カタスミ に すわって、 ヤレウチワ の オト も なるべく しない よう に カ を おいながら、 オユキ が ミセサキ に すわって いる とき の、 こういう ヨウス を ノレン の アイダ から すかしみて、 それ から スイサツ した もの に ほかならない。 この スイサツ は ごく ヒソウ に とどまって いる かも しれない。 ヒトトナリ の イチメン を みた に すぎぬ かも しれない。
 しかし ここ に ワタクシ の カンサツ の けっして あやまらざる こと を ダンゲン しうる こと が ある。 それ は オユキ の セイシツ の イカン に かかわらず、 マド の ソト の ヒトドオリ と、 マド の ウチ の オユキ との アイダ には、 たがいに ユウワ す べき イチル の イト の つながれて いる こと で ある。 オユキ が カイカツ の オンナ で、 その キョウガイ を さほど かなしんで いない よう に みえた の が、 もし ワタクシ の アヤマリ で あった なら、 その アヤマリ は この ユウワ から しょうじた もの だ と、 ワタクシ は ベンカイ したい。 マド の ソト は タイシュウ で ある。 すなわち セケン で ある。 マド の ウチ は イッコジン で ある。 そして この リョウシャ の アイダ には いちじるしく アイハンモク して いる ナニモノ も ない。 これ は ナン に よる の で あろう。 オユキ は まだ トシ が わかい。 まだ セケン イッパン の カンジョウ を うしなわない から で ある。 オユキ は マド に すわって いる アイダ は その ミ を いやしい もの と なして、 ベツ に かくして いる ジンカク を ムネ の ソコ に もって いる。 マド の ソト を とおる ヒト は その アユミ を この ロジ に いるる や カメン を ぬぎ キョウフ を さる から で ある。
 ワタクシ は わかい とき から シフン の チマタ に いりこみ、 いまに その ヒ を さとらない。 ある とき は ジジョウ に とらわれて、 かの オンナ たち の のぞむ が まま イエ に いれて キソウ を とらせた こと も あった が、 しかし それ は みな シッパイ に おわった。 かの オンナ たち は ヒトタビ その キョウグウ を かえ、 その ミ を いやしい もの では ない と おもう よう に なれば、 イッペン して おしう べからざる ランプ と なる か、 しからざれば セイギョ しがたい カンプ に なって しまう から で あった。
 オユキ は いつ とは なく、 ワタクシ の チカラ に よって、 キョウグウ を イッペン させよう と いう ココロ を おこして いる。 ランプ か カンプ か に なろう と して いる。 オユキ の コウハンセイ を して ランプ たらしめず、 カンプ たらしめず、 しんに コウフク なる カテイ の ヒト たらしめる モノ は、 シッパイ の ケイケン に のみ とんで いる ワタクシ では なく して、 ゼント に なお オオク の サイゲツ を もって いる ヒト で なければ ならない。 しかし イマ、 これ を といて も オユキ には けっして わかろう はず が ない。 オユキ は ワタクシ の ニジュウ ジンカク の イチメン だけ しか みて いない。 ワタクシ は オユキ の うかがいしらぬ タ の イチメン を バクロ して、 その ヒ を しらしめる の は ヨウイ で ある。 それ を ショウチ しながら、 ワタクシ が なお チュウチョ して いる の は ココロ に しのびない ところ が あった から だ。 これ は ワタクシ を かばう の では ない。 オユキ が みずから その ゴカイ を さとった とき、 はなはだしく シツボウ し、 はなはだしく かなしみ は しまい か と いう こと を ワタクシ は おそれて いた から で ある。
 オユキ は うみつかれた ワタクシ の ココロ に、 ぐうぜん カコ の ヨ の なつかしい ゲンエイ を ほうふつ たらしめた ミューズ で ある。 ひさしく ツクエ の ウエ に おいて あった イッペン の ソウコウ は もし オユキ の ココロ が ワタクシ の ほう に むけられなかった なら、 ――すくなくとも そういう キ が しなかった なら、 すでに さきすてられて いた に ちがいない。 オユキ は イマ の ヨ から みすてられた イチ ロウサッカ の、 たぶん そ が サイシュウ の サク とも おもわれる ソウコウ を カンセイ させた フカシギ な ゲキレイシャ で ある。 ワタクシ は その カオ を みる たび ココロ から レイ を いいたい と おもって いる。 その ケッカ から ろんじたら、 ワタクシ は ショセイ の ケイケン に とぼしい かの オンナ を あざむき、 その シンタイ のみ ならず その シンジョウ をも もてあそんだ こと に なる で あろう。 ワタクシ は この ゆるされがたい ツミ の ワビ を したい と ココロ では そう おもいながら、 そう する こと の できない ジジョウ を かなしんで いる。
 その ヨ、 オユキ が マドグチ で いった コトバ から、 ワタクシ の せつない ココロモチ は いよいよ せつなく なった。 イマ は これ を さける ため には、 かさねて その カオ を みない に こした こと は ない。 まだ、 イマ の うち ならば、 それほど ふかい カナシミ と シツボウ と を オユキ の ムネ に あたえず とも すむ で あろう。 オユキ は まだ その ホンミョウ をも その オイタチ をも、 とわれない まま に、 うちあける キカイ に あわなかった。 コンヤ アタリ が それとなく ワカレ を つげる セトギワ で、 もし これ を こした なら、 トリカエシ の つかない カナシミ を みなければ なるまい と いう よう な ココロモチ が、 ヨ の ふけかける に つれて、 ワケ も なく はげしく なって くる。
 モノ に おわれる よう な この ココロモチ は、 おりから キュウ に ふきだした カゼ が オモテドオリ から ロジ に ながれこみ、 あちらこちら へ つきあたった スエ、 ちいさな マド から イエ の ナカ まで はいって きて、 スズ の ついた ノレン の ヒモ を ゆする。 その オト に つれて ひとしお ふかく なった よう に おもわれた。 その オト は フウリンウリ が レンジマド の ソト を とおる とき とも ちがって、 この ベッテンチ より ホカ には けっして きかれない もの で あろう。 ナツ の スエ から アキ に なって も、 うちつづく マイヨ の アツサ に イマ まで まったく キ の つかなかった だけ、 その ヒビキ は アキ の ヨ も いよいよ まったく の ヨナガ-らしく ふけそめて きた こと を、 しみじみ と おもいしらせる の で ある。 キ の せい か とおる ヒト の アシオト も しずか に さえ、 そこら の マド で クシャミ を する オンナ の コエ も きこえる。
 オユキ は マド から たち、 チャノマ へ きて タバコ へ ヒ を つけながら、 おもいだした よう に、
「アナタ。 アシタ はやく きて くれない」 と いった。
「はやく って、 ユウガタ か」
「もっと はやく さ。 アシタ は カヨウビ だ から シンサツビ なん だよ。 11 ジ に しまう から、 イッショ に アサクサ へ ゆかない。 4 ジ-ゴロ まで に かえって くれば いい ん だ から」
 ワタクシ は いって も いい と おもった。 それとなく ベッパイ を くむ ため に ゆきたい キ は した が、 シンブン キシャ と ブンガクシャ と に みられて またもや ヒッチュウ せられる こと を おそれ も する ので、
「コウエン は グアイ の わるい こと が ある ん だよ。 ナニ か かう もの でも ある の か」
「トケイ も かいたい し、 もう すぐ アワセ だ から」
「あつい あつい と いってる うち、 ホント に もう じき オヒガン だね。 アワセ は どの くらい する ん だ。 ミセ で きる の か」
「そう。 どうしても 30 エン は かかる でしょう」
「その くらい なら、 ここ に もって いる よ。 ヒトリ で いって あつらえて おいで な」 と カミイレ を だした。
「アナタ。 ホント」
「キミ が わるい の か。 シンパイ するな よ」
 ワタクシ は、 オユキ が イガイ の ヨロコビ に メ を みはった その カオ を、 ながく わすれない よう に じっと みつめながら、 カミイレ の ナカ の サツ を だして チャブダイ の ウエ に おいた。
 ト を たたく オト と ともに アルジ の コエ が した ので、 オユキ は ナニ か いいかけた の も、 それなり だまって、 ダテジメ の アイダ に サツ を かくす。 ワタクシ は つと たって アルジ と イレチガイ に ソト へ でた。
 フシミ イナリ の マエ まで くる と、 カゼ は ロジ の オク とは ちがって、 オモテドオリ から マッコウ に つきいり いきなり ワタクシ の カミ を ふきみだした。 ワタクシ は ここ へ くる とき の ホカ は いつも ボウシ を かぶりなれて いる ので、 カゼ に ふきつけられた と おもう と ドウジ に、 カタテ を あげて みて はじめて ボウシ の ない の に こころづき、 おぼえず クショウ を うかべた。 ホウノウ の ノボリ は サオ も おれる ばかり、 ロジグチ に ヤタイ を すえた オデンヤ の ノレン と ともに ちぎれて とびそう に ひらめき ひるがえって いる。 ドブ の カド の イチジク と ブドウ の ハ は、 ハイオク の カゲ に なった ヤミ の ナカ に がさがさ と、 すでに かれた よう な ヒビキ を たてて いる。 オモテドオリ へ でる と、 にわか に ひろく うちあおがれる ソラ には ギンガ の カゲ のみ ならず、 ホシ と いう ホシ の ヒカリ の いかにも しんぜん と して さえわたって いる の が、 いいしれぬ サビシサ を おもわせる オリ も オリ、 ジンカ の ウシロ を はしりすぎる デンシャ の オト と ケイテキ の ヒビキ と が レップウ に かすれて、 さらに この サビシサ を ふかく させる。 ワタクシ は カエリ の ミチスジ を、 シラヒゲバシ の ほう に とる とき には、 いつも スミダマチ ユウビンキョク の ある アタリ か、 または ムコウジマ ゲキジョウ と いう カツドウゴヤ の アタリ から カッテ に ヨコミチ に いり、 ロウコウ の アイダ を ウキョク する コミチ を たどり たどって、 けっきょく シラヒゲ ミョウジン の ウラテ へ でる の で ある。 8 ガツ の スエ から 9 ガツ の ハジメ に かけて は、 ときどき ヨル に なって ユウダチ の はれた アト、 すみわたった ソラ には メイゲツ が でて、 ミチ も あかるく、 ムカシ の ケシキ も おもいだされる ので、 しらずしらず コトトイ の オカ アタリ まで あるいて しまう こと が おおかった が、 コンヤ は もう ツキ も ない。 ふきとおす カワカゼ も たちまち はださむく なって くる ので、 ワタクシ は ジゾウザカ の テイリュウジョウ に ゆきつく が いなや、 マチアイジョ の イタバメ と ジゾウソン との アイダ に ミ を ちぢめて カゼ を よけた。

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 4~5 ニチ たつ と、 あの ヨ を かぎり もう ゆかない つもり で、 アキアワセ の ダイ まで おいて きた の にも かかわらず、 なにやら もう イチド いって みたい キ が して きた。 オユキ は どうした かしら。 あいかわらず マド に すわって いる こと は わかりきって いながら、 それとなく カオ だけ み に ゆきたくて たまらない。 オユキ には キ が つかない よう に、 そっと カオ だけ、 ヨウス だけ のぞいて こよう。 あの ヘン を ヒトマワリ して かえって くれば トナリ の ラディオ も やむ ジブン に なる の で あろう と、 ツミ を ラディオ に ぬりつけて、 ワタクシ は またもや スミダガワ を わたって ヒガシ の ほう へ あるいた。
 ロジ に いる マエ、 カオ を かくす ため、 トリウチボウ を かい、 ヒヤカシ が 5~6 ニン きあわす の を まって、 その ヒトタチ の カゲ に スガタ を かくし、 ドブ の こなた から オユキ の イエ を のぞいて みる と、 オユキ は シンガタ の マゲ を モト の ツブシ に ゆいなおし、 イツモ の よう に マド に すわって いた。 と みれば、 おなじ ノキ の シタ の ミギガワ の マド は これまで しめきって あった の が、 コンヤ は あかるく なって、 ホカゲ の ナカ に マルマゲ の カオ が うごいて いる。 あたらしい カカエ―― この トチ では デカタ さん とか いう もの が きた の で ある。 トオク から で よく は わからない が、 オユキ より は トシ も とって いる らしく キリョウ も よく は ない よう で ある。 ワタクシ は ヒトドオリ に まじって ベツ の ロジ へ まがった。
 その ヨ は イツモ と おなじ よう に ヒ が くれて から キュウ に カゼ が ないで むしあつく なった ため か、 ロジ の ナカ の ヒトデ も また ナツ の ヨ の よう に おびただしく、 まがる カドカド は ミ を ナナメ に しなければ とおれぬ ほど で、 ながれる アセ と、 イキグルシサ と に たえかね、 ワタクシ は デグチ を もとめて ジドウシャ の はせちがう ヒロコウジ へ でた。 そして ヨミセ の ならんで いない ほう の ホドウ を あゆみ、 じつは そのまま かえる つもり で 7 チョウメ の テイリュウジョウ に たたずんで ヒタイ の アセ を ぬぐった。 シャコ から わずか 1~2 チョウ の ところ なので、 ヒト の のって いない シエイ バス が あたかも ワタクシ を むかえる よう に きて とまった。 ワタクシ は ホドウ から ヒトアシ ふみだそう と して、 なにやら キュウ に ワケ も わからず なごりおしい キ が して、 また ぶらぶら あるきだす と、 まもなく サカヤ の マエ の マガリカド に ポスト の たって いる 6 チョウメ の テイリュウジョウ で ある。 ここ には 5~6 ニン の ヒト が クルマ を まって いた。 ワタクシ は この テイリュウジョウ でも むなしく 3~4 ダイ の クルマ を ゆきすごさせ、 ただ ぼうぜん と して、 ポプラ の たちならぶ オモテドオリ と、 ヨコチョウ の カド に そうた ひろい アキチ の ほう を ながめた。
 この アキチ には ナツ から アキ に かけて、 つい コノアイダ まで、 ハジメ は キョクバ、 ツギ には サルシバイ、 その ツギ には ユウレイ の ミセモノゴヤ が、 マイヨ さわがしく チクオンキ を ならしたてて いた の で ある が、 いつのまにか、 モト の よう に なって、 アタリ の うすぐらい ホカゲ が ミズタマリ の オモテ に ハンエイ して いる ばかり で ある。 ワタクシ は とにかく もう イチド オユキ を たずねて、 リョコウ を する から とか なんとか いって わかれよう。 その ほう が イタチ の ミチ を きった よう な こと を する より は、 どうせ ゆかない もの なら、 オユキ の ほう でも アトアト の ココロモチ が わるく ない で あろう。 できる こと なら、 マコト の ジジョウ を うちあけて しまいたい。 ワタクシ は サンポ したい にも その ところ が ない。 たずねたい と おもう ヒト は ミナ サキ に しんで しまった。 フウリュウ ゲンカ の チマタ も イマ では オンガクカ と ブヨウカ との ナ を あらそう ところ で、 トシヨリ が チャ を すすって ムカシ を かたる ところ では ない。 ワタクシ は はからずも この ラビラント の イチグウ に おいて フセイ ハンジツ の ヒマ を ぬすむ こと を しった。 その つもり で ジャマ でも あろう けれど おりおり あそび に くる とき は こころよく あげて くれ と、 オソマキ ながら、 わかる よう に セツメイ したい……。 ワタクシ は ふたたび ロジ へ はいって オユキ の イエ の マド に たちよった。
「さあ、 おあがんなさい」 と オユキ は くる はず の ヒト が きた と いう ココロモチ を、 その ヨウス と チョウシ と に あらわした が、 イツモ の よう に シタ の チャノマ には とおさず、 サキ に たって ハシゴ を あがる ので、 ワタクシ も ヨウス を さっして、
「オヤカタ が いる の か」
「ええ。 オカミサン も イッショ……」
「シンキ の が きた ね」
「ゴハンタキ の バアヤ も きた わ」
「そう か。 キュウ に にぎやか に なった ん だな」
「しばらく ヒトリ で いたら、 オオゼイ だ と まったく うるさい わね」 キュウ に おもいだした らしく、 「コノアイダ は ありがとう」
「いい の が あった か」
「ええ。 アシタ アタリ できて くる はず よ。 ダテジメ も 1 ポン かった わ。 これ は もう こんな だ もの。 アト で シタ へ いって もって くる わ」
 オユキ は シタ へ おりて チャ を はこんで きた。 しばらく マド に コシ を かけて なんとも つかぬ ハナシ を して いた が、 アルジ フウフ は かえりそう な ヨウス も ない。 そのうち ハシゴ の オリクチ に つけた ヨビリン が なる。 ナジミ の キャク が きた シラセ で ある。
 ウチ の ヨウス が イマ まで オユキ ヒトリ の とき とは まったく ちがって、 ながく は いられぬ よう に なり、 オユキ の ほう でも また アルジ の テマエ を キガネ して いる らしい ので、 ワタクシ は いおう と おもった こと も そのまま、 ハンジカン とは たたぬ うち トグチ を でた。
 4~5 ニチ すぎる と キセツ は ヒガン に はいった。 ソラモヨウ は にわか に かわって、 ナンプウ に おわれる アンウン の ひくく ソラ を ゆきすぎる とき、 オオツブ の アメ は ツブテ を うつ よう に ふりそそいで は たちまち やむ。 ヨ を てっして オヤミ も なく ふりつづく こと も あった。 ワタクシ が ニワ の ハゲイトウ は ネモト から たおれた。 ハギ の ハナ は ハ と ともに ふりおとされ、 すでに ミ を むすんだ シュウカイドウ の あかい クキ は おおきな ハ を はがれて、 いたましく イロ が あせて しまった。 ぬれた コノハ と カレエダ と に ろうぜき と して いる ニワ の サマ を いきのこった ホウシゼミ と コオロギ と が アメ の ハレマ ハレマ に なげき とむらう ばかり。 ワタクシ は ネンネン シュウフウ シュウウ に おそわれた ノチ の ニワ を みる たびたび コウロウム の ナカ に ある シュウソウ フウウ の ユウベ と だいされた イッペン の コシ を おもいおこす。
  シュウカ ハ サンタン ト シテ シュウソウ ハ キ ナリ。
  コウコウ タル シュウトウ シュウヤ ハ ナガシ。
  スデニ ショウス シュウソウ ニ アキ ノ ツキザル ヲ。
  イカン ゾ タエン ヤ フウウ ノ セイリョウ ヲ タスクル ヲ。
  アキ ヲ タスクル ノ フウウ ハ キタル コト ナンゾ スミヤカ ナル ヤ。
  キョウハ ス シュウソウ シュウム ノ ミドリ ナル ヲ。
  …………………………
 そして、 ワタクシ は マイトシ おなじ よう に、 とても できぬ とは しりながら、 なんとか うまく ホンヤク して みたい と おもいわずらう の で ある。
 フウウ の ナカ に ヒガン は すぎ、 テンキ が からり と はれる と、 9 ガツ の ツキ も のこりすくなく、 やがて その トシ の ジュウゴヤ に なった。
 マエ の ヨ も ふけそめて から ツキ が よかった が、 ジュウゴヤ の トウヤ には はやく から いっそう クモリ の ない メイゲツ を みた。
 ワタクシ が オユキ の やんで ニュウイン して いる こと を しった の は その ヨ で ある。 ヤトイババ から マドグチ で きいた だけ なので、 ヤマイ の ナン で ある の か も しる ヨシ が なかった。
 10 ガツ に なる と レイネン より も サムサ が はやく きた。 すでに ジュウゴヤ の バン にも タマノイ イナリ の マエドオリ の ショウテン に、 「ミナサン、 ショウジ ハリカエ の とき が きました。 サービス に ジョウトウ の ノリ を シンテイ。」 と かいた カミ が さがって いた では ない か。 もはや スアシ に フルゲタ を ひきずり ボウシ も かぶらず ヨアルキ を する ジセツ では ない。 トナリ の ラディオ も しめた アマド に さえぎられて、 それほど ワタクシ を くるしめない よう に なった ので、 ワタクシ は イエ に いて も どうやら トウカ に したしむ こと が できる よう に なった。

     *     *     *

 ボクトウ キタン は ここ に フデ を おく べき で あろう。 しかしながら もし ここ に コフウ な ショウセツテキ ケツマツ を つけよう と ほっする ならば、 ハントシ あるいは 1 ネン の ノチ、 ワタクシ が ぐうぜん おもいがけない ところ で、 すでに シロト に なって いる オユキ に めぐりあう イッセツ を かきそえれば よい で あろう。 なおまた、 この グウゼン の カイコウ を して さらに カンショウテキ ならしめよう と おもった なら、 すれちがう ジドウシャ とか あるいは レッシャ の マド から、 たがいに カオ を みあわしながら、 コトバ を かわしたい にも かわす こと の できない バメン を もうければ よい で あろう。 フウヨウ テキカ アキ は しつしつ たる トネガワ アタリ の ワタシブネ で すれちがう ところ など は、 ことに ミョウ で あろう。
 ワタクシ と オユキ とは、 たがいに その ホンミョウ も その ジュウショ をも しらず に しまった。 ただ ボクトウ の ウラマチ、 カ の わめく ドブギワ の イエ で なれしたしんだ ばかり。 ヒトタビ わかれて しまえば ショウガイ あいあう べき キカイ も シュダン も ない アイダガラ で ある。 かるい レンアイ の ユウギ とは いいながら、 サイカイ の ノゾミ なき こと を ハジメ から しりぬいて いた ベツリ の ジョウ は、 しいて これ を かたろう と すれば コチョウ に おちいり、 これ を けいけい に じょしされば ジョウ を つくさぬ ウラミ が ある。 ピエール ロッチ の メイチョ オキク さん の マツダン は、 よく シャハン の ジョウチョ を えがきつくし、 ヒト を して アンルイ を もよおさしむる チカラ が あった。 ワタクシ が ボクトウ キタン の イッペン に ショウセツテキ シキサイ を テンカ しよう と して も、 それ は いたずらに ロッチ の フデ を まなんで いたらざる の ワライ を まねく に すぎぬ かも しれない。
 ワタクシ は オユキ が ながく ドブギワ の イエ に いて、 きわめて レンカ に その コビ を うる もの で ない こと は、 なんの イワレ も なく はやく から これ を ヨソウ して いた。 わかい コロ、 ワタクシ は ユウリ の ショウソク に ツウギョウ した ロウジン から、 こんな ハナシ を きかされた こと が あった。 これほど キ に いった オンナ は ない。 はやく ハナシ を つけない と、 ホカ の オキャク に ミウケ を されて しまい は せぬ か と おもう よう な キ が する と、 その オンナ は きっと ビョウキ で しぬ か、 そう で なければ とつぜん いや な オトコ に ミウケ を されて とおい クニ へ いって しまう。 なんの ワケ も ない キヤミ と いう もの は フシギ に あたる もの だ と いう ハナシ で ある。
 オユキ は あの トチ の オンナ には にあわしからぬ ヨウショク と サイチ と を もって いた。 ケイグン の イッカク で あった。 しかし ムカシ と イマ とは ジダイ が ちがう から、 やむ とも しぬ よう な こと は あるまい。 ギリ に からまれて おもわぬ ヒト に イッショウ を よせる こと も あるまい……。
 たてこんだ きたならしい イエ の ヤネツヅキ。 アラシ の くる マエ の おもくるしい ソラ に うつる ホカゲ を のぞみながら、 オユキ と ワタクシ とは マックラ な 2 カイ の マド に よって、 たがいに あせばむ テ を とりながら、 ただ それ とも なく ナゾ の よう な こと を いって かたりあった とき、 とつぜん ひらめきおちる イナズマ に てらされた その ヨコガオ。 それ は イマ も なお ありあり と メ に のこって きえさらず に いる。 ワタクシ は ハタチ の コロ から レンアイ の ユウギ に ふけった が、 しかし この ロウキョウ に いたって、 このよう な チム を かたらねば ならない よう な ココロモチ に なろう とは。 ウンメイ の ヒト を ヤユ する こと も また はなはだしい では ない か。 ソウコウ の ウラ には なお スウギョウ の ヨハク が ある。 フデ の ゆく まま、 シ だ か サンブン だ か ワケ の わからぬ もの を しるして この ヨ の ウレイ を なぐさめよう。

  のこる カ に ヒタイ さされし わが チシオ。
  フトコロガミ に
  キミ は ぬぐいて すてし ニワ の スミ。
  ハゲイトウ の ヒトクキ たちぬ。
  ヨゴト の シモ の さむければ、
  ユウグレ の カゼ をも またで、
  たおれしす べき サダメ も しらず、
  ニシキ なす ハ の しおれながら に
  イロ ます スガタ ぞ いたましき。
  やめる チョウ ありて
  きずつきし ツバサ に よろめき、
  かえりさく ハナ と うたがう ケイトウ の
  たおれしす べき その ハカゲ。
  ヤド かる ユメ も
  むすぶ に ヒマ なき オソアキ の
  タソガレ せまる ニワ の スミ。
  キミ と わかれし ワガミ ヒトリ、
  たおれしす べき ケイトウ の ヒトクキ と
  ならびて たてる ココロ は いかに。

ハナビ

2016-08-07 | ナガイ カフウ
 ハナビ

 ナガイ カフウ

 ヒルメシ の ハシ を とろう と した とき ぽん と どこ か で ハナビ の オト が した。 ツユ も ようやく アケ-ぢかい くもった ヒ で ある。 すずしい カゼ が たえず マド の スダレ を うごかして いる。 みれば せまい ロジウラ の イエイエ には ノキナミ に コッキ が だして あった。 コッキ の ない の は ワガヤ の コウシド ばかり で ある。 ワタシ は はじめて キョウ は トウキョウ シ オウシュウ センソウ コウワ キネンサイ の トウジツ で ある こと を おもいだした。
 ヒルメシ を すます と ワタシ は キノウ から はりかけた オシイレ の カベ を はって しまおう と、 テヌグイ で ナナメ に カタソデ を むすびあげて ハケ を とった。
 キョネン の クレ おしつまって、 しかも ユキ の ちらほら ふりだした ヒ で あった。 この ロジウラ に ひっこした その ヒ から オシイレ の カベツチ の ざらざら おちる の が キ に なって ならなかった が、 いつか そのまま ハントシ たって しまった の だ。
 すぐる トシ まだ イエ には ハハ も すこやか に ツマ も あった コロ、 ひろい 2 カイ の エンガワ で おだやか な コハル の ヒ を あびながら ゾウショ の ウラウチ を した こと が あった。 それから いつ とも なく ワタシ は ヨウ の ない タイクツ な オリオリ ノリシゴト を する よう に なった。 トシ を とる と だんだん ミョウ な クセ が でる。
 ワタシ は ヒゴロ テナライ した カミキレ や いつ かきすてた とも しれぬ ソウコウ の キレハシ、 また トモダチ の フミホゴ なぞ、 1 マイ 1 マイ ナニ が かいて ある か と ネッシン に よみかえしながら オシイレ の カベ を はって いった。 ハナビ は つづいて あがる。
 しかし ロジ の ウチ は フシギ な ほど しずか で ある。 オモテドオリ に ナニ か コト あれば たちまち あっちこっち の コウシド の あく オト と ともに かけだす ゲタ の オト の する のに、 キョウ に かぎって コドモ の さわぐ コエ も せず キンジョ の ニョウボウ の ハナシゴエ も きこえない。 ロジ の ツキアタリ に ある メッキヤ の ヤスリ の ヒビキ も しない。 ミンナ ヒビヤ か ウエノ へ でも でかけた に ちがいない。 ハナビ の オト に つれて ミミ を すます と かすか に ヒト の さけぶ コエ も きこえる。 ワタシ は カベ に はった ソウコウ を よみながら、 ふと ジブン の ミノウエ が いかに セケン から かけはなれて いる か を かんじた。 われながら おかしい。 また かなしい よう な さびしい よう な キ も する。 なぜ と いう に ワタシ は キョウコ な イシ が あって ことさら セケン から かけはなれよう と おもった わけ でも ない。 いつ と なく しらずしらず こういう コドク の ミ に なって しまった から で ある。 セケン と ジブン との アイダ には イマ なにひとつ チョクセツ の レンラク も ない。
 すずしい カゼ は たえず よごれた スダレ を うごかして いる。 くもった ソラ は スダレゴシ に、 ひときわ ゆめみる が ごとく どんより と して いる。 ハナビ の ヒビキ は だんだん ケイキ が よく なった。 ワタシ は ガッコウ や コウジョウ が ヤスミ に なって、 マチ の カドカド に スギ の ハ を むすびつけた リョクモン が たち、 オモテドオリ の ショウテン に コウハク の マンマク が ひかれ、 コッキ と チョウチン が かかげられ、 シンブン の ダイ 1 メン に よみにくい カンブンチョウ の シュクジ が のせられ、 ヒト が ぞろぞろ ヒビヤ か ウエノ へ でかける。 どうか する と ゲイシャ が ギョウレツ する。 ヨル に なる と チョウチン ギョウレツ が ある。 そして コドモ や バアサン が ふみころされる…… そういう サイジツ の サマ を おもいうかべた。 これ は メイジ の シンジダイ が セイヨウ から モホウ して あらた に つくりだした ゲンショウ の ヒトツ で ある。 トウキョウ シミン が ムジャキ に エド ジダイ から デンショウ して きた ウジガミ の サイレイ や ブツジ の カイチョウ とは まったく その ガイケイ と セイシン と を コト に した もの で ある。 ウジガミ の サイレイ には チョウナイ の ワカモノ が たらふく サケ に よい コゾウ や ホウコウニン が セキハン の チソウ に ありつく。 あたらしい ケイシキ の マツリ には しばしば セイジテキ サクリャク が ひそんで いる。
 ワタシ は コドモ の とき から みおぼえて いる あたらしい サイジツ の こと を おもいかえす とも なく おもいかえした。
 メイジ 23 ネン の 2 ガツ に ケンポウ ハップ の シュクガサイ が あった。 おそらく これ が ワタシ の キオク する シャカイテキ サイジツ の サイショ の もの で あろう。 かぞえて みる と 12 サイ の ハル、 コイシカワ の イエ に いた とき で ある。 さむい ので どこ へも ソト へは でなかった が しかし チョウチン ギョウレツ と いう もの の ハジマリ は この サイジツ から で ある こと を ワタシ は しって いる。 また コクミン が コッカ に たいして 「バンザイ」 と よぶ コトバ を おぼえた の も たしか この とき から はじまった よう に キオク して いる。 なぜ と いう に、 その コロ ワタシ の チチオヤ は テイコク ダイガク に つとめて おられた が、 その ヒ の ユウガタ ワラジバキ で あかい タスキ を ヨウフク の カタ に むすび あかい チョウチン を もって でて ゆかれ ヨル おそく かえって こられた。 チチ は その とき コンヤ は ダイガク の ショセイ を オオゼイ ひきつれ ニジュウバシ へ ねりだして バンザイ を サンコ した ハナシ を された。 バンザイ と いう の は エイゴ の なんとやら いう ゴ を とった もの で、 ガクシャ や ショセイ が ギョウレツ して ナニ か する の は セイヨウ には よく ある こと だ と とおい クニ の ハナシ を された。 しかし ワタシ には なんとなく おかしい よう な キ が して よく その イミ が わからなかった。
 もっとも その ヒ の アサ ワタシ は タカダイ の ガケ の ウエ に たって いる コイシカワ の イエ の エンガワ から、 イロイロ な ハタ や ノボリ が ヘイソト の オウライ を とおって ゆく の を みた。 そして ハタ や ノボリ に かいて ある モジ に よって、 ワタシ は その コロ みなれた フジコウ や オオヤマ マイリ なぞ と その ヒ の ギョウレツ とは まったく セイシツ の ことなった もの で ある こと だけ は、 どうやら わかって いた らしい。

 オオツ の マチ で、 ロシア の コウタイシ が ジュンサ に きられた。 この サワギ には イッコク を あげて チョウヤ ともに シンガイ した の は ジジツ らしい。 コドモ ながら ワタシ は なんとも しらぬ キョウフ を かんじた こと を キオク して いる。 その コロ カトウ キヨマサ が まだ チョウセン に いきて いる とか、 サイゴウ タカモリ が ホッカイドウ に かくれて いて ニホン を たすけ に くる とか いう ウワサ が あった。 しかも かく の ごとき リュウゲン ヒゴ が なんとも しれず そらおそろしく やはり ワタシタチ コドモ の ココロ を うごかした。 イマ から カイソウ する と その コロ の トウキョウ は、 クロフネ の ウワサ を した エド ジダイ と おなじ よう に、 ひっそり して うすぐらく、 ミチ ゆく ヒト の セッタ の オト しずか に イヌ の コエ さびしく、 ニシカゼ の キ を うごかす オト ばかり して いた よう な キ が する。

 マツリ と ソウドウ とは セケン の がやがや する こと に おいて にかよって いる。
 16 の トシ の ナツ オオカワバタ の スイレンバ に かよって いた。 ある ヒ の ユウガタ カワ の ナカ から ワタシ は ゴウガイウリ が カシドオリ をば オオゴエ に よびながら かけて ゆく の を みた。 これ が ニッシン センソウ の カイシ で あった。 ヨクネン オダワラ の オオニシ ビョウイン と いう に テンチ リョウヨウ して いた とき バカン ジョウヤク が なりたった。 しかし シュト を はなれた ビョウイン の ナイブ には かの リョウトウ カンプ に たいする ヒフン の コエ も さらに ハンキョウ を つたえなかった。 ワタシ は ただ ヤッキョク の ショセイ が ある アサ おおきな コエ で シンブン の シャセツ を ロウドク して いる の を きいた ばかり で ある。 ワタシ は その コロ から ハクブンカン が シュッパン しだした テイコク ブンコ をば ダイ 1 カン の タイコウキ から ひきつづいて ネッシン に よみふけって いた。 ナツ は ウメ の ミ じゅくし フユ は ミカン の いろづく かの オダワラ の コエキ は ワタシ には イッショウ の うち もっとも ヘイワ コウフク なる キオク を のこす ばかり で ある。

 メイジ 31 ネン に テント 30 ネン-サイ が ウエノ に ひらかれた。 サクラ の さいて いた こと を おぼえて いる ので 4 ガツ ハジメ に ちがいない。 シキジョウ-ガイ の ヒロコウジ で ヒト が オオゼイ ふみころされた と いう ウワサ が あった。

 メイジ 37 ネン ニチロ の カイセン を しった の は ベイコク タコマ に いた とき で ある。 ワタシ は ゴウガイ を テ に した とき むろん ヒジョウ に カンゲキ した。 しかし それ は はなはだ コウフク なる カンゲキ で あった。 ワタシ は ゲンコウ の とき の よう に ガイテキ が コキョウ の ノ を あらし ドウホウ を ほふり に くる もの とは おもわなかった。 まんまんいち ヒジョウ に フコウ な バアイ に なった と して も キンセイ ブンメイ の セイシン と セカイ コクサイ の カンケイ とは ひとり イッコク を して かく の ごとき ヒキョウ に たちいたらしめる こと は あるまい と いう よう な キ が した。 キリスト-キョウ の シンコウ と ローマ イコウ の ホウリツ の セイシン には まだまだ ヒョウキョ する に たる べき チカラ が ある もの の よう に おもいなして いた の だ。 いかに センソウ だ とて ヒト と うまれた から には このたび ドイツジン が ベルギー に おいて なした よう な ザイアク を あえて しうる もの では ない と おもって いた の だ。 つまり ワタシ は ゴウガイ を みて カンゲキ した けれど、 しかし ただちに フボ の ミノウエ を ううる ほど セッパク した カンジョウ を いだかなかった の で ある。 ましてや ホウドウ は ことごとく ショウリ で ある。 センショウ の ヨエイ は ワタシ の ミ を ながく やすらか に イキョウ の テンチ に あそばせて くれた ので、 ワタシ は 38 ネン の マナツ トウキョウ シ の シミン が いかに して シナイ の ケイサツショ と キリスト-キョウ の キョウカイ を やいた か、 また ジュンサ が いかに して シミン を きった か それら の こと は まったく しらず に トシ を すごした。
 メイジ 44 ネン ケイオウ ギジュク に ツウキン する コロ、 ワタシ は その みちすがら おりおり イチガヤ の トオリ で シュウジン バシャ が 5~6 ダイ も ひきつづいて ヒビヤ の サイバンショ の ほう へ はしって ゆく の を みた。 ワタシ は これまで ケンブン した セジョウ の ジケン の ナカ で、 この オリ ほど いう に いわれない いや な ココロモチ の した こと は なかった。 ワタシ は ブンガクシャ たる イジョウ この シソウ モンダイ に ついて もくして いて は ならない。 ショウセツカ ゾラ は ドレフュー ジケン に ついて セイギ を さけんだ ため コクガイ に ボウメイ した では ない か。 しかし ワタシ は ヨ の ブンガクシャ と ともに なにも いわなかった。 ワタシ は なんとなく リョウシン の クツウ に たえられぬ よう な キ が した。 ワタシ は みずから ブンガクシャ たる こと に ついて はなはだしき シュウチ を かんじた。 イライ ワタシ は ジブン の ゲイジュツ の ヒンイ を エド ゲサクシャ の なした テイド まで ひきさげる に しく は ない と シアン した。 その コロ から ワタシ は タバコイレ を さげ ウキヨエ を あつめ シャミセン を ひきはじめた。 ワタシ は エド マツダイ の ゲサクシャ や ウキヨエシ が ウラガ へ クロフネ が こよう が サクラダ ゴモン で タイロウ が アンサツ されよう が そんな こと は ゲミン の あずかりしった こと では ない―― いな とやかく もうす の は かえって おそれおおい こと だ と、 すまして シュンポン や シュンガ を かいて いた その シュンカン の キョウチュウ をば あきれる より は むしろ ソンケイ しよう と おもいたった の で ある。
 かくて タイショウ 2 ネン 3 ガツ の ある ヒ、 ワタシ は ヤマシロガシ の ロジ に いた ある オンナ の イエ で シャミセン を ケイコ して いた。 (ロジ の ウチ ながら ささやか な クグリモン が あり、 コニワ が あり、 チョウズバチ の ホトリ には おもいがけない ツバキ の コボク が あって シジュウカラ や ヤブウグイス が くる。 たてこんだ シチュウ の ロジウラ には おりおり おもいがけない ところ に ひとしれぬ しずか な インタク と イナリ の ホコラ が ある。) その とき にわか に ロジ の ウチ が さわがしく なった。 ドブイタ の ウエ を かけぬける ヒト の アシオト に つづいて ジュンサ の ハイケン の オト も きこえた。 それ が ため か チュウオウ シンブンシャ の インサツ キカイ の ヒビキ も ひとしきり うちけされた よう に きこえなく なった。 ワタシ は クグリモン を あけて そっと クビ を だして みた。 ギュウニュウ ハイタツフ の よう な タビハダシ に メリヤス の シャツ を きて テヌグイ で ハチマキ を した オトコ が 4~5 ニン ホリバタ の ほう へ と ロジ を かけぬけて いった。 その アト から キンジョ の デマエモチ が スジムコウ の イエ の カッテグチ で コクミン シンブン ヤキウチ の ウワサ を つたえて いた。 ワタシ は セノビ を して みた。 しかし ケムリ も みえぬ ので ウチ へ はいる と そのまま ごろり と ヒルネ を して しまった。 オキゴタツ が まことに グアイ よく あたたか で あった から で ある。 ユウメシ を すまして ヨル も 8 ジ-スギ あまり さむく ならぬ うち イエ へ かえろう と スキヤバシ へ でた とき ジュンサ ハシュツジョ の もえて いる の を みた。 デンシャ は ない。 ヤジウマ で ギンザ-ドオリ は トシ の イチ より も にぎやか で ある。 ツジツジ の コウバン が さかん に もえて いる サイチュウ で ある。 ドウロ の マンナカ には セキユ の カン が なげだされて あった。
 ヒビヤ へ くる と ジュンサ が クロベイ を たてた よう に オウライ を さえぎって いる。 ボウト が いましがた ケイシチョウ へ イシ を なげた とか いう こと で ある。 ワタシ は サクラダ ホンゴウ-チョウ の ほう へ ミチ を てんじた。 38 ネン の サワギ の とき ジュンサ に きられた モノ が たくさん あった と いう ハナシ を おもいだした から で ある。 トラノモン ソト で やっと クルマ を みつけて のった。 マックラ な カスミガセキ から ナガタ-チョウ へ でよう と する と カクショウ の ダイジン カンシャ を ケイゴ する グンタイ で ここ も また オウライドメ で ある。 ミヤケザカ へ もどって コウジマチ の オオドオリ へ まわり ウシゴメ の ハズレ の イエ へ ついた の は ヤハンスギ で あった。
 ヨノナカ は ソノゴ しずか で あった。
 タイショウ 4 ネン に なって 11 ガツ も ナカバゴロ と おぼえて いる。 トカ の シンブンシ は トウキョウ カクチ の ゲイシャ が ソクイシキ シュクガサイ の トウジツ おもいおもい の カソウ を して ニジュウバシ へ ねりだし バンザイ を レンコ する ヨシ を つたえて いた。 かかる コッカテキ ならびに シャカイテキ サイジツ に さいして ショウガッコウ の セイト が かならず ニジュウバシ へ ギョウレツ する よう に なった の も おもえば ワタシラ が すでに チュウガッコウ へ すすんで から アト の こと で ある。 クヤクショ が メイレイ して ロジ の ウラダナ にも コッキ を かかげさせる よう に した の も また 20 ネン を いでまい。 この カンリョウテキ シドウ の セイコウ は ついに コウフン バイショク の フジョ をも かって ハクジツ ダイドウ を ねりゆかせる に いたった。 ゲンダイ シャカイ の スウセイ は ただただ フカシギ と いう の ホカ は ない。 この ヒ ゲイシャ の ギョウレツ は これ を みん が ため に あつまりくる ヤジウマ に おしかえされ ケイゴ の ジュンサ シゴトシ も ヤク に たたず ついに めちゃめちゃ に なった。 その ヨ ワタシ は その バ に のぞんだ ヒト から イロイロ な ハナシ を きいた。 サイショ ケンブツ の グンシュウ は しずか に ミチ の リョウガワ に たって ゲイシャ の ギョウレツ の くる の を まって いた が、 イッコク イッコク あつまりくる ヒトデ に だんだん マエ の ほう に おしだされ、 やがて ギョウレツ の すすんで きた コロ には、 グンシュウ は ミチ の リョウガワ から おされ おされて イチド に どっと ギョウレツ の ゲイシャ に ニクハク した。 ギョウレツ と ケンブツニン と が めちゃめちゃ に いりみだれる や、 ヒゴロ ゲイシャ の エイガ を うらやむ ミンシュウ の ギフン は また ヤバン なる レツジョウ と こんじて ここ に キカイ シュウレツ なる ボウコウ が ハクジツ ザットウ の ナカ に エンリョ なく おこなわれた。 ゲイシャ は ヒメイ を あげて テイコク ゲキジョウ ソノタ フキン の カイシャ に いのちからがら にげこんだ の を グンシュウ は オオカミ の よう に おいかけ おしよせて タテモノ の ト を こわし マド に イシ を なげた。 その ヒ ゲイシャ の ユクエ フメイ に なった モノ や リョウジョク の ケッカ ハッキョウ シッシン した モノ も スウメイ に およんだ と やら。 しかし ゲイシャ クミアイ は かたく この こと を ひし ひそか に ナカマ から ギエンキン を チョウシュウ して それら の ギセイシャ を なぐさめた とか いう ハナシ で あった。
 ムカシ の オマツリ には バクト の ケンカ が ある。 ゲンダイ の マツリ には オンナ が ふみころされる。
 タイショウ 7 ネン 8 ガツ ナカバ、 セツ は リッシュウ を すぎて 4~5 ニチ たった。 ネンジュウ エンショ の もっとも はげしい とき で ある。 イノウエ アア クン と その コロ ハッコウ して いた ザッシ カゲツ の ヘンシュウ を おわり ドウクン の カエリ を おくりながら カグラザカ まで すずみ に でた。 サカナマチ で デンシャ を おりる と オオドオリ は イツモ の よう に スズミ の ヒトデ で にぎわって いた が ヨミセ の ショウニン は なにやら うろたえた ヨウス で イマガタ ならべた ばかり の ミセ を しまいかけて いる。 ユウダチ が きそう だ と いう の でも ない。 こころづけば ジュンサ が しきり に いったり きたり して いる。 ヨコチョウ へ まがって みる と ノキ を ならべた ゲイシャヤ は ことごとく ト を しめ ヒ を けし ひっそり と ナリ を しずめて いる。 ふたたび オモテドオリ へ でて ビーヤ ホール に やすむ と ショセイ-フウ の オトコ が ギンザ の ショウテン や シンバシ ヘン の ゲイシャヤ の うちこわされた ハナシ を して いた。
 ワタシ は はじめて ベイカ トウキ の ソウドウ を しった の で ある。 しかし ツギ の ヒ シンブン の キジ は サシトメ に なった。 アト に なって ハナシ を きく と ソウドウ は いつも ユウガタ すずしく なって から はじまる。 その コロ は マイヨ ツキ が よかった。 ワタシ は ボウト が ユウガタ すずしく なって ツキ が でて から フゴウ の イエ を おびやかす と きいた とき なんとなく そこ に ある ヨユウ が ある よう な キ が して ならなかった。 ソウドウ は 5~6 ニチ つづいて ヘイテイ した。 ちょうど アメ が ふった。 ワタシ は すみふるした ウシゴメ の イエ をば まだ さらず に いた ので、 ヒサシブリ の アメ と ともに ニワ には ムシ の ネ が イチド に しげく なり ウエコミ に ふきいる カゼ の ヒビキ に いよいよ その トシ の アキ も ふかく なった こと を しった。
 やがて 11 ガツ も スエ ちかく ワタシ は すでに イエ を うしない、 これから サキ いずこ に ビョウク を かくそう か と メアテ も なく カシヤ を さがし に でかけた。 ヒビヤ の コウエン-ガイ を とおる とき 1 タイ の ショッコウ が アサギ の シゴトギ を つけ クミアイ の ハタ を サキ に たてて、 タイゴ せいぜん と ねりゆく の を みた。 その ヒ は オウシュウ キュウセン キネン の シュクジツ で あった の だ。 ビョウライ ひさしく セケン を みなかった ワタシ は、 この ヒ とつぜん トウキョウ の ガイトウ に かつて フランス で みなれた よう な アサギ の ロウドウフク を つけた ショッコウ の ギョウレツ を メ に して、 ヨノナカ は かくまで かわった の か と いう よう な キ が した。 メ の さめた よう な キ が した。
 コメソウドウ の ウワサ は めずらしからぬ セイトウ の キョウサ に よった もの の よう な キ が して ならなかった が、 ヨウソウ した ショッコウ の ダンタイ の しずか に ねりゆく スガタ には うごかしがたい ジダイ の チカラ と セイカツ の ヒアイ と が あらわれて いた よう に おもわれた。 ワタシ は すでに ヒトムカシ も マエ ヒサシブリ に コキョウ の テンチ を みた コロ かんがえる とも なく かんがえた イロイロ な モンダイ をば、 ここ に ふたたび おもいだす とも なく おもいだす よう に なった。 メ に みる ゲンジツ の ジショウ は この トシツキ ひたり に ひたった エド カイコ の ユメ から ついに ワタシ を よびさます とき が きた の で あろう か。 もし しかり と すれば ワタシ は みずから その フコウ なる を たんじなければ ならぬ。

 ハナビ は しきり に あがって いる。 ワタシ は ハケ を シタ に おいて タバコ を イップク しながら ソト を みた。 ナツ の ヒ は くもりながら ヒル の まま に あかるい。 ツユバレ の しずか な ゴゴ と アキ の スエ の うすく くもった ユウガタ ほど モノ おもう に よい とき は あるまい……。

スミダガワ 1

2014-07-23 | ナガイ カフウ
 スミダガワ

 ナガイ カフウ

 1

 ハイカイシ ショウフウアン ラゲツ は イマド で トキワズ の シショウ を して いる じつの イモウト をば コトシ は ウラボン にも たずねず に しまった ので マイニチ その こと のみ キ に して いる。 しかし ヒザカリ の アツサ には さすが に ウチ を でかねて ユウガタ に なる の を まつ。 ユウガタ に なる と タケガキ に アサガオ の からんだ カッテグチ で ギョウズイ を つかった ノチ そのまま マッパダカ で バンシャク を かたむけ やっと の こと ゼン を はなれる と、 ナツ の タソガレ も イエイエ で たく カヤリ の ケムリ と ともに いつか ヨル と なり、 ボンサイ を ならべた マド の ソト の オウライ には スダレゴシ に ゲタ の オト ショクニン の ハナウタ ヒト の ハナシゴエ が にぎやか に きこえだす。 ラゲツ は ニョウボウ の オタキ に チュウイ されて すぐに も イマド へ ゆく つもり で コウシド を でる の で ある が、 その ヘン の スズミダイ から コエ を かけられる が まま コシ を おろす と、 イッパイ キゲン の ハナシズキ に、 マイバン きまって ラチ も なく はなしこんで しまう の で あった。
 アサユウ が いくらか すずしく ラク に なった か と おもう と ともに たいへん ヒ が みじかく なって きた。 アサガオ の ハナ が ヒゴト に ちいさく なり、 ニシビ が もえる ホノオ の よう に せまい イエジュウ へ さしこんで くる ジブン に なる と なきしきる セミ の コエ が ひときわ みみだって せわしく きこえる。 8 ガツ も いつか ナカバ すぎて しまった の で ある。 イエ の ウシロ の トウモロコシ の ハタケ に ふきわたる カゼ の ヒビキ が ヨル なぞ は おりおり アメ か と あやまたれた。 ラゲツ は わかい ジブン したい-ホウダイ ミ を もちくずした ドウラク の ナゴリ とて ジコウ の カワリメ と いえば いまだに ホネ の フシブシ が いたむ ので、 いつも ヒト より サキ に アキ の たつ の を しる の で ある。 アキ に なった と おもう と ただ ワケ も なく キ が せわしく なる。
 ラゲツ は にわか に うろたえだし、 ヨウカ-ゴロ の ユウヅキ が まだ ましろく ユウヤケ の ソラ に かかって いる コロ から コウメ カワラマチ の スマイ を アト に てくてく イマド を さして あるいて いった。
 ホリワリヅタイ に ヒキフネ-ドオリ から すぐさま ヒダリ へ まがる と、 トチ の モノ で なければ ユクサキ の わからない ほど ウカイ した コミチ が ミメグリ イナリ の ヨコテ を めぐって ドテ へ と つうじて いる。 コミチ に そうて は タンボ を うめたてた アキチ に、 あたらしい カシナガヤ が まだ アキヤ の まま に たちならんだ ところ も ある。 ひろびろ した カマエ の ソト には おおきな ニワイシ を すえならべた ウエキヤ も あれば、 いかにも イナカ-らしい カヤブキ の ジンカ の まばら に たちつづいて いる ところ も ある。 それら の ウチ の タケガキ の アイダ から は ユウヅキ に ギョウズイ を つかって いる オンナ の スガタ の みえる こと も あった。 ラゲツ ソウショウ は いくら トシ を とって も ムカシ の カタギ は かわらない ので みて みぬ よう に そっと たちどまる が、 タイガイ は ぞっと しない ニョウボウ ばかり なので、 ラクタン した よう に そのまま アユミ を はやめる。 そして ウリチ や カシヤ の フダ を みて すぎる たびたび、 なんとも つかず その ムナザンヨウ を しながら ジブン も フトコロデ で オオモウケ が して みたい と おもう。 しかし また タンボ-ヅタイ に あるいて ゆく うち ミズタ の トコロドコロ に ハス の ハナ の みごと に さきみだれた サマ を ながめ あおあお した イネ の ハ に ユウカゼ の そよぐ ヒビキ を きけば、 さすが は ソウショウ だけ に、 ゼニカンジョウ の こと より も キオク に サンザイ して いる コジン の ク をば じつに うまい もの だ と おもいかえす の で あった。
 ドテ へ あがった とき には ハザクラ の カゲ は はや おぐらく ミズ を へだてた ジンカ には ヒ が みえた。 ふきはらう カワカゼ に サクラ の ワクラバ が はらはら ちる。 ラゲツ は やすまず あるきつづけた アツサ に ほっと イキ を つき、 ひろげた ムネ をば センス で あおいだ が、 まだ ミセ を しまわず に いる ヤスミヂャヤ を みつけて あわてて たちより、 「オカミサン、 ヒヤ で 1 パイ」 と コシ を おろした。 ショウメン に マツチヤマ を みわたす スミダガワ には ユウカゼ を はらんだ ホカケブネ が しきり に うごいて ゆく。 ミズ の オモテ の たそがれる に つれて カモメ の ハネ の イロ が きわだって しろく みえる。 ソウショウ は この ケシキ を みる と ジコウ は ちがう けれど サケ なくて なんの オノレ が サクラ かな と キュウ に イッパイ かたむけたく なった の で ある。
 ヤスミヂャヤ の ニョウボウ が フチ の あつい ソコ の あがった コップ に ついで だす ヒヤザケ を、 ラゲツ は ぐいと のみほして そのまま タケヤ の ワタシブネ に のった。 ちょうど カワ の ナカホド へ きた コロ から フネ の ゆれる に つれて ヒヤザケ が おいおい に きいて くる。 ハザクラ の ウエ に かがやきそめた ユウヅキ の ヒカリ が いかにも すずしい。 なめらか な ミチシオ の ミズ は 「オマエ どこ ゆく」 と ハヤリウタ にも ある よう に いかにも なげやった ふう に ココロモチ よく ながれて いる。 ソウショウ は メ を つぶって ヒトリ で ハナウタ を うたった。
 ムコウガシ へ つく と キュウ に おもいだして キンジョ の カシヤ を さがして ミヤゲ を かい イマドバシ を わたって マッスグ な ミチ をば ジブン ばかり は アシモト の たしか な つもり で、 じつは だいぶ ふらふら しながら あるいて いった。
 そこここ に 2~3 ゲン イマドヤキ を うる ミセ に わずか な トクチョウ を みる ばかり、 いずこ の バスエ にも よく ある よう な ひくい ジンカ ツヅキ の ヨコチョウ で ある。 ジンカ の ノキシタ や ロジグチ には はなしながら すずんで いる ヒト の ユカタ が うすぐらい ケントウ の ヒカリ に きわだって しろく みえながら、 アタリ は イッタイ に ひっそり して どこ か で イヌ の ほえる コエ と アカゴ の なく コエ が きこえる。 アマノガワ の すみわたった ソラ に しげった コダチ を そびやかして いる イマド ハチマン の マエ まで くる と、 ラゲツ は マ も なく ならんだ ケントウ の アイダ に トキワズ モジトヨ と カンテイリュウ で かいた イモウト の イエ の ヒ を みとめた。 イエ の マエ の オウライ には ヒト が 2~3 ニン も たちどまって ナカ なる ケイコ の ジョウルリ を きいて いた。

 おりおり おそろしい オト して ネズミ の はしる テンジョウ から ホヤ の くもった ロクブシン の ランプ が ところどころ ホウタン の コウコク や ミヤコ シンブン の シンネン フロク の ビジンガ なぞ で ヤブレメ を かくした フスマ を ハジメ、 アメイロ に ふるびた タンス、 アマモリ の アト の ある ふるびた カベ なぞ、 8 ジョウ の ザシキ イッタイ を いかにも うすぐらく てらして いる。 ふるぼけた ヨシド を たてた エンガワ の ソト には コニワ が ある の やら ない の やら わからぬ ほど な ヤミ の ナカ に ノキ の フウリン が さびしく なり ムシ が しずか に ないて いる。 シショウ の オトヨ は エンニチモノ の ウエキバチ を ならべ、 フドウソン の カケモノ を かけた トコノマ を ウシロ に して べったり すわった ヒザ の ウエ に シャミセン を かかえ、 カシ の バチ で ときどき マエガミ の アタリ を かきながら、 カケゴエ を かけて は ひく と、 ケイコボン を ひろげた キリ の コヅクエ を ナカ に して こなた には 30 ゼンゴ の ショウニン らしい オトコ が チュウオン で、 「そりゃ ナニ を いわしゃんす、 いまさら アニ よ イモウト と いう に いわれぬ コイナカ は……」 と 「コイナ ハンベエ」 の ミチユキ を かたる。
 ラゲツ は ケイコ の すむ まで エン-ヂカク に すわって、 センス を ぱちくり させながら、 まだ ヒヤザケ の すっかり さめきらぬ ところ から、 ときどき は われしらず クチ の ナカ で ケイコ の オトコ と イッショ に うたった が、 ときどき は メ を つぶって エンリョ なく オクビ を した ノチ、 カラダ を かるく サユウ に ゆすりながら オトヨ の カオ をば なんの キ も なく ながめた。 オトヨ は もう 40 イジョウ で あろう。 うすぐらい ツルシ ランプ の ヒカリ が やせこけた コヅクリ の カラダ をば なおさら に ふけて みせる ので、 ふいと これ が ムカシ は リッパ な シチヤ の かわいらしい ハコイリ ムスメ だった の か と おもう と、 ラゲツ は かなしい とか さびしい とか そういう ゲンジツ の カンガイ を とおりこして、 ただただ フシギ な キ が して ならない。 その コロ は ジブン も やはり わかくて うつくしくて、 オンナ に すかれて、 ドウラク して、 とうとう ジッカ を シチショウ まで カンドウ されて しまった が、 イマ に なって は その コロ の こと は どうしても ジジツ では なくて ユメ と しか おもわれない。 ソロバン で オレ の アタマ を なぐった オヤジ に しろ、 ないて イケン を した シロネズミ の バントウ に しろ、 ノレン を わけて もらった オトヨ の テイシュ に しろ、 そういう ヒトタチ は おこったり わらったり ないたり よろこんだり して、 アセ を たらして あきず に よく はたらいて いた もの だ が、 ヒトリヒトリ ミナ しんで しまった キョウ と なって みれば、 あの ヒトタチ は この ヨノナカ に うまれて きて も こなくて も つまる ところ は おなじ よう な もの だった。 まだしも ジブン と オトヨ の いきて いる アイダ は、 あの ヒトタチ は フタリ の キオク の ウチ に のこされて いる ものの、 やがて ジブン たち も しんで しまえば いよいよ なにもかも ケムリ に なって アトカタ も なく きえうせて しまう の だ……。
「ニイサン、 じつは 2~3 ニチ うち に ワタシ の ほう から オジャマ に あがろう と おもって いた ん だよ」 と オトヨ が とつぜん はなしだした。
 ケイコ の オトコ は コイナ ハンベエ を さらった ノチ おなじ よう な オツマ ハチロベエ の カタリダシ を 2~3 ド くりかえして かえって いった の で ある。 ラゲツ は もっともらしく すわりなおして センス で かるく ヒザ を たたいた。
「じつは ね」 と オトヨ は おなじ コトバ を くりかえして、 「コマゴメ の オテラ が シク カイセイ で トリハライ に なる ん だ とさ。 それで ね、 しんだ オトッツァン の オハカ を ヤナカ か ソメイ か どこ か へ うつさなくっちゃ ならない ん だって ね、 4~5 ニチ マエ に オテラ から オツカイ が きた から、 どうした もの か と、 その ソウダン に ゆこう と おもってた のさ」
「なるほど」 と ラゲツ は うなずいて、 「そういう こと なら うっちゃって も おけまい。 もう ナンネン に なる かな、 オヤジ が しんで から……」
 クビ を かしげて かんがえた が、 オトヨ の ほう は ちゃくちゃく ハナシ を すすめて ソメイ の ボチ の ジダイ が ヒトツボ いくら、 テラ への ココロヅケ が どうの こうの と、 それ に ついて は オンナ の ミ より も オトコ の ラゲツ に バンジ を ひきうけて とりはからって もらいたい と いう の で あった。
 ラゲツ は もと コイシカワ オモテマチ の サガミヤ と いう シチヤ の アトトリ ムスコ で あった が カンドウ の スエ ワカインキョ の ミ と なった。 ガンコ な チチ が ヨ を さって から は イモウト オトヨ を ツマ に した ミセ の バントウ が ショウジキ に サガミヤ の ショウバイ を つづけて いた。 ところが ゴイッシン コノカタ ジセイ の ヘンセン で しだいに カウン の かたむいて きた オリ も オリ カジ に あって シチヤ は それなり つぶれて しまった。 で、 フウリュウ-ザンマイ の ラゲツ は やむ を えず ハイカイ で ヨ を わたる よう に なり、 オトヨ は ソノゴ テイシュ に しにわかれた フコウ ツヅキ に ムカシ ナ を とった ユウゲイ を サイワイ トキワズ の シショウ で クラシ を たてる よう に なった。 オトヨ には コトシ 18 に なる オトコ の コ が ヒトリ ある。 レイラク した オンナオヤ が コノヨ の タノシミ と いう の は まったく この ヒトリムスコ チョウキチ の シュッセ を みよう と いう こと ばかり で、 アキンド は いつ シッパイ する か わからない と いう ケイケン から、 オトヨ は 3 ド の メシ を 2 ド に して も、 ゆくゆく は ワガコ を ダイガッコウ に いれて リッパ な ゲッキュウトリ に せねば ならぬ と おもって いる。
 ラゲツ ソウショウ は ひえた チャ を のみほしながら、 「チョウキチ は どう しました」
 すると オトヨ は もう トクイ-らしく、 「ガッコウ は イマ ナツヤスミ です がね、 あそばしといちゃ いけない と おもって ホンゴウ まで ヤガク に やります」
「じゃ カエリ は おそい ね」
「ええ。 いつでも 10 ジ すぎます よ。 デンシャ は あります がね、 ずいぶん トオミチ です から ね」
「コチトラ とは ちがって イマドキ の わかい モノ は カンシン だね」 ソウショウ は コトバ を きって、 「チュウガッコウ だっけ ね、 オレ は コドモ を もった こと が ねえ から トウセツ の ガッコウ の こと は ちっとも わからない。 ダイガッコウ まで ゆく にゃ まだ よほど かかる の かい」
「ライネン ソツギョウ して から シケン を うける ん でさあ ね。 ダイガッコウ へ ゆく マエ に、 もう ヒトツ…… おおきな ガッコウ が ある ん です」 オトヨ は なにもかも ヒトクチ に セツメイ して やりたい と ココロ ばかり は あせって も、 やはり ジセイ に うとい オンナ の こと で たちまち いいよどんで しまった。
「たいした カカリ だろう ね」
「ええ それ あ、 タイテイ じゃ ありません よ。 なにしろ、 アナタ、 ゲッシャ ばかり が マイゲツ 1 エン、 ホンダイ だって シケン の たんび に 2~3 エン じゃ ききません し ね、 それに ナツフユ ともに ヨウフク を きる ん でしょう、 クツ だって ネン に 2 ソク は はいて しまいます よ」
 オトヨ は チョウシ-づいて クシン の ホド を イチバイ つよく みせよう ため か コエ に チカラ を いれて はなした が、 ラゲツ は その とき、 それほど に まで ムリ を する なら、 なにも ダイガッコウ へ いれない でも、 チョウキチ には もっと ミブン ソウオウ な リッシン の ミチ が ありそう な もの だ と いう キ が した。 しかし クチ へ だして いう ほど の こと でも ない ので、 ナニ か ワダイ の ヘンカ を と のぞむ ヤサキ へ、 シゼン に おもいだされた の は チョウキチ が コドモ の ジブン の アソビ トモダチ で オイト と いった センベイヤ の ムスメ の こと で ある。 ラゲツ は その コロ オトヨ の ウチ を たずねた とき には きまって オイ の チョウキチ と オイト を つれて は、 オクヤマ や サタケッパラ の ミセモノ を み に いった の だ。
「チョウキチ が 18 じゃ、 あの コ は もう リッパ な ネエサン だろう。 やはり ケイコ に くる かい」
「ウチ へは きません がね、 この サキ の キネヤ さん にゃ マイニチ かよって ます よ。 もう じき ヨシチョウ へ でる ん だ って いいます がね……」 と オトヨ は ナニ か かんがえる らしく コトバ を きった。
「ヨシチョウ へ でる の か。 そいつ あ ゴウギ だ。 コドモ の とき から ちょいと クチ の キキヨウ の ませた、 いい コ だった よ。 コンヤ に でも あそび に くりゃあ いい に。 ねえ、 オトヨ」 と ソウショウ は キュウ に ゲンキ-づいた が、 オトヨ は ぽんと ナガギセル を はたいて、
「イゼン と ちがって、 チョウキチ も イマ が ベンキョウザカリ だし ね……」
「ははははは。 マチガイ でも あっちゃ ならない と いう の かね。 もっとも だよ。 この ミチ ばかり は まったく ユダン が ならない から な」
「ホント さ。 オマエサン」 オトヨ は クビ を ながく のばして、 「ワタシ の ヒガメ かも しれない が、 じつは どうも チョウキチ の ヨウス が シンパイ で ならない のさ」
「だから、 いわない こっちゃ ない」 と ラゲツ は かるく ニギリコブシ で ヒザガシラ を たたいた。 オトヨ は チョウキチ と オイト の こと が ただ なんとなし に シンパイ で ならない。 と いう の は、 オイト が ナガウタ の ケイコ-ガエリ に マイアサ ヨウ も ない のに きっと たちよって みる、 それ をば チョウキチ は かならず まって いる ヨウス で その ジカン-ゴロ には ヒトアシ だって マド の ソバ を さらない。 それ のみ ならず、 いつぞや オイト が ビョウキ で トオカ ほど も ねて いた とき には、 チョウキチ は ヨソメ も おかしい ほど に ぼんやり して いた こと など を イキ も つかず に かたりつづけた。
 ツギノマ の トケイ が 9 ジ を うちだした とき とつぜん コウシド が がらり と あいた。 その アケヨウ で オトヨ は すぐに チョウキチ の かえって きた こと を しり キュウ に ハナシ を とぎらし その ほう に ふりかえりながら、
「たいへん はやい よう だね、 コンヤ は」
「センセイ が ビョウキ で 1 ジカン はやく ひけた ん だ」
「コウメ の オジサン が オイデ だよ」
 ヘンジ は きこえなかった が、 ツギノマ に ツツミ を なげだす オト が して、 すぐさま チョウキチ は おとなしそう な よわそう な イロ の しろい カオ を フスマ の アイダ から みせた。

 2

 ザンショ の ユウヒ が ひとしきり ナツ の サカリ より も はげしく、 ひろびろ した カワヅラ イッタイ に もえたち、 ことさら に ダイガク の テイコ の マッシロ な ペンキヌリ の ハメ に ハンエイ して いた が、 たちまち トモシビ の ヒカリ の きえて ゆく よう に アタリ は ゼンタイ に うすぐらく ハイイロ に ヘンショク して きて、 みちくる ユウシオ の ウエ を すべって ゆく ニブネ の ホ のみ が まっしろく きわだった。 と みる マ も なく ショシュウ の タソガレ は マク の おりる よう に はやく ヨル に かわった。 ながれる ミズ が いやに まぶしく きらきら ひかりだして、 ワタシブネ に のって いる ヒト の カタチ を くっきり と スミエ の よう に くろく そめだした。 ツツミ の ウエ に ながく よこたわる ハザクラ の コダチ は こなた の キシ から のぞめば おそろしい ほど マックラ に なり、 イチジ は おもしろい よう に ひきつづいて うごいて いた ニブネ は いつのまにか 1 ソウ のこらず ジョウリュウ の ほう に きえて しまって、 ツリ の カエリ らしい コブネ が ところどころ コノハ の よう に ういて いる ばかり、 みわたす スミダガワ は ふたたび ひろびろ と した ばかり か しずか に さびしく なった。 はるか カワカミ の ソラ の ハズレ に ナツ の ナゴリ を しめす クモ の ミネ が たって いて ほそい イナズマ が たえまなく ひらめいて は きえる。
 チョウキチ は サッキ から ヒトリ ぼんやり して、 ある とき は イマドバシ の ランカン に もたれたり、 ある とき は キシ の イシガキ から ワタシバ の サンバシ へ おりて みたり して、 ユウヒ から タソガレ、 タソガレ から ヨル に なる カワ の ケシキ を ながめて いた。 コンヤ くらく なって ヒト の カオ が よく は みえない ジブン に なったら イマドバシ の ウエ で オイト と あう ヤクソク を した から で ある。 しかし ちょうど ニチヨウビ に あたって ヤガッコウ を コウジツ にも できない ところ から ユウメシ を すます が いなや まだ ヒ の おちぬ うち ふいと ウチ を でて しまった。 ひとしきり ワタシバ へ いそぐ ヒト の ユキキ も イマ では ほとんど たえ、 ハシ の シタ に ヨドマリ する ニブネ の トモシビ が ケイヨウジ の たかい コダチ を サカサ に うつした サンヤボリ の ミズ に うつくしく ながれた。 カドグチ に ヤナギ の ある あたらしい ニカイヤ から は シャミセン が きこえて、 ミズ に そう ひくい コイエ の コウシド ソト には ハダカ の テイシュ が すずみ に ではじめた。 チョウキチ は もう くる ジブン で あろう と おもって イッシン に ハシムコウ を ながめた。
 サイショ に ハシ を わたって きた ヒトカゲ は くろい アサ の コロモ を きた ボウズ で あった。 つづいて シリハショリ の モモヒキ に ゴムグツ を はいた ウケオイシ らしい オトコ の とおった アト、 しばらく して から、 コウモリガサ と コヅツミ を さげた まずしげ な ニョウボウ が ヒヨリ ゲタ で イロケ も なく スナ を けたてて オオマタ に あるいて いった。 もう いくら まって も ヒトドオリ は ない。 チョウキチ は せんかたなく つかれた メ を カワ の ほう に うつした。 カワヅラ は サッキ より も イッタイ に あかるく なり きみわるい クモ の ミネ は カゲ も なく きえて いる。 チョウキチ は その とき チョウメイジ ヘン の ツツミ の ウエ の コダチ から、 たぶん キュウレキ 7 ガツ の マンゲツ で あろう、 アカミ を おびた おおきな ツキ の のぼりかけて いる の を みとめた。 ソラ は カガミ の よう に あかるい ので それ を さえぎる ツツミ と コダチ は ますます くろく、 ホシ は ヨイ の ミョウジョウ の たった ヒトツ みえる ばかり で ソノタ は ことごとく あまり に あかるい ソラ の ヒカリ に かきけされ、 ヨコザマ に ながく たなびく クモ の チギレ が ギンイロ に すきとおって かがやいて いる。 みるみる うち マンゲツ が コダチ を はなれる に したがい カワギシ の ヨツユ を あびた カワラヤネ や、 ミズ に ぬれた ボウグイ、 マンチョウ に ながれよる イシガキ シタ の モグサ の チギレ、 フネ の ヨコバラ、 タケザオ なぞ が、 いちはやく ツキ の ヒカリ を うけて あおく かがやきだした。 たちまち チョウキチ は ジブン の カゲ が ハシイタ の ウエ に だんだん に こく えがきだされる の を しった。 とおりかかる ホーカイブシ の ダンジョ が フタリ、 「まあ ごらん よ。 オツキサマ」 と いって しばらく たちどまった ノチ、 サンヤボリ の キシベ に まがる が いなや あてつけがましく、
  ♪ショセイ さん ハシ の ランカン に コシ うちかけて――
と たちつづく コイエ の マエ で うたった が カネ に ならない と みた か うたい も おわらず、 モト の イソギアシ で ヨシワラ ドテ の ほう へ いって しまった。
 チョウキチ は いつも シノビアイ の コイビト が ケイケン する サマザマ の ケネン と まちあぐむ ココロ の イラダチ の ホカ に、 なんとも しれぬ イッシュ の ヒアイ を かんじた。 オイト と ジブン との ユクスエ…… ユクスエ と いう より も コンヤ あって ノチ の アシタ は どう なる の で あろう。 オイト は コンヤ かねて から ハナシ の して ある ヨシチョウ の ゲイシャヤ まで でかけて ソウダン を して くる と いう こと で、 その ドウチュウ をば フタリ イッショ に はなしながら あるこう と ヤクソク した の で ある。 オイト が いよいよ ゲイシャ に なって しまえば これまで の よう に マイニチ あう こと が できなく なる のみ ならず、 それ が バンジ の オワリ で ある らしく おもわれて ならない。 ジブン の しらない いかにも とおい クニ へ と ふたたび かえる こと なく いって しまう よう な キ が して ならない の だ。 コンヤ の オツキサマ は わすれられない。 イッショウ に 2 ド みられない ツキ だなあ と チョウキチ は しみじみ おもった。 あらゆる キオク の カズカズ が デンコウ の よう に ひらめく。 サイショ ジカタマチ の ショウガッコウ へ ゆく コロ は マイニチ の よう に ケンカ して あそんだ。 やがて は ミンナ から キンジョ の イタベイ や ドゾウ の カベ に アイアイガサ を かかれて はやされた。 コウメ の オジサン に つれられて オクヤマ の ミセモノ を み に いったり イケ の コイ に フ を やったり した。
 サンジャ マツリ の オリ オイト は ある トシ オドリヤタイ へ でて ドウジョウジ を おどった。 チョウナイ イチドウ で マイトシ シオヒガリ に ゆく フネ の ウエ でも オイト は よく おどった。 ガッコウ の カエリミチ には マイニチ の よう に マツチヤマ の ケイダイ で まちあわせて、 ヒト の しらない サンヤ の ウラマチ から ヨシワラ タンボ を あるいた……。 ああ、 オイト は なぜ ゲイシャ なんぞ に なる ん だろう。 ゲイシャ なんぞ に なっちゃ いけない と ひきとめたい。 チョウキチ は ムリ にも ひきとめねば ならぬ と ケッシン した が、 すぐ その ソバ から、 ジブン は オイト に たいして は とうてい それ だけ の イリョク の ない こと を おもいかえした。 はかない ゼツボウ と アキラメ と を かんじた。 オイト は フタツ トシシタ の 16 で ある が、 コノゴロ に なって は チョウキチ は ことさら に ヒイチニチ と オイト が はるか トシウエ の アネ で ある よう な ココロモチ が して ならぬ の で あった。 いや サイショ から オイト は チョウキチ より も つよかった。 チョウキチ より も はるか に オクビョウ では なかった。 オイト チョウキチ と アイアイガサ に かかれて ミンナ から はやされた とき でも オイト は びくとも しなかった。 ヘイキ な カオ で チョウ ちゃん は アタイ の ダンナ だよ と どなった。 キョネン はじめて ガッコウ から の カエリミチ を マツチヤマ で まちあわそう と もうしだした の も オイト で あった。 ミヤト-ザ の タチミ へ ゆこう と いった の も オイト が サキ で あった。 カエリ の おそく なる こと をも オイト の ほう が かえって シンパイ しなかった。 しらない ミチ に まよって も、 オイト は ゆける ところ まで いって ごらん よ。 オマワリサン に きけば わかる よ と いって、 かえって おもしろそう に ずんずん あるいた……。
 アタリ を かまわず ハシイタ の ウエ に アズマ ゲタ を ならす ヒビキ が して、 コバシリ に とつぜん オイト が かけよった。
「おそかった でしょう。 キ に いらない ん だ もの、 オッカサン の ゆった カミ なんぞ」 と かけだした ため に ことさら ほつれた ビン を なおしながら、 「おかしい でしょう」
 チョウキチ は ただ メ を まるく して オイト の カオ を みる ばかり で ある。 イツモ と カワリ の ない ゲンキ の いい はしゃぎきった ヨウス が この バアイ むしろ にくらしく おもわれた。 とおい シタマチ に いって ゲイシャ に なって しまう の が すこしも かなしく ない の か と チョウキチ は いいたい こと も ムネイッパイ に なって クチ には でない。 オイト は カワミズ を てらす タマ の よう な ツキ の ヒカリ にも いっこう キ の つかない ヨウス で、
「はやく ゆこう よ。 ワタイ オカネモチ だよ。 コンヤ は。 ナカミセ で オミヤゲ を かって ゆく ん だ から」 と すたすた あるきだす。
「アシタ、 きっと かえる か」 チョウキチ は どもる よう に して いいきった。
「アシタ かえらなければ、 アサッテ の アサ は きっと かえって きて よ。 フダンギ だの いろんな もの もって ゆかなくっちゃ ならない から」
 マツチヤマ の フモト を ショウデン-チョウ の ほう へ でよう と ほそい ロジ を ぬけた。
「なぜ だまってる のよ。 どうした の」
「アサッテ かえって きて それから また あっち へ いって しまう ん だろう。 え。 オイト ちゃん は もう それなり ムコウ の ヒト に なっちまう ん だろう。 もう ボク とは あえない ん だろう」
「ちょいちょい あそび に かえって くる わ。 だけれど、 ワタイ も イッショウ ケンメイ に オケイコ しなくっちゃ ならない ん だ もの」
 すこし は コエ を くもらした ものの その チョウシ は チョウキチ の マンゾク する ほど の ヒシュウ を おびて は いなかった。 チョウキチ は しばらく して から また トツゼン に、
「なぜ ゲイシャ なんぞ に なる ん だ」
「また そんな こと きく の。 おかしい よ。 チョウ さん は」
 オイト は すでに チョウキチ の よく しって いる ジジョウ をば ふたたび くどくどしく くりかえした。 オイト が ゲイシャ に なる と いう こと は 2~3 ネン いや もっと マエ から チョウキチ にも よく わかって いた こと で ある。 その オコリ は ダイク で あった オイト の チチオヤ が まだ いきて いた コロ から オフクロ は テナイショク に と ハリシゴト を して いた が、 その トクイサキ の 1 ケン で ハシバ の ショウタク に いる ゴシンゾ が オイト の スガタ を みて ぜひ ムスメブン に して ユクスエ は リッパ な ゲイシャ に したてたい と いいだした こと から で ある。 ゴシンゾ の ジッカ は ヨシチョウ で ハバ の きく ゲイシャヤ で あった。 しかし その コロ の オイト の ウチ は さほど に こまって も いなかった し、 ダイイチ に かわいい サカリ の コドモ を てばなす の が つらかった ので、 オヤ の テモト で せいぜい ゲイ を しこます こと に なった。 ソノゴ チチオヤ が しんだ オリ には さしあたり タヨリ の ない ハハオヤ は ハシバ の ゴシンゾ の セワ で イマ の センベイヤ を だした よう な カンケイ も あり、 バンジ が キンセンジョウ の ギリ ばかり で なくて ソウホウ の コウイ から しぜん と オイト は ヨシチョウ へ ゆく よう に タレ が しいる とも なく きまって いた の で ある。 ヒャク も ショウチ して いる こんな ジジョウ を チョウキチ は オイト の クチ から きく ため に シツモン した の で ない。 オイト が どうせ ゆかねば ならぬ もの なら、 もうすこし かなしく ジブン の ため に ワカレ を おしむ よう な チョウシ を みせて もらいたい と おもった から だ。 チョウキチ は ジブン と オイト の アイダ には いつのまにか たがいに ソツウ しない カンジョウ の ソウイ の しょうじて いる こと を あきらか に しって、 さらに ふかい カナシミ を かんじた。
 この カナシミ は オイト が ミヤゲモノ を かう ため ニオウモン を すぎて ナカミセ へ でた とき さらに また たえがたい もの と なった。 ユウスズミ に でかける にぎやか な ヒトデ の ナカ に オイト は ふいと たちどまって、 ならんで あるく チョウキチ の ソデ を ひき、 「チョウ さん、 アタイ も じき あんな ナリ する ん だねえ。 ロチリメン だね きっと、 あの ハオリ……」
 チョウキチ は いわれる まま に みかえる と、 シマダ に ゆった ゲイシャ と、 それ に つれだって ゆく の は クロロ の モンツキ を きた リッパ な シンシ で あった。 ああ オイト が ゲイシャ に なったら イッショ に テ を ひいて あるく ヒト は やっぱり ああいう リッパ な シンシ で あろう。 ジブン は ナンネン たったら あんな シンシ に なれる の かしら。 ヘコオビ ヒトツ の イマ の ショセイ スガタ が いう に いわれず なさけなく おもわれる と ドウジ に、 チョウキチ は その ショウライ どころ か ゲンザイ に おいて も、 すでに タンジュン な オイト の トモダチ たる シカク さえ ない もの の よう な ココロモチ が した。
 いよいよ ゴシントウ の つづいた ヨシチョウ の ロジグチ へ きた とき、 チョウキチ は もう これ イジョウ はかない とか かなしい とか おもう ゲンキ さえ なくなって、 ただ ぼんやり、 せまく くらい ロジウラ の いやに おくふかく ユクサキ しれず まがりこんで いる の を フシギ そう に のぞきこむ ばかり で あった。
「あの、 ヒイ フウ ミイ…… ヨッツメ の ガス-トウ の でてる ところ だよ。 マツバヤ と かいて ある だろう。 ね。 あの ウチ よ」 と オイト は しばしば ハシバ の ゴシンゾ に つれて こられたり、 または その ヨウジ で ツカイ に きたり して よく しって いる ノキサキ の アカリ を さししめした。
「じゃあ ボク は かえる よ。 もう……」 と いう ばかり で チョウキチ は やはり たちどまって いる。 その ソデ を オイト は かるく つかまえて たちまち こびる よう に よりそい、
「アシタ か アサッテ、 ウチ へ かえって きた とき きっと あおう ね。 いい かい。 きっと よ。 ヤクソク して よ。 アタイ の ウチ へ おいで よ。 よくって」
「ああ」
 ヘンジ を きく と、 オイト は それ で すっかり アンシン した もの の ごとく すたすた ロジ の ドブイタ を アズマ ゲタ に ふみならし ふりかえり も せず に いって しまった。 その アシオト が チョウキチ の ミミ には いそいで かけて ゆく よう に きこえた、 か と おもう マ も なく、 ちりん ちりん と コウシド の スズ の オト が した。 チョウキチ は おぼえず アト を おって ロジウチ へ はいろう と した が、 ドウジ に いちばん チカク の コウシド が ヒトゴエ と ともに あいて、 ほそながい ユミハリ-ヂョウチン を もった オトコ が でて きた ので、 なんと いう こと なく チョウキチ は キオクレ の した ばかり か、 カオ を みられる の が イヤサ に、 イッサン に トオリ の ほう へ と とおざかった。 まるい ツキ は カタチ が だいぶ ちいさく なって ヒカリ が あおく すんで、 しずか に そびえる ウラドオリ の クラ の ヤネ の ウエ、 ホシ の おおい ソラ の マンナカ に たかく のぼって いた。

スミダガワ 2

2014-07-07 | ナガイ カフウ
 3

 ツキ の デ が ヨゴト おそく なる に つれて その ヒカリ は だんだん さえて きた。 カワカゼ の シメッポサ が しだいに つよく かんじられて きて ユカタ の ハダ が いやに うすさむく なった。 ツキ は やがて ヒト の おきて いる コロ には もう のぼらなく なった。 ソラ には アサ も ヒルスギ も ユウガタ も、 いつでも クモ が おおく なった。 クモ は かさなりあって たえず うごいて いる ので、 ときとして は わずか に その アイダアイダ に ことさららしく イロ の こい アオゾラ の ノコリ を みせて おきながら、 ソラ イチメン に おおいかぶさる。 すると キコウ は おそろしく むしあつく なって きて、 しぜん と しみでる アブラアセ が フユカイ に ヒト の ハダ を ねばねば させる が、 しかし また、 そういう とき には きまって、 その キョウジャク と その ホウコウ の さだまらない カゼ が トツゼン に ふきおこって、 アメ も また ふって は やみ、 やんで は また ふりつづく こと が ある。 この カゼ や この アメ には イッシュ トクベツ の そこぶかい チカラ が ふくまれて いて、 テラ の ジュモク や、 カワギシ の アシ の ハ や、 バスエ に つづく まずしい イエ の イタヤネ に、 ハル や ナツ には けっして きかれない オンキョウ を つたえる。 ヒ が おそろしく はやく くれて しまう だけ、 ながい ヨ は すぐに しんしん と ふけわたって きて、 ナツ ならば ユウスズミ の ゲタ の オト に さえぎられて よく は きこえない 8 ジ か 9 ジ の トキ の カネ が アタリ を まるで 12 ジ の ごとく しずか に して しまう。 コオロギ の コエ は いそがしい。 トモシビ の イロ は いやに すむ。 アキ。 ああ アキ だ。 チョウキチ は はじめて アキ と いう もの は なるほど いや な もの だ。 じつに さびしくって たまらない もの だ と ミ に しみじみ かんじた。
 ガッコウ は もう キノウ から はじまって いる。 アサ はやく ハハオヤ の ヨウイ して くれる ベントウバコ を ショモツ と イッショ に つつんで ウチ を でて みた が、 フツカ-メ ミッカ-メ には つくづく とおい カンダ まで あるいて ゆく キリョク が なくなった。 イマ まで は マイネン ながい ナツヤスミ の おわる コロ と いえば ガッコウ の キョウジョウ が なんとなく こいしく ジュギョウ の カイシ する ヒ が ココロマチ に またれる よう で あった。 その ういういしい ココロモチ は もう まったく きえて しまった。 つまらない。 ガクモン なんぞ したって つまる もの か。 ガッコウ は オノレ の のぞむ よう な コウフク を あたえる ところ では ない。 ……コウフク とは ムカンケイ の もの で ある こと を チョウキチ は ものあたらしく かんじた。
 ヨッカ-メ の アサ イツモ の よう に 7 ジ マエ に ウチ を でて カンノン の ケイダイ まで あるいて きた が、 チョウキチ は まるで つかれきった タビビト が ミチバタ の イシ に コシ を かける よう に、 ホンドウ の ヨコテ の ベンチ の ウエ に コシ を おろした。 いつのまに ソウジ を した もの か アサツユ に しめった コジャリ の ウエ には、 なげすてた きたない カミキレ も なく、 アサ はやい ケイダイ は イツモ の ザットウ に ひきかえて ミョウ に ひろく こうごうしく しんと して いる。 ホンドウ の ロウカ には ここ で ヨアカシ した らしい ウサン な オトコ が いまだに イクニン も コシ を かけて いて、 その ナカ には あかじみた ヒトエ の サンジャクオビ を といて ヘイキ で フンドシ を しめなおして いる ヤツ も あった。 コノゴロ の ソラクセ で ソラ は ひくく ネズミイロ に くもり、 アタリ の ジュモク から は むしばんだ あおい まま の コノハ が たえまなく おちる。 カラス や ニワトリ の ナキゴエ ハト の ハオト が さわやか に ちからづよく きこえる。 あふれる ミズ に ぬれた ミタラシ の イシ が ひるがえる ホウノウ の テヌグイ の カゲ に もう なんとなく つめたい よう に おもわれた。 それ にも かかわらず アサマイリ の ダンジョ は ホンドウ の カイダン を のぼる マエ に いずれ も テ を あらう ため に と たちどまる。 その ヒトビト の ナカ に チョウキチ は グウゼン にも わかい ヒトリ の ゲイシャ が、 クチ には モモイロ の ハンケチ を くわえて、 ヒトエバオリ の ソデグチ を ぬらすまい ため か、 マッシロ な テサキ をば ウデ まで も みせる よう に ながく さしのばして いる の を みとめた。 ドウジ に すぐ トナリ の ベンチ に コシ を かけて いる ショセイ が フタリ、 「みろ みろ、 ジンゲル だ。 わるく ない なあ」 と いって いる の さえ ミミ に した。
 シマダ に ゆって よわよわしく リョウカタ の なでさがった コヅクリ の スガタ と、 クチジリ の しまった マルガオ、 16~17 の おなじ よう な トシゴロ と が、 チョウキチ を して その シュンカン あやうく ベンチ から とびたたせよう と した ほど オイト の こと を レンソウ せしめた。 オイト は ツキ の いい あの バン に ヤクソク した とおり、 その ヨクヨクジツ に、 それから は ながく ヨシチョウ の ヒト たる べく テニモツ を とり に かえって きた が、 その とき チョウキチ は まるで ベツ の ヒト の よう に オイト の スガタ の かわって しまった の に おどろいた。 あかい メレンス の オビ ばかり しめて いた ムスメスガタ が、 とつぜん たった 1 ニチ の アイダ に、 ちょうど イマ ミタラシ で テ を あらって いる わかい ゲイシャ ソノママ の スガタ に なって しまった の だ。 クスリユビ には もう ユビワ さえ はめて いた。 ヨウ も ない のに イクタビ と なく オビ の アイダ から カガミイレ や カミイレ を ぬきだして、 オシロイ を つけなおしたり ビン の ホツレ を なであげたり する。 ソト には クルマ を またして おいて いかにも いそがしい タイセツ な ヨウケン を ミ に おびて いる と いった ふう で 1 ジカン も たつ か たたない うち に かえって しまった。 その カエリガケ チョウキチ に のこした サイゴ の コトバ は その ハハオヤ の 「オシショウ さん の オバサン」 にも よろしく いって くれ と いう こと で あった。 まだ いつ でる の か わからない から また ちかい うち に あそび に くる わ と いう なつかしい コエ も きかれない の では なかった が、 それ は もう イマ まで の あどけない ヤクソク では なくて、 よなれた ヒト の じょさいない アイサツ と しか チョウキチ には ききとれなかった。 ムスメ で あった オイト、 オサナナジミ の コイビト の オイト は コノヨ には もう いきて いない の だ。 ミチバタ に ねて いる イヌ を おどろかして イキオイ よく かけさった クルマ の アト に、 えも いわれず たちまよった ケショウ の ニオイ が、 いかに くるしく、 いかに せつなく ミウチ に しみわたった で あろう……。
 ホンドウ の ナカ に と きえた わかい ゲイシャ の スガタ は ふたたび カイダン の シタ に あらわれて ニオウモン の ほう へ と、 スアシ の ユビサキ に つっかけた アズマ ゲタ を ウチワ に かるく ふみながら あるいて ゆく。 チョウキチ は その ウシロスガタ を みおくる と また さらに うらめしい あの クルマ を みおくった とき の イッセツナ を おもいおこす ので、 もう なんと して も ガマン が できぬ と いう よう に ベンチ から たちあがった。 そして しらずしらず その アト を おうて ナカミセ の つきる アタリ まで きた が、 わかい ゲイシャ の スガタ は どこ の ヨコチョウ へ まがって しまった もの か、 もう みえない。 リョウガワ の ミセ では ミセサキ を ソウジ して シナモノ を ならべたてて いる サイチュウ で ある。 チョウキチ は ムチュウ で カミナリモン の ほう へ どんどん あるいた。 わかい ゲイシャ の ユクエ を みきわめよう と いう の では ない。 ジブン の メ に ばかり ありあり みえる。 オイト の ウシロスガタ を おって ゆく の で ある。 ガッコウ の こと も なにもかも わすれて、 コマガタ から クラマエ、 クラマエ から アサクサバシ…… それから ヨシチョウ の ほう へ と どんどん あるいた。 しかし デンシャ の とおって いる バクロ-チョウ の オオドオリ まで きて、 チョウキチ は どの ヨコチョウ を まがれば よかった の か すこしく トウワク した。 けれども ダイタイ の ホウガク は よく わかって いる。 トウキョウ に うまれた モノ だけ に ミチ を きく の が いや で ある。 コイビト の すむ マチ と おもえば、 その ナ を いたずらに ロボウ の タニン に もらす の が、 ココロ の ヒミツ を さぐられる よう で、 ただ ワケ も なく おそろしくて ならない。 チョウキチ は しかたなし に ただ ヒダリ へ ヒダリ へ と、 イイカゲン に おれて ゆく と クラヅクリ の トンヤ らしい ショウカ の つづいた おなじ よう な ホリワリ の キシ に 2 ド も でた。 その ケッカ チョウキチ は はるか ムコウ に メイジザ の ヤネ を みて やがて やや ひろい オウライ へ でた とき、 その とおい ミチ の ハズレ に カワジョウキセン の キテキ の オト の きこえる の に、 はじめて ジブン の イチ と マチ の ホウガク と を さとった。 ドウジ に ヒジョウ な ツカレ を かんじた。 セイボウ を かぶった ヒタイ のみ ならず アセ は ハカマ を はいた オビ の マワリ まで しみだして いた。 しかし もう イッシュンカン とて も やすむ キ には ならない。 チョウキチ は ツキ の ヨ に つれられて きた ロジグチ をば、 これ は また いっそう の クシン、 いっそう の ケネン、 いっそう の ヒロウ を もって、 やっと の こと で みいだしえた の で ある。
 カタガワ に アサヒ が さしこんで いる ので ロジ の ウチ は ツキアタリ まで みとおされた。 コウシドヅクリ の ちいさい ウチ ばかり で ない。 ヒルマ みる と イガイ に ヤネ の たかい クラ も ある。 シノビガエシ を つけた イタベイ も ある。 その ウエ から マツ の エダ も みえる。 イシバイ の ちった ベンジョ の ソウジグチ も みえる。 ゴミバコ の ならんだ ところ も ある。 その ヘン に ネコ が うろうろ して いる。 ヒトドオリ は アンガイ に はげしい。 きわめて せまい ドブイタ の ウエ を ツウコウ の ヒト は たがいに ミ を ナナメ に ねじむけて ゆきちがう。 ケイコ の シャミセン に ヒト の ハナシゴエ が まじって きこえる。 アライモノ する ミズオト も きこえる。 あかい コシマキ に スソ を まくった コオンナ が クサボウキ で ドブイタ の ウエ を はいて いる。 コウシド の コウシ を 1 ポン 1 ポン イッショウ ケンメイ に みがいて いる の も ある。 チョウキチ は ヒトメ の おおい の に キオクレ した のみ で なく、 さて ロジウチ に すすみいった に した ところ で、 ジブン は どう する の か と はじめて ハンセイ の チイ に かえった。 ひとしれず マツバヤ の マエ を とおって、 そっと オイト の スガタ を かいまみたい とは おもった が、 アタリ が あまり に あかるすぎる。 さらば このまま ロジグチ に たって いて、 オイト が ナニ か の ヨウ で ソト へ でる まで の キカイ を まとう か。 しかし これ も また、 チョウキチ には キンジョ の ミセサキ の ヒトメ が ことごとく ジブン ばかり を みはって いる よう に おもわれて、 とても 5 フン と ながく たって いる こと は できない。 チョウキチ は とにかく シアン を しなおす つもり で、 おりから キンジョ の コドモ を トクイ に する アワモチヤ の ジジ が から から から と キネ を ならして くる ムコウ の ヨコチョウ の ほう へ と とおざかった。
 チョウキチ は ハマチョウ の ヨコチョウ をば しだいに ミチ の ゆく まま に オオカワバタ の ほう へ と あるいて いった。 いかほど キカイ を まって も ヒルナカ は どうしても フベン で ある こと を わずか に さとりえた の で ある が、 すると、 コンド は もう ガッコウ へは おそく なった。 やすむ に して も キョウ の ハンニチ、 これから ゴゴ の 3 ジ まで を どうして どこ に ショウヒ しよう か と いう モンダイ の カイケツ に せめられた。 ハハオヤ の オトヨ は ガッコウ の ジカンワリ まで を よく しりぬいて いる ので、 チョウキチ の カエリ が 1 ジカン はやくて も、 おそくて も、 すぐに シンパイ して うるさく シツモン する。 むろん チョウキチ は なんと でも たやすく いいまぎらす こと は できる と おもう ものの、 それ だけ の ウソ を つく リョウシン の クツウ に あう の が いや で ならない。 ちょうど きかかる カワバタ には、 スイレンバ の イタゴヤ が とりはらわれて、 ヤナギ の コカゲ に ヒト が ツリ を して いる。 それ をば トオリガカリ の ヒト が 4 ニン も 5 ニン も ぼんやり たって みて いる ので、 チョウキチ は いい ツゴウ だ と おなじ よう に ツリ を ながめる フリ で その ソバ に たちよった が、 もう たって いる だけ の チカラ さえ なく、 ヤナギ の ネモト の ササエギ に セ を よせかけながら しゃがんで しまった。
 サッキ から ソラ の タイハン は マッサオ に はれて きて、 たえず カゼ の ふきかよう にも かかわらず、 じりじり ヒト の ハダ に やきつく よう な シッケ の ある アキ の ヒ は、 メノマエ なる オオカワ の ミズ イチメン に まぶしく てりかがやく ので、 オウライ の カタガワ に ながく つづいた ドベイ から こんもり と エダ を のばした シゲリ の カゲ が いかにも すずしそう に おもわれた。 アマザケヤ の ジジ が いつか この コカゲ に あかく ぬった ニ を おろして いた。 カワムコウ は ヒ の ヒカリ の つよい ため に たちつづく ジンカ の カワラヤネ を ハジメ イッタイ の チョウボウ が いかにも きたならしく みえ、 カゼ に おいやられた クモ の レツ が さかん に バイエン を はく セイゾウバ の ケムダシ より も はるか に ひくく、 うごかず に ソウ を なして うかんで いる。 ツリドウグ を うる ウシロ の コイエ から 11 ジ の トケイ が なった。 チョウキチ は かぞえながら それ を きいて、 はじめて ジブン は いかに ながい ジカン を あるきくらした か に おどろいた が、 ドウジ に この ブン で ゆけば 3 ジ まで の ジカン を クウヒ する の も さして かたく は ない と やや アンシン する こと も できた。 チョウキチ は ツリシ の ヒトリ が ニギリメシ を くいはじめた の を みて、 おなじ よう に ベントウバコ を ひらいた。 ひらいた けれども なんだか キマリ が わるくて、 ダレ か みて い や しない か と きょろきょろ アタリ を みまわした。 さいわい ヒル-ぢかく の こと で みわたす カワギシ に ヒト の オウライ は とだえて いる。 チョウキチ は できる だけ はやく メシ でも サイ でも みんな ウノミ に して しまった。 ツリシ は いずれ も モクゾウ の よう に だまって いる し、 アマザケヤ の ジジ は イネムリ して いる。 ヒルスギ の カワバタ は ますます しずか に なって イヌ さえ あるいて こない ところ から、 さすが の チョウキチ も ジブン は なぜ こんな に キマリ を わるがる の で あろう オクビョウ なの で あろう と われながら おかしい キ にも なった。
 リョウゴクバシ と シン オオハシ との アイダ を ヒトマワリ した ノチ、 チョウキチ は いよいよ アサクサ の ほう へ かえろう と ケッシン する に つけ、 「もしや」 と いう イチネン に ひかされて ふたたび ヨシチョウ の ロジグチ に たちよって みた。 すると ゴゼン ほど には ヒトドオリ が ない の に まず アンシン して、 おそるおそる マツバヤ の マエ を とおって みた が、 ウチ の ナカ は ソト から みる と ヒジョウ に くらく、 ヒト の コエ シャミセン の オト さえ きこえなかった。 けれども チョウキチ には ダレ にも とがめられず に コイビト の すむ ウチ の マエ を とおった と いう それ だけ の こと が、 ほとんど ハテンコウ の ボウケン を あえて した よう な マンゾク を かんじさせた ので、 これまで あるきぬいた ミ の ヒロウ と クツウ と を チョウキチ は ついに コウカイ しなかった。

 4

 その シュウカン の ノコリ の ヒカズ だけ は どうやら こうやら、 チョウキチ は ガッコウ へ かよった が、 ニチヨウビ 1 ニチ を すごす と その あくる アサ は デンシャ に のって ウエノ まで きながら ふいと おりて しまった。 キョウシ に さしだす べき ダイスウ の シュクダイ を ヒトツ も やって おかなかった。 エイゴ と カンブン の シタヨミ をも して おかなかった。 それ のみ ならず キョウ は また、 およそ ヨノナカ で ナニ より も きらい な ナニ より も おそろしい キカイ タイソウ の ある こと を おもいだした から で ある。 チョウキチ には テツボウ から サカサ に ぶらさがったり、 ヒト の タケ より たかい タナ の ウエ から とびおりる よう な こと は、 いかに グンソウ アガリ の キョウシ から しいられて も ゼンキュウ の セイト から イッセイ に わらわれて も とうてい できう べき こと では ない。 ナニ に よらず タイイク の ユウギ に かけて は、 チョウキチ は どうしても タ の セイト イチドウ に ともなって ゆく こと が できない ので、 しぜん と ケイブ の コエ の ウチ に コリツ する。 その ケッカ は、 ついに イチドウ から いじわるく いじめられる こと に なりやすい。 ガッコウ は たんに これ だけ でも ずいぶん いや な ところ、 くるしい ところ、 つらい ところ で あった。 されば チョウキチ は その ハハオヤ が いかほど のぞんだ ところ で イマ に なって は コウトウ ガッコウ へ はいろう と いう キ は まったく ない。 もし ニュウガク すれば コウソク と して ハジメ の 1 ネン-カン は ぜひとも キョウボウ ムザン な キシュクシャ セイカツ を しなければ ならない こと を ききしって いた から で ある。 コウトウ ガッコウ キシュクシャ-ナイ に おこる イロイロ な イツワ は はやく から チョウキチ の キモ を ひやして いる の で あった。 いつも ガガク と シュウジ に かけて は ゼンキュウ ダレ も およぶ モノ の ない チョウキチ の セイジョウ は、 テッケン だ とか ジュウジュツ だ とか ヤマトダマシイ だ とか いう もの より も まったく ちがった タ の ホウメン に かたむいて いた。 コドモ の とき から アサユウ に ハハ が トセイ の シャミセン を きく の が だいすき で、 ならわず して シゼン に イト の チョウシ を おぼえ、 マチ を とおる ハヤリウタ なぞ は イチド きけば すぐに キオク する くらい で あった。 コウメ の オジ なる ラゲツ ソウショウ は はやくも メイジン に なる べき ソシツ が ある と みぬいて、 チョウキチ をば ヒモノ-チョウ でも ウエキダナ でも どこ でも いい から イチリュウ の イエモト へ デシイリ を させたらば と オトヨ に すすめた が オトヨ は だんじて ショウダク しなかった。 のみならず イライ は チョウキチ に シャミセン を いじる こと をば くちやかましく キンシ した。
 チョウキチ は ラゲツ の オジサン の いった よう に、 あの ジブン から シャミセン を ケイコ した なら、 イマゴロ は とにかく イチニンマエ の ゲイニン に なって いた に ちがいない。 さすれば よしや オイト が ゲイシャ に なった に した ところ で、 こんな に みじめ な メ に あわず とも すんだ で あろう。 ああ じつに トリカエシ の つかない こと を した。 イッショウ の ホウシン を あやまった と かんじた。 ハハオヤ が キュウ に にくく なる。 たとえられぬ ほど うらめしく おもわれる に はんして、 ラゲツ の オジサン の こと が なんとなく とりすがって みたい よう に なつかしく おもいかえされた。 これまで は なんの キ も なく ハハオヤ から も また オジ ジシン の クチ から も たびたび きかされて いた オジ が ホウトウ-ザンマイ の ケイレキ が コイ の クツウ を しりそめた チョウキチ の ココロ には すべて あたらしい ナニ か の イミ を もって カイシャク されはじめた。 チョウキチ は ダイイチ に 「コウメ の オバサン」 と いう の は もと キンペイ ダイコク の オイラン で メイジ の ハジメ ヨシワラ カイホウ の とき コウメ の オジサン を たよって きた の だ と やら いう ハナシ を おもいだした。 オバサン は コドモ の コロ ジブン をば ヒジョウ に かわいがって くれた。 それ にも かかわらず、 ジブン の ハハオヤ の オトヨ は あまり よく は おもって いない ヨウス で、 ボンクレ の アイサツ も ほんの ギリ イッペン-らしい こと を かまわず ソブリ に あらわして いた こと さえ あった。 チョウキチ は ここ で ふたたび ハハオヤ の こと を フユカイ に かつ にくらしく おもった。 ほとんど ヨノメ も はなさぬ ほど ジブン の オコナイ を みまもって いる らしい ハハオヤ の ジアイ が キュウクツ で たまらない だけ、 もし これ が コウメ の オバサン みた よう な ヒト で あったら ――コウメ の オバサン は オイト と ジブン の フタリ を みて なんとも いえない ナサケ の ある コエ で、 いつまでも なかよく おあそび よ と いって くれた こと が ある―― ジブン の クツウ の ナニモノ たる か を よく さっして ドウジョウ して くれる で あろう。 ジブン の ココロ が すこしも ヨウキュウ して いない コウフク を アタマ から ムリ に しい は せまい。 チョウキチ は グウゼン にも ハハオヤ の よう な ただしい ミノウエ の オンナ と コウメ の オバサン の よう な ある シュ の ケイレキ ある オンナ との シンリ を ヒカク した。 ガッコウ の キョウシ の よう な ヒト と ラゲツ オジサン の よう な ヒト と を ヒカク した。
 ヒルゴロ まで チョウキチ は トウショウグウ の ウラテ の モリ の ナカ で、 ステイシ の ウエ に よこたわりながら、 こんな こと を かんがえつづけた アト は、 ツツミ の ナカ に かくした ショウセツボン を とりだして よみふけった。 そして アシタ だす べき ケッセキ トドケ には いかに して また ハハ の ミトメイン を ぬすむ べき か を かんがえた。

 5

 ひとしきり マイニチ マイヨ の よう に ふりつづいた アメ の アト、 コンド は クモ ヒトツ みえない よう な セイテン が イクニチ と カギリ も なく つづいた。 しかし どうか して ソラ が くもる と たちまち に カゼ が でて かわききった ミチ の スナ を ふきちらす。 この カゼ と ともに サムサ は ひにまし つよく なって しめきった イエ の ト や ショウジ が たえまなく がたり がたり と かなしげ に うごきだした。 チョウキチ は マイアサ 7 ジ に はじまる ガッコウ へ ゆく ため おそくも 6 ジ には おきねば ならぬ が、 すると マイアサ の 6 ジ が、 おきる たび に だんだん くらく なって、 ついには ヨル と おなじく イエ の ナカ には トモシビ の ヒカリ を みねば ならぬ よう に なった。 マイトシ フユ の ハジメ に、 チョウキチ は この にぶい きいろい ヨアケ の ランプ の ヒ を みる と、 なんとも いえぬ かなしい いや な キ が する の で ある。 ハハオヤ は ワガコ を はげます つもり で さむそう な ネマキスガタ の まま ながら、 いつも チョウキチ より は はやく おきて あたたかい アサメシ をば ちゃんと ヨウイ して おく。 チョウキチ は その シンセツ を すまない と かんじながら ナニブン にも ねむくて ならぬ。 もう しばらく コタツ に あたって いたい と おもう の を、 むやみ と トケイ ばかり キ に する ハハ に せきたてられて フヘイ だらだら、 カワカゼ の さむい オウライ へ でる の で ある。 ある とき は あまり に セワ を やかれすぎる の に ハラ を たてて、 チュウイ される エリマキ を わざと ときすてて カゼ を ひいて やった こと も あった。 もう かえらない イクネン か マエ ラゲツ の オジ に つれられ オイト も イッショ に トリ の イチ へ いった こと が あった…… マイトシ その ヒ の こと を おもいだす コロ から まもなく、 コトシ も キョネン と おなじ よう な さむい 12 ガツ が やって くる の で ある。
 チョウキチ は おなじ よう な その フユ の コトシ と キョネン、 キョネン と その ゼンネン、 それ から それ と イクネン も さかのぼって なにごころなく かんがえて みる と、 ヒト は セイチョウ する に したがって いかに コウフク を うしなって ゆく もの か を あきらか に ケイケン した。 まだ ガッコウ へも ゆかぬ コドモ の とき には アサ さむければ ゆっくり と ねたい だけ ねて いられた ばかり で なく、 カラダ の ほう も また それほど に サムサ を かんずる こと が はげしく なかった。 さむい カゼ や アメ の ヒ には かえって おもしろく とびあるいた もの で ある。 ああ それ が イマ の ミ に なって は、 アサ はやく イマド の ハシ の しろい シモ を ふむ の が いかにも つらく また ヒルスギ には いつも コガラシ の さわぐ マツチヤマ の ロウジュ に、 はやくも かたむく ユウヒ の イロ が いかにも かなしく みえて ならない。 これから サキ の イチネン イチネン は ジブン の ミ に いかなる あたらしい クツウ を さずける の で あろう。 チョウキチ は コトシ の 12 ガツ ほど ヒカズ の はやく たつ の を かなしく おもった こと は ない。 カンノン の ケイダイ には もう トシ の イチ が たった。 ハハオヤ の モト へ と オセイボ の シルシ に オデシ が もって くる サトウブクロ や カツブシ なぞ が そろそろ トコノマ へ ならびだした。 ガッコウ の ガッキ シケン は キノウ すんで、 ヒトカタ ならぬ その フセイセキ に たいする キョウシ の チュウイガキ が ユウビン で ハハオヤ の テモト に おくりとどけられた。
 ハジメ から カクゴ して いた こと なので チョウキチ は だまって クビ を たれて、 ナニカ に つけて すぐに 「オヤ ヒトリ コ ヒトリ」 と あわれっぽい こと を いいだす ハハオヤ の イケン を きいて いた。 ヒルマエ ケイコ に くる コムスメ たち が かえって ノチ ヒルスギ には 3 ジ すぎて から で なくて は、 ガッコウ-ガエリ の ムスメ たち は やって こぬ。 イマ が ちょうど ハハオヤ が いちばん テスキ の ジカン で ある。 カゼ が なくて フユ の ヒ が オウライ の マド イチメン に さして いる。 おりから とつぜん まだ コウシド を あけぬ サキ から、 「ごめんなさい」 と いう ハデ な オンナ の コエ、 ハハオヤ が おどろいて たつ マ も なく アガリガマチ の ショウジ の ソト から、 「オバサン、 ワタシ よ。 ゴブサタ しちまって、 オワビ に きた ん だわ」
 チョウキチ は ふるえた。 オイト で ある。 オイト は リッパ な セル の アズマ コート の ヒモ を ときとき あがって きた。
「あら、 チョウ ちゃん も いた の。 ガッコウ が オヤスミ…… あら、 そう」 それから つけた よう に、 ほほほほ と わらって、 さて テイネイ に テ を ついて オジギ を しながら、 「オバサン、 オカワリ も ありません の。 ホント に、 つい ウチ が でにくい もの です から、 あれっきり ゴブサタ しちまって……」
 オイト は チリメン の フロシキ に つつんだ カシオリ を だした。 チョウキチ は アッケ に とられた サマ で モノ も いわず に オイト の スガタ を みまもって いる。 ハハオヤ も ちょっと ケム に まかれた カタチ で シンモツ の レイ を のべた ノチ、 「きれい に オナリ だね。 すっかり みちがえちまった よ」 と いった。
「いやに ふけちまった でしょう。 ミンナ そう いって よ」 と オイト は うつくしく ほほえんで ムラサキ チリメン の ハオリ の ヒモ の とけかかった の を むすびなおす ツイデ に オビ の アイダ から ヒビロウド の タバコイレ を だして、 「オバサン。 ワタシ、 もう タバコ のむ よう に なった のよ。 ナマイキ でしょう」
 コンド は たかく わらった。
「こっち へ およんなさい。 さむい から」 と ハハオヤ の オトヨ は ナガヒバチ の テツビン を おろして チャ を いれながら、 「いつ オヒロメ した ん だえ」
「まだ よ。 ずっと おしづまって から ですって」
「そう。 オイト ちゃん なら、 きっと うれる わね。 なにしろ きれい だし、 ちゃんと もう ジ は できて いる ん だし……」
「おかげさま で ねえ」 と オイト は コトバ を きって、 「あっち の ネエサン も タイヘン に よろこんでた わ。 ワタシ なんか より もっと おおきな くせ に、 それ あ ずいぶん できない コ が いる ん です もの」
「この セツ の こった から……」 オトヨ は ふと キ が ついた よう に チャダナ から カシバチ を だして、 「あいにく なんにも なくって…… ドウリョウ サマ の オメイブツ だって、 ちょっと おつ な もの だよ」 と ハシ で わざわざ つまんで やった。
「オッショサン、 こんちわ」 と かんだか な イッポン チョウシ で、 フタリヅレ の コムスメ が そうぞうしく ケイコ に やって きた。
「オバサン、 どうぞ オカマイ なく……」
「なに いい ん です よ」 と いった けれど オトヨ は やがて ツギノマ へ たった。
 チョウキチ は ミョウ に キマリ が わるく なって シゼン に うつむいた が、 オイト の ほう は いっこう かわった ヨウス も なく コゴエ で、
「あの テガミ とどいて」
 トナリ の ザシキ では フタリ の コムスメ が コエ を そろえて、 サガ や オムロ の ハナザカリ。 チョウキチ は クビ ばかり うなずかせて もじもじ して いる。 オイト が テガミ を よこした の は イチ の トリ の マエ ジブン で あった。 つい ウチ が でにくい と いう だけ の こと で ある。 チョウキチ は すぐさま わかれた ノチ の ショウガイ を こまごま と かいて おくった が、 しかし まちもうけた よう な、 おりかえした オイト の ヘンジ は ついに きく こと が できなかった の で ある。
「カンノンサマ の イチ だ わね。 コンヤ イッショ に いかなくって。 アタイ コンヤ とまってって も いい ん だ から」
 チョウキチ は トナリザシキ の ハハオヤ を キガネ して なんとも こたえる こと が できない。 オイト は かまわず、
「ゴハン たべたら むかい に きて よ」 と いった が その アト で、 「オバサン も イッショ に いらっしゃる でしょう ね」
「ああ」 と チョウキチ は チカラ の ぬけた コエ に なった。
「あの……」 オイト は キュウ に おもいだして、 「コウメ の オジサン、 どう なすって、 オサケ に よって ハゴイタヤ の オジイサン と ケンカ した わね。 いつ だった か。 ワタシ こわく なっちまった わ。 コンヤ いらっしゃれば いい のに」
 オイト は ケイコ の スキ を うかがって オトヨ に アイサツ して、 「じゃ、 バン ほど。 どうも オジャマ いたしました」 と いいながら すたすた かえった。

スミダガワ 3

2014-06-21 | ナガイ カフウ
 6

 チョウキチ は カゼ を ひいた。 ナナクサ すぎて ガッコウ が はじまった ところ から 1 ニチ ムリ を して ツウガク した ため に、 リュウコウ の インフルエンザ に かわって ショウガツ いっぱい ねとおして しまった。
 ハチマンサマ の ケイダイ に キョウ は アサ から ハツウマ の タイコ が きこえる。 あたたかい おだやか な ヒルスギ の ニッコウ が イチメン に さしこむ オモテ の マド の ショウジ には、 おりおり ノキ を かすめる コトリ の カゲ が ひらめき、 チャノマ の スミ の うすぐらい ブツダン の オク まで が あかるく みえ、 トコノマ の ウメ が もう ちりはじめた。 ハル は しめきった ウチ の ナカ まで も ヨウキ に おとずれて きた の で ある。
 チョウキチ は 2~3 ニチ マエ から おきて いた ので、 この あたたかい ヒ を ぶらぶら サンポ に でかけた。 すっかり ゼンカイ した イマ に なって みれば、 ハツカ イジョウ も くるしんだ タイビョウ を チョウキチ は モッケ の サイワイ で あった と よろこんで いる。 とても ライゲツ の ガクネン シケン には キュウダイ する ミコミ が ない と おもって いた ところ なので、 ビョウキ ケッセキ の アト と いえば、 ラクダイ して も ハハ に たいして モットモシゴク な モウシワケ が できる と おもう から で あった。
 あるいて ゆく うち いつか アサクサ コウエン の ウラテ へ でた。 ほそい トオリ の カタガワ には ふかい ドブ が あって、 それ を こした テッサク の ムコウ には、 トコロドコロ に フユガレ して たつ タイボク の シタ に、 ゴク の ヨウキュウテン の きたならしい ウラテ が つづいて みえる。 ヤネ の ひくい カタカワマチ の ジンカ は ちょうど ウシロ から ふかい ドブ の ほう へ と おしつめられた よう な キ が する ので、 おおかた その ため で あろう、 それほど に コンザツ も せぬ オウライ が いつも ミョウ に いそがしく みえ、 うろうろ ハイカイ して いる ニンソウ の わるい シャフ が ちょっと ミナリ の こぎれい な ツウコウニン の アト に うるさく つきまとって ジョウシャ を すすめて いる。 チョウキチ は いつも ジュンサ が タチバン して いる ヒダリテ の イシバシ から アワシマサマ の ほう まで が ずっと みとおされる ヨツツジ まで あるいて きて、 トオリガカリ の ヒトビト が たちどまって ながめる まま に、 ジブン も なんと いう こと なく、 マガリカド に だして ある ミヤト-ザ の エカンバン を あおいだ。
 いやに モンジ の アイダ を くっつけて モヨウ の よう に ふとく かいて ある ナダイ の キフダ を マンナカ に して、 その サユウ には おそろしく カオ の ちいさい、 メ の おおきい、 ユビサキ の ふとい ジンブツ が、 ヤグ を かついだ よう な おおきい キモノ を きて、 サマザマ な コチョウテキ の シセイ で カツヤク して いる サマ が えがかれて ある。 この おおきい エカンバン を おおう ヤネガタ の ノキ には、 ダシ に つける よう な ツクリバナ が うつくしく かざりつけて あった。
 チョウキチ は いかほど あたたかい ヒヨリ でも あるいて いる と さすが に まだ リッシュン に なった ばかり の こと とて しばらく の アイダ さむい カゼ を よける ところ を と おもいだした ヤサキ、 シバイ の エカンバン を みて、 そのまま せまい タチミ の トグチ へ と すすみよった。 ウチ へ はいる と アシバ の わるい ハシゴダン が たって いて、 その ナカホド から まがる アタリ は もう うすぐらく、 くさい なまあたたかい ヒトゴミ の ウンキ が なおさら くらい ウエ の ほう から ふきおりて くる。 しきり に ヤクシャ の ナ を よぶ カケゴエ が きこえる。 それ を きく と チョウキチ は トカイソダチ の カンゲキシャ ばかり が ケイケン する トクシュ の カイカン と トクシュ の ネツジョウ と を おぼえた。 ハシゴダン の 2~3 ダン を ヒトトビ に かけあがって ヒトゴミ の ナカ に わりこむ と、 ユカイタ の ナナメ に なった ひくい ヤネウラ の オオムコウ は おおきな フネ の ソコ へ でも おりた よう な ココロモチ。 ウシロ の スミズミ に ついて いる ガス の ハダカビ の ヒカリ は いっぱい に つまって いる ケンブツニン の アタマ に さえぎられて ヒジョウ に くらく、 せまくるしい ので、 サル の よう に ヒト の つかまって いる マエガワ の テツボウ から、 ムコウ に みえる ゲキジョウ の ナイブ は テンジョウ ばかり が いかにも ひろびろ と みえ、 ブタイ は いろづき にごった クウキ の ため に かえって ちいさく はなはだ とおく みえた。 ブタイ は ちょん と うった ヒョウシギ の オト に イマ ちょうど まわって とまった ところ で ある。 きわめて イッチョクセン な イシガキ を みせた ダイ の シタ に よごれた ミズイロ の ヌノ が しいて あって、 ウシロ を かぎる カキワリ には ちいさく ダイミョウ ヤシキ の ネリベイ を えがき、 その ウエ の ソラ イチメン をば ムリ にも ヨル だ と おもわせる よう に スキマ も なく マックロ に ぬりたてて ある。 チョウキチ は カンゲキ に たいする これまで の ケイケン で 「ヨル」 と 「カワバタ」 と いう こと から、 きっと コロシバ に ちがいない と おさない コウキシン から セノビ を して クビ を のばす と、 はたせるかな、 たえざる ひくい オオダイコ の オト に レイ の ごとく イタ を ばたばた たたく オト が きこえて、 ヒダリテ の ツジバンゴヤ の カゲ から チュウゲン と ゴザ を かかえた オンナ と が おおきな コエ で あらそいながら でて くる。 ケンブツニン が わらった。 ブタイ の ジンブツ は おとした もの を さがす テイ で ナニ か を とりあげる と、 とつぜん マエ とは まったく ちがった タイド に なって、 きわめて メイリョウ に ジョウルリ ゲダイ ウメヤナギ ナカ も ヨイヅキ、 つとめまする ヤクニン…… と よみはじめる。 それ を まちかまえて かなたこなた から ケンブツニン が コエ を かけた。 ふたたび かるい ヒョウシギ の オト を アイズ に、 クロゴ の オトコ が ミギテ の スミ に たてた カキワリ の イチブ を ひきとる と カミシモ を きた ジョウルリ カタリ 3 ニン、 シャミセンヒキ フタリ が、 キュウクツ そう に せまい ダイ の ウエ に ならんで いて、 すぐに ひきだす シャミセン から つづいて タユウ が コエ を あわして かたりだした。 チョウキチ は この シュ の オンガク には いつも キョウミ を もって ききなれて いる ので、 ジョウナイ の どこ か で なきだす アカゴ の コエ と それ を シッタ する ケンブツニン の コエ に さまたげられながら、 しかも あきらか に かたる モンク と シャミセン の テ まで を ききわける。
  ♪オボロヨ に ホシ の カゲ さえ フタツ ミツ、 ヨツ か イツツ か カネ の ネ も、 もしや ワガミ の オッテ か と……
 またしても かるい バタバタ が きこえて ムチュウ に なって コエ を かける ケンブツニン のみ ならず ジョウチュウ イッタイ が けしきだつ。 それ も ドウリ だ。 あかい ジュバン の ウエ に ムラサキジュス の はばひろい エリ を つけた ザシキギ の ユウジョ が、 かぶる テヌグイ に カオ を かくして、 マエカガマリ に ハナミチ から かけだした の で ある。 「みえねえ、 マエ が たかいっ」 「ボウシ を とれっ」 「バカヤロウ」 なぞ と どなる モノ が ある。
  ♪おちて ユクエ も シラウオ の、 フネ の カガリ に アミ より も、 ヒトメ いとうて アトサキ に……
 オンナ に ふんした ヤクシャ は ハナミチ の つきる アタリ まで でて ウシロ を みかえりながら セリフ を のべた。 その アト に ウタ が つづく。
  ♪しばし たたずむ ウワテ より ウメミ-ガエリ の フネ の ウタ。 ♪しのぶ なら しのぶ なら ヤミ の ヨ は おかしゃんせ、 ツキ に クモ の サワリ なく、 シンキ マツヨイ、 イザヨイ の、 うち の シュビ は えー よい との よい との。 ♪きく ツジウラ に いそいそ と クモアシ はやき アマゾラ も、 おもいがけなく ふきはれて みかわす ツキ の カオ と カオ……
 ケンブツ が また さわぐ。 マックロ に ぬりたてた ソラ の カキワリ の マンナカ を おおきく くりぬいて ある まるい アナ に ヒ が ついて、 クモガタ の オオイ をば イト で ひきあげる の が こなた から でも よく みえた。 あまり に ツキ が おおきく あかるい から、 ダイミョウ ヤシキ の ヘイ の ほう が とおくて ツキ の ほう が かえって ヒジョウ に ちかく みえる。 しかし チョウキチ は タ の ケンブツ も ドウヨウ すこしも うつくしい ゲンソウ を やぶられなかった。 それ のみ ならず キョネン の ナツ の スエ、 オイト を ヨシチョウ へ おくる ため、 まちあわした イマド の ハシ から ながめた あの おおきな まるい まるい ツキ を おもいおこす と、 もう ブタイ は ブタイ で なくなった。
 キナガシ ザンパツ の オトコ が いかにも おもいやつれた ふう で アシモト あやうく あゆみでる。 オンナ と スレチガイ に カオ を みあわして、
「イザヨイ か」
「セイシン サマ か」
 オンナ は オトコ に すがって、 「あいたかった わいなあ」
 ケンブツニン が 「やあ ゴリョウニン」 「よいしょ。 やけます」 なぞ と さけぶ。 わらう コエ。 「しずか に しろい」 と しかりつける ネツジョウカ も あった。

 ブタイ は あいあいする ダンジョ の ジュスイ と ともに まわって、 オンナ の ほう が シラウオブネ の ヨアミ に かかって たすけられる ところ に なる。 ふたたび モト の ブタイ に かえって、 オトコ も おなじく しぬ こと が できなくて イシガキ の ウエ に はいあがる。 トオク の サワギウタ、 フウキ の センボウ、 セイゾン の カイラク、 キョウグウ の ゼツボウ、 キカイ と ウンメイ、 ユウワク、 サツジン。 ハラン の うえ にも キャクショク の ハラン を きわめて、 ついに エンゲキ の ヒトマク が おわる。 ミミモト チカク から おそろしい きいろい コエ が、 「かわる よ――う」 と さけびだした。 ケンブツニン が デグチ の ほう へ と ナダレ を うって おりかける。
 チョウキチ は ソト へ でる と いそいで あるいた。 アタリ は まだ あかるい けれど もう ヒ は あたって いない。 ごたごた した センゾクマチ の コウリミセ の ノレン や ハタ なぞ が はげしく ひるがえって いる。 トオリガカリ に ジカン を みる ため コシ を かがめて のぞいて みる と ノキ の ひくい それら の ウチ の オク は マックラ で あった。 チョウキチ は ビョウゴ の ユウカゼ を おそれて ますます アユミ を はやめた が、 しかし サンヤボリ から イマドバシ の ムコウ に ひらける スミダガワ の ケシキ を みる と、 どうしても しばらく たちどまらず には いられなく なった。 カワ の オモテ は かなしく ハイイロ に ひかって いて、 フユ の ヒ の オワリ を いそがす スイジョウキ は タイガン の ツツミ を おぼろ に かすめて いる。 ニブネ の ホ の アイダ をば カモメ が イクワ と なく とびちがう。 チョウキチ は どんどん ながれて ゆく カワミズ をば なにがなし に かなしい もの だ と おもった。 カワムコウ の ツツミ の ウエ には ヒトツ フタツ ヒ が つきだした。 かれた ジュモク、 かわいた イシガキ、 よごれた カワラヤネ、 メ に いる もの は ことごとく あせた さむい イロ を して いる ので、 シバイ を でて から イッシュンカン とて も きえうせない セイシン と イザヨイ の はでやか な スガタ の キオク が、 ハゴイタ の オシエ の よう に また いちだん と きわだって うかびだす。 チョウキチ は ゲキチュウ の ジンブツ をば にくい ほど に うらやんだ。 いくら うらやんで も とうてい および も つかない わが ミノウエ を かなしんだ。 しんだ ほう が まし だ と おもう だけ、 イッショ に しんで くれる ヒト の ない ミノウエ を さらに ツウセツ に かなしく おもった。
 イマドバシ を わたりかけた とき、 テノヒラ で ぴしゃり と ヨコツラ を はりなぐる よう な カワカゼ。 おもわず サムサ に ドウブルイ する と ドウジ に チョウキチ は ノド の オク から、 イマ まで は キオク して いる とも こころづかず に いた ジョウルリ の イッセツ が われしらず に ながれでる の に おどろいた。
  ♪いまさら いう も グチ なれど……
と キヨモト の イッパ が タリュウ の もす べからざる キョクチョウ の ビレイ を たくした イッセツ で ある。 チョウキチ は むろん タユウ さん が クビ と カラダ を のびあがらして うたった ほど ジョウズ に、 かつ また そんな おおきな コエ で うたった の では ない。 ノド から ながれる まま に クチ の ナカ で テイショウ した の で ある が、 それ に よって チョウキチ は やみがたい ココロ の クツウ が イクブン か やわらげられる よう な ココロモチ が した。 いまさら いう も グチ なれど…… ほんに おもえば…… キシ より のぞく アオヤギ の…… と おもいだす フシ の、 トコロドコロ を チョウキチ は ウチ の コウシド を あける とき まで くりかえし くりかえし あるいた。

 7

 あくる ヒ の ヒルスギ に またもや ミヤト-ザ の タチミ に でかけた。 チョウキチ は コイ の フタリ が テ を とって なげく うつくしい ブタイ から、 キノウ はじめて ケイケン した いう べからざる ヒアイ の ビカン に よいたい と おもった の で ある。 それ ばかり で なく くろずんだ テンジョウ と カベ フスマ に かこまれた 2 カイ の ヘヤ が いやに いんきくさくて、 トウカ の おおい、 ヒト の オオゼイ あつまって いる シバイ の ニギワイ が、 ガマン の できぬ ほど こいしく おもわれて ならなかった の で ある。 チョウキチ は うしなった オイト の こと イガイ に おりおり は ただ なんと いう ワケ も なく さびしい かなしい キ が する。 ジブン にも どういう ワケ だ か すこしも わからない。 ただ さびしい、 ただ かなしい の で ある。 この セキバク この ヒアイ を なぐさめる ため に、 チョウキチ は さだめがたい ナニモノ か を イッコク イッコク に はげしく ヨウキュウ して やまない。 ムネ の ソコ に ひそんだ ばくぜん たる クツウ を、 ダレ と かぎらず やさしい コエ で こたえて くれる うつくしい オンナ に うったえて みたくて ならない。 たんに オイト ヒトリ の スガタ のみ ならず、 オウライ で すれちがった みしらぬ オンナ の スガタ が、 シマダ の ムスメ に なったり、 イチョウガエシ の ゲイシャ に なったり、 または マルマゲ の ニョウボウ スガタ に なったり して ユメ の ウチ に うかぶ こと さえ あった。
 チョウキチ は 2 ド みる おなじ シバイ の ブタイ をば はじめて の よう に キョウミ-ぶかく ながめた。 それ と ドウジ に、 コンド は にぎやか な サユウ の サジキ に たいする カンサツ をも けっして カンキャク しなかった。 ヨノナカ には あんな に オオゼイ オンナ が いる。 あんな に オオゼイ オンナ の いる ナカ で、 どうして ジブン は ヒトリ も ジブン を なぐさめて くれる アイテ に めぐりあわない の で あろう。 タレ でも いい。 ジブン に ヒトコト やさしい コトバ を かけて くれる オンナ さえ あれば、 ジブン は こんな に せつなく オイト の こと ばかり おもいつめて は いまい。 オイト の こと を おもえば おもう だけ その クツウ を へらす タ の もの が ほしい。 さすれば ガッコウ と それ に カンレン した ミ の ゼント に たいする ゼツボウ のみ に しずめられて いまい……。
 タチミ の コンザツ の ナカ に その とき とつぜん ジブン の カタ を つく モノ が ある ので おどろいて ふりむく と、 チョウキチ は トリウチボウ を まぶか に くろい メガネ を かけて、 ウシロ の イチダン たかい ユカ から クビ を のばして みおろす わかい オトコ の カオ を みた。
「キチ さん じゃ ない か」
 そう いった ものの、 チョウキチ は キチ さん の フウサイ の あまり に かわって いる の に しばらく は ニノク が つげなかった。 キチ さん と いう の は ジカタマチ の ショウガッコウ ジダイ の トモダチ で、 トコヤ を して いる サンヤ-ドオリ の オヤジ の ミセ で、 これまで チョウキチ の カミ を かって くれた ワカイシュ で ある。 それ が キヌ ハンケチ を クビ に まいて ニジュウマワシ の シタ から オオシマ ツムギ の ハオリ を みせ、 いやに コウスイ を におわせながら、
「チョウ さん、 ボク は ヤクシャ だよ」 と カオ を さしだして チョウキチ の ミミモト に ささやいた。
 タチミ の コンザツ の ナカ でも ある し、 チョウキチ は おどろいた まま だまって いる より シヨウ が なかった が、 ブタイ は やがて キノウ の とおり に カワバタ の ダンマリ に なって、 ゲキ の シュジンコウ が ぬすんだ カネ を フトコロ に ハナミチ へ かけいでながら イシツブテ を うつ、 それ を アイズ に ちょん と ヒョウシギ が ひびく。 マク が うごく。 タチミ の ヒトナカ から レイ の 「かわる よーう」 と さけぶ コエ。 ヒトナダレ が せまい デグチ の ほう へ と おしあう うち に マク が すっかり ひかれて、 シャギリ の タイコ が どこ か わからぬ ブタイ の オク から なりだす。 キチ さん は チョウキチ の ソデ を ひきとめて、
「チョウ さん、 かえる の か。 いい じゃ ない か。 もう ヒトマク みて おいで な」
 ヤクシャ の シキセ を きた いやしい カオ の オトコ が、 シブカミ を はった コザル を もって、 ツギ の マク の リョウキン を あつめ に きた ので、 チョウキチ は ジカン を シンパイ しながら も そのまま いのこった。
「チョウ さん、 きれい だよ、 かけられる ぜ」 キチ さん は ヒト の すいた ウシロ の アカリトリ の マド へ コシ を かけて チョウキチ が ならんで こしかける の を まつ よう に して ふたたび 「ボク あ ヤクシャ だよ。 かわったろう」 と いいながら、 ユウゼン チリメン の ジュバン の ソデ を ひきだして、 わざとらしく はずした くろい キンブチ メガネ の クモリ を ふきはじめた。
「かわった よ。 ボク あ はじめ ダレ か と おもった」
「おどろいた かい。 ははははは」 キチ さん は なんとも いえぬ ほど うれしそう に わらって、 「たのむ ぜ。 チョウ さん。 こう みえたって はばかりながら ヤクシャ だ。 イイ イチザ の シンハイユウ だ。 アサッテ から また シントミ-チョウ よ。 でそろったら み に きたまえ。 いい かい。 ガクヤグチ へ まわって、 タマミズ を よんで くれ って いいたまえ」
「タマミズ……?」
「うむ、 タマミズ サブロウ……」 いいながら せわしなく フトコロ から オンナモチ の カミイレ を さぐりだして、 ちいさな メイシ を みせ、 「ね、 タマミズ サブロウ。 ムカシ の キチ さん じゃ ない ぜ。 ちゃんと もう バンヅケ に でて いる ん だぜ」
「おもしろい だろう ね。 ヤクシャ に なったら」
「おもしろかったり、 つらかったり…… しかし オンナ にゃあ フジユウ しねえ よ」 キチ さん は ちょっと チョウキチ の カオ を みて、 「チョウ さん、 キミ は あそぶ の かい」
 チョウキチ は 「まだ」 と こたえる の が その シュンカン オトコ の ハジ で ある よう な キ が して だまった。
「エド イチ の カジタ-ロウ って いう ウチ を しってる かい。 コンヤ イッショ に おいで な。 シンパイ しない でも いい ん だよ。 のろける ん じゃ ない が、 シンパイ しない でも いい ワケ が ある ん だ から。 おやすく ない だろう。 ははははは」 と キチ さん は タワイ も なく わらった。 チョウキチ は トツゼン に、
「ゲイシャ は たかい ん だろう ね」
「チョウ さん、 キミ は ゲイシャ が すき なの か、 ゼイタク だ」 と シンハイユウ の キチ さん は イガイ-らしく チョウキチ の カオ を みかえした が、 「しれた もん さ。 しかし カネ で オンナ を かう なんざあ、 ちっと オヒト が よすぎらあ。 ボク あ コウエン で 2~3 ゲン マチアイ を しってる よ。 つれてって やろう。 バンジ ホウスン の ウチ に あり さ」
 サッキ から 3 ニン 4 ニン と たえず あがって くる ケンブツニン で オオムコウ は かなり ザットウ して きた。 マエ の マク から いのこって いる レンジュウ には まちくたびれて テ を ならす モノ も ある。 ブタイ の オク から ヒョウシギ の オト が ながい マ を おきながら、 それでも しだいに ちかく きこえて くる。 チョウキチ は キュウクツ に コシ を かけた アカリトリ の マド から たちあがる。 すると キチ さん は、
「まだ、 なかなか だ」 と ヒトリゴト の よう に いって、 「チョウ さん。 あれ あ マワリ の ヒョウシギ と いって ドウグダテ の できあがった って こと を、 ヤクシャ の ヘヤ の ほう へ しらせる アイズ なん だ。 あく まで にゃあ まだ、 なかなか よ」
 ゆうぜん と して マキタバコ を すいはじめる。 チョウキチ は 「そう か」 と カンプク した らしく ヘンジ を しながら、 しかし たちあがった まま に タチミ の テツゴウシ から ブタイ の ほう を ながめた。 ハナミチ から ヒラドマ の マス の アイダ をば キチ さん の ごとく マワリ の ヒョウシギ の ナン たる か を しらない ケンブツニン が、 すぐに も マク が あく の か と おもって、 であるいて いた ソト から カクジ の セキ に もどろう と ウホウ サホウ へ と コンザツ して いる。 ヨコテ の サジキウラ から ナナメ に ヒキマク の イッポウ に さしこむ ユウヒ の ヒカリ が、 その すすみいる ミチスジ だけ、 クウチュウ に ただよう チリ と タバコ の ケムリ をば ありあり と メ に みせる。 チョウキチ は この ユウヒ の ヒカリ をば なんと いう こと なく かなしく かんじながら、 おりおり ふきこむ ソト の カゼ が おおきな ナミ を うたせる ヒキマク の ウエ を ながめた。 ヒキマク には イチカワ ○○-ジョウ へ、 アサクサ コウエン ゲイギ レンジュウ と して イクタリ と なく かきつらねた ゲイシャ の ナ が よまれた。 しばらく して、
「キチ さん、 キミ、 あの ナカ で しってる ゲイシャ が ある かい」
「たのむ よ。 コウエン は オイラタチ の ナワバリウチ だぜ」 キチ さん は イッシュ の クツジョク を かんじた の で あろう、 ウソ か マコト か、 マク の ウエ に かいて ある ゲイシャ の ヒトリヒトリ の ケイレキ、 ヨウボウ、 セイシツ を キリ も なく セツメイ しはじめた。
 ヒョウシギ が ちょんちょん と フタツ なった。 マクアキ の ウタ と シャミセン が きこえ ひかれた マク が しだいに こまかく はやめる ヒョウシギ の リツ に つれて かたよせられて ゆく。 オオムコウ から はやくも ヤクシャ の ナ を よぶ カケゴエ。 タイクツ した ケンブツニン の ハナシゴエ が イチジ に やんで、 ジョウナイ は ヨ の あけた よう な イッシュ の アカルサ と イッシュ の カッキ を そえた。

 8

 オトヨ は イマドバシ まで あるいて きて ジセツ は イマ まさに らんまん たる ハル の 4 ガツ で ある こと を はじめて しった。 テヒトツ の オンナジョタイ に おわれて いる ミ は ソラ が あおく はれて ヒ が マド に さしこみ、 スジムコウ の 「ミヤトガワ」 と いう ウナギヤ の カドグチ の ヤナギ が ミドリイロ の メ を ふく の に やっと ジコウ の ヘンセン を しる ばかり。 いつも リョウガワ の よごれた カワラヤネ に アタリ の チョウボウ を さえぎられた ジメン の ひくい バスエ の ヨコチョウ から、 イマ とつぜん、 ハシ の ウエ に でて みた 4 ガツ の スミダガワ は、 1 ネン に 2~3 ド と かぞえる ほど しか ソトデ する こと の ない ハハオヤ オトヨ の ロウガン をば しんじられぬ ほど に おどろかした の で ある。 はれわたった ソラ の シタ に、 ながれる ミズ の カガヤキ、 ツツミ の アオクサ、 その ウエ に つづく サクラ の ハナ、 サマザマ の ハタ が ひらめく ダイガク の テイコ、 その ヘン から おこる ヒトビト の サケビゴエ、 テッポウ の ヒビキ。 ワタシブネ から アガリオリ する ハナミ の ヒト の コンザツ。 アタリ イチメン の コウケイ は つかれた ハハオヤ の メ には あまり に シキサイ が キョウレツ-すぎる ほど で あった。 オトヨ は ワタシバ の ほう へ おりかけた けれど、 キュウ に おそるる ごとく クビス を かえして、 キンリュウザン シタ の ヒカゲ に なった カワラマチ を いそいだ。 そして トオリガカリ の なるべく きたない クルマ、 なるべく イクジ の なさそう な シャフ を みつけて おそるおそる、
「クルマヤ さん、 コウメ まで やすく やって ください な」 と いった。
 オトヨ は ハナミ どころ の サワギ では ない。 もう どうして いい の か わからない。 ノゾミ を かけた ヒトリムスコ の チョウキチ は シケン に ラクダイ して しまった ばかり か、 もう ガッコウ へは ゆきたく ない、 ガクモン は いや だ と いいだした。 オトヨ は トホウ に くれた ケッカ、 アニ の ラゲツ に ソウダン して みる より ホカ に シヨウ が ない と おもった の で ある。
 3 ド-メ に かけあった ロウシャフ が、 やっと の こと で オトヨ の のぞむ チンギン で コウメ-ユキ を ショウチ した。 アズマバシ は ゴゴ の ニッコウ と ジンアイ の ナカ に おびただしい ヒトデ で ある。 きかざった わかい ハナミ の ダンジョ を のせて イキオイ よく はしる クルマ の アイダ をば、 オトヨ を のせた ロウシャフ は カジ を ふりながら よたよた あるいて ハシ を わたる や いなや オウカ の ニギワイ を ヨソ に、 すぐと ナカノゴウ へ まがって ナリヒラバシ へ でる と、 この ヘン は もう ハル と いって も きたない コケラブキ の ヤネ の ウエ に ただ あかるく ヒ が あたって いる と いう ばかり で、 チンタイ した ホリワリ の ミズ が うららか な アオゾラ の イロ を ソノママ に うつして いる ヒキフネ-ドオリ。 ムカシ は キンペイロウ の コダユウ と いわれた ラゲツ の コイニョウボウ は、 ヌノコ の エリモト に テヌグイ を かけ オシロイヤケ の した シワ の おおい カオ に いっぱい の ヒ を うけて、 コドモ の ムレ が メンコ や コマ の アソビ を して いる ホカ には いたって ヒトドオリ の すくない ミチバタ の コウシド サキ で、 ハリイタ に ハリモノ を して いた。 かけて きて とまる クルマ と、 それ から おりる オトヨ の スガタ を みて、
「まあ おめずらしい じゃ ありません か。 ちょいと イマド の オシショウ さん です よ」 と あけた まま の コウシド から ウチ の ナカ へ と しらせる。 ナカ には アルジ の ソウショウ が オモト の ハチ を ならべた エンサキ へ コヅクエ を すえ しきり に テンチジン の ジュンジョ を つける ハイカイ の セン に いそがしい ところ で あった。
 かけて いる メガネ を はずして、 ラゲツ は ツクエ を はなれて ザシキ の マンナカ に すわりなおった が、 タスキ を とりながら はいって くる ツマ の オタキ と ライホウ の オトヨ、 おなじ トシゴロ の おいた オンナ ドウシ は イクタビ と なく オジギ の ユズリアイ を して は ながながしく アイサツ した。 そして その アイサツ の ナカ に、 「チョウ ちゃん も オジョウブ です か」 「はあ、 しかし あれ にも こまりきります」 と いう よう な モンドウ から、 ヨウケン は アンガイ に はやく ラゲツ の マエ に テイシュツ される こと に なった の で ある。 ラゲツ は しずか に タバコ の スイガラ を はたいて、 ダレ に かぎらず わかい うち は とかくに キ の まよう こと が ある。 キ の まよって いる とき には、 ジブン にも オボエ が ある が、 オヤ の イケン も アダ と しか きこえない。 ハタ から あまり きびしく カンショウ する より は かえって キマカセ に して おく ほう が クスリ に なり は しまい か と ろんじた。 しかし メ に みえない ショウライ の キョウフ ばかり に みたされた オンナオヤ の せまい ムネ には かかる ツウジン の ホウニン シュギ は とうてい いれられ べき もの で ない。 オトヨ は チョウキチ が ひさしい イゼン から しばしば ガッコウ を やすむ ため に ジブン の ミトメイン を ぬすんで トドケショ を ギゾウ して いた こと をば、 アンコク な ウンメイ の ゼンチョウ で ある ごとく、 コエ まで ひそめて ながながしく ものがたる……。
「ガッコウ が いや なら どう する つもり だ と きいたら、 まあ どう でしょう、 ヤクシャ に なる ん だ って いう ん です よ。 ヤクシャ に。 まあ、 どう でしょう。 ニイサン。 ワタシャ そんな に チョウキチ の コンジョウ が くさっちまった の か と おもったら、 もう じつに くやしくって ならない ん です よ」
「へーえ、 ヤクシャ に なりたい」 いぶかる マ も なく ラゲツ は ナナツ ヤツ の コロ に よく シャミセン を オモチャ に した チョウキチ の オイタチ を カイソウ した。 「トウニン が たって と のぞむ なら シカタ の ない ハナシ だ が…… こまった もの だ」
 オトヨ は ジブン の ミ こそ イッカ の フコウ の ため に ユウゲイ の シショウ に レイラク した けれど、 ワガコ まで も そんな いやしい もの に して は センゾ の イハイ に たいして モウシワケ が ない と のべる。 ラゲツ は イッカ の ハサン メツボウ の ムカシ を いいだされる と カンドウ まで された ホウトウ-ザンマイ の ミ は、 ナン に つけ、 ハゲアタマ を かきたい よう な トウワク を かんずる。 もともと ゲイニン シャカイ は だいすき な シュミセイ から、 オトヨ の ヘンクツ な シソウ をば コウゲキ したい と ココロ では おもう ものの そんな こと から またしても ながたらしく 「センゾ の イハイ」 を ろんじだされて は たまらない と あやぶむ ので、 ソウショウ は まず その バ を エンカツ に、 オトヨ を アンシン させる よう に と ハナシ を まとめかけた。
「とにかく いちおう は ワシ が イケン します よ、 わかい うち は まよう だけ に かえって シマツ の いい もの さ。 コンヤ に でも アシタ に でも チョウキチ に あそび に くる よう に いって おきなさい。 ワシ が きっと カイシン さして みせる から、 まあ そんな に シンパイ しない が いい よ。 なに ヨノナカ は あんじる より うむ が やすい さ」
 オトヨ は なにぶん よろしく と たのんで オタキ が ひきとめる の を ジタイ して その イエ を でた。 ハル の ユウヒ は あかあか と アズマバシ の ムコウ に かたむいて、 ハナミガエリ の コンザツ を いっそう ひきたてて みせる。 その ウチ に オトヨ は ことさら ゲンキ よく あるいて ゆく キンボタン の ガクセイ を みる と、 それ が はたして ダイガッコウ の セイト で ある か イナ か は わからぬ ながら、 ワガコ も あのよう な リッパ な ガクセイ に したてたい ばかり に、 イクネン-カン オンナ の ミ ヒトツ で セイカツ と たたかって きた が、 イマ は イノチ に ひとしい キボウ の ヒカリ も まったく きえて しまった の か と おもう と じつに たえられぬ ヒシュウ に おそわれる。 アニ の ラゲツ に イライ して は みた ものの やっぱり アンシン が できない。 なにも ムカシ の ドウラクモノ だ から と いう わけ では ない。 チョウキチ に ココロザシ を たてさせる の は とうてい ニンゲンワザ では およばぬ こと、 カミホトケ の チカラ に たよらねば ならぬ と おもいだした。 オトヨ は のって きた クルマ から キュウ に カミナリモン で おりた。 ナカミセ の ザットウ をも イマ では すこしも おそれず に カンノンドウ へ と いそいで、 キガン を こらした ノチ に、 オミクジ を ひいて みた。 ふるびた カミキレ に モクハンズリ で、

ダイ 62 ダイキチ
サイカン じじ に しりぞく = ワザワイ も おいおい に しりぞき ウン ひらく との こと なり
ナ あらわれて シホウ に あがる = ナ の ホマレ おいおい テンカ に かくれなし との こと なり
ふるき を あらためて かさねて ロク に じょうず = ふるき こと は あらたまりて ふたたび ロク を うる なり
たかき に のぼって フク おのずから さかえん = リッシン シュッセ して フッキ ハンジョウ する テイ なり
ガンモウ かなう べし ○ ビョウニン ホンプク す ○ ウセモノ でる ○ マチビト きたる ○ ヤヅクリ ワタマシ サワリ なし ○ タビダチ よし ○ ヨメトリ ムコトリ ゲンプク ヒト を かかえる よろず よし

 オトヨ は ダイキチ と いう モジ を みて アンシン は した ものの、 ダイキチ は かえって キョウ に かえりやすい こと を おもいだして、 またもや ジブン から サマザマ な キョウフ を つくりだしつつ、 ヒジョウ に つかれて ウチ へ かえった。

スミダガワ 4

2014-06-06 | ナガイ カフウ
 9

 ヒルスギ から カメイド の リュウガンジ の ショイン で ハイカイ の ウンザ が ある と いう ので、 ラゲツ は その ヒ の ゴゼン に たずねて きた チョウキチ と チャヅケ を すました ノチ、 コウメ の スマイ から オシアゲ の ホリワリ を ヤナギシマ の ほう へ と つれだって はなしながら あるいた。 ホリワリ は ちょうど マヒル の ヒキシオ で マックロ な きたない デイド の ソコ を みせて いる うえ に、 4 ガツ の あたたかい ニッコウ に てりつけられて、 ドブドロ の シュウキ を さかん に ハッサン して いる。 どこ から とも なく バイエン の スス が とんで きて、 どこ と いう こと なし に セイゾウバ の キカイ の オト が きこえる。 ミチバタ の ジンカ は ミチ より も イチダン ひくい ジメン に たてられて ある ので、 ハル の ヒ の ヒカリ を ヨソ に ニョウボウ ども が せっせと ナイショク して いる うすぐらい カナイ の サマ が、 とおりながら に すっかり と みとおされる。 そういう コイエ の マガリカド の よごれた ハメ には バイヤク と ウラナイ の コウコク に まじって いたる ところ ジョコウ ボシュウ の ハリガミ が メ に ついた。 しかし まもなく この インウツ な オウライ は うねりながら に すこしく ツマサキアガリ に なって ゆく か と おもう と、 カタガワ に あかく ぬった ミョウケンジ の ヘイ と、 それ に たいして ココロモチ よく あらいざらした リョウリヤ ハシモト の イタベイ の ため に とつぜん メンボク を イッペン させた。 まずしい ホンジョ の 1 ク が ここ に つきて イタバシ の かかった カワムコウ には ノグサ に おおわれた ドテ を こして、 カメイド ムラ の ハタケ と コダチ と が うつくしい デンエン の ハルゲシキ を ひろげて みせた。 ラゲツ は ふみとどまって、
「ワシ の ゆく オテラ は すぐ ムコウ の カワバタ さ、 マツ の キ の ソバ に ヤネ が みえる だろう」
「じゃ、 オジサン。 ここ で シツレイ しましょう」 チョウキチ は はやくも ボウシ を とる。
「いそぐ ん じゃ ない。 ノド が かわいた から、 まあ チョウキチ、 ちょっと やすんで ゆこう よ」
 あかく ぬった イタベイ に そうて、 ミョウケンジ の モンゼン に ヨシズ を はった ヤスミヂャヤ へ と、 ラゲツ は サキ に コシ を おろした。 イッチョクセン の ホリワリ は ここ も おなじ よう に ヒキシオ の きたない ミナソコ を みせて いた が、 トオク の ハタケ の ほう から ふいて くる カゼ は いかにも さわやか で、 テンジンサマ の トリイ が みえる ムコウ の ツツミ の ウエ には ヤナギ の ワカメ が うつくしく ひらめいて いる し、 すぐ ウシロ の テラ の モン の ヤネ には スズメ と ツバメ が たえまなく さえずって いる ので、 そこここ に セイゾウバ の ケムダシ が イクホン も たって いる に かかわらず、 マチ から は とおい ハル の ヒルスギ の ノドケサ は ジュウブン に ココロモチ よく あじわわれた。 ラゲツ は しばらく アタリ を ながめた ノチ、 それとなく チョウキチ の カオ を のぞく よう に して、
「サッキ の ハナシ は ショウチ して くれたろう な」
 チョウキチ は ちょうど チャ を のみかけた ところ なので、 うなずいた まま、 クチ に だして ヘンジ は しなかった。
「とにかく もう 1 ネン シンボウ しなさい。 イマ の ガッコウ さえ ソツギョウ しちまえば…… オフクロ だって だんだん とる トシ だ、 そう ガンコ ばかり も い やあ しまい から」
 チョウキチ は ただ クビ を うなずかせて、 どこ と アテ も なし に トオク を ながめて いた。 ヒキシオ の ホリワリ に つないだ ツチブネ から は ニンソク が 2~3 ニン して ツツミ の ムコウ の セイゾウバ へ と しきり に ツチ を はこんで いる。 ヒトドオリ と いって は ヒトリ も ない こなた の キシ をば、 イガイ にも とつぜん 2 ダイ の ジンリキシャ が テンジンバシ の ほう から かけて きて、 フタリ の やすんで いる テラ の モンゼン で とまった。 おおかた ハカマイリ に きた の で あろう。 チョウカ の ナイギ らしい マルマゲ の オンナ が ナナ、 ヤッツ に なる ムスメ の テ を ひいて モン の ナカ へ はいって いった。
 チョウキチ は ラゲツ の オジ と ハシ の ウエ で わかれた。 わかれる とき に ラゲツ は ふたたび シンパイ そう に、
「じゃ……」 と いって しばらく だまった ノチ、 「いや だろう けれど とうぶん シンボウ しなさい。 オヤコウコウ して おけば わるい ムクイ は ない よ」
 チョウキチ は ボウシ を とって かるく レイ を した が そのまま、 かける よう に ハヤアシ に もと きた オシアゲ の ほう へ あるいて いった。 ドウジ に ラゲツ の スガタ は ザッソウ の ワカメ に おおわれた カワムコウ の ドテ の カゲ に かくれた。 ラゲツ は 60 に ちかい この トシ まで キョウ ほど こまった こと、 つらい カンジョウ に せめられた こと は ない と おもった の で ある。 イモウト オトヨ の タノミ も ムリ では ない。 ドウジ に チョウキチ が シバイドウ へ はいろう と いう ノゾミ も また わるい とは おもわれない。 イッスン の ムシ にも ゴブ の タマシイ で、 ヒト には ソレゾレ の キシツ が ある。 よかれ あしかれ、 モノゴト を ムリ に しいる の は よく ない と おもって いる ので、 ラゲツ は リョウホウ から イタバサミ に なる ばかり で、 いずれ に とも サンドウ する こと が できない の だ。 ことに ジブン が カコ の ケイレキ を カイソウ すれば、 ラゲツ は チョウキチ の ココロ の ウチ は とわず とも ソコ の ソコ まで あきらか に スイサツ される。 わかい コロ の ジブン には オヤダイダイ の うすぐらい シチヤ の ミセサキ に すわって うららか な ハル の ヒ を ヨソ に はたらきくらす の が、 いかに つらく いかに なさけなかった で あろう。 インキ な トモシビ の シタ で ダイフクチョウ へ デイリ の キンダカ を かきいれる より も、 カワゾイ の あかるい ニカイヤ で シャレホン を よむ ほう が いかに おもしろかった で あろう。 チョウキチ は ヒゲ を はやした かたくるしい ツトメニン など に なる より も、 ジブン の すき な ユウゲイ で ヨ を わたりたい と いう。 それ も イッショウ、 これ も イッショウ で ある。 しかし ラゲツ は イマ よんどころなく イケンヤク の チイ に たつ かぎり、 そこ まで に ジコ の カンソウ を バクロ して しまう わけ には ゆかない ので、 その ハハオヤ に たいした と おなじ よう な、 ソノバカギリ の キヤスメ を いって おく より シヨウ が なかった。

 チョウキチ は いずこ も おなじ よう な まずしい ホンジョ の マチ から マチ をば てくてく あるいた。 チカミチ を とって イッチョクセン に イマド の ウチ へ かえろう と おもう の でも ない。 どこ へ か マワリミチ して あそんで かえろう と かんがえる の でも ない。 チョウキチ は まったく ゼツボウ して しまった。 チョウキチ は ヤクシャ に なりたい ジブン の シュイ を とおす には、 ドウジョウ の ふかい コウメ の オジサン に たよる より ホカ に ミチ が ない。 オジサン は きっと ジブン を たすけて くれる に ちがいない と ヨキ して いた が、 その キボウ は まったく ジブン を あざむいた。 オジ は ハハオヤ の よう に ショウメン から はげしく ハンタイ を となえ は しなかった けれど、 きいて ゴクラク みて ジゴク の タトエ を ひき、 ゲキドウ の セイコウ の コンナン、 ブタイ の セイカツ の クツウ、 ゲイニン シャカイ の コウサイ の ハンサ な こと なぞ を ながなが と かたった ノチ、 ハハオヤ の ココロ をも スイサツ して やる よう に と、 オジ の チュウコク を またず とも よく わかって いる こと を のべつづけた の で あった。 チョウキチ は ニンゲン と いう もの は トシ を とる と、 わかい ジブン に ケイケン した わかい モノ しか しらない ハンモン フアン をば けろり と わすれて しまって、 ツギ の ジダイ に うまれて くる わかい モノ の ミノウエ を きわめて ムトンチャク に クンカイ ヒヒョウ する こと の できる ベンリ な セイシツ を もって いる もの だ、 トシ を とった モノ と わかい モノ の アイダ には とうてい イッチ されない ケンカク の ある こと を つくづく かんじた。
 どこ まで あるいて いって も ミチ は せまくて ツチ が くろく しめって いて、 オオカタ は ロジ の よう に ユキドマリ か と あやぶまれる ほど まがって いる。 コケ の はえた コケラブキ の ヤネ、 くさった ドダイ、 かたむいた ハシラ、 よごれた ハメ、 ほして ある ボロ や オシメ や、 ならべて ある ダガシ や アラモノ など、 インウツ な コイエ は フキソク に カギリ も なく ひきつづいて、 その アイダ に ときどき おどろく ほど おおきな モンガマエ の みえる の は ことごとく セイゾウバ で あった。 カワラヤネ の たかく そびえて いる の は フルデラ で あった。 フルデラ は たいがい あれはてて、 やぶれた ヘイ から ウラテ の ラントウバ が すっかり みえる。 タバ に なって たおれた ソトバ と ともに アオゴケ の シミ に おおわれた ハカイシ は、 キシ と いう ゲンカイ さえ くずれて しまった ミズタマリ の よう な フルイケ の ナカ へ、 イクツ と なく のめりこんで いる。 むろん あたらしい タムケ の ハナ なぞ は ヒトツ も みえない。 フルイケ には はやくも ヒルナカ に カワズ の コエ が きこえて、 キョネン の まま なる カレクサ は ミズ に ひたされて くさって いる。
 チョウキチ は ふと キンジョ の イエ の ヒョウサツ に ナカノゴウ タケチョウ と かいた マチ の ナ を よんだ。 そして すぐさま、 コノゴロ に アイドク した タメナガ シュンスイ の 「ウメゴヨミ」 を おもいだした。 ああ、 ハクメイ な あの コイビト たち は こんな キミ の わるい シッチ の マチ に すんで いた の か。 みれば モノガタリ の サシエ に にた タケガキ の イエ も ある。 カキネ の タケ は かれきって その ネモト は ムシ に くわれて おせば たおれそう に おもわれる。 クグリモン の イタヤネ には やせた ヤナギ が からくも ワカメ の ミドリ を つけた エダ を たらして いる。 フユ の ヒルスギ ひそか に ヨネハチ が ビョウキ の タンジロウ を おとずれた の も かかる ワビズマイ の トグチ で あったろう。 ハンジロウ が アメ の ヨ の カイダン に はじめて オイト の テ を とった の も やはり かかる イエ の ヒトマ で あったろう。 チョウキチ は なんとも いえぬ コウコツ と ヒアイ と を かんじた。 あの あまく して やわらかく、 たちまち に して レイタン な ムトンチャク な ウンメイ の テ に もてあそばれたい、 と いう やみがたい クウソウ に かられた。 クウソウ の ツバサ の ひろがる だけ、 ハル の アオゾラ が イゼン より も あおく ひろく メ に えいじる。 トオク の ほう から アメウリ の チョウセンブエ が ひびきだした。 フエ の ネ は おもいがけない ところ で、 ミョウ な フシ を つけて オンチョウ を ひくめる の が、 コトバ に いえない ユウシュウ を もよおさせる。
 チョウキチ は イマ まで ムネ に わだかまった オジ に たいする フマン を しばらく わすれた。 ゲンジツ の クモン を しばらく わすれた……。

 10

 キコウ が ナツ の スエ から アキ に うつって ゆく とき と おなじ よう、 ハル の スエ から ナツ の ハジメ に かけて は、 おりおり オオアメ が ふりつづく。 センゾクマチ から ヨシワラ タンボ は めずらしく も なく レイネン の とおり に ミズ が でた。 ホンジョ も おなじ よう に ショショ に シュッスイ した そう で、 ラゲツ は オトヨ の すむ イマド の キンペン は どう で あった か と、 2~3 ニチ すぎて から、 ショヨウ の カエリ の ユウガタ に ミマイ に きて みる と、 デミズ の ほう は ブジ で あった カワリ に、 それ より も、 もっと イガイ な サイナン に びっくり して しまった。 オイ の チョウキチ が ツリダイ で、 いましも ホンジョ の ヒビョウイン に おくられよう と いう サワギ の サイチュウ で ある。 ハハオヤ の オトヨ は チョウキチ が ハツアワセ の ウスギ を した まま、 センゾクマチ キンペン の デミズ の コンザツ を み に と ユウガタ から ヨル おそく まで、 ドロミズ の ナカ を あるきまわった ため に、 その ヨ から カゼ を ひいて たちまち チョウ チブス に なった の だ と いう イシャ の セツメイ を そのまま かたって、 なきながら ツリダイ の アト に ついて いった。 トホウ に くれた ラゲツ は オトヨ の かえって くる まで、 イヤオウ なく ルスバン に と ウチ の ナカ に とりのこされて しまった。
 ウチ の ナカ は クヤクショ の シュッチョウイン が イオウ の ケムリ と セキタンサン で ショウドク した アト、 まるで ススハキ か ヒッコシ の とき の よう な ロウゼキ に、 ちょうど ヒトケ の ない サビシサ を くわえて、 ソウシキ の カンオケ を おくりだした アト と おなじ よう な ココロモチ で ある。 セケン を はばかる よう に まだ ヒ の くれぬ サキ から アマド を しめた オモテ には、 ヨル と ともに とつぜん つよい カゼ が ふきだした と みえて、 イエジュウ の アマド が がたがた なりだした。 キコウ は いやに はださむく なって、 おりおり カッテグチ の ヤブレショウジ から ザシキ の ナカ まで ふきこんで くる カゼ が、 うすぐらい ツルシ ランプ の ヒ をば ふきけしそう に ゆする と、 その たびたび、 くろい ユエン が ホヤ を くもらして、 ランザツ に おきなおされた カグ の カゲ が、 よごれた タタミ と コシバリ の はがれた カベ の ウエ に うごく。 どこ か チカク の イエ で ヒャクマンベン の ネンブツ を となえはじめる コエ が、 ふと ものあわれ に ミミ に ついた。 ラゲツ は たった ヒトリ で ショザイ が ない。 タイクツ でも ある。 うすさびしい ココロモチ も する。 こういう とき には サケ が なくて は ならぬ と おもって、 ダイドコロ を さがしまわった が、 オンナジョタイ の こと とて サカズキ ヒトツ みあたらない。 オモテ の マドギワ まで たちもどって アマド の 1 マイ を すこし ばかり ひきあけて オウライ を ながめた けれど、 ムコウガワ の ケントウ には サカヤ らしい シルシ の もの は ヒトツ も みえず、 バスエ の マチ は ヨイ ながら に もう オオカタ は ト を しめて いて、 インキ な ヒャクマンベン の コエ が かえって はっきり きこえる ばかり。 カワ の ほう から はげしく ふきつける カゼ が ヤネ の ウエ の デンセン を ひゅーひゅー ならす の と、 ホシ の ヒカリ の さえて みえる の と で、 カゼ の ある ヨル は とつぜん フユ が きた よう な さむい ココロモチ を させた。
 ラゲツ は しかたなし に アマド を しめて、 ふたたび ぼんやり ツルシ ランプ の シタ に すわって、 ツヅケザマ に タバコ を のんで は ハシラドケイ の ハリ の うごく の を ながめた。 ときどき ネズミ が おそろしい ヒビキ を たてて テンジョウウラ を はしる。 ふと ラゲツ は ナニ か その ヘン に よむ ホン でも ない か と おもいついて、 タンス の ウエ や オシイレ の ナカ を あっちこっち と のぞいて みた が、 ショモツ と いって は トキワズ の ケイコボン に トジゴヨミ の ふるい もの ぐらい しか みあたらない ので、 とうとう ツルシ ランプ を カタテ に さげて、 チョウキチ の ヘヤ に なった 2 カイ まで あがって いった。
 ツクエ の ウエ に ショモツ は イクサツ も かさねて ある。 スギイタ の ホンバコ も おかれて ある。 ラゲツ は カミイレ の ナカ に はさんだ ロウガンキョウ を フトコロ から とりだして、 まず ヨウソウ の キョウカショ をば ものめずらしく 1 サツ 1 サツ ひろげて みて いた が、 する うち に ばたり と タタミ の ウエ に おちた もの が ある ので、 ナニ か と とりあげて みる と ハルギ の ゲイシャ スガタ を した オイト の シャシン で あった。 そっと モト の よう に ショモツ の アイダ に おさめて、 なおも その ヘン の 1 サツ 1 サツ を ナニゴコロ も なく あさって ゆく と、 コンド は おもいがけない 1 ツウ の テガミ に ゆきあたった。 テガミ は かきおわらず に やめた もの らしく、 ひきさいた マキガミ と ともに モンク は とぎれて いた けれど、 よみうる だけ の モジ で ジュウブン に ゼンタイ の イミ を かいする こと が できる。 チョウキチ は ヒトタビ わかれた オイト とは たがいに ことなる その キョウグウ から ヒイチニチ と その ココロ まで が とおざかって いって、 せっかく の オサナナジミ も ついには アカ の タニン に ひとしい もの に なる で あろう。 よし ときどき に テガミ の トリヤリ は して みて も カンジョウ の イッチ して ゆかない ゼヒナサ を、 こまごま と うらんで いる。 それ に つけて、 ヤクシャ か ゲイニン に なりたい と おもいさだめた が、 その ノゾミ も ついに とげられず、 むなしく トコヤ の キチ さん の コウフク を うらやみながら、 マイニチ ぼんやり と モクテキ の ない ジカン を おくって いる ツマラナサ、 イマ は ジサツ する ユウキ も ない から ビョウキ に でも なって しねば よい と かいて ある。
 ラゲツ は なんと いう ワケ も なく、 チョウキチ が デミズ の ナカ を あるいて ビョウキ に なった の は コイ に した こと で あって、 ゼンカイ する ノゾミ は もう たえはてて いる よう な じつに はかない カンジ に うたれた。 ジブン は なぜ あの とき あのよう な ココロ にも ない イケン を して チョウキチ の ノゾミ を さまたげた の か と コウカイ の ネン に せめられた。 ラゲツ は もう イチド おもう とも なく、 オンナ に まよって オヤ の イエ を おいだされた わかい ジブン の こと を カイソウ した。 そして ジブン は どうしても チョウキチ の ミカタ に ならねば ならぬ。 チョウキチ を ヤクシャ に して オイト と そわして やらねば、 オヤダイダイ の イエ を つぶして これまで に ウキヨ の クロウ を した カイ が ない。 ツウジン を もって ジニン する ショウフウアン ラゲツ ソウショウ の ナ に はじる と おもった。
 ネズミ が また だしぬけ に テンジョウウラ を はしる。 カゼ は まだ ふきやまない。 ツルシ ランプ の ヒ は たえず ゆらめく。 ラゲツ は イロ の しろい メ の ぱっちり した オモナガ の チョウキチ と、 マルガオ の クチモト に アイキョウ の ある メジリ の あがった オイト との、 わかい うつくしい フタリ の スガタ をば、 ニンジョウボン の サクシャ が クチエ の イショウ でも かんがえる よう に、 イクタビ か ならべて ココロ の ウチ に えがきだした。 そして、 どんな ネツビョウ に とりつかれて も きっと しんで くれるな。 チョウキチ、 アンシン しろ。 オレ が ついて いる ん だぞ と ココロ に さけんだ。