カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ノギク の ハカ 1

2013-09-23 | イトウ サチオ
 ノギク の ハカ

 イトウ サチオ

 ノチ の ツキ と いう ジブン が くる と、 どうも おもわず には いられない。 おさない わけ とは おもう が ナニブン にも わすれる こと が できない。 もう 10 ネン-ヨ も すぎさった ムカシ の こと で ある から、 こまかい ジジツ は オオク は おぼえて いない けれど、 ココロモチ だけ は いまなお キノウ の ごとく、 その とき の こと を かんがえてる と、 まったく トウジ の ココロモチ に たちかえって、 ナミダ が トメド なく わく の で ある。 かなしく も あり たのしく も あり と いう よう な アリサマ で、 わすれよう と おもう こと も ない では ない が、 むしろ くりかえし くりかえし かんがえて は、 ムゲンテキ の キョウミ を むさぼって いる こと が おおい。 そんな ワケ から ちょっと モノ に かいて おこう か と いう キ に なった の で ある。
 ボク の イエ と いう の は、 マツド から 2 リ ばかり さがって、 ヤギリ の ワタシ を ヒガシ へ わたり、 こだかい オカ の ウエ で やはり ヤギリ ムラ と いってる ところ。 ヤギリ の サイトウ と いえば、 この カイワイ での キュウカ で、 サトミ の クズレ が 2~3 ニン ここ へ おちて ヒャクショウ に なった ウチ の ヒトリ が サイトウ と いった の だ と ソフ から きいて いる。 ヤシキ の ニシガワ に 1 ジョウ 5~6 シャク も まわる よう な シイ の キ が 4~5 ホン かさなりあって たって いる。 ムラ イチバン の イモリ で ムラジュウ から うらやましがられて いる。 ムカシ から なにほど アラシ が ふいて も、 この シイモリ の ため に、 ボク の イエ ばかり は ヤネ を はがれた こと は ただ の イチド も ない との ハナシ だ。 イエ など も ずいぶん と ふるい、 ハシラ が のこらず シイ の キ だ。 それ が また スス やら アカ やら で なんの キ か ミワケ が つかぬ くらい、 オクノマ の もっとも ケブリ に とおい とこ でも、 テンジョウイタ が まるで アブラズミ で ぬった よう に、 イタ の モクメ も わからぬ ほど くろい。 それでも タチ は わりあい に たかくて、 カンタン な ランマ も あり ドウ の クギカクシ など も うって ある。 その クギカクシ が バカ に おおきい ガン で あった。 もちろん ちょっと みた の では キ か カネ か も しれない ほど ふるびて いる。
 ボク の ハハ など も センゾ の イイツタエ だ から と いって、 この センゴク ジダイ の イブツテキ フルイエ を、 タイヘン に ジマン されて いた。 その コロ ハハ は チノミチ で ひさしく わずらって おられ、 クロヌリ-テキ な オク の ヒトマ が いつも ハハ の ビョウジョク と なって いた。 その ツギ の 10 ジョウ の マ の ミナミスミ に、 2 ジョウ の コザシキ が ある。 ボク が いない とき は ハタオリバ で、 ボク が いる うち は ボク の ドクショシツ に して いた。 テスリマド の ショウジ を あけて アタマ を だす と、 シイ の エダ が アオゾラ を さえぎって キタ を おおうて いる。
 ハハ は ながらく ぶらぶら して いた から、 イチカワ の シンルイ で ボク には エン の イトコ に なって いる、 タミコ と いう オンナ の コ が シゴト の テツダイ やら ハハ の カンゴ やら に きて おった。 ボク が イマ わすれる こと が できない と いう の は、 その タミコ と ボク との カンケイ で ある。 その カンケイ と いって も、 ボク は タミコ と ゲレツ な カンケイ を した の では ない。
 ボク は ショウガッコウ を ソツギョウ した ばかり で 15 サイ、 ツキ を かぞえる と 13 サイ ナン-カゲツ と いう コロ、 タミコ は 17 だ けれど それ も ウマレ が おそい から、 15 と すこし に しか ならない。 ヤセギス で あった けれども カオ は まるい ほう で、 すきとおる ほど しろい ヒフ に アカミ を おんだ、 まことに ツヤ の いい コ で あった。 いつでも いきいき と して ゲンキ が よく、 そのくせ キ は よわくて ニクゲ の すこしも ない コ で あった。
 もちろん ボク とは だいの ナカヨシ で、 ザシキ を はく と いって は ボク の ところ を のぞく、 ショウジ を はたく と いって は ボク の ザシキ へ はいって くる、 ワタシ も ホン が よみたい の テナライ が したい の と いう、 たまに は ハタキ の エ で ボク の セナカ を ついたり、 ボク の ミミ を つまんだり して にげて ゆく。 ボク も タミコ の スガタ を みれば こい こい と いうて フタリ で あそぶ の が ナニ より おもしろかった。
 ハハ から いつでも しかられる。
「また タミ や は マサ の ところ へ はいってる な。 こらぁ さっさと ソウジ を やって しまえ。 これから は マサ の ドクショ の ジャマ など して は いけません。 タミ や は トシウエ の くせ に……」
 など と しきり に コゴト を いう けれど、 そのじつ ハハ も タミコ をば ヒジョウ に かわいがって いる の だ から、 いっこう に コゴト が きかない。 ワタシ にも すこし テナライ を さして…… など と ときどき タミコ は ダダ を いう。 そういう とき の ハハ の コゴト も きまって いる。
「オマエ は テナライ よか サイホウ です。 キモノ が マンゾク に ぬえなくて は オンナ イチニンマエ と して ヨメ に ゆかれません」
 この コロ ボク に イッテン の ジャネン が なかった は もちろん で あれど、 タミコ の ほう にも、 いや な カンガエ など は すこしも なかった に ソウイ ない。 しかし ハハ が よく コゴト を いう にも かかわらず、 タミコ は なお アサ の ゴハン だ ヒル の ゴハン だ と いうて は ボク を よび に くる。 よび に くる たび に、 いそいで はいって きて、 ホン を みせろ の フデ を かせ の と いって は しばらく あそんで いる。 その ヒマ にも ハハ の クスリ を もって きた カエリ や、 ハハ の ヨウ を たした カエリ には、 きっと ボク の ところ へ はいって くる。 ボク も タミコ が のぞかない ヒ は なんとなく さびしく ものたらず おもわれた。 キョウ は タミ さん は ナニ を して いる かな と おもいだす と、 ふらふらっ と ショシツ を でる。 タミコ を み に ゆく と いう ほど の ココロ では ない が、 ちょっと タミコ の スガタ が メ に ふれれば キ が おちつく の で あった。 なんの こった やっぱり タミコ を み に きた ん じゃ ない か と、 ジブン で ジブン を あざけった よう な こと が しばしば あった の で ある。
 ムラ の ある イエ さ ゴゼ が とまった から きき に ゆかない か、 サイモン が きた から きき に ゆこう の と キンジョ の オンナ ども が さそうて も、 タミコ は ナニ とか コトワリ を いうて けっして イエ を でない。 トナリムラ の マツリ で ハナビ や カザリモノ が ある から との こと で、 レイ の ムコウ の オハマ や トナリ の オセン ら が オオサワギ して み に ゆく と いう に、 ウチ の モノラ まで タミ さん も イッショ に いって みて きたら と いうて も、 タミコ は ハハ の ビョウキ を イイマエ に して ゆかない。 ボク も あまり そんな ところ へ でる は いや で あった から ウチ に おる。 タミコ は こそこそ と ボク の ところ へ はいって きて、 コゴエ で、 ワタシ は ウチ に いる の が いちばん おもしろい わ と いって にっこり わらう。 ボク も なんとなし タミコ をば そんな ところ へ やりたく なかった。
 ボク が ミッカ-オキ ヨッカ-オキ に ハハ の クスリ を とり に マツド へ ゆく。 どうか する と カエリ が おそく なる。 タミコ は 3 ド も 4 ド も ウラザカ の ウエ まで でて ワタシ の ほう を みて いた そう で、 いつでも ウチジュウ の モノ に ひやかされる。 タミコ は マジメ に なって、 オカアサン が シンパイ して、 みて おいで みて おいで と いう から だ と イイワケ を する。 ウチ の モノ は ミナ ひそひそ わらって いる との ハナシ で あった。
 そういう シダイ だ から、 サクオンナ の オマス など は、 むしょう と タミコ を こづらにくがって、 ナニ か と いう と、
「タミコ さん は マサオ さん とこ へ ばかり ゆきたがる、 ヒマ さえ あれば マサオ さん に こびりついて いる」
 など と しきり に いいはやした らしく、 トナリ の オセン や ムコウ の オハマ ら まで かれこれ ウワサ を する。 これ を きいて か アニヨメ が ハハ に チュウイ した らしく、 ある ヒ ハハ は ツネ に なく むずかしい カオ を して、 フタリ を マクラモト へ よびつけ イミ ありげ な コゴト を いうた。
「オトコ も オンナ も 15~16 に なれば もはや コドモ では ない。 オマエラ フタリ が あまり ナカ が よすぎる とて ヒト が かれこれ いう そう じゃ。 キ を つけなくて は いけない。 タミコ が トシカサ の くせ に よく ない。 これから は もう けっして マサ の ところ へ など ゆく こと は ならぬ。 ワガコ を ゆるす では ない が マサ は まだ コドモ だ。 タミ や は 17 では ない か。 つまらぬ ウワサ を される と オマエ の カラダ に キズ が つく。 マサオ だって キ を つけろ……。 ライゲツ から チバ の チュウガク へ ゆく ん じゃ ない か」
 タミコ は トシ が おおい し かつは イミ あって ボク の ところ へ ゆく で あろう と おもわれた と キ が ついた か、 ヒジョウ に はじいった ヨウス に、 カオ マッカ に して うつむいて いる。 ツネ は ハハ に すこし ぐらい コゴト いわれて も ずいぶん ダダ を いう の だ けれど、 この ヒ は ただ リョウテ を ついて うつむいた きり ヒトコト も いわない。 なんの やましい ところ の ない ボク は すこぶる フヘイ で、
「オカアサン、 そりゃ あまり ゴムリ です。 ヒト が なんと いったって、 ワタシラ は なんの ワケ も ない のに、 ナニ か たいへん わるい こと でも した よう な オコゴト じゃ ありません か。 オカアサン だって いつも そう いってた じゃ ありません か。 タミコ と オマエ とは キョウダイ も おなじ だ、 オカアサン の メ から は オマエ も タミコ も すこしも ヘダテ は ない、 なかよく しろ よ と いつでも いった じゃ ありません か」
 ハハ の シンパイ も ドウリ の ある こと だ が、 ボクラ も そんな いやらしい こと を いわれよう とは すこしも おもって いなかった から、 ボク の フエイ も いくらか の リ は ある。 ハハ は にわか に やさしく なって、
「オマエタチ に なんの ワケ も ない こと は オカアサン も しってる がね、 ヒト の クチ が うるさい から、 ただ これから すこし キ を つけて と いう の です」
 イロ あおざめた ハハ の カオ にも いつしか ボクラ を しんから かわいがる エミ が たたえて いる。 やがて、
「タミ や は あの また クスリ を もって きて、 それから ヌイカケ の アワセ を キョウジュウ に しあげて しまいなさい……。 マサ は たった ツイデ に ハナ を きって ブツダン へ あげて ください。 キク は まだ さかない か、 そんなら シオン でも きって くれ よ」
 ホンニン たち は なんの キ なし で ある のに、 ヒト が かれこれ いう ので かえって ムジャキ で いられない よう に して しまう。 ボク は ハハ の コゴト も 1 ニチ しか おぼえて いない。 2~3 ニチ たって タミ さん は なぜ チカゴロ は こない の かしらん と おもった くらい で あった けれど、 タミコ の ほう では、 それから と いう もの は ヨウス が からっと かわって しもうた。
 タミコ は ソノゴ ボク の ところ へは いっさい カオダシ しない ばかり で なく、 ザシキ の ウチ で ゆきあって も、 ヒト の いる マエ など では ヨウイ に モノ も いわない。 なんとなく きまりわるそう に、 まぶしい よう な ふう で いそいで とおりすぎて しまう。 よんどころなく モノ を いう にも、 イマ まで の ブエンリョ に ヘダテ の ない フウ は なく、 いやに テイネイ に あらたまって クチ を きく の で ある。 ときには ボク が あまり にわか に あらたまった の を おかしがって わらえば、 タミコ も ついには ソデ で ワライ を かくして にげて しまう と いう ふう で、 とにかく ヒトエ の カキ が フタリ の アイダ に むすばれた よう な キアイ に なった。
 それでも ある ヒ の 4 ジ-スギ に、 ハハ の イイツケ で ボク が セド の ナスバタケ に ナス を もいで いる と、 いつのまにか タミコ が ザル を テ に もって、 ボク の ウシロ に きて いた。
「マサオ さん……」
 だしぬけ に よんで わらって いる。
「ワタシ も オカアサン から いいつかって きた のよ。 キョウ の ヌイモノ は カタ が こったろう、 すこし やすみながら ナス を もいで きて くれ、 アシタ コウジヅケ を つける から って。 オカアサン が そう いう から、 ワタシ とんで きました」
 タミコ は ヒジョウ に うれしそう に ゲンキ いっぱい で、 ボク が、
「それでは ボク が サキ に きて いる の を タミ さん は しらない で きた の」
 と いう と タミコ は、
「しらなくて さ」
 にこにこ しながら ナス を とりはじめる。
 ナスバタケ と いう は、 シイモリ の シタ から ヒトエ の ヤブ を とおりぬけて、 イエ より ニシキタ に あたる ウラ の センザイバタケ。 ガケ の ウエ に なってる ので、 トネガワ は もちろん ナカガワ まで も かすか に みえ、 ムサシ イチエン が みわたされる。 チチブ から アシガラ ハコネ の ヤマヤマ、 フジ の タカネ も みえる。 トウキョウ の ウエノ の モリ だ と いう の も それ らしく みえる。 ミズ の よう に すみきった アキ の ソラ、 ヒ は 1 ケン ハン ばかり の ヘン に かたむいて、 ボクラ フタリ が たって いる ナスバタケ を ショウメン に てりかえして いる。 アタリ イッタイ に しんと して また いかにも はっきり と した ケシキ、 ワレラ フタリ は しんに ガチュウ の ヒト で ある。
「まあ なんと いう よい ケシキ でしょう」
 タミコ も しばらく テ を やめて たった。
 ボク は ここ で ハクジョウ する が、 この とき の ボク は たしか に トオカ イゼン の ボク では なかった。 フタリ は けっして この とき ムジャキ な トモダチ では なかった。 いつのまに そういう ココロモチ が おこって いた か、 ジブン には すこしも わからなかった が、 やはり ハハ に しかられた コロ から、 ボク の ムネ の ウチ にも ちいさな コイ の タマゴ が イクツ か わきそめて おった に ちがいない。 ボク の セイシン ジョウタイ が いつのまにか ヘンカ して きた は、 かくす こと の できない ジジツ で ある。 この ヒ はじめて タミコ を オンナ と して おもった の が、 ボク に ジャネン の メザシ ありし ナニ より の ショウコ じゃ。
 タミコ が カラダ を く の ジ に かがめて、 ナス を もぎつつ ある その ヨコガオ を みて、 いまさら の よう に タミコ の うつくしく カワイラシサ に キ が ついた。 これまで にも かわいらしい と おもわぬ こと は なかった が、 キョウ は しみじみ と その ウツクシサ が ミ に しみた。 しなやか に ツヤ の ある ビン の ケ に つつまれた ミミタボ、 ゆたか な ホオ の しろく あざやか な、 アゴ の ククシメ の アイラシサ、 クビ の アタリ いかにも きよげ なる、 フジイロ の ハンエリ や ハナゾメ の タスキ や、 それら が ことごとく ユウビ に メ に とまった。 そう なる と おそろしい もの で、 モノ を いう にも おもいきった こと は いえなく なる、 はずかしく なる、 キマリ が わるく なる、 みな レイ の タマゴ の サヨウ から おこる こと で あろう。
 ここ トオカ ほど ナカガキ の ヘダテ が できて、 ろくろく ハナシ も せなかった から、 これ も イマ まで ならば むろん そんな こと かんがえ も せぬ に きまって いる が、 キョウ は ここ で ナニ か はなさねば ならぬ よう な キ が した。 ボク は はじめ ムゾウサ に タミ さん と よんだ けれど、 アト は ムゾウサ に コトバ が つがない。 おかしく ノド が つまって コエ が でない。 タミコ は ナス を ヒトツ テ に もちながら カラダ を おこし、
「マサオ さん、 ナニ……」
「なんでも ない けど タミ さん は チカゴロ ヘン だ から さ。 ボク なんか すっかり きらい に なった よう だ もの」
 タミコ は さすが に ニョショウ で、 そういう こと には ボク など より はるか に シンケイ が エイビン に なって いる。 さも くちおしそう な カオ して、 つと ボク の ソバ へ よって きた。
「マサオ さん は あんまり だわ。 ワタシ が いつ マサオ さん に ヘダテ を しました……」
「なにさ、 コノゴロ タミ さん は、 すっかり かわっちまって、 ボク なんか には ヨウ は ない らしい から よ。 それだって タミ さん に フソク を いう わけ では ない よ」
 タミコ は せきこんで、
「そんな こと いう は そりゃ マサオ さん ひどい わ、 ゴムリ だわ。 コノアイダ は フタリ を ならべて おいて、 オカアサン に あんな に しかられた じゃ ありません か。 アナタ は オトコ です から ヘイキ で おいで だ けど、 ワタシ は トシ は おおい し オンナ です もの、 ああ いわれて は じつに メンボク が ない じゃ ありません か。 それ です から、 ワタシ は イッショウ ケンメイ に なって たしなんで いる ん でさ。 それ を マサオ さん へだてる の いや に なったろう の と いう ん だ もの、 ワタシ は ホント に つまらい……」
 タミコ は なきだしそう な カオツキ で ボク の カオ を じいっと みて いる。 ボク も ただ ハナシ の コグチ に そう いうた まで で ある から、 タミコ に なきそう に なられて は、 かわいそう に キノドク に なって、
「ボク は ハラ を たって いった では ない のに、 タミ さん は ハラ を たった の…… ボク は ただ タミ さん が にわか に かわって、 あって も クチ も きかず、 あそび にも こない から、 いやに さびしく かなしく なっちまった のさ。 それだから これから も ときどき は あそび に おいで よ。 オカアサン に しかられたら ボク が トガ を せおう から…… ヒト が なんと いったって よい じゃ ない か」
 なんと いうて も コドモ だけ に ムチャ な こと を いう。 ムチャ な こと を いわれて タミコ は シンパイ やら うれしい やら、 うれしい やら シンパイ やら、 シンパイ と うれしい と が ムネ の ナカ で、 ごった に なって あらそうた けれど、 とうとう うれしい ほう が カチ を しめて しまった。 なお ミコト ヨコト ハナシ を する うち に、 タミコ は あざやか な クモリ の ない モト の ゲンキ に なった。 ボク も もちろん ユカイ が あふれる……、 ウチュウカン に ただ フタリ きり いる よう な ココロモチ に おたがいに なった の で ある。 やがて フタリ は ナス の モギクラ を する。 おおきな ハタケ だ けれど、 10 ガツ の ナカバスギ では、 ナス も ちらほら しか なって いない。 フタリ で ようやく 2 ショウ ばかり ずつ を とりえた。
「まあ タミ さん、 ごらんなさい、 イリヒ の リッパ な こと」
 タミコ は いつしか ザル を シタ へ おき、 リョウテ を ハナ の サキ に あわせて タイヨウ を おがんで いる。 ニシ の ほう の ソラ は イッタイ に ウスムラサキ に ぼかした よう な イロ に なった。 ひたあかく あかい ばかり で コウセン の でない タイヨウ が イマ その ハンブン を ヤマ に うずめかけた ところ、 ボク は タミコ が イッシン イリヒ を おがむ しおらしい スガタ が ながく メ に のこってる。
 フタリ が ヨネン なく ハナシ を しながら かえって くる と、 セトグチ の ヨツメガキ の ソト に オマス が ぼんやり たって、 こっち を みて いる。 タミコ は コゴエ で、
「オマス が また なんとか いいます よ」
「フタリ とも オカアサン に いいつかって きた の だ から、 オマス なんか なんと いったって、 かま や しない さ」
 イチ ジケン を ふる たび に フタリ が キョウチュウ に わいた コイ の タマゴ は カサ を まして くる。 キ に ふれて コウカン する ソウホウ の イシ は、 ただちに タガイ の キョウチュウ に ある レイ の タマゴ に シダイ な ヨウブン を キュウヨ する。 キョウ の ヒグレ は たしか に その キ で あった。 ぞっと ミブルイ を する ほど、 いちじるしき チョウコウ を あらわした の で ある。 しかし なんと いうて も フタリ の カンケイ は タマゴ ジダイ で きわめて トリトメ が ない。 ヒト に みられて みぐるしい よう な こと も せず、 かえりみて みずから やましい よう な こと も せぬ。 したがって まだまだ ノンキ な もの で、 ヒトマエ を つくろう と いう よう な ココロモチ は きわめて すくなかった。 ボク と タミコ との カンケイ も、 この くらい で オシマイ に なった ならば、 10 ネン わすれられない と いう ほど には ならなかった だろう に。
 オヤ と いう もの は どこ の オヤ も おなじ で、 ワガコ を いつまでも コドモ の よう に おもうて いる。 ボク の ハハ など も その 1 ニン に もれない。 タミコ は ソノゴ ときおり ボク の ショシツ へ やって くる けれど、 よほど ヒトメ を はからって キボネ を おって くる よう な ふう で、 いつ きて も すこしも おちつかない。 さきに ボク に イヤミ を いわれた から しかたなし に くる か とも おもわれた が、 それ は まちがって いた。 ボクラ フタリ の セイシン ジョウタイ は 2~3 ニチ と いわれぬ ほど いちじるしき ヘンカ を とげて いる。 ボク の ヘンカ は もっとも はなはだしい。 ミッカ マエ には、 オカアサン が しかれば ワタシ が トガ を せおう から あそび に きて と まで ムチャ を いうた ボク が、 キョウ は とても そんな ワケ の もの で ない。 タミコ が すこし ナガイ を する と、 もう キ が とがめて シンパイ で ならなく なった。
「タミ さん、 また おいで よ、 あまり ながく いる と ヒト が つまらぬ こと を いう から」
 タミコ も ココロモチ は おなじ だ けれど、 ボク に もう ゆけ と いわれる と ミョウ に すねだす。
「あれ アナタ は このあいだ なんと いいました。 ヒト が なんと いったって よい から あそび に こい と いい は しません か。 ワタシ は もう ヒト に わらわれて も かまいません の」
 こまった こと に なった。 フタリ の カンケイ が ミッセツ する ほど、 ヒトメ を おそれて くる。 ヒトメ を おそれる よう に なって は、 もはや ザイアク を おかしつつ ある か の ごとく、 ココロ も おどおど する の で あった。 ハハ は クチ で こそ、 オトコ も オンナ も 15~16 に なれば コドモ では ない と いって も、 それ は リクツ の ウエ の こと で、 ココロモチ では まだまだ フタリ を まるで コドモ の よう に おもって いる から、 その ノチ タミコ が ボク の ヘヤ へ きて ホン を みたり ハナシ を したり して いる の を、 すぐ マエ を とおりながら いっこう キ に とめる ヨウス も ない。 コノアイダ の コゴト も じつは アニヨメ が いう から でた まで で、 ホントウ に ハラ から でた コゴト では ない。 ハハ の ほう は そう で あった けれど、 アニ や アニヨメ や オマス など は、 さかん に カゲゴト を いうて わらって いた らしく、 ムラジュウ の ヒョウバン には、 フタツ も トシ の おおい の を ヨメ に する キ かしらん など と もっぱら いうて いる との ハナシ。 それ や これ や の こと が うすうす フタリ に しれた ので、 ボク から いいだして とうぶん フタリ は とおざかる ソウダン を した。
 ニンゲン の ココロモチ と いう もの は フシギ な もの。 フタリ が すこしも カクイ なき トクシンジョウ の ソウダン で あった の だ けれど、 ボク の ほう から いいだした ばかり に、 タミコ は ミョウ に ふさぎこんで、 まるで ゲンキ が なくなり、 しょうぜん と して いる の で ある。 それ を みる と ボク も また たまらなく キノドク に なる。 カンジョウ の イッシン イッタイ は こんな ふう に もつれつつ あやうく なる の で ある。 とにかく フタリ は ヒョウメン だけ は リッパ に とおざかって 4~5 ニチ を ケイカ した。
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ノギク の ハカ 2

2013-09-07 | イトウ サチオ
 インレキ の 9 ガツ 13 ニチ、 コンヤ が マメ の ツキ だ と いう ヒ の アサ、 ツユシモ が おりた と おもう ほど つめたい。 そのかわり テンキ は きらきら して いる。 15 ニチ が この ムラ の マツリ で アシタ は ヨイマツリ と いう わけ ゆえ、 ノ の シゴト も キョウ ひとわたり キマリ を つけねば ならぬ ところ から、 ウチジュウ テワケ を して ノ へ でる こと に なった。 それで カンロテキ オンメイ が ボクラ フタリ に くだった の で ある。 アニフウフ と オマス と ホカ に オトコ 1 ニン とは ナカテ の カリノコリ を ぜひ かって しまわねば ならぬ。 タミコ は ボク を テツダイ と して ヤマバタケ の ワタ を とって くる こと に なった。 これ は もとより ハハ の サシズ で タレ にも イギ は いえない。
「まあ あの フタリ を ヤマ の ハタケ へ やる って、 オヤ と いう もの は よっぽど おめでたい もの だ」
 オクソコ の ない オマス と イジマガリ の アニヨメ とは クチ を そろえて そう いった に ちがいない。 ボクラ フタリ は もとより ココロ の ソコ では うれしい に ソウイ ない けれど、 この バアイ フタリ で ヤマバタケ へ ゆく と なって は、 ヒト に カオ を みられる よう な キ が して おおいに キマリ が わるい。 ギリ にも すすんで ゆきたがる よう な ソブリ は できない。 ボク は アサハン マエ は ショシツ を でない。 タミコ も ナニ か ぐずぐず して シタク も せぬ ヨウス。 もう うれしがって と いわれる が くちおしい の で ある。 ハハ は おきて きて、
「マサオ も シタク しろ。 タミ や も さっさと シタク して はやく ゆけ。 フタリ で ゆけば 1 ニチ には ラク な シゴト だ けれど、 ミチ が とおい の だ から、 はやく ゆかない と カエリ が ヨル に なる。 なるたけ ヒ の くれない うち に かえって くる よう に よ。 オマス は フタリ の ベントウ を こしらえて やって くれ。 オサイ は これこれ の もの で……」
 まことに オヤ の ココロ だ。 タミコ に ベントウ を こしらえさせて は、 ジブン の で ある から、 オサイ など は ろく な もの を もって ゆかない と キ が ついて、 ちゃんと オマス に めいじて こしらえさせた の で ある。 ボク は ズボンシタ に タビハダシ ムギワラボウ と いう イデタチ、 タミコ は テサシ を はいて モモヒキ も はいて ゆけ と ハハ が いう と、 テサシ ばかり はいて モモヒキ はく の に ぐずぐず して いる。 タミコ は ボク の ところ へ きて、 モモヒキ はかない でも よい よう に オカアサン に そう いって くれ と いう。 ボク は タミ さん が そう いいなさい と いう。 オシモンドウ を して いる うち に、 ハハ は ききつけて わらいながら、
「タミ や は マチバモノ だ から、 モモヒキ はく の は キマリ が わるい かい。 ワタシ は また オマエ が やわらかい テアシ へ、 イバラ や ススキ で キズ を つける が かわいそう だ から、 そう いった ん だ が、 いや だ と いう なら オマエ の すき に する が よい さ」
 それで タミコ は、 レイ の タスキ に マエカケ スガタ で アサウラ ゾウリ と いう シタク。 フタリ が イットザル ヒトツ ずつ を もち、 ボク が ベツ に バンニョ カタカゴ と テンビン と を カタ に して でかける。 タミコ が アト から スゲガサ を かむって でる と、 ハハ が ワライゴエ で よびかける。
「タミ や、 オマエ が スゲガサ を かむって あるく と、 ちょうど キノコ が あるく よう で みっともない。 アミガサ が よかろう。 あたらしい の が ヒトツ あった はず だ」
 イネカリ-レン は でて しまって べつに わらう モノ も なかった けれど、 タミコ は あわてて スゲガサ を ぬいで、 カオ を あかく した らしかった。 コンド は アミガサ を かむらず に テ に もって、 それじゃ オカアサン いって まいります と アイサツ して はしって でた。
 ムラ の モノラ も かれこれ いう と きいてる ので、 フタリ そろうて ゆく も ヒトマエ はずかしく、 いそいで ムラ を とおりぬけよう との カンガエ から、 ボク は ヒトアシ サキ に なって でかける。 ムラハズレ の サカ の オリクチ の おおきな イチョウ の キ の ネ で タミコ の くる の を まった。 ここ から みおろす と すこし の タンボ が ある。 いろよく きばんだ オシネ に ツユ を おんで、 しっとり と うちふした コウケイ は、 キ の せい か ことに すがすがしく、 ムネ の すく よう な ナガメ で ある。 タミコ は いつのまにか きて いて、 キノウ の アメ で あらいながした アカツチ の ウエ に、 フタハ ミハ イチョウ の ハ の おちる の を ひろって いる。
「タミ さん、 もう きた かい。 この テンキ の よい こと どう です、 ホント に ココロモチ の よい アサ だね」
「ホント に テンキ が よくて うれしい わ。 この まあ イチョウ の ハ の きれい な こと。 さあ でかけましょう」
 タミコ の うつくしい テ で もってる と イチョウ の ハ も ことに きれい に みえる。 フタリ は サカ を おりて ようやく キュウクツ な バショ から ヒロバ へ でた キ に なった。 キョウ は オオイソギ で ワタ を とりかたづけ、 さんざん おもしろい こと を して あそぼう など と ソウダン しながら あるく。 ミチ の マンナカ は かわいて いる が、 リョウガワ の タ に ついて いる ところ は、 ツユ に しとしと に ぬれて、 イロイロ の クサ が ハナ を ひらいてる。 タウコギ は すえがれて、 ミズソバタデ など いちばん おおく しげって いる。 ミヤコグサ も きいろく ハナ が みえる。 ノギク が よろよろ と さいて いる。 タミ さん これ ノギク が と ボク は われしらず アシ を とめた けれど、 タミコ は きこえない の か さっさと サキ へ ゆく。 ボク は ちょっと ワキ へ モノ を おいて、 ノギク の ハナ を ヒトニギリ とった。
 タミコ は 1 チョウ ほど サキ へ いって から、 キ が ついて ふりかえる や いなや、 あれっ と さけんで かけもどって きた。
「タミ さん は そんな に もどって きない っだって ボク が いく もの を……」
「まあ マサオ さん は ナニ を して いた の。 ワタシ びっくり して…… まあ きれい な ノギク、 マサオ さん、 ワタシ に ハンブン おくれ ったら、 ワタシ ホントウ に ノギク が すき」
「ボク は もとから ノギク が だいすき。 タミ さん も ノギク が すき……」
「ワタシ なんでも ノギク の ウマレカエリ よ。 ノギク の ハナ を みる と ミブルイ の でる ほど このもしい の。 どうして こんな か と、 ジブン でも おもう くらい」
「タミ さん は そんな に ノギク が すき…… どうりで どうやら タミ さん は ノギク の よう な ヒト だ」
 タミコ は わけて やった ハンブン の ノギク を カオ に おしあてて うれしがった。 フタリ は あるきだす。
「マサオ さん…… ワタシ ノギク の よう だ って どうして です か」
「さあ どうして と いう こと は ない けど、 タミ さん は なにがなし ノギク の よう な ふう だ から さ」
「それで マサオ さん は ノギク が すき だ って……」
「ボク だいすき さ」
 タミコ は これから は アナタ が サキ に なって と いいながら、 ミズカラ は アト に なった。 イマ の グウゼン に おこった カンタン な モンドウ は、 オタガイ の ムネ に つよく ユウイミ に かんじた。 タミコ も そう おもった こと は その ソブリ で わかる。 ここ まで ハナシ が せまる と、 もう その サキ を いいだす こと は できない。 ハナシ は ちょっと とぎれて しまった。
 なんと いって も おさない フタリ は、 イマ ツミ の カミ に ホンロウ せられつつ ある の で あれど、 ノギク の よう な ヒト だ と いった コトバ に ついで、 その ノギク を ボク は だいすき だ と いった とき すら、 ボク は すでに ムネ に ドウキ を おこした くらい で、 すぐに それ イジョウ を いいだす ほど に、 まだまだ ずうずうしく は なって いない。 タミコ も おなじ こと、 モノ に つきあたった よう な ココロモチ で つよく おたがいに かんじた とき に コエ は つまって しまった の だ。 フタリ は しばらく ムゴン で あるく。
 まことに タミコ は ノギク の よう な コ で あった。 タミコ は まったく の イナカフウ では あった が、 けっして ソヤ では なかった。 カレン で やさしくて そうして ヒンカク も あった。 イヤミ とか ニクゲ とか いう ところ は ツメ の アカ ほど も なかった。 どう みて も ノギク の ふう だった。
 しばらく は だまって いた けれど、 いつまで ハナシ も しない で いる は なお おかしい よう に おもって、 むり と ハナシ を かんがえだす。
「タミ さん は さっき ナニ を かんがえて あんな に ワキミ も しない で あるいて いた の」
「ワタシ なにも かんがえて い や しません」
「タミ さん は そりゃ ウソ だよ。 ナニ か カンガエゴト でも しなくて あんな フウ を する わけ は ない さ。 どんな こと を かんがえて いた の か しらない けれど、 かくさない だって よい じゃ ない か」
「マサオ さん、 すまない。 ワタシ さっき ホント に カンガエゴト して いました。 ワタシ つくづく かんがえて なさけなく なった の。 ワタシ は どうして マサオ さん よか トシ が おおい ん でしょう。 ワタシ は 17 だ と いう ん だ もの、 ホント に なさけなく なる わ……」
「タミ さん は なんの こと いう ん だろう。 サキ に うまれた から トシ が おおい、 17 ネン そだった から 17 に なった の じゃ ない か。 17 だ から なんで なさけない の です か。 ボク だって、 サライネン に なれば 17 サイ さ。 タミ さん は ホント に ミョウ な こと を いう ヒト だ」
 ボク も イマ タミコ が いった こと の ココロ を かいせぬ ほど の コドモ でも ない。 わかって は いる けど、 わざと タワムレ の よう に ききなして、 ふりかえって みる と、 タミコ は しんに かんがえこんで いる よう で あった が、 ボク と カオ あわせて きまりわるげ に にわか に ワキ を むいた。
 こう なって くる と ナニ を いうて も、 すぐ そこ へ もって くる ので ハナシ が ゆきつまって しまう。 フタリ の ウチ で どちら か ヒトリ が、 すこうし ほんの わずか に でも オシ が つよければ、 こんな に ハナシ が ゆきつまる の では ない。 おたがいに ココロモチ は オクソコ まで わかって いる の だ から、 ヨシノガミ を つきやぶる ほど にも チカラ が あり さえ すれば、 ハナシ の イッポ を すすめて おたがいに あけはなして しまう こと が できる の で ある。 しかし シンソコ から オボコ な フタリ は、 その ヨシノガミ を やぶる ほど の オシ が ない の で ある。 また ここ で ハナシ の カワ を きって しまわねば ならぬ と いう よう な、 はっきり した イシキ も もちろん ない の だ。 いわば まだ トリトメ の ない ランテキ の コイ で ある から、 すこしく ココロ の チカラ が ヒツヨウ な ところ へ くる と ハナシ が ゆきつまって しまう の で ある。
 おたがいに ジブン で はなしだして は ジブン が きまりわるく なる よう な こと を くりかえしつつ イクチョウ か の ミチ を あるいた。 コトバカズ こそ すくなけれ、 その コトバ の オク には フタリ ともに ムリョウ の オモイ を つつんで、 キマリ が わるい カンジョウ の ウチ には なんとも いえない ふかき ユカイ を たたえて いる。 それで いわゆる アシ も ソラ に、 いつしか タンボ も とおりこし、 ヤマジ へ はいった。 コンド は タミコ が ココロ を とりなおした らしく あざやか な コエ で、
「マサオ さん、 もう ハンブンミチ きましてしょう か。 オオナガ サク へは 1 リ に とおい って いいました ねえ」
「そう です、 1 リ ハン には ちかい そう だ が、 もう ハンブン の ヨ きましたろう よ。 すこし やすみましょう か」
「ワタシ やすまなく とも、 よう ございます が、 さっそく オカアサン の バチ が あたって、 ススキ の ハ で こんな に テ を きりました。 ちょいと これ で ゆわえて ください な」
 オヤユビ の ナカホド で キズ は すこし だ が、 チ が イガイ に でた。 ボク は さっそく カミ を さいて ゆわえて やる。 タミコ が リョウテ を あかく して いる の を みた とき ヒジョウ に かわいそう で あった。 こんな ヤマ の ナカ で やすむ より、 ハタケ へ いって から やすもう と いう ので、 コンド は タミコ を サキ に ボク が アト に なって いそぐ。 8 ジ すこし-スギ と おもう ジブン に オオナガ サク の ハタケ へ ついた。
 10 ネン ばかり マエ に オヤジ が まだ タッシャ な ジブン、 トナリムラ の シンセキ から たのまれて よぎなく かった の だ そう で、 ハタケ が 8 タン と サンリン が 2 チョウ ほど ここ に ある の で ある。 この ヘン イッタイ に タカダイ は みな サンリン で その アイダ の サク が ハタケ に なって いる。 コシコク を もって いる と いえば、 セケンテイ は よい けど、 テマ ばかり かかって ワリ に あわない と いつも ハハ が いってる ハタケ だ。
 サンポウ ハヤシ で かこまれ、 ミナミ が ひらいて ヨソ の ハタケ と つづいて いる。 キタ が たかく ミナミ が ひくい コウバイ に なって いる。 ハハ の スイサツドオリ、 ワタ は スエ には なって いる が、 カゼ が ふいたら あふれる か と おもう ほど ワタ は えんで いる。 てんてん と して ハタケジュウ しろく なって いる その ワタ に アサヒ が さして いる と まぶしい よう に きれい だ。
「まあ よく えんでる こと。 キョウ とり に きて よい こと しました」
 タミコ は オンナ だけ に、 ワタ の きれい に えんでる の を みて うれしそう に そう いった。 ハタケ の マンナカ ほど に キリ の キ が 2 ホン しげって いる。 ハ が おちかけて いる けれど、 10 ガツ の ネツ を しのぐ には ジュウブン だ。 ここ へ アタリ の キビガラ を よせて フタリ が じんどる。 ベントウヅツミ を エダ へ つる。 テンキ の よい のに ヤマジ を いそいだ から、 あせばんで あつい。 キモノ を 1 マイ ずつ ぬぐ。 カゼ を フトコロ へ いれ アシ を のばして やすむ。 あおぎった ソラ に ミドリ の マツバヤシ、 モズ も どこ か で ないて いる。 コエ の ひびく ほど ヤマ は しずか なの だ。 テン と チ との アイダ で ひろい ハタケ の マンナカ に フタリ が ハナシ を して いる の で ある。
「ホント に タミコ さん、 キョウ と いう キョウ は ゴクラク の よう な ヒ です ね」
 カオ から クビ から アセ を ふいた アト の ツヤツヤシサ、 いまさら に タミコ の ヨコガオ を みた。
「そう です ねえ、 ワタシ なんだか ユメ の よう な キ が する の。 ケサ ウチ を でる とき は ホント に キマリ が わるくて…… ネエサン には ヘン な メツキ で みられる、 オマス には ひやかされる、 ワタシ は のぼせて しまいました。 マサオ さん は ヘイキ で いる から にくらしかった わ」
「ボク だって ヘイキ な もん です か。 ムラ の ヤツラ に あう の が いや だ から、 ボク は ヒトアシ サキ に でて イチョウ の シタ で タミ さん を まって いた ん でさあ。 それ は そう と、 タミ さん、 キョウ は ホント に おもしろく あそぼう ね。 ボク は ライゲツ は ガッコウ へ ゆく ん だし、 コンゲツ とて 15 ニチ しか ない し、 フタリ で しみじみ ハナシ の できる よう な こと は これから サキ は むずかしい。 あわれっぽい こと いう よう だ けど、 フタリ の ナカ も キョウ だけ かしら と おもう のよ。 ねえ タミ さん……」
「そりゃあ マサオ さん、 ワタシ は みちみち それ ばかり かんがえて きました。 ワタシ が さっき、 ホント に なさけなく なって と いったら、 マサオ さん は わらって おしまい なした けど……」
 おもしろく あそぼう あそぼう いうて も、 ハナシ を はじめる と すぐに こう なって しまう。 タミコ は ナミダ を ぬぐうた よう で あった。 ちょうど よく そこ へ ウマ が みえて きた。 ニシガワ の ヤマジ から、 がさがさ ササ に さわる オト が して、 タキギ を つけた ウマ を ひいて ホオカムリ の オトコ が でて きた。 よく みる と イガイ にも ムラ の ツネキチ で ある。 この ヤツ は いつか ムコウ の オハマ に タミコ を あそび に つれだして くれ と しきり に たのんだ と いう ヤツ だ。 いや な ヤロウ が きやがった な と おもうて いる と、
「や マサオ さん、 こんちゃ どうも ケッコウ な オテンキ です な。 キョウ は ゴフウフ で ワタトリ かな。 しゃれて ます ね。 あははははは」
「おう ツネ さん、 キョウ は ダチン かな。 たいへん はやく ゴセイ が でます ね」
「はあ ワレワレ なんざあ ダチントリ でも して たまに イッパイ やる より ホカ に タノシミ も ない ん です から な。 タミコ さん、 いやに みせつけます ね。 あんまり ツミ です ぜ。 アハハハハハ」
 この ヤロウ シッケイ な と おもった けれど、 ワレワレ も あまり いばれる ミ でも なし、 わらいとぼけて ツネキチ を やりすごした。
「バカヤロウ、 じつに いや な ヤツ だ。 さあ タミ さん、 はじめましょう。 ホント に タミ さん、 ゲンキ を おなおし よ。 そんな に くよくよ おし で ない よ。 ボク は ガッコウ へ いったて チバ だ もの、 ボン ショウガツ の ホカ にも こよう と おもえば ドヨウ の バン かけて ニチヨウ に こられる さ……」
「ホント に すみません。 ナキツラ など して。 あの ツネ さん て オトコ、 なんと いう いや な ヒト でしょう」
 タミコ は タスキガケ ボク は シャツ に カタ を ぬいで イッシン に とって 3 ジカン ばかり の アイダ に 7 ブ-ドオリ かたづけて しまった。 もう アト は ワケ が ない から ベントウ に しよう と いう こと に して キリ の カゲ に もどる。 ボク は かねて ヨウイ の スイヅツ を もって、
「タミ さん、 ボク は ミズ を くんで きます から、 ルスバン を たのみます。 カエリ に 『エビヅル』 や 『アケビ』 を うんと ミヤゲ に とって きます」
「ワタシ は ヒトリ で いる の は いや だ。 マサオ さん、 イッショ に つれてって ください。 サッキ の よう な ヒト に でも こられたら タイヘン です もの」
「だって タミ さん、 ムコウ の ヤマ を ヒトツ こして サキ です よ、 シミズ の ある ところ は。 ミチ と いう よう な ミチ も なくて、 それこそ イバラ や ススキ で アシ が キズダラケ に なります よ。 ミズ が なくちゃ ベントウ が たべられない から こまった なあ。 タミ さん、 まって いられる でしょう」
「マサオ さん、 ゴショウ だ から つれて いって ください。 アナタ が あるける ミチ なら ワタシ にも あるけます。 ヒトリ で ここ に いる の は ワタシャ どうしても……」
「タミ さん は ヤマ へ きたら たいへん ダダッコ に なりました ねー。 それじゃ イッショ に ゆきましょう」
 ベントウ は ワタ の ナカ へ かくし、 キモノ は てんでに きて しまって でかける。 タミコ は しきり に、 にこにこ して いる。 ハタ から みた ならば、 ばかばかしく も みぐるしく も あろう けれど、 ホンニン ドウシ の ミ に とって は、 その ラチ も なき オシモンドウ の ウチ にも かぎりなき ウレシミ を かんずる の で ある。 たかく も ない けど ミチ の ない ところ を ゆく の で ある から、 ササハラ を おしわけ キ の ネ に つかまり、 ガケ を よずる。 しばしば タミコ の テ を とって ひいて やる。
 ちかく 2~3 ニチ イライ の フタリ の カンジョウ では、 タミコ が もとめる ならば ボク は どんな こと でも こばまれない、 また ボク が もとめる なら やはり どんな こと でも タミコ は けっして こばみ は しない。 そういう アイダガラ で ありつつ も、 あくまで オクビョウ に あくまで キ の ちいさな フタリ は、 かつて イチド も ユウイミ に テ など を とった こと は なかった。 しかるに キョウ は グウゼン の こと から しばしば テ を とりあう に いたった。 この ヘン の イッシュ いう べからざる ユカイ な カンジョウ は ケイケン ある ヒト に して はじめて かたる こと が できる。
「タミ さん、 ここ まで くれば、 シミズ は あすこ に みえます。 これから ボク が ヒトリ で いって くる から ここ に まって いなさい。 ボク が みえて いたら いられる でしょう」
「ホント に マサオ さん の ゴヤッカイ です ね…… そんな に ダダ を いって は すまない から、 ここ で まちましょう。 あらあ エビヅル が あった」
 ボク は ミズ を くんで の カエリ に、 スイヅツ は コシ に ゆいつけ、 アタリ を すこし ばかり さぐって、 「アケビ」 40~50 と エビヅル ヒトモクサ を とり、 リンドウ の ハナ の うつくしい の を 5~6 ポン みつけて かえって きた。 カエリ は クダリ だ から ムゾウサ に フタリ で おりる。 ハタケ へ デグチ で ボク は シュンラン の おおきい の を みつけた。
「タミ さん、 ボク は ちょっと 『アックリ』 を ほって ゆく から、 この 『アケビ』 と 『エビヅル』 を もって いって ください」
「『アックリ』 て ナニイ。 あらあ シュンラン じゃ ありません か」
「タミ さん は マチバモン です から、 シュンラン など と ヒン の よい こと おっしゃる の です。 ヤギリ の ヒャクショウ なんぞ は 『アックリ』 と もうしまして ね、 ヒビ の クスリ に いたします。 はははは」
「あらあ クチ の わるい こと。 マサオ さん は、 キョウ は ホント に クチ が わるく なった よ」
 ヤマ の ベントウ と いえば、 トチ の モノ は イッパン に タノシミ の ヒトツ と して ある。 ナニ か セイリジョウ の リユウ でも ある か しらん が、 とにかく、 ヤマ に シゴト を して やがて たべる ベントウ が ふしぎ と うまい こと は タレ も いう ところ だ。 イマ ワレワレ フタリ は あたらしき シミズ を くみきたり ハハ の ココロ を こめた ベントウ を わけつつ たべる の で ある。 キョウミ の ジンジョウ で ない は いう も おろか な シダイ だ。 ボク は 「アケビ」 を このみ タミコ は エビヅル を たべつつ しばらく ハナシ を する。
 タミコ は わらいながら、
「マサオ さん は ヒビ の クスリ に 『アックリ』 と やら を とって きて ガッコウ へ おもち に なる の。 ガッコウ で ヒビ が きれたら おかしい でしょう ね……」
 ボク は マジメ に、
「なあに これ は オマス に やる のさ。 オマス は もう とうに ヒビ を きらして いる でしょう。 コノアイダ も ユ に はいる とき に オマス が ヒ を たき に きて ヒジョウ に ヒビ を いたがって いる から、 その うち に ボク が ヤマ へ いったら 『アックリ』 を とって きて やる と いった のさ」
「まあ アナタ は シンセツ な ヒト です こと ね…… オマス は カゲヒナタ の ない ニクゲ の ない オンナ です から、 ワタシ も なかよく して いた ん です が、 コノゴロ は なんとなし ワタシ に つきあたる よう な こと ばかし いって、 なんでも ワタシ を にくんで います よ」
「あははは、 それ は オマス どん が ヤキモチ を やく の でさ。 つまらん こと にも すぐ ヤキモチ を やく の は、 オンナ の クセ さ。 ボク が そら 『アックリ』 を とって いって オマス に やる と いえば、 タミ さん が すぐに、 まあ アナタ は シンセツ な ヒト とか なんとか いう の と おなじ わけ さ」
「この ヒト は いつのまに こんな に クチ が わるく なった の でしょう。 ナニ を いって も マサオ さん には かない や しない。 いくら ワタシ だって オマス が ネ も ソコ も ない ヤキモチ だ ぐらい は ショウチ して います よ……」
「じつは オマス も フビン な オンナ よ。 リョウシン が あんな こと に なり さえ せねば、 ホウコウニン と まで なる の では ない。 オヤジ は センソウ で しぬ、 オフクロ は これ を なげいた が モト での ビョウシ、 ヒトリ の アニ が ハズレモノ と いう わけ で、 とうとう あの シマツ。 コッカ の ため に しんだ ヒト の ムスメ だ もの、 タミ さん、 いたわって やらねば ならない。 あれ でも タミ さん、 アナタ をば たいへん ほめて いる よ。 イジマガリ の アニヨメ に こきつかわれる の だ から いっそう かわいそう でさ」
「そりゃ マサオ さん ワタシ も そう おもって います さ。 オカアサン も よく そう おっしゃいました。 つまらない もの です けど なんとか かとか わけて やって ます が、 また マサオ さん の よう に なさけぶかく される と……」
 タミコ は いいさして また ハナシ を つまらした が、 キリ の ハ に つつんで おいた リンドウ の ハナ を テ に とって、 キュウ に ハナシ を てんじた。
「こんな うつくしい ハナ、 いつ とって おいで なして。 リンドウ は ホント に よい ハナ です ね。 ワタシ リンドウ が こんな に うつくしい とは しらなかった わ。 ワタシ キュウ に リンドウ が すき に なった。 おお ええ ハナ……」
 ハナズキ な タミコ は レイ の クセ で、 イロジロ の カオ に その シコン の ハナ を おしつける。 やがて ナニ を おもいだして か、 ヒトリ で にこにこ わらいだした。
「タミ さん、 ナン です、 そんな に ヒトリ で わらって」
「マサオ さん は リンドウ の よう な ヒト だ」
「どうして」
「さあ どうして と いう こと は ない けど、 マサオ さん は なにがなし リンドウ の よう な ふう だ から さ」
 タミコ は いいおわって カオ を かくして わらった。
「タミ さん も よっぽど ヒト が わるく なった。 それで サッキ の アダウチ と いう わけ です か。 クチマネ なんか おそれいります な。 しかし タミ さん が ノギク で ボク が リンドウ とは おもしろい ツイ です ね。 ボク は よろこんで リンドウ に なります。 それで タミ さん が リンドウ を すき に なって くれれば なお うれしい」
 フタリ は こんな ラチ も なき こと いうて よろこんで いた。 アキ の ヒアシ の ミジカサ、 ヒ は ようやく かたむきそめる。 さあ との カケゴエ で ワタモギ に かかる。 ゴゴ の ブン は わずか で あった から 1 ジカン ハン ばかり で もぎおえた。 なにやかや それぞれ まとめて バンニョ に のせ、 フタリ で サシアイ に かつぐ。 タミコ を サキ に ボク が アト に、 とぼとぼ ハタケ を でかけた とき は、 ヒ は はやく マツ の コズエ を かぎりかけた。
 ハンブンミチ も きた と おもう コロ は ジュウサンヤ の ツキ が、 コノマ から カゲ を さして オバナ に ゆらぐ カゼ も なく、 ツユ の おく さえ みえる よう な ヨ に なった。 ケサ は キ が つかなかった が、 ミチ の ニシテ に イチダン ひくい ハタケ には、 ソバ の ハナ が ウスギヌ を ひきわたした よう に しろく みえる。 コオロギ が さむげ に ないて いる にも ココロ とめず には いられない。
「タミ さん、 くたぶれた でしょう。 どうせ おそく なった ん です から、 この ケシキ の よい ところ で すこし やすんで ゆきましょう」
「こんな に おそく なる なら、 いますこし いそげば よかった に。 ウチ の ヒトタチ に きっと なんとか いわれる。 マサオ さん、 ワタシ は それ が シンパイ に なる わ」
「いまさら シンパイ して も おっつかない から、 まあ すこし やすみましょう。 こんな に ケシキ の よい こと は めった に ありません。 そんな に ヒト に モウシワケ の ない よう な わるい こと は しない もの、 タミ さん、 シンパイ する こと は ない よ」
 ツキアカリ が ナナメ に さしこんで いる ミチバタ の マツ の キリカブ に フタリ は コシ を かけた。 メ の サキ 7~8 ケン の ところ は キ の カゲ で うすぐらい が、 それ から ムコウ は ハタケ いっぱい に ツキ が さして、 ソバ の ハナ が きわだって しろい。
「なんと いう えい ケシキ でしょう。 マサオ さん ウタ とか ハイク とか いう もの を やったら、 こんな とき に おもしろい こと が いえる でしょう ね。 ワタシラ よう な ムヒツ でも こんな とき には シンパイ も なにも わすれます もの。 マサオ さん、 アナタ ウタ を おやんなさい よ」
「ボク は じつは すこし やって いる けど、 むつかしくて ヨウイ に できない のさ。 ヤマバタケ の ソバ の ハナ に ツキ が よくて、 コオロギ が なく など は じつに えい です なあ。 タミ さん、 これから フタリ で ウタ を やりましょう か」
 おたがいに ヒトツ の シンパイ を もつ ミ と なった フタリ は、 ウチ に おもう こと が おおくて かえって ハナシ は すくない。 なんとなく おぼつかない フタリ の ユクスエ、 ここ で すこしく ハナシ を したかった の だ。 タミコ は もちろん の こと、 ボク より も いっそう はなしたかった に ソウイ ない が、 トシ の いたらぬ の と ういた ココロ の ない フタリ は、 なかなか サシムカイ で そんな ハナシ は できなかった。 しばらく は ムゴン で ぼんやり ジカン を すごす うち に、 イチレツ の カリ が フタリ を うながす か の よう に ソラ ちかく ないて とおる。
 ようやく タンボ へ おりて イチョウ の キ が みえた とき に、 フタリ は また おなじ よう に イッシュ の カンジョウ が ムネ に わいた。 それ は ホカ でも ない、 なんとなく ウチ に はいりづらい と いう ココロモチ で ある。 はいりづらい わけ は ない と おもうて も、 どうしても はいりづらい。 チュウチョ する ヒマ も ない、 たちまち モンゼン ちかく きて しまった。
「マサオ さん…… アナタ サキ に なって ください。 ワタシ きまりわるくて シヨウ が ない わ」
「よし それじゃ ボク が サキ に なろう」
 ボク は すこぶる ユウキ を こし ことに ヘイキ な フウ を よそうて モン を はいった。 ウチ の ヒトタチ は イマ ユウハン サイチュウ で さかん に ハナシ が わいて いる らしい。 ニワバ の アマド は まだ あいた なり に ツキ が ノキグチ まで さしこんで いる。 ボク が セキバライ を ヒトツ やって ニワバ へ はいる と、 ダイドコロ の ハナシ は にわか に やんで しまった。 タミコ は ユビ の サキ で ボク の カタ を ついた。 ボク も ショウチ して いる の だ、 イマ ゴゼン カイギ で フタリ の ウワサ が いかに さかん で あった か。
 ヨイマツリ では あり ジュウサンヤ では ある ので、 ウチジュウ オモテザシキ へ そろうた とき、 ハハ も オク から おきて きた。 ハハ は ひととおり フタリ の あまり おそかった こと を とがめて ふかく は いわなかった けれど、 ツネ とは まったく ちがって いた。 ナニ か おもって いる らしく、 すこしも うちとけない。 これまで は クチ には コゴト を いうて も、 シンチュウ に ウタガイ は なかった の だ が、 コンヤ は クチ には あまり いわない が、 ココロ では ジュウブン に フタリ に ウタガイ を おこした に ちがいない。 タミコ は いよいよ ちいさく なって ザシキ ナカ へは でない。 ボク は ヤマ から とって きた、 アケビ や エビヅル や を たくさん ザシキ-ジュウ へ ならべたてて、 あんに ボク が こんな こと を して いた から おそく なった の だ との イ を しめし ムゴン の ベンカイ を やって も なんの キキメ も ない。 タレヒトリ それ を そう と みる モノ は ない。 コンヤ は なんの ハナシ にも ボクラ フタリ は ノケモノ に される シマツ で、 もはや フタリ は まったく ツミ ある もの と モッケツ されて しまった の で ある。
「オカアサン が あんまり あますぎる。 ああして いる フタリ を イッショ に ヤマバタケ へ やる とは メ の ない にも ホド が ある。 ハタ で いくら シンパイ して も オカアサン が あれ では ダメ だ」
 これ が ダイドコロ カイギ の ケッテイ で あった らしい。 ハハ の ほう でも いつまで コドモ と おもって いた が アヤマリ で、 ジブン が わるかった と いう よう な カンガエ に コンヤ は なった の で あろう。 いまさら フタリ を しかって みて も シカタ が ない。 なに マサオ を ガッコウ へ やって しまい さえ せば シサイ は ない と ハハ の ココロ は ちゃんと きまって いる らしく、
「マサ や、 オマエ は な 11 ガツ へ はいって すぐ ガッコウ へ やる つもり で あった けれど、 そうして ぶらぶら して いて も タメ に ならない から、 オマツリ が しまったら、 もう ガッコウ へ ゆく が よい。 17 ニチ に ゆく と しろ…… えい か、 その つもり で コジタク して おけ」
 ガッコウ へ ゆく は もとより ボク の ネガイ、 トオカ や ハツカ はやく とも おそく とも それ に シサイ は ない が、 この バアイ しかも コンヤ イイワタシ が あって みる と、 フタリ は すでに ツミ を おかした もの と きめられて の シオキ で ある から、 タミコ は もちろん ボク に とって も すこぶる こころぐるしい ところ が ある。 じっさい フタリ は それほど に ダラク した わけ で ない から、 アタマ から そう と きめられて は、 いささか ミョウ な ココロモチ が する。 さりとて ベンカイ の できる こと でも なし、 また つよい こと を いえる シカク も じつは ない の で ある。 これ が 1 カゲツ マエ で あったらば、 それ は オカアサン ゴムリ だ、 ガッコウ へ ゆく の は ノゾミ で ある けど、 トガ を きせられて の シオキ に ガッコウ へ ゆけ とは あんまり でしょう…… など と すぐ ダダ を いう の で ある が、 コンヤ は そんな ワガママ を いえる ほど ムジャキ では ない。 まったく の ところ、 コイ に おちいって しまって いる。
 あれほど かわいがられた ヒトリ の ハハ に カクシダテ を する、 なんとなく ヘダテ を つくって ココロ の アリタケ を いいえぬ まで に なって いる。 おのずから ヒトマエ を はばかり、 ヒトマエ では ことさら に フタリ が うとうとしく とりなす よう に なって いる。 かくまで ワタクシゴコロ が ちょうじて きて どうして リッパ な クチ が きけよう。 ボク は だだ イチゴン、
「はあ……」
 と こたえた きり なんにも いわず、 ハハ の イイツケ に モウジュウ する ホカ は なかった。
「ボク は ガッコウ へ いって しまえば それ で よい けど、 タミ さん は アト で どう なる だろう か」
 ふと そう おもって、 そっと タミコ の ほう を みる と、 オマス が エダマメ を あさってる ウシロ に、 タミコ は うつむいて ヒザ の ウエ に タスキ を こねくりつつ チンモク して いる。 いかにも ゲンキ の ない ふう で ヨル の せい か カオイロ も あおじろく みえた。 タミコ の フウ を みて ボク も にわか に かなしく なって なきたく なった。 ナミダ は マブタ を つたわって メ が くもった。 なぜ かなしく なった か リユウ は ハンゼン しない。 ただ タミコ が かわいそう で ならなく なった の で ある。 タミコ と ボク との たのしい カンケイ も この ヒ の ヨル まで は つづかなく、 13 ニチ の ヒル の ヒカリ と ともに まったく きえうせて しまった。 うれしい に つけて も オモイ の タケ は かたりつくさず、 うき かなしい こと に つけて は もちろん 100 ブン の 1 だも かたりあわない で、 フタリ の カンケイ は ヤミ の マク に はいって しまった の で ある。
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