カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

キナダ ムラ

2019-06-06 | マキノ シンイチ
 キナダ ムラ

 マキノ シンイチ

 1

 モズ の コエ が するどく けたたましい。 カズトヨ の クリバヤシ から だ が、 まるで すぐ の マドウエ の ソラ で でも ある か の よう に ちかぢか と すんで ミミ を つく。 キョウ は はれる か と つぶやきながら、 ワタシ は マド を あけて みた。 マド の シタ は まだ アサギリ が たちこめて いた が、 イモバタケ の ムコウガワ に あたる クリバヤシ の ウエ には もう みずみずしい ヒカリ が さして、 クリヒロイ に かけて ゆく コドモ たち の カゲ が あざやか だった。 そして、 みるみる うち に ヒカリ の ツバサ は ひろい ハタケ を こえて マドシタ に たっしそう だった。 イモ の シュウカク は もう よほど マエ に すんで ハタケ は イチメン に ハイイロ の ヌマ の カン で、 ヒカリ が ながれる に したがって しろい ケムリ が ゆれた。 カズトヨ は そこ で コヤガケ の シバイ を うちたい ハラ だ が、 セイネンダン から の モウシコミ で きたる べき オンド コウタ タイカイ の カイジョウ に と キボウ されて ふしょうぶしょう に ふくれて いる そう だった。
 ワタシ と ドウキョ の オメンシ は、 とっく に テンキ を みさだめて シタボリ の メンガタ を トリゴヤ の ヤネ に ならべて いた。 ワタシ は オガクズ を ニカワ で ねって いた の だ。 カズトヨ の キリバタケ から しいれた ザイリョウ は、 ズイドウムシ や コブアナ の アト が おびただしくて、 シタボリ の アナウメ に よほど の テマ が かかった。 オメンシ は ヤマムコウ の ムラ へ シイレ に ゆく と、 つい フカク の サケ に まいって ヒガエリ も かなわなかった から、 よんどころなく カズトヨ の キリ で シンボウ しよう と する の だ が、 こう アナ や フシコブ-だらけ では ムダボネ が おれる ばかり で テマ が 3 バイ だ と こぼしぬいた。 コンゴ は もう けっして サケ には みむかず に と カレ は ワタシ に ユビキリ した が、 キュウ に シゴト の ほう が いそがしくて ザイリョウ の ギンミ に ヤマ を こえる ヒマ も なかった。 カズトヨ は ゲタ-ザイ の ハンパモノ を ゆずった。 ネダン を きく と その つど は、 まあまあ と オウヨウ そう に わらって いながら、 シゴト の シュウキン を みずから ひきうけ、 ニットウ とも ザイリョウ-ダイ とも つけず に シュウニュウ の ハンブン を とって しまう と オメンシ は グチ を こぼした。 カズトヨ は スベテ に はっきり した こと を クチ に する の が きらい で、 ヒトリ で あるいて いる とき も ナニ が おかしい の か いつも わらって いる よう な ヒョウジョウ だった。 では もともと そういう オンガン なの か と おもう と オオチガイ で、 ヤシキ の カキネ を こえる コドモ ら を おって とびだして くる とき の スガタ は まったく の オオカミ で、 フダン は レウマチス だ と しょうして ミチブシン や ハシ の カケカエ コウジ を ケッセキ して いる にも かかわらず、 カキ も ミゾ も サンダンガマエ で チュウ を とんだ。
 その うち にも、 サッキ の コドモ たち が ばらばら と カキネ を くぐりでて イモバタケ を ハッポウ に にげだして きた か と みる と、 おいて ゆけ おいて ゆけ ヤロウ ども、 たしか に カオ は しれてる ぞ など と さけびながら、 どっち を おって いい の やら と とまどうた カズトヨ が ハッポウ に むかって ムチュウ で コクウ を つかみながら あばれでた。 カズトヨ の クリヒロイ に ゆく には メン を もって ゆく に かぎる と コドモ たち が ソウダン して いた が、 なるほど にげて ゆく カレラ は たちまち メン を かむって あちこち から カズトヨ を レイショウ した。 オニ、 ヒョットコ、 キツネ、 テング、 ショウグン たち が、 メン を かむって いなくて も オニ の メン と かした オオオニ を、 トオマキ に して、 イッポウ を おえば イッポウ から イシ を なげ して、 やがて イモバタケ は よにも キミョウ な センジョウ と かした。
「やあ、 おもしろい ぞ おもしろい ぞ」
 ワタシ は おもい マブタ を あげて おもわず テ を たたいた。 ワタシ の ムネ は いつも イヨウ な サケ の ヨイ で とうぜん と して いる みたい だった から、 そんな コウケイ が いっそう フシギ な ユメ の よう に うつった。 ワタシタチ の シゴトベヤ は サカグラ の 2 カイ だった ので、 それに ワタシ は トウジ イカスイ の ショウジョウ で ジジツ は イッテキ の サケ も クチ に しなかった にも かかわらず、 ヒル と なく、 ヨル と なく、 イッポ も ソト へは でよう とは せず に、 メンツクリ の テツダイ に ボットウ して いる うち には、 いつか カンダン も ない サケ の カオリ だけ で デイスイ する の が しばしば だった。 かなう シギ なら ノド を ならして とびつきたい ウエット-ハ の カラステング が、 ショクヨク フシン の カラハラ を かかえて、 トオカ ハツカ と ヌマ の よう な オオダル に ゆれる もったいぶった アワダチ の オト を きき、 ふつふつ たる カオリ に ばかり あおられて いる と よった とも よわぬ とも メイジョウ も なしがたい、 ゼンセ に でも いただいた カラテンジク の オミキ の ヨイ が イマゴロ に なって きいて きた か の よう な、 まことに ありがたい よう な、 なさけない よう な、 げにも トリトメ の ない ジイシキ の ソウシツ に おそわれた。 ねむい よう な アタマ から、 サケ に よった タマシイ だけ が おもしろそう に ぬけだして ふわり ふわり と あちこち を とびまわって いる の を ながめて いる よう な ココロモチ だった。 その うち には シンシュ の フタアケ の コロ とも なって アキ の フカサ は こっこく に ムナソコ へ にじんだ。 クラ いっぱい に あふれる じゅんじゅん たる サケ の モヤ は、 うければ あわや さんさん と して したたらん ばかり の ミカク に みちよどんで いた。 ――トリゴヤ の カタワラ では オメンシ が しきり と リョウウデ を ひろげて ハライッパイ の シンコキュウ を くりかえして いた。 カレ も 「サケ の ヨイ」 を さまそう と して タイソウ に ヨネン が ない の だ。 ――カズトヨ が ジダンダ を ふみながら ひきかえして ゆく ウシロスガタ が クリバヤシ の ナカ で マダラ な ヒカリ を あびて いた。 センロ の ツツミ に、 アオオニ、 アカオニ、 テング、 キツネ、 ヒョットコ、 ショウグン など の コビト-レン が ならんで カチドキ を あげて いた。 ――もともと それら は ワタシタチ が つくった オトナヨウ の オメン なので、 ゴタイ に くらべて カオ ばかり が タイヘン に フツリアイ なの が キバツ に うつった。 オンド タイカイ の ヒドリ は まだ きまらない が、 シュツジョウシャ の オオク は メン を かむろう と いう こと に なって、 ヒビ に チュウモン が たえなかった。 たとえ これ が いまや ゼンコクテキ の リュウコウ で オドリ と なれば ロウニャク の ベツ も ない とは いう ものの、 まさか スメン では―― と たじろいて ニノアシ を ふむ モノ も おおかった が、 カメン を かむって、 ――と いう チエ が つく と、 ワレ も ワレ も と いさみたった。 メイヨショク も ブゲンシャ も キョウショクイン も みずから ノリキ に なって シュツエン の ケッシン を つけた。 どんな カシ か は しらぬ が キナダ オンド なる コウタ も できて 「トウキョウ オンド」 の フシ で うたわれる と いう こと で あった。
「メン を かむって いれば、 かつがれる と いう サワギ も なくなる だろう―― やがて は、 あの ナガネン の ヘイフウ が ネ を たつ こと に でも なれば イッキョ リョウトク とも なる では ない か」
 イッポウ では こういう ウワサ が たかかった。 ゆらい、 この アタリ では ムラビト の ハンカン を かった ジンブツ は しばしば この 「かつがれる」 なる メイショウ の モト に、 よにも さんたん たる リンチ に しょせられた。
 …… 「おいおい、 ツル クン、 はやく あがって こない か」
 ワタシ は、 いつまでも ガイキ に カオ を さらして いる こと に 「ある キグ」 を おぼえた ので、 まだ ヨイ を さまして も いなかった の だ が、 オメンシ に コエ を かけた。 それに ホシバ の メンガタ を かぞえて みる と かろうじて 12~13 の カズ で、 あれ が キノウ まで の ミッカ-ガカリ の シゴト では コンヤ アタリ は テッショウ でも しなければ おいつくまい と シンパイ した。 ワタシ は、 ウシロ の タナ から オニ の アカ、 アオ、 キツネ の ゴフン、 テング の ベニ の ツボ など を とりおろし、 ヌリバケ で マド を たたきながら もう イッペン よぶ の だ が、 カレ は ふりむき も しなかった。
「きこえない の か――」
 ワタシ は どなって から、 そう だ クチ に しない ヤクソク だった カレ の ナマエ を おもわず よんで しまった と きづいた。 カレ は ジブン の セイメイ を ヒジョウ に きらう と いう キヘキ の モチヌシ で、 うっかり その ナ を よばれる と トキ と バショ の サベツ も なく マッカ に なって、 あわや なきだしそう に しおれる の で あった。
「いや だ いや だ いや だ、 たまらない……」 と カレ は ミブルイ して リョウミミ を おおった。 それゆえ カレ は、 めった な こと には ヒト に ジブン の セイメイ を あかしたがらず、
「ええ、 もう ワタシ なんぞ の ナマエ なんて どうでも よろしい よう な もの で……」 と コトバタクミ に ごまかした が、 それ は いたずら な ケンソン と いう わけ でも なく、 じつは それ が シンケイテキ に、 そして さらに メイシンテキ に かなわぬ と いう の で あった。 それで ワタシ も ひさしい アイダ カレ の ナマエ を しらなかった し、 また ふとした キカイ から カレ と シリアイ に なり、 どうして セイカツ まで を ともに する まで に いたった か の スジミチ を タンペン ショウセツ に かいた こと も あり、 ジッサイ の ケイケン を とりあげる バアイ には いつも ワタシ は ジンブツ の ナマエ をも アリノママ を もちいる の が シュウカン なの だ が、 その とき も しゅうし カレ の ダイメイシ は たんに 「オメンシ」 と のみ キニュウ して いた。 ワタシ は その コロ 「オメンシ」 なる メイショウ の ソンザイ を カレ に よって はじめて しり、 やや キイ な カン も あって、 ジツメイ の トンジャク も なかった まで なの だった が、 ノチ に グウゼン の こと から カレ の ナマエ は ツル フナジロウ と よぶ の だ と しらされた。 ワタシ は ミズナガレ と よんだ が、 それ は ツル と よむ の だ そう だった。
「この ミョウジ は ワタシ の ムラ (ナラ ケンカ) では のきなみ なん です が――」 と カレ は その とき も、 フトコロ の ナカ に カオ を うずめる よう に して つぶやいた。 「ミョウジ と ナマエ と が まるで コシラエモノ の ジョウダン の よう に きわどく つりあって いる の が、 ワタシ は むしょうに はずかしい ん です。 それに どうも それ は ワタシ に とって は いろいろ と エンギ でも ない、 これまで の こと が……」
 カレ は ワケ も なく キョウシュク して ぜひとも わすれて ほしい など と テ を あわせたり する シマツ だった の で ある。 そんな オモイ など は ソウゾウ も つかなかった が、 ワタシ は なんなく わすれて クチ に した ためし も なかった のに、 つまらぬ レンソウ から ふいと その とき、 ヒト の ナマエ と いう ほど の イミ も なく、 その モジヅラ を おもいうかべた らしかった の で ある。
 それ は そう と、 その コロ ワタシ の ミ には とんだ サイナン が ふりかかろう と して いる らしい アタリ の クモユキ で あった。
「コンド、 オドリ の バン に、 かつがれる ヤツ は、 おそらく あの サカグラ の イソウロウ だろう」
「ひっきょう する に、 ヤロウ の ジュンバン だな」
 ワタシ を めざして、 この おそる べき フウヒョウ が しばしば あからさま の コエ と かして ワタシ の ミミ を うつ に いたって いた。 あの センリツ す べき リンチ は、 キ が じゅくした と なれば マツリ の バン を またず とも、 ヤミ に じょうじて ネクビ を かかれる サワギ も めずらしく は ない。 ワタシタチ が ここ に きた ハル イライ から で さえ も、 3 ド も ケッコウ されて いる。
 げんに ワタシ も モクゲキ した。 ハナミ の オリカラ で 「サクラ オンド」 なる ハヤシ が リュウセイ を きわめて いた。 ヨゴト ヨゴト、 チンジュ の モリ から は、 ヨウキ な ウタ や すばらしい ハヤシ の ヒビキ が なりわたって、 ムラビト は ヨ の ふける の も わすれた。 あまり おもしろそう なので ワタシ も おりおり オクレバセ に でかけて は イシドウロウ の ダイ に のぼったり して、 ナナエ ヤエ の ケンブツニン の ウエ から じっと エンブシャ-レン の スガタ を みまもって いた。 エンジン の チュウオウ には ヤグラ が しつらわれ、 はじめて はこびこまれた と いう、 カクセイキ から は レコード の オンドウタ が なり も やまず に くりかえされて コズエ から コズエ へ こだました。 それ と イッショ に ヤグラ の ウエ に じんどって いる オハヤシ-レン の フエ、 タイコ、 アタリガネ、 ヒョウシギ が フシ おもしろく チョウシ を あわせる と、 それっ と ばかり に クモ の よう な ケンブツ の ムレ が アイノテ を ガッショウ する ダイランチキ に うかされて、 ワレ も ワレ も と オドリテ の カズ を ます ばかり で、 ついには エンジン まで も が ミウゴキ も ならぬ ほど に たちこみ、 タイハン の モノ は アシブミ の まま に うかれほうけ、 おどりほうけて いた。 ――その うち に ムコウ の シャデン の アタリ から、 ミョウ に フチョウワ な ワライゴエ とも トキ の コエ とも つかぬ ドヨメキ が おこって、 とつぜん 20 ニン ちかい イチダン が わっと カゼ を まいて モリ を つきはしりでた。 でも、 オドリ の ほう は まったく そっち の ジケン には そしらぬ ケシキ で あいかわらず うかれつづけ ケンブツ の モノ も また、 ダレヒトリ メ も くれよう とも せず、 しって そらとぼけて いる ふう だった。 ヤジウマ の おう スキ も なさそう な、 まったく シップウ ジンライ の ハヤワザ で、 ダレ しも コト の シダイ を みとどけた モノ も あるまい が、 それにしても、 グンシュウ の ケハイ が あまり にも バジ トウフウ なの が むしろ ワタシ は キタイ だった。
「いったい、 イマ の あれ は なんの ソウドウ なん だろう。 ケンカ に して は どうも おかしい が……」 と ワタシ は クビ を かしげた。 すると ダレ やら が コゴエ で、
「カズトヨ が かつがれた ん だよ」 と いとも フシギ なさげ に ささやいた。
 オボロヅキヨ で あった。 あの イチダン が ムコウ の カイドウ を キョダイ な イノシシ の よう な モノスゴサ で まっしぐら に かけだして ゆく の が うかがわれた。 ダレヒトリ そっち を ふりむいて いる モノ さえ なかった が、 ワタシ の コウキシン は いっそう ふかまった ので、 ともかく ショウタイ を みさだめて こよう と ケッシン して なにげなさげ に その バ を ぬけて から、 ムギバタケ へ とびおりる や いなや キツネ の よう に マエ へ のめる と、 やにわに ミチ も えらばず イッチョクセン に ハタケ を つきぬいて、 カレラ の ユクテ を めざした。 カイドウ は しろく ユミナリ に ウカイ して いる ので たちまち ワタシ は カレラ の はるか ユクテ の バトウ カンノン の ホコラ の カタワラ に たっし、 じっと イキ を ころして うずくまった まま モノオト の ちかづく の を マチブセ した。 トツゲキ の グンバ が おしよせる か の よう な ジヒビキ を たてて、 まもなく ヒミツ ケッシャ の イチダン は、 スナ を まいて ワタシ の ガンカイ に オオウツシ と なった。 ヒジョウ な ハヤサ で、 ダレ も カケゴエ ヒトツ はっする モノ とて も なく、 ただ ブキミ な イキヅカイ の アラアラシサ が ヒトカタマリ と なって、 ちょうど キカンシャ の エントツ の オト と まちがう ばかり の ソウレツ なる ソクオン-チョウ を ひびかせながら、 イチジン の トップウ と ともに ワタシ の メ の サキ を かすめた。 みる と レンチュウ は こぞって オニ や テング、 ムシャ、 キツネ、 シオフキ-トウ の オメン を かむって まったく どこ の ダレ とも ミサカイ も つかぬ コウミョウ ムゾウサ な ヘンソウブリ だった。 ただ ヒトリ カレラ の ズジョウ に ささげあげられて コイ の よう に よこたわった まま、 ヒタン の クルシミ に もがきかえり、 めちゃくちゃ に コクウ を つかんで いる ジンブツ だけ が スメン で、 しかと は ミサダメ も つかなかった が、 やはり ショウメイ な カズトヨ の オモカゲ だった。 その イフク は おそらく トチュウ の アラシ で ふきとんで しまった の で あろう か、 カレ は みる も あさましい ラギョウ の ナリ で、 イノチカギリ の ヒメイ を あげて いた。 たしか に ナニ か の コトバ を はいて いる の だ が、 シナ か アフリカ の ヤバンジン の よう な オモムキ で、 まるきり イミ は つうじなかった。 ただ ドウブツテキ な ダンマツマ の ワメキ で キチガイ と なり、 スクイ を よぶ の か、 アワレミ を こう の か ハンダン も つかぬ が、 おりおり ひときわ するどく ゴイサギ の よう な ノド を ふりしぼって ヨイン も ながく さけびあげる コエ が オボロヨ の カスミ を やぶって セイサン コノウエ も なかった。 と、 その たび ごと に カツギテ の ウデ が イッセイ に たかく ウエ へ のびきる と、 たくましい カズトヨ の タイク は おもいきり ソラ たかく ほうりあげられて、 その つど クウチュウ に サマザマ なる ポーズ を えがきだした。 テッテイテキ な ギャクジョウ で コウチョク した カレ の シタイ は、 イチド は シャチホコ の よう な イサマシサ で ソラ を けって はねあがった か と おもう と、 ツギ には カッポレ の イキニンギョウ の よう な ヒョウイツ な スガタ で おどりあがり、 また 3 ド-メ には エビ の よう に コシ を まげて、 やおら みごと な チュウガエリ を うった。 そして ふたたび ウデ の ダイ に テンラク する と、 またもや ゲキリュウ に のった コブネ の イセイ で みる カゲ も なく、 らっしさられた。 ――ワタシ は たまらぬ ギフン に かられて、 ムチュウ で アト を おいはじめた が たちまち リョウアシ は ツララ の カン で すくみあがり、 むなしく この ザンコク なる ショケイ の アリサマ を みのがさねばならなかった。 クウチュウ に とびあがる あわれ な ジンブツ の スガタ が トリ の よう に ちいさく とおざかって ゆく まで、 ワタシ は クチビル を かみ、 ハテ は ナミダ を ながして みおくる より ホカ は スベ も なかった。 ――それにしても ワタシ は、 こんな キカイ な コウケイ を マノアタリ に みれば みる ほど、 みしらぬ バンチ の ユメ の よう で ならなかった。
 ノチ に きく ところ に よる と、 あの はげしい ドウアゲ を 10 ナンベン くりかえして も キゼツ を せぬ と、 ムラザカイ の カワ まで はこんで、 ナガレ の ウエ へ マッサカサマ に なげこむ の だ そう で ある。 ケッシャ の レンチュウ は かならず フクメン を して もくもく と ケイ を スイコウ する から、 ヒガイシャ は ダレ を コクソ する と いう ホウホウ も なく、 ヒトビト は いっさい しらぬ カオ を よそおう の が フウシュウ で あり、 なんと して も ナキネイリ より ホカ は なかった。
 あの とき の カズトヨ の サイゴ は、 あれなり ワタシ は みとどけそこなった が、 ねらわれた と なれば マツリ や ヤミ の バン に かぎった と いう の でも なく、 ホタル の ではじめた コロ の ある ユウグレドキ に、 ソンカイ ギイン の J シ が ヤクバ-ガエリ の トチュウ を まちぶせられて、 かつがれた ところ を、 ワタシ は フナツリ の カエリ に モクゲキ した。 カレ は タッシャ な オヨギテ で、 なんなく ムコウギシ へ ヌキテ を きって およぎついた が、 とぼとぼ と テブラ で ひきあげて いった オリ の スガタ は、 おもいだす も ムザン な コウケイ で ワタシ は メ を おおわず には いられなかった。
 モズ の コエ など を ミミ に して、 あの とき の こと を おもいだす と、 ワタシ には ありあり と カズトヨ の サケビ や ギイン の こと が レンソウ された。 やがて は しだいに ワタシ も メイシンテキ に でも おちいった せい か、 ツル フナジロウ など と いう モジ を かんがえた だけ でも、 オクビョウゲ な ヨカン に おびやかされた。 あの ドウアゲ も さる こと ながら、 この サムサ に むかって の ミズゾウスイ と きて は おもう だに ミノケ の よだつ ジゴク の フチ だ。 ワタシ は、 ミズ だの、 ナガレ だの と いう カワ に エン の ある モジ を かんじて も、 フキツ な クウソウ に ふるえた。 サダメ とて も ない ヒョウハク の タビ に てんてん と して ウキヨ を かこちがち な オメンシ が、 しだいに ジブン の ナマエ に まで も ジュソ を おぼえた と いう の が、 ばくぜん ながら ワタシ も ドウカン されて みる と、 ワタシ は カレ との アクエン が いまさら の ごとく サタン されたり した。
 すみわたった アオゾラ に、 モズ の コエ が するどかった。 オウライ の ヒトビト が、 ナニ か うさんくさい メツキ で こちら を ながめる キ が して ワタシ は、 いつまでも マド から カオ を だして いる こと も できなかった。
「そんな イロ に ぬられて は……」
 もどって きた オメンシ が、 あわてて ワタシ の ウデ を おさえた。 なるほど ワタシ は うかうか と アオ の ドロエノグ を、 ベニ を ぬる べき テング の メン に なぞって いる の に キ が ついた。

 2

 カズトヨ や J シ が どんな リユウ で かつがれた もの か、 ワタシ は しらなかった が、 ヒトビト が ワタシ への ハンカン の サイショ の ドウキ は、 J シ の サイナン の とき に、 ワタシ が みぬ フリ を よそおって その バ を たちさらなかった ばかり か、 カレ に カタ を かして ともども に ひきあげて いった と いう の が オコリ で あった。 もっとも それ が ムラ の フブンリツ を うらぎった コウイ で ある と いう の を しらなかった モノ で ある ゆえ、 アタリマエ なら ひとまず みのがさる べき はず だった が、 ヒゴロ から ワタシ の タイド を もくして 「オオフウ で ナマイキ だ」 と にらんで いた オリカラ だった ので、 これ が ジョウケン と して とりあげられ、 やがて リンチ の コウホシャ に シテキ される に いたった らしい の で ある が、 ワタシ と して みる と それ くらい の こと で ねらわれる リユウ にも ならぬ とも おもわれた。
「いいえ、 そりゃ、 タダ の オドカシ だ と いう こと です ぜ。 コンド から、 そんな バアイ を みたら そしらぬ カオ で ワキ さえ みて いれば いい の だ、 キ を つけろ と いう トオマワシ の チュウコク ですって さ。 やる と なれば マエブレ なんて する はず も ない じゃ ありません か」
 オメンシ は それとなく フキン の モヨウ を さぐって きて、 ワタシ に つたえた。 ―― 「コンド の アキ の オドリ まで には シュツエンシャ は ミナ メン を、 そろえよう と いう こと に なって いる ん だ から、 ワタシタチ が いなく なったら ダイナシ でしょう がな。 それに チカゴロ また ヒマシ に チュウモン が ふえる と いう の は、 なにも レンチュウ は テイサイ を つくる シギ ばかり じゃ なくって、 スネ に キズ もつ カタガタ が イガイ の カズ だ と いう ん です。 メン さえ かむって いれば かつがれる シンパイ が ない と いう ところ から……」
「でも、 いつか の J さん の バアイ など が ある ところ を みる と、 なにも オドリ の バン ばかり が――」
「いいえ、 あれ は、 タダ の ケンカ だった ん ですって さ。 かつぐ の は、 オドリ の バン に かぎられた シキタリ なんで」
「それなら なにも ボク は あの とき の こと を ヒナン される には あたらなかったろう に」
 そう も かんがえられた が、 ソンセイジョウ の こと で ムラビト の キュウテキ に なって いる J シ だった ので おもわぬ トバッチリ が ワタシ にも ふりかかった の で あろう、 と おもわれる だけ だった。
 サッキ から オメンシ は、 しきり と ワタシ を ソト へ さそいたがる の だ が、 ワタシ は どうも ヤミ が こわくて たじろいで いた ところ、 そんな ふう に はなされて みる と、 たとえ ジブン が ブラックリスト の ジンブツ と されて いよう とも、 トウブン は だいじょうぶ だ と いう ジシン も わいた。 それに オドリ の コロ に なった に しろ、 そんな に オオゼイ の コウホシャ が ある と おもえば、 なにも ジブン が かならず つかまる と いう わけ でも なかろう し、 そんな ケネン は むしろ すてる べき だ、 おまけに オオク の コウホシャ の ウチ では おそらく ジブン など は ツミ の かるい ブ では なかろう か―― など と ツゴウ の よさそう な ウヌボレ を もったり した。
 デアルキ を こわがって、 カズトヨ など に ツカイ を たのむ の は ムダ だ から、 これから フタリガカリ で ソレゾレ の チュウモンヌシ へ おさめ、 シバラクブリ で クラ の ソト で バンメシ を とろう では ない か と オメンシ が うながす の で あった。
「ひとおもいに、 ケイキ よく サケ でも のんだら あんがい ゲンキ が つく でしょう が」
「……ボク も そんな キ が する よ」 と ワタシ は ケッシン した。 シアゲ の すんだ メン を、 カレ が それぞれ カミ に つつんで、 ワタシ に わたす に したがって、 ワタシ は フデ を とって アテナ を しるした。
「ええ、 アカオニ、 アオオニ―― これ は ハシバ の ヤギシタ スギジュウロウ と マツジロウ。 オツギ は キツネ が ヒトツ、 トリイ マエ の ホッタ チュウキチ。 ――いい です か、 オツギ は テング が ダイショウ、 ヨウギョジョウ の ウサミ キンゾウ……」
 オメンシ は フシ を つけて ソレゾレ の アテナ を ワタシ に つげる の で あった。 ワタシ は アテナ を しるしながら、 つぎつぎ の チュウモンヌシ の カオ を おもいうかべ、 あの 4~5 ニン が まず サイキン の チマツリ に あげられる と いう もっぱら の ウワサ だ が と おもった。
 ナンジュウニチ も クラ の ナカ に こもった きり で、 たまたま ガイキ に あたって みる と クモ を ふんで いる よう な オモイ も した が、 さすが に ムネ の ソコ には いきかえった イズミ を おぼえた。 ――ずいぶん と みごと に メン の カズカズ が そちこち の イエ ごと に ゆきわたった もの で、 イエイエ の マエ に さしかかる たび に ふりかえって みる と、 ユウゲ の ショクタク を かこんだ アカリ の シタ で、 メン を もてあそんで いる コウケイ が ツヅケサマ に うかがわれた。 どこ の イエ も のどか な ダンラン の バンケイ で、 バンシャク に すわった オヤジ が ショウグン の メン を かむって みて カゾク の モノ を わらわせたり、 ヒトツ の メン を ミナ で じゅんじゅん に テ に とりあげて デキバエ を ヒヒョウ したり、 コドモ が テング の メン を かむって いばったり して いる バメン が みえた。 ソロイ の キモノ など も できあがり、 カベ には ハナガサ や ダシ の ハナ が かかって、 マツリ の ちかづいて いる ケシキ は どの イエ を ながめて も あらわ で あった。
「ミナ メン を もって よろこんで いる ね。 カズトヨ の クリヒロイ たち が、 よくも あんな に そろって メン を もちだした と おもった が―― とんだ ヤク に たてた もの だな」
「なにしろ オモチャ なんて もの を ふだん もちあつかわない ので、 コドモ の サワギ は タイヘン だ そう です よ」
 うっかり と ヨミチ を もどって きた ヨッパライ など が とつぜん キツネ や アカオニ に おどかされて キモ を つぶしたり ムスメ たち が ヒョットコ に おいかけられたり する サワギ が ヒンパン に おこったり する ので、 トウブン の アイダ は コドモ の ヨアソビ は ゲンキン しよう と カッコ で もうしあわせた そう だった。

 3

「ツル さん や、 オメエ も よっぽど ヨウジン しねえ と あぶねえ ぞ。 マルジュウ の シゲ から オレ は きいた ん だ が、 オメエ は とんだ エコ ヒイキ の シゴト を して いる って ハナシ じゃ ない か、 イエ に よって シゴト の シブリ が ちがう って こと だよ」
 スギジュウロウ は ジブン に わたされた メン を とって、 ウラガワ の フシアナ を キ に した。
「オレ あ べつだん どうとも おも や しない ん だ が、 ヒト の クチ は うるさい から な」
 カレ は イチド ソンチョウ を つとめた こと も ある そう だ が、 ニチジョウ の どんな バアイ に でも ジブン の イケン を ちょくせつ アイテ に つたえる と いう の では なくて、 ダレ が オマエ の こと を どう いって いた ぞ と いう ふう に ばかり フイチョウ して タニン と タニン との カンジョウ を そこなわせた。 そして、 その アイダ で ジブン だけ が ナニ か シンセツ な ジンブツ で ある と いう タイド を しめしたがった。 カレ も レイ の コクヒョウ の 1 メイ だ が、 おそらく その ゲンイン は、 その 「シンセツゴカシ」 なる アダナ に よった もの に ちがいなかった。 セガレ の マツジロウ が また セイシツ も ヨウボウ も チチ に イキウツシ で 「ショウジ の アナ」 と いう アダナ で あった。
 メ の カタチ が ショウジ の アナ の よう に ミョウ に ちいさく ムゾウサ で、 ツメ の サキ で ひっかいた よう だ から と いう セツ と、 ショウジ の アナ から のぞく よう に タニン の ウワサ を ひろいあつめて フイチョウ する から だ と いう セツ が あった が、 カレラ に たいする ヒトビト の ハンカン は セキネン の もの で、 イチド は どちら か が かつがれる だろう、 オヤ と コ と まちがえそう だ が、 まちがった ところ で ゴブ ゴブ だ と いわれた。
「シゲ ヒトリ が いって いる ん じゃ ない よ、 オトウサン――」 と マツ は なにやら にやり と ワライ を うかべながら チチオヤ へ ミミウチ した。
「ふふん、 サカグラ の イハチ や デン まで も―― だって オレタチ は べつに この ヒトタチ を かばう わけ でも ない ん だ が、 そんな に きいて みる と…… な、 つい キノドク に なって……」
「やめない か。 ボクラ は なにも ヒト の ウワサ を きき に きた わけ じゃ ない ぞ。 もし、 この ヒト の シゴト に ついて キミタチ ジシン が フマン を おぼえる と いう なら、 ソノママ の イケン は いちおう きこう ぜ」
 ワタシ は フタリ の カオ を トウブン に みつめた。 コウベン を しよう と して オメンシ は ヒトヒザ のりだした の だ が、 ジブン も やはり かつがれる ブ の ホケツ に なって いる の か と きづく と、 シタ が つって コトバ が だせぬ らしかった。 いまさら ここ で コウベン した ところ で ヤク にも たたぬ と カレ は あきらめよう と する の だ が クチビル が ふるえて、 おもわず うなだれて いた。
「ワシラ には なにも べつだん いう こと は ない よ。 だが、 だね……」
「いう こと が ない ん なら、 だが、 も、 しかし、 も あるまい」
「せっかく、 メン が できあがった と いう バン に いまさら コウロン も ない もの さ。 ハシバ の オジゴ の クチ も おおい が、 サカグラ の センセイ の リクツ は セケン には とおりません や、 だが、 も、 しかし も ない で すめば ウキヨ は タイヘイラク だろう じゃ ない か。 あははは」
 ホッタ チュウキチ は ジュウイ の 「ホラチュウ」 と いう アダナ だった。 ワタシタチ と して は なにも これら の ヒトビト の チュウモン を とくに おくらせた と いう わけ でも なく、 ただ ホウメン が ヒトカタマリ だった から、 つとめて とりまとめて とどけ に きた まで の こと で ある。 ちょうど、 ヨウギョジョウ の キンゾウ など も ヤギシタ の イエ に あつまって サケ を のみながら ナニ か ひそひそ と ヒタイ を あつめて ハカリゴト に ふけって いる ところ だった。 ――まあ イッパイ、 まあ イッパイ と むりやり に フタリ を とらえて ナカマ に いれた が、 カレラ の いう こと が いちいち ワタシタチ の カン に さわった。 「そんな の なら、 ええ、 もう、 よう ござんす、 シナモノ は もって かえりましょう。 ナンクセ を つけられる オボエ は ない ん です もの」
 オメンシ は ツツミ を なおして イクド も たちあがった が、 チュウキチ と キンゾウ が たくみ に なだめた。
「イナカ の ヒト は、 ホントウ に ヒト が わるい。 うっかり いう こと など を しんじられ や しない」
 ワタシ も そんな こと を いった。
「そ、 それ が、 オマエサン の サイナン の モト だよ。 せっかく ヒト の いう こと に カド を たてて、 むずかしい リクツ を くっつけたがる。 もともと、 オマエサン が ねらわれ、 ツル さん に まで ホコサキ が むいて きた と いう の は、 オマエサン の その タンキ な オオフウ が たたった と いう こと を かんがえて もらわなければ ならん の だ が、 イマ が イマ どう ショウネ を いれかえて くれ と いう ハナシ じゃ ない。 ヒト の いう こと を よく きいて もらいたい と いう もの だ―― オレタチ は イマ、 ムラ の モノ でも ない オマエサンタチ が かつがれて は キノドク だ と おもって、 タイサク を こうじて いる ところ なん じゃ ない か」
 スギジュウロウ が こんこん と さとしはじめる ので ワタシタチ も コシ を すえた が、 カレラ の いう こと は どうも うかうか とは しんぜられぬ の で あった。 その ハナシ を きく と、 ワタシタチ ばかり が、 ヤオモテ の ギセイシャ と みえた が、 ヤギシタ オヤコ を ハジメ と して、 ホラチュウ や キンゾウ の アクヒョウ は、 サクラ の ジブン に ここ に ワタシタチ が あらわれる と すぐに も きいた ハナシ で、 カレラ が ヨアルキ や オドリ ケンブツ に あらわれる の を みいだす モノ は なかった。
「ボクタチ と したって、 もしも ここ の セイネン だったら、 やはり カレラ を ねらう だろう な」
「それ あ、 もう ダレ に しろ トウゼン で、 ワタシ なら まず サイショ に ホラチュウ を――」
「カレラ は ジブン たち が ねらわれて いる の を かくそう と して、 オレ など を マキゾエ に する よう だよ。 どう かんがえて も オレ は ジブン が カレラ より サキ に かつがれよう など とは おもわれない よ」
「むろん その とおり です とも。 ヤツラ の いう こと なんて キ に する こと は ありません さ」
 ワタシ と オメンシ は、 そんな こと を はなしあい、 むしろ カズトヨ や J シ が サキ に ナン を こうむった の を フシギ と した こと も あった。
 ワタシ は、 イロリ の マワリ に、 グウゼン にも ヨウギシャ ばかり が あつまった の を、 あらためて みまわした。 そして、 ヒト の ハンカン や ゾウネン を あがなう ジンブツ と いう もの は、 その コウイ や ジンカク を ベツ に して、 ガイケイ を イチベツ した のみ で、 ただちに たまらぬ イヤミ を おぼえさせられる もの だ と おもった。 ヒト の ツウユウセイ など と いう もの は ヘイボン で、 そして テキカク だ。 ワタシ に しろ、 もしも スベテ の ムラビト を イチレツ に ならべて、 その ナカ から まったく リユウ も なく 「にくむ べき ジンブツ」 を シテキ せよ と めいぜられた ならば、 やはり これら の モノドモ と、 そして カズトヨ と J を えらんだ で あろう と おもわれた。
 スギジュウロウ と マツ は オヤコ の くせ に、 まるで ナカマ ドウシ の クチ を ききあい、 オリ に ふれて は たがいに ひそひそ と ミミウチ を かわして うなずいたり レイショウ を うかべて どうか する と タガイ の カタ を うつ マネ を した。 シンミツ の グアイ が サル の よう だ。 チチ と コ で ある から には よほど の ネンレイ が ソウイ する だろう にも かかわらず、 フタリ とも 40 くらい に みえ、 ゲンゴ は ききなおさない と いかにも ハンベツ も かなわぬ フメイリョウサ で、 タエマ も なく もぐもぐ と しゃべりつづける に つれて クチ の ハシ に しろい アワ が あふれた。 そして、 テノコウ で クチビル と シタ と を ヨコナデ して、 おまけに その テノコウ を ナニ で ぬぐおう と する でも なく、 そのまま アタマ を かいたり サカナ を つまんだり した。 ユビ の サキ は しじゅう こせこせ と して サラ や コバチ を タニン の もの も ジブン の もの も ちょっちょっ と イチ を うごかしたり、 イロイロ の クイモノ を ほんの マメ の ハシ ほど かんで ゼン の ヘリ に おきならべたり、 その アイマ には コヨウジ の サキ を サカズキ に ひたして ゼン の ウエ に モジ を かいた。 クセ まで が まったく おなじ よう で、 マツ が ときどき さしはさむ 「オトウサン」 と いう コエ に きづかなければ、 フタゴ の よう だった。
 ホラチュウ は ナニ か ヒトコト いう と、 あはは と ウマ の よう に おおきな キイロ の ハ を むきだして わらい、 それ に つれて げーっ、 げーっ と ハラ の ソコ から こみあげる ジョウキ の よう な ゲップ を エンリョ エシャク も なく ホウシュツ して 「どうも イサン カタ の よう だ」 と つぶやきながら オクバ の アタリ を オヤユビ の ハラ で ぐいぐい と なでた。 ハナ は いわゆる ザクロバナ と いう やつ だ が、 ただ あかい ばかり で なく アブラビカリ に ぬらついて フキデモノ が めだち、 クチ を あく ごと に フタツ の コバナ が ゲンコツ の よう に いかり ビコウ が ショウメン を むいた。 そして わらった か と おもう と、 その シュンカン に ワライ の ヒョウジョウ は きえうせて、 アイテ の カオイロ を ウワメヅカイ に にくにくしげ に ヌスミミ して いる の だ。
「よろしい、 オレ が ひきうけた ぞ」
 カレ は おりおり トツゼン に ひらきなおって、 いとも しかつめらしく うなりだす と オオギョウ な ミエ を きって ナナメ の コクウ を ねめつくした が、 おそらく その ヨウス は ダレ の メ にも そらぞらしく 「ホラチュウ」 と うつる に ちがいない の だ。
「チュウ さん が ひきうけた と なれば、 それ は もう オレタチ は アンシン だ けど、 だが――」 と マツ は シンミョウ に メ を ふせて ヨウジ の サキ を ろうしながら、 ダレダレ を だきこんで ひとまず ハイスイ の ジン を しき、 など と クビ を ひねって いた。 ホラチュウ の そんな オオギョウ な ミエ に せっして も しごく シゼン な アイヅチ を うてる マツ ども も、 また シゼン そう で あれば ある だけ シンソコ は フマジメ と さっせられる の だ。 カレラ は、 ナニ か センキョ ウンドウ に かんする オモワク でも ある らしかった。 ヤギシタ スギジュウロウ が サイド ソンカイ へ のりだそう と いう ケイカク で、 ホラチュウ や スッポン が ウンドウイン を もうしでた もの らしかった。 ジブン たち が トウコン ムラビト たち から、 あらぬ ハンカン を かって いる の は ハンタイトウ の シリオシ に よる もの で ある ゆえ、 トウメン の クモユキ を 「ある ホウホウ で」 のりきり さえ すれば、 ほんぜん と して イチジ に シンヨウ は うばいかえせる はず だ と いう ごとき ジフ に あんじて いる カタムキ で ある が、 カレラ へ よせる ムラビト ら の ハンカン は むしろ カレラ への シュクメイテキ な ゾウネン に はっする もの に ちがいなかった。 スッポン と いう の は ヨウギョジョウ の ウサミ キンゾウ の アダナ で、 カレ は みずから そらとぼける こと の タクミサ と くいついたら ヨウイ に はなさない と いう シツヨウブリ を ほこって いた。 カレ は マツ の いう こと を、 え? え? え? と シサイ-らしく ききなおして、 アイテ の ハナサキ へ ヨコガオ を のばし、 たしか に ききいれた と いう ハズミ に キュウ に クビ を ちぢめて、
「いったい それ は、 ホントウ の こと かね」 と ぎょうさん に あきれる の だ。 ―― 「だが、 しかし カズトヨ の イモバタケ を オドリブタイ に ナットク させる の は れっき と した コウキョウ ジギョウ だ。 ホッタ クン と ボク は、 まず この テン で テキ の キョ を つき……」 と カレ は ふと ワタシタチ に きかれて は こまる と いう らしく クチ を きって、 ホラチュウ や ショウジ の アナ へ じゅんじゅん と ナニゴト か を ささやいたり した。 そして、 うつらうつら と クビ を ふって いた。 カレ の メダマ は くぼんだ ガンカ の オク で ツネヅネ は ちいさく まるく ひかって いる が、 ヒト が ナニ か いう の を きく たび に、 いちいち ヒジョウ に おどろいた と いう ふう に ギョウテン する と、 たしか に それ は ぬっと マエ へ とびだして ギガン の よう に ひかった。 その ヨウス だけ は いかにも キモ に めいじて おどろいた と いう カッコウ だ が、 ホンシン は どんな こと にも おどろいて は いない ごとく、 メサキ は あらぬ ほう を きょとん と ながめて いる の だ。 たぶん カレ は、 シンジツ の オドロキ と いう カンジョウ は ケイケン した ためし は ない の では なかろう か。 ――アゴボネ が ぎっくり と ヒジ の よう に つきでて、 イロツヤ は ヌリモノ の よう な なめらかげ な ツヤ に とみ、 ノウカッショク で あった。 ヒタイ が モクギョ の よう な フクラミ を もって はりだし、 ミミ は ショウメン から でも シテキ も あたわぬ ほど ぴったり と コウトウブ へ すいつき、 クビ の フトサ に ヒカク して カオ ゼンタイ が ちいさく しかくばって、 どこ でも が こんこん と かたい オト を たてそう だった。 また クビ の グアイ が いかにも カメ の ごとく に、 のばしたり ちぢめたり する ドウサ に てきして ながく ぬらくら と して、 ノド の チュウオウ には ふかい ヨコジワ が イクスジ も きざまれて いた。 え? え? え? と ヨコガオ を のばして くる とき に、 ふと マヂカ に みる と マユゲ も マツゲ も はえて いない よう だった。
 むろん カレラ が ムラビト に ねらわれる の は、 サマザマ な ショギョウ の フセイジツサ から だった が、 ワタシ は ホカ の あらゆる ヒトビト の スガタ を おもいうかべて も、 カレラ ほど その ミブリ フウテイ まで が、 かつがれる の に テキトウ な もの を みいだせなかった。 カレラ の ショギョウ の ゼンアク は ニノツギ に して、 ただ まんぜん と カレラ に せっした だけ で、 もはや ジュウブン な ハンカン と ニクシミ を おぼえさせられる の は、 なにも ワタシ ヒトリ に かぎった ハナシ では ない の だ、 など と うなずかれた。 いつか の カズトヨ の よう に、 スッポン や ホラチュウ が かつぎだされて、 シニモノグルイ で わめきたてる コウケイ を ながめたら、 どんな に おもしろい こと だろう、 シンセツゴカシ や ショウジ の アナ の サル ども が ぽんぽん と テダマ に とられて チュウ に はねあがる ところ を みたら、 さぞかし ムネ の すく オモイ が する だろう―― ワタシ は、 カレラ の ワダイ など には ミミ も かさず、 ひたすら そんな ばかばかしい クウソウ に ふけって いる のみ だった。
「……オレ あ もう ちゃんと この メ で、 この ミミ で、 シゲ や クラ が オレタチ の わるい ウワサ を ふりまいて いる ところ を ミキキ して いる ん だ」
「ほほう、 それ あ また ホントウ の こと かね」
「ヤツラ の シリオシ が ヤブヅカ の オヌキ リンパチ だ って こと の タネ まで あがって いる ん だぜ」
「リンパチ を かつがせる テ に でれば ウム は ない ん だ がな」
 カレラ は クチ を つきだし、 おどろいたり、 ハガミ したり して カクサク に ムチュウ だった。 ――まれ に のまされた サケ なので、 イイカゲン に よって きそう だ と おもわれる のに いっこう ワタシ は しらじら と して いる のみ で、 アタマ の ナカ には あの ソウレツ な サワギ の キオク が つぎつぎ と はなばなしく よみがえって いる ばかり だった。
「どう でしょう ね。 ダイキン の こと は きりだす わけ には ゆかない もん でしょう かな。 まさか フルマイザケ で さしひこう って ハラ じゃ ない でしょう ね」
 オメンシ が そっと ワタシ に ささやいた。
「そんな こと かも しれない よ」 と ワタシ は ウワノソラ で こたえた。 それ より ワタシ は、 よくも こう ニクテイ な レンチュウ だけ が よりあつまって ウヌボレゴト を しゃべりあって いる もの だ、 こんな ところ に あの イチダン が ふみこんだら それこそ イチモウ ダジン の スバラシサ で アトクサレ が なくなる だろう に―― など と おもって、 カレラ の ヨウス ばかり を みまもる こと に あきなかった。 その とき スッポン が ワタシタチ の ササヤキ を キ に して、 え? え? え? と クビ を のばし、 オメンシ の カオイロ で ナニ か を さっする と 「まあまあ オマエガタ も ゆっくり のんで おいで よ。 うっかり ヨアルキ は あぶねえ から、 ひきあげる とき には オレタチ と ドウドウ で メン でも かむって……」
「あははは。 ためしに そのまま かえって みる の も よかろう ぜ」 と ホラチュウ は わらい、 ワタシ と オメンシ の カオ を トウブン に じっと にらめて いた。 ワタシ は なにげなく その シセン を だっして、 スッポン の ウシロ に かかって いる ハシラカガミ を みて いる と、 まもなく ハイゴ から ミズ を あびる よう な ツメタサ を おぼえて、 そのまま そこ に ギョウコ して しまいそう だった。 カガミ の ナカ に うつって いる ジブン の スガタ は、 せっかく ヒト が はなしかけて も むっと して、 ジブン ヒトリ が セイギテキ な こと でも かんがえて いる と でも いう ふう な カラステング-じみた ひとりよがりげ な カオ で、 ぼっと マエ を みつめて いた。 カオ の リンカク が シタツボミ に ちいさい わり に、 メ とか ハナ とか クチ とか が いやに どぎつく フツリアイ で、 けっして クビ は うごかぬ のに、 メダマ だけ が いかにも ヒト を うたぐる と でも いう ふう に サユウ に うごき、 おりおり イッポウ の メ だけ が ケイレンテキ に ほそく さがって、 それ に つれて クチ の ハシ が つりあがった。 ショウ トックリ の よう に シモブクレ の ハナ から は ハナゲ が つんつん と つきでて ドテ の よう に もりあがった ウワクチビル を つき、 そして シタクチビル は ウワクチビル に おおわれて ちぢみあがって いる の を むりやり に ぶばろう と して たえまなく ゴム の よう に のばしたがって いた。 ホラチュウ が サッキ から オリ に ふれて は こちら の カオ を にくにくしそう に ぬすみみる の は、 べつだん それ は カレ の クセ では なく、 ヒト を コバカ に する みたい な ワタシ の ツラツキ に たえられぬ ハンカン を しいられて いた もの と みえた。 そして ワタシ の モノ の イイカタ は、 ヒト の いう こと には ミミ も かさぬ と いう よう な つっぱなした テイ で、 ふとい よう な ほそい よう な カン の ちがった ウラゴエ だった。 ――ワタシ は つぎつぎ と ジブン の ヨウス を いまさら カガミ に うつして みる に つけ、 ヒト の ハンカン や ゾウネン を さそう と なれば、 スッポン や ホラチュウ に くらぶ べく も なく、 ワタシ ジシン と して も、 まず、 コヤツ を ねらう べき が ジュントウ だった と ガテン された。 コヤツ が かつがれて さんたん たる ヒメイ を あげる テイ を ソウゾウ する と、 そこ に いならぶ ダレ を クウソウ した とき より も いい キミ な、 ハラ の ソコ から の スガスガシサ に あおられた。 それ に つけて ワタシ は また カガミ の ナカ で トナリ の オメンシ を みる と、 キツネ の よう な フヘイガオ で、 はやく カネ を とりたい もの だ が ジブン が いいだす の は いや で、 ワタシ を せきたてよう と いらいら して はげしい ビンボウ ユスリ を たてたり、 きょろきょろ と ワタシ の ヨコガオ を うかがったり して いる の が オカン を もって ながめられた。 カレ は この ヒキョウ インジュン な タイド で ついに ヒトビト から ねらわれる に いたった の か と ワタシ は きづいた が、 フダン の よう に あえて ダイベン の ヤク を かって でよう とは しなかった。 そして ワタシ は わざと はっきり と、
「ミズナガレ フナジロウ クン、 ボク は もう しばらく ここ で あそんで ゆく から、 もし おちつかない なら サキ へ かえりたまえ な」 と いった。
「ミナガレ フナジロウ か―― こいつ は どうも ウッテツケ の ナマエ だな。 あはは」 と ホラチュウ が わらう と、 スッポン が たちまち キキミミ を たてて、 え? え? え? と クビ を のばした。 すると ホラチュウ は、 コウカ へ でも はしる らしく、 やおら たちあがる と、
「アイツ は いったい ナマイキ だよ。 ろくろく ヒト の いう こと も きかない で えらそう な ツラ ばかり して やがら、 よっぽど ヒト を バカ に して やがる ん だろう。 ナン だい、 ヒトリ で おつ に すまして、 ナニ を のびたり ちぢんだり して やがる ん だい。 ウヌボレ カガミ が みたかったら、 さっさと テメエ の ウチ へ かえる が いい ぞ。 チクショウ、 まごまご して やがる と、 オレラ が ヒトリ で ひっかついで ネ を あげさせて やる ぞ」 など と つぶやき、 たいそう カン の たかぶった アシドリ で あった。
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ゼーロン

2016-11-22 | マキノ シンイチ
 ゼーロン

 マキノ シンイチ

 さらに ワタシ は あたらしい ゲンシ セイカツ に むかう ため に、 イッサイ の ショセキ、 カグ、 フサイ ソノタ の セイリ を おわった が、 サイゴ に、 バイキャク する こと の あたわぬ 1 コ の ブロンズ-セイ の キョウゾウ の シマツ に まよった。 ――ショクン は、 2 ネン ほど マエ の アキ の ニホン ビジュツイン テンランカイ で、 ドウジン ツネカワ マキオ サク の キボリ 「ニワトリ」 「ウシ」 「ミミズク」 -トウ の サクヒン と ならんで 「マキノ シ ゾウ」 なる ブロンズ の トウシン キョウゾウ を カンラン なされた で あろう。 メイヒン と して シキシャ の コウヒョウ を はくした イッサク で ある。
 いろいろ と ワタシ は その シマツ に ついて シアン した が、 けっきょく タツマキ ムラ の フジヤ シ の モト に はこんで ホゾン を こう より ホカ は ミチ は なかった。 かねがね フジヤ シ は ツネカワ の ロウサク 「マキノ シ ゾウ」 の ため に キネン の ウタゲ を はりたい イコウ を もって いた が、 ワタシ の テンテン セイカツ と ともに その サクヒン も もちまわられて いた ので、 ソノママ に なって いた ところ で ある から ワタシ の ケッシン ヒトツ で おりよき キカイ にも なる の で あった。
 ワタシ は トクベツ に ガンジョウ な オオガタ の トザンブクロ に それ を おさめて、 ふとい ツエ を つき、 ヒトフリ の ヤマガタナ を たばさんで シュッパツ した。 あたらしく ケイカク した セイカツジョウ の プロット が すでに モクショウ に せまって いる オリカラ だった ので、 この コウテイ は もっとも すみやか に ショチ して こなければ ならなかった。 で ワタシ は、 ソウチョウ に シンジュク を キテン と する キュウコウ デンシャ に セイキュウ な トザン スガタ の ミ を とうじ、 シュウテン の 4 エキ ほど テマエ の カシワ エキ で おりる と イキ を つく マ も なく ミチ を ホッポウ に ヤク 1 リ さかのぼった ツカダ ムラ に かけのぼって、 ヨテイ の ごとく シリアイ の スイシャゴヤ から バシャヒキウマ の ゼーロン を かりださなければ ならなかった。 チカミチ のみ を えらんで も トホ では ニチボツ まで に ゆきつく こと が コンナン で ある ばかり で なく、 トチュウ の サマザマ な ナンショ は ワタシ の シンライ する ゼーロン の ユウキ を かりなければ、 あまり に ダイタン-すぎる コウテイ だった から で ある。
 この デンシャ の この アタリ の エンセン から、 あるいは アタミ セン の オダワラ エキ に ゲシャ した ヒトビト が、 コウベ を めぐらせて メ を セイホッポウ の ソラ に あげる ならば ヒトビト は、 あたかも ハコネ レンザン と アシガラ レンザン の キョウカイセン に あたる ミョウジンガタケ の ヤマスソ と ドウリョウ の モリ の ハイゴ に くらいして、 むっくり と アタマ を もちあげて いる ダルマ の スガタ に にた ひょうぜん たる ミネ を みいだす で あろう。 ヤグラダケ と よばれて、 カイバツ およそ 3000 ジャク、 そして カイガン まで の キョリ が およそ 10 リ に あまり、 サンチュウ の イッカク から は ゲンザイ ホタテガイ や マホガイ の カセキ が サンシュツ する と いう ので イチブ の チシツ ガクシャ や コウコ ガクト から タショウ の キョウミ を もって カンサツ され、 また ウラガレ の キセツ に なる と フモト の ムラムラ を おそって しばしば ミンカ に キガイ を くわえる オオカミ や キツネ や または イノシシ の カクレガ なり と して、 キンザイ の ジンミン には こよなく おそれられ、 ボウケンズキ の シュリョウカ には アコガレ の マナコ を もって ながめられて いる ところ の ブロッケン で ある。
 ワタシ の ソンケイ する センパイ の フジヤ ハチロウ シ は、 ギリシャ コテン から オウシュウ チュウセイキ キシドウ ブンガク まで の、 もっとも かくれたる ケンキュウカ で その ジュウキョ を みずから ピエルフォン と よんで いる。 その ヤマカイ の モリカゲ に ある ヤシキウチ には、 イクムネ か の きわめて カンソ な マルキゴヤ が テンザイ して いて、 それら には それぞれ 「シャルルマーニュ の タイソウジョウ」 「ラ マンチア の トショシツ」 「P.R.B (プレ-ラファエレ ブラザフッド) の アトリエ」 「イデア の タテ」 「エンタク の ヤカタ」 ソノタ の メイショウ の モト に、 ゲイジュツ の ミチ に ショウジン する もっとも まずしい トモダチ の ため に キシュクシャ と して あたえられる こと に なって いた。 ワタシ は ひさしい アイダ 「イデア の タテ」 の ショッカク と なって フジヤ シ の クンイク を うけた ストア-ハ の ギンユウ サッカ で あり、 この キョウゾウ は その カン に おなじく 「P.R.B」 の チョウコクカ で ある ツネカワ が 2 ネン も の アイダ ワタシ を モデル に して つくった の で ある。 ワタシ が ツネカワ の モデル に なる と きまった とき には、 キンリン の ソンミン たち は ことごとく まずしい ツネカワ の ため に カンシャク の シタウチ を して なぜ もっと ベツヨウ の 「ウマ」 とか 「ウシ」 とか、 さよう な もの を ダイザイ に えらばぬ の だろう と、 その ムクチ な チョウコクカ の ため に ドウジョウ を おしまなかった。 なぜならば ツネカワ の かよう な サクヒン ならば、 ソクザ に バクダイ な カカク を もって バイヤク を もうしこむ キボウシャ が むらがって いた から で ある。 ジンブツ を えらむ ならば、 なぜ ソンチョウ や ジヌシ を モデル に しなかった の だろう。 ソンチョウ の ゾウ ならば ソンピ を もって キネンゾウ を つくる ギ が カケツ されて いる し、 ジヌシ ならば カレ ミズカラ が ミズカラ の ジントク を コウセイ の ソンミン に のこす ため の シルシ と して、 ヒヨウ を おしまず オノレ の ゾウ を ケンセツ して おきたい ノゾミ を もらして いる。 また この チ に エンコ の ふかい サカタ ノ キントキ や ニノミヤ キンジロウ の ゾウ ならば、 ジンジャ や ガッコウ で うやうやしく かいあげる テハズ に なって いる では ない か! それ を まあ、 より にも よって! ――と ワタシ は、 その とき ゲイジュツカ の カンキョウ を わきまえぬ ムラビト たち から、 もっとも フメイヨ な ケイヨウシ を あびせられた こと で あった。
「あんな!」 と カレラ は トジョウ で ワタシ に であう と、 おとなしい ワタシ に あたかも にくむ べき ツミ が ある か の よう に ケイベツ の ウシロユビ を さして、
「あんな ロクデナシ の、 バカヤロウ の ゾウ を つくる なんて!」
 さよう な ヒナン の コエ が ますます たかく なって、 ついには ワタシタチ が シゴトチュウ の アトリエ の マド に むかって イシ を なげつける モノ (それ は ツネカワ の サイケンシャ たち で あった) さえ あらわれる に いたった ので ワタシ は、 ゾウ の メイダイ を たんに 「オトコ の ゾウ」 とか、 ないしは イクブン の センセイショナル な イミ で 「アホウ の クビ」 とか 「ある シジン」 と でも かえた ならば この ナン を まぬかれうる で あろう と ツネカワ に はかった の で ある が、 シュッピン の とき に なる と カレ は ワタシ にも ムダン で やはり 「マキノ シ ゾウ」 ツネカワ マキオ サク と ほりつけた の で ある。 そして カレ は ワタシ の テ を とって、 カイシン の サク を えた こと を よろこび、 ワタシタチ の ピエルフォン セイカツ の キネン と して ワタシ に おくった。 その コロ ワタシ は ジシン の カゲ に のみ おびやかされて おもに ミズカラ を あざける ウタ を つくって いた コロ で あった。 ふたたび カイソウ したく ない ジブン の スガタ で あった。 この ゾウ に 「シジン の ゾウ」 あるいは 「オトコ の カオ」 と でも いう ダイ が ふせられて、 ツネカワ の サクヒン の ヨウゴシャ の テ に わたった ならば ワタシ は サイワイ だった の だ。 しかし フジヤ シ は、 もしも ワタシ が コンゴ の セイカツジョウ で この ゾウ の ショチ に まよった バアイ には、 ツネカワ の ジシン を きずつける こと なし に いつでも ひきとる こと を ワタシ に やくした ヒト で あった。
 フジヤ シ の ピエルフォン は、 ドウリョウ と サルヤマ の モリ を わかつ ノコギリガタ の ケイコク に したがって ミチ を みいだし、 のぼる こと 3 リ、 ヤグラダケ の フモト に うずくまる シンヨウジュ の ミツリン に かこまれた ヤマカイ の タツマキ と よばるる、 50 コ から なる ショウブラク で、 ユウスイ な キナダヌマ の ホトリ に ホウケン の ユメ を のこして いる。 カナガワ ケン アシガラカミ グン に ぞくし、 カシワ エキ から 9 リ の ゼンテイ で ある。
 ワタシ が キョウ の モクテキ に ついて スイシャゴヤ の アルジ に かたった アト に、 ツエ を すて、 ゼーロン を ひきだそう と する と カレ は、 その ツエ を ムチ に する ヨウ が ある だろう――
「コイツ とんでもない ロバ に なって しまった んで……」 と エンセイテキ な オモモチ を うかべた。 そして、 カレ は ワタシ が かよう な オモニ を もって クロウ しなければ ならない キョウ の コウテイ を シンソコ から ドウジョウ し、 それ が もし 「ウシ」 か 「ニワトリ」 で あった ならば イマ ここ で でも ソクザ に バイキャク して ヒサシブリ に ユカイ な サカズキ を あげる こと も できる の だ が 「マキノ シ ゾウ」 では どう する こと も できない、 はやく かたづけて きたまえ、 それから カエリ には チカゴロ ツネカワ が 「ウマ」 の ショウヒン を つくった そう だ から、 そいつ を ミヤゲ に もらって きて くれ、 シチ に でも あずけて のもう では ない か! など と いいながら、 ワタシ に あたらしい カンチク の ムチ を かそう と した。
「ゼーロン!」
 ワタシ は、 ムチ など おそろしい もの の よう に メ も くれず に アイバ の クビ に とりすがった。 「オマエ に ムチ が ヒツヨウ だ なんて どうして しんじられよう。 オマエ を うつ くらい ならば、 ボク は ジブン が うたれた ほう が まし だよ」
 アルジ の コトバ に よる と、 ゼーロン の もっとも カンダイ な アイブシャ で あった ワタシ が ムラズマイ を すてて ミヤコ へ さって から まもなく、 この クリゲ の オウマ は ずぶとい ロバ の セイシツ に かわり、 うたなければ けっして あゆまぬ モクバ の フリ を したり、 ことさら に ビッコ を ひいたり する よう な グブツ に なって しまった、 じつに フカカイ な デキゴト で ある、 キョウ はからずも ワタシ を みいだして ふたたび イゼン の ゼーロン に たちかえり でも したら サイワイ で ある が! との こと で あった。
「たちかえる とも たちかえる とも、 ボク の ゼーロン だ もの」
 ワタシ は むしろ トクイ と、 はかりしれない シンミツサ を いだいて ようよう と タヅナ を とった。
「1 ニチ でも アイツ の スガタ を みず に すむ か と おもえば かえって シアワセ だ」
 アルジ は ワタシ の ハイゴ から ゼーロン を ののしった。 ワタシ は、 ワタシ の たぐいなき ペット の ミミ を リョウテ で おおわず には いられなかった。 ――ゼーロン の ヒヅメ の オト は ワタシ の キライ を よろこんで いる が ごとく に ほがらか に なった。 ワタシ の セナカ では、 うすらおもい ニ が それ に つれて こころよく おどって いた。 ゼーロン の おかげ で ワタシ は、 ク も なく タツマキ ムラ へ ゆきつける で あろう と よろこんだ。 ――これまで スイシャゴヤ の アルジ は、 ツネカワ の サクヒン を バイキャク する ツカイ を さいさん みずから もうしでて、 マチ へ おもむく と それ を テイトウ に して あっちこっち の チャヤ や サカバ で ユウトウ に ふけって は、 ツネカワ に メンボク を つぶす の が ナライ だった が、 あいかわらず さよう な こと に ミ を もちくずして いる と みえる。 キョウ も ワタシ が、 ツネカワ の サクヒン を ジサン した と いう と、 コオドリ しながら フクロ の ナカ を のぞきこんだ が、 キタイ に はずれて ヒジョウ に ラクタン した。
「オマエ の アルジ が ツネカワ の サクヒン を たずさえて マチ へ いく とき には、 オマエ は いつも モクバ に なって やる が いい、 ビッコ を ひいて ふりおとして やって も かまわない さ」
 ワタシ は コキミヨサ を おぼえながら ゼーロン に むかって そんな ミミウチ を した。
 ところが わずか 2 リ ばかり の ツツミ を さかのぼった コロ に なる と、 ゼーロン の ビッコ は しだいに ロコツ の ド を まして ややともすると あやうく ワタシ に ワタシ の シタ を かませよう と したり、 テンラク を おそれる ワタシ を その タテガミ に しがみつかせたり する と いう よう な おそろしい ジョウタイ に なって きた。 そして ミチバタ の アオクサ を みいだす と、 ノリテ の ソンザイ も わすれて クサ を はみ、 どんな に ワタシ が いらだって も そしらぬ フウ を しめす に いたった。
 ワタシ は、 いぶかしく クビ を かたむけ カナシミ に あふれた ノド を ふりしぼって、
「ゼーロン!」 と さけんだ。 「オマエ は ボク を わすれた の か。 1 ネン マエ の ハル…… カワベリ の ネコヤナギ の メ が ふくらみ、 あの ムラザカイ の――」
 ワタシ は 1 ワ の トンビ が ラセン を えがきながら まいあがって いる はるか の チンジュ の モリ の カタワラ に ながめられる くろい モン の イエ を ゆびさして、 おなじ ホウガク に ゼーロン の クビ を もちあげて、
「ゴウヨクモノ の ヤシキ では モモ の ハナ が サカリ で あった コロ に、 オマエ に おくられて ミヤコ に のぼった ピエルフォン の ジャグラー だよ」 と カオ と カオ と を あらためて つきあわせながら うなった が、 ワタシ の ウデ の チカラ が ゆるむ と ドウジ に すぐ うなだれて クサ を はみつづける だけ で あった。 くろい モン は ワタシ の エンカサキ の ヤシキ で ワタシ は しばしば ゼーロン を かって そこ へ せめよせた こと が ある ので、 こう いって かなた を ゆびさした ならば さすが の ロバ も オウジ の はなやか な ユメ を おもいだして イキ を ふきかえす で あろう と かんがえた が ムダ に なった。 ワタシ は、 その うつろ な ミミ に じゅんじゅん と ささやく こと で ロバ の キオク を よびさまそう と した。
「ゼーロン。 オマエ は、 ゴウヨクモノ の サカグラ を おそって サカダル を ダツリャク する この ドロボウ シジン の、 ブセハラス では なかった か! あの とき の よう に もう イチド この タテガミ を ふりあげて かけだして くれ。 これ でも おもいだせぬ と いう ならば、 そう だ、 では あの コロ の ウタ を うたおう よ。 ボク が、 この バラッド を うたう と オマエ は ウタ の カンキュウ の ド に あわせて、 はやく も ゆるやか にも ジユウ に アシナミ を そろえた では ない か」
 サカズキ に ふれなば おもいおこせ よ、 かつて、 そ は、 キング ヒエロ の ウタゲ にて、 モリカゲ ふかき ジョウサイ の、 いと ふるびたる マル テーブル に、 ショウシ あまた まねかれにし―― ワタシ は、 カナシミ を こらえて ソウカイゲ な ミエ を きりながら ふるい ジサク の 「シン キャンタベリー」 と だいする ウマオイウタ を、 ロッキャクイン を ふんだ アイオン-チョウ で ロウギン しはじめた が いっこう キキメ が なかった。
「5 ガツ の アサマダキ に、 イッペン の はなやか なる クモ を おって、 この おろか な アルキメデス の コウハイ に ユレーカ! を さけばしめた オマエ は、 ボク の ペガサス では なかった か! ゼンノウ の アイ の ため に、 イシ の ウエ に サヨウ する ゼンビ の ため に、 クモン の トウスイ の ウチ に シンリ の ハナ を さがしもとめん が ため に、 エピクテート ガッコウ の タイイクジョウ へ はせさんずる ストア ガクセイ の、 オマエ は ユウカン な ロシナンテ では なかった か!」
 ワタシ は クラ を たたきながら、 ショウシ ミナ サカズキ と ツルギ を あげて オウ に ちかいたり、 ワレ こそ オウ の カンムリ の、 うしなわれたる ホウセキ を…… と、 うたいつづけて コブシ を ふりまわした が ガンキョウ な ロバ は びくとも しなかった。
 ワタシ は クラ から とびおりる と、 コンド は マンシン の チカラ を リョウウデ に こめて、 ボルガ の フナビト に にた ミガマエ で ウム なく タヅナ を えいや と ひっぱった が、 イシ に そわぬ ウマ の チカラ に ニンゲン の ワンリョク なんて およぶ べく も なかった。 たんに ワタシ の アシ が すべって、 いや と いう ほど ワタシ は ヒタイ を ジメン に うちつけた に すぎなかった。 ワタシ は、 ぽろぽろ と ナミダ を ながしながら ふたたび クラ に もどる と、
「あの コロ の オマエ は ムラ の イザカヤ で セイキ を うしなって いる ボク を――」 と ことさら に その とおり の オモイイレ で、 ぐったり と して、 あたかも ニンゲン に モノ いう が ごとく さめざめ と シンアイ の ジョウ を ふくめて、
「ちゃんと この セナカ に のせて、 シンヤ の ミチ を タヅナ を とる モノ も なく とも、 ボク の スミカ まで おくりとどけて くれた シンセツ な ゼーロン で あった じゃ ない かね!」 と かきくどきながら、 おお、 よいたりけり な、 ホシアカリ の ミチ に よいしれて、 ヤカタ へ かえる モノノフ の、 マボロシ の ウレイ を タレ ぞ しる、 ゆけ ルージャ の オナゴ たち…… ワタシ は ホメロス-チョウ の カンキュウイン で うたった が、 ゼーロン は あくまでも ふぬけた よう に しらじらしく ラチ も ない アリサマ で あった。 ドンジュウ な マブタ を ものうげ に ふせた まま、 マバタキ も せず しんじつ バジ トウフウ に そしらぬ スガタ を たもちつづける のみ だった。 そして、 ハオト を たてて まって いる メ の サキ の アブ を ながめて いた が、 ふと そいつ が ハナ の サキ に とまろう と する と、 この エイエン の モクバ は、 やにわに おそろしい ドウブルイ を あげて ウシロ の 2 キャク を もって はげしく ジメン を けり、 シニモノグルイ で ある か の よう な キョウフ の サケビ を あげた。 ワタシ も、 おもわず カレ の に ツイジュウ した ヒメイ を あげて、 その クビネ に カエル の よう に かじりつかず には いられなかった。 およそ イゼン の ゼーロン には みいだす こと の できなかった おどろく べき オクビョウサ で ある。
 これ に はじめて イキオイ を えた ゼーロン は、 ノバナ の さかん な カワヅツミ を まっしぐら に かけだした の で ある。 ワタシ は、 この とき と ばかり に つとめて、 クチブエ と コウゴ に カンキュウ な バラッド を ムチ に して、 「こわれかかった クルマ」 の スピード を あやつった。 ゼーロン の アシサバキ は ビッコ で あった から かければ かける ほど ランザツ な ヤバン な オンキョウ を まきおこし、 クチ を ダラシ も なく コクウ に むけて ハ を むきだし、 フタツ の ハナ から はきだす ふとい 2 ホン の ケムリ の ボウ で チョウメイ な ヒカリ を フンサイ した。 ワタシ は、 こんな モノオト ばかり すさまじい ボロ-キカンシャ を ソウジュウ して、 ユクテ の けわしい ヤマミチ を こえなければ ならない か と おもう と、 キュウ に セナカ の ニモツ が オモミ を まして きて、 ややともすると ソウチョウ な カレイ な セイチョウ を ようする はず の ショウカ が ふるえて たえいりそう に なった が、 そんな ケハイ を さとられて またもや ゼーロン の キセイ が くじけたら イチダイジ だ と うれえた から、 チ を はく オモイ の ヒソウ な ノド を しぼりあげて、 マ の すむ ヌマ も イバラ の ミチ も、 わが ゆく コマ の ヒヅメ に けられ…… と、 ランミャク な ヒクソス の シングンカ を わめきたてながら、 ワレ と わが ムネ を メッタウチ の ドラ と かきならす ランチキ サワギ の カゼ を まきおこして ここ を センド と トッシン した。 なぜなら ワタシ は、 ある リユウ で どんな ムラビト に であって も グアイ の わるい ジョウタイ で あった から、 ホンライ ならば もっとも すみやか な カゼ に なって ここら アタリ は かけぬけて しまわなければ ならなかった の で ある。 それゆえ ツカダ ムラ でも その ソンドウ を えらべば こんな カワラヅタイ を する より は バイ も チカミチ で あった が、 よぎなく かなた の チンジュ の モリ を ヒダリテ に アゼミチ を つたって ダイウカイ を しながら およそ 1 リ に ちかい コ を えがいた。 そして ツギ の イノハナ ムラ を めざして いる の で あった。 ワタシ は あちこち の ダンダンバタケ や ノラ の ナカ で たちはたらいて いる ヒトビト が、 この サワギ に カオ を あげよう と する の を おそれて、 ヒトビト の テンザイ の ウム に したがって、 コウゴ に あわただしく オノレ の ジョウタイ を コメツキ バッタ の よう に ゼーロン の タテガミ の カゲ に ひるがえしながら ソンダイ な ウタ を つづけて ヒヤアセ を しぼった。 この フキソク に ゲキレツ な ウンドウ に つれて セナカ の ニモツ は おもわず はねあがって ワタシ の コウトウブ に ごつん と つきあたったり、 セボネ いっぱい を イキ も とまれ と いわん ばかり に はたきつけたり した が ワタシ は、 やがて トウタツ す べき ピエルフォン の 「モリカゲ ふかき ジョウサイ の」 キョウエン の タク を マブタ の ウラ に えがきながら、 この モウレツ な クモン に じゅんじた。
 ようやく の オモイ で ツカダ ムラ を ブジ に とおりこす と、 コンド は、 オカ と いう より は むしろ コヤマ と いう べき ダンダン の ムギバタケ が つみかさなって ゆく サカ を のぼって、 イノハナ ムラ に おりる の で ある。 ワタシ は、 タテガミ の ナカ に カオ を うずめて その デコボコ の はげしい ジグザグ の サカ を のぼりながら、 ビッコウマ は ヘイタン な ミチ より も むしろ サカミチ の ほう が ノリテ に キラク を かんぜしめる と いう イチ ジジツ を みいだしたり など した。 オカ の イタダキ に たっする と ガンカ に イノハナ ムラ の ケシキ が イチボウ の モト に みおろせる が ワタシ は、 この イタダキ を ちょうど キョダイ な スリバチ の フチ を たどる よう に ハンシュウ して、 イッキ に ムラ の ムカイガワ へ とびこえる つもり で あった。 ――そう すれば、 その サキ は まったく ジンカ の とだえた モリ や ノ や タニマ の レンゾク で、 ジョウジン に とって は ナンショ で ある が ワタシ には むしろ キガル に なる はず だった。 しかし それら の ユクテ の ミチ を ソウゾウ する と ワタシ は もはや イッコク の ユウヨ も おしまねば ならなかった。 ヒ は すでに チュウテン を とおく はなれて、 ムラサキイロ の ヤグラダケ の ソラ を うすあかく そめて いた。 ミチ は まだ ナカバ にも たっして いない の だ。 ワタシ は、 ケンメイ に ゼーロン を あやつりながら ツナワタリ でも して いる か の よう な あやうい ココチ で スリバチ の フチ を たどりはじめた。 サキザキ の ミチ では どうしても ゼーロン の ジュウジュン な チカラ を かりなければ ならぬ こと を おもって ワタシ は クラ から おりて なるべく しずか な ヒトリアルキ を こころみせしめた。 サキ に たたせて あるかせて みる と ゼーロン の ビッコ は ワタシ に ヨウイ ならぬ フアン の ネン を いだかせた。 ワタシ は スイシャゴヤ で もらって きた スイトウ の サケ を ゼーロン の クチ に そそぎこんだり、 テイテツ を しらべたり、 キャクブ を サケ の シズク で シップ したり して ユクテ の ミチ の ため の ダイジ を とった。 なぜなら この スリバチ を のりこえて ツギ の ケイコク に さしかかる と そこ は まさしく ヒル なお くらい シンリン チタイ で、 この モリ ふかく にげこめば タイガイ の アクニン は オッテ の メ を くらませる こと が できる と いう ナンショ で ある。 ここ には フロウシャ の スガタ に ミ を やつした トウゾクダン の ケッキョ が あって、 ワタシ は その ダンチョウ で、 シガレット を ふかす の に ピストル を うって ライター の ヨウ に しなれて いる ケンジュウ ツカイ の メイジン と シリアイ だった が、 ワタシ が なんの コトバ も かけず に ミヤコ へ たちさった ヨシ を きいて カレ は フンゲキ の あまり、 ワタシ を みいだし-シダイ、 ぽん と 1 パツ アイツメ を シガレット の カワリ に ふかして やらず には おかない ぞ! と いきまいて いる との こと で あった から、 ワタシ は その おそろしい ライター の ツツサキ に みいだされぬ マ に ここ を オウダン しなければ ならない。 それ には ゼーロン の コンシン の シュンソク が ヒツヨウ だった から で ある。 それ で なく とも この モリ を タンドク で オウコウ した ジンブツ は コライ から キロク に のこされた キンショウ の ナマエ のみ で ある。 それ には この モリ を シンヤ に ヒトリ で ふみこえた ゴウタンモノ と して サカタ ノ キントキ や シンラ サブロウ の ナマエ が かぞえられて、 いまなお その キロク を やぶる ボウケンシャ は シュツゲン しない と リュウゲン されて いる。 ツウレイ は モリ を さけて、 イノハナ から、 オカミ、 ミタケ、 ヒリュウサン、 カラマツ、 サルヤマ など と いう ブラク-ヅタイ に タツマキ ムラ へ むかう の が ジュントウ なの で ある が、 ワタシ は すでに ツカダ ムラ で トオマワリ を した ばかり で なく ロバ ジケン の ため に おもわぬ ミチクサ を くって しまった アト で ある から ぜひとも この モリ を ふみこえなければ トチュウ で ヒグレ に であう オソレ が ある の だ。 たとい キロク に のこって カレラ ユウカン なる ツワモノ と カタ を ならべる ホマレ が あろう とも、 ワタシ は ヤコウ には ゼッタイ に ジシン は カイム で ある。 おもった だけ で ミノケ が よだつ――。 ワタシ は かつて トトウ を くんで この モリ を オウダン した ケイケン が ある から ヒルマ の ミチ には ジシン は ある が、 ガムシャラ に オク へ オク へ と ふみこんで タキ の ある ガケガワ に つきあたる と、 コンド は キュウ に ばかばかしく あかるい、 だが キフク の おびただしい シバクサ に おおわれた ノハラ に でる はず だ。 アンウツ な モリ を イキ を ころして ここ に いたった とき には おもわず ほっと して ミナミナ テ を とりあって カオ を みあわせた こと を おぼえて いる。 で、 ユメミ-ゴコチ で この ひろびろ と した ハラッパ を とおりすぎる と、 まもなく ものすごい ススキ の オオナミ が ほうほう と おいしげった しんに シバイ の ナンショ-めいた フルデラ の ある アレノ に ふみいる はず だ。 ここ では ノビ に おそわれて ムザン な オウシ を とげた タビビト の ハナシ が ナンケン とも なく いいつたえられて いる が、 まったく あの アレノ で ノビ に かこまれた ならば ダレ しも オウジョウ する の が トウゼン で あろう。 アキ から フユ に かけて は ムラムラ は いう まで も なく モリ の トウゾクダン でも ヒ に かんする オキテ が ゲンジュウ に まもられて いる の は ドウリ だ。
 さて これら の ブキミ な ミチ を とおりこして も さらに ワレワレ は やすむ ヒマ も なく、 コンド は ツマサキアガリ の アカツチ の とても すべりやすい インキ な サカ を よじのぼらなければ ならない。 この サカ は ぞくに ビンボウザカ と よばれて キンザイ の ヒトビト に コノウエ も なく いみきらわれて いる。 と いう の は この サカ に さしかかる と フトコロ の カネブクロ の オモミ で さえ も ニ に なって なげすてて しまいたく なる ほど の コンナン な わずらわしい キュウハン だ から で ある。 そのうえ この アタリ には ヒルマ でも ときとすると コリ の タグイ が シュツボツ する と いわれ、 その ガイ を こうむった みじめ な ハナシ が ムスウ に ルフ されて いる。 おそろしい ヤマミチ を たどった アト に ここ に さしかかる コロ には ダレ しも ヤマ の インキ に あてられて ヒンケツショウ に おそわれる ところ から かかる メイシンテキ な ソウワ が つたわって いる の だろう が、 じっさい ワタシタチ に しろ この サカ に たっした ジブン に なる と よほど ジブン では しっかり して いる つもり でも シンケイ が いらいら と して きて、 ヤブカゲ で コトリ が はばたいて も おもわず りつぜん と して クビ を ちぢめ、 いまどき キツネ など に ばかされて たまる もの か と りきみながら も、 イッパン の フウシュウ に したがって あわてて マユゲ を ツバ で ぬらさぬ モノ は なかった。
 ここ も かしこ も ワタシ は キョウ は ゼーロン の シュンソク に たよって イッキ に のりこえる カクゴ で、 かねて ケッシン の タヅナ を ひきしめて シュッパツ して きた の だ が、 こう それ から それ へ、 とぼとぼ と スリバチ の フチ を たどりながら ユクテ の ナンロ に オモイ を およぼす と おびただしい キグ の ネン に うたれず には いられなかった。 オリ も オリ、 ヤライ の アメ が ケサ はれて、 アタリ の フウケイ は みずみずしい キラビヤカサ に みちあふれ、 さんらん たる ヒカリ は げにも ゴウカ な ツバサ を ソラ いっぱい に のべひろげて うらうら と まどろんで いる が、 それ に ひきかえ、 ただでさえ ヒノメ に あたる こと なし に フダン に じめじめ と インケン な ジュウメン を つくって サイギ の メ ばかり を すえて いる あの にくたらしい サカミチ は、 どんな に か すべりやすい メンジョウ に、 イジワル な クショウ を たたえながら テグスネ ひいて キノドク な タビビト を まちかまえて いる こと だろう! ――ワタシ は、 この サカミチ と たたかう ため の ヨウイ に ジブン の と ゼーロン の と、 ヒトタバ に した ワラジ と イッポ イッポ ふみのぼる バアイ の アシバ を ほる ため の スコップ と を クラ の イッタン に むすびつけて きた の で ある が、 イマ、 それ が ワタシ の メ の サキ で、 ゼーロン の ビッコ の アシドリ に つれて ぶらん ぶらん と ゆれて いる の を ながめる と ムネ は ナマリ の よう な もの で いっぱい に なって しまった。
 ワタシ は ギヤマン モヨウ の よう に チョウメイ な イノハナ ムラ の パノラマ を とおく アシモト に ヨコメ で みおろしながら つとめて ノンキ そう に ウマオイウタ を うたって いった。 ムラ の イエイエ から たちのぼる ケムリ が、 おしめど も ハル の カギリ の キョウ の ヒ の ユウグレ に さえ なりにける かな―― と いいたげ な ウタ の フゼイ で カゲロウ と ミサカイ も つかず たなびきわたって いた。 ユウグレ まで には まだ よほど の マ が ある。 こんな ところ で ユウグレ に なったら オオゴト だ―― だが ワタシ は、 かすむ とも なく うらうら と はれわたった のどか な ムラ の ケシキ を ながめる と おもわず とうぜん と して、 コエ たからか に さよう な ウタ を フシ も ゆるやか に ロウエイ した。 そして さらに メ を こらして ながめる と ソンドウ を あるいて ゆく ヒトタチ の、 おお あれ は どこ の ダレ だ―― と いう こと まで が はっきり と わかった。 カレクサ を つんで ムラザカイ の ハシ を わたって ゆく バシャ は、 ツネカワ の 「ミミズク」 を バイシュウ した ボクジョウヌシ の ワカモノ だ。
「アイツ に さとられて は メンドウ だぞ!」
 ワタシ は つぶやいて ボウシ の ヒサシ を ふかく した。 ワタシ は、 その 「ミミズク」 を たんに カンショウ の リユウ で カレ から かりうけて おいた ところ が、 ドウキョ の R と いう ブンカ ダイガクセイ が ひそか に もちだして マチ の カフェー に ユウキョウヒ の ダイショウ に さしおさえられて いる。 カレ は ワタシ を みいだし-シダイ セキニン を とうて ワタシ の ムナグラ を とる に ソウイ ない の だ。 イチョウ の ある ジヌシ の イエ では イドガエ の モヨウ らしく、 イチダン の ヒトビト が ニワサキ に あつまって めまぐるしく たちはたらいて いる サマ が みえる。 この イチダン に きづかれたら、 やっぱり ワタシ は ツイセキ される で あろう、 なぜなら ジヌシ の イエ で バイシュウ した ツネカワ の 「ニワトリ」 を、 ワタシ は モリ の ピストル ツカイ の テサキ と なって ぬすみだした こと が ある。 「ニワトリ」 の ユクエ に かんして は ソノゴ ワタシ は しらなかった が、 ジヌシ の イットウ は ワタシ に よって それ の イトグチ を つかもう と して ワタシ の アリカ を くまなく ショホウ に もとめて いる そう だ。 ――また はるか ヒダリテ の ヤシロ の モンゼン に ある イザカヤ の ほう へ メ を てんじる と、 テイシュ が オウライ の ヒト を とらえて ナニ か しきり と げきした ミブリ で フンゲキ の ケムリ を あげて いる らしい。 カレ は じつに キミジカ な オトコ で、 ツネカワ と ワタシ が すこし ばかり の サカダイ の フサイ が できた ところ が、 いつか その シハライ メイレイ に ヤマ を こえて アトリエ に やって きた とき ちょうど ツネカワ の ロウサク の 「マキノ シ ゾウ」 が カンセイ して フタリ で それ を ながめて いる と、
「バカ に して いる、 こんな もの を つくりあがって!」 と ワタシタチ を ののしり、 おもわず カンシャク の コブシ を ふりあげて この ブロンズ ゾウ の アタマ を なぐりつけて、 ツキユビ の ヤク に あい、 ひさしい アイダ ツリウデ を して いた こと が ある。 キョウ も ヒト を とらえて ワタシタチ の ムセキニン を フイチョウ して いる の だろう。
 ―― 「おやっ イドガエ の レンチュウ が こっち を みあげて ナニ か ささやきあって いる ぞ!」
 ワタシ は ぎょっと して、 あわてて カオ を ハンタイ の ヤマ の ほう へ そむけた。 ようやく、 あの モリ が、 オカ の シタ に ヌマ の よう に みえる アタリ まで きて いた。 ユウエン ひょうびょう と して そこしれぬ カン で ある―― ふと ミミ を すます と、 モリ の ソコ から ときおり ジュウセイ が きこえた。 2~3 パツ ツヅケウチ に して、 やや しばらく たつ と、 また なる。
 ワタシ は さらに ブキミ に ムネ を うたれた。 あの ダンチョウ の キツエン では ない かしら? と おもわれた から で ある。 ワケ を しらぬ ムラビト は リョウシ の テッポウ の オト と おもって いる が、 ワタシ は しって いる―― あの ダンチョウ は かよう な コウテンキ の ヒ には かえって ミ を もちあつかって、 むやみ に シガレット を ふかす シュウカン で ある、 そんな とき には カレ は ヒジョウ に シンケイシツ な キツエンカ に なって、 1 パツ で テンカ しない と、 ワケ も ない コウフン に ウデ が ふるえて フシギ な イラダチ に かられる の で あった。 カレ は、 1 パツ の モト に テンカ しない シガレット は、 フキツ と しょうして ことごとく ふみにじって しまう の で ある。 カレ は、 それ で その ヒ の ウンメイ を みずから うらなう の だ と いう ゴヘイ を かついで いる。 だから サイショ の 1 パツ が うまく テンカ する と カレ は ヒジョウ な コウキゲン と なる が、 テモト が くるいはじめた と なる と セイゲン が なくなる。 がみがみ と トホウ も なく いらだって ツヅケザマ に ハッポウ する の だ が、 カンシャク を おこせば おこす ほど ウデ が ふるえて ラチ が あかず、 シマイ には ジンチク を そこねなければ リュウイン が さがらなく なって しまう と いう シマツ の わるい メイシンテキ ケッペキセイ に とんで いた。
 まだ それ と ハンメイ した わけ では なかった が、 なおも しきり に なりつづけて いる 「ライター の オト」 に チュウイ を むける と ワタシ は アシ が すくみそう に なった。 ヨユウ さえ あれば ここ で ワタシ は、 カレ の ハッカカン が タネギレ に なって イツモ の よう に カレ が フテネ を して しまう で あろう コロアイ を まって、 モリ に ふみいる の で あった が、 ヨウイ に ハッポウ の オト は たえなかった。 このうえ ここら で まごまご して いれば ムラ の レンチュウ に ホバク される オソレ が ある ばかり で なく、 もっとも おそろしい ユウグレ に せまられる キケン が ある。 ――カレ は ジンチク に ジュウショウ を おわせる ほど ドウモウ では ない が、 キミョウ な ネライ を もって、 その ミ チカク の クウキ を うって、 にげまどう ヒョウテキ の ロウバイ する アリサマ を ケンブツ する の が ドウラク で ある。 おそらく ワタシ を みいだした ならば カレ は カイシン の ビショウ を もらして もっとも ザンコク な ナブリウチ を あびせ、 はねて は ころび しながら にげまわる で あろう ワタシタチ の ヒサン な スガタ を ゲンシュツ させて ウックツ を はらす に ちがいない。 この オクビョウ な ロバ を ぎょし、 この キダイ な オモニ を せおって ワタシ は、 あの ライター の ヒブタ に ミ を ひるがえす コウケイ を ソウゾウ する と、 もう ヒタイ から は つめたい アブラアセ が にじみだした。 ジゴク の ゴウカ に やかるる セメク に ソウイ なかった。 ワタシ の アシ には たちまち おもい クサリ が つながれて しまった。 ワタシ は スリバチ の フチ で どちら を むいて も しんに シンタイ ここ に きわまった の カン で あった。 ワタシ は、 しかし、 ユウ を こして、 もう イチド ゆるやか に、 おしめど も キョウ を カギリ の―― と うたって、 ウマ を おいやろう と した が、 いたずらに クチ ばかり が ウタ の カタチ に カイヘイ する ばかり で けっして それ に オンセイ が ともなわない では ない か。
 その とき で あった、 ゼーロン が ふたたび ガンキョウ な ロバ に かして たちすくんで しまった の は――。 わーっ! と ワタシ は、 ゼッタイ ゼツメイ の ヒメイ を あげて、 ムチュウ で ゼーロン の シリッペタ を チカラマカセ に なぐりつけた。
 と カレ は、 おもしろそう に ぴょんぴょん と はねて、 ものの 10 ケン ばかり サキ へ いって、 ふたたび モクバ に なって いる。 まるで ワタシ を チョウロウ して いる みたい な カッコウ で、 ぼんやり こっち を ふりかえったり して いる の だ。
「これ だな!」
 と ワタシ は うなった。 「スイシャゴヤ の アルジ が、 アイツ は うたなければ あるかぬ ロバ と なった! と なげいた の は――」
 ワタシ は おいすがる と ドウジ に、 ムチ を すてて きた の を コウカイ しながら、 ミギウデ を コンボウ に ぎして ちからいっぱい の スウィング を あびせた。
「そう だ、 その イキ だよ、 もっと チカラ を こめて やって ごらん!」
 ゼーロン は そんな チョウシ で、 おどりだす と、 ユクテ の マツ の キ の ソバ まで すすんで、 また ふりかえって いる。 ちょうど、 くわえられた ツウヨウ が きえさる と ドウジ に たちどまる と いう ふう で あった。 ――ワタシ は、 こんな キキワケ を わすれた チクショウ に、 イゼン の シンアイ を もって、 ツイオク の ウタ を ムチ に して いた こと など を おもいだす と むしょうに ハラ が たって、
「バカ!」
 と さけびながら、 ふたたび おいつく と、 ワタシ は もう イキ も たえだえ の スガタ で あった が、 アシュラ に なって、 サユウ の ウデ で トコロ かまわず はりたおした。
 ゼーロン の ヒヅメ は、 うかれた よう に イシコロ を けって、 また すこし の サキ まで すすんだ。
「ジゴク の ロバ め!」
 ワタシ は ののしった。 もう リョウウデ は ぜんぜん カンカク を うしなって、 カタ から ぶらさがって いる エンピツ の よう に きかなく なって いた。 ワタシ は チ に はって、 にくい ゼーロン に おいつこう と した、 あまり の フンゲキ で もう アシコシ が たたなかった から――。 すると、 その とき、 イノハナ ムラ の ホウガク から、 にわか に けたたましい ハンショウ の オト が まきおこった。
「やあ! ヤツラ は とうとう オレ の スガタ を ハッケン して、 ドウイン の カネ を うちはじめた ぞ!」
 ハンショウ の オト は ものすごい ウナリ を ひいて ヤマヤマ に ハンキョウ し、 スリバチ の ソコ に トグロ を まきながら、 コクウ に むかって もうもう と うったえて いる。 ――ワタシ は、 メ を とじて、 ふるえる テノヒラ に イシ を つかんだ。 ワタシ は、 クチビル を かみ、
「この ゴリアテ の ウマ め!」
 と ドゴウ する と ドウジ に、 あわれ な ミキウデ を フウシャ の よう に カイテン して、 コントロール を つける と、 ダビデ が ガテ の ゴリアテ を ころした スリング モドキ の イキオイ で、 はっし と、 ゼーロン を めがけて なげつけた イシ は、 この ヒッシ の イットウ の ネライ たがわず、 ゼーロン の デンブ に、 めざましい デッド ボール と なった。
 ゼーロン は ウシロアシ で クウキ を けって とびだした。 ツヅケウチ に して、 かけぬけて しまわなければ ならない。 ワタシ は オモニ に おしつぶされそう に ぱくぱく と ヨツンバイ に なった まま、 ゼンソクリョク で おいすがる と、 もう しだいに アシナミ を ゆるめはじめた ゼーロン の アゴ の シタ に くぐりぬけて いきなり、 えいっ! と いう カケゴエ と イッショ に、 ヒチョウ の ハヤワザ で はねあがる や、 ムカシ、 ダイリキ サムソン が ロバ の アゴボネ を ひきぬいた ヨウリョウ に タン を はっする モハンテキ アッパーカット の イチゲキ を くらわした。 おしい かな、 それ は、 ゼーロン が クビ を ハンショウ の ほう に ふりむけた シュンカン で、 ワタシ の コブシ は むなしく クウ を つきあげて しまった。 ヨセイ を くらって、 ワタシ は アザミ の ハナ の ナカ に モンドリ を うった。 しかし ひるまず ワタシ は イキ も つかず に とびあがる と、 ムカシ、 シャムガル が ウシ を ころした チョクヅキ の ウデ を、 ゼーロン の ワキバラ めがけて つきおとした。 ゼーロン は、 ハ を むきだして いななく と、 ハードル を とびこす みたい な カケカタ で ぴょんぴょん と ナミガタ に とびだした。 ワタシ は チ を すって ゆく タヅナ を ひろう と ドウジ に、 2~3 ゲン の キョリ を ひきずられながら はしった アト に きれい に クラ の ウエ に とびのった。 そして、 トツゲキ の ジンダイコ の よう に ランミャク に その ハラ を けり、 タテガミ に むしゃぶりついて、 すすめ、 すすめ…… と レンコ した。
 ようやく ゼーロン も ヒッシ と なった ごとく、 さらに ハイ ハードル を とびこえる とおり な カッコウ で、 ユミナリ に スリバチ の フチ を かけつづけて、 いよいよ クダリザカ の デグチ に さしかかった。 ――ふりかえって みる と ムラ の ハンショウ は シュッカ の アイズ だった の で ある。 ジヌシ の ナヤ の アタリ に ヒノテ が あがって、 ハタ を セントウ に おしたてた ショホウ の ショウボウタイ が テオシ ポンプ を ひいて、 ハッポウ から よりあつまろう と して いる サイチュウ だった。 ラッパ が なる。 ワメキゴエ が きこえて くる。 おりあしく イドガエ の サイチュウ だった ので、 ミズ が つかえない ので、 ヒケシタイ の メンメン は ヒジョウ に ロウバイ して、 アゼミチ の オガワ まで ホース を のばそう と して いる らしい。 1 タイ の ショユウ する ホース では ナガサ が フソク して、 コガシラ らしい イチイン が ヒノミ の ハシゴ を のぼって ゆく と、 ボウシ を ふりながら エンポウ の 1 タイ に むかって、
「ホース…… ホース……」 と さけんで いる の が きこえた。 ヒノテ は ナヤ から オモヤ に せめよせた らしく、 ケムリ が しばし ソラ に たえた か と おもう と、 まもなく マッシロ に なって ノキ の アイダ から むくむく と ふきだした。
「ホース…… ホース…… ゼーロン……」
 ハシゴ の オトコ の コエ が ふと そう ワタシ に きこえた。 みる と もう、 ホース は アゼミチ の オガワ まで のびて、 それ に ツナヒキ の よう に ヒト が たかって いる。 そして まもなく ほそい ミズケムリ が ノキサキ を めがけて、 ほとばしって いた。 ポンプ を あおる ケッシ の タイイン の カケゴエ が ひびいて きた。
「オレ に オウエン に こい と でも いう の かしら?」
 …… 「おうい、 ゼーロン の ノリテ…… こっち を むいて くれ、 タノミ が ある ぞ!」
 と きこえた。 ワタシ は、 タテガミ の ナカ に カオ を ふせながら ウスメ で、 そっち を のぞいた。 ――よくよく みる と、 ハシゴ の オトコ は、 モリ の、 あの キツエンカ だった。 たくみ に ショウボウタイ の イチイン に ミ を やつして いる。 そして、 カレ は ハンショウウチ に かわって、 カネ を たたいて いる が、 ヒトビト は ショウボウ に ネッチュウ して いる ので、 その カネ の ウチカタ が、 カレ が ハイカ の モノ と レンラク を とる ため の アンゴウホウ に よって いる の に きづこう とも しない。
 カネ の アイマ を みて は カレ は、 しきり と ウデ を ふって ワタシ を よんで いる。 また、 デンポウシキ に たたく カネ の アンゴウホウ を ハンダン する と、 それ は ワタシ に、 よく オマエ は かえって きた な、 オレ は コノゴロ たいへん さびしく くらして いる から、 これ を キカイ に して もう イッペン ナカマ に なって くれ、 まず キョウ の エモノ を ヤマワケ に しよう ぜ―― と ツウシン して いる の で あった。
「ヨロイ を とりもどした ぞ」 と カレ は つげた。 それ は ある フサイ の ダイショウ に ワタシ が ジヌシ の イエ に あずけた ワタシ の ソセン の イブツ で ある。 ワタシ の ロウボ は、 ワタシ が かよう な もの まで インシュ の ため に ヒトデ に わたした こと を しって、 ワタシ に セップク を せまって いる。 ワタシ が もし この タカラモノ を とりもどして キタク した ならば、 ナガネン の カンドウ を ゆるす と いう ショ を よせて いる。 ハンショウ は さらに、
「クウフク を かかえて シ を つくる グ を やめよ」
 と うながした。
 ワタシ は、 あの ヒオドシ の ヨロイ を きて セイカ に ガイセン する サマ の ユウワク にも かられた が、 あの、 ぎょろり と まるく みはって は いる ものの およそ どこ にも ケントウ の つかぬ と いう よう な マヌケ な フゼイ の メ と、 クチビル を こころもち ツツガタ に して ニガサ を みせた オモムキ が、 かえって みる モノ の ムネ に コッケイカン を さそう か の よう な、 おおきな しかつめらしい ブアクメン に ちがいない ワタシ の チチ の ショウゾウガ の かかって いる、 あの うすぐらい ショサイ に かえって、 のろわれた ザゼン を くむ こと を おもう と あんたん と した。 チチオヤ の スガタ に せっする とき ほど ワタシ は インキ な キョムカン に さそわれる とき は ない。 ワタシ は しばしば その ショウゾウガ を ハキ しよう と はかって、 いまだに はたしえない の で ある が、 やがて は きっと ケッコウ する つもり で いる。 ――シ は、 キガ に めんした メイロウ な ヤ から より ホカ に ワタシ には うまれぬ。
「オマエ の、 その セナカ の オモニ の バイキャクホウ を おしえて やろう よ」
 と ハンショウ は シンゴウ した。
「それ は?」
 ワタシ は おもわず、 メ を みはって、 サンイ の うごいた オモムキ を コリント-シキ の タイソウ シンゴウホウ に したがって ハンモン した。
「セイカ に うれ、 R. マキノ の ゾウ と して――。 スンブン たがわぬ から うたがう モノ は なかろう」
 R と いう の は 10 ネン も マエ に なくなった あの ショウゾウガ の トウニン で ある。 ワタシ の ホウロウ も 10 ネン-メ で ある。
「なるほど!」
 メイアン だ! と ワタシ は きづいた が、 ドウジ に えも いわれぬ おそろしい インガ の イナズマ に うたれて、 ワタシ は おそらく ジブン の と まちがえた の で あろう、 ゼーロン の ミミ を ちからいっぱい つかんだ。 そして クラ から テンラク した。
「はしれ!」
 と ワタシ は さけんだ。
 ワタシ は、 ゼーロン の デンブ を テキ に ゲキレツ な ヒッシ の ケントウ を つづけて、 クダリザカ に さしかかった。 ロバ の シッポ は スイシャ の シブキ の よう に ワタシ の カオ に ふりかかった。 その スキマ から ちらちら と ユクテ を ながめる と、 クニザカイ の ダイサンミャク は マムラサキ に さえて、 ヤグラダケ の イタダキ が わずか に アカネイロ に ひかって いた。 ヤマスソ イチメン の モリ は しんかん と して、 もう うすぐらく、 つきとばされる ごと に バッタ の よう に おどろいて ハードル-トビ を つづけて ゆく キタイ な ビッコウマ と、 その ザンコク な ギョシャ との チョッカ の ガンカ から シンタン の よう に こうばく と した ムマ を たたえて いた。 ――セナカ の ゾウ が セイ を えて、 そして また、 あの ショウゾウガ の ヌシ が クウ に ぬけでて、 ヌマ を わたり、 ヤマ へ とび、 ひるがえって は ワタシ の ウデ を とり、 ゼーロン が ウシロアシ で たちあがり―― チュウ に まい、 カスミ を くらいながら、 へんてこ な ミブリ で おもしろそう に ロココ-フウ の 「カドリール」 を おどって いた。 きれい な ナガメ だ! と おもって ワタシ は ふるえながら ソウゴン な ケシキ に みとれた。
 ハンショウ が かすか に きこえて いた が、 もう イミ の ハンベツ は つかなかった。 しかし それ は ワタシタチ の カドリール の たえざる バンソウ に なって いた。
「こいつ は――」
 ふと ワタシ は ワレ に かえって、 セナカ の オモニ を、 コモリ が する よう に キュウ に ゆすりあげながら つぶやいた。 ―― 「キナダヌマ の ソコ へ なげこんで しまう より ホカ に テダテ は ない ぞ」
 タエマ も ない トツゲキ を ゼーロン の デンブ に くわえながら、 ヌマ の ソコ に にた モリ に さしかかった。 キギ の コズエ が ミナソコ の モ に みえ、 「ミナモ」 を あおぐ と ネグラ へ かえる カラス の ムレ が サカナ に みえ、 ゼーロン にも ワタシ にも エラ が ある らしかった。 ――それにしても オモニ の ため に セナカ の ヒフ が やぶれて、 びりびり と やかるる よう に ミズ が しみる! チ でも ながれて い は しない か? と ワタシ は おもった。

(フキ―― ツネカワ マキオ サク 「マキノ シ ゾウ」 は ゲンザイ ソウシュウ アシガラカミ グン ツカハラ ムラ フルヤ サタロウ の ショゾウ に まかして ある。 カレ の ジュウライ の サクヒン モクロク-チュウ の ダイヒョウサク の ヨシ で あり、 カレ ジシン は もはや ブロンズ に さえ なって いれば ヌマ の ソコ へ ホゾン さるる も いとわぬ と いって いた が、 ユウジン たち の ホッキ で かく ホゾン さる こと と なり、 キボウシャ の カンラン には ズイジ テイキョウ されて いる。 1929 ネンド の ニホン ビジュツイン の モクロク を ひらけば シャシン も ケイサイ されて いる ヨシ で ある。 ツネカワ は コトシ ゼーロン の ゾウ を 「ゼーロン」 と だいして サクセイチュウ との こと で ある。 ワタシ は ミガル な きわめて まずしい ホウロウ セイカツ に ある。)
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