カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ニンゲン シッカク 1

2017-04-20 | ダザイ オサム
 ニンゲン シッカク

 ダザイ オサム

 ハシガキ

 ワタシ は、 その オトコ の シャシン を 3 ヨウ、 みた こと が ある。
 1 ヨウ は、 その オトコ の、 ヨウネン ジダイ、 と でも いう べき で あろう か、 10 サイ ゼンゴ か と スイテイ される コロ の シャシン で あって、 その コドモ が オオゼイ の オンナ の ヒト に とりかこまれ、 (それ は、 その コドモ の アネ たち、 イモウト たち、 それから、 イトコ たち か と ソウゾウ される) テイエン の イケ の ホトリ に、 あらい シマ の ハカマ を はいて たち、 クビ を 30 ド ほど ヒダリ に かたむけ、 みにくく わらって いる シャシン で ある。 みにくく? けれども、 にぶい ヒトタチ (つまり、 ビシュウ など に カンシン を もたぬ ヒトタチ) は、 おもしろく も なんとも ない よう な カオ を して、
「かわいい ボッチャン です ね」
 と イイカゲン な オセジ を いって も、 まんざら カラオセジ に きこえない くらい の、 いわば ツウゾク の 「カワイラシサ」 みたい な カゲ も その コドモ の エガオ に ない わけ では ない の だ が、 しかし、 いささか でも、 ビシュウ に ついて の クンレン を へて きた ヒト なら、 ヒトメ みて すぐ、
「なんて、 いや な コドモ だ」
 と すこぶる フカイ そう に つぶやき、 ケムシ でも はらいのける とき の よう な テツキ で、 その シャシン を ほうりなげる かも しれない。
 まったく、 その コドモ の エガオ は、 よく みれば みる ほど、 なんとも しれず、 いや な うすきみわるい もの が かんぜられて くる。 どだい、 それ は、 エガオ で ない。 この コ は、 すこしも わらって は いない の だ。 その ショウコ には、 この コ は、 リョウホウ の コブシ を かたく にぎって たって いる。 ニンゲン は、 コブシ を かたく にぎりながら わらえる もの では ない の で ある。 サル だ。 サル の エガオ だ。 ただ、 カオ に みにくい シワ を よせて いる だけ なの で ある。 「シワクチャ ボッチャン」 と でも いいたく なる くらい の、 まことに キミョウ な、 そうして、 どこ か けがらわしく、 へんに ヒト を むかむか させる ヒョウジョウ の シャシン で あった。 ワタシ は これまで、 こんな フシギ な ヒョウジョウ の コドモ を みた こと が、 イチド も なかった。
 ダイ 2 ヨウ の シャシン の カオ は、 これ は また、 びっくり する くらい ひどく ヘンボウ して いた。 ガクセイ の スガタ で ある。 コウトウ ガッコウ ジダイ の シャシン か、 ダイガク ジダイ の シャシン か、 はっきり しない けれども、 とにかく、 おそろしく ビボウ の ガクセイ で ある。 しかし、 これ も また、 フシギ にも、 いきて いる ニンゲン の カンジ は しなかった。 ガクセイフク を きて、 ムネ の ポケット から しろい ハンケチ を のぞかせ、 トウイス に こしかけて アシ を くみ、 そうして、 やはり、 わらって いる。 コンド の エガオ は、 シワクチャ の サル の ワライ で なく、 かなり たくみ な ビショウ に なって は いる が、 しかし、 ニンゲン の ワライ と、 どこやら ちがう。 チ の オモサ、 と でも いおう か、 イノチ の シブサ、 と でも いおう か、 そのよう な ジュウジツカン は すこしも なく、 それこそ、 トリ の よう では なく、 ウモウ の よう に かるく、 ただ ハクシ 1 マイ、 そうして、 わらって いる。 つまり、 イチ から ジュウ まで ツクリモノ の カンジ なの で ある。 キザ と いって も たりない。 ケイハク と いって も たりない。 ニヤケ と いって も たりない。 オシャレ と いって も、 もちろん たりない。 しかも、 よく みて いる と、 やはり この ビボウ の ガクセイ にも、 どこ か カイダン-じみた きみわるい もの が かんぜられて くる の で ある。 ワタシ は これまで、 こんな フシギ な ビボウ の セイネン を みた こと が、 イチド も なかった。
 もう 1 ヨウ の シャシン は、 もっとも キカイ な もの で ある。 まるで もう、 トシ の コロ が わからない。 アタマ は いくぶん ハクハツ の よう で ある。 それ が、 ひどく きたない ヘヤ (ヘヤ の カベ が 3 カショ ほど くずれおちて いる の が、 その シャシン に はっきり うつって いる) の カタスミ で、 ちいさい ヒバチ に リョウテ を かざし、 コンド は わらって いない。 どんな ヒョウジョウ も ない。 いわば、 すわって ヒバチ に リョウテ を かざしながら、 シゼン に しんで いる よう な、 まことに いまわしい、 フキツ な ニオイ の する シャシン で あった。 キカイ なの は、 それ だけ で ない。 その シャシン には、 わりに カオ が おおきく うつって いた ので、 ワタシ は、 つくづく その カオ の コウゾウ を しらべる こと が できた の で ある が、 ヒタイ は ヘイボン、 ヒタイ の シワ も ヘイボン、 マユ も ヘイボン、 メ も ヘイボン、 ハナ も クチ も アゴ も、 ああ、 この カオ には ヒョウジョウ が ない ばかり か、 インショウ さえ ない。 トクチョウ が ない の だ。 たとえば、 ワタシ が この シャシン を みて、 メ を つぶる。 すでに ワタシ は この カオ を わすれて いる。 ヘヤ の カベ や、 ちいさい ヒバチ は おもいだす こと が できる けれども、 その ヘヤ の シュジンコウ の カオ の インショウ は、 すっと ムショウ して、 どうしても、 なんと して も おもいだせない。 エ に ならない カオ で ある。 マンガ にも なにも ならない カオ で ある。 メ を ひらく。 あ、 こんな カオ だった の か、 おもいだした、 と いう よう な ヨロコビ さえ ない。 キョクタン な イイカタ を すれば、 メ を ひらいて その シャシン を ふたたび みて も、 おもいだせない。 そうして、 ただ もう フユカイ、 いらいら して、 つい メ を そむけたく なる。
 いわゆる 「シソウ」 と いう もの に だって、 もっと ナニ か ヒョウジョウ なり インショウ なり が ある もの だろう に、 ニンゲン の カラダ に ダバ の クビ でも くっつけた なら、 こんな カンジ の もの に なる で あろう か、 とにかく、 どこ と いう こと なく、 みる モノ を して、 ぞっと させ、 いや な キモチ に させる の だ。 ワタシ は これまで、 こんな フシギ な オトコ の カオ を みた こと が、 やはり、 イチド も なかった。

 ダイイチ の シュキ

 ハジ の おおい ショウガイ を おくって きました。
 ジブン には、 ニンゲン の セイカツ と いう もの が、 ケントウ つかない の です。 ジブン は トウホク の イナカ に うまれました ので、 キシャ を はじめて みた の は、 よほど おおきく なって から でした。 ジブン は テイシャジョウ の ブリッジ を、 のぼって、 おりて、 そうして それ が センロ を またぎこえる ため に つくられた もの だ と いう こと には ぜんぜん きづかず、 ただ それ は テイシャジョウ の コウナイ を ガイコク の ユウギジョウ みたい に、 フクザツ に たのしく、 ハイカラ に する ため に のみ、 セツビ せられて ある もの だ と ばかり おもって いました。 しかも、 かなり ながい アイダ そう おもって いた の です。 ブリッジ の のぼったり おりたり は、 ジブン には むしろ、 ずいぶん アカヌケ の した ユウギ で、 それ は テツドウ の サーヴィス の ナカ でも、 もっとも キ の きいた サーヴィス の ヒトツ だ と おもって いた の です が、 ノチ に それ は ただ リョカク が センロ を またぎこえる ため の すこぶる ジツリテキ な カイダン に すぎない の を ハッケン して、 にわか に キョウ が さめました。
 また、 ジブン は コドモ の コロ、 エホン で チカ テツドウ と いう もの を みて、 これ も やはり、 ジツリテキ な ヒツヨウ から アンシュツ せられた もの では なく、 チジョウ の クルマ に のる より は、 チカ の クルマ に のった ほう が フウガワリ で おもしろい アソビ だ から、 と ばかり おもって いました。
 ジブン は コドモ の コロ から ビョウジャク で、 よく ねこみました が、 ねながら、 シキフ、 マクラ の カヴァ、 カケブトン の カヴァ を、 つくづく、 つまらない ソウショク だ と おもい、 それ が アンガイ に ジツヨウヒン だった こと を、 ハタチ ちかく に なって わかって、 ニンゲン の ツマシサ に あんぜん と し、 かなしい オモイ を しました。
 また、 ジブン は、 クウフク と いう こと を しりません でした。 いや、 それ は、 ジブン が イショクジュウ に こまらない イエ に そだった と いう イミ では なく、 そんな バカ な イミ では なく、 ジブン には 「クウフク」 と いう カンカク は どんな もの だ か、 さっぱり わからなかった の です。 ヘン な イイカタ です が、 オナカ が すいて いて も、 ジブン で それ に キ が つかない の です。 ショウガッコウ、 チュウガッコウ、 ジブン が ガッコウ から かえって くる と、 シュウイ の ヒトタチ が、 それ、 オナカ が すいたろう、 ジブン たち にも オボエ が ある、 ガッコウ から かえって きた とき の クウフク は まったく ひどい から な、 アマナットウ は どう? カステラ も、 パン も ある よ、 など と いって さわぎます ので、 ジブン は モチマエ の オベッカ セイシン を ハッキ して、 オナカ が すいた、 と つぶやいて、 アマナットウ を 10 ツブ ばかり クチ に ほうりこむ の です が、 クウフクカン とは、 どんな もの だ か、 ちっとも わかって い や しなかった の です。
 ジブン だって、 それ は もちろん、 おおいに モノ を たべます が、 しかし、 クウフクカン から、 モノ を たべた キオク は、 ほとんど ありません。 めずらしい と おもわれた もの を たべます。 ゴウカ と おもわれた もの を たべます。 また、 ヨソ へ いって だされた もの も、 ムリ を して まで、 たいてい たべます。 そうして、 コドモ の コロ の ジブン に とって、 もっとも クツウ な ジコク は、 じつに、 ジブン の イエ の ショクジ の ジカン でした。
 ジブン の イナカ の イエ では、 10 ニン くらい の カゾク ゼンブ、 メイメイ の オゼン を 2 レツ に ムカイアワセ に ならべて、 スエッコ の ジブン は、 もちろん いちばん シモ の ザ でした が、 その ショクジ の ヘヤ は うすぐらく、 ヒルゴハン の とき など、 10 イクニン の カゾク が、 ただ もくもく と して メシ を くって いる アリサマ には、 ジブン は いつも はださむい オモイ を しました。 それに イナカ の ムカシカタギ の イエ でした ので、 オカズ も、 たいてい きまって いて、 めずらしい もの、 ゴウカ な もの、 そんな もの は のぞむ べく も なかった ので、 いよいよ ジブン は ショクジ の ジコク を キョウフ しました。 ジブン は その うすぐらい ヘヤ の マッセキ に、 サムサ に がたがた ふるえる オモイ で クチ に ゴハン を ショウリョウ ずつ はこび、 おしこみ、 ニンゲン は、 どうして 1 ニチ に サンド サンド ゴハン を たべる の だろう、 じつに ミナ ゲンシュク な カオ を して たべて いる、 これ も イッシュ の ギシキ の よう な もの で、 カゾク が ヒ に サンド サンド、 ジコク を きめて うすぐらい ヒトヘヤ に あつまり、 オゼン を ジュンジョ ただしく ならべ、 たべたく なくて も ムゴン で ゴハン を かみながら、 うつむき、 イエジュウ に うごめいて いる レイ たち に いのる ため の もの かも しれない、 と さえ かんがえた こと が ある くらい でした。
 メシ を たべなければ しぬ、 と いう コトバ は、 ジブン の ミミ には、 ただ いや な オドカシ と しか きこえません でした。 その メイシン は、 (イマ でも ジブン には、 なんだか メイシン の よう に おもわれて ならない の です が) しかし、 いつも ジブン に フアン と キョウフ を あたえました。 ニンゲン は、 メシ を たべなければ しぬ から、 その ため に はたらいて、 メシ を たべなければ ならぬ、 と いう コトバ ほど ジブン に とって ナンカイ で カイジュウ で、 そうして キョウハク-めいた ヒビキ を かんじさせる コトバ は、 なかった の です。
 つまり ジブン には、 ニンゲン の イトナミ と いう もの が いまだに なにも わかって いない、 と いう こと に なりそう です。 ジブン の コウフク の カンネン と、 ヨ の スベテ の ヒトタチ の コウフク の カンネン と が、 まるで くいちがって いる よう な フアン、 ジブン は その フアン の ため に ヨヨ、 テンテン し、 シンギン し、 ハッキョウ しかけた こと さえ あります。 ジブン は、 いったい コウフク なの でしょう か。 ジブン は ちいさい とき から、 じつに しばしば、 シアワセモノ だ と ヒト に いわれて きました が、 ジブン では いつも ジゴク の オモイ で、 かえって、 ジブン を シアワセモノ だ と いった ヒトタチ の ほう が、 ヒカク にも なにも ならぬ くらい ずっと ずっと アンラク な よう に ジブン には みえる の です。
 ジブン には、 ワザワイ の カタマリ が 10 コ あって、 その ナカ の 1 コ でも、 リンジン が せおったら、 その 1 コ だけ でも ジュウブン に リンジン の イノチトリ に なる の では あるまい か と、 おもった こと さえ ありました。
 つまり、 わからない の です。 リンジン の クルシミ の セイシツ、 テイド が、 まるで ケントウ つかない の です。 プラクテカル な クルシミ、 ただ、 メシ を くえたら それ で カイケツ できる クルシミ、 しかし、 それ こそ もっとも つよい ツウク で、 ジブン の レイ の 10 コ の ワザワイ など、 ふっとんで しまう ほど の、 セイサン な アビジゴク なの かも しれない、 それ は、 わからない、 しかし、 それにしては、 よく ジサツ も せず、 ハッキョウ も せず、 セイトウ を ろんじ、 ゼツボウ せず、 くっせず セイカツ の タタカイ を つづけて ゆける、 くるしく ない ん じゃ ない か? エゴイスト に なりきって、 しかも それ を トウゼン の こと と カクシン し、 イチド も ジブン を うたがった こと が ない ん じゃ ない か? それなら、 ラク だ、 しかし、 ニンゲン と いう もの は、 ミナ そんな もの で、 また それ で マンテン なの では ない かしら、 わからない、 ……ヨル は ぐっすり ねむり、 アサ は ソウカイ なの かしら、 どんな ユメ を みて いる の だろう、 ミチ を あるきながら ナニ を かんがえて いる の だろう、 カネ? まさか、 それ だけ でも ない だろう、 ニンゲン は、 メシ を くう ため に いきて いる の だ、 と いう セツ は きいた こと が ある よう な キ が する けれども、 カネ の ため に いきて いる、 と いう コトバ は、 ミミ に した こと が ない、 いや、 しかし、 コト に よる と、 ……いや、 それ も わからない、 ……かんがえれば かんがえる ほど、 ジブン には、 わからなく なり、 ジブン ヒトリ まったく かわって いる よう な、 フアン と キョウフ に おそわれる ばかり なの です。 ジブン は リンジン と、 ほとんど カイワ が できません。 ナニ を、 どう いったら いい の か、 わからない の です。
 そこで かんがえだした の は、 ドウケ でした。
 それ は、 ジブン の、 ニンゲン に たいする サイゴ の キュウアイ でした。 ジブン は、 ニンゲン を キョクド に おそれて いながら、 それでいて、 ニンゲン を、 どうしても おもいきれなかった らしい の です。 そうして ジブン は、 この ドウケ の イッセン で わずか に ニンゲン に つながる こと が できた の でした。 オモテ では、 たえず エガオ を つくりながら も、 ナイシン は ヒッシ の、 それこそ センバン に イチバン の カネアイ と でも いう べき キキ イッパツ の、 アブラアセ ながして の サーヴィス でした。
 ジブン は コドモ の コロ から、 ジブン の カゾク の モノタチ に たいして さえ、 カレラ が どんな に くるしく、 また どんな こと を かんがえて いきて いる の か、 まるで ちっとも ケントウ つかず、 ただ おそろしく、 その キマズサ に たえる こと が できず、 すでに ドウケ の ジョウズ に なって いました。 つまり、 ジブン は、 いつのまにやら、 ヒトコト も ホントウ の こと を いわない コ に なって いた の です。
 その コロ の、 カゾク たち と イッショ に うつした シャシン など を みる と、 ホカ の モノタチ は ミナ マジメ な カオ を して いる のに、 ジブン ヒトリ、 かならず キミョウ に カオ を ゆがめて わらって いる の です。 これ も また、 ジブン の おさなく かなしい ドウケ の イッシュ でした。
 また ジブン は、 ニクシン たち に ナニ か いわれて、 クチゴタエ した こと は イチド も ありません でした。 その わずか な オコゴト は、 ジブン には ヘキレキ の ごとく つよく かんぜられ、 くるう みたい に なり、 クチゴタエ どころ か、 その オコゴト こそ、 いわば バンセイ イッケイ の ニンゲン の 「シンリ」 とか いう もの に ちがいない、 ジブン には その シンリ を おこなう チカラ が ない の だ から、 もはや ニンゲン と イッショ に すめない の では ない かしら、 と おもいこんで しまう の でした。 だから ジブン には、 イイアラソイ も ジコ ベンカイ も できない の でした。 ヒト から わるく いわれる と、 いかにも、 もっとも、 ジブン が ひどい オモイチガイ を して いる よう な キ が して きて、 いつも その コウゲキ を もくして うけ、 ナイシン、 くるう ほど の キョウフ を かんじました。
 それ は ダレ でも、 ヒト から ヒナン せられたり、 おこられたり して いい キモチ が する もの では ない かも しれません が、 ジブン は おこって いる ニンゲン の カオ に、 シシ より も ワニ より も リュウ より も、 もっと おそろしい ドウブツ の ホンショウ を みる の です。 フダン は、 その ホンショウ を かくして いる よう です けれども、 ナニ か の キカイ に、 たとえば、 ウシ が ソウゲン で おっとり した カタチ で ねて いて、 とつじょ、 シッポ で ぴしっと ハラ の アブ を うちころす みたい に、 フイ に ニンゲン の おそろしい ショウタイ を、 イカリ に よって バクロ する ヨウス を みて、 ジブン は いつも カミ の さかだつ ほど の センリツ を おぼえ、 この ホンショウ も また ニンゲン の いきて ゆく シカク の ヒトツ なの かも しれない と おもえば、 ほとんど ジブン に ゼツボウ を かんじる の でした。
 ニンゲン に たいして、 いつも キョウフ に ふるいおののき、 また、 ニンゲン と して の ジブン の ゲンドウ に、 ミジン も ジシン を もてず、 そうして ジブン ヒトリ の オウノウ は ムネ の ナカ の コバコ に ひめ、 その ユウウツ、 ナーヴァスネス を、 ヒタカクシ に かくして、 ひたすら ムジャキ の ラクテンセイ を よそおい、 ジブン は おどけた オヘンジン と して、 しだいに カンセイ されて ゆきました。
 なんでも いい から、 わらわせて おれば いい の だ、 そう する と、 ニンゲン たち は、 ジブン が カレラ の いわゆる 「セイカツ」 の ソト に いて も、 あまり それ を キ に しない の では ない かしら、 とにかく、 カレラ ニンゲン たち の メザワリ に なって は いけない、 ジブン は ム だ、 カゼ だ、 ソラ だ、 と いう よう な オモイ ばかり が つのり、 ジブン は オドウケ に よって カゾク を わらわせ、 また、 カゾク より も、 もっと フカカイ で おそろしい ゲナン や ゲジョ に まで、 ヒッシ の オドウケ の サーヴィス を した の です。
 ジブン は ナツ に、 ユカタ の シタ に あかい ケイト の セーター を きて ロウカ を あるき、 イエジュウ の モノ を わらわせました。 めった に わらわない チョウケイ も、 それ を みて ふきだし、
「それ あ、 ヨウ ちゃん、 にあわない」
 と、 かわいくて たまらない よう な クチョウ で いいました。 なに、 ジブン だって、 マナツ に ケイト の セーター を きて あるく ほど、 いくら なんでも、 そんな、 アツサ サムサ を しらぬ オヘンジン では ありません。 アネ の レギンス を リョウウデ に はめて、 ユカタ の ソデグチ から のぞかせ、 もって セーター を きて いる よう に みせかけて いた の です。
 ジブン の チチ は、 トウキョウ に ヨウジ の おおい ヒト でした ので、 ウエノ の サクラギ-チョウ に ベッソウ を もって いて、 ツキ の タイハン は トウキョウ の その ベッソウ で くらして いました。 そうして かえる とき には カゾク の モノタチ、 また シンセキ の モノタチ に まで、 じつに おびただしく オミヤゲ を かって くる の が、 まあ、 チチ の シュミ みたい な もの でした。
 いつか の チチ の ジョウキョウ の ゼンヤ、 チチ は コドモ たち を キャクマ に あつめ、 コンド かえる とき には、 どんな オミヤゲ が いい か、 ヒトリヒトリ に わらいながら たずね、 それ に たいする コドモ たち の コタエ を いちいち テチョウ に かきとめる の でした。 チチ が、 こんな に コドモ たち と したしく する の は、 めずらしい こと でした。
「ヨウゾウ は?」
 と きかれて、 ジブン は、 くちごもって しまいました。
 ナニ が ほしい と きかれる と、 トタン に、 なにも ほしく なくなる の でした。 どうでも いい、 どうせ ジブン を たのしく させて くれる もの なんか ない ん だ と いう オモイ が、 ちらと うごく の です。 と、 ドウジ に、 ヒト から あたえられる もの を、 どんな に ジブン の コノミ に あわなくて も、 それ を こばむ こと も できません でした。 いや な こと を、 いや と いえず、 また、 すき な こと も、 おずおず と ぬすむ よう に、 きわめて にがく あじわい、 そうして いいしれぬ キョウフカン に もだえる の でした。 つまり、 ジブン には、 ニシャ センイツ の チカラ さえ なかった の です。 これ が、 コウネン に いたり、 いよいよ ジブン の いわゆる 「ハジ の おおい ショウガイ」 の、 ジュウダイ な ゲンイン とも なる セイヘキ の ヒトツ だった よう に おもわれます。
 ジブン が だまって、 もじもじ して いる ので、 チチ は ちょっと フキゲン な カオ に なり、
「やはり、 ホン か。 アサクサ の ナカミセ に オショウガツ の シシマイ の オシシ、 コドモ が かぶって あそぶ の には テゴロ な オオキサ の が うって いた けど、 ほしく ない か」
 ほしく ない か、 と いわれる と、 もう ダメ なん です。 おどけた ヘンジ も なにも でき や しない ん です。 オドウケ ヤクシャ は、 カンゼン に ラクダイ でした。
「ホン が、 いい でしょう」
 チョウケイ は、 マジメ な カオ を して いいました。
「そう か」
 チチ は、 キョウザメガオ に テチョウ に かきとめ も せず、 ぱちと テチョウ を とじました。
 なんと いう シッパイ、 ジブン は チチ を おこらせた、 チチ の フクシュウ は、 きっと、 おそる べき もの に ちがいない、 イマ の うち に なんとか して トリカエシ の つかぬ もの か、 と その ヨ、 フトン の ナカ で がたがた ふるえながら かんがえ、 そっと おきて キャクマ に ゆき、 チチ が センコク、 テチョウ を しまいこんだ はず の ツクエ の ヒキダシ を あけて、 テチョウ を とりあげ、 ぱらぱら めくって、 オミヤゲ の チュウモン キニュウ の カショ を みつけ、 テチョウ の エンピツ を なめて、 シシマイ、 と かいて ねました。 ジブン は その シシマイ の オシシ を、 ちっとも ほしく は なかった の です。 かえって、 ホン の ほう が いい くらい でした。 けれども、 ジブン は、 チチ が その オシシ を ジブン に かって あたえたい の だ と いう こと に キ が つき、 チチ の その イコウ に ゲイゴウ して、 チチ の キゲン を なおしたい ばかり に、 シンヤ、 キャクマ に しのびこむ と いう ボウケン を、 あえて おかした の でした。
 そうして、 この ジブン の ヒジョウ の シュダン は、 はたして オモイドオリ の ダイセイコウ を もって むくいられました。 やがて、 チチ は トウキョウ から かえって きて、 ハハ に オオゴエ で いって いる の を、 ジブン は コドモベヤ で きいて いました。
「ナカミセ の オモチャヤ で、 この テチョウ を ひらいて みたら、 これ、 ここ に、 シシマイ、 と かいて ある。 これ は、 ワタシ の ジ では ない。 はてな? と クビ を かしげて、 おもいあたりました。 これ は、 ヨウゾウ の イタズラ です よ。 アイツ は、 ワタシ が きいた とき には、 にやにや して だまって いた が、 アト で、 どうしても オシシ が ほしくて たまらなく なった ん だね。 なにせ、 どうも、 あれ は、 かわった ボウズ です から ね。 しらん フリ して、 ちゃんと かいて いる。 そんな に ほしかった の なら、 そう いえば よい のに、 ワタシ は、 オモチャヤ の ミセサキ で わらいました よ。 ヨウゾウ を はやく ここ へ よびなさい」
 また イッポウ、 ジブン は、 ゲナン や ゲジョ たち を ヨウシツ に あつめて、 ゲナン の ヒトリ に めちゃくちゃ に ピアノ の キー を たたかせ、 (イナカ では ありました が、 その イエ には、 タイテイ の もの が、 そろって いました) ジブン は その デタラメ の キョク に あわせて、 インデヤン の オドリ を おどって みせて、 ミナ を オオワライ させました。 ジケイ は、 フラッシュ を たいて、 ジブン の インデヤン オドリ を サツエイ して、 その シャシン が できた の を みる と、 ジブン の コシヌノ (それ は サラサ の フロシキ でした) の アワセメ から、 ちいさい オチンポ が みえて いた ので、 これ が また イエジュウ の オオワライ でした。 ジブン に とって、 これ また イガイ の セイコウ と いう べき もの だった かも しれません。
 ジブン は マイツキ、 シンカン の ショウネン ザッシ を 10 サツ イジョウ も、 とって いて、 また その ホカ にも、 サマザマ の ホン を トウキョウ から とりよせて だまって よんで いました ので、 メチャラクチャラ ハカセ だの、 また、 ナンジャモンジャ ハカセ など とは、 タイヘン な ナジミ で、 また、 カイダン、 コウダン、 ラクゴ、 エド コバナシ など の タグイ にも、 かなり つうじて いました から、 ヒョウキン な こと を マジメ な カオ を して いって、 イエ の モノタチ を わらわせる の には コト を かきません でした。
 しかし、 ああ、 ガッコウ!
 ジブン は、 そこ では、 ソンケイ されかけて いた の です。 ソンケイ される と いう カンネン も また、 はなはだ ジブン を、 おびえさせました。 ほとんど カンゼン に ちかく ヒト を だまして、 そうして、 ある ヒトリ の ゼンチ ゼンノウ の モノ に みやぶられ、 コッパ ミジン に やられて、 しぬる イジョウ の アカハジ を かかせられる、 それ が、 「ソンケイ される」 と いう ジョウタイ の ジブン の テイギ で ありました。 ニンゲン を だまして、 「ソンケイ され」 て も、 ダレ か ヒトリ が しって いる、 そうして、 ニンゲン たち も、 やがて、 その ヒトリ から おしえられて、 だまされた こと に きづいた とき、 その とき の ニンゲン たち の イカリ、 フクシュウ は、 いったい、 まあ、 どんな でしょう か。 ソウゾウ して さえ、 ミノケ が よだつ ココチ が する の です。
 ジブン は、 カネモチ の イエ に うまれた と いう こと より も、 ぞくに いう 「できる」 こと に よって、 ガッコウ-ジュウ の ソンケイ を えそう に なりました。 ジブン は、 コドモ の コロ から ビョウジャク で、 よく ヒトツキ フタツキ、 また 1 ガクネン ちかく も ねこんで ガッコウ を やすんだ こと さえ あった の です が、 それでも、 ヤミアガリ の カラダ で ジンリキシャ に のって ガッコウ へ ゆき、 ガクネンマツ の シケン を うけて みる と、 クラス の ダレ より も いわゆる 「できて」 いる よう でした。 カラダグアイ の よい とき でも、 ジブン は、 さっぱり ベンキョウ せず、 ガッコウ へ いって も ジュギョウ ジカン に マンガ など を かき、 キュウケイ ジカン には それ を クラス の モノタチ に セツメイ して きかせて、 わらわせて やりました。 また、 ツヅリカタ には、 コッケイバナシ ばかり かき、 センセイ から チュウイ されて も、 しかし、 ジブン は、 やめません でした。 センセイ は、 じつは こっそり ジブン の その コッケイバナシ を タノシミ に して いる こと を ジブン は、 しって いた から でした。 ある ヒ、 ジブン は、 レイ に よって、 ジブン が ハハ に つれられて ジョウキョウ の トチュウ の キシャ で、 オシッコ を キャクシャ の ツウロ に ある タンツボ に して しまった シッパイダン (しかし、 その ジョウキョウ の とき に、 ジブン は タンツボ と しらず に した の では ありません でした。 コドモ の ムジャキ を てらって、 わざと、 そうした の でした) を、 ことさら に かなしそう な ヒッチ で かいて テイシュツ し、 センセイ は、 きっと わらう と いう ジシン が ありました ので、 ショクインシツ に ひきあげて ゆく センセイ の アト を、 そっと つけて ゆきましたら、 センセイ は、 キョウシツ を でる と すぐ、 ジブン の その ツヅリカタ を、 ホカ の クラス の モノタチ の ツヅリカタ の ナカ から えらびだし、 ロウカ を あるきながら よみはじめて、 くすくす わらい、 やがて ショクインシツ に はいって よみおえた の か、 カオ を マッカ に して オオゴエ を あげて わらい、 ホカ の センセイ に、 さっそく それ を よませて いる の を みとどけ、 ジブン は、 たいへん マンゾク でした。
 オチャメ。
 ジブン は、 いわゆる オチャメ に みられる こと に セイコウ しました。 ソンケイ される こと から、 のがれる こと に セイコウ しました。 ツウシンボ は ゼン-ガッカ とも 10 テン でした が、 ソウコウ と いう もの だけ は、 7 テン だったり、 6 テン だったり して、 それ も また イエジュウ の オオワライ の タネ でした。
 けれども ジブン の ホンショウ は、 そんな オチャメサン など とは、 およそ タイセキテキ な もの でした。 その コロ、 すでに ジブン は、 ジョチュウ や ゲナン から、 かなしい こと を おしえられ、 おかされて いました。 ヨウショウ の モノ に たいして、 そのよう な こと を おこなう の は、 ニンゲン の おこないうる ハンザイ の ナカ で もっとも シュウアク で カトウ で、 ザンコク な ハンザイ だ と、 ジブン は イマ では おもって います。 しかし、 ジブン は、 しのびました。 これ で また ヒトツ、 ニンゲン の トクシツ を みた と いう よう な キモチ さえ して、 そうして、 ちからなく わらって いました。 もし ジブン に、 ホントウ の こと を いう シュウカン が ついて いた なら、 わるびれず、 カレラ の ハンザイ を チチ や ハハ に うったえる こと が できた の かも しれません が、 しかし、 ジブン は、 その チチ や ハハ をも ゼンブ は リカイ する こと が できなかった の です。 ニンゲン に うったえる、 ジブン は、 その シュダン には すこしも キタイ できません でした。 チチ に うったえて も、 ハハ に うったえて も、 オマワリ に うったえて も、 セイフ に うったえて も、 けっきょく は ヨワタリ に つよい ヒト の、 セケン に トオリ の いい イイブン に いいまくられる だけ の こと では ない かしら。
 かならず カタテオチ の ある の が、 わかりきって いる、 しょせん、 ニンゲン に うったえる の は ムダ で ある、 ジブン は やはり、 ホントウ の こと は なにも いわず、 しのんで、 そうして オドウケ を つづけて いる より ほか、 ない キモチ なの でした。
 ナン だ、 ニンゲン への フシン を いって いる の か? へえ? オマエ は いつ クリスチャン に なった ん だい、 と チョウショウ する ヒト も あるいは ある かも しれません が、 しかし、 ニンゲン への フシン は、 かならずしも すぐに シュウキョウ の ミチ に つうじて いる とは かぎらない と、 ジブン には おもわれる の です けど。 げんに その チョウショウ する ヒト をも ふくめて、 ニンゲン は、 オタガイ の フシン の ナカ で、 エホバ も なにも ネントウ に おかず、 ヘイキ で いきて いる では ありません か。 やはり、 ジブン の ヨウショウ の コロ の こと で ありました が、 チチ の ぞくして いた ある セイトウ の ユウメイジン が、 この マチ に エンゼツ に きて、 ジブン は ゲナン たち に つれられて ゲキジョウ に きき に ゆきました。 マンイン で、 そうして、 この マチ の とくに チチ と したしく して いる ヒトタチ の カオ は ミナ、 みえて、 おおいに ハクシュ など して いました。 エンゼツ が すんで、 チョウシュウ は ユキ の ヨミチ を さんさんごご かたまって イエジ に つき、 くそみそ に コンヤ の エンゼツカイ の ワルクチ を いって いる の でした。 ナカ には、 チチ と とくに したしい ヒト の コエ も まじって いました。 チチ の カイカイ の ジ も ヘタ、 レイ の ユウメイジン の エンゼツ も ナニ が なにやら、 ワケ が わからぬ、 と その いわゆる チチ の 「ドウシ たち」 が ドセイ に にた クチョウ で いって いる の です。 そうして その ヒトタチ は、 ジブン の ウチ に たちよって キャクマ に あがりこみ、 コンヤ の エンゼツカイ は ダイセイコウ だった と、 しんから うれしそう な カオ を して チチ に いって いました。 ゲナン たち まで、 コンヤ の エンゼツカイ は どう だった と ハハ に きかれ、 とても おもしろかった、 と いって けろり と して いる の です。 エンゼツカイ ほど おもしろく ない もの は ない、 と かえる みちみち、 ゲナン たち が なげきあって いた の です。
 しかし、 こんな の は、 ほんの ささやか な イチレイ に すぎません。 たがいに あざむきあって、 しかも いずれ も フシギ に なんの キズ も つかず、 あざむきあって いる こと に さえ キ が ついて いない みたい な、 じつに あざやか な、 それこそ きよく あかるく ほがらか な フシン の レイ が、 ニンゲン の セイカツ に ジュウマン して いる よう に おもわれます。 けれども、 ジブン には、 あざむきあって いる と いう こと には、 さして トクベツ の キョウミ も ありません。 ジブン だって、 オドウケ に よって、 アサ から バン まで ニンゲン を あざむいて いる の です。 ジブン は、 シュウシン キョウカショ-テキ な セイギ とか なんとか いう ドウトク には、 あまり カンシン を もてない の です。 ジブン には、 あざむきあって いながら、 きよく あかるく ほがらか に いきて いる、 あるいは いきうる ジシン を もって いる みたい な ニンゲン が ナンカイ なの です。 ニンゲン は、 ついに ジブン に その ミョウテイ を おしえて は くれません でした。 それ さえ わかったら、 ジブン は、 ニンゲン を こんな に キョウフ し、 また、 ヒッシ の サーヴィス など しなくて、 すんだ の でしょう。 ニンゲン の セイカツ と タイリツ して しまって、 ヨヨ の ジゴク の これほど の クルシミ を なめず に すんだ の でしょう。 つまり、 ジブン が ゲナン ゲジョ たち の にくむ べき あの ハンザイ を さえ、 ダレ にも うったえなかった の は、 ニンゲン への フシン から では なく、 また もちろん クリスト シュギ の ため でも なく、 ニンゲン が、 ヨウゾウ と いう ジブン に たいして シンヨウ の カラ を かたく とじて いた から だった と おもいます。 フボ で さえ、 ジブン に とって ナンカイ な もの を、 ときおり、 みせる こと が あった の です から。
 そうして、 その、 ダレ にも うったえない、 ジブン の コドク の ニオイ が、 オオク の ジョセイ に、 ホンノウ に よって かぎあてられ、 コウネン さまざま、 ジブン が つけこまれる ユウイン の ヒトツ に なった よう な キ も する の です。
 つまり、 ジブン は、 ジョセイ に とって、 コイ の ヒミツ を まもれる オトコ で あった と いう わけ なの でした。
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ニンゲン シッカク 2

2017-04-04 | ダザイ オサム
 ダイニ の シュキ

 ウミ の、 ナミウチギワ、 と いって も いい くらい に ウミ に ちかい キシベ に、 まっくろい キハダ の ヤマザクラ の、 かなり おおきい の が 20 ポン イジョウ も たちならび、 シンガクネン が はじまる と、 ヤマザクラ は、 カッショク の ねばっこい よう な ワカバ と ともに、 あおい ウミ を ハイケイ に して、 その けんらん たる ハナ を ひらき、 やがて、 ハナフブキ の とき には、 ハナビラ が おびただしく ウミ に ちりこみ、 カイメン を ちりばめて ただよい、 ナミ に のせられ ふたたび ナミウチギワ に うちかえされる、 その サクラ の スナハマ が、 そのまま コウテイ と して シヨウ せられて いる トウホク の ある チュウガッコウ に、 ジブン は ジュケン ベンキョウ も ろくに しなかった のに、 どうやら ブジ に ニュウガク できました。 そうして、 その チュウガク の セイボウ の キショウ にも、 セイフク の ボタン にも、 サクラ の ハナ が ズアンカ せられて さいて いました。
 その チュウガッコウ の すぐ チカク に、 ジブン の ウチ と とおい シンセキ に あたる モノ の イエ が ありました ので、 その リユウ も あって、 チチ が その ウミ と サクラ の チュウガッコウ を ジブン に えらんで くれた の でした。 ジブン は、 その イエ に あずけられ、 なにせ ガッコウ の すぐ チカク なので、 チョウレイ の カネ の なる の を きいて から、 はしって トウコウ する と いう よう な、 かなり タイダ な チュウガクセイ でした が、 それでも、 レイ の オドウケ に よって、 ヒイチニチ と クラス の ニンキ を えて いました。
 うまれて はじめて、 いわば タキョウ へ でた わけ なの です が、 ジブン には、 その タキョウ の ほう が、 ジブン の ウマレコキョウ より も、 ずっと キラク な バショ の よう に おもわれました。 それ は、 ジブン の オドウケ も その コロ には いよいよ ぴったり ミ に ついて きて、 ヒト を あざむく の に イゼン ほど の クロウ を ヒツヨウ と しなく なって いた から で ある、 と カイセツ して も いい でしょう が、 しかし、 それ より も、 ニクシン と タニン、 コキョウ と タキョウ、 そこ には ぬく べからざる エンギ の ナンイ の サ が、 どのよう な テンサイ に とって も、 たとい カミ の コ の イエス に とって も、 ソンザイ して いる もの なの では ない でしょう か。 ハイユウ に とって、 もっとも えんじにくい バショ は、 コキョウ の ゲキジョウ で あって、 しかも ロクシン ケンゾク ゼンブ そろって すわって いる ヒトヘヤ の ナカ に あって は、 いかな メイユウ も エンギ どころ では なくなる の では ない でしょう か。 けれども ジブン は えんじて きました。 しかも、 それ が、 かなり の セイコウ を おさめた の です。 それほど の クセモノ が、 タキョウ に でて、 マンガイチ にも えんじそこねる など と いう こと は ない わけ でした。
 ジブン の ニンゲン キョウフ は、 それ は イゼン に まさる とも おとらぬ くらい はげしく ムネ の ソコ で ゼンドウ して いました が、 しかし、 エンギ は じつに のびのび と して きて、 キョウシツ に あって は、 いつも クラス の モノタチ を わらわせ、 キョウシ も、 この クラス は オオバ さえ いない と、 とても いい クラス なん だ が、 と コトバ では たんじながら、 テ で クチ を おおって わらって いました。 ジブン は、 あの カミナリ の ごとき バンセイ を はりあげる ハイゾク ショウコウ を さえ、 じつに ヨウイ に ふきださせる こと が できた の です。
 もはや、 ジブン の ショウタイ を カンゼン に インペイ しえた の では あるまい か、 と ほっと しかけた ヤサキ に、 ジブン は じつに イガイ にも ハイゴ から つきさされました。 それ は、 ハイゴ から つきさす オトコ の ゴタブン に もれず、 クラス で もっとも ヒンジャク な ニクタイ を して、 カオ も アオブクレ で、 そうして たしか に フケイ の オフル と おもわれる ソデ が ショウトク タイシ の ソデ みたい に ながすぎる ウワギ を きて、 ガッカ は すこしも できず、 キョウレン や タイソウ は いつも ケンガク と いう ハクチ に にた セイト でした。 ジブン も さすが に、 その セイト に さえ ケイカイ する ヒツヨウ は みとめて いなかった の でした。
 その ヒ、 タイソウ の ジカン に、 その セイト (セイ は イマ キオク して いません が、 ナ は タケイチ と いった か と おぼえて います) その タケイチ は、 レイ に よって ケンガク、 ジブン たち は テツボウ の レンシュウ を させられて いました。 ジブン は、 わざと できる だけ ゲンシュク な カオ を して、 テツボウ めがけて、 えいっ と さけんで とび、 そのまま ハバトビ の よう に ゼンポウ へ とんで しまって、 スナジ に どすん と シリモチ を つきました。 すべて、 ケイカクテキ な シッパイ でした。 はたして ミナ の オオワライ に なり、 ジブン も クショウ しながら おきあがって ズボン の スナ を はらって いる と、 いつ そこ へ きて いた の か、 タケイチ が ジブン の セナカ を つつき、 ひくい コエ で こう ささやきました。
「ワザ。 ワザ」
 ジブン は シンカン しました。 わざと シッパイ した と いう こと を、 ヒト も あろう に、 タケイチ に みやぶられる とは まったく おもい も かけない こと でした。 ジブン は、 セカイ が イッシュン に して ジゴク の ゴウカ に つつまれて もえあがる の を ガンゼン に みる よう な ココチ が して、 わあっ! と さけんで ハッキョウ しそう な ケハイ を ヒッシ の チカラ で おさえました。
 それから の ヒビ の、 ジブン の フアン と キョウフ。
 ヒョウメン は あいかわらず かなしい オドウケ を えんじて ミナ を わらわせて いました が、 ふっと おもわず おもくるしい タメイキ が でて、 ナニ を したって すべて タケイチ に コッパ ミジン に みやぶられて いて、 そうして あれ は、 その うち に きっと ダレカレ と なく、 それ を いいふらして あるく に ちがいない の だ、 と かんがえる と、 ヒタイ に じっとり アブラアセ が わいて きて、 キョウジン みたい に ミョウ な メツキ で、 アタリ を きょろきょろ むなしく みまわしたり しました。 できる こと なら、 アサ、 ヒル、 バン、 シロクジチュウ、 タケイチ の ソバ から はなれず カレ が ヒミツ を くちばしらない よう に カンシ して いたい キモチ でした。 そうして、 ジブン が、 カレ に まつわりついて いる アイダ に、 ジブン の オドウケ は、 いわゆる 「ワザ」 では なくて、 ホンモノ で あった と いう よう おもいこませる よう に あらゆる ドリョク を はらい、 あわよくば、 カレ と ムニ の シンユウ に なって しまいたい もの だ、 もし、 その こと が みな、 フカノウ なら、 もはや、 カレ の シ を いのる より ホカ は ない、 と さえ おもいつめました。 しかし、 さすが に、 カレ を ころそう と いう キ だけ は おこりません でした。 ジブン は、 これまで の ショウガイ に おいて、 ヒト に ころされたい と ガンボウ した こと は イクド と なく ありました が、 ヒト を ころしたい と おもった こと は、 イチド も ありません でした。 それ は、 おそる べき アイテ に、 かえって コウフク を あたえる だけ の こと だ と かんがえて いた から です。
 ジブン は、 カレ を てなずける ため、 まず、 カオ に ニセ-クリスチャン の よう な 「やさしい」 ビショウ を たたえ、 クビ を 30 ド くらい ヒダリ に まげて、 カレ の ちいさい カタ を かるく だき、 そうして ネコナデゴエ に にた あまったるい コエ で、 カレ を ジブン の キシュク して いる イエ に あそび に くる よう しばしば さそいました が、 カレ は、 いつも、 ぼんやり した メツキ を して、 だまって いました。 しかし、 ジブン は、 ある ヒ の ホウカゴ、 たしか ショカ の コロ の こと でした、 ユウダチ が しろく ふって、 セイト たち は キタク に こまって いた よう でした が、 ジブン は イエ が すぐ チカク なので ヘイキ で ソト へ とびだそう と して、 ふと ゲタバコ の カゲ に、 タケイチ が しょんぼり たって いる の を みつけ、 いこう、 カサ を かして あげる、 と いい、 おくする タケイチ の テ を ひっぱって、 イッショ に ユウダチ の ナカ を はしり、 イエ に ついて、 フタリ の ウワギ を オバサン に かわかして もらう よう に たのみ、 タケイチ を 2 カイ の ジブン の ヘヤ に さそいこむ の に セイコウ しました。
 その イエ には、 50-スギ の オバサン と、 30 くらい の、 メガネ を かけて、 ビョウシン らしい セ の たかい アネムスメ (この ムスメ は、 イチド ヨソ へ オヨメ に いって、 それから また、 イエ へ かえって いる ヒト でした。 ジブン は、 この ヒト を、 ここ の イエ の ヒトタチ に ならって、 アネサ と よんで いました) それ と、 サイキン ジョガッコウ を ソツギョウ した ばかり らしい、 セッチャン と いう アネ に にず セ が ひくく マルガオ の イモウトムスメ と、 3 ニン だけ の カゾク で、 シタ の ミセ には、 ブンボウグ やら ウンドウ ヨウグ を しょうしょう ならべて いました が、 おも な シュウニュウ は、 なくなった シュジン が たてて のこして いった 5~6 ムネ の ナガヤ の ヤチン の よう でした。
「ミミ が いたい」
 タケイチ は、 たった まま で そう いいました。
「アメ に ぬれたら、 いたく なった よ」
 ジブン が、 みて みる と、 リョウホウ の ミミ が、 ひどい ミミダレ でした。 ウミ が、 いまにも ジカク の ソト に ながれでよう と して いました。
「これ は、 いけない。 いたい だろう」
 と ジブン は おおげさ に おどろいて みせて、
「アメ の ナカ を、 ひっぱりだしたり して、 ごめん ね」
 と オンナ の コトバ みたい な コトバ を つかって 「やさしく」 あやまり、 それから、 シタ へ いって ワタ と アルコール を もらって きて、 タケイチ を ジブン の ヒザ を マクラ に して ねかせ、 ネンイリ に ミミ の ソウジ を して やりました。 タケイチ も、 さすが に、 これ が ギゼン の アッケイ で ある こと には きづかなかった よう で、
「オマエ は、 きっと、 オンナ に ほれられる よ」
 と ジブン の ヒザマクラ で ねながら、 ムチ な オセジ を いった くらい でした。
 しかし これ は、 おそらく、 あの タケイチ も イシキ しなかった ほど の、 おそろしい アクマ の ヨゲン の よう な もの だった と いう こと を、 ジブン は コウネン に いたって おもいしりました。 ほれる と いい、 ほれられる と いい、 その コトバ は ひどく ゲヒン で、 ふざけて、 いかにも、 やにさがった もの の カンジ で、 どんな に いわゆる 「ゲンシュク」 の バ で あって も、 そこ へ この コトバ が ヒトコト でも ひょいと カオ を だす と、 みるみる ユウウツ の ガラン が ホウカイ し、 ただ ノッペラボウ に なって しまう よう な ココチ が する もの です けれども、 ほれられる ツラサ、 など と いう ゾクゴ で なく、 あいせられる フアン、 と でも いう ブンガクゴ を もちいる と、 あながち ユウウツ の ガラン を ぶちこわす こと には ならない よう です から、 キミョウ な もの だ と おもいます。
 タケイチ が、 ジブン に ミミダレ の ウミ の シマツ を して もらって、 オマエ は ほれられる と いう バカ な オセジ を いい、 ジブン は その とき、 ただ カオ を あからめて わらって、 なにも こたえません でした けれども、 しかし、 じつは、 ひそか に おもいあたる ところ も あった の でした。 でも、 「ほれられる」 と いう よう な ヤヒ な コトバ に よって しょうじる やにさがった フンイキ に たいして、 そう いわれる と、 おもいあたる ところ も ある、 など と かく の は、 ほとんど ラクゴ の ワカダンナ の セリフ に さえ ならぬ くらい、 おろかしい カンカイ を しめす よう な もの で、 まさか、 ジブン は、 そんな ふざけた、 やにさがった キモチ で、 「おもいあたる ところ も あった」 わけ では ない の です。
 ジブン には、 ニンゲン の ジョセイ の ほう が、 ダンセイ より も さらに スウバイ ナンカイ でした。 ジブン の カゾク は、 ジョセイ の ほう が ダンセイ より も カズ が おおく、 また シンセキ にも、 オンナ の コ が たくさん あり、 また レイ の 「ハンザイ」 の ジョチュウ など も いまして、 ジブン は おさない とき から、 オンナ と ばかり あそんで そだった と いって も カゴン では ない と おもって います が、 それ は、 また、 しかし、 じつに、 ハクヒョウ を ふむ オモイ で、 その オンナ の ヒトタチ と つきあって きた の です。 ほとんど、 まるで ケントウ が、 つかない の です。 ゴリムチュウ で、 そうして ときたま、 トラ の オ を ふむ シッパイ を して、 ひどい イタデ を おい、 それ が また、 ダンセイ から うける ムチ と ちがって、 ナイシュッケツ みたい に キョクド に フカイ に ナイコウ して、 なかなか チユ しがたい キズ でした。
 オンナ は ひきよせて、 つっぱなす、 あるいは また、 オンナ は、 ヒト の いる ところ では ジブン を さげすみ、 ジャケン に し、 ダレ も いなく なる と、 ひしと だきしめる、 オンナ は しんだ よう に ふかく ねむる、 オンナ は ねむる ため に いきて いる の では ない かしら、 その ホカ、 オンナ に ついて の サマザマ の カンサツ を、 すでに ジブン は、 ヨウネン ジダイ から えて いた の です が、 おなじ ジンルイ の よう で ありながら、 オトコ とは また、 まったく ことなった イキモノ の よう な カンジ で、 そうして また、 この フカカイ で ユダン の ならぬ イキモノ は、 キミョウ に ジブン を かまう の でした。 「ほれられる」 なんて いう コトバ も、 また 「すかれる」 と いう コトバ も、 ジブン の バアイ には ちっとも、 ふさわしく なく、 「かまわれる」 と でも いった ほう が、 まだしも ジツジョウ の セツメイ に てきして いる かも しれません。
 オンナ は、 オトコ より も さらに、 ドウケ には、 くつろぐ よう でした。 ジブン が オドウケ を えんじ、 オトコ は さすが に いつまでも げらげら わらって も いません し、 それに ジブン も オトコ の ヒト に たいし、 チョウシ に のって あまり オドウケ を えんじすぎる と シッパイ する と いう こと を しって いました ので、 かならず テキトウ の ところ で きりあげる よう に こころがけて いました が、 オンナ は テキド と いう こと を しらず、 いつまでも いつまでも、 ジブン に オドウケ を ヨウキュウ し、 ジブン は その かぎりない アンコール に おうじて、 へとへと に なる の でした。 じつに、 よく わらう の です。 イッタイ に、 オンナ は、 オトコ より も カイラク を ヨケイ に ほおばる こと が できる よう です。
 ジブン が チュウガク ジダイ に セワ に なった その イエ の アネムスメ も、 イモウトムスメ も、 ヒマ さえ あれば、 2 カイ の ジブン の ヘヤ に やって きて、 ジブン は その たび ごと に とびあがらん ばかり に ぎょっと して、 そうして、 ひたすら おびえ、
「オベンキョウ?」
「いいえ」
 と ビショウ して ホン を とじ、
「キョウ ね、 ガッコウ で ね、 コンボウ と いう チリ の センセイ が ね」
 と するする クチ から ながれでる もの は、 ココロ にも ない コッケイバナシ でした。
「ヨウ ちゃん、 メガネ を かけて ごらん」
 ある バン、 イモウトムスメ の セッチャン が、 アネサ と イッショ に ジブン の ヘヤ へ あそび に きて、 さんざん ジブン に オドウケ を えんじさせた アゲク の ハテ に、 そんな こと を いいだしました。
「なぜ?」
「いい から、 かけて ごらん。 アネサ の メガネ を かりなさい」
 いつでも、 こんな ランボウ な メイレイ クチョウ で いう の でした。 ドウケシ は、 すなお に アネサ の メガネ を かけました。 トタン に、 フタリ の ムスメ は、 わらいころげました。
「そっくり。 ロイド に、 そっくり」
 トウジ、 ハロルド ロイド とか いう ガイコク の エイガ の キゲキ ヤクシャ が、 ニホン で ニンキ が ありました。
 ジブン は たって カタテ を あげ、
「ショクン」
 と いい、
「このたび、 ニッポン の ファン の ミナサマガタ に、……」
 と イチジョウ の アイサツ を こころみ、 さらに オオワライ させて、 それから、 ロイド の エイガ が その マチ の ゲキジョウ に くる たび ごと に み に いって、 ひそか に カレ の ヒョウジョウ など を ケンキュウ しました。
 また、 ある アキ の ヨル、 ジブン が ねながら ホン を よんで いる と、 アネサ が トリ の よう に すばやく ヘヤ へ はいって きて、 いきなり ジブン の カケブトン の ウエ に たおれて なき、
「ヨウ ちゃん が、 アタシ を たすけて くれる の だ わね。 そう だ わね。 こんな ウチ、 イッショ に でて しまった ほう が いい の だわ。 たすけて ね。 たすけて」
 など と、 はげしい こと を くちばしって は、 また なく の でした。 けれども、 ジブン には、 オンナ から、 こんな タイド を みせつけられる の は、 これ が サイショ では ありません でした ので、 アネサ の カゲキ な コトバ にも、 さして おどろかず、 かえって その チンプ、 ムナイヨウ に キョウ が さめた ココチ で、 そっと フトン から ぬけだし、 ツクエ の ウエ の カキ を むいて、 その ヒトキレ を アネサ に てわたして やりました。 すると、 アネサ は、 しゃくりあげながら その カキ を たべ、
「ナニ か おもしろい ホン が ない? かして よ」
 と いいました。
 ジブン は ソウセキ の 「ワガハイ は ネコ で ある」 と いう ホン を、 ホンダナ から えらんで あげました。
「ごちそうさま」
 アネサ は、 はずかしそう に わらって ヘヤ から でて ゆきました が、 この アネサ に かぎらず、 いったい オンナ は、 どんな キモチ で いきて いる の か を かんがえる こと は、 ジブン に とって、 ミミズ の オモイ を さぐる より も、 ややこしく、 わずらわしく、 ウスキミ の わるい もの に かんぜられて いました。 ただ、 ジブン は、 オンナ が あんな に キュウ に なきだしたり した バアイ、 ナニ か あまい もの を てわたして やる と、 それ を たべて キゲン を なおす と いう こと だけ は、 おさない とき から、 ジブン の ケイケン に よって しって いました。
 また、 イモウトムスメ の セッチャン は、 その トモダチ まで ジブン の ヘヤ に つれて きて、 ジブン が レイ に よって コウヘイ に ミナ を わらわせ、 トモダチ が かえる と、 セッチャン は、 かならず その トモダチ の ワルクチ を いう の でした。 あの ヒト は フリョウ ショウジョ だ から、 キ を つける よう に、 と きまって いう の でした。 そんなら、 わざわざ つれて こなければ、 よい のに、 おかげで ジブン の ヘヤ の ライキャク の、 ほとんど ゼンブ が オンナ、 と いう こと に なって しまいました。
 しかし、 それ は、 タケイチ の オセジ の 「ほれられる」 こと の ジツゲン では まだ けっして なかった の でした。 つまり、 ジブン は、 ニホン の トウホク の ハロルド ロイド に すぎなかった の です。 タケイチ の ムチ な オセジ が、 いまわしい ヨゲン と して、 なまなま と いきて きて、 フキツ な ケイボウ を ていする よう に なった の は、 さらに それから、 スウネン たった ノチ の こと で ありました。
 タケイチ は、 また、 ジブン に もう ヒトツ、 ジュウダイ な オクリモノ を して いました。
「オバケ の エ だよ」
 いつか タケイチ が、 ジブン の 2 カイ へ あそび に きた とき、 ゴジサン の、 1 マイ の ゲンショクバン の クチエ を トクイ そう に ジブン に みせて、 そう セツメイ しました。
 おや? と おもいました。 その シュンカン、 ジブン の おちゆく ミチ が ケッテイ せられた よう に、 コウネン に いたって、 そんな キ が して なりません。 ジブン は、 しって いました。 それ は、 ゴッホ の レイ の ジガゾウ に すぎない の を しって いました。 ジブン たち の ショウネン の コロ には、 ニホン では フランス の いわゆる インショウハ の エ が ダイリュウコウ して いて、 ヨウガ カンショウ の ダイイッポ を、 たいてい この アタリ から はじめた もの で、 ゴッホ、 ゴーギャン、 セザンヌ、 ルナール など と いう ヒト の エ は、 イナカ の チュウガクセイ でも、 たいてい その シャシンバン を みて しって いた の でした。 ジブン など も、 ゴッホ の ゲンショクバン を かなり たくさん みて、 タッチ の オモシロサ、 シキサイ の アザヤカサ に キョウシュ を おぼえて は いた の です が、 しかし、 オバケ の エ、 だ とは、 イチド も かんがえた こと が なかった の でした。
「では、 こんな の は、 どう かしら。 やっぱり、 オバケ かしら」
 ジブン は ホンダナ から、 モジリアニ の ガシュウ を だし、 やけた シャクドウ の よう な ハダ の、 レイ の ラフ の ゾウ を タケイチ に みせました。
「すげえ なあ」
 タケイチ は メ を まるく して カンタン しました。
「ジゴク の ウマ みたい」
「やっぱり、 オバケ かね」
「オレ も、 こんな オバケ の エ が かきたい よ」
 あまり に ニンゲン を キョウフ して いる ヒトタチ は、 かえって、 もっと もっと、 おそろしい ヨウカイ を カクジツ に この メ で みたい と ガンボウ する に いたる シンリ、 シンケイシツ な、 モノ に おびえやすい ヒト ほど、 ボウフウウ の さらに つよからん こと を いのる シンリ、 ああ、 この イチグン の ガカ たち は、 ニンゲン と いう バケモノ に いためつけられ、 おびやかされた アゲク の ハテ、 ついに ゲンエイ を しんじ、 ハクチュウ の シゼン の ナカ に、 ありあり と ヨウカイ を みた の だ、 しかも カレラ は、 それ を ドウケ など で ごまかさず、 みえた まま の ヒョウゲン に ドリョク した の だ、 タケイチ の いう よう に、 かんぜん と 「オバケ の エ」 を かいて しまった の だ、 ここ に ショウライ の ジブン の、 ナカマ が いる、 と ジブン は、 ナミダ が でた ほど に コウフン し、
「ボク も かく よ。 オバケ の エ を かく よ。 ジゴク の ウマ を、 かく よ」
 と、 なぜ だ か、 ひどく コエ を ひそめて、 タケイチ に いった の でした。
 ジブン は、 ショウガッコウ の コロ から、 エ は かく の も、 みる の も すき でした。 けれども、 ジブン の かいた エ は、 ジブン の ツヅリカタ ほど には、 シュウイ の ヒョウバン が、 よく ありません でした。 ジブン は、 どだい ニンゲン の コトバ を いっこう に シンヨウ して いません でした ので、 ツヅリカタ など は、 ジブン に とって、 ただ オドウケ の ゴアイサツ みたい な もの で、 ショウガッコウ、 チュウガッコウ、 と つづいて センセイ たち を キョウキ させて きました が、 しかし、 ジブン では、 さっぱり おもしろく なく、 エ だけ は、 (マンガ など は ベツ です けれども) その タイショウ の ヒョウゲン に、 おさない ガリュウ ながら、 タショウ の クシン を はらって いました。 ガッコウ の ズガ の オテホン は つまらない し、 センセイ の エ は ヘタクソ だし、 ジブン は、 まったく デタラメ に サマザマ の ヒョウゲンホウ を ジブン で クフウ して こころみなければ ならない の でした。 チュウガッコウ へ はいって、 ジブン は アブラエ の ドウグ も ヒトソロイ もって いました が、 しかし、 その タッチ の テホン を、 インショウハ の ガフウ に もとめて も、 ジブン の かいた もの は、 まるで チヨガミ-ザイク の よう に のっぺり して、 モノ に なりそう も ありません でした。 けれども ジブン は、 タケイチ の コトバ に よって、 ジブン の それまで の カイガ に たいする ココロガマエ が、 まるで まちがって いた こと に キ が つきました。 うつくしい と かんじた もの を、 そのまま うつくしく ヒョウゲン しよう と ドリョク する アマサ、 オロカシサ。 マイスター たち は、 なんでも ない もの を、 シュカン に よって うつくしく ソウゾウ し、 あるいは みにくい もの に オウト を もよおしながら も、 それ に たいする キョウミ を かくさず、 ヒョウゲン の ヨロコビ に ひたって いる、 つまり、 ヒト の オモワク に すこしも たよって いない らしい と いう、 ガホウ の プリミチヴ な トラ の マキ を、 タケイチ から、 さずけられて、 レイ の オンナ の ライキャク たち には かくして、 すこし ずつ、 ジガゾウ の セイサク に とりかかって みました。
 ジブン でも、 ぎょっと した ほど、 インサン な エ が できあがりました。 しかし、 これ こそ ムナソコ に ヒタカクシ に かくして いる ジブン の ショウタイ なの だ、 オモテ は ヨウキ に わらい、 また ヒト を わらわせて いる けれども、 じつは、 こんな インウツ な ココロ を ジブン は もって いる の だ、 シカタ が ない、 と ひそか に コウテイ し、 けれども その エ は、 タケイチ イガイ の ヒト には、 さすが に ダレ にも みせません でした。 ジブン の オドウケ の ソコ の インサン を みやぶられ、 キュウ に けちくさく ケイカイ せられる の も いや でした し、 また、 これ を ジブン の ショウタイ とも きづかず、 やっぱり シンシュコウ の オドウケ と みなされ、 オオワライ の タネ に せられる かも しれぬ と いう ケネン も あり、 それ は ナニ より も つらい こと でした ので、 その エ は すぐに オシイレ の おくふかく しまいこみました。
 また、 ガッコウ の ズガ の ジカン にも、 ジブン は あの 「オバケ-シキ シュホウ」 は ひめて、 イマ まで-どおり の うつくしい もの を うつくしく かく-シキ の ボンヨウ な タッチ で かいて いました。
 ジブン は タケイチ に だけ は、 マエ から ジブン の いたみやすい シンケイ を ヘイキ で みせて いました し、 コンド の ジガゾウ も アンシン して タケイチ に みせ、 たいへん ほめられ、 さらに 2 マイ 3 マイ と、 オバケ の エ を かきつづけ、 タケイチ から もう ヒトツ の、
「オマエ は、 えらい エカキ に なる」
 と いう ヨゲン を えた の でした。
 ほれられる と いう ヨゲン と、 えらい エカキ に なる と いう ヨゲン と、 この フタツ の ヨゲン を バカ の タケイチ に よって ヒタイ に コクイン せられて、 やがて、 ジブン は トウキョウ へ でて きました。
 ジブン は、 ビジュツ ガッコウ に はいりたかった の です が、 チチ は、 マエ から ジブン を コウトウ ガッコウ に いれて、 スエ は カンリ に する つもり で、 ジブン にも それ を いいわたして あった ので、 クチゴタエ ヒトツ できない タチ の ジブン は、 ぼんやり それ に したがった の でした。 4 ネン から うけて みよ、 と いわれた ので、 ジブン も サクラ と ウミ の チュウガク は もう いいかげん あきて いました し、 5 ネン に シンキュウ せず、 4 ネン シュウリョウ の まま で、 トウキョウ の コウトウ ガッコウ に ジュケン して ゴウカク し、 すぐに リョウセイカツ に はいりました が、 その フケツ と ソボウ に ヘキエキ して、 ドウケ どころ では なく、 イシ に ハイシンジュン の シンダンショ を かいて もらい、 リョウ から でて、 ウエノ サクラギ-チョウ の チチ の ベッソウ に うつりました。 ジブン には、 ダンタイ セイカツ と いう もの が、 どうしても できません。 それに また、 セイシュン の カンゲキ だ とか、 ワコウド の ホコリ だ とか いう コトバ は、 きいて サムケ が して きて、 とても、 あの、 ハイ スクール スピリット とか いう もの には、 ついて ゆけなかった の です。 キョウシツ も リョウ も、 ゆがめられた セイヨク の、 ハキダメ みたい な キ さえ して、 ジブン の カンペキ に ちかい オドウケ も、 そこ では なんの ヤク にも たちません でした。
 チチ は ギカイ の ない とき は、 ツキ に 1 シュウカン か 2 シュウカン しか その イエ に タイザイ して いません でした ので、 チチ の ルス の とき は、 かなり ひろい その イエ に、 ベッソウバン の ロウフウフ と ジブン と 3 ニン だけ で、 ジブン は、 ちょいちょい ガッコウ を やすんで、 さりとて トウキョウ ケンブツ など を する キ も おこらず (ジブン は とうとう、 メイジ ジングウ も、 クスノキ マサシゲ の ドウゾウ も、 センガクジ の シジュウシチシ の ハカ も みず に おわりそう です) イエ で イチニチジュウ、 ホン を よんだり、 エ を かいたり して いました。 チチ が ジョウキョウ して くる と、 ジブン は、 マイアサ そそくさ と トウコウ する の でした が、 しかし、 ホンゴウ センダギ-チョウ の ヨウガカ、 ヤスダ シンタロウ シ の ガジュク に ゆき、 3 ジカン も 4 ジカン も、 デッサン の レンシュウ を して いる こと も あった の です。 コウトウ ガッコウ の リョウ から ぬけたら、 ガッコウ の ジュギョウ に でて も、 ジブン は まるで チョウコウセイ みたい な トクベツ の イチ に いる よう な、 それ は ジブン の ヒガミ かも しれなかった の です が、 なんとも ジブン ジシン で しらじらしい キモチ が して きて、 いっそう ガッコウ へ ゆく の が、 オックウ に なった の でした。 ジブン には、 ショウガッコウ、 チュウガッコウ、 コウトウ ガッコウ を つうじて、 ついに アイコウシン と いう もの が リカイ できず に おわりました。 コウカ など と いう もの も、 イチド も おぼえよう と した こと が ありません。
 ジブン は、 やがて ガジュク で、 ある ガガクセイ から、 サケ と タバコ と インバイフ と シチヤ と サヨク シソウ と を しらされました。 ミョウ な トリアワセ でした が、 しかし、 それ は ジジツ でした。
 その ガガクセイ は、 ホリキ マサオ と いって、 トウキョウ の シタマチ に うまれ、 ジブン より ムッツ ネンチョウシャ で、 シリツ の ビジュツ ガッコウ を ソツギョウ して、 イエ に アトリエ が ない ので、 この ガジュク に かよい、 ヨウガ の ベンキョウ を つづけて いる の だ そう です。
「5 エン、 かして くれない か」
 おたがい ただ カオ を みしって いる だけ で、 それまで ヒトコト も はなしあった こと が なかった の です。 ジブン は、 へどもど して 5 エン さしだしました。
「よし、 のもう。 オレ が、 オマエ に おごる ん だ。 よか チゴ じゃ のう」
 ジブン は キョヒ しきれず、 その ガジュク の チカク の、 ホウライ-チョウ の カフェ に ひっぱって ゆかれた の が、 カレ との コウユウ の ハジマリ でした。
「マエ から、 オマエ に メ を つけて いた ん だ。 それそれ、 その はにかむ よう な ビショウ、 それ が ミコミ の ある ゲイジュツカ トクユウ の ヒョウジョウ なん だ。 オチカヅキ の シルシ に、 カンパイ! キヌ さん、 コイツ は ビナンシ だろう? ほれちゃ いけない ぜ。 コイツ が ジュク へ きた おかげ で、 ザンネン ながら オレ は、 ダイ 2 バン の ビナンシ と いう こと に なった」
 ホリキ は、 イロ が あさぐろく タンセイ な カオ を して いて、 ガガクセイ には めずらしく、 ちゃんと した セビロ を きて、 ネクタイ の コノミ も ジミ で、 そうして トウハツ も ポマード を つけて マンナカ から ぺったり と わけて いました。
 ジブン は なれぬ バショ でも あり、 ただ もう おそろしく、 ウデ を くんだり ほどいたり して、 それこそ、 はにかむ よう な ビショウ ばかり して いました が、 ビール を 2~3 バイ のんで いる うち に、 ミョウ に カイホウ せられた よう な カルサ を かんじて きた の です。
「ボク は、 ビジュツ ガッコウ に はいろう と おもって いた ん です けど、……」
「いや、 つまらん。 あんな ところ は、 つまらん。 ガッコウ は、 つまらん。 ワレラ の キョウシ は、 シゼン の ナカ に あり! シゼン に たいする パートス!」
 しかし、 ジブン は、 カレ の いう こと に いっこう に ケイイ を かんじません でした。 バカ な ヒト だ、 エ も ヘタ に ちがいない、 しかし、 あそぶ の には、 いい アイテ かも しれない と かんがえました。 つまり、 ジブン は その とき、 うまれて はじめて、 ホンモノ の トカイ の ヨタモノ を みた の でした。 それ は、 ジブン と カタチ は ちがって いて も、 やはり、 コノヨ の ニンゲン の イトナミ から カンゼン に ユウリ して しまって、 トマドイ して いる テン に おいて だけ は、 たしか に ドウルイ なの でした。 そうして、 カレ は その オドウケ を イシキ せず に おこない、 しかも、 その オドウケ の ヒサン に まったく キ が ついて いない の が、 ジブン と ホンシツテキ に イショク の ところ でした。
 ただ あそぶ だけ だ、 アソビ の アイテ と して つきあって いる だけ だ、 と つねに カレ を ケイベツ し、 ときには カレ との コウユウ を はずかしく さえ おもいながら、 カレ と つれだって あるいて いる うち に、 けっきょく、 ジブン は、 この オトコ に さえ うちやぶられました。
 しかし、 ハジメ は、 この オトコ を コウジンブツ、 まれ に みる コウジンブツ と ばかり おもいこみ、 さすが ニンゲン キョウフ の ジブン も まったく ユダン を して、 トウキョウ の よい アンナイシャ が できた、 くらい に おもって いました。 ジブン は、 じつは、 ヒトリ では、 デンシャ に のる と シャショウ が おそろしく、 カブキザ へ はいりたくて も、 あの ショウメン ゲンカン の ヒ の ジュウタン が しかれて ある カイダン の リョウガワ に ならんで たって いる アンナイジョウ たち が おそろしく、 レストラン へ はいる と、 ジブン の ハイゴ に ひっそり たって、 サラ の あく の を まって いる キュウジ の ボーイ が おそろしく、 ことにも カンジョウ を はらう とき、 ああ、 ぎごちない ジブン の テツキ、 ジブン は カイモノ を して オカネ を てわたす とき には、 リンショク ゆえ で なく、 あまり の キンチョウ、 あまり の ハズカシサ、 あまり の フアン、 キョウフ に、 くらくら メマイ して、 セカイ が マックラ に なり、 ほとんど ハンキョウラン の キモチ に なって しまって、 ねぎる どころ か、 オツリ を うけとる の を わすれる ばかり で なく、 かった シナモノ を もちかえる の を わすれた こと さえ、 しばしば あった ほど なので、 とても、 ヒトリ で トウキョウ の マチ を あるけず、 それで しかたなく、 イチニチ いっぱい イエ の ナカ で、 ごろごろ して いた と いう ナイジョウ も あった の でした。
 それ が、 ホリキ に サイフ を わたして イッショ に あるく と、 ホリキ は おおいに ねぎって、 しかも アソビジョウズ と いう の か、 わずか な オカネ で サイダイ の コウカ の ある よう な シハライブリ を ハッキ し、 また、 たかい エンタク は ケイエン して、 デンシャ、 バス、 ポンポン ジョウキ など、 それぞれ リヨウ しわけて、 サイタン ジカン で モクテキチ へ つく と いう シュワン をも しめし、 インバイフ の ところ から アサ かえる トチュウ には、 ナニナニ と いう リョウテイ に たちよって アサブロ へ はいり、 ユドウフ で かるく オサケ を のむ の が、 やすい わり に、 ゼイタク な キブン に なれる もの だ と ジッチ キョウイク を して くれたり、 その ホカ、 ヤタイ の ギュウメシ ヤキトリ の アンカ に して ジヨウ に とむ もの たる こと を とき、 ヨイ の はやく はっする の は、 デンキ ブラン の ミギ に でる もの は ない と ホショウ し、 とにかく その カンジョウ に ついて は ジブン に、 ヒトツ も フアン、 キョウフ を おぼえさせた こと が ありません でした。
 さらに また、 ホリキ と つきあって すくわれる の は、 ホリキ が キキテ の オモワク など を てんで ムシ して、 その いわゆる パトス の フンシュツ する が まま に、 (あるいは、 パトス とは、 アイテ の タチバ を ムシ する こと かも しれません が) シロクジチュウ、 くだらない オシャベリ を つづけ、 あの、 フタリ で あるいて つかれ、 きまずい チンモク に おちいる キク が、 まったく ない と いう こと でした。 ヒト に せっし、 あの おそろしい チンモク が その バ に あらわれる こと を ケイカイ して、 もともと クチ の おもい ジブン が、 ここ を センド と ヒッシ の オドウケ を いって きた もの です が、 イマ この ホリキ の バカ が、 イシキ せず に、 その オドウケヤク を みずから すすんで やって くれて いる ので、 ジブン は、 ヘンジ も ろくに せず に、 ただ ききながし、 ときおり、 まさか、 など と いって わらって おれば、 いい の でした。
 サケ、 タバコ、 インバイフ、 それ は みな、 ニンゲン キョウフ を、 たとい イットキ でも、 まぎらす こと の できる ずいぶん よい シュダン で ある こと が、 やがて ジブン にも わかって きました。 それら の シュダン を もとめる ため には、 ジブン の モチモノ ゼンブ を バイキャク して も くいない キモチ さえ、 いだく よう に なりました。
 ジブン には、 インバイフ と いう もの が、 ニンゲン でも、 ジョセイ でも ない、 ハクチ か キョウジン の よう に みえ、 その フトコロ の ナカ で、 ジブン は かえって まったく アンシン して、 ぐっすり ねむる こと が できました。 ミンナ、 かなしい くらい、 じつに ミジン も ヨク と いう もの が ない の でした。 そうして、 ジブン に、 ドウルイ の シンワカン と でも いった よう な もの を おぼえる の か、 ジブン は、 いつも、 その インバイフ たち から、 キュウクツ で ない テイド の シゼン の コウイ を しめされました。 なんの ダサン も ない コウイ、 オシウリ では ない コウイ、 ニド と こない かも しれぬ ヒト への コウイ、 ジブン には、 その ハクチ か キョウジン の インバイフ たち に、 マリヤ の エンコウ を ゲンジツ に みた ヨル も あった の です。
 しかし、 ジブン は、 ニンゲン への キョウフ から のがれ、 かすか な イチヤ の キュウヨウ を もとめる ため に、 そこ へ ゆき、 それこそ ジブン と 「ドウルイ」 の インバイフ たち と あそんで いる うち に、 いつのまにやら ムイシキ の、 ある いまわしい フンイキ を シンペン に いつも ただよわせる よう に なった ヨウス で、 これ は ジブン にも まったく おもいもうけなかった いわゆる 「オマケ の フロク」 でした が、 しだいに その 「フロク」 が、 センメイ に ヒョウメン に うきあがって きて、 ホリキ に それ を シテキ せられ、 がくぜん と して、 そうして、 いや な キ が いたしました。 ハタ から みて、 ゾク な イイカタ を すれば、 ジブン は、 インバイフ に よって オンナ の シュギョウ を して、 しかも、 サイキン めっきり ウデ を あげ、 オンナ の シュギョウ は、 インバイフ に よる の が いちばん きびしく、 また それ だけ に コウカ の あがる もの だ そう で、 すでに ジブン には、 あの、 「オンナタッシャ」 と いう ニオイ が つきまとい、 ジョセイ は、 (インバイフ に かぎらず) ホンノウ に よって それ を かぎあて よりそって くる、 そのよう な、 ヒワイ で フメイヨ な フンイキ を、 「オマケ の フロク」 と して もらって、 そうして その ほう が、 ジブン の キュウヨウ など より も、 ひどく めだって しまって いる らしい の でした。
 ホリキ は それ を ハンブン は オセジ で いった の でしょう が、 しかし、 ジブン にも、 おもくるしく おもいあたる こと が あり、 たとえば、 キッサテン の オンナ から チセツ な テガミ を もらった オボエ も ある し、 サクラギ-チョウ の イエ の トナリ の ショウグン の ハタチ くらい の ムスメ が、 マイアサ、 ジブン の トウコウ の ジコク には、 ヨウ も なさそう なのに、 ゴジブン の イエ の モン を ウスゲショウ して でたり はいったり して いた し、 ギュウニク を くい に ゆく と、 ジブン が だまって いて も、 そこ の ジョチュウ が、 ……また、 いつも カイツケ の タバコヤ の ムスメ から てわたされた タバコ の ハコ の ナカ に、 ……また、 カブキ を み に いって トナリ の セキ の ヒト に、 ……また、 シンヤ の シデン で ジブン が よって ねむって いて、 ……また、 おもいがけなく コキョウ の シンセキ の ムスメ から、 おもいつめた よう な テガミ が きて、 ……また、 ダレ か わからぬ ムスメ が、 ジブン の ルスチュウ に オテセイ らしい ニンギョウ を、 ……ジブン が キョクド に ショウキョクテキ なので、 いずれ も、 それっきり の ハナシ で、 ただ ダンペン、 それ イジョウ の シンテン は ヒトツ も ありません でした が、 ナニ か オンナ に ユメ を みさせる フンイキ が、 ジブン の どこ か に つきまとって いる こと は、 それ は、 ノロケ だの ナン だの と いう イイカゲン な ジョウダン で なく、 ヒテイ できない の で ありました。 ジブン は、 それ を ホリキ ごとき モノ に シテキ せられ、 クツジョク に にた ニガサ を かんずる と ともに、 インバイフ と あそぶ こと にも、 にわか に キョウ が さめました。
 ホリキ は、 また、 その ミエボウ の モダニティ から、 (ホリキ の バアイ、 それ イガイ の リユウ は、 ジブン には いまもって かんがえられません の です が) ある ヒ、 ジブン を キョウサン シュギ の ドクショカイ とか いう (R.S とか いって いた か、 キオク が はっきり いたしません) そんな、 ヒミツ の ケンキュウカイ に つれて ゆきました。 ホリキ など と いう ジンブツ に とって は、 キョウサン シュギ の ヒミツ カイゴウ も、 レイ の 「トウキョウ アンナイ」 の ヒトツ くらい の もの だった の かも しれません。 ジブン は いわゆる 「ドウシ」 に ショウカイ せられ、 パンフレット を 1 ブ かわされ、 そうして カミザ の ひどい みにくい カオ の セイネン から、 マルクス ケイザイガク の コウギ を うけました。 しかし、 ジブン には、 それ は わかりきって いる こと の よう に おもわれました。 それ は、 そう に ちがいない だろう けれども、 ニンゲン の ココロ には、 もっと ワケ の わからない、 おそろしい もの が ある。 ヨク、 と いって も、 いいたりない、 ヴァニティ、 と いって も、 いいたりない、 イロ と ヨク、 と こう フタツ ならべて も、 いいたりない、 なんだか ジブン にも わからぬ が、 ニンゲン の ヨ の ソコ に、 ケイザイ だけ で ない、 へんに カイダン-じみた もの が ある よう な キ が して、 その カイダン に おびえきって いる ジブン には、 いわゆる ユイブツロン を、 ミズ の ひくき に ながれる よう に シゼン に コウテイ しながら も、 しかし、 それ に よって、 ニンゲン に たいする キョウフ から カイホウ せられ、 アオバ に むかって メ を ひらき、 キボウ の ヨロコビ を かんずる など と いう こと は できない の でした。 けれども、 ジブン は、 イチド も ケッセキ せず に、 その R.S (と いった か と おもいます が、 まちがって いる かも しれません) なる もの に シュッセキ し、 「ドウシ」 たち が、 いやに イチダイジ の ごとく、 こわばった カオ を して、 1 プラス 1 は 2、 と いう よう な、 ほとんど ショトウ の サンジュツ-めいた リロン の ケンキュウ に ふけって いる の が コッケイ に みえて たまらず、 レイ の ジブン の オドウケ で、 カイゴウ を くつろがせる こと に つとめ、 その ため か、 しだいに ケンキュウカイ の キュウクツ な ケハイ も ほぐれ、 ジブン は その カイゴウ に なくて かなわぬ ニンキモノ と いう カタチ に さえ なって きた よう でした。 この、 タンジュン そう な ヒトタチ は、 ジブン の こと を、 やはり この ヒトタチ と おなじ よう に タンジュン で、 そうして、 ラクテンテキ な オドケモノ の 「ドウシ」 くらい に かんがえて いた かも しれません が、 もし、 そう だったら、 ジブン は、 この ヒトタチ を イチ から ジュウ まで、 あざむいて いた わけ です。 ジブン は、 ドウシ では なかった ん です。 けれども、 その カイゴウ に、 いつも かかさず シュッセキ して、 ミナ に オドウケ の サーヴィス を して きました。
 すき だった から なの です。 ジブン には、 その ヒトタチ が、 キ に いって いた から なの です。 しかし、 それ は かならずしも、 マルクス に よって むすばれた シンアイカン では なかった の です。
 ヒゴウホウ。 ジブン には、 それ が ひそか に たのしかった の です。 むしろ、 イゴコチ が よかった の です。 ヨノナカ の ゴウホウ と いう もの の ほう が、 かえって おそろしく、 (それ には、 そこしれず つよい もの が ヨカン せられます) その カラクリ が フカカイ で、 とても その マド の ない、 ソコビエ の する ヘヤ には すわって おられず、 ソト は ヒゴウホウ の ウミ で あって も、 それ に とびこんで およいで、 やがて シ に いたる ほう が、 ジブン には、 いっそ キラク の よう でした。
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