カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ボクトウ キタン 3

2019-02-19 | ナガイ カフウ
 8

 きそう に おもわれた ユウダチ も くる ヨウス は なく、 ヒダネ を たやさぬ チャノマ の ムシアツサ と カ の ムレ と を おそれて、 ワタクシ は イチジ ソト へ でた の で ある が、 かえる には まだ すこし はやい らしい ので、 ドブヅタイ に ロジ を ぬけ、 ここ にも イタバシ の かかって いる オモテ の ヨコチョウ に でた。 リョウガワ に エンニチ アキュウド が ミセ を ならべて いる ので、 もともと ジドウシャ の とおらない ミチハバ は なおさら せまく なって、 でさかる ヒト は おしあいながら あるいて いる。 イタバシ の ミギテ は すぐ カド に バニクヤ の ある ヨツツジ で。 ツジ の ムコウガワ には ソウトウシュウ トウセイジ と しるした セキヒ と、 タマノイ イナリ の トリイ と コウシュウ デンワ と が たって いる。 ワタクシ は オユキ の ハナシ から この イナリ の エンニチ は ツキ の フツカ と ハツカ の リョウジツ で ある こと や、 エンニチ の バン は ソト ばかり にぎやか で、 ロジ の ナカ は かえって キャクアシ が すくない ところ から、 マド の オンナ たち は ビンボウ イナリ と よんで いる こと など を おもいだし、 ヒトゴミ に まじって、 まだ イチド も サンケイ した こと の ない ヤシロ の ほう へ いって みた。
 イマ まで かく こと を わすれて いた が、 ワタクシ は マイヨ この サカリバ へ でかける よう に、 ココロモチ にも カラダ にも ともども に シュウカン が つく よう に なって から、 この アタリ の ヨミセ を みあるいて いる ヒトタチ の フウゾク に ならって、 デガケ には ミナリ を かえる こと に して いた の で ある。 これ は べつに テスウ の かかる こと では ない。 エリ の かえる シマ の ホワイト シャツ の エリモト の ボタン を はずして エリカザリ を つけない こと、 ヨウフク の ウワギ は テ に さげて きない こと、 ボウシ は かぶらぬ こと、 カミノケ は クシ を いれた こと も ない よう に かきみだして おく こと、 ズボン は なるべく ヒザ や シリ の すりきれた くらい な ふるい もの に はきかえる こと。 クツ は はかず、 フルゲタ も カカト の ほう が ダイ まで すりへって いる の を さがして はく こと、 タバコ は かならず バット に かぎる こと、 エトセトラ エトセトラ で ある。 だから ワケ は ない。 つまり ショサイ に いる とき、 また ライキャク を むかえる とき の イフク を ぬいで、 ニワソウジ や ススハライ の とき の もの に きかえ、 ゲジョ の フルゲタ を もらって はけば よい の だ。
 フルズボン に フルゲタ を はき、 それに フルテヌグイ を さがしだして ハチマキ の マキカタ も しごく ブイキ に すれば、 ミナミ は スナマチ、 キタ は センジュ から カサイ カナマチ アタリ まで ゆこう とも、 ミチ ゆく ヒト から ふりかえって カオ を みられる キヅカイ は ない。 その マチ に すんで いる モノ が カイモノ に でも でた よう に みえる ので、 アンシン して ロジ へ でも ヨコチョウ へ でも カッテ に いりこむ こと が できる。 この ブザマ な ミナリ は、 「ジダラク に いれば すずしき ニカイ かな」 で、 トウキョウ の キコウ の ことに アツサ の はなはだしい キセツ には もっとも テキゴウ して いる。 モウロウ エンタク の ウンテンシュ と おなじ よう な この フウ を して いれば、 ミチ の ウエ と いわず デンシャ の ナカ と いわず どこ でも すき な ところ へ タンツバ も はける し、 タバコ の スイガラ、 マッチ の モエノコリ、 カミクズ、 バナナ の カワ も すてられる。 コウエン と みれば ベンチ や シバフ へ ダイノジナリ に ねころんで イビキ を かこう が ナニワブシ を うなろう が これ また カッテ-シダイ なので、 ただに キコウ のみ ならず、 トウキョウ-ジュウ の ケンチクブツ とも チョウワ して、 いかにも フッコウ トシ の ジュウミン-らしい ココロモチ に なる こと が できる。
 ジョシ が アッパッパ と しょうする シタギ 1 マイ で コガイ に であるく キフウ に ついて は、 ユウジン サトウ ヨウサイ クン の ブンシュウ に のって いる その ロン に ゆずって、 ここ には いうまい。
 ワタクシ は スアシ に はきなれぬ フルゲタ を つっかけて いる ので、 モノ に つまずいたり、 ヒト に アシ を ふまれたり して、 ケガ を しない よう に キ を つけながら、 ヒトゴミ の ナカ を あるいて ムコウガワ の ロジ の ツキアタリ に ある イナリ に サンケイ した。 ここ にも ヨミセ が つづき、 ホコラ の ヨコテ の やや ひろい アキチ は、 ウエキヤ が イチメン に ならべた バラ や ユリ ナツギク など の ハチモノ に ときならぬ カダン を つくって いる。 トウセイジ ホンドウ コンリュウ の シキン キフシャ の セイメイ が アキチ の イチグウ に イタベイ の ごとく かけならべて ある の を みる と、 この テラ は やけた の で なければ、 タマノイ イナリ と おなじく ヨソ から うつされた もの かも しれない。
 ワタクシ は トコナツ の ハナ ヒトハチ を あがない、 ベツ の ロジ を ぬけて、 もと きた タイショウ ドウロ へ でた。 すこし ゆく と ミギガワ に コウバン が ある。 コンヤ は この アタリ の ヒトタチ と おなじ よう な ミナリ を して、 ウエキバチ をも テ に して いる から だいじょうぶ とは おもった が、 さける に しく は ない と、 アトモドリ して、 カド に サカヤ と ミズガシヤ の ある ミチ に まがった。
 この ミチ の カタガワ に ならんだ ショウテン の ウシロ イッタイ の ロジ は いわゆる ダイ 1 ブ と なづけられた ラビラント で。 オユキ の イエ の ある ダイ 2 ブ を つらぬく かの ドブ は、 とつぜん ダイ 1 ブ の ハズレ の ミチバタ に あらわれて、 ナカジマ ユ と いう ノレン を さげた セントウ の マエ を ながれ、 キョカチ ソト の マックラ な ウラナガヤ の アイダ に ユクサキ を ぼっして いる。 ワタクシ は ムカシ ホッカク を とりまいて いた オハグロドブ より いっそう フケツ に みえる この ドブ も、 テラジママチ が まだ デンエン で あった コロ には、 ミズクサ の ハナ に トンボ の とまって いた よう な きよい コナガレ で あった の で あろう と、 トシヨリ にも にあわない カンショウテキ な ココロモチ に ならざる を えなかった。 エンニチ の ロテン は この トオリ には でて いない。 キュウシュウ-テイ と いう ネオン サイン を たかく かがやかして いる シナメシヤ の マエ まで くる と、 カイセイ ドウロ を はしる ジドウシャ の ヒ が みえ チクオンキ の オト が きこえる。
 ウエキバチ が なかなか おもい ので、 カイセイ ドウロ の ほう へは ゆかず、 キュウシュウ-テイ の ヨツカド から ミギテ に まがる と、 この トオリ は ミギガワ には ラビラント の 1 ブ と 2 ブ、 ヒダリガワ には 3 ブ の イチ クカク が フクザイ して いる もっとも ハンカ な もっとも せまい ミチ で、 ゴフクヤ も あり、 フジンヨウ の ヨウフクヤ も あり、 ヨウショクヤ も ある。 ポスト も たって いる。 オユキ が カミユイ の カエリ ユウダチ に あって、 ワタクシ の カサ の シタ に かけこんだ の は、 たしか この ポスト の マエ アタリ で あった。
 ワタクシ の ムナソコ には センコク オユキ が なかば ジョウダン-らしく カンジョウ の イッタン を ほのめかした とき、 ワタクシ の おぼえた フアン が まだ きえさらず に いる らしい…… ワタクシ は オユキ の リレキ に ついて は ほとんど しる ところ が ない。 どこやら で ゲイシャ を して いた と いって いる が、 ナガウタ も キヨモト も しらない らしい ので、 それ も たしか だ とは おもえない。 サイショ の インショウ で、 ワタクシ は なんの よる ところ も なく、 ヨシワラ か スサキ アタリ の さほど わるく ない イエ に いた オンナ らしい キ が した の が、 かえって あたって いる の では なかろう か。
 コトバ には すこしも チホウ の ナマリ が ない が、 その カオダチ と ゼンシン の ヒフ の きれい な こと は、 トウキョウ もしくは トウキョウ キンザイ の オンナ で ない こと を ショウメイ して いる ので、 ワタクシ は とおい チホウ から トウキョウ に イジュウ した ヒトタチ の アイダ に うまれた ムスメ と みて いる。 セイシツ は カイカツ で、 ゲンザイ の キョウガイ をも ふかく かなしんで は いない。 むしろ この キョウグウ から えた ケイケン を モトデ に して、 どうにか ミ の フリカタ を つけよう と かんがえて いる だけ の ゲンキ も あれば サイチ も ある らしい。 オトコ に たいする カンジョウ も、 ワタクシ の クチ から デマカセ に いう こと すら、 そのまま うたがわず に ききとる ところ を みて も、 まだ まったく すさみきって しまわない こと は たしか で ある。 ワタクシ を して、 そう おもわせる だけ でも、 ギンザ や ウエノ アタリ の ひろい カフェー に ナガネン はたらいて いる ジョキュウ など に ヒカク した なら、 オユキ の ごとき は ショウジキ とも ジュンボク とも いえる。 まだまだ マジメ な ところ が ある とも いえる で あろう。
 はしなくも ギンザ アタリ の ジョキュウ と マド の オンナ と を ヒカク して、 ワタクシ は コウシャ の なお あいす べく、 そして なお ともに ニンジョウ を かたる こと が できる もの の よう に かんじた が、 ガイロ の コウケイ に ついて も、 ワタクシ は また リョウホウ を みくらべて、 コウシャ の ほう が センパク に ガイカン の ビ を ほこらず、 ミカケダオシ で ない こと から フカイ の ネン を おぼえさせる こと が はるか に すくない。 ミチバタ には おなじ よう に ヤタイミセ が ならんで いる が、 ここ では スイカン の さんさんごご タイ を なして あゆむ こと も なく、 かしこ では めずらしからぬ チマミレ-ゲンカ も ここ では ほとんど みられない。 ヨウフク の ミナリ だけ は ソウオウ に して いながら その ショクギョウ の スイサツ しかねる ニンソウ の わるい チュウネンモノ が、 ヨ を はばからず カタ で カゼ を きり、 ツエ を ふり、 ウタ を うたい、 ツウコウ の ジョシ を ののしりつつ あるく の は、 ギンザ の ホカ タ の マチ には みられぬ コウケイ で あろう。 しかるに ヒトタビ フルゲタ に フルズボン を はいて この バスエ に くれば、 いかなる ザットウ の ヨ でも、 ギンザ の ウラドオリ を ゆく より も キケン の オソレ が なく、 あちこち と ミチ を ゆずる ワズラワシサ も また すくない の で ある。
 ポスト の たって いる にぎやか な コミチ も ゴフクヤ の ある アタリ を あかるい ゼッチョウ に して、 それ から サキ は しだいに さむしく、 コメヤ、 ヤオヤ、 カマボコヤ など が メ に たって、 ついに ザイモクヤ の ザイモク が たてかけて ある アタリ まで くる と、 イクタビ と なく きなれた ワタクシ の アユミ は、 イシキ を またず、 すぐさま ジテンシャ アズカリドコロ と カナモノヤ との アイダ の ロジグチ に むけられる の で ある。
 この ロジ の ナカ には すぐ フシミ イナリ の よごれた ノボリ が みえる が、 スケンゾメキ の キャク は キ が つかない らしく、 ヒト の デイリ は タ の ロジグチ に くらべる と いたって すくない。 これ を サイワイ に、 ワタクシ は いつも この ロジグチ から しのびいり、 オモテドオリ の イエ の ウラテ に イチジク の しげって いる の と、 ドブギワ の サク に ブドウ の からんで いる の を、 アタリ に にあわぬ フウケイ と みかえりながら、 オユキ の イエ の マドグチ を のぞく こと に して いる の で ある。
 2 カイ には まだ キャク が ある と みえて、 カーテン に ホカゲ が うつり、 シタ の マド は あけた まま で あった。 オモテ の ラディオ も いましがた やんだ よう なので、 ワタクシ は エンニチ の ウエキバチ を そっと マド から ナカ に いれて、 その ヨ は そのまま シラヒゲバシ の ほう へ アユミ を はこんだ。 ウシロ の ほう から アサクサ-ユキ の ケイセイ バス が はしって きた が、 ワタクシ は テイリュウジョウ の ある ところ を よく しらない ので、 それ を もとめながら あるきつづける と、 イクホド も なく ユクサキ に ハシ の トウカ の きらめく の を みた。

     *     *     *

 ワタクシ は この ナツ の ハジメ に コウ を おこした ショウセツ 「シッソウ」 の イッペン を コンニチ に いたる まで まだ かきあげず に いる の で ある。 コンヤ オユキ が 「ミツキ に なる わねえ」 と いった こと から おもいあわせる と、 キコウ の ヒ は それ より も なお イゼン で あった。 ソウコウ の マッセツ は タネダ ジュンペイ が カシマ の アツサ に ある ヨ ドウシュク の ジョキュウ スミコ を つれ、 シラヒゲバシ の ウエ で すずみながら、 ユクスエ の こと を かたりあう ところ で おわって いる ので、 ワタクシ は ツツミ を まがらず、 マッスグ に ハシ を わたって ランカン に ミ を よせて みた。
 サイショ 「シッソウ」 の フキョク を さだめる とき、 ワタクシ は その トシ 24 に なる ジョキュウ スミコ と、 その トシ 51 に なる タネダ の フタリ が てがるく ジョウコウ を むすぶ こと に した の で ある が、 フデ を すすめる に つれて、 なにやら フシゼン で ある よう な キ が しだした ため、 オリカラ の エンショ と ともに、 それなり ナカヤスミ を して いた の で ある。
 しかるに イマ、 ワタクシ は ハシ の ランカン に もたれ、 カワシモ の コウエン から オンド オドリ の オンガク と ウタゴエ との ひびいて くる の を ききながら、 さきほど オユキ が 2 カイ の マド に もたれて 「ミツキ に なる わねえ」 と いった とき の ゴチョウ や ヨウス を おもいかえす と、 スミコ と タネダ との ジョウコウ は けっして フシゼン では ない。 サクシャ が ツゴウ の よい よう に つくりだした キャクショク と して しりぞける にも およばない。 サイショ の リツアン を チュウト で かえる ほう が かえって よからぬ ケッカ を もたらす かも しれない と いう ココロモチ にも なって くる。
 カミナリモン から エンタク を やとって イエ に かえる と、 イツモ の よう に カオ を あらい カミ を かきなおした ノチ、 すぐさま スズリ の ソバ の コウロ に コウ を たいた。 そして チュウゼツ した ソウコウ の マッセツ を よみかえして みる。

「あすこ に みえる の は、 あれ は ナン だ。 コウバ か」
「ガス-ガイシャ か なんか だわ。 あの ヘン は ムカシ ケシキ の いい ところ だった ん ですって ね。 ショウセツ で よんだ わ」
「あるいて みよう か。 まだ そんな に おそかあ ない」
「ムコウ へ わたる と、 すぐ コウバン が あって よ」
「そう か。 それじゃ アト へ もどろう。 まるで、 わるい こと を して ヨ を しのんで いる よう だ」
「アナタ。 おおきな コエ…… およしなさい」
「…………」
「どんな ヒト が きいて いない とも かぎらない し……」
「そう だね。 しかし ヨ を しのんで くらす の は、 はじめて ケイケン した ん だ が、 なんとも いえない、 なんとなく わすれられない ココロモチ が する もん だね」
「ウキヨ はなれて って いう ウタ が ある じゃ ない の。 ……オクヤマズマイ」
「スミ ちゃん。 オレ は ユウベ から キュウ に なんだか わかく なった よう な キ が して いる ん だ。 ユウベ だけ でも イキガイ が あった よう な キ が して いる ん だ」
「ニンゲン は キ の モチヨウ だわ。 ヒカン しちまっちゃ ダメ よ」
「まったく だね。 しかし ボク は、 ナン に して も もう わかく ない から な。 じきに すてられる だろう」
「また。 そんな こと、 かんがえる ヒツヨウ なんか ない って いう のに。 ワタシ だって、 もう すぐ 30 じゃ ない のさ。 それに もう、 したい こと は しちまった し、 これから は すこし マジメ に なって かせいで みたい わ」
「じゃ、 ホント に オデンヤ を やる つもり か」
「アシタ の アサ、 テル ちゃん が くる から テキン だけ わたす つもり なの。 だから、 アナタ の オカネ は とうぶん つかわず に おいて ください。 ね。 ユウベ も おはなし した よう に、 それ が いい の」
「しかし、 それ じゃあ……」
「いいえ。 それ が いい のよ。 アンタ の ほう に チョキン が あれば、 アト が アンシン だ から、 ワタシ の ほう は もってる だけ の オカネ を みんな だして、 イチジバライ に して、 ケンリ も なにもかも かって しまおう と おもって いる のよ。 どのみち やる なら その ほう が トク だ から」
「テル ちゃん て いう の は たしか な ヒト かい。 とにかく オカネ の ハナシ だ から ね」
「それ は だいじょうぶ。 あの コ は オカネモチ だ もの。 なにしろ タマノイ ゴテン の ダンナ って いう の が パトロン だ から」
「それ は いったい ナン だ」
「タマノイ で イクケン も ミセ や イエ を もってる ヒト よ。 もう 70 ぐらい だわ。 セイリョクカ よ。 それ あ。 ときどき カフェー へ くる オキャク だった の」
「ふーむ」
「ワタシ にも オデンヤ より か、 やる なら いっそう の こと、 あの ほう の ミセ を やれ って いう のよ。 ミセ も タマ も テル ちゃん が ダンナ に そう いって、 いい の を ショウカイ する って いう のよ。 だけれど、 その とき には ワタシ ヒトリ きり で、 ソウダン する ヒト も ない し、 ワタシ が ジブン で やる わけ にも いかない し する から、 それで オデンヤ か スタンド の よう な、 ヒトリ で やれる もの の ほう が いい と おもった のよ」
「そう か、 それで あの トチ を えらんだ ん だね」
「テル ちゃん は カアサン に オカネカシ を させて いる わ」
「ジギョウカ だな」
「ちゃっかり してる けれども、 ヒト を だましたり なんか しない から」
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 9

 9 ガツ も ナカバ ちかく なった が ザンショ は すこしも しりぞかぬ ばかり か、 8 ガツ-チュウ より も かえって はげしく なった よう に おもわれた。 スダレ を うつ カゼ ばかり ときには いかにも アキ-らしい ヒビキ を たてながら、 それ も マイニチ の よう に ユウガタ に なる と ぱったり ないで しまって、 ヨ は さながら カンサイ の マチ に ある が ごとく、 ふける に つれて ますます むしあつく なる よう な ヒ が イクニチ も つづく。
 ソウコウ を つくる の と、 ゾウショ を さらす の と で、 あんがい いそがしく、 ワタクシ は ミッカ ばかり ソト へ でなかった。
 ザンショ の ヒザカリ ゾウショ を さらす の と、 カゼ の ない ハツフユ の ヒルスギ ニワ の オチバ を たく こと とは、 ワタクシ が ドッキョ の ショウガイ の もっとも タノシミ と して いる ところ で ある。 バクショ は ひさしく コウカク に つかねた ショモツ を ながめやって、 はじめ ジュクドク した ジブン の こと を カイソウ し ジセイ と シュミ との ヘンセン を おもいしる キカイ を つくる から で ある。 オチバ を たく タノシミ は その ミ の シセイ に ある こと を しばし なり とも わすれさせる が ゆえ で ある。
 フルホン の ムシボシ だけ は やっと すんだ ので、 その ヒ ユウメシ を おわる が いなや イツモ の よう に やぶれた ズボン に フルゲタ を はいて ソト へ でる と、 モン の ハシラ には もう ヒ が ついて いた。 ユウナギ の アツサ に かかわらず、 ヒ は いつか おどろく ばかり みじかく なって いる の で ある。
 わずか ミッカ ばかり で ある が、 ソト へ でて みる と、 ワケ も なく ひさしい アイダ、 ゆかねば ならない ところ へ ゆかず に いた よう な ココロモチ が して ワタクシ は イクブン なり と トチュウ の ジカン まで みじかく しよう と、 キョウバシ の デンシャ の ノリカエバ から チカ テツドウ に のった。 わかい とき から あそびなれた ミ で ありながら、 オンナ を たずねる の に、 こんな きぜわしい ココロモチ に なった の は 30 ネン-ライ たえて ひさしく おぼえた こと が ない と いって も、 それ は けっして コチョウ では ない。 カミナリモン から は また エンタク を はしらせ、 やがて イツモ の ロジグチ。 イツモ の フシミ イナリ。 ふと みれば よごれきった ホウノウ の ノボリ が 4~5 ホン とも みな あたらしく なって、 あかい の は なくなり、 しろい もの ばかり に なって いた。 イツモ の ドブギワ に、 イツモ の イチジク と、 イツモ の ブドウ、 しかし その ハ の シゲリ は すこし うすく なって、 いくら あつく とも、 いくら セケン から みすてられた この ロジ にも、 アキ は しらずしらず ヨゴト に ふかく なって ゆく こと を しらせて いた。
 イツモ の マド に みえる オユキ の カオ も、 コンヤ は イツモ の ツブシ では なく、 イチョウガエシ に テガラ を かけた よう な、 ボタン とか よぶ マゲ に かわって いた ので、 ワタクシ は こなた から ながめて カオチガイ の した の を あやしみながら あゆみよる と、 オユキ は いかにも じれったそう に トビラ を あけながら、 「アナタ」 と ヒトコト つよく よんだ ノチ、 キュウ に チョウシ を ひくく して、 「シンパイ した のよ。 それでも、 まあ、 よかった ねえ」
 ワタクシ は はじめ その イ を かいしかねて、 ゲタ も ぬがず アガリグチ へ コシ を かけた。
「シンブン に でて いた よ。 すこし ちがう よう だ から、 そう じゃ あるまい と おもった ん だ けれど、 ずいぶん シンパイ した わ」
「そう か」 やっと アテ が ついた ので、 ワタクシ も にわか に コエ を ひそめ、 「オレ は そんな ドジ な マネ は しない。 しじゅう キ を つけて いる もの」
「いったい、 どうした の。 カオ を みれば べつに なんでも ない ん だ けれど、 くる ヒト が こない と、 なんだか ミョウ に さびしい もの よ」
「でも、 ユキ ちゃん は あいかわらず いそがしい ん だろう」
「あつい うち は しれた もの よ。 いくら いそがしい たって」
「コトシ は いつまでも、 ホント に あつい な」 と いった とき オユキ は 「ちょいと しずか に」 と いいながら ワタクシ の ヒタイ に とまった カ を テノヒラ で おさえた。
 イエ の ウチ の カ は マエ より も いっそう おおく なった よう で、 ヒト を さす その ハリ も するどく ふとく なった らしい。 オユキ は フトコロガミ で ワタクシ の ヒタイ と ジブン の テ に ついた チ を ふき、 「こら。 こんな」 と いって その カミ を みせて まるめる。
「この カ が なくなれば トシ の クレ だろう」
「そう。 キョネン オトリサマ の ジブン には まだ いた かも しれない」
「やっぱり タンボ か」 と きいた が、 ジダイ の ちがって いる こと に キ が ついて、 「この ヘン でも ヨシワラ の ウラ へ ゆく の か」
「ええ」 と いいながら オユキ は ちりん ちりん と なる スズ の ネ を ききつけ、 たって マドグチ へ でた。
「カネ ちゃん。 ここ だよ。 ナニ ぼやぼや して いる のさ。 コオリ シラタマ フタツ…… それから、 ついでに カヤリコウ を かって きて おくれ。 いい コ だ」
 そのまま マド に すわって、 とおりすぎる ヒヤカシ に からかわれたり、 また こっち から も からかったり して いる。 その アイダアイダ には ナカジキリ の オオサカ-ゴウシ を へだてて、 ワタクシ の ほう へも ハナシ を しかける。 コオリヤ の オトコ が おまちどお と いって あつらえた もの を もって きた。
「アナタ。 シラタマ なら たべる ん でしょう。 キョウ は ワタシ が おごる わ」
「よく おぼえて いる なあ。 そんな こと……」
「おぼえてる わよ。 ジツ が ある でしょう。 だから もう、 そこらじゅう ウワキ する の、 およしなさい」
「ここ へ こない と、 どこ か、 ワキ の ウチ へ ゆく と おもってる の か。 シヨウ が ない」
「オトコ は たいがい そう だ もの」
「シラタマ が ノド へ つかえる よ。 たべる うち だけ なかよく しよう や」
「しらない」 と オユキ は わざと あらあらしく サジ の オト を させて ヤマモリ に した コオリ を つきくずした。
 マドグチ を のぞいた ヒヤカシ が、 「よう、 ネエサン、 ごちそうさま」
「ヒトツ あげよう。 クチ を おあき」
「セイサン カリ か。 イノチ が おしい や」
「モンナシ の くせ に、 きいて あきれらあ」
「ナニ いって やん でい。 ドブッカ ジョロウ」 と ステゼリフ で ゆきすぎる の を こっち も まけて いず、
「へっ。 ゴミタメ ヤロウ」
「はははは」 と アト から くる ヒヤカシ が また わらって とおりすぎた。
 オユキ は コオリ を ヒトサジ クチ へ いれて は ソト を みながら、 ムイシキ に、 「ちょっと、 ちょっと、 ダーンナ」 と フシ を つけて よんで いる うち、 たちどまって マド を のぞく モノ が ある と、 あまえた よう な コエ を して、 「オヒトリ、 じゃ あがって よ。 まだ クチアケ なん だ から。 さあ、 よう」 と いって みたり、 また ヒト に よって は、 いかにも シュショウ-らしく、 「ええ。 かまいません。 おあがり に なって から、 オキ に めさなかったら、 おかえり に なって も かまいません よ」 と しばらく の アイダ ハナシ を して、 その アゲク これ も あがらず に いって しまって も、 オユキ は べつに つまらない と いう フウ さえ も せず、 おもいだした よう に、 とけた コオリ の ナカ から のこった シラタマ を すくいだして、 むしゃむしゃ たべたり、 タバコ を のんだり して いる。
 ワタクシ は すでに オユキ の セイシツ を キジュツ した とき、 カイカツ な オンナ で ある とも いい、 また その キョウガイ を さほど かなしんで も いない と いった。 それ は、 ワタクシ が チャノマ の カタスミ に すわって、 ヤレウチワ の オト も なるべく しない よう に カ を おいながら、 オユキ が ミセサキ に すわって いる とき の、 こういう ヨウス を ノレン の アイダ から すかしみて、 それ から スイサツ した もの に ほかならない。 この スイサツ は ごく ヒソウ に とどまって いる かも しれない。 ヒトトナリ の イチメン を みた に すぎぬ かも しれない。
 しかし ここ に ワタクシ の カンサツ の けっして あやまらざる こと を ダンゲン しうる こと が ある。 それ は オユキ の セイシツ の イカン に かかわらず、 マド の ソト の ヒトドオリ と、 マド の ウチ の オユキ との アイダ には、 たがいに ユウワ す べき イチル の イト の つながれて いる こと で ある。 オユキ が カイカツ の オンナ で、 その キョウガイ を さほど かなしんで いない よう に みえた の が、 もし ワタクシ の アヤマリ で あった なら、 その アヤマリ は この ユウワ から しょうじた もの だ と、 ワタクシ は ベンカイ したい。 マド の ソト は タイシュウ で ある。 すなわち セケン で ある。 マド の ウチ は イッコジン で ある。 そして この リョウシャ の アイダ には いちじるしく アイハンモク して いる ナニモノ も ない。 これ は ナン に よる の で あろう。 オユキ は まだ トシ が わかい。 まだ セケン イッパン の カンジョウ を うしなわない から で ある。 オユキ は マド に すわって いる アイダ は その ミ を いやしい もの と なして、 ベツ に かくして いる ジンカク を ムネ の ソコ に もって いる。 マド の ソト を とおる ヒト は その アユミ を この ロジ に いるる や カメン を ぬぎ キョウフ を さる から で ある。
 ワタクシ は わかい とき から シフン の チマタ に いりこみ、 いまに その ヒ を さとらない。 ある とき は ジジョウ に とらわれて、 かの オンナ たち の のぞむ が まま イエ に いれて キソウ を とらせた こと も あった が、 しかし それ は みな シッパイ に おわった。 かの オンナ たち は ヒトタビ その キョウグウ を かえ、 その ミ を いやしい もの では ない と おもう よう に なれば、 イッペン して おしう べからざる ランプ と なる か、 しからざれば セイギョ しがたい カンプ に なって しまう から で あった。
 オユキ は いつ とは なく、 ワタクシ の チカラ に よって、 キョウグウ を イッペン させよう と いう ココロ を おこして いる。 ランプ か カンプ か に なろう と して いる。 オユキ の コウハンセイ を して ランプ たらしめず、 カンプ たらしめず、 しんに コウフク なる カテイ の ヒト たらしめる モノ は、 シッパイ の ケイケン に のみ とんで いる ワタクシ では なく して、 ゼント に なお オオク の サイゲツ を もって いる ヒト で なければ ならない。 しかし イマ、 これ を といて も オユキ には けっして わかろう はず が ない。 オユキ は ワタクシ の ニジュウ ジンカク の イチメン だけ しか みて いない。 ワタクシ は オユキ の うかがいしらぬ タ の イチメン を バクロ して、 その ヒ を しらしめる の は ヨウイ で ある。 それ を ショウチ しながら、 ワタクシ が なお チュウチョ して いる の は ココロ に しのびない ところ が あった から だ。 これ は ワタクシ を かばう の では ない。 オユキ が みずから その ゴカイ を さとった とき、 はなはだしく シツボウ し、 はなはだしく かなしみ は しまい か と いう こと を ワタクシ は おそれて いた から で ある。
 オユキ は うみつかれた ワタクシ の ココロ に、 ぐうぜん カコ の ヨ の なつかしい ゲンエイ を ほうふつ たらしめた ミューズ で ある。 ひさしく ツクエ の ウエ に おいて あった イッペン の ソウコウ は もし オユキ の ココロ が ワタクシ の ほう に むけられなかった なら、 ――すくなくとも そういう キ が しなかった なら、 すでに さきすてられて いた に ちがいない。 オユキ は イマ の ヨ から みすてられた イチ ロウサッカ の、 たぶん そ が サイシュウ の サク とも おもわれる ソウコウ を カンセイ させた フカシギ な ゲキレイシャ で ある。 ワタクシ は その カオ を みる たび ココロ から レイ を いいたい と おもって いる。 その ケッカ から ろんじたら、 ワタクシ は ショセイ の ケイケン に とぼしい かの オンナ を あざむき、 その シンタイ のみ ならず その シンジョウ をも もてあそんだ こと に なる で あろう。 ワタクシ は この ゆるされがたい ツミ の ワビ を したい と ココロ では そう おもいながら、 そう する こと の できない ジジョウ を かなしんで いる。
 その ヨ、 オユキ が マドグチ で いった コトバ から、 ワタクシ の せつない ココロモチ は いよいよ せつなく なった。 イマ は これ を さける ため には、 かさねて その カオ を みない に こした こと は ない。 まだ、 イマ の うち ならば、 それほど ふかい カナシミ と シツボウ と を オユキ の ムネ に あたえず とも すむ で あろう。 オユキ は まだ その ホンミョウ をも その オイタチ をも、 とわれない まま に、 うちあける キカイ に あわなかった。 コンヤ アタリ が それとなく ワカレ を つげる セトギワ で、 もし これ を こした なら、 トリカエシ の つかない カナシミ を みなければ なるまい と いう よう な ココロモチ が、 ヨ の ふけかける に つれて、 ワケ も なく はげしく なって くる。
 モノ に おわれる よう な この ココロモチ は、 おりから キュウ に ふきだした カゼ が オモテドオリ から ロジ に ながれこみ、 あちらこちら へ つきあたった スエ、 ちいさな マド から イエ の ナカ まで はいって きて、 スズ の ついた ノレン の ヒモ を ゆする。 その オト に つれて ひとしお ふかく なった よう に おもわれた。 その オト は フウリンウリ が レンジマド の ソト を とおる とき とも ちがって、 この ベッテンチ より ホカ には けっして きかれない もの で あろう。 ナツ の スエ から アキ に なって も、 うちつづく マイヨ の アツサ に イマ まで まったく キ の つかなかった だけ、 その ヒビキ は アキ の ヨ も いよいよ まったく の ヨナガ-らしく ふけそめて きた こと を、 しみじみ と おもいしらせる の で ある。 キ の せい か とおる ヒト の アシオト も しずか に さえ、 そこら の マド で クシャミ を する オンナ の コエ も きこえる。
 オユキ は マド から たち、 チャノマ へ きて タバコ へ ヒ を つけながら、 おもいだした よう に、
「アナタ。 アシタ はやく きて くれない」 と いった。
「はやく って、 ユウガタ か」
「もっと はやく さ。 アシタ は カヨウビ だ から シンサツビ なん だよ。 11 ジ に しまう から、 イッショ に アサクサ へ ゆかない。 4 ジ-ゴロ まで に かえって くれば いい ん だ から」
 ワタクシ は いって も いい と おもった。 それとなく ベッパイ を くむ ため に ゆきたい キ は した が、 シンブン キシャ と ブンガクシャ と に みられて またもや ヒッチュウ せられる こと を おそれ も する ので、
「コウエン は グアイ の わるい こと が ある ん だよ。 ナニ か かう もの でも ある の か」
「トケイ も かいたい し、 もう すぐ アワセ だ から」
「あつい あつい と いってる うち、 ホント に もう じき オヒガン だね。 アワセ は どの くらい する ん だ。 ミセ で きる の か」
「そう。 どうしても 30 エン は かかる でしょう」
「その くらい なら、 ここ に もって いる よ。 ヒトリ で いって あつらえて おいで な」 と カミイレ を だした。
「アナタ。 ホント」
「キミ が わるい の か。 シンパイ するな よ」
 ワタクシ は、 オユキ が イガイ の ヨロコビ に メ を みはった その カオ を、 ながく わすれない よう に じっと みつめながら、 カミイレ の ナカ の サツ を だして チャブダイ の ウエ に おいた。
 ト を たたく オト と ともに アルジ の コエ が した ので、 オユキ は ナニ か いいかけた の も、 それなり だまって、 ダテジメ の アイダ に サツ を かくす。 ワタクシ は つと たって アルジ と イレチガイ に ソト へ でた。
 フシミ イナリ の マエ まで くる と、 カゼ は ロジ の オク とは ちがって、 オモテドオリ から マッコウ に つきいり いきなり ワタクシ の カミ を ふきみだした。 ワタクシ は ここ へ くる とき の ホカ は いつも ボウシ を かぶりなれて いる ので、 カゼ に ふきつけられた と おもう と ドウジ に、 カタテ を あげて みて はじめて ボウシ の ない の に こころづき、 おぼえず クショウ を うかべた。 ホウノウ の ノボリ は サオ も おれる ばかり、 ロジグチ に ヤタイ を すえた オデンヤ の ノレン と ともに ちぎれて とびそう に ひらめき ひるがえって いる。 ドブ の カド の イチジク と ブドウ の ハ は、 ハイオク の カゲ に なった ヤミ の ナカ に がさがさ と、 すでに かれた よう な ヒビキ を たてて いる。 オモテドオリ へ でる と、 にわか に ひろく うちあおがれる ソラ には ギンガ の カゲ のみ ならず、 ホシ と いう ホシ の ヒカリ の いかにも しんぜん と して さえわたって いる の が、 いいしれぬ サビシサ を おもわせる オリ も オリ、 ジンカ の ウシロ を はしりすぎる デンシャ の オト と ケイテキ の ヒビキ と が レップウ に かすれて、 さらに この サビシサ を ふかく させる。 ワタクシ は カエリ の ミチスジ を、 シラヒゲバシ の ほう に とる とき には、 いつも スミダマチ ユウビンキョク の ある アタリ か、 または ムコウジマ ゲキジョウ と いう カツドウゴヤ の アタリ から カッテ に ヨコミチ に いり、 ロウコウ の アイダ を ウキョク する コミチ を たどり たどって、 けっきょく シラヒゲ ミョウジン の ウラテ へ でる の で ある。 8 ガツ の スエ から 9 ガツ の ハジメ に かけて は、 ときどき ヨル に なって ユウダチ の はれた アト、 すみわたった ソラ には メイゲツ が でて、 ミチ も あかるく、 ムカシ の ケシキ も おもいだされる ので、 しらずしらず コトトイ の オカ アタリ まで あるいて しまう こと が おおかった が、 コンヤ は もう ツキ も ない。 ふきとおす カワカゼ も たちまち はださむく なって くる ので、 ワタクシ は ジゾウザカ の テイリュウジョウ に ゆきつく が いなや、 マチアイジョ の イタバメ と ジゾウソン との アイダ に ミ を ちぢめて カゼ を よけた。

 10

 4~5 ニチ たつ と、 あの ヨ を かぎり もう ゆかない つもり で、 アキアワセ の ダイ まで おいて きた の にも かかわらず、 なにやら もう イチド いって みたい キ が して きた。 オユキ は どうした かしら。 あいかわらず マド に すわって いる こと は わかりきって いながら、 それとなく カオ だけ み に ゆきたくて たまらない。 オユキ には キ が つかない よう に、 そっと カオ だけ、 ヨウス だけ のぞいて こよう。 あの ヘン を ヒトマワリ して かえって くれば トナリ の ラディオ も やむ ジブン に なる の で あろう と、 ツミ を ラディオ に ぬりつけて、 ワタクシ は またもや スミダガワ を わたって ヒガシ の ほう へ あるいた。
 ロジ に いる マエ、 カオ を かくす ため、 トリウチボウ を かい、 ヒヤカシ が 5~6 ニン きあわす の を まって、 その ヒトタチ の カゲ に スガタ を かくし、 ドブ の こなた から オユキ の イエ を のぞいて みる と、 オユキ は シンガタ の マゲ を モト の ツブシ に ゆいなおし、 イツモ の よう に マド に すわって いた。 と みれば、 おなじ ノキ の シタ の ミギガワ の マド は これまで しめきって あった の が、 コンヤ は あかるく なって、 ホカゲ の ナカ に マルマゲ の カオ が うごいて いる。 あたらしい カカエ―― この トチ では デカタ さん とか いう もの が きた の で ある。 トオク から で よく は わからない が、 オユキ より は トシ も とって いる らしく キリョウ も よく は ない よう で ある。 ワタクシ は ヒトドオリ に まじって ベツ の ロジ へ まがった。
 その ヨ は イツモ と おなじ よう に ヒ が くれて から キュウ に カゼ が ないで むしあつく なった ため か、 ロジ の ナカ の ヒトデ も また ナツ の ヨ の よう に おびただしく、 まがる カドカド は ミ を ナナメ に しなければ とおれぬ ほど で、 ながれる アセ と、 イキグルシサ と に たえかね、 ワタクシ は デグチ を もとめて ジドウシャ の はせちがう ヒロコウジ へ でた。 そして ヨミセ の ならんで いない ほう の ホドウ を あゆみ、 じつは そのまま かえる つもり で 7 チョウメ の テイリュウジョウ に たたずんで ヒタイ の アセ を ぬぐった。 シャコ から わずか 1~2 チョウ の ところ なので、 ヒト の のって いない シエイ バス が あたかも ワタクシ を むかえる よう に きて とまった。 ワタクシ は ホドウ から ヒトアシ ふみだそう と して、 なにやら キュウ に ワケ も わからず なごりおしい キ が して、 また ぶらぶら あるきだす と、 まもなく サカヤ の マエ の マガリカド に ポスト の たって いる 6 チョウメ の テイリュウジョウ で ある。 ここ には 5~6 ニン の ヒト が クルマ を まって いた。 ワタクシ は この テイリュウジョウ でも むなしく 3~4 ダイ の クルマ を ゆきすごさせ、 ただ ぼうぜん と して、 ポプラ の たちならぶ オモテドオリ と、 ヨコチョウ の カド に そうた ひろい アキチ の ほう を ながめた。
 この アキチ には ナツ から アキ に かけて、 つい コノアイダ まで、 ハジメ は キョクバ、 ツギ には サルシバイ、 その ツギ には ユウレイ の ミセモノゴヤ が、 マイヨ さわがしく チクオンキ を ならしたてて いた の で ある が、 いつのまにか、 モト の よう に なって、 アタリ の うすぐらい ホカゲ が ミズタマリ の オモテ に ハンエイ して いる ばかり で ある。 ワタクシ は とにかく もう イチド オユキ を たずねて、 リョコウ を する から とか なんとか いって わかれよう。 その ほう が イタチ の ミチ を きった よう な こと を する より は、 どうせ ゆかない もの なら、 オユキ の ほう でも アトアト の ココロモチ が わるく ない で あろう。 できる こと なら、 マコト の ジジョウ を うちあけて しまいたい。 ワタクシ は サンポ したい にも その ところ が ない。 たずねたい と おもう ヒト は ミナ サキ に しんで しまった。 フウリュウ ゲンカ の チマタ も イマ では オンガクカ と ブヨウカ との ナ を あらそう ところ で、 トシヨリ が チャ を すすって ムカシ を かたる ところ では ない。 ワタクシ は はからずも この ラビラント の イチグウ に おいて フセイ ハンジツ の ヒマ を ぬすむ こと を しった。 その つもり で ジャマ でも あろう けれど おりおり あそび に くる とき は こころよく あげて くれ と、 オソマキ ながら、 わかる よう に セツメイ したい……。 ワタクシ は ふたたび ロジ へ はいって オユキ の イエ の マド に たちよった。
「さあ、 おあがんなさい」 と オユキ は くる はず の ヒト が きた と いう ココロモチ を、 その ヨウス と チョウシ と に あらわした が、 イツモ の よう に シタ の チャノマ には とおさず、 サキ に たって ハシゴ を あがる ので、 ワタクシ も ヨウス を さっして、
「オヤカタ が いる の か」
「ええ。 オカミサン も イッショ……」
「シンキ の が きた ね」
「ゴハンタキ の バアヤ も きた わ」
「そう か。 キュウ に にぎやか に なった ん だな」
「しばらく ヒトリ で いたら、 オオゼイ だ と まったく うるさい わね」 キュウ に おもいだした らしく、 「コノアイダ は ありがとう」
「いい の が あった か」
「ええ。 アシタ アタリ できて くる はず よ。 ダテジメ も 1 ポン かった わ。 これ は もう こんな だ もの。 アト で シタ へ いって もって くる わ」
 オユキ は シタ へ おりて チャ を はこんで きた。 しばらく マド に コシ を かけて なんとも つかぬ ハナシ を して いた が、 アルジ フウフ は かえりそう な ヨウス も ない。 そのうち ハシゴ の オリクチ に つけた ヨビリン が なる。 ナジミ の キャク が きた シラセ で ある。
 ウチ の ヨウス が イマ まで オユキ ヒトリ の とき とは まったく ちがって、 ながく は いられぬ よう に なり、 オユキ の ほう でも また アルジ の テマエ を キガネ して いる らしい ので、 ワタクシ は いおう と おもった こと も そのまま、 ハンジカン とは たたぬ うち トグチ を でた。
 4~5 ニチ すぎる と キセツ は ヒガン に はいった。 ソラモヨウ は にわか に かわって、 ナンプウ に おわれる アンウン の ひくく ソラ を ゆきすぎる とき、 オオツブ の アメ は ツブテ を うつ よう に ふりそそいで は たちまち やむ。 ヨ を てっして オヤミ も なく ふりつづく こと も あった。 ワタクシ が ニワ の ハゲイトウ は ネモト から たおれた。 ハギ の ハナ は ハ と ともに ふりおとされ、 すでに ミ を むすんだ シュウカイドウ の あかい クキ は おおきな ハ を はがれて、 いたましく イロ が あせて しまった。 ぬれた コノハ と カレエダ と に ろうぜき と して いる ニワ の サマ を いきのこった ホウシゼミ と コオロギ と が アメ の ハレマ ハレマ に なげき とむらう ばかり。 ワタクシ は ネンネン シュウフウ シュウウ に おそわれた ノチ の ニワ を みる たびたび コウロウム の ナカ に ある シュウソウ フウウ の ユウベ と だいされた イッペン の コシ を おもいおこす。
  シュウカ ハ サンタン ト シテ シュウソウ ハ キ ナリ。
  コウコウ タル シュウトウ シュウヤ ハ ナガシ。
  スデニ ショウス シュウソウ ニ アキ ノ ツキザル ヲ。
  イカン ゾ タエン ヤ フウウ ノ セイリョウ ヲ タスクル ヲ。
  アキ ヲ タスクル ノ フウウ ハ キタル コト ナンゾ スミヤカ ナル ヤ。
  キョウハ ス シュウソウ シュウム ノ ミドリ ナル ヲ。
  …………………………
 そして、 ワタクシ は マイトシ おなじ よう に、 とても できぬ とは しりながら、 なんとか うまく ホンヤク して みたい と おもいわずらう の で ある。
 フウウ の ナカ に ヒガン は すぎ、 テンキ が からり と はれる と、 9 ガツ の ツキ も のこりすくなく、 やがて その トシ の ジュウゴヤ に なった。
 マエ の ヨ も ふけそめて から ツキ が よかった が、 ジュウゴヤ の トウヤ には はやく から いっそう クモリ の ない メイゲツ を みた。
 ワタクシ が オユキ の やんで ニュウイン して いる こと を しった の は その ヨ で ある。 ヤトイババ から マドグチ で きいた だけ なので、 ヤマイ の ナン で ある の か も しる ヨシ が なかった。
 10 ガツ に なる と レイネン より も サムサ が はやく きた。 すでに ジュウゴヤ の バン にも タマノイ イナリ の マエドオリ の ショウテン に、 「ミナサン、 ショウジ ハリカエ の とき が きました。 サービス に ジョウトウ の ノリ を シンテイ。」 と かいた カミ が さがって いた では ない か。 もはや スアシ に フルゲタ を ひきずり ボウシ も かぶらず ヨアルキ を する ジセツ では ない。 トナリ の ラディオ も しめた アマド に さえぎられて、 それほど ワタクシ を くるしめない よう に なった ので、 ワタクシ は イエ に いて も どうやら トウカ に したしむ こと が できる よう に なった。

     *     *     *

 ボクトウ キタン は ここ に フデ を おく べき で あろう。 しかしながら もし ここ に コフウ な ショウセツテキ ケツマツ を つけよう と ほっする ならば、 ハントシ あるいは 1 ネン の ノチ、 ワタクシ が ぐうぜん おもいがけない ところ で、 すでに シロト に なって いる オユキ に めぐりあう イッセツ を かきそえれば よい で あろう。 なおまた、 この グウゼン の カイコウ を して さらに カンショウテキ ならしめよう と おもった なら、 すれちがう ジドウシャ とか あるいは レッシャ の マド から、 たがいに カオ を みあわしながら、 コトバ を かわしたい にも かわす こと の できない バメン を もうければ よい で あろう。 フウヨウ テキカ アキ は しつしつ たる トネガワ アタリ の ワタシブネ で すれちがう ところ など は、 ことに ミョウ で あろう。
 ワタクシ と オユキ とは、 たがいに その ホンミョウ も その ジュウショ をも しらず に しまった。 ただ ボクトウ の ウラマチ、 カ の わめく ドブギワ の イエ で なれしたしんだ ばかり。 ヒトタビ わかれて しまえば ショウガイ あいあう べき キカイ も シュダン も ない アイダガラ で ある。 かるい レンアイ の ユウギ とは いいながら、 サイカイ の ノゾミ なき こと を ハジメ から しりぬいて いた ベツリ の ジョウ は、 しいて これ を かたろう と すれば コチョウ に おちいり、 これ を けいけい に じょしされば ジョウ を つくさぬ ウラミ が ある。 ピエール ロッチ の メイチョ オキク さん の マツダン は、 よく シャハン の ジョウチョ を えがきつくし、 ヒト を して アンルイ を もよおさしむる チカラ が あった。 ワタクシ が ボクトウ キタン の イッペン に ショウセツテキ シキサイ を テンカ しよう と して も、 それ は いたずらに ロッチ の フデ を まなんで いたらざる の ワライ を まねく に すぎぬ かも しれない。
 ワタクシ は オユキ が ながく ドブギワ の イエ に いて、 きわめて レンカ に その コビ を うる もの で ない こと は、 なんの イワレ も なく はやく から これ を ヨソウ して いた。 わかい コロ、 ワタクシ は ユウリ の ショウソク に ツウギョウ した ロウジン から、 こんな ハナシ を きかされた こと が あった。 これほど キ に いった オンナ は ない。 はやく ハナシ を つけない と、 ホカ の オキャク に ミウケ を されて しまい は せぬ か と おもう よう な キ が する と、 その オンナ は きっと ビョウキ で しぬ か、 そう で なければ とつぜん いや な オトコ に ミウケ を されて とおい クニ へ いって しまう。 なんの ワケ も ない キヤミ と いう もの は フシギ に あたる もの だ と いう ハナシ で ある。
 オユキ は あの トチ の オンナ には にあわしからぬ ヨウショク と サイチ と を もって いた。 ケイグン の イッカク で あった。 しかし ムカシ と イマ とは ジダイ が ちがう から、 やむ とも しぬ よう な こと は あるまい。 ギリ に からまれて おもわぬ ヒト に イッショウ を よせる こと も あるまい……。
 たてこんだ きたならしい イエ の ヤネツヅキ。 アラシ の くる マエ の おもくるしい ソラ に うつる ホカゲ を のぞみながら、 オユキ と ワタクシ とは マックラ な 2 カイ の マド に よって、 たがいに あせばむ テ を とりながら、 ただ それ とも なく ナゾ の よう な こと を いって かたりあった とき、 とつぜん ひらめきおちる イナズマ に てらされた その ヨコガオ。 それ は イマ も なお ありあり と メ に のこって きえさらず に いる。 ワタクシ は ハタチ の コロ から レンアイ の ユウギ に ふけった が、 しかし この ロウキョウ に いたって、 このよう な チム を かたらねば ならない よう な ココロモチ に なろう とは。 ウンメイ の ヒト を ヤユ する こと も また はなはだしい では ない か。 ソウコウ の ウラ には なお スウギョウ の ヨハク が ある。 フデ の ゆく まま、 シ だ か サンブン だ か ワケ の わからぬ もの を しるして この ヨ の ウレイ を なぐさめよう。

  のこる カ に ヒタイ さされし わが チシオ。
  フトコロガミ に
  キミ は ぬぐいて すてし ニワ の スミ。
  ハゲイトウ の ヒトクキ たちぬ。
  ヨゴト の シモ の さむければ、
  ユウグレ の カゼ をも またで、
  たおれしす べき サダメ も しらず、
  ニシキ なす ハ の しおれながら に
  イロ ます スガタ ぞ いたましき。
  やめる チョウ ありて
  きずつきし ツバサ に よろめき、
  かえりさく ハナ と うたがう ケイトウ の
  たおれしす べき その ハカゲ。
  ヤド かる ユメ も
  むすぶ に ヒマ なき オソアキ の
  タソガレ せまる ニワ の スミ。
  キミ と わかれし ワガミ ヒトリ、
  たおれしす べき ケイトウ の ヒトクキ と
  ならびて たてる ココロ は いかに。
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ヤミ の エマキ

2019-02-04 | カジイ モトジロウ
 ヤミ の エマキ

 カジイ モトジロウ

 サイキン トウキョウ を さわがした ユウメイ な ゴウトウ が つかまって かたった ところ に よる と、 カレ は なにも みえない ヤミ の ナカ でも、 1 ポン の ボウ さえ あれば ナンリ でも はしる こと が できる と いう。 その ボウ を カラダ の マエ へ つきだし つきだし して、 ハタケ でも なんでも メクラメッポウ に はしる の だ そう で ある。
 ワタシ は この キジ を シンブン で よんだ とき、 そぞろ に ソウカイ な センリツ を きんじる こと が できなかった。
 ヤミ! その ナカ では ワレワレ は ナニ を みる こと も できない。 より ふかい アンコク が、 いつも たえない ハドウ で こっこく と シュウイ に せまって くる。 こんな ナカ では シコウ する こと さえ できない。 ナニ が ある か わからない ところ へ、 どうして ふみこんで ゆく こと が できよう。 もちろん ワレワレ は スリアシ でも して すすむ ホカ は ない だろう。 しかし それ は クジュウ や フアン や キョウフ の カンジョウ で いっぱい に なった イッポ だ。 その イッポ を かんぜん と ふみだす ため には、 ワレワレ は アクマ を よばなければ ならない だろう。 ハダシ で アザミ を ふんづける! その ゼツボウ への ジョウネツ が なくて は ならない の で ある。
 ヤミ の ナカ では、 しかし、 もし ワレワレ が そうした イシ を すてて しまう なら、 なんと いう ふかい アンド が ワレワレ を つつんで くれる だろう。 この カンジョウ を おもいうかべる ため には、 ワレワレ が トカイ で ケイケン する テイデン を おもいだして みれば いい。 テイデン して ヘヤ が マックラ に なって しまう と、 ワレワレ は サイショ なんとも いえない フカイ な キモチ に なる。 しかし ちょっと キ を かえて ノンキ で いて やれ と おもう と ドウジ に、 その クラヤミ は デントウ の シタ では あじわう こと の できない さわやか な アンソク に ヘンカ して しまう。
 ふかい ヤミ の ナカ で あじわう この アンソク は いったい ナニ を イミ して いる の だろう。 イマ は ダレ の メ から も かくれて しまった―― イマ は キョダイ な ヤミ と イチニョ に なって しまった―― それ が この カンジョウ なの だろう か。
 ワタシ は ながい アイダ ある サンカン の リョウヨウチ に くらして いた。 ワタシ は そこ で ヤミ を あいする こと を おぼえた。 ヒルマ は キンモウ の ウサギ が あそんで いる よう に みえる タニムコウ の カレカヤヤマ が、 ヨル に なる と くろぐろ と した イフ に かわった。 ヒルマ キ の つかなかった ジュモク が イギョウ な スガタ を ソラ に あらわした。 ヨル の ガイシュツ には チョウチン を もって ゆかなければ ならない。 ――ツキヨ と いう もの は チョウチン の いらない ヨル と いう こと を イミ する の だ。 ――こうした ハッケン は トカイ から フイ に サンカン へ いった モノ の ヤミ を しる ダイイチ カイテイ で ある。
 ワタシ は このんで ヤミ の ナカ へ でかけた。 タニギワ の おおきな シイ の キ の シタ に たって とおい カイドウ の コドク な デントウ を ながめた。 ふかい ヤミ の ナカ から とおい ちいさな ヒカリ を ながめる ほど カンショウテキ な もの は ない だろう。 ワタシ は その ヒカリ が はるばる やって きて、 ヤミ の ナカ の ワタシ の キモノ を ほのか に そめて いる の を しった。 また ある ところ では タニ の ヤミ へ むかって イッシン に イシ を なげた。 ヤミ の ナカ には 1 ポン の ユズ の キ が あった の で ある。 イシ が ハ を わけて かつかつ と ガケ へ あたった。 ひとしきり する と ヤミ の ナカ から は ホウレツ な ユズ の ニオイ が たちのぼって きた。
 こうした こと は リョウヨウチ の ミ を かむ よう な コドク と きりはなせる もの では ない。 ある とき は ミサキ の ミナトマチ へ ゆく ジドウシャ に のって、 わざと ハクボ の トウゲ へ ワタシ ジシン を イキ された。 ふかい ケイコク が ヤミ の ナカ へ しずむ の を みた。 ヨ が ふけて くる に したがって くろい ヤマヤマ の オネ が ふるい チキュウ の ホネ の よう に みえて きた。 カレラ は ワタシ の いる の も しらない で はなしだした。
「おい。 いつまで オレタチ は こんな こと を して いなきゃ ならない ん だ」
 ワタシ は その リョウヨウチ の 1 ポン の ヤミ の カイドウ を イマ も あたらしい インショウ で おもいだす。 それ は タニ の カリュウ に あった 1 ケン の リョカン から ジョウリュウ の ワタシ の リョカン まで かえって くる ミチ で あった。 タニ に そって ミチ は すこし ノボリ に なって いる。 3~4 チョウ も あった で あろう か。 その アイダ には ごく まれ に しか デントウ が ついて いなかった。 イマ でも その カズ が かぞえられる よう に おもう くらい だ。 サイショ の デントウ は リョカン から カイドウ へ でた ところ に あった。 ナツ は それ に ムシ が たくさん あつまって きて いた。 1 ピキ の アオガエル が いつも そこ に いた。 デントウ の マシタ の デンチュウ に いつも ぴたり と ミ を つけて いる の で ある。 しばらく みて いる と、 その アオガエル は きまった よう に アトアシ を ヘン な ふう に まげて、 セナカ を かく マネ を した。 デントウ から おちて くる コムシ が ひっつく の かも しれない。 いかにも うるさそう に それ を やる の で ある。 ワタシ は よく それ を ながめて たちどまって いた。 いつも ヨフケ で いかにも しずか な ナガメ で あった。
 しばらく ゆく と ハシ が ある。 その ウエ に たって タニ の ジョウリュウ の ほう を ながめる と、 くろぐろ と した ヤマ が ソラ の ショウメン に たちふさがって いた。 その チュウフク に 1 コ の デントウ が ついて いて、 その ヒカリ が なんとなし に キョウフ を よびおこした。 ばあーん と シンバル を たたいた よう な カンジ で ある。 ワタシ は その ハシ を わたる たび に ワタシ の メ が いつも なんとなく それ を みる の を さけたがる の を かんじて いた。
 カリュウ の ほう を ながめる と、 タニ が セ を なして ごうごう と げきして いた。 セ の イロ は ヤミ の ナカ でも しろい。 それ は また シッポ の よう に ほそく なって カリュウ の ヤミ の ナカ へ きえて ゆく の で ある。 タニ の キシ には スギバヤシ の ナカ に スミヤキゴヤ が あって、 しろい ケムリ が きりたった ヤマ の ヤミ を はいのぼって いた。 その ケムリ は ときとして カイドウ の ウエ へ おもくるしく ながれて きた。 だから カイドウ は ヒ に よって は その ジュシ-くさい ニオイ や、 また ヒ に よって は バリキ の とおった ヒルマ の ニオイ を のこして いたり する の だった。
 ハシ を わたる と ミチ は タニ に そって のぼって ゆく。 ヒダリ は タニ の ガケ。 ミギ は ヤマ の ガケ。 ユクテ に しろい デントウ が ついて いる。 それ は ある リョカン の ウラモン で、 それ まで の マッスグ な ミチ で ある。 この ヤミ の ナカ では なにも かんがえない。 それ は ユクテ の しろい デントウ と ミチ の ほんの わずか の コウバイ の ため で ある。 これ は ニクタイ に かせられた シゴト を イミ して いる。 めざす しろい デントウ の ところ まで ゆきつく と、 いつも ワタシ は イキギレ が して オウライ の ウエ で たちどまった。 コキュウ コンナン。 これ は じっと して いなければ いけない の で ある。 ヨウジ も ない のに ヨフケ の ミチ に たって ぼんやり ハタケ を ながめて いる よう な フウ を して いる。 しばらく する と また あるきだす。
 カイドウ は そこ から ミギ へ まがって いる。 タニゾイ に おおきな シイ の キ が ある。 その キ の ヤミ は いたって キョダイ だ。 その シタ に たって みあげる と、 ふかい おおきな ドウクツ の よう に みえる。 フクロウ の コエ が その オク に して いる こと が ある。 ミチ の カタワラ には ちいさな アザ が あって、 そこ から さして くる ヒカリ が、 ミチ の ウエ に おしかぶさった タケヤブ を しろく ひからせて いる。 タケ と いう もの は ジュモク の ナカ で もっとも ヒカリ に かんじやすい。 ヤマ の ナカ の トコロドコロ に むれたって いる タケヤブ。 カレラ は ヤミ の ナカ でも その アリカ を ほのじろく ひからせる。
 そこ を すぎる と ミチ は きりたった ガケ を まがって、 とつじょ ひろびろ と した テンボウ の ナカ へ でる。 ガンカイ と いう もの が こう も ヒト の ココロ を かえて しまう もの だろう か。 そこ へ くる と ワタシ は いつも イマ が イマ まで ワタシ の ココロ を しめて いた にえきらない カンガエ を ふるいおとして しまった よう に かんじる の だ。 ワタシ の ココロ には あたらしい ケツイ が うまれて くる。 ひめやか な ジョウネツ が しずか に ワタシ を みたして くる。
 この ヤミ の フウケイ は タンジュン な ちからづよい コウセイ を もって いる。 ヒダリテ には タニ の ムコウ を ヨゾラ を くぎって ハチュウ の セ の よう な オネ が えんえん と はって いる。 くろぐろ と した スギバヤシ が パノラマ の よう に めぐって ワタシ の ユクテ を ふかい ヤミ で つつんで しまって いる。 その ゼンケイ の ナカ へ、 ミギテ から も スギヤマ が かたむきかかる。 この ヤマ に そって カイドウ が ゆく。 ユクテ は いかん とも する こと の できない ヤミ で ある。 この ヤミ へ たっする まで の キョリ は 100 メートル あまり も あろう か。 その トチュウ に たった 1 ケン だけ ジンカ が あって、 カエデ の よう な キ が ゲントウ の よう に ヒカリ を あびて いる。 おおきな ヤミ の フウケイ の ナカ で ただ そこ だけ が こんもり あかるい。 カイドウ も その マエ では すこし あかるく なって いる。 しかし ゼンポウ の ヤミ は その ため に なお いっそう くらく なり カイドウ を のみこんで しまう。
 ある ヨ の こと、 ワタシ は ワタシ の マエ を ワタシ と おなじ よう に チョウチン なし で あるいて ゆく ヒトリ の オトコ が ある の に キ が ついた。 それ は とつぜん その イエ の マエ の アカルミ の ナカ へ スガタ を あらわした の だった。 オトコ は アカルミ を セ に して だんだん ヤミ の ナカ へ はいって いって しまった。 ワタシ は それ を イッシュ イヨウ な カンドウ を もって ながめて いた。 それ は、 あらわ に いって みれば、 「ジブン も しばらく すれば あの オトコ の よう に ヤミ の ナカ へ きえて ゆく の だ。 ダレ か が ここ に たって みて いれば やはり あんな ふう に きえて ゆく の で あろう」 と いう カンドウ なの で あった が、 きえて ゆく オトコ の スガタ は そんな にも カンジョウテキ で あった。
 その イエ の マエ を すぎる と、 ミチ は タニ に そった スギバヤシ に さしかかる。 ミギテ は きりたった ガケ で ある。 それ が ヤミ の ナカ で ある。 なんと いう くらい ミチ だろう。 そこ は ツキヨ でも くらい。 あるく に したがって クラサ が まして ゆく。 フアン が たかまって くる。 それ が ある キョクテン に まで たっしよう と する とき、 とつじょ ごおっ と いう オト が アシモト から おこる。 それ は スギバヤシ の キレメ だ。 ちょうど マシタ に あたる セ の オト が にわか に その キレメ から おしよせて くる の だ。 その オト は すさまじい。 キモチ には ある コンラン が おこって くる。 ダイク とか サカン とか そういった レンチュウ が タニ の ナカ で フカシギ な サカモリ を して いて、 その タカワライ が わっはっは、 わっはっは と きこえて くる よう な キ の する こと が ある。 ココロ が ねじきれそう に なる。 すると その トタン、 ミチ の ユクテ に ぱっと 1 コ の デントウ が みえる。 ヤミ は そこ で おわった の だ。
 もう そこ から は ワタシ の ヘヤ は ちかい。 デントウ の みえる ところ が ガケ の マガリカド で、 そこ を まがれば すぐ ワタシ の リョカン だ。 デントウ を みながら ゆく ミチ は こころやすい。 ワタシ は サイゴ の アンド と ともに その ミチ を あいて ゆく。 しかし キリ の ヨル が ある。 キリ に かすんで しまって デントウ が トオク に みえる。 いって も いって も そこ まで ゆきつけない よう な フシギ な キモチ に なる の だ。 イツモ の アンド が きえて しまう。 とおい とおい キモチ に なる。
 ヤミ の フウケイ は いつ みて も かわらない。 ワタシ は この ミチ を ナンド と いう こと なく あるいた。 いつも おなじ クウソウ を くりかえした。 インショウ が ココロ に きざみつけられて しまった。 カイドウ の ヤミ、 ヤミ より も こい ジュモク の ヤミ の スガタ は イマ も ワタシ の メ に のこって いる。 それ を おもいうかべる たび に、 ワタシ は イマ いる トカイ の どこ へ いって も デントウ の ヒカリ の ながれて いる ヨル を うすっきたなく おもわない では いられない の で ある。
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