カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

メオト ゼンザイ 1

2019-09-08 | オダ サクノスケ
 メオト ゼンザイ

 オダ サクノスケ

 ネンジュウ シャッキントリ が デハイリ した。 セッキ は むろん まるで マイニチ の こと で、 ショウユヤ、 アブラヤ、 ヤオヤ、 イワシヤ、 カンブツヤ、 スミヤ、 コメヤ、 ヤヌシ ソノタ、 いずれ も きびしい サイソク だった。 ロジ の イリグチ で ゴボウ、 レンコン、 イモ、 ミツバ、 コンニャク、 ベニショウガ、 スルメ、 イワシ など 1 セン テンプラ を あげて あきなって いる タネキチ は シャッキントリ の スガタ が みえる と、 シタ むいて にわか に ウドンコ を こねる マネ した。 キンジョ の コドモ たち も、 「オッサン、 はよ ゴンボ あげてん かいな」 と まてしばし が なく、 「よっしゃ、 イマ あげたある ぜ」 と いう ものの スリバチ の ソコ を ごしごし やる だけ で、 ミズバナ の おちた の も きづかなかった。
 タネキチ では ハナシ に ならぬ から スドオリ して ロジ の オク へ ゆき タネキチ の ニョウボウ に かけあう と、 ニョウボウ の オタツ は タネキチ とは だいぶ ちがって、 シャッキントリ の ドウサ に チュウイ の メ を くばった。 サイソク の ミブリ が あまって こしかけて いる イタノマ を ちょっと でも たたく と、 オタツ は すかさず、 「ヒトサマ の イエ の イタノマ たたいて、 アンタ、 それ で よろし おまん のん か」 と ケッソウ かえる の だった。 「そこ は イエ の カミサマ が やどったはる とこ だっせ」
 シバイ の つもり だ が それでも やはり コウフン する の か、 コエ に ナミダ が まじる くらい で ある から、 アイテ は おどろいて、 「ムチャ いいなはんな、 なにも ワテ は たたかしまへん ぜ」 と むしろ ひらきなおり、 2~3 ド オシモンドウ の アゲク、 けっきょく オタツ は いいまけて、 スデ では かえせぬ ハメ に なり、 50 セン か 1 エン だけ ミ を きられる オモイ で わたさねば ならなかった。 それでも、 イチド だけ だ が、 イタノマ の こと を その バ で シテキ される と、 なんとも イイワケ の ない コマリカタ で いきなり ヘイシン テイトウ して ワビ を いれ、 ほうほう の テイ で にげかえった シャッキントリ が あった と、 きまって アト で オタツ の グチ の アイテ は ムスメ の チョウコ で あった。
 そんな ハハオヤ を チョウコ は みっともない とも あわれ とも おもった。 それで、 ハハオヤ を だまして カイグイ の カネ を せしめたり、 テンプラ の ウリアゲバコ から コゼニ を ぬすんだり して きた こと が、 ちょっと コウカイ された。 タネキチ の テンプラ は アジ で うって なかなか ヒョウバン よかった が、 その ため ソン を して いる よう だった。 レンコン でも コンニャク でも すこぶる アツミ で、 オタツ の メ にも ひきあわぬ と みえた が、 タネキチ は ソロバン おいて みて、 「7 リン の モト を 1 セン に あきなって そんする わけ は ない」 イエ に カネ の のこらぬ の は マエマエ の シャッキン で マイニチ の ウリアゲ が くいこんで ゆく ため だ との タネキチ の イイブン は もっとも だった が、 しかし、 12 サイ の チョウコ には、 チチオヤ の ソロバン には スミダイ や ショウユ-ダイ が はいって いない と しれた。
 テンプラ だけ では たちゆかぬ から、 キンジョ に ソウシキ が ある たび に、 カゴカキ ニンソク に やとわれた。 ウジガミ の ナツマツリ には、 スイカン を きて オミヤ の オオヂョウチン を かついで ねる と、 ニットウ 90 セン に なった。 ヨロイ を きる と 30 セン アガリ だった。 タネキチ の ルス には オタツ が テンプラ を あげた。 オタツ は ぞんぶん に ザイリョウ を シマツ した から、 マツリ の ヒ トオリガカリ に みて、 タネキチ は カタミ の せまい オモイ を し、 ヨロイ の シタ を アセ が はしった。
 よくよく ビンボウ した ので、 チョウコ が ショウガッコウ を おえる と、 あわてて ジョチュウ-ボウコウ に だした。 ぞくに、 ガタロ ヨコチョウ の ザイモクヤ の シュジン から ずいぶん と よい ジョウケン で ハナシ が あった ので、 オタツ の カオ に おもいがけぬ ケッショク が でた が、 ゆくゆく は メカケ に しろ との ハラ が よめて チチオヤ は うん と いわず、 ニッポンバシ 3 チョウメ の フルテヤ へ バカ に わるい ジョウケン で ジョチュウ-ボウコウ させた。 ガタロ ヨコチョウ は ムカシ カッパ が すんで いた と いわれ、 きらわれて ニソク サンモン だった そこ の トチ を ザイモクヤ の センダイ が かいとって、 シャクヤ を たて、 イマ は きびしく たかい ヤチン も とる から カネ が できて、 カッパ は ザイモクヤ だ と カゲグチ きかれて いた が、 メカケ が ナンニン も いて わかい イキチ を すう から と いう イミ も ある らしかった。 チョウコ は むくむく おんなめいて、 カオダチ も こぢんまり ととのい、 ザイモクヤ は さすが に ケイガン だった。
 ニッポンバシ の フルギヤ で ハントシ あまり シンボウ が つづいた。 フユ の アサ、 クロモン イチバ への カイダシ に マワリミチ して フルギヤ の マエ を とおりかかった タネキチ は、 ミセサキ を ソウジ して いる チョウコ の テ が あかぎれて チ が にじんで いる の を みて、 そのまま はいって かけあい、 つれもどした。 そして ショモウ される まま に ソネザキ シンチ の オチャヤ へ オチョボ (ゲイシャ の シタジッコ) に やった。
 タネキチ の テ に 50 エン の カネ が はいり、 これ は シャッキンバライ で みるみる きえた が、 アト にも サキ にも まとまって うけとった の は それきり だった。 もとより ヒダリウチワ の キモチ は なかった から、 17 の とき チョウコ が ゲイシャ に なる と きいて、 この チチ は にわか に ロウバイ した。 オヒロメ を する と いって も まさか テンプラ を くばって あるく わけ には ゆかず、 シュウギ、 イショウ、 ココロヅケ など タイヘン な モノイリ で、 のみこんで カカエヌシ が だして くれる の は いい が、 それ は マエガリ に なる から、 いわば チョウコ を しばる カンジョウ に なる と、 ハンタイ した。 が、 けっきょく モチマエ の ヨウキズキ の キショウ が カンキョウ に そまって ぜひに ゲイシャ に なりたい と チョウコ に ダダ を こねられる と、 まけて、 タネキチ は ずいぶん クメン した。 だから、 つらい ツトメ も みな オヤ の ため と いう ゾック は チョウコ に あてはまらぬ。 ブスイ な キャク から、 ゲイシャ に なった の は よくよく の ワケ が あって の こと やろ、 ぜんたい オマエ の チチオヤ は…… と きかれる と、 チチオヤ は バクチウチ で とか、 だまされて デンパタ を とられた ため だ とか、 あわれっぽく もちかける など、 まさか トチガラ、 キショウガラ チョウコ には できなかった が、 と いって、 ワテ を ゲイシャ に して くれん よう な そんな ハクジョウ な オヤ て ある もん か と なきこんで、 あわや カンドウ サワギ だった とは さすが に ホントウ の こと も いえなんだ。 「ワテ の オトッツァン は ダンサン みたい に ええ オトコマエ や」 と そらしたり して アクシュミ きわまった が、 それ が アイキョウ に なった。 ――チョウコ は コエジマン で、 どんな オザシキ でも おもいきり コエ を はりあげて ノド や ヒタイ に スジ を たて、 フスマガミ が ふるえる と いう あさましい ウタイカタ を し、 ヨウキ な ザシキ には なくて かなわぬ コ で あった から、 ハッサイ (オテンバ) で うって いた の だ。 ――それでも、 たった ヒトリ、 ナジミ の ヤス-ケショウヒン-ドンヤ の ムスコ には なにもかも ホントウ の こと を いった。
 コレヤス リュウキチ と いい、 ニョウボウ も あり、 コトシ ヨッツ の コドモ も ある 31 サイ の オトコ だった が、 あいそめて ミツキ で もう そんな ナカ に なり、 ヒョウバン たって、 イッポン に なった とき の ダンナ を しくじった。 チュウフウ で ねて いる チチオヤ に かわって リュウキチ が きりまわして いる ショウバイ と いう の が、 リハツテン-ムキ の セッケン、 クリーム、 チック、 ポマード、 ビガンスイ、 フケトリ など の オロシドンヤ で ある と きいて、 サンパツヤ へ カオ を そり に いって も、 そこ で つかって いる ケショウヒン の マーク に キ を つける よう に なった。 ある ヒ、 ウメダ シンミチ に ある リュウキチ の ミセ の マエ を とおりかかる と、 アツシ を きた リュウキチ が デッチ アイテ に チホウ オクリ の ニヅクリ を カントク して いた。 ミミ に はさんだ フデ を とる と、 さらさら と チョウメン の ウエ を はしらせ、 やがて、 それ を クチ に くわえて ソロバン を はじく その スガタ が いかにも かいがいしく みえた。 ふと シセン が あう と、 チョウコ は ミミ の ツケネ まで マッカ に なった が、 リュウキチ は そしらぬ カオ で、 ちょいちょい ヨコメ を つかう だけ で あった。 それ が リチギモノ-めいた。 リュウキチ は いささか ドモリ で、 モノ を いう とき ウエ を むいて ちょっと クチ を もぐもぐ させる、 その カッコウ が かねがね チョウコ には シリョ ありげ に みえて いた。
 チョウコ は リュウキチ を しっかり した たのもしい オトコ だ と おもい、 そのよう に いいふらした が、 その ため、 その ナカ は カノジョ の ほう から のぼせて いった と いわれて も かえす コトバ は ない はず だ と、 ヒトビト は トリザタ した。 ヨイグセ の ジョウルリ の サワリ で ナキゴエ を うなる、 その とき の リュウキチ の カオ を、 ヒトビト は セイトウ に ハンダン-づけて いた の だ。 ヨミセ の 2 セン の ドテヤキ (ブタ の カワミ を ミソ で につめた もの) が すき で、 ドテヤキ さん と アダナ が ついて いた くらい だ。
 リュウキチ は うまい もの に かける と メ が なくて、 「ウマイモンヤ」 へ しばしば チョウコ を つれて いった。 カレ に いわせる と、 キタ には うまい もん を くわせる ミセ が なく、 うまい もん は なんと いって も ミナミ に かぎる そう で、 それ も イチリュウ の ミセ は ダメ や、 きたない こと を いう よう だ が ゼニ を すてる だけ の ハナシ、 ホンマ に うまい もん くいたかったら、 「イッペン オレ の アト へ ついて……」 ゆく と、 むろん イチリュウ の ミセ へは はいらず、 よくて コウヅ の ユドウフヤ、 シタ は ヨミセ の ドテヤキ、 カスマンジュウ から、 エビスバシスジ ソゴウ ヨコ 「シルイチ」 の ドジョウジル と コロジル、 ドウトンボリ アイオイバシ ヒガシヅメ 「イズモヤ」 の マムシ、 ニッポンバシ 「タコウメ」 の タコ、 ホウゼンジ ケイダイ 「ショウベン タンゴテイ」 の カントダキ、 センニチマエ トキワ-ザ ヨコ 「スシステ」 の テッカマキ と タイ の カワ の スミソ、 その ムカイ 「ダルマヤ」 の カヤクメシ と カスジル など で、 いずれ も ゼニ の かからぬ いわば ゲテモノ リョウリ ばかり で あった。 ゲイシャ を つれて ゆく べき ミセ の カマエ でも なかった から、 ハジメ は チョウコ も より に よって こんな ところ へ と おもった が、 「ど、 ど、 ど、 どや、 うまい やろ が、 こ、 こ、 こ、 こんな うまい もん どこ い いった かて たべられへん ぜ」 と いう コウシャク を ききながら くう と、 なるほど うまかった。
 ランボウ に しろい タビ を ふみつけられて、 きゃっ と コエ を たてる、 それ も かえって ショクヨク が でる ほど で、 そんな ゲテモノ リョウリ の タベアルキ が ちょっと した タノシミ に なった。 たてこんだ キャク の スキマ へ コシ を わりこんで ゆく の も、 キタ シンチ の ウレッコ の コケン に かかわる ほど では なかった。 だいいち、 そんな ヤスモノ ばかり クワセドオシ で いる ものの、 オビ、 キモノ、 ナガジュバン から オビジメ、 コシサゲ、 ゾウリ まで かなり サンザイ して くれて いた から、 けちくさい と いえた ギリ では なかった。 クリーム、 フケトリ など は どう か と おもった が、 これ も こっそり アイヨウ した。 それに、 チチオヤ は いまなお 1 セン テンプラ で クロウ して いる の だ。 トノサマ の オシノビ-めいたり、 しんみり チチオヤ の あぶらじんだ テ を おもいだしたり して、 アト に ついて まわって いる うち に、 だんだん に ジョウチョ が でた。
 シンセカイ に 2 ケン、 センニチマエ に 1 ケン、 ドウトンボリ に ナカザ の ムカイ と、 アイオイバシ ヒガシヅメ に それぞれ 1 ケン ずつ ある ツゴウ 5 ケン の イズモヤ の ナカ で マムシ の うまい の は アイオイバシ ヒガシヅメ の やつ や、 ゴハン に たっぷり しみこませた ダシ の アジ が 「なんしょ、 サカショ が よう きいとおる」 の を ふーふー クチ とがらせて たべ、 なかよく ハラ が ふくれて から、 ホウゼンジ の 「カゲツ」 へ ハルダンジ の ラクゴ を きき に ゆく と、 げらげら わらいあって、 にぎりあってる テ が アセ を かいたり した。
 ふかく なり、 リュウキチ の カヨイカタ は だんだん ヒンパン に なった。 トオデ も あったり して、 やがて リュウキチ は カネ に こまって きた と、 チョウコ にも わかった。
 チチオヤ が チュウフウ で ねつく とき わすれず に、 ギンコウ の ツウチョウ と ジツイン を フトン の シタ に かくした ので、 リュウキチ も テ の ツケヨウ が なかった。 しょせん、 ジユウ に なる カネ は しれた もの で、 トクイサキ の リハツテン を かけまわって の シュウキン だけ で こまかく ヤリクリ して いた から、 みるみる フギリ が かさんで、あおく なって いた。 そんな リュウキチ の ところ へ チョウコ から オトコバキ の ゾウリ を おくって きた。 そえた テガミ には、 だいぶ ながい こと きて くださらぬ ゆえ、 シンパイ して います。 イチドウ シタ を したい ゆえ…… と あった。 イチド ハナシ を したい (イチドウ シタ を したい) と リュウキチ だけ が ハンドク できる その テガミ が、 いつのまにか ビョウニン の ところ へ もれて しまって、 マクラモト へ よびよせて の たびかさなる イケン も かねがね キキメ なし と あきらめて いた チチオヤ も、 コンド ばかり は、 うつ、 なぐる の カラダ の ジユウ が きかぬ の が ザンネン だ と ナミダ すら うかべて ハラ を たてた。 わざと イツツ の オンナ の コ を ヒザ の ウエ に だきよせて、 わかい ツマ は シタ むいて いた。 ジッカ へ かえる ハラ を きめて いた こと で、 わずか に さけびだす の を こらえて いる よう だった。 うなだれて リュウキチ は、 チョウコ の デシャバリ め と ハラ の ナカ で つぶやいた が、 しかし、 チョウコ の キモチ は わるく とれなかった。 ゾウリ は そうとう ムリ を した らしく、 エビスバシ 「テング」 の シルシ が はいって おり、 ハナオ は ヘビ の カワ で あった。
「カマ の シタ の ハイ まで ジブン の もん や おもたら オオマチガイ やぞ、 キュウリ きって の カンドウ……」 を もうしわたした チチオヤ の ガンコ は しんだ ハハオヤ も かねがね なかされて きた くらい ゆえ、 イッタン は イエ を でなければ オサマリ が つかなかった。 イエ を でた トタン に、 ふと トウキョウ で シュウキン す べき カネ が まだ のこって いる こと を おもいだした。 ざっと カンジョウ して 400~500 エン は ある と しって、 キュウ に ココロ の クモリ が はれた。 すぐ ユキツケ の チャヤ へ あがって、 チョウコ を よび、 モノ は ソウダン や が カケオチ せえへん か。
 あくる ヒ、 リュウキチ が ウメダ の エキ で まって いる と、 チョウコ は かんかん ヒ の あたって いる エキマエ の ヒロバ を オオマタ で よこぎって きた。 カミ を メガネ に ゆって いた ので、 へんに なまなましい カンジ が して、 リュウキチ は ふいと いや な キ が した。 すぐ トウキョウ-ユキ の キシャ に のった。
 8 ガツ の スエ で バカ に むしあつい トウキョウ の マチ を かけずりまわり、 ゲツマツ には まだ 2~3 ニチ マ が ある と いう の を おがみたおして 300 エン ほど あつまった その アシ で、 アタミ へ いった。 オンセン ゲイシャ を あげよう と いう の を チョウコ は たしなめて、 これから の フタリ の ユクスエ の こと を かんがえたら、 そんな ノンキ な キイ で いて られへん と もっとも だった が、 カンドウ と いって も すぐ ワビ を いれて かえりこむ ハラ の リュウキチ は、 かめへん、 かめへん。 ムダン で カカエヌシ の ところ を とびだして きた こと を キ に して いる チョウコ の ハラ の ナカ など、 ムシ して いる よう だった。 ゲイシャ が くる と、 チョウコ は しかし、 アリッタケ の ゲイ を だしきって イチザ を さらい、 トチ の ゲイシャ から 「オオサカ の ゲイシャシュウ には かなわん わ」 と いわれて、 わずか に ココロ が なぐさまった。
 フツカ そうして たち、 ヒルゴロ、 ごおっー と ミョウ な オト が して きた トタン に、 はげしく ゆれだした。 「ジシン や」 「ジシン や」 ドウジ に コエ が でて、 チョウコ は フスマ に つかまった こと は つかまった が、 いきなり コシ を ぬかし、 きゃっ と さけんで すわりこんで しまった。 リュウキチ は ハンタイガワ の カベ に しがみついた まま はなれず、 クチ も きけなかった。 オタガイ の ココロ に その とき、 えらい カケオチ を して しまった と いう クイ が イッシュン あった。

 ヒナン レッシャ の ナカ で ろくろく モノ も いわなかった。 やっと ウメダ の エキ に つく と、 まっすぐ カミシオマチ の タネキチ の イエ へ いった。 みちみち、 デンシンバシラ に カントウ ダイシンサイ の ゴウガイ が なまなましく はられて いた。
 ニシビ の あたる ところ で テンプラ を あげて いた タネキチ は フタリ の スガタ を みる と、 びっくり して しばらく は クチ も きけなんだ。 ヒ に やけた その カオ に、 アセ と はっきり クベツ の つく ナミダ が おちた。 タチバナシ で だんだん に きけば、 チョウコ の シッソウ は すぐに カカエヌシ から シラセ が あり、 どこ に どうして いる こと やら、 わるい オトコ に そそのかされて うりとばされた の と ちがう やろ か、 いきとって くれてる ん やろ か と シンパイ で ヨル も ねむれなんだ と いう。 わるい オトコ ウンヌン を ききとがめて チョウコ は、 ナニ は ともあれ、 センス を ぱちぱち させて つったって いる リュウキチ を 「この ヒト ワテ の ナニ や」 と ショウカイ した。 「へい、 おこしやす」 タネキチ は それ イジョウ アイサツ が つづかず、 そわそわ して ろくろく カオ も よう みなかった。
 オタツ は ムスメ の カオ を みた トタン に、 ユカタ の ソデ を カオ に あてた。 なきやんで、 はじめて リョウテ を ついて、 「コノタビ は ムスメ が いろいろ と……」 リュウキチ に アイサツ し、 「オトウト の シンイチ は ジンジョウ 4 ネン で ガッコウ へ あがっとります が、 キョウ は、 まだ ひけて きとりまへん ので」 など と いうた。 アイサツ の シヨウ が なかった ので、 リュウキチ は テンコウ の こと など どもりがち に いうた。 タネキチ は コオリミズ を いい に いった。
 ギンバエ の とびまわる 4 ジョウ の ヘヤ は カゼ も とおらず、 じーん と オト が する よう に むしあつかった。 タネキチ が コオリイチゴ を サゲバコ に いれて もちかえり、 ミナ は もくもく と それ を すすった。 やがて、 トウキョウ へ いって きた ムネ チョウコ が いう と、 タネキチ は 「そら タイヘン や、 トウキョウ は オオジシン や」 びっくり して しまった ので、 それで ハナシ の イトグチ は ついた。 ヒナン レッシャ で いのちからがら にげて きた と きいて、 リョウシン は、 えらい クロウ した な と しきり に ドウジョウ した。 それで、 わかい フタリ、 とりわけ リュウキチ は ほっと した。 「なんと おわび して ええ やら」 すらすら カレ は コトバ が でて、 タネキチ と オタツ は すこぶる キョウシュク した。
 ハハオヤ の ユカタ を かりて きかえる と、 チョウコ の ハラ は きまった。 いったん チクデン した から には おめおめ カカエヌシ の ところ へ かえれまい、 おなじく イエ へ アシブミ できぬ リュウキチ と イッショ に クロウ する、 「もう ゲイシャ を やめまっさ」 との コトバ に、 タネキチ は 「オマエ の すき な よう に したら ええ がな」 コ に あまい ところ を みせた。 チョウコ の マエガリ は 300 エン-たらず で、 タネキチ は もはや ゲップ で はらう ハラ を きめて いた。 「ワテ が オヤジ に ムシン して はらいまっさ」 と リュウキチ も だまって いる わけ に ゆかなかった が、 タネキチ は 「そんな こと して もろたら こまりまん がな」 と テ を ふった。 「アンサン の オトッツァン に グツ が わるうて、 ワテ は カオ あわされしまへん がな」 リュウキチ は べつに イ を たてなかった。 オタツ は リュウキチ の ほう を むいて、 チョウコ は ハシカ の ホカ には カゼ ヒトツ ひかした こと は ない、 また カラダ の どこ さがして も カスリキズ ヒトツ ない はず、 それまで に そだてる クロウ は…… いいだして ナミダ の ヒトツ も でる シマツ に、 リュウキチ は ミミ の いたい キ が した。

 2~3 ニチ、 せまくるしい タネキチ の イエ で ごろごろ して いた が、 やがて、 クロモン イチバ の ナカ の ロジウラ に ニカイガリ して、 エンリョ キガネ の ない ショタイ を はった。 シタ は ベントウ や スシ に つかう オリバコ の ショクニン で、 2 カイ の 6 ジョウ は もっぱら オリバコ の オキバ に して あった の を、 ツキ 7 エン の マエバライ で かりた の だ。 たちまち、 クラシ に こまった。
 リュウキチ に ハタラキ が ない から、 しぜん チョウコ が かせぐ ジュンジョ で、 さて 2 ド の ツトメ に でる キ も ない と すれば、 けっきょく かせぐ ミチ は ヤトナ ゲイシャ と ソウバ が きまって いた。 もと キタ の シンチ に やはり ゲイシャ を して いた オキン と いう トシマ ゲイシャ が、 イマ は コウヅ に イッケン かまえて ヤトナ の シュウセンヤ みたい な こと を して いた。 ヤトナ と いう の は いわば リンジヤトイ で エンカイ や コンレイ に シュッチョウ する ユウゲイ ナカイ の こと で、 ゲイシャ の ハナダイ より は ずいぶん ヤスアガリ だ から、 けちくさい エンカイ から の ジュヨウ が おおく、 オキン は ゲイシャ アガリ の ヤトナ スウニン と レンラク を とり、 ハシュツ させて チュウカイ の ブ を はねる と ソウトウ な モウケ に なり、 イマ では デンワ の 1 ポン も ひいて いた。 1 エンカイ、 ユウガタ から ヨフケ まで で 6 エン、 ウチ ブ を ひいて ヤトナ の モウケ は 3 エン 50 セン だ が、 コンレイ の とき は シキヤク-ダイ も とる から モウケ は 6 エン、 シュウギ も まぜる と わるい ミイリ では ない と オキン から きいて、 さっそく ナカマ に はいった。
 シャミセン を いれた コガタ の トランク さげて デンシャ で シテイ の バショ へ ゆく と、 すぐ ゼンブ の ハコビ から カン の セワ に かかる。 30~40 ニン の キャク に ヤトナ 3 ニン で ひととおり シャク を して まわる だけ でも タイヘン なのに、 アト が えらかった。 オキマリ の カイヒ で ぞんぶん たのしむ ハラ の ブスイ な キャク を アイテ に、 イキ の つく マ も ない ほど ひかされ うたわされ、 ナニワブシ の シャミ から コワイロ の アイノテ まで つとめて くたくた に なって いる ところ を、 ヤスキブシ を おどらされた。 それでも ネ が ヨウキズキ だけ に たいして ク にも ならず ミ を いれて つとめて いる と、 キャク が、 ゲイシャ より まし や。 やはり かなしかった。 ホントウ の トシ を きけば びっくり する ほど の オオドシマ の ホウバイ が、 オヒラキ の マエ に キュウ に シュウギ を あてこんで わかい オンナ-めいた ミブリ を する の も、 おなじ ヤトナ で あって みれば、 ヒトゴト では なかった。 よふけて アカデンシャ で かえった。 ニッポンバシ 1 チョウメ で おりて、 ノライヌ や ヒロイヤ (バタヤ) が ゴミバコ を あさって いる ホカ に ヒトドオリ も なく、 しずまりかえった ナカ に ただ サカナ の なまぐさい シュウキ が ただようて いる クロモン イチバ の ナカ を とおり、 ロジ へ はいる と ぷんぷん よい ニオイ が した。
 サンショウ コンブ を にる ニオイ で、 おもいきり ジョウトウ の コンブ を 5 ブ シカク ぐらい の オオキサ に ホソギリ して サンショウ の ミ と イッショ に ナベ に いれ、 キッコウマン の コイクチ ショウユ を ふんだん に つかって、 マツズミ の トロビ で とろとろ 2 チュウヤ につめる と、 エビスバシ の 「オグラヤ」 で うって いる サンショウ コンブ と おなじ くらい の ウマサ に なる と リュウキチ は いい、 タイクツ シノギ に キノウ から それ に かかりだして いた の だ。 ヒダネ を きらさぬ こと と、 ときどき かきまわして やる こと が タイセツ で、 その ため キョウ は イッポ も ソト へ でず、 だから イツモ は きまって つかう はず の ヒ に 1 エン の コヅカイ に すこしも テ を つけて いなかった。 チョウコ の スガタ を みる と リュウキチ は 「どや、 ええ アンバイ に にえて きよった やろ」 ながい タケバシ で ナベ の ナカ を かきまわしながら いうた。 そんな リュウキチ に チョウコ は ひそか に そこはかとなき コイシサ を かんじる の だ が、 クセ で あまったるい キブン は ソト に だせず、 キモノ の スソ を ひらいた ナガジュバン の ヒザ で ぺたり と すわる なり 「ナン や、 まだ たいてる のん か、 えらい ヒマ かかって ナニ してる の や」 こんな クチ を きいた。
 リュウキチ は ハタチ の チョウコ の こと を 「オバハン」 と よぶ よう に なった。 「オバハン コヅカイ たらん ぜ」 そして 3 エン ぐらい テ に にぎる と、 ヒルマ は ショウギ など して ジカン を つぶし、 ヨル は フタツイド の 「オニイチャン」 と いう ヤス-カフェ へ でかけて、 ジョキュウ の テ に さわり、 「ボク と キョウメイ せえへん か」 そんな チョウシ だった から、 オタツ は あれ では チョウコ が かわいそう や と タネキチ に いいいい した が、 タネキチ は 「ボンボン や から アタリマエ の こっちゃ」 べつに リュウキチ を ヒナン も しなかった。 どころ か、 「ニョウボウ や コドモ すてて ニカイズマイ せん ならん いう の も、 いや いう もんの、 チョウコ が わるい さかい や」 と かえって ドウジョウ した。 そんな チチオヤ を チョウコ は リュウキチ の ため に うれしく、 クロウ の シガイ ある と おもった。 「ワテ の オトッツァン、 ええ ところ ある やろ」 と おもって くれた の か くれない の か、 「うん」 と リュウキチ は キ の ない ヘンジ で、 ナニ を かんがえて いる の か わからぬ カオ を して いた。

 その トシ も クレ に ちかづいた。 おしつまって なんとなく あわただしい キモチ の する ある ヒ、 ショウガツ の モンツキ など を とり に いく と いって、 リュウキチ は ウメダ シンミチ の イエ へ でかけて いった。 チョウコ は ミズ を あびた キモチ が した が、 いくな と いう コトバ が なぜか クチ に でなかった。 その ヨル、 エンカイ の クチ が かかって きた ので、 イツモ の よう に シャミセン を いれた トランク を さげて でかけた が、 ココロ は おもかった。 リュウキチ が オヤ の イエ へ モンツキ を とり に いった と いう ただ それ だけ の こと と して かるがるしく かんがえられなかった。 そこ には ツマ も いれば コ も いる の だ。 シャミセン の ネイロ は さえなかった。 それでも、 やはり フスマガミ が ふるえる ほど の コエ で うたい、 やっと オヒラキ に なって、 ユキ の ミチ を とんで かえって みる と、 リュウキチ は もどって いた。 ヒバチ の マエ に チュウゴシ に なり、 サケ で そまった カオ を その ナカ に つっこむ よう に しょんぼり すわって いる その ヨウス が、 いかにも ゲンキ が ない と、 ヒトメ で わかった。 チョウコ は ほっと した。 ――チチオヤ は リュウキチ の スガタ を みる なり、 ネドコ の ナカ で、 なにしに きた と どなりつけた そう で ある。 ツマ は セキ を ぬいて ジッカ に かえり、 オンナ の コ は リュウキチ の イモウト の フデコ が 18 の トシ で ハハオヤ-ガワリ に メンドウ みて いる が、 その コドモ にも あわせて もらえなかった。 リュウキチ が チョウコ と ショタイ を もった と きいて、 チチオヤ は おこる と いう より も リュウキチ を チョウショウ し、 また、 チョウコ の こと に ついて かなり ひどい こと を いった と いう こと だった。 ――チョウコ は 「ワテ の こと わるう いやはん の は ムリ おまへん」 と しんみり した。 が、 ハラ の ナカ では、 ワテ の チカラ で リュウキチ を イチニンマエ に して みせまっさかい、 シンパイ しなはんな と ひそか に リュウキチ の チチオヤ に むかって つぶやく キモチ を もった。 ジシン にも いいきかせて 「ワテ は なにも マエ の オクサン の アトガマ に すわる つもり や あらへん、 コレヤス を イチニンマエ の オトコ に シュッセ させたら ホンモウ や」 そう おもう こと は ナミダ を そそる カイカン だった。 その キモチ の ハリ と リュウキチ が かえって きた ヨロコビ と で、 その ヨル コウフン して ねむれず、 メ を ぴかぴか ひからせて ひくい テンジョウ を にらんで いた。
 マエマエ から、 チョウコ は チラシ を とじて カケイボ を つくり、 ホウレンソウ 3 セン、 フロセン 3 セン、 チリガミ 4 セン、 など と マイニチ の ニュウヒ を かきこんで ショタイ を きりつめ、 リュウキチ の マイニチ の コヅカイ イガイ に ムダ な ヒヨウ は つつしんで、 ヤトナ の モウケ の ハンブン ぐらい は チョキン して いた が、 その こと が あって から、 チョキン に たいする キ の クバリカタ も ちがって きた。 1 セン 2 セン の カネ も つかいおしみ、 ハンエリ も あかじみた。 ショウガツ を あてこんで うんと モト を しいれる の だ とて、 タネキチ が シイレ の カネ を ムシン に くる と、 「ワテ には カネ みたい な もん あらへん」 タネキチ と いれかわって オタツ が 「コレヤス さん に カフェ たら いう とこ い いかす カネ あって も か」 と いい に きた が、 うん と いわなかった。
 トシ が あけ、 マツ の ウチ も すぎた。 はっきり カンドウ だ と わかって から、 リュウキチ の ショゲカタ は すこぶる あわれ な もの だった。 フセイアイ と いう こと も あった。 チョウコ に いわれて も、 コドモ を ムリ に ひきとる キ の でなかった の は、 いずれ キサン が かなう かも しれぬ と いう シタゴコロ が ある ため だった が、 それでも、 コドモ と はなれて いる こと は さすが に さびしい と、 これ は ヒトゴト で なかった。 ある ヒ、 ムカシ の アソビ トモダチ に あい、 さそわれる と、 もともと すき な ミチ だった から、 ヒサシブリ に ぐたぐた に ようた。 その ヨル は さすが に イエ を あけなかった が、 ヨクジツ、 チョウコ が かくして いた チョキンチョウ を すっかり おろして、 サクヤ の ヘンレイ だ とて トモダチ を よびだし、 ナンバ シンチ へ はまりこんで、 フツカ、 つかいはたして タマシイ の ぬけた オトコ の よう に とぼとぼ クロモン イチバ の ロジウラ ナガヤ へ かえって きた。 「かえる とこ、 よう わすれんかった こっちゃ な」 そう いって チョウコ は クビスジ を つかんで つきたおし、 カタ を たたく とき の ヨウリョウ で、 アタマ を こつこつ たたいた。 「オバハン、 ナニ すん ねん、 ムチャ しな」 しかし、 テイコウ する ゲンキ も ない か の よう だった。 フツカヨイ で アタマ が あばれとる と、 フトン に くるまって うんうん うなって いる リュウキチ の カオ を ぴしゃり と なぐって、 なんとなく ソト へ でた。 センニチマエ の アイシンカン で キョウヤマ コエン の ナニワブシ を きいた が、 ヒトリ では おもしろい とも おもえず、 でる と、 この 2~3 ニチ メシ も ノド へ とおらなかった こと とて キュウ に クウフク を かんじ、 ラクテンチ ヨコ の ジユウケン で タマゴ-イリ の ライス カレー を たべた。 「ここ の ラ、 ラ、 ライス カレー は ゴハン に あんじょう ま、 ま、 ま、 まむして ある よって、 うまい」 と かつて リュウキチ が いった コトバ を おもいだしながら、 カレー の アト の コーヒー を のんで いる と、 いきなり あまい キモチ が ムネ に わいた。 こっそり かえって みる と、 リュウキチ は イビキ を かいて いた。 だしぬけ に、 あらあらしく ゆすぶって、 リュウキチ が ねむい メ を あける と、 「アホンダラ」 そして クチビル を とがらして リュウキチ の カオ へ もって いった。

 あくる ヒ、 フタリ で あらためて ジユウケン へ ゆき、 カエリ に コウヅ の オキン の ところ へ ナカ の よい フウフ の カオ を だした。 コト を しって いた オキン は、 リュウキチ に イケン-めいた クチ を きいた。 オキン の テイシュ は かつて キタハマ で ハブリ が よく オキン を ひかして しんだ ニョウボウ の アトガマ に すえた トタン に ボツラク した が、 オキン は ゲンザイ の ヤトナ シュウセンヤ、 テイシュ は ハジ を しのんで キタハマ の トリヒキジョ へ ショキ に やとわれて、 いわば フウフ トモカセギ で、 テイシュ の ボツラク は オキン の せい だ など と ヒト に ウシロユビ ささせぬ イマ の クラシ だ と、 ヒキアイ に だしたり した。 「コレヤス さん、 アンタ も ぶらぶら あそんで ばかり してん と、 なんぞ はたらく ところ を……」 さがす ハラ が ある の か ない の か、 リュウキチ は なんの ヒョウジョウ も なく きいて いた。 コレヤス さん の ハラ は わからん と オキン は アト で チョウコ に いうた ので、 チョウコ は カタミ の せまい オモイ が した。 が、 まもなく ハタラキグチ を みつけた ので、 チョウコ は さっそく オキン に ホウコク した。 それ で カタミ が ひろく なった と いう ほど では なかった が、 やはり うれしかった。
 センニチマエ 「イロハ ギュウニクテン」 の トナリ に ある カミソリヤ の カヨイ テンイン で、 アサ 10 ジ から ヨル 11 ジ まで の キンム、 ベントウ ジベン の ゲッキュウ 25 エン だ が、 それでも モンク なかったら と トモダチ が ショウカイ して くれた の だ。 リュウキチ は いや とは いえなかった。 アンゼン カミソリ、 レザー、 ナイフ、 ジャッキ ソノタ リハツ に カンケイ ある シナモノ を あきなって いる の だ から、 やはり リハツテン アイテ の ケショウヒン を あきなって いた リュウキチ には、 いちばん てきして いる だろう と ほねおって くれた、 その テマエ も あった。 カドグチ の せまい わり に バカ に オクユキ の ある ほそながい ミセ だ から ヒルマ なぞ ヒ が じゅうぶん ささず、 ヒルデン を シマツ した うすぐらい ところ で ヒバチ の ハイ を つつきながら、 コガイ の ヒトドオリ を ながめて いる と、 そこ の アカルサ が ウソ の よう だった。 ちょうど ムカイガワ が キョウドウ ベンジョ で その シュウキ が たまらなかった。 その トナリ は チクリンジ で、 モン の マエ の むかって ミギガワ では テツレイコウセン を うって おり、 ヒダリガワ、 つまり キョウドウ ベンジョ に ちかい ほう では モチ を やいて うって いた。 ショウユ を たっぷり つけて キツネイロ に こんがり やけて ふくれて いる ところ なぞ、 いかにも うまそう だった が、 かう キ は おこらなかった。 モチヤ の シュフ が キョウドウ ベンジョ から でて も チョウズ を つかわぬ と おぼしかった から や、 と リュウキチ は かえって いうた。 また いわく、 シゴト は ラク で、 アンゼン カミソリ の コウコク ニンギョウ が しきり に カラダ を うごかして カミソリ を といで いる カッコウ が おもしろい とて カザリマド に すいつけられる キャク が ある と、 でて いって、 おいでやす。 それ だけ の ゲイ で ことたりた。 チョウコ は、 「そら、 よろし おまん な」 そう はげました。
 カミソリヤ で ミツキ ほど シンボウ した が、 やがて、 シュジン と ケンカ して シャク や から とて ミセ を やすみやすみ しだした が、 チョウコ は その コウジツ を ホンマ だ と おもい、 アサ おこしたり しなく なり、 ずるずるべったり ミセ を やめて しまった。 チョウコ は いっそう ヤトナ カギョウ に ミ を いれた。 カノジョ だけ には トクベツ の シュウギ を はりこまねば ならぬ と エンカイ の カンジ が おもう くらい で あった。 シュウギ は しかし、 ホウバイ と ヤマワケ だ から、 ずいぶん と ひきあわぬ カンジョウ だ が、 それ だけ に ホウバイ の キウケ は よかった。 チョウコ はん チョウコ はん と たてまつられる ので イイキ に なって、 ホウバイ へ 2 エン、 3 エン と コゼニ を かした が、 わたす なり コウカイ して、 さすが に はっきり サイソク できなかった から、 なにかと ベンチャラ (オセジ) して、 はよ かえして くれ と いう オモイ を それとなく みせる の だった。 50 セン の カネ にも ちくちく ムネ の いたむ キ が した が、 リュウキチ に だけ は、 コヅカイ を せびられる と キマエ よく わたした。 リュウキチ は マイニチ が いかにも おもしろく ない よう で、 ことに こっそり ウメダ シンミチ へ でかけた らしい ヒ は かえって から の フサギカタ が めだった ので、 チョウコ は なにかと キ を つかった。 チチ の カンキ が とけぬ こと が ユウウツ の ゲンイン らしく、 その こと に ひそか に アンド する より も キモチ の フタン の ほう が おおきかった。 それで、 リュウキチ が しばしば カフェ へ ゆく と しって も、 なるべく ヤキモチ を やかぬ よう に こころがけた。 だまって カネ を わたす とき の キモチ は、 ヒト が おもって いる ほど には ヘイキ では なかった。
 ジッカ に かえって いる と いう リュウキチ の ツマ が、 ハイ で しんだ と いう ウワサ を きく と、 チョウコ は こっそり ホウゼンジ の 「エンムスビ」 に まいって ロウソク など おもいきった キシン を した。 そのかわり、 ネザメ の わるい キモチ が した ので、 カイミョウ を きいたり して タナ に まつった。 センサイ の イハイ が アタマ の ウエ に ある の を みて、 リュウキチ は なんとなく ヘン な キ が した が、 でしゃばるな とも いわなかった。 いえば なにかと ハナシ が もつれて メンドウ だ と さすが に リコウ な リュウキチ は、 イハイ さえ チョウコ の マエ では おがまなかった。 チョウコ は マイアサ ハナ を かえたり して、 イチブ の スキ も なく ふるまった。
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メオト ゼンザイ 2

2019-08-23 | オダ サクノスケ
 2 ネン たつ と、 チョキン が 300 エン を すこし こえた。 チョウコ は ゲイシャ ジダイ の こと を おもいだし、 あれ は もう ゼンブ はろうて くれた ん か と タネキチ に きく と、 「さいな、 もう アンシン しー や、 この とおり や」 と ショウモン だして きて みせた。 ハハオヤ の オタツ は セルロイド ニンギョウ の ナイショク を し、 オトウト の シンイチ は ユウカンウリ を して いた こと は チョウコ も しって いた が、 それにしても どうして クメン して はらった の か と、 マブタ が あつく なった。 それで、 はじめて オトウト に 50 セン、 オタツ に 3 エン、 タネキチ に 5 エン、 それぞれ くれて やる キ が でた。 そこで チョキン は ちょうど 300 エン に なった。 その ウチ、 リュウキチ が ゲイシャ アソビ に 100 エン ほど つかった ので、 200 エン に へった。 チョウコ は なけ も しなかった。 ユウガタ デントウ も つけぬ くらい 6 ジョウ の マ の マンナカ に ぺたり と すわりこみ、 ウデグミ して カタ で イキ を しながら、 ショウジガミ の やぶれた ところ を じっと にらんで いた。 リュウキチ は シャミセン の バチ で なぐられた アト を おさえよう とも せず、 ごろごろ して いた。
 もう これ イジョウ シマツ の シヨウ も なかった が、 それでも はやく その 100 エン を とりもどさねば ならぬ と、 イロイロ に クフウ した。 ショウバイ ドウグ の イショウ も、 よほど せっぱつまれば ソメカエ を する くらい で、 アト は キセツ キセツ の カワリメ ごと に シチヤ での ダシイレ で なんとか ヤリクリ し、 ゴフクヤ に モノ いう の も はばかる ほど で あった おかげ で、 ハントシ たたぬ うち に やっと モト の ガク に なった の を シオ に、 いつまでも ニカイガリ して いて は ヒト に あなどられる、 1 ケン かりて ヤキイモヤ でも なんでも よい から ショウバイ しよう と さっそく リュウキチ に もちかける と、 「そう やな」 キ の ない ヘンジ だった が、 しかし、 あくる ヒ から カレ は もくもく と して たちまわり、 コウヅ ジンジャ サカシタ に マグチ 1 ケン、 オクユキ 3 ゲン ハン の ちいさな ショウバイヤ を かりうけ、 ダイク を フツカ やとい、 ジブン も てつだって しかるべく カイゾウ し、 もと つとめて いた とき の ケイケン と カオ と で カミソリ-ドンヤ から シナモノ の イタク を して もらう と またたく マ に カミソリヤ の シンミセ が できあがった。 アンゼン カミソリ の カエバ、 ミミカキ、 アタマカキ、 ハナゲヌキ、 ツメキリ など の コモノ から レザー、 ジャッキ、 セイヨウ カミソリ など ショウバイガラ、 セントウ-ガエリ の キャク を あてこむ の が ダイイチ と ミセ も セントウ の マムカイ に かりる だけ の ココロクバリ も リュウキチ は した ので、 チョウコ は しきり に カンシン し、 カイテン の ゼンジツ ホウバイ の ヤトナ たち が イワイ の ハシラドケイ を もって やって くる と、 「おいでやす」 コエ の ハリ も ちがった。 そして 「ウチ が こまめ に やって くれまっさかい な」 と いい、 これ は リュウキチ の こと を ほめた つもり だった。 タスキガケ で こそこそ チンレツダナ の フキソウジ を して いる リュウキチ の スガタ は ミヨウ に よって は、 ずいぶん おとこらしく も なかった が、 オンナ たち は いずれ も カンシン し、 コレヤス さん も ヨク が でる と なかなか の ハタラキモノ だ と おもった。
 カイテン の アサ、 ムコウ ハチマキ でも したい キモチ で チョウコ は ミセ の マ に すわって いた。 ヒルゴロ、 さっぱり キャク が きえへん な と リュウキチ は こころぼそい コエ を だした が、 それ に こたえず、 メ を サラ の よう に して オモテ を とおる ヒト を にらんで いた。 ヒルスギ、 やっと キャク が きて アンゼン の カエバ 1 マイ 6 セン の ウリアゲ だった。 「マイド おおけに」 「どうぞ ゴヒイキ に」 フウフ-ガカリ で うすきみわるい ほど サーヴィス を よく した が、 ジンキ が わるい の か シンミセ の ため か、 その ヒ は 15 ニン キャク が きた だけ で、 それ も ほとんど カエバ ばかり、 ウリアゲ は しめて 2 エン にも たらなかった。
 キャクアシ が さっぱり つかず、 ジレット の ヒトツ も でる の は よい ほう で、 タイテイ は ミミカキ か カエバ ばかり の あさましい ウリアゲ の ヒ が ナンニチ も つづいた。 ハナシ の タネ も つきて、 タイクツ した おたがいに カオ を なさけなく みかわしながら ミセバン して いる と、 いっそ はずかしい オモイ が した。 タイクツ シノギ に、 ヒル の アイダ の 1 ジカン か 2 ジカン ジョウルリ を ケイコ し に いきたい と リュウキチ は いいだした が、 とめる キ も おこらなかった。 これまで ぶらぶら して いる とき には いつでも ゆけた のに、 さすが に はばかって、 ショウバイ を する よう に なって から ケイコ したい と いう。 その キモチ を、 ヒト は しらず チョウコ は あわれ に おもった。 リュウキチ は チカク の シモデラマチ の タケモト ソショウ に ゲッシャ 5 エン で デシイリ し フタツイド の テンギュウ ショテン で ケイコボン の ふるい の を あさって、 マイニチ ぶらり と でかけた。 ショウバイ に ミ を いれる と いって も、 キャク が こなければ シヨウ が ない と いった カオ で、 ミセバン を する とき も ケイコボン を ひらいて、 ぼそぼそ うなる、 その コエ が いかにも なさけなく、 ジョウタツ した と ほめる の も なんとなく キ が ひける くらい で あった。 マイツキ くいこんで いった ので、 ふたたび ヤトナ に でる こと に した。 2 ド-メ の ヤトナ に でる バン、 クロウ とは この こと か と さすが に しんみり した が、 エンカイ の セキ では やはり ショウバイ ダイジ と つとめて、 ヒトリ で ザシキ を さらって ゆかねば すまぬ、 そんな キショウ は めった に うしなわれる もの では なかった。 ユウガタ、 チョウコ が でかけて ゆく と、 リュウキチ は そわそわ と ミセ を ハヤジマイ して、 フタツイド の イチバ の ナカ に ある ヤタイミセ で カヤクメシ と オコゼ の アカダシ を くい、 カラスガイ の スミソ で サケ を のみ、 65 セン の カンジョウ はらって やすい もん やな と、 カフェ 「イチバン」 で ビール や フルーツ を とり、 カタイレ を して いる ジョキュウ に ふんだん に チップ を やる と、 トオカ ブン の ウリアゲ が とんで しもうた。 ヤトナ の モウケ で どうにか クラシ を たてて は いる ものの、 リュウキチ の ツカイブン が はげしい もの で、 だんだん トンヤ の カリ も かさんで きて、 1 ネン シンボウ した アゲク、 ミセ の ケンリ の カイテ が ついた の を サイワイ、 おもいきって ミセ を しめる こと に した。
 ミセジマイ めちゃくちゃ オオナゲウリ の フツカ-カン の ウリアゲ 100 エン あまり と、 ケンリ を うった カネ 120 エン と、 あわせて 220 エン あまり の カネ で トンヤ の ハライ や あちこち の シハライ を すませる と、 しかし 10 エン も のこらなかった。
 ニカイガリ する にも マエバライ では こまる と、 いろいろ さがして いる うち に、 オキン の ところ へ デハイリ して カオミシリ の ゴフクヤ の カツギヤ が 「ウチ の 2 カイ が あいて まん ね、 チョウコ さん の こと でっさかい ヘヤダイ は いつでも よろし おま」 と いうた の を これ サイワイ に、 トビタ オオモン マエ-ドオリ の ロジウラ に ある そこ の 2 カイ を かりる こと に なった。 リュウキチ は あいかわらず ジョウルリ の ケイコ に でかけたり、 キンジョ に ある アカノレン の 5 セン キッサテン で ナン-ジカン も ジカン を つぶしたり して たわいなかった。 チョウコ は クチ が かかれば アメ の ヒ でも ユキ の ヒ でも はたらかいで おく もの か と でかけた。 もう ヤトナ たち の ナカ でも フルガオ に なった。 クミアイ でも できる なら、 さしずめ カンジ と いう ところ で、 トシウエ の ホウバイ から も チョウコ ネエサン と いわれた が、 まさか トクイ に なって は いられなかった。 イショウ の スソ など も はずかしい ほど すりきれて、 ノド から テ の でる ほど あたらしい の が ほしかった。 おまけに シタ が ゴフク の カツギヤ と あって みれば、 たとえ メイセン の 1 マイ でも かって やらねば ギリ が わるい の だ が、 ガマン して ひたすら チョキン に つとめた。 もう イチド、 イッケンミセ の ショウバイ を しなければ ならぬ と、 オヤ の カタキ を とる よう な キモチ で、 われながら あさましかった。
 3 ネン たつ と、 やっと 200 エン たまった。 リュウキチ が チョウ が いたむ と いう ので ときどき イシャ-ガヨイ し、 その ため ニュウヒ が かさんで、 はがゆい ほど、 カネ は たまらなかった の だ。 200 エン できた ので、 リュウキチ に 「なんぞ ええ ショウバイ ない やろ か」 と ソウダン した が、 コンド は 「そんな ハシタガネ では どない も シヨウ が ない」 と ノリキ に ならず、 ある ヒ、 その ウチ 50 エン の カネ を トビタ の クルワ で またたく マ に つかって しまった。 4~5 ニチ マエ に、 イモウト が ちかぢか ムコヨウシ を むかえて、 ウメダ シンミチ の イエ を きりまわして ゆく と いう ウワサ が リュウキチ の ミミ に はいって いた ので、 かねがね ヨキ して いた こと だった が、 それでも ショウギ を アイテ に 1 ニチ で 50 エン の カネ を つかった とは、 むしろ あきれて しまった。 ぼんやり した カオ を ぬっと つきだして かえって きた ところ を、 いきなり エリ を つかんで つきたおし、 ウマノリ に なって、 ぐいぐい クビ を しめあげた。 「く、 く、 くるしい、 くるしい、 オバハン、 ナニ すん ねん」 と リュウキチ は アシ を ばたばた させた。 チョウコ は、 もう おもうぞんぶん セッカン しなければ キ が すまぬ と、 しめつけ しめつけ、 うつ、 なぐる、 シマイ に リュウキチ は 「どうぞ、 カンニン して くれ」 と ヒメイ を あげた。 チョウコ は なかなか テ を ゆるめなかった。 イモウト が ムコヨウシ を むかえる と きいた くらい で ヤケ に なる リュウキチ が、 はらだたしい と いう より、 むしろ かわいそう で、 チョウコ の セッカン は チジョウ-めいた。 スキ を みて リュウキチ は、 ひーひー コエ を たてて シタ へ おり、 にげまわった アゲク、 ベンジョ の ナカ へ かくれて しまった。 さすが に そこ まで は おわなかった。 シタ の シュフ は おんなだてら に と たしなめた が、 チョウコ は モノ ヒトツ いわず、 ソデ を カオ に あてて、 カタ を ふるわせる と、 おもいがけず はじめて おんならしく みえた と、 シュフ は おもった。 トシシタ の オット を もつ カノジョ は かねがね チョウコ の こと を よく いわなかった。 マイアサ ミソシル を こしらえる とき、 リュウキチ が タスキガケ で カツオブシ を けずって いる の を みて、 テイシュ に そんな こと を させて よい もん か と ほとんど クチ に でかかった。 コノミ の アジ に する ため、 わざわざ カツオブシ ケズリ まで ジブン の テ で しなければ おさまらぬ リュウキチ の クイイジ の キタナサ など、 しらなかった の だ。 カツギヤ も ドウカン で、 いつか チョウコ、 リュウキチ と 3 ニン つれだって センニチマエ へ ナニワブシ を きき に いった とき、 たてこんだ ヨセ の ナカ で、 ダレ か に イタズラ を された とて、 きゃーっ と オオゴエ を だして さわぎまわった チョウコ を みて、 えらい オンナ や と おもい、 テイサイ の わるそう な カオ で メ を しょぼしょぼ させて いる リュウキチ に ほとほと ドウジョウ した、 と かえって ニョウボウ に いった。 「あれ では いまに コレヤス さん に きらわれる やろ」 フウフ は ひそひそ かたりあって いた が、 あんのじょう、 リュウキチ は ある ヒ ぶらり と でて いった まま、 イクニチ も かえって こなかった。
 ナノカ たって も リュウキチ は かえって こない ので、 ハンナキ の カオ で、 タネキチ の イエ へ ゆき、 ウメダ シンミチ に いる に ちがいない から、 どんな ヨウス か こっそり みて きて くれ と たのんだ。 タネキチ は、 ムスメ の タノミ を はねつける と いう わけ では ない が、 わかれる キ の センポウ へ いって ヘタ に カオ みられたら、 どんな メ で みられる かも しれぬ と ことわった。 「ヘタ に ミレン もたん と わかれた ほう が ミ の ため やぜ」 など と それ が オヤ の いう コトバ か と、 チョウコ は コウフン の あまり クチゲンカ まで し、 その アシ で シンセカイ の ハッケミ の ところ へ いった。 「アンタ が オトコ はん の ため に つくす その ココロ が アダ に なる。 だいたい この ホシ の ヒト は……」 トシ を きいて ヒノエウマ だ と しる と、 ハッケミ は もう タテイタ に ミズ を ながす オシャベリ で、 なにもかも わるい ウンセイ だった。 「オトコ はん の ココロ は キタ に かたむいて いる」 と きいて、 ぞっと した。 キタ とは ウメダ シンミチ だ。 カネ を はらって ソト へ でる と、 どこ へ ゆく と いう アテ も なく、 マナツ の ヒ が かんかん あたって いる サカリバ を アシバヤ に あるいた。 アタミ の ヤド で でくわした ジシン の こと が おもいだされた。 やはり あつい ヒ だった。
 トオカ-メ、 ちょうど ジゾウボン で、 ロジ にも ボンオドリ が あり、 ムリ に ひっぱりだされて、 タンチョウ な キョク を くりかえし くりかえし、 それでも ときどき チョウシ に ヘンカ を もたせて ひいて いる と、 ふと エアンドン の シタ を ひょこひょこ あるいて くる リュウキチ の カオ が みえた。 アンドン の アカリ に カオ が はえて、 まぶしそう に メ を しょぼつかせて いた。 トタン に シャミセン の イト が きれて はねた。 すぐ 2 カイ へ つれあがって、 つもる ハナシ より も サキ に ミ を なげかけた。
 2 ジカン たって、 デンシャ が なくなる よって と かえって いった。 みじかい ジカン の アイダ に これ だけ の こと を リュウキチ は はなした。 この トオカ-カン ウメダ の イエ へ いりびたって いた の は ホカ や ない、 むろん おもう ところ あって の こと や。 イモウト が ムコヨウシ を とる と あれば、 こちら は ハイチャク と ソウバ は きまって いる が、 それで ナキネイリ しろ とは あまり の シウチ や と、 ウメダ の イエ へ かけこむ なり、 マイニチ ヒザヅメ の ダンパン を やった ところ、 いっこう に キキメ が ない。 ツマ を すて、 コ も すてて すき な オンナ と イッショ に くらして いる ミ に カチメ は ない が、 ハイチャク は ハイチャク でも もらう だけ の もの は もらわぬ と、 アト へは いけぬ おもて テコ でも うごかへんなんだ が、 オヤジ の イイブン は どう や。 チョウコ、 オマエ キ に した あかん ぜ。 「あんな オンナ と イッショ に くらして いる モノ に カネ を やって も シニガネ ドウゼン や、 けっきょく オンナ に だまされて とられて しまう が オチ や、 ほしければ オンナ と わかれろ」 こない いうた きり オヤジ は もう モノ も いいくさらん。 そこで、 チョウコ、 ここ は イチバン シバイ を うつ こっちゃ。 わかれた、 オンナ も わかれる いうて ます と うまく オヤジ を だまして もらう だけ の もの は もろたら、 アト は ハイチャク でも ハイカグラ でも、 その カネ で キラク な ショウバイ でも やって フタリ すえなごう トモシラガ まで くらそう や ない か。 いつまでも オマエ に ヤトナ させとく の も かわいそう や。 それで チョウコ、 アシタ イエ の ツカイ の モノ が きよったら、 わかれまっさ と きっぱり いうて ほしい ん や。 ホンマ の キモチ で いう の や ない ねん ぜ。 シ、 シ、 シバイ や。 シバイ や。 カネ さえ もろたら ワイ は じき かえって くる。 ――チョウコ の ムネ に あまい キモチ と フアン な キモチ が のこった。
 ヨクアサ、 コウヅ の オキン を おとずれた。 ハナシ を きく と、 オキン は 「チョウコ はん、 アンタ コレヤス さん に だまされたはる」 と、 さすが に クロウニン だった。 オキン は、 コレヤス が サイショ チョウコ に ナイショ で ウメダ へ いった と きいて、 これ は うっかり シバイ に のれぬ と おもった。 リュウキチ の ハラ は、 チョウコ が わかれる と いって しまえば、 それ で まんまと キサン が かない、 そのまま ウメダ の イエ へ すわりこんで しまう つもり かも しれぬ。 と そう まで はっきり と わるく とらず、 また いくら ケショウヒン-ドンヤ でも そこ は チチオヤ が おろして くれぬ と すれば、 その とき は その とき で わるく いって も カネ が とれる し、 いわば フタミチ を かけて いる か、 それとも ジブン で ジブン の キモチ が はっきり して ない か、 なにしろ、 リュウキチ には コドモ も ある こと だ と、 そこ まで は クチ に ださなかった が、 いずれ に せよ チョウコ が わかれる と いわなければ、 リュウキチ は オヤ の イエ に おれぬ カンジョウ だ から けっきょく は リュウキチ に もどって ほしければ 「わかれる と いうたら あきまへん ぜ」 チョウコ は オキン の いう とおり に した。 ウソ に しろ わかれる と いう より、 その ほう が いいやすかった。 それに、 まもなく カオ を みせた ツカイ の モノ は テギレキン を ヨウイ して いる らしく、 もらえば それきり で エン が きれそう だった。

 ミッカ たつ と リュウキチ は かえって きた。 いそいそ と した チョウコ を みる なり 「アホ やな、 オマエ の ヒトコト で なにもかも めちゃくちゃ や」 フキゲン きわまった。 テギレキン ウンヌン の キモチ を いう と、 「もろたら、 ワイ の もらう カネ と ニジュウドリ で ええ がな。 ちょっと は ヨク を ださん かい や」 なるほど と おもった。 が、 オキン の コトバ は やはり ムネ の ナカ に のこった。
 チチオヤ から は とりそこなった が、 イモウト から ムシン して きた カネ 300 エン と チョウコ の チョキン を あわせて、 それ で ナニ か ショウバイ を やろう と、 コンド は リュウキチ の クチ から いいだした。 カミソリヤ の にがい ケイケン が ある から、 あれ でも なし、 これ でも なし と リュウキチ の キョウミ を もちそう な ショウバイ を かんがえた スエ、 けっきょく ヤキイモヤ でも やる より ホカ には…… と こまって いる うち に、 ふと カントダキヤ が よい と おもいつき、 リュウキチ に いう と、 「そ、 そ、 そら ええ カンガエ や、 ワイ が ウデマエ ふるって ええ アジ の もん を くわしたる」 ひどく ノリキ に なった。 テキトウ な ウリミセ が ない か と さがす と、 チカク の トビタ オオモン マエ-ドオリ に ちいさな カントダキ の ミセ が ウリ に でて いた。 ゲンザイ トシヨリ フウフ が ショウバイ して いる の だ が、 トチガラ、 キャクダネ が ガラ わるく あらっぽい ので、 おとなしい オナゴシ は つづかず、 と いって キショウ の つよい オンナ は こちら が なめられる と いった アンバイ で、 ほとほと ヒトデ に こまって ウリ に だした の だ と いう から、 かけあう と、 あんがい やすく ゾウサク から ドウグ いっさい つき 350 エン で ゆずって くれた。 シタ は ゼンブ シックイ で ショウバイ に つかう から、 ネトマリ する ところ は 2 カイ の 4 ジョウ ハン ヒトマ ある きり、 おまけに アタマ が つかえる ほど テンジョウ が ひくく いんきくさかった が、 クルワ の ユキカエリ で ヒトドオリ も おおく、 それに カドミセ で、 ミセ の ダンドリ から デイリグチ の トリカタ など たいへん よかった ので、 ネ を きく なり とびついて テ を うった の だ。 シンキ カイテン に さきだち、 ホウゼンジ ケイダイ の ショウベン タンゴテイ や ドウトンボリ の タコウメ を ハジメ、 ユキアタリバッタリ に カントダキヤ の ノレン を くぐって、 アジカゲン や チョウシ の ナカミ の グアイ、 ショウバイ の ヤリクチ など を しらべた。 カントダキヤ を やる と きいて タネキチ は、 「エビ でも イカ でも テンプラ なら ワイ に まかしとくなはれ」 と テツダイ の イ を もうしいでた が、 リュウキチ は、 「コバチモノ は やりまっけど、 テンプラ は だしまへん」 と テイサイ よく ことわった。 タネキチ は ザンネン だった。 オタツ は、 それ みた こと か と タネキチ を あざけった。 「ワテラ に てつどうて もろたら ソン や おもたはる の や。 ダレ が ビタイチモン でも ムシン する もん か」
 オタガイ の ナ を イチジ ずつ とって 「チョウリュウ」 と ヤゴウ を つけ、 いよいよ カイテン する こと に なった。 まだ アツサ が さって いなかった こと とて おもいきって ナマ ビール の タル を しこんで いた ゆえ、 はよ うりきって しまわねば キ が ぬけて ワヤ (ダメ) に なる と、 やきもき シンパイ した ほど でも なく、 よく うれた。 ヒトデ を かりず、 フウフ だけ で ミセ を きりまわした ので、 ヨル の 10 ジ から 12 ジ-ゴロ まで の いちばん たてこむ ジカン は メ の まわる ほど いそがしく、 ショウベン に たつ ヒマ も なかった。 リュウキチ は しろい リョウリギ に タカゲタ と いう イキ な カッコウ で、 ときどき ゼニバコ を のぞいた。 ウリアゲガク が ふえて いる と、 「いらっしゃあい」 カミソリヤ の とき と ちがって カケゴエ も いさましかった。 ぞくに 「オカマ」 と いう チュウセイ の ナガシ ゲイニン が ながして きて、 アオヤギ を にぎやか に ひいて いったり、 ケイキ が よかった。 そのかわり、 トチガラ が わるく、 タチ の よく ない サケノミ ドウシ が ケンカ を はじめたり して、 リュウキチ は はらはら した が、 チョウコ は ムカシ とった キネヅカ で、 そんな キャク を うまく さばく の に べつに シュウハ を つかったり する ヒツヨウ も なかった。 クルワ を ひかえて おそく まで キャク が あり、 カンバン を いれる コロ は もう ヒガシ の ソラ が ムラサキイロ に かわって いた。 くたくた に なって 2 カイ の 4 ジョウ ハン で イットキ うとうと した か と おもう と、 もう メザマシ が じじー と なった。 ネマキ の まま で シタ に おりる と、 カオ も あらわぬ うち に、 「チョウショク できます、 ヨシナ-ツキ 18 セン」 の タテカンバン を だした。 アサガエリ の キャク を あてこんで ミソシル、 ニマメ、 ツケモノ、 ゴハン と ツゴウ ヨシナ で 18 セン、 こまかい ショウバイ だ と タカ を くくって いた ところ、 ビール など を とる キャク も いて、 けっこう ショウバイ に なった から、 しょうしょう ネムサ も ガマン できた。
 あきめいて きて、 やがて カゼ が はだざむく なる と、 もう カントダキヤ に 「もってこい」 の キセツ で、 ビール に かわって サケ も よく でた。 サカヤ の ハライ も きちんきちん と ゲンキン で わたし、 メイシュ の ホンポ から、 カンバン を キゾウ して やろう と いう くらい に なり、 チョウコ の シャミセン も むなしく オシイレ に しまった まま だった。 コンド は ハンブン イジョウ ジブン の カネ を だした と いう せい ばかり でも なかったろう が、 リュウキチ の ミ の イレカタ は モウシブン なかった。 コウキュウビ と いう もの も もうけず、 マイニチ せっせと せいだした から、 ムダヅカイ も ない まま に、 いきおい たまる イッポウ だった。 リュウキチ は マイニチ ユウビンキョク へ いった。 カラダ の えらい ショウバイ だ から、 リュウキチ は つかれる と サケ で ゲンキ を つけた。 サケ を のむ と キ が おおきく なり、 ふらふら と タイキン を つかって しまう リュウキチ の ショウブン を しって いた ので、 チョウコ は ひやひや した が、 ウリモノ の サケ と あって みれば、 リュウキチ も カゲン して のんだ。 そういう ノミカタ も、 しかし、 チョウコ には また ヒトツ の シンパイ で、 いずれ は どちら へ まわって も シンパイ は つきなかった。 オオザケ を のめば バカ に ヨウキ に なる が、 ちびちび やる とき は がんらい ドモリ の せい か ムクチ の リュウキチ が いっそう ムクチ に なって、 キャク の ない とき など、 イス に こしかけて ぽかん と ナニ か カンガエゴト して いる らしい ヨウス を みる と、 やはり、 ウメダ の イエ の こと かんがえてる の と ちがう やろ か、 そう おもって キ が キ で なかった。
 あんのじょう、 イモウト の コンレイ に シュッセキ を はねつけられた とて リュウキチ は キ を くさらせ、 200 エン ほど もちだして でかけた まま、 ミッカ かえって こなかった。 ちょうど ハナミドキ で、 おまけに ニチヨウ、 サイジツ と モンビ が つづいて ミセ を やすむ わけ に ゆかず、 テンテコマイ しながら フツカ ショウバイ を した ものの、 チョウコ は もう ヨク など だして いる キ にも なれず、 おまけに いそがしい の と シンパイ と で カラダ が いう こと を きかず、 ミッカ-メ は とうとう ミセ を しめた。 その ヨル おそく、 かえって きた。 ミミ を すまして いる と、 「イマゴロ は ハンシチ さん が、 どこ に どうして ござろう ぞ。 いまさら かえらぬ こと ながら、 ワシ と いう もの ない ならば、 ハンベエ サマ も オツウ に めんじ、 コ まで なしたる サンカツ ドノ を、 とくに も よびいれさしゃんしたら、 ハンシチ さん の ミモチ も なおり、 ゴカンドウ も あるまい に……」 と サンカツ ハンシチ の サワリ を かたりながら やって くる の は、 リュウキチ に ちがいなかった。
 ヨナカ に ヘタ な ジョウルリ を かたったり して、 キンジョ の テイサイ も わるい こっちゃ と、 はっと した。 「……オキ に いらぬ と しりながら、 ミレン な ワタシ が リンネ ゆえ、 ソイブシ は かなわず とも、 オソバ に いたい と シンボウ して、 これまで いた の が オミ の アダ……」 と こっち から アト を つづけて こましたろ か と いう キモチ で、 シタ へ おりた。 リュウキチ の アシオト は イエ の マエ で とまった。 もう かたり も せず、 キガネ した ヨウス で、 かたかた ト を うごかせて いる よう だった。 「ドナタッ?」 わざと いう と、 「ワイ や」 「ワイ では わかりまへん ぜ」 かさねて とぼけて みせる と、 「コ、 コ、 コレヤス や」 と ソト の コエ は ふるえて いた。 「コレヤス いう ヒト は たんと いたはります」 にこり とも せず いった。 「コレヤス リュウキチ や」 もう チョウコ の セッカン を カンネン して いる よう だった。 「コレヤス リュウキチ いう ヒト は ここ には ヨウ の ない ヒト だす。 イマゴロ どこ ぞ で サンザイ して いやはりまっしゃろ」 と なおも いじめ に かかった が、 キンジョ の テイサイ も あった から、 その くらい に して、 ト を あける なり、 「オバハン、 セ、 セ、 セッショウ やぜ」 と カオ を しかめて つったって いる リュウキチ を ひきずりこんだ。 ムリ に 2 カイ へ おしあげる と、 リュウキチ は テンジョウ へ アタマ を ぶっつけた。 「いたあ!」 も クソ も ある もん か と、 おもうぞんぶん セッカン した。
 もう ニド と ウワキ は しない と リュウキチ は ちかった が、 チョウコ の セッカン は なんの クスリ にも ならなかった。 しばらく する と、 また ホウトウ した。 そして かえる とき は、 やはり セッカン を おそれて あおく なった。 そろそろ ヒマン して きた チョウコ は セッカン する たび に イキギレ が した。
 リュウキチ が ユウトウ に つかう カネ は かなり の ガク だった から、 あそんだ あくる ヒ は さすが に カレ も あおく なって、 サカズキ も テ に しない で、 もくもく と ナベ の ナカ を かきまわして いた。 が、 4~5 ニチ たつ と、 やはり、 キャク の サケ の カン を する ばかり が ノウ や ない と いいだし、 まぜない ほう の サケ を たっぷり チョウシ に いれて、 ドウコ の ナカ へ つけた。 あきらか に ショウバイ に あいた ふう で、 よう と キ が おおきく なり、 しぜん アシ は アソビ の ほう に むいた。 コウヤ の シロバカマ どころ で なく、 これ では リュウキチ の アソビ に アブラ を そそぐ ため に ショウバイ を して いる よう な もの だ と、 チョウコ は だんだん コウカイ した。 えらい ショウバイ を はじめた もの や と おもって いる うち に、 サカヤ への シハライ など も とどこおりがち に なり、 けっきょく、 やめる に しかず と、 その ムネ リュウキチ に いう と、 リュウキチ は ソクザ に ドウイ した。

「この ミセ ゆずります」 と ハリダシ した まま、 いんきくさく ずっと ミセ を しめた きり だった。 リュウキチ は ジョウルリ の ケイコ に かよいだした。 タクワエ の カネ も しだいに うすく なって ゆく のに、 いっこう に ミセ の カイテ が つかなかった。 チョウコ の ハラ は そろそろ、 3 ド-メ の ヤトナ を かんがえて いた。 ある ヒ、 2 カイ の マド から オモテ の ヒトドオリ を ながめて いる と、 それ が ミナ キャク に みえて、 ショウバイ を して いない こと が いかにも おしかった。 ムカイガワ の 5~6 ケン サキ に ある クダモノヤ が、 アカ や キ や ミドリ の イロ が さきこぼれて いて、 カッキ を みせた。 キャク の デイリ も おおかった。 クダモノヤ は ええ ショウバイ や と ふと おもう と、 もう いて も たって も いられず、 リュウキチ が ジョウルリ の ケイコ から かえって くる と、 さっそく 「アカモンヤ を やれへん か」 リュウキチ は ノリキ に ならなかった。 いよいよ くう に こまれば、 ウメダ へ いって ムシン すれば よし と かんがえて いた の だ。
 ある ヒ、 どうやら ウメダ へ でかけた らしかった。 かえって きて の ハナシ に、 ムシン した ところ イモウト の ムコ が でて オウタイ した が、 ハナシ の わからぬ ガンコモノ の うえ に ケチンボ と きて いて、 けっきょく ビタイチモン も ださなかった と しきり に コウフン した。 そして 「アカモンヤ を やろう や ない か」 カオ は にがりきって いた。
 カントダキ の ショドウグ を うりはらった カネ で ミセ を カイゾウ した。 シイレ や なにやかや で だいぶ カネ が たらなかった ので、 イショウ や アタマ の モノ を シチ に いれ、 なお オキン の ところ へ カネ を かり に いった。 オキン は 1 ジカン ばかり リュウキチ の ワルクチ を いった が、 けっきょく 「チョウコ はん、 アンタ が かわいそう や さかい」 と 100 エン かして くれた。
 その アシ で カミシオマチ の タネキチ の ところ へ ゆき、 クダモノヤ を やる から、 2~3 ニチ テ を かして くれ と たのんだ。 スイカ の キリカタ など ヨウリョウ を リュウキチ は しらない から、 ケイケン の ある タネキチ に おそわる ヒツヨウ に せまられて、 コンド は リュウキチ の クチ から 「ひとつ オトッツァン に たのもう や ない か」 と いいだして いた。 タネキチ は わかい コロ オタツ の クニモト の ヤマト から クルマ 1 ダイ ブン の スイカ を かって、 カミシオマチ の ヨミセ で キリウリ した こと が ある。 その コロ、 チョウコ は まだ フタツ で、 オタツ が せおうて、 つまり オヤコ 3 ニン ソウデ で、 ヒトバン に 100 コ うれた と タネキチ は ムカシバナシ し、 よろこんで てつだう こと を いった。 カントダキヤ の とき てつだおう と いって リュウキチ に はねつけられた こと など、 ネ に もたなかった。 どころ か ミセビラキ の ヒ、 スジムカイ にも クダモノヤ が ある とて、 「スイカヤ の ムカイ に スイカヤ が できて、 スイカ ドウシ (すいた ドウシ) の サシムカイ」 と タンカイブシ の モンク を いいだす ほど の ジョウキゲン だった。 ムカイガワ の クダモノヤ は、 ミセ の ハンブン が コオリ-テン に なって いる の が ツヨミ で コオリカケ スイカ で キャク を よんだ から、 しぜん、 チョウコ たち は、 キリミ の アツサ で タイコウ しなければ ならなかった。 が、 いわれなくて も タネキチ の キリカタ は、 すこぶる キマエ が よかった。 1 コ 80 セン の スイカ で 10 セン の キリミ ナンコ と ムナザンヨウ して、 リュウキチ が はらはら する と、 タネキチ は 「キリミ で つって、 まるぐち で もうける ん や。 そんして トク とれ や」 と いった。 そして 「ああ、 スイカ や、 スイカ や、 うまい スイカ の オオヤスウリ や!」 と ハデ な ヨビゴエ を だした。 ムカイガワ の ヨビゴエ も なかなか まけて いなかった。 チョウコ も だまって いられず、 「やすい スイカ だっせ」 と カナキリゴエ を だした。 それ が アイキョウ で、 キャク が きた。 チョウコ は、 カバン の よう な サイフ を クビ から つるして、 ウリアゲ を いれたり、 ツリセン を だしたり した。
 アサ の アイダ、 チョウコ は クルワ の ナカ へ はいって ゆき ノキゴト に スイカ を うって まわった。 「うまい スイカ だっせ」 と いう コエ が びっくり する ほど きれい なの と、 わらう カオ が アイキョウ が あり、 しかも キショウ が イキ で さっぱり して いる の と が たまらぬ と、 ショウギ たち が ヒイキ に して くれた。 「アシタ も もって きとくなはれ や」 そんな とき リュウキチ が セ に のせて ゆく と、 「ネエチャン は……?」 ええ オクサン を もって はる と ほめられる の を、 ヒトゴト の よう に ききながして、 リュウキチ は しぶい カオ で あった。 むしろ、 むっつり して、 これ で あそべば めちゃくちゃ に ハメ を はずす オトコ だ とは みえなかった。
 わりあい ネッシン に ならった ので、 4~5 ニチ する と リュウキチ は スイカ を きる ヨウリョウ など おぼえた。 タネキチ は ちょうど ウジガミ の マツリ で レイネン-どおり オワタリ の ニンソク に やとわれた の を シオ に、 テ を ひいた。 カエリシナ、 リンゴ は よくよく フキン で ふいて ツヤ を だす こと、 スイミツトウ には テ を ふれぬ こと、 クダモノ は ホコリ を きらう ゆえ しじゅう ハタキ を かける こと など ネン おして いった。 その とおり に こころがけて いた の だ が、 どういう もの か アシ が はやくて スイミツトウ など またたく マ に フハイ した。 ミセ へ かざって おけぬ から、 つらい キモチ で すてた。 マイニチ、 すてる ブン が おおかった。 と いって シナモノ を へらす と ミセ が ヒンソウ に なる ので、 そう も ゆかず、 うまく はけない と アセリ が でた。 モウケ も おおい が ソン も カンジョウ に いれねば ならず、 クダモノヤ も ヨウイ な ショウバイ では ない と、 だんだん わかった。
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メオト ゼンザイ 3

2019-08-08 | オダ サクノスケ
 リュウキチ に そろそろ ゲンキ が なくなって きた ので、 チョウコ は もう あいた の か と シンパイ した。 が その シンパイ より サキ に リュウキチ は ビョウキ に なった。 マエマエ から イチョウ が わるい と フタツイド の ジッピ へ かよいかよい して いた が、 コンド は ニョウ に チ が まじって ショウベン する の に たっぷり 20 プン かかる など、 ヒト にも いえなかった。 マエ に あやしい ビョウキ に かかり、 その とき チョウコ は 「なんちゅう ヒト やろ」 と おこりながら も、 マジナイ に、 ヤネガワラ に へばりついて いる ネコ の フン と ミョウバン を せんじて こっそり のませた ところ キキメ が あった ので、 コンド も それ だ と おもって、 だまって ミソシル の ナカ に いれる と、 リュウキチ は すすって みて、 ヘン な カオ を した が、 それ と きづかず、 アジ の ミョウ なの は ビョウキ の せい だ と おもった らしかった。 キ が つかねば、 マジナイ は きく の だ と ひそか に ゲン の あらわれる の を まって いた ところ さらに キキメ は なかった。 ショウベン の とき、 ナキゴエ を たてる よう に なり、 シマノウチ の カヨウドウ ビョウイン が ヒニョウカ センモン なので、 そこ で みて もらう と、 ニュウドウ に クダ を いれて のぞいた アゲク、 「ボウコウ が わるい」 トオカ ばかり かよった が、 はかばかしく ならなかった。 みるみる やせて いった。 ミタテチガイ と いう こと も ある から と、 テンノウジ の シミン ビョウイン で みて もらう と、 はたして ちがって いた。 レントゲン を かけ ジンゾウ ケッカク だ と きまる と、 カヨウドウ ビョウイン が うらめしい より も、 むしろ なつかしかった。 イノチ が おしければ ニュウイン しなさい と いわれた。 あわてて ニュウイン した。
 ツキソイ の ため、 ミセ を かまって いられなかった ので、 チョウコ は やむなく、 ミセ を しめた。 クダモノ が くさって ゆく こと が ザンネン だった から、 タネキチ に ミセ の ほう を たのもう と おもった が、 ウン の わるい とき は どうにも シヨウ の ない もの で、 ハハオヤ の オタツ が 4~5 ニチ マエ から ねついて いた。 シキュウガン との こと だった。 コンコウキョウ に こって、 オミズ を いただいたり して いる うち に、 スイジャク が はげしくて、 ねついた とき は もう たすからぬ ジョウタイ だ と マチイシャ は みた。 シュジュツ を する にも、 この カラダ では と イシャ は キノドク-がった が、 オタツ の ほう から シュジュツ も いや、 ニュウイン も いや と ことわった。 カネ の こと も あった。 チュウシャ も ハジメ は きらった が、 カラダ が フタツ に われる よう な クツウ が チュウシャ で きえて とろとろ と キモチ よく ねむりこんで しまえる アジ を おぼえる と、 イタミ より も サキ に 「チュウシャ や、 チュウシャ や」 ヨナカ でも かまわず なきさけんで、 タネキチ を おこした。 タネキチ は ねむい メ を こすって イシャ の ところ へ はしった。 「モルヒネ だ から たびたび の チュウシャ は キケン だ」 と イシャ は ことわる の だ が、 「どうせ しによる カラダ です よって」 と メ を しばたたいた。 オトウト の シンイチ は キョウト シモガモ の シチヤ へ ネンキ-ボウコウ して いた が、 いざ と いう とき が くる まで、 もどれ と いわぬ こと に して あった。 だから、 タネキチ の カラダ は イクツ あって も たらぬ くらい で、 チョウコ も あきらめ、 けっきょく ビョウイン-ダイ も いる まま に、 ミセ を ウリ に だした の だ。
 これ ばっかり は ウン よく、 すぐ カイテ が ついて、 250 エン の カネ が はいった が、 すぐ きえた。 シュジュツ と きまって は いた が、 シュジュツ する マエ に カラダ に リキ を つけて おかねば ならず、 ハクライ の クスリ を マイニチ 2 ホン ずつ いれた。 1 ポン 5 エン も した ので、 こわい ほど ビョウイン-ダイ は かさんだ の だ。 チョウコ は ハシュツフ を やとって、 ヨル の アイダ だけ リュウキチ の カンビョウ して もらい、 ヤトナ に でる こと に した。 が、 ヤケイシ に ミズ だった。 シュジュツ も キョウ、 アス に せまり、 カネ の いる こと は メ に みえて いた。 チョウコ の ウタ も コンド ばかり は ムカシ の オモカゲ を うしのうた。 アカデンシャ での カエリ、 オビ の アイダ に テ を さしこんで、 シアン を かさねた。 オキン に かりた 100 エン も ソノママ だった。
 おもい アシ で、 ウメダ シンミチ の リュウキチ の イエ を おとずれた。 ヨウシ だけ が おうて くれた。 タクサン とは いいません が と タタミ に アタマ を すりつけた が、 ハナシ に ならなかった。 ジゴウ ジトク、 そんな コトバ も カレ は はいた。 「この イエ の シンダイ は ボク が あずかって いる の です。 アナタガタ に ユビ イッポン……」 さして もらいたく ない の は こっち の こと です と、 シリ を ふって ソト へ とびだした が、 すぐ キ の ぬけた アルキカタ に なった。 タネキチ の ところ へ ゆき、 オタツ の ビョウショウ を みまう と、 オタツ は 「ワテ に かまわん と、 はよ コレヤス さん とこ い いったりい な」 そして、 ビョウキ では ゴハンタキ も フジユウ やろ から、 ウチ で オモユ や ホウレンソウ たいて もって かえれ と、 オタツ は キモチ も ホトケサマ の よう に なって おり、 シキ に ちかづいた ヒト に みえた。
 オタツ と ちがって、 リュウキチ は チョウコ の カエリ が おそい と さんざん コゴト を いう シマツ で、 これ では まだ しぬ だけ の ニンゲン に なって いなかった、 と いう わけ でも なかったろう が、 とにかく フツカ-ゴ に ジンゾウ を カタイッポウ きりとって しまう と いう ダイシュジュツ を やって も、 ぴんぴん いきて、 「ミズ や、 ミズ や、 ミズ くれ」 と わめきちらした。 ミズ を のまして は いけぬ と チュウイ されて いた ので、 チョウコ は タンデン に チカラ を いれて リュウキチ の ワメキゴエ を きいた。
 あくる ヒ、 12~13 の オンナ の コ を つれて わかい オンナ が ミマイ に きた。 カオカタチ を ヒトメ みる なり、 リュウキチ の イモウト だ と わかった。 はっと キンチョウ し、 「よう きて くれはりました」 ショタイメン の アイサツガワリ に そう いった。 つれて きた オンナ の コ は リュウキチ の ムスメ だった。 コトシ 4 ガツ から ジョガッコウ に あがって いて、 セーラー フク を きて いた。 アタマ を なでる と、 カオ を しかめた。
 1 ジカン ほど して かえって いった。 オット に ナイショ で きた と いった。 「あんな ヨウシ に キ、 キ、 キガネ する ヤツ が ある か」 イモウト の セナカ へ リュウキチ は そんな コトバ を なげた。 おくって ロウカ へ でる と、 イモウト は 「ネエハン の クロウ は オトウサン も コノゴロ よう しったはりまっせ。 よう つくして くれとる、 こない いうたはります」 と いい、 そっと カネ を にぎらした。 チョウコ は オシロイケ も なく、 カミ も ばさばさ で、 キモノ は くたびれて いた。 そんな ところ を ドウジョウ して の コトバ だった かも しらぬ が、 チョウコ は ホンマ の こと と おもいたかった。 リュウキチ の チチオヤ に わかって もらう まで 10 ネン かかった の だ。 ネエサン と いわれた こと も うれしかった。 だから、 カネ は イッタン は もどす キ に なった。 が ムリ に にぎらされて、 アト で みる と 100 エン あった。 ありがたかった。 そわそわ して おちつかなかった。
 ユウガタ、 デンワ が かかって きた。 オトウト の コエ だった から、 ぎょっと した。 キトク だ と きいて、 さっそく かけつける ムネ、 デンワシツ から ビョウシツ へ いい に もどる と、 リュウキチ は 「ミズ くれ」 を さけんで いた。 そして、 「オ、 オ、 オ、 オヤ が ダイジ か、 ワイ が ダイジ か」 ジブン も いつ しぬ か わからへん と、 そんな ふう に とれる コエ を うなりだした。 チョウコ は イス に こしかけて、 じっと ウデグミ した。 そこ へ ナミダ が おちる まで、 だいぶ ジカン が あった。 アキ で、 ビョウイン の ニワ から ムシ の コエ も した。
 どの くらい ジカン が たった か、 スキマカゼ が はだざむく すっかり ヨル に なって いた。 キュウ に、 「コレヤス さん、 オデンワ でっせ」 ムナサワギ しながら デンワグチ に でて みる と、 コンド は ダレ か わからぬ オンナ の コエ で、 「イキ を ひきとらはりました ぜ」 との こと だった。 そのまま ビョウイン を でて かけつけた。 「チョウコ はん、 アンタ の こと シンパイ して チョウコ は かわいそう な ヤッチャ いうて イキ ひきとらはった ん でっせ」 キンジョ の オンナ たち の あかい メ が これみよがし だった。 30 サイ の チョウコ も ハハオヤ の メ から みれば コドモ だ と タネキチ は オトコナキ した。 オヤフコウモノ と みる ヒトビト の メ を セナカ に かんじながら、 しろい ヌノ を とって いまさら の シニミズ を クチビル に つける など、 チョウコ は せいいっぱい に ふるまった。 「ワテ の テイシュ も ビョウキ や」 それ を ジブン の ハラ への イイワケ に して オツヤ も そうそう に きりあげた。 ヨフケ の マチ を あるいて ビョウイン へ かえる みちみち、 それでも さすが に なき に なけた。 ビョウシツ へ はいる なり リュウキチ は こわい メ で 「どこ い いって きた ん や」 チョウコ は たった ヒトコト、 「しんだ」 そして フタリ とも だまりこんで、 しばらく は にらみあって いた。 リュウキチ の ひややか な シセン は、 なぜか チョウコ を アッパク した。 チョウコ は それ に まけまい と して、 モチマエ の カチキ な キショウ が ヘビ の よう に アタマ を あげて きた。 リュウキチ の イモウト が くれた 100 エン の カネ を ゼンブ で なく とも、 たとえ ハンブン だけ でも、 ハハオヤ の ソウシキ の ヒヨウ に あてよう と、 ほとんど キ が きまった。 ままよ、 せめても の オヤコウコウ だ と、 それ を リュウキチ に いいだそう と した が、 やせた その カオ を みて は いえなかった。
 が、 そんな シンパイ は いらなかった。 タネキチ が かねがね カゴカキ ニンソク に やとわれて いた ソウギヤ で、 ミウチ の モノ だ とて ムリョウ で ソウギ バンタン を ひきうけて くれて、 かなり セイダイ に ソウシキ が できた。 おまけに オタツ が いつのまに はいって いた の か、 こっそり ユウビンキョク の カンイ ヨウロウ ホケン に 1 エン-ガケ で はいって いた ので 500 エン の ホケンリョウ が ながれこんだ の だ。 カミシオマチ に 30 ネン すんで カオ が ひろかった から かなり おおかった カイソウシャ に シデン の パス を ヤマガシ に だし、 コウデンガエシ の ギリ も すませて、 なお 200 エン ばかり のこった。 それで タネキチ は ビョウイン を たずねて、 ミマイキン だ と 100 エン だけ チョウコ に わたした。 オヤ の アリガタサ が ミ に しみた。 リュウキチ の チチ が チョウコ の クロウ を ほめて いる と イモウト に きいた ムネ いう と、 タネキチ は 「そら ええ アンバイ や」 と、 オタツ が しんで イライ はじめて の にこにこ した カオ を みせた。
 リュウキチ は やがて タイイン して、 ユザキ オンセン へ デヨウジョウ した。 ヒヨウ は チョウコ が ヤトナ で かせいで シオクリ した。 ニカイガリ する の も フケイザイ だった から、 チョウコ は タネキチ の ところ で ネトマリ した。 タネキチ へは メシダイ を わたす こと に した の だ が、 タネキチ は みずくさい と いって うけとらなかった。 シオクリ に おわれて いる こと を しって いた の だ。
 チョウコ が オヤ の ところ へ もどって いる と しって、 キンジョ の カネモチ から、 メカケ に なれ と ロコツ に いって きた。 レイ の ザイモクヤ の シュジン は しんで いた が、 その ムスコ が リュウキチ と おなじ トシ の 41 に なって いて、 そこ から も ハナシ が あった。 チョウコ は うけたまわりおく と いう カオ を した。 きっぱり ことわらなかった の は キンジョ の アイダガラ きまずく ならぬ よう に おもった ため だ が、 ヒトツ には ゲイシャ ジダイ の カケヒキ の ナゴリ だった。 まだまだ わかい の だ と そんな ハナシ の たび に、 あらためて ジブン を みなおした。 が、 ココロ は めった に うごき は しなかった。 ユザキ に いる リュウキチ の ユメ を マイバン みた。 ある ヒ、 ユメミ が わるい と キ に して、 とうとう ユザキ まで でかけて いった。 「マイニチ ウオツリ を して さびしく くらして いる」 はず の リュウキチ が、 コト も あろう に ゲイシャ を あげて サンザイ して いた。 むろん サケ も のんで いた。 ジョチュウ を つかまえて、 ねほり きく と ここ 1 シュウカン あまり マイニチ の こと だ と いう。 そんな カネ が どこ から はいる の か、 ジブン の シオクリ は ヤド の ハライ に せいいっぱい で、 タバコダイ にも こまる だろう と すまぬ キ が して いた のに と フシン に おもった。 ジョチュウ の クチ から、 リュウキチ が たびたび イモウト に ムシン して いた こと が わかる と メノマエ が マックラ に なった。 ジブン の ウデ ヒトツ で リュウキチ を デヨウジョウ させて いれば こそ、 クロウ の シガイ も ある の だ と、 リュウキチ の チチオヤ の オモワク をも カンジョウ に いれて かねがね おもって いた の だ。 イモウト に ムシン など して くれた ばっかり に、 ジブン の クロウ も ミズ の アワ だ と ないた。 が、 ナニカ に つけて チョウコ は ジブン の カイショウ の ウエ に どっかり コシ を すえる と、 リュウキチ は ワガミ に カイショウ が ない だけ に、 その テン が ほとほと ムシ すかなかった の だ。 しかし、 その カイショウ を さんざん リヨウ して きた テマエ、 リュウキチ には メン と むかって は いいかえす コトバ は なかった。 きょうざめた カオ で、 チョウコ の キツモン を おとなしく きいた。 なお ジョチュウ の ハナシ では、 リュウキチ は ひそか に ムスメ を ユザキ へ よびよせて、 センジョウジキ や サンダンベキ など メイショ を ケンブツ した との こと だった。 その フセイアイ も リュウキチ の トシ に なって みる と もっとも だった が、 うらぎられた キ が した。 かねがね ムスメ を ひきとって 3 ニン-グラシ を しよう と リュウキチ に せまった の だ が、 リュウキチ は うん と いわなかった の だ。 ムスメ の こと など どうでも よい カオ で、 だから ひそか に ジブン に うぬぼれて いた の だった。 なにやかや で、 チョウコ は ギャクジョウ した。 ヘヤ の ガラス ショウジ に サカズキ を なげた。 ゲイシャ たち は こそこそ と にげかえった。 が、 まもなく チョウコ は サッキ の ゲイシャ たち を ナザシ で よんだ。 ジブン も もと ゲイシャ で あった から には、 ブスイ な こと で ニンキ ショウバイ の ゲイシャ に ケチ を つけたく ない と、 そんな オモイヤリ とも キョエイシン とも わからぬ ココロ が かろうじて でた。 ジブン への ザンコク-めいた カイカン も あった。

 リュウキチ と イッショ に オオサカ へ かえって、 ニッポンバシ の ミクラアト コウエン ウラ に ニカイガリ した。 あいかわらず ヤトナ に でた。 コンド ニカイガリ を やめて イッコ かまえ、 ちゃんと した ショウバイ を する よう に なれば、 リュウキチ の チチオヤ も えらい オンナ だ と ほめて くれ、 テンカ はれて の メオト に なれる だろう と ハゲミ を だした。 その チチオヤ は もう 10 ネン イジョウ も チュウフウ で ねて いて、 フツウ なら とっく に しんで いる ところ を もちこたえて いる だけ に、 いつ しなぬ とも かぎらず、 メ の くろい うち に と チョウコ は あせった。 が、 リュウキチ は まだ ビョウゴ の カラダ で、 ジヨウザイ を のんだり、 チュウシャ を うったり して、 その ため きびしい モノイリ だった から、 ハントシ たって も 30 エン と まとまった カネ は たまらなかった。
 ある ユウガタ、 シャミセン の トランク を さげて ニッポンバシ 1 チョウメ の コウサテン で ノリカエ の デンシャ を まって いる と、 「チョウコ はん と ちがいまっか」 と はなしかけられた。 キタ の シンチ で おなじ カカエヌシ の ところ で ヒトツカマ の メシ を くって いた キンパチ と いう ゲイシャ だった。 シュッセ して いる らしい こと は ショール ヒトツ にも あらわれて いた。 さそわれて、 エビスバシ の マルマン で スキヤキ を した。 その ヒ の カセギ を フイ に しなければ ならぬ こと が キ に なった が、 シュッセ して いる トモダチ の テマエ、 それ と いって ことわる こと は キ が ひけた の だ。 カカエヌシ が ケチンボ で、 ショクジ にも シオイワシ 1 ビ と いう ナサケナサ だった から、 その コロ おたがい シュッセ して カカエヌシ を みかえして やろう と いいあった もの だ と ムカシバナシ が でる と、 チョウコ は イマ の キョウグウ が はずかしかった。 キンパチ は チョウコ の カケオチゴ まもなく ひかされて、 ヤマシ の メカケ と なった が、 つい このあいだ ホンサイ が しんで、 アトガマ に すえられ、 イマ は コウザン の ウリカイ に クチダシ して、 「いうちゃ ナン や けど……」 これ イジョウ の シュッセ も のぞまぬ ほど の クラシ を して いる。 に つけて も、 おもいだす の は、 「やっぱり、 チョウコ はん、 アンタ の こと や」 カカエヌシ を みかえす と ちかった ムカシ の ユメ を ジツゲン する には、 ぜひ チョウコ にも シュッセ して もらわねば ならぬ と キンパチ は いった。 1000 エン でも 2000 エン でも、 アンタ の いる だけ の カネ は ムリシ の キカン なし で かす から、 ナニ か ショウバイ する キ は ない か と、 ジジョウ を きく なり、 さっそく いって くれた。 ジゴク で ホトケ とは この こと や、 チョウコ は ナミダ が でて あらためて、 キンパチ が ミ に つける もの を カタッパシ から ほめた。 「ナニ ショウバイ が よろし おまっしゃろ か」 コトバヅカイ も テイネイ だった。 「そう やなあ」 マルマン を でる と、 カブキ の ヨコ で ハッケミ に みて もらった。 ミズショウバイ が よろしい と いわれた。 「アンタ が ミズショウバイ で ワテ は ヤマ ショウバイ や、 ミズ と ヤマ と で、 なんぞ こんな ドドイツ ない やろ か」 それで ハナシ は きっぱり きまった。
 かえって リュウキチ に はなす と、 「オマエ も ええ トモダチ もってる なあ」 と ちょっぴり ヒニク-めいた イイカタ だった が、 ハラ の ナカ では まんざら でも ない らしかった。
 カフェ を ケイエイ する こと に きめ、 ヨクジツ さっそく シュウセンヤ を のぞきまわって、 カフェ の デモノ を さがした。 なかなか さがせぬ と おもって いた ところ、 いくらでも ウリモノ が あり、 セイギョウチュウ の もの も じゃんじゃん ウリ に でて いる くらい で、 これ では カフェ ショウバイ の ウチマク も なかなか ラク では なさそう だ と ニノアシ を ふんだ が、 しかし チョウコ の ジシン の ほう が かった。 マダム の ウデ ヒトツ で ジョキュウ の カオブレ が しょうしょう わるくて も けっこう はやらして ゆける と いきごんだ。 ウリ に でて いる ミセ を 1 ケン 1 ケン まわって みて、 けっきょく シモデラマチ デンテイ マエ の ミセ が フタツイド から ドウトンボリ、 センニチマエ へ かけて の サカリバ に とおく ない わり に ネダン も テゴロ で、 ミセ の カマエ も こぢんまり して、 シュミ に かなって いる とて、 それ に きめた。 ゾウサクツキ 800 エン で テ を うった が、 トビタ の カントダキヤ の よう な くさった ミセ と ちがう から やすい ほう で あった。 ネン の ため キンパチ に みて もらう と、 「ここ なら ワテ も イッペン あそんで みたい」 と モンク は なかった。 そして、 ダイガワリ ゆえ、 おもいきって ミセ の ウチソト を カイソウ し、 ネオン も つけて、 ハデ に カイテン しなはれ、 カネ は いくらでも だす と、 ずいぶん ノリキ に なって くれた。
 ナマエ は あいかわらず の 「チョウリュウ」 の ウエ に サロン を つけて 「サロン チョウリュウ」 と し、 チクオンキ は シンナイ、 ハウタ など イキムキ なの を かけ、 ジョキュウ は すべて ニホンガミ か ジミ な ハイカラ の コ ばかり で、 ヘタ に ヨウソウ した オンナ や カミ の ちぢれた オンナ など は おかなかった。 バーテン と いう より は リョウリバ と いった ほう が にあう ところ で、 リュウキチ は ナマコ の スノモノ など ツキダシ の コバチモノ を つくり、 チョウコ は しきり に チャヤ-フウ の アイキョウ を ふりまいた。 すべて このよう に ニホン シュミ で、 それ が かえって おもしろい と キャクダネ も よく、 コーヒー だけ の キャク など いづらかった。
 ハントシ たたぬ うち に おし も おされぬ ミセ と なった。 チョウコ の マダム-ブリ も イタ に ついた。 つかって くれ と あたらしい ジョキュウ が 「カオミセ」 に くれば アタマ の テッペン から アシ の サキ まで すばやく ヒトメ の カンサツ で、 オンナ の スジョウ や ウデ が みぬける よう に なった。 ヒトリ、 どうやら くさい と おもわれる ジョキュウ が きた。 カラダツキ、 ミ の コナシ など、 いやらしく オトコ の ココロ を そそる よう で メツキ も すわって いて、 キ が すすまなかった が、 レッテル (カオ) が よい ので やといいれた。 べたべた と キャク に へばりつき、 ヒソヒソゴエ の クゼツ も なんとなく チョウコ には キ に くわなかった が、 よい キャク が ミナ その オンナ に ついて しまった ので、 おいだす わけ には ゆかなかった。 ときどき、 2~3 ジカン ヒマ を くれ と いって、 キャク と でて ゆく の だった。 そんな こと が しばしば つづいて、 キャク の アシ が とおのいた。 てっきり どこ か へ キャク を くわえこむ らしく、 キャク も ナジミ に なる と わざわざ ミセ へ でむいて くる ヒツヨウ も なかった わけ だ。 その ため の イエ を かりて ある こと も アト で わかった。 いわば カフェ を リヨウ して、 そんな ミョウ な こと を やって いた の だ。 おいだした ところ、 ホカ の ジョキュウ たち が ドウヨウ した。 ヒトリヒトリ あたって みる と、 どの ジョキュウ も その オンナ を みならって イチド ならず そんな ミチ に アシ を いれて いる らしかった。 そう しなければ、 その オンナ に ジブン ら の キャク を とられて しまって やって ゆけなかった の かも しれぬ が、 とにかく、 チョウコ は ぞっと イヤケ が さした。 その スジ に わかったら タイヘン だ と、 ゼンブ の ジョキュウ に ヒマ を だし、 あたらしく おとなしい オンナ ばかり を やといいれた。 それで やっと キキ を きりぬけた。 ミセ で ショウチ で やらす なら ともかく、 ジョキュウ たち に カッテ に そんな マネ を されたら、 もう その カフェ は ダメ に なる と、 アト で ゼンレイ も きかされた。
 ジョキュウ が かわる と、 キャクダネ も かわり、 シンブンシャ カンケイ の ヒト が よく きた。 シンブン キシャ は メツキ が わるい から と おもった ほど で なく、 ヨウキ に こどもじみて、 チョウコ を よぶ にも マダム で なくて 「オバチャン」 チョウコ の キゲン は すこぶる よかった。 マスター こと 「オッサン」 の リュウキチ も ボックス に ひきだされて イッショ に あそんだり、 ひどく カゾクテキ な フンイキ の ミセ に なった。 よう と リュウキチ は 「おい、 こら、 ラッキョ」 など と キシャ の アダナ を よんだり し、 その アゲク、 ニジカイ だ と レンチュウ と つるんで イマザト シンチ へ クルマ を とばした。 チョウコ も キャク の テマエ、 スイ を きかして わらって いた が、 とまって きたり すれば、 やはり セッカン の テ は ゆるめなかった。 キンジョ では チョウコ を オニババ と カゲグチ たたいた。 ジョキュウ たち には おもしろい ミモノ で、 マスター が わるい と ヒョウメン では オンナ ドウシ の ヒイキ も あった が、 しかし、 ハラ の ナカ では どう おもって いる か わからなかった。

 チョウコ は 「ムスメ さん を ひきとろう や」 と そろそろ リュウキチ に もちかけた。 リュウキチ は 「もう ちょっと まちい な」 と イイノガレ-めいた。 「コドモ が かわいい こと ない のん か」 ない はず は なかった が、 ムスメ の ほう で きたがらぬ の だった。 ジョガクセイ の ミ で カフェ ショウバイ を はじる の は ムリ も なかった が、 リユウ は そんな カンタン な もの だけ では なかった。 チチオヤ を わるい オンナ に とられた と、 しんだ ハハオヤ は ヒマ さえ あれば、 ムスメ に いいきかせて いた の だ。 チョウコ が ムリ に と せがむ ので、 1~2 ド 「サロン チョウリュウ」 へ セーラー フク の スガタ を あらわした が、 にこり とも しなかった。 チョウコ は おかしい ほど キゲン とって、 「エイゴ たら いう もん むつかし おまっしゃろ な」 ジョガクセイ は ハナ で わらう の だった。
 ある ヒ、 こちら から たのみ も しない のに だしぬけ に しろい カオ を みせた。 チョウコ は カオジュウ シワダラケ に わらって 「いらっしゃい」 かけよった の へ つんと アタマ を さげる なり、 ジョガクセイ は リュウキチ の ところ へ ちかよって ひくい コエ で 「オジイサン の ビョウキ が わるい、 すぐ きて ください」
 リュウキチ と イッショ に かけつける こと に して いた。 が、 リュウキチ は 「オマエ は ウチ に おりい な。 イマ イッショ に いったら グツ が わるい」 チョウコ は キヌケ した キモチ で しばらく ぼうぜん と した が、 これ だけ の こと は リュウキチ に くれぐれも たのんだ。 ――チチオヤ の イキ の ある アイダ に、 マクラモト で はれて メオト に なれる よう、 たのんで くれ。 チチオヤ が うん と いったら すぐ しらせて くれ。 とんで いく さかい。
 チョウコ は ゴフクヤ へ かけこんで、 リュウキチ と ジブン と フタリ ブン の モンツキ を オオイソギ で こしらえる よう に たのんだ。 キッポウ を まって いた が、 なかなか こなかった。 リュウキチ は カオ も みせなかった。 フツカ たち、 モンツキ も できあがった。 ヨッカ-メ の ユウガタ ヨビダシ の デンワ が かかった。 ハナシ が ついた、 すぐ こい の デンワ だ と カオ を コウチョウ させ、 「もし、 もし、 ワタシ コレヤス です」 と いう と、 リュウキチ の コエ で 「ああ、 オ、 オ、 オ、 オバハン か、 オヤジ は イマ しんだ ぜ」 「ああ、 もし、 もし」 チョウコ の コエ は かんだかく ふるえた。 「そんなら、 ワテ は すぐ そっち い いきまっさ、 モンツキ も フタリ ブン できて まん ねん」 アシモト が ぐらぐら しながら も、 それ だけ は はっきり いった。 が、 リュウキチ の コエ は、 「オマエ は こん ほう が ええ。 きたら グツ わるい。 ヨ、 ヨ、 ヨ、 ヨウシ が……」 アト きかなかった。 ソウシキ にも でたら いかん て、 そんな ハナシ が ある もん か と アタマ の ナカ を ヒ が はしった。 ビョウイン の ロウカ で リュウキチ の イモウト が いった コトバ は ウソ だった の か、 それとも リュウキチ が ガンコ な ヨウシ に まるめこまれた の か、 それ を かんがえる ヨユウ も なかった。 モンツキ の こと が アタマ に こびりついた。 ミセ へ かえり 2 カイ へ とじこもった。 やがて、 ト を しめきって、 ガス の ゴムカン を ひっぱりあげた。 「マダム、 コンヤ は スキヤキ でっか」 シタ から ジョキュウ が コエ かけた。 セン を ひねった。
 ヨル、 リュウキチ が モンツキ を とり に かえって くる と、 ガス の メーター が ちんちん と たかい オト を たてて いた。 イヨウ な シュウキ が した。 おどろいて 2 カイ へ あがり、 ト を あけた。 ウチワ で ぱたぱた そこら を あおった。 イシャ を よんだ。 それで チョウコ は たすかった。 シンブン に でた。 シンブン キシャ は チ に いて ラン を わすれなかった の だ。 ヒカゲモノ ジサツ を はかる など と ドウジョウ の ある カキカタ だった。 リュウキチ は ソウシキ が ある から と にげて ゆき、 それきり もどって こなかった。 タネキチ が ウメダ へ たずね に ゆく と、 そこ にも いない らしかった。 おきられる よう に なって ミセ へ でる と、 キャク が なぐさめて くれて、 よく はやった。 メカケ に なれ と キャク は さすが に ジキ を みのがさなかった。 マイアサ、 かなり アツゲショウ して どこ か へ でかけて ゆく ので、 さては メカケ に なった の か と アクヒョウ だった。 が ホントウ は、 リュウキチ が はやく かえる よう に と コンコウキョウ の ドウジョウ へ おまいり して いた の だった。
 ハツカ あまり たつ と、 タネキチ の ところ へ リュウキチ の テガミ が きた。 ジブン も もう 43 サイ だ、 イチド タイカン に かかった ミ では そう ながく も いきられまい。 ムスメ の アイ にも ひかされる。 キュウシュウ の トチ で たとえ ショッコウ を して でも ジカツ し、 ムスメ を ひきとって ヨセイ を くらしたい。 チョウコ にも じゅうじゅう キノドク だ が、 よろしく つたえて くれ。 チョウコ も まだ わかい から このさき…… など と あった。 みせたら コト だ と タネキチ は やきすてた。
 トオカ たち、 リュウキチ は ひょっくり 「サロン チョウリュウ」 へ もどって きた。 ユクエ を くらました の は サクセン や、 ヨウシ に チョウコ と わかれた と みせかけて カネ を とる ハラ やった、 オヤジ が しねば とうぜん イサン の ワケマエ に あずからねば ソン や、 そう おもて、 わざと ソウシキ にも よばなかった と いった。 チョウコ は ホントウ だ と おもった。 リュウキチ は 「どや、 なんぞ、 う、 う、 うまい もん くい に いこ か」 と チョウコ を さそった。 ホウゼンジ ケイダイ の 「メオト ゼンザイ」 へ いった。 ドウトンボリ から の ツウロ と センニチマエ から の ツウロ の カド に あたって いる ところ に ふるびた オタフク ニンギョウ が すえられ、 その マエ に 「メオト ゼンザイ」 と かいた あかい オオヂョウチン が ぶらさがって いる の を みる と、 しみじみ と フウフ で ゆく ミセ らしかった。 おまけに、 ゼンザイ を チュウモン する と、 メオト の イミ で ヒトリ に 2 ハイ ずつ もって きた。 ゴバン の メ の シキダタミ に コシ を かけ、 すうすう と たかい オト を たてて すすりながら リュウキチ は いった。 「こ、 こ、 ここ の ゼンザイ は なんで、 2、 2、 2 ハイ ずつ もって きよる か しってる か、 しらん やろ。 こら ムカシ なんとか タユウ ちゅう ジョウルリ の オッショハン が ひらいた ミセ で な、 1 パイ ヤマモリ に する より、 ちょっと ずつ 2 ハイ に する ほう が ぎょうさん はいってる よう に みえる やろ、 そこ を うまい こと かんがえよった の や」 チョウコ は 「ヒトリ より メオト の ほう が ええ いう こと でっしゃろ」 ぽんと エリ を つきあげる と カタ が おおきく ゆれた。 チョウコ は めっきり こえて、 そこ の ザブトン が シリ に かくれる くらい で あった。

 チョウコ と リュウキチ は やがて ジョウルリ に こりだした。 フタツイド テンギュウ ショテン の 2 カイ ヒロマ で ひらかれた ソギ タイカイ で、 リュウキチ は チョウコ の シャミセン で 「タイジュウ」 を かたり、 ニトウショウ を もらった。 ケイヒン の おおきな ザブトン は チョウコ が マイニチ つかった。
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ケイバ

2016-05-20 | オダ サクノスケ
 ケイバ

 オダ サクノスケ

 アサ から どんより くもって いた が、 アメ には ならず、 ひくい クモ が インキ に たれた ケイバジョウ を くろい アキカゼ が くろく はしって いた。 ゴゴ に なる と キュウ に クラサ が まして いった。 しぜん ヒト も ウマ も おもくるしい キモチ に しずんで しまいそう だった が、 しかし ふと トオリマ が すぎさった アト の よう な むなしい アワタダシサ に せきたてられる の は、 こんな ヒ は レース が あれて オオアナ が でる から だろう か。 バンシュウ の タソガレ が はや しのびよった よう な カゲ の ナカ を ショウソウ の イロ を おびた サッキ が ふと ゆきかって いた。
 ダイ 4 コーナー まで コウホウ の ウマゴミ に つつまれて、 クロジ に しろい ゼニガタ モンチラシ の キシュ の フク も みえず、 その ウマ に トウヒョウ して いた ショウスウ の モノ も ほとんど あきらめかけて いた よう な ウマ が、 サイゴ の チョクセン コース に かかる と キュウ に ウマゴミ の ナカ から ぬけだして ぐいぐい のびて ゆく。 ムチ は もたず、 フセ を した よう に アタマ を ひくめて、 ウマ の セナカ に ぴたり と カラダ を つけた まま、 タヅナ を しゃくって いる キシュ の フク の ブキミ な クロ と ウマ の ドウ に つけた スウジ の 1 が ぱっと カンシュウ の メ に はいり、 1 か 7 か 9 か 6 か と メ を こらした トタン、 はや ゴール チョクゼン で しろい イキ を はいて いる セントウ の ウマ に ならび、 はげしく せりあった アゲク、 わずか に ハナ だけ ぬいて タンショウ 200 エン の オオアナ だ。 そして ツギ の ショウガイ レース では、 ニンキバ が 3 トウ も おなじ ショウガイ で かさなる よう に ラクバ し、 キシュ が その バ で ゼツメイ する と いう サワギ の スキ を ねらって、 クサリ キュウシャ の クサリウマ と わらわれて いた ウマ が ミナライ キシュ の ムチ に ぺたぺた シリ を しばかれながら ゴールイン して タンプク 200 エン の ハイトウ、 バヌシ も キシュ も あきらめて タンシキ は ホカ の ウマ に トウヒョウ して いた と いう ハナシ が つたえられる くらい の バンクルワセ で ある。
 そんな レース が つづく と、 もう ダレ も カレ も エタイ の しれぬ マ に つかれた よう に バケン の カイカタ が みだれて くる。 マエ の バン ジタク で ケットウ や チョウキョウ タイム を メンミツ に しらべ、 デオクレ や ラクバヘキ の ウム、 キシュ の ジョウズ ヘタ、 キョリ の テキフテキ まで カンジョウ に いれて、 これ ならば ぜったい カクジツ だ と シュツバヒョウ に アカエンピツ で シルシ を つけて きた モノ も、 ジョウナイ を みだれとぶ ニュース を ミミ に する と、 トタン に まどわされて シルシ も つけて こなかった よう な へんてこ な ウマ を かって しまう。 アサ、 エキ で うって いる スウ-シュルイ の ヨソウヒョウ を てらしあわせ どの ヨソウヒョウ にも フトジ で あげて いる ホンメイ (リキリョウ、 ニンキ ともに ダイ 1 イ の ウマ) だけ を、 3 チャク まで ハイトウ の ある カクジツ な フクシキ で かう と いう ショウシン な ケンジツ シュギ の オトコ が、 はしる の は チクショウ だし、 のる の は タニン だし、 ホンメイ と いって も ジブン の まま に なる もの か、 もう ケイバ は やめた と ヨソウヒョウ は シリ に しいて シバフ に ちょんぼり と すわり、 ノコリ の レース は みおくる ハラ を きめた のに、 レース-ジョウ へ あらわれた ウマ の ナカ に ダップン を した ウマ が いる の を みつける と、 あの フン の ヤワラカサ は タダゴト で ない、 コウフンザイ の せい だ、 あの ウマ は キョウ は やる らしい と、 あわてて バケン の ウリバ へ かけだして ゆく。 3 バン カタアシ のらん か、 3 バン カタアシ のらん か と どなって いる オトコ は、 いましがた キュウシャ の モノ らしい フウテイ の オトコ が 3 バン の バケン を かって いった の を みた の だ。 3 バン と いえば まるで ショウブ に ならぬ くらい ヒンジャク な ウマ で、 まさか これ が アナ に なる とは おもえなかった が、 やはり その オトコ の フウテイ が キ に なる、 と いって 20 エン ソン を する の も ばからしく、 ウマ の カタアシ 5 エン ずつ だしあって 4 ニン で 1 マイ の バケン を かう ナカマ を さがして いる の だった。 ある オトコ は この レース は アナ が でそう だ と、 キュウシャ の ニュース を ききまわった が、 きく たび に ちがう ウマ を おしえられて まよい に まよい、 ヒキバ と バケン の ウリバ の アイダ を うろうろ いったり きたり して ハンナキ に なった アゲク、 ちばしった メ を とじて エンピツ の サキ で シュツバヒョウ を つく と、 7 バン に あたった ので ラッキー セブン だ と よろこび、 ウリバ へ かけつけて ゆく トチュウ、 チジン に あい、 ナンバン に する の か と きけば、 5 バン だ と いう。 そう か、 やはり 5 バン が いい かね と、 5 バン の ウマ が スタート で ひどく でおくれる クセ が ある の を わすれて、 それ を かって しまう の だ。 ――ヒトビト は もはや ミミカキ で すくう ほど の リセイ すら なくして しまい、 ジョウナイ を くろく はしる カゼ に ふと さむざむ と ふかれて ウオウ サオウ する ヒョウジョウ は、 ナニ か キョウキ-じみて いた。
 テラダ は しかし そんな アタリ の クウキ に ヒトリ ちょうぜん と して、 まどい も まよい も せず、 アサ の サイショ の レース から 1 の バンゴウ の ウマ ばかし かいつづけて いた。 ヒキバ の ウマ の ケハイ も みず、 ヨソウヒョウ も もたず、 ニュース も きかず、 ヒトツ の レース が すんで ツギ の レース の バケン ハツバイ の マドグチ が ことり と キ の オト を たてて あく と、 なんの タメライ も なく ダレ より も サキ に、 1 バン! と テ を さしこむ の だった。
 ナンバン が うれて いる の か と、 ニンキ を しらべる ため に マドグチ へ よって いた ヒトビト は、 ヨユウ しゃくしゃく と した テラダ の カイカタ に ふと こにくらしく なった カオ を みあげる の だった が、 そんな とき テラダ の メ は いらいら と もえて キュウ に いどみかかる よう だった。 なにかしら おもいつめて いる の か ホウシン して メン の よう な ムナシサ に あおざめて いた カオ が、 シュンカン かっと チ の イロ を うかべて、 タダゴト で ない ハゲシサ で あった。
 まよい も せず イチズ に 1 の スウジ を おうて ゆく カイカタ は、 ユキアタリバッタリ に シアン を かえて ゆく ヒトビト の キョウキ を とおく はなれて いた わけ だ が、 しかし とりみださぬ その レイセイサ が かえって フツウ で なく、 ド の すぎた ケッペキショウ の ハテ が キョウキ に つうずる よう に、 かたくな な その イチズサ は ふと ジョウキ を はずれて いた かも しれない。 テラダ が 1 の スウジ を おいつづけた の も、 じつは なくなった サイクン が カズヨ と いう ナ で あった から だ。

 テラダ は サイクン の いきて いる アイダ ケイバジョウ へ アシ を むけた こと は イチド も なかった。 テラダ は キョウト ウマレ で、 チュウガッコウ も キョウト A-チュウ、 コウトウ ガッコウ も サンコウ、 キョウト テイダイ の シガクカ を でる と ボコウ の A-チュウ の レキシ の キョウシ に なった と いう オトコ に ありがち な、 ショウシン な リチギモノ で、 ビョウドク に カンセン する こと を おそれた の と ユウキョウヒ が おしくて、 ミヤガワ-チョウ へも ギオン へも いった こと が ない と いう くらい だ から、 まして キョウシ の ブンザイ で ケイバ アソビ なぞ できる よう な オトコ では なかった、 と いって しまえば カンタン だ が、 ただ それ だけ では なかった。
 テラダ の サイクン は ホンミョウ の カズヨ と いう ナ で コウジュンシャ の ジョキュウ を して いた。 コウジュンシャ は シジョウ-ドオリ と キヤマチ-ドオリ の カド に ある チカシツ の サカバ で、 サツエイジョ の レンチュウ や ゼイタク な ガクセイ たち が ゆく、 キョウト では まず コウキュウ な サカバ だった し、 しかも カズヨ は そこ の ナンバー ワン だった から、 テラダ の よう な フウサイ の あがらぬ リチギモノ の チュウガク キョウシ が カズヨ を サイクン に した と きいて、 おどろかぬ モノ は なかった。 もっとも カズヨ の ほう では テラダ の ヤボ な キマジメサ を みこんだ の かも しれない。 もともと サカバ アソビ なぞ する オトコ では なかった の だ が、 ある ヨ ドウリョウ に むりやり さそわれて ゆき、 ワリマエ カンジョウ に なる かも しれない と ひやひや しながら、 おずおず と クロ ビール を のんで いる テラダ の ヨコ に すわった とき、 カズヨ は キ が つまりそう に なった。 ところが、 あくる ヒ から テラダ は マイヨ カズヨ を メアテ に かよって きた。 おいて ゆく チップ も すくなく、 カズヨ は アイテ に しなかった が、 トオカ-メ の ヨル だしぬけ に ケッコン して くれ と いう。 トナリ の ボックス に いる サツエイジョ の ジョカントク に シュウハ を おくりながら、 イイカゲン に ききながして いた が、 それから 1 シュウカン マイヨ おなじ コトバ を くりかえされて いる うち に、 ふと テラダ の イチズサ に ココロ ひかれた。 28 サイ の コンニチ まで オンナ を しらず に きた と いう ハナシ も もう ジョウダン に おもえず、 18 の トシ から カラダ を ぬらして きた カズヨ に とって は、 ジミチ な ケッコン を する またと ない キカイ かも しれなかった。 おもえば ジブン も もう 26、 そろそろ ミ を かためて も いい トシ だろう。 ミヤコ ホテル や キョウト ホテル で かいだ オトコ の ポマード の ニオイ より も、 ヤボテン で クソマジメ ゆえ 「オテラサン」 で とおって いる ブオトコ の テラダ に つくって やる ミソシル の ニオイ の ほう が、 まずしかった ジッカ の ヤブレショウジ を ふと おもいださせる よう な しみじみ した オサナゴコロ の ナツカシサ だ と、 カズヨ も ヒトカワ はげば ふるい オンナ だった。 フウサイ は あがらぬ と いえ テイダイ-デ だし わらえば しろい ハナラビ が セイケツ だ と、 そんな こと も カンジョウ に いれた。
 ところが テラダ の リョウシン が ハンタイ した。 「オテラサン」 と いう アダナ は それ と しらず に つけられた の だ が、 じつは テラダ の セイカ は ダイダイ ホリカワ の ブツグヤ で、 テラダ の ヨメ も ショウバイガラ ソウリョ の ムスメ を もらう つもり だった の だ。 ハンタイ された テラダ は ジッカ を とびだす と、 ギンカクジ フキン の ニシダ-チョウ に イエ を かりて カズヨ と ショタイ を もった。 テラダ に して は ずいぶん おもいきった ダイタンサ で、 それだけ カズヨ に のぼせて いた わけ だった が、 しかし カンドウ に なった うえ に その こと が ツトメサキ の A-チュウ に しれて メンショク に なる と、 やはり テラダ は あおく なった。 コウジュンシャ の キャク で カズヨ に かよって いた ナカジマ-ボウ は A-チュウ の フケイカイ の ヤクイン だった の だ。 テラダ は ソコウ フリョウ の リユウ で メンショク に なった こと を まるで ゼンカモノ に なって しまった よう に かんがえ、 もはや シャカイ に いれられぬ ニンゲン に なった キモチ で、 シュウショクグチ を さがし に ゆこう とは せず、 アタマ から フトン を かぶって マイニチ ごろん ごろん して いた。 ヨル、 カズヨ の やわらかい ムネ の マルミ に ふれたり、 コドモ の よう に すったり する こと が ユイイツ の タノシミ で、 リチギ な ショウシンモノ も ふと やぶれかぶれ の ジョウチ-めいた ヒビ を おくって いた が、 カズヨ も もともと ヨル の ジカン を ホンポウ に おくって きた オンナ で あった。 カタ や ムネ の ハガタ を たのしむ よう な マゾヒズム の ケイコウ も あった。 カベヒトエ の リンカ を はばかって、 ケアゲ の リョカン へ テラダ を つれて いったり した。 そんな リョカン を カズヨ が しって いた の か と テラダ は ふと シット の チ を もやした が、 しかし そんな シュンカン の オモイ は カズヨ の ミリョク で すぐ きえて しまった。
 ある ヨ、 カズヨ は いたい と とびあがった。 おどろいて クチ を はなし、 テ で やわらかく おさえる と、 それでも いたい と いう、 チ が にじんで も いたい とは いわなかった オンナ だった のに、 ニンシン した の か と チクビ を みた が くろく も ない。 なにも せぬ のに よどおし いたがって いた ので、 ニュウセンエン に なった の か と ダイガク ビョウイン へ ゆき、 ハガタ が ムラサキイロ に にじんで いる ムネ を さすが に はずかしそう に ひろげて みて もらう と、 ニュウガン だった。 ミサンプ で ニュウガン に なる ヒト は めずらしい と、 イシャ も フシギ-がって いた。 ニュウイン して チブサ を きりとって もらった。 タイイン まで 40 ニチ も かかり、 ソノゴ も レントゲン と ラジウム を かけ に かよった ので、 キョウシ を して いた アイダ けちけち と ためて いた チョキン も すっかり こころぼそく なって しまい、 テラダ は ダイガク ジダイ の キュウシ に なきついて、 シガク ザッシ の ヘンシュウ の シゴト を セワ して もらった。 ところが、 カズヨ は タイインゴ フタツキ ばかり たつ と コンド は シタハラ の ゲキツウ を うったえだした。 テラダ は よどおし なぜて やった が、 イタミ は きえず、 シマイ には アブラアセ を たらたら ながして、 いたい いたい と ころげまわった。 サイハツ した ガン が シキュウ へ まわって いた の だ。 しかし イシャ は ニュウイン する ヒツヨウ は ない と いう。 ラジウム を かけ に かよう だけ で いい が、 しかし かよう の が クツウ で たえきれない の なら、 ムリ に かよわなくて も いい と いう。 その コトバ の ウラ は、 シ の センコク だった。 ガン の サイハツ は なおらぬ もの と されて いる の だ。 あまり うたぬ よう に と、 イシャ は テラダ の テ に チンツウザイ の ロンパン を わたした。 モルヒネ が ショウリョウ はいって いる らしかった。 しぬ と きまった ニンゲン なら もう モルヒネ チュウドク の オソレ も ない はず だ のに、 あまり うたぬ よう に と チュウイ する ところ を みれば、 マン に ヒトツ なおる キセキ が ある の だろう か と、 テラダ は キボウ を すてず、 ヒゴロ けちくさい オトコ だ のに シンブン コウコク で みた コウカ な タンパ チリョウキ を とりよせたり、 ビワ の ハ リョウホウ の キカイ を コウベ まで かい に いったり した。 ヒト から きけば ヘソノオ も せんじ、 ゴボウ の タネ も いい と きいて スリバチ で ごしごし と つぶした。
 しかし カズヨ は スイジャク する イッポウ で、 ミズ の ひく よう に みるみる やせて ゆき、 ガン トクユウ の たえきれぬ アクシュウ は ふと シ の ニオイ で あった。 テラダ は もはや ハジ も ガイブン も わすれて、 ハレモノ イッサイ に ゴリヤク が ある と キンジョ の ヒト に きいた イコマ の イシキリ まで カズヨ の コシマキ を もって ゆき、 トクトウ の キトウ を して もらった アシ で、 ナム イシキリ ダイミョウジン サマ、 なにとぞ ゴリヤク を もって あわれ なる 26 サイ の オンナ の シキュウガン を すくいたまえ と、 あらぬ こと を くちばしりながら オヒャクド を ふんだ カエリ、 サンケイドウ で キュウ の モグサ を かって くる の だった。 それでも カズヨ の ゲキツウ は おさまらず、 チュウシャ の きれた とき の クルシミカタ は いきながら の ジゴク で あった。 ロンパン が なくなった と キ が ついて、 ハシュツ カンゴフ が チカク の イシャ まで もらい に はしって いる アイダ、 カズヨ は シタハラ を かきむしる よう な テツキ を しながら、 クチビル を つきだし、 ぽろぽろ ナミダ を ながして、 のたうちまわる の だ。 ヨノナカ に こんな クツウ が あった の か と、 テラダ も ともに ぽろぽろ ナミダ を ながして、 おろおろ みて いる。 カズヨ は キュウ に、 かんで、 かんで! と さけんだ。 シタハラ の クツウ を わすれる ため に、 カタ を かんで もらいたい の だろう。 テラダ は がぶり と カズヨ の カタ に かぶりついた。 かつて は ホウマン な シボウ で やわらかかった カタ も イマ は いたいたしい くらい やせて、 テラダ は キ の とおく なる ほど かなしかった が、 カズヨ も もう テラダ に カタ を かまれながら ムカシ の ヨロコビ は なく、 いたい いたい と なく コエ にも ジョウチ の ヒビキ は なかった。 やっと カンゴフ が かえって きた が、 ノロマ な カンゴフ が アンプル を きったり チュウシャエキ を すいあげたり、 ウデ を ショウドク したり する の に てまどって いる の を みる と、 テラダ は カズヨ の クツウ を 1 ビョウ でも はやく やわらげて ヤリタサ に、 はやく はやく と ジブン も てつだって やる の だった。
 キ の よわい テラダ は もともと チュウシャ が きらい で、 と いう より、 チュウシャ の ハリ の ナカ には アクマ の ドッキ が ふきこまれて いる と しんじて いる ガンメイ な バアサン イジョウ に チュウシャ を おそれ、 デンセンビョウ の ヨボウ チュウシャ の とき など、 ハリ の サキ を みた だけ で マッサオ に なって ソットウ した こと も あり、 コウトウ キョウイク を うけた オトコ に にあわぬ と わらわれて いた くらい だ から、 ハジメ の うち カンゴフ が カズヨ の ウデ を まくりあげた だけ で、 もう トナリ の ヘヤ へ にげこみ、 チュウシャ が おわって から おそるおそる でて くる と いう アリサマ で あった。 ハリ と いう カンカク だけ で まいって しまう よう な よわい シンケイ なの だ。 ところが、 ガン の クツウ と いう カンカク の マエ には もう そんな シンケイ も いつか ずぶとく なって きた の か、 セ に ハラ は かえられぬ チュウシャ の テツダイ を して いる うち に、 しだいに なれて きて、 シマイ には ヨナカ カンゴフ が ねむって いる アイダ カズヨ の ウメキゴエ を きく と、 テラダ は ミヨウ ミマネ の ハリ を カズヨ の ウデ に うって やる の だった。
 そんな ある ヒ、 カズヨ の ナアテ で ソクタツ の ハガキ が きた。 カンゴフ が セントウ へ いった ルスチュウ で、 テラダ が うけとって みる と 「アス ゴゼン 11 ジ、 ヨド ケイバジョウ イットウカン イリグチ、 キョネン と おなじ バショ で まって いる。 こい。」 と カンタン な ハシリガキ で、 サシダシニン の ナ は なかった。 ハガキ いっぱい の フデブト の ジ は オトコ の テ らしく、 タカビシャ な ブンチョウ は いずれ は カズヨ を ジユウ に して いた オトコ に ちがいない。 キョネン と おなじ バショ と いう ハガキ は ふと いや な レンソウ を さそい、 ケイバジョウ から の カエリ コウフン を あらた に する ため に いった の は、 あの ケアゲ の リョカン だろう か と、 テラダ は マッサオ に なった。 カズヨ に ナンニン か の オトコ が あった こと は うすうす しって いた が、 ジュウショ を おしえて いた ところ を みれば まだ カンケイ が つづいて いる の か と、 カンカクテキ に たまらなかった。 テラダ は その ハガキ を やぶって すてる と、 ケッソウ を かえて ビョウシツ へ はいって いった。 しかし、 カズヨ は アブラアセ を ながして のたうちまわって いた。 ゲキツウ の ホッサ が はじまって いた の だ。 テラダ は あわてて ロンパン の アンプル を きって、 チュウシャキ に すいあげる と、 イツモ の クセ で ハリ の サキ を うわむけて、 クウキ を ソト に だそう と した が、 ナニ おもった の か ふと テ を とめる と、 じっと ハリ の サキ を みつめて いた。 チュウシャキ の ナカ には クウキ の ガランドウ が できて いる。 このまま ジョウミャク に さして やろう か と、 テラダ は ジョウミャク へ クウキ を いれる と イノチ が ない と いった カンゴフ の コトバ を おもいだし、 キョウボウ に もえる メ で カズヨ の ウデ を みた。 が、 カズヨ の ウデ は ヒフ が かさかさ に かわいて あおぐろく アカ が たまり、 かなしい まで に ほそかった。 この ウデ で あの ケイバ の オトコ の クビ を セナカ を コシ を ものぐるおしく だいた とは、 もう テラダ は おもえなかった。 はだけた ネマキ から のぞいて いる ムネ も シュジュツ の アト が みにくく くぼみ、 オンナ の ムネ では なかった。 ふと メ を そらす と、 テラダ は もう うわむけた チュウシャキ の ソコ を おして、 エキ を ふきあげて いた。 すると、 シット は クウキ と ともに ながれだし、 アンシン した テラダ は カズヨ の ウデ の かさかさ した カワ を つまみあげる と、 ぷすり と ハリ を つきさした。 ぐっと ニク の ナカ まで いれて エキ を おす と、 まもなく クスリ が きいて きた の か、 カズヨ は けろり と しずか に なり、 しんだ よう に ねむって しまった が、 ミミ を すませる と かすか な イビキ は あった。
 それから 1 シュウカン たった ある ユウガタ、 チリョウ に つかう ビワ の ハ を カンゴフ と フタリ で きって カゴ に いれて いる と、 ウシロ から ちょっと と カズヨ の コエ が した。 ふりむく と、 クチビル の アイダ から たらん と シタ を たれ、 うおー うおー と ケダモノ の よう な コエ を だして クモン して いた。 おどろいて カンゴフ が キョウシンザイ の アンプル を きって、 ショウドク も せず に カズヨ の ウデ に つきさそう と した が、 ニク が かたくて はいらなかった。 ボク に やらせろ と テラダ が むりやり つきさそう と する と、 ハリ が おれた。 カズヨ の イキ は たえて いた。 サイゲツ が たつ と、 カズヨ の オモイデ も しだいに うすれて いった が、 しかし おれた ハリ の サキ の よう に シット の オモイ だけ は フシギ に テラダ の ムネ を ちくちく と さし、 マイトシ ハル と アキ ケイバ の シーズン が くる と、 キズグチ が うずく よう だった。 ケイバ を する ニンゲン が すべて カズヨ に カンケイ が あった よう に おもわれて、 この シット の ハゲシサ は テラダ ジシン にも フシギ な くらい で あった。 ところが、 そんな テラダ が ふとした こと から ケイバ に こりだした の だ から、 ニンゲン と いう もの は なかなか バカ に ならない。
 テラダ は カズヨ が しんで まもなく シガク ザッシ の ヘンシュウ を やめさせられた。 カンビョウ に おわれて なまけて いた うえ、 カズヨ が しんだ トウザ ぽかん と して ハンツキ も ヘンシュウジョ へ カオ を みせなかった の だ。 テラダ は また キュウシ に なきついて、 ビジュツ ザッシ の ヘンシュウ の クチ を セワ して もらった。 ヘンシュウイン の フタリ まで が おりから はじまった ジヘン に ショウシュウ されて、 ケツイン が あった の だ。 コンド は なまけず こつこつ と つとめて 2 ネン たつ と、 ヘンシュウチョウ が また ショウシュウ されて、 その アト の イス へ ついた。 その アキ オオサカ に すんで いる ある サッカ に ズイヒツ を たのむ と、 シメキリ の ヒ に ソクタツ が きて、 ゲンコウ は ヨド の ケイバ の ショニチ に ケイバジョウ へ もって ゆく から、 ゲンコウリョウ を もって ヨド まで きて くれ と いう。 テラダ は その ソクタツ の ジ が かつて カズヨ に きた ハガキ の ジ と まるで ちがって いる こと に アンシン した が、 しかし ジブン で ゆく の は さすが に いや だった。 と いって、 ホカ の モノ では その サッカ の カオ は わからない。 シジョウ で ザッシ の ハッコウ を おくらせて は すまない と、 テラダ は やはり リチギモノ-らしく いやいや ケイバジョウ へ でかけた。 ちょうど ヒト-レース おわった ところ らしく、 スタンド から ぞろぞろ と ひきあげて くる グンシュウ の カオ を、 この ナカ に カズヨ の オトコ が いる はず だ と かっと にらみつけて いる と、 やあ すまん すまん と サッカ が よって きて、 キミ を さがして いた ん だよ。 どうやら アサ から すりつづけて、 テラダ が もって くる ゲンコウリョウ を アテ に して いた らしかった。 わたして ゲンコウ を もらい、 かえろう と した が、 ボク も キョウ は キョウト へ まわる から おわる まで つきあわない か と ひきとめられる と、 テラダ は もう キ が よわかった。 スタンド に ならんで サッカ の クチ から、 キミ アンナ カレーニナ の ケイバ の バメン よんだ? しかし あれ でも ない よ、 どうも ケイバ を ホントウ に ビョウシャ した ブンガク は ない ね、 ケイバ は オンナ より おもしろい のに ね、 ボク は ケイバジョウ へ オンナ を つれて くる ヤツ の キ が しれん の だ、 ケイバ が あれば ボク は もう オンナ は いらん ね、 その ショウコ に ボク は いまだに ドクシン だ から ね、 サイカク の ゴニン オンナ に 「のりかかったる ウマ」 と いう コトバ が ある が、 ボク は こんな スリル を すてて オンナ に のりかかろう とは おもわん よ…… と いう ハナシ を ききながら レース を みて いる アイダ、 テラダ は ふと ケイバ への ハンカン を わすれて いた。 そして ツギ の レース で ふらふら と バケン を かう と、 テラダ の かった ウマ は 160 エン の ハイトウ を つけた。 ハライモドシ の マドグチ へ さしこんだ テ へ、 ムゾウサ に サツ を のせられた とき の カイカン は、 はじめて オモイ を とげた カズヨ の ハダ より も スリル が あり、 その ウマ を おしえて くれた サッカ に ふと オンナゴコロ-めいた タノモシサ を かんじながら、 テラダ は にわか に やみついて いった。
 ショウシン な オトコ ほど ハメ を はずした オボレカタ を する の が ケイバ の フシギサ で あろう か。 テビキ を した サッカ の ほう が あきれて しまう くらい、 テラダ は ムコウミズ な カケカタ を した。 シッピツシャ へ わたす シャレイ の カネ まで つぎこみ、 インサツヤ への ハライ も バケン に かわり、 ノミヤ へ とられて いった。 つねに アス の キボウ が ある ところ が ケイバ の アリガタサ だ と いって いた サッカ も、 ムイカ-メ には もう インゼイ や コウリョウ の マエガリ が きかなく なった の か、 とうとう スガタ を みせなかった。 が、 テラダ だけ は コウリガシ の カネ を かりて やって きた。 ナノカ-メ は セル の キモノ に ゲタバキ で きた。 ヨウフク を シチイレ した の だ。

 そして ヨウカ-メ の キョウ は ヨド の サイシュウビ で あった。 これ だけ は てばなすまい と おもって いた カズヨ の カタミ の キモノ を シチ に いれて きた の だ。 シチヤ の ノレン を くぐって でた とき は、 もう テラダ は カズヨ の オモイ を ころして しまった キモチ だった。 そして、 キョウ この カネ を すって しまえば、 ジブン も また カズヨ の オモイ と イッショ に しぬ ホカ は ない と、 しょんぼり ケイバジョウ へ はいった トタン、 どんより くもった ソラ の よう に くらい テラダ の アタマ に まず ひらめいた の は ころして しまった はず の カズヨ の オモイ で あった。 オンナ より も スリル が ある と いう ケイバ の ミリョク に ひかれて きた と いう キモチ でも なかった。 この サイゴ の イチニチ で とりもどさねば ハメツ だ と いう キモチ でも なかった。 カズヨ の オモイ と ともに きた の だ と いう こと より ホカ に、 もう なにも かんがえられなかった。 そして その オモイ の ハゲシサ は ヒサシブリ に よみがえった シット の ハゲシサ で あろう か、 ホウシン した よう な テラダ の ヒョウジョウ の ナカ で、 メ だけ は いどみかかる よう に ぎらついて いた。
 だから、 キョウ の テラダ は カズヨ の イチ の ジ を ねらって、 1 の バンゴウ ばかし シツヨウ に おいつづけて いた。 その ウマ が どんな ウマ で あろう と トンジャク せず、 ショウブ に ならぬ よう な バテ で あれば ある ほど、 ジギャク-めいた カイカン が あった。 ところが、 その ヒ は フシギ に 1 の バンゴウ の ウマ が オオアナ に なった。 ウチワク だ から ユウリ だ と したりげ に いって みて も おっつかぬ くらい で、 さすが の ヒトビト も キョウ は 1 バン が はいる ぞ と きづいた が、 しかし もう そろそろ カザムキ が かわる コロ だ と、 わざと 1 バン を ケイエン したく なる ケイバ シンリ を チョウショウ する よう に、 やはり タン で きて、 ホンメイ の くせ に ニンキ が われた の か イガイ な コウハイトウ を つけたり する。 テラダ は ハジメ の うち ウチョウテン に なって、 きた、 きた! と とびあがり、 まさか と おもって あきらめて いた とき など、 おもわず バンザイ と さけぶ くらい だった が、 もう ダイ 8 レース まで に イツツ も タンショウ を とって しまう と、 ブキミ に なって きて、 いつか おもくるしい キモチ に しずんで いった。 すると、 あの みしらぬ ケイバ の オトコ への シット が すっと アタマ を かすめる の だった。
 ダイ 9 の 4 サイ-バ トクベツ レース では、 1 の ホワイト ステーツ ゴウ が おおきく でおくれて ショウブ を なげて しまった が、 ツギ の シンチュウ ユウショウ キョウソウ では テラダ の かった ラッキー カップ ゴウ が 2 チャク-バ を 3 バシン ひきはなして、 5 バン ニンキ で 160 エン の オオアナ だった。 テラダ は むしろ ヒツウ な カオ を しながら、 ハイトウ を ウケトリ に ゆく と、 マドグチ で ハイトウ を もらって いた ジャンパー の オトコ が ふりむいて にやり と わらった。 ヒフ の イロ が オンナ の よう に しろく、 すごい ほど の ビボウ の その カオ に ミオボエ が ある。 アナ を あてる メイジン なの か、 テラダ は アサ から 3 ド も その マドグチ で カオ を あわせて いた の だ。 オオアナ の とき は ハイトウ を とり に くる ヒト も まばら で、 すぐ カオミシリ に なる。 やあ、 よく とります ね、 この ツギ は ナン です か と、 テラダ は その キ も なく オセジ で きいた。 すると、 オトコ は もう バケン を かって いて、 フタツ に たたんで いた の を ひらいて みせた。 1 だった。 テラダ は どきん と して、 ナニ か ニュース でも と といかける と、 いや ボク は バンゴウ シュギ で、 1 バン イッテンバリ です よ。 そう いった か と おもう と、 すっと スタンド の ほう へ でて いった。
 その レース は 7 バン の ホンメイ の ウマ が あっけなく ラクショウ した。 そして それ が ヨド の サイシュウ レース で あった。 テラダ は ナニ か アトアジ が わるく、 やがて ケイバ が コクラ に うつる と、 1 の バンゴウ を もう イチド おいたい キモチ に かられて キュウシュウ へ たった。 キシャ の ナカ で コクラ の ヤド は マンイン らしい と きいた ので、 ベップ の オンセンヤド に とまり、 そこ から マイアサ イチバン の キシャ で コクラ-ガヨイ を する こと に した。 ヨル、 ヤド へ つく と くたくた に つかれて いた ので、 テラダ は ジョチュウ に アルコール を もらって メタボリン を チュウシャ した。 カズヨ が しんだ トウザ テラダ は カズヨ の オモイデ と シット に なやまされて、 ねむれぬ ヨル が つづいた。 ある ヨ ふと ロンパン の ツカイノコリ が あった こと を おもいだした。 テラダ は フミン の ツラサ に たえかねて、 ついぞ チュウシャ を した こと の ない ジブン の ウデ へ こわごわ ロンパン を うって みる と、 カンタン に ねむれた。 が、 ねむれた こと より、 あれほど おそれて いた チュウシャ が ジブン で できて、 しかも ハリ の イタサ も あんがい すくなかった こと の ほう が うれしく、 ソノゴ カッケ に なった とき も メタボリン を うって ジブン で なおして しまった。 そして それから は チュウシャ が もう シュミ ドウゼン に なって、 チュウシャエキ を かいあさる カネ だけ は フシギ に おしい と おもわず、 テラダ の カバン の ナカ には シロウト には めずらしい くらい サマザマ な アンプル が はいって いた の だ。 チュウシャ が すんで ヨクシツ へ いった とき、 テラダ は おやっ と おもった。 ヨド で みた ジャンパー の オトコ が ユブネ に つかって いる では ない か。 やあ と よって ゆく と、 ムコウ でも きづいて、 よう、 きました ね、 コクラ へ…… と おこそう と した その セナカ を みた トタン、 テラダ は おもわず メ を みはった。 オンナ の ハダ の よう に しろい セナカ には、 イチ と いう ジ の イレズミ が ほどこされて いる の だ。 イチ ―― 1 ―― カズヨ。 もしか したら この オトコ が あの 「ケイバ の オトコ」 では ない か。 イチ の ジ の イレズミ は カズヨ の ナ の イチジ を とった の では ない か と、 トッサ の オモイ に テラダ は あおざめて、 その イレズミ は…… と もう タシナミ も わすれて いた。 これ です か と オトコ は いや な カオ も せず わらって、 こりゃ ボク の ニモツ です よ、 「ムネ に イチモツ、 セナカ に ニモツ」 と いう が、 ボク の ニモツ は セナカ に イチモンジ で ね。 17 の トシ から もう 20 ネン せおって いる が、 これ で あんがい オモニ で ね と、 ジョウダングチ の タッシャ な オトコ だった。 17 の トシ から……? と おどろく と、 ボク も チュウガッコウ へ 3 ネン まで いった オトコ だ が…… と かたりだした の は 、 こう だった。
 うまれつき ハダ が しろい し、 ジブン から いう の は おかしい が、 まあ ビショウネン の ほう だった ので、 チュウガクセイ の コロ から ユウワク が おおくて、 17 の トシ ジョセン の セイト から くどかれて、 とうとう その セイト を ニンシン させた ので、 ガッコウ は ホウコウ ショブン に なり、 イエ から も カンドウ された。 キチンヤド を とまりあるいて いる うち に シュウセンヤ に ひっかかって、 タンコウ へ いった ところ、 アラクレ の コウフ たち が コイツ オンナ みてえ な ハダ を しやがって と、 ハンブン は チゴ イジメ の キモチ と、 ハンブン は センボウ から むりやり セナカ に イレズミ を された。 イチ の ジ を ほりつけられた の は、 コウフ ナガヤ で はやって いた、 オイチョカブ トバク の、 インケツ、 ニゾ、 サンタ、 シスン、 ゴケ、 ロッポー、 ナキネ、 オイチョ、 カブ の ウチ、 この フダ を ひけば マケ と きまって いる インケツ の イミ らしかった。 イレズミ を されて まもなく タンコウ を にげだす と、 コキョウ の キョウト へ まいもどり、 あちこち ホウコウ した が、 エイゴ の よめる デッチ と チョウホウ-がられる の は ハジメ の トオカ ばかり で、 セナカ の イレズミ が わかって、 たちまち おいだされて みれば、 もう イレズミ を せおって いきて いく ミチ は、 セナカ に モノ を いわす フリョウ セイカツ しか ない。 インケツ の マツ と なのって キョウゴク や センボン の サカリバ を あらして いる うち に、 だんだん に カオ が うれ、 ずいぶん オトコ も なかした が、 オンナ も なかした。 おもしろい メ も して きた が、 セナカ の これ さえ なければ カタギ の クラシ も できたろう に と おもえば、 やはり さびしく、 だから ケイバ へ いって も ジブン の イッショウ を シハイ した 1 の バンゴウ が はたして サイアク の インケツ か どう か と ためす キ に なって、 1 バン イガイ に かけた こと が ない。
 きいて いる うち に テラダ は、 なるほど そんな 「1」 だった の か と、 すこし は アンシン した が、 この オトコ の こと だ から シジョウ-ドオリ の サカバ も あらしまわった に ちがいない と、 やはり キ に なり、 コウジュンシャ の ナ を もちだす と、 カイテン トウジ イリグチ の オオガラス を わって イライ いった こと は ない が と わらって、 しかし あそこ の ジョキュウ で ケイバ の すき な オンナ を しって いる。 いい オンナ だった が、 しんだ らしい。 よせば いい のに キョウシ など と ショタイ を もった の は バカ だった が、 しかし あれ だけ の カラダ の オンナ は ちょっと めず…… おや、 もう あがる ん です か。
 ヘヤ へ もどる と、 ジョチュウ が ユウハン を はこんで きた が、 テラダ は ノド へ とおらなかった。 すぐ さげさせて、 2 ジカン ばかり する と、 フトン を しき に きた。 テラダ は コンヤ は もう ねむれぬ だろう と、 ロンパン を チュウシャ する つもり で、 チュウシャキ を ショウドク して いる と、 フトン を しきおわった ジョチュウ が、 ダンナサマ チュウシャ を なさる の でしたら、 ワタシ にも して ください。 メタボリン は カッケ に いい ん でしょう と ウデ を まくった。 テラダ は むっちり した その ウデ へ ぷすり と ハリ を つきさした トタン カズヨ の オモイ が あった。 ハリ を ぬく と、 ジョチュウ は チュウシャ には なれて いる らしく、 キヨウ に ウデ を もみながら、 5 バン の キャク が ヘン な こと を いう から オサキ ちゃん に かわって もらって いい こと を した と いう コトバ を きいて、 はじめて ジョチュウ が かわって いた こと に キ が ついた くらい テラダ は ぼんやり して いた。 オトコマエ だ と おもって、 ホントウ に しょってる わ。 テラダ の メ は キュウ に かがやいた。 あの オトコ だ。 あの オトコ が この ジョチュウ を くどこう と した の だ。 テラダ は ナニ おもった か、 どう だ、 もう 1 ポン して やろう か。 メタボリン……? いや、 ヴィタミン C だ。 C って いい ん です か。 B より いい よ と いいながら、 しかし チュウシャキ には ひそか に ロンパン を すいあげた。
 ジョチュウ は キュウ に アクビ を して、 ワタシ ねむく なって きた わ、 ああ いい キモチ、 カラダ が チュウ に うきそう、 すこし ここ で ヨコ に ならせて ください ね。 フトン の スソ を マクラ に する と、 もう ゼンゴ フカク だった。 2 ジカン ばかり たって、 うっとり と メ を あけた ジョチュウ は、 ねむって いる アイダ ナニ を された か さすが に さとった らしかった が、 テラダ を せめる フウ も なく、 ワタシ ユメ を みてた の かしら と いいながら たちあがる と、 スソ を かきあわせて でて いった。 テラダ は その ウシロスガタ を みおくる ゲンキ も なく、 ジセキ の オモイ に しょげかえって いた が、 しかし ふと あの オトコ の こと を おもう と、 わずか に ジソンシン の マンゾク は あった。
 ヨクジツ、 コクラ ケイバジョウ の ショニチ が ひらかれた。 アサ から すりつづけて いた テラダ は、 すれば する ほど コウフン して いった。 サイゴ の フルヨビ トクハン レース で、 テラダ は アリガネ ゼンブ を 1 の ハマザクラ ゴウ に かけた。 これ を はずして しまえば、 もう カエリ の リョヒ も ない。
 ぱっと ハツバキ が はねあがった。 トタン に テラダ は マッサオ に なった。 ウチワク の ハマザクラ ゴウ は 2 バシン でおくれた の だ。 ダメ だ と テラダ は くわえて いた タバコ を なげすてる と、 スタンド を おりて、 ゴール マエ の サク の ほう へ よって いった。 もう サク に よりかからねば たって おれない くらい、 がっくり と チカラ が ぬけて いた の だ。 ムコウジョウメン の サカ を、 1 トウ だけ とりのこされた よう に のぼって ゆく シロジ に ムラサキ の ナミガタ-イリ の ハマザクラ を みる と、 テラダ の ヒョウジョウ は ますます ゆがんで いった。 でおくれた キョリ を つめよう とも せず、 バグン から はなれて ついて ゆく の は、 もう ショウブ を なげて しまった の だろう か。 ハマザクラ は もう ダメ だ! と テラダ は おもわず さけんだ。 すると、 いや だいじょうぶ だ、 あの ウマ は オイコミ だ、 と コエ が した。 ふと ふりむく と、 ジャンパー を きた 「あの オトコ」 が ずっと ムコウジョウメン を にらんで たって いた。 しろい カオ が あおざめて いる。 ジブン と おなじ よう に すって きた の だ と、 みあげて いる と、 オトコ は キュウ に にやり と した。 テラダ は おや と ショウメン へ ふりかえった。 シロジ に ムラサキ の ナミガタ が ぐいぐい と キョリ を つめて ゆく。 あっ と おもって いる うち、 ダイ 4 コーナー では もう セントウ の ウマ に ならんで、 はげしく せりあいながら チョクセン に さしかかった。 しめたっ と テラダ が どなる と、 バカッ! オイコミバ が ハナ に たって どう する ん だ と、 ウシロ の コエ も ムチュウ だった。 ハナ に たった ハマザクラ の キシュ は ムチ を つかいだした。 ヒッシ の リキソウ だ が、 そのまま にげきって しまえる か どう か。 ムチ を つかわねば ならぬ ところ に、 あと 200 メートル の ムリ が かんじられる。 にげろ、 にげろ、 にげきれ と、 テラダ は どなって いた。 あと 100 メートル。 そうれ いけ。 あっ、 3 バン が おいこんで きた。 あと 50 メートル。 あっ あぶない。 ならびそう だ。 はげしい セリアイ。 ぬかすな、 ぬかすな。 にげろ、 にげろ! ハマザクラ がんばれ!
 ムガ ムチュウ に どなって いた テラダ は、 ハマザクラ が ついに にげきって ゴールイン した の を みとどける と いきなり バンザイ と ふりむき、 タン だ、 タン だ、 オオアナ だ、 オオアナ だ と ゼッキョウ しながら、 ジャンパー の カタ に だきついて、 ぽろぽろ ナミダ を ながして いた。 まるで オンナ の よう に はなれなかった。 シット も ウラミ も わすれて しがみついて いた。
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