メオト ゼンザイ
オダ サクノスケ
ネンジュウ シャッキントリ が デハイリ した。 セッキ は むろん まるで マイニチ の こと で、 ショウユヤ、 アブラヤ、 ヤオヤ、 イワシヤ、 カンブツヤ、 スミヤ、 コメヤ、 ヤヌシ ソノタ、 いずれ も きびしい サイソク だった。 ロジ の イリグチ で ゴボウ、 レンコン、 イモ、 ミツバ、 コンニャク、 ベニショウガ、 スルメ、 イワシ など 1 セン テンプラ を あげて あきなって いる タネキチ は シャッキントリ の スガタ が みえる と、 シタ むいて にわか に ウドンコ を こねる マネ した。 キンジョ の コドモ たち も、 「オッサン、 はよ ゴンボ あげてん かいな」 と まてしばし が なく、 「よっしゃ、 イマ あげたある ぜ」 と いう ものの スリバチ の ソコ を ごしごし やる だけ で、 ミズバナ の おちた の も きづかなかった。
タネキチ では ハナシ に ならぬ から スドオリ して ロジ の オク へ ゆき タネキチ の ニョウボウ に かけあう と、 ニョウボウ の オタツ は タネキチ とは だいぶ ちがって、 シャッキントリ の ドウサ に チュウイ の メ を くばった。 サイソク の ミブリ が あまって こしかけて いる イタノマ を ちょっと でも たたく と、 オタツ は すかさず、 「ヒトサマ の イエ の イタノマ たたいて、 アンタ、 それ で よろし おまん のん か」 と ケッソウ かえる の だった。 「そこ は イエ の カミサマ が やどったはる とこ だっせ」
シバイ の つもり だ が それでも やはり コウフン する の か、 コエ に ナミダ が まじる くらい で ある から、 アイテ は おどろいて、 「ムチャ いいなはんな、 なにも ワテ は たたかしまへん ぜ」 と むしろ ひらきなおり、 2~3 ド オシモンドウ の アゲク、 けっきょく オタツ は いいまけて、 スデ では かえせぬ ハメ に なり、 50 セン か 1 エン だけ ミ を きられる オモイ で わたさねば ならなかった。 それでも、 イチド だけ だ が、 イタノマ の こと を その バ で シテキ される と、 なんとも イイワケ の ない コマリカタ で いきなり ヘイシン テイトウ して ワビ を いれ、 ほうほう の テイ で にげかえった シャッキントリ が あった と、 きまって アト で オタツ の グチ の アイテ は ムスメ の チョウコ で あった。
そんな ハハオヤ を チョウコ は みっともない とも あわれ とも おもった。 それで、 ハハオヤ を だまして カイグイ の カネ を せしめたり、 テンプラ の ウリアゲバコ から コゼニ を ぬすんだり して きた こと が、 ちょっと コウカイ された。 タネキチ の テンプラ は アジ で うって なかなか ヒョウバン よかった が、 その ため ソン を して いる よう だった。 レンコン でも コンニャク でも すこぶる アツミ で、 オタツ の メ にも ひきあわぬ と みえた が、 タネキチ は ソロバン おいて みて、 「7 リン の モト を 1 セン に あきなって そんする わけ は ない」 イエ に カネ の のこらぬ の は マエマエ の シャッキン で マイニチ の ウリアゲ が くいこんで ゆく ため だ との タネキチ の イイブン は もっとも だった が、 しかし、 12 サイ の チョウコ には、 チチオヤ の ソロバン には スミダイ や ショウユ-ダイ が はいって いない と しれた。
テンプラ だけ では たちゆかぬ から、 キンジョ に ソウシキ が ある たび に、 カゴカキ ニンソク に やとわれた。 ウジガミ の ナツマツリ には、 スイカン を きて オミヤ の オオヂョウチン を かついで ねる と、 ニットウ 90 セン に なった。 ヨロイ を きる と 30 セン アガリ だった。 タネキチ の ルス には オタツ が テンプラ を あげた。 オタツ は ぞんぶん に ザイリョウ を シマツ した から、 マツリ の ヒ トオリガカリ に みて、 タネキチ は カタミ の せまい オモイ を し、 ヨロイ の シタ を アセ が はしった。
よくよく ビンボウ した ので、 チョウコ が ショウガッコウ を おえる と、 あわてて ジョチュウ-ボウコウ に だした。 ぞくに、 ガタロ ヨコチョウ の ザイモクヤ の シュジン から ずいぶん と よい ジョウケン で ハナシ が あった ので、 オタツ の カオ に おもいがけぬ ケッショク が でた が、 ゆくゆく は メカケ に しろ との ハラ が よめて チチオヤ は うん と いわず、 ニッポンバシ 3 チョウメ の フルテヤ へ バカ に わるい ジョウケン で ジョチュウ-ボウコウ させた。 ガタロ ヨコチョウ は ムカシ カッパ が すんで いた と いわれ、 きらわれて ニソク サンモン だった そこ の トチ を ザイモクヤ の センダイ が かいとって、 シャクヤ を たて、 イマ は きびしく たかい ヤチン も とる から カネ が できて、 カッパ は ザイモクヤ だ と カゲグチ きかれて いた が、 メカケ が ナンニン も いて わかい イキチ を すう から と いう イミ も ある らしかった。 チョウコ は むくむく おんなめいて、 カオダチ も こぢんまり ととのい、 ザイモクヤ は さすが に ケイガン だった。
ニッポンバシ の フルギヤ で ハントシ あまり シンボウ が つづいた。 フユ の アサ、 クロモン イチバ への カイダシ に マワリミチ して フルギヤ の マエ を とおりかかった タネキチ は、 ミセサキ を ソウジ して いる チョウコ の テ が あかぎれて チ が にじんで いる の を みて、 そのまま はいって かけあい、 つれもどした。 そして ショモウ される まま に ソネザキ シンチ の オチャヤ へ オチョボ (ゲイシャ の シタジッコ) に やった。
タネキチ の テ に 50 エン の カネ が はいり、 これ は シャッキンバライ で みるみる きえた が、 アト にも サキ にも まとまって うけとった の は それきり だった。 もとより ヒダリウチワ の キモチ は なかった から、 17 の とき チョウコ が ゲイシャ に なる と きいて、 この チチ は にわか に ロウバイ した。 オヒロメ を する と いって も まさか テンプラ を くばって あるく わけ には ゆかず、 シュウギ、 イショウ、 ココロヅケ など タイヘン な モノイリ で、 のみこんで カカエヌシ が だして くれる の は いい が、 それ は マエガリ に なる から、 いわば チョウコ を しばる カンジョウ に なる と、 ハンタイ した。 が、 けっきょく モチマエ の ヨウキズキ の キショウ が カンキョウ に そまって ぜひに ゲイシャ に なりたい と チョウコ に ダダ を こねられる と、 まけて、 タネキチ は ずいぶん クメン した。 だから、 つらい ツトメ も みな オヤ の ため と いう ゾック は チョウコ に あてはまらぬ。 ブスイ な キャク から、 ゲイシャ に なった の は よくよく の ワケ が あって の こと やろ、 ぜんたい オマエ の チチオヤ は…… と きかれる と、 チチオヤ は バクチウチ で とか、 だまされて デンパタ を とられた ため だ とか、 あわれっぽく もちかける など、 まさか トチガラ、 キショウガラ チョウコ には できなかった が、 と いって、 ワテ を ゲイシャ に して くれん よう な そんな ハクジョウ な オヤ て ある もん か と なきこんで、 あわや カンドウ サワギ だった とは さすが に ホントウ の こと も いえなんだ。 「ワテ の オトッツァン は ダンサン みたい に ええ オトコマエ や」 と そらしたり して アクシュミ きわまった が、 それ が アイキョウ に なった。 ――チョウコ は コエジマン で、 どんな オザシキ でも おもいきり コエ を はりあげて ノド や ヒタイ に スジ を たて、 フスマガミ が ふるえる と いう あさましい ウタイカタ を し、 ヨウキ な ザシキ には なくて かなわぬ コ で あった から、 ハッサイ (オテンバ) で うって いた の だ。 ――それでも、 たった ヒトリ、 ナジミ の ヤス-ケショウヒン-ドンヤ の ムスコ には なにもかも ホントウ の こと を いった。
コレヤス リュウキチ と いい、 ニョウボウ も あり、 コトシ ヨッツ の コドモ も ある 31 サイ の オトコ だった が、 あいそめて ミツキ で もう そんな ナカ に なり、 ヒョウバン たって、 イッポン に なった とき の ダンナ を しくじった。 チュウフウ で ねて いる チチオヤ に かわって リュウキチ が きりまわして いる ショウバイ と いう の が、 リハツテン-ムキ の セッケン、 クリーム、 チック、 ポマード、 ビガンスイ、 フケトリ など の オロシドンヤ で ある と きいて、 サンパツヤ へ カオ を そり に いって も、 そこ で つかって いる ケショウヒン の マーク に キ を つける よう に なった。 ある ヒ、 ウメダ シンミチ に ある リュウキチ の ミセ の マエ を とおりかかる と、 アツシ を きた リュウキチ が デッチ アイテ に チホウ オクリ の ニヅクリ を カントク して いた。 ミミ に はさんだ フデ を とる と、 さらさら と チョウメン の ウエ を はしらせ、 やがて、 それ を クチ に くわえて ソロバン を はじく その スガタ が いかにも かいがいしく みえた。 ふと シセン が あう と、 チョウコ は ミミ の ツケネ まで マッカ に なった が、 リュウキチ は そしらぬ カオ で、 ちょいちょい ヨコメ を つかう だけ で あった。 それ が リチギモノ-めいた。 リュウキチ は いささか ドモリ で、 モノ を いう とき ウエ を むいて ちょっと クチ を もぐもぐ させる、 その カッコウ が かねがね チョウコ には シリョ ありげ に みえて いた。
チョウコ は リュウキチ を しっかり した たのもしい オトコ だ と おもい、 そのよう に いいふらした が、 その ため、 その ナカ は カノジョ の ほう から のぼせて いった と いわれて も かえす コトバ は ない はず だ と、 ヒトビト は トリザタ した。 ヨイグセ の ジョウルリ の サワリ で ナキゴエ を うなる、 その とき の リュウキチ の カオ を、 ヒトビト は セイトウ に ハンダン-づけて いた の だ。 ヨミセ の 2 セン の ドテヤキ (ブタ の カワミ を ミソ で につめた もの) が すき で、 ドテヤキ さん と アダナ が ついて いた くらい だ。
リュウキチ は うまい もの に かける と メ が なくて、 「ウマイモンヤ」 へ しばしば チョウコ を つれて いった。 カレ に いわせる と、 キタ には うまい もん を くわせる ミセ が なく、 うまい もん は なんと いって も ミナミ に かぎる そう で、 それ も イチリュウ の ミセ は ダメ や、 きたない こと を いう よう だ が ゼニ を すてる だけ の ハナシ、 ホンマ に うまい もん くいたかったら、 「イッペン オレ の アト へ ついて……」 ゆく と、 むろん イチリュウ の ミセ へは はいらず、 よくて コウヅ の ユドウフヤ、 シタ は ヨミセ の ドテヤキ、 カスマンジュウ から、 エビスバシスジ ソゴウ ヨコ 「シルイチ」 の ドジョウジル と コロジル、 ドウトンボリ アイオイバシ ヒガシヅメ 「イズモヤ」 の マムシ、 ニッポンバシ 「タコウメ」 の タコ、 ホウゼンジ ケイダイ 「ショウベン タンゴテイ」 の カントダキ、 センニチマエ トキワ-ザ ヨコ 「スシステ」 の テッカマキ と タイ の カワ の スミソ、 その ムカイ 「ダルマヤ」 の カヤクメシ と カスジル など で、 いずれ も ゼニ の かからぬ いわば ゲテモノ リョウリ ばかり で あった。 ゲイシャ を つれて ゆく べき ミセ の カマエ でも なかった から、 ハジメ は チョウコ も より に よって こんな ところ へ と おもった が、 「ど、 ど、 ど、 どや、 うまい やろ が、 こ、 こ、 こ、 こんな うまい もん どこ い いった かて たべられへん ぜ」 と いう コウシャク を ききながら くう と、 なるほど うまかった。
ランボウ に しろい タビ を ふみつけられて、 きゃっ と コエ を たてる、 それ も かえって ショクヨク が でる ほど で、 そんな ゲテモノ リョウリ の タベアルキ が ちょっと した タノシミ に なった。 たてこんだ キャク の スキマ へ コシ を わりこんで ゆく の も、 キタ シンチ の ウレッコ の コケン に かかわる ほど では なかった。 だいいち、 そんな ヤスモノ ばかり クワセドオシ で いる ものの、 オビ、 キモノ、 ナガジュバン から オビジメ、 コシサゲ、 ゾウリ まで かなり サンザイ して くれて いた から、 けちくさい と いえた ギリ では なかった。 クリーム、 フケトリ など は どう か と おもった が、 これ も こっそり アイヨウ した。 それに、 チチオヤ は いまなお 1 セン テンプラ で クロウ して いる の だ。 トノサマ の オシノビ-めいたり、 しんみり チチオヤ の あぶらじんだ テ を おもいだしたり して、 アト に ついて まわって いる うち に、 だんだん に ジョウチョ が でた。
シンセカイ に 2 ケン、 センニチマエ に 1 ケン、 ドウトンボリ に ナカザ の ムカイ と、 アイオイバシ ヒガシヅメ に それぞれ 1 ケン ずつ ある ツゴウ 5 ケン の イズモヤ の ナカ で マムシ の うまい の は アイオイバシ ヒガシヅメ の やつ や、 ゴハン に たっぷり しみこませた ダシ の アジ が 「なんしょ、 サカショ が よう きいとおる」 の を ふーふー クチ とがらせて たべ、 なかよく ハラ が ふくれて から、 ホウゼンジ の 「カゲツ」 へ ハルダンジ の ラクゴ を きき に ゆく と、 げらげら わらいあって、 にぎりあってる テ が アセ を かいたり した。
ふかく なり、 リュウキチ の カヨイカタ は だんだん ヒンパン に なった。 トオデ も あったり して、 やがて リュウキチ は カネ に こまって きた と、 チョウコ にも わかった。
チチオヤ が チュウフウ で ねつく とき わすれず に、 ギンコウ の ツウチョウ と ジツイン を フトン の シタ に かくした ので、 リュウキチ も テ の ツケヨウ が なかった。 しょせん、 ジユウ に なる カネ は しれた もの で、 トクイサキ の リハツテン を かけまわって の シュウキン だけ で こまかく ヤリクリ して いた から、 みるみる フギリ が かさんで、あおく なって いた。 そんな リュウキチ の ところ へ チョウコ から オトコバキ の ゾウリ を おくって きた。 そえた テガミ には、 だいぶ ながい こと きて くださらぬ ゆえ、 シンパイ して います。 イチドウ シタ を したい ゆえ…… と あった。 イチド ハナシ を したい (イチドウ シタ を したい) と リュウキチ だけ が ハンドク できる その テガミ が、 いつのまにか ビョウニン の ところ へ もれて しまって、 マクラモト へ よびよせて の たびかさなる イケン も かねがね キキメ なし と あきらめて いた チチオヤ も、 コンド ばかり は、 うつ、 なぐる の カラダ の ジユウ が きかぬ の が ザンネン だ と ナミダ すら うかべて ハラ を たてた。 わざと イツツ の オンナ の コ を ヒザ の ウエ に だきよせて、 わかい ツマ は シタ むいて いた。 ジッカ へ かえる ハラ を きめて いた こと で、 わずか に さけびだす の を こらえて いる よう だった。 うなだれて リュウキチ は、 チョウコ の デシャバリ め と ハラ の ナカ で つぶやいた が、 しかし、 チョウコ の キモチ は わるく とれなかった。 ゾウリ は そうとう ムリ を した らしく、 エビスバシ 「テング」 の シルシ が はいって おり、 ハナオ は ヘビ の カワ で あった。
「カマ の シタ の ハイ まで ジブン の もん や おもたら オオマチガイ やぞ、 キュウリ きって の カンドウ……」 を もうしわたした チチオヤ の ガンコ は しんだ ハハオヤ も かねがね なかされて きた くらい ゆえ、 イッタン は イエ を でなければ オサマリ が つかなかった。 イエ を でた トタン に、 ふと トウキョウ で シュウキン す べき カネ が まだ のこって いる こと を おもいだした。 ざっと カンジョウ して 400~500 エン は ある と しって、 キュウ に ココロ の クモリ が はれた。 すぐ ユキツケ の チャヤ へ あがって、 チョウコ を よび、 モノ は ソウダン や が カケオチ せえへん か。
あくる ヒ、 リュウキチ が ウメダ の エキ で まって いる と、 チョウコ は かんかん ヒ の あたって いる エキマエ の ヒロバ を オオマタ で よこぎって きた。 カミ を メガネ に ゆって いた ので、 へんに なまなましい カンジ が して、 リュウキチ は ふいと いや な キ が した。 すぐ トウキョウ-ユキ の キシャ に のった。
8 ガツ の スエ で バカ に むしあつい トウキョウ の マチ を かけずりまわり、 ゲツマツ には まだ 2~3 ニチ マ が ある と いう の を おがみたおして 300 エン ほど あつまった その アシ で、 アタミ へ いった。 オンセン ゲイシャ を あげよう と いう の を チョウコ は たしなめて、 これから の フタリ の ユクスエ の こと を かんがえたら、 そんな ノンキ な キイ で いて られへん と もっとも だった が、 カンドウ と いって も すぐ ワビ を いれて かえりこむ ハラ の リュウキチ は、 かめへん、 かめへん。 ムダン で カカエヌシ の ところ を とびだして きた こと を キ に して いる チョウコ の ハラ の ナカ など、 ムシ して いる よう だった。 ゲイシャ が くる と、 チョウコ は しかし、 アリッタケ の ゲイ を だしきって イチザ を さらい、 トチ の ゲイシャ から 「オオサカ の ゲイシャシュウ には かなわん わ」 と いわれて、 わずか に ココロ が なぐさまった。
フツカ そうして たち、 ヒルゴロ、 ごおっー と ミョウ な オト が して きた トタン に、 はげしく ゆれだした。 「ジシン や」 「ジシン や」 ドウジ に コエ が でて、 チョウコ は フスマ に つかまった こと は つかまった が、 いきなり コシ を ぬかし、 きゃっ と さけんで すわりこんで しまった。 リュウキチ は ハンタイガワ の カベ に しがみついた まま はなれず、 クチ も きけなかった。 オタガイ の ココロ に その とき、 えらい カケオチ を して しまった と いう クイ が イッシュン あった。
ヒナン レッシャ の ナカ で ろくろく モノ も いわなかった。 やっと ウメダ の エキ に つく と、 まっすぐ カミシオマチ の タネキチ の イエ へ いった。 みちみち、 デンシンバシラ に カントウ ダイシンサイ の ゴウガイ が なまなましく はられて いた。
ニシビ の あたる ところ で テンプラ を あげて いた タネキチ は フタリ の スガタ を みる と、 びっくり して しばらく は クチ も きけなんだ。 ヒ に やけた その カオ に、 アセ と はっきり クベツ の つく ナミダ が おちた。 タチバナシ で だんだん に きけば、 チョウコ の シッソウ は すぐに カカエヌシ から シラセ が あり、 どこ に どうして いる こと やら、 わるい オトコ に そそのかされて うりとばされた の と ちがう やろ か、 いきとって くれてる ん やろ か と シンパイ で ヨル も ねむれなんだ と いう。 わるい オトコ ウンヌン を ききとがめて チョウコ は、 ナニ は ともあれ、 センス を ぱちぱち させて つったって いる リュウキチ を 「この ヒト ワテ の ナニ や」 と ショウカイ した。 「へい、 おこしやす」 タネキチ は それ イジョウ アイサツ が つづかず、 そわそわ して ろくろく カオ も よう みなかった。
オタツ は ムスメ の カオ を みた トタン に、 ユカタ の ソデ を カオ に あてた。 なきやんで、 はじめて リョウテ を ついて、 「コノタビ は ムスメ が いろいろ と……」 リュウキチ に アイサツ し、 「オトウト の シンイチ は ジンジョウ 4 ネン で ガッコウ へ あがっとります が、 キョウ は、 まだ ひけて きとりまへん ので」 など と いうた。 アイサツ の シヨウ が なかった ので、 リュウキチ は テンコウ の こと など どもりがち に いうた。 タネキチ は コオリミズ を いい に いった。
ギンバエ の とびまわる 4 ジョウ の ヘヤ は カゼ も とおらず、 じーん と オト が する よう に むしあつかった。 タネキチ が コオリイチゴ を サゲバコ に いれて もちかえり、 ミナ は もくもく と それ を すすった。 やがて、 トウキョウ へ いって きた ムネ チョウコ が いう と、 タネキチ は 「そら タイヘン や、 トウキョウ は オオジシン や」 びっくり して しまった ので、 それで ハナシ の イトグチ は ついた。 ヒナン レッシャ で いのちからがら にげて きた と きいて、 リョウシン は、 えらい クロウ した な と しきり に ドウジョウ した。 それで、 わかい フタリ、 とりわけ リュウキチ は ほっと した。 「なんと おわび して ええ やら」 すらすら カレ は コトバ が でて、 タネキチ と オタツ は すこぶる キョウシュク した。
ハハオヤ の ユカタ を かりて きかえる と、 チョウコ の ハラ は きまった。 いったん チクデン した から には おめおめ カカエヌシ の ところ へ かえれまい、 おなじく イエ へ アシブミ できぬ リュウキチ と イッショ に クロウ する、 「もう ゲイシャ を やめまっさ」 との コトバ に、 タネキチ は 「オマエ の すき な よう に したら ええ がな」 コ に あまい ところ を みせた。 チョウコ の マエガリ は 300 エン-たらず で、 タネキチ は もはや ゲップ で はらう ハラ を きめて いた。 「ワテ が オヤジ に ムシン して はらいまっさ」 と リュウキチ も だまって いる わけ に ゆかなかった が、 タネキチ は 「そんな こと して もろたら こまりまん がな」 と テ を ふった。 「アンサン の オトッツァン に グツ が わるうて、 ワテ は カオ あわされしまへん がな」 リュウキチ は べつに イ を たてなかった。 オタツ は リュウキチ の ほう を むいて、 チョウコ は ハシカ の ホカ には カゼ ヒトツ ひかした こと は ない、 また カラダ の どこ さがして も カスリキズ ヒトツ ない はず、 それまで に そだてる クロウ は…… いいだして ナミダ の ヒトツ も でる シマツ に、 リュウキチ は ミミ の いたい キ が した。
2~3 ニチ、 せまくるしい タネキチ の イエ で ごろごろ して いた が、 やがて、 クロモン イチバ の ナカ の ロジウラ に ニカイガリ して、 エンリョ キガネ の ない ショタイ を はった。 シタ は ベントウ や スシ に つかう オリバコ の ショクニン で、 2 カイ の 6 ジョウ は もっぱら オリバコ の オキバ に して あった の を、 ツキ 7 エン の マエバライ で かりた の だ。 たちまち、 クラシ に こまった。
リュウキチ に ハタラキ が ない から、 しぜん チョウコ が かせぐ ジュンジョ で、 さて 2 ド の ツトメ に でる キ も ない と すれば、 けっきょく かせぐ ミチ は ヤトナ ゲイシャ と ソウバ が きまって いた。 もと キタ の シンチ に やはり ゲイシャ を して いた オキン と いう トシマ ゲイシャ が、 イマ は コウヅ に イッケン かまえて ヤトナ の シュウセンヤ みたい な こと を して いた。 ヤトナ と いう の は いわば リンジヤトイ で エンカイ や コンレイ に シュッチョウ する ユウゲイ ナカイ の こと で、 ゲイシャ の ハナダイ より は ずいぶん ヤスアガリ だ から、 けちくさい エンカイ から の ジュヨウ が おおく、 オキン は ゲイシャ アガリ の ヤトナ スウニン と レンラク を とり、 ハシュツ させて チュウカイ の ブ を はねる と ソウトウ な モウケ に なり、 イマ では デンワ の 1 ポン も ひいて いた。 1 エンカイ、 ユウガタ から ヨフケ まで で 6 エン、 ウチ ブ を ひいて ヤトナ の モウケ は 3 エン 50 セン だ が、 コンレイ の とき は シキヤク-ダイ も とる から モウケ は 6 エン、 シュウギ も まぜる と わるい ミイリ では ない と オキン から きいて、 さっそく ナカマ に はいった。
シャミセン を いれた コガタ の トランク さげて デンシャ で シテイ の バショ へ ゆく と、 すぐ ゼンブ の ハコビ から カン の セワ に かかる。 30~40 ニン の キャク に ヤトナ 3 ニン で ひととおり シャク を して まわる だけ でも タイヘン なのに、 アト が えらかった。 オキマリ の カイヒ で ぞんぶん たのしむ ハラ の ブスイ な キャク を アイテ に、 イキ の つく マ も ない ほど ひかされ うたわされ、 ナニワブシ の シャミ から コワイロ の アイノテ まで つとめて くたくた に なって いる ところ を、 ヤスキブシ を おどらされた。 それでも ネ が ヨウキズキ だけ に たいして ク にも ならず ミ を いれて つとめて いる と、 キャク が、 ゲイシャ より まし や。 やはり かなしかった。 ホントウ の トシ を きけば びっくり する ほど の オオドシマ の ホウバイ が、 オヒラキ の マエ に キュウ に シュウギ を あてこんで わかい オンナ-めいた ミブリ を する の も、 おなじ ヤトナ で あって みれば、 ヒトゴト では なかった。 よふけて アカデンシャ で かえった。 ニッポンバシ 1 チョウメ で おりて、 ノライヌ や ヒロイヤ (バタヤ) が ゴミバコ を あさって いる ホカ に ヒトドオリ も なく、 しずまりかえった ナカ に ただ サカナ の なまぐさい シュウキ が ただようて いる クロモン イチバ の ナカ を とおり、 ロジ へ はいる と ぷんぷん よい ニオイ が した。
サンショウ コンブ を にる ニオイ で、 おもいきり ジョウトウ の コンブ を 5 ブ シカク ぐらい の オオキサ に ホソギリ して サンショウ の ミ と イッショ に ナベ に いれ、 キッコウマン の コイクチ ショウユ を ふんだん に つかって、 マツズミ の トロビ で とろとろ 2 チュウヤ につめる と、 エビスバシ の 「オグラヤ」 で うって いる サンショウ コンブ と おなじ くらい の ウマサ に なる と リュウキチ は いい、 タイクツ シノギ に キノウ から それ に かかりだして いた の だ。 ヒダネ を きらさぬ こと と、 ときどき かきまわして やる こと が タイセツ で、 その ため キョウ は イッポ も ソト へ でず、 だから イツモ は きまって つかう はず の ヒ に 1 エン の コヅカイ に すこしも テ を つけて いなかった。 チョウコ の スガタ を みる と リュウキチ は 「どや、 ええ アンバイ に にえて きよった やろ」 ながい タケバシ で ナベ の ナカ を かきまわしながら いうた。 そんな リュウキチ に チョウコ は ひそか に そこはかとなき コイシサ を かんじる の だ が、 クセ で あまったるい キブン は ソト に だせず、 キモノ の スソ を ひらいた ナガジュバン の ヒザ で ぺたり と すわる なり 「ナン や、 まだ たいてる のん か、 えらい ヒマ かかって ナニ してる の や」 こんな クチ を きいた。
リュウキチ は ハタチ の チョウコ の こと を 「オバハン」 と よぶ よう に なった。 「オバハン コヅカイ たらん ぜ」 そして 3 エン ぐらい テ に にぎる と、 ヒルマ は ショウギ など して ジカン を つぶし、 ヨル は フタツイド の 「オニイチャン」 と いう ヤス-カフェ へ でかけて、 ジョキュウ の テ に さわり、 「ボク と キョウメイ せえへん か」 そんな チョウシ だった から、 オタツ は あれ では チョウコ が かわいそう や と タネキチ に いいいい した が、 タネキチ は 「ボンボン や から アタリマエ の こっちゃ」 べつに リュウキチ を ヒナン も しなかった。 どころ か、 「ニョウボウ や コドモ すてて ニカイズマイ せん ならん いう の も、 いや いう もんの、 チョウコ が わるい さかい や」 と かえって ドウジョウ した。 そんな チチオヤ を チョウコ は リュウキチ の ため に うれしく、 クロウ の シガイ ある と おもった。 「ワテ の オトッツァン、 ええ ところ ある やろ」 と おもって くれた の か くれない の か、 「うん」 と リュウキチ は キ の ない ヘンジ で、 ナニ を かんがえて いる の か わからぬ カオ を して いた。
その トシ も クレ に ちかづいた。 おしつまって なんとなく あわただしい キモチ の する ある ヒ、 ショウガツ の モンツキ など を とり に いく と いって、 リュウキチ は ウメダ シンミチ の イエ へ でかけて いった。 チョウコ は ミズ を あびた キモチ が した が、 いくな と いう コトバ が なぜか クチ に でなかった。 その ヨル、 エンカイ の クチ が かかって きた ので、 イツモ の よう に シャミセン を いれた トランク を さげて でかけた が、 ココロ は おもかった。 リュウキチ が オヤ の イエ へ モンツキ を とり に いった と いう ただ それ だけ の こと と して かるがるしく かんがえられなかった。 そこ には ツマ も いれば コ も いる の だ。 シャミセン の ネイロ は さえなかった。 それでも、 やはり フスマガミ が ふるえる ほど の コエ で うたい、 やっと オヒラキ に なって、 ユキ の ミチ を とんで かえって みる と、 リュウキチ は もどって いた。 ヒバチ の マエ に チュウゴシ に なり、 サケ で そまった カオ を その ナカ に つっこむ よう に しょんぼり すわって いる その ヨウス が、 いかにも ゲンキ が ない と、 ヒトメ で わかった。 チョウコ は ほっと した。 ――チチオヤ は リュウキチ の スガタ を みる なり、 ネドコ の ナカ で、 なにしに きた と どなりつけた そう で ある。 ツマ は セキ を ぬいて ジッカ に かえり、 オンナ の コ は リュウキチ の イモウト の フデコ が 18 の トシ で ハハオヤ-ガワリ に メンドウ みて いる が、 その コドモ にも あわせて もらえなかった。 リュウキチ が チョウコ と ショタイ を もった と きいて、 チチオヤ は おこる と いう より も リュウキチ を チョウショウ し、 また、 チョウコ の こと に ついて かなり ひどい こと を いった と いう こと だった。 ――チョウコ は 「ワテ の こと わるう いやはん の は ムリ おまへん」 と しんみり した。 が、 ハラ の ナカ では、 ワテ の チカラ で リュウキチ を イチニンマエ に して みせまっさかい、 シンパイ しなはんな と ひそか に リュウキチ の チチオヤ に むかって つぶやく キモチ を もった。 ジシン にも いいきかせて 「ワテ は なにも マエ の オクサン の アトガマ に すわる つもり や あらへん、 コレヤス を イチニンマエ の オトコ に シュッセ させたら ホンモウ や」 そう おもう こと は ナミダ を そそる カイカン だった。 その キモチ の ハリ と リュウキチ が かえって きた ヨロコビ と で、 その ヨル コウフン して ねむれず、 メ を ぴかぴか ひからせて ひくい テンジョウ を にらんで いた。
マエマエ から、 チョウコ は チラシ を とじて カケイボ を つくり、 ホウレンソウ 3 セン、 フロセン 3 セン、 チリガミ 4 セン、 など と マイニチ の ニュウヒ を かきこんで ショタイ を きりつめ、 リュウキチ の マイニチ の コヅカイ イガイ に ムダ な ヒヨウ は つつしんで、 ヤトナ の モウケ の ハンブン ぐらい は チョキン して いた が、 その こと が あって から、 チョキン に たいする キ の クバリカタ も ちがって きた。 1 セン 2 セン の カネ も つかいおしみ、 ハンエリ も あかじみた。 ショウガツ を あてこんで うんと モト を しいれる の だ とて、 タネキチ が シイレ の カネ を ムシン に くる と、 「ワテ には カネ みたい な もん あらへん」 タネキチ と いれかわって オタツ が 「コレヤス さん に カフェ たら いう とこ い いかす カネ あって も か」 と いい に きた が、 うん と いわなかった。
トシ が あけ、 マツ の ウチ も すぎた。 はっきり カンドウ だ と わかって から、 リュウキチ の ショゲカタ は すこぶる あわれ な もの だった。 フセイアイ と いう こと も あった。 チョウコ に いわれて も、 コドモ を ムリ に ひきとる キ の でなかった の は、 いずれ キサン が かなう かも しれぬ と いう シタゴコロ が ある ため だった が、 それでも、 コドモ と はなれて いる こと は さすが に さびしい と、 これ は ヒトゴト で なかった。 ある ヒ、 ムカシ の アソビ トモダチ に あい、 さそわれる と、 もともと すき な ミチ だった から、 ヒサシブリ に ぐたぐた に ようた。 その ヨル は さすが に イエ を あけなかった が、 ヨクジツ、 チョウコ が かくして いた チョキンチョウ を すっかり おろして、 サクヤ の ヘンレイ だ とて トモダチ を よびだし、 ナンバ シンチ へ はまりこんで、 フツカ、 つかいはたして タマシイ の ぬけた オトコ の よう に とぼとぼ クロモン イチバ の ロジウラ ナガヤ へ かえって きた。 「かえる とこ、 よう わすれんかった こっちゃ な」 そう いって チョウコ は クビスジ を つかんで つきたおし、 カタ を たたく とき の ヨウリョウ で、 アタマ を こつこつ たたいた。 「オバハン、 ナニ すん ねん、 ムチャ しな」 しかし、 テイコウ する ゲンキ も ない か の よう だった。 フツカヨイ で アタマ が あばれとる と、 フトン に くるまって うんうん うなって いる リュウキチ の カオ を ぴしゃり と なぐって、 なんとなく ソト へ でた。 センニチマエ の アイシンカン で キョウヤマ コエン の ナニワブシ を きいた が、 ヒトリ では おもしろい とも おもえず、 でる と、 この 2~3 ニチ メシ も ノド へ とおらなかった こと とて キュウ に クウフク を かんじ、 ラクテンチ ヨコ の ジユウケン で タマゴ-イリ の ライス カレー を たべた。 「ここ の ラ、 ラ、 ライス カレー は ゴハン に あんじょう ま、 ま、 ま、 まむして ある よって、 うまい」 と かつて リュウキチ が いった コトバ を おもいだしながら、 カレー の アト の コーヒー を のんで いる と、 いきなり あまい キモチ が ムネ に わいた。 こっそり かえって みる と、 リュウキチ は イビキ を かいて いた。 だしぬけ に、 あらあらしく ゆすぶって、 リュウキチ が ねむい メ を あける と、 「アホンダラ」 そして クチビル を とがらして リュウキチ の カオ へ もって いった。
あくる ヒ、 フタリ で あらためて ジユウケン へ ゆき、 カエリ に コウヅ の オキン の ところ へ ナカ の よい フウフ の カオ を だした。 コト を しって いた オキン は、 リュウキチ に イケン-めいた クチ を きいた。 オキン の テイシュ は かつて キタハマ で ハブリ が よく オキン を ひかして しんだ ニョウボウ の アトガマ に すえた トタン に ボツラク した が、 オキン は ゲンザイ の ヤトナ シュウセンヤ、 テイシュ は ハジ を しのんで キタハマ の トリヒキジョ へ ショキ に やとわれて、 いわば フウフ トモカセギ で、 テイシュ の ボツラク は オキン の せい だ など と ヒト に ウシロユビ ささせぬ イマ の クラシ だ と、 ヒキアイ に だしたり した。 「コレヤス さん、 アンタ も ぶらぶら あそんで ばかり してん と、 なんぞ はたらく ところ を……」 さがす ハラ が ある の か ない の か、 リュウキチ は なんの ヒョウジョウ も なく きいて いた。 コレヤス さん の ハラ は わからん と オキン は アト で チョウコ に いうた ので、 チョウコ は カタミ の せまい オモイ が した。 が、 まもなく ハタラキグチ を みつけた ので、 チョウコ は さっそく オキン に ホウコク した。 それ で カタミ が ひろく なった と いう ほど では なかった が、 やはり うれしかった。
センニチマエ 「イロハ ギュウニクテン」 の トナリ に ある カミソリヤ の カヨイ テンイン で、 アサ 10 ジ から ヨル 11 ジ まで の キンム、 ベントウ ジベン の ゲッキュウ 25 エン だ が、 それでも モンク なかったら と トモダチ が ショウカイ して くれた の だ。 リュウキチ は いや とは いえなかった。 アンゼン カミソリ、 レザー、 ナイフ、 ジャッキ ソノタ リハツ に カンケイ ある シナモノ を あきなって いる の だ から、 やはり リハツテン アイテ の ケショウヒン を あきなって いた リュウキチ には、 いちばん てきして いる だろう と ほねおって くれた、 その テマエ も あった。 カドグチ の せまい わり に バカ に オクユキ の ある ほそながい ミセ だ から ヒルマ なぞ ヒ が じゅうぶん ささず、 ヒルデン を シマツ した うすぐらい ところ で ヒバチ の ハイ を つつきながら、 コガイ の ヒトドオリ を ながめて いる と、 そこ の アカルサ が ウソ の よう だった。 ちょうど ムカイガワ が キョウドウ ベンジョ で その シュウキ が たまらなかった。 その トナリ は チクリンジ で、 モン の マエ の むかって ミギガワ では テツレイコウセン を うって おり、 ヒダリガワ、 つまり キョウドウ ベンジョ に ちかい ほう では モチ を やいて うって いた。 ショウユ を たっぷり つけて キツネイロ に こんがり やけて ふくれて いる ところ なぞ、 いかにも うまそう だった が、 かう キ は おこらなかった。 モチヤ の シュフ が キョウドウ ベンジョ から でて も チョウズ を つかわぬ と おぼしかった から や、 と リュウキチ は かえって いうた。 また いわく、 シゴト は ラク で、 アンゼン カミソリ の コウコク ニンギョウ が しきり に カラダ を うごかして カミソリ を といで いる カッコウ が おもしろい とて カザリマド に すいつけられる キャク が ある と、 でて いって、 おいでやす。 それ だけ の ゲイ で ことたりた。 チョウコ は、 「そら、 よろし おまん な」 そう はげました。
カミソリヤ で ミツキ ほど シンボウ した が、 やがて、 シュジン と ケンカ して シャク や から とて ミセ を やすみやすみ しだした が、 チョウコ は その コウジツ を ホンマ だ と おもい、 アサ おこしたり しなく なり、 ずるずるべったり ミセ を やめて しまった。 チョウコ は いっそう ヤトナ カギョウ に ミ を いれた。 カノジョ だけ には トクベツ の シュウギ を はりこまねば ならぬ と エンカイ の カンジ が おもう くらい で あった。 シュウギ は しかし、 ホウバイ と ヤマワケ だ から、 ずいぶん と ひきあわぬ カンジョウ だ が、 それ だけ に ホウバイ の キウケ は よかった。 チョウコ はん チョウコ はん と たてまつられる ので イイキ に なって、 ホウバイ へ 2 エン、 3 エン と コゼニ を かした が、 わたす なり コウカイ して、 さすが に はっきり サイソク できなかった から、 なにかと ベンチャラ (オセジ) して、 はよ かえして くれ と いう オモイ を それとなく みせる の だった。 50 セン の カネ にも ちくちく ムネ の いたむ キ が した が、 リュウキチ に だけ は、 コヅカイ を せびられる と キマエ よく わたした。 リュウキチ は マイニチ が いかにも おもしろく ない よう で、 ことに こっそり ウメダ シンミチ へ でかけた らしい ヒ は かえって から の フサギカタ が めだった ので、 チョウコ は なにかと キ を つかった。 チチ の カンキ が とけぬ こと が ユウウツ の ゲンイン らしく、 その こと に ひそか に アンド する より も キモチ の フタン の ほう が おおきかった。 それで、 リュウキチ が しばしば カフェ へ ゆく と しって も、 なるべく ヤキモチ を やかぬ よう に こころがけた。 だまって カネ を わたす とき の キモチ は、 ヒト が おもって いる ほど には ヘイキ では なかった。
ジッカ に かえって いる と いう リュウキチ の ツマ が、 ハイ で しんだ と いう ウワサ を きく と、 チョウコ は こっそり ホウゼンジ の 「エンムスビ」 に まいって ロウソク など おもいきった キシン を した。 そのかわり、 ネザメ の わるい キモチ が した ので、 カイミョウ を きいたり して タナ に まつった。 センサイ の イハイ が アタマ の ウエ に ある の を みて、 リュウキチ は なんとなく ヘン な キ が した が、 でしゃばるな とも いわなかった。 いえば なにかと ハナシ が もつれて メンドウ だ と さすが に リコウ な リュウキチ は、 イハイ さえ チョウコ の マエ では おがまなかった。 チョウコ は マイアサ ハナ を かえたり して、 イチブ の スキ も なく ふるまった。
オダ サクノスケ
ネンジュウ シャッキントリ が デハイリ した。 セッキ は むろん まるで マイニチ の こと で、 ショウユヤ、 アブラヤ、 ヤオヤ、 イワシヤ、 カンブツヤ、 スミヤ、 コメヤ、 ヤヌシ ソノタ、 いずれ も きびしい サイソク だった。 ロジ の イリグチ で ゴボウ、 レンコン、 イモ、 ミツバ、 コンニャク、 ベニショウガ、 スルメ、 イワシ など 1 セン テンプラ を あげて あきなって いる タネキチ は シャッキントリ の スガタ が みえる と、 シタ むいて にわか に ウドンコ を こねる マネ した。 キンジョ の コドモ たち も、 「オッサン、 はよ ゴンボ あげてん かいな」 と まてしばし が なく、 「よっしゃ、 イマ あげたある ぜ」 と いう ものの スリバチ の ソコ を ごしごし やる だけ で、 ミズバナ の おちた の も きづかなかった。
タネキチ では ハナシ に ならぬ から スドオリ して ロジ の オク へ ゆき タネキチ の ニョウボウ に かけあう と、 ニョウボウ の オタツ は タネキチ とは だいぶ ちがって、 シャッキントリ の ドウサ に チュウイ の メ を くばった。 サイソク の ミブリ が あまって こしかけて いる イタノマ を ちょっと でも たたく と、 オタツ は すかさず、 「ヒトサマ の イエ の イタノマ たたいて、 アンタ、 それ で よろし おまん のん か」 と ケッソウ かえる の だった。 「そこ は イエ の カミサマ が やどったはる とこ だっせ」
シバイ の つもり だ が それでも やはり コウフン する の か、 コエ に ナミダ が まじる くらい で ある から、 アイテ は おどろいて、 「ムチャ いいなはんな、 なにも ワテ は たたかしまへん ぜ」 と むしろ ひらきなおり、 2~3 ド オシモンドウ の アゲク、 けっきょく オタツ は いいまけて、 スデ では かえせぬ ハメ に なり、 50 セン か 1 エン だけ ミ を きられる オモイ で わたさねば ならなかった。 それでも、 イチド だけ だ が、 イタノマ の こと を その バ で シテキ される と、 なんとも イイワケ の ない コマリカタ で いきなり ヘイシン テイトウ して ワビ を いれ、 ほうほう の テイ で にげかえった シャッキントリ が あった と、 きまって アト で オタツ の グチ の アイテ は ムスメ の チョウコ で あった。
そんな ハハオヤ を チョウコ は みっともない とも あわれ とも おもった。 それで、 ハハオヤ を だまして カイグイ の カネ を せしめたり、 テンプラ の ウリアゲバコ から コゼニ を ぬすんだり して きた こと が、 ちょっと コウカイ された。 タネキチ の テンプラ は アジ で うって なかなか ヒョウバン よかった が、 その ため ソン を して いる よう だった。 レンコン でも コンニャク でも すこぶる アツミ で、 オタツ の メ にも ひきあわぬ と みえた が、 タネキチ は ソロバン おいて みて、 「7 リン の モト を 1 セン に あきなって そんする わけ は ない」 イエ に カネ の のこらぬ の は マエマエ の シャッキン で マイニチ の ウリアゲ が くいこんで ゆく ため だ との タネキチ の イイブン は もっとも だった が、 しかし、 12 サイ の チョウコ には、 チチオヤ の ソロバン には スミダイ や ショウユ-ダイ が はいって いない と しれた。
テンプラ だけ では たちゆかぬ から、 キンジョ に ソウシキ が ある たび に、 カゴカキ ニンソク に やとわれた。 ウジガミ の ナツマツリ には、 スイカン を きて オミヤ の オオヂョウチン を かついで ねる と、 ニットウ 90 セン に なった。 ヨロイ を きる と 30 セン アガリ だった。 タネキチ の ルス には オタツ が テンプラ を あげた。 オタツ は ぞんぶん に ザイリョウ を シマツ した から、 マツリ の ヒ トオリガカリ に みて、 タネキチ は カタミ の せまい オモイ を し、 ヨロイ の シタ を アセ が はしった。
よくよく ビンボウ した ので、 チョウコ が ショウガッコウ を おえる と、 あわてて ジョチュウ-ボウコウ に だした。 ぞくに、 ガタロ ヨコチョウ の ザイモクヤ の シュジン から ずいぶん と よい ジョウケン で ハナシ が あった ので、 オタツ の カオ に おもいがけぬ ケッショク が でた が、 ゆくゆく は メカケ に しろ との ハラ が よめて チチオヤ は うん と いわず、 ニッポンバシ 3 チョウメ の フルテヤ へ バカ に わるい ジョウケン で ジョチュウ-ボウコウ させた。 ガタロ ヨコチョウ は ムカシ カッパ が すんで いた と いわれ、 きらわれて ニソク サンモン だった そこ の トチ を ザイモクヤ の センダイ が かいとって、 シャクヤ を たて、 イマ は きびしく たかい ヤチン も とる から カネ が できて、 カッパ は ザイモクヤ だ と カゲグチ きかれて いた が、 メカケ が ナンニン も いて わかい イキチ を すう から と いう イミ も ある らしかった。 チョウコ は むくむく おんなめいて、 カオダチ も こぢんまり ととのい、 ザイモクヤ は さすが に ケイガン だった。
ニッポンバシ の フルギヤ で ハントシ あまり シンボウ が つづいた。 フユ の アサ、 クロモン イチバ への カイダシ に マワリミチ して フルギヤ の マエ を とおりかかった タネキチ は、 ミセサキ を ソウジ して いる チョウコ の テ が あかぎれて チ が にじんで いる の を みて、 そのまま はいって かけあい、 つれもどした。 そして ショモウ される まま に ソネザキ シンチ の オチャヤ へ オチョボ (ゲイシャ の シタジッコ) に やった。
タネキチ の テ に 50 エン の カネ が はいり、 これ は シャッキンバライ で みるみる きえた が、 アト にも サキ にも まとまって うけとった の は それきり だった。 もとより ヒダリウチワ の キモチ は なかった から、 17 の とき チョウコ が ゲイシャ に なる と きいて、 この チチ は にわか に ロウバイ した。 オヒロメ を する と いって も まさか テンプラ を くばって あるく わけ には ゆかず、 シュウギ、 イショウ、 ココロヅケ など タイヘン な モノイリ で、 のみこんで カカエヌシ が だして くれる の は いい が、 それ は マエガリ に なる から、 いわば チョウコ を しばる カンジョウ に なる と、 ハンタイ した。 が、 けっきょく モチマエ の ヨウキズキ の キショウ が カンキョウ に そまって ぜひに ゲイシャ に なりたい と チョウコ に ダダ を こねられる と、 まけて、 タネキチ は ずいぶん クメン した。 だから、 つらい ツトメ も みな オヤ の ため と いう ゾック は チョウコ に あてはまらぬ。 ブスイ な キャク から、 ゲイシャ に なった の は よくよく の ワケ が あって の こと やろ、 ぜんたい オマエ の チチオヤ は…… と きかれる と、 チチオヤ は バクチウチ で とか、 だまされて デンパタ を とられた ため だ とか、 あわれっぽく もちかける など、 まさか トチガラ、 キショウガラ チョウコ には できなかった が、 と いって、 ワテ を ゲイシャ に して くれん よう な そんな ハクジョウ な オヤ て ある もん か と なきこんで、 あわや カンドウ サワギ だった とは さすが に ホントウ の こと も いえなんだ。 「ワテ の オトッツァン は ダンサン みたい に ええ オトコマエ や」 と そらしたり して アクシュミ きわまった が、 それ が アイキョウ に なった。 ――チョウコ は コエジマン で、 どんな オザシキ でも おもいきり コエ を はりあげて ノド や ヒタイ に スジ を たて、 フスマガミ が ふるえる と いう あさましい ウタイカタ を し、 ヨウキ な ザシキ には なくて かなわぬ コ で あった から、 ハッサイ (オテンバ) で うって いた の だ。 ――それでも、 たった ヒトリ、 ナジミ の ヤス-ケショウヒン-ドンヤ の ムスコ には なにもかも ホントウ の こと を いった。
コレヤス リュウキチ と いい、 ニョウボウ も あり、 コトシ ヨッツ の コドモ も ある 31 サイ の オトコ だった が、 あいそめて ミツキ で もう そんな ナカ に なり、 ヒョウバン たって、 イッポン に なった とき の ダンナ を しくじった。 チュウフウ で ねて いる チチオヤ に かわって リュウキチ が きりまわして いる ショウバイ と いう の が、 リハツテン-ムキ の セッケン、 クリーム、 チック、 ポマード、 ビガンスイ、 フケトリ など の オロシドンヤ で ある と きいて、 サンパツヤ へ カオ を そり に いって も、 そこ で つかって いる ケショウヒン の マーク に キ を つける よう に なった。 ある ヒ、 ウメダ シンミチ に ある リュウキチ の ミセ の マエ を とおりかかる と、 アツシ を きた リュウキチ が デッチ アイテ に チホウ オクリ の ニヅクリ を カントク して いた。 ミミ に はさんだ フデ を とる と、 さらさら と チョウメン の ウエ を はしらせ、 やがて、 それ を クチ に くわえて ソロバン を はじく その スガタ が いかにも かいがいしく みえた。 ふと シセン が あう と、 チョウコ は ミミ の ツケネ まで マッカ に なった が、 リュウキチ は そしらぬ カオ で、 ちょいちょい ヨコメ を つかう だけ で あった。 それ が リチギモノ-めいた。 リュウキチ は いささか ドモリ で、 モノ を いう とき ウエ を むいて ちょっと クチ を もぐもぐ させる、 その カッコウ が かねがね チョウコ には シリョ ありげ に みえて いた。
チョウコ は リュウキチ を しっかり した たのもしい オトコ だ と おもい、 そのよう に いいふらした が、 その ため、 その ナカ は カノジョ の ほう から のぼせて いった と いわれて も かえす コトバ は ない はず だ と、 ヒトビト は トリザタ した。 ヨイグセ の ジョウルリ の サワリ で ナキゴエ を うなる、 その とき の リュウキチ の カオ を、 ヒトビト は セイトウ に ハンダン-づけて いた の だ。 ヨミセ の 2 セン の ドテヤキ (ブタ の カワミ を ミソ で につめた もの) が すき で、 ドテヤキ さん と アダナ が ついて いた くらい だ。
リュウキチ は うまい もの に かける と メ が なくて、 「ウマイモンヤ」 へ しばしば チョウコ を つれて いった。 カレ に いわせる と、 キタ には うまい もん を くわせる ミセ が なく、 うまい もん は なんと いって も ミナミ に かぎる そう で、 それ も イチリュウ の ミセ は ダメ や、 きたない こと を いう よう だ が ゼニ を すてる だけ の ハナシ、 ホンマ に うまい もん くいたかったら、 「イッペン オレ の アト へ ついて……」 ゆく と、 むろん イチリュウ の ミセ へは はいらず、 よくて コウヅ の ユドウフヤ、 シタ は ヨミセ の ドテヤキ、 カスマンジュウ から、 エビスバシスジ ソゴウ ヨコ 「シルイチ」 の ドジョウジル と コロジル、 ドウトンボリ アイオイバシ ヒガシヅメ 「イズモヤ」 の マムシ、 ニッポンバシ 「タコウメ」 の タコ、 ホウゼンジ ケイダイ 「ショウベン タンゴテイ」 の カントダキ、 センニチマエ トキワ-ザ ヨコ 「スシステ」 の テッカマキ と タイ の カワ の スミソ、 その ムカイ 「ダルマヤ」 の カヤクメシ と カスジル など で、 いずれ も ゼニ の かからぬ いわば ゲテモノ リョウリ ばかり で あった。 ゲイシャ を つれて ゆく べき ミセ の カマエ でも なかった から、 ハジメ は チョウコ も より に よって こんな ところ へ と おもった が、 「ど、 ど、 ど、 どや、 うまい やろ が、 こ、 こ、 こ、 こんな うまい もん どこ い いった かて たべられへん ぜ」 と いう コウシャク を ききながら くう と、 なるほど うまかった。
ランボウ に しろい タビ を ふみつけられて、 きゃっ と コエ を たてる、 それ も かえって ショクヨク が でる ほど で、 そんな ゲテモノ リョウリ の タベアルキ が ちょっと した タノシミ に なった。 たてこんだ キャク の スキマ へ コシ を わりこんで ゆく の も、 キタ シンチ の ウレッコ の コケン に かかわる ほど では なかった。 だいいち、 そんな ヤスモノ ばかり クワセドオシ で いる ものの、 オビ、 キモノ、 ナガジュバン から オビジメ、 コシサゲ、 ゾウリ まで かなり サンザイ して くれて いた から、 けちくさい と いえた ギリ では なかった。 クリーム、 フケトリ など は どう か と おもった が、 これ も こっそり アイヨウ した。 それに、 チチオヤ は いまなお 1 セン テンプラ で クロウ して いる の だ。 トノサマ の オシノビ-めいたり、 しんみり チチオヤ の あぶらじんだ テ を おもいだしたり して、 アト に ついて まわって いる うち に、 だんだん に ジョウチョ が でた。
シンセカイ に 2 ケン、 センニチマエ に 1 ケン、 ドウトンボリ に ナカザ の ムカイ と、 アイオイバシ ヒガシヅメ に それぞれ 1 ケン ずつ ある ツゴウ 5 ケン の イズモヤ の ナカ で マムシ の うまい の は アイオイバシ ヒガシヅメ の やつ や、 ゴハン に たっぷり しみこませた ダシ の アジ が 「なんしょ、 サカショ が よう きいとおる」 の を ふーふー クチ とがらせて たべ、 なかよく ハラ が ふくれて から、 ホウゼンジ の 「カゲツ」 へ ハルダンジ の ラクゴ を きき に ゆく と、 げらげら わらいあって、 にぎりあってる テ が アセ を かいたり した。
ふかく なり、 リュウキチ の カヨイカタ は だんだん ヒンパン に なった。 トオデ も あったり して、 やがて リュウキチ は カネ に こまって きた と、 チョウコ にも わかった。
チチオヤ が チュウフウ で ねつく とき わすれず に、 ギンコウ の ツウチョウ と ジツイン を フトン の シタ に かくした ので、 リュウキチ も テ の ツケヨウ が なかった。 しょせん、 ジユウ に なる カネ は しれた もの で、 トクイサキ の リハツテン を かけまわって の シュウキン だけ で こまかく ヤリクリ して いた から、 みるみる フギリ が かさんで、あおく なって いた。 そんな リュウキチ の ところ へ チョウコ から オトコバキ の ゾウリ を おくって きた。 そえた テガミ には、 だいぶ ながい こと きて くださらぬ ゆえ、 シンパイ して います。 イチドウ シタ を したい ゆえ…… と あった。 イチド ハナシ を したい (イチドウ シタ を したい) と リュウキチ だけ が ハンドク できる その テガミ が、 いつのまにか ビョウニン の ところ へ もれて しまって、 マクラモト へ よびよせて の たびかさなる イケン も かねがね キキメ なし と あきらめて いた チチオヤ も、 コンド ばかり は、 うつ、 なぐる の カラダ の ジユウ が きかぬ の が ザンネン だ と ナミダ すら うかべて ハラ を たてた。 わざと イツツ の オンナ の コ を ヒザ の ウエ に だきよせて、 わかい ツマ は シタ むいて いた。 ジッカ へ かえる ハラ を きめて いた こと で、 わずか に さけびだす の を こらえて いる よう だった。 うなだれて リュウキチ は、 チョウコ の デシャバリ め と ハラ の ナカ で つぶやいた が、 しかし、 チョウコ の キモチ は わるく とれなかった。 ゾウリ は そうとう ムリ を した らしく、 エビスバシ 「テング」 の シルシ が はいって おり、 ハナオ は ヘビ の カワ で あった。
「カマ の シタ の ハイ まで ジブン の もん や おもたら オオマチガイ やぞ、 キュウリ きって の カンドウ……」 を もうしわたした チチオヤ の ガンコ は しんだ ハハオヤ も かねがね なかされて きた くらい ゆえ、 イッタン は イエ を でなければ オサマリ が つかなかった。 イエ を でた トタン に、 ふと トウキョウ で シュウキン す べき カネ が まだ のこって いる こと を おもいだした。 ざっと カンジョウ して 400~500 エン は ある と しって、 キュウ に ココロ の クモリ が はれた。 すぐ ユキツケ の チャヤ へ あがって、 チョウコ を よび、 モノ は ソウダン や が カケオチ せえへん か。
あくる ヒ、 リュウキチ が ウメダ の エキ で まって いる と、 チョウコ は かんかん ヒ の あたって いる エキマエ の ヒロバ を オオマタ で よこぎって きた。 カミ を メガネ に ゆって いた ので、 へんに なまなましい カンジ が して、 リュウキチ は ふいと いや な キ が した。 すぐ トウキョウ-ユキ の キシャ に のった。
8 ガツ の スエ で バカ に むしあつい トウキョウ の マチ を かけずりまわり、 ゲツマツ には まだ 2~3 ニチ マ が ある と いう の を おがみたおして 300 エン ほど あつまった その アシ で、 アタミ へ いった。 オンセン ゲイシャ を あげよう と いう の を チョウコ は たしなめて、 これから の フタリ の ユクスエ の こと を かんがえたら、 そんな ノンキ な キイ で いて られへん と もっとも だった が、 カンドウ と いって も すぐ ワビ を いれて かえりこむ ハラ の リュウキチ は、 かめへん、 かめへん。 ムダン で カカエヌシ の ところ を とびだして きた こと を キ に して いる チョウコ の ハラ の ナカ など、 ムシ して いる よう だった。 ゲイシャ が くる と、 チョウコ は しかし、 アリッタケ の ゲイ を だしきって イチザ を さらい、 トチ の ゲイシャ から 「オオサカ の ゲイシャシュウ には かなわん わ」 と いわれて、 わずか に ココロ が なぐさまった。
フツカ そうして たち、 ヒルゴロ、 ごおっー と ミョウ な オト が して きた トタン に、 はげしく ゆれだした。 「ジシン や」 「ジシン や」 ドウジ に コエ が でて、 チョウコ は フスマ に つかまった こと は つかまった が、 いきなり コシ を ぬかし、 きゃっ と さけんで すわりこんで しまった。 リュウキチ は ハンタイガワ の カベ に しがみついた まま はなれず、 クチ も きけなかった。 オタガイ の ココロ に その とき、 えらい カケオチ を して しまった と いう クイ が イッシュン あった。
ヒナン レッシャ の ナカ で ろくろく モノ も いわなかった。 やっと ウメダ の エキ に つく と、 まっすぐ カミシオマチ の タネキチ の イエ へ いった。 みちみち、 デンシンバシラ に カントウ ダイシンサイ の ゴウガイ が なまなましく はられて いた。
ニシビ の あたる ところ で テンプラ を あげて いた タネキチ は フタリ の スガタ を みる と、 びっくり して しばらく は クチ も きけなんだ。 ヒ に やけた その カオ に、 アセ と はっきり クベツ の つく ナミダ が おちた。 タチバナシ で だんだん に きけば、 チョウコ の シッソウ は すぐに カカエヌシ から シラセ が あり、 どこ に どうして いる こと やら、 わるい オトコ に そそのかされて うりとばされた の と ちがう やろ か、 いきとって くれてる ん やろ か と シンパイ で ヨル も ねむれなんだ と いう。 わるい オトコ ウンヌン を ききとがめて チョウコ は、 ナニ は ともあれ、 センス を ぱちぱち させて つったって いる リュウキチ を 「この ヒト ワテ の ナニ や」 と ショウカイ した。 「へい、 おこしやす」 タネキチ は それ イジョウ アイサツ が つづかず、 そわそわ して ろくろく カオ も よう みなかった。
オタツ は ムスメ の カオ を みた トタン に、 ユカタ の ソデ を カオ に あてた。 なきやんで、 はじめて リョウテ を ついて、 「コノタビ は ムスメ が いろいろ と……」 リュウキチ に アイサツ し、 「オトウト の シンイチ は ジンジョウ 4 ネン で ガッコウ へ あがっとります が、 キョウ は、 まだ ひけて きとりまへん ので」 など と いうた。 アイサツ の シヨウ が なかった ので、 リュウキチ は テンコウ の こと など どもりがち に いうた。 タネキチ は コオリミズ を いい に いった。
ギンバエ の とびまわる 4 ジョウ の ヘヤ は カゼ も とおらず、 じーん と オト が する よう に むしあつかった。 タネキチ が コオリイチゴ を サゲバコ に いれて もちかえり、 ミナ は もくもく と それ を すすった。 やがて、 トウキョウ へ いって きた ムネ チョウコ が いう と、 タネキチ は 「そら タイヘン や、 トウキョウ は オオジシン や」 びっくり して しまった ので、 それで ハナシ の イトグチ は ついた。 ヒナン レッシャ で いのちからがら にげて きた と きいて、 リョウシン は、 えらい クロウ した な と しきり に ドウジョウ した。 それで、 わかい フタリ、 とりわけ リュウキチ は ほっと した。 「なんと おわび して ええ やら」 すらすら カレ は コトバ が でて、 タネキチ と オタツ は すこぶる キョウシュク した。
ハハオヤ の ユカタ を かりて きかえる と、 チョウコ の ハラ は きまった。 いったん チクデン した から には おめおめ カカエヌシ の ところ へ かえれまい、 おなじく イエ へ アシブミ できぬ リュウキチ と イッショ に クロウ する、 「もう ゲイシャ を やめまっさ」 との コトバ に、 タネキチ は 「オマエ の すき な よう に したら ええ がな」 コ に あまい ところ を みせた。 チョウコ の マエガリ は 300 エン-たらず で、 タネキチ は もはや ゲップ で はらう ハラ を きめて いた。 「ワテ が オヤジ に ムシン して はらいまっさ」 と リュウキチ も だまって いる わけ に ゆかなかった が、 タネキチ は 「そんな こと して もろたら こまりまん がな」 と テ を ふった。 「アンサン の オトッツァン に グツ が わるうて、 ワテ は カオ あわされしまへん がな」 リュウキチ は べつに イ を たてなかった。 オタツ は リュウキチ の ほう を むいて、 チョウコ は ハシカ の ホカ には カゼ ヒトツ ひかした こと は ない、 また カラダ の どこ さがして も カスリキズ ヒトツ ない はず、 それまで に そだてる クロウ は…… いいだして ナミダ の ヒトツ も でる シマツ に、 リュウキチ は ミミ の いたい キ が した。
2~3 ニチ、 せまくるしい タネキチ の イエ で ごろごろ して いた が、 やがて、 クロモン イチバ の ナカ の ロジウラ に ニカイガリ して、 エンリョ キガネ の ない ショタイ を はった。 シタ は ベントウ や スシ に つかう オリバコ の ショクニン で、 2 カイ の 6 ジョウ は もっぱら オリバコ の オキバ に して あった の を、 ツキ 7 エン の マエバライ で かりた の だ。 たちまち、 クラシ に こまった。
リュウキチ に ハタラキ が ない から、 しぜん チョウコ が かせぐ ジュンジョ で、 さて 2 ド の ツトメ に でる キ も ない と すれば、 けっきょく かせぐ ミチ は ヤトナ ゲイシャ と ソウバ が きまって いた。 もと キタ の シンチ に やはり ゲイシャ を して いた オキン と いう トシマ ゲイシャ が、 イマ は コウヅ に イッケン かまえて ヤトナ の シュウセンヤ みたい な こと を して いた。 ヤトナ と いう の は いわば リンジヤトイ で エンカイ や コンレイ に シュッチョウ する ユウゲイ ナカイ の こと で、 ゲイシャ の ハナダイ より は ずいぶん ヤスアガリ だ から、 けちくさい エンカイ から の ジュヨウ が おおく、 オキン は ゲイシャ アガリ の ヤトナ スウニン と レンラク を とり、 ハシュツ させて チュウカイ の ブ を はねる と ソウトウ な モウケ に なり、 イマ では デンワ の 1 ポン も ひいて いた。 1 エンカイ、 ユウガタ から ヨフケ まで で 6 エン、 ウチ ブ を ひいて ヤトナ の モウケ は 3 エン 50 セン だ が、 コンレイ の とき は シキヤク-ダイ も とる から モウケ は 6 エン、 シュウギ も まぜる と わるい ミイリ では ない と オキン から きいて、 さっそく ナカマ に はいった。
シャミセン を いれた コガタ の トランク さげて デンシャ で シテイ の バショ へ ゆく と、 すぐ ゼンブ の ハコビ から カン の セワ に かかる。 30~40 ニン の キャク に ヤトナ 3 ニン で ひととおり シャク を して まわる だけ でも タイヘン なのに、 アト が えらかった。 オキマリ の カイヒ で ぞんぶん たのしむ ハラ の ブスイ な キャク を アイテ に、 イキ の つく マ も ない ほど ひかされ うたわされ、 ナニワブシ の シャミ から コワイロ の アイノテ まで つとめて くたくた に なって いる ところ を、 ヤスキブシ を おどらされた。 それでも ネ が ヨウキズキ だけ に たいして ク にも ならず ミ を いれて つとめて いる と、 キャク が、 ゲイシャ より まし や。 やはり かなしかった。 ホントウ の トシ を きけば びっくり する ほど の オオドシマ の ホウバイ が、 オヒラキ の マエ に キュウ に シュウギ を あてこんで わかい オンナ-めいた ミブリ を する の も、 おなじ ヤトナ で あって みれば、 ヒトゴト では なかった。 よふけて アカデンシャ で かえった。 ニッポンバシ 1 チョウメ で おりて、 ノライヌ や ヒロイヤ (バタヤ) が ゴミバコ を あさって いる ホカ に ヒトドオリ も なく、 しずまりかえった ナカ に ただ サカナ の なまぐさい シュウキ が ただようて いる クロモン イチバ の ナカ を とおり、 ロジ へ はいる と ぷんぷん よい ニオイ が した。
サンショウ コンブ を にる ニオイ で、 おもいきり ジョウトウ の コンブ を 5 ブ シカク ぐらい の オオキサ に ホソギリ して サンショウ の ミ と イッショ に ナベ に いれ、 キッコウマン の コイクチ ショウユ を ふんだん に つかって、 マツズミ の トロビ で とろとろ 2 チュウヤ につめる と、 エビスバシ の 「オグラヤ」 で うって いる サンショウ コンブ と おなじ くらい の ウマサ に なる と リュウキチ は いい、 タイクツ シノギ に キノウ から それ に かかりだして いた の だ。 ヒダネ を きらさぬ こと と、 ときどき かきまわして やる こと が タイセツ で、 その ため キョウ は イッポ も ソト へ でず、 だから イツモ は きまって つかう はず の ヒ に 1 エン の コヅカイ に すこしも テ を つけて いなかった。 チョウコ の スガタ を みる と リュウキチ は 「どや、 ええ アンバイ に にえて きよった やろ」 ながい タケバシ で ナベ の ナカ を かきまわしながら いうた。 そんな リュウキチ に チョウコ は ひそか に そこはかとなき コイシサ を かんじる の だ が、 クセ で あまったるい キブン は ソト に だせず、 キモノ の スソ を ひらいた ナガジュバン の ヒザ で ぺたり と すわる なり 「ナン や、 まだ たいてる のん か、 えらい ヒマ かかって ナニ してる の や」 こんな クチ を きいた。
リュウキチ は ハタチ の チョウコ の こと を 「オバハン」 と よぶ よう に なった。 「オバハン コヅカイ たらん ぜ」 そして 3 エン ぐらい テ に にぎる と、 ヒルマ は ショウギ など して ジカン を つぶし、 ヨル は フタツイド の 「オニイチャン」 と いう ヤス-カフェ へ でかけて、 ジョキュウ の テ に さわり、 「ボク と キョウメイ せえへん か」 そんな チョウシ だった から、 オタツ は あれ では チョウコ が かわいそう や と タネキチ に いいいい した が、 タネキチ は 「ボンボン や から アタリマエ の こっちゃ」 べつに リュウキチ を ヒナン も しなかった。 どころ か、 「ニョウボウ や コドモ すてて ニカイズマイ せん ならん いう の も、 いや いう もんの、 チョウコ が わるい さかい や」 と かえって ドウジョウ した。 そんな チチオヤ を チョウコ は リュウキチ の ため に うれしく、 クロウ の シガイ ある と おもった。 「ワテ の オトッツァン、 ええ ところ ある やろ」 と おもって くれた の か くれない の か、 「うん」 と リュウキチ は キ の ない ヘンジ で、 ナニ を かんがえて いる の か わからぬ カオ を して いた。
その トシ も クレ に ちかづいた。 おしつまって なんとなく あわただしい キモチ の する ある ヒ、 ショウガツ の モンツキ など を とり に いく と いって、 リュウキチ は ウメダ シンミチ の イエ へ でかけて いった。 チョウコ は ミズ を あびた キモチ が した が、 いくな と いう コトバ が なぜか クチ に でなかった。 その ヨル、 エンカイ の クチ が かかって きた ので、 イツモ の よう に シャミセン を いれた トランク を さげて でかけた が、 ココロ は おもかった。 リュウキチ が オヤ の イエ へ モンツキ を とり に いった と いう ただ それ だけ の こと と して かるがるしく かんがえられなかった。 そこ には ツマ も いれば コ も いる の だ。 シャミセン の ネイロ は さえなかった。 それでも、 やはり フスマガミ が ふるえる ほど の コエ で うたい、 やっと オヒラキ に なって、 ユキ の ミチ を とんで かえって みる と、 リュウキチ は もどって いた。 ヒバチ の マエ に チュウゴシ に なり、 サケ で そまった カオ を その ナカ に つっこむ よう に しょんぼり すわって いる その ヨウス が、 いかにも ゲンキ が ない と、 ヒトメ で わかった。 チョウコ は ほっと した。 ――チチオヤ は リュウキチ の スガタ を みる なり、 ネドコ の ナカ で、 なにしに きた と どなりつけた そう で ある。 ツマ は セキ を ぬいて ジッカ に かえり、 オンナ の コ は リュウキチ の イモウト の フデコ が 18 の トシ で ハハオヤ-ガワリ に メンドウ みて いる が、 その コドモ にも あわせて もらえなかった。 リュウキチ が チョウコ と ショタイ を もった と きいて、 チチオヤ は おこる と いう より も リュウキチ を チョウショウ し、 また、 チョウコ の こと に ついて かなり ひどい こと を いった と いう こと だった。 ――チョウコ は 「ワテ の こと わるう いやはん の は ムリ おまへん」 と しんみり した。 が、 ハラ の ナカ では、 ワテ の チカラ で リュウキチ を イチニンマエ に して みせまっさかい、 シンパイ しなはんな と ひそか に リュウキチ の チチオヤ に むかって つぶやく キモチ を もった。 ジシン にも いいきかせて 「ワテ は なにも マエ の オクサン の アトガマ に すわる つもり や あらへん、 コレヤス を イチニンマエ の オトコ に シュッセ させたら ホンモウ や」 そう おもう こと は ナミダ を そそる カイカン だった。 その キモチ の ハリ と リュウキチ が かえって きた ヨロコビ と で、 その ヨル コウフン して ねむれず、 メ を ぴかぴか ひからせて ひくい テンジョウ を にらんで いた。
マエマエ から、 チョウコ は チラシ を とじて カケイボ を つくり、 ホウレンソウ 3 セン、 フロセン 3 セン、 チリガミ 4 セン、 など と マイニチ の ニュウヒ を かきこんで ショタイ を きりつめ、 リュウキチ の マイニチ の コヅカイ イガイ に ムダ な ヒヨウ は つつしんで、 ヤトナ の モウケ の ハンブン ぐらい は チョキン して いた が、 その こと が あって から、 チョキン に たいする キ の クバリカタ も ちがって きた。 1 セン 2 セン の カネ も つかいおしみ、 ハンエリ も あかじみた。 ショウガツ を あてこんで うんと モト を しいれる の だ とて、 タネキチ が シイレ の カネ を ムシン に くる と、 「ワテ には カネ みたい な もん あらへん」 タネキチ と いれかわって オタツ が 「コレヤス さん に カフェ たら いう とこ い いかす カネ あって も か」 と いい に きた が、 うん と いわなかった。
トシ が あけ、 マツ の ウチ も すぎた。 はっきり カンドウ だ と わかって から、 リュウキチ の ショゲカタ は すこぶる あわれ な もの だった。 フセイアイ と いう こと も あった。 チョウコ に いわれて も、 コドモ を ムリ に ひきとる キ の でなかった の は、 いずれ キサン が かなう かも しれぬ と いう シタゴコロ が ある ため だった が、 それでも、 コドモ と はなれて いる こと は さすが に さびしい と、 これ は ヒトゴト で なかった。 ある ヒ、 ムカシ の アソビ トモダチ に あい、 さそわれる と、 もともと すき な ミチ だった から、 ヒサシブリ に ぐたぐた に ようた。 その ヨル は さすが に イエ を あけなかった が、 ヨクジツ、 チョウコ が かくして いた チョキンチョウ を すっかり おろして、 サクヤ の ヘンレイ だ とて トモダチ を よびだし、 ナンバ シンチ へ はまりこんで、 フツカ、 つかいはたして タマシイ の ぬけた オトコ の よう に とぼとぼ クロモン イチバ の ロジウラ ナガヤ へ かえって きた。 「かえる とこ、 よう わすれんかった こっちゃ な」 そう いって チョウコ は クビスジ を つかんで つきたおし、 カタ を たたく とき の ヨウリョウ で、 アタマ を こつこつ たたいた。 「オバハン、 ナニ すん ねん、 ムチャ しな」 しかし、 テイコウ する ゲンキ も ない か の よう だった。 フツカヨイ で アタマ が あばれとる と、 フトン に くるまって うんうん うなって いる リュウキチ の カオ を ぴしゃり と なぐって、 なんとなく ソト へ でた。 センニチマエ の アイシンカン で キョウヤマ コエン の ナニワブシ を きいた が、 ヒトリ では おもしろい とも おもえず、 でる と、 この 2~3 ニチ メシ も ノド へ とおらなかった こと とて キュウ に クウフク を かんじ、 ラクテンチ ヨコ の ジユウケン で タマゴ-イリ の ライス カレー を たべた。 「ここ の ラ、 ラ、 ライス カレー は ゴハン に あんじょう ま、 ま、 ま、 まむして ある よって、 うまい」 と かつて リュウキチ が いった コトバ を おもいだしながら、 カレー の アト の コーヒー を のんで いる と、 いきなり あまい キモチ が ムネ に わいた。 こっそり かえって みる と、 リュウキチ は イビキ を かいて いた。 だしぬけ に、 あらあらしく ゆすぶって、 リュウキチ が ねむい メ を あける と、 「アホンダラ」 そして クチビル を とがらして リュウキチ の カオ へ もって いった。
あくる ヒ、 フタリ で あらためて ジユウケン へ ゆき、 カエリ に コウヅ の オキン の ところ へ ナカ の よい フウフ の カオ を だした。 コト を しって いた オキン は、 リュウキチ に イケン-めいた クチ を きいた。 オキン の テイシュ は かつて キタハマ で ハブリ が よく オキン を ひかして しんだ ニョウボウ の アトガマ に すえた トタン に ボツラク した が、 オキン は ゲンザイ の ヤトナ シュウセンヤ、 テイシュ は ハジ を しのんで キタハマ の トリヒキジョ へ ショキ に やとわれて、 いわば フウフ トモカセギ で、 テイシュ の ボツラク は オキン の せい だ など と ヒト に ウシロユビ ささせぬ イマ の クラシ だ と、 ヒキアイ に だしたり した。 「コレヤス さん、 アンタ も ぶらぶら あそんで ばかり してん と、 なんぞ はたらく ところ を……」 さがす ハラ が ある の か ない の か、 リュウキチ は なんの ヒョウジョウ も なく きいて いた。 コレヤス さん の ハラ は わからん と オキン は アト で チョウコ に いうた ので、 チョウコ は カタミ の せまい オモイ が した。 が、 まもなく ハタラキグチ を みつけた ので、 チョウコ は さっそく オキン に ホウコク した。 それ で カタミ が ひろく なった と いう ほど では なかった が、 やはり うれしかった。
センニチマエ 「イロハ ギュウニクテン」 の トナリ に ある カミソリヤ の カヨイ テンイン で、 アサ 10 ジ から ヨル 11 ジ まで の キンム、 ベントウ ジベン の ゲッキュウ 25 エン だ が、 それでも モンク なかったら と トモダチ が ショウカイ して くれた の だ。 リュウキチ は いや とは いえなかった。 アンゼン カミソリ、 レザー、 ナイフ、 ジャッキ ソノタ リハツ に カンケイ ある シナモノ を あきなって いる の だ から、 やはり リハツテン アイテ の ケショウヒン を あきなって いた リュウキチ には、 いちばん てきして いる だろう と ほねおって くれた、 その テマエ も あった。 カドグチ の せまい わり に バカ に オクユキ の ある ほそながい ミセ だ から ヒルマ なぞ ヒ が じゅうぶん ささず、 ヒルデン を シマツ した うすぐらい ところ で ヒバチ の ハイ を つつきながら、 コガイ の ヒトドオリ を ながめて いる と、 そこ の アカルサ が ウソ の よう だった。 ちょうど ムカイガワ が キョウドウ ベンジョ で その シュウキ が たまらなかった。 その トナリ は チクリンジ で、 モン の マエ の むかって ミギガワ では テツレイコウセン を うって おり、 ヒダリガワ、 つまり キョウドウ ベンジョ に ちかい ほう では モチ を やいて うって いた。 ショウユ を たっぷり つけて キツネイロ に こんがり やけて ふくれて いる ところ なぞ、 いかにも うまそう だった が、 かう キ は おこらなかった。 モチヤ の シュフ が キョウドウ ベンジョ から でて も チョウズ を つかわぬ と おぼしかった から や、 と リュウキチ は かえって いうた。 また いわく、 シゴト は ラク で、 アンゼン カミソリ の コウコク ニンギョウ が しきり に カラダ を うごかして カミソリ を といで いる カッコウ が おもしろい とて カザリマド に すいつけられる キャク が ある と、 でて いって、 おいでやす。 それ だけ の ゲイ で ことたりた。 チョウコ は、 「そら、 よろし おまん な」 そう はげました。
カミソリヤ で ミツキ ほど シンボウ した が、 やがて、 シュジン と ケンカ して シャク や から とて ミセ を やすみやすみ しだした が、 チョウコ は その コウジツ を ホンマ だ と おもい、 アサ おこしたり しなく なり、 ずるずるべったり ミセ を やめて しまった。 チョウコ は いっそう ヤトナ カギョウ に ミ を いれた。 カノジョ だけ には トクベツ の シュウギ を はりこまねば ならぬ と エンカイ の カンジ が おもう くらい で あった。 シュウギ は しかし、 ホウバイ と ヤマワケ だ から、 ずいぶん と ひきあわぬ カンジョウ だ が、 それ だけ に ホウバイ の キウケ は よかった。 チョウコ はん チョウコ はん と たてまつられる ので イイキ に なって、 ホウバイ へ 2 エン、 3 エン と コゼニ を かした が、 わたす なり コウカイ して、 さすが に はっきり サイソク できなかった から、 なにかと ベンチャラ (オセジ) して、 はよ かえして くれ と いう オモイ を それとなく みせる の だった。 50 セン の カネ にも ちくちく ムネ の いたむ キ が した が、 リュウキチ に だけ は、 コヅカイ を せびられる と キマエ よく わたした。 リュウキチ は マイニチ が いかにも おもしろく ない よう で、 ことに こっそり ウメダ シンミチ へ でかけた らしい ヒ は かえって から の フサギカタ が めだった ので、 チョウコ は なにかと キ を つかった。 チチ の カンキ が とけぬ こと が ユウウツ の ゲンイン らしく、 その こと に ひそか に アンド する より も キモチ の フタン の ほう が おおきかった。 それで、 リュウキチ が しばしば カフェ へ ゆく と しって も、 なるべく ヤキモチ を やかぬ よう に こころがけた。 だまって カネ を わたす とき の キモチ は、 ヒト が おもって いる ほど には ヘイキ では なかった。
ジッカ に かえって いる と いう リュウキチ の ツマ が、 ハイ で しんだ と いう ウワサ を きく と、 チョウコ は こっそり ホウゼンジ の 「エンムスビ」 に まいって ロウソク など おもいきった キシン を した。 そのかわり、 ネザメ の わるい キモチ が した ので、 カイミョウ を きいたり して タナ に まつった。 センサイ の イハイ が アタマ の ウエ に ある の を みて、 リュウキチ は なんとなく ヘン な キ が した が、 でしゃばるな とも いわなかった。 いえば なにかと ハナシ が もつれて メンドウ だ と さすが に リコウ な リュウキチ は、 イハイ さえ チョウコ の マエ では おがまなかった。 チョウコ は マイアサ ハナ を かえたり して、 イチブ の スキ も なく ふるまった。