カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ジョセイト 1

2016-04-20 | ダザイ オサム
 ジョセイト

 ダザイ オサム

 アサ、 メ を さます とき の キモチ は、 おもしろい。 カクレンボ の とき、 オシイレ の まっくらい ナカ に、 じっと、 しゃがんで かくれて いて、 とつぜん、 デコ ちゃん に、 がらっと フスマ を あけられ、 ヒ の ヒカリ が どっと きて、 デコ ちゃん に、 「みつけた!」 と オオゴエ で いわれて、 マブシサ、 それから、 ヘン な マ の ワルサ、 それから、 ムネ が どきどき して、 キモノ の マエ を あわせたり して、 ちょっと、 てれくさく、 オシイレ から でて きて、 キュウ に むかむか はらだたしく、 あの カンジ、 いや、 ちがう、 あの カンジ でも ない、 なんだか、 もっと やりきれない。 ハコ を あける と、 その ナカ に、 また ちいさい ハコ が あって、 その ちいさい ハコ を あける と、 また その ナカ に、 もっと ちいさい ハコ が あって、 そいつ を あける と、 また、 また、 ちいさい ハコ が あって、 その ちいさい ハコ を あける と、 また ハコ が あって、 そうして、 ナナツ も、 ヤッツ も、 あけて いって、 とうとう オシマイ に、 サイコロ くらい の ちいさい ハコ が でて きて、 そいつ を そっと あけて みて、 なにも ない、 カラッポ、 あの カンジ、 すこし ちかい。 ぱちっと メ が さめる なんて、 あれ は ウソ だ。 にごって にごって、 その うち に、 だんだん デンプン が シタ に しずみ、 すこし ずつ ウワズミ が できて、 やっと つかれて メ が さめる。 アサ は、 なんだか、 しらじらしい。 かなしい こと が、 たくさん たくさん ムネ に うかんで、 やりきれない。 いや だ、 いや だ。 アサ の ワタシ は いちばん みにくい。 リョウホウ の アシ が、 くたくた に つかれて、 そうして、 もう、 なにも したく ない。 ジュクスイ して いない せい かしら。 アサ は ケンコウ だ なんて、 あれ は ウソ。 アサ は ハイイロ。 いつも いつも おなじ。 いちばん キョム だ。 アサ の ネドコ の ナカ で、 ワタシ は いつも エンセイテキ だ。 いや に なる。 いろいろ みにくい コウカイ ばっかり、 イチド に、 どっと かたまって ムネ を ふさぎ、 ミモダエ しちゃう。
 アサ は、 イジワル。
「オトウサン」 と ちいさい コエ で よんで みる。 へんに きはずかしく、 うれしく、 おきて、 さっさと フトン を たたむ。 フトン を もちあげる とき、 よいしょ、 と カケゴエ して、 はっと おもった。 ワタシ は、 イマ まで、 ジブン が、 よいしょ なんて、 げびた コトバ を いいだす オンナ だ とは、 おもって なかった。 よいしょ、 なんて、 オバアサン の カケゴエ みたい で、 いやらしい。 どうして、 こんな カケゴエ を はっした の だろう。 ワタシ の カラダ の ナカ に、 どこ か に、 バアサン が ヒトツ いる よう で、 キモチ が わるい。 これから は、 キ を つけよう。 ヒト の ゲヒン な アルキ カッコウ を ヒンシュク して いながら、 ふと、 ジブン も、 そんな アルキカタ して いる の に キ が ついた とき みたい に、 すごく、 しょげちゃった。
 アサ は、 いつでも ジシン が ない。 ネマキ の まま で キョウダイ の マエ に すわる。 メガネ を かけない で、 カガミ を のぞく と、 カオ が、 すこし ぼやけて、 しっとり みえる。 ジブン の カオ の ナカ で いちばん メガネ が いや なの だ けれど、 ホカ の ヒト には、 わからない メガネ の ヨサ も、 ある。 メガネ を とって、 トオク を みる の が すき だ。 ゼンタイ が かすんで、 ユメ の よう に、 ノゾキエ みたい に、 すばらしい。 きたない もの なんて、 なにも みえない。 おおきい もの だけ、 センメイ な、 つよい イロ、 ヒカリ だけ が メ に はいって くる。 メガネ を とって ヒト を みる の も すき。 アイテ の カオ が、 ミナ、 やさしく、 きれい に、 わらって みえる。 それに、 メガネ を はずして いる とき は、 けっして ヒト と ケンカ を しよう なんて おもわない し、 ワルクチ も いいたく ない。 ただ、 だまって、 ぽかん と して いる だけ。 そうして、 そんな とき の ワタシ は、 ヒト にも オヒトヨシ に みえる だろう と おもえば、 なお の こと、 ワタシ は、 ぽかん と アンシン して、 あまえたく なって、 ココロ も、 たいへん やさしく なる の だ。
 だけど、 やっぱり メガネ は、 いや。 メガネ を かけたら カオ と いう カンジ が なくなって しまう。 カオ から うまれる、 イロイロ の ジョウチョ、 ロマンチック、 ウツクシサ、 ハゲシサ、 ヨワサ、 アドケナサ、 アイシュウ、 そんな もの、 メガネ が みんな さえぎって しまう。 それに、 メ で オハナシ を する と いう こと も、 おかしな くらい できない。
 メガネ は、 オバケ。
 ジブン で、 いつも ジブン の メガネ が いや だ と おもって いる ゆえ か、 メ の うつくしい こと が、 いちばん いい と おもわれる。 ハナ が なくて も、 クチ が かくされて いて も、 メ が、 その メ を みて いる と、 もっと ジブン が うつくしく いきなければ と おもわせる よう な メ で あれば、 いい と おもって いる。 ワタシ の メ は、 ただ おおきい だけ で、 なんにも ならない。 じっと ジブン の メ を みて いる と、 がっかり する。 オカアサン で さえ、 つまらない メ だ と いって いる。 こんな メ を ヒカリ の ない メ と いう の で あろう。 タドン、 と おもう と、 がっかり する。 これ です から ね。 ひどい です よ。 カガミ に むかう と、 その たんび に、 ウルオイ の ある いい メ に なりたい と、 つくづく おもう。 あおい ミズウミ の よう な メ、 あおい ソウゲン に ねて オオゾラ を みて いる よう な メ、 ときどき クモ が ながれて うつる。 トリ の カゲ まで、 はっきり うつる。 うつくしい メ の ヒト と たくさん あって みたい。
 ケサ から 5 ガツ、 そう おもう と、 なんだか すこし うきうき して きた。 やっぱり うれしい。 もう ナツ も ちかい と おもう。 ニワ に でる と イチゴ の ハナ が メ に とまる。 オトウサン の しんだ と いう ジジツ が、 フシギ に なる。 しんで、 いなく なる、 と いう こと は、 リカイ できにくい こと だ。 フ に おちない。 オネエサン や、 わかれた ヒト や、 ながい アイダ あわず に いる ヒトタチ が なつかしい。 どうも アサ は、 すぎさった こと、 モウセン の ヒトタチ の こと が、 いやに ミヂカ に、 オタクワン の ニオイ の よう に あじけなく おもいだされて、 かなわない。
 ジャピー と、 カア (かわいそう な イヌ だ から、 カア と よぶ ん だ) と、 2 ヒキ もつれあいながら、 はしって きた。 2 ヒキ を マエ に ならべて おいて、 ジャピー だけ を、 うんと かわいがって やった。 ジャピー の まっしろい ケ は ひかって うつくしい。 カア は、 きたない。 ジャピー を かわいがって いる と、 カア は、 ソバ で なきそう な カオ を して いる の を ちゃんと しって いる。 カア が カタワ だ と いう こと も しって いる。 カア は、 かなしくて、 いや だ。 かわいそう で かわいそう で たまらない から、 わざと いじわるく して やる の だ。 カア は、 ノライヌ みたい に みえる から、 いつ イヌコロシ に やられる か、 わからない。 カア は、 アシ が、 こんな だ から、 にげる の に、 おそい こと だろう。 カア、 はやく、 ヤマ の ナカ に でも ゆきなさい。 オマエ は ダレ にも かわいがられない の だ から、 はやく しねば いい。 ワタシ は、 カア だけ で なく、 ヒト にも いけない こと を する コ なん だ。 ヒト を こまらせて、 シゲキ する。 ホントウ に いや な コ なん だ。 エンガワ に こしかけて、 ジャピー の アタマ を なでて やりながら、 メ に しみる アオバ を みて いる と、 なさけなく なって、 ツチ の ウエ に すわりたい よう な キモチ に なった。
 ないて みたく なった。 うんと イキ を つめて、 メ を ジュウケツ させる と、 すこし ナミダ が でる かも しれない と おもって、 やって みた が、 ダメ だった。 もう、 ナミダ の ない オンナ に なった の かも しれない。
 あきらめて、 オヘヤ の ソウジ を はじめる。 オソウジ しながら、 ふと 「トウジン オキチ」 を うたう。 ちょっと アタリ を みまわした よう な カンジ。 ふだん、 モーツァルト だの、 バッハ だの に ネッチュウ して いる はず の ジブン が、 ムイシキ に、 「トウジン オキチ」 を うたった の が、 おもしろい。 フトン を もちあげる とき、 よいしょ、 と いったり、 オソウジ しながら、 トウジン オキチ を うたう よう では、 ジブン も、 もう、 ダメ か と おもう。 こんな こと では、 ネゴト など で、 どんな に ゲヒン な こと いいだす か、 フアン で ならない。 でも、 なんだか おかしく なって、 ホウキ の テ を やすめて、 ヒトリ で わらう。
 キノウ ぬいあげた あたらしい シタギ を きる。 ムネ の ところ に、 ちいさい しろい バラ の ハナ を シシュウ して おいた。 ウワギ を きちゃう と、 この シシュウ みえなく なる。 ダレ にも わからない。 トクイ で ある。
 オカアサン、 ダレ か の エンダン の ため に オオワラワ、 アサ はやく から オデカケ。 ワタシ の ちいさい とき から オカアサン は、 ヒト の ため に つくす ので、 ナレッコ だ けれど、 ホントウ に おどろく ほど、 しじゅう うごいて いる オカアサン だ。 カンシン する。 オトウサン が、 あまり にも ベンキョウ ばかり して いた から、 オカアサン は、 オトウサン の ブン も する の で ある。 オトウサン は、 シャコウ とか から は、 およそ エン が とおい けれど、 オカアサン は、 ホントウ に キモチ の よい ヒトタチ の アツマリ を つくる。 フタリ とも ちがった ところ を もって いる けれど、 おたがいに、 ソンケイ しあって いた らしい。 みにくい ところ の ない、 うつくしい やすらか な フウフ、 と でも いう の で あろう か。 ああ、 ナマイキ、 ナマイキ。
 オミオツケ の あたたまる まで、 ダイドコログチ に こしかけて、 マエ の ゾウキバヤシ を、 ぼんやり みて いた。 そしたら、 ムカシ にも、 これから サキ にも、 こう やって、 ダイドコロ の クチ に こしかけて、 この とおり の シセイ で もって、 しかも そっくり おなじ こと を かんがえながら マエ の ゾウキバヤシ を みて いた、 みて いる、 よう な キ が して、 カコ、 ゲンザイ、 ミライ、 それ が イッシュンカン の うち に かんじられる よう な、 ヘン な キモチ が した。 こんな こと は、 ときどき ある。 ダレ か と ヘヤ に すわって ハナシ を して いる。 メ が、 テーブル の スミ に いって ことん と とまって うごかない。 クチ だけ が うごいて いる。 こんな とき に、 ヘン な サッカク を おこす の だ。 いつ だった か、 こんな おなじ ジョウタイ で、 おなじ こと を はなしながら、 やはり、 テーブル の スミ を みて いた、 また、 これから サキ も、 イマ の こと が、 そっくり ソノママ に ジブン に やって くる の だ、 と しんじちゃう キモチ に なる の だ。 どんな トオク の イナカ の ノミチ を あるいて いて も、 きっと、 この ミチ は、 いつか きた ミチ、 と おもう。 あるきながら ミチバタ の マメ の ハ を、 さっと むしりとって も、 やはり、 この ミチ の ここ の ところ で、 この ハ を むしりとった こと が ある、 と おもう。 そうして、 また、 これから も、 ナンド も ナンド も、 この ミチ を あるいて、 ここ の ところ で マメ の ハ を むしる の だ、 と しんじる の で ある。 また、 こんな こと も ある。 ある とき オユ に つかって いて、 ふと テ を みた。 そしたら、 これから サキ、 ナンネン か たって、 オユ に はいった とき、 この、 イマ の なにげなく、 テ を みた こと を、 そして みながら、 ことん と かんじた こと を きっと おもいだす に ちがいない、 と おもって しまった。 そう おもったら、 なんだか、 くらい キ が した。 また、 ある ユウガタ、 ゴハン を オヒツ に うつして いる とき、 インスピレーション、 と いって は おおげさ だ けれど、 ナニ か ミウチ に ぴゅうっと はしりさって ゆく もの を かんじて、 なんと いおう か、 テツガク の シッポ と いいたい の だ けれど、 そいつ に やられて、 アタマ も ムネ も、 スミズミ まで トウメイ に なって、 ナニ か、 いきて ゆく こと に ふわっと おちついた よう な、 だまって、 オト も たてず に、 トコロテン が そろっと おしだされる とき の よう な ジュウナンセイ で もって、 このまま ナミ の まにまに、 うつくしく かるく いきとおせる よう な カンジ が した の だ。 この とき は、 テツガク どころ の サワギ では ない。 ヌスミネコ の よう に、 オト も たてず に いきて ゆく ヨカン なんて、 ろく な こと は ない と、 むしろ、 おそろしかった。 あんな キモチ の ジョウタイ が、 ながく つづく と、 ヒト は、 カミガカリ みたい に なっちゃう の では ない かしら。 キリスト。 でも、 オンナ の キリスト なんて の は、 いやらしい。
 けっきょく は、 ワタシ ヒマ な もん だ から、 セイカツ の クロウ が ない もん だ から、 マイニチ、 イクヒャク、 イクセン の みたり きいたり の カンジュセイ の ショリ が できなく なって、 ぽかん と して いる うち に、 そいつら が、 オバケ みたい な カオ に なって ぽかぽか ういて くる の では ない の かしら。
 ショクドウ で、 ゴハン を、 ヒトリ で たべる。 コトシ、 はじめて、 キュウリ を たべる。 キュウリ の アオサ から、 ナツ が くる。 5 ガツ の キュウリ の アオミ には、 ムネ が カラッポ に なる よう な、 うずく よう な、 くすぐったい よう な カナシサ が ある。 ヒトリ で ショクドウ で ゴハン を たべて いる と、 やたらむしょう に リョコウ に でたい。 キシャ に のりたい。 シンブン を よむ。 コノエ さん の シャシン が でて いる。 コノエ さん て、 いい オトコ なの かしら。 ワタシ は、 こんな カオ を すかない。 ヒタイ が いけない。 シンブン では、 ホン の コウコクブン が いちばん たのしい。 1 ジ 1 ギョウ で、 100 エン、 200 エン と コウコクリョウ とられる の だろう から、 みな、 イッショウ ケンメイ だ。 イチジ イック、 サイダイ の コウカ を おさめよう と、 うんうん うなって、 しぼりだした よう な メイブン だ。 こんな に オカネ の かかる ブンショウ は、 ヨノナカ に、 すくない で あろう。 なんだか、 キミ が よい。 ツウカイ だ。
 ゴハン を すまして、 トジマリ して、 トウコウ。 だいじょうぶ、 アメ が ふらない とは おもう けれど、 それでも、 キノウ オカアサン から、 もらった よき アマガサ どうしても もって あるきたくて、 そいつ を ケイタイ。 この アンブレラ は、 オカアサン が、 ムカシ、 ムスメ さん ジダイ に つかった もの。 おもしろい カサ を みつけて、 ワタシ は、 すこし トクイ。 こんな カサ を もって、 パリー の シタマチ を あるきたい。 きっと、 イマ の センソウ が おわった コロ、 こんな、 ユメ を もった よう な コフウ の アンブレラ が リュウコウ する だろう。 この カサ には、 ボンネット-フウ の ボウシ が、 きっと にあう。 ピンク の スソ の ながい、 エリ の おおきく ひらいた キモノ に、 くろい キヌ レース で あんだ ながい テブクロ を して、 おおきな ツバ の ひろい ボウシ には、 うつくしい ムラサキ の スミレ を つける。 そうして シンリョク の コロ に パリー の レストラン に チュウショク を し に ゆく。 ものうそう に かるく ホオヅエ して、 ソト を とおる ヒト の ナガレ を みて いる と、 ダレ か が、 そっと ワタシ の カタ を たたく。 キュウ に オンガク、 バラ の ワルツ。 ああ、 おかしい、 おかしい。 ゲンジツ は、 この ふるぼけた キタイ な、 エ の ひょろながい アマガサ 1 ポン。 ジブン が、 みじめ で かわいそう。 マッチ-ウリ の ムスメ さん。 どれ、 クサ でも、 むしって ゆきましょう。
 デガケ に、 ウチ の モン の マエ の クサ を、 すこし むしって、 オカアサン への キンロウ ホウシ。 キョウ は ナニ か いい こと が ある かも しれない。 おなじ クサ でも、 どうして こんな、 むしりとりたい クサ と、 そっと のこして おきたい クサ と、 いろいろ ある の だろう。 かわいい クサ と、 そう で ない クサ と、 カタチ は、 ちっとも ちがって いない のに、 それでも、 いじらしい クサ と、 にくにくしい クサ と、 どうして こう、 ちゃんと わかれて いる の だろう。 リクツ は ない ん だ。 オンナ の スキキライ なんて、 ずいぶん イイカゲン な もの だ と おもう。 10 プン-カン の キンロウ ホウシ を すまして、 テイシャバ へ いそぐ。 ハタケミチ を とおりながら、 しきり と エ が かきたく なる。 トチュウ、 ジンジャ の モリ の コミチ を とおる。 これ は、 ワタシ ヒトリ で みつけて おいた チカミチ で ある。 モリ の コミチ を あるきながら、 ふと シタ を みる と、 ムギ が 2 スン ばかり あちこち に、 かたまって そだって いる。 その あおあお した ムギ を みて いる と、 ああ、 コトシ も ヘイタイ さん が きた の だ と、 わかる。 キョネン も、 タクサン の ヘイタイ さん と ウマ が やって きて、 この ジンジャ の モリ の ナカ に やすんで いった。 しばらく たって そこ を とおって みる と、 ムギ が、 キョウ の よう に、 すくすく して いた。 けれども、 その ムギ は、 それ イジョウ そだたなかった。 コトシ も、 ヘイタイ さん の ウマ の オケ から こぼれて はえて、 ひょろひょろ そだった この ムギ は、 この モリ は こんな に くらく、 まったく ヒ が あたらない もの だ から、 かわいそう に、 これだけ そだって しんで しまう の だろう。
 ジンジャ の モリ の コミチ を ぬけて、 エキ ちかく、 ロウドウシャ 4~5 ニン と イッショ に なる。 その ロウドウシャ たち は、 イツモ の レイ で、 いえない よう な いや な コトバ を ワタシ に むかって はきかける。 ワタシ は、 どう したら よい か と まよって しまった。 その ロウドウシャ たち を おいぬいて、 どんどん サキ に いって しまいたい の だ が、 そう する には、 ロウドウシャ たち の アイダ を ぬって くぐりぬけ、 すりぬけ しなければ ならない。 おっかない。 それ と いって、 だまって タチンボ して、 ロウドウシャ たち を サキ に ゆかせて、 うんと キョリ の できる まで まって いる の は、 もっと もっと タンリョク の いる こと だ。 それ は シツレイ な こと なの だ から、 ロウドウシャ たち は おこる かも しれない。 カラダ は、 かっか して くる し、 なきそう に なって しまった。 ワタシ は、 その なきそう に なる の が はずかしくて、 その モノタチ に むかって わらって やった。 そして、 ゆっくり と、 その モノタチ の アト に ついて あるいて いった。 その とき は、 それぎり に なって しまった けれど、 その クヤシサ は、 デンシャ に のって から も きえなかった。 こんな くだらない こと に へいぜん と なれる よう に、 はやく つよく、 きよく、 なりたかった。
 デンシャ の イリグチ の すぐ チカク に あいて いる セキ が あった から、 ワタシ は そこ へ そっと ワタシ の オドウグ を おいて、 スカート の ヒダ を ちょっと なおして、 そうして すわろう と したら、 メガネ の オトコ の ヒト が、 ちゃんと ワタシ の オドウグ を どけて セキ に こしかけて しまった。
「あの、 そこ は ワタシ、 みつけた セキ です の」 と いったら、 オトコ は クショウ して ヘイキ で シンブン を よみだした。 よく かんがえて みる と、 どっち が ずうずうしい の か わからない。 こっち の ほう が ずうずうしい の かも しれない。
 しかたなく、 アンブレラ と オドウグ を、 アミダナ に のせ、 ワタシ は ツリカワ に ぶらさがって、 イツモ の とおり、 ザッシ を よもう と、 ぱらぱら カタテ で ページ を くって いる うち に、 ひょんな こと を おもった。
 ジブン から、 ホン を よむ と いう こと を とって しまったら、 この ケイケン の ない ワタシ は、 ナキベソ を かく こと だろう。 それほど ワタシ は、 ホン に かかれて ある こと に たよって いる。 ヒトツ の ホン を よんで は、 ぱっと その ホン に ムチュウ に なり、 シンライ し、 ドウカ し、 キョウメイ し、 それ に セイカツ を くっつけて みる の だ。 また、 ホカ の ホン を よむ と、 たちまち、 くるっと かわって、 すまして いる。 ヒト の もの を ぬすんで きて ジブン の もの に ちゃんと つくりなおす サイノウ は、 その ズルサ は、 これ は ワタシ の ユイイツ の トクギ だ。 ホントウ に、 この ズルサ、 インチキ には いや に なる。 マイニチ マイニチ、 シッパイ に シッパイ を かさねて、 アカハジ ばかり かいて いたら、 すこし は ジュウコウ に なる かも しれない。 けれども、 そのよう な シッパイ に さえ、 なんとか リクツ を こじつけて、 ジョウズ に つくろい、 ちゃんと した よう な リロン を あみだし、 クニク の シバイ なんか とくとく と やりそう だ。 (こんな コトバ も どこ か の ホン で よんだ こと が ある)
 ホントウ に ワタシ は、 どれ が ホントウ の ジブン だ か わからない。 よむ ホン が なくなって、 マネ する オテホン が なんにも みつからなく なった とき には、 ワタシ は、 いったい どう する だろう。 テ も アシ も でない、 イシュク の テイ で、 むやみ に ハナ を かんで ばかり いる かも しれない。 なにしろ デンシャ の ナカ で、 マイニチ こんな に ふらふら かんがえて いる ばかり では、 ダメ だ。 カラダ に、 いや な アタタカサ が のこって、 やりきれない。 ナニ か しなければ、 どうにか しなければ と おもう の だ が、 どう したら、 ジブン を はっきり つかめる の か。 これまで の ワタシ の ジコ ヒハン なんて、 まるで イミ ない もの だった と おもう。 ヒハン を して みて、 いや な、 よわい ところ に きづく と、 すぐ それ に あまく おぼれて、 いたわって、 ツノ を ためて ウシ を ころす の は よく ない、 など と ケツロン する の だ から、 ヒハン も なにも あった もの で ない。 なにも かんがえない ほう が、 むしろ リョウシンテキ だ。
 この ザッシ にも、 「わかい オンナ の ケッテン」 と いう ミダシ で、 いろんな ヒト が かいて ある。 よんで いる うち に、 ジブン の こと を いわれた よう な キ が して はずかしい キ にも なる。 それに かく ヒト、 ヒト に よって、 ふだん バカ だ と おもって いる ヒト は、 その とおり に、 バカ の カンジ が する よう な こと を いって いる し、 シャシン で みて、 オシャレ の カンジ の する ヒト は、 オシャレ の コトバヅカイ を して いる ので、 おかしくて、 ときどき くすくす わらいながら よんで ゆく。 シュウキョウカ は、 すぐに シンコウ を もちだす し、 キョウイクカ は、 ハジメ から オワリ まで オン、 オン、 と かいて ある。 セイジカ は、 カンシ を もちだす。 サッカ は、 きどって、 オシャレ な コトバ を つかって いる。 しょって いる。
 でも、 みんな、 なかなか カクジツ な こと ばかり かいて ある。 コセイ の ない こと。 フカミ の ない こと。 ただしい キボウ、 ただしい ヤシン、 そんな もの から とおく はなれて いる こと。 つまり、 リソウ の ない こと。 ヒハン は あって も、 ジブン の セイカツ に ちょくせつ むすびつける セッキョクセイ の ない こと。 ムハンセイ。 ホントウ の ジカク、 ジアイ、 ジチョウ が ない。 ユウキ の ある コウドウ を して も、 その あらゆる ケッカ に ついて、 セキニン が もてる か どう か。 ジブン の シュウイ の セイカツ ヨウシキ には ジュンノウ し、 これ を ショリ する こと に たくみ で ある が、 ジブン、 ならびに ジブン の シュウイ の セイカツ に、 ただしい つよい アイジョウ を もって いない。 ホントウ の イミ の ケンソン が ない。 ドクソウセイ に とぼしい。 モホウ だけ だ。 ニンゲン ホンライ の 「アイ」 の カンカク が ケツジョ して しまって いる。 オジョウヒン-ぶって いながら、 キヒン が ない。 その ホカ、 タクサン の こと が かかれて いる。 ホントウ に、 よんで いて、 はっと する こと が おおい。 けっして ヒテイ できない。
 けれども ここ に かかれて ある コトバ ゼンブ が、 なんだか、 ラッカンテキ な、 この ヒトタチ の フダン の キモチ とは はなれて、 ただ かいて みた と いう よう な カンジ が する。 「ホントウ の イミ の」 とか、 「ホンライ の」 とか いう ケイヨウシ が たくさん ある けれど、 「ホントウ の」 アイ、 「ホントウ の」 ジカク、 とは、 どんな もの か、 はっきり テ に とる よう には かかれて いない。 この ヒトタチ には、 わかって いる の かも しれない。 それならば、 もっと グタイテキ に、 ただ ヒトコト、 ミギ へ ゆけ、 ヒダリ へ ゆけ、 と、 ただ ヒトコト、 ケンイ を もって ユビ で しめして くれた ほう が、 どんな に ありがたい か わからない。 ワタシタチ、 アイ の ヒョウゲン の ホウシン を みうしなって いる の だ から、 あれ も いけない、 これ も いけない、 と いわず に、 こう しろ、 ああ しろ、 と つよい チカラ で いいつけて くれたら、 ワタシタチ、 みんな、 その とおり に する。 ダレ も ジシン が ない の かしら。 ここ に イケン を ハッピョウ して いる ヒトタチ も、 いつでも、 どんな バアイ に でも、 こんな イケン を もって いる、 と いう わけ では ない の かも しれない。 ただしい キボウ、 ただしい ヤシン を もって いない、 と しかって おられる けれども、 そんなら ワタシタチ、 ただしい リソウ を おって コウドウ した バアイ、 この ヒトタチ は どこまでも ワタシタチ を みまもり、 みちびいて いって くれる だろう か。
 ワタシタチ には、 ジシン の ゆく べき サイゼン の バショ、 ゆきたく おもう うつくしい バショ、 ジシン を のばして ゆく べき バショ、 おぼろげ ながら わかって いる。 よい セイカツ を もちたい と おもって いる。 それこそ ただしい キボウ、 ヤシン を もって いる。 たよれる だけ の うごかない シンネン をも もちたい と、 あせって いる。 しかし、 これら ゼンブ、 ムスメ なら ムスメ と して の セイカツ の ウエ に グゲン しよう と かかったら、 どんな に ドリョク が ヒツヨウ な こと だろう。 オカアサン、 オトウサン、 アネ、 アニ たち の カンガエカタ も ある。 (クチ だけ では、 やれ ふるい の なんの って いう けれども、 けっして ジンセイ の センパイ、 ロウジン、 キコン の ヒトタチ を ケイベツ なんか して いない。 それ どころ か、 いつでも ニモク も サンモク も おいて いる はず だ) しじゅう セイカツ と カンケイ の ある シンルイ と いう もの も、 ある。 チジン も ある。 トモダチ も ある。 それから、 いつも おおきな チカラ で ワタシタチ を おしながす 「ヨノナカ」 と いう もの も ある の だ。 これら スベテ の こと を おもったり みたり かんがえたり する と、 ジブン の コセイ を のばす どころ の サワギ では ない。 まあ、 まあ めだたず に、 フツウ の オオク の ヒトタチ の とおる ミチ を だまって すすんで ゆく の が、 いちばん リコウ なの でしょう くらい に おもわず には いられない。 ショウスウシャ への キョウイク を、 ゼンパン へ ほどこす なんて、 ずいぶん むごい こと だ とも おもわれる。 ガッコウ の シュウシン と、 ヨノナカ の オキテ と、 すごく ちがって いる の が、 だんだん おおきく なる に つれて わかって きた。 ガッコウ の シュウシン を ゼッタイ に まもって いる と、 その ヒト は バカ を みる。 ヘンジン と いわれる。 シュッセ しない で、 いつも ビンボウ だ。 ウソ を つかない ヒト なんて、 ある かしら。 あったら、 その ヒト は、 エイエン に ハイボクシャ だ。 ワタシ の ニクシン カンケイ の ウチ にも、 ヒトリ、 オコナイ ただしく、 かたい シンネン を もって、 リソウ を ツイキュウ して、 それこそ ホントウ の イミ で いきて いる ヒト が ある の だ けれど、 シンルイ の ヒト ミンナ、 その ヒト を わるく いって いる。 バカ アツカイ して いる。 ワタシ なんか、 そんな バカ アツカイ されて ハイボク する の が わかって いながら、 オカアサン や ミナ に ハンタイ して まで ジブン の カンガエカタ を のばす こと は、 できない。 おっかない の だ。 ちいさい ジブン には、 ワタシ も、 ジブン の キモチ と ヒト の キモチ と まったく ちがって しまった とき には、 オカアサン に、
「なぜ?」 と きいた もの だ。 その とき には、 オカアサン は、 ナニ か ヒトコト で かたづけて、 そうして おこった もの だ。 わるい、 フリョウ みたい だ、 と いって、 オカアサン は かなしがって いた よう だった。 オトウサン に いった こと も ある。 オトウサン は、 その とき ただ だまって わらって いた。 そして アト で オカアサン に 「チュウシン ハズレ の コ だ」 と おっしゃって いた そう だ。 だんだん おおきく なる に つれて、 ワタシ は、 おっかなびっくり に なって しまった。 ヨウフク 1 マイ つくる の にも、 ヒトビト の オモワク を かんがえる よう に なって しまった。 ジブン の コセイ みたい な もの を、 ホントウ は、 こっそり あいして いる の だ けれども、 あいして ゆきたい とは おもう の だ けど、 それ を はっきり ジブン の もの と して タイゲン する の は、 おっかない の だ。 ヒトビト が、 よい と おもう ムスメ に なろう と いつも おもう。 タクサン の ヒトタチ が あつまった とき、 どんな に ジブン は ヒクツ に なる こと だろう。 クチ に だしたく も ない こと を、 キモチ と ぜんぜん はなれた こと を、 ウソ ついて ぺちゃぺちゃ やって いる。 その ほう が トク だ、 トク だ と おもう から なの だ。 いや な こと だ と おもう。 はやく ドウトク が イッペン する とき が くれば よい と おもう。 そう する と。 こんな ヒクツサ も、 また ジブン の ため で なく、 ヒト の オモワク の ため に マイニチ を ぽたぽた セイカツ する こと も なくなる だろう。
 おや、 あそこ、 セキ が あいた。 いそいで アミダナ から、 オドウグ と カサ を おろし、 すばやく わりこむ。 ミギドナリ は チュウガクセイ、 ヒダリドナリ は、 コドモ せおって ネンネコ きて いる オバサン。 オバサン は、 トシヨリ の くせ に アツゲショウ を して、 カミ を リュウコウマキ に して いる。 カオ は きれい なの だ けれど、 ノド の ところ に シワ が くろく よって いて、 あさましく、 ぶって やりたい ほど いや だった。 ニンゲン は、 たって いる とき と、 すわって いる とき と、 まるっきり かんがえる こと が ちがって くる。 すわって いる と、 なんだか たよりない、 ムキリョク な こと ばかり かんがえる。 ワタシ と むかいあって いる セキ には、 4~5 ニン、 おなじ トシカッコウ の サラリーマン が、 ぼんやり すわって いる。 30 ぐらい で あろう か。 ミンナ、 いや だ。 メ が、 どろん と にごって いる。 ハキ が ない。 けれども、 ワタシ が イマ、 この ウチ の ダレ か ヒトリ に、 にっこり わらって みせる と、 たった それ だけ で ワタシ は、 ずるずる ひきずられて、 その ヒト と ケッコン しなければ ならぬ ハメ に おちる かも しれない の だ。 オンナ は、 ジブン の ウンメイ を けっする の に、 ビショウ ヒトツ で タクサン なの だ。 おそろしい。 フシギ な くらい だ。 キ を つけよう。 ケサ は、 ホント に ミョウ な こと ばかり かんがえる。 2~3 ニチ マエ から、 ウチ の オニワ を テイレ し に きて いる ウエキヤ さん の カオ が メ に ちらついて、 シカタ が ない。 どこ から どこ まで ウエキヤ さん なの だ けれど、 カオ の カンジ が、 どうしても ちがう。 おおげさ に いえば、 シサクカ みたい な カオ を して いる。 イロ は くろい だけ に しまって みえる。 メ が よい の だ。 マユ も せまって いる。 ハナ は、 すごく シシッパナ だ けれど、 それ が また、 イロ の くろい の に マッチ して、 イシ が つよそう に みえる。 クチビル の カタチ も、 なかなか よい。 ミミ は すこし きたない。 テ と いったら、 それこそ ウエキヤ さん に ギャクモドリ だ けれど、 くろい ソフト を ふかく かぶった ヒカゲ の カオ は、 ウエキヤ さん に して おく の は おしい キ が する。 オカアサン に、 3 ド も 4 ド も、 あの ウエキヤ さん、 ハジメ から ウエキヤ さん だった の かしら、 と たずねて、 シマイ に しかられて しまった。 キョウ、 オドウグ を つつんで きた この フロシキ は、 ちょうど、 あの ウエキヤ さん が はじめて きた ヒ に、 オカアサン から もらった の だ。 あの ヒ は、 ウチ の ほう の オオソウジ だった ので、 ダイドコロ ナオシ さん や、 タタミヤ さん も はいって いて、 オカアサン も タンス の もの を セイリ して、 その とき に、 この フロシキ が でて きて、 ワタシ が もらった。 きれい な おんならしい フロシキ。 きれい だ から、 むすぶ の が おしい。 こうして すわって、 ヒザ の ウエ に のせて、 ナンド も そっと みて みる。 なでる。 デンシャ の ナカ の ミナ の ヒト にも みて もらいたい けれど、 ダレ も みない。 この かわいい フロシキ を、 ただ、 ちょっと みつめて さえ くださったら、 ワタシ は、 その ヒト の ところ へ オヨメ に ゆく こと に きめて も いい。 ホンノウ、 と いう コトバ に つきあたる と、 ないて みたく なる。 ホンノウ の オオキサ、 ワタシタチ の イシ では うごかせない チカラ、 そんな こと が、 ジブン の トキドキ の いろんな こと から わかって くる と、 キ が くるいそう な キモチ に なる。 どう したら よい の だろう か、 と ぼんやり なって しまう。 ヒテイ も コウテイ も ない、 ただ、 おおきな おおきな もの が、 がばと アタマ から かぶさって きた よう な もの だ。 そして ワタシ を ジユウ に ひきずりまわして いる の だ。 ひきずられながら マンゾク して いる キモチ と、 それ を かなしい キモチ で ながめて いる ベツ の カンジョウ と。 なぜ ワタシタチ は、 ジブン だけ で マンゾク し、 ジブン だけ を イッショウ あいして ゆけない の だろう。 ホンノウ が、 ワタシ の イマ まで の カンジョウ、 リセイ を くって ゆく の を みる の は、 なさけない。 ちょっと でも ジブン を わすれる こと が あった アト は、 ただ、 がっかり して しまう。 あの ジブン、 この ジブン にも ホンノウ が、 はっきり ある こと を しって くる の は、 なけそう だ。 オカアサン、 オトウサン と よびたく なる。 けれども、 また、 シンジツ と いう もの は、 あんがい、 ジブン が いや だ と おもって いる ところ に ある の かも しれない の だ から、 いよいよ なさけない。
 もう、 オチャノミズ。 プラットフォム に おりたったら、 なんだか すべて、 けろり と して いた。 イマ すぎた こと を、 いそいで おもいかえしたく つとめた けれど、 いっこう に おもいうかばない。 あの、 ツヅキ を かんがえよう と、 あせった けれど、 なにも おもう こと が ない。 カラッポ だ。 その とき、 ときには、 ずいぶん と ジブン の キモチ を うった もの も あった よう だし、 くるしい はずかしい こと も あった はず なのに、 すぎて しまえば、 なにも なかった の と まったく おなじ だ。 イマ、 と いう シュンカン は、 おもしろい。 イマ、 イマ、 イマ、 と ユビ で おさえて いる うち にも、 イマ、 は トオク へ とびさって、 あたらしい 「イマ」 が きて いる。 ブリッジ の カイダン を ことこと のぼりながら、 なんじゃら ほい と おもった。 ばかばかしい。 ワタシ は、 すこし コウフク-すぎる の かも しれない。
 ケサ の コスギ センセイ は きれい。 ワタシ の フロシキ みたい に きれい。 うつくしい アオイロ の にあう センセイ。 ムネ の シンク の カーネーション も めだつ。 「つくる」 と いう こと が なかったら、 もっと もっと この センセイ すき なの だ けれど。 あまり に ポーズ を つけすぎる。 どこ か、 ムリ が ある。 あれ じゃあ つかれる こと だろう。 セイカク も、 どこ か ナンカイ な ところ が ある。 わからない ところ を たくさん もって いる。 くらい セイシツ なのに、 ムリ に あかるく みせよう と して いる ところ も みえる。 しかし、 なんと いって も ひかれる オンナ の ヒト だ。 ガッコウ の センセイ なんて させて おく の おしい キ が する。 オキョウシツ では、 マエ ほど ニンキ が なくなった けれど、 ワタシ は、 ワタシ ヒトリ は、 マエ と ドウヨウ に ひかれて いる。 サンチュウ、 コハン の コジョウ に すんで いる レイジョウ、 そんな カンジ が ある。 いやに、 ほめて しまった もの だ。 コスギ センセイ の オハナシ は、 どうして、 いつも こんな に かたい の だろう。 アタマ が わるい の じゃ ない かしら。 かなしく なっちゃう。 サッキ から、 アイコクシン に ついて ながなが と といて きかせて いる の だ けれど、 そんな こと、 わかりきって いる じゃ ない か。 どんな ヒト に だって、 ジブン の うまれた ところ を あいす キモチ は ある のに。 つまらない。 ツクエ に ホオヅエ ついて、 ぼんやり マド の ソト を ながめる。 カゼ の つよい ゆえ か、 クモ が きれい だ。 オニワ の スミ に、 バラ の ハナ が ヨッツ さいて いる。 キイロ が ヒトツ、 シロ が フタツ、 ピンク が ヒトツ。 ぽかん と ハナ を ながめながら、 ニンゲン も、 ホントウ に よい ところ が ある、 と おもった。 ハナ の ウツクシサ を みつけた の は、 ニンゲン だし、 ハナ を あいする の も ニンゲン だ もの。
 オヒルゴハン の とき は、 オバケバナシ が でる。 ヤスベエ ネエチャン の、 イチコウ ナナフシギ の ヒトツ、 「あかず の トビラ」 には、 もう、 ミンナ、 きゃあ、 きゃあ。 ドロンドロン-シキ で なく、 シンリテキ なので、 おもしろい。 あんまり さわいだ ので、 イマ たべた ばかり なのに、 もう ぺこ に なって しまった。 さっそく アンパン フジン から、 キャラメル ゴチソウ に なる。 それから また、 ひとしきり キョウフ モノガタリ に ミナサン ムチュウ。 ダレ でも カレ でも、 この オバケバナシ と やら には、 キョウミ が わく らしい。 ヒトツ の シゲキ でしょう かな。 それから、 これ は カイダン では ない けれど、 「クハラ フサノスケ」 の ハナシ、 おかしい、 おかしい。
 ゴゴ の ズガ の ジカン には、 ミナ、 コウテイ に でて、 シャセイ の オケイコ。 イトウ センセイ は、 どうして ワタシ を、 いつも ムイミ に こまらせる の だろう。 キョウ も ワタシ に、 センセイ ゴジシン の エ の モデル に なる よう いいつけた。 ワタシ の ケサ ジサン した ふるい アマガサ が、 クラス の ダイカンゲイ を うけて、 ミナサン さわぎたてる もの だ から、 とうとう イトウ センセイ にも わかって しまって、 その アマガサ もって、 コウテイ の スミ の バラ の ソバ に たって いる よう、 いいつけられた。 センセイ は、 ワタシ の こんな スガタ を かいて、 コンド テンランカイ に だす の だ そう だ。 30 プン-カン だけ、 モデル に なって あげる こと を ショウダク する。 すこし でも、 ヒト の オヤク に たつ こと は、 うれしい もの だ。 けれども、 イトウ センセイ と フタリ で むかいあって いる と、 とても つかれる。 ハナシ が ねちねち して リクツ が おおすぎる し、 あまり にも ワタシ を イシキ して いる ゆえ か、 スケッチ しながら でも はなす こと が、 みんな ワタシ の こと ばかり。 ヘンジ する の も めんどうくさく、 わずらわしい。 はっきり しない ヒト で ある。 へんに わらったり、 センセイ の くせ に はずかしがったり、 なにしろ さっぱり しない の には、 げっと なりそう だ。
「しんだ イモウト を、 おもいだします」 なんて、 やりきれない。 ヒト は、 いい ヒト なん だろう けれど、 ゼスチュア が おおすぎる。
 ゼスチュア と いえば、 ワタシ だって、 まけない で たくさん もって いる。 ワタシ の は、 そのうえ、 ずるくて リコウ に たちまわる。 ホントウ に キザ なの だ から シマツ に こまる。 「ジブン は、 ポーズ を つくりすぎて、 ポーズ に ひきずられて いる ウソツキ の バケモノ だ」 なんて いって、 これ が また、 ヒトツ の ポーズ なの だ から、 ウゴキ が とれない。 こうして、 おとなしく センセイ の モデル に なって あげて いながら も、 つくづく、 「シゼン に なりたい、 すなお に なりたい」 と いのって いる の だ。 ホン なんか よむ の やめて しまえ。 カンネン だけ の セイカツ で、 ムイミ な、 コウマンチキ の シッタカブリ なんて、 ケイベツ、 ケイベツ。 やれ セイカツ の モクヒョウ が ない の、 もっと セイカツ に、 ジンセイ に、 セッキョクテキ に なれば いい の、 ジブン には ムジュン が ある の どう の って、 しきり に かんがえたり なやんだり して いる よう だ が、 オマエ の は、 カンショウ だけ さ。 ジブン を かわいがって、 なぐさめて いる だけ なの さ。 それから ずいぶん ジブン を かいかぶって いる の です よ。 ああ、 こんな ココロ の きたない ワタシ を モデル に したり なんか して、 センセイ の エ は、 きっと ラクセン だ。 うつくしい はず が ない もの。 いけない こと だ けれど、 イトウ センセイ が バカ に みえて シヨウ が ない。 センセイ は、 ワタシ の シタギ に、 バラ の ハナ の シシュウ が ある こと さえ、 しらない。
 だまって おなじ シセイ で たって いる と、 やたらむしょう に、 オカネ が ほしく なって くる。 10 エン あれば、 よい の だ けれど。 「マダム キュリー」 が いちばん よみたい。 それから、 ふっと、 オカアサン ナガイキ する よう に、 と おもう。 センセイ の モデル に なって いる と、 へんに、 つらい。 くたくた に つかれた。
 ホウカゴ は、 オテラ の ムスメ さん の キンコ さん と、 こっそり、 ハリウッド へ いって、 カミ を やって もらう。 できあがった の を みる と、 たのんだ よう に できて いない ので、 がっかり だ。 どう みたって、 ワタシ は、 ちっとも かわいく ない。 あさましい キ が した。 したたか に、 しょげちゃった。 こんな ところ へ きて、 こっそり カミ を つくって もらう なんて、 すごく きたならしい 1 ワ の メンドリ みたい な キ さえ して きて、 つくづく イマ は コウカイ した。 ワタシタチ、 こんな ところ へ くる なんて、 ジブン ジシン を ケイベツ して いる こと だ と おもった。 オテラサン は、 オオハシャギ。
「このまま、 ミアイ に いこう かしら」 なぞ と ランボウ な こと いいだして、 その うち に、 なんだか オテラサン ゴジシン、 ミアイ に、 ホントウ に ゆく こと に きまって しまった よう な サッカク を おこした らしく、
「こんな カミ には、 どんな イロ の ハナ を さしたら いい の?」 とか、 「ワフク の とき には、 オビ は、 どんな の が いい の?」 なんて、 ホンキ に やりだす。
 ホント に、 なにも かんがえない かわいらしい ヒト。
「ドナタ と ミアイ なさる の?」 と ワタシ も、 わらいながら たずねる と、
「モチヤ は、 モチヤ と いいます から ね」 と、 すまして こたえた。 それ どういう イミ なの、 と ワタシ も すこし おどろいて きいて みたら、 オテラ の ムスメ は オテラ へ オヨメイリ する の が いちばん いい のよ、 イッショウ たべる の に こまらない し、 と こたえて、 また ワタシ を おどろかせた。 キンコ さん は、 まったく ムセイカク みたい で、 それゆえ、 オンナラシサ で いっぱい だ。 ガッコウ で ワタシ と セキ が オトナリドウシ だ と いう だけ で、 そんな に ワタシ は したしく して あげて いる わけ でも ない のに、 オテラサン の ほう では、 ワタシ の こと を、 アタシ の イチバン の シンユウ です、 なんて ミナ に いって いる。 かわいい ムスメ さん だ。 1 ニチ-オキ に テガミ を よこしたり、 なんとなく よく セワ を して くれて、 ありがたい の だ けれど、 キョウ は、 あんまり おおげさ に はしゃいで いる ので、 ワタシ も、 さすが に いや に なった。 オテラサン と わかれて、 バス に のって しまった。 なんだか、 なんだか ユウウツ だ。 バス の ナカ で、 いや な オンナ の ヒト を みた。 エリ の よごれた キモノ を きて、 もじゃもじゃ の あかい カミ を クシ 1 ポン に まきつけて いる。 テ も アシ も きたない。 それに オトコ か オンナ か、 わからない よう な、 むっと した あかぐろい カオ を して いる。 それに、 ああ、 ムネ が むかむか する。 その オンナ は、 おおきい オナカ を して いる の だ。 ときどき、 ヒトリ で、 にやにや わらって いる。 メンドリ。 こっそり、 カミ を つくり に、 ハリウッド なんか へ ゆく ワタシ だって、 ちっとも、 この オンナ の ヒト と かわらない の だ。
 ケサ、 デンシャ で となりあわせた アツゲショウ の オバサン をも おもいだす。 ああ、 きたない、 きたない。 オンナ は、 いや だ。 ジブン が オンナ だけ に、 オンナ の ナカ に ある フケツサ が、 よく わかって、 ハギシリ する ほど、 いや だ。 キンギョ を いじった アト の、 あの たまらない ナマグササ が、 ジブン の カラダ いっぱい に しみついて いる よう で、 あらって も、 あらって も、 おちない よう で、 こうして イチニチ イチニチ、 ジブン も メス の タイシュウ を ハッサン させる よう に なって ゆく の か と おもえば、 また、 おもいあたる こと も ある ので、 いっそ このまま、 ショウジョ の まま で しにたく なる。 ふと、 ビョウキ に なりたく おもう。 うんと おもい ビョウキ に なって、 アセ を タキ の よう に ながして ほそく やせたら、 ワタシ も、 すっきり セイジョウ に なれる かも しれない。 いきて いる カギリ は、 とても のがれられない こと なの だろう か。 しっかり した シュウキョウ の イミ も わかりかけて きた よう な キ が する。
 バス から おりる と、 すこし ほっと した。 どうも ノリモノ は、 いけない。 クウキ が、 なまぬるくて、 やりきれない。 ダイチ は、 いい。 ツチ を ふんで あるいて いる と、 ジブン を すき に なる。 どうも ワタシ は、 すこし オッチョコチョイ だ。 ゴクラク トンボ だ。 かえろ かえろ と ナニ みて かえる、 ハタケ の タマネギ みいみい かえろ、 カエロ が なく から かえろ。 と ちいさい コエ で うたって みて、 この コ は、 なんて ノンキ な コ だろう、 と ジブン ながら はがゆく なって、 セ ばかり のびる この ボーボー が にくらしく なる。 いい ムスメ さん に なろう と おもった。
 この オウチ に かえる イナカミチ は、 マイニチ マイニチ、 あんまり みなれて いる ので、 どんな しずか な イナカ だ か、 わからなく なって しまった。 ただ、 キ、 ミチ、 ハタケ、 それ だけ なの だ から。 キョウ は、 ひとつ、 ヨソ から はじめて この イナカ に やって きた ヒト の マネ を して みよう。 ワタシ は、 ま、 カンダ アタリ の ゲタヤ さん の オジョウサン で、 うまれて はじめて コウガイ の ツチ を ふむ の だ。 すると、 この イナカ は、 いったい どんな に みえる だろう。 すばらしい オモイツキ。 かわいそう な オモイツキ。 ワタシ は、 あらたまった カオツキ に なって、 わざと、 おおげさ に きょろきょろ して みる。 ちいさい ナミキミチ を くだる とき には、 ふりあおいで シンリョク の エダエダ を ながめ、 まあ、 と ちいさい サケビ を あげて みて、 ドバシ を わたる とき には、 しばらく オガワ を のぞいて、 ミズカガミ に カオ を うつして、 わんわん と、 イヌ の マネ して ほえて みたり、 トオク の ハタケ を みる とき は、 メ を ちいさく して、 うっとり した フウ を して、 いい わねえ、 と つぶやいて タメイキ。 ジンジャ では、 また ヒトヤスミ。 ジンジャ の モリ の ナカ は、 くらい ので、 あわてて たちあがって、 おお、 こわ こわ、 と いい カタ を ちいさく すぼめて、 そそくさ モリ を とおりぬけ、 モリ の ソト の アカルサ に、 わざと おどろいた よう な フウ を して、 いろいろ あたらしく あたらしく、 と こころがけて イナカ の ミチ を、 こって あるいて いる うち に、 なんだか、 たまらなく さびしく なって きた。 とうとう ミチバタ の クサハラ に、 ぺたり と すわって しまった。 クサ の ウエ に すわったら、 つい イマシガタ まで の うきうき した キモチ が、 ことん と オト たてて きえて、 ぎゅっと マジメ に なって しまった。 そうして、 コノゴロ の ジブン を、 しずか に、 ゆっくり おもって みた。 なぜ、 コノゴロ の ジブン が、 いけない の か。 どうして、 こんな に フアン なの だろう。 いつでも、 ナニ か に おびえて いる。 コノアイダ も、 ダレ か に いわれた。 「アナタ は、 だんだん ぞくっぽく なる のね」
 そう かも しれない。 ワタシ は、 たしか に、 いけなく なった。 くだらなく なった。 いけない、 いけない。 よわい、 よわい。 だしぬけ に、 おおきな コエ が、 わっ と でそう に なった。 ちぇっ、 そんな サケビゴエ あげた くらい で、 ジブン の ヨワムシ を、 ごまかそう たって、 ダメ だぞ。 もっと どうにか なれ。 ワタシ は、 コイ を して いる の かも しれない。 アオクサハラ に アオムケ に ねころがった。
「オトウサン」 と よんで みる。 オトウサン、 オトウサン。 ユウヤケ の ソラ は きれい です。 そうして、 ユウモヤ は、 ピンク イロ。 ユウヒ の ヒカリ が モヤ の ナカ に とけて、 にじんで、 その ため に モヤ が こんな に、 やわらかい ピンク イロ に なった の でしょう。 その ピンク の モヤ が ゆらゆら ながれて、 コダチ の アイダ に もぐって いったり、 ミチ の ウエ を あるいたり、 クサハラ を なでたり、 そうして、 ワタシ の カラダ を、 ふんわり つつんで しまいます。 ワタシ の カミノケ 1 ポン 1 ポン まで、 ピンク の ヒカリ は、 そっと かすか に てらして、 そうして やわらかく なでて くれます。 それ より も、 この ソラ は、 うつくしい。 この オソラ には、 ワタシ うまれて はじめて アタマ を さげたい の です。 ワタシ は、 イマ カミサマ を しんじます。 これ は、 この ソラ の イロ は、 なんと いう イロ なの かしら。 バラ。 カジ。 ニジ。 テンシ の ツバサ。 ダイガラン。 いいえ、 そんな ん じゃ ない。 もっと、 もっと こうごうしい。
「ミンナ を あいしたい」 と ナミダ が でそう な くらい おもいました。 じっと ソラ を みて いる と、 だんだん ソラ が かわって ゆく の です。 だんだん あおみがかって ゆく の です。 ただ、 タメイキ ばかり で、 ハダカ に なって しまいたく なりました。 それから、 イマ ほど キ の ハ や クサ が トウメイ に、 うつくしく みえた こと も ありません。 そっと クサ に、 さわって みました。
 うつくしく いきたい と おもいます。
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ジョセイト 2

2016-04-04 | ダザイ オサム
 ウチ へ かえって みる と、 オキャクサマ。 オカアサン も、 もう かえって おられる。 レイ に よって、 ナニ か、 にぎやか な ワライゴエ。 オカアサン は、 ワタシ と フタリ きり の とき には、 カオ が どんな に わらって いて も、 コエ を たてない。 けれども、 オキャクサマ と おはなし して いる とき には、 カオ は、 ちっとも わらって なくて、 コエ ばかり、 かんだかく わらって いる。 アイサツ して、 すぐ ウラ へ まわり、 イドバタ で テ を あらい、 クツシタ ぬいで、 アシ を あらって いたら、 サカナヤ さん が きて、 おまちどおさま、 マイド、 ありがとう と いって、 おおきい オサカナ を 1 ピキ、 イドバタ へ おいて いった。 なんと いう、 オサカナ か、 わからない けれど、 ウロコ の こまかい ところ、 これ は ホッカイ の もの の カンジ が する。 オサカナ を、 オサラ に うつして、 また テ を あらって いたら、 ホッカイドウ の ナツ の ニオイ が した。 オトトシ の ナツヤスミ に、 ホッカイドウ の オネエサン の ウチ へ あそび に いった とき の こと を おもいだす。 トマコマイ の オネエサン の ウチ は、 カイガン に ちかい ゆえ か、 しじゅう オサカナ の ニオイ が して いた。 オネエサン が、 あの オウチ の がらん と ひろい オダイドコロ で、 ユウガタ ヒトリ、 しろい おんならしい テ で、 ジョウズ に オサカナ を オリョウリ して いた ヨウス も、 はっきり うかぶ。 ワタシ は、 あの とき、 なぜか オネエサン に あまえたくて、 たまらなく こがれて、 でも オネエサン には、 あの コロ、 もう トシ ちゃん も うまれて いて、 オネエサン は、 ワタシ の もの では なかった の だ から、 それ を おもえば、 ひゅう と つめたい スキマカゼ が かんじられて、 どうしても、 オネエサン の ほそい カタ に だきつく こと が できなくて、 しぬ ほど さびしい キモチ で、 じっと、 あの ほのぐらい オダイドコロ の スミ に たった まま、 キ の とおく なる ほど オネエサン の しろく やさしく うごく ユビサキ を みつめて いた こと も、 おもいだされる。 すぎさった こと は、 みんな なつかしい。 ニクシン って、 フシギ な もの。 タニン ならば、 とおく はなれる と しだいに あわく、 わすれて ゆく もの なのに、 ニクシン は、 なおさら、 なつかしい うつくしい ところ ばかり おもいだされる の だ から。
 イドバタ の グミ の ミ が、 ほんのり あかく いろづいて いる。 もう 2 シュウカン も したら、 たべられる よう に なる かも しれない。 キョネン は、 おかしかった。 ワタシ が ユウガタ ヒトリ で グミ を とって たべて いたら、 ジャピー だまって みて いる ので、 かわいそう で ヒトツ やった。 そしたら、 ジャピー たべちゃった。 また フタツ やったら、 たべた。 あんまり おもしろくて、 この キ を ゆすぶって、 ぽたぽた おとしたら、 ジャピー ムチュウ に なって たべはじめた。 バカ な ヤツ。 グミ を たべる イヌ なんて、 はじめて だ。 ワタシ も セノビ して は、 グミ を とって たべて いる。 ジャピー も シタ で たべて いる。 おかしかった。 その こと、 おもいだしたら、 ジャピー を なつかしくて、
「ジャピー!」 と よんだ。
 ジャピー は、 ゲンカン の ほう から、 きどって はしって きた。 キュウ に、 ハギシリ する ほど ジャピー を かわいく なっちゃって、 シッポ を つよく つかむ と、 ジャピー は ワタシ の テ を やわらかく かんだ。 ナミダ が でそう な キモチ に なって、 アタマ を ぶって やる。 ジャピー は、 ヘイキ で、 イドバタ の ミズ を オト を たてて のむ。
 オヘヤ へ はいる と、 ぽっと デントウ が、 ともって いる。 しんと して いる。 オトウサン いない。 やっぱり、 オトウサン が いない と、 ウチ の ナカ に、 どこ か おおきい クウセキ が、 ぽかん と のこって ある よう な キ が して、 ミモダエ したく なる。 ワフク に きがえ、 ぬぎすてた シタギ の バラ に きれい な キス して、 それから キョウダイ の マエ に すわったら、 キャクマ の ほう から オカアサン たち の ワライゴエ が、 どっと おこって、 ワタシ は、 なんだか、 むかっと なった。 オカアサン は、 ワタシ と フタリ きり の とき は いい けれど、 オキャク が きた とき には、 へんに ワタシ から とおく なって、 つめたく よそよそしく、 ワタシ は そんな とき に、 いちばん オトウサン が なつかしく かなしく なる。
 カガミ を のぞく と、 ワタシ の カオ は、 おや、 と おもう ほど いきいき して いる。 カオ は、 タニン だ。 ワタシ ジシン の カナシサ や クルシサ や、 そんな ココロモチ とは、 ぜんぜん カンケイ なく、 ベッコ に ジユウ に いきて いる。 キョウ は ホオベニ も、 つけない のに、 こんな に ホオ が ぱっと あかくて、 それに、 クチビル も ちいさく あかく ひかって、 かわいい。 メガネ を はずして、 そっと わらって みる。 メ が、 とっても いい。 あおく あおく、 すんで いる。 うつくしい ユウゾラ を、 ながい こと みつめた から、 こんな に いい メ に なった の かしら。 しめた もの だ。
 すこし うきうき して ダイドコロ へ ゆき、 オコメ を といで いる うち に、 また かなしく なって しまった。 セン の コガネイ の ウチ が なつかしい。 ムネ が やける ほど こいしい。 あの、 いい オウチ には、 オトウサン も いらしった し、 オネエサン も いた。 オカアサン だって、 わかかった。 ワタシ が ガッコウ から かえって くる と、 オカアサン と、 オネエサン と、 ナニ か おもしろそう に ダイドコロ か、 チャノマ で ハナシ を して いる。 オヤツ を もらって、 ひとしきり フタリ に あまえたり、 オネエサン に ケンカ ふっかけたり、 それから きまって しかられて、 ソト へ とびだして トオク へ トオク へ ジテンシャ のり、 ユウガタ には かえって きて、 それから たのしく ゴハン だ。 ホントウ に たのしかった。 ジブン を みつめたり、 フケツ に ぎくしゃく する こと も なく、 ただ、 あまえて いれば よかった の だ。 なんと いう おおきい トッケン を ワタシ は キョウジュ して いた こと だろう。 しかも ヘイキ で。 シンパイ も なく、 サビシサ も なく、 クルシミ も なかった。 オトウサン は、 リッパ な よい オトウサン だった。 オネエサン は、 やさしく、 ワタシ は、 いつも オネエサン に ぶらさがって ばかり いた。 けれども、 すこし ずつ おおきく なる に つれて、 だいいち ワタシ が ジシン いやらしく なって、 ワタシ の トッケン は いつのまにか ショウシツ して、 アカハダカ、 みにくい みにくい。 ちっとも、 ヒト に あまえる こと が できなく なって、 かんがえこんで ばかり いて、 くるしい こと ばかり おおく なった。 オネエサン は、 オヨメ に いって しまった し、 オトウサン は、 もう いない。 たった オカアサン と ワタシ だけ に なって しまった。 オカアサン も おさびしい こと ばかり なの だろう。 コナイダ も オカアサン は、 「もう これから サキ は、 いきる タノシミ が なくなって しまった。 アナタ を みたって、 ワタシ は、 ホントウ は、 あまり タノシミ かんじない。 ゆるして おくれ。 コウフク も、 オトウサン が いらっしゃらなければ、 こない ほう が よい」 と おっしゃった。 カ が でて くる と、 ふと オトウサン を おもいだし、 ホドキモノ を する と、 オトウサン を おもいだし、 ツメ を きる とき にも オトウサン を おもいだし、 オチャ が おいしい とき にも、 きっと オトウサン を おもいだす そう で ある。 ワタシ が、 どんな に オカアサン の キモチ を いたわって、 ハナシアイテ に なって あげて も、 やっぱり オトウサン とは ちがう の だ。 フウフアイ と いう もの は、 この ヨノナカ で いちばん つよい もの で、 ニクシン の アイ より も、 とうとい もの に ちがいない。 ナマイキ な こと かんがえた ので、 ヒトリ で カオ が あかく なって きて、 ワタシ は、 ぬれた テ で カミ を かきあげる。 しゅっしゅっ と オコメ を とぎながら、 ワタシ は、 オカアサン が かわいく、 いじらしく なって、 ダイジ に しよう と、 しんから おもう。 こんな ウェーヴ かけた カミ なんか、 さっそく ときほぐして しまって、 そうして カミノケ を もっと ながく のばそう。 オカアサン は、 せんから、 ワタシ の カミ の みじかい の を いやがって いらした から、 うんと のばして、 きちんと ゆって みせたら、 よろこぶ だろう。 けれども、 そんな こと まで して、 オカアサン を、 いたわる の も いや だな。 いやらしい。 かんがえて みる と、 コノゴロ の、 ワタシ の イライラ は、 ずいぶん オカアサン と カンケイ が ある。 オカアサン の キモチ に、 ぴったり そった いい ムスメ で ありたい し、 それだから とて、 へんに ゴキゲン とる の も いや なの だ。 だまって いて も、 オカアサン、 ワタシ の キモチ を ちゃんと わかって アンシン して いらしったら、 いちばん いい の だ。 ワタシ は、 どんな に、 ワガママ でも、 けっして セケン の モノワライ に なる よう な こと は しない の だし、 つらくて も、 さびしくって も、 ダイジ な ところ は、 きちんと まもって、 そうして オカアサン と、 この ウチ と を、 あいして あいして、 あいして いる の だ から、 オカアサン も、 ワタシ を ゼッタイ に しんじて、 ぼんやり ノンキ に して いらしたら、 それ で いい の だ。 ワタシ は、 きっと リッパ に やる。 ミ を コ に して つとめる。 それ が イマ の ワタシ に とって も、 いちばん おおきい ヨロコビ なん だし、 いきる ミチ だ と おもって いる のに、 オカアサン たら、 ちっとも ワタシ を シンライ しない で、 まだまだ、 コドモ アツカイ に して いる。 ワタシ が こどもっぽい こと いう と、 オカアサン は よろこんで、 コナイダ も、 ワタシ が、 ばからしい、 わざと ウクレレ もちだして、 ぽんぽん やって はしゃいで みせたら、 オカアサン は、 しんから うれしそう に して、
「おや、 アメ かな? アマダレ の オト が きこえる ね」 と、 とぼけて いって、 ワタシ を からかって、 ワタシ が、 ホンキ で ウクレレ なんか に ネッチュウ して いる と でも おもって いる らしい ヨウス なので、 ワタシ は、 あさましくて、 なきたく なった。 オカアサン、 ワタシ は、 もう オトナ なの です よ。 ヨノナカ の こと、 なんでも、 もう しって いる の です よ。 アンシン して、 ワタシ に なんでも ソウダン して ください。 ウチ の ケイザイ の こと なんか でも、 ワタシ に ゼンブ うちあけて、 こんな ジョウタイ だ から、 オマエ も と いって くださった なら、 ワタシ は けっして、 クツ なんか ねだり は しません。 しっかり した、 つましい、 つましい ムスメ に なります。 ホントウ に、 それ は、 たしか なの です。 それなのに、 ああ、 それなのに、 と いう ウタ が あった の を おもいだして、 ヒトリ で くすくす わらって しまった。 キ が つく と、 ワタシ は ぼんやり オナベ に リョウテ を つっこんだ まま で、 バカ みたい に、 あれこれ かんがえて いた の で ある。
 いけない、 いけない。 オキャクサマ へ、 はやく ユウショク さしあげなければ。 サッキ の おおきい オサカナ は、 どう する の だろう。 とにかく サンマイ に おろして、 オミソ に つけて おく こと に しよう。 そうして たべる と、 きっと おいしい。 リョウリ は、 すべて、 カン で ゆかなければ いけない。 キュウリ が すこし のこって いる から、 あれ で もって、 サンバイズ。 それから、 ワタシ の ジマン の タマゴヤキ。 それから、 もう ヒトシナ。 あ、 そう だ。 ロココ リョウリ に しよう。 これ は、 ワタシ の コウアン した もの で ございまして。 オサラ ヒトツヒトツ に、 それぞれ、 ハム や タマゴ や、 パセリ や、 キャベツ、 ホウレンソウ、 オダイドコロ に のこって ある もの イッサイ ガッサイ、 イロトリドリ に、 うつくしく ハイゴウ させて、 テギワ よく ならべて だす の で あって、 テスウ は いらず、 ケイザイ だし、 ちっとも、 おいしく は ない けれども、 でも ショクタク は、 ずいぶん にぎやか に カレイ に なって、 なんだか、 たいへん ゼイタク な ゴチソウ の よう に みえる の だ。 タマゴ の カゲ に パセリ の アオクサ、 その ソバ に、 ハム の あかい サンゴショウ が ちらと カオ を だして いて、 キャベツ の きいろい ハ は、 ボタン の カベン の よう に、 トリ の ハネ の センス の よう に オサラ に しかれて、 ミドリ したたる ホウレンソウ は、 ボクジョウ か コスイ か。 こんな オサラ が、 フタツ も ミッツ も ならべられて ショクタク に だされる と、 オキャクサマ は ゆくりなく、 ルイ オウチョウ を おもいだす。 まさか、 それほど でも ない けれど、 どうせ ワタシ は、 おいしい ゴチソウ なんて つくれない の だ から、 せめて、 テイサイ だけ でも うつくしく して、 オキャクサマ を ゲンワク させて、 ごまかして しまう の だ。 リョウリ は、 ミカケ が ダイイチ で ある。 たいてい、 それ で、 ごまかせます。 けれども、 この ロココ リョウリ には、 よほど の エゴコロ が ヒツヨウ だ。 シキサイ の ハイゴウ に ついて、 ヒトイチバイ、 ビンカン で なければ、 シッパイ する。 せめて ワタシ くらい の デリカシー が なければ ね。 ロココ と いう コトバ を、 こないだ ジテン で しらべて みたら、 カレイ のみ にて ナイヨウ クウソ の ソウショク ヨウシキ、 と テイギ されて いた ので、 わらっちゃった。 メイトウ で ある。 ウツクシサ に、 ナイヨウ なんて あって たまる もの か。 ジュンスイ の ウツクシサ は、 いつも ムイミ で、 ムドウトク だ。 きまって いる。 だから、 ワタシ は、 ロココ が すき だ。
 いつも そう だ が、 ワタシ は オリョウリ して、 あれこれ アジ を みて いる うち に、 なんだか ひどい キョム に やられる。 しにそう に つかれて、 インウツ に なる。 あらゆる ドリョク の ホウワ ジョウタイ に おちいる の で ある。 もう、 もう、 なんでも、 どうでも、 よく なって くる。 ついには、 ええっ! と、 ヤケクソ に なって、 アジ でも テイサイ でも、 めちゃめちゃ に、 なげとばして、 ばたばた やって しまって、 じつに フキゲン な カオ して、 オキャク に さしだす。
 キョウ の オキャクサマ は、 ことにも ユウウツ。 オオモリ の イマイダ さん ゴフウフ に、 コトシ ナナツ の ヨシオ さん。 イマイダ さん は、 もう 40 ちかい のに、 コウダンシ みたい に イロ が しろくて、 いやらしい。 なぜ、 シキシマ なぞ を すう の だろう。 リョウギリ の タバコ で ない と、 なんだか、 フケツ な カンジ が する。 タバコ は、 リョウギリ に かぎる。 シキシマ なぞ を すって いる と、 その ヒト の ジンカク まで が、 うたがわしく なる の だ。 いちいち テンジョウ を むいて ケムリ を はいて、 はあ、 はあ、 なるほど、 なんて いって いる。 イマ は、 ヤガク の センセイ を して いる そう だ。 オクサン は、 ちいさくて、 おどおど して、 そして ゲヒン だ。 つまらない こと に でも、 カオ を タタミ に くっつける よう に して、 カラダ を くねらせて、 わらいむせぶ の だ。 おかしい こと なんて ある もの か。 そうして おおげさ に わらいふす の が、 ナニ か ジョウヒン な こと だろう と、 オモイチガイ して いる の だ。 イマ の この ヨノナカ で、 こんな カイキュウ の ヒトタチ が、 いちばん わるい の では ない かしら。 いちばん きたない。 プチブル と いう の かしら。 コヤクニン と いう の かしら。 コドモ なんか も、 へんに こましゃくれて、 すなお な ゲンキ な ところ が、 ちっとも ない。 そう おもって いながら も、 ワタシ は そんな キモチ を、 みんな おさえて、 オジギ を したり、 わらったり、 はなしたり、 ヨシオ さん を かわいい かわいい と いって アタマ を なでて やったり、 まるで ウソ ついて ミナ を だまして いる の だ から、 イマイダ ゴフウフ なんか でも、 まだまだ、 ワタシ より は セイジュン かも しれない。 ミナサン ワタシ の ロココ リョウリ を たべて、 ワタシ の ウデマエ を ほめて くれて、 ワタシ は わびしい やら、 はらだたしい やら、 なきたい キモチ なの だ けれど、 それでも、 つとめて、 うれしそう な カオ を して みせて、 やがて ワタシ も ゴショウバン して イッショ に ゴハン を たべた の で ある が、 イマイダ さん の オクサン の、 しつこい ムチ な オセジ には、 さすが に むかむか して、 よし、 もう ウソ は、 つくまい と きっと なって、
「こんな オリョウリ、 ちっとも おいしく ございません。 なんにも ない ので、 ワタシ の キュウヨ の イッサク なん です よ」 と、 ワタシ は、 ありのまま ジジツ を、 いった つもり なのに、 イマイダ さん ゴフウフ は、 キュウヨ の イッサク とは、 うまい こと を おっしゃる、 と テ を うたん ばかり に わらいきょうじる の で ある。 ワタシ は、 くやしくて、 オハシ と オチャワン ほうりだして、 オオゴエ あげて なこう かしら と おもった。 じっと こらえて、 ムリ に、 にやにや わらって みせたら、 オカアサン まで が、
「この コ も、 だんだん ヤク に たつ よう に なりました よ」 と、 オカアサン、 ワタシ の かなしい キモチ、 ちゃんと わかって いらっしゃる くせ に、 イマイダ さん の キモチ を むかえる ため に、 そんな くだらない こと を いって、 ほほ と わらった。 オカアサン、 そんな に まで して、 こんな イマイダ なんか の ゴキゲン とる こと は、 ない ん だ。 オキャクサン と たいして いる とき の オカアサン は、 オカアサン じゃ ない。 タダ の よわい オンナ だ。 オトウサン が、 いなく なった から って、 こんな にも ヒクツ に なる もの か。 なさけなく なって、 なにも いえなく なっちゃった。 かえって ください、 かえって ください。 ワタシ の チチ は、 リッパ な オカタ だ。 やさしくて、 そうして ジンカク が たかい ん だ。 オトウサン が いない から って、 そんな に ワタシタチ を バカ に する ん だったら、 イマ すぐ かえって ください。 よっぽど イマイダ に、 そう いって やろう と おもった。 それでも ワタシ は、 やっぱり よわくて、 ヨシオ さん に ハム を きって あげたり、 オクサン に オツケモノ とって あげたり ホウシ を する の だ。
 ゴハン が すんで から、 ワタシ は すぐに ダイドコロ へ ひっこんで、 アトカタヅケ を はじめた。 はやく ヒトリ に なりたかった の だ。 なにも、 おたかく とまって いる の では ない けれども、 あんな ヒトタチ と これ イジョウ、 ムリ に ハナシ を あわせて みたり、 イッショ に わらって みたり する ヒツヨウ も ない よう に おもわれる。 あんな モノ にも、 レイギ を、 いやいや、 ヘツライ を いたす ヒツヨウ なんて ゼッタイ に ない。 いや だ。 もう、 これ イジョウ は いや だ。 ワタシ は、 つとめられる だけ は、 つとめた の だ。 オカアサン だって、 キョウ の ワタシ の ガマン して アイソ よく して いる タイド を、 うれしそう に みて いた じゃ ない か。 あれ だけ でも、 よかった ん だろう か。 つよく、 セケン の ツキアイ は、 ツキアイ、 ジブン は ジブン と、 はっきり クベツ して おいて、 ちゃんちゃん キモチ よく モノゴト に タイオウ して ショリ して ゆく ほう が いい の か、 または、 ヒト に わるく いわれて も、 いつでも ジブン を うしなわず、 トウカイ しない で ゆく ほう が いい の か、 どっち が いい の か、 わからない。 イッショウ、 ジブン と おなじ くらい よわい やさしい あたたかい ヒトタチ の ナカ で だけ セイカツ して ゆける ミブン の ヒト は、 うらやましい。 クロウ なんて、 クロウ せず に イッショウ すませる ん だったら、 わざわざ もとめて クロウ する ヒツヨウ なんて ない ん だ。 その ほう が、 いい ん だ。
 ジブン の キモチ を ころして、 ヒト に つとめる こと は、 きっと いい こと に ちがいない ん だ けれど、 これから サキ、 マイニチ、 イマイダ ゴフウフ みたい な ヒトタチ に ムリ に わらいかけたり、 アイヅチ うたなければ ならない の だったら、 ワタシ は、 キチガイ に なる かも しれない。 ジブン なんて、 とても カンゴク に はいれない な、 と おかしい こと を、 ふと おもう。 カンゴク どころ か、 ジョチュウ さん にも なれない。 オクサン にも なれない。 いや、 オクサン の バアイ は、 ちがう ん だ。 この ヒト の ため に イッショウ つくす の だ、 と ちゃんと カクゴ が きまったら、 どんな に くるしく とも、 マックロ に なって はたらいて、 そうして ジュウブン に イキガイ が ある の だ から、 キボウ が ある の だ から、 ワタシ だって、 リッパ に やれる。 アタリマエ の こと だ。 アサ から バン まで、 くるくる コマネズミ の よう に はたらいて あげる。 じゃんじゃん オセンタク を する。 たくさん ヨゴレモノ が たまった とき ほど、 フユカイ な こと が ない。 いらいら して、 ヒステリー に なった みたい に おちつかない。 しんで も しにきれない オモイ が する。 ヨゴレモノ を、 ゼンブ、 ヒトツ も のこさず あらって しまって、 モノホシザオ に かける とき は、 ワタシ は、 もう これ で、 いつ しんで も いい と おもう の で ある。
 イマイダ さん、 おかえり に なる。 なにやら ヨウジ が ある とか で、 オカアサン を つれて でかけて しまう。 はいはい ついて ゆく オカアサン も オカアサン だし、 イマイダ が なにかと オカアサン を リヨウ する の は、 コンド だけ では ない けれど、 イマイダ ゴフウフ の アツカマシサ が、 いや で いや で、 ぶんなぐりたい キモチ が する。 モン の ところ まで、 ミナサン を おおくり して、 ヒトリ ぼんやり ユウヤミ の ミチ を ながめて いたら、 ないて みたく なって しまう。
 ユウビンバコ には、 ユウカン と、 オテガミ 2 ツウ。 1 ツウ は オカアサン へ、 マツザカヤ から ナツモノ ウリダシ の ゴアンナイ。 1 ツウ は、 ワタシ へ、 イトコ の ジュンジ さん から。 コンド マエバシ の レンタイ へ テンニン する こと に なりました。 オカアサン に よろしく、 と カンタン な ツウチ で ある。 ショウコウ さん だって、 そんな に すばらしい セイカツ ナイヨウ など は、 キタイ できない けれど、 でも、 マイニチ マイニチ、 ゲンコク に ムダ なく キキョ する その キリツ が うらやましい。 いつも ミ が、 ちゃんちゃん と きまって いる の だ から、 キモチ の ウエ から ラク な こと だろう と おもう。 ワタシ みたい に、 なにも したく なければ、 いっそ なにも しなくて すむ の だし、 どんな わるい こと でも できる ジョウタイ に おかれて いる の だし、 また、 ベンキョウ しよう と おもえば、 ムゲン と いって いい くらい に ベンキョウ の ジカン が ある の だし、 ヨク を いったら、 よほど の ノゾミ でも かなえて もらえる よう な キ が する し、 ここ から ここ まで と いう ドリョク の ゲンカイ を あたえられたら、 どんな に キモチ が たすかる か わからない。 うんと かたく しばって くれる と、 かえって ありがたい の だ。 センチ で はたらいて いる ヘイタイ さん たち の ヨクボウ は、 たった ヒトツ、 それ は ぐっすり ねむりたい ヨクボウ だけ だ、 と ナニ か の ホン に かかれて あった けれど、 その ヘイタイ さん の クロウ を オキノドク に おもう ハンメン、 ワタシ は、 ずいぶん うらやましく おもった。 いやらしい、 ハンサ な ドウドウ メグリ の、 ネ も ハ も ない シアン の コウズイ から、 きれい に わかれて、 ただ ねむりたい ねむりたい と カツボウ して いる ジョウタイ は、 じつに セイケツ で、 タンジュン で、 おもう さえ ソウカイ を おぼえる の だ。 ワタシ など、 これ は イチド、 グンタイ セイカツ でも して、 さんざ きたわれたら、 すこし は、 はっきり した うつくしい ムスメ に なれる かも しれない。 グンタイ セイカツ しなくて も、 シン ちゃん みたい に、 すなお な ヒト だって ある のに、 ワタシ は、 よくよく、 いけない オンナ だ。 わるい コ だ。 シン ちゃん は、 ジュンジ さん の オトウト で、 ワタシ とは おなじ トシ なん だ けれど、 どうして あんな に、 いい コ なん だろう。 ワタシ は、 シンルイ-ジュウ で、 いや、 セカイジュウ で、 いちばん シン ちゃん を すき だ。 シン ちゃん、 メ が みえない ん だ。 わかい のに、 シツメイ する なんて、 なんと いう こと だろう。 こんな しずか な バン は、 オヘヤ に オヒトリ で いらして、 どんな キモチ だろう。 ワタシタチ なら、 わびしくて も、 ホン を よんだり、 ケシキ を ながめたり して、 いくぶん それ を まぎらかす こと が できる けれど、 シン ちゃん には、 それ が できない ん だ。 ただ、 だまって いる だけ なん だ。 これまで ヒトイチバイ、 がんばって ベンキョウ して、 それから テニス も、 スイエイ も オジョウズ だった の だ もの、 イマ の サビシサ、 クルシサ は どんな だろう。 ユウベ も シン ちゃん の こと を おもって、 トコ に はいって から 5 フン-カン、 メ を つぶって みた。 トコ に はいって メ を つぶって いる の で さえ、 5 フン-カン は ながく、 むなぐるしく かんじられる のに、 シン ちゃん は、 アサ も ヒル も ヨル も、 イクニチ も イクツキ も、 なにも みて いない の だ。 フヘイ を いったり、 カンシャク を おこしたり、 ワガママ いったり して くだされば、 ワタシ も うれしい の だ けれど、 シン ちゃん は、 なにも いわない。 シン ちゃん が フヘイ や ヒト の ワルクチ いった の を きいた こと が ない。 そのうえ いつも あかるい コトバヅカイ、 ムシン の カオツキ を して いる の だ。 それ が なおさら、 ワタシ の ムネ に、 ぴんと きて しまう。
 あれこれ かんがえながら オザシキ を はいて、 それから、 オフロ を わかす。 オフロバン を しながら、 ミカンバコ に こしかけ、 ちろちろ もえる セキタン の ヒ を タヨリ に ガッコウ の シュクダイ を ゼンブ すまして しまう。 それでも、 まだ オフロ が わかない ので、 ボクトウ キタン を よみかえして みる。 かかれて ある ジジツ は、 けっして いや な、 きたない もの では ない の だ。 けれども、 ところどころ サクシャ の キドリ が メ に ついて、 それ が なんだか、 やっぱり ふるい、 タヨリナサ を かんじさせる の だ。 オトシヨリ の せい で あろう か。 でも、 ガイコク の サッカ は、 いくら としとって も、 もっと ダイタン に あまく、 タイショウ を あいして いる。 そうして、 かえって イヤミ が ない。 けれども、 この サクヒン は、 ニホン では、 いい ほう の ブルイ なの では あるまい か。 わりに ウソ の ない、 しずか な アキラメ が、 サクヒン の ソコ に かんじられて すがすがしい。 この サクシャ の もの の ナカ でも、 これ が いちばん かれて いて、 ワタシ は すき だ。 この サクシャ は、 とっても セキニンカン の つよい ヒト の よう な キ が する。 ニホン の ドウトク に、 とても とても、 こだわって いる ので、 かえって ハンパツ して、 へんに どぎつく なって いる サクヒン が おおかった よう な キ が する。 アイジョウ の ふかすぎる ヒト に ありがち な ギアク シュミ。 わざと、 あくどい オニ の メン を かぶって、 それで かえって サクヒン を よわく して いる。 けれども、 この ボクトウ キタン には、 サビシサ の ある うごかない ツヨサ が ある。 ワタシ は、 すき だ。
 オフロ が わいた。 オフロバ に デントウ を つけて、 キモノ を ぬぎ、 マド を いっぱい に あけはなして から、 ひっそり オフロ に ひたる。 サンゴジュ の あおい ハ が マド から のぞいて いて、 1 マイ 1 マイ の ハ が、 デントウ の ヒカリ を うけて、 つよく かがやいて いる。 ソラ には ホシ が きらきら。 ナンド みなおして も、 きらきら。 あおむいた まま、 うっとり して いる と、 ジブン の カラダ の ホノジロサ が、 わざと みない の だ が、 それでも、 ぼんやり かんじられ、 シヤ の どこ か に、 ちゃんと はいって いる。 なお、 だまって いる と、 ちいさい とき の シロサ と ちがう よう に おもわれて くる。 いたたまらない。 ニクタイ が、 ジブン の キモチ と カンケイ なく、 ひとりでに セイチョウ して ゆく の が、 たまらなく、 コンワク する。 めきめき と、 オトナ に なって しまう ジブン を、 どう する こと も できなく、 かなしい。 ナリユキ に まかせて、 じっと して、 ジブン の オトナ に なって ゆく の を みて いる より シカタ が ない の だろう か。 いつまでも、 オニンギョウ みたい な カラダ で いたい。 オユ を じゃぶじゃぶ かきまわして、 コドモ の フリ を して みて も、 なんとなく キ が おもい。 これから サキ、 いきて ゆく リユウ が ない よう な キ が して きて、 くるしく なる。 ニワ の ムコウ の ハラッパ で、 オネエチャン! と、 ハンブン なきかけて よぶ ヨソ の コドモ の コエ に、 はっと ムネ を つかれた。 ワタシ を よんで いる の では ない けれども、 イマ の あの コ に なきながら したわれて いる その 「オネエチャン」 を うらやましく おもう の だ。 ワタシ に だって、 あんな に したって あまえて くれる オトウト が、 ヒトリ でも あった なら、 ワタシ は、 こんな に イチニチ イチニチ、 みっともなく、 まごついて いきて は いない。 いきる こと に、 ずいぶん ハリアイ も でて くる だろう し、 イッショウガイ を オトウト に ささげて、 つくそう と いう カクゴ だって、 できる の だ。 ホントウ に、 どんな つらい こと でも、 たえて みせる。 ヒトリ りきんで、 それから、 つくづく ジブン を かわいそう に おもった。
 フロ から あがって、 なんだか コンヤ は、 ホシ が キ に かかって、 ニワ に でて みる。 ホシ が、 ふる よう だ。 ああ、 もう ナツ が ちかい。 カエル が あちこち で ないて いる。 ムギ が、 ざわざわ いって いる。 ナンカイ、 ふりあおいで みて も、 ホシ が たくさん ひかって いる。 キョネン の こと、 いや キョネン じゃ ない、 もう、 オトトシ に なって しまった。 ワタシ が サンポ に いきたい と ムリ いって いる と、 オトウサン、 ビョウキ だった のに、 イッショ に サンポ に でて くださった。 いつも わかかった オトウサン。 ドイツ-ゴ の 「オマエ ヒャク まで、 ワシャ クジュウク まで」 と いう イミ と やら の コウタ を おしえて くださったり、 ホシ の オハナシ を したり、 ソッキョウ の シ を つくって みせたり、 ステッキ ついて、 ツバ を ぴゅっぴゅっ だしだし、 あの ぱちくり を やりながら イッショ に あるいて くださった、 よい オトウサン。 だまって ホシ を あおいで いる と、 オトウサン の こと、 はっきり おもいだす。 あれ から、 1 ネン、 2 ネン たって、 ワタシ は、 だんだん いけない ムスメ に なって しまった。 ヒトリ きり の ヒミツ を、 たくさん たくさん もつ よう に なりました。
 オヘヤ へ もどって、 ツクエ の マエ に すわって ホオヅエ つきながら、 ツクエ の ウエ の ユリ の ハナ を ながめる。 いい ニオイ が する。 ユリ の ニオイ を かいで いる と、 こうして ヒトリ で タイクツ して いて も、 けっして きたない キモチ が おきない。 この ユリ は、 キノウ の ユウガタ、 エキ の ほう まで サンポ して いって、 その カエリ に ハナヤ さん から 1 ポン かって きた の だ けれど、 それから は、 この ワタシ の ヘヤ は、 まるっきり ちがった ヘヤ みたい に すがすがしく、 フスマ を するする と あける と、 もう ユリ の ニオイ が、 すっと かんじられて、 どんな に たすかる か わからない。 こうして、 じっと みて いる と、 ホントウ に ソロモン の エイガ イジョウ だ と、 ジッカン と して、 ニクタイ カンカク と して、 シュコウ される。 ふと、 キョネン の ナツ の ヤマガタ を おもいだす。 ヤマ に いった とき、 ガケ の チュウフク に、 あんまり たくさん、 ユリ が さきみだれて いた ので おどろいて、 ムチュウ に なって しまった。 でも、 その キュウ な ガケ には、 とても よじのぼって ゆく こと が できない の が、 わかって いた から、 どんな に ひかれて も、 ただ、 みて いる より シカタ が なかった。 その とき、 ちょうど チカク に いあわせた みしらぬ コウフ が、 だまって どんどん ガケ に よじのぼって いって、 そして またたく うち に、 いっぱい、 リョウテ で かかえきれない ほど、 ユリ の ハナ を おって きて くれた。 そうして、 すこしも わらわず に、 それ を みんな ワタシ に もたせた。 それこそ、 いっぱい、 いっぱい だった。 どんな ゴウセイ な ステージ でも、 ケッコンシキジョウ でも、 こんな に タクサン の ハナ を もらった ヒト は ない だろう。 ハナ で メマイ が する って、 その とき はじめて あじわった。 その まっしろい おおきい おおきい ハナタバ を リョウウデ を ひろげて やっとこさ かかえる と、 マエ が ぜんぜん みえなかった。 シンセツ だった、 ホントウ に カンシン な わかい マジメ な コウフ は、 イマ どうして いる かしら。 ハナ を、 あぶない ところ に いって とって きて くれた、 ただ、 それ だけ なの だ けれど、 ユリ を みる とき には、 きっと コウフ を おもいだす。
 ツクエ の ヒキダシ を あけて、 かきまわして いたら、 キョネン の ナツ の センス が でて きた。 しろい カミ に、 ゲンロク ジダイ の オンナ の ヒト が ギョウギ わるく すわりくずれて、 その ソバ に、 あおい ホオズキ が フタツ かきそえられて ある。 この センス から、 キョネン の ナツ が、 ふう と ケムリ みたい に たちのぼる。 ヤマガタ の セイカツ、 キシャ の ナカ、 ユカタ、 スイカ、 カワ、 セミ、 フウリン。 キュウ に、 これ を もって キシャ に のりたく なって しまう。 センス を ひらく カンジ って、 よい もの。 ぱらぱら ホネ が ほどけて いって、 キュウ に ふわっと かるく なる。 くるくる もてあそんで いたら、 オカアサン かえって いらした。 ゴキゲン が よい。
「ああ、 つかれた、 つかれた」 と いいながら、 そんな に フユカイ そう な カオ も して いない。 ヒト の ヨウジ を して あげる の が おすき なの だ から シカタ が ない。
「なにしろ、 ハナシ が ややこしくて」 など いいながら キモノ を きがえ オフロ へ はいる。
 オフロ から あがって、 ワタシ と フタリ で オチャ を のみながら、 へんに にこにこ わらって、 オカアサン ナニ を いいだす か と おもったら、
「アナタ は、 コナイダ から 『ハダシ の ショウジョ』 を みたい みたい と いってた でしょう? そんな に いきたい なら、 いって も よ ござんす。 そのかわり、 コンバン は、 ちょっと オカアサン の カタ を もんで ください。 はたらいて いく の なら、 なおさら たのしい でしょう?」
 もう ワタシ は うれしくて たまらない。 「ハダシ の ショウジョ」 と いう エイガ も みたい とは おもって いた の だ が、 コノゴロ ワタシ は あそんで ばかり いた ので、 エンリョ して いた の だ。 それ を オカアサン、 ちゃんと さっして、 ワタシ に ヨウジ を いいつけて、 ワタシ に オオデ ふって エイガ み に ゆける よう に、 しむけて くださった。 ホントウ に、 うれしく、 オカアサン が すき で、 シゼン に わらって しまった。
 オカアサン と、 こうして ヨル フタリ きり で くらす の も、 ずいぶん ヒサシブリ だった よう な キ が する。 オカアサン、 とても コウサイ が おおい の だ から。 オカアサン だって、 いろいろ セケン から バカ に されまい と おもって つとめて おられる の だろう。 こうして カタ を もんで いる と、 オカアサン の オツカレ が、 ワタシ の カラダ に つたわって くる ほど、 よく わかる。 ダイジ に しよう、 と おもう。 センコク、 イマイダ が きて いた とき に、 オカアサン を、 こっそり うらんだ こと を、 はずかしく おもう。 ごめんなさい、 と クチ の ナカ で ちいさく いって みる。 ワタシ は、 いつも ジブン の こと だけ を かんがえ、 おもって、 オカアサン には、 やはり、 シンソコ から あまえて ランボウ な タイド を とって いる。 オカアサン は、 その つど、 どんな に いたい くるしい オモイ を する か、 そんな もの は、 てんで、 はねつけて いる ジブン だ。 オトウサン が いなく なって から は、 オカアサン は、 ホントウ に およわく なって いる の だ。 ワタシ ジシン、 くるしい の、 やりきれない の と いって オカアサン に カンゼン に ぶらさがって いる くせ に、 オカアサン が すこし でも ワタシ に よりかかったり する と、 いやらしく、 うすぎたない もの を みた よう な キモチ が する の は、 ホントウ に、 ワガママ-すぎる。 オカアサン だって、 ワタシ だって、 やっぱり おなじ よわい オンナ なの だ。 これから は、 オカアサン と フタリ だけ の セイカツ に マンゾク し、 いつも オカアサン の キモチ に なって あげて、 ムカシ の ハナシ を したり、 オトウサン の ハナシ を したり、 1 ニチ でも よい、 オカアサン チュウシン の ヒ を つくれる よう に したい。 そうして、 リッパ に イキガイ を かんじたい。 オカアサン の こと を、 ココロ では、 シンパイ したり、 よい ムスメ に なろう と おもう の だ けれど、 コウドウ や、 コトバ に でる ワタシ は、 ワガママ な コドモ ばっかり だ。 それに、 コノゴロ の ワタシ は、 コドモ みたい に、 きれい な ところ さえ ない。 よごれて、 はずかしい こと ばかり だ。 クルシミ が ある の、 なやんで いる の、 さびしい の、 かなしい の って、 それ は いったい、 なんの こと だ。 はっきり いったら、 しぬる。 ちゃんと しって いながら、 ヒトコト だって、 それ に にた メイシ ヒトツ ケイヨウシ ヒトツ いいだせない じゃ ない か。 ただ、 どぎまぎ して、 オシマイ には、 かっと なって、 まるで ナニ か みたい だ。 ムカシ の オンナ は、 ドレイ とか、 ジコ を ムシ して いる ムシケラ とか、 ニンギョウ とか、 ワルクチ いわれて いる けれど、 イマ の ワタシ なんか より は、 ずっと ずっと、 いい イミ の オンナラシサ が あって、 ココロ の ヨユウ も あった し、 ニンジュウ を さわやか に さばいて ゆける だけ の エイチ も あった し、 ジュンスイ の ジコ ギセイ の ウツクシサ も しって いた し、 カンゼン に ムホウシュウ の、 ホウシ の ヨロコビ も わきまえて いた の だ。
「ああ、 いい アンマ さん だ。 テンサイ です ね」
 オカアサン は、 レイ に よって ワタシ を からかう。
「そう でしょう? ココロ が こもって います から ね。 でも、 アタシ の トリエ は、 アンマ カミシモ、 それ だけ じゃ ない ん です よ。 それ だけ じゃ、 こころぼそい わねえ。 もっと、 いい とこ も ある ん です」
 すなお に おもって いる こと を、 そのまま いって みたら、 それ は ワタシ の ミミ にも、 とっても さわやか に ひびいて、 この 2~3 ネン、 ワタシ が、 こんな に、 ムジャキ に、 モノ を はきはき いえた こと は、 なかった。 ジブン の ブン を、 はっきり しって あきらめた とき に、 はじめて、 ヘイセイ な あたらしい ジブン が うまれて くる の かも しれない、 と うれしく おもった。
 コンヤ は オカアサン に、 イロイロ の イミ で オレイ も あって、 アンマ が すんで から、 オマケ と して、 クオレ を すこし よんで あげる。 オカアサン は、 ワタシ が こんな ホン を よんで いる の を しる と、 やっぱり アンシン な よう な カオ を なさる が、 センジツ ワタシ が、 ケッセル の ヒルガオ を よんで いたら、 そっと ワタシ から ホン を とりあげて、 ヒョウシ を ちらっと みて、 とても くらい カオ を なさって、 けれども なにも いわず に だまって、 そのまま すぐに ホン を かえして くださった けれど、 ワタシ も なんだか、 いや に なって つづけて よむ キ が しなく なった。 オカアサン、 ヒルガオ を よんだ こと が ない はず なのに、 それでも カン で、 わかる らしい の だ。 ヨル、 しずか な ナカ で、 ヒトリ で コエ たてて クオレ を よんで いる と、 ジブン の コエ が とても おおきく まぬけて ひびいて、 よみながら、 ときどき、 くだらなく なって、 オカアサン に はずかしく なって しまう。 アタリ が、 あんまり しずか なので、 バカバカシサ が めだつ。 クオレ は、 いつ よんで も、 ちいさい とき に よんで うけた カンゲキ と ちっとも かわらぬ カンゲキ を うけて、 ジブン の ココロ も、 すなお に、 きれい に なる よう な キ が して、 やっぱり いい な と おもう の で ある が、 どうも、 コエ を だして よむ の と、 メ で よむ の と では、 ずいぶん カンジ が ちがう ので、 オドロキ、 ヘイコウ の カタチ で ある。 でも、 オカアサン は、 エンリコ の ところ や、 ガロオン の ところ では、 うつむいて ないて おられた。 ウチ の オカアサン も、 エンリコ の オカアサン の よう に リッパ な うつくしい オカアサン で ある。
 オカアサン は、 サキ に オヤスミ。 ケサ はやく から オデカケ だった ゆえ、 ずいぶん つかれた こと と おもう。 オフトン を なおして あげて、 オフトン の スソ の ところ を はたはた たたいて あげる。 オカアサン は、 いつでも、 オトコ へ はいる と すぐ メ を つぶる。
 ワタシ は、 それから フロバ で オセンタク。 コノゴロ、 ヘン な クセ で、 12 ジ ちかく なって オセンタク を はじめる。 ヒルマ じゃぶじゃぶ やって ジカン を つぶす の、 おしい よう な キ が する の だ けれど、 ハンタイ かも しれない。 マド から オツキサマ が みえる。 しゃがんで、 しゃっしゃっ と あらいながら、 オツキサマ に、 そっと わらいかけて みる。 オツキサマ は、 しらぬ カオ を して いた。 ふと、 この おなじ シュンカン、 どこ か の かわいそう な さびしい ムスメ が、 おなじ よう に こうして オセンタク しながら、 この オツキサマ に、 そっと わらいかけた、 たしか に わらいかけた、 と しんじて しまって、 それ は、 とおい イナカ の ヤマ の チョウジョウ の イッケンヤ、 シンヤ だまって セド で オセンタク して いる、 くるしい ムスメ さん が、 イマ、 いる の だ、 それから、 パリー の ウラマチ の きたない アパート の ロウカ で、 やはり ワタシ と おなじ トシ の ムスメ さん が、 ヒトリ で こっそり オセンタク して、 この オツキサマ に わらいかけた、 と ちっとも うたがう ところ なく、 ボウエンキョウ で ホント に みとどけて しまった よう に、 シキサイ も センメイ に くっきり おもいうかぶ の で ある。 ワタシタチ ミンナ の クルシミ を、 ホント に ダレ も しらない の だ もの。 いまに オトナ に なって しまえば、 ワタシタチ の クルシサ ワビシサ は、 おかしな もの だった、 と なんでも なく ツイオク できる よう に なる かも しれない の だ けれど、 けれども、 その オトナ に なりきる まで の、 この ながい いや な キカン を、 どうして くらして いったら いい の だろう。 ダレ も おしえて くれない の だ。 ほって おく より シヨウ の ない、 ハシカ みたい な ビョウキ なの かしら。 でも、 ハシカ で しぬる ヒト も ある し、 ハシカ で メ の つぶれる ヒト だって ある の だ。 ほうって おく の は、 いけない こと だ。 ワタシタチ、 こんな に マイニチ、 うつうつ したり、 かっと なったり、 その ウチ には、 ふみはずし、 うんと ダラク して トリカエシ の つかない カラダ に なって しまって イッショウ を めちゃめちゃ に おくる ヒト だって ある の だ。 また、 ひとおもいに ジサツ して しまう ヒト だって ある の だ。 そう なって しまって から、 ヨノナカ の ヒトタチ が、 ああ、 もうすこし いきて いたら わかる こと なのに、 もうすこし オトナ に なったら、 しぜん と わかって くる こと なのに と、 どんな に くやしがったって、 その トウニン に して みれば、 くるしくて くるしくて、 それでも、 やっと そこ まで たえて、 ナニ か ヨノナカ から きこう きこう と ケンメイ に ミミ を すまして いて も、 やっぱり、 ナニ か アタリサワリ の ない キョウクン を くりかえして、 まあ、 まあ と、 なだめる ばかり で、 ワタシタチ、 いつまでも、 はずかしい スッポカシ を くって いる の だ。 ワタシタチ は、 けっして セツナ シュギ では ない けれども、 あんまり トオク の ヤマ を ゆびさして、 あそこ まで いけば ミハラシ が いい、 と、 それ は、 きっと その とおり で、 ミジン も ウソ の ない こと は、 わかって いる の だ けれど、 ゲンザイ こんな はげしい フクツウ を おこして いる のに、 その フクツウ に たいして は、 みて みぬ フリ を して、 ただ、 さあさあ、 もうすこし の ガマン だ、 あの ヤマ の チョウジョウ まで いけば、 しめた もの だ、 と ただ、 その こと ばかり おしえて いる。 きっと、 ダレ か が まちがって いる。 わるい の は、 アナタ だ。
 オセンタク を すまして、 オフロバ の オソウジ を して、 それから、 こっそり オヘヤ の フスマ を あける と、 ユリ の ニオイ。 すっと した。 ココロ の ソコ まで トウメイ に なって しまって、 スウコウ な ニヒル、 と でも いった よう な グアイ に なった。 しずか に ネマキ に きがえて いたら、 イマ まで すやすや ねむってる と ばかり おもって いた オカアサン、 メ を つぶった まま とつぜん いいだした ので、 びくっと した。 オカアサン、 ときどき こんな こと を して、 ワタシ を おどろかす。
「ナツ の クツ が ほしい と いって いた から、 キョウ シブヤ へ いった ツイデ に みて きた よ。 クツ も、 たかく なった ねえ」
「いい の、 そんな に ほしく なくなった の」
「でも、 なければ、 こまる でしょう」
「うん」
 アシタ も また、 おなじ ヒ が くる の だろう。 コウフク は イッショウ、 こない の だ。 それ は、 わかって いる。 けれども、 きっと くる、 アス は くる、 と しんじて ねる の が いい の でしょう。 わざと、 どさん と おおきい オト たてて フトン に たおれる。 ああ、 いい キモチ だ。 フトン が つめたい ので、 セナカ が ほどよく ひんやり して、 つい うっとり なる。 コウフク は イチヤ おくれて くる。 ぼんやり、 そんな コトバ を おもいだす。 コウフク を まって まって、 とうとう たえきれず に ウチ を とびだして しまって、 その あくる ヒ に、 すばらしい コウフク の シラセ が、 すてた ウチ を おとずれた が、 もう おそかった。 コウフク は イチヤ おくれて くる。 コウフク は、――
 オニワ を カア の あるく アシオト が する。 ぱたぱた ぱたぱた、 カア の アシオト には、 トクチョウ が ある。 ミギ の マエアシ が すこし みじかく、 それに マエアシ は O-ガタ で ガニ だ から、 アシオト にも さびしい クセ が ある の だ。 よく こんな マヨナカ に、 オニワ を あるきまわって いる けれど、 ナニ を して いる の かしら。 カア は、 かわいそう。 ケサ は、 イジワル して やった けれど、 アス は、 かわいがって あげます。
 ワタシ は かなしい クセ で、 カオ を リョウテ で ぴったり おおって いなければ、 ねむれない。 カオ を おおって、 じっと して いる。
 ネムリ に おちる とき の キモチ って、 ヘン な もの だ。 フナ か、 ウナギ か、 ぐいぐい ツリイト を ひっぱる よう に、 なんだか おもい、 ナマリ みたい な チカラ が、 イト で もって ワタシ の アタマ を、 ぐっと ひいて、 ワタシ が とろとろ ねむりかける と、 また、 ちょっと イト を ゆるめる。 すると、 ワタシ は、 はっと キ を とりなおす。 また、 ぐっと ひく。 とろとろ ねむる。 また、 ちょっと イト を はなす。 そんな こと を 3 ド か、 4 ド くりかえして、 それから、 はじめて、 ぐうっと おおきく ひいて、 コンド は アサ まで。
 おやすみなさい。 ワタシ は、 オウジサマ の いない シンデレラ ヒメ。 アタシ、 トウキョウ の、 どこ に いる か、 ゴゾンジ です か? もう、 ふたたび オメ に かかりません。
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