ハクチ
サカグチ アンゴ
その イエ には ニンゲン と ブタ と イヌ と ニワトリ と アヒル が すんで いた が、 まったく、 すむ タテモノ も オノオノ の タベモノ も ほとんど かわって い や しない。 モノオキ の よう な ひんまがった タテモノ が あって、 カイカ には シュジン フウフ、 テンジョウウラ には ハハ と ムスメ が マガリ して いて、 この ムスメ は アイテ の わからぬ コドモ を はらんで いる。
イザワ の かりて いる イッシツ は オモヤ から ブンリ した コヤ で、 ここ は ムカシ この イエ の ハイビョウ の ムスコ が ねて いた そう だ が、 ハイビョウ の ブタ にも ゼイタク-すぎる コヤ では ない。 それでも オシイレ と ベンジョ と トダナ が ついて いた。
シュジン フウフ は シタテヤ で チョウナイ の オハリ の センセイ など も やり (それゆえ ハイビョウ の ムスコ を ベツ の コヤ へ いれた の だ) チョウカイ の ヤクイン など も やって いる。 マガリ の ムスメ は がんらい チョウカイ の ジムイン だった が、 チョウカイ ジムショ に ネトマリ して いて チョウカイチョウ と シタテヤ を のぞいた タ の ヤクイン の ゼンブ の モノ (10 スウニン) と コウヘイ に カンケイ を むすんだ そう で、 その ウチ の ダレ か の タネ を やどした わけ だ。 そこで チョウカイ の ヤクイン ども が キョキン して この ヤネウラ で コドモ の シマツ を つけさせよう と いう の だ が、 セケン は ムダ が ない もの で、 ヤクイン の ヒトリ に トウフヤ が いて、 この オトコ だけ ムスメ が ニンシン して この ヤネウラ に ひそんだ ノチ も かよって きて、 けっきょく ムスメ は この オトコ の メカケ の よう に きまって しまった。 タ の ヤクイン ども は これ が わかる と さっそく キョキン を やめて しまい、 この ワカレメ の 1 カゲツ ブン の セイカツヒ は トウフヤ が フタン す べき だ と シュチョウ して、 シハライ に おうじない ヤオヤ と トケイヤ と ジヌシ と ナニヤ だ か 7~8 ニン あり (ヒトリアタリ キン 5 エン) ムスメ は イマ に いたる まで ジダンダ ふんで いる。
この ムスメ は おおきな クチ と おおきな フタツ の メノタマ を つけて いて、 そのくせ ひどく やせこけて いた。 アヒル を きらって、 ニワトリ に だけ タベモノ の ノコリ を やろう と する の だ が、 アヒル が ヨコ から まきあげる ので、 マイニチ ハラ を たてて アヒル を おっかけて いる。 おおきな ハラ と シリ を ゼンゴ に つきだして キミョウ な チョクリツ の シセイ で はしる カッコウ が アヒル に にて いる の で あった。
この ロジ の デグチ に タバコヤ が あって、 55 と いう バアサン が オシロイ つけて すんで おり、 7 ニン-メ とか 8 ニン-メ とか の ジョウフ を おいだして、 その カワリ を チュウネン の ボウズ に しよう か やはり チュウネン の ナニヤ だ か に しよう か と ハンモンチュウ の ヨシ で あり、 わかい オトコ が ウラグチ から タバコ を かい に いく と イクツ か うって くれる ヨシ で (ただし ヤミネ) センセイ (イザワ の こと) も ウラグチ から いって ごらんなさい と シタテヤ が いう の だ が、 あいにく イザワ は ツトメサキ で トクハイ が ある ので バアサン の セワ に ならず に すんで いた。
ところが その スジムカイ の コメ の ハイキュウジョ の ウラテ に コガネ を にぎった ミボウジン が すんで いて、 アニ (ショッコウ) と イモウト の フタリ の コドモ が ある の だ が、 この シンジツ の キョウダイ が フウフ の カンケイ を むすんで いる。 けれども ミボウジン は けっきょく その ほう が ヤスアガリ だ と モクニン して いる うち に、 アニ の ほう に オンナ が できた。 そこで イモウト の ほう を かたづける ヒツヨウ が あって シンセキ に あたる 50 とか 60 とか の ロウジン の ところ へ ヨメイリ と いう こと に なり、 イモウト が ネコイラズ を のんだ。 のんで おいて シタテヤ (イザワ の ゲシュク) へ オケイコ に きて くるしみはじめ、 けっきょく しんで しまった が、 その とき チョウナイ の イシャ が シンゾウ マヒ の シンダンショ を くれて ハナシ は そのまま きえて しまった。 え? どの イシャ が そんな ベンリ な シンダンショ を くれる ん です か、 と イザワ が ギョウテン して たずねる と、 シタテヤ の ほう が アッケ に とられた オモモチ で、 ナン です か、 ヨソ じゃ、 そう じゃ ない ん です か、 と きいた。
この ヘン は ヤス-アパート が リンリツ し、 それら の ヘヤ の ナンブン の 1 か は メカケ と インバイ が すんで いる。 それら の オンナ たち には コドモ が なく、 また、 オノオノ の ヘヤ を きれい に する と いう キョウツウ の セイシツ を もって いる ので、 その ため に カンリニン に よろこばれて、 その シセイカツ の ランミャクサ ハイトクセイ など は モンダイ に なった こと が イチド も ない。 アパート の ハンスウ イジョウ は グンジュ コウジョウ の リョウ と なり、 そこ にも ジョシ テイシンタイ の シュウダン が すんで いて、 ナニ カ の ダレ さん の アイジン だの カチョウ ドノ の センジ フジン (と いう の は つまり ホンモノ の フジン は ソカイチュウ と いう こと だ) だの ジュウヤク の ニゴウ だの カイシャ を やすんで ゲッキュウ だけ もらって いる ニンシンチュウ の テイシンタイ だの が いる の で ある。 ナカ に ヒトリ 500 エン の メカケ と いう の が イッコ を かまえて いて センボウ の マト で あった。 ヒトゴロシ が ショウバイ だった と いう シナ ロウニン (この イモウト は シタテヤ の デシ) の トナリ は シアツ の センセイ で、 その トナリ は シタテヤ ギンジ の ナガレ を くむ その ミチ の タツジン だ と いう こと で あり、 その ウラ に カイグン ショウイ が いる の だ が、 マイニチ サカナ を くい コーヒー を のみ カンヅメ を あけ サケ を のみ、 この アタリ は 1 シャク ほる と ミズ が でる ので、 ボウクウゴウ の ツクリヨウ も ない と いう のに、 ショウイ だけ は セメント を もちいて ジタク より も リッパ な ボウクウゴウ を もって いた。 また、 イザワ が ツウキン に とおる ミチスジ の ヒャッカテン (モクゾウ 2 カイ-ダテ) は センソウ で ショウヒン が なく キュウギョウチュウ だ が、 2 カイ では レンジツ トバ が カイチョウ されて おり、 その カオヤク は イクツ か の コクミン サカバ を センリョウ して ギョウレツ の ジンミン ども を にらみつけて レンジツ デイスイ して いた。
イザワ は ダイガク を ソツギョウ する と シンブン キシャ に なり、 つづいて ブンカ エイガ の エンシュツカ (まだ ミナライ で タンドク エンシュツ した こと は ない) に なった オトコ で、 27 の ネンレイ に くらべれば ウラガワ の ジンセイ に いくらか チシキ は ある はず で、 セイジカ、 グンジン、 ジツギョウカ、 ゲイニン など の ウチマク に タショウ の ショウソク は こころえて いた が、 バスエ の ショウコウジョウ と アパート に とりかこまれた ショウテンガイ の セイタイ が こんな もの だ とは ソウゾウ も して いなかった。 センソウ イライ ジンシン が すさんだ せい だろう と きいて みる と、 いえ、 ナン です よ、 この ヘン じゃ、 せんから こんな もの でした ねえ、 と シタテヤ は テツガクシャ の よう な オモモチ で しずか に こたえる の で あった。
けれども サイダイ の ジンブツ は イザワ の リンジン で あった。
この リンジン は キチガイ だった。 ソウトウ の シサン が あり、 わざわざ ロジ の ドンゾコ を えらんで イエ を たてた の も キチガイ の ココロヅカイ で、 ドロボウ ないし ムヨウ の モノ の シンニュウ を キョクド に きらった ケッカ だろう と おもわれる。 なぜなら、 ロジ の ドンゾコ に たどりつき この イエ の モン を くぐって みまわす けれども トグチ と いう もの が ない から で、 みわたす かぎり コウシ の はまった マド ばかり、 この イエ の ゲンカン は モン と セイハンタイ の ウラガワ に あって、 ようするに イッペン ぐるり と タテモノ を まわった うえ で ない と たどりつく こと が できない。 ムヨウ の シンニュウシャ は サジ を なげて ひきさがる シクミ で あり、 ないしは ゲンカン を さがして うろつく うち に ナニモノ か の シンニュウ を みやぶって ケイカイ カンセイ に はいる と いう シクミ でも あって、 リンジン は ウキヨ の ゾクブツ ども を このんで いない の だ。 この イエ は そうとう マカズ の ある 2 カイ-ダテ で あった が、 ナイブ の シカケ に ついて は モノシリ の シタテヤ も オオク を しらなかった。
キチガイ は 30 ゼンゴ で、 ハハオヤ が あり、 25~26 の ニョウボウ が あった。 ハハオヤ だけ は ショウキ の ニンゲン の ブルイ に ぞくして いる はず だ と いう ハナシ で あった が、 キョウド の ヒステリー で、 ハイキュウ に フフク が ある と ハダシ で チョウカイ へ のりこんで くる チョウナイ ユイイツ の ジョケツ で あり、 キチガイ の ニョウボウ は ハクチ で あった。 ある サチ おおき トシ の こと、 キチガイ が ホッシン して シロショウゾク に ミ を かため シコク ヘンロ に たびだった が、 その とき シコク の どこかしら で ハクチ の オンナ と イキ トウゴウ し、 ヘンロ ミヤゲ に ニョウボウ を つれて もどって きた。 キチガイ は フウサイ どうどう たる コウダンシ で あり、 ハクチ の ニョウボウ は これ も しかるべき イエガラ の しかるべき ムスメ の よう な ヒン の ヨサ で、 メ の ほそぼそ と うっとうしい、 ウリザネガオ の コフウ の ニンギョウ か ノウメン の よう な うつくしい カオダチ で、 フタリ ならべて ながめた だけ では、 ビナン ビジョ、 それ も そうとう キョウヨウ シンエン な コウイッツイ と しか みうけられない。 キチガイ は ド の つよい キンガンキョウ を かけ、 つねに マンガン の ドクショ に つかれた よう な うれわしげ な カオ を して いた。
ある ヒ この ロジ で ボウクウ エンシュウ が あって オカミサン たち が カツヤク して いる と、 キナガシ スガタ で げたげた わらいながら ケンブツ して いた の が この オトコ で、 そのうち にわか に ボウクウ フクソウ に きかえて あらわれて ヒトリ の バケツ を ひったくった か と おもう と、 えい とか、 やー とか、 ほーほー と いう スウ-シュルイ の キミョウ な コエ を かけて ミズ を くみ ミズ を なげ、 ハシゴ を かけて ヘイ に のぼり ヤネ に のぼり、 ヤネ の ウエ から ゴウレイ を かけ、 やがて イチジョウ の エンゼツ (クンジ) を はじめた。 イザワ は この とき に いたって はじめて キチガイ で ある こと に きづいた ので、 この リンジン は ときどき カキネ から シンニュウ して きて シタテヤ の ブタゴヤ で ザンパン の バケツ を ぶちまけ、 ついでに アヒル に イシ を ぶつけ、 ぜんぜん なに くわぬ カオ を して ニワトリ に エサ を やりながら とつぜん けとばしたり する の で あった が、 ソウトウ の ジンブツ と かんがえて いた ので、 しずか に モクレイ など を とりかわして いた の で あった。
だが、 キチガイ と ジョウジン と どこ が ちがって いる と いう の だ。 ちがって いる と いえば、 キチガイ の ほう が ジョウジン より も ホンシツテキ に つつしみぶかい ぐらい の もの で、 キチガイ は わらいたい とき に げたげた わらい、 エンゼツ したい とき に エンゼツ を やり、 アヒル に イシ を ぶつけたり、 2 ジカン ぐらい ブタ の カオ や シリ を つついて いたり する。 けれども カレラ は ホンシツテキ に はるか に ヒトメ を おそれて おり、 シセイカツ の シュヨウ な ブブン は とくべつ サイシン の チュウイ を はらって タニン から ゼツエン しよう と フシン して いる。 モン から ぐるり と ヒトマワリ して ゲンカン を つけた の も その ため で あり、 カレラ の シセイカツ は がいして モノオト が すくなく、 タ に たいして ムヨウ なる ジョウゼツ に とぼしく、 シサクテキ な もの で あった。 ロジ の カタガワ は アパート で イザワ の コヤ に のしかかる よう に ネンジュウ ミズ の ながれる オト と ニョウボウ ども の ゲヒン な コエ が あふれて おり、 シマイ の インバイ が すんで いて、 アネ に キャク の ある ヨル は イモウト が ロウカ を あるきつづけて おり、 イモウト に キャク の ある とき は アネ が シンヤ の ロウカ を あるいて いる。 キチガイ が げたげた わらう と いう だけ で ヒトビト は ベツ の ジンシュ だ と おもって いた。
ハクチ の ニョウボウ は とくべつ しずか で おとなしかった。 ナニ か おどおど と クチ の ナカ で いう だけ で、 その コトバ は よく ききとれず、 コトバ の ききとれる とき でも イミ が はっきり しなかった。 リョウリ も、 コメ を たく こと も しらず、 やらせれば できる の かも しれない が、 ヘマ を やって おこられる と おどおど して ますます ヘマ を やる ばかり、 ハイキュウブツ を とり に いって も ジシン では なにも できず、 ただ たって いる と いう だけ で、 みんな キンジョ の モノ が して くれる の だ。 キチガイ の ニョウボウ です もの ハクチ でも トウゼン、 その うえ の ヨク を いって は いけますまい と ヒトビト が いう が、 ハハオヤ は だいの フフク で、 オンナ が ゴハン ぐらい たけなくって、 と おこって いる。 それでも ツネ は タシナミ の ある ヒン の よい バアサン なの だ が、 ナニ が さて ヒトカタ ならぬ ヒステリー で、 くるいだす と キチガイ イジョウ に ドウモウ で 3 ニン の キチガイ の ウチ バアサン の キョウカン が ずぬけて さわがしく ビョウテキ だった。 ハクチ の オンナ は おびえて しまって、 ナニゴト も ない ヘイワ な ヒビ で すら つねに おどおど し、 ヒト の アシオト にも ぎくり と して、 イザワ が やあ と アイサツ する と かえって ぼんやり して たちすくむ の で あった。
ハクチ の オンナ も ときどき ブタゴヤ へ やって きた。 キチガイ の ほう は ワガヤ の ごとく に どうどう と シンニュウ して きて アヒル に イシ を ぶつけたり ブタ の ホッペタ を つきまわしたり して いる の だ が、 ハクチ の オンナ は オト も なく カゲ の ごとく に にげこんで きて ブタゴヤ の カゲ に イキ を ひそめて いる の で あった。 いわば ここ は カノジョ の タイヒジョ で、 そういう とき には たいがい リンカ で オサヨ さん オサヨ さん と よぶ バアサン の チョウルイ-テキ な サケビ が おこり、 その たび に ハクチ の カラダ は すくんだり かたむいたり ハンキョウ を おこし、 しかたなく うごきだす には ムシ の テイコウ の ウゴキ の よう な ながい ハンプク が ある の で あった。
シンブン キシャ だの ブンカ エイガ の エンシュツカ など は センギョウ-チュウ の センギョウ で あった。 カレラ の こころえて いる の は ジダイ の リュウコウ と いう こと だけ で、 うごく ジカン に のりおくれまい と する こと だけ が セイカツ で あり、 ジガ の ツイキュウ、 コセイ や ドクソウ と いう もの は この セカイ には ソンザイ しない。 カレラ の ニチジョウ の カイワ の ナカ には カイシャイン だの カンリ だの ガッコウ の キョウシ に くらべて、 ジガ だの ニンゲン だの コセイ だの ドクソウ だの と いう コトバ が ハンラン しすぎて いる の で あった が、 それ は コトバ の ウエ だけ の ソンザイ で あり、 アリガネ を はたいて オンナ を くどいて フツカヨイ の クツウ が ニンゲン の ナヤミ だ と いう よう な ばかばかしい もの なの だった。 ああ ヒノマル の カンゲキ だの、 ヘイタイ さん よ ありがとう、 おもわず メガシラ が あつく なったり、 ずど ずど ずど は バクゲキ の オト、 ムガ ムチュウ で チジョウ に ふし、 ぱん ぱん ぱん は キジュウ の オト、 およそ セイシン の タカサ も なければ 1 ギョウ の ジッカン すら も ない カクウ の ブンショウ に ウキミ を やつし、 エイガ を つくり、 センソウ の ヒョウゲン とは そういう もの だ と おもいこんで いる。 また ある モノ は グンブ の ケンエツ で カキヨウ が ない と いう けれども、 ホカ に シンジツ の ブンショウ の ココロアタリ が ある わけ で なく、 ブンショウ ジタイ の シンジツ や ジッカン は ケンエツ など には カンケイ の ない ソンザイ だ。 ようするに いかなる ジダイ にも この レンチュウ には ナイヨウ が なく クウキョ な ジガ が ある だけ だ。 リュウコウ-シダイ で ミギ から ヒダリ へ どう に でも なり、 ツウゾク ショウセツ の ヒョウゲン など から オテホン を まなんで ジダイ の ヒョウゲン だ と おもいこんで いる。 じじつ ジダイ と いう もの は ただ それ だけ の センパク グレツ な もの でも あり、 ニホン 2000 ネン の レキシ を くつがえす この センソウ と ハイボク が はたして ニンゲン の シンジツ に なんの カンケイ が あった で あろう か。 もっとも ナイセイ の キハク な イシ と シュウグ の モウドウ だけ に よって イッコク の ウンメイ が うごいて いる。 ブチョウ だの シャチョウ の マエ で コセイ だの ドクソウ だの と いいだす と カオ を そむけて バカ な ヤツ だ と いう ゲンガイ の ヒョウジ を みせて、 ヘイタイ さん よ ありがとう、 ああ ヒノマル の カンゲキ、 おもわず メガシラ が あつく なり、 OK、 シンブン キシャ とは それ だけ で、 じじつ、 ジダイ ソノモノ が それ だけ だ。
シダンチョウ カッカ の クンジ を 3 プン-カン も かかって ながなが と うつす ヒツヨウ が あります か、 ショッコウ たち の マイアサ の ノリト の よう な へんてこ な ウタ を イチ から ジュウ まで うつす ヒツヨウ が ある の です か、 と きいて みる と、 ブチョウ は ぷいと カオ を そむけて シタウチ して、 やにわに ふりむく と キチョウヒン の タバコ を ぐしゃり ハイザラ へ おしつぶして にらみつけて、 おい、 ドトウ の ジダイ に ビ が ナニモノ だい、 ゲイジュツ は ムリョク だ! ニュース だけ が シンジツ なん だ! と どなる の で あった。 エンシュツカ ども は エンシュツカ ども で、 キカク ブイン は キカク ブイン で、 トトウ を くみ、 トクガワ ジダイ の ナガワキザシ と おなじ よう な ジョウギ の セカイ を つくりだし ギリ ニンジョウ で サイノウ を ショリ して、 カイシャイン より も カイシャイン-テキ な ジュンバン セイド を つくって いる。 それ に よって カクジ の ボンヨウサ を ヨウゴ し、 ゲイジュツ の コセイ と テンサイ に よる ソウハ を ザイアクシ し クミアイ イハン と こころえて、 ソウゴ フジョ の セイシン に よる サイノウ の ヒンコン の キュウサイ ソシキ を カンビ して いた。 ウチ に あって は サイノウ の ヒンコン の キュウサイ ソシキ で ある けれども ソト に いでて は アルコール の カクトク ソシキ で、 この トトウ は コクミン サカバ を センリョウ し 3~4 ホン ずつ ビール を のみ よっぱらって ゲイジュツ を ろんじて いる。 カレラ の ボウシ や チョウハツ や ネクタイ や ブルース は ゲイジュツカ で あった が、 カレラ の タマシイ や コンジョウ は カイシャイン より も カイシャイン-テキ で あった。 イザワ は ゲイジュツ の ドクソウ を しんじ、 コセイ の ドクジセイ を あきらめる こと が できない ので、 ギリ ニンジョウ の セイド の ナカ で アンソク する こと が できない ばかり か、 その ボンヨウサ と テイゾク ヒレツ な タマシイ を にくまず に いられなかった。 カレ は トトウ の ノケモノ と なり、 アイサツ して も ヘンジ も されず、 ナカ には にらむ モノ も ある。 おもいきって シャチョウシツ へ のりこんで、 センソウ と ゲイジュツセイ の ヒンコン と に リロンジョウ の ヒツゼンセイ が あります か、 それとも グンブ の イシ です か。 ただ ゲンジツ を うつす だけ なら カメラ と ユビ が 2~3 ボン ある だけ で タクサン です よ。 いかなる アングル に よって これ を サイダン し ゲイジュツ に コウセイ する か と いう トクベツ な シメイ の ため に ワレワレ ゲイジュツカ の ソンザイ が―― シャチョウ は トチュウ に カオ を そむけて にがりきって タバコ を ふかし、 オマエ は なぜ カイシャ を やめない の か、 チョウヨウ が こわい から か、 と いう カオツキ で クショウ を はじめ、 カイシャ の キカクドオリ セケンナミ の シゴト に セイ を だす だけ で、 それ で ゲッキュウ が もらえる なら ヨケイ な こと を かんがえるな、 ナマイキ-すぎる と いう カオツキ に なり、 ヒトコト も ヘンジ せず に、 かえれ と いう ミブリ を しめす の で あった。 センギョウ-チュウ の センギョウ で なくて ナニモノ で あろう か。 ひとおもいに ヘイタイ に とられ、 かんがえる クルシサ から すくわれる なら、 テキダン も キガ も むしろ タイヘイラク の よう に すら おもわれる とき が ある ほど だった。
イザワ の カイシャ では 「ラバウル を おとすな」 とか 「ヒコウキ を ラバウル へ!」 とか キカク を たて コンテ を つくって いる うち に テキ は もう ラバウル を とおりこして サイパン に ジョウリク して いた。 「サイパン ケッセン!」 キカク カイギ も おわらぬ うち に サイパン ギョクサイ、 その サイパン から テッキ が ズジョウ に とびはじめて いる。 「ショウイダン の ケシカタ」 「ソラ の タイアタリ」 「ジャガイモ の ツクリカタ」 「1 キ も いきて かえす まじ」 「セツデン と ヒコウキ」 フシギ な ジョウネツ で あった。 そこしれぬ タイクツ を うえつける キミョウ な エイガ が つぎつぎ と つくられ、 ナマ フィルム は ケツボウ し、 うごく カメラ は すくなく なり、 ゲイジュツカ たち の ジョウネツ は ハクネツテキ に キョウソウ し 「カミカゼ トッコウタイ」 「ホンド ケッセン」 「ああ サクラ は ちりぬ」 ナニモノ か に つかれた ごとく カレラ の シジョウ は コウフン して いる。 そして あおざめた カミ の ごとく タイクツ ムゲン の エイガ が つくられ、 アス の トウキョウ は ハイキョ に なろう と して いた。
イザワ の ジョウネツ は しんで いた。 アサ メ が さめる。 キョウ も カイシャ へ いく の か と おもう と ねむく なり、 うとうと する と ケイカイ ケイホウ が なりひびき、 おきあがり ゲートル を まき タバコ を 1 ポン ぬきだして ヒ を つける。 ああ カイシャ を やすむ と この タバコ が なくなる の だな、 と かんがえる の で あった。
ある バン、 おそく なり、 ようやく シュウデン に とりつく こと の できた イザワ は、 すでに シセン が なかった ので、 ソウトウ の ヨミチ を あるいて ワガヤ へ もどって きた。 アカリ を つける と キミョウ に マンネンドコ の スガタ が みえず、 ルスチュウ ダレ か が ソウジ を した と いう こと も、 ダレ か が はいった こと すら も レイ が ない ので、 いぶかりながら オシイレ を あける と、 つみかさねた フトン の ヨコ に ハクチ の オンナ が かくれて いた。 フアン の メ で イザワ の カオイロ を うかがい フトン の アイダ へ カオ を もぐらして しまった が、 イザワ の おこらぬ こと を しる と、 アンド の ため に シタシサ が あふれ、 あきれる ぐらい おちついて しまった。 クチ の ナカ で ぶつぶつ と つぶやく よう に しか モノ を いわず、 その ツブヤキ も こっち の たずねる こと と なんの カンケイ も ない こと を ああ いい また こう いい ジブン ジシン の おもいつめた こと だけ を それ も しごく ばくぜん と ヨウヤク して ダンペンテキ に いいつづって いる。 イザワ は とわず に ジジョウ を さとり、 たぶん しかられて おもいあまって にげこんで きた の だろう と おもった から、 ムエキ な オビエ を なるべく あたえぬ ハイリョ に よって シツモン を ショウリャク し、 イツゴロ どこ から はいって きた か と いう こと だけ を たずねる と、 オンナ は ワケ の わからぬ こと を あれこれ ぶつぶつ いった アゲク、 カタウデ を まくりあげて、 その 1 カショ を なでて (そこ には カスリキズ が ついて いた) ワタシ、 いたい の、 とか、 イマ も いたむ の、 とか、 サッキ も いたかった の、 とか、 いろいろ ジカン を こまかく くぎって いって いる ので、 ともかく ヨル に なって から マド から はいった こと が わかった。 ハダシ で ソト を あるきまわって はいって きた から ヘヤ を ドロ で よごした、 ごめんなさい ね、 と いう イミ も いった けれども、 あれこれ ムスウ の フクロコウジ を うろつきまわる ツブヤキ の ナカ から イミ を まとめて ハンダン する ので、 ごめんなさい ね、 が どの ミチ に レンラク して いる の だ か ケッテイテキ な ハンダン は できない の だった。
シンヤ に リンジン を たたきおこして おびえきった オンナ を かえす の も やりにくい こと で あり、 さりとて ヨ が あけて オンナ を かえして イチヤ とめた と いう こと が いかなる ゴカイ を うみだす か、 アイテ が キチガイ の こと だ から ソウゾウ すら も つかなかった。 ままよ、 イザワ の ココロ には キミョウ な ユウキ が わいて きた。 その ジッタイ は セイカツジョウ の カンジョウ ソウシツ に たいする コウキシン と シゲキ との ミリョク に ひかれた だけ の もの で あった が、 どう に でも なる が いい、 ともかく この ゲンジツ を ヒトツ の シレン と みる こと が オレ の イキカタ に ヒツヨウ な だけ だ、 ハクチ の オンナ の イチヤ を ホゴ する と いう ガンゼン の ギム イガイ に ナニ を かんがえ ナニ を おそれる ヒツヨウ も ない の だ と ジブン ジシン に いいきかした。 カレ は この トウトツ センバン な デキゴト に へんに カンドウ して いる こと を はず べき こと では ない の だ と ジブン ジシン に いいきかせて いた。
フタツ の ネドコ を しき オンナ を ねせて デントウ を けして 1~2 フン も した か と おもう と、 オンナ は キュウ に おきあがり ネドコ を ぬけでて、 ヘヤ の どこ か カタスミ に うずくまって いる らしい。 それ が もし マフユ で なければ イザワ は しいて こだわらず ねむった かも しれなかった が、 とくべつ さむい ヨフケ で、 ヒトリ ブン の ネドコ を フタリ に ブンカツ した だけ でも ガイキ が じかに ハダ に せまり カラダ の フルエ が とまらぬ ぐらい つめたかった。 おきあがって デントウ を つける と、 オンナ は トグチ の ところ に エリ を かきあわせて うずくまって おり、 まるで ニゲバ を うしなって おいつめられた メ の イロ を して いる。 どうした の、 ねむりなさい、 と いえば あっけない ほど すぐ うなずいて ふたたび ネドコ に もぐりこんだ が、 デンキ を けして 1~2 フン も する と、 また、 おなじ よう に おきて しまう。 それ を ネドコ へ つれもどして、 シンパイ する こと は ない、 ワタシ は アナタ の カラダ に テ を ふれる よう な こと は しない から、 と いいきかせる と、 オンナ は おびえた メツキ を して ナニ か イイワケ-じみた こと を クチ の ナカ で ぶつぶつ いって いる の で あった。 そのまま ミタビ-メ の デンキ を けす と、 コンド は オンナ は すぐ おきあがり、 オシイレ の ト を あけて ナカ へ はいって ウチガワ から ト を しめた。
この シツヨウ な ヤリカタ に イザワ は ハラ を たてた。 てあらく オシイレ を あけはなして、 アナタ は ナニ を カンチガイ を して いる の です か、 あれほど セツメイ も して いる のに オシイレ へ はいって ト を しめる など とは ヒト を ブジョク する も はなはだしい、 それほど シンヨウ できない ウチ へ なぜ にげこんで きた の です か、 それ は ヒト を グロウ し、 ワタシ の ジンカク に フトウ な ハジ を あたえ、 まるで アナタ が ナニ か ヒガイシャ の よう では ありません か、 チャバン も イイカゲン に したまえ。 けれども その コトバ の イミ も この オンナ には リカイ する ノウリョク すら も ない の だ と おもう と、 これ くらい ハリアイ の ない バカバカシサ も ない もの で、 オンナ の ヨコッツラ を なぐりつけて さっさと ねむる ほう が ナニ より キ が きいて いる と おもう の だった。 すると オンナ は ミョウ に わりきれぬ カオツキ を して ナニ か クチ の ナカ で ぶつぶつ いって いる。 ワタシ は かえりたい、 ワタシ は こなければ よかった、 と いう イミ の コトバ で ある らしい。 でも ワタシ は もう かえる ところ が なくなった から、 と いう ので、 その コトバ には イザワ も さすが に ムネ を つかれて、 だから アンシン して ここ で イチヤ を あかしたら いい でしょう、 ワタシ が アクイ を もたない のに まるで ヒガイシャ の よう な おもいあがった こと を する から ハラ を たてた だけ の こと です。 オシイレ の ナカ など に はいらず に フトン の ナカ で おやすみなさい。 すると オンナ は イザワ を みつめて ナニ か ハヤクチ に ぶつぶつ いう。 え? ナン です か、 そして イザワ は とびあがる ほど おどろいた。 なぜなら オンナ の ぶつぶつ の ナカ から、 ワタシ は アナタ に きらわれて います もの、 と いう ヒトコト が はっきり ききとれた から で ある。 え、 なんですって? イザワ が おもわず メ を みひらいて ききかえす と、 オンナ の カオ は しょうぜん と して、 ワタシ は こなければ よかった、 ワタシ は きらわれて いる、 ワタシ は そう は おもって いなかった、 と いう イミ の こと を くどくど と いい、 そして あらぬ 1 カショ を みつめて ホウシン して しまった。
イザワ は はじめて リョウカイ した。
オンナ は カレ を おそれて いる の では なかった の だ。 まるで ジタイ は アベコベ だ。 オンナ は しかられて ニゲバ に きゅうして それ だけ の リユウ に よって きた の では ない。 イザワ の アイジョウ を モクサン に いれて いた の で あった。 だが いったい オンナ が イザワ の アイジョウ を しんじる こと が おこりうる よう な ナニゴト が あった で あろう か。 ブタゴヤ の アタリ や ロジ や ロジョウ で やあ と いって 4~5 ヘン アイサツ した ぐらい、 おもえば スベテ が トウトツ で まったく チャバン に ほかならず、 イザワ の マエ に ハクチ の イシ や カンジュセイ や、 ともかく ニンゲン イガイ の もの が キョウヨウ されて いる だけ だった。 デントウ を けして 1~2 フン たち オトコ の テ が オンナ の カラダ に ふれない ため に きらわれた ジカク を いだいて、 その ハズカシサ に フトン を ぬけだす と いう こと が、 ハクチ の バアイ は それ が しんじつ ヒツウ な こと で ある の か、 イザワ が それ を しんじて いい の か、 これ も はっきり は わからない。 ついには オシイレ へ とじこもる。 それ が ハクチ の チジョク と ジヒ の ヒョウゲン と かいして いい の か、 それ を ハンダン する ため の コトバ すら も ない の だ から、 ジタイ は ともかく カレ が ハクチ と ドウカク に なりさがる イガイ に ホウ が ない。 なまじい に ニンゲン-らしい フンベツ が、 なぜ ヒツヨウ で あろう か。 ハクチ の ココロ の スナオサ を カレ ジシン も また もつ こと が ニンゲン の チジョク で あろう か。 オレ にも この ハクチ の よう な ココロ、 おさない、 そして すなお な ココロ が ナニ より ヒツヨウ だった の だ。 オレ は それ を どこ か へ わすれ、 ただ あくせく した ニンゲン ども の シコウ の ナカ で、 うすぎたなく よごれ、 キョモウ の カゲ を おい、 ひどく つかれて いた だけ だ。
カレ は オンナ を ネドコ へ ねせて、 その マクラモト に すわり、 ジブン の コドモ、 ミッツ か ヨッツ の ちいさな ムスメ を ねむらせる よう に ヒタイ の カミノケ を なでて やる と、 オンナ は ぼんやり メ を あけて、 それ が まったく おさない コドモ の ムシンサ と かわる ところ が ない の で あった。 ワタシ は アナタ を きらって いる の では ない、 ニンゲン の アイジョウ の ヒョウゲン は けっして ニクタイ だけ の もの では なく、 ニンゲン の サイゴ の スミカ は フルサト で、 アナタ は いわば つねに その フルサト の ジュウニン の よう な もの なの だ から、 など と イザワ も ハジメ は ミョウ に しかつめらしく そんな こと も いいかけて みた が、 もとより それ が つうじる わけ では ない の だし、 いったい コトバ が ナニモノ で あろう か、 ナニホド の ネウチ が ある の だろう か、 ニンゲン の アイジョウ すら も それ だけ が シンジツ の もの だ と いう なんの アカシ も ありえない、 セイ の ジョウネツ を たくす に たる シンジツ な もの が はたして どこ に ありうる の か、 スベテ は キョモウ の カゲ だけ だ。 オンナ の カミノケ を なでて いる と、 ドウコク したい オモイ が こみあげ、 さだまる カゲ すら も ない この とらえがたい ちいさな アイジョウ が ジブン の イッショウ の シュクメイ で ある よう な、 その シュクメイ の カミノケ を ムシン に なでて いる よう な せつない オモイ に なる の で あった。
この センソウ は いったい どう なる の で あろう。 ニホン は まけ、 テキ は ホンド に ジョウリク して、 ニホンジン の タイハン は シメツ して しまう の かも しれない。 それ は もう ヒトツ の チョウシゼン の ウンメイ、 いわば テンメイ の よう に しか おもわれなかった。 カレ には しかし もっと ヒショウ な モンダイ が あった。 それ は おどろく ほど ヒショウ な モンダイ で、 しかも メ の サキ に さしせまり、 つねに ちらついて はなれなかった。 それ は カレ が カイシャ から もらう 200 エン ほど の キュウリョウ で、 その キュウリョウ を いつまで もらう こと が できる か、 アス にも クビ に なり ロトウ に まよい は しない か と いう フアン で あった。 カレ は ゲッキュウ を もらう とき、 ドウジ に クビ の センコク を うけ は しない か と びくびく し、 ゲッキュウブクロ を うけとる と ヒトツキ のびた イノチ の ため に あきれる ぐらい コウフクカン を あじわう の だ が、 その ヒショウサ を かえりみて いつも なきたく なる の で あった。 カレ は ゲイジュツ を ゆめみて いた。 その ゲイジュツ の マエ では ただ ヒトツブ の ジンアイ で しか ない よう な 200 エン の キュウリョウ が、 どうして ホネミ に からみつき セイゾン の コンテイ を ゆさぶる よう な おおきな クモン に なる の で あろう か。 セイカツ の ガイケイ のみ の こと では なく その セイシン も タマシイ も 200 エン に ゲンテイ され、 その ヒショウサ を ギョウシ して キ も ちがわず に へいぜん と して いる こと が なおさら なさけなく なる ばかり で あった。 ドトウ の ジダイ に ビ が ナニモノ だい、 ゲイジュツ は ムリョク だ! と いう ブチョウ の ばかばかしい オオゴエ が、 イザワ の ムネ に まるで ちがった シンジツ を こめ するどい そして キョダイ な チカラ で くいこんで くる。 ああ ニホン は まける。 ドロニンギョウ の くずれる よう に ドウホウ たち が ばたばた たおれ、 ふきあげる コンクリート や レンガ の クズ と イッショクタ に ムスウ の アシ だの クビ だの ウデ だの まいあがり、 キ も タテモノ も なにも ない たいら な ボチ に なって しまう。 どこ へ にげ、 どの アナボコ へ おいつめられ、 どこ で アナ もろとも ふきとばされて しまう の だ か、 ユメ の よう な、 けれども それ は もし いきのこる こと が できたら、 その シンセン な サイセイ の ため に、 そして ぜんぜん ヨソク の つかない シンセカイ、 イシクズ-だらけ の ノハラ の ウエ の セイカツ の ため に、 イザワ は むしろ コウキシン が うずく の だった。 それ は ハントシ か 1 ネン サキ の とうぜん おとずれる ウンメイ だった が、 その オトズレ の トウゼンサ にも かかわらず、 ユメ の ナカ の セカイ の よう な はるか な タワムレ に しか イシキ されて いなかった。 メ の サキ の スベテ を ふさぎ、 いきる キボウ を ねこそぎ さらいさる たった 200 エン の ケッテイテキ な チカラ、 ユメ の ナカ に まで 200 エン に クビ を しめられ、 うなされ、 まだ 27 の セイシュン の あらゆる ジョウネツ が ヒョウハク されて、 ゲンジツ に すでに アンコク の コウヤ の ウエ を ぼうぼう と あるく だけ では ない か。
イザワ は オンナ が ほしかった。 オンナ が ほしい と いう コエ は イザワ の サイダイ の キボウ で すら あった のに、 その オンナ との セイカツ が 200 エン に ゲンテイ され、 ナベ だの カマ だの ミソ だの コメ だの みんな 200 エン の ジュモン を おい、 200 エン の ジュモン に つかれた コドモ が うまれ、 オンナ が まるで テサキ の よう に ジュモン に つかれた オニ と かして ヒビ ぶつぶつ つぶやいて いる。 ムネ の トモシビ も ゲイジュツ も キボウ の ヒカリ も みんな きえて、 セイカツ ジタイ が ミチバタ の バフン の よう に ぐちゃぐちゃ に ふみしだかれて、 かわきあがって カゼ に ふかれて とびちり アトカタ も なくなって いく。 ツメ の アト すら、 なくなって いく。 オンナ の セ には そういう ジュモン が からみついて いる の で あった。 やりきれない ヒショウ な セイカツ だった。 カレ ジシン には この ゲンジツ の ヒショウサ を さばく チカラ すら も ない。 ああ センソウ、 この イダイ なる ハカイ、 キミョウ キテレツ な コウヘイサ で みんな さばかれ ニホンジュウ が イシクズ-だらけ の ノハラ に なり ドロニンギョウ が ばたばた たおれ、 それ は キョム の なんと いう せつない キョダイ な アイジョウ だろう か。 ハカイ の カミ の ウデ の ナカ で カレ は ねむりこけたく なり、 そして カレ は ケイホウ が なる と むしろ いきいき して ゲートル を まく の で あった。 セイメイ の フアン と あそぶ こと だけ が マイニチ の イキガイ だった。 ケイホウ が カイジョ に なる と がっかり して、 ゼツボウテキ な カンジョウ の ソウシツ が また はじまる の で あった。
この ハクチ の オンナ は コメ を たく こと も ミソシル を つくる こと も しらない。 ハイキュウ の ギョウレツ に たって いる の が せいいっぱい で、 しゃべる こと すら も ジユウ では ない の だ。 まるで もっとも うすい 1 マイ の ガラス の よう に キド アイラク の ビフウ に すら ハンキョウ し、 ホウシン と オビエ の シワ の アイダ へ ヒト の イシ を うけいれ ツウカ させて いる だけ だ。 200 エン の アクリョウ すら も、 この タマシイ には やどる こと が できない の だ。 この オンナ は まるで オレ の ため に つくられた かなしい ニンギョウ の よう では ない か。 イザワ は この オンナ と だきあい、 くらい コウヤ を ひょうひょう と カゼ に ふかれて あるいて いる ムゲン の タビジ を メ に えがいた。
それ にも かかわらず、 その ソウネン が ナニ か トッピ に かんじられ、 トホウ も ない ばかげた こと の よう に おもわれる の は、 そこ にも また ヒショウ きわまる ニンゲン の カラ が ココロ の シン を むしばんで いる せい なの だろう。 そして それ を しりながら、 しかも なお、 わきでる よう な この ソウネン と アイジョウ の スナオサ が ぜんぜん キョモウ の もの に しか かんじられない の は なぜ だろう。 ハクチ の オンナ より も あの アパート の インバイフ が、 そして どこ か の キフジン が より ニンゲンテキ だ と いう ナニ か ホンシツテキ な オキテ が ある の だろう か。 けれども まるで その オキテ が げん と して ソンザイ して いる ばかばかしい アリサマ なの で あった。
オレ は ナニ を おそれて いる の だろう か。 まるで あの 200 エン の アクリョウ が―― オレ は イマ この オンナ に よって その アクリョウ と ゼツエン しよう と して いる のに、 そのくせ やはり アクリョウ の ジュモン に よって しばりつけられて いる では ない か。 おそれて いる の は ただ セケン の ミエ だけ だ。 その セケン とは アパート の インバイフ だの メカケ だの ニンシン した テイシンタイ だの アヒル の よう な ハナ に かかった コエ を だして わめいて いる オカミサン たち の ギョウレツ カイギ だけ の こと だ。 その ホカ に セケン など は どこ にも あり は しない のに、 そのくせ この わかりきった ジジツ を オレ は ぜんぜん しんじて いない。 フシギ な オキテ に おびえて いる の だ。
それ は おどろく ほど みじかい (ドウジ に それ は ムゲン に ながい ) イチヤ で あった。 ながい ヨル の まるで ムゲン の ツヅキ だ と おもって いた のに、 いつかしら ヨ が しらみ、 ヨアケ の カンキ が カレ の ゼンシン を カンカク の ない イシ の よう に かたまらせて いた。 カレ は オンナ の マクラモト で、 ただ カミノケ を なでつづけて いた の で あった。
サカグチ アンゴ
その イエ には ニンゲン と ブタ と イヌ と ニワトリ と アヒル が すんで いた が、 まったく、 すむ タテモノ も オノオノ の タベモノ も ほとんど かわって い や しない。 モノオキ の よう な ひんまがった タテモノ が あって、 カイカ には シュジン フウフ、 テンジョウウラ には ハハ と ムスメ が マガリ して いて、 この ムスメ は アイテ の わからぬ コドモ を はらんで いる。
イザワ の かりて いる イッシツ は オモヤ から ブンリ した コヤ で、 ここ は ムカシ この イエ の ハイビョウ の ムスコ が ねて いた そう だ が、 ハイビョウ の ブタ にも ゼイタク-すぎる コヤ では ない。 それでも オシイレ と ベンジョ と トダナ が ついて いた。
シュジン フウフ は シタテヤ で チョウナイ の オハリ の センセイ など も やり (それゆえ ハイビョウ の ムスコ を ベツ の コヤ へ いれた の だ) チョウカイ の ヤクイン など も やって いる。 マガリ の ムスメ は がんらい チョウカイ の ジムイン だった が、 チョウカイ ジムショ に ネトマリ して いて チョウカイチョウ と シタテヤ を のぞいた タ の ヤクイン の ゼンブ の モノ (10 スウニン) と コウヘイ に カンケイ を むすんだ そう で、 その ウチ の ダレ か の タネ を やどした わけ だ。 そこで チョウカイ の ヤクイン ども が キョキン して この ヤネウラ で コドモ の シマツ を つけさせよう と いう の だ が、 セケン は ムダ が ない もの で、 ヤクイン の ヒトリ に トウフヤ が いて、 この オトコ だけ ムスメ が ニンシン して この ヤネウラ に ひそんだ ノチ も かよって きて、 けっきょく ムスメ は この オトコ の メカケ の よう に きまって しまった。 タ の ヤクイン ども は これ が わかる と さっそく キョキン を やめて しまい、 この ワカレメ の 1 カゲツ ブン の セイカツヒ は トウフヤ が フタン す べき だ と シュチョウ して、 シハライ に おうじない ヤオヤ と トケイヤ と ジヌシ と ナニヤ だ か 7~8 ニン あり (ヒトリアタリ キン 5 エン) ムスメ は イマ に いたる まで ジダンダ ふんで いる。
この ムスメ は おおきな クチ と おおきな フタツ の メノタマ を つけて いて、 そのくせ ひどく やせこけて いた。 アヒル を きらって、 ニワトリ に だけ タベモノ の ノコリ を やろう と する の だ が、 アヒル が ヨコ から まきあげる ので、 マイニチ ハラ を たてて アヒル を おっかけて いる。 おおきな ハラ と シリ を ゼンゴ に つきだして キミョウ な チョクリツ の シセイ で はしる カッコウ が アヒル に にて いる の で あった。
この ロジ の デグチ に タバコヤ が あって、 55 と いう バアサン が オシロイ つけて すんで おり、 7 ニン-メ とか 8 ニン-メ とか の ジョウフ を おいだして、 その カワリ を チュウネン の ボウズ に しよう か やはり チュウネン の ナニヤ だ か に しよう か と ハンモンチュウ の ヨシ で あり、 わかい オトコ が ウラグチ から タバコ を かい に いく と イクツ か うって くれる ヨシ で (ただし ヤミネ) センセイ (イザワ の こと) も ウラグチ から いって ごらんなさい と シタテヤ が いう の だ が、 あいにく イザワ は ツトメサキ で トクハイ が ある ので バアサン の セワ に ならず に すんで いた。
ところが その スジムカイ の コメ の ハイキュウジョ の ウラテ に コガネ を にぎった ミボウジン が すんで いて、 アニ (ショッコウ) と イモウト の フタリ の コドモ が ある の だ が、 この シンジツ の キョウダイ が フウフ の カンケイ を むすんで いる。 けれども ミボウジン は けっきょく その ほう が ヤスアガリ だ と モクニン して いる うち に、 アニ の ほう に オンナ が できた。 そこで イモウト の ほう を かたづける ヒツヨウ が あって シンセキ に あたる 50 とか 60 とか の ロウジン の ところ へ ヨメイリ と いう こと に なり、 イモウト が ネコイラズ を のんだ。 のんで おいて シタテヤ (イザワ の ゲシュク) へ オケイコ に きて くるしみはじめ、 けっきょく しんで しまった が、 その とき チョウナイ の イシャ が シンゾウ マヒ の シンダンショ を くれて ハナシ は そのまま きえて しまった。 え? どの イシャ が そんな ベンリ な シンダンショ を くれる ん です か、 と イザワ が ギョウテン して たずねる と、 シタテヤ の ほう が アッケ に とられた オモモチ で、 ナン です か、 ヨソ じゃ、 そう じゃ ない ん です か、 と きいた。
この ヘン は ヤス-アパート が リンリツ し、 それら の ヘヤ の ナンブン の 1 か は メカケ と インバイ が すんで いる。 それら の オンナ たち には コドモ が なく、 また、 オノオノ の ヘヤ を きれい に する と いう キョウツウ の セイシツ を もって いる ので、 その ため に カンリニン に よろこばれて、 その シセイカツ の ランミャクサ ハイトクセイ など は モンダイ に なった こと が イチド も ない。 アパート の ハンスウ イジョウ は グンジュ コウジョウ の リョウ と なり、 そこ にも ジョシ テイシンタイ の シュウダン が すんで いて、 ナニ カ の ダレ さん の アイジン だの カチョウ ドノ の センジ フジン (と いう の は つまり ホンモノ の フジン は ソカイチュウ と いう こと だ) だの ジュウヤク の ニゴウ だの カイシャ を やすんで ゲッキュウ だけ もらって いる ニンシンチュウ の テイシンタイ だの が いる の で ある。 ナカ に ヒトリ 500 エン の メカケ と いう の が イッコ を かまえて いて センボウ の マト で あった。 ヒトゴロシ が ショウバイ だった と いう シナ ロウニン (この イモウト は シタテヤ の デシ) の トナリ は シアツ の センセイ で、 その トナリ は シタテヤ ギンジ の ナガレ を くむ その ミチ の タツジン だ と いう こと で あり、 その ウラ に カイグン ショウイ が いる の だ が、 マイニチ サカナ を くい コーヒー を のみ カンヅメ を あけ サケ を のみ、 この アタリ は 1 シャク ほる と ミズ が でる ので、 ボウクウゴウ の ツクリヨウ も ない と いう のに、 ショウイ だけ は セメント を もちいて ジタク より も リッパ な ボウクウゴウ を もって いた。 また、 イザワ が ツウキン に とおる ミチスジ の ヒャッカテン (モクゾウ 2 カイ-ダテ) は センソウ で ショウヒン が なく キュウギョウチュウ だ が、 2 カイ では レンジツ トバ が カイチョウ されて おり、 その カオヤク は イクツ か の コクミン サカバ を センリョウ して ギョウレツ の ジンミン ども を にらみつけて レンジツ デイスイ して いた。
イザワ は ダイガク を ソツギョウ する と シンブン キシャ に なり、 つづいて ブンカ エイガ の エンシュツカ (まだ ミナライ で タンドク エンシュツ した こと は ない) に なった オトコ で、 27 の ネンレイ に くらべれば ウラガワ の ジンセイ に いくらか チシキ は ある はず で、 セイジカ、 グンジン、 ジツギョウカ、 ゲイニン など の ウチマク に タショウ の ショウソク は こころえて いた が、 バスエ の ショウコウジョウ と アパート に とりかこまれた ショウテンガイ の セイタイ が こんな もの だ とは ソウゾウ も して いなかった。 センソウ イライ ジンシン が すさんだ せい だろう と きいて みる と、 いえ、 ナン です よ、 この ヘン じゃ、 せんから こんな もの でした ねえ、 と シタテヤ は テツガクシャ の よう な オモモチ で しずか に こたえる の で あった。
けれども サイダイ の ジンブツ は イザワ の リンジン で あった。
この リンジン は キチガイ だった。 ソウトウ の シサン が あり、 わざわざ ロジ の ドンゾコ を えらんで イエ を たてた の も キチガイ の ココロヅカイ で、 ドロボウ ないし ムヨウ の モノ の シンニュウ を キョクド に きらった ケッカ だろう と おもわれる。 なぜなら、 ロジ の ドンゾコ に たどりつき この イエ の モン を くぐって みまわす けれども トグチ と いう もの が ない から で、 みわたす かぎり コウシ の はまった マド ばかり、 この イエ の ゲンカン は モン と セイハンタイ の ウラガワ に あって、 ようするに イッペン ぐるり と タテモノ を まわった うえ で ない と たどりつく こと が できない。 ムヨウ の シンニュウシャ は サジ を なげて ひきさがる シクミ で あり、 ないしは ゲンカン を さがして うろつく うち に ナニモノ か の シンニュウ を みやぶって ケイカイ カンセイ に はいる と いう シクミ でも あって、 リンジン は ウキヨ の ゾクブツ ども を このんで いない の だ。 この イエ は そうとう マカズ の ある 2 カイ-ダテ で あった が、 ナイブ の シカケ に ついて は モノシリ の シタテヤ も オオク を しらなかった。
キチガイ は 30 ゼンゴ で、 ハハオヤ が あり、 25~26 の ニョウボウ が あった。 ハハオヤ だけ は ショウキ の ニンゲン の ブルイ に ぞくして いる はず だ と いう ハナシ で あった が、 キョウド の ヒステリー で、 ハイキュウ に フフク が ある と ハダシ で チョウカイ へ のりこんで くる チョウナイ ユイイツ の ジョケツ で あり、 キチガイ の ニョウボウ は ハクチ で あった。 ある サチ おおき トシ の こと、 キチガイ が ホッシン して シロショウゾク に ミ を かため シコク ヘンロ に たびだった が、 その とき シコク の どこかしら で ハクチ の オンナ と イキ トウゴウ し、 ヘンロ ミヤゲ に ニョウボウ を つれて もどって きた。 キチガイ は フウサイ どうどう たる コウダンシ で あり、 ハクチ の ニョウボウ は これ も しかるべき イエガラ の しかるべき ムスメ の よう な ヒン の ヨサ で、 メ の ほそぼそ と うっとうしい、 ウリザネガオ の コフウ の ニンギョウ か ノウメン の よう な うつくしい カオダチ で、 フタリ ならべて ながめた だけ では、 ビナン ビジョ、 それ も そうとう キョウヨウ シンエン な コウイッツイ と しか みうけられない。 キチガイ は ド の つよい キンガンキョウ を かけ、 つねに マンガン の ドクショ に つかれた よう な うれわしげ な カオ を して いた。
ある ヒ この ロジ で ボウクウ エンシュウ が あって オカミサン たち が カツヤク して いる と、 キナガシ スガタ で げたげた わらいながら ケンブツ して いた の が この オトコ で、 そのうち にわか に ボウクウ フクソウ に きかえて あらわれて ヒトリ の バケツ を ひったくった か と おもう と、 えい とか、 やー とか、 ほーほー と いう スウ-シュルイ の キミョウ な コエ を かけて ミズ を くみ ミズ を なげ、 ハシゴ を かけて ヘイ に のぼり ヤネ に のぼり、 ヤネ の ウエ から ゴウレイ を かけ、 やがて イチジョウ の エンゼツ (クンジ) を はじめた。 イザワ は この とき に いたって はじめて キチガイ で ある こと に きづいた ので、 この リンジン は ときどき カキネ から シンニュウ して きて シタテヤ の ブタゴヤ で ザンパン の バケツ を ぶちまけ、 ついでに アヒル に イシ を ぶつけ、 ぜんぜん なに くわぬ カオ を して ニワトリ に エサ を やりながら とつぜん けとばしたり する の で あった が、 ソウトウ の ジンブツ と かんがえて いた ので、 しずか に モクレイ など を とりかわして いた の で あった。
だが、 キチガイ と ジョウジン と どこ が ちがって いる と いう の だ。 ちがって いる と いえば、 キチガイ の ほう が ジョウジン より も ホンシツテキ に つつしみぶかい ぐらい の もの で、 キチガイ は わらいたい とき に げたげた わらい、 エンゼツ したい とき に エンゼツ を やり、 アヒル に イシ を ぶつけたり、 2 ジカン ぐらい ブタ の カオ や シリ を つついて いたり する。 けれども カレラ は ホンシツテキ に はるか に ヒトメ を おそれて おり、 シセイカツ の シュヨウ な ブブン は とくべつ サイシン の チュウイ を はらって タニン から ゼツエン しよう と フシン して いる。 モン から ぐるり と ヒトマワリ して ゲンカン を つけた の も その ため で あり、 カレラ の シセイカツ は がいして モノオト が すくなく、 タ に たいして ムヨウ なる ジョウゼツ に とぼしく、 シサクテキ な もの で あった。 ロジ の カタガワ は アパート で イザワ の コヤ に のしかかる よう に ネンジュウ ミズ の ながれる オト と ニョウボウ ども の ゲヒン な コエ が あふれて おり、 シマイ の インバイ が すんで いて、 アネ に キャク の ある ヨル は イモウト が ロウカ を あるきつづけて おり、 イモウト に キャク の ある とき は アネ が シンヤ の ロウカ を あるいて いる。 キチガイ が げたげた わらう と いう だけ で ヒトビト は ベツ の ジンシュ だ と おもって いた。
ハクチ の ニョウボウ は とくべつ しずか で おとなしかった。 ナニ か おどおど と クチ の ナカ で いう だけ で、 その コトバ は よく ききとれず、 コトバ の ききとれる とき でも イミ が はっきり しなかった。 リョウリ も、 コメ を たく こと も しらず、 やらせれば できる の かも しれない が、 ヘマ を やって おこられる と おどおど して ますます ヘマ を やる ばかり、 ハイキュウブツ を とり に いって も ジシン では なにも できず、 ただ たって いる と いう だけ で、 みんな キンジョ の モノ が して くれる の だ。 キチガイ の ニョウボウ です もの ハクチ でも トウゼン、 その うえ の ヨク を いって は いけますまい と ヒトビト が いう が、 ハハオヤ は だいの フフク で、 オンナ が ゴハン ぐらい たけなくって、 と おこって いる。 それでも ツネ は タシナミ の ある ヒン の よい バアサン なの だ が、 ナニ が さて ヒトカタ ならぬ ヒステリー で、 くるいだす と キチガイ イジョウ に ドウモウ で 3 ニン の キチガイ の ウチ バアサン の キョウカン が ずぬけて さわがしく ビョウテキ だった。 ハクチ の オンナ は おびえて しまって、 ナニゴト も ない ヘイワ な ヒビ で すら つねに おどおど し、 ヒト の アシオト にも ぎくり と して、 イザワ が やあ と アイサツ する と かえって ぼんやり して たちすくむ の で あった。
ハクチ の オンナ も ときどき ブタゴヤ へ やって きた。 キチガイ の ほう は ワガヤ の ごとく に どうどう と シンニュウ して きて アヒル に イシ を ぶつけたり ブタ の ホッペタ を つきまわしたり して いる の だ が、 ハクチ の オンナ は オト も なく カゲ の ごとく に にげこんで きて ブタゴヤ の カゲ に イキ を ひそめて いる の で あった。 いわば ここ は カノジョ の タイヒジョ で、 そういう とき には たいがい リンカ で オサヨ さん オサヨ さん と よぶ バアサン の チョウルイ-テキ な サケビ が おこり、 その たび に ハクチ の カラダ は すくんだり かたむいたり ハンキョウ を おこし、 しかたなく うごきだす には ムシ の テイコウ の ウゴキ の よう な ながい ハンプク が ある の で あった。
シンブン キシャ だの ブンカ エイガ の エンシュツカ など は センギョウ-チュウ の センギョウ で あった。 カレラ の こころえて いる の は ジダイ の リュウコウ と いう こと だけ で、 うごく ジカン に のりおくれまい と する こと だけ が セイカツ で あり、 ジガ の ツイキュウ、 コセイ や ドクソウ と いう もの は この セカイ には ソンザイ しない。 カレラ の ニチジョウ の カイワ の ナカ には カイシャイン だの カンリ だの ガッコウ の キョウシ に くらべて、 ジガ だの ニンゲン だの コセイ だの ドクソウ だの と いう コトバ が ハンラン しすぎて いる の で あった が、 それ は コトバ の ウエ だけ の ソンザイ で あり、 アリガネ を はたいて オンナ を くどいて フツカヨイ の クツウ が ニンゲン の ナヤミ だ と いう よう な ばかばかしい もの なの だった。 ああ ヒノマル の カンゲキ だの、 ヘイタイ さん よ ありがとう、 おもわず メガシラ が あつく なったり、 ずど ずど ずど は バクゲキ の オト、 ムガ ムチュウ で チジョウ に ふし、 ぱん ぱん ぱん は キジュウ の オト、 およそ セイシン の タカサ も なければ 1 ギョウ の ジッカン すら も ない カクウ の ブンショウ に ウキミ を やつし、 エイガ を つくり、 センソウ の ヒョウゲン とは そういう もの だ と おもいこんで いる。 また ある モノ は グンブ の ケンエツ で カキヨウ が ない と いう けれども、 ホカ に シンジツ の ブンショウ の ココロアタリ が ある わけ で なく、 ブンショウ ジタイ の シンジツ や ジッカン は ケンエツ など には カンケイ の ない ソンザイ だ。 ようするに いかなる ジダイ にも この レンチュウ には ナイヨウ が なく クウキョ な ジガ が ある だけ だ。 リュウコウ-シダイ で ミギ から ヒダリ へ どう に でも なり、 ツウゾク ショウセツ の ヒョウゲン など から オテホン を まなんで ジダイ の ヒョウゲン だ と おもいこんで いる。 じじつ ジダイ と いう もの は ただ それ だけ の センパク グレツ な もの でも あり、 ニホン 2000 ネン の レキシ を くつがえす この センソウ と ハイボク が はたして ニンゲン の シンジツ に なんの カンケイ が あった で あろう か。 もっとも ナイセイ の キハク な イシ と シュウグ の モウドウ だけ に よって イッコク の ウンメイ が うごいて いる。 ブチョウ だの シャチョウ の マエ で コセイ だの ドクソウ だの と いいだす と カオ を そむけて バカ な ヤツ だ と いう ゲンガイ の ヒョウジ を みせて、 ヘイタイ さん よ ありがとう、 ああ ヒノマル の カンゲキ、 おもわず メガシラ が あつく なり、 OK、 シンブン キシャ とは それ だけ で、 じじつ、 ジダイ ソノモノ が それ だけ だ。
シダンチョウ カッカ の クンジ を 3 プン-カン も かかって ながなが と うつす ヒツヨウ が あります か、 ショッコウ たち の マイアサ の ノリト の よう な へんてこ な ウタ を イチ から ジュウ まで うつす ヒツヨウ が ある の です か、 と きいて みる と、 ブチョウ は ぷいと カオ を そむけて シタウチ して、 やにわに ふりむく と キチョウヒン の タバコ を ぐしゃり ハイザラ へ おしつぶして にらみつけて、 おい、 ドトウ の ジダイ に ビ が ナニモノ だい、 ゲイジュツ は ムリョク だ! ニュース だけ が シンジツ なん だ! と どなる の で あった。 エンシュツカ ども は エンシュツカ ども で、 キカク ブイン は キカク ブイン で、 トトウ を くみ、 トクガワ ジダイ の ナガワキザシ と おなじ よう な ジョウギ の セカイ を つくりだし ギリ ニンジョウ で サイノウ を ショリ して、 カイシャイン より も カイシャイン-テキ な ジュンバン セイド を つくって いる。 それ に よって カクジ の ボンヨウサ を ヨウゴ し、 ゲイジュツ の コセイ と テンサイ に よる ソウハ を ザイアクシ し クミアイ イハン と こころえて、 ソウゴ フジョ の セイシン に よる サイノウ の ヒンコン の キュウサイ ソシキ を カンビ して いた。 ウチ に あって は サイノウ の ヒンコン の キュウサイ ソシキ で ある けれども ソト に いでて は アルコール の カクトク ソシキ で、 この トトウ は コクミン サカバ を センリョウ し 3~4 ホン ずつ ビール を のみ よっぱらって ゲイジュツ を ろんじて いる。 カレラ の ボウシ や チョウハツ や ネクタイ や ブルース は ゲイジュツカ で あった が、 カレラ の タマシイ や コンジョウ は カイシャイン より も カイシャイン-テキ で あった。 イザワ は ゲイジュツ の ドクソウ を しんじ、 コセイ の ドクジセイ を あきらめる こと が できない ので、 ギリ ニンジョウ の セイド の ナカ で アンソク する こと が できない ばかり か、 その ボンヨウサ と テイゾク ヒレツ な タマシイ を にくまず に いられなかった。 カレ は トトウ の ノケモノ と なり、 アイサツ して も ヘンジ も されず、 ナカ には にらむ モノ も ある。 おもいきって シャチョウシツ へ のりこんで、 センソウ と ゲイジュツセイ の ヒンコン と に リロンジョウ の ヒツゼンセイ が あります か、 それとも グンブ の イシ です か。 ただ ゲンジツ を うつす だけ なら カメラ と ユビ が 2~3 ボン ある だけ で タクサン です よ。 いかなる アングル に よって これ を サイダン し ゲイジュツ に コウセイ する か と いう トクベツ な シメイ の ため に ワレワレ ゲイジュツカ の ソンザイ が―― シャチョウ は トチュウ に カオ を そむけて にがりきって タバコ を ふかし、 オマエ は なぜ カイシャ を やめない の か、 チョウヨウ が こわい から か、 と いう カオツキ で クショウ を はじめ、 カイシャ の キカクドオリ セケンナミ の シゴト に セイ を だす だけ で、 それ で ゲッキュウ が もらえる なら ヨケイ な こと を かんがえるな、 ナマイキ-すぎる と いう カオツキ に なり、 ヒトコト も ヘンジ せず に、 かえれ と いう ミブリ を しめす の で あった。 センギョウ-チュウ の センギョウ で なくて ナニモノ で あろう か。 ひとおもいに ヘイタイ に とられ、 かんがえる クルシサ から すくわれる なら、 テキダン も キガ も むしろ タイヘイラク の よう に すら おもわれる とき が ある ほど だった。
イザワ の カイシャ では 「ラバウル を おとすな」 とか 「ヒコウキ を ラバウル へ!」 とか キカク を たて コンテ を つくって いる うち に テキ は もう ラバウル を とおりこして サイパン に ジョウリク して いた。 「サイパン ケッセン!」 キカク カイギ も おわらぬ うち に サイパン ギョクサイ、 その サイパン から テッキ が ズジョウ に とびはじめて いる。 「ショウイダン の ケシカタ」 「ソラ の タイアタリ」 「ジャガイモ の ツクリカタ」 「1 キ も いきて かえす まじ」 「セツデン と ヒコウキ」 フシギ な ジョウネツ で あった。 そこしれぬ タイクツ を うえつける キミョウ な エイガ が つぎつぎ と つくられ、 ナマ フィルム は ケツボウ し、 うごく カメラ は すくなく なり、 ゲイジュツカ たち の ジョウネツ は ハクネツテキ に キョウソウ し 「カミカゼ トッコウタイ」 「ホンド ケッセン」 「ああ サクラ は ちりぬ」 ナニモノ か に つかれた ごとく カレラ の シジョウ は コウフン して いる。 そして あおざめた カミ の ごとく タイクツ ムゲン の エイガ が つくられ、 アス の トウキョウ は ハイキョ に なろう と して いた。
イザワ の ジョウネツ は しんで いた。 アサ メ が さめる。 キョウ も カイシャ へ いく の か と おもう と ねむく なり、 うとうと する と ケイカイ ケイホウ が なりひびき、 おきあがり ゲートル を まき タバコ を 1 ポン ぬきだして ヒ を つける。 ああ カイシャ を やすむ と この タバコ が なくなる の だな、 と かんがえる の で あった。
ある バン、 おそく なり、 ようやく シュウデン に とりつく こと の できた イザワ は、 すでに シセン が なかった ので、 ソウトウ の ヨミチ を あるいて ワガヤ へ もどって きた。 アカリ を つける と キミョウ に マンネンドコ の スガタ が みえず、 ルスチュウ ダレ か が ソウジ を した と いう こと も、 ダレ か が はいった こと すら も レイ が ない ので、 いぶかりながら オシイレ を あける と、 つみかさねた フトン の ヨコ に ハクチ の オンナ が かくれて いた。 フアン の メ で イザワ の カオイロ を うかがい フトン の アイダ へ カオ を もぐらして しまった が、 イザワ の おこらぬ こと を しる と、 アンド の ため に シタシサ が あふれ、 あきれる ぐらい おちついて しまった。 クチ の ナカ で ぶつぶつ と つぶやく よう に しか モノ を いわず、 その ツブヤキ も こっち の たずねる こと と なんの カンケイ も ない こと を ああ いい また こう いい ジブン ジシン の おもいつめた こと だけ を それ も しごく ばくぜん と ヨウヤク して ダンペンテキ に いいつづって いる。 イザワ は とわず に ジジョウ を さとり、 たぶん しかられて おもいあまって にげこんで きた の だろう と おもった から、 ムエキ な オビエ を なるべく あたえぬ ハイリョ に よって シツモン を ショウリャク し、 イツゴロ どこ から はいって きた か と いう こと だけ を たずねる と、 オンナ は ワケ の わからぬ こと を あれこれ ぶつぶつ いった アゲク、 カタウデ を まくりあげて、 その 1 カショ を なでて (そこ には カスリキズ が ついて いた) ワタシ、 いたい の、 とか、 イマ も いたむ の、 とか、 サッキ も いたかった の、 とか、 いろいろ ジカン を こまかく くぎって いって いる ので、 ともかく ヨル に なって から マド から はいった こと が わかった。 ハダシ で ソト を あるきまわって はいって きた から ヘヤ を ドロ で よごした、 ごめんなさい ね、 と いう イミ も いった けれども、 あれこれ ムスウ の フクロコウジ を うろつきまわる ツブヤキ の ナカ から イミ を まとめて ハンダン する ので、 ごめんなさい ね、 が どの ミチ に レンラク して いる の だ か ケッテイテキ な ハンダン は できない の だった。
シンヤ に リンジン を たたきおこして おびえきった オンナ を かえす の も やりにくい こと で あり、 さりとて ヨ が あけて オンナ を かえして イチヤ とめた と いう こと が いかなる ゴカイ を うみだす か、 アイテ が キチガイ の こと だ から ソウゾウ すら も つかなかった。 ままよ、 イザワ の ココロ には キミョウ な ユウキ が わいて きた。 その ジッタイ は セイカツジョウ の カンジョウ ソウシツ に たいする コウキシン と シゲキ との ミリョク に ひかれた だけ の もの で あった が、 どう に でも なる が いい、 ともかく この ゲンジツ を ヒトツ の シレン と みる こと が オレ の イキカタ に ヒツヨウ な だけ だ、 ハクチ の オンナ の イチヤ を ホゴ する と いう ガンゼン の ギム イガイ に ナニ を かんがえ ナニ を おそれる ヒツヨウ も ない の だ と ジブン ジシン に いいきかした。 カレ は この トウトツ センバン な デキゴト に へんに カンドウ して いる こと を はず べき こと では ない の だ と ジブン ジシン に いいきかせて いた。
フタツ の ネドコ を しき オンナ を ねせて デントウ を けして 1~2 フン も した か と おもう と、 オンナ は キュウ に おきあがり ネドコ を ぬけでて、 ヘヤ の どこ か カタスミ に うずくまって いる らしい。 それ が もし マフユ で なければ イザワ は しいて こだわらず ねむった かも しれなかった が、 とくべつ さむい ヨフケ で、 ヒトリ ブン の ネドコ を フタリ に ブンカツ した だけ でも ガイキ が じかに ハダ に せまり カラダ の フルエ が とまらぬ ぐらい つめたかった。 おきあがって デントウ を つける と、 オンナ は トグチ の ところ に エリ を かきあわせて うずくまって おり、 まるで ニゲバ を うしなって おいつめられた メ の イロ を して いる。 どうした の、 ねむりなさい、 と いえば あっけない ほど すぐ うなずいて ふたたび ネドコ に もぐりこんだ が、 デンキ を けして 1~2 フン も する と、 また、 おなじ よう に おきて しまう。 それ を ネドコ へ つれもどして、 シンパイ する こと は ない、 ワタシ は アナタ の カラダ に テ を ふれる よう な こと は しない から、 と いいきかせる と、 オンナ は おびえた メツキ を して ナニ か イイワケ-じみた こと を クチ の ナカ で ぶつぶつ いって いる の で あった。 そのまま ミタビ-メ の デンキ を けす と、 コンド は オンナ は すぐ おきあがり、 オシイレ の ト を あけて ナカ へ はいって ウチガワ から ト を しめた。
この シツヨウ な ヤリカタ に イザワ は ハラ を たてた。 てあらく オシイレ を あけはなして、 アナタ は ナニ を カンチガイ を して いる の です か、 あれほど セツメイ も して いる のに オシイレ へ はいって ト を しめる など とは ヒト を ブジョク する も はなはだしい、 それほど シンヨウ できない ウチ へ なぜ にげこんで きた の です か、 それ は ヒト を グロウ し、 ワタシ の ジンカク に フトウ な ハジ を あたえ、 まるで アナタ が ナニ か ヒガイシャ の よう では ありません か、 チャバン も イイカゲン に したまえ。 けれども その コトバ の イミ も この オンナ には リカイ する ノウリョク すら も ない の だ と おもう と、 これ くらい ハリアイ の ない バカバカシサ も ない もの で、 オンナ の ヨコッツラ を なぐりつけて さっさと ねむる ほう が ナニ より キ が きいて いる と おもう の だった。 すると オンナ は ミョウ に わりきれぬ カオツキ を して ナニ か クチ の ナカ で ぶつぶつ いって いる。 ワタシ は かえりたい、 ワタシ は こなければ よかった、 と いう イミ の コトバ で ある らしい。 でも ワタシ は もう かえる ところ が なくなった から、 と いう ので、 その コトバ には イザワ も さすが に ムネ を つかれて、 だから アンシン して ここ で イチヤ を あかしたら いい でしょう、 ワタシ が アクイ を もたない のに まるで ヒガイシャ の よう な おもいあがった こと を する から ハラ を たてた だけ の こと です。 オシイレ の ナカ など に はいらず に フトン の ナカ で おやすみなさい。 すると オンナ は イザワ を みつめて ナニ か ハヤクチ に ぶつぶつ いう。 え? ナン です か、 そして イザワ は とびあがる ほど おどろいた。 なぜなら オンナ の ぶつぶつ の ナカ から、 ワタシ は アナタ に きらわれて います もの、 と いう ヒトコト が はっきり ききとれた から で ある。 え、 なんですって? イザワ が おもわず メ を みひらいて ききかえす と、 オンナ の カオ は しょうぜん と して、 ワタシ は こなければ よかった、 ワタシ は きらわれて いる、 ワタシ は そう は おもって いなかった、 と いう イミ の こと を くどくど と いい、 そして あらぬ 1 カショ を みつめて ホウシン して しまった。
イザワ は はじめて リョウカイ した。
オンナ は カレ を おそれて いる の では なかった の だ。 まるで ジタイ は アベコベ だ。 オンナ は しかられて ニゲバ に きゅうして それ だけ の リユウ に よって きた の では ない。 イザワ の アイジョウ を モクサン に いれて いた の で あった。 だが いったい オンナ が イザワ の アイジョウ を しんじる こと が おこりうる よう な ナニゴト が あった で あろう か。 ブタゴヤ の アタリ や ロジ や ロジョウ で やあ と いって 4~5 ヘン アイサツ した ぐらい、 おもえば スベテ が トウトツ で まったく チャバン に ほかならず、 イザワ の マエ に ハクチ の イシ や カンジュセイ や、 ともかく ニンゲン イガイ の もの が キョウヨウ されて いる だけ だった。 デントウ を けして 1~2 フン たち オトコ の テ が オンナ の カラダ に ふれない ため に きらわれた ジカク を いだいて、 その ハズカシサ に フトン を ぬけだす と いう こと が、 ハクチ の バアイ は それ が しんじつ ヒツウ な こと で ある の か、 イザワ が それ を しんじて いい の か、 これ も はっきり は わからない。 ついには オシイレ へ とじこもる。 それ が ハクチ の チジョク と ジヒ の ヒョウゲン と かいして いい の か、 それ を ハンダン する ため の コトバ すら も ない の だ から、 ジタイ は ともかく カレ が ハクチ と ドウカク に なりさがる イガイ に ホウ が ない。 なまじい に ニンゲン-らしい フンベツ が、 なぜ ヒツヨウ で あろう か。 ハクチ の ココロ の スナオサ を カレ ジシン も また もつ こと が ニンゲン の チジョク で あろう か。 オレ にも この ハクチ の よう な ココロ、 おさない、 そして すなお な ココロ が ナニ より ヒツヨウ だった の だ。 オレ は それ を どこ か へ わすれ、 ただ あくせく した ニンゲン ども の シコウ の ナカ で、 うすぎたなく よごれ、 キョモウ の カゲ を おい、 ひどく つかれて いた だけ だ。
カレ は オンナ を ネドコ へ ねせて、 その マクラモト に すわり、 ジブン の コドモ、 ミッツ か ヨッツ の ちいさな ムスメ を ねむらせる よう に ヒタイ の カミノケ を なでて やる と、 オンナ は ぼんやり メ を あけて、 それ が まったく おさない コドモ の ムシンサ と かわる ところ が ない の で あった。 ワタシ は アナタ を きらって いる の では ない、 ニンゲン の アイジョウ の ヒョウゲン は けっして ニクタイ だけ の もの では なく、 ニンゲン の サイゴ の スミカ は フルサト で、 アナタ は いわば つねに その フルサト の ジュウニン の よう な もの なの だ から、 など と イザワ も ハジメ は ミョウ に しかつめらしく そんな こと も いいかけて みた が、 もとより それ が つうじる わけ では ない の だし、 いったい コトバ が ナニモノ で あろう か、 ナニホド の ネウチ が ある の だろう か、 ニンゲン の アイジョウ すら も それ だけ が シンジツ の もの だ と いう なんの アカシ も ありえない、 セイ の ジョウネツ を たくす に たる シンジツ な もの が はたして どこ に ありうる の か、 スベテ は キョモウ の カゲ だけ だ。 オンナ の カミノケ を なでて いる と、 ドウコク したい オモイ が こみあげ、 さだまる カゲ すら も ない この とらえがたい ちいさな アイジョウ が ジブン の イッショウ の シュクメイ で ある よう な、 その シュクメイ の カミノケ を ムシン に なでて いる よう な せつない オモイ に なる の で あった。
この センソウ は いったい どう なる の で あろう。 ニホン は まけ、 テキ は ホンド に ジョウリク して、 ニホンジン の タイハン は シメツ して しまう の かも しれない。 それ は もう ヒトツ の チョウシゼン の ウンメイ、 いわば テンメイ の よう に しか おもわれなかった。 カレ には しかし もっと ヒショウ な モンダイ が あった。 それ は おどろく ほど ヒショウ な モンダイ で、 しかも メ の サキ に さしせまり、 つねに ちらついて はなれなかった。 それ は カレ が カイシャ から もらう 200 エン ほど の キュウリョウ で、 その キュウリョウ を いつまで もらう こと が できる か、 アス にも クビ に なり ロトウ に まよい は しない か と いう フアン で あった。 カレ は ゲッキュウ を もらう とき、 ドウジ に クビ の センコク を うけ は しない か と びくびく し、 ゲッキュウブクロ を うけとる と ヒトツキ のびた イノチ の ため に あきれる ぐらい コウフクカン を あじわう の だ が、 その ヒショウサ を かえりみて いつも なきたく なる の で あった。 カレ は ゲイジュツ を ゆめみて いた。 その ゲイジュツ の マエ では ただ ヒトツブ の ジンアイ で しか ない よう な 200 エン の キュウリョウ が、 どうして ホネミ に からみつき セイゾン の コンテイ を ゆさぶる よう な おおきな クモン に なる の で あろう か。 セイカツ の ガイケイ のみ の こと では なく その セイシン も タマシイ も 200 エン に ゲンテイ され、 その ヒショウサ を ギョウシ して キ も ちがわず に へいぜん と して いる こと が なおさら なさけなく なる ばかり で あった。 ドトウ の ジダイ に ビ が ナニモノ だい、 ゲイジュツ は ムリョク だ! と いう ブチョウ の ばかばかしい オオゴエ が、 イザワ の ムネ に まるで ちがった シンジツ を こめ するどい そして キョダイ な チカラ で くいこんで くる。 ああ ニホン は まける。 ドロニンギョウ の くずれる よう に ドウホウ たち が ばたばた たおれ、 ふきあげる コンクリート や レンガ の クズ と イッショクタ に ムスウ の アシ だの クビ だの ウデ だの まいあがり、 キ も タテモノ も なにも ない たいら な ボチ に なって しまう。 どこ へ にげ、 どの アナボコ へ おいつめられ、 どこ で アナ もろとも ふきとばされて しまう の だ か、 ユメ の よう な、 けれども それ は もし いきのこる こと が できたら、 その シンセン な サイセイ の ため に、 そして ぜんぜん ヨソク の つかない シンセカイ、 イシクズ-だらけ の ノハラ の ウエ の セイカツ の ため に、 イザワ は むしろ コウキシン が うずく の だった。 それ は ハントシ か 1 ネン サキ の とうぜん おとずれる ウンメイ だった が、 その オトズレ の トウゼンサ にも かかわらず、 ユメ の ナカ の セカイ の よう な はるか な タワムレ に しか イシキ されて いなかった。 メ の サキ の スベテ を ふさぎ、 いきる キボウ を ねこそぎ さらいさる たった 200 エン の ケッテイテキ な チカラ、 ユメ の ナカ に まで 200 エン に クビ を しめられ、 うなされ、 まだ 27 の セイシュン の あらゆる ジョウネツ が ヒョウハク されて、 ゲンジツ に すでに アンコク の コウヤ の ウエ を ぼうぼう と あるく だけ では ない か。
イザワ は オンナ が ほしかった。 オンナ が ほしい と いう コエ は イザワ の サイダイ の キボウ で すら あった のに、 その オンナ との セイカツ が 200 エン に ゲンテイ され、 ナベ だの カマ だの ミソ だの コメ だの みんな 200 エン の ジュモン を おい、 200 エン の ジュモン に つかれた コドモ が うまれ、 オンナ が まるで テサキ の よう に ジュモン に つかれた オニ と かして ヒビ ぶつぶつ つぶやいて いる。 ムネ の トモシビ も ゲイジュツ も キボウ の ヒカリ も みんな きえて、 セイカツ ジタイ が ミチバタ の バフン の よう に ぐちゃぐちゃ に ふみしだかれて、 かわきあがって カゼ に ふかれて とびちり アトカタ も なくなって いく。 ツメ の アト すら、 なくなって いく。 オンナ の セ には そういう ジュモン が からみついて いる の で あった。 やりきれない ヒショウ な セイカツ だった。 カレ ジシン には この ゲンジツ の ヒショウサ を さばく チカラ すら も ない。 ああ センソウ、 この イダイ なる ハカイ、 キミョウ キテレツ な コウヘイサ で みんな さばかれ ニホンジュウ が イシクズ-だらけ の ノハラ に なり ドロニンギョウ が ばたばた たおれ、 それ は キョム の なんと いう せつない キョダイ な アイジョウ だろう か。 ハカイ の カミ の ウデ の ナカ で カレ は ねむりこけたく なり、 そして カレ は ケイホウ が なる と むしろ いきいき して ゲートル を まく の で あった。 セイメイ の フアン と あそぶ こと だけ が マイニチ の イキガイ だった。 ケイホウ が カイジョ に なる と がっかり して、 ゼツボウテキ な カンジョウ の ソウシツ が また はじまる の で あった。
この ハクチ の オンナ は コメ を たく こと も ミソシル を つくる こと も しらない。 ハイキュウ の ギョウレツ に たって いる の が せいいっぱい で、 しゃべる こと すら も ジユウ では ない の だ。 まるで もっとも うすい 1 マイ の ガラス の よう に キド アイラク の ビフウ に すら ハンキョウ し、 ホウシン と オビエ の シワ の アイダ へ ヒト の イシ を うけいれ ツウカ させて いる だけ だ。 200 エン の アクリョウ すら も、 この タマシイ には やどる こと が できない の だ。 この オンナ は まるで オレ の ため に つくられた かなしい ニンギョウ の よう では ない か。 イザワ は この オンナ と だきあい、 くらい コウヤ を ひょうひょう と カゼ に ふかれて あるいて いる ムゲン の タビジ を メ に えがいた。
それ にも かかわらず、 その ソウネン が ナニ か トッピ に かんじられ、 トホウ も ない ばかげた こと の よう に おもわれる の は、 そこ にも また ヒショウ きわまる ニンゲン の カラ が ココロ の シン を むしばんで いる せい なの だろう。 そして それ を しりながら、 しかも なお、 わきでる よう な この ソウネン と アイジョウ の スナオサ が ぜんぜん キョモウ の もの に しか かんじられない の は なぜ だろう。 ハクチ の オンナ より も あの アパート の インバイフ が、 そして どこ か の キフジン が より ニンゲンテキ だ と いう ナニ か ホンシツテキ な オキテ が ある の だろう か。 けれども まるで その オキテ が げん と して ソンザイ して いる ばかばかしい アリサマ なの で あった。
オレ は ナニ を おそれて いる の だろう か。 まるで あの 200 エン の アクリョウ が―― オレ は イマ この オンナ に よって その アクリョウ と ゼツエン しよう と して いる のに、 そのくせ やはり アクリョウ の ジュモン に よって しばりつけられて いる では ない か。 おそれて いる の は ただ セケン の ミエ だけ だ。 その セケン とは アパート の インバイフ だの メカケ だの ニンシン した テイシンタイ だの アヒル の よう な ハナ に かかった コエ を だして わめいて いる オカミサン たち の ギョウレツ カイギ だけ の こと だ。 その ホカ に セケン など は どこ にも あり は しない のに、 そのくせ この わかりきった ジジツ を オレ は ぜんぜん しんじて いない。 フシギ な オキテ に おびえて いる の だ。
それ は おどろく ほど みじかい (ドウジ に それ は ムゲン に ながい ) イチヤ で あった。 ながい ヨル の まるで ムゲン の ツヅキ だ と おもって いた のに、 いつかしら ヨ が しらみ、 ヨアケ の カンキ が カレ の ゼンシン を カンカク の ない イシ の よう に かたまらせて いた。 カレ は オンナ の マクラモト で、 ただ カミノケ を なでつづけて いた の で あった。