ホットドッグ屋の親父は、吝嗇で有名だった。ハム屋の
作るソーセージは大きさがあんまり揃っていなくて数ミリ
の長短があるのが気に食わず、買いに行くたびにハム屋に
ぶつぶつと文句を言う。ハム屋はあの通り穏やかで無口な
たちだから、何を言われてもにこにことしているだけで、
だからってソーセージの長さが揃うわけでもなかったんだ
がな。
そしてホットドッグ屋の親父ときたら、その数ミリの長
さをそろえるために端っこを切り落とすんだ。その端を集
めて、ちょうど一本分になったのでこしらえたホットドッ
グを毎日一個、自分で食べる。おまけにケチャップや酢漬
けのきゅうりまで自分できっちりの分量しか入れない。客
がもうちょい頼むと言っても頑として譲らない。まったく
頑固だが、しかし目分量の確かさだけは定評があったので、
ある意味公平だと、誰も表立って文句は言わなかった。
その親父が、少年にただでホットドッグを一個恵んでや
ったなどという噂が広まった。少年が町へやってきた初め
ての朝だったらしいな、屋台を出していた親父がこっちを
じっと見ている少年に気が付いて、なんだお前、と問い掛
けたら、そのあと少年の笑い顔にふらふらと催眠術にでも
かかったように、いつもの手際でその日最初のホットドッ
グを作って差し出していたというんだな。
親父はひげ面を真っ赤にしてその噂を否定して回ってい
た。なんでも、払うと思って食べさせたら食い逃げされた、
というのが親父の主張だ。だが、じゃあどうして少年をと
っ捕まえてお巡りのマドロウのところへ連れて行くなり何
なりしなかったのか、と問い詰められると、赤い顔を赤黒
くして黙り込むんだ。変だろう?
まあそれでも、町の大半の連中はだからって親父にただ
にしろなどと無理難題を吹っかけたりはしなかったんだが、
ラミソンの牧場の若い連中が三人ほど連れ立って、悪ふざ
けで親父を困らせてやろうと押しかけた。
ちょうど昼時で、けっこうな人数が集まって屋台の周り
でホットドッグを食べていた。なんだかんだ言っても親父
のホットドッグはうまかったしな。この町で唯一のホット
ドッグだからというだけじゃない。そこへやってきた三人
の若衆は、例の噂話を持ち出して、俺たちにも負けろと親
父に迫った。
周りのやつらも、適当なところでなだめに入るつもりは
あったんだろうが、ちょいと好奇心で成り行きを見守って
いる感じだった。親父はまた例のごとく顔を真っ赤にして、
あれはそういう事情じゃなかったんだと繰り返す。しかし、
じゃあどういう事情だったんだと問われると答えない。答
えられない。けれども断固として負けられんと言う。
そこへ、三人衆の膝を掻き分けるようにして少年が顔を
出した。汚れた片手をホットドッグ屋の親父に差し出す。
「おじさん、これ、約束のお代ね。今さっき、あそこのう
ちで」と少年は振り向いて通りの角の家を指し、
「お婆さんちの抜けない大根を抜くのを手伝ったんだ。こ
れでようやく金額が揃ったから、走ってきたの。遅くなっ
てごめんなさい」
三人衆はいささか居心地が悪くなったが、それでもひと
りが食い下がった。
「じゃあ、親父、俺にもツケにしてくれよ。それならいい
だろう? 必ず払うんだからさ」
親父は、少年から受け取った小銭を握り締めたまま、そ
の顔をじっと見つめた。それから、その小銭を少年に押し
付けるようにして返すと、大声でみんなに言ったんだ。
「ちくしょう、一生に一度だけ、町中のみんなにおごって
やる。ただし、ひとり一回だぞ! わかったらてめえらさ
っさと食いやがれ! それから他の連中にもとっとと食い
に来るように言うんだ。今日中ぽっきり、二度とこんなこ
た、しねえからな!」
みんな一瞬しんとして親父を見つめ、それから歓声を上
げた。町中の人が押しかけ熱いホットドッグを食べ、それ
からホットドッグ屋は以前にもまして売上が上がったのさ。
作るソーセージは大きさがあんまり揃っていなくて数ミリ
の長短があるのが気に食わず、買いに行くたびにハム屋に
ぶつぶつと文句を言う。ハム屋はあの通り穏やかで無口な
たちだから、何を言われてもにこにことしているだけで、
だからってソーセージの長さが揃うわけでもなかったんだ
がな。
そしてホットドッグ屋の親父ときたら、その数ミリの長
さをそろえるために端っこを切り落とすんだ。その端を集
めて、ちょうど一本分になったのでこしらえたホットドッ
グを毎日一個、自分で食べる。おまけにケチャップや酢漬
けのきゅうりまで自分できっちりの分量しか入れない。客
がもうちょい頼むと言っても頑として譲らない。まったく
頑固だが、しかし目分量の確かさだけは定評があったので、
ある意味公平だと、誰も表立って文句は言わなかった。
その親父が、少年にただでホットドッグを一個恵んでや
ったなどという噂が広まった。少年が町へやってきた初め
ての朝だったらしいな、屋台を出していた親父がこっちを
じっと見ている少年に気が付いて、なんだお前、と問い掛
けたら、そのあと少年の笑い顔にふらふらと催眠術にでも
かかったように、いつもの手際でその日最初のホットドッ
グを作って差し出していたというんだな。
親父はひげ面を真っ赤にしてその噂を否定して回ってい
た。なんでも、払うと思って食べさせたら食い逃げされた、
というのが親父の主張だ。だが、じゃあどうして少年をと
っ捕まえてお巡りのマドロウのところへ連れて行くなり何
なりしなかったのか、と問い詰められると、赤い顔を赤黒
くして黙り込むんだ。変だろう?
まあそれでも、町の大半の連中はだからって親父にただ
にしろなどと無理難題を吹っかけたりはしなかったんだが、
ラミソンの牧場の若い連中が三人ほど連れ立って、悪ふざ
けで親父を困らせてやろうと押しかけた。
ちょうど昼時で、けっこうな人数が集まって屋台の周り
でホットドッグを食べていた。なんだかんだ言っても親父
のホットドッグはうまかったしな。この町で唯一のホット
ドッグだからというだけじゃない。そこへやってきた三人
の若衆は、例の噂話を持ち出して、俺たちにも負けろと親
父に迫った。
周りのやつらも、適当なところでなだめに入るつもりは
あったんだろうが、ちょいと好奇心で成り行きを見守って
いる感じだった。親父はまた例のごとく顔を真っ赤にして、
あれはそういう事情じゃなかったんだと繰り返す。しかし、
じゃあどういう事情だったんだと問われると答えない。答
えられない。けれども断固として負けられんと言う。
そこへ、三人衆の膝を掻き分けるようにして少年が顔を
出した。汚れた片手をホットドッグ屋の親父に差し出す。
「おじさん、これ、約束のお代ね。今さっき、あそこのう
ちで」と少年は振り向いて通りの角の家を指し、
「お婆さんちの抜けない大根を抜くのを手伝ったんだ。こ
れでようやく金額が揃ったから、走ってきたの。遅くなっ
てごめんなさい」
三人衆はいささか居心地が悪くなったが、それでもひと
りが食い下がった。
「じゃあ、親父、俺にもツケにしてくれよ。それならいい
だろう? 必ず払うんだからさ」
親父は、少年から受け取った小銭を握り締めたまま、そ
の顔をじっと見つめた。それから、その小銭を少年に押し
付けるようにして返すと、大声でみんなに言ったんだ。
「ちくしょう、一生に一度だけ、町中のみんなにおごって
やる。ただし、ひとり一回だぞ! わかったらてめえらさ
っさと食いやがれ! それから他の連中にもとっとと食い
に来るように言うんだ。今日中ぽっきり、二度とこんなこ
た、しねえからな!」
みんな一瞬しんとして親父を見つめ、それから歓声を上
げた。町中の人が押しかけ熱いホットドッグを食べ、それ
からホットドッグ屋は以前にもまして売上が上がったのさ。