遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『大人のための 読書の全技術』 齋藤 孝  中経出版

2015-04-23 08:53:19 | レビュー
 著者の名前と顔は、新聞のコラム的な記事や出版広告、テレビ番組でのトークで多少は見聞しているが、著者の著書を読むのはこれが初めてである。「読書の技術」本には関心があり、ときどき目につくと読み進めてきている。本書を手にとったのは、タイトルに惹かれたからだ。

 著者の著書をアマゾンで調べて見ると、本書と直接関連しそうなタイトルの本が何冊か目に止まる。例えば、こんな本である。タイトルだけ記して見る。
『齋藤孝の速読塾』『読書力』『三色ボールペン情報活用術』『三色ボールペンで読む日本語』『声に出して読みたい日本語』『全方位読書案内』などである。
 本書のタイトル「読書の全技術」を読んだ感想から推測すると、たぶんここに列挙した類いの著書は、本書で読書技術として要点が述べられたもののいくつかを、さらに具体的に例を交えながら展開したものだろう。いずれまた、手にとってその内容を確認してみたい。つまり、本書は著者の活用している実践を踏まえた読書技術のエッセンス公開本と言えそうである。

 読書技術ノウハウの公開本には、速読の技術の説明並びに実践という視点からよく使われる手法がある。本文で説明する内容の中で強調したいエッセンスの文章を地の文よりも太字で表記し、そのキーセンテンスが浮き上がるようにするというもの。本書もこのテクニックが取り入れられている。極論すれば、本書の太字表記の箇所を読み進めるだけでも、著者の提唱する読書技術は理解でいると思う。まさに、本書を「速読」で通読できるというところ。

 本書の特徴は目次の形式にも現れている。章と章内の見出しが文章表現となっていることだ。
 読書ノウハウ本では速読力を高める為に、本の「はじめ」「おわりに」と共に、まず「目次」を良く読むことが推奨される。そこに著者の執筆意図や目的が明示され、その本の主張論点のかなりの部分が反映されているからだと。
 そういう意味では、この本が読書の全技術と称して説明していることの要点は、10ページにわたる目次としての文章でほぼ把握できる。勿論、部分的には本文を読むことで具体的なノウハウを知らなければ十全に理解できるとは言えないが、提唱ポイントはよく分かる。先達のノウハウ本と重ねれば、見だしだけでもほぼ意の通じるものもある。それはまあ、読書実践経験に共通する普遍的なノウハウ或いは読書の効用を異口同音にまとめて解説されているから、また、それは基礎的事項として触れておく必要があるからだろう。

 本書の構成をまず、紹介し、小見出しの例をサンプリングして併記してみよう。それにより、この目次の特徴がわかり、著者の提唱の一端をご理解いただけるだろう。面白そうであれば、まず書店でこの目次部分を開いて見るとよい。(括弧内は小見出しの幾つをサンプリングしたかの数字である。)

序章 社会人こそ、読書術が必要な理由  (3/7)
 ・読書で「意味の含有率」を増やせば、社会人に必要な思考力が飛躍的に高まる。
 ・読書を習慣にすることで、常に進化し続ける自分になれる
 ・読書によって、偉大な先人たちの思考をなぞることができる
第1章 読書のライフスタイルを確立する (5/13)
 ・時間が奪われる時代だからこそ、読書で垂直次元思考力を高めよう
 ・森のような脳内図書館を構築すれば、私たちの心はより豊かなものになっていく
 ・ハウツー本だけでは工夫力や思考力は鍛えられない。
  背中を後押ししてくれる本をみつけよう
 ・本を読むことで前頭葉をフル回転させ、イマジネーションの世界に遊ぼう
 ・本の中のすばらしい言葉に出会うことで人間関係能力を磨くことができるようになる第2章 読書の量を増やす -速読の全技術  (5/15)
 ・必要部分をピックアップすることで、速読力がグンとスピードアップする
 ・逆から読む「逆算読書法」で、あっという間に内容を要約する
 ・「二割読書法」でさらに速読力アップ!つかんだ概要を記憶しよう
 ・「サーチライト方式」で、キーワードを探しながら読もう
 ・「同時並行読書術」で、大量読書を実践する
第3章 読書の質を上げる -精読の全技術  (5/15)
 ・精読の基本は素読にあり!声に出して本を読もう
 ・各界で活躍している人々は、精読によって他人と差をつけている
 ・本そのものを読書ノートにする「三色ボールペン方式」
 ・「呼吸法」と「本の持ち歩き」で精読の技術をさらに高めよう
 ・ライブ感のある読書法を身につけると、知識が自分の血肉となっていく
第4章 読書の幅を広げる -本選びの全技術  (4/15)
 ・「芋蔓四季読書」で読書の幅を広げていこう
 ・応用できる力が内包された古典でコストパフォーマンスのいい読書を!
 ・図書館は良書と出会う絶好の場。図書館で買うべき本を見つけよう
 ・読書によって自分を成長させるには、やはりリアルな本が向いている
第5章 読書を武器にする -アウトプットの全技術  (5/19)
 ・アウトプットを意識した読書を心がけよう
 ・著者が渾身の力を込めて書いた者を読み、「一を知って十を知る力」をつける
 ・1分で相手の心をキャッチするキーワードを読書によって身につける
 ・幅広い読書で全体を見る目を養い、「システム・シンキング」を身につける
 ・読書によって「概念変換法」を身につけると、文化を変える新たな概念が手に入る
終章 社会人が読んでおくべき50冊リスト

 基盤であるが異口同音の部分は触れずに、著者が提唱する技術で、特に新鮮に感じたものを、私自身へのメモ作りを兼ね、いくつかご紹介しておきたい。新鮮に感じるのは、著者独自の技術表現法によるところも大きいように思う。

 著者は、読書の効用を「自分をデザインするやり方を先人に学ぶこと」なのだという。古今東西の偉人が残した本は、読書の大海であり、そこに「私淑」できる先人を発見し、読書により直接偉人の言葉に接することが思考力を鍛え、自分の人生をデザインするヒントが得られるのだという。本を読まずに、自分の頭だけですべてを考えようとすることは、「砂の城」を築くようなものだという。読書は思考力を鍛え、思考速度が早いと活字量が多くなり、会話において、一定時間に発せられる言葉に込める「意味の含有率」が高くなるのだという。読書により知性が磨かれることにより、ストレスに負けない精神力が身につくと断言する。著者は「精神力」に込められた技の局面を重視している。

 著者の表現は面白い。「森のような読書」が必要という。様々な分野の幅広い読書がベースとして大切だという。森には様々な植物が共存し、互いに有機的に関連して生命の集合体となっているように、偏らない読書が相互共鳴して本と本の間につながりが生まれ、その影響が役立つ点を強調する。それを促進するのが読書技術でもあると捉えることができる。森のような読書は、「自分自身の脳内図書館の構築」でもある。一般的な図書館は様々な分野の本が併存しているのだから。自分の頭の中に、500冊、1000冊分の情報が蓄積されると、それらにつながりができ、自分としてのネットワークができることが、心を豊かにし、武器になっていくのだとする。それ故、読書をライフスタイルに組み込むことが大事であり、脳内図書館とリンクする自分の本棚を身近に置くことから始めよという。
 著者は速読ができる前提は、まずバックグラウンドがどれだけあるかによると言っているのだと受け止めた。読書量が増え、知識が蓄積していれば、量を重ねることが質的な変化を起こす。理解力が上がり、読むスピードも上がるのだと。つまり、たくさん読みたい分野の本を集中的に読めば、その分野の基礎的な知識量が増加し、その先に読む本の8割以上のことが理解できているのだから、必然的に読むべきところがわかってくると。このあたりのことは、他書でも言われているが、そこを「二割読書法」と展開している解説がおもしろい。「そもそも本というのはIQで読むものではなく、知識で読むものです」と著者は断言する。
 その上で、速読力をつけるには、目を速く動かしていくという物理的な技術に加え、本を読む目的を設定し、あらかじめ目的に沿ったキーワードを決めて、そのキーワードをサーチライトで照らすように、必要な部分をピックアップしながら読むことを説く。それはセレクト技術であり、セレクトできるための知識ベースが必要ということにもなる。適切なキーワードが選ばれないとダメなのだから。ピックアップした箇所を集中的に読めということだ。さらに、「本を読み終える時間的締め切りを設定する」という強制的な負荷を課すことが、読書スピードを速くすることに繋がるという。まあ、このあたりのことは他書でも述べていることの再確認である。著者は、読書の目的と締め切りを一緒に設定して臨むことを提唱する。

 速読のための準備にもなる作業だが、おもしろいと思ったのは、「本をさばいて内容を把握」するという手法だ。著者は、本を買ったらすぐに喫茶店に入り、「本をさばけ」という。「ちょうど、獲れたばかりの新鮮な魚を天日干しにしておいしい開きにするために、さばくようなもの」、作業をすすめている。1冊の本を、20分ぐらいかけて、サッサッサッとページをめくりながら、その内容を人に話せるぐらいまで把握しておくことのススメである。その本に一目惚れしたテンションのまま、一気に中身を把握しておくという技だ。ここでいう中身とは、本全体のおおよその趣旨をつかむという作業を言っているようである。本をさばいて置くことが、後でその本を手に取り読み始める動機づけになるからでもある。喫茶店に入り、というのは場所と時間の制約を自らに課すためでもあるという。

 著者は精読の技術として「音読」を特に強調している。これが本書の特徴の一つでもある。「文章を本当に理解するには、どこで切るか、イントネーションをどうするかも重要な要素であり、意味のとりかたが読みの中に現れるからです」(p126)、「声に出してよむことにより、その言葉の意味が自分の内側に乗り移ってきます」(p128)音読してみて、ピンと来るか来ないかがその文章、「その本の価値を判定する、試金石の役割も果たしてくれるのです」(p136)と言う。
 
 著者のいう「三色ボールペン」を使うという意味が本書でわかった。読書技術として、読む内容の重要度を手軽な三色ボールペンの色を使い識別しながら、本を読むということなのだ。普通1色で行っている作業を3色に細分化するという視点がミソなのだ。
  赤 客観的に最重要な部分
  青 客観的に重要な部分
  緑 主観として大切な部分 :この部分を自分の中のおもしろセンサーとして重視
ただし、これは相対的なもので、精読のための梃子になる識別法としての提唱だ。

 もう一つ、著者は「引用ベストスリー方式」を心がけているという。本から好きな文章を人に話したり文を書くための材料として3つ選ぶという実践だ。それは、「自分が引用したくなる文章を探そうという意識」を喚起することで、「より重層的な速読力」が鍛えられていくからだという。セレクトした引用したい文を自分として配列し、その3つを選んだ自分の作品への関わり方を整理することが、本の精読に繋がるということである。
 「そもそも教養とうものは、引用力そのものであると考えています。極端なことを言えば、引用ができない人は教養がないといことです」と説く。意識的な読書のプロセスがあってこそ、引用できるのだから、そこにその人の知性が表れるということだろう。

 本書から数多くの示唆を得ることができる。上掲の目次と小見出しから興味が起これば、本書をまず手に取ることをお薦めする。そして、あなたなりにこの本をまず「さばく」と良いのではないか。

 「読書を武器とする」(第5章)で、上掲の小見出しに入れなかったものからひとつ、最後にご紹介しておこう。メモ書きするために、意識的に列挙しなかったともいえる。それは、「デザインシートをつくって、フォーマット思考法を身につけよう」という項目である。

 著者が「デザインシート」と呼ぶ、書く技術のためのフォーマットなのだが、これは頭の働かせ方、思考を深めるために役立つと思う。5W1Hの発想を応用したものとも言えるが、なるほど・・・と思うフォーマットである。7つの項目からなる。
 (1)対照 - 対象は誰なのか。
 (2)タイトル - テーマは何か。
 (3)狙い - 何のために行うのか。
 (4)テキスト(素材) - 材料は何か。
 (5)キーワード(キーコンセプト) - 中心となるコンセプトは何か。
 (6)段取り - 具体的にどうやって行うか。
 (7)仕込み(裏段取り) - 準備は何をするのか。

 著者は読書を意識的に継続し、「森のような読書」を蓄積する効用として、様々な能力が開発され、向上することをこの第5章で具体的に展開している。「コメント力」「質問力」「雑談力」「想像力→理解力→予測力→提案力」「システム・シンキング」力などである。さらに読書は新しい概念を学ぶ機会であり、その概念を自分の仕事の分野に応用する思考力を鍛錬していけば、自分に役立つ概念変換となり、新しい発想が生まれると説く。概念の変換、活用である。

 読書を武器にするために、読書術をブラッシュアップしようではないか。そして「自己イノベーション力」をつけていこう。

 ご一読ありがとうございます。

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