この本、最初は1995年3月、『覇拳葬魔鬼』題して出版されたようだ。それが改題されて2009年11月にジョイ・ノベルスの一冊となった。当初はバイオレンス物全盛時代のネーミングだったようだ。それが、警察小説ブームの時代になり、今のタイトルとなったのだとか。しかし、本書の内容を客観的に見ると、「潜入捜査」というのは妥当なネーミングである。かつ本書はこの潜入捜査シリーズの第6弾、最終巻でもある。
(現在、実業之日本社文庫にもなっている。)
元マル暴刑事・佐伯涼が一旦この書で「環境犯罪研究所」への出向にケリをつけることになる。
公害元年と称されたのは日本の高度経済成長が峠を越し始めた頃になるのだろうか、1970年のことである。それまでの高度経済成長期に於いて無視されてきた社会資本投資への不備が、1970年頃から急激に現れて来る。その一つが産業廃棄物の投棄問題だ。産業廃棄物による深刻な自然環境破壊であり、大気汚染と地下水汚染である。
本書の一つの側面は、この産業廃棄物の不法投棄である。別荘地として開発された地域が何時しか産業廃棄物の不法投棄場所に強引に代えられていく。別荘地を購入した人々の多くは逃げ出してしまい、ここを終の棲家と決めた少数の人々や地元の人が、環境問題運動家と一緒に反対闘争を推し進めるという状況が背景となる。その不法投棄に反対する別荘地住民の家が火事に遭う。内村所長はその火事に放火の疑いがあるとして、佐伯に調査を命じる。内村所長が佐伯に手渡した資料には、保津間興産という解体業者の新聞記事が挟まれていた。
佐伯は現地に行き、実態を見聞する。火事に遭った住人の話を聞き、活動家とも話をする。その結果、佐伯は保津間興産に潜入捜査をすることになる。内村所長は、手回しよく潜入先への紹介状を、ある行政機関から入手しておくのだ。
佐伯はタイミング良くこの解体業者に作業員として雇われ、廃棄物処理課という部署に配属されることになる。この企業、実は暴力団の企業舎弟なのだ。
佐伯がタイミング良く雇われることができたのには、保津間興産にとって極秘の事情があった。保津間興産は表向きは解体業者なのだ。しかし、裏の極秘稼業は、全国25都道府県、105団体約8000人を擁する坂東連合の頂点に立つ暴力団・毛利谷一家の尖兵としての仕事である。暴対法をかいくぐり勢力を伸ばすために毛利谷一家、本家代貸・坂巻良造が中心となり構築してきたテロ・ネットワークの一翼を担う存在なのだ。そして、今、関西において、総会屋を追い出そうとしている鳥居酒造の若社長を、見せしめとして消そうと計画している。そして、そのヒットマンが、保津間興産から関西に送り込まれたところだったという事情である。
佐伯は、廃棄物不法投棄にまつわる火事の放火についての原因究明・摘発という内村所長の指示の裏に、きな臭い捜査目的があることを感じ取り、潜入捜査を開始することになる。不法投棄事件の解決とこのテロ・ネットワーク撲滅のための探索が、同時並行していく。
佐伯に協力するのは佐伯の警視庁時代のコンビだった奥野巡査長と、奥野と組んでいる緑川部長刑事である。彼等を通じて情報を入手し、また関西との警察ネットワークを間接的に動かしていく。
不法投棄問題の方は、佐伯の怒りと行動により、現場逮捕に進展する。一方、実名で雇われていることで、佐伯の素性がバレることにつながる。そして、佐伯は、保津間興産の上司である課長に伴われ、毛利谷一家の経営する表向きの企業・毛利谷総業、敵の牙城に赴いていかざるをえないことになるというストーリー展開に進んで行く。
その展開プロセスが本書の読ませどころであろう。
産業廃棄物の不法投棄は、現在、そのピークを過ぎた段階に入っているとはいえ、産廃問題が解決してしまっている訳ではない。今も問題の一角として現存する。一方で、テロ・ネットワークという著者の発想は色あせてはいない。まさに、あり得る想定ではないか。1995年当時の作品だが、その話題は古びてはいない。リアル感が今も変わらず厳然と存在する。
今や、本書を離れるが、原子力産業の放射性廃棄物問題が一層深刻になり始めている。
ストーリー展開は、シンプルである。佐伯流活法が現場での実践格闘に手慣れた暴力団のつわものを相手に炸裂する。格闘シーンは、著者のおてのものであり、エンターテインメントとして読ませるシーンはスピーディだ。
事件が解決し、「環境犯罪研究所」が解体される。佐伯は、新たな辞令を受ける。それは、警視庁への復帰ではなかった。
そして、意外な事実がそこに付帯してくる。それは本書で確認していただこう。
そうでないと、おもしろくない。
佐伯涼を主人公にした、新たなストーリーが再び、始まるのはいつだろうか。
ご一読、ありがとうございます。
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本書に出てくる語句から少し関心の波紋を広げてみた。一覧にまとめておきたい。
産業廃棄物 :ウィキペディア
産業廃棄物の排出及び処理状況等(平成22年度実績)について (お知らせ)
平成24年12月27日 :環境省
不法投棄 :ウィキペディア
産業廃棄物の不法投棄等の状況(平成23年度)について(お知らせ)
平成24年12月27日 :環境省
岩手・青森県境産業廃棄仏不法投棄事件 :「二戸市」ホームページ
豊島産廃事件 :「WAHHAHHAの仮住まい」
豊島問題ホームページ :香川県
富士フィルム専務殺害事件 :「事件史探究」
住友銀行名古屋支店長射殺事件 :「PUKIWIKI」
住友銀行名古屋支店長射殺事件 :「ネットの力で風化STOP 未解決事件を追う」
総会屋 暴力団ミニ講座 :「松江地区建設業暴力追放対策協議会」
「総会屋」 って何? :「論談小話」
大物の死、被災地に出稼ぎ…最新総会屋事情 2011.8.27 :「産経ニュース」
指定暴力団 :「松江地区建設業暴力追放対策協議会」
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
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徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『最後の封印』 徳間文庫
『禁断 横浜みなとみらい署暴対係』 徳間書店
=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 === 更新1版
(現在、実業之日本社文庫にもなっている。)
元マル暴刑事・佐伯涼が一旦この書で「環境犯罪研究所」への出向にケリをつけることになる。
公害元年と称されたのは日本の高度経済成長が峠を越し始めた頃になるのだろうか、1970年のことである。それまでの高度経済成長期に於いて無視されてきた社会資本投資への不備が、1970年頃から急激に現れて来る。その一つが産業廃棄物の投棄問題だ。産業廃棄物による深刻な自然環境破壊であり、大気汚染と地下水汚染である。
本書の一つの側面は、この産業廃棄物の不法投棄である。別荘地として開発された地域が何時しか産業廃棄物の不法投棄場所に強引に代えられていく。別荘地を購入した人々の多くは逃げ出してしまい、ここを終の棲家と決めた少数の人々や地元の人が、環境問題運動家と一緒に反対闘争を推し進めるという状況が背景となる。その不法投棄に反対する別荘地住民の家が火事に遭う。内村所長はその火事に放火の疑いがあるとして、佐伯に調査を命じる。内村所長が佐伯に手渡した資料には、保津間興産という解体業者の新聞記事が挟まれていた。
佐伯は現地に行き、実態を見聞する。火事に遭った住人の話を聞き、活動家とも話をする。その結果、佐伯は保津間興産に潜入捜査をすることになる。内村所長は、手回しよく潜入先への紹介状を、ある行政機関から入手しておくのだ。
佐伯はタイミング良くこの解体業者に作業員として雇われ、廃棄物処理課という部署に配属されることになる。この企業、実は暴力団の企業舎弟なのだ。
佐伯がタイミング良く雇われることができたのには、保津間興産にとって極秘の事情があった。保津間興産は表向きは解体業者なのだ。しかし、裏の極秘稼業は、全国25都道府県、105団体約8000人を擁する坂東連合の頂点に立つ暴力団・毛利谷一家の尖兵としての仕事である。暴対法をかいくぐり勢力を伸ばすために毛利谷一家、本家代貸・坂巻良造が中心となり構築してきたテロ・ネットワークの一翼を担う存在なのだ。そして、今、関西において、総会屋を追い出そうとしている鳥居酒造の若社長を、見せしめとして消そうと計画している。そして、そのヒットマンが、保津間興産から関西に送り込まれたところだったという事情である。
佐伯は、廃棄物不法投棄にまつわる火事の放火についての原因究明・摘発という内村所長の指示の裏に、きな臭い捜査目的があることを感じ取り、潜入捜査を開始することになる。不法投棄事件の解決とこのテロ・ネットワーク撲滅のための探索が、同時並行していく。
佐伯に協力するのは佐伯の警視庁時代のコンビだった奥野巡査長と、奥野と組んでいる緑川部長刑事である。彼等を通じて情報を入手し、また関西との警察ネットワークを間接的に動かしていく。
不法投棄問題の方は、佐伯の怒りと行動により、現場逮捕に進展する。一方、実名で雇われていることで、佐伯の素性がバレることにつながる。そして、佐伯は、保津間興産の上司である課長に伴われ、毛利谷一家の経営する表向きの企業・毛利谷総業、敵の牙城に赴いていかざるをえないことになるというストーリー展開に進んで行く。
その展開プロセスが本書の読ませどころであろう。
産業廃棄物の不法投棄は、現在、そのピークを過ぎた段階に入っているとはいえ、産廃問題が解決してしまっている訳ではない。今も問題の一角として現存する。一方で、テロ・ネットワークという著者の発想は色あせてはいない。まさに、あり得る想定ではないか。1995年当時の作品だが、その話題は古びてはいない。リアル感が今も変わらず厳然と存在する。
今や、本書を離れるが、原子力産業の放射性廃棄物問題が一層深刻になり始めている。
ストーリー展開は、シンプルである。佐伯流活法が現場での実践格闘に手慣れた暴力団のつわものを相手に炸裂する。格闘シーンは、著者のおてのものであり、エンターテインメントとして読ませるシーンはスピーディだ。
事件が解決し、「環境犯罪研究所」が解体される。佐伯は、新たな辞令を受ける。それは、警視庁への復帰ではなかった。
そして、意外な事実がそこに付帯してくる。それは本書で確認していただこう。
そうでないと、おもしろくない。
佐伯涼を主人公にした、新たなストーリーが再び、始まるのはいつだろうか。
ご一読、ありがとうございます。
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本書に出てくる語句から少し関心の波紋を広げてみた。一覧にまとめておきたい。
産業廃棄物 :ウィキペディア
産業廃棄物の排出及び処理状況等(平成22年度実績)について (お知らせ)
平成24年12月27日 :環境省
不法投棄 :ウィキペディア
産業廃棄物の不法投棄等の状況(平成23年度)について(お知らせ)
平成24年12月27日 :環境省
岩手・青森県境産業廃棄仏不法投棄事件 :「二戸市」ホームページ
豊島産廃事件 :「WAHHAHHAの仮住まい」
豊島問題ホームページ :香川県
富士フィルム専務殺害事件 :「事件史探究」
住友銀行名古屋支店長射殺事件 :「PUKIWIKI」
住友銀行名古屋支店長射殺事件 :「ネットの力で風化STOP 未解決事件を追う」
総会屋 暴力団ミニ講座 :「松江地区建設業暴力追放対策協議会」
「総会屋」 って何? :「論談小話」
大物の死、被災地に出稼ぎ…最新総会屋事情 2011.8.27 :「産経ニュース」
指定暴力団 :「松江地区建設業暴力追放対策協議会」
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こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『最後の封印』 徳間文庫
『禁断 横浜みなとみらい署暴対係』 徳間書店
=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 === 更新1版