パオと高床

あこがれの移動と定住

小田亮『レヴィ=ストロース入門』(ちくま新書)

2009-11-17 12:22:59 | 国内・エッセイ・評論
レヴィ=ストロースが死んだという記事を見て、思わず、読み始めた一冊。レヴィ=ストロースが、その思考にあたって用意し、再編し、創出した用語に沿って、手際よくその概要をまとめていく。

ちょうど、ブリコラージュについての章を読んだ朝、朝日新聞朝刊の『定義集』という、大江健三郎の連載欄で、大江は「未来をつくるブリコラージュ」―市民が核弾頭壊す日夢見てーという文章を書いていた。

この「器用仕事」と訳される言葉を、大江は自身の過去にあった雑多なものの思い出、そして、大江自身が行う手仕事の話という身近な語りから、『野生の思考』の引用につなげ、それを未来へ向けた手仕事として、核廃絶に向けて、それを行うための、気の遠くなるような、核兵器を解体していく手仕事へとつないでいく。ああ、こうきたかという思いがする。そう、近代のエンジニアの作業に対するに、効率性の重視による非効率性の切り捨てに対するに、非効率的でありながらも行い続ける営為の必要が語られていく。

大江は書く、核兵器という「科学的思考の総体」に対して、「科学者がこの悪夢を根だやしにする、新しいコペルニクス的転換による道を提示したことはありません」と。そして、この文章のラスト、彼は「夢想します」と言って、次のような光景を記述する。
「ある数の市民たちが、その技術と手持ちの道具で二万分の一の核弾頭を壊す、その光景がひとつの広場から全世界に衛星放送で送られる日、それを私は夢想します」

ひとりの画期的な知性への追悼を、自身の問題意識につなげていく。その身近から理想へと至る流れに、作家のエッセイを見たような思いがする。

『レヴィ=ストロース入門』からは逸れてしまったが、これもまた、思考のリレーということで・・・。
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