パオと高床

あこがれの移動と定住

ハン・ジョンウォン『詩と散策』橋本智保訳(書肆侃侃房 2023年2月6日)

2023-02-17 03:02:45 | 海外・エッセイ・評論

散歩を愛す韓国の詩人ハン・ジョンウォンが、詩に出会い、詩を歩き、感じ考えたことを
「澄んだ水晶」(訳者あとがき)のように綴ったエッセイ集。
散歩と詩は、こんなにも素敵な出会い方をするのだと、エッセイを一つ読んでは、
閉じた表紙の、これまた素敵なデザインを見ながら、しみじみ感じた。
そして、詩と散歩と思索は、拾い集めたくなることばをこんなに、はらはらと舞い散らせてくれるのだと、
うれしくなってしまった。

詩をいくらかは読んできたけれど、どれだけ詩との出会いを大切にしてきたのかなとか、
ただ消費するようにことばをなくしてきてしまったとか、そんなことを考えた。
これまで出会った詩に、もう一度、出会い直してみたいという気持ちにさせてくれた。
そう、
「雪は白い色というよりは、白い光と言ったほうがいい。その光は私の愛する人の顔を映しだしてくれる」と、
書かれているように、雪を愛する詩人のことばは、すいと光を差しだしてくれる。
そこに置かれた思いをもったことばたち。
オクタビオ・パス、ボルヘス、ペソア、ウォレス・スティーヴンズ、ヴァルザー、ヴェイユ、
ツェラン、エミリー・ディキンスン、リルケ……。
ロシアの詩人アンナ・アフマートヴァ、イランの詩人フォルーグ・ファッロフザードもいる。
あっ、金子みすゞも。
それらの詩句を口ずさみながら、散歩をし、日々の暮らしを過ごしながら、
思いはゆっくりと自在に歩みを続けていく。
読んでいると、日々の中に木々に囲まれた静謐な場所が現れるような気がしてきた。

最近、詩をめぐる本や、詩を紹介する本に、一緒に連れだしてくれる、誘いだしてくれる本が
多いような気がする。
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『無双の花』葉室麟(文春文庫)

2023-02-12 13:27:16 | 国内・小説

ずるいよ、立花宗茂。かっこよすぎ。
葉室麟、かっこよさをかっこよく描ききっている。
大河ドラマで取り上げて欲しい人物の一人として挙げられる立花宗茂を、
福岡出身の作家葉室麟が描く。
「立花の義」を貫き、義による行動を全うしながら、生き抜いていく宗茂。
そして、武勇にも秀でた妻誾千代。
大坂の陣では敵味方に分かれながらもお互いを認め合う真田信繁。
乱世から泰平の世へとかわる中で、お互いが交差する伊達政宗。
さらに、秀吉、家康、秀忠。と、葉室麟は独自の視点で人物を造型していく。
でてくる人物がなんとも魅力的だ。
そんな中で
「世は努めることを止めぬ凡庸なる力によって成り立っておるかと存じます」
と宗茂に語らせる、人々の日々の営為に注ぐ作者のまなざし。
また、乱世を泰平に導くために、ぶれずに大切にされる「義」という価値への作者の思い。
秀吉の島津攻め、朝鮮出兵、関ヶ原の戦い、大坂の陣という時代の流れも描きながら、
尊敬し合う夫婦の姿や戦いのもたらす非情さも横溢する。一気読み必至の一冊だった。
で、
ドラマ化して欲しい。特に今、この時代に。
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『浄土の帝』安部龍太郎(角川文庫)

2023-02-10 13:49:21 | 国内・小説

後白河上皇の半生を描いた小説。
平清盛とか源頼朝を描く時に、稀代の政治力と裏工作師ぶりを発揮するキイパーソンとして登場する帝を、
正面から主役で描く、珍しい(?)一編。
院と天皇の確執や、それをとりまく摂関家の蠢きがわかって、なかなか面白かった。
今様に打ち興じる姿や、夢物語にテレパシーのように語りかける様子は、
それこそドラマでよく見かけた。
「鎌倉殿の13人」でも頼朝の夢枕に西田敏行はよく立っていた。
それが、この小説では、今様に優れた才能を持ち、人々から尊崇を得るためにその才能を生かした、
としている。
また、語りかける能力も、そんな力を持っていたとして描いている。
なんらかの古文の資料に記述があったのかもしれないし、作者が想像をめぐらしたのかもしれない。
それが崇徳上皇と後白河上皇の心の交流でうまく使われたり、
後白河上皇が庶民をどう捉えようとしていたかを描く時に有効に活用されていた。
実際に
今様が宮中にも浸潤している様子は、文化の動きとしてかなり重要な転機だと
何かの本で読んだことがある。吉本だったかな?

この作者の書いた『等伯』でもそうだったが、
視点を従来の場所から変えることで、違った立ち位置で歴史を見つめることが出来た。
保元の乱や平治の乱といった学校で習った歴史が人々の動きとして表れたのはよかった。

それにしても韓国歴史ドラマの朝鮮時代物でもそうだけれど、
王や帝が親政を行うことは、難しいもので、必ず
とりまく官僚の権力争いが起こるのだな。
で、一方でいかにして相手を朝敵にするかが、すでに古代から生まれていたことに
気づかされた。
幕末に倒幕を狙う薩摩藩が錦の御旗を欲しがった戦略もすでに、
歴史が示しているものだったのだ。

安部龍太郎の小説は比喩が抜群にいいな。
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