パオと高床

あこがれの移動と定住

斎藤真理子『韓国文学の中心にあるもの』(イースト・プレス 2022年7月176日)

2023-04-01 08:51:48 | 国内・エッセイ・評論

斎藤真理子は韓国文学の翻訳家でライターである。
あっ、翻訳ってここまでその国と付き合いながら行っていく作業なのだと思った。
韓国の作家が自分たちの現状や歴史とどう向き合い、その中でいかにそれを内面化し、
なにを考え、なにを伝え発信し、どうそれを形にしていったのかが伝わってくる一冊。
そして、紹介されたこの小説を読んでみたいと思わせてくれる手引き書にもなっている。

章立ては、第1章「キム・ジヨンが私たちにくれたもの」から始まり、
「セウォル号以後文学とキャンドル革命」「IMF危機という未曾有の体験」「光州事件は生きている」
「維新の時代と『こびとが打ち上げた小さなボール』」「「分断文学」の代表『広場』」
「朝鮮戦争は韓国文学の背骨である」「「解放空間」を生きた文学者たち」「ある日本の小説を読み直しながら」の全9章。
章立てを見ただけで、韓国の現代史が見えてくるようだ。

『82年生まれ、キム・ジヨン』は「降臨」したと表現されている。
うん、確かに、この小説は視界と地平を転換させる発火装置だった。自身の価値観が何によって築かれ、
それが変わるものかを日常の隅々に到るまで問うてくる。
当然だろう、価値観は日常の些細なことまで決定しているのだから。その土台をしっかりと揺らした。揺らし続けている。

セウォル号事件が韓国の人々に、作家に与えた影響はこんなにも大きいのだと思った。
この事件を経て、小説にきざす気配が代わった作家たちを、読んでみたいと思った。
キム・エランのこの事件以降の作品を読んでいない。
キム・へスンの『死の自叙伝』は圧倒されたが重さを受けとめられなかった気がする。

「光州事件」では、テレビドラマ「砂時計」「第五共和国」に衝撃を受けた。
が、ハン・ガンの『少年が来る』は圧倒的だった。今でも、ボクの中の一押しの小説の一つだ。
ハン・ガンは『菜食主義者』で驚かされ、『ギリシャ語の時間』や『すべての、白いものたちの』
などなど多分翻訳されているものは読んでるんじゃないかなと思う
。今、詩集『引き出しに夕方を仕舞っておいた』を読んでいる。この書名がすでにいいよ。
韓国の作家でノーベル賞をとるとしたら多分、ハン・ガンではと思っている。

廉想渉(ヨムサンソプ)の『驟雨』については、そうか、こんな風に歴史の文脈の中で読めばいいのだと思った。

多くの書籍一覧もついていて、この本読んでみようと思える紹介書でありながら、読み方も示してくれる。
たびたび手に取ることになるだろうと思う本だった。