パオと高床

あこがれの移動と定住

中山七里『いつまでもショパン』(宝島社)

2014-12-14 15:56:54 | 国内・小説
章構成は、プレリュードと四つの楽章からできている小説。基本、ミステリーのジャンルに入る。が、半分以上を占めているのではと思わせるショパンコンクールでのピアノ演奏についての描写が、音楽小説としての楽しさも発散させている。

冒頭、大統領専用機へのテロから始まる。そして、舞台はテロが勃発しているポーランド、ワルシャワでのショパンコンクールに移る。
主人公はヤン・ステファンスという18歳のピアニスト。ポーランドの期待を一身に集める、コンテスタント。ポーランドのショパンを継承すべくコンクールに臨む彼の成長物語にもなっている。それが青春小説的な雰囲気を出していて、それもまた楽しめる。
登場するコンテスタントは、フランス人の女性エリアーヌ、日本人の盲目のピアニスト榊場隆平。彼は辻井伸行がモデルではと誰でも思うキャラクターに作られている。また、もう一人の主人公岬洋介。この2人のピアノ演奏にヤンは翻弄される。そして覚醒する。他に兄がアフガニスタンで軍人として派遣されているアメリカ人、エドワード。中国人リーピンなどなど。そして、彼らの演奏が描写される。

 ハ短調から変イ短調への転調に時折主題が顔を覗かせる。
 わずかにテンポを速めながら、切なく訴えるように指を走らせる。
 そしてアルペジオを繰り返した後でいきなり右手を炸裂させた。
 (略)
 左手はオクターブで咆哮し、右手は鍵盤を破壊せんばかりに暴れ回る。

とか、

 フォルテシモの両手オクターブ。
 銛のような音がヤンの胸に深々と突き刺さる。
 ああ、まただ。
 放たれた銛の端は岬が握っている。こんな風に奥深く貫かれたら、後は岬の意のままに曳行されていくだけだ。
 控えめなヴァイオリンの前で岬は惜別の詩を歌う。ヤンはこの時点で喘いでいた。なんという哀しみだろう。岬のピアノは慟哭している。狂おしく荒野を彷徨いながら、天を仰いで号泣している。

とか、こんな描写に持っていかれる。

暴力的なテロの前で音楽は何ができるのか。音楽の力とは何か。そんなことへの問いも孕み、また、テロの悲惨と、それの持つ身勝手さへの言及も含みながら、小説は展開される。

最初、読み始めた時に仲道郁代のショパンを流しながら読んでいて、監修者を見ると、音楽監修が仲道郁代になっていた。テレビでこの人の楽曲分析を見たことがあるが、ホントに魅力的にチャーミングに楽曲分析をする人で、この小説の音楽監修もなるほどと思ってしまった。

あっ、事件はワルシャワのテロと、コンクール会場で起きた指十本を切断された殺人事件、そして、その犯人である通称「ピアニスト」をめぐって進む。
この事件の筋とコンクールの筋が二本の主要な流れを作る。そう第一主題と第二主題のように。もちろん、その二つは交互に重なっていく。

とにかく、ショパンが聴きたくなる小説だ。一気に数枚CDを借りてきてしまった。今は、ルービンシュタインで「ノクターン」を聴いている。他に、アルゲリッチ、ポリーニ、カツァリス、ユンディ・リがある。少しの間、ショパンに浸ってみよっ、と。
この小説の参考CDのアシュケナージは借りてきていない。最近、ちょっとアシュケナージは……という気分。
コメント
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