パオと高床

あこがれの移動と定住

大井浩一『大岡信—架橋する詩人』(岩波新書 2021年7月20日)

2021-10-03 10:36:14 | 国内・エッセイ・評論
何人も何人も、誰でも彼でも、この人を知らずにいたら残念だ、この人の本を読まずにいたら大きな欠落だ
と思える人がいるもので、大岡信もそんな人の一人だ、と思わせてくれた一冊。
大岡没後1年の2018年から21年まで毎日新聞文化面で月1回計33回連載された「大岡信と戦後日本」を
大幅に加筆修正した一冊であると「はしがき」に記されている。 
「架橋する詩人」という副題にそった、明確な角度を持った大岡信入門書であり、現代詩や現代社会、
現在の文化状況への問いかけを持っている。

大岡の著書『うたげと孤心』に代表される、彼の、個の創造力とその個が他者を受けいれることで生まれる
開かれた創造の場を求める活動を、大井浩一は追っていく。著作の「あとがき」などで表された大岡の心を記述し、
一方ではより多くの彼の詩を紹介しようとしている。 
詩の一節を抜くのは、詩の全体から考えれば難しいことである。だが、逆に抜き出された数行が、
詩人が使おうとした言葉への敬意と畏れを伝えてくる。
また、彼が詩人としてどのように言葉を歌わせたかったかが感じられるようだった。
この本を読みながら、パラパラと大岡信の詩を読み、『折々のうた』のいくつかを読んでみようという気持になった。
ちょうど『折々のうた 選』も出ているし。

また、大井浩一は、現在のネット社会の中で、異論や意見を排除し、聞き易いもの、同調性の高いものだけを
受けいれていく社会行動に大きな危惧を抱いていることがわかる。
支持不支持が発熱するかのように起こる現状へのあやうさに対して、バランサーをどう取るか、感受性や知性は
どうあったらいいのかを探っている。大岡信を論じたいと彼が思った強い動機が、そこに感じられる。
「架橋する」「合わす」「唱和」といったことばの中で、その言葉にこめた希望が語られている。

大岡信の活動を知りながら、現代詩入門にもなり、現代詩の問題点もあぶり出そうとする。
と同時に文学が、文化が、時代が、どう動いてきたか、今どのような状況かへもアプローチしようとしながら、
しかもよく整理され、読みやすい本だった。
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