パオと高床

あこがれの移動と定住

三田誠広『小説を深く読む ぼくの読書遍歴』(海竜社 2018年11月)

2019-12-11 22:06:19 | 国内・エッセイ・評論

「小説の深さに気づくと、小説を読む楽しさが、二倍にも三倍にも広がっていく」と、「はしがき」にある。
小説は、確かに読み手によって、それぞれ、さまざまな、面白さの顔を見せる。
この本は「ぼくの読書遍歴」とあるように、難しい深読みをするのではなく、「難しい話はしない。子どもの
ころからのぼくの読書遍歴をたどりながら、どのようにして深い小説と出合い、小説の深さというものに気づ
いていったかを語ってみたい」と、読みやすいエッセイの形で書かれている。だが、扱っている小説について
の記述はうまい具合に深い。溺れず、のめり込まずにすみ、かといって浅い水たまりでもない。
ああ、そうかそうかと合点がいきながら、あっ、先に気づかれたとか、そんなの気づいていたよとか、そんな感じで読めた。
ああ、そうなのだ、お気に入りの作品の主題への問いは、直球勝負の疑問と答えが、ふむふむと、面白い。
もちろん、小説の、文学の、解なしの問いはいい。そう、どう読むかを、強制せずに、魅力の世界への問いにするところがいい。
例えば、『伊豆の踊子』の大学生「私」の涙のわけや、大江健三郎の構造への着目。夏目漱石の『こころ』の二重三角関係構造などなど
章末に記載されているように、取り上げた小説は、『罪と罰』『赤と黒』『はつ恋』、志賀直哉、梶井基次郎、
『源氏物語』『友情』『いちご同盟』、川端康成『伊豆の踊子』『雪国』、谷崎潤一郎『初恋』から、横光利一の『蠅』、
『檸檬』、サルトルの『嘔吐』。埴谷雄高『死霊』『虚空』『洞窟』、『星の王子さま』、そして、大江健三郎、中上健次、
村上龍、村上春樹、多和田葉子に笙野頼子などなど、そして又𠮷にまで触れる。
とくると、当然さらりとになるのは仕方ないけれど、遍歴の一端が見えるのだ。
埴谷雄高との出合いの場面が面白かったかな。

コメント
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