パオと高床

あこがれの移動と定住

松本健一『司馬遼太郎を読む』(めるくまーる)

2009-08-26 19:33:37 | 国内・エッセイ・評論
司馬遼太郎の本ではなく、司馬について書かれた本を読む。何とも、読書のはかどらない夏に、ぱらぱらとコンパクトに、しかも一定のレヴェルを保っている本だった。2004年の司馬遼太郎記念館での講演と岡三証券の広報誌に連載されたものから作られた一冊。

講演は作家である司馬遼太郎の作家としてのオリジナリティを「history」は「his story」であるといった点から語り明かしていく。「私」を語るよりも、「彼」を語り聞かせるという、この作家の持つ歴史小説家として個性の際だった点を、松本は上手く語っていく。また、歴史小説家であって、歴史学者ではない司馬の想像力を畏敬しながら伝えてくれる。

歴史上の人物ごとに、決まった枚数で司馬遼太郎の特質を表していく第一部の広報誌連載部分は、4ページで上手く抽出された評論コラムになっている。あとがきにもあるように、連載継続を望まれる内容だろう。その要望に応えて綴られた二部は、『街道をゆく』にちなんだ文章が展開されている。

大きな作家である。この人に関する評論は本当に難しいのではないかと思う。それを、むしろ抽出力に賭けて、コンパクトにまとめると、かえって、司馬の巨大さが伝わったりするのかもしれない。
司馬遼太郎の文章を読みたくなった。
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金大中が死んじゃった

2009-08-19 08:56:07 | 雑感
18日に金大中がついに死んでしまった。
韓国民主化の象徴であり、そのまま民主化の歴史であり、その体現者であった人物は85歳の生涯を閉じた。
数日前に、金泳三が病院に金大中を見舞い、「和解の時期が来た」というようなことをインタヴューに応えて言ったという記事を見かけて、あれと思ったのだが、本当にぎりぎりでのお見舞いだったようだ。病状が悪く、本人との面会はなかったらしい。

朝日新聞は、1面、「天声人語」、2、8、9,37面で金大中に触れている。その2面の評伝は「不死鳥のような鉄人にして哲人の政治家」と書き出している。持続する志の強さと揺るぎなさ。彼は全身で民主化を発光し、また、民主化の動きを求心していったのだろう。それにしても、よく生き続けられた政治家だったと思う。死地をことごとく乗り越えていく、しかも、ひるまない。より強靱な持続力を発揮する。政治的に抹殺されたに等しい状況の中でも、なお民主主義の実現を見据えていく。現代史の中でのアジアの持つ民主主義獲得の歴史を顕著にあらわしている人物なのだ。

「天声人語」はこう結ぶ。「巨星は墜ちたが、生まれたばかりの雲になって、分断された民族の行方を見守っていることだろう」と。儒教などの「魂魄」の思想を背景に持った、なかなかの結びだと思う。

録りだめしていたドラマの「第五共和国」もラストをむかえている。不謹慎かもしれないが、金大中の人生も、ドラマになることを期待してしまう
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「阿修羅展」に行く

2009-08-11 23:40:21 | 雑感
九州国立博物館に行く。阿修羅に会いに行く。戦う神の憂いに会いに行く。すくっと立っている。屹立というわけではない、むしろぞんざいに立っている。天平仏なのだ。その立ち位置から、腰が、手が、動く。そして表情が、一瞬の静止の中に、感情の打ち消しがたい痕跡をとどめて、「憂い」と「峻厳」と「切実」を、問いに転化して放散してくる。その前にいて、魅了される。心を揺さぶってくる、ある静謐が、ここにはある。それは、むしろ動が静に移ることで、封じられた沈潜のようであり、人は心の揺らぎを阿修羅に投影させる。

思ったよりも、明るい照明だった。また、円形の場所に立つ阿修羅に、360度移動しながら語りかけていける空間は、係員の誘導の手際よさもあって、不要なストレスを感じることもなかった。
鎌倉仏の四天王との造形の違いも感じることができ、また、八部衆のうちの四体との出会いにも、時間の充実を感じられた。

それにしても、様々な阿修羅グッズの開発力はたいしたものだ。ただ、これも、仏像の本来性から考えると、むしろ当然のことなのかもしれない。

そのグッズとは別の話だが、作られる仏像それ自体は、アイドルの原義に忠実でありながら、精神性のレヴェルを保つ、いや、むしろ精神性の充溢があってこそアイドルとしての実在性に至ることが出来るのであり、ここに仏像が作りつづけられる営為の凄まじさがある。
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