パオと高床

あこがれの移動と定住

山本淳子『源氏物語の時代 一条天皇と后たちのものがたり』(朝日新聞社)

2008-01-23 01:30:39 | 国内・エッセイ・評論
一条天皇の御代が活写される。一条天皇と中宮定子、中宮彰子を軸に、清少納言、紫式部、藤原道長、藤原伊周、藤原行成たちの生きた時代が描き出される。『大鏡』『栄花物語』など高校時代に入試対策で苦闘した書名が懐かしい。と同時に、こういうふうに歴史的事実とつながるのかという解釈の楽しさを味わうことができる。何より、時代と人物への著者の愛情が溢れている。そして、彰子、定子、一条天皇が、どういう気持ちで何を大切にして、どう生きたか、生きようとしたか、生きざるをえなかったかが、著者の洞察力を持って語られる。
一条天皇と定子の愛の強さ、彰子の一条への思いと自立していく姿を描く著者の筆致は、平安の時代を政治と権力の時代にあって、なお女性の時代と捉える視点が強くみなぎっているように感じた。道長の妻倫子の道長への憤りを読み解くところや、父道長への彰子の怨み言に自己主張の気配を読むところ、紫式部の清少納言評に、彰子に仕える式部の彰子への配慮と定子の影響力への危惧を見たり、また、彰子のトラウマなど、この時代の人びとの心映えがものがたられる。花山天皇の出家退位に始まり、一条天皇の死、道長の死、そして87歳まで生きたその後の彰子まで続く、評伝、評論の形をとった「ものがたり」になっているのだ。
以前読んだ『紫式部日記』も、こうやって解説付きで説明されるとより面白かった。『枕草子』の画期性もわかったような気になれた。
そして、『源氏物語』は、まさに時代とともにあったのだと感じられた。
紫式部の広く深い漢籍への知性や冷静で鋭い観察眼、「身」と「世」を感じる作家としての覚醒や周囲との違和と協調などに、著者が考える物語作家的資質が見て取れるようだった。



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