この人の小説、面白い。って言っちゃえば。それで終わるのだが。
〈館四重奏〉シリーズと名づけられた3作目。
『紅蓮館の殺人』『蒼海館の殺人』に続く作品だ。
山火事、水害と限界状況を設定しながらのクローズド・ミステリイの3作目は
地震。
かなりの配慮があっての刊行だったのだろうと思わせるし、実際「あとがき」にも
書かれている。
とにかく王道を歩く探偵小説。
だから、歩きながら、これまでの探偵小説へのオマージュになりパロディーになる。
でありながら、新奇な何かがあるのだ。
「名探偵」を自称し、名探偵の宿命をも引き受けようとするかつての高校生探偵、葛城。
同じく、かつて高校生探偵と言われながら、苛酷な状況から、
探偵であることの一切から逃れようとしながら逃れられない飛鳥井光流。
そして、語り手である助手の田所とその友人三谷。
探偵とは何か、真相を暴くことと事件の解決との違いは何か。
登場人物は悩み、戸惑う。自負、自信とそれへの不安を語っていく。
明確に見えている事件の真相。だが、それに自分たちはどう対処するか。
それが、青春小説のテイストや成長物語の趣を生みだしていく。
地震による土砂崩れで閉ざされた—あちらとこちら—。
土砂越しに提案される交換殺人から事件は始まる。
名探偵は、その土砂崩れによって事件が起こる現場には行かれない。
だが、起こり続ける連続殺人。
並行して流れる時間の中で
推理は推理を誘いだす。
この作家の小説では、『星詠師の記憶』がすごいなと思ったけど、
〈館四重奏〉、3作目まで十分満足。
4作目、期待。