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秩父夜祭

2013年08月17日 14時58分45秒 | 祭・催し

秩父夜祭 

秩父夜祭は毎年決まって12月2日と3日に開かれる。10年は木曜と金曜日だった。夜祭だから山車のぼんぼりと花火が売り物。2日は宵宮(前夜祭)、3日は大祭。

夜出かけるのが筋なのに、2日夜から3日朝にかけて雨との予報だったので、大事を取って2日の昼間から花火が上がるまでの昼間だけ見た。


秩父夜祭は冷え込みがきついのが相場なのに小春日和で、着込んでいったセーターを脱いだほど。陽も当たっていて、豪華絢爛な屋台や、屋台の後ろの舞台で女の子が演ずる「曳き踊り」もじっくり観察できた。

秩父夜祭は、京都祇園祭、飛騨高山祭ととともに日本三大曳山祭と呼ばれる。この歳になって三つとも実物は見たことがないので、まず地元の秩父を見ようという魂胆である。

西武秩父駅前の秩父観光情報館で秩父観光協会発行の「秩父夜祭をたのしむ」(100円)や夜祭のパンフレットなどの資料を手に入れ、まず近くの秩父神社に向かう。この神社もその前にある秩父まつり会館には前に来たことはある。

読んでみて驚いたのは、江戸・寛文年間以来三百数十年の歴史を誇る夜祭は、神社の例大祭そのものだと思い込んでいたのに、実は例大祭の「付け祭り」だということだった。

秩父地方は古代から、「知知夫(ちちぶ)絹」の産地として知られた。江戸時代には秩父絹として例大祭に合わせて「絹大市(きぬのたかまち)」が開かれ、3~4千両の取引があった。夜祭はこの大市の最終を飾る、江戸の商人をもてなす行事として発展したのだそうだ。

明治後期から昭和初期にかけて、平織りで裏表がないのが特徴の「秩父銘仙」は、女性の手軽なおしゃれ着として全国的な人気を集めた。秩父市の約7割が織物関係の仕事をしていた時期もあったという。

この絹による潤沢な資金が、“動く陽明門”と呼ばれるほど豪華な屋台や山鉾をつくれた背景にあった。全国的に知られる私の好きな「秩父音頭」には、「秋蚕(あきご)仕舞うて 麦蒔き終えて 秩父夜祭 待つばかり」というくだりがある。夜祭はまさに蚕と絹が生んだ祭なのだ。

祭で曳かれる山車(だし)は、国の重要有形民俗文化財に指定されている屋台4と笠鉾(かさぼこ)2の6基。祇園祭の山鉾32基、高山祭の屋台(春12、秋11各基)に比べると少ない。

屋台は豪華な屋根のある山車。笠鉾は屋根の上に、秩父では飾り金具が垂れ下がる美しい三層の笠をつける。1914(大正3)年に電線が架設されたため、引っかかるので、曳く時は笠をはずす。

秩父で一番大きい「下郷笠鉾」は、高さ7m、笠を付けると15・5m、重さ20t。下郷は6町会の連合体だといっても、曳くのは大変だ。

2日は、中心街の4つの屋台(宮地、上町、中町、本町)の曳き回し。後幕(うしろまく)の猩々(しょうじょう=酒飲みの伝説上の動物)が目立つ宮地、屋根の一番大きい上町、屋根の前後の両端を飾る鬼板が一番大きく、日本神話を題材にしている中町、後幕の達摩(だるま)が目立つので「ダルマの屋台」と言われる本町(もとまち)と、それぞれ特徴があって面白い。

秩父神社から目抜き通りに繰り出していくので、解説を読みながら見るとよく分かる。4つの屋台は左右に張り出し舞台をせり出すと、屋台芝居が楽しめる構造になっていて、3日の午後には歌舞伎を楽しめるという。

3日は、6台が一斉に出る。夜は秩父鉄道の踏切を越え、市役所前の御旅所(おたびしょ)へ向かう短い団子坂の「曳き上げ」で祭りは最高潮に達する。午後7時半から日本花火芸術協会加盟の花火師による4号玉やスターマインが、春はシバザクラでにぎわう羊山(ひつじやま)公園から約6千発、冬の夜空に打ち上げられる。山車と冬花火のコラボレーションだ。花火が上がるようになったのは大正時代からだという。


昼間見ていて面白かったのは、屋台の前面の柱にとりついて、扇子を振りかざしながら「ホーリャーイッ」「ホーリャーイッ」とかけ声をかける4人のイケメンの「囃(はや)し手」だった。聞けば、町内在住で20歳以上、町会への貢献者との条件があるそう。一生に一度だけしかできない。まさに夜祭の花形で、「一生一代の晴れ舞台」。

昼間の屋台には、幼稚園の子どもたちも大挙して長い縄にとりついていた。よちよち歩きの赤子も祭り衣装で走り回っていた。「祭りキチ」は大人に限らない。伝統は確実に継承されつつある。

曳き子は1台を曳くのに約150人。団子坂の曳き上げには400人近く必要だという。このため市街地の空洞化が進む中で、最近は曳き子に若い女性が急増している。

秩父神社の女神(妙見菩薩)と武甲山の男神(蔵王権現)が年に一度逢い引きする祭事とされる。秩父盆地はこの祭りで、一年を総決算し、来年への歩みを始める。

「秩父祭の屋台行事と神楽」は16年12月1日、東北から九州までの33の「山・鉾・屋台行事」の1つとして、ユネスコ(国連教育科学文化機構」の無形文化遺産に登録された。これで無形文化遺産は世界で336件、日本からは歌舞伎や能楽、小川町の和紙、和食など21件が登録されている。

12月4日の秩父夜祭には、前年を13万人上回る33万人が詰めかけた。



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