よみがえった不老川
「川の国」を自称する埼玉県には荒川、利根川の二つの大河のほか、多くの中小の川がある。地元の人を除けば、「不老川」を知る人は少ない。これが「としとらずがわ」と呼ばれていたことも知らない人がほとんどだ。
東京都瑞穂町を源に、県内の入間、所沢、狭山を経て、川越市で新川岸川に合流する。全長17kmと短く小さいが、ホタルが舞い、子供たちが水遊びできる清流だった。
酒造りに使われたとの記録もあるとか。ところが、流域人口の急増(23万人)で、1983年から3年連続で「日本一汚い川」として全国に知られた。
川の汚さはBOD(生物化学的酸素要求量)が指標。バクテリアが水中の有機物を分解するのに必要な酸素量のことで、水がきれいなら分解するときの酸素量は少なくて済み、汚れていれば量が多くなるからである。(海や湖沼の汚染の指標にはCOD=化学的酸素要求量=が使われる)。
魚が棲めるのは5ppmまで、国の環境基準は10ppm。“日本一”の頃、廃棄物や生活排水、豚の糞尿の垂れ流しで、この川のBODはなんと100ppmを超えていた。
川の中にはオートバイ、自転車、古タイヤ、テレビ、布団、さらに犬、猫、子ブタの屍骸まで捨てられていた。ヘドロと大量の洗剤の泡がたまり、悪臭が漂う死の川だった。それが今では鯉が泳ぎ、オイカワやハヤなどの魚が棲みつき、カモが飛来する川に蘇った。
それを可能にしたのが、元毎日新聞記者新井悟楼氏(当時は狭山市自治会連合会会長)の呼びかけで、狭山市内の流域31自治会(1万3500世帯)が85年に結成した「不老川をきれいにする会」である。
川がよみがえったのは、市と「川の中のゴミは住民が引き揚げ、処理は市で」という約束を結び、住民、学校、関係官庁、企業の官民企が一体となって25年間、浄化活動を進めた成果である。住民による監視員による活動は毎月、「不老川クリーン作戦」は年々繰り返された。
その過程で、千匹を超す二つの大型養豚場の廃転業や新河岸川下水処理場の処理水の還流も実現した。県水環境課が公表した2008年の水質は二つの橋の下で3.8ppm、4.9ppm。
この会は9年、日本河川協会の「日本水大賞・市民活動章」と緑綬褒章を受けた。さる3月には「不老川浄化活動25年の歩み 夢つなぐ不老川」という記念誌が発行された。会には「不老川のうた」という歌もある。
「清流の復活」を掲げ、4年間で100か所の川の再生を目指す県にとっては、まさに範とすべき快挙。「川を汚すのも、浄化できるのも住民」という記念誌に寄せられた言葉の一つにはうなずくばかりだ。
筆者にとっても、不老川は現役記者時代、霞ヶ浦のアオコとともに水問題に目を開かせてくれたので感慨深い。この一文は、新井会長に頼んで送っていただいた記念誌の記述に基づく。
「川の国」を自称する埼玉県には荒川、利根川の二つの大河のほか、多くの中小の川がある。地元の人を除けば、「不老川」を知る人は少ない。これが「としとらずがわ」と呼ばれていたことも知らない人がほとんどだ。
東京都瑞穂町を源に、県内の入間、所沢、狭山を経て、川越市で新川岸川に合流する。全長17kmと短く小さいが、ホタルが舞い、子供たちが水遊びできる清流だった。
酒造りに使われたとの記録もあるとか。ところが、流域人口の急増(23万人)で、1983年から3年連続で「日本一汚い川」として全国に知られた。
川の汚さはBOD(生物化学的酸素要求量)が指標。バクテリアが水中の有機物を分解するのに必要な酸素量のことで、水がきれいなら分解するときの酸素量は少なくて済み、汚れていれば量が多くなるからである。(海や湖沼の汚染の指標にはCOD=化学的酸素要求量=が使われる)。
魚が棲めるのは5ppmまで、国の環境基準は10ppm。“日本一”の頃、廃棄物や生活排水、豚の糞尿の垂れ流しで、この川のBODはなんと100ppmを超えていた。
川の中にはオートバイ、自転車、古タイヤ、テレビ、布団、さらに犬、猫、子ブタの屍骸まで捨てられていた。ヘドロと大量の洗剤の泡がたまり、悪臭が漂う死の川だった。それが今では鯉が泳ぎ、オイカワやハヤなどの魚が棲みつき、カモが飛来する川に蘇った。
それを可能にしたのが、元毎日新聞記者新井悟楼氏(当時は狭山市自治会連合会会長)の呼びかけで、狭山市内の流域31自治会(1万3500世帯)が85年に結成した「不老川をきれいにする会」である。
川がよみがえったのは、市と「川の中のゴミは住民が引き揚げ、処理は市で」という約束を結び、住民、学校、関係官庁、企業の官民企が一体となって25年間、浄化活動を進めた成果である。住民による監視員による活動は毎月、「不老川クリーン作戦」は年々繰り返された。
その過程で、千匹を超す二つの大型養豚場の廃転業や新河岸川下水処理場の処理水の還流も実現した。県水環境課が公表した2008年の水質は二つの橋の下で3.8ppm、4.9ppm。
この会は9年、日本河川協会の「日本水大賞・市民活動章」と緑綬褒章を受けた。さる3月には「不老川浄化活動25年の歩み 夢つなぐ不老川」という記念誌が発行された。会には「不老川のうた」という歌もある。
「清流の復活」を掲げ、4年間で100か所の川の再生を目指す県にとっては、まさに範とすべき快挙。「川を汚すのも、浄化できるのも住民」という記念誌に寄せられた言葉の一つにはうなずくばかりだ。
筆者にとっても、不老川は現役記者時代、霞ヶ浦のアオコとともに水問題に目を開かせてくれたので感慨深い。この一文は、新井会長に頼んで送っていただいた記念誌の記述に基づく。