目立つ花を誇らしい衣裳のように咲かせる木々はあるが、
それぞれの個性を色鮮やかに見せるのは秋だ。
それを遠く離れて眺めていると、一つ一つは大きく立派な木であるのに、
可憐な彩りのせいか、それとも山の姿が澄んだ空になだらかな線を描いているせいか、
大勢の少女が集まっているようである。
そしてそこから聞こえて来る歌は、優しく谺(こだま)する。木々を訪れる。
何故あなたは赤を好み、こちらの君は黄色を選ぶのか。
もうそんな野暮なことは訊ねない。
色附く一枚一枚の葉は、既に木から離れようとしている。
そして春からの、枝と共に過ごしたさまざまの日を懐しみ、別れる前の挨拶として、
ひたすら華やいだ表情を見せようとしている。
風が吹けば、木々の声が聞こえるだろう。
文:哲学者、随筆家『串田 孫一』(1915.11.12~2005.7.8)
人生の愛や幸福、自然の風物、登山などを語る滋味にあふれた評論、小品、随筆などを書かれた。