Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「歌っているのは誰?」スロボダン・シャン

2008-01-27 05:14:20 | cinema
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Ko to tamo peva
1980ユーゴスラヴィア
監督:スロボダン・シャン
脚本:ドゥシャン・コヴァチェヴィッチ
音楽:ヴォイスラヴ・コスティッチ
出演:パヴレ・ヴィシッチ、ドラガン・ニコリッチ

セルビア語(多分)字幕なしで観たので、もちろん細部はわからないが、それでも楽しめる(というと語弊があるかもしれないが)、シンプルな構成の映画でした。

1941年4月5日。セルビア(多分)のど田舎から首都ベオグラードへ向かう乗り合いバスに乗り合わせた人々の繰り広げる珍道中。

乗り合わせた人々は雑多。勲章をちらつかせる退役軍人らしき老人、肺病病み、ロマのミュージシャン二人(一人は子供だ)、歌手らしきヤサ男、新婚らしき若いカップル、ドイツ崇拝者、鉄砲を持った狩人、バスのオーナーとその息子らしき運転手、それからまったく活躍せずただ座り続ける老女ひとり。

映画はミュージシャンによるアコーディオンとマウスハープの演奏と歌で始まる。
ジプシーらしいフォークロア色ぷんぷんの音楽だ。

三々五々バス乗り場にあつまる登場人物たち。卵の殻に穴をあけてすする男がいたり、すでに威圧的にあたりを睥睨する輩がいたり、なにが始まるのか?と思っていると、丘の向こうから道なりに仰々しくバスが現れる。
このバスの登場シーンが実にいい。関係ないが「ナイト・オブ・ザ・リヴィングデッド」の冒頭車がやってくるシーンに匹敵する、意味ありげな車の登場シーン。

でもこちらのバスは、よくもまあこんな田舎臭い、おんぼろで疲弊しきったバスがあるもんだと、日本人の自分は感心してしまうような、茶色く泥だらけで汚れきったバスだ。すばらしい。
動力ももしかしたら車内にある薪ストーブからとるのかも知れない。

バスが到着するやいなや我先に乗り込もうとするお客たち。粗末な座席に次々と座ると、いよいよ出発だ。
しかし発車直後からなにやらもめ事が・・・どうやら退役軍人が料金の支払でごねているらしい。前途多難な雰囲気。
案の定、乗り遅れた狩人君がやっと乗り込んだと思ったら車内で銃をぶっ放してまた放り出されたり、人目もはばからずいちゃいちゃする新婚さんにおっさんが目くじら立てたりと、車内では揉め事頻発。

しかしそれだけではない。外の世界にも様々な障害があるよ。農場によったと思ったらオーナーがバスに子豚を積み込んで大騒ぎしたり、道のはずがいきなり畑になっていて、畑の所有者らしき老人と大げんかしてみたり、橋を渡ろうとしたら修理中で、よせばいのに橋の強度を確かめに出てきたおじさんが川におっこっちゃうし、川辺でバーベキューはじめたらいきなり軍隊がやってきてバスを徴用して一行は野宿するはめになるし、バスがもどってきたと思ったら運転手の息子は軍服着てそのまま軍隊に入ってしまうしetc.etc....

無事に着くんかいなこの一行???

そしてとうとう事件が・・・退役軍人のお金が詰まった財布がない!だれかが盗りやがった!
騒然とした車内で疑いは二人のロマに投げかけられる。ぼこぼこにされる哀れなロマの運命やいかに???

というところで映画はクライマックスとエンディングを同時に向かえるのだ。

***

全編コメディタッチで細かいギャグが連なっているが、結末はかなり深刻だ。
ベオグラードに着いたその日は、ナチスドイツが首都に侵攻したその日。
激しい爆撃のなか横転したバスからはい出してくるのは結局ロマのふたりだけ。
明らかにこれは1941年のユーゴの縮図なのだ。
様々な人種や思想がよりあつまりもつれ合っているうちに、おそろしい状況へと運ばれてしまったユーゴの縮図がこのバスの一行なのだ。

そういう厳しい過去を、猥雑に笑い飛ばすように描いてしまう説話的底力はたいしたものだと思う。
それはユーゴに伝わるという叙事詩の伝統を受け継ぐ精神なのかもしれない。

*****

脚本のコヴァチェヴィッチは後にクストリッツァの「アンダーグラウンド」の脚本を書く人である。
「アンダーグラウンド」で空襲を受け動物園の動物が町へさまよい出るシーンは、当初この「歌っているのは誰?」のラストシーンとして構想されたものだそうである。舞台は同じく41年のベオグラード。そして動物が町を闊歩したのは実際に起こった出来事であると言う。

「歌っているのは誰?」のときは折悪しくチトー逝去の服喪期間のためアイディアが実現しなかったもので、15年後「アンダーグラウンド」でリベンジというわけである。


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