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いきなり「ステパン氏」なる謎めいた人物の行状からはじまり、延々地方都市のおちぶれ市民族の怠惰な生活がくりひろげられる。
ステパンって何者よ?とか思っていると、いきなりステパン氏の「息子」が現れ、事態は急転直下、息子の世代ときたら時代や思想がどうのこうのいってると思ったらなんだか知らんがいきなり大火事だの殺人だの自殺だのもう上を下への大騒ぎで、ボルテージは急激に上昇。
ええっ?この人がこんな最後を?!
と思ったらあのひとにはこんなことが?!
こりゃ大変だと思っていたら、なにを考えたのか、するっと親の世代のステパンさんたら逃避行。
と思ったらいきなりそんな無茶な!!
と思ったらばそんな馬鹿な~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!
ふう・・・
血糖値急上昇的テンションの上がり下がり具合は、これ行き当たりばったりなんじゃないの?な感じがするが、よくよく考えてみると伏線は大概どこかにつながっていて、全体としては実はよく考えられているらしい。
と思っていると、雑誌連載時及び本の刊行時には収録されず、遺稿として残された部分(スタヴローギンの告白)があるという。これを読むと、じつに空恐ろしい作家の底力がふつふつとたぎっている。スタヴローギンが途中で消えちゃったなあと思っていたら最後にいきなりああいうことになっちゃうのは、実はこんな中間部があったからなのね。
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冒頭引かれる聖書のことば。
男に憑いていた悪霊が豚に乗り移ったら、豚は大挙して湖に没し、
男はすっきりした面持ちでイエスの許に膝まづくというやつ。
ロシアにおける新しい世代:ヨーロッパからの新思想=悪霊と見立て、その右往左往を描くもの、として読むこともできるかなと思うが、どうもそう単純でもない。
子の世代は思想に殉じたり、思想に殉じることを恥じて自死したり、と、思想と生関わりはかなりアンビバレンツ。新思想に翻弄されつつもロシア的モラルとのせめぎ合いに身を投じることになる、その様は個々に異なり、躁的で病的、滑稽ですらある。
親の世代はもうちょっと受身で、自らの自由主義的観念論が育てた若者の狂騒に巻き込まれ、自らの信仰やロシアの伝統を強く渇望して、しかしそれを回復することなく破滅していく。
溺れ死ぬ豚にもいろいろな毛色と出自があるのだ。
この多様性と複雑さがこの小説を思いきり深く面白くしていると思う。
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スタヴローギンという人物が一番興味深いな。
若い世代に属し新思想に組すると思われながら、実は思想の虚無性の中にしか生きられず、内面は孤独で個人的でしかも普遍的な罪に支配されている。
そういう意味で、19世紀末の歴史を生きた人間という枠を超えて、突出して現代人的な悩みを生きてしまった人なのだ。
(彼は「世界文学が生んだもっとも深刻な人間像」なんだそうな。)
こいつには深く共感するとともに、ドストエフスキーさん、果敢に思考と表現の極限、というかタブーに挑戦する人だったんだなあと感動したよ。
ドストさん、デビュー作の評価は高かったけれど、続く作品群ではその異常な人間像に評価が別れたというけれど、その異常さはこの「悪霊」で極まったのかもしれないな。
しかし、雑誌掲載拒否部分を読むと、あの時代、自殺やら殺人やら病死やらのどぎつさには寛容だったけれど、性の表現はタブーだったのね~と思う。
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シャートフとその奥方&子供、気の毒で泣けましたよ~
よりによってあんなときにあんなことが起きなくても(しくしく)
聖母のようなマリアの突然の死も、リーザの運命もほんとうにびっくりした。
この話、すこしも救いがなく、誰もがみなことごとく悲惨な結末なのだな。
「(混乱期には)およそ屑の屑のような連中がふいに幅をきかせはじめ、以前には口を開くこともようしなかった者たちが、あらゆる神聖なものを声高に批判しはじめたのにひきかえ、それまで平穏無事に自分たちの地位を守っていた第一流の人たちが急に彼等のいうことに耳を傾け、自分たちは沈黙してしまったのである。」
↑これ、日本が戦争をはじめた時はこんな雰囲気だったんじゃないかなあと思いました。もちろん沈黙しなかった人々もいたんんだけれど。
「人間というやつは、怖気づくと鑞のように従順になるものでね・・・」
↑いいなあこの表現。
最初はなかなか読み進まなかったけれど、後半もりあがり、結構名作でした。
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それぞれの死に様が個性的でまた象徴的で面白かったです。
なかでも大トリのスタヴローギンはインパクト大ですね。
かわいそうなお母様。
うねさまのおっしゃっていたとおり、「悪霊」には清楚でほのぼのとした人物はみあたりませんね~しいていえばダーリアさんかなあ。
ひとりひとりの死の思想を整理したら面白いでしょうね。死をおもしろがっちゃいかんですけどね(笑)
あとはこれがどう「死霊」につながっているのかが楽しみです。