Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「小さな悪の華」ジョエル・セリア

2008-03-12 03:21:06 | cinema
小さな悪の華

video maker(VC/DAS)(D)

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MAIS NE NOUS DELIVERZ PAS DU MAL
1970フランス
監督:ジョエル・セリア
脚本:ジョエル・セリア
撮影:マルセル・コンブ
音楽:ドミニク・ネイ、クロード・ジャーメイン
出演:ジャンヌ・グーピル、カトリーヌ・ヴァジュネール


う~む、邪悪な映画ですな。
悪人を描く映画はたくさんあるけれど、
人の邪悪というのをピリリとつまみ上げる映画というのはあまり思い浮かばない。
(まあ観ていないだけかもしれないが。)

パッケージには「トラウマ映画の金字塔」とあるが(笑)言い得て妙であるよ。
これに10代で出会ったら間違いなくトラウマであろうし、
そのまま犯罪者か映画好き(もしくはその両方)に成長しちまうかもしれんですわ。
ワタシ的想像力のなかでは、学校をサボって誰もいない家にいて、午後2時頃にテレビ東京にチャンネルあわせたらこの映画をやっていて、つい観てしまう・・とかいうトラウマシチュエーションが思い浮かぶよ。
ワタシの映画体験って多分、昼や深夜のTVでやる名も無い作品群からはじまっているのだと思うな。

そういう意味でも、この映画はまさにそういう「名も無い群」の一員たる香りをぷんぷんさせていて、まったくもって古巣感いっぱいである。心地悪い内容なくせにとことん心地いいのは、これが平日昼間や深夜に映画を見るなんともいえない解放感とつながっているからだろう。。

***

当時は映画の脚本段階で検閲があったそうだが、その段階ですでにこれは公開の見込みがないとされ、それでも作ったら、やっぱり本国で上映禁止に、かつ輸出禁止となったそうです。なぜかアメリカと日本では上映され(72年)、それ以降お蔵入りとなっていた幻かつ伝説の映画。
で、近年突如話題となりリバイバル上映&DVD発売とは。

で、観てみると、いやーラストはやっぱりインパクトありますね~。質は違えどこういう衝撃の与え方はラース・フォン・トリアー『ダンサー・イン・ザ・ダーク』などに受け継がれているのかも。
それでいて、全体として決してA級になりえないアンダーグラウンド感はTV深夜映画族には実にこたえられない資質だ。監督も本作デビューのほとんど素人、主演のアンヌ役ジャンヌも素人ということ。いやーよいよ。

***

構図としては、カトリックの寄宿学校に象徴される厳格な規範のもとで抑圧された人間性が、エロスとタナトスの衝動にのみこまれ、生よりも死に、善よりも悪に魅入られる、という物語。

でも、この邪悪な感じの根源はどこにあるのかというと、非カトリックなワタシの立場から見ると、彼女たちの悪への衝動が、主に弱者に向けられていることにあるように感じた。
主人公であるアンヌは明らかに中流以上の家庭の子女であり、瀟洒な調度の家に住み一家で夕食後を居間で過ごし、母親はおそらくだデザイナーである。その彼女が餌食に選ぶのは無学な牛飼いの男であり、庭師である。いずれも年長の男だがその立場は社会の底辺に属する。牛飼いを色仕掛けでからかった後に、今度は庭師がめでている小鳥たちを毒殺したり圧死させたりし、庭師が嘆く姿を盗み見て忍び笑いをする。
抑圧された生が弱者への暴力へ向かう姿は、まさに今の日本における暴力の構図だろう。厳格なカトリック社会の抑圧と同等の圧力が日本の社会で機能している。子供社会のいじめ、大人社会の高度ないじめと驚くほどその心性は似通っている。

****

などという社会論的な話はまあ置いとくとして、しかしまあ考えてみるとこういう背徳の伝統?というのはとてもフランスっぽくないですか?映画中に引用されるロートレアモンにしろボードレールにしろ、思えばフランスというところは冒涜モノにはいとまがないですな。ジャン・コクトー、ジャン・ジュネ、ジョルジュ・バタイユ、セリーヌ、アポリネール、サド、モリニエ、マンディアルグ・・・いくらでも出てくるんでない?
「小さな悪の華」もその系譜に属すると考えるとよいのかも。

それと、題材のわりに意外なほど人物の「内面」が描かれない。ほとんど人物は記号だ。修道女は裏で同性愛的性向を持つ、親は画一的に無批判に権威的である、男は女におそいかかる、少女は背徳的で残酷でエロチック。ラストシーンでさえ生々しさを欠き演劇的である。
ステレオタイプを再確認するような判で押したような人間像は、同時代のアメリカンニューシネマや、ちょっと前になるヌーヴェルヴァーグなどともまったく違った、寓話の世界の話法だろう。
「女の子ダークサイド映画」としてみるよりも、おとぎ話の謎を解きほぐすような接し方がおそらく面白かろう。なぜ男に襲われるのがアンヌではなくロールばかりなのか?とかね・・

***

1954年ニュージーランドで起きた少女二人による殺人事件を題材に構想された映画ということだが、あくまで少女二人という枠組みを借りたもので、内容的にはまったく別物。監督はこの事件の報道がずっと脳裏に残っていて十数年後に映画を作る。どんだけ残ってたんだろうか??
(この事件はのちに『ロード・オブ・ザ・リング』で有名なピーター・ジャクソン『乙女の祈り』‘94でも取り上げられる。こっちも観なきゃ)


で、どうやらセリア監督と主演ジャンヌはその後くっついたらしい。末永くお幸せに?



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