TAP (奇想コレクション) | |
グレッグ イーガン | |
河出書房新社 |
つい最近買ったような気がするが、
2008年初版だった。
うーむ。
90年代の短編を中心としたもので、
イーガンのなかでは比較的ハードではないものを集めているようです。
が、十分に刺激的。
インプラントによりTAPという新たな言語体系を習得することを巡り、
インプラント反対派による犯罪を追う表題作が一番イーガンらしい面白さだろうか。
テクノロジーやサイエンスが提示する事実は時として人間の素朴な心情をおびやかすようなことがあり、
しかしそれでもそれは真実であったり、あり得る可能性であったりすることに揺るぎはなく、
そのために人はその事実に対して様々に反応する。
TAPに対しても、新たな言語による超越的な文学をめざしてインプラントによる活動で生きる人もいれば、
それは人間の本質に対する冒瀆であると受け止める反対勢力もある。
「TAP」は謎を追う探偵ものであるが、
そういう反応を多角的にとりこんでいくことで、小説は科学と社会についての考察もにじんでいて面白い。
結末はある意味あっけなく、また唖然としてしまう帰結でもあるのだが、
高次の言語の行き着く先がいささかニューサイエンス的な帰結であることが、
ここでは疑念とともに可能性として示されている。
このような結末は「ユージーン」とも共通しているが、
そういう幕引きが一種の袋小路として示されていて、ニューサイエンス的なものに対する皮肉を感じる。
一方で、TAPインプラントを子供に施すことをめぐり、
人工的な言語=現実の押しつけは素朴な反応としての拒絶感がある一方で、
どのような環境であれ子育てとは親の与える環境を押し付けるものであり
そこにどれだけの違いがあるのだろうか、と、
科学による知見が人間のあり方を再考させる契機となることも示す。
面白い。
同じく探索ものである「銀炎」は、新種のウイルスの蔓延に対する
疑似宗教的な反応に対する警鐘のようなものだが、
ここでも科学的な知見に対する人間の反応がテーマである。
科学ネタが人間のあり方についての考え方や認識の形を曖昧にし
新たな認識を迫る。
そういう面白さを追求しているのでどこまでもSF的で
そこがイーガンの最大の面白さだと思う。
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