Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「LAヴァイス」トマス・ピンチョン

2012-11-04 02:53:55 | book
トマス・ピンチョン全小説 LAヴァイス (Thomas Pynchon Complete Collection)
トマス ピンチョン
新潮社


原題はINHERENT VICE
生まれながらの悪癖とか悪道とかいう感じでしょうか?

70年のLAを舞台にした探偵ものなのだけど
70年だから主人公の探偵ドックももちろんヤク漬けなわけ。
マリファナで記憶とか時系列とかが曖昧になってくるその狭間の
なんとなく覚醒している時間を使って
なんとか果敢にハードな仕事をくぐり抜けている感じが
妙にコミカルで可笑しい

細部がいちいち凝っていて
まったく実話のような情景描写なのもよい
というかいちいち細かいことに文を割くので
なんともかったるいテンポなのだが
その割に事態は結構急展開するので
まるでヤクでぼんやりした頭と現実を体験しているような気分になってくる。

事件自体もへんてこな展開で
女の失踪から始まって
黒幕と見えた男の背後には奇妙な闇組織が浮上してきて
いよいよその核心に至るかとおもいきや
死んだはずのヒッピーバンドのサックス吹きが現れて乱入
とうとう組織の船が現れたと思うと
失踪した女や男がひょろっと出てきたりして
あれ?事件の解決ってこれじゃなかったっけ?

なんかよくわかんなくなって
でもなんか最後は探偵と刑事が
奇妙な友情を匂わせながら
夕暮れの街を車で走り過ぎ
ビーチボーイズが流れたりして
終わる

おい、ここで終わるのか(汗)


なんとも軽妙で読み易いこれがピンチョンの最新の小説なのだ。
物語の本筋をカクカクと脱臼させてケムに巻く手法を
懐かしのヒッピー文化のもやもやした終末感を使って
ハードボイルド小説のパロディとして仕立て上げた
なんともメタフィクションの大御所らしい小説。
でも、らしくないくらい軽薄な風情にも仕上がっている。

随所に当時のポピュラー音楽の引用やら
シャロン・テイト事件とか
ビートルズ解散とか
たーくさんの文化アイテムへの言及がちりばめられているので
そういう点も面白い。


それから訳者による解説がしっかりしていて
面白いのです。
時代背景からヤクのことから訳のことからw


ピンチョン全集刊行中ですね。
がんばって全巻読むぞー


コメント
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