Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「変身/掟の前で 他2編」フランツ・カフカ

2007-10-21 16:21:15 | book
変身,掟の前で 他2編 (光文社古典新訳文庫 Aカ 1-1)
カフカ,丘沢 静也
光文社

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カフカは10代の後半に「変身」「審判」「アメリカ」を読んだきり。
「審判」の異常な閉塞感が好きで、全体像がさっぱりわからんままところどころつまみ読んだ。

で、読み返すのもだんだんおっくうになり、もう二度とカフカを読まんかもしれんんなあ・・などとぼんやりと思っていたら、豈図らんや、ふと書店で見かけたらなんとなく買ってしまっていた。

それでも買って2週間くらい?は床に積んでおいたのだが、とうとう手に取って読んでしまった。

ああ、読んじゃった。

***

今回興味をひかれたのも、本書の解説に、この本がカフカの「史的批判版カフカ全集」を底本としたものだと書かれていたから。

若かりし頃に読んでいたカフカがいわゆる「ブロート版」だということは当時から知っていた。「審判」や「アメリカ」がマックス・ブロートによる編集によって成立しているものだということは、作中に突如現れる欠落部分で明白だった。

でも、その後、ブロートの多分に主観的な解釈に対して、文献調査による新編集版「批判版カフカ全集」が出ていたことは知らなかった。これが最初にでたのが82年というから、もう20年前(というかワタシにはついこの間な感じだけど^^;)。

いや~知らんかったな~・・と思っていたら、実はその後さらに、「史的批判版全集」というのすら出ていたという。これは95年から刊行されたもので(これでも10年前だ)、もはや編集すら極力排して、生前出版されたものは復刻スタイルで、生前刊行されなかったものは手稿のファクシミリと印刷ページが対になっているスタイルで刊行されているのだとか。

で、光文社からでた文庫はこの最新の「史的批判版」に基づくものだという。

クラシック音楽でもオーセンティックというか、ピリオド奏法かぶれなワタシとしては、この、原典に忠実に、という香りはなんとも魅力的なのでありまする。

****

で、「史的批判版」に基づく邦訳はたぶんまだこれ1冊しかないのだろうけれど、「批判版」を底本とした邦訳が白水社のカフカコレクションなのだという。
いや、知らなかった。これは白水社揃えちゃうぞ!!

・・・・と息巻いてみたが、光文社文庫版の訳者あとがきによると、この白水社版、ずいぶんと邦訳編集にあたって、ブロート的な配慮をしてしまっているそうな。
原文では2パラグラフで成り立っている章を、会話文のはいるところで律儀に段落分けしてしまって120くらいのパラグラフにしてしまっている、とか、
ちょっと複雑ないいまわしをばっさりカットして訳してしまっているとか・・・

う~ん、あまり「批評版」を底本とした意味がないのでは??


・・・・ということで、いま邦訳で読めるのは、ブロート版の新潮社版と、「批判的全集」からの無批判的翻訳(笑)である白水社版しかなく、ほんとうに批評的といえるテキストは日本語にはなっていない、ということになるんですね~
う~~む、残念。

光文社にひきつづき「審判」や「城」などを「史的批判版」の批判的翻訳でお願いしたいところだけれど、う~ん、この古典新訳文庫はやっぱり「古典」の翻訳だろうからな~「変身」は古典でも「審判」は古典とはいいがたいかもな~
(むしろマニア向け?)

**********

とまあぐだぐだ長くなったけれど。

肝心の中身のほうは、昔読んだ古式豊かな日本語に比べ、非常に軽くなったというか、ユーモラスな面が浮き彫りになったかな。

「変身」なんかでは、虫になっても妙に気を使って努力するグレーゴル(昔の訳ではグレゴールだったな)がけなげだけれど、それが常に裏目裏目にでてしまって、これはなんだかマルクスブラザーズ的な意地の悪い笑いを感じさせるよ。

一家の大黒柱を失ったことで、かえって家族がたくましくなっていって、最後は急に晴れ晴れとした解放感まで得てしまうのも、ナンセンスでおかしい。

他の収録作でもそうだけれど、だから何?的ナンセンスを笑う、というのが実はカフカの持ち味なんかもしれない。とくに「アカデミーで報告する」なんかはすごいことになってる。

サル?(笑)


だから、もしかすると、現代口語訳よりも、ちょっと昔ちっくな大仰な日本語の方がより可笑しいかもしれんな。大仰なナンセンス。
「審判」だって、「ヨーゼフ・K!」よりも「ヨオゼフ・K!」のほうがいいよ。


やっぱりこれは白水社版はやめて新潮社版を読み返してみるかなあ・・・



「変身」の家族の物語は、今読んだ感じだと、まさに「息子」をめぐる今の日本の物語という気がしたな。

息子って小さいうちはかわいいけど、あるときから急に人が変わったようになっちゃうやつもいるでしょ?昔はかわいかったのに、いまじゃ悪くなっちゃって厄介者。家族に心労ばかりかけてどうしようもない。

で、悶々としているうちに、なんかほかの家族は結束しちゃったりして、どうなんの?とか思っていたら、あっさり息子は結婚かなんかして、社会人になっちゃって普通の奴になったりして、あらら?拍子抜け・・でも家族は急にすっきり・・・
みたいな。。

そんなどこにでもありそうな家族の風景にみえたな。
息子の変質がたまたま虫だっただけで。

まあ虫の期間にほんとにろくでもないことをしでかしちゃう奴もいるわけだけどね。人殺しとか。

やだやだ。息子ってやっかいだよな~~^^;
(うちは娘なのでよかった(?))



読み比べるとどうかな?

変身 (新潮文庫)
カフカ,高橋 義孝
新潮社

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変身―カフカ・コレクション (白水uブックス)
フランツ カフカ,Franz Kafka,池内 紀
白水社

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