漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「ムコウ」<ひじ>「勾コウ」「私シ」と「厷コウ」「肱コウ」「雄ユウ」

2017年09月15日 | 漢字の音符
ム・厷 コウ

解字 甲骨文は手からのびる前腕の下方に〇印をつけ、そこが「ひじ」であることを示している。篆文第一字は、腕をまげたかたちで「ひじ」を表し、第二字は、「又(右手)+ムコウ(ひじを曲げた形)」の会意形声で、右手のひじを表す。現代字はムと厷(ナ[右手]+ム)になり、いずれも「ひじ」を表す。
意味 ひじ。

イメージ 
 「ひじ」
(肱)
 「ひじをまげる」(弘・強) 
 「まげる」(勾・鈎)
 「同音代替」(宏・紘) 
 「その他」 (雄・私)
音の変化  コウ:肱・弘・勾・鈎・宏・紘  キョウ:強  シ:私  ユウ:雄

ひじ
 コウ・ひじ  月部にく
解字 「月(からだ)+厷(ひじ)」の会意形声。厷は、もともと「ひじ」の意。これに月(からだ)を付けて、ひじの意を明確にした。
意味 (1)ひじ(肱)。肘とも書く。上腕と前腕をつなぐ関節。また、その折れ曲がる外側の部分。「股肱ココウ」(またとひじ。手足となって働く家臣) (2)ひじの形に曲がっているもの。

ひじをまげる
 コウ・グ・ひろい・ひろめる  弓部
解字 「弓(ゆみ)+ム(ひじをまげる)」の形声。ひじを曲げて弓をひく意。しかし、本来の意味でなく広コウ・宏コウ(ひろい)に通じて、ひろい・おおきい意で使われる。グの発音は仏教用語。
意味 (1)ひろい(弘い)。「弘遠コウエン」(ひろくて遠い)「弘願グガン」(広大な誓願。阿弥陀仏の本願のこと) (2)ひろめる(弘める)。「弘法グホウ」(仏法を世に広める) (3)「弘法コウボウ」とは、弘法大師の略。
 キョウ・ゴウ・つよい・つよまる・つよめる・しいる  弓部
解字 「虫(むし)+弘(弓をひく)」の会意形声。弘は、もともと弓を引く意。虫は蚕(かいこ)の意で、ここでは天蚕テグスを指す。強は、弓をひく天蚕の糸の意。天蚕は強靭キョウジンであることから、弓の弦に使われており、「強い弓」⇒「強い」意となった。
意味 (1)つよい(強い)。力がある。「強健キョウケン」「頑強ガンキョウ」 (2)つよめる(強める)。つよまる(強まる)。「強化キョウカ」「強制キョウセイ」 (3)しいる(強いる)。「強引ゴウイン」 (4)かたい。こわばる。「強張る」
 キョウ  衣部
解字 「衣(ぬの)+強(つよい)」の会意形声。赤ちゃんを(落ちないよう)強く締め付ける背負い帯。
意味 (1)せおいおび。幼児を背負う帯。 (2)おう。負う。おんぶする。「襁負キョウフ」(背負い帯で幼児を背負う)「襁抱キョウホウ」(①幼児を背負うことと、抱くこと。②幼児のころ)「襁褓キョウホウ」(①背負い帯と、うぶぎ。②幼児のころ。③[国]むつき。おしめ。)

まげる
 コウ・まがる  勹部  
解字 「勹(身体をまげる形)+ム(まげる)」の会意形声。勹は人が身体をまげる形。さらにム(まげる)が付き、まがる意を表す。また、同音である拘コウ(とらえる)に通じ、とらえる意も表す。日本では、降コウ(おりる)に通じ、傾斜の度合いを表す。
意味 (1)まがる。まげる。「勾玉まがたま」 (2)とらえる。(=拘)「勾引コウイン=拘引」(とらえてひきつれる)「勾留コウリュウ」(とらえてとどめおく=拘留。法律用語では、勾留は調べるため、とらえてとどめること。拘留は、とらえてとどめおく刑罰) (3)[国]傾斜の度合い。「勾配コウバイ
 コウ・かぎ  金部
解字 「金(金属)+勾(まがる)」の会意形声。まがった形の金属。
意味 かぎ(鈎)。鉤コウの異体字で鉤と同字。 
 
同音代替
 コウ・ひろい  宀部
解字 「宀(たてもの)+厷(コウ)」の形声。コウは広コウ(ひろい)に通じ、家屋が広く奥深い意。転じて、ひろい意に用いる。
意味 ひろい(宏い)。大きい。すぐれる。「宏大コウダイ」(ひろく大きい)「宏図コウト」(大きなはかりごと)「宏遠コウエン」(ひろく遠い)
 コウ  糸部
解字 「糸(ひも)+厷(=宏。ひろい)」の会意形声。ひろい場所に掛け渡す、ひもや、つなの意。また、広く大きい・そのはての意ともなる。
意味 (1)ひも。 (2)つな。おおづな。 (3)広く大きい。 (4)はて。きわみ。「八紘ハッコウ」(八つのはて、即ち四方と四隅。地の果て。転じて天下)「八紘一宇ハッコウイチウ」(世界を一つの家とすること)

その他
 ユウ・お・おす  隹部

解字 篆文第1字は秦系簡牘カントク文字(春秋戦国時代)で、「隹(とり)+右ユウ(みぎ)」 の会意形声。右は中国の戦国時代に、左を卑しみ右を上位とする考えがあったことから、上位の隹(とり)すなわちオスの隹(とり)の意。第2字は[説文解字]の篆文で、第1字の右⇒厷に変化した雄になった。厷コウにはユウの発音はなく、強いて言えば厷のナ(右手=又ユウ)の発音がユウである。オスのとりから転じて、いさましい・強い・すぐれる意となる。
意味 (1)おす(雄)。お(雄)。「雄鶏おんどり」「雌雄シユウ」(めすと、おす) (2)おおしい。いさましい。ひいでる。すぐれた人物。「雄姿ユウシ」「英雄エイユウ
 シ・わたくし・わたし  禾部
「禾(こくもつ)+ム」 だが、ムをスキ(耜)とする見解と、ムコウ(ひじ)で囲い込むとする見解がある。どちらが正しいか判断できないので、覚えやすいほうを、覚え方として掲げる。
覚え方 「禾(稲)+ム(ひじをまげる)」 の会意。稔った稲を自分のひじをまげて囲いとり自分のもの(私物)とすること。
意味 (1)わたくし(私)。わたし(私)。自分。自分のもの。自分ひとりの利益や考え。「私益シエキ」「私有シユウ」「私人シジン」 (2)ひそか。こっそり。「私語シゴ」「私通シツウ
<紫色は常用漢字>

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 親音符から子音符・孫文字へ... | トップ | 音符 「井セイ」 <いど>... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

漢字の音符」カテゴリの最新記事