漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

紛らわしい漢字 「西にし」 と 「酉とり」

2020年05月08日 | 紛らわしい漢字 
 「西にし」と「酉とり」は似ている。西に一を入れると酉になる。何故こんなに似ているかは以下を読んでいただくことにして、字を書くとき「西にしに一を入れると酉とり」と覚えれば間違いなし。!!

   西 セイ <元はカゴ>
西 セイ・サイ・にし  西部

解字 甲骨文字はザル・カゴを描いた象形。第一字は口が開いた形。第二は口を閉じた形とされる。しかし本来の意味でなく仮借カシャ(当て字)されて方角の西の意味で使われた。金文は口を閉じた形が少し変形した。篆文(秦)は第一字が金文を引き継いでいるが全体が角型になった。第二字は第一字の変形で、長方形を六等分した形。この形が隷書レイショ(漢)で右辺の上部が欠けた形(第一字)となり、次いで左辺の上部も欠けた覀になった。この字形は楷書でも使われたが、現在は西となっている。(字形は落合淳思[漢字字形史小字典]を参照した)
意味 にし(西)。日の沈む方角。「西方セイホウ」「西洋セイヨウ」「西暦セイレキ」「東西トウザイ

常用漢字は西だけだが、ついでに西の音符字も覚えておこう。
イメージ 
 「にし・夕日」(西・茜) 
 かごの象形から「かご」(栖)
音の変化 セイ:西・栖  セン:茜
 
にし・夕日
 セン・あかね  艸部
解字 「艸(草)+西(夕日)」の会意形声。根が夕焼け色の染料になる草。
意味 (1)あかね(茜)。あかねぐさ。根は赤黄色で染料や薬用となる。 (2)あかねいろ。赤色のやや沈んだ色。「茜色あかねいろ」「茜染あかねぞめ
かご
 セイ・すむ・すみか  木部
解字 「木(き)+西(かご)」の会意形声。木の上にあるかご状の鳥の巣。
意味 (1)すみか(栖)。鳥の巣。棲セイとも書く。「栖鴉セイア」(ねぐらのからす) (2)すむ(栖む)。巣を作り、そこにすむ。人にもつかう。「栖息セイソク」(=生息)「隠栖インセイ」(かくれすむ=隠棲)

    ユウ <元は酒つぼ>
 ユウ・とり  酉部

 酒つぼで長期熟成されている紹興酒

解字 酒つぼを描いた象形。中国の古代からの酒は黍(きび)や米を原料とする醸造酒であるが、日本の酒とことなり、上等な酒は酒つぼに入れて長期間熟成させる。このために用いるのが酒つぼである。写真は熟成されている紹興酒の酒つぼであるが、持ち運ぶため四つ目網みの籠で包んだり(手前)、その奥は、つぼ同士が当たる衝撃を和らげるため中央に縄を幾重にも巻いたりしている。酉の字形の模様はこうした酒つぼの状態を描いたのかもしれない。酉はさけの意も表し酒の原字。しかし甲骨文字の時代から仮借カシャ(当て字)して十二支の10番目の「とり」に当てられている。
 酉年の年賀状無料見本より
意味 とり(酉)。十二支の第十位。方位は西、時刻は午後6時およびその前後1時間。動物はにわとりに当てる。「酉(とり)の市」(11月の酉の日に行なわれる鷲(おおとり)神社の市)
参考 酉は部首「酉とり・とりへん・ひよみ(暦)のとり・さけのとり」になる。漢字の左辺について、酒・発酵の意味を表す。常用漢字で15字。[新漢語林]で87字を収録している。主な漢字は以下のとおり。
 酉(部首):酌シャク(酉+音符「勺シャク」)・酢サク(「酉+音符「乍サ」」・
ラク(酉+音符「各カク」)・酬シュウ(酉+音符「州シュウ」)・
コウ(酉+音符「孝コウ」)・酷コク(酉+音符「告コク」)など。
イメージ 
 「とり(仮借)」(酉)
 「さけ」(酒・醜)
音の変化  ユウ:酉  シュ:酒  シュウ:醜
さ け
 シュ・さけ・さか  酉部
 
熟成された酒つぼ6個が1箱に入った中国の洞蔵老酒(熟成酒)販売広告。傍らに酒つぼから直接、盃(さかずき)に酒を注ぐ写真が添えられている。

解字 甲骨文第1字は酒つぼから酒が注がれている形を三つの線で表している。第2字は注ぐ酒を4つの点で表している。大きな酒つぼから酒を注ぐことは無理であるが、小さな酒つぼから酒を器に注ぐことは現在でも行われている(上の写真)。酒は酉(酒つぼ)の中に入っているので酉が酒の意味を表している。金文第1字は酉の字で酒を表し、第2字は酉の中に点や線を付けて中に酒が入っていることを示している。篆文になり「氵(液体)+酉(さけ)」となり現在に続く。
酒の部首はなぜ氵(さんずい)でないのか?
 甲骨文から金文まで酒の意味は酉が表している。篆文から「氵(液体)+酉(さけ)」となったが、この字は意味を表す酉さけのとり(酒)にそれが液体(氵)である記号がついているだけで、氵は部首とはみなされない。なお、甲骨文字にも酒の字があるが、[甲骨文字辞典]によると、意味は酒でなく川の名前を表している。
意味 さけ(酒)。さけを飲む。さかもり(酒盛り)。「酒蔵さかぐら」「飲酒インシュ」「酒宴シュエン」「酒豪シュゴウ」(大ざけのみ)
 シュウ・みにくい・しこ  酉部
解字 「鬼(おに)+酉(=酒。さけに酔った)」の会意形声。酒に酔った鬼。この字は部首・音符とも酉。
意味 (1)みにくい(醜い)。けがらわしい。「醜悪シュウアク」(みにくい。見苦しい)「醜名シュウメイ」(悪い評判)「醜態シュウタイ」「醜聞シュウブン」 (2)にくむ。きらう。 (3)しこ(醜)。みにくいものをののしる語。「醜女しこめ」「醜男しこお
<紫色は常用漢字>

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