漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「万 (萬) マン」<数が多い>「栃とち」と「厲レイ」<といし>「励レイ」

2021年11月01日 | 漢字の音符
  レイを追加しました。
[萬] マン・バン・よろず  一部

解字 甲骨文字はサソリの象形。金文以後、少しずつ変形し、旧字の萬は、草かんむりがサソリのはさみ、その他の部分を禺で表している。仮借カシャ(当て字)して数の単位「まん」に用いる。新字体の万はもと別字だが、古くから萬の略字として用いられた。萬を音符に含む字は、「数が多い」、原義の「さそり」のイメージを持つ。
意味 (1)まん(万)。数の単位。千の10倍。「数万」(2)数の多いこと。よろず(万)。「巨万キョマン」「万力マンリキ」「万難バンナン

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 「マン・数が多い(仮借)」
(万・栃・邁)
  原義の「さそり」
音の変化  マン:万  マイ:邁  タイ:  とち:栃

マン・数が多い
<国字> とち  木部  
解字 もと「杤」と書き、「木+万」 の会意。十と×千ち=万、即ちたくさんの実をつける木の意。木と万の間に厂が入った栃は、明治初年に栃木県の「とち」を栃と書くことに定めてから広まった。[大修館漢語新辞典]
意味 とち(栃)。トチノキ科の落葉高木。実は栗に似て食用となる。「栃餅とちもち
 マイ・バイ・ゆく  辶部
解字 「辶(ゆく)+萬(数が多い)」 の会意形声。一歩一歩着実に数多く進むこと。
意味 (1)ゆく(邁く)。どこまでも進んでゆく。すぎる。「邁進マイシン」(元気よく目的に向かって進む)「邁往マイオウ」(勇んでひたすら進む) (2)すぐれる。まさる。「英邁エイマイ」(才知が抜きんでてすぐれる)「高邁コウマイ」(けだかくすぐれる)
 
さそり
 タイ・さそり  虫部
解字 「虫(むし)+萬(さそり)」の会意。萬は、さそりの意。仮借カシャ(当て字)されて、万の意になったので、虫をつけて原義を表した。
意味 さそり()。蠍カツ・蝎カツとも書く。尾の先の針に猛毒をもつ虫。「蜂蠆ホウタイ」(ハチとサソリ。小さくて恐ろしいものの例え)「蜂蠆之螫ホウタイのセキ」(ハチとサソリが螫(さ)すこと)


    レイ <はげしくこする石>
 レイ・といし  厂部   

解字 「厂(石の略体)+萬(サソリ⇒はげしい)」の会意。萬は毒をもつサソリであり、猛毒のサソリに刺されて痛みが「はげしい」イメージがある。厂は石の略体であるから、厲は、はげしくこする石の意で、砥石の荒砥(あらと)をいう。また、萬のイメージである「はげしい」意ともなる。新字体の文字で「厂+万」の形になる。
意味 (1)といし()。あらと。とぐ。みがく。 (2)はげしい。きびしい。わるい。「厲疫レイエキ」(はげしい疫病)「厲疾レイシツ」(はげしく速い)「鷙鳥厲疾シチョウレイシツ」(鷲や鷹などが空高く速く飛び始める。七十二候の一つ。大寒の次候(中国)。鷙鳥シチョウとは、ワシ・タカなどの猛鳥) (3)はげむ(=励レイ)・はげます。

イメージ 
 「といし」
厲・礪・糲・蠣)  
  「はげしい」励・癘
音の変化  レイ:厲・礪・糲・励・蠣・癘

といし
礪[砺] レイ・あらと・みがく  石部
解字 「石+厲(といし)」 の会意形声。石を付して砥石の意味を明確にした。みがく意もある。現在は新字体に準じた「砺」が地名に使われる。
意味 (1)といし。あらと()。刃こぼれした刀などを研ぐ表面の粗い砥石。「礪石レイセキ」(といし)「砥礪シレイ」(① 砥石。②研ぎ磨くこと)「砥礪切磋シレイセッサ」(学問に励み徳義を磨く。佐藤一斎「言志録」にあり) (2)みがく(く)。みがく。「礪行レイコウ」(行いをみがく) (3)地名。「砺波市となみし」(富山県西部にある市)「砺波平野となみへいや」(富山県西部の沖積平野。散居集落で知られる)
 レイ・ライ・ラツ・くろごめ・あらい  米部
解字 「米(こめ)+(=。みがく)」の会意形声。厲(礪)は、荒砥でみがく意があり、刃こぼれなどを修正するために粗くみがくこと。米がついたレイは、米を粗くみがく意で、もみ殻を除いただけで精白していない玄米をいう。くろごめ。
意味 (1)くろごめ()。精白していない米。「糲粢ラッシ・レイシ」(玄米とキビ。粗末な食物) (2)あらい(い)。粗末な。「粗糲ソレイ」(①くろごめ。②粗末な食物)「疎糲ソレイ」(粗末な食べ物)
蠣[蛎] レイ・かき  虫部
解字 「虫(貝)+厲(原石の砥石)」の会意形声。虫は、ここでは貝。厲はここでは砥石の原石。加工前の原石の表面は層をなしていたため模様があり、蠣かきの貝殻と似ていることから。蛎は新字体に準じた俗字。
牡蠣    砥石の原石
意味 かき()。イボタガキ科の二枚貝の総称。海中の岩石などに付着して生育しており、収穫するとき「かきとる」ことから「かき」という名がついたとされる。牡蠣(かき)とも書く(以前、蠣かきはすべて牡(オス)だと考えられていたからと言われる)。「牡蠣鍋かきなべ」「牡蠣かきフライ」「牡蠣灰かきばい」(カキの貝殻を焼いた灰。漆喰や肥料などに使う)「蠣殻レイカク」(かきのから)

はげしい
[勵] レイ・はげむ・はげます  力部
解字 旧字は勵で、「力(ちから)+厲(はげしい)」 の会意形声。はげしく力を出す形で、はげむ意となる。新字体は励に変化。
意味 (1)はげむ(励む)。「勉励ベンレイ」「励行レイコウ」 (2)はげます(励ます)。「激励ゲキレイ」「奨励ショウレイ」(すすめはげます)
 レイ・ライ  疒部やまいだれ
解字 「疒(やまい)+萬(=厲の略。はげしい」 の会意形声。はげしい病。悪疫。疫病をいう。
意味 えやみ。はやりやまい。流行病。「癘気レイキ」(感染性の熱病などを引き起こす悪い気)「瘴癘ショウレイ」(瘴も癘も、えやみの意。気候・風土が原因の熱病。風土病)「癘疫レイエキ」「癘疾レイシツ
<紫色は常用漢字>

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