漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

紛らわしい漢字 「遣ケン」 と 「遺イ」

2018年01月02日 | 紛らわしい漢字 
  「遣ケン」と「遺イ」はよく似ている。違いは遣ケンに含まれる㠯(祭肉=軍隊)と、遺に含まれる貝(かい)の違いだけ。ポイントは㠯と貝の上にある「中+一」のかたち。これが何を意味するかが分かれば、これらの字は理解できる。

    ケン <軍隊をつかわす>
 ケン・つかわす・つかう・やる  辶部   

解字 甲骨文は祭肉(𠂤タイ)を両手で持つかたちで祭祀名として用いられている[甲骨文字辞典]。金文は、さらに彳(ゆく)と止(あし)が加わり、祭肉を持って行くかたち。この祭肉は軍を意味することが多く、金文で軍をさしむける(派遣する)意で使われる。篆文は「彳+止」が辵チャクになり、両手の間に逆Y字形が入り、祭肉は阜に変質した。現代字は、辵⇒辶(ゆく)になり、その横に「中+一」(両手で持つかたちの変化形)+㠯(祭肉)」がついた遣となった。意味は軍の派遣のほか、つかわす・さしむける意となる。祭肉は本来、𠂤タイで表される(例:追)が、遣の字では略体の㠯になっている。(この略体は官などでも使われている)
意味 (1)つかわす(遣わす)。やる(遣る)。さしむける。「派遣ハケン」「遣唐使ケントウシ」 (2)[国]つかう(遣う)。使用する。「金遣(かねづか)い」「小遣(づか)い」(=小遣い銭)「仮名遣(かなづか)い」 (3)~しむ。せしむ。使役の助字。


    キ <とうとい> 
 キ・たっとい・とうとい・たっとぶ  貝部 

解字 篆文の上部は、逆Y字形のものを両手で持つかたち。遣ケンの字では、下の㠯(𠂤タイの変化形=祭肉)を両手で持つ形であり、貴では、下の貝(財貨)を両手で持つ形となる。貴重なものを両手で持つことから、転じて、とうとい意となる。現代字は上部が「中+一」の形に変化した。つまり、「中+一」は、その下にあるものを両手でもつ形である。
意味 (1)とうとい(貴い)。たっとい。身分や価値が高い。「高貴コウキ」「貴金属キキンゾク」 (2)たっとぶ(貴ぶ)。とうとぶ。 (3)相手への敬意を表す語。「貴殿キデン

イメージ  
 「貴重なもの」
(貴・遺・潰)
音の変化  キ:貴  イ:遺  カイ:潰

貴重なもの
 イ・ユイ・のこす  辶部
解字 「辶(もってゆく)+貴(貴重なもの)」の会意形声。貴重なものを持って行き人に贈り、そこにのこす意。人に贈ると、相手の方にものが残り、自分のほうにはなくなるという二つの側面がある。
意味 (1)おくる。やる。 (2)のこす(遺す)。のこる。「遺産イサン」「遺書イショ」「遺言ユイゴン」「遺憾イカン」(遺はのこる、憾は失望する。失望がのこる。とても残念だ) (3)おとす。わすれる。「遺失物イシツブツ」 (4)すてる。「遺棄イキ
 カイ・つぶす・つぶれる  氵部
解字 「氵(みず)+貴(貴重なもの)」の会意形声。貴重なものが洪水で破壊されること。
意味 (1)つぶす(潰す)。つぶれる(潰れる)。ついえる。「潰滅カイメツ」(こわれてなくなる) (2)敗れる。「潰走カイソウ」(敗れて逃げる)
<紫色は常用漢字>

参考 音符「遣ケン」
   音符「貴キと遺イ」

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