石造美術紀行

石造美術の探訪記

各部の名称などについて

2008-10-14 00:47:35 | うんちく・小ネタ

各部の名称などについて

五輪塔を例に説明します。五輪塔本体は上から空輪(くうりん)・風輪(ふうりん)・火輪(かりん)・水輪(すいりん)・地輪(ちりん)の各部から構成されています。五輪塔の場合は基づくところの五大思想から通常このように呼ぶ場合が多いですが、塔としてこれを見る場合、地輪は基礎、水輪が塔身、火輪は笠、風輪は請花、空輪は宝珠に相当するわけです。01_4また、五輪塔では、ほとんどの場合、空輪と風輪が一石彫成されているのであわせて空風輪(くうふうりん)と呼んだりします。石燈籠などでもそうですが、請花と宝珠が重なって上に載る場合、たいてい一石彫成されています。この五輪塔では本体以外に台座と基壇を備えています。しかも基壇の地下には埋納施設があります。台座や基壇は必須のものではなく、基壇まで備え付けているはむしろ稀です。この種の手の込んだ基壇は壇上積み基壇とか壇上積式の基壇と呼ばれます。上部を葛(かずら)、下端を地覆(ちふく)、地覆の上で葛を縦方向に支えるのが束(つか)、葛と地覆、束石に囲まれた面を羽目(はめ)といい、木造建築にも多く石造りの基壇が見られますが、石で出来ているので、いちおうそれぞれ葛石(かずらいし)、地覆石(ちふくいし)、束石(つかいし)、羽目石(はめいし)といいます。この例では見られませんが、羽目石には格狭間が入れられていることもあります。このほかに単に延石を井桁に組んだものや切石を方形に組んだものは特定の呼称はないようで、単に切石積みの基壇とか延石を組んだ基壇などと呼びます。台座は塔本体の基礎を受けるものです。特に奈良県とその周辺では多く見られるものです。側面と受座と傾斜面の3部構成でたいていは複弁の反花(かえりばな)で傾斜面を飾っています。この場合は反花座(かえりばなざ)というようです。反花は主弁と間弁(小花)からなり、4隅の弁(隅弁)が主弁になるものと間弁(小花)になるものがあります。奈良県では隅弁が間弁(小花)になるものがほとんどで、京都や滋賀県では隅弁が主弁になる場合が多く見られます。このほか、傾斜面に蓮弁を刻まず、素面のものが稀にあり、これは繰形座(くりがたざ)といいます。02関東では台座の側面を区画して格狭間を入れたりして塔本体との一体感がより強いものになる場合が多いようです。03こうした概念や呼称は基本的に建築史学から来ています。石造美術の泰斗である川勝政太郎博士が師事されたのが古建築史の権威、京都帝大教授の天沼俊一工学博士(1876~1947)だったこともあるようです。天沼博士は明治の終りから大正時代に奈良県技師として古建築を広く調査されましたが、石造物の重要性についてもいち早く着目され、九州の国東半島付近に分布する独特の形式をもった宝塔を国東塔と名付けられたのも天沼博士でした。また特に石燈籠について、初めて学問的な体系づけを試みられました。八戸成蟲樓(「はちのへせいちゅうろう」ではなく「やっといまごろう」と読むようです)というおもしろいペンネームを使われることもありました。0406 石造物が建造物として扱われることが多いのも、こうした戦前の建築史からのアプローチが今でも生きているからといえます。重要なことは、石造美術、特に石塔の場合、塔本体はいうまでもなく台座や基壇にしてもそうですが、構造的に不可分な付帯物や地下の埋納構造なども含め一体的に捉えなければならないという点、さらに塔本体の形のおもしろさや美しさだけではなく、さまざまな情報を提供してくれる資料としての役割や信仰の対象であることを忘れず、なるべく総合的に扱うことだと思います。(続く)

写真上、中右:山添村大西極楽寺五輪塔、写真中左:天理市長岳寺五智墓五輪塔、写真下左:奈良市西大寺奥の院五輪塔、写真下右:桜井市粟殿墓地五輪塔(いずれも奈良県)

石造物が建造物として扱われることから生じる不都合を耳にすることがあります。特に石塔の場合、構造的に不可分なものも含め一体的に捉えなければならないものです。モノ的な扱いをすればそうした一体構造から本体だけを切り離して扱えるわけですが、それを許せば、高値で取引され、売り飛ばされて古美術収集家の庭に並べられるようなことを是認することにつながります。しかし、そうしたことが断じて許されないのは古建築だって同じです。極端な例かもしれませんが、法隆寺の五重塔は、塔本体の重要性だけでなく、それが現に法隆寺に建っているからこそ、その価値が高いのではないでしょうか。対象を理解し分析検討し情報発信していく上で大切なこと、そして保護保存を考えていく上で大切なことが何かを踏み外さないということが重要で、物を言わない石造美術は扱う側の心得次第でどのようにもなってしまう。その意味からは制度の問題というよりも運用の問題のような気がしています。門外者が軽率のそしりを免れないかもしれませんが、そういう気がします。

はじめてから記事がまもなく150に達するわけですが、基本的な用語など、一般にはわかりにくいこともあると思われます。いまさらながらですが、念のためご説明しておこうと決めました。その道のエキスパートな諸兄には一笑に付されると思いますが、お許しください。参考図書は後でまとめて記載します。また、錯誤や勘違い等があればご叱正をお願いする次第です、ハイ。(写真中の文字が少し小さいですが、画像をクリックすると少し大きく表示されます。)


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