石造美術紀行

石造美術の探訪記

迎春

2023-01-02 08:41:04 | ひとりごと

昨年も記事をUPできませんでしたが、石造巡りは続いています。私事で恐縮ですが、昨年は先考が泉下の客となり、依然コロナ禍の影響で探訪予定が中止や延期になるなど波乱含みの一年でしたが、石への興味は尽きません。最近では石の保存保護や調査研究に資する画期的なDX技術が進展しつつあり期待がふくらみますが、故川勝博士が提唱された「石造美術」は永遠に不滅です。令和5年が皆様にとって素晴らしい一年になりますよう祈念申し上げます。


あけましておめでとうございます

2019-01-01 02:59:52 | ひとりごと

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

心字座阿字一尊種子板碑 建長元年(1249)銘 埼玉県東松山市上野本清見寺
幅広く浅い薬研彫の雄渾なタッチ。「心」の文字をデフォルメした蓮座上に「ア」が配された独特の意匠。アは諸尊通有の種子ゆえに尊格の特定が難しい。おそらくは胎蔵界大日が想定できる…。これがほんとの「心阿」銘の石造…⁉
ナウマクサンマンダボダナンアバンランカンケン…
右志者為/法界衆生/平等利益也/平成卅己亥秊正月/願主六郎敬白


川勝政太郎博士のこと(ひとりごと)

2017-09-25 21:38:44 | ひとりごと

川勝政太郎博士のこと(ひとりごと)
川勝博士の著作『石造美術入門-歴史と鑑賞-』(昭和42年社会思想社)の14頁から19頁、本編前のイントロダクションにあたるところに、前から気になっている記述があります。以下抜粋します。
「私は「石造美術」という名称のもとに、三十数年来、仏教関係を中心とする石造物を研究してきた。その体験にもとづいて、この方面になんらの知識もなかった方々を対象とする立場で、石造美術の入門講話を述べようと思うのであるが、話を気楽にするために、昭和三十九年九月十七日から三回にわたって、NHKの「人生読本」の時間に、「石との対話」というラジオ放送をしたのを、以下に掲げることとする…」
(以下略)
小生などはまだ生まれる前、昭和39年の9月というと、先の東京オリンピック開会の前月、今から53年も前になりますが、ちょうど今時分、川勝博士がNHKラジオの「人生読本」に出演され、3回にわたって三十数年の石造美術研究生活の一端を語られたということです。『石造美術入門』には以下3回分の内容が載せてあるので、どういうお話しをされたかはわかります。しかし、生前に謦咳に接する機会がなかった身としてはたいへん気になっています。お姿は写真で偲ぶことはできますが、録音が残っていたらお声を聴くことができるかもしれない。そこで、古い放送データを検索できるNHKさんのオンラインクロニクルというホームページを見つけて検索してみましたが残念ながらヒットしませんでした。古い放送はテープが高価だったこともあってほとんど残されてないようです。川勝博士くらいになれば、このほかにもラジオやテレビに出演されたことがあったかもしれない。もしその音声や映像がどこかに残されていれば、いつか拝聴・拝見できる機会もあるかもしれませんが、どうなんでしょう…。


刻銘判読と最新のツール(その2)(ひとりごと)

2016-01-20 21:18:43 | ひとりごと

刻銘判読と最新のツール(その2)(ひとりごと)
 それから拓本だけでなく、何とか石に刻まれた見づらい銘文を読めないかということでは、照明があります。もう何年も前になりますが、F澤先生がリモート式のストロボを斜めに当てて石塔の写真撮影されるお手伝いをさせていただく機会がありました。ストロボ持ちの照明さんといったところでしたが、カメラのモニターで確認する画像は陰影がハッキリ出て、刻銘が鮮明にわかりました。これには驚きました。リモート式のストロボフラッシュは石造物の鮮明な写真にはもってこいのツールです。先生いわく、自然光を生かした方向から光を当てるといいとのお話でした。もっともこれはカメラも含め高価な機材で小生にはすぐに手が出ない代物でした。
 それからしばらくして、これも偶々同行させていただいたS川さんが、明るいマグライトで薄暗い小祠の中の石仏を照らして衣文や刻銘を確認されているのを目にしました。光と影のコントラスによって肉眼では判読できないような刻銘や衣文の襞がほの暗い中に実に鮮やかに浮かび上がりました。
 そこで、ふと思いついたのはLEDライト。カメラとリモートフラッシュよりは安価です。LEDならではのムラのない均質な光、これが写真撮影に耐えるだけの高輝度であればコンパクトカメラでもいい写真が撮れるはず…。早速やってみるとなかなかうまくいきました。最近は使う人も増えましたが、小生なりにポイントをいくつか。狭いところでも使うのでなるべくコンパクトであること。あと、ランタイムも重要です。1~2時間で電池がなくなるようでは困ります。それからズーム機能(=フォーカスコントロール機能)があること。ワイドにしたときに月面のように均等に光が当たるものが向いています。いくら明るくても光が均質でないと写真にはいまいちかと思います。輝度は500ルーメン程度あれば十分と思いますが、輝度出力を調節できるものがよりいいです。コスパも重要な要件ですが、最近は数千ルーメンをうたいながら実際にははるかに及ばないような誇大ルーメン値で客を釣る「安かろう悪かろう」の粗悪品がネットでたくさん出回っているので注意が必要でしょう。
 さて、今年は暖冬と言われてもやはり厳冬期、各地で雪の便りが聞かれます。もう何年も前になりますが、雪の吹きすさぶ寒い日に石塔調査を敢行した時でした。横殴りの雪が花崗岩の石塔に当たって刻銘のくぼみに積って白く文字が浮かび上がって見えました。そこで凍える手で雪塊を石塔にこすりつけるとくぼみに雪が入って文字が白く浮かび上がります。読みにくい字が読めるではありませんか。これにはびっくりでした。雪なら解けてなくなるので石の表面保存上の影響も少なそうです。いや雪はけっこう使えました。しかしまぁ、そんな寒い日にあえて石造調査というのもいかがかとは思います…今ではいい思い出ですが寒かった…。
 それにヒントを得て白墨の粉やメリケン粉なども思いつきましたが、たぶんダメです。粒子が細か過ぎてこびりつくととれなくなるおそれがあり、保護保存の観点から適当でないことが予想できるので試してません(よい子はまねしないように)。土やおがくずでも試しましたが逆に粒子が粗くて細かい文字や浅い文字にはダメでした。非常に細かい発砲スチロール粒のような角のとれた軽い素材ならいいかもしれません。理想は、対象の石造物の表面になでつけると刻銘のくぼみに粒子が入り込んで文字が浮かび上がる、判読後はフーッと吹けば飛んでなくなって元通り。自然にも優しいそういう粒子状の素材があればいけると思います。
 いずれにせよ、読めそうで読めない刻銘の判読、石造調査の永遠の課題かもしれません。技術の発達によってもっといい道具や方法がこれからも考え出されることに期待です。

夕暮れ近い河内長野市河合寺東山墓地の十三重層塔初重軸部。LEDライトの光に浮かび上がるかっこいいウーンの種子。みんなでワイワイ楽しい見学でした。(感謝)


刻銘判読と最新のツール(その1)(ひとりごと)

2016-01-19 21:52:09 | ひとりごと

刻銘判読と最新のツール(その1)(ひとりごと)
 古い『史迹と美術』をパラパラと見ていると、昭和22年9月1日発行の183号に載せられた薮田嘉一郎氏(1905~1976)の「妙心寺鐘伝来考」が目にとまりました。冒頭に面白いエピソードが述べられていて思わずニヤリとさせられました。
 薮田氏が知り合いからの依頼で、妙心寺の梵鐘の拓本をとった時のこと、論攷が書かれた昭和22年当時から10年も前の真夏というから昭和12年頃のことと思われ、薮田氏32歳頃のことです。寺務所の許可を得て鐘楼に上り、さぁ採るぞとなって、当時はおそらく最新の拓本ツールだったと思われる某氏(大阪東京のS崎氏か?)監製のチューブ入練墨を用意された薮田氏は、気温が高かったことから内容物の噴出を予期され、念のため斜めに立てかけた古新聞に向けてそっとチューブキャップをひねった瞬間、ここからは原文を抜粋しますが、「シュッという怪音と共にどろどろの墨はロケットの噴射のように勢いよく噴出した。むしろ爆発したといった方がよい。…中略…噴出した墨は正面の新聞紙に衝突して、勢い余って、跳ねかえり、千万の細沫となって、私の全身に降り注いだ…」結果、白服白靴パナマ帽というスタイルの薮田氏は全身が無数の黒い斑点に覆われてしまった。上から下まで白っぽい服装に墨の黒はよく目立ったでしょう。そして思わず顔をなでると、のびのよい墨が掌に広がって…。むろんその手でなでた顔も真っ黒…。しばらく呆然とした後、気を取り直して手早く拓本を終えると、ほうほうの態で逃げ帰ったそうです。たいへんだったのはその帰途で、「人は怪しんでじろじろ眺めるし、穴あらば入りたい思いをした」そうです。そんな苦労を経てゲットした拓本は、依頼者と知り合いに配布し、結局、自分の分はどこかにしまい損ねて行方不明…というオチまでついた話でした。
 ちなみに妙心寺の梵鐘は国宝。「戊戌年四月十三日壬寅収粕屋評造舂米連廣国鋳鐘」の銘があり、戊戌年は文武天皇2年(698年)とされ、今の福岡県で鋳造されたことが知られる我が国在銘最古の梵鐘です。筑紫観世音寺の梵鐘の兄弟鐘で、「徒然草」第220段で兼好法師が「黄鐘調」(ラの音階だそうです)と称えた鐘の音はこの鐘だと言われています。古くから金石文関係の諸書に取り上げられて著名な梵鐘で、今では鐘楼から別室に移されて厳重に保管され、拓本はおろか触ることもままならないのは国宝としては当然で、現在では考えられないような戦前ならではのほのぼの感のあるエピソードです。
 薮田氏が白服白靴パナマ帽というそれなりの服装で臨まれていること、チューブ入りの練墨という最新のツ-ルを準備されている点に小生は注目しました。薮田氏のエピソードから80年近くが経った現在、拓本に重宝な最新のツールというとマイクロファイバー繊維のタオルがあります。洗車用などにDIYショップなどで安く手に入ります。コットンタオルより柔らかく拓本用紙にも優しく、コットンの5倍という吸水力が威力を発揮します。マイクロファイバータオルを押し付けるとあっという間に拓本用紙の水気がとれてタンポ作業に移る時間がかなり節約できます。それからスポンジ。戦前にはなかったであろうと思われ、今日では用途によってさまざまに異なる反発力や吸水性のものがいろいろ出ています。これで叩くと表面の凹凸に用紙が非常によくなじみます。(続く)


年末のご挨拶

2015-12-31 21:56:43 | ひとりごと

年末のご挨拶
今年もあとわずかとなりました。
記事をUPしないまま半年、今年ももう終りです。ぜんぜん記事をUPできてません。
なにかと忙しくなってきてもちょくちょく出かけてはいます。しかし、なかなか記事に
まとめられないままずるずると月日が過ぎてしまいました。
うーん…怠慢のそしりは免れないものと思っています。どうもすいません。
雨の日も風の日も、多くの石造美術は野にあって静かに佇んでます。遠い先祖の祈りや思いを
秘めながら誰かに語りかけられるのを待っているような、別に待ってもいないような…。
すっかり忘れ去られた境遇を黙って受け入れて、ただただ静かに苔むして草に埋もれています。
そんな石造美術との出会いを求めて気持だけは、枯野を駆け巡るといったところでしょうか…
気持だけ空回りか…。
いけないですねこれでは。忘れ去られるだけならまだしも、やがて風化磨滅し、境内や墓地の整理
などで人知れず失われ行く石造美術たち。そのプレゼンス、価値はもっと広く伝えられていく必要
があると信じてます。
せめてもうちょい記事UPの頻度を上げないとね。常歩無限…ぼちぼちとがんばります。
さぁ行くぞ初雪号、ハイドウ!
それでは皆様どうかよいお年をお迎えください。六郎敬白