石造美術紀行

石造美術の探訪記

各部の名称などについて(その4)

2008-11-16 23:11:46 | うんちく・小ネタ

各部の名称などについて(その4)

石造物に関係する文章や書物を読むと、よく出てくる造立年代にかかる表記、つまり「鎌倉時代前期」とか「室町時代後期」などいう時代区分の表現について述べさせていただきます。

例えばある石造物に元徳2年の造立紀年銘があるとします。造立年代について記述される場合、次のような表現になるでしょう。①西暦の1330年、②文字どおり元徳2年、③鎌倉時代末(または末期ないし終り)、④鎌倉時代後期(ないし後期末)。いったいどの表現が最も適切なのでしょうか、どれも正しく、偽りではありません。時と場合に応じて適宜使い分ければいいわけです。①は一番スッキリしていますが、③や④と組み合わせるといっそうわかりやすいですよね。②だけでは一般にほとんど理解してもらえないでしょう。③や④単独でも何か物足りない感じがします。初めは小生もどうということもなく過ごしてきましたが、色々な本などを読むうちにだんだん疑問が生じてきました。室町時代初め頃と南北朝時代の終り頃って同じじゃないの?同じ対象を人によって鎌倉中期終りとしたり鎌倉後期初めとしたりしているが、鎌倉中期の終り頃って何年頃なんだろう?という具合に「もやもや感」がありました。

そもそもこうした○○時代という区分はたいてい政治史の上の呼び方で、しかも始め・終わりを何年にするのかについては諸説ある場合が多く、いっそう話しをややこしくしています。しかし、一方でこうした時代呼称は広く用いられているので一般にわかりやすいという利点があります。この「わかりやすい」ということは、専門的になればなるほど微細な事柄の正確さを追求するのみに偏重し、時としてひとりよがりなものとなりがちな弊害を考えるとたいへん重要なことです。とりわけ石造物という地味で身近なものの価値を顕彰していこうとする場合、「わかりやすい」ということは特に大切と考えます。

政治権力の担い手が変わろうと、その瞬間から定規で測ったようにピシッと文化芸術面でも著しく様相が変わってしまうということはまずありえません。石造美術のように文化史的な事柄を考える場合、わかりやすく理解を進めるための目安程度に理解しておくべきものと考えています。また、こうした各時代を前・中・後の三期に分けて考えることがあります。しかし、これまたそれぞれ何年から何年までなのかについて明確に規定したものがありません。やはりこうした区分も元々便宜上の目安、わかりやすくするための方便のようなものなので明確に規定することにさして意義を感じません。時代区分に基づく表記に加え、西暦を用いて、○○世紀の中葉とか第○四半期とか初頭とか末頃などの表現を交えて説明しておけば事足りると小生などは考えるわけです。しかし、こういった時代区分の呼称が持つ曖昧さを許せない性分の人もいらっしゃいます。「もやもや感」を解消したい場合はすっきりしますし、それが実際上役に立つのであればいっこう構いません。ところが、これも諸説あって何ともいえないのが現実のようです。このあたりはいったいどうなっているのでしょうか…。(続く)


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