石造美術紀行

石造美術の探訪記

石塔がいい

2007-01-28 22:05:23 | ひとりごと

小生は五輪塔からハマりました。宝篋印塔や磨崖仏などを経て今は宝塔に関心の比重が移りつつあります。(まだ層塔や板碑は勉強不足です)

はじめて郷里近くの中世の大きい五輪塔を見学した時、その大きさ、デザインの妙、水輪の曲線、青みがかった花崗岩の質感、ひんやりとした石の触感に何ともいえない感動を覚え、文献をあさり、以降近畿を中心に主だった中世の五輪塔を訪ね歩いてきました。(まだまだごくごく一部です・・・)

とりわけ深い感銘をうけたのは、奈良市西大寺体性院の叡尊塔を一人訪ねた時でした。誰もいない静かな廟所の広大な基壇に立ち、青空に聳える巨大な叡尊塔と対峙した瞬間、時が止まりました。生家は仏教徒でも大学はミッション系、宗教などにまったく興味もない小生でしたが、700有余年の時間を隔てた今この瞬間、ここには思円上人と小生が五輪塔を介して二人っきりになっている・・・そう思えたのです。時空を越え、写実的なあの眉毛豊かな叡尊像が想起され、説法する上人の力強い声がしたような気がしました。そして巨大な五輪塔を見上げる時、完璧なバランス、曲線と直線の構成美、石の表面の質感、陽の当たる面の石の白さと陰の部分のコントラストに改めて美しさを認識するに至ったのです。

それから、書物を頼りに目当ての石塔を捜して徘徊したあげく、吐く息が白い山村の静か過ぎる無音の木蔭に、人知れず厳しい佇まいを見せる宝篋印塔の凛とした姿とようやくにして邂逅した時の感動は忘れえぬものがありました。

そして今、その美しさに惹かれているのは宝塔です。日本一の宝塔の宝庫、夢は近江路を駆け巡るといった近況です。


奈良県 天理市福住町別所 下之坊寺宝篋印塔

2007-01-28 10:21:07 | 奈良県

奈良県 天理市福住町別所 下之坊寺宝篋印塔

福住町別Dscf0852所は山間の斜面に開けた静かな集落で、浄土から奈良市の矢田原町へ抜ける県道186号が通る谷を挟んで北東側と南西側に人家が展開しており、道路沿いにある別所公民館から西方約300mの山裾に杉の巨木(根元に案内看板があって樹齢800年で婆羅門杉というらしい)が聳えているのが見える。その下にトタン葺の寺の屋根が見える。これが下之坊寺である。(「奈良県史」では永照寺上之坊となっており、後海寺とする地図もあって謎である。そもそも「下之坊」は寺院の子院に用いられる通称で、固有名詞ではない。)見たところ無住で、建物の痛みは進んでいるが、地元の人々によって管理されているらしく、境内は掃き清められて いる。境内には弁天社らしい小祠のある中島を浮かべた池があり、杉の巨木とあいまって清涼な雰囲気のある古寺である。境内向かって左手にある小さい墓地の奥に、宝篋印塔2基と高さ120cmほどの五輪塔がある。小さい方の宝篋印塔は、切石を組み合わせた基壇上に4弁の複弁反花座を置く。反花座は背が高く、傾斜が急で反花の表現は硬直化している。基礎は背が高めで輪郭内に格狭間Dscf0841を設けるが、彫りは浅く文様の退化が見て取れる。正面の輪郭右に享徳4年(1455年)、左に2月18日、格狭間内に「逆修/了識」と陰刻され(※)、銘文は肉眼で容易に確認できる。基礎上2段、塔身は輪郭を巻き、月輪を陽刻して中央やや上に金剛界四仏の種子を薬研彫する。種子の彫りは細く浅い。笠も全体的に背が高く、逓減率が小さめで、下2段、上6段。軒を削りだし、隅飾はやや大きめ で、2弧輪郭付、少し外反する。相輪は中ほどで欠損している。高さ110cm。(※)大きい方の宝篋印塔は、高さ144cm(※)、基礎無地で上2段、塔身には輪郭はなく、浅く細い月輪を陰刻し、金剛界4仏の種子を薬研彫している。笠下2段、笠上6段。隅飾は小さめで、2弧輪郭付。軒と一体にならず、少し外反する。相輪も伏鉢、下請花、九輪、上請花、宝珠と完存している。伏鉢が大きく下請花は退化して小さい。九輪の各輪間の凹凸ははっきりしておらず、上請花は浅く単弁を削りだし、宝珠は、側辺がかなり直線的だが形状は良好である。4弁の複弁反花の台座は、享徳塔の台座に比べると傾斜が緩く優美で、古調をとどめる。下方は埋まっているため基壇の有無は不明。銘は見当たらない。清水俊明氏は2基とも同時期(室町後期)の造立とされるが(※)、台座、基礎の高幅比、笠の形状、塔身の種子から大きい方が明らかに古式で、15世紀初頭に遡るのではないかと推定する。なお、すぐそばの五輪塔は、とりたてて特徴はないが均整がとれ保存状態良好。各部無地で複弁反花座にあり、高さ121cm。室町後期とされる。(※)材質は花崗岩とされるが、安山岩か溶結凝灰岩系かもしれない。

参考 ※ 清水俊明『奈良県史』第7巻 石造美術375ページ

なお、近辺には他にも石造美術が多くあるので追々ご紹介します。