(グラナダのカテドラル)
昨日、アルバイシンの丘から旧市街に下り、カテドラル (大聖堂) を見学した。ステンドグラスが美しかった。
イスラム時代、アルハンブラの麓の町には、モスク、大学、市場、キャラバンサライ(隊商宿)、浴場などがあり、イスラム文化が花開いて、にぎわっていた。現在のキリスト教の大聖堂は、大モスクを壊した跡に建てられたものである。
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< ホテルを移動する >
今日は、5月16日。昨夜は雨だったが、今朝は、青空に白い雲!!
朝、タクシーを呼んでもらい、アルバイシンのホテルからアルハンブラ宮殿のそばのホテルに移動した。
アルハンブラ宮殿見学の予約時間は朝10時。さらに夜の部 ( 夜の10時からライトアップした宮殿内の見学ができる ) の予約も取っている。夜の部の見学を終えた後、深夜の山道を麓の街まで歩くのは危険。それで、アルハンブラに隣接したホテルをとった。
だが、この夜、見学を終えて城門を出ると、森に囲まれた広場の街灯の下に、たくさんのタクシーが客待ちしていた。タクシーがあると分かっていれば、ホテルを変える必要はなかった。
独力で行く異国の旅であるから、出かける前に本やネットでできるだけ下調べするが、微妙なところは結局わからないものだ。
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< アルバイシンの丘を望む >
9時。アルハンブラの、遠くから見るとわからなかったが、そばで見ると、いかにも高くて堅固な城壁の中へ入る。城壁の中には、樹木の繁った美しい庭園と建物があった。
宮殿内見学の予約時間まで、しばらく待った。気候が良く、空が晴れ、空気が澄んでいた。
( アルハンブラの城壁の中 )
アルハンブラは、ダロ川渓谷に切れ落ちる丘の上にあり、元々はアルカサバ (城砦) と、宮殿と、メディナによって構成されていた。
これから入る宮殿は、行政庁と、その奥の王宮とから成る。
メディナとは、町のこと。豪族や、王の家臣のほか、商人や職人も住んでいたが、麓の旧市街や、アルバイシンと比べると、高級住宅街だったらしい。ここにも、モスクや、市場や、浴場などの施設もあった。しかし、今、それらは何も残っていない。
かつてメディナのあった起伏のある広い敷地には、樹木が茂り、バラを初め種々の花々が咲くイギリス庭園風の花園が造られて、美しい。
昨日はアルバイシンの丘から、アルハンブラの丘を眺望したが、今日は谷を隔てたアルバイシンの丘を眺望した。下の写真の中央の塔の下が、サン・ニコラス展望台である。
( アルバイシンを望む )
アルバイシンの丘からさらに右手の方へ延びた丘が、サクロモンテの丘 (聖なる丘) で、防御用の城壁が連なっている。
( サクロモンテの丘 )
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< ナスル朝宮殿を見学する >
アルハンブラ見学の中心は、もちろん王宮である。貴重な世界文化遺産であるから、一度に大勢を入れないよう、予約制で人数制限をしている。
列に並び、予約時間が来て、宮殿に入った。胸がときめいた。
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陣内秀信、福井憲彦『地中海都市周遊』(中公新書) から。
「普通、世界中どこでも、宗教建築というのは古いものが残りやすいのですが、こういう世俗の建築、住宅や宮殿というものはあまり残っていないわけです。ですから世界的に見ても稀ですし、イスラム文化の中でも中世の世俗建築は、ほとんどここにしか残っていません。たぶん、西アジアや北アフリカにも素晴らしい宮殿があったに違いないのですが、調べようがないのです。そういう意味でも、ここがイスラム建築の粋を集めた最後の場所で、われわれはイスラム文化の最高潮の結晶を直に見ることができます」。
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王宮の内部に入ると、そこには、これまでの西欧旅行で見てきた西欧文化とは異なる世界があった。
コマレス宮の「アラヤネスの中庭」は、この先の「大使の間」に通じている。他国の使節が王に謁見するときに通る中庭である。アラヤネスは天人花。
(アラヤーネスの中庭)
紅山雪夫『魅惑のスペイン』 (新潮文庫) から
「 足元では噴水が円形の水盤の中で水しぶきを上げ、北側の柱廊とその上方にそびえるコマレスの塔とが泉池に映じて、たとえようもなく見事だ」。
「 ほっそりした石柱に支えられ、端正な幾何学文様の漆喰細工で飾られている (7つの) アーチの列は、微妙なバランスを保って全景を引きしめている」。
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王宮の中心はライオン宮だ。ここは完全に王の一家のプライベートな空間で、「ライオンの中庭」に面して、繊細華麗な装飾の施された3つの部屋がある。
( ライオンの中庭 … 昼と夜 )
紅山雪夫『魅惑のスペイン』から
「 中庭の中心にはライオンの泉があり、12頭のライオンに支えられた大きな水盤からすずやかに噴水が上がっている」。
「 中庭の四方にある部屋の中にもやはり水盤と噴水が設けられていて、そこから流れ出した水は十字形の水路を伝ってライオンの足元に集まってくる」。
「 このように部屋の内部にまで水盤と噴水を設けるのはイスラム建築独特の趣向であって、… それは贅を尽くした王侯の宮殿ばかりでなく、一般の邸宅においてもそうだ」。
( 中庭の柱廊装飾 )
(ライオン宮の室内装飾)
イスラム文化の粋とも言えるこの宮殿は、キリスト教世界の王宮や大司教の宮殿と比べて、
〇 開放的で明るい
各部屋は中庭に開かれ、或いは、外界に向けて、テラスがあり、窓が開かれている。ローマの神殿や、日本の神社に似て、清々しく晴朗である。
〇 端正にして、繊細・優美
権力を誇示する巨大さ・豪華さも、目に鮮やかな色彩はない。
幾何学的な造形。光と陰。そして水。静謐の世界である。柱も、アーチも、窓も、天井や壁の装飾も、ほっそりと、細やかで、優美・繊細である。
ただし、その装飾性は、微に入り、細を穿ち過ぎて、時に過剰となる。その点、日本なら例えば日光東照宮、或いは、江戸小紋の世界に似ている。
〇 上の印象と重複するが、イスラム世界には、偶像、或いは、具象のリアリズムがなく、あるのは幾何学模様や、草花模様のアラベスクである。ライオンの像は例外中の例外。
キリスト教世界の宮殿・邸宅の壁や天井に描かれた、戦闘場面の絵、聖書を題材とする生々しい写実、ギリシャ神話に由来する裸体女性像の数々、恰幅のいい歴代の王と王妃の肖像画などなど、自己肥大的で、巨大で、権力的で、必ずしもセンスが良いとは言えない西洋美術の世界から遠く離れて、その静謐感は心地よい。
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< アルカサバ (城砦) に上がる >
元々アルハンブラは、城砦として造られた。
アルハンブラ宮殿を見学するツアーは、日本からのツアーも、現地ツアーも、時間節約のため、アルカサバの見学をカットするそうだ。だが、ここは要塞であるから、アルハンブラで一番、見晴らしのよいところだ。旧市街を見下ろすこともできるし、アルバイシンの丘も、サクロモンテの丘も、一望できる。そして、雪のシェラ・ネバタ山脈も。
( 雪のシェラ・ネバタ山脈 )
「 夜警の塔 」と呼ばれる塔に昇ると、360度の雄大な眺望が楽しめる。また、城砦全体を見下ろすこともできる。
兵士の宿所や武器庫などがあった所は、今は基礎部分しか残っていない。
(夜警の塔から見下ろす)
そこを歩いているのは、小学生のグループ。 この旅の間に訪れた歴史的文化遺産の町で、いつもこのような小学生、中学生、高校生のグループに出会った。これは西欧のどの国でも同じだ。
どこの国でも、自分たちの国と、民族の文化と、文化遺産 ( 歴史 = 祖先の物語) に、誇りと敬意をもつことを教えている。
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< ヘネラリフェ離宮を散策する >
アルハンブラの城壁を出て、糸杉の並木道を歩いて行くと、かつての王の離宮、ヘネラリフェ離宮に至る。残っているのは、そのうちのアセキアの中庭と楼閣である。
中庭の真ん中に細長い泉池があり、両側の噴水が軽やかな水しぶきを上げていた。シェラ・ネバタから引いてきた水である。
( 中庭の噴水 )
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陣内秀信、福井憲彦『地中海都市周遊』から。
「特にアルハンブラやヘネラリフェは水の演出がうまい。噴水というと、ヨーロッパでは吹き上げてしまうのが多いですが、ここでは違いますね」。
「本当に細い、繊細な水がいくつもクロスして吹き出す演出はみごととしか言いようがない」。
「その音がまた良いのですね」。
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ジュネーブのレマン湖の湖岸から、湖の中に造られた噴水の水が天高く吹きあがるを見たとき、アルプスの山々に囲まれたこんな美しい自然の中に、どうしてこんな無粋な物を造るのかと、疑問に思ったことがある。
( 離宮から宮殿の眺望 )
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9時過ぎに入城し、10時から見学を始めて、3時間少々、ゆっくりと見て回った。
夜の部は、午後10時から、ほのかにライトアップされた宮殿を見学した。
すっかり堪能した。
その日の午後、アルハンブラバス (赤いミニバス) に乗って、ダロ川渓谷のヌエバ広場に下り、広場近くにある日本人経営のお寿司屋さん 「 ZAKURO (ザクロ) 」で、昼食とも夕食ともつかない食事をした。
( ヌエバ広場付近 )
飛行機の長旅、時差ぼけによる寝不足、海外旅行の緊張、昨夜のサン・ニコラス展望台近くのレストランの濃い味付けの料理などで疲れたお腹に、野菜サラダ、握り寿司、味噌汁は、砂漠の中で出会ったオアシスのようであった。
「 陽関を出ずれば、故人なからん 」。グラナダを出ると、マドリッドに帰るまで、和食レストランはない。
旅をするなら、土地のものを食べるべきだ、食も文化の一部、という考えは承知しているが、観光地に旨いものなし、とも言う。 もう20年もヨーロッパ旅行をしているが、旨いものにはなかなか出会わなかった。量の多さ、味付けの濃さにも辟易することが多い。「冬のサンチャゴ・デ・コンポステーラの旅」では、ついにお腹をこわして苦しんだ。もう若いときのようにはいかない。まずは元気に旅をすること。だから、和食レストランがある場合は、迷わずそちらへ。
困ったのがスペイン時間だ。フランスやドイツ以上に夜型なのだ。たぶん、シェスタの習慣が残っているからだろう。 レストランは、昼は2時~4時。 夜は8時ないし8時半にならないと開店しない。ペースが合わない。それで、朝はホテルでしっかり食べ、午後3時ごろに昼、夜の「兼食」をするようにした。1日2食である。すると、なかなか体調が良い。 ( 続 く )
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