一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

「将棋ペンクラブ関東交流会」に行く(前編)・林葉直子さん、来場する

2010-05-26 00:57:52 | 将棋ペンクラブ
22日(土)は、東京・将棋会館で、将棋ペンクラブの「関東交流会」があった。
これは将棋と文章を愛する愛棋家が集まる、年に1度の祭典で、この日を心待ちにしている会員も少なくない。とくに今年はペンクラブ会員の林葉直子さんが参加するという噂もあり(まあ、知っていたが)、例年とは違う気持ちで将棋会館へ向かった。
この日のスケジュールは、午前10時から午後4時まで親睦将棋大会、そのあと会員の自己紹介がもれなく行われ、7時まで飲み会となる。今年の指導棋士は、女流棋士会からは斎田晴子女流四段と安食総子女流初段が確定。LPSAからは松尾香織女流初段がいらっしゃるという話は聞いていたが、例年女流棋士の指導は2名である。松尾女流初段は不参加になったと思った。
会館の4階大広間へ入ったのは10時40分ごろか。将棋大会は10時からだが、優勝を争う類のものではないので、何時に入ってもよいし、何時に帰ってもよい。このあたりのユルさが、ペンクラブの持ち味だ。
幹事のM氏がいらして、
「オオサワさん好みの女性が来てますよ」
という。その視線の先を見ると、元ミス・パラオのタレント・梨沙帆さんの姿がある。梨沙帆さんはペンクラブの会員だったのか。こんな早くから来場するとは、意気込み十分である。彼女は背も高くプロポーションもいい。いまは髪が長くなっているから、船戸陽子女流二段のイメージと重なって見える。ちょっと歳の離れた姉妹と言ってもおかしくない。いいカンジである。
そんな梨沙帆さんは将棋ブログも開設していて、エントリには将棋に対する愛があふれており、とても好感が持てる。「将棋女子」として、いまや彼女の名前を知らなければモグリである。日本将棋連盟が高名なオッサンに高段の免状を乱発するのもいいが、彼女のような将棋ファンにこそ免状を贈るべきである。
対局に入る。昨年は5戦全勝だったが、上に7戦全勝の方がいらして、順位1位をさらわれた。金曜サロンの会員である以上、無様な成績は許されない。今年は昨年以上の成績を目標とした。
振り駒の結果、私の先手番。後手氏の中座飛車に、私は研究手をぶつけ、序盤からリードを奪った。それが中盤まで続いたのだが、後手氏の反撃をモロに受け、いつの間にか敗勢になっていた。しかし後手氏が私の飛車を取らず、歩を成ったのが敗着。こちらに詰めろを掛ける手が回って、逆転した。
1局目は辛勝となったが、こんなことでは先が思いやられる。この間に、松尾女流初段がいらした。よかった、と思う。女流棋士会の女流棋士が来場されると聞いて、LPSA女流棋士はお払い箱と思ったが、ペンクラブはそんな薄情なことはしないのだ。早速指導対局に入っていただく。
私は2局目。相手のH氏は、昨年の関東交流会のレポートを書いたが、達者な文章だった。関東交流会や大賞贈呈式でのレポートは、会員の持ち回りみたいなもので、いつかは書かされる運命にある。しかし皆さん一様に文章がうまい。指名はおもに湯川博士統括幹事がするが、各自の文章を読んだわけでもないのに、どうやって文章巧者をピックアップしているのだろう。いずれにしても作家だけあって、その眼力はさすがである。
11時30分ごろだったか、林葉直子さんがいらっしゃる。私が以前からブログで熱望していた林葉さんを、ついにこの眼で拝見した。ちょっとやつれているが、まぶしい。あまりにもまぶしすぎて、まともに見られない。ああ、この感激を、文章で正しく伝えられない自分がもどかしい。
将棋に戻る。私の四間飛車に、H氏は糸谷流右玉。この対策がまったく分からない。苦慮していると、右の将棋盤の前に、林葉さんと会員がすわった。マジか!? いま、私のナナメ前に、林葉さんがいらっしゃるのだ。こ、こんな近くで林葉さんを拝見してもいいのか!? 私の心が乱れる。
林葉さんは指導対局をするのではなく、あくまでも会員のひとりとして対局するらしかった。もっとも林葉さんは女流棋士会を退会し、いまではただの愛棋家のひとりである。そんな林葉さんは、駒を並べる手つきに力がないが、駒のひとつひとつに、魂を吹き込んでいるようだった。
あ、ああ…私はここで将棋を指している場合か? もう、林葉さんの鑑賞に全精力を傾けたほうがいいのではないか? しかしそうもいかないので、自分が指せば林葉さんを見る、相手が指したらすぐ指して、また林葉さんを見る、の繰り返しとなった。
噂では、林葉さんは体調が悪いと聞いたがたしかにそうで、頬のあたりが少しこけている。しかしその分、凄絶な美しさが加味された気もする。結局美人はいくつになっても美人なのだ。
林葉さんの将棋は相振り飛車となっていた。林葉さんは7月に行われる日レスインビテーションカップで中倉彰子女流初段と対戦する。15年のブランクがあった林葉さんの現在の棋力がどんなものか量るには、絶好の機会だ。
私の将棋も指し手が進んでいる。H氏☗8六角、私☖7七成桂☖7八成桂。ここでH氏が☗7九歩と打ったのが悪手だった。すかさず☖8七成桂と寄られ、角が助からない(☗5九角は☖6九成桂)。
林葉さんは飛車を左右に行ったり来たりしている。何を指したいんだか、よく分からない。林葉さんがこちらの局面を見る。その視線は鋭い。なんだかドキドキしてしまう。
林葉さんはが、将棋を指すのは15年振り、と掠れた声で話しているのが聞こえたが、本当だろうか。それが事実なら、中倉女流初段に勝つことなど、夢のまた夢だ。
H氏、☗3五桂と☖2三飛取りに打つ。ここで私が飛車を逃げずに、☖6五歩と☗6六金取りに突いたのが自慢の一手。この手が通れば、のちに☗4三桂成とされたとき、手順に☖5三角を逃げることができる。この局面を林葉さんは確かに見ていた。彼女の感想を聞いてみたい。
「あのう…あとで先生のサインをいただくことはできるでしょうか」
私は恐る恐るお願いする。林葉さんがわずかにうなづく。よし! きょう私は、この日のために、とっておきの「写真」を持ってきていたのだ。今回はそれにサインをしたためてもらうつもりである。
林葉さん、かなり形勢が悪くなった。こちらの将棋は私が勝勢である。最後はH氏の諦めもあって、私の快勝となった。
一応感想戦も行う。やはり☗3五桂に飛車を逃げず、☖6五歩と突きだしたところがハイライトだった。林葉さんがこちらを見ている。
「いや私がここで歩を突き出したんですけど、この手はどうですか?」
私は勇気を出して、林葉さんに問うてみる。しかし林葉さんはうっすらと笑みを浮かべるだけだった。
(つづく)
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5月21日のLPSA金曜サロン・あと1回

2010-05-25 01:24:23 | LPSA金曜サロン
20日の話。今年は7月の9日(金)~11日(日)に沖縄・宮古島に行きたいと思い、9日の仕事を休ませてくれるようオヤジに頼んだのだが、保留された。
同じ例は過去にもあって、いま現在仕事が忙しくはないが、1ヶ月半後は忙しいかもしれない、という理由で却下されたことがある。
しかし直前になって沖縄行きのOKが出たとしても、そのときには通常料金になって飛行機代が高くなっており、とても行く気にならない。鉄道旅行なら前日にOKが出ても何とかなるが、飛行機利用はそうはいかないのだ。
というわけで、今年の宮古島旅行は、お盆休みの石垣島旅行と合流することになりそうである。忙しない。

21日のLPSA金曜サロン、昼は神田真由美女流二段、夕方は鹿野圭生女流初段の担当だった。
鹿野女流初段の金曜サロン登板は珍しい。私の記憶では2回目、夕方の担当は初めてだと思う。大阪からの上京はありがたいが、鹿野女流初段は翌日に「マイナビ女子オープン・予備予選」を控えている。重要な対局の前夜に指導対局、というのはどうなのだろう。ほかに担当する女流棋士はいなかったのだろうか。
私は常駐棋士の人選(サイクル)に疑問を感じることがときどきあるが、今回もそうだった。
この日は午後3時に仕事を上がってもいい、と言われたのだが、私はマイナビの予選抽選会に参加するため、19日も3時に上がっており、さすがに週2回も早退けするのは気がひけた。
それでサロンに入ったのは6時30分すぎ。2時~6時担当の神田女流二段が、まだ2面指しをしていた。熱心である。
私と前後してK氏が入室したので、K氏ととりあえず一局、となった。と、鹿野女流初段の大盤解説が始まるらしかった。まだ大盤解説をやってなかったのか! いつもは5時半ごろから始まるので、通常なら休止、というところだが、鹿野女流初段の強い希望で、解説会を行うことになったらしい。これはありがたいことであった。
それでは…と思う。昼は夜に比べて、サロン会員は少ない。それなのに神田女流二段がこの時間まで指導対局のみしかこなしていなかったことに、疑問符がつく。
神田女流二段は、指導対局なのに真剣に考えすぎる。むずかしい局面でも適当な手を指して、下手に考えさせればいいのだ。どうせ下手だって、正しい応手は指せないのだから。
それはともかく、私たちは駒を並べてから、解説を聞くことにした。
聞き手は神田女流二段が務めるところだが、金曜サロン担当の神田女流二段は写真撮影係に廻っている。そこで金曜サロンの顔であるW氏が、聞き手(駒操作)を任されることになった。このユルさ加減が、金曜サロンのいいところである。
選局は、倉敷藤花戦の対植村真理女流三段戦。鹿野女流初段の解説は弁舌も滑らかに小気味よく、時折り笑いも交えて絶品である。将棋は中盤の劣勢を驚異の粘りでハネ返し、最後は植村玉をピッタリ詰めあげた。鹿野女流初段はかつて里見香奈女流初段(当時)を破ったこともあり、ツボに入ったときは本当に強い。問題はその力を、翌日に出せるかどうかだ。
K氏との将棋も終わり、鹿野女流初段との指導対局に入る。以前も書いたが、若いころの鹿野女流初段は、韓国人女優のようなたいへんな美人で、けっこうな歳になった現在も、その美貌はほんの少ししか衰えていない。
夕方担当の女流棋士は原則的に8時半までの指導だが、鹿野女流初段は、9時半すぎまで指導対局を続けてくれた。何度も書くが、翌日は対局だというのに、このサービス精神には本当に頭が下がる。関西在住唯一のLPSA女流棋士として、鹿野女流初段には、これからも対局と普及に全力を尽くしてもらいたい。
このあとは有志でファミレスへ行く。入口で若い女の子が5~6人待っていたが、先乗り会員が席を予約してくれていたので、そのまま店内を進む。ちょっと後ろめたい。そしてその席で私たちは、同席してくださった植山悦行手合い係から、衝撃的な話を聞いた。
植山手合い係が、28日をもって手合い係を辞する、とのことだった。
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「名人戦第4局大盤解説会」に参加する(後編)・里見香奈女流名人・倉敷藤花の強さ

2010-05-24 01:43:14 | 将棋イベント
解説の合間をぬって、二転三転の終盤となった、第3局のハイライトが紹介される。三浦弘行八段、半ば形作りの☗1五角に羽生善治名人が正しい合駒を逃し、三浦八段に勝ち筋が生じたものの、結局勝ち切れなかった将棋だ。突然勝ちになって、1分将棋のなか混乱したまま疑問手を続け、大魚を逸した挑戦者の心情は、察するに余りある。
第4局に戻る。現在は羽生名人のほうが持ち時間を多く残している。2日目の夜でこの時間差は、絶対的に名人有利である。ただ勝又清和六段こと勝又教授によると、名人と挑戦者は2日間、フルに頭を使っているので、新鮮なアタマで将棋を見ることができない。だから疑問手も出やすいという。
羽生名人は要の☗7六金を只で取らせて玉が脱出したが、損失が大きすぎる。これは三浦八段、楽しみが出てきたか…が、マイナビ解説場での評判だった。
☗6一角に☖6二金。この金はもともと7六にいたものである。対して羽生名人、☗8三角成とまったり指すかと思いきや、☗3三歩と攻め合いに出た。
三浦八段、☖6一金。歩が金になり、それで角を取った。これはもう、どちらが勝ちか分からない。持ち時間も双方接近してきた。三浦八段の指が震えている。羽生名人の指も震えているらしい。羽生名人の指の震えは勝利を確信したときの現象らしいが、本局はそれに当てはまらない。
「激指」には先手後手どちらが有利か、画面下にあるバーで白と黒を表示し、判定する機能がついている。それを見ると、左から「黒」、右から「白」が伸び、ほぼ中央で止まっている。これは優劣不明ということだ。
もっとも勝又教授に言わせると、将棋の優劣判定は基本的にプロ棋士の実戦譜を下敷きにしているので、サンプル数の少ない入玉形では、その判定がむずかしいという。
名人戦の持ち時間は公式戦最長の各9時間。しかしここ数年は、解説会に来た将棋ファンの帰りの足を考慮し、夕休時間を削ったりして、早めの終局を目指しているという。だから計算上では、2日目の午後9時前後には終局するはずだという。
三浦八段の指の震えがなくなったらしい。将棋はこれからまだ、ひと山もふた山もありそうだ。時刻は8時30分を回ったろうか。
「これは皆さん帰れませんよ」
と勝又教授。
まあこんなこともあろうかと、テレビ朝日系「臨場」の録画予約はしてきている。
なんと加賀さやかさんが戻ってきた。そのまま空いていた私の左の席にすわる。またドキドキの要素が増えた。
「次の一手はなんでした?」
「☗6三とでした。加賀さんは?」
「私は☗7七玉でした」
残念、とお互い慰め合う。加賀さんは棋士との親交が深く、よく扇子や色紙をいただくらしい。そして毎年開かれる将棋ペンクラブ親睦会でも、多数の品物を無償提供してくれる。ありがたいことだと思う。
三浦八段☖6七角。攻めては☗7五玉を背後から狙い、守っては3四、2三に利かす八方ニラミの角だ。名人は☗7六銀とはじく。三浦八段☖3四角成。
最初は☖6七角を絶賛していた勝又教授だが、こう収まってみると、評価が変わった。一見羽生名人に持ち駒を打たせたようだが、手順に玉を固めさせた罪のほうが大きいのだ。終盤は、自玉の固さも大きな要素だ。
しかし形勢バーは、まだ互角である。ここまで手数が伸びて、形勢の針がぶれないのは珍しい。
名人戦速報のコメント欄に、「勝又六段から、何があったんですか? のコメントが入る」との書き込みが入ったらしく、会場が爆笑の渦に包まれる。東京と小倉での無言のやりとりが全世界に配信されるとは、恐ろしい世界になったものだ。
両者は1分将棋になっているようだ。里見香奈女流名人・倉敷藤花が、聞き手と呼ぶことには躊躇するような、あまりにも鋭い読みを披露している。その声がか細いので、そのギャップが、さらに彼女の強さを引き立てる。勝又教授が「解説の里見さん――」と発するのも、あながち冗談ではない。しかし里見女流二冠が発言している符号が先後逆だ。大阪に三浦八段を呼ぶべく先手玉を寄せようとしているので、里見女流二冠の頭の中では、後手方が盤面の下にきているのだろう。
局面は三浦八段がやはり苦しくなってきた。終盤でこの形勢の傾きは大きい。苦悶の表情が浮かんでくるようだ。
ちょっと解説場もサジを投げ気味である。ここで勝又教授が気を利かし、里見女流二冠が豊島将之五段と戦った、新人王戦の一局を紹介する。その将棋がスクリーンに別ウインドウで現われた。
天才棋士の呼び声も高い豊島五段に対し、里見女流二冠は一歩も引かず渡り合う。里見女流二冠の感想を聞いていると、ゴキゲン中飛車あらゆる変化に精通し、研究量も凄まじいことが分かる。里見女流二冠の1/10でも将棋の勉強をしている女流棋士が、現在何人いるか。里見女流二冠は、女流名人を獲るべくして獲ったのだと、あらためて思う。
羽生名人、最後の1歩を使って☗3三歩。さらに☗4四角打。次に☗3二歩成の両王手が厳しい。☗3三角成。これで後手玉は必死だ。もう三浦八段は王手ラッシュを掛けるしかないが、解説場の検討では、数手後に☗7七玉と落ちてわずかに詰まない。
しかし羽生名人だって、1手トン死や3手トン死を喰らったことがある、と勝又教授がその将棋を映す。とはいえあまりにも虚しい。観客は無反応だ。「激指」の形勢バーは黒一色となっている。
☖6七同成桂☗7六玉。ここで三浦八段が投了したようだ。9時53分。三浦八段、善戦むなしく、小倉に散る。羽生名人、7期目の名人位、おめでとうございます。
勝又教授と里見女流二冠は、7時の再開から1回も休憩を挟まず、解説を続けてくれた。厚く御礼を申し上げたい。
帰り際、いつの間にか解説会に顔を見せていたバトルロイヤル風間氏が、里見女流二冠に話かけている。やっぱりバトルさんは将棋関係者といえよう。
そんな里見女流二冠は、手に汗握る熱戦を観客に伝え続け、紅潮している。ちょっと私は里見女流二冠の存在を軽視していたのだが、やはりとてもかわいらしい。いまや女流棋士会の顔であり、第一人者として、風格も出てきた感がある。
そんな里見女流二冠の眼はすでに、2ヶ月先のマイナビ一斉予選に向けられているような気がした。
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「名人戦第4局大盤解説会」に参加する(前編)・次の一手

2010-05-23 15:01:25 | 将棋イベント
東京竹橋・パレスサイドビルで行われた第4期マイナビ女子オープン・予選抽選会が終わったあと、私は引き続いて第68期名人戦第4局の大盤解説会にも参加した。解説は勝又清和六段こと勝又教授と、里見香奈女流名人・倉敷藤花。途中に「懸賞次の一手」がある。
私は男性タイトル戦の大盤解説会に赴くのは初めてで、緊張感をもって臨んだ。
室内前方には3面のスクリーンがあり、いずれもソフトの盤面が映されている。左右のスクリーンにはリアルタイムの局面、正面のそれは検討用とに振り分けられている。これは勝又教授の得意とする解説スタイルである。
北尾まどか女流初段が、私の左に座っている加賀さやかさんに挨拶にいらっしゃる。桜色のきものがよく似合っている。
私が先ほど引いた色紙は中村桃子女流1級だった。その縁でマイナビ一斉予選対局では、中村女流1級に懸賞金を懸けることにしたが、その相手は北尾女流初段なのだ。つまり北尾女流初段にも必然的に懸賞金を懸けることになる。
「先生、今回は先生に1本懸賞金を懸けさせていただきますから、ガンバッテください」
一石二鳥。ちょっと後ろめたいが、両者を応援することに変わりはない。
午後6時すぎ、解説会が始まった。しかし羽生善治名人、三浦弘行八段も持ち時間を残しているので、局面は進まない。正面のソフトは「激指」を使用している。そこで勝又教授が、先日行われた将棋ソフト選手権での、激指の名局を並べる。これが勝又教授もうなる驚異の妙防で、激指が凌いだ将棋だった。いったいいまの将棋ソフトは、どこまで強いのだろう。
左にすわった加賀さやかさんと雑談する。あまり他人の過去は知りたくないが、ほかに話のネタがない。
「加賀さんは何年くらい前から将棋のマンガを描き始めたんですか?」
「15年くらい前かな。『将棋マガジン』に描きました」
「ああ、将棋マガジンは1996年10月号が最終号でしたからね。かなり古いですね」
「そうですね」
「あの号は三浦先生が羽生七冠から棋聖を獲って、それが巻頭グラビアに出ていました」
そのあとは、将棋マガジンが休刊になるとは思わなかった、近代将棋が休刊になるとは思わなかった、という回顧話になった。
名人戦はやや手が進む。勝又教授は向かって右、ノートパソコンを駆使して解説。左手には里見女流二冠が位置し、聞き手のような解説のような役割になっている。スクリーンに将棋ソフトを投影させるため、周辺が暗い。勝又教授はどうでもいいが、里見女流二冠の姿が薄暗くて見づらいのは不満だ。里見女流二冠は今春高校を卒業したから、当然制服姿も見納めとなった。山口恵梨子女流初段も同様で、これも痛い。昨年、将棋会館道場で観た山口女流初段の、きらめくような制服姿を思い出す。
局面。三浦八段に☖2三角という妙角が出て、ここで羽生名人がどう指すか、が「次の一手」の問題になった。
勝又教授の第一感は、攻め合い一手勝ちを目指す「☗6三と」(☖6四角取り)。第2候補はいずれ指すことになるであろう「☗7七玉」。激指の候補手には、浮いている☗6七金を守る☗7九桂や☗7八銀、などがあった。
☗6三とを指したいのはヤマヤマだが、羽生名人なら、すべてを含みに残して☗7七玉と上がると見た。
投票までの15分間を休憩とする。加賀さんも次の一手を書いていたが、そのまま食事に出てしまった。いま加賀さんは忙しい。食事のあとは、そのまま帰宅するのだろう。
休憩後の7時に次の一手が披露される。回答者は150余名で、そんなに将棋ファンが集まっているとは思わなかった。一番人気はやはり「☗6三と」で70数名。2番手は私の予想した「☗7七玉」で、これは40数名いた。
注目の正解は「☗6三と」。残念。よく考えれば、「☗7七玉」は一本☖7五歩と金頭を叩かれるのがイヤミだった。賞品は扇子もしくは棋書、それに勝又教授と里見女流二冠の揮毫の入った賞状がもれなくもらえるという豪華版だ。予選抽選会で色紙を引くのも厳しい倍率だったが、この抽選で当たるのも高倍率である。しかし当たらないことにはダメだ。ああ、素直に「☗6三と」と書けばよかったと思う。
ここから本格的な解説だ。局面は羽生名人の優勢。☖4七飛成の王手に☗5七桂合。後手は☖4五桂と跳ぶ。ここで☗7七玉なら先手の一手勝ちという勝又解説である。
次の第5局は関西で行われるそうで、里見女流二冠は「ぜひ来てほしい」と語る。それには三浦八段が勝たねばならぬが、形勢は芳しくない。なんとか後手(三浦八段)を勝たせようと、勝又教授、里見女流二冠が知恵をしぼる。里見女流二冠が、私たちが読んでない手をいくつも発見して、食い下がる。さすがは里見女流二冠、手の見え方が違うと感心する。
指し手が進んだようだ。☗7五金?☖7四歩☗7六玉!?☖7五歩☗同玉!!
な、何だこの手順は!! 要の金を捨てて上部脱出を図るという構想か。凡人には名人の思考回路は分からぬが、これが正着とはとても思えない。
まったく検討には出なかった順が披露され、勝又教授、里見女流二冠とも、訳が分からないというふうだ。
勝又教授が小倉の現地に、「何が起こったんですか?」とコメントを送った。
(つづく)
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「第4期マイナビ女子オープン予選抽選会」に行く(後編)・確率1/3

2010-05-22 03:18:59 | 将棋イベント
大山康晴十五世名人は、「助からないと思っても、助かっている」という言葉を好んだ。山口恵梨子女流初段の色紙は取られたが、まだ中村桃子女流1級が残っている。中村女流1級もファンランキングトップ10に入っており、お兄さんの存在がちょっと気になるけれども、私の好きな女流棋士のひとりである。
私は昨年、最終の残りクジで、野田澤彩乃女流1級を引き、夏の一斉予選対局では、御礼の意味で懸賞金を出した。今年も色紙が当たったら、中村女流1級に限らず、その女流棋士に懸賞金を1口懸けようと思う。
しかしその後も、私の数字「11」は選ばれない。大豪・中井広恵女流六段の色紙が引かれた。これで残るは、一般選手4人、アマ選手1人である。
まだ現役女流棋士が残っているはずだが、宇治正子女流三段が抽選券を引く。30番台が出た。今回はとにかく30番台がよく当たる。よくシャッフルしてないんじゃないのか? ちなみに私に一番近い数字は「9」だった。
しかし30番台の人が前に出てこない。途中で帰ってしまったようだ。今回の抽選会はなかなかよくできていて、最後の最後まで色紙ゲットのチャンスがあるから、みんな帰るに帰れない。この時点で帰っていた人は、時間の都合だったのか、それとも目当ての女流棋士が引かれてしまったからか。
いずれにしても、「ライバル」が減るのはありがたい。仕切り直しとなって、次に当たった人は、北尾まどか女流初段の色紙を引いた。残り4人。自分の抽選券が選ばれる確率、最初は1/97だったが、現在は1/66まで減っている。計算上は可能性が高くなったようだが、色紙をもらえる確率は最初の34/97から4/66まで減ってしまった、ともいえる。私は数学に強くないが(強いが)、やはりこの確率は厳しいと言うべきだろう。まあいい。きょうは久し振りに船戸陽子女流二段の姿も拝見した。中村女流1級や本田小百合女流二段、里見香奈女流名人・倉敷藤花も生で拝見できた。これだけでもう十分だった。
宇治女流三段が抽選箱から券を出すのをボンヤリ見る。
「11番…」
エッ!? 11番!? いま11番と言った!? ビ、ビンゴ!!
まさか、まさかである。やはり助からなくても、助かっていたのだ!! やったぜ宇治先生!!
私はワイシャツの胸ポケットに忍ばせていた「11」の抽選番号を手に、勇躍前へ進み出た。
一般選手の残り色紙は3枚。その封筒が整然と横に並べられている。この中に、中村女流1級の色紙が確実にあるのだ。その確率は1/3。運命のドラフト会議の抽選に臨む、監督の心境だ。
真ン中の封筒が光っている。私は迷わず、その封筒を取った。前々からイメージしていたとおり、中を開けず、係の人に渡す。
「どうぞ、お開けください」
と言われる。
「あ、はい」
そろそろと封筒から出す。表のチラチラしたほうが出た。ひっくり返す。
「女流1級 中村桃子」
とあった。
やったあ!! 引いた!! 逆転スリーランホームランだ!!
「あ、なかなかいいカンジですね…」
跳び上がりところをグッとこらえ、あらためて係の人に渡す。その色紙を高々と上げる。雨宮知典・「週刊将棋」編集長だか誰かが、
「中村女流1級、『凌雲』と書かれております」
と言う。
「第2希望」の色紙が私の手に入り、紅潮したまま、私は自分の席に戻る。心なしか、周りの視線が冷たい気がした。
席に戻ると、加賀さやかさんが初めて私の存在に気づき、挨拶してくれた。船戸女流二段の色紙は加賀さんの手に渡っている。しかしこちらもそれに対抗できる色紙だ。
あらためて考えると、日本レストランシステムとLPSAが主催する「日レスインビテーションカップ」に中村女流1級ら女流棋士3名が招待され、そのとき私はこのブログに、
「もし彼女らが参戦したら、私はマイナビ一斉予選対局で、彼女らに懸賞金を懸ける」
と書いた。しかし実際は3名とも辞退したため、懸賞金は懸けずにすんだのだった。
ところが今回ひょんなことから、再び中村女流1級に懸賞金を懸けることになったわけだ。ちなみに中村女流1級には、昨年も懸賞金を懸けている。これも何かの縁であろう。
予選抽選会は、一般選手の室谷由紀女流3級、中倉彰子女流初段、アマ選手の小野ゆかりアマが引かれ、予選抽選会は滞りなく終了した。ちなみに一般選手の残りの2名、中倉女流初段と室谷女流3級も私が応援している女流棋士で、結果的にはどなたの色紙が当たっても、満足だった。
このあとは午後6時から、反対側のマイナビルームBで、名人戦第4局の大盤解説会がある。聞き手は里見女流二冠が務める。そして解説は勝又清和六段とのことだった。
私は2月に行われた第3期マイナビ女子オープン・挑戦者決定戦でブログレポーターを務めたが、そのとき大盤解説に飛び入り参加してくださったのが、勝又六段…勝又教授だった。これも何かの縁である。もし色紙が当たってなかったら、不貞腐れてそのまま帰宅したところだが、ここは解説会を聞く1手である。
ひょっとしたら無料かとも思ったがさすがに有料で、おカネを払って入場する。
テーブルと椅子が何列か並んでいるが、その後列にも椅子のみが置かれている。予想以上の将棋ファンが集まったようだ。
私はテーブル席を避け、椅子のみの席へ座る。と、私の左に、加賀さんが座った。
加賀さんは将棋ペンクラブの幹事ではあるが、私はあまり話したことはない。先日の「将棋ペン倶楽部大賞・第一次選考会」でも一緒になったが、打ち上げの席で軽く話した程度だ。
そんな加賀さんに隣に座られて、なんだか緊張してしまう。いつだったか、何かの打ち上げの席で、石橋幸緒女流四段と石橋ママに挟まれて飲んだことがあったが、あのときの緊張感とは質が違う。私はこういうツーショットはダメなのだ。
しかしそれを悟られては嗤われるので、私は平静を装い、さりげなく会話をする。どうも加賀さんは、この席でそのまま解説を聴くようだ。あ、ああ…ドキドキする。
そんな私のココロを知ってか知らずか、加賀さんが私をじっと見て、
「さっき船戸さんが、『私の色紙、オオサワさんに売っちゃえば?』って言ったのよ」
と、妖しく囁いた。
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