あの夜のヨーコとの会話…

６日の夜に東京を発ち、無事沖縄本島に着いたのはいいが、那覇空港上空が暴風域に入っていたため、ジャンボジェット機は左右に揺れながら着陸した。その後もジェット機は左右にあおられながら、ゲートへ向かう。なんだか遊園地の乗り物に乗っているようで、物すごくスリリングだった。
ともあれ無事着陸できたのは機長の腕であろう。このときどこからともなく、機内で拍手が起こった。
ちなみに７日の石垣空港発着便は、台風８号のため、すべて欠航。雨男、ここに極まれり。いま、７日の午前１時すぎ。外は物すごい風だ。この先が思いやられる。

７月17日のLPSA金曜サロン夕方の部は、船戸陽子女流二段の担当だった。
「一公さんは夏休みどこかへ行くんですか？」
こう水を向けたのは、船戸女流二段だったと思う。それともほかの会員だったか。
「沖縄へ行きます。今度は石垣島です」
６日の夜から10日間ほど旅行すると言うと、会員の女性が「あらあ、うらやましい」と言った。たしかにそうなのだろうが、こちらも仕事がないから休むのであって、晴れやかな気持ちで沖縄へ行くわけではないのだ。
「石垣島、いいですよね。泡盛も美味しいし。でも、そこしか回らないんですか？」
と、船戸女流二段。
「いえいえ、石垣島からは各離島へ行く高速船が出てますから、石垣島を拠点に、あっちこっち行くつもりです」
と、これは私。
「私、小浜島が好きです」
「コハマジマあ？　いや、それはどうですか!?　だってあそこは完全なリゾート地でしょう」
「え、でも小浜島も自然がありますよ」
「でもなあ、あそこは『はいむるぶし』がメインだからなあ」
このとき、私の心臓はバクバクしていた。このブログを読んでいる人には意外かもしれないが、私が船戸女流二段と私語を交わしたのは、これが実質的に初めてだったからだ。1dayトーナメントなどで顔を合わせれば激励の声も掛けるが、将棋以外の会話は記憶にない。繰り返して書くが、金曜サロンは私にとって将棋鍛錬の場であって、女流棋士との会話を楽しむ場ではないのだ。
「なに、沖縄の話してるの？」
「あ、植山先生は入ってこないでください。いま私は船戸先生と、しっぽりと大人の会話をしてるんですから」
と、私は植山悦行手合い係を追いやって、再び船戸女流二段の言葉を待つ。
「じゃあ黒島とか…」
「おっ、黒島はいいです。仲本…」
そのとき誰かが来たか、なにかがあって話が中断され、私たちは指導対局のため、駒を並べ始めた。
序盤の指し手がしばらく進むと、船戸女流二段が「あ、ペンギン（辺銀）ラー油もいいですよね」と、思い出したように言う。
ここまでの会話、何げないようだが、実は相当に高級な会話である。石垣島を知ってはいても、小浜島や黒島の名称はなかなか出てこない。正直、船戸女流二段がこんなに八重山諸島に詳しいとは知らなかった。振り飛車一辺倒の棋士が、横歩取りの最新定跡にも精通していてビックリした、という感じだろうか。とにかく同好の士が聞いたら、話の輪に加わりたくなるだろう。
ところでペンギンラー油は、私も以前、JTAの機内誌か何かで読んだ記憶があった。いや、テレビで観たのだろうか。どちらにしても私は食に関してはあまり興味がないので、失念していた。どうも、完全に知識負けしている。だからこちらも話題を逸らす。
「あ、そういえば船戸先生、私まだ先生から、直筆扇子をいただいてないんですけど」
「直筆扇子」とは、LPSA金曜リーグの優勝賞品なのである。実は私は第５回（４～６月）の金曜リーグで運良く優勝し、当然ながら船戸女流二段の扇子を所望していたのだ。
「あれ、白扇が品切れみたいで、まだ書いてないんです」
「そうですか。横文字もおもしろいかもしれませんね」
船戸女流二段は、先月のマイナビ女子オープンの予選抽選会で、抽選色紙にフランス語で揮毫していたのだ。ここで私は、自分でも赤面するような、大胆なことをボソッと言った。
「Je t'aime.…とか」
まったく船戸女流二段に対して、失礼極まりないことを言ったと思う。しかしこれに対して、船戸女流二段の切り返しが見事だった。

「その言葉は、ふたりきりのときに言うものです」

ちょっとイヤらしい私の言が、船戸女流二段の機転で少し薄まったのだ。頭の回転の速い女性だと思った。
そんな船戸女流二段は現在、体調を崩しているらしい。こういうときは、私がいつも書いているように、「もうカゼは治った」と思い込むことである。マイナビの敗戦が尾を引いているのだとしたら、それはもう忘れる。そして16日の1dayトーナメントに標準を定めることである。

…ちょっと、外の風が物すごいんだけど…沖縄本島も台風が居座って、まだヤバイんじゃないのか???　７日はどうやって時間を潰すんだよ!!　ああ、金曜サロンに行きたい…。