Dr. WAKASAGI at HEI-RIVER(閉伊川ワカサギ博士)

森川海をつなぐ学び合いの活動を紹介します

外来魚は誰の責任?

2009-10-20 | Weblog
 日本魚類学会主催の放流についてのガイドラインに関するシンポジウムが東京海洋大学で開催された。

「水産放流」と「善意の放流」について議論がなされた。
水産放流とは国の法律に基づき食糧を確保するという目的で義務として行うもの。
善意の放流とは,ペットがかわいそうだから放流するというもの。
これら2つは,生態系を攪乱させる大きな原因になっている。

 水産放流は,漁業権が発生する魚種は,放流義務が課せられる。その結果,本来その場で捕獲された水産生物を放流すれば良いものを,人間の都合により放流を行ってきた。例えば,琵琶湖のコアユの放流は全国各地で実施されてきた。大量のコアユが放流された。そのため,閉伊川でもそれまで確認されていなかったオイカワ,ニゴイ,カマツカ,イチモンジタナゴ,ギバチなど様々な魚が生息するようになった。この放流義務は,漁業権を与えられる漁業協同組合に対し義務化されているものである。

 この事業に対して,もう一度原点に返って公の手に戻す事が必要なのではないか?一般市民からは,河川は漁業権だけでない別の整備が必要なのではないか,合意形成により河づくりをすすめるよう目を向ける必要がある等の意見があがった。最後に,行政が変わることが必要であるとした。

 善意の放流について,パネリストは,研究者一人ではかなわないが,いろいろな場面で情報を発信し市民の要請にこたえる必要があるとした。また,里親制度など体験学習の機会が増えているので,小学校5年生のメダカの話や中学2年での外来種について,学校の先生を通じて教育していくことも求められる。という提案があった。

 ある市民から「研究者がもっと市民の中にはいることが必要だ。正確な情報と知識,生き物への気持ちを持ってもらうために研究者は市民の中にどんどん入って欲しい」と期待する発言があった。
 
 それに対して,ある研究者は「事例があれば説得しやすい,リスク評価を実施することを自分自身で行うように,啓発,教育が必要であり,インタープリター養成講座を県が単独で実施しているが,今後大学でも一緒にやっていきたい」と答えた。また,「ある県では,理科エキスパート事業を実施していて,学校に専門家を派遣する制度を作っているが,情報不足である。研究者が積極的にそうしたところアピールして欲しい。一般の人に教える活動があるといい。」という声も上がった。

 最後に,主催者側から今後の取り組みとして,この放流魚の問題について,研究者は「一般の人々にも分かりやすい啓発書を発行していくなどの活動をしていきたいと考えている」と語った。
ーーーー
 アメリカのシーグラントの記述で紹介しているが,日本ではいまだこうしたアウトリーチの専門家が存在しない。まして,専門家の研究業績を分かりやすく市民に伝えるエデュケーターの専門家も存在していない。ほとんどが,ボランティアでアウトリーチ,教育活動のようなものを実施しているというのが現状である。現在,水圏環境リテラシー教育推進プログラムで人材養成が始まったが,受け皿がない状況だ。市民の要望にこたえるためにも,日本版シーグラントなど社会システムの構築が必要になるだろう。